(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128373
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】電圧印加用カテーテルシステム
(51)【国際特許分類】
A61N 1/39 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
A61N1/39
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037315
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木佐 俊哉
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ01
4C053JJ13
4C053JJ18
4C053JJ23
(57)【要約】
【課題】電極部がスイッチを介さずに心電計に接続されている電圧印加用カテーテルシステムであって、電源から電極部に電圧を印加しても、心電計に過電圧が印加されるのが抑制されて心電計の破損を防止でき、しかも電極から心電計へ送られる心電信号の減衰が抑制されて心内電位の測定精度を向上できる電圧印加用カテーテルシステムを提供する。
【解決手段】近位側から遠位側へ長手方向に延在しているカテーテルと、前記カテーテルの遠位部に配されている電極部と、スイッチを介して前記電極部に接続されている電源と、前記電極部および前記電源に接続されている心電計と、を有する電圧印加用カテーテルシステムであって、前記電極部は、前記心電計に過電圧が印加されるのを抑制する保護回路と、インピーダンス変換回路とを、この順で介して前記心電計と接続されており、該保護回路および該インピーダンス変換回路を介して前記電極部と前記心電計とを接続する経路には、スイッチが配されていない電圧印加用カテーテルシステム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近位側から遠位側へ長手方向に延在しているカテーテルと、
前記カテーテルの遠位部に配されている電極部と、
スイッチを介して前記電極部に接続されている電源と、
前記電極部および前記電源に接続されている心電計と、
を有する電圧印加用カテーテルシステムであって、
前記電極部は、前記心電計に過電圧が印加されるのを抑制する保護回路と、インピーダンス変換回路とを、この順で介して前記心電計と接続されており、該保護回路および該インピーダンス変換回路を介して前記電極部と前記心電計とを接続する経路には、スイッチが配されていない電圧印加用カテーテルシステム。
【請求項2】
前記保護回路は、制限電圧以上の電圧を放電する回路である請求項1に記載の電圧印加用カテーテルシステム。
【請求項3】
前記保護回路は、バリスタ、ダイオード、ガス放電管、およびサイリスタよりなる群から選ばれる1つを有する請求項1に記載の電圧印加用カテーテルシステム。
【請求項4】
前記保護回路は、バリスタであり、更に、少なくとも第1抵抗および第2抵抗を有しており、
前記第1抵抗および前記第2抵抗は直列に接続されており、
前記第1抵抗は、前記電極部側に、
前記第2抵抗は、前記インピーダンス変換回路側に配されており、
前記バリスタは、前記第1抵抗と前記第2抵抗を接続する経路に配されており、
前記第1抵抗の抵抗値R1が、前記第2抵抗の抵抗値R2より大きい請求項3に記載の電圧印加用カテーテルシステム。
【請求項5】
前記抵抗値R1が、前記抵抗値R2の10倍以上である請求項4に記載の電圧印加用カテーテルシステム。
【請求項6】
前記抵抗値R1が、1000Ω以上である請求項4に記載の電圧印加用カテーテルシステム。
【請求項7】
前記インピーダンス変換回路のインピーダンスが、前記保護回路のインピーダンスに対して、10倍以上である請求項1に記載の電圧印加用カテーテルシステム。
【請求項8】
前記インピーダンス変換回路が、オペアンプを用いたボルテージフォロア回路および/またはコレクタ接地回路である請求項1に記載の電圧印加用カテーテルシステム。
【請求項9】
前記インピーダンス変換回路と前記心電計とを接続する経路に、周波数フィルタが配されている請求項1に記載の電圧印加用カテーテルシステム。
【請求項10】
前記電源は、前記電極部に500V以上の電圧を印加するものである請求項1に記載の電圧印加用カテーテルシステム。
