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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128362
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】圧電基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/853 20230101AFI20240913BHJP
   H10N 30/077 20230101ALI20240913BHJP
   H10N 30/06 20230101ALI20240913BHJP
   H10N 30/87 20230101ALI20240913BHJP
   H10N 30/082 20230101ALI20240913BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/077
H10N30/06
H10N30/87
H10N30/082
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037304
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】永野 大介
(57)【要約】
【課題】反り量を低減することができる圧電体基板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の圧電基板の製造方法は、基板上に第1電極を成膜する第1成膜工程と、前記第1成膜工程後、前記第1電極上に、カリウムとナトリウムとニオブとを含む圧電体膜の一部を形成する第2成膜工程と、前記第2成膜工程後、前記圧電体膜の一部を除去する加工工程と、前記加工工程後、カリウムとナトリウムとニオブとを含む圧電体膜の一部を形成する第3成膜工程と、を有し、前記基板は、応力緩和領域を有し、前記加工工程において、前記応力緩和領域に対応する前記圧電体膜を除去する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第1電極を成膜する第1成膜工程と、
前記第1成膜工程後、前記第1電極上に、カリウムとナトリウムとニオブとを含む圧電体膜の一部を形成する第2成膜工程と、
前記第2成膜工程後、前記圧電体膜の一部を除去する加工工程と、
前記加工工程後、カリウムとナトリウムとニオブとを含む圧電体膜の一部を形成する第3成膜工程と、
を有し、
前記基板は、応力緩和領域を有し、
前記加工工程において、前記応力緩和領域に対応する前記圧電体膜を除去する、圧電基板の製造方法。
【請求項2】
前記第1成膜工程と前記第2成膜工程との間に、
前記第1電極上にシード層を成膜する第2成膜工程
を有する、請求項1に記載の圧電基板の製造方法。
【請求項3】
前記加工工程において、前記圧電体膜は、前記圧電体膜上にレーザを照射することで除去される、請求項1に記載の圧電基板の製造方法。
【請求項4】
前記加工工程において、前記圧電体膜は、エッチング処理によって除去される、請求項1に記載の圧電基板の製造方法。
【請求項5】
前記第2成膜工程は、
前記第1電極上に前駆体溶液を塗布して圧電体膜を成膜する塗布工程と、
圧電体膜を乾燥する乾燥工程と、
圧電体膜を脱脂する脱脂工程と、
圧電体膜を焼成する焼成工程と、
を備える、請求項1に記載の圧電基板の製造方法。
【請求項6】
前記第2成膜工程は、
前記第1電極上に前駆体溶液を塗布して圧電体膜を成膜する塗布工程と、
圧電体膜を乾燥する乾燥工程と、
圧電体膜を脱脂する脱脂工程と、
を備え、
前記加工工程後に、
圧電体膜を焼成する焼成工程を備える、請求項1に記載の圧電基板の製造方法。
【請求項7】
前記第2成膜工程は、
前記第1電極上に前駆体溶液を塗布して圧電体膜を成膜する塗布工程と、
圧電体膜を乾燥する乾燥工程と、
を備え
前記加工工程後に、
圧電体膜を脱脂する脱脂工程と、圧電体膜を焼成する焼成工程と、を備える、請求項1に記載の圧電基板の製造方法。
【請求項8】
前記第2成膜工程は、
前記第1電極上に前駆体溶液を塗布して圧電体膜を成膜する塗布工程と、
圧電体膜を乾燥する乾燥工程と、
圧電体膜を脱脂する脱脂工程と、
圧電体膜を焼成する焼成工程と、
を、順に繰り返し実施する積層工程を備え、
