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  • 特開-有機粒子およびフィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128361
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】有機粒子およびフィルム
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/417 20210101AFI20240913BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240913BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240913BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20240913BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20240913BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240913BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20240913BHJP
【FI】
H01M50/417
H01M50/443 B
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/446
H01M50/451
H01M50/489
H01G11/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037301
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】若原 葉子
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 信康
【テーマコード(参考)】
5E078
5H021
【Fターム(参考)】
5E078AA11
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA18
5E078BA27
5E078BA53
5E078CA02
5E078CA06
5E078CA07
5E078CA10
5E078CA20
5E078DA03
5E078DA06
5E078FA02
5E078FA13
5H021CC03
5H021CC04
5H021EE04
5H021EE21
5H021HH00
5H021HH03
5H021HH06
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、優れた熱特性および流動特性を有する有機粒子を提供することにある。
【解決手段】
ポリオレフィンを主成分とし、軟化開始温度が80℃以上120℃以下であり、120℃における複素粘度が5.00×10Pa・s以上5.00×10Pa・s以下である有機粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンを主成分とし、軟化開始温度が80℃以上120℃以下であり、120℃における複素粘度が5.0×10Pa・s以上5.0×10Pa・s以下である有機粒子。
【請求項2】
120℃における複素粘度が7.0×10Pa・s以上2.0×10Pa・s以下である、請求項1に記載の有機粒子。
【請求項3】
D50が0.05μm以上1.5μm以下である、請求項1または2に記載の有機粒子。
【請求項4】
D90が2.0μm以下である、請求項1または2に記載の有機粒子。
【請求項5】
D10が0.02μm以上である、請求項1または2に記載の有機粒子。
【請求項6】
請求項1に記載の有機粒子を水および/または有機溶媒に分散させた分散体。
【請求項7】
請求項1に記載の有機粒子を含む塗剤。
【請求項8】
請求項1に記載の有機粒子を含む接着剤。
【請求項9】
請求項1に記載の有機粒子を含むフィルム。
【請求項10】
多孔質基材の少なくとも一方の面に、有機粒子を含む層(I)を有するフィルムであって、前記有機粒子がポリオレフィンを主成分とし、軟化開始温度が80℃以上120℃以下であり、120℃における複素粘度が5.0×10Pa・s以上5.0×10Pa・s以下であるフィルム。
【請求項11】
前記有機粒子の120℃における複素粘度が、7.0×10Pa・s以上2.0×10Pa・s以下である、請求項10に記載のフィルム。
【請求項12】
120℃、10分の条件での熱処理後の電気抵抗値が0.5kΩ・cm以上である、請求項10または11に記載のフィルム。
【請求項13】
前記層(I)が無機粒子を含む、請求項10または11に記載のフィルム。
【請求項14】
前記多孔質基材がポリオレフィンを主成分とする、請求項10または11に記載のフィルム。
【請求項15】
10μm換算の突刺強度が5.0N/μm以上である、請求項10または11に記載のフィルム。
【請求項16】
前記多孔質基材の層(I)を有する面とは反対側の面に層(I)とは異なる組成の層(II)を有する、請求項10または11に記載のフィルム。
【請求項17】
正極、請求項16に記載のフィルム、負極を有する蓄電デバイスであって、前記フィルムの前記層(I)を負極側、前記層(II)を正極側に向けて配する蓄電デバイス。
【請求項18】
請求項9または10に記載のフィルムを含む蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた熱特性を有する有機粒子および電気特性と安全性を両立するフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンを主成分とする有機粒子は、その熱特性や耐薬品性・耐水性を生かしてコーティング用の接着剤・粘着剤・トナーや顔料・樹脂添加剤として使用されている(特許文献1~3)。特に、コーティング用途においては、その熱特性や流動性を生かしてフィルム表面に有機粒子を塗工したコーティングフィルムが検討されている。特に多孔質基材、に有機粒子からなる塗膜を形成したコーティングフィルムは、電気絶縁性やイオン透過性に加えて力学特性にも優れることから、電池・コンデンサ等のセパレータとして広く利用されている。近年、二次電池の普及に伴い自動車や電子機器等の様々な用途に電池が用いられるようになったが、電池を使用している際に電池に異常が発生し熱暴走により電池が爆発する事例が発生している。これに対して電池の安全装置として、電池が異常発熱した際にセパレータ全体が溶融する前に、セパレータの一部をより低温側で段階的に溶融させ、熱暴走が開始する温度領域に至る前にセパレータの孔を閉塞し電流を遮断するシャットダウン性をセパレータに付与することが検討されており、そのシャットダウン剤としてオレフィンからなる有機粒子の適用とこれを塗工したコーティングフィルムの適用が検討されている(特許文献4~8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第1803328号公報
【特許文献2】特許第5656844号公報
【特許文献3】特開2012-041495公号
【特許文献4】特開平9-219185号公報
【特許文献5】国際公開第2018/017944号
【特許文献6】国際公開第2010/008003号
【特許文献7】特開2009-114434号公報
【特許文献8】特許第5778657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの技術では電池の常用作動温度範囲である80℃未満でシャットダウン性が発動する(シャットダウン性が誤作動する)場合があり、シャットダウン性が開始する温度の制御は困難であった。
【0005】
本発明の課題は、上記した問題を解決することにある。すなわち、優れた熱特性および流動特性を有する有機粒子と、その有機粒子を含む層を有することで優れた電気特性と安全性を両立するシャットダウン性を発現するフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の有機粒子およびフィルムは、上記課題を解決するために次の特徴を有する。すなわち、ポリオレフィンを主成分とし、軟化開始温度が80℃以上120℃以下であり、120℃における複素粘度が5.0×10Pa・s以上5.0×10Pa・s以下である有機粒子である。また、多孔質基材の少なくとも一方の面に、有機粒子を含む層(I)を有するフィルムであって、前記有機粒子がポリオレフィンを主成分とし、軟化開始温度が80℃以上120℃以下であり、120℃における複素粘度が5.0×10Pa・s以上5.0×10Pa・s以下であるフィルムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の有機粒子は熱特性および流動特性に優れることから各種コーティング用の粒子として用いることができる。具体的には日用品・自動車・電子・電気部品用の接着成分や二次電池等の各種電池のシャットダウン剤として好適に用いることができる。