【請求項11】
前記電圧印加用カテーテルシステムは、心腔内除細動カテーテルシステムまたはアブレーションカテーテルシステムである請求項1に記載の電圧印加用カテーテルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内の所定の部位に電圧を印加するカテーテルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
心房細動や心室細動等の不整脈の治療では、心臓に電圧を印加し、電気的刺激を付与することで心臓のリズムを正常に戻す除細動が行われる。除細動には、自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator:AED)、植え込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator:ICD)、除細動パドル、心腔内除細動カテーテルシステムなどが用いられる。これらのうち心腔内除細動カテーテルシステムは、カテーテルの表面に設けられた電極に電圧を印加し、電極を通じて心臓に電気的刺激を直接付与する機器である。心腔内除細動カテーテルシステムによれば、電極により心内電位も測定できる。心腔内除細動カテーテルシステムは、自動体外式除細動器に比べて低エネルギーの電圧波形を用いることができるため、患者の負担が軽減され、さらには不整脈のカテーテル検査中や焼灼手術中にも使用できる。
【0003】
除細動カテーテルシステムについて、特許文献1には、遠近方向に延在しているカテーテルと、前記カテーテルと接続されており、印加電圧を発生させる電源部と、心内電位を測定する心電計と、を有する除細動カテーテルシステムであって、前記カテーテルの遠位側には、第1電極と、前記第1電極よりも近位側に配置されている第2電極と、が設けられており、前記電源部には、前記心内電位を測定する第1モードと、前記心内電位を測定しながら前記電圧を印加する第2モードと、に切り替える切替部が接続されており、前記第1電極および前記第2電極が、前記切替部を介して前記電源部に接続されており、前記第1電極および前記第2電極が、スイッチ部を介さずに前記心電計に接続されているシステムが開示されている。このシステムにより、除細動時であっても心内心電図測定時と同様に心内電位を測定できる。
【0004】
心臓に電圧を印加する機器としては、心腔内除細動カテーテルシステムの他に、アブレーションカテーテルシステムも挙げられる。アブレーションカテーテルシステムは、カテーテルの表面に設けられた電極に電圧を印加し、心臓内の病変を焼灼し治療する装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、心電計がスイッチ部を介さずに電極に接続されると、電源から電極部に電圧を印加したときに、印加した電圧の全てが電極部に印加されず、過電圧が心電計に流れ込み、心電計が破損するおそれがある。そのため、心電計の破損を防止するには、電源と心電計とを接続する経路に、心電計に過電圧が印加されるのを抑制する保護回路を配することが考えられる。しかし保護回路を配すると電極から心電計へ送られる心電信号が減衰し、心電計に充分な強度の心電信号が到達せず、心内電位の測定精度が低下することが考えられる。
【0007】
本発明は、このような事情に基づいて成されたものであり、その目的は、電極部がスイッチを介さずに心電計に接続されている電圧印加用カテーテルシステムであって、電源から電極部に電圧を印加しても、心電計に過電圧が印加されるのが抑制されて心電計の破損を防止でき、しかも電極から心電計へ送られる心電信号の減衰が抑制されて心内電位の測定精度を向上できる電圧印加用カテーテルシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、次の通りである。
[1] 近位側から遠位側へ長手方向に延在しているカテーテルと、前記カテーテルの遠位部に配されている電極部と、スイッチを介して前記電極部に接続されている電源と、前記電極部および前記電源に接続されている心電計と、を有する電圧印加用カテーテルシステムであって、前記電極部は、前記心電計に過電圧が印加されるのを抑制する保護回路と、インピーダンス変換回路とを、この順で介して前記心電計と接続されており、該保護回路および該インピーダンス変換回路を介して前記電極部と前記心電計とを接続する経路には、スイッチが配されていない電圧印加用カテーテルシステム。