前記積層工程のうち、最後の焼成工程を実施しない、請求項1に記載の圧電基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電基板は、一般に、基板と、電気機械変換特性を有する圧電体層と、圧電体層を挟持する2つの電極層と、を有している。このような圧電基板を駆動源として用いたデバイス(圧電素子応用デバイス)の開発が、近年、盛んに行われている。圧電素子応用デバイスの一つとして、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッド、圧電MEMS素子に代表されるMEMS要素、超音波センサ等に代表される超音波測定装置、更には、圧電アクチュエーター装置等がある。
【0003】
圧電基板の圧電体層の材料(圧電材料)として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が知られている。しかし近年は、環境負荷低減の観点から、鉛の含有量を抑えた非鉛系の圧電材料の開発が進められている。
【0004】
特許文献1には、シリコン基板上に、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウム薄膜がスパッタリング法を用いて成膜され、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウム薄膜の内部応力が1.6GPa以下とされた圧電性薄膜素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-29591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
圧電基板は、材料の異なる基板、電極層、および圧電体層が積層されて製造される。そのため、熱処理等による温度変化が生じると、それぞれの熱膨張係数の違いから、熱応力によって圧電基板全体の反りが発生する問題があった。また、反り量が大きくなると、圧電基板、特に圧電体層にクラックが発生したり、基板と圧電体層との間で層間剥離が発生したりするなどの問題が生じるおそれがあった。
【0007】
このような問題に対し、特許文献1では、成膜条件を制御することで圧電体層内の内部応力を低減し、熱応力による圧電基板の反り量を低減することが開示されている。しかし、シリコン基板(ウェハ)の直径が大きくなると、同じ直径であっても基板の反り量が大きくなり、結果、パターニング用マスクの位置ずれが生じたり、製造装置がウェハを十分に把持できない場合が生じたりと、生産性が劣化するおそれがあった。
【0008】
このような事情から、熱応力による基板全体の反り量を低減することが可能な圧電基板が求められている。
【0009】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載された圧電アクチュエーターに用いられる圧電基板に限定されず、他の圧電素子応用デバイスに用いられる圧電基板においても同様に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様によれば、基板上に第1電極を成膜する第1成膜工程と、前記第1成膜工程後、前記第1電極上に、カリウムとナトリウムとニオブとを含む圧電体膜の一部を形成する第2成膜工程と、前記第2成膜工程後、前記圧電体膜の一部を除去する加工工程と、前記加工工程後、カリウムとナトリウムとニオブとを含む圧電体膜の一部を形成する第3成膜工程と、を有し、前記基板は、応力緩和領域を有し、前記加工工程において、前記応力緩和領域に対応する前記圧電体膜を除去する、圧電素子の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態の圧電基板の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図2】第1実施形態の圧電基板の製造工程を模式的に示す断面図である。
図3】第1実施形態の圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図である。
図4】第1実施形態の圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図である。