また本発明の有機粒子を有するフィルムは優れた電気特性と安全性を両立することから、水素電池、空気電池、燃料電池、リチウムイオン二次電池、コンデンサ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等の各種蓄電デバイス、中でも、電池用、特にリチウムイオン二次電池用のセパレータ等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のフィルムを120℃にて10分間の熱処理を施した後の断面を示す一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の有機粒子は、ポリオレフィンを主成分とする。ここで主成分とするとは、有機粒子を構成する成分のうち80質量%以上をしめる成分を指す。有機粒子に用いられるポリオレフィンとしてはエチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等のα-オレフィンや、ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5-ヘキサジエン等の共役ジエンまたは非共役ジエンや、スチレン、酢酸ビニル、ビニルアルコールなどの単量体を単独または2種以上組み合わせて重合することにより得られる重合物が挙げられる。具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどの単独重合体や、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・スチレン共重合体などの共重合オレフィンが挙げられるがこれに限定されない。
【0010】
本発明の有機粒子に共重合ポリエチレンを用いる場合、ポリマーを構成するモノマー成分全体を100mol%とした場合に、エチレン以外のモノマーの共重合成分比は1.0mol%以上30.0mol%以下であることが、樹脂の結晶特性を保持でき、低温での非晶の流動性を制御することで有機粒子の軟化を促進することができるとともに、有機粒子製造時に樹脂に適度な非晶性を付与できるため均一な粒子径の粒子を作製できる観点から好ましい。
【0011】
本発明の有機粒子に用いるポリオレフィンは、重量平均分子量が5万以上30万以下であることが有機粒子を製造する観点から好ましく、5万以上20万以下であることがより好ましい。
【0012】
本発明の有機粒子は、ポリオレフィンにオレフィンワックスを混合した樹脂組成物を用いることが好ましい。ここでオレフィンワックスとは重量平均分子量3万以下のポリオレフィンを指す。このオレフィンワックスの配合により、ポリオレフィン樹脂の流動特性の制御が可能となり、後述する複素粘度を達成することができる。本発明に用いることのできるオレフィンワックスの具体例としては、低密度ポリエチレン、線状ポリエチレン(エチレン-α-オレフィン共重合体)、高密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリ(4-メチルペンテン-1)、ポリ(ブテン-1)およびエチレン-酢酸ビニル共重合体のワックスなどが挙げられる。ポリオレフィン樹脂およびオレフィンワックスの重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により評価することができる。
【0013】
本発明の有機粒子にポリオレフィン樹脂にオレフィンワックスを混合した樹脂を用いる場合、混合された樹脂組成物を100質量%としたときにオレフィンワックスの濃度は、主成分であるポリオレフィン樹脂の流動性の制御の観点から3質量%以上25質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。オレフィンワックスの濃度が25質量%を上回ると、ポリオレフィン樹脂の流動性が高くなりすぎるため、有機粒子を基材フィルムに塗工し、加熱して使用する際に塗膜の形状を維持できない場合や、基材に浸透し有機粒子を含む層が消失し、所望の特性が発現しない場合がある。オレフィンワックスの濃度が3質量%を下回ると、オレフィンワックスを配合する効果が薄れ主成分であるポリオレフィン樹脂の流動性を制御できない場合がある。オレフィンワックスの配合量はGPC測定で得られる分子量分布曲線を解析することで確認することができる。
【0014】
本発明の有機粒子に用いるオレフィンワックスは、JIS K0070(1992)で測定される酸価が5mgKOH/g以上、100mgKOH/g以下であることが有機粒子を製造する際の分散性を保持する観点から好ましく、10mgKOH/g以上、50mgKOH/g以下であることがオレフィンワックスの耐久性の観点より好ましい。
【0015】
オレフィン樹脂にオレフィンワックスを混合する手法としては、溶融混練法であらかじめ混合してもよいし、有機粒子の製造工程でブレンドしてもよいがこれに限定されない。
【0016】
本発明の有機粒子は、軟化開始温度が80℃以上120℃以下である。軟化開始温度とは、有機粒子を構成する樹脂が加熱によって実質的に変形し始める温度のことをさす。上記の軟化開始温度を有することで、有機粒子の低温での変形を抑制するとともに加工性の高い温度領域で粒子の流動性を発現せしめることができる。軟化開始温度が80℃よりも低いと、常温で粘着性を発現するためハンドリング性が低下する場合や、コーティングにより有機粒子をフィルム表面に配した場合に低温にて有機粒子が軟化し、特性の低下を引き起こす場合がある。軟化開始温度が120℃よりも高いと、有機粒子の流動点が高くなるため加工性が低下する場合や、コーティングにより有機粒子をフィルム表面に配した場合には、粒子と基材との軟化温度差が小さくなるため有機粒子塗工による特性が発現しにくくなる場合がある。軟化開始温度は好ましくは80℃以上110℃以下、より好ましくは90℃以上110℃以下である。軟化温度は前述する樹脂を選択することで達成できる。軟化開始温度は後述する手法で確認することができる。
【0017】
本発明の有機粒子は軟化温度制御の観点から80℃における複素粘度が1.0×10Pa・s以上であることが好ましい。80℃における複素粘度の上限は高ければ高いほど好ましいが、樹脂で達成できる温度からその上限は1.0×10Pa・s以下である。
【0018】
本発明の有機粒子は120℃における複素粘度が5.0×10Pa・s以上5.0×10Pa・s以下である。上記の複素粘度を有することで、有機粒子を電池のシャットダウン剤として用いた場合には電池が異常発熱した際に優れたシャットダウン性を発現させることができる。また有機粒子を接着剤等の成分として用いた場合には被着体の表面に対して優れた転写性を示すことからアンカー効果を発現することができる。120℃における複素粘度が5.0×10Pa・sを下回ると、樹脂粘度が低すぎて後述する多孔質基材を用いた場合には吸着されて層をなさない場合や接着成分として用いた場合には接着強度の低下を引き起こす場合がある。120℃における複素粘度が5.0×10Pa・sを上回る場合は粘度が高すぎて樹脂が融解しても流動せずシャットダウン性の発現に必要な膜を形成できない場合や、転写性が低下し接着性が発現しにくい場合がある。120℃における複素粘度は7.0×10Pa・s以上2.0×10Pa・s以下が好ましく、8.0×10Pa・s以上1.6×10Pa・s以下がより好ましい。120℃における複素粘度を上記の範囲とするには前述する樹脂を用いることで達成できる。120℃における複素粘度は後述する手法で評価することができる。
【0019】
本発明の有機粒子はレーザー回折法(粒子にレーザービームを照射することで得られる回折光の強度分布を解析して粒子径を求める手法)によって得られる粒度分布(累積分布)の中央値に対応する50%数値の粒子径(D50:メジアン径)が0.05μm以上1.5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1.0μm以下であることがより好ましい。上記のD50の有機粒子を用いることで、フィルム表面に有機粒子を塗工した際に均一で高密度な層を形成させることができ、優れた特性を発現させることができる。D50が1.5μmを上回ると、薄膜塗工時に塗工により形成させたい層の厚みに対して粒子径が大きくなるため、塗工性が低下したり、粒子が脱落しやすくなったりする場合がある。D50が0.05μmを下回ると粒子径が小さくなりすぎるため、フィルムにコーティングした場合に塗膜の密度が高くなりすぎてコーティングフィルムとしての特性が低下する場合がある。
【0020】