[2] 前記保護回路は、制限電圧以上の電圧を放電する回路である[1]に記載の電圧印加用カテーテルシステム。
[3] 前記保護回路は、バリスタ、ダイオード、ガス放電管、およびサイリスタよりなる群から選ばれる1つを有する[1]または[2]に記載の電圧印加用カテーテルシステム。
[4] 前記保護回路は、バリスタであり、更に、少なくとも第1抵抗および第2抵抗を有しており、前記第1抵抗および前記第2抵抗は直列に接続されており、前記第1抵抗は、前記電極部側に、前記第2抵抗は、前記インピーダンス変換回路側に配されており、前記バリスタは、前記第1抵抗と前記第2抵抗を接続する経路に配されており、前記第1抵抗の抵抗値R1が、前記第2抵抗の抵抗値R2より大きい[3]に記載の電圧印加用カテーテルシステム。
[5] 前記抵抗値R1が、前記抵抗値R2の10倍以上である[4]に記載の電圧印加用カテーテルシステム。
[6] 前記抵抗値R1が、1000Ω以上である[4]または[5]に記載の電圧印加用カテーテルシステム。
[7] 前記インピーダンス変換回路のインピーダンスが、前記保護回路のインピーダンスに対して、10倍以上である[1]~[6]のいずれかに記載の電圧印加用カテーテルシステム。
[8] 前記インピーダンス変換回路が、オペアンプを用いたボルテージフォロア回路および/またはコレクタ接地回路である[1]~[7]のいずれかに記載の電圧印加用カテーテルシステム。
[9] 前記インピーダンス変換回路と前記心電計とを接続する経路に、周波数フィルタが配されている[1]~[8]のいずれかに記載の電圧印加用カテーテルシステム。
[10] 前記電源は、前記電極部に500V以上の電圧を印加するものである[1]~[9]のいずれかに記載の電圧印加用カテーテルシステム。
[11] 前記電圧印加用カテーテルシステムは、心腔内除細動カテーテルシステムまたはアブレーションカテーテルシステムである[1]~[10]のいずれかに記載の電圧印加用カテーテルシステム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電極部と心電計とを接続する経路に、スイッチが配されていない一方で、心電計に過電圧が印加されるのを抑制する保護回路と、インピーダンス変換回路が、この順で配されているため、電源から電極部に電圧を印加している間も心内電位の測定ができ、しかも心電計の破損を防止でき、心内電位の測定精度も向上できる電圧印加用カテーテルシステムを提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る電圧印加用カテーテルシステムを示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の他の実施形態に係る電圧印加用カテーテルシステムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、下記実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。明細書において、近位側とは使用者(術者)の手元側の方向を指し、遠位側とは近位側の反対方向(すなわち処置対象側の方向)を指す。各図面において、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図面を参照するものとする。図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴の理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0012】
本発明の実施形態に係る電圧印加用カテーテルシステムは、近位側から遠位側へ長手方向に延在しているカテーテルと、前記カテーテルの遠位部に配されている電極部と、スイッチを介して前記電極部に接続されている電源と、前記電極部および前記電源に接続されている心電計と、を有しており、前記電極部は、前記心電計に過電圧が印加されるのを抑制する保護回路と、インピーダンス変換回路とを、この順で介して前記心電計と接続されており、前記保護回路および前記インピーダンス変換回路を介して前記電極部と前記心電計とを接続する経路には、スイッチが配されていない。
【0013】