図5】第1実施形態の圧電基板の製造方法により製造された圧電基板の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明は、本発明の一態様を示すものであって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更可能である。なお、各図面において同じ符号を付したものは同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。参照符号を構成する文字の後の数字は、同じ文字を含んだ参照符号によって参照され、且つ同様の構成を有する要素同士を区別するために使用される。同じ文字を含んだ参照符号で示される要素を相互に区別する必要がない場合、これらの要素はそれぞれ文字のみを含んだ参照符号により参照される。
【0013】
各図面においてX,Y及びZは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向を、それぞれ第1の方向X(X方向)、第2の方向Y(Y方向)及び第3の方向Z(Z方向)とし、各図の矢印の向かう方向を正(+)方向、矢印の反対方向を負(-)方向として説明する。X方向及びY方向は、板、層及び膜の面内方向を表し、Z方向は、板、層及び膜の厚さ方向又は積層方向を表す。
【0014】
また、各図面において示す構成要素、即ち、各部の形状や大きさ、板、層及び膜の厚さ、相対的な位置関係、繰り返し単位等は、本発明を説明する上で誇張して示されている場合がある。更に、本明細書の「上」という用語は、構成要素の位置関係が「直上」であることを限定するものではない。例えば、後述する「基板上の第1電極」や「第1電極上の圧電体層」という表現は、基板と第1電極との間や、第1電極と圧電体層との間に、他の構成要素を含むものを除外しない。
【0015】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係る圧電基板の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
<圧電素子の製造方法>
図1は、圧電基板100の製造方法を説明するためのフローチャートである。図1図4は、圧電基板100の製造工程を模式的に示す断面図である。なお、以下では、圧電体膜20を化学溶液法(湿式法)により製造する場合について説明しているが、圧電体膜20の製法としては湿式法に限定されず、例えば気相法であっても構わない。なお、気相法で圧電体膜20を成膜した場合、圧電基板100の反りの向きは、上に凸となる場合がある。つまり、溶液法と気相法とでは、圧電基板100の反りの向きが異なる場合があるが、それ以外の構成は同じであり、その作用や効果も同様である。
【0017】
図2に示すように、まず基板2を準備する(基板準備工程;ステップS1)。
基板2は、例えば、半導体、絶縁体などで形成された平板である。基板2は、単層であっても、複数の層が積層された積層体であってもよい。基板2は、上面が平面的な形状であれば内部の構造は限定されず、内部に空間などが形成された構造であってもよい。
【0018】
基板2は、可撓性を有し、上記のように、圧電体膜20の動作によって変形する振動板を含んでいてもよい。振動板は、例えば、酸化シリコン層、酸化チタニウム層、酸化ジルコニウム層、または酸化シリコン層上に酸化ジルコニウム層が設けられた積層体、または酸化シリコン層上に酸化チタニウム層と酸化ジルコニウム層が設けられた積層体などである。
【0019】
基板2は、デバイスとして機能する領域である能動部領域(第1領域)R1と、能動部領域R1以外の領域である応力緩和領域(第2領域)R2を有する。応力緩和領域R2は、圧電体膜20の配向性および結晶性を低下させるための領域であり、デバイスとして機能しない領域である。つまり、応力緩和領域R2は、圧電基板100を所望のデバイスチップサイズに分割する際に切断するラインと略一致した部分に設けられる。応力緩和領域R2は、後述する、圧電体膜20a一部が除去された領域に対応する。
【0020】
次に、基板2上に第1電極10を成膜する(第1成膜工程;ステップS2)。
第1電極10は、例えば、スパッタ法や真空蒸着法などによって形成される。第1電極10の形状は、例えば、層状である。第1電極10の厚さは、例えば、20nm以上200nm以下である。第1電極10は、例えば、白金層、イリジウム層、ルテニウム層などの金属層、それらの導電性酸化物層、ニッケル酸ランタン(LaNiO:LNO)層、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO:SRO)層などである。第1電極10は、これらの層を複数積層した構造を有していてもよい。
