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特開2024-128360人工皮革およびその製造方法ならびに乗物用内装材
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  • 特開-人工皮革およびその製造方法ならびに乗物用内装材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128360
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】人工皮革およびその製造方法ならびに乗物用内装材
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/14 20060101AFI20240913BHJP
   B60R 13/02 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
D06N3/14
B60R13/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037298
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 孝之介
(72)【発明者】
【氏名】大根田 俊
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 智
【テーマコード(参考)】
3D023
4F055
【Fターム(参考)】
3D023BA01
3D023BB01
3D023BD02
3D023BD11
3D023BE04
4F055AA01
4F055AA21
4F055BA02
4F055CA15
4F055DA07
4F055EA04
4F055EA11
4F055EA12
4F055EA14
4F055EA22
4F055EA24
4F055EA29
4F055FA15
4F055GA03
(57)【要約】
【課題】 高い耐久性と優れた柔軟性を両立した人工皮革を提供すること
【解決手段】 平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維で構成されてなる不織布と、マルチフィラメントで構成されてなる織編物と、を構成要素として含む繊維絡合体と、水分散型ポリウレタンと、を構成要素として含む人工皮革であって、前記繊維絡合体の目付W(g/m)に対する前記水分散型ポリウレタンの目付W(g/m)の割合W/Wが、0.20以上0.50以下であり、前記マルチフィラメントのうち、該マルチフィラメントの外周部の10%以上が前記水分散型ポリウレタンと接触しているものの数割合が0%以上5%以下である、人工皮革。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維で構成されてなる不織布と、マルチフィラメントで構成されてなる織編物と、を構成要素として含む繊維絡合体と、
水分散型ポリウレタンと、
を構成要素として含む人工皮革であって、
前記繊維絡合体の目付W(g/m)に対する前記水分散型ポリウレタンの目付W(g/m)の割合W/Wが、0.20以上0.50以下であり、
前記マルチフィラメントのうち、該マルチフィラメントの外周部の10%以上が前記水分散型ポリウレタンと接触しているものの数割合が0%以上5%以下である、
人工皮革。
【請求項2】
前記マルチフィラメントの断面積が5000μm以上20000μm以下であり、かつ、前記マルチフィラメントを構成する繊維の本数が2本以上500本以下である、請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
極細繊維発現型繊維で構成されてなる不織布と、
海成分と島成分とからなる海島型複合繊維、または、鞘成分と芯成分とからなる芯鞘型複合繊維、で形成されてなるマルチフィラメントで構成されてなる織編物と、
を絡合一体化させ、繊維絡合体を形成する工程と、
前記繊維絡合体を水分散型ポリウレタンの分散液に浸漬させた後に、該水分散型ポリウレタンを凝固させ、含浸シートを形成する工程と、
前記含浸シート中の極細繊維発現型繊維から平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させ、かつ、前記マルチフィラメントの海島型複合繊維から前記島成分からなる繊維を発現させる、または、前記マルチフィラメントの芯鞘型複合繊維から前記芯成分からなる繊維を発現させる工程と、
を含む、請求項1または2に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項4】
少なくとも一部が請求項1または2に記載の人工皮革である、乗物用内装材

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工皮革およびその製造方法、ならびに、前記の人工皮革を用いてなる乗物用内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
主として極細繊維からなる繊維絡合体と高分子弾性体とからなる天然皮革調の人工皮革は、天然皮革にない優れた特徴を有しており、衣料や家具、乗物用内装材用途等にその使用が年々広がってきている。中でも、人工皮革が乗物用内装材等に使用される際は、優れた表面品位に加え、良好なタッチ感や実使用に耐えうる高い耐摩耗性が求められる。
【0003】
また、近年の環境意識の高まりから、人工皮革の製造には有機溶剤の使用を少なくした環境配慮型の製造プロセスが注目されるようになり、例えば、従来の有機溶剤系のポリウレタンを用いる方法に代えて、より環境に配慮された、水中にポリウレタン樹脂を分散させた水分散型ポリウレタンを用いる方法が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、繊維質基材の内部に水分散型ポリウレタンを含有し、少なくとも片方の表面に立毛を有するシート状物であって、一方の面ともう一方の面の剛軟度、それらの剛軟度の差が特定の範囲としたシート状物が提案されている。そして、これによれば、このシート状物は、環境に配慮した製造工程により、従来両立することができなかった立毛を有する優美な外観と柔軟な風合いを有するシート状物を得ることができる旨が記載されている。
【0005】
また、特許文献2では、繊維質基材に含有される高分子弾性体が親水基を有し、かつ構成要素としてポリエーテルジオールとN-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有し、縦方向の剛軟度と耐光試験後の摩耗減量を特定の範囲とするシート状物が提案されている。そして、これによれば、柔軟な風合いと優れた耐光性を両立したシート状物が得られる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-234409号公報
【特許文献2】国際公開第2021/125032号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されるような方法で得られる人工皮革は、水分散型ポリウレタンを付与する前に、高ケン化度のポリビニルアルコール(PVA)を付与し、水分散型ポリウレタン付与後にPVAを除去することにより、織編物とポリウレタンの接着を軽減させることで、人工皮革の柔軟性向上を達成している。しかしながら、PVAが表層近傍に偏在する傾向にあるため、表層近傍には十分にポリウレタンを付与することが困難であり、結果として、表層近傍の耐久性、例えば耐摩耗性については、まだ改善の余地がある。
【0008】