本発明の有機粒子は、粒度分布測定で得られる累積分布の10%数値の粒子径(D10)が0.02μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましい。D10を上記の範囲とすることで、微小粒子の残存を防ぎ粒子径を均一化することができる。D10が0.02μmを上回ると、前述のD50に対して小さい粒子の比率が増えることから、フィルムの特性の低下や特性のばらつきを引き起こす場合がある。D10の上限は粒子径の均一化の観点からD50に近ければ近いほど好ましい。
【0021】
本発明の有機粒子は、粒度分布測定で得られる累積分布の90%数値の粒子径(D90)が2.0μm以下であることが好ましく、1.8μm以下であることがより好ましい。D90が上記の範囲を満たすことで粒度分布の幅を狭くでき、フィルムにコーティングした際に均一化な塗膜を形成することができる。D90が2.0μmよりも大きくなると、薄膜塗工時に塗工により形成させたい層の厚みに対して大きい粒子の比率が大きくなるため、塗工性が低下したり塗膜の状態が悪化したりする場合がある。D90の下限は粒子径の均一化の観点からD50に近ければ近いほど好ましい。粒子径は後述する製法を適用することで達成できる。また、粒子径は後述する手法にて評価することかできる。
【0022】
本発明の有機粒子は、溶媒に分散させて分散体とすることもできる。有機粒子を分散体化する場合に用いる溶媒としては、例えば、水、アルコール類、ケトン類、DMSO、DMFなどが挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタパノールなどが挙げられる。分散体に用いる溶媒は単独で用いてもかまわないし、2種類以上の溶媒を任意で混合して用いることができる。上記の有機溶媒の中でも環境への影響を配慮した場合、溶媒としては主成分に水を用いることが好ましい。ここで分散体の溶媒の主成分とは、分散体の溶媒全体を100質量%とした場合に80質量%以上を含有される成分のことを指す。
有機粒子を分散体とする場合、その分散体には有機粒子の特性を損なわない範囲で増粘剤・防腐剤・分散剤・pH調整剤等を含むことができる。また無期粒子やその他の有機粒子を配合することもできる。
有機粒子を分散体とする手法としては、有機粒子を製造する工程において溶媒を用いる場合は分散体化した際に溶媒として使用したい溶媒で置換して分散体を得る方法や、有機粒子の粉体を溶媒と混合し、撹拌機や分散機等で溶媒に分散させる方法があるがこれに限定されない。
【0023】
本発明の一態様として、本発明の有機粒子を含む塗剤、接着剤およびフィルムを挙げることができる。
【0024】
本発明の有機粒子を含む塗剤とは、有機粒子を一般的な基材に塗布し、その表面に有機粒子を含む層を形成させるための液状の分散液をさす。一般的な基材の例としては鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、真鍮等の金属類や、ガラス板、ガラス繊維の織布及び不織布等のガラス製品、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー等の樹脂のフィルムやシート、射出・押出成形品及び被覆物、SBR、ブチルゴム、NBR、EPDM等の汎用ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の成形品及び被覆物、天然繊維及び合成繊維の織布及び不織布、またはこれらを組み合わせて形成された積層基材等が挙げられるがこれに限定されない。これらの基材は、粗面化や酸化防止処理、易接着処理など表面加工されたものであってもよい。
【0025】
本発明の有機粒子を含む塗剤の分散液の組成としては、本発明の有機粒子の他、水や有機溶媒等の溶媒、バインダー、無機粒子、着色顔料、安定剤、増粘剤、分解促進剤、防錆剤、防腐剤、消泡剤等を、有機粒子の特性を損なわない範囲で配合することができる。
【0026】
本発明の有機粒子を含む塗剤に含まれる有機粒子の固形分濃度としては、有機粒子の特性を発現する観点から、塗剤全体の濃度を100質量%とした場合、5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましい。
【0027】
本発明の有機粒子を含む塗剤は、通常の塗料で用いられる塗装方法により塗装することがでる。例えば、スプレー塗装、ロール塗装、ドクターブレードによる塗装、ディップ(浸漬)塗装、含浸塗装、スピンフロー塗装、カーテンフロー塗装、バーコーターによる塗工、グラビアコート法、マイクログラビアコート法等が挙げられるがこれに限定されない。
【0028】
本発明の有機粒子を含む塗剤の用途としては電気・電子部品等・自動車部品・電池部品・日用品・包装材・建築用/産業用資材・印刷用トナー・各種金属製品の被覆・包装材料用途等に用いることができるがこれに限定されない。
【0029】
本発明の有機粒子を含む接着剤とは、上記の有機粒子を含む塗剤のうち有機粒子を溶融することで接着性を発現することができるものを指す。接着剤の用途の例としては、包装材料用接着剤、紙接着剤、紙容器用コーティング剤、蓋材用接着剤、インモールド転写箔用接着剤、鋼板用接着剤、太陽電池モジュール用接着剤、植毛用接着剤、蓄電デバイス用接着剤、自動車部材用接着剤、異種基材用接着剤などが挙げられるがこれに限定されない。
【0030】
本発明の有機粒子を含むフィルムとは、片面または両面またはフィルムそのものに有機粒子を含む膜状物を指す。有機粒子をフィルム中に含ませる方法としては前述する塗剤を前述する手法を用いてフィルムに塗工する方法や、フィルムを形成する原料中に有機粒子を配合しフィルムを形成させる方法が挙げられるがこれに限定されない。フィルムを構成する組成としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマーが挙げられるがこれに限定されない。
【0031】
本発明の有機粒子を含むフィルムの用途としては、電気・電子部品・自動車部品・電池部品・日用品・包装材・建築用/産業用資材が挙げられるがこれに限定されない。
【0032】
本発明の一態様として、多孔質基材と、多孔質基材の少なくとも一方の面に、有機粒子を含む層(I)を有するフィルムであって、前記有機粒子がポリオレフィンを主成分とし、軟化開始温度が80℃以上120℃以下であり、120℃における複素粘度が5.0×10Pa・s以上5.0×10Pa・s以下であるフィルムが挙げられる。層(I)に含まれる有機粒子が、フィルム中において高い濃度で層状に局在していると、フィルムを電池のセパレータとして用いた際に、電池が異常によって発熱をした場合に、その熱で溶融してフィルム中に含まれる細孔を電気的に完全に閉塞するといったシャットダウン性を発現することができる。この機能を有することで、本発明のフィルムは、日常使用時の電池の安全性を高めることができる。
【0033】
本発明のフィルムに用いる多孔質基材は、内部に微細孔を有し、これら微細孔が一方の面から他方の面へと連結された構造(貫通孔)を有することが好ましい。多孔質基材としては、例えば多孔膜、不織布、または繊維状物からなる多孔膜シートなどが挙げられる。中でも電気絶縁性および電解液に対する耐久性の観点からポリオレフィンを主成分とする微多孔膜(以下、ポリオレフィン微多孔膜と記載)が好ましい。ここでポリオレフィンを主成分とするとは、当該材質を構成する成分のうち80質量%以上含有される成分を指す。ポリオレフィン微多孔膜を構成する樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ4-メチルペンテン-1などの単一ポリオレフィン樹脂や、これら樹脂の混合物、さらには、これら樹脂を構成する単量体同士をランダム共重合やブロック共重合した樹脂を用いることができる。中でもポリエチレンまたは/およびポリプロピレンを主成分とすることが電気特性・安全性を両立できる観点から好ましい。
【0034】
本発明の多孔質基材に用いるポリオレフィン微多孔膜の貫通孔を形成する方法としては、湿式法(原料となる樹脂と溶剤を溶融混合し板状シート化/延伸した後、溶媒にて溶剤を洗浄/除去し、多孔化する方法)または乾式法(樹脂を溶融し、シート状に押出したものを延伸により多孔化する方法)のいずれを用いたものでも構わない。
【0035】
本発明に用いる多孔質基材は未延伸でも一軸または二軸方向に延伸されたもののいずれでも構わないが、多孔質基材の機械特性を向上せしめる観点から少なくとも一軸方向に延伸されていることが好ましい。フィルムを少なくとも一軸方向に延伸する方法としては、加熱後、テンター法、ロール法、インフレーション法、またはこれらの組合せにより所定の倍率で延伸するのが好ましい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸、逐次延伸および多段延伸(例えば同時二軸延伸および逐次延伸の組合せ)のいずれでもよい。
【0036】