【0021】
基板2と第1電極10との間にチタン層などの密着層(不図示)を設けてもよい。密着層は、例えば、酸化チタン(TiO)、チタン(Ti)、SiN等からなり、圧電体層20と基板2との密着性を向上させる機能を有する。また、酸化チタン(TiO)層、チタン(Ti)層、又は窒化シリコン(SiN)層を密着層として用いた場合、密着層は、後述する圧電体膜20を形成する際に、圧電体膜20の構成元素(例えば、カリウム及びナトリウムなど)が第1電極10を透過して基板2に到達するのを抑制ストッパーとしての機能も有する。なお、密着層は省略可能である。
【0022】
第1電極10は、圧電体膜20に電圧を印加するための一方の電極としての機能を有する。第1電極10は、圧電体膜20の下に設けられた下部電極である。第1電極10は、個別電極であってもよいし、共通電極であってもよい。
【0023】
次に、図2に示すように、圧電体膜20の一部を形成する(第2成膜工程;ステップS5)。なお、以下、説明の便宜上、第2成膜工程において形成する圧電体膜20の一部を「圧電体膜20a」と称し、後述する第3成膜工程で形成する圧電体膜20の一部を「圧電体膜20b」と称して説明する。
【0024】
圧電体膜20は、例えば、圧電体膜20aおよび圧電体膜20bを複数層形成することにより得られる。圧電体膜20は、これら複数層の圧電体膜20a、20bによって構成される。
第2成膜工程においては、圧電体膜20aは、例えば、金属錯体を含む溶液(前駆体溶液)を塗布乾燥し、更に焼成することで金属酸化物を得る化学溶液法(湿式法)により形成することができる。その他、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、パルス・レーザー・デポジション法(PLD法)、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、エアロゾル・デポジション法等によっても形成することができる。本実施形態では、圧電体層20aの結晶配向性を向上させる観点から、湿式法(液相法)を用いることが好ましい。
【0025】
ここで、湿式法とは、MOD法やゾル-ゲル法等の化学溶液法等により成膜する方法であり、スパッタリング法等の気相法と区別される概念である。本実施形態では、湿式法以外に、気相法を用いてもよい。
【0026】
例えば、湿式法(液相法)によって実施される第2成膜工程は、
<1>第1電極上に前駆体溶液を塗布して前駆体膜20a(圧電体膜20a)を成膜する工程(塗布工程)、
<2>前駆体膜20aを乾燥する工程(乾燥工程)、
<3>乾燥した前駆体膜20aを加熱して脱脂する工程(脱脂工程)、及び、
<4>脱脂した前駆体膜20aを焼成する工程(焼成工程)
までの一連の工程によって実施できる。即ち、圧電体膜20aは、塗布工程から焼成工程までの一連の工程を複数回繰り返すことによって形成される。なお、上述した一連の工程において、塗布工程から脱脂工程までを複数回繰り返した後に、焼成工程を実施してもよい。
【0027】
本実施形態の第2成膜工程は、塗布工程~焼成工程までの各工程を組み合わせた様々なパターンを取り得る。具体的な組み合わせ例は、後に説明する。
【0028】
圧電体膜20aを湿式法(液相法)で形成する場合の具体的な手順は、例えば次のとおりである。
【0029】
まず、所定の金属錯体を含む前駆体溶液を調整する。前駆体溶液は、焼成によりK、Na及びNbを含む複合酸化物を形成しうる金属錯体を、有機溶媒に溶解又は分散させたものである。このとき、Mn、Li、Cu等の添加物を含む金属錯体を更に混合してもよい。前駆体溶液にMn、LiまたはCuを含む金属錯体を混合させることで、得られる圧電体層20の絶縁性をより高めることができる。
【0030】