また、特許文献2に開示されるような方法で得られる人工皮革は、柔軟性に優れたエーテル系ポリウレタンを用いることで人工皮革の柔軟性向上を達成している。しかしながら、ポリウレタン自体の強度としてはやや低下する傾向にあるため、耐久性については、まだ改善の余地がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、高い耐久性と優れた柔軟性とを両立した人工皮革およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、不織布と織編物とを構成要素として含む繊維絡合体と、水分散型ポリウレタンと、を構成要素として含む人工皮革の製造段階において、織編物に海島型複合繊維または芯鞘型複合繊維を用い、その後、海成分または鞘成分を除去することで、織編物とポリウレタンとが強固に一体化されてしまうことを抑制できることを見出し、ひいては、人工皮革の柔軟性を向上できるという知見を得た。さらに、上記のようにすることで、不織布と織編物とを絡合一体化させるニードルパンチ工程の際、繊維が損傷してしまうことを抑制でき、結果として、人工皮革の耐久性を向上できることも判明し、本発明に至った。
【0011】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0012】
[1] 平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維で構成されてなる不織布と、マルチフィラメントで構成されてなる織編物と、を構成要素として含む繊維絡合体と、
水分散型ポリウレタンと、
を構成要素として含む人工皮革であって、
前記繊維絡合体の目付W(g/m)に対する前記水分散型ポリウレタンの目付W(g/m)の割合W/Wが、0.20以上0.50以下であり、
前記マルチフィラメントのうち、該マルチフィラメントの外周部の10%以上が前記水分散型ポリウレタンと接触しているものの数割合が0%以上5%以下である、
人工皮革。
【0013】
[2] 前記マルチフィラメントの断面積が5000μm以上20000μm以下であり、かつ、前記マルチフィラメントを構成する繊維の本数が2本以上500本以下である、前記[1]に記載の人工皮革。
【0014】
[3] 極細繊維発現型繊維で構成されてなる不織布と、
海成分と島成分とからなる海島型複合繊維、または、鞘成分と芯成分とからなる芯鞘型複合繊維、で形成されてなるマルチフィラメントで構成されてなる織編物と、
を絡合一体化させ、繊維絡合体を形成する工程と、
前記繊維絡合体を水分散型ポリウレタンの分散液に浸漬させた後に、該水分散型ポリウレタンを凝固させ、含浸シートを形成する工程と、
前記含浸シート中の極細繊維発現型繊維から平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させ、かつ、前記マルチフィラメントの海島型複合繊維から前記島成分からなる繊維を発現させる、または、前記マルチフィラメントの芯鞘型複合繊維から前記芯成分からなる繊維を発現させる工程と、
を含む、前記[1]または[2]に記載の人工皮革の製造方法。
【0015】
[4] 少なくとも一部が前記[1]または[2]に記載の人工皮革である、乗物用内装材
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い耐久性と優れた柔軟性を両立した人工皮革が得られる。また、本発明の人工皮革は、耐久性、柔軟性に優れるという特徴から、耐摩耗性と成形性に優れるので、特に乗物用内装材に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の人工皮革に係るマルチフィラメントの外周部の10%以上が水分散型ポリウレタンと接触しているものの数割合の測定方法について、人工皮革(マルチフィラメント)の断面SEM写真を用いて説明する図である。
図2図2は、本発明の人工皮革に係る立毛長の測定方法について説明する、人工皮革の断面概念図である。
図3図3は、本発明の人工皮革に係る成形性の評価方法について説明する、斜視概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の人工皮革は、平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維で構成されてなる不織布と、マルチフィラメントで構成されてなる織編物と、を構成要素として含む繊維絡合体と、水分散型ポリウレタンと、を構成要素として含む人工皮革であって、前記繊維絡合体の目付W(g/m)に対する前記水分散型ポリウレタンの目付W(g/m)の割合W/Wが、0.20以上0.50以下であり、前記マルチフィラメントのうち、該マルチフィラメントの外周部の10%以上が前記水分散型ポリウレタンと接触しているものの数割合が0%以上5%以下である。以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0019】
[繊維絡合体]
まず、本発明の人工皮革は、極細繊維から構成される不織布と、マルチフィラメントから構成される織編物とを構成要素として含む繊維絡合体を有する。このような構成であることで、表面の立毛が均一で優美な外観と高強度を両立した人工皮革とすることができる。以下に、これらについて、さらに詳細を説明する。
【0020】
(1) 極細繊維
前記の不織布を構成する極細繊維は、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートおよびポリ乳酸などのポリエステル樹脂、ポリアミド6やポリアミド66、ポリアミド12などのポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂および熱可塑性セルロース樹脂などの溶融紡糸可能な熱可塑性樹脂からなることが好ましい。中でも、強度、寸法安定性および耐光性の観点から、ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。
【0021】
前記のポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートに加え、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレ-ト、およびポリエチレン-1,2-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレート等が挙げられる。中でも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレート、または主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体が好適に使用される。
【0022】
極細繊維を形成する上記の熱可塑性樹脂には、種々の目的に応じ、本発明の目的を阻害しない範囲で、酸化チタン粒子等の無機粒子、潤滑剤、カーボンブラック等の顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤および抗菌剤等を含有させることができる。
【0023】
極細繊維の断面形状としては、丸断面、異形断面のいずれでも採用することができる。異形断面の具体例としては、楕円、扁平および三角などの多角形、扇形および十字型、中空型、Y型、T型、およびU型などが挙げられる。
【0024】
本発明において、極細繊維の平均単繊維直径は、1.0μm以上10.0μm以下である。極細繊維の平均単繊維直径が1.0μm以上、好ましくは1.5μm以上であることにより、耐光堅牢度および摩擦堅牢度に優れた人工皮革となる。一方、極細繊維の平均単繊維直径が10.0μm以下、好ましくは5.0μm以下であることにより、緻密で表面触感の柔らかい、表面品位に優れた人工皮革となる。
【0025】
なお本発明において、極細繊維の平均単繊維直径は、以下の方法によって測定、算出されるものとする。
(i)人工皮革の厚み方向に切断した断面を、走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」型など)により撮影する。
(ii)撮影したSEM画像において、円形または扁平率10%以下の楕円形の繊維をランダムに10本選び、単繊維直径を測定する。