本発明の多孔質基材に用いるポリオレフィン多孔膜の原料として超高分子量ポリエチレンを用いる場合、二軸延伸後に同樹脂の融点以下の温度で少なくとも一軸方向に延伸(再延伸)することが好ましい。上記の工程を有することで分子鎖の配向緩和を抑制し、熱的に安定な構造を形成し、膜強度の向上と低熱収化を促進する観点から好ましい。
【0037】
本発明に用いる多孔質基材には、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤や無機あるいは有機粒子からなる滑剤、さらにはブロッキング防止剤や充填剤、非相溶性ポリマーなどの各種添加剤を含有させてもよい。
【0038】
本発明のフィルムに用いる多孔質基材は、単膜でも複数の層を有する積層膜のいずれの構成でもよい。ポリオフレフィン多孔膜が積層構成のポリオレフィン微多孔膜の場合、その積層構成としては、異なる2つのオレフィン組成Aからなる微多孔膜およびオレフィン組成Bからなる微多孔膜を用いた場合を例にすると、A/Bの2層、A/B/A、B/A/Bの3層や、A/B/A/B、A/B/A/B/A、B/A/B/A/Bなどの積層構成が挙げられるが、これに限定されない。また、オレフィン組成A、Bの他にさらに異なる組成からなる層を追加した積層構成にすることもできる。
【0039】
本発明のフィルムに用いる多孔質基材に積層構成のポリオレフィン微多孔膜を用いる場合、層構成のいずれかの層にポリプロピレンを主成分とする層を含むことが、多孔質基材の耐熱性を向上させ安全性を高める観点から好ましい。
【0040】
本発明のフィルムに用いる多孔質基材がポリエチレンを主成分とする場合、膜強度を向上させる観点から、該ポリエチレンの重量平均分子量は1.0×10以上であることが好ましく、1.5×10以上が好ましい。重量平均分子量の上限は、成型加工性の観点から1.0×10以下が好ましい。上記の分子量を持つポリエチレンを用いることでフィルムの配向緩和を抑制し、結晶構造の維持が可能となり、優れた耐熱性と膜強度を発現し電池の安全性を向上させることができる。重量平均分子量を上記の範囲以上とすることで、延伸によって形成された分子鎖配向の緩和時間が短くなり、高温下での結晶構造の保持性が低下することによる、耐熱性や膜強度低下を抑制することができる。また、重量平均分子量を上記の範囲以下とすることで延伸トルクの増大のため成型加工性が低下することを抑制できる。
【0041】
本発明のフィルムに用いる多孔質基材には、異なる素材、例えば多孔膜と不織布とが積層されたものなどを用いることもできる。
【0042】
本発明のフィルムに用いる多孔質基材の厚みは、1μm以上15μm以下が好ましく、2μm以上13μm以下が電池の小型化の観点からより好ましい。
【0043】
本発明のフィルムを構成する層(I)の厚みは、1μm以上10μm以下が好ましく、1μm以上7μm以下が電池の小型化の観点からより好ましい。
【0044】
本発明のフィルムの厚みは2~25μmであることがセパレータとして使用の際に絶縁距離を維持し安全性を担保するのに好ましく、3~23μmがより好ましく、3~20μmであることがさらに好ましい。フィルム、多孔質基材および層(I)の厚みは後述する手法で評価できる。
【0045】
本発明のフィルムを構成する層(I)は、125℃以上に加熱した際に含有する有機粒子が溶融し、気体およびイオンの通過を阻害可能な膜を形成することが好ましい。この特性を有することで、フィルムは優れたシャットダウン性を発現できる。125℃に加熱した際の有機粒子の形状は完全に溶融・流動して粒子形状を維持していなくても、一部が溶融・変形して部分的に粒子形状を有していても構わない。
【0046】
本発明のフィルムを構成する層(I)には、有機粒子を多孔質基材の表面に結着させるために有機粒子とは異なる樹脂成分をバインダーとして含むことができる。バインダーとしてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アクリル、アクリル共重合体、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、架橋アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、変性ポリオレフィン、シリコンアルコキシド類、ジルコニウム化合物、コロイダルシリカ、オキシラン環含有化合物、セルロースおよび/またはセルロース塩などの水溶性樹脂が挙げられる。特に、水に分散または溶融可能な化合物がバインダーとして好ましく用いられる。バインダーは、上記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
本発明のフィルムは無機粒子を含むことが好ましい。無機粒子は層(I)に含まれることが好ましいが、層(I)とは別の層に含まれていても良い。無機粒子を含むことでフィルムとしての耐熱性および機械特性が向上し、熱収縮や異物混入による短絡を抑制でき、電池等のセパレータとして使用した際の安全性を高めることができる。
【0048】
本発明のフィルムに用いる無機粒子としては、具体的には酸化アルミニウム、ベーマイト、シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウムなどの無機酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化硅素などの無機窒化物粒子;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶粒子などが挙げられる。無機粒子の中でも高強度化に効果のある酸化アルミニウム、有機樹脂粒子と無機粒子の分散工程の部品摩耗低減に効果のあるベーマイトまたは硫酸バリウムが特に好ましい。さらにこれらの無機粒子を1種類で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。用いる無機粒子の形状としては、球状、板状、針状、棒状、楕円状などが挙げられ、いずれの形状であってもよい。その中でも、表面修飾性、分散性、塗工性の観点から球状であることが好ましい。
【0049】
本発明のフィルムを構成する層(I)に無機粒子を含む場合、耐熱性を高める観点からその濃度は有機粒子100質量部に対して10~500質量部であることが好ましく、10~250質量部であることがさらに好ましい。
【0050】
本発明のフィルムは、下記式であらわされる厚み保持率ΔTが50%以上98%以下であることが好ましく、75%以上90%以下であることがより好ましい。
ΔT(%)={(TP-120―TP-bace)/(T0-120-T0-bace)}×100
0-120:無孔のフィルムの120℃熱処理後の厚み
0-bace:層(I)をコーティングした無孔のフィルムの120℃熱処理後の厚み
P-120:本発明のフィルムの120℃熱処理後の厚み
P-bace:本発明の多孔質基材の120℃熱処理後の厚み
ここでT0-120-T0-baceは、無孔のフィルムを基材に使用し、これにフィルムの層(I)の組成を塗工した後、120℃に加熱してコーティング層に含まれる有機粒子を溶融させた際の層(I)の厚みを指し、有機粒子が溶融した場合に基材に浸透せず表層に留まった際に形成可能な層(I)の理論厚みとなる。これに対し、TP-120―TP-baceは多孔質基材上に形成した層(I)を加熱し、有機粒子を溶融した際の層(I)の厚みである。この厚み変化率が上記の範囲となることで、120℃の熱にさらされた場合に層(I)を構成する有機粒子が溶融しても多孔質基材に吸収されにくく、層(I)として表層に残留していることを示す。この特性により層(I)は高温下では絶縁層を形成することができ、優れたシャットダウン性を発現することができる。厚み保持率が50%を下回ると、層(I)を構成する有機粒子の大部分が溶融する120℃で、多孔質基材と接触した際に多孔質基材の孔に吸収されてしまい、層(I)が絶縁膜としての機能を果たせなくなる場合がある。厚み保持率が95%を上回ると、層(I)を構成する有機粒子が溶融した際に多孔質基材の表面と馴染まず、層(I)と多孔質基材間で層間剥離してしまいシャットダウン性が低くなる場合がある。厚み保持率を上記の範囲にするには前述する組成の樹脂を有機粒子として用いることで達成できる。厚み保持率は後述する手法で評価できる。
【0051】
本発明のフィルムは、120℃で10分の熱処理後において、無孔の層と有孔の層を有することが好ましい(120℃10分の熱処理後において、無孔の層と有孔の層を有するフィルムの断面構造の一例として図1を示す)。上記の構造を有することで、フィルムを二次電池のセパレータに用いた場合に優れた安全性を発現することができる。無孔の層は有機粒子が溶融した後に基材表層に留まること、または有機粒子が溶融した樹脂の成分が基材表面の一部に浸透し層(I)と基材の混合層を形成するが、完全には浸透せず表層に留まることで形成される。この無孔の層が高い絶縁性を示し、優れたシャットダウン性を発現することができる。
【0052】