カリウム(K)を含む金属錯体としては、2-エチルヘキサン酸カリウム、酢酸カリウム等が挙げられる。ナトリウム(Na)を含む金属錯体としては、2-エチルヘキサン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。ニオブ(Nb)を含む金属錯体としては、2-エチルヘキサン酸ニオブ、ペンタエトキシニオブ等が挙げられる。添加物としてMnを加える場合、Mnを含む金属錯体としては、2-エチルヘキサン酸マンガン等が挙げられる。添加物としてLiを加える場合、Liを含む金属錯体としては、2-エチルヘキサン酸リチウム等が挙げられる。このとき、2種以上の金属錯体を併用してもよい。例えば、カリウム(K)を含む金属錯体として、2-エチルへキサン酸カリウムと酢酸カリウムとを併用してもよい。溶媒としては、2-nブトキシエタノール若しくはn-オクタン又はこれらの混合溶媒等が挙げられる。前駆体溶液は、K、Na、Nbを含む金属錯体の分散を安定化する添加剤を含んでもよい。このような添加剤としては、2-エチルヘキサン酸等が挙げられる。
【0031】
そして、第1電極10上に、上記の前駆体溶液を塗布して、前駆体膜(圧電体膜)20aを形成する(塗布工程)。
次いで、この前駆体膜を所定温度、例えば150℃~300℃程度に加熱して、1~5分乾燥させる(乾燥工程)。
【0032】
次に、乾燥させた前駆体膜を所定温度、例えば300℃~500℃に加熱し、この温度で1~5分保持することによって脱脂する(脱脂工程)。
【0033】
最後に、脱脂した前駆体膜を高い温度、例えば500℃~900℃程度に加熱し、この温度で一定時間保持することによって結晶化させる。これにより、圧電体膜20aが完成する(焼成工程)。
【0034】
焼成工程での加熱温度は、圧電体層20の密度を高め、結晶方向性を向上させる観点から、高い方が好ましい。具体的には500~900℃とすることが好ましい。より好ましくは、700℃以上である、一方、焼成工程の加熱温度が過度に高いとアルカリ金属が第1電極へ拡散することで、組成が変化して結晶方向性が低下するおそれがある。そのため、加熱温度は750℃以下とすることが好ましい。焼成時間は1~5分が好ましい。
【0035】
乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTA(Rapid Thermal Annealing)装置やホットプレート等が挙げられる。
【0036】
上記の工程を1回もしくは複数回繰り返すことで、単層もしくは複数層の圧電体膜20aが形成される。一連の上記工程の繰り返しの数は、特に限定されない。各工程の取り得る組み合わせパターンについては後述する。
【0037】
圧電体膜20aは、一般式ABOで示されるペロブスカイト構造の複合酸化物であることが好ましく、下記式(1)で表される、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN系複合酸化物;(K,Na)NbO)からなる圧電材料を含むことがより好ましい。
【0038】
(K,Na1-X)NbO ・・・ (1)
(0.1≦X≦0.9)
【0039】
上記式(1)で表される複合酸化物は、いわゆるKNN系の複合酸化物である。KNN系の複合酸化物は、鉛(Pb)等の含有量を抑えた非鉛系圧電材料であるため、生体適合性に優れ、また環境負荷も少ない。しかも、KNN系の複合酸化物は、非鉛系圧電材料の中でも圧電特性に優れているため、各種の特性向上に有利である。
【0040】
圧電体膜20aは、前述のペロブスカイト構造の複合酸化物を構成する元素(例えば、ニオブ、カリウム、カルシウム、および酸素)以外の添加物を含んでもよい。すなわち、圧電体層20は、例えば、添加物が添加されたKNN層であってもよい。このような添加物としては、例えば、マンガン(Mn)が挙げられる。
【0041】
また、圧電体膜20aは、例えば、鉛(Pb)を含んでいない。圧電体膜20aが鉛を含んでいないことは、例えば、XRF(X‐RayFluorescence)測定によって確認することができる。
【0042】
次に、図3に示すように、第2成膜工程にて形成した圧電体膜20aの一部を除去(加工工程;ステップS4)する。
第2成膜工程にて形成した圧電体膜20aのうち、応力緩和領域R2に対応する圧電体膜20aを除去する。これにより、圧電体膜20aに生じる応力は変わらないが、基板面内の反りは応力緩和領域で分断され、基板平面視において基板の外周上の任意の1点とその対向位置における点を結ぶ直線における膜厚方向から見た場合の反りは、曲率半径を算出する際の中心位置が異なる複数の曲線を連結したものになる。これにより、基板全体として反り量を小さくできる。また、これにより、その上にさらに成膜する圧電体膜20bの配向性および結晶性を低下させることがあるが、圧電体膜20aが除去された領域は、デバイスとして機能しない領域とするため、圧電体膜20aを除去する領域は、圧電基板100を所望のデバイスチップサイズに分割する際に切断するラインと略一致した部分とし、デバイスとして機能する領域の圧電体膜20aは残存させる。なお、図3では、応力緩和領域R2に対応する圧電体膜20aの全てを除去した場合を示しているが、本実施形態はこれに限らず、応力緩和領域R2に対応する圧電体膜20aの一部が残存していてもよい。