(ただし、異型断面の繊維を採用した場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径(円相当径)を算出することによって単繊維直径を求めるものとする。)
(iii)得られた10本の算術平均値(μm)を計算して、小数点以下第二位で四捨五入して、平均単繊維直径(μm)を算出する。
【0026】
(2)不織布
本発明の人工皮革は、前記の極細繊維で構成されてなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体が構成要素の1つである。不織布を構成要素として含む繊維絡合体とすることにより、表面を起毛した際に均一で優美な外観や風合いを得ることができる。
【0027】
不織布の形態としては、主としてフィラメントから構成される長繊維不織布と、主として100mm以下の繊維から構成される短繊維不織布がある。短繊維不織布を使用する場合は、長繊維不織布を使用する場合に比べて人工皮革の厚さ方向に配向する繊維を多くすることができ、起毛させた際の人工皮革の表面に高い緻密感と良好なタッチ感を有させることができる。
【0028】
短繊維不織布を用いる場合の極細繊維の繊維長は、好ましくは25mm以上95mm以下である。繊維長を95mm以下、より好ましくは85mm以下、さらに好ましくは75mm以下とすることにより、良好な品位と風合いとなる。他方、繊維長を25mm以上、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは40mm以上とすることにより、耐摩耗性に優れた人工皮革とすることができる。
【0029】
(3)マルチフィラメント
前記の織編物を構成するマルチフィラメントを構成する繊維は、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートおよびポリ乳酸などのポリエステル樹脂、ポリアミド6やポリアミド66、ポリアミド12などのポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂および熱可塑性セルロース樹脂などの溶融紡糸可能な熱可塑性樹脂からなることが好ましい。中でも、強度、寸法安定性および耐光性の観点から、ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。
【0030】
前記のポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートに加え、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレ-ト、およびポリエチレン-1,2-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレート等が挙げられる。中でも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレート、または主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体が好適に使用される。
【0031】
上記の熱可塑性樹脂には、種々の目的に応じ、本発明の目的を阻害しない範囲で、酸化チタン粒子等の無機粒子、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤および抗菌剤等を含有させることができる。
【0032】
マルチフィラメントを構成する繊維の断面形状としては、丸断面、異形断面のいずれでも採用することができる。異形断面の具体例としては、楕円、扁平および三角などの多角形、扇形および十字型、中空型、Y型、T型、およびU型などが挙げられる。 本発明において、前記のマルチフィラメントの断面積が5000μm以上20000μm以下であり、かつ、前記マルチフィラメントを構成する繊維の本数が2本以上500本以下であることが好ましい。この両方の要件を満たすことで、優れた耐久性と柔軟性を両立した人工皮革となる。
【0033】
まず、前記の織編物を構成するマルチフィラメントの断面積について、5000μm以上20000μm以下であることが好ましい。マルチフィラメントの断面積が5000μm以上、好ましくは8000μm以上であることにより、耐久性および摩擦堅牢度に優れた人工皮革となる。一方、マルチフィラメントの断面積が20000μm以下、好ましくは15000μm以下であることにより、風合いの柔らかい、柔軟性に優れた人工皮革となる。
【0034】
なお、本発明において、マルチフィラメントの断面積とは、以下の方法によって測定、算出されるものとする。
(i)人工皮革の厚み方向に切断した断面を、走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」型など)により倍率300~500倍で5枚撮影する。
(ii)撮影した各SEM画像において、織編物を構成する繊維の中で2本以上の繊維が同一の方向を向いていて、かつ隣接する繊維同士の間隔が、繊維径の1/5以内にあるとみなせる繊維の集合体を1つ選び、その集合体の断面積を計測する。
(iii)すべての断面について(ii)を繰り返し、得られた5つの算術平均値(μm)を計算して、小数点以下第一位で四捨五入して、マルチフィラメントの断面積(μm)を算出する。
【0035】
さらに、上記の条件を満たしつつ、前記のマルチフィラメントを構成する繊維の本数は2本以上500本以下であることが好ましい。マルチフィラメントを構成する繊維の本数が2本以上、好ましくは10本、より好ましくは50本以上であることにより、耐久性及び摩擦堅牢度に優れた人工皮革となる。一方、マルチフィラメントを構成する繊維の本数が500本以下、好ましくは400本以下、より好ましくは300本以下であることにより、風合いの柔らかい、柔軟性に優れた人工皮革となる。
【0036】
なお、本発明において、マルチフィラメントを構成する繊維の本数とは、以下の方法によって測定、算出されるものとする。
(i)人工皮革の厚み方向に切断した断面を、走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」型など)により倍率300~500倍で撮影する。
(ii)撮影したSEM画像において、織編物を構成する繊維の中で、2本以上の繊維が同一の方向を向いていて、かつ隣接する繊維同士の間隔が繊維径の1/5以内にあるとみなせる繊維の集合体を1つ選び、その集合体内の繊維本数を計測し、マルチフィラメントを構成する繊維の本数とする。
【0037】
また、前記のマルチフィラメントの撚数は1000T/m以上4000T/m以下であることが好ましい。撚数が好ましくは1000T/m以上、より好ましくは1500T/m以上、さらに好ましくは2000T/m以上であることにより、不織布と織編物とをニードルパンチ等で絡合一体化させる際に、織編物を構成する繊維の損傷を防ぐことができ、人工皮革の機械的強度が優れたものとなる。一方、撚数が好ましくは4000T/m以下、より好ましくは3500T/m以下、さらに好ましくは3000T/m以下であることにより、柔軟性に優れた人工皮革となる。
【0038】
さらに、前記のマルチフィラメントを構成する繊維の平均単繊維径は3.0μm以上100μm以下であることが好ましい。マルチフィラメントの平均単繊維径が3.0μm以上、より好ましくは4.0μm以上、さらに好ましくは5.0μm以上であることにより、耐久性及び摩擦堅牢度に優れた人工皮革となる。一方、マルチフィラメントの平均単繊維径が100μm以下、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは50μm以下であることにより、柔軟性に優れた人工皮革となる。
【0039】
(4)織編物
本発明の人工皮革に係る繊維絡合体は、前記のマルチフィラメントで構成されてなる織編物を構成要素としてさらに含む。前記の不織布と共に織編物を構成要素として含む繊維絡合体とすることにより、耐久性に優れた人工皮革となる。ここで、本発明において「織編物」とは、織物、編物の総称を指す。前記の織物としては、平織、綾織、朱子織などが挙げられる。また、前記の編物としては、丸編、トリコット編、ラッセル編などが挙げられる。