本発明の実施形態に係る電圧印加用カテーテルシステムによれば、電極部と心電計とを接続する経路に、スイッチが配されていないため、電源から電極部に電圧を印加している間も心内電位を測定できる。
【0014】
また、電極部と心電計とを接続する前記経路に、心電計に過電圧が印加されるのを抑制する保護回路が配されているため、電源から電極部に印加した電圧の一部が心電計に誤って流れることを防止でき、心電計の破損を防止できる。また、電源から電極部に電圧をロスなく印加できる。
【0015】
また、電極部と心電計とを接続する前記経路に、前記保護回路に加えて、インピーダンス変換回路が配されており、電極部と心電計は、保護回路とインピーダンス変換回路が、この順で介して接続されているため、電極部で検出された心電信号が保護回路を介して心電計へ送られる際に保護回路が抵抗となり心電信号が減衰しても、減衰した心電信号はインピーダンス変換回路で増幅されるため、電圧降下を防ぐことができ、心電計での心内電位の測定精度が向上する。
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る電圧印加用カテーテルシステムついて
図1、
図2を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電圧印加用カテーテルシステムを示す模式図である。
図2は、本発明の他の実施形態に係る電圧印加用カテーテルシステムを示す模式図である。
【0017】
図1に示した電圧印加用カテーテルシステム1は、近位側から遠位側へ長手方向に延在しているカテーテル2と、カテーテル2の遠位部に配されている電極部3と、電源4と、心電計5と、を有している。電源4は、スイッチ6を介して電極部3と接続されている。また、電源4は、前記スイッチ6、前記心電計5に過電圧が印加されるのを抑制する保護回路7、およびインピーダンス変換回路8を、この順で介して心電計5と接続されている。
【0018】
電極部3は、前記保護回路7および前記インピーダンス変換回路8を、この順で介して心電計5と接続されているが、前記電極部3と前記心電計5とを接続する経路には、スイッチが設けられていない。換言すれば、電極部3と心電計5を結ぶ電路の途中にスイッチは設けられない。スイッチは、電路を開閉したり、電流が流れる方向を切り替える部分である。電極部3から心電計5までの電路が開閉されないか、または電流が流れる方向が切り替えられないことにより、電極部3と心電計5は、常に接続されることになる。その結果、電源4から電極部3に電圧を印加している間も電極部3で心電信号を測定でき、測定した心電信号を心電計5へ出力できる。
【0019】
保護回路7は、例えば、心電計5に電源4または電極部3からの過電圧が印加されるのを抑制する回路であり、制限電圧以上の電圧を放電する回路であればよい。電圧印加用カテーテルシステム1が、心腔内除細動カテーテルシステムの場合、保護回路7は、例えば、300V以上の電圧を放電する回路であることが好ましい。電圧印加用カテーテルシステム1が、アブレーションカテーテルシステムの場合、保護回路7は、例えば、300V以上の電圧を放電する回路であることが好ましい。
【0020】
保護回路7の種類は特に限定されず、公知の保護回路を用いることができる。保護回路7としては、例えば、バリスタ、ダイオード、ガス放電管、およびサイリスタが挙げられ、これらからなる群から選ばれる1つを含むことが好ましい。
【0021】
保護回路7としてバリスタを用いた例について、
図2を用いて説明する。
図2において
図1と同一の箇所には同じ符号を付すことにより重複説明を避ける。保護回路7としてバリスタ71を用いる場合、更に、少なくとも第1抵抗7aを用い、第1抵抗7aは、電極部3側に配されており、バリスタ71は、第1抵抗7aとインピーダンス変換回路8を接続する経路に配されていていることが好ましい。バリスタ71の前段に高い抵抗値の第1抵抗7aを配置することで、グランド(GND)および心電計5に流入する電流を制限できる。
【0022】
保護回路7としてバリスタ71および第1抵抗7aを用いる場合、第1抵抗7aの抵抗値R1は、1000Ω(1kΩ)以上であることが好ましく、より好ましくは1500Ω(1.5kΩ)以上、更に好ましくは2000Ω(2kΩ)以上である。第1抵抗7aの抵抗値R1の上限は、例えば、16000Ω(16kΩ)以下が好ましく、より好ましくは14000Ω(14kΩ)以下、更に好ましくは12000Ω(12kΩ)以下である。