本発明のフィルムは、25℃における透気抵抗は、20s/100ml以上1000s/100ml以下であることが好ましく、20s/100ml以上500s/100ml以下であることが、電池特性保持の観点より好ましい。
【0053】
本発明のフィルムは、120℃で10分の熱処理を行ったサンプルにおいて透気抵抗が9.0×10s/100ml以上であることが好ましく、1.0×10s/100mlであることが、フィルムのシャットダウン性を高める観点より好ましい。透気抵抗は後述する手法で評価することができる。
【0054】
本発明のフィルムの膜厚を10μmに換算した突刺強度は、5.0N/10μm以上であることが好ましく、5.5N/10μm以上がより好ましい。突刺強度の上限は高ければ高いほど好ましいが、物理的に達成可能な範囲としては8.0N/10μm以下である。フィルムの突刺強度が上記の範囲であると、電池内に異物が混入した際の短絡抑制効果が高まり、安全性が向上することができる。突刺強度は前述の組成を前述の延伸方法を用いて多孔質基材を作製することで達成できる。
【0055】
本発明のフィルムの130℃1時間における熱収縮率は15%以下であることが好ましく、12%以下であることがより好ましい。熱収縮率をこの範囲にすることで、電池内部温度上昇時に寸法変化が少なく、短絡を抑制でき、高い安全性を得ることができる。フィルムの熱収縮率は前述する分子量の多孔質基材の適用や、後述の無機粒子を含む層(II)を併用することで達成できる。
【0056】
本発明のフィルムの未処理の状態において25℃で測定された電気抵抗値は、0.100kΩ/cm以下であることが好ましく、0.050kΩ/cm以下であることがより好ましい。上記の特性を有することで多孔質基材に層(I)を形成しても初期の電気特性を損なわず、フィルムを二次電池用のセパレータとして用いた際に優れた電気特性を発現できる。
【0057】
本発明のフィルムは、120℃、10分の条件での熱処理後に25℃にて測定された電気抵抗値が0.5KΩ/cm以上100.0KΩ/cm以下であることがより好ましく、1.0KΩ/cm以上100.0kΩ/cm以下であることがさらに好ましい。この特性によって、フィルムをセパレータ等として用いた場合には優れたシャットダウン性を示し、安全性を確保することができる。120℃、10分の条件での熱処理後の電気抵抗値が0.5kΩ/cm未満であると、電池等のデバイス中でフィルムを用いた際に電気絶縁性が低く、熱暴走等を抑制できず安全性を確保できない場合がある。電気抵抗値は高ければ高いほど好ましいが達成可能な範囲としては100kΩ/cmが上限となる。120℃、10分の条件での熱処理後の電気抵抗値を上記の範囲とするためには前述する組成の樹脂を有機粒子として用いることで達成できる。120℃、10分の条件での熱処理後の電気抵抗値は後述する手法で評価できる。
【0058】
本発明のフィルムは、層(I)の他に層(I)とは異なる組成の層(II)を含むこともできる。層(II)を構成する成分の例としては、例えば無機粒子とバインダーを含む組成物、層(I)とは異なる成分からなる有機粒子を含む組成物や電極との接着性を有するPVDFやアクリル樹脂を含む組成物などが挙げられるがこれに限定されない。無機粒子やバインダーは前述する種類のものから選択することができる。また層(II)を設ける場合、層(I)の表面に積層してもよいし、層(I)とは反対側の面に設けてもよい。多孔質基材の片面に層(I)、前記多孔質基材の層(I)を有する面とは反対側の面に層(II)を設けた構成とすることが耐熱性を向上させる観点から特に好ましい。
【0059】
本発明のフィルムに層(II)を設けるとき、その厚みは1μm以上10μm以下が好ましく、1μm以上7μm以下が電池の小型化の観点からより好ましい。
【0060】
本発明の一態様として、正極と、本発明のフィルムおよび負極を有するリチウムイオン電池等の二次電池や蓄電デバイスが挙げられる。ここで、フィルムが層(I)のみを有する場合、層(I)は耐久性の観点から負極に面して配することが好ましい。また、フィルムに層(I)と、層(I)とは異なる組成の層(II)を有する場合、電池の中でのフィルムの耐久性を向上させる観点から、層(II)を電池の正極側に向けて配することが好ましい。
【0061】
正極とは、活物質、バインダー樹脂、および導電助剤からなる正極材が集電体上に積層されたものである。活物質としては、LiCoO、LiNiO、Li(NiCoMn)O、などの層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物、LiMnなどのスピネル型マンガン酸化物、およびLiFePOなどの鉄系化合物などが挙げられる。バインダー樹脂としては、耐酸化性が高い樹脂を用いることができる。具体的にはフッ素樹脂、アクリル樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂などが挙げられる。導電助剤としては、カーボンブラック、黒鉛などの炭素材料が用いられている。集電体としては、金属箔が好適であり、特にアルミニウム箔が用いられることが多いがこれに限定されない。
【0062】
負極とは、活物質およびバインダー樹脂からなる負極材が集電体上に積層されたものである。活物質としては、人造黒鉛、天然黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどの炭素材料;スズやシリコンなどのリチウム合金系材料;Liなどの金属材料;およびチタン酸リチウム(LiTi12)などが挙げられる。負極のバインダー樹脂としては、フッ素樹脂、アクリル樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂などが用いられる。集電体としては、金属箔が好適であり、特に銅箔が用いられることが多いがこれに限定されない。
【0063】
二次電池がリチウムイオン電池である場合、正極と負極との間に、フィルムからなるセパレータと電解液が介在した構成をとる。この場合、電解液は二次電池の中で正極と負極との間でイオンを移動させる場となっている。電解液は、電解質を有機溶媒にて溶解させた構成をしている。電解質としては、LiPF、LiBF、およびLiClOなどが挙げられる。有機溶媒への溶解性、イオン電導度の観点からLiPFが好適に用いられている。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどが挙げられる。これらの有機溶媒を2種類以上混合して使用することもできる。
【0064】
以下に本発明の有機粒子およびフィルムの製造方法を具体的に説明する。なお、フィルムに用いる多孔質基材にはオレフィン多孔膜 ”SETELA”(登録商標)(東レ(株)製、融点135℃、厚み9μm、透気抵抗60s/100ml)を用いた例を説明するが、多孔質基材はこれに限定されるものではない。有機粒子の原料として前述の樹脂特性を有するポリオレフィン樹脂のチップまたは樹脂パウダー、既に微粒子化されている粒子等を準備する。有機粒子の原料がチップまたは樹脂パウダーの場合は粒子化の加工を施し、層(I)の厚みを保持する観点から回折法によって得られる体積基準の粒子径が0.1~5μm、より好ましく、0.1~3μmになるまでを粉砕・分級等の処理を行う。有機粒子の微粒子の製造方法としては、貧溶媒晶析法(可溶な有機溶媒に溶解させたのち、貧溶媒を混合して晶析させ粒子を得る方法)や溶融分散法(有機粒子の原料を溶融状態で分散媒に会合させた後攪拌し冷却して粒子状にする方法)や、乾式粉砕法(有機粒子の原料となる樹脂を乾燥状態で物理粉砕して粒子状にする方法)で作成した有機粒子を溶媒に分散させて用いる方法、湿式粉砕法(有機粒子の原料となる樹脂を溶媒と混合した後に物理粉砕して粒子状にする方法)等が挙げられるがこれに限定されない。これらの方法で得られた粒子を任意の溶媒に分散させ分散体とする。有機粒子の分散体の分散媒として用いられる溶媒としては、水あるいはメタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド等の有機溶剤が挙げられるがこれに限定されない。中でも環境負荷低減を考慮すると、水または水とアルコールとの混合液を分散媒として用いることが好ましい。有機粒子を溶媒に分散させる具体的な方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波装置、ペイントシェーカーなどが挙げられるがこれに限定されない。また、粒子化の手法は上記のような手法を単独で用いてもよいし、複数の手法を組み合わせて段階的に処理をしてもよい。また、市販されている上記有機粒子の分散体がある場合はそれを用いても構わない。有機粒子の分散体の固形分濃度は、分散体中の有機粒子の分散性を維持できる観点から5~60質量%が好ましく、10~50質量%であることがより好ましい。なお、固形分とは、分散体中における溶媒以外の成分のことを言う。
【0065】