【0040】
前記の織編物のうち、織物を用いる場合の織密度は人工皮革において、経糸と緯糸の両方が40本/2.54cm以上200本/2.54cm以下になるように調整することが好ましい。人工皮革を構成する織物の織密度を40本/2.54cm以上、より好ましくは60本/2.54cm以上にすることにより、形態安定性に優れた人工皮革を得ることができる。一方、人工皮革を構成する織物の織密度を200本/2.54cm以下、より好ましくは150本/2.54cm以下とすることにより、人工皮革の風合いを柔軟にすることができるだけでなく、不織布とこの織物を絡合一体化させる際に、不織布の繊維同士の絡合を阻害することがなく、結果として人工皮革の繊維脱落を抑制することができる。
【0041】
(5)繊維絡合体
本発明の人工皮革は、前記の不織布と、前記の織編物と、を構成要素として含む。そして、後述される方法によって、この不織布と織編物とが積層され、さらに、絡合一体化され、繊維絡合体となる。
【0042】
この繊維絡合体において、その積層構成は、その積層順に、不織布/織編物、織編物/不織布、不織布/織編物/不織布、織編物/不織布/織編物などが挙げられる。中でも表面品位および耐久性の観点から、織編物/不織布/織編物の積層構成が好ましく用いられる。
【0043】
[水分散型ポリウレタン]
本発明の人工皮革は水分散型ポリウレタンを構成要素として含む。このポリウレタンのバインダー効果により、極細繊維が人工皮革から抜け落ちることを防止することができるだけでなく、適度な反発感を付与することが可能となる。
【0044】
前記の水分散型ポリウレタンとしては、高分子ポリオールと、有機ジイソシアネートと、親水性基を有する活性水素成分含有化合物とを反応させて親水性プレポリマーを形成し、その後に鎖伸長剤を添加・反応させて得られるポリウレタン前駆体に、架橋剤を反応させることによって得られるものが挙げられる。
【0045】
高分子ポリオールとしては、例えば、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール等が挙げられる。
【0046】
なお、本発明で好ましく用いられる高分子ポリオールの数平均分子量は500以上5000以下であることが好ましい。高分子ポリオールの数平均分子量を500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、人工皮革の風合いが硬くなるのを防ぎやすくすることができる。一方、数平均分子量を5000以下、より好ましくは4000以下とすることにより、バインダーとしての水分散型ポリウレタンの強度を維持しやすくすることができる。
【0047】
有機ジイソシアネートとしては、例えば、炭素数(イソシアネート(NCO)基中の炭素を除く、以下同様。)が6以上20以下の芳香族ジイソシアネート、炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネート、炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネート、炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体、ウレトジオン変性体など。)およびこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0048】
親水性基を有する活性水素成分含有化合物としては、例えば、ノニオン性基および/またはアニオン性基および/またはカチオン性基と活性水素とを含有する化合物等が挙げられる。これらの活性水素成分含有化合物は、中和剤で中和した塩の状態でも用いることができる。この親水性基を有する活性水素成分含有化合物を用いることによって、人工皮革の製造方法で用いられる水分散型ポリウレタンの分散液の安定性を高めることができる。
【0049】
鎖伸長剤としては、例えば、水、低分子ジオール、脂環式ジオール、芳香族ジオール、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、芳香脂肪族ジアミン、アルカノールアミン、ヒドラジン、ジヒドラジド、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0050】
架橋剤としては、例えば、水溶性イソシアネート化合物やブロックイソシアネート化合物等のポリイソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤等が挙げられる。架橋剤は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用することもできる。
【0051】
前記の水分散型ポリウレタンには、目的に応じて各種の添加剤、例えば、「無機系や酸化物系」などの顔料、「リン系、ハロゲン系および無機系」などの難燃剤、「フェノール系、イオウ系およびリン系」などの酸化防止剤、「ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系およびオキザリックアシッドアニリド系」などの紫外線吸収剤、「ヒンダードアミン系やベンゾエート系」などの光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、耐電防止剤、界面活性剤、凝固調整剤および染料などを含有させることができる。
【0052】
本発明において、人工皮革における繊維絡合体の目付W(g/m)に対する水分散型ポリウレタンの目付W(g/m)の割合W/Wは0.20以上0.50以下である。繊維絡合体の目付Wに対する水分散型ポリウレタンの目付Wの割合W/Wが0.20以上、より好ましくは0.25以上であることで、繊維間の水分散型ポリウレタンによる結合を強めることができ、人工皮革の耐摩耗性が向上する。一方、繊維絡合体の目付Wに対する水分散型ポリウレタンの目付Wの割合W/Wが0.50以下、より好ましくは0.45以下であることで、人工皮革をより柔軟性の高いものとなる。
【0053】
なお、本発明において、繊維絡合体の目付Wに対する水分散型ポリウレタンの目付Wの割合W/Wとは、以下の方法によって測定、算出されるものとする。
(i)人工皮革からランダムに50mm×50mmの試験片を3枚採取し、その試験片の寸法A(m)、および質量M(g)を測定する。ここで、50mm×50mmの試験片を採取できない場合には、採取できる最大の正方形で試験片を採取し、その試験片の寸法A(m)、および質量M(g)を測定する。
(ii)採取した各試験片について、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に浸漬し、人工皮革から極細繊維を溶出する。
(iii)(ii)の不溶成分(水分散型ポリウレタン)を100℃で乾燥し、質量M(g)を測定した後に、水分散型ポリウレタンの目付W(g/m)、および繊維絡合体の目付W(g/m)を以下の式で算出する。なお、50mm×50mmの試験片であれば、A=0.0025mである
=M/A
=(M-M)/A
なお、本発明で言う「水分散型ポリウレタンの目付W」とは、上記の式で定義されるように、単位面積あたりの水分散型ポリウレタンの質量を指すものであり、水分散型ポリウレタンがシート状のもののみに限定されるものではない。
(iv)得られた繊維絡合体の目付Wを水分散型ポリウレタンの目付Wで除し、繊維絡合体の目付Wに対する水分散型ポリウレタンの目付Wの割合W/Wを算出する。
(v)全ての試験片について(ii)~(iv)を繰り返し、全ての試験片のW/Wの算術平均値を小数点以下第三位で四捨五入する。
【0054】
[人工皮革]
本発明の人工皮革は、前記の繊維絡合体と、前記の水分散型ポリウレタンと、を構成要素として含む。そして、本発明の人工皮革は、前記のマルチフィラメントのうち、該マルチフィラメントの外周部の10%以上が前記水分散型ポリウレタンと接触しているものの数割合が0%以上5%以下である。マルチフィラメントの外周部の10%以上が前記水分散型ポリウレタンと接触しているものの数割合(以降、単に「接触割合」と記載することがある。)について、その数割合が5%以下、より好ましくは3%以下であることで、マルチフィラメントと水分散型ポリウレタンとの接着が弱まり、より柔軟な人工皮革となる。