【0043】
圧電体膜20aは、圧電体膜20a上にレーザを照射することで除去されてもよい。具体的には、レーザ光によるアブレーション加工を採用するとよい。レーザ照射の条件は特に限定されないが、レーザ光によるアブレーション加工を実施する場合は、レーザ光の種類は膜に過剰な熱エネルギーを与えられるものであればよく、IR~UVの波長範囲で、パルス光でもコンティニュアスでもいずれでもよい。加工工程をレーザ照射により実施する場合は、レジストのマスクなどを形成することなく、任意の形状において、応力緩和領域R2を形成することができる。
【0044】
圧電体膜20aは、エッチング処理によって除去されてもよい。エッチング処理はレーザ加工に比べ工程数が多いため生産性が劣る場合もあるが、レーザ加工よりも量産性に優れるため、適宜選択してよい。
【0045】
圧電体膜20aを除去する際の加工幅(レーザ照射の場合には照射痕の幅)は、特に限定されないが、応力緩和領域R2がデバイスとして機能しない領域となることを考慮すると、加工幅が過度に大きいことは好ましくない。また、加工幅が過度に狭い場合、圧電体層20の配向性および結晶性を低下させるための領域として十分に機能しないおそれもある。したがって、圧電体膜20aを除去する際の加工幅は1~100μmとすることが好ましい。
【0046】
次に、図4に示すように、圧電体膜20a上に、圧電体膜20bをさらに成膜する(第3成膜工程;ステップS5)。
圧電体膜20bは、圧電体膜20aと同様に、複層構成であってもよい。圧電体膜20bは、圧電体膜20aと同様に、湿式法により形成することができる。その他、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、パルス・レーザー・デポジション法(PLD法)、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、エアロゾル・デポジション法等によっても形成することができる。本実施形態では、圧電体膜20bの結晶配向性を向上させる観点から、湿式法(液相法)を用いることが好ましい。なお、圧電体膜20aの成膜法と圧電体膜20bの成膜法は同じでもよく、異なってもよい。
【0047】
本実施形態の製造方法では、圧電体層20a上に圧電体膜20bを形成する前後、および圧電体膜20上に第2電極(上部電極)を形成する前後で、必要に応じて600℃~800℃の温度域で再加熱処理(ポストアニール)を行ってもよい。第2電極形成後にポストアニールを行うことで、圧電体膜20bと第2電極との良好な界面を形成することができる。また、圧電体膜を気相法で形成した場合に、第2電極形成前にポストアニールを行うことで、圧電体層20の結晶性を改善したり、酸素欠陥を低減したりすることができ、圧電体層20の絶縁性をより高めることができる。
【0048】
以上の工程により、図4に示すように、第1電極10上に圧電体膜20aおよび圧電体膜20bからなる圧電体層20を形成することができる。圧電体層20の厚さは、例えば、100nm以上3000nm以下である。圧電体層20は、第1電極10と上部電極である第2電極(不図示)との間に電圧が印加されることにより、変形することができる。なお、応力緩和領域R2に対応する圧電体膜20bは除去されてもよい。
【0049】
本実施形態の製造方法では、第1電極10上にシード層11を成膜した上で圧電体膜20aを形成してもよい。その場合、シード層11は、例えば、スパッタ法や真空蒸着法などによって形成できる。シード層11の材質としては、ビスマス、鉄、チタン、鉛を含む化合物、リチウムおよびニオブの酸化物(LiNbO)、亜鉛酸化物(ZnO)、KNbO、NaNbO、LaNiO、SrRuO、SrTiO、TiO、Zn、Tiが挙げられるが、中でも、ビスマス、鉄、チタン、鉛を含む化合物が好ましい。
【0050】