フィルムに含まれる層(I)を形成する塗剤としては、上記の手法を用いて作製した有機粒子の分散体を有機粒子の固形分濃度が5~30質量%になるように、前述するバインダーを固形分濃度として0.05~5質量%になるように配合する。塗剤が水系の場合は、さらに濡れ改良剤としてイソプロピルアルコールを塗剤の全組成を100質量%としたときに5~15質量%、残りはイオン交換水を全組成で100質量%になるように配合し4時間攪拌して調製することが好ましい。塗剤には、必要に応じて、無機粒子、造膜助剤、分散剤、増粘剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等を添加してもよい。この時、塗剤の固形分濃度は塗工・乾燥性を安定化させる観点から5~40質量%、より好ましくは10~35質量%とすることが好ましい。また、塗工性を安定化させる観点から、音叉振動型粘度計(エー・アンド・デイ社製、SV-100)で25℃/65%RHで測定した塗剤の溶液粘度は30~150mPa・s、50~120mPa・sであることがより好ましい。
【0066】
上記のように調製した塗剤を任意の塗布方法により多孔質基材上に塗布する。塗剤を塗布する方法としては一般に行われるどのような方法を用いてもよい。例えばディップコーティング、グラビアコーティング、スリットダイコーティング、ナイフコーティング、コンマコーティング、キスコーティング、ロールコーティング、バーコーティング、吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷などの塗布方法を用いることができる。
【0067】
上記の方法を用いて塗剤を多孔質基材上に塗布した後に、多孔質基材の収縮・変形を抑制する観点から40~100℃、より好ましくは50~80℃で1分間乾燥させて、1~10μm、より好ましくは1~7μmの厚みの層(I)を形成する。
【0068】
本発明のフィルムは、優れた安全性を有していることから水素電池、空気電池、燃料電池、リチウムイオン等の二次電池等の蓄電デバイス、コンデンサ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等に好適に用いることができる。中でも、蓄電デバイス、特にリチウムイオン二次電池用のセパレータ等に好適に用いることができる。また、本発明のフィルムを二次電池用のセパレータに用いた二次電池は、その特性を活かして優れた安全性を有する。
【実施例0069】
(1)有機粒子の特性
a)組成
有機粒子が粉体の場合はそのままFT-IR(パーキンエルマー製、Frontier GOLD)にて透過法で積算回数128回にて赤外分光スペクトルを採取し、サンプルの樹脂種の同定を行った。有機粒子が分散体の場合は5mlをアルミ皿に分取し、40℃に加熱したホットプレート上で乾燥し、固形分を取り出した後サンプルとし、上記と同様の手法で組成の同定を行った。
【0070】
b)軟化開始温度
(1)のa)のサンプルについて動的粘弾性測定装置(Anton Paar社製102M)を用いて、下記の測定条件にて昇温速度10℃/minにて25℃から150℃までの複素粘度を測定し、得られた温度分散曲線から複素粘度が低下に転じる温度を軟化開始点として読み取った。測定はn=3で行い、測定値の平均値をそのサンプルの軟化開始温度とした。
使用プレート φ11.98mm
ギャップ 1mm
掃引速度 10℃/min
歪 1%。
【0071】
c)複素粘度
(1)のa)のサンプルについて、(1)のb)で用いた装置と条件で複素粘度を測定し、得られた温度分散曲線から80℃および120℃における複素粘度(Pa・s)を読み取った。測定はn=3で行い、測定値の平均値をそのサンプルの80℃および120℃の複素粘度とした。
【0072】
d)粒子径(D50、D10、D90)
有機粒子の粉体を準備する。粒子を精製水と混合し、透過率が90%前後になるように分散液を調整し、これをレーザー光回折散乱粒度分布測定装置(マイクロトラックMT3000、日機装製)をもちいて、レーザー光波長780nm、測定温度25℃の条件にて、測定前に超音波処理を4分間行なったのちJIS Z8825-1:2001に準じて測定し、サンプルの粒度分布より、累積分布の10%、50%、90%数値の粒子径(D10、D50、D90)を求めた。
【0073】
e)接着性
高密度ポリエチレン(PE)フィルム TPES-4520(TRUSCO(株)、厚み10μm)を準備する。固形分として有機粒子20質量%、カルボキシメチルセルロース(ダイセルミライズ(株)製、高分子量タイプ)0.2質量%、イソプロピルアルコール9質量%およびイオン交換水70.8質量%を混合し、1時間攪拌して塗剤とし、PEフィルムの片面に塗工した後、熱風オーブンにて50℃で1分間乾燥し、4μmの厚みで接着層を形成する。片面に接着層を形成したPEフィルムを横30mm×縦50mmのサイズにサンプリングする。また塗工を施していないPEフィルムを同サイズに切り出し、塗工した接着層が中央に来るように重ね合わせてサンプルとする。ハンドシーラー((株)タマキ製、HY-3)のシールバーの表面温度が120℃になるように設定し、サンプルの先端部分の横30mm×縦15mmのみを15秒でヒートシールする。ヒートシールしたサンプルの張合わせをしていない部分を、万能試験機(オリエンテック社製、AMF/RTA-100、インストロンタイプ)のチャックに挟み25℃でチャック間距離10mm、引張速度20mm/分で180°ピール剥離評価を実施した。評価はn=5で実施し、その平均値を下記基準で評価した。
【0074】
A:剥離強度が5N/mm以上
B:剥離強度が2N/mm以上5N/mm未満
C:剥離強度が2N/mm未満。
【0075】
f)欠点
e)で作製した有機粒子を塗工したサンプルから任意の箇所を150mm×150mmで切り出し、表面を目視で観察し、表面の凹凸による欠点の個数を数え、下記基準にて評価した。
A:欠点なし
B:欠点数が1個以上4個以下
C:欠点数が5個以上。
【0076】
g)ハンドリング性
未加熱のフィルムのハンドリング性を評価するため、e)で作製した有機粒子を塗工したサンプルと塗工を施していないPEフィルムをそれぞれ30mm×50mmのサイズで切りし、塗工面を中央にして重ねる。重ねたサンプルを25℃0.5MPaの押圧の下で3分間加圧した後に手での剥離可否を測定し、下記基準にて評価した。
【0077】
A:剥離できない(未加熱状態でフィルム同士が強く粘着)
B:剥離可能(未加熱状態でフィルム同士は粘着しない)。
【0078】
(2)フィルムの特性
a)フィルムの構成層および各層の厚み
フィルムを任意の方向に5mm×5mmのサイズに切り出し、走査型電子顕微鏡用の試料台に固定する。このサンプルを、スパッタリング装置を用いて減圧度10-3Torr、電圧0.25KV、電流12.5mAの条件にて10分間、イオンエッチング処理を施して断面を切削した後、同装置にて該表面に金スパッタを施し、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JSM6700F型)を用いて倍率3,000倍にて観察し、フィルムの層構成を確認した。同断面についてエネルギー分散型X線分析(EDX)にて有機粒子が含有される層の同定と各層の組成分析を行った。多孔質基材および基材に積層された各層の厚みを画像処理にて計測した。サンプルは任意の場所の合計10箇所を選定し、10サンプルの計測値の平均をそのサンプルの多孔質基材厚みおよび多孔質フィルムを構成する各層の厚みとした。
【0079】
b)有機粒子等構成成分・多孔質基材の組成分析
i.有機粒子等構成成分
A4サイズにカットしたフィルムを水100mlに浸漬し、約1時間、超音波洗浄機にかけ、多孔質基材の表面に積層された塗工層を抽出する。この操作を新たなサンプルで5回繰り返し約500mlの抽出液を採取する。この抽出液を40℃に加熱しながら20mlになるまで濃縮する。この濃縮液にイソプロピルアルコール30mlを加えて攪拌した後、遠心分離機(工機ホールディング(株)製、CR21GIII)を用いて5000rpmで15分処理し、塗工層を構成する成分を比重差にて分離する。比重差にて分離した各成分についてマイクロピペットを用いて採取した後、各々を乾燥させる。乾燥後の各サンプルを走査型電子顕微鏡用の試料台に固定した後、a)と同様にしてEDX分析を行い、各成分の組成分析を行った。炭素を主成分とするサンプルについては、続いてFT-IR(パーキンエルマー製、Frontier GOLD)にて透過法で積算回数128回にて赤外分光スペクトルを採取し、サンプルの樹脂種の同定を行った。
【0080】
ii.多孔質基材
i.で洗浄後に残った多孔質基材の表面から水をふき取り、FT-IR(パーキンエルマー製、Frontier GOLD)を用いて、ATR法で積算回数128回にて多孔質基材の表面の赤外分光スペクトルを採取し、樹脂種を同定した。(1)のa)にて多孔質基材が複数の層で形成されていることが判明した場合は、同評価にて測定した厚みを超えない範囲でマイクロプレーンにて表層を削り取り、各層を露出させたのち上記と同様の手法にて樹脂種の同定を行った。