【0055】
なお、前記マルチフィラメントの外周部の10%以上が前記水分散型ポリウレタンと接触しているものの数割合は、以下の手順によって測定、算出される値のことを指す。
(i)人工皮革からランダムに人工皮革の厚み方向に切断したサンプルを3枚採取し、その断面を、走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」型など)により倍率300~500倍で3枚ずつ撮影する。
(ii)撮影した各SEM画像において、織編物を構成する繊維の中で、2本以上の繊維が同一の方向を向いていて、かつ隣接する繊維同士の間隔が繊維径の1/5以内にあるとみなせる繊維の集合体の数を計測し、これをマルチフィラメントとする。
(iii)(ii)でマルチフィラメントとしたものに関し、図1に例示するように、マルチフィラメント(1)について、マルチフィラメントの外周部(2a、2b、2c)、ポリウレタンの外周部(3a、3b、3c)、そして、マルチフィラメントの外周部が接触している箇所(4a、4b、4c)をそれぞれ定める。図1(A)が、測定対象としたマルチフィラメントのSEM画像であり、同(B)がマルチフィラメントの外周部などを定めた結果である。なお、ここで言う、「マルチフィラメントの外周部が接触している箇所」とは、マルチフィラメントの外周部のうち、ポリウレタンの外周部と重複している箇所のことを言う。
(iv)個々のマルチフィラメントの外周部の長さl2n(μm)と個々のマルチフィラメントの外周部が接触している箇所の長さl4n(μm)とをそれぞれ求める。図1の例で言えば、以下の長さである。
・l21:マルチフィラメントの外周部(2a)の長さ(μm)
・l22:マルチフィラメントの外周部(2b)の長さ(μm)
・l23:マルチフィラメントの外周部(2c)の長さ(μm)
・l41:マルチフィラメントの外周部が接触している箇所(4a)の長さ(μm)
・l42:マルチフィラメントの外周部が接触している箇所(4b)の長さ(μm)
・l43:マルチフィラメントの外周部が接触している箇所(4c)の長さ(μm)
(v)マルチフィラメントの外周部の長さl2S(μm)とマルチフィラメントの外周部が接触している箇所の長さl4S(μm)とをそれぞれ求める。ここで、マルチフィラメントの外周部の長さl2S(μm)とは、(iv)で測定した個々のマルチフィラメントの外周部の長さl2n(μm)と個々のマルチフィラメントの外周部が接触している箇所の長さl4n(μm)との合計値であり、マルチフィラメントの外周部が接触している箇所の長さl4S(μm)とは、(iv)で測定した個々のマルチフィラメントの外周部が接触している箇所の長さl4n(μm)の合計値である。図1の例で言えば、マルチフィラメントの外周部の長さl2S(μm)とは、以下の合計値(μm)である。
・l21:マルチフィラメントの外周部(2a)の長さ(μm)
・l22:マルチフィラメントの外周部(2b)の長さ(μm)
・l23:マルチフィラメントの外周部(2c)の長さ(μm)
・l41:マルチフィラメントの外周部が接触している箇所(4a)の長さ(μm)
・l42:マルチフィラメントの外周部が接触している箇所(4b)の長さ(μm)
・l43:マルチフィラメントの外周部が接触している箇所(4c)の長さ(μm)
そして、図1の例で言えば、マルチフィラメントの外周部が接触している箇所の長さl4S(μm)とは、以下の合計値(μm)である。
・l41:マルチフィラメントの外周部が接触している箇所(4a)の長さ(μm)
・l42:マルチフィラメントの外周部が接触している箇所(4b)の長さ(μm)
・l43:マルチフィラメントの外周部が接触している箇所(4c)の長さ(μm)
(vi)(v)で算出したマルチフィラメントの外周部が接触している箇所の長さl4S(μm)を(v)で算出したマルチフィラメントの外周部の長さl2S(μm)で除して百分率とし、当該マルチフィラメントの外周部の何%がポリウレタンと接触しているかを求める。
(vii)すべての断面について(ii)~(vi)を繰り返し、(vi)における算出結果が10%を超える集合体の総数を、(ii)で計測した集合体の総数で除して百分率とし、小数点以下第一位で四捨五入して、接触割合(%)を算出する。
【0056】
そして、本発明の人工皮革は、少なくとも一方の表面は立毛を有する表面であることが好ましい。所望の目的に合わせて、人工皮革の片側一方の表面のみが立毛を有する表面であってもよく、両面が立毛を有する表面であることも許容される。表面が立毛を有する表面である場合の立毛形態は、意匠効果の観点から指でなぞったときに立毛の方向が変わることで跡が残る、いわゆるフィンガーマークが発する程度の立毛長と方向柔軟性を備えていることが好ましい。より具体的には、その表面の立毛の長さ(立毛長)は100μm以上400μm以下であることが好ましい。立毛長について、その範囲の下限が好ましくは100μm以上、より好ましくは150μm以上、さらに好ましくは200μm以上であることで、優美な外観品位を有する人工皮革とすることができる。一方、立毛長について、その範囲の上限が好ましくは400μm以下、より好ましくは350μm以下であることで、摩擦に対する耐久性の高い人工皮革とすることができる。
【0057】
なお、本発明において前記の立毛長は、以下の方法によって測定、算出される値のことを指す。
(i)立毛を有する表面について、リントブラシ等を用いてその立毛を逆立てる。
(ii)人工皮革から人工皮革の厚み方向に切断したサンプルをランダムに3枚採取し、立毛が逆立てられた状態で、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」型など)により倍率120倍で2枚ずつ撮影する。
(iii)図2に例示するように、断面のうち、厚さ方向に配向する繊維のみからなる層を立毛部とし、厚さ方向に配向する繊維と人工皮革の面方向に配向する繊維との交点から、立毛の先端までの長さを立毛長(μm)として、それを10点測定する。
(iv)全ての断面について(iii)を繰り返し、前記の立毛長の算術平均値(μm)を算出し、小数点以下第一位で四捨五入する。
【0058】
また、本発明の人工皮革の目付は、200g/m以上600g/m以下であることが好ましい。人工皮革の目付が200g/m以上、より好ましくは250g/m以上であることにより、十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、人工皮革の目付が600g/m以下、より好ましくは400g/m以下であることにより、十分な柔軟性と風合いが得られる。
【0059】
なお、本発明において前記の目付は、250mm×250mmの試験片を人工皮革からランダムに5枚採取し、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量(ISO法)」に準じて測定し、算出した値を小数点以下第1位で四捨五入した値のことを指す。ここで、250mm×250mmの試験片を採取できない場合には、採取できる最大の正方形で試験片を採取し、その試験片の質量、寸法を測定して、単位面積当たりの質量(g/m)を算出して得られる値とする。
【0060】
本発明の人工皮革は、その厚みが、0.1mm以上10.0mm以下であることが好ましい。人工皮革の厚みが0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上であることにより、十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、人工皮革の厚みが10.0mm以下、より好ましくは5.0mm以下であることにより、十分な柔軟性と風合いが得られる。
【0061】