【0023】
保護回路7としてバリスタ71を用いる場合、
図2に示すように、更に、少なくとも第1抵抗7aおよび第2抵抗7bを用い、第1抵抗7aおよび第2抵抗7bは直列に接続されており、第1抵抗7aは、電極部3側に、第2抵抗7bは、インピーダンス変換回路8側に配されており、バリスタ71は、第1抵抗7aと第2抵抗7bを接続する経路に配されていることが好ましい。
【0024】
保護回路7として第1抵抗7aおよび第2抵抗7bを用いる場合、第1抵抗7aの抵抗値R1は、第2抵抗7bの抵抗値R2より小さいか、第1抵抗7aの抵抗値R1と第2抵抗7bの抵抗値R2が同じであってもよいが、第1抵抗7aの抵抗値R1は、第2抵抗7bの抵抗値R2より大きいことが好ましい。第1抵抗7aの抵抗値R1が、第2抵抗7bの抵抗値R2より大きいことにより、心電計5に過電圧が印加されるのを抑制できる。
【0025】
保護回路7として第1抵抗7aおよび第2抵抗7bを用い、第1抵抗7aの抵抗値R1が、第2抵抗7bの抵抗値R2より大きい場合、抵抗値R1は、例えば、抵抗値R2の10倍以上が好ましく、より好ましくは20倍以上、更に好ましくは30倍以上である。抵抗値R1は、抵抗値R2よりもできるだけ大きいことが好ましいが、抵抗値R1は、例えば、抵抗値R2の80倍以下であってもよい。
【0026】
インピーダンス変換回路8は、例えば、入力された信号を高いインピーダンスを有する回路で計測し、その電圧を低いインピーダンスを有する回路として出力する回路である。インピーダンス変換回路8は、保護回路7のインピーダンスよりも高いインピーダンスを有することが好ましい。これにより心内電位の測定精度を高めることができる。インピーダンス変換回路8のインピーダンスは、保護回路7のインピーダンスに対して10倍以上が好ましく、より好ましくは20倍以上、更に好ましくは30倍以上である。
【0027】
インピーダンス変換回路8の種類は特に限定されず、公知の回路を用いることができる。インピーダンス変換回路8としては、例えば、オペアンプを用いたボルテージフォロア回路および/またはコレクタ接地回路が挙げられる。これらの回路を用いることにより、入力された電圧が等倍で出力されるため、心電計5から見るとカテーテル2に直接接続された状態と同じ状態で使用できるため好ましい。コレクタ接地回路は、例えば、コレクタを共通線にして、ベースに入力信号を加え、エミッタから出力信号を取り出す回路である。インピーダンス変換回路8としてオペアンプを用いたボルテージフォロア回路を配した例を
図2に示す。
【0028】
インピーダンス変換回路8と心電計5とを接続する経路には、周波数フィルタが配されていることが好ましい。これによりノイズや欠陥のある周波数を除去できるため、心電計5における測定精度を一層向上できる。
【0029】
電源4は、例えば、電極部3に500V以上の電圧を印加できるものを用いることが好ましく、より好ましくは800V以上、更に好ましくは1000V以上である。これにより、例えば、心腔内除細動やアブレーションを確実に行うことができる。電源4は、例えば、電極部3に5000V以下の電圧を印加できるものを用いることが好ましく、より好ましくは4500V以下、更に好ましくは4000V以下である。
【0030】
電圧印加用カテーテルシステム1は、例えば、心腔内除細動カテーテルシステムまたはアブレーションカテーテルシステムとして用いることができる。心腔内除細動カテーテルやアブレーションカテーテルは、心腔内除細動を行う場合やアブレーションを行う場合は、例えば、5000V以上の電圧が電極に印加されるのに対し、電極で心内電位を測定する場合は、例えば、数mV程度の電圧が電極に印加される。このように電極には、電圧が大幅に異なる電流を同一回路に流される。こうしたカテーテルであっても電極部と心電計とを接続する経路に保護回路とインピーダンス変換回路とをこの順に配することにより、スイッチを配さなくても、電圧の印加と心内電位の測定を両立できる。
【0031】
次に、本発明の実施形態に係る電圧印加用カテーテルシステムで用いるカテーテルについて