【0081】
c)120℃、10分の熱処理
外寸140mm×140mm、内寸100mm×100mm、厚み2mmのSUS製の金枠を準備する。この金枠の4辺すべてに日東電工(株)製の両面テープ(No.501F)を添付し、フィルムを金枠にたるみなく貼り付けた後、熱風オーブンを用いて120℃に昇温完了した後10分加熱する。加熱後のフィルムを、熱風オーブンから取り出して冷却した後、金枠の内寸に沿って切り出してサンプルとする。
【0082】
d)透気抵抗
未処理のフィルムの任意の箇所で100mm×100mmサイズの試料を切り出し、25℃の環境下でn=5で透気抵抗(s/100ml)を評価しG25とした。また、(2)のc)で得た120℃で熱処理したサンプルについても同様にして25℃の環境下でn=5で評価を行い、120℃熱処理後のサンプルの透気抵抗(s/100ml)を求めた。
【0083】
e)厚み保持率(ΔT)
無孔のフィルムとしてPETフィルム “ルミラー S10”(登録商標)(東レ(株)製、厚み10μm)を準備し、固形分として有機粒子20質量%、カルボキシメチルセルロース(ダイセルミライズ(株)製、高分子量タイプ)0.2質量%、イソプロピルアルコール9質量%およびイオン交換水70.8質量%を混合し、1時間攪拌して塗剤とし、PETフィルムの片面に塗工した後、熱風オーブンにて50℃で1分間乾燥し、2μmの厚みで層(I)を形成する。このサンプルを外寸140mm×140mm、内寸100mm×100mm、厚み2mmのSUS製の金枠を準備する。この金枠の4辺すべてに日東電工(株)製の両面テープ(No.501F)を添付し、フィルムを金枠にたるみなく貼り付けた後、熱風オーブンを用いて120℃に昇温完了した後10分加熱する。また同様にPETフィルムを金枠に貼り付けて同条件にて加熱する。加熱後に冷却したサンプルを金枠より取り外して、サンプルの任意の箇所5点の膜厚を接触厚み計 株式会社ミツトヨ製ライトマチックVL-50(10.5mmφ超硬球面測定子、測定荷重0.01N)により測定し、その平均値を算出し、塗工していないPETフィルムの厚みをT0-bace、層(I)を形成したフィルムの厚みをT0-120とし、[T0-120-T0-bace]より層(I)が加熱・溶融した際に形成される膜の厚みの最大値を求めた。続いてフィルムに用いられている多孔質基材と、上記と同様にして調整した塗剤を用いて形成した有機粒子を含む層(I)を有するフィルムを準備し、上記と同様の条件にて120℃で熱処理を行った後に厚みを測定し、熱処理後の多孔質基材の厚みをTP-bace、120℃で処理したフィルムの厚みをTP-120とし、[TP-120―TP-bace]より多孔質基材に層(I)を形成した際に表層に留まった樹脂層の厚みを算出した。上記の値を下記式に挿入し、厚み保持率を算出した。
ΔT(%)={(TP-120―TP-bace)/(T0-120-T0-bace)}×100
0-120:無孔のフィルムの120℃熱処理後の厚み
0-bace:層(I)をコーティングした無孔のフィルムの120℃熱処理後の厚み
P-120:層(I)を有するフィルムの120℃熱処理後の厚み
P-bace:多孔質基材の120℃熱処理後の厚み
f)フィルムの突刺強度(N/10μm)
突刺強度は、試験速度を2mm/秒としたことを除いて、JIS Z 1707(2019)に準拠して測定した。フォースゲージ(株式会社イマダ製 DS2-20N)を用いて、先端が球面(曲率半径R:0.5mm)の直径1.0mmの針で、フィルムを25℃の雰囲気下で測定した突刺強度(N)を計測し、下記式から膜厚10μmで換算したフィルムの突刺強度(N/10μm)を算出した。
【0084】
フィルムの突刺強度(N/10μm)=突刺強度/フィルムの厚み(μm)×10(μm)。
【0085】
g)130℃/1時間の熱収縮率(%)
フィルムの任意の方向に5cm×5cmの正方形のサンプルを切り出した。切り出したサンプルの一つの辺とこれに垂直なもう一つの片の長さを計測し、2方向の長さの平均を算出し、未処理時のサンプル長さL(b)[cm]とした。次に、槽内温度を130℃としたオーブン内へサンプルを投入して加熱した。投入から1時間後にこれを取り出した後、上記と同様に2方向の辺の長さを測定して平均を算出し、加熱後のサンプル長さL(a)[cm]とした。L(a)およびL(b)を下記式に挿入し130℃で1時間熱処理した際の熱収縮率を算出した。また本測定はサンプル面内の任意の3箇所で行い、その平均値を130℃、1時間後の熱収縮率(%)とした。
【0086】
熱収縮率(%)=100×(L(b)-L(a))/L(b)。
【0087】
h)シャットダウン性(電気抵抗)
未処理のフィルムおよび(2)のc)で得た120℃で熱処理したサンプルについて任意の箇所から直径22mmの円盤状のサンプルに打ち抜き、24時間電解液に浸漬した後、取り出してサンプルとした。また0.1mm厚みのSUS板を16mmの円形に打ち抜いた。窒素置換されたグローブボックス内でSUS板/セパレータ/SUS板の順番に重ねてHSセル(宝泉株式会社製)に格納し電解液を注入した後、ネジで締め付け密封した。電解液としては、EC(エチレンカーボネート)とDEC(ジエチルカーボネート)を1:1体積比で混合したものを溶媒とし、これに溶質としてLiBを1mol/L溶解させたものを用いた。このセルの端子をインピーダンス測定システム(Princeton Applied Research社製 製品名「VersaSTAT-4」)に接続し、電圧振幅10mV、周波数1MHz~10kHzの電圧を印加することによって、交流インピーダンス(kΩ)を測定した。そして、得られた交流インピーダンスの実部をX軸に、虚部をY軸とするグラフにプロットしてCole-Coleプロットを採取し、このプロットとX軸との交点における実部の値(kΩ)を、用いたSUS板の面積(cm)で除して、セパレータとして用いたサンプルの電気抵抗値(kΩ/cm)を算出した。評価はn=5で行いその平均値を、そのサンプルの電気抵抗を下記基準で評価した。
【0088】
[未処理]
A:0.050kΩ/cm以下
B:0.050kΩ/cmよりも大きい
[120℃熱処理後]
A:1.0KΩ/cm以上
B:0.5KΩ/cm以上1.0kΩ/cm未満
C:0.5KΩ/cm未満。
【0089】
i)短絡
フィルムをセパレータとして用いた場合の短絡耐性の評価は、卓上型精密万能試験機オートグラフAGS-X(株式会社 島津製作所製)を用いて実施した。ポリプロピレン製絶縁体(厚み0.2μm)/負極(リチウムイオン電池用(銅箔(厚み約0.9μm)、活物質:人造黒鉛(粒径約13μm))/セパレータ/500μm径のクロム球(材質:クロム(SUJ-2))/アルミ箔をこの順に積層し、サンプル積層体を作製した。サンプル積層体のアルミニウム箔と負極をコンデンサとクラッド抵抗器からなる回路にケーブルでつないだ。コンデンサを約1.5Vに充電し、サンプル積層体中のセパレータとアルミニウム箔の間に直径約500μmの金属球(材質:クロム(SUJ-2))を置いた。その後、サンプル積層体を0.3mm/minの条件でプレスし、電池がショートするまでの変移量で耐異物性評価を行った。圧縮荷重変化において、もれ電流値が上がり始めた点を開始点、金属球を介して短絡回路が形成され電流が検知された瞬間を短絡点とし、それぞれの点における変位量を測定した。高い変移量でもショートしないサンプルほど耐異物性が良好であり、変移量と耐異物性の関係は下記2段階とした。電池の高エネルギー密度化・高容量化が進むためAが好ましい。
A: 変移(mm)/セパレータ厚み(μm)が0.025より大きい
B: 変移(mm)/セパレータ厚み(μm)が0.025以下。
【0090】
(実施例1)
径30mmのタービン型攪拌羽根を備えた内径50mm、高さ110mmのジャケット付き内容積20Lの耐圧オートクレーブ中に、表1の原料A1.8kgと、水4.02kgとポリオキシエチレン脂肪酸アミド(エチレンオキシド15モル付加物)0.18kgを仕込み密閉した。次に、ジャケット部に加熱油を循環することにより、オートクレーブ内部を150℃まで昇温した。攪拌機を始動し、内温を150℃に保ちながら、毎分250回転で30分間攪拌した後、内容物を50℃まで冷却し、オートクレーブより取り出し樹脂AからなるD50が0.8μmの有機粒子Aを含む水分散体を得た。この分散体10mlをアルミ皿に分取し、40℃に加熱したホットプレート上で乾燥し、固形分を取り出し、有機粒子Aの粉体を得た。この有機粒子Aを用いて、複素粘度、軟化点温度、粒子径の測定を実施した。また、この有機粒子Aを含む分散体を、固形分濃度が20質量%となるまで濃縮し、このエマルジョン15g、カルボキシメチルセルロース(ダイセルミライズ(株)製、高分子量タイプ)0.04g、イソプロピルアルコール1.8gおよびイオン交換水3.16gを混合し、1時間攪拌して塗剤を調整した。高密度ポリエチレン(PE)フィルム TPES-4520(TRUSCO(株)、厚み10μm)を基材として準備し、バーコーターを用いて前記塗剤を片面に塗布し、50℃で1分間乾燥させて、塗工厚みが4μmの接着層が積層されたフィルムを得た。