なお、本発明において前記の厚みは、50mm×50mmの試験片を人工皮革からランダムに5枚採取し、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.1 厚さ(ISO法)」の「6.1.1 A法」に準じて、厚み測定器(例えば、株式会社尾崎製作所製ダイヤルシックネスゲージ「H20」など)を用いて測定し、算出した値を小数点以下第2位で四捨五入した値のことを指す。ここで、50mm×50mmの試験片を採取できない場合には、採取できる最大の正方形で試験片を採取し測定される値とする。
【0062】
[人工皮革の製造方法]
本発明の人工皮革の製造方法は、
(1) 極細繊維発現型繊維で構成されてなる不織布と、
海成分と島成分とからなる海島型複合繊維、または、鞘成分と芯成分とからなる芯鞘型複合繊維、で形成されてなるマルチフィラメントで構成されてなる織編物と、
を絡合一体化させ、繊維絡合体を形成する工程と、
(2) 前記繊維絡合体を水分散型ポリウレタンの分散液に浸漬させた後に、該水分散型ポリウレタンを凝固させ、含浸シートを形成する工程と、
(3) 前記含浸シート中の極細繊維発現型繊維から平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させ、かつ、前記マルチフィラメントの海島型複合繊維から前記島成分からなる繊維を発現させる、または、前記マルチフィラメントの芯鞘型複合繊維から前記芯成分からなる繊維を発現させる工程と、
を含むことが好ましい形態である。以下にこの詳細について説明する。
【0063】
(1)繊維絡合体を形成する工程
本工程においては、極細繊維発現型繊維で構成されてなる不織布と、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維、または、鞘成分と芯成分とからなる芯鞘型複合繊維、で形成されてなるマルチフィラメントで構成されてなる織編物と、を絡合一体化させた繊維絡合体を形成する。
【0064】
まず、前記の不織布に関し、これを構成する極細繊維発現型繊維としては、例えば、溶剤に対する溶解性が互いに異なる熱可塑性樹脂を海または鞘部(易溶解性ポリマー)と島または芯部(難溶解性ポリマー)とし、前記の海または鞘部を、溶剤などを用いて溶解除去することができる、海島型複合繊維あるいは芯鞘型複合繊維を用いることが好ましい。海島型複合繊維あるいは芯鞘型複合繊維を用いることによって、海または鞘部をある程度除去する際に、残された島または芯部同士の空隙、すなわち、繊維束内部の極細繊維同士の間に適度な空隙を付与することができるため、人工皮革の風合いや表面品位の観点から好ましい。
【0065】
上記の難溶解性ポリマーとしては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、およびポリフェニレンスルフィド樹脂などを用いることができる。その中でも、強度や寸法安定性、耐熱性の観点から、ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。
【0066】
一方、上記の易溶解性ポリマーとしては、共重合ポリエステル、およびポリ乳酸、共重合ポリビニルアルコールなどを用いることができる。その中でも、製糸性や易溶出性等の観点から、共重合ポリエステルが好ましく用いられる。共重合ポリエステルは熱水やアルカリ水溶液に対して溶解しやすい。なお、本発明において、「熱水」とは、90℃~100℃に加熱された水のことを指す。
【0067】
また、形成した極細繊維発現型繊維に捲縮加工を施すことも好ましい。このようにすることで、繊維絡合体を形成する工程において極細繊維発現型繊維同士の絡合が効率的に進み、緻密な外観品位を有する人工皮革を得ることができる。なお、捲縮加工は、公知の方法を用いることができる。
【0068】
上記の極細繊維発現型繊維で構成されてなる不織布は、前記のように、その形態としては、短繊維不織布であっても、長繊維不織布であってもよいが、前記のとおり、極細繊維発現型繊維を繊維長が概ね100mm以下となるようにカット加工して短繊維を形成し、この短繊維をカードやクロスラッパーを用いて積層繊維ウェブを形成させた後に、ニードルパンチやウォータージェットパンチを施すか、前記の短繊維に抄紙法を施すかして得られる短繊維不織布がより好ましい。このように短繊維不織布とすることで、人工皮革の厚さ方向を向く繊維がより多くなり、立毛の緻密感を得ることができる。
【0069】
次に、前記の織編物に関し、海島型複合繊維あるいは芯鞘型複合繊維を紡糸する方法としては、海島型あるいは芯鞘型複合用口金を用い、海または鞘部と、島または芯部とを相互配列して紡糸する高分子相互配列体を用いる方式が、均一な単繊維繊度のマルチフィラメントを得て、その結果、緻密な外観を有する人工皮革が得られるという観点から好ましい。
【0070】
このマルチフィラメントを形成する繊維としては、溶剤に対する溶解性が互いに異なる熱可塑性樹脂を海または鞘部(易溶解性ポリマー)と、島または芯部(難溶解性ポリマー)とし、前記の海または鞘部を、溶剤などを用いて溶解除去することができる、海島型複合繊維あるいは芯鞘型複合繊維が用いられる。海島型複合繊維あるいは芯鞘型複合繊維を用いることによって、海または鞘部をある程度除去する際に、残された島または芯部と含浸した水分散型ポリウレタンとの間に適度な空隙を付与することができるため、より柔軟な風合いを有する人工皮革が得られる。
【0071】
上記の難溶解性ポリマーとしては、極細繊維発現型繊維で構成されてなる不織布同様、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、およびポリフェニレンスルフィド樹脂などを用いることができる。その中でも、強度や寸法安定性、耐熱性の観点から、ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。
【0072】
一方、上記の易溶解性ポリマーとしては、共重合ポリエステル、およびポリ乳酸、共重合ポリビニルアルコールなどを用いることができる。その中でも、製糸性や易溶出性等の観点から、共重合ポリエステルが好ましく用いられる。共重合ポリエステルは熱水やアルカリ水溶液に対して溶解しやすい。
【0073】
次に、前記の極細繊維発現型繊維で構成されてなる不織布と、前記の海島型複合繊維、または、芯鞘型複合繊維で形成されてなるマルチフィラメントで構成されてなる織編物と、を絡合一体化させた繊維絡合体を形成する。
【0074】
不織布と織編物とを絡合一体化させるには、不織布の片面もしくは両面に織編物を積層するか、あるいは複数枚の不織布ウェブの間に織編物を挟んだ後に、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等によって不織布と織編物の繊維同士を絡ませる方法を採ることができる。
【0075】
(2)含浸シートを形成する工程
本工程においては、前記の繊維絡合体を水分散型ポリウレタンの分散液に浸漬させた後に、該水分散型ポリウレタンを凝固させ、含浸シートを形成する。
【0076】
上記の水分散型ポリウレタンを凝固させる方法としては、水分散型ポリウレタンの分散液に繊維絡合体を浸漬させた後、凝固浴中に浸漬させて固定する湿式凝固法、または、乾燥させて固定する乾式凝固法などがあり、付与する水分散型ポリウレタンの種類により、適宜これらの方法を選択することができる。
【0077】
(3)極細繊維、島成分または芯成分からなる繊維を発現させる工程
本工程においては、前記含浸シート中の極細繊維発現型繊維から平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させ、かつ、前記マルチフィラメントの海島型複合繊維から前記島成分からなる繊維を発現させる、または、前記マルチフィラメントの芯鞘型複合繊維から前記芯成分からなる繊維を発現させる。
【0078】
極細繊維および島成分または芯成分からなる繊維の発現処理は、海成分または鞘成分がポリ乳酸や共重合ポリエステルであれば、前記の含浸シートをアルカリ水溶液中に浸漬させて、極細繊維発現型繊維の易溶解性ポリマー、海島型複合繊維の海部や芯鞘型複合繊維の鞘部を溶解除去することにより行うことができる。アルカリ水溶液としては、廃液処理を行う際、中和により生成する塩の処理をより容易に行うことができるため、水酸化ナトリウム水溶液が好ましく用いられる。