次に、第2成膜工程における、塗布工程~焼成工程までの各工程の好適な組み合わせパターンについて説明する。
【0051】
[パターン1]
<1>第1電極上に前駆体溶液を塗布して圧電体膜20aを成膜する工程(塗布工程)、
<2>圧電体膜20aを乾燥する工程(乾燥工程)、
<3>乾燥した圧電体膜20aを加熱して脱脂する工程(脱脂工程)、及び、
<4>脱脂した圧電体膜20aを焼成する工程(焼成工程)
までの一連の工程を順に実施し、圧電体膜20aを形成する。その後、加工工程を実施し、圧電体膜20aの一部を除去する。
【0052】
なお、パターン1において、塗布工程~焼成工程までの一連の工程を1回実施するごとに加工工程を実施(つまり圧電体膜20aを除去)してもよいし、一連の工程を5回程度実施した後に、加工工程を実施してもよい。ただし、一連の工程を複数回繰り返した後に圧電体膜20aを除去する場合、繰り返し回数は、除去前に圧電体膜20a中にクラックが入らない回数で設定される。
【0053】
[パターン2]
<1>第1電極上に前駆体溶液を塗布してを成膜する工程(塗布工程)、
<2>圧電体膜20aを乾燥する工程(乾燥工程)、及び
<3>乾燥した圧電体膜20aを加熱して脱脂する工程(脱脂工程)、
までの一連の工程を順に実施し、その後、加工工程を実施して圧電体膜20aの一部を除去してから、
<4>残存している圧電体膜20aを焼成する工程(焼成工程)
を実施する。
【0054】
[パターン3]
<1>第1電極上に前駆体溶液を塗布してを成膜する工程(塗布工程)、及び
<2>圧電体膜20aを乾燥する工程(乾燥工程)、
までの一連の工程を順に実施し、その後、加工工程を実施して圧電体膜20aの一部を除去してから、
<3>残存している圧電体膜20aを加熱して脱脂する工程(脱脂工程)、
<4>圧電体膜20aを焼成する工程(焼成工程)
を実施する。
【0055】
[パターン4]
<1>第1電極上に前駆体溶液を塗布して圧電体膜20aを成膜する工程(塗布工程)、
<2>圧電体膜20aを乾燥する工程(乾燥工程)、
<3>乾燥した圧電体膜20aを加熱して脱脂する工程(脱脂工程)、及び、
<4>脱脂した圧電体膜20aを焼成する工程(焼成工程)
までの一連の工程を順に繰り返し実施する積層工程を実施して圧電体膜20aを形成する。ただし、一連の工程を順に繰り返し実施する中で、最後の焼成工程を実施しないことを特徴とする。
その後、加工工程を実施し、焼成工程が施されなかった圧電体膜20aのみを除去する。
【0056】
以上、第2成膜工程の各工程の組み合わせ例として、パターン1~4を説明したが、好ましくはパターン2で実施する。すなわち、圧電膜20aの一部を除去する加工工程は、脱脂工程後且つ、焼成工程前で実施されることが好ましい。
【0057】
脱脂工程前の段階では、圧電体膜20a内に樹脂成分が含有している。そのため、応力緩和領域R2の圧電体膜20aをレーザ加工によって除去しようとした場合、膜を除去するために必要な時間と熱量が大きくなってしまう。また、応力緩和領域R2の圧電体膜20aを除去しようとした場合、スパッタが発生しやすくなり、応力緩和領域R2の圧電体膜20aの表面にスパッタが残ってしまうおそれがある。これらのことから、加工工程は、脱脂工程後に実施することが好ましい。
【0058】
一方、焼成工程後では、圧電体膜20a内の金属元素が結晶構造を形成している。その為、応力緩和領域R2の圧電体膜20aをレーザ加工によって除去しようとした場合、膜を除去するために必要な時間と熱量が大きくなる(金属同士の結合状態を一度切り離すために多くの熱エネルギーが必要となるため)。膜を除去するために必要な時間と熱量が大きくなると、応力緩和領域R1以外の圧電体膜20aに対しても熱影響が大きくなり、焼成工程で形成された結晶構造が変化するおそれがある。その為、焼成工程前に除去工程を実施することが好ましい。
【0059】