【0091】
(実施例2)
表1の原料Bを用いて、攪拌回転数を200回転にした以外は実施例1と同様にして固形分濃度が20質量%の原料BからなるD50が0.8μmの有機粒子B-1を含む水分散体を得た。この分散体を用いた以外は実施例1と同様にして評価および塗剤を調整した後、フィルムに塗工し塗工厚みが4μmの接着層が積層されたフィルムを得た。
【0092】
(実施例3)
表1の原料Bを用いて、攪拌回転数を100回転にした以外は実施例1と同様にして固形分濃度が20質量%の原料BからなるD50が0.8μmの有機粒子B-2を含む水分散体を得た。この分散体を用いた以外は実施例1と同様にして評価および塗剤を調整した後、フィルムに塗工し塗工厚みが4μmの接着層が積層されたフィルムを得た。
【0093】
(実施例4)
表1の原料Bを用いて、オートクレーブ内部を160℃・攪拌回転数を350回転にした以外は実施例1と同様にして固形分濃度が20質量%の原料BからなるD50が0.8μmの有機粒子B-3を含むの水分散体を得た。この分散体を用いた以外は実施例1と同様にして評価および塗剤を調整した後、フィルムに塗工し塗工厚みが4μmの接着層が積層されたフィルムを得た。
【0094】
(実施例5)
表1の原料Cを用いて、攪拌回転数を150回転にした以外は実施例1と同様にして固形分濃度が20質量%の原料CからなるD50が0.8μmの有機粒子Cを含む水分散体を得た。この分散体を用いた以外は実施例1と同様にして評価および塗剤を調整した後、フィルムに塗工し塗工厚みが4μmの接着層が積層されたフィルムを得た。
【0095】
(比較例1)
PE水性エマルジョン(ユニチカ(株)製、平均粒子径0.2μm、固形分濃度20質量%)を用いた以外は実施例1と同様にして塗剤を調合し、フィルムに塗工し塗工厚みが4μmの接着層が積層されたフィルムを得た。
【0096】
(比較例2)
表1の原料Dを用いて、オートクレーブ内部を170℃・攪拌回転数を350回転にした以外は実施例1と同様にして固形分濃度が20質量%の原料DからなるD50が0.8μmの有機粒子Dを含む水分散体を得た。この分散体を用いた以外は実施例1と同様にして評価および塗剤を調整した後、フィルムに塗工し塗工厚みが4μmの接着層が積層されたフィルムを得た。
【0097】
(比較例3)
表1の原料Eを用いて、攪拌回転数を100回転にした以外は実施例1と同様にして固形分濃度が20質量%の原料EからなるD50が0.8μmの有機粒子Eを含む水分散体を得た。この分散体を用いた以外は実施例1と同様にして評価および塗剤を調整した後、フィルムに塗工し塗工厚みが4μmの接着層が積層されたフィルムを得た。
【0098】
(比較例4)
表1の原料Fを用いて、オートクレーブ内部を170℃・攪拌回転数を350回転にした以外は実施例1と同様にして固形分濃度が20質量%の原料FからなるD50が2.5μmの有機粒子Fを含む水分散体を得た。この分散体を用いた以外は実施例1と同様にして評価および塗剤を調整した後、フィルムに塗工し塗工厚みが4μmの接着層が積層されたフィルムを得た。
【0099】
(実施例6)
ポリオレフィン微多孔膜 ”SETELA”(登録商標)(東レ(株)製、原料:ポリエチレン、融点135℃、厚み9μm、透気抵抗60s/100ml)を多孔質基材として用い、該多孔質基材に、実施例1で調整した有機粒子Aを含む水分散体を配合した塗剤を、バーコーターを用いて塗布し、50℃で1分間乾燥させて、片面に塗工厚みが2μmのAからなる有機粒子を含む層(I)が積層されたフィルムを得た。
【0100】
(実施例7)
実施例2で調整した有機粒子B-1を含む水分散体を配合した塗剤を用いた以外は実施例6と同様にし、片面に塗工厚みが2μmのB-1からなる有機粒子を含む層(I)が積層されたフィルムを得た。
【0101】
(実施例8)
固形分濃度20質量%の有機粒子B-1を含むの水分散体7.5g、カルボキシメチルセルロース(ダイセルミライズ(株)製、高分子量タイプ)0.04g、イソプロピルアルコール1.8g、無機粒子としてアルミナ(日本軽金属製、平均粒径0.5μm)7.5g、レベリング剤(3M社製、フッ素含有タイプ)0.009g、およびイオン交換水3.16gを混合したのち4時間攪拌して塗剤とした。ポリオレフィン微多孔膜 ”SETELA”(登録商標)(東レ(株)製、原料:ポリエチレン、融点135℃、厚み9μm、透気抵抗60s/100ml)を多孔質基材として用い、該多孔質基材に調整した塗剤を、バーコーターを用いて塗布し、50℃で1分間乾燥させて、片面に塗工厚みが4μmのB-1からなる有機粒子と無機粒子を含む層(I)が積層されたフィルムを得た。
【0102】
(実施例9)
実施例7と同様にして片面に有機粒子B-1を含む層(I)が積層されたフィルムを作製した。その後、レベリング剤(3M社製、フッ素含有タイプ)0.05質量%、カルボキシメチルセルロース(ダイセルミライズ(株)製、高分子量タイプ)0.2質量%、無機粒子としてアルミナ(日本軽金属製、平均粒径0.5μm)20質量%、イソプロピルアルコール10質量%およびイオン交換水69.75質量%を混合し、層(II)を形成するための塗剤を調製した。フィルムの層(I)が形成された面とは反対側の面に、バーコーター用いて層(II)を形成するための塗剤を塗布し、50℃で1分間乾燥させて、片面に塗工厚みが2μmのB-1からなる有機粒子を含む層(I)と、もう一方の面に塗工厚みが2μmの無機粒子からなる層(II)が積層されたフィルムを得た。
【0103】
(実施例10)
Mwが15×10の超高分子量ポリエチレン20質量部に流動パラフィン80質量部を加え、さらに0.4質量部の2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールと0.7質量部のテトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタンを酸化防止剤として加えて混合し、ポリエチレン樹脂溶液を調製した。得られたポリエチレン樹脂溶液を二軸押出機に投入し、180℃で混練し、ポリエチレン溶液を調製した。得られたポリエチレン溶液をTダイに供給し、押出物を35℃に制御された冷却ロールで冷却してゲル状シートを形成した。得られたゲル状シートを延伸温度105℃で5×5倍にテンター方式で同時二軸延伸を行った。延伸後の膜を塩化メチレンの洗浄槽内にて洗浄し、流動パラフィンを除去した。洗浄した膜を乾燥し、ロール延伸方式で100℃の温度で1.6倍に再縦延伸した後、テンター方式で139℃の温度で延伸倍率1.5倍に再横延伸を行い、超高分子量ポリエチレンからなる厚み9μmのポリオレフィン微多孔膜を得た。このポリオレフィン微多孔膜を多孔質基材として用い、該多孔質基材に、実施例7と同様にして片面に塗工厚みが2μmのB-1からなる粒子を含む層(I)が積層されたフィルムを得た。
【0104】
(実施例11)
実施例5で調整した有機粒子Cを含む水分散体を配合した塗剤を用いた以外は実施例6と同様にし、片面に塗工厚みが2μmのCからなる粒子を含む層(I)が積層されたフィルムを得た。
【0105】
(実施例12)
表1の原料Gを用いて、攪拌回転数を200回転にした以外は実施例1と同様にして固形分濃度が20質量%の原料GからなるD50が0.8μmの有機粒子Gを含む水分散体を得た。この分散体を用いた以外は実施例6と同様にし、片面に塗工厚みが2μmのGからなる粒子を含む層(I)が積層されたフィルムを得た。
【0106】
(比較例5)
比較例1で調整したPE水性エマルジョン(ユニチカ(株)製、平均粒子径0.2μm、固形分濃度20質量%)を含む塗剤を用いた以外は実施例6と同様にし、片面に塗工厚みが2μmの層(I)が積層されたフィルムを得た。
【0107】
(比較例6)
比較例2で調整した有機粒子Dを含む水分散体を配合した塗剤を用いた以外は実施例6と同様にし、片面に塗工厚みが2μmのDからなる有機粒子を含む層(I)が積層されたフィルムを得た。
【0108】
(比較例7)
比較例3で調整した有機粒子Eを含む水分散体を配合した塗剤を用いた以外は実施例6と同様にし、片面に塗工厚みが2μmのEからなる有機粒子を含む層(I)が積層されたフィルムを得た。
【0109】
(比較例8)
比較例4で調整した有機粒子Fを含む水分散体を配向した塗剤を用いた以外は実施例6と同様にし、片面に塗工厚みが2μmのFからなる有機粒子を含む層(I)が積層されたフィルムを得た。
【0110】
実施例1~12、比較例2~4、6~8で用いた有機粒子用の原料の詳細を表1に示す。
【0111】
実施例1~12、比較例1~8で採取したフィルムについての評価結果を表2および3に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
図1