【0079】
(4)その他の仕上げ工程
本発明の人工皮革の製造方法において、上記の工程を完了したシートをそのまま人工皮革として用いてもよいが、一般的な人工皮革の製造方法と同様に、種々の仕上げ工程を行って人工皮革とすることが好ましい。
【0080】
まず、人工皮革を染色する、染色工程を含むことが好ましい。この染色処理としては、当分野で通常用いられる各種方法を採用することができ、例えば、ジッガー染色機や液流染色機を用いた液流染色処理、連続染色機を用いたサーモゾル染色処理等の浸染処理、あるいはローラー捺染、スクリーン捺染、インクジェット方式捺染、昇華捺染および真空昇華捺染等による立毛面への捺染処理等を用いることができる。中でも、未起毛人工皮革または人工皮革の染色と同時に揉み効果を与えて未起毛人工皮革または人工皮革を柔軟化することができることから、液流染色機を用いることが好ましい。また、必要に応じて、染色後に各種の樹脂仕上げ加工を施すことができる。
【0081】
また、染色と同浴または染色後に、例えば、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤および抗菌剤等を用いた仕上げ剤処理を施すことができる。
【0082】
また、本発明の人工皮革の製造方法では、前記の染色工程の前後に問わず、製造効率の観点から、厚み方向に半裁することも好ましい態様である。
【0083】
そして、本発明の人工皮革の製造方法においては、染色工程の前後に問わず、人工皮革に立毛を有させる、起毛工程を含むことも好ましい。立毛を有させる方法は、特に限定されず、サンドペーパー等によるバフィング等、当分野で通常行われる各種方法を用いることができる。この起毛処理は、人工皮革の片側表面のみに施しても、両面に施すこともできる。
【0084】
また、前記の半裁を行った場合には、その半裁されてできた表面に立毛を有させることが好ましい。このようにすることで、均一で優美な外観品位を有する人工皮革を得ることができる。
【0085】
立毛を有させる場合には、その起毛処理の前に、シリコーンエマルジョンなどの滑剤を人工皮革の表面へ付与することができる。また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与することで、研削によって人工皮革から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなる。このようにして、人工皮革が形成される。
【0086】
さらに、本発明の人工皮革の製造方法では、必要に応じて、人工皮革に対し、例えば、パーフォレーション等の穴開け加工、エンボス加工、レーザー加工、ピンソニック加工、および、プリント加工等の後加工処理を施すことができる。
【0087】
[乗物用内装材]
本発明の人工皮革は、緻密で優美な表面品位を有し、耐久性および柔軟性に優れる。したがって、乗物用内装材などの用途に用いる場合、少なくとも一部が前記の人工皮革であることが好ましい。ここで言う「乗物用内装材」とは、乗物の、例えば、ステアリングホイール、ホーンスイッチ、シフトノブ、ダッシュボード、インストルメントパネル、グローブボックス、フロアカーペット、フロアマット、天井内張、サンバイザー、アシストグリップなどのことを言い、本発明における「乗物」とは、自動車、航空機、鉄道用車両、船舶をはじめ、馬車やかご、人力車などの乗物、さらには、ショベルカー、クレーン車、トラクター、コンバインなど、人間や動物を乗せて移動することのできる、一部の産業機械、建設機械、農業機械も含むものである。
【実施例0088】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0089】
[測定方法]
実施例で用いた評価方法とその測定条件について説明する。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0090】
(1)極細繊維の平均単繊維直径(μm)
平均単繊維直径の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)として株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」を用い、前記の方法によって測定、算出した。
【0091】
(2)繊維絡合体の目付W(g/m)に対する水分散型ポリウレタンの目付W(g/m)の割合W/W
繊維絡合体の目付W(g/m)に対する水分散型ポリウレタンの目付W(g/m)の割合W/Wは、前記の方法によって測定、算出した。
【0092】
(3)マルチフィラメントの外周部の10%以上が前記水分散型ポリウレタンと接触しているものの数割合(接触割合)(%)
接触割合は、走査型電子顕微鏡(SEM)として株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」を用い、前記の方法によって測定、算出した。
【0093】
(4)マルチフィラメントの断面積(μm)、本数(本)
マルチフィラメントの断面積及び本数の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)として株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」を用い、前記の方法によって測定、算出した。
【0094】
(5)立毛長(μm)
立毛長の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)として株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」を用い、前記の方法によって測定、算出した。
【0095】
(6)人工皮革の目付(g/m)、厚み(mm)
人工皮革の目付は、前記の方法によって測定、算出した。また、人工皮革の厚みの測定には、株式会社尾崎製作所製ダイヤルシックネスゲージ「H20」を用い、前記の方法によって測定、算出した。
【0096】
(7)人工皮革の耐摩耗性(摩耗減量(mg))
人工皮革の耐摩耗性は、JIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「摩耗強さ及び摩擦変色性」の「8.19.5 E法(マーチンデール法)」に記載の耐摩耗試験を行うことで評価した。この評価において、マーチンデール摩耗試験器としてJames H. Heal & Co.Ltd.製「Model 406」を、標準摩擦布として同社の「Abrastive CLOTH SM25」を用いて、人工皮革からランダムに採取した直径38mmの試験片4枚について、立毛を有する表面を上にして、押圧荷重:12kPa、摩擦回数:20000回で耐摩耗試験を行った。そして、耐摩耗試験前後の質量差(mg)から摩耗減量を算出した。人工皮革の摩耗減量が10mg以下であった人工皮革を合格とした。
【0097】
(8)人工皮革の外観品位
健康な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、下記の評価を視覚、触覚で判別を行い、20名の評価値を平均し小数点以下第一位を四捨五入した値を人工皮革の外観品位とした。本発明の良好なレベルは「3以上」とした。
・5:立毛の緻密感が非常に均一で、地が見えない(地の部分が2%未満)外観品位である
・4:立毛の緻密感が均一で、地はほとんど見えない(地の部分が2%~10%)外観品位である
・3:立毛の緻密感にややバラツキがあり、一部に地が見える部分がある(地の部分が10%~30%)外観品位である
・2:立毛の緻密感がなく、地が見える部分が多い(地の部分が30%~50%)外観品位である
・1:立毛がなく、地が見える(地の部分が50%超)外観品位である。
【0098】
(9)成形性の評価