本実施形態の製造方法では、応力緩和領域R2に対応する圧電体膜20aを除去しているため、圧電体膜20aに生じる応力は変わらないが、基板面内の反りは応力緩和領域で分断され、基板平面視において基板の外周上の任意の1点とその対向位置における点を結ぶ直線における膜厚方向から見た場合の反りは、曲率半径を算出する際の中心位置が異なる複数の曲線を連結したものになる。これにより、基板全体として反り量を小さくできる。また、その上方に成膜する圧電体膜20bは結晶性や配向性の低下した領域となることがある。このような領域が、デバイスの分割ラインと略同位置かつ略同形状で存在すると、低配向領域20A以外の領域、すなわち能動部領域(第1領域)R1での応力に変化はなくとも、低配向領域20Aにおいて応力が分断されることになるため、圧電基板100全体での変形量を小さくでき、結果、反り量を低減できる。また、パターン4のように、応力緩和領域R2に対応する圧電体膜20aの一部を残存させた場合、その状況に圧電体膜20bを成膜すると、能動部領域R1よりもクラックが生じやすくなる。このようなクラックが多く入った領域は、その領域全体を平均的に見た場合のヤング率が、クラックのない領域に比べて小さいと言えるため、ウェハのハンドリング時の外力に対しても能動部領域R1ではなく応力緩和領域R1が大きく変形することになり、結果として、能動部領域R1でのクラックを抑制できる。
【0060】
以降の工程は、必要に応じて適宜実施してよく、例えば、圧電体層20上に第2電極(上部電極)を成膜し、圧電体層20と第2電極とをパターニングしてもよい。第2電極は、例えば、スパッタ法や真空蒸着法などによって形成されてよい。
【0061】
また、上記では圧電体膜20aおよび圧電体膜20bの成膜方法として液相法を例示して説明したが、本実施形態では、気相法により各圧電体膜を成膜してもよい。
気相法では、液相法と異なり、真空チャンバー内において構成元素を堆積させるため、基本的に1サイクルで膜が形成される。そのため、加工工程を実施する場合には、膜を形成する真空チャンバー内または真空チャンバーに併設された第2真空チャンバー内において膜表面が大気暴露されることなくレーザ照射もしくはエッチング処理が実施されることが好ましい。
【0062】
以上の工程により、第1実施形態に係る圧電基板100を製造することができる。
【0063】
本実施形態の製造方法によって得られる圧電基板100は、図5に示すように、圧電基板100を断面視した場合、能動部領域R1および応力緩和領域R2ともに基板2側に湾曲(下に凸)しており、基板2は、複数の曲率中心を有していると言える。
【0064】
能動部領域R1および応力緩和領域R2のそれぞれの反りの状態は異なっていてもよい。例えば、能動部領域R1の曲率半径は応力緩和領域R2の曲率半径に比べて小さい。このように、圧電基板100全体にわたって1つの曲率を有するのではなく、能動部領域R1、応力緩和領域R2のそれぞれで曲率を有することで、圧電体層20の残留応力を分断でき、圧電基板100全体の反り量を低減することができる。
【0065】
なお、第1実施形態に係る圧電基板100では、第1成膜工程の後に第2成膜工程を実行したが、第2実施形態として、第1成膜工程と第2成膜工程との間において、第1電極10をパターニングしてもよい。すなわち、第2実施形態の圧電基板100は、第1電極10を個別電極として設ける。第1電極10を個別電極とすることで、第2電極20を共通電極とすることができる。これにより、圧電体層20を第2電極20が覆う構成となる為、圧電体層20を覆う保護膜の形成を簡略化できる。
【0066】
なお、本実施形態に係る圧電基板100は、液体吐出ヘッドおよびプリンターに好適に用いることができるが、これらに限らず、広範囲な用途に用いることができる。圧電基板100は、例えば、超音波モーター、振動式ダスト除去装置、圧電トランス、圧電スピーカー、圧電ポンプ、圧力-電気変換機器などの圧電アクチュエーターとして好適に用いられる。また、圧電基板100は、例えば、超音波検出器、角速度センサー、加速度センサー、振動センサー、傾きセンサー、圧力センサー、衝突センサー、人感センサー、赤外線センサー、テラヘルツセンサー、熱検知センサー、焦電センサー、圧電センサーなどの圧電方式のセンサー素子として好適に用いられる。また、圧電基板100は、強誘電体メモリー(FeRAM)、強誘電体トランジスター(FeFET)、強誘電体演算回路(FeLogic)、強誘電体キャパシターなどの強誘電体素子として好適に用いられる。また、圧電基板100は、波長変換器、光導波路、光路変調器、屈折率制御素子、電子シャッター機構などの電圧制御型の光学素子として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0067】
2…基板、10…第1電極、20,20a,20b…圧電体膜、100…圧電基板、R1…能動部領域(第1領域)、R2…応力緩和領域(第2領域)
図1
図2
図3
図4
図5