250mm×250mmに切り出した人工皮革を、図3に例示するように、250mm×250mmの正方形の中央に105mmの直径の穴が開いたプレート(ステンレス製、鏡面仕上げ)2枚で挟み込み、直径100mmの半球状の型(ステンレス製、鏡面仕上げ)にプレートと型との間に隙間が生じなくなるまで手で押し付けた際に、人工皮革に発生するシワの本数を測定し、成形性の評価とした。本発明において、「シワの本数が2本以下」のものを、成形性が良好であるとした。
【0099】
[実施例1]
(1)繊維絡合体を形成する工程
まず、極細繊維発現型繊維として、島成分と海成分とからなる海島型複合繊維を、以下の条件で溶融紡糸した。
・島成分: 固有粘度(IV値)が0.73のポリエチレンテレフタレート(PET)
・海成分: 5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(共重合PET)
・口金: 島数が16島/ホールの海島型複合繊維用口金
・紡糸温度: 285℃
・島成分/海成分 質量比率: 80/20
・吐出量: 1.2g/(分・ホール)
・紡糸速度: 1100m/分
次いで、90℃とした紡糸用油剤液浴中で前記の海島型複合繊維を2.8倍に延伸した。
【0100】
前記で得られた海島型複合繊維を、押し込み型捲縮機を用いて捲縮加工処理した後、51mmの長さにカットし、単繊維繊度が4.2dtexの海島型複合繊維の原綿を形成し、さらに、カードおよびクロスラッパーを用いて積層繊維ウェブ(不織布)を形成した。
【0101】
そして、PETと共重合PETを原料とする海島型複合繊維(島成分/海成分の質量比率:80/20)からなるマルチフィラメント(平均単繊維直径:24μm、総繊度:137dtex)に2000T/mの撚りを施した撚糸を、緯糸と経糸の両方に用いた、織密度が経76本/2.54cm、緯66本/2.54cmの平織物を前記の積層ウェブの上下に積層し、ニードルパンチを施して繊維絡合体を得た。このようにして得られた繊維絡合体を98℃の熱水中に2分間浸漬させることで、収縮させた。
【0102】
(2)含浸シートを形成する工程
高分子ポリオールとしてポリテトラメチレングリコール、有機ジイソシアネートとしてMDI、親水性基を有する活性水素成分含有化合物として2,2-ジメチロールプロピオン酸、鎖伸長剤としてエチレングリコールからなるポリウレタン前駆体が11質量部、カルボジイミド系架橋剤が1質量部、硫酸ナトリウムが5質量部、水が83質量部からなるように水分散型ポリウレタンの分散液を調整した。そして、この水分散型ポリウレタンの分散液に、前記の収縮をさせた繊維絡合体を浸漬させ、水分散型ポリウレタンの分散液のピックアップ率が200%となるようにマングルで絞り、120℃の熱風で20分間乾燥することでポリウレタン前駆体を凝固させ、含浸シートを得た。
【0103】
(3)極細繊維、島成分または芯成分からなる繊維を発現させる工程
前記の含浸シートを、濃度5%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後に95℃のスチームで10分間熱処理することで、不織布および平織物を構成する海島型複合繊維の海成分をアルカリ分解した。次いで、余剰の水酸化ナトリウムおよび硫酸ナトリウムを水洗し、160℃の乾燥機で10分間乾燥させることで、ポリウレタンが付与された極細繊維からなる繊維絡合体であるシート状物を得た。
【0104】
(4)その他の仕上げ工程
前記のシート状物を、厚さ方向に垂直に半裁したのち、サンドペーパー番手120番のエンドレスサンドペーパーで、半裁されて形成された表面(半裁面)を研削して起毛処理を行い、厚みが0.70mmの立毛シートを得た。
【0105】
上記のようにして得られた立毛シートを、液流染色機を用いて120℃の温度条件下で染色を行った後に乾燥機にて乾燥を行うことで、人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は、緻密で優美な表面品位を有し、優れた耐摩耗性と良好な成形性を有していた。
【0106】
[実施例2]
(1)繊維絡合体を形成する工程において、海島型複合繊維を島成分/海成分の質量比率が80/20、吐出量が1.2g/(分・ホール)となる条件で紡糸していたところを、島成分/海成分の質量比率が90/10、吐出量が1.6g/(分・ホール)となる条件で溶融紡糸することに変え、海島型複合繊維を2.8倍に延伸していたところを、2.1倍に延伸することに変えた以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は、緻密で優美な表面品位を有し、優れた耐摩耗性と良好な成形性を有していた。
【0107】
[実施例3]
(2)含浸シートを形成する工程において、水分散型ポリウレタンの分散液のピックアップ率を150%に変えた以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は、緻密で優美な表面品位を有し、優れた耐摩耗性と良好な成形性を有していた。
【0108】
[実施例4]
(2)含浸シートを形成する工程において、水分散型ポリウレタンの分散液のピックアップ率を300%に変えた以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は、緻密で優美な表面品位を有し、優れた耐摩耗性と良好な成形性を有していた。
【0109】
[実施例5]
(1)繊維絡合体を形成する工程において、平織物を構成するマルチフィラメントの原料である海島型複合繊維の島成分/海成分の質量比率を90/10に変えた以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は、緻密で優美な表面品位を有し、優れた耐摩耗性と良好な成形性を有していた。
【0110】
[実施例6]
(1)繊維絡合体を形成する工程において、平織物を構成するマルチフィラメントの平均単繊維直径を18μm、総繊度を79dtexに変えた以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は、実施例1対比でわずかに耐摩耗性や成形性に劣るものの緻密で優美な表面品位を有していた。
【0111】
【表1】
【0112】
[比較例1]
(2)含浸シートを形成する工程において、水分散型ポリウレタンの分散液のピックアップ率を120%に変えた以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表2に示す。得られた人工皮革は、優美な表面品位を有し、良好な成形性を有していたものの、耐摩耗性には劣るものであった。
【0113】
[比較例2]
(2)含浸シートを形成する工程において、水分散型ポリウレタンの分散液のピックアップ率を350%に変えた以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表2に示す。得られた人工皮革は、耐摩耗性に優れていたものの、表面品位や成形性に劣るものであった。
【0114】
[比較例3]
(1)繊維絡合体を形成する工程において、平織物を構成するマルチフィラメントの原料を、PETのみからなる単繊維に変えた以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表2に示す。得られた人工皮革は、緻密で優美な表面品位を有し、耐摩耗性に優れていたものの、成形性には劣るものであった。
【0115】
【表2】
【符号の説明】
【0116】
1:マルチフィラメント
2a、2b、2c:マルチフィラメントの外周部
3a、3b、3c:ポリウレタンの外周部
4a、4b、4c:マルチフィラメントの外周部が接触している箇所
5:人工皮革
6:立毛部
7:立毛部とそれ以外の部分との境界線(厚さ方向に配向する繊維と人工皮革の面方向に配向する繊維との交点を結んだ線)
8:厚さ方向に配向する繊維と人工皮革の面方向に配向する繊維との交点から立毛の先端までの距離を示す矢印
9:押しつけ方向を示す矢印
10:人工皮革
11:押さえ治具上プレート
12:押さえ治具下プレート
13:半球状の賦形型
図1
図2
図3