図2を用いて説明する。カテーテル2としては、例えば、筒状に形成された樹脂チューブを用いることができる。樹脂チューブを構成する樹脂は、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、塩化ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂、天然ゴム等が挙げられる。これらの樹脂は1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。なかでも、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂が好適に用いられる。樹脂チューブは、例えば、押出成形によって製造できる。
【0032】
カテーテル2は、単層から構成されていてもよいし、複数層から構成されていてもよい。また、カテーテル2は、単層から構成されている部分と複数層から構成されている部分を有していてもよく、例えば、カテーテル2の長手方向または周方向の一部が単層から構成されており、他部が複数層から構成されていてもよい。
【0033】
カテーテル2は、内腔を有していることが好ましい。内腔の数は特に限定されず、1個でもよいし、2個以上でもよい。
【0034】
カテーテル2の遠位側には、電極部3が配されている。電極部3は、少なくとも一対の電極で構成されており、一方の電極を電極A、他方の電極を電極Bとしたとき、電極部3は、電極Aと、カテーテル2の長手方向に対して、該電極Aよりも近位側に配されている電極Bで構成されていることが好ましい。
【0035】
電極Aと電極Bを、カテーテル2の長手方向に対してずらして配置することにより、心房や心室または血管の内側面に、カテーテル2の全周が接触せず、一部が接触する場合でも、電極Aの少なくとも一部と電極Bの少なくとも一部が、心房や心室または血管の内側面に接触しやすくなるため、心内電位を測定しやすくなる。また、電極Aの少なくとも一部と電極Bの少なくとも一部が、心房や心室または血管の内側面に接触すれば、電源4から電極Aと電極Bに電圧を印加することによって、生体内の所定の部位に電圧を印加できる。電圧は、電極Aから生体を経て電極Bへ向かって、または電極Bから生体を経て電極Aへ向かって電流が流れるように印加される。
【0036】
カテーテル2が心腔内除細動カテーテルの場合、電極Aと電極Bを有するカテーテル2を心腔に挿入したとき、電極Aは、冠状静脈洞に対応する位置に配置されることが好ましく、電極Bは、右心房に対応する位置に配置されることが好ましい。このように電極Aと電極Bを配置することにより、心房細動を効率良く除去できる。
【0037】
電極Aと電極Bは、各々異なる極性の直流電圧が印加されることが好ましい。例えば、二相性の直流電圧を印加することにより、少ないエネルギーで除細動できる。
【0038】
電極Aの表面積と電極Bの表面積は、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。電極の表面積を同じとすることにより、心内電位の測定精度を高めることができる。
【0039】
カテーテル2の長手方向における電極Aの幅(電極Aが複数の場合は合計幅)と電極Bの幅(電極Bが複数の場合は合計幅)は、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。長手方向における電極の幅を同じとすることにより、心内電位の測定精度を高めることができる。各電極の幅は、例えば、0.5mm以上5mm以下が好ましい。
【0040】
電極Aは、正極であってもよいし、負極であってもよい。電極Aが正極の場合は、電極Bが負極であればよく、電極Aが負極の場合は、電極Bが正極であればよい。電極Aが正極であり、電極Bが負極であることが好ましい。
【0041】
電極Aと電極Bの数は、それぞれ1個でもよいが、
図2に示すように、電極A31は、複数の電極aで構成されており、電極B32は、複数の電極bで構成されていることが好ましい。複数の電極aと複数の電極bが配されていることにより、心内電位を様々な位置で測定できる。例えば、隣り合う電極a同士の電位差を測定することにより、各電極a間の心内電位を測定できる。電極bについても同様である。さらに、複数の電極aと複数の電極bが配されていることにより、電圧を広範囲に印加できる。
【0042】
複数の電極aには、それぞれ同じ極性(プラスまたはマイナス)の電圧が印加されることが好ましく、複数の電極bには、それぞれ同じ極性(マイナスまたはプラス)の電圧が印加されることが好ましい。
【0043】
カテーテル2が心腔内除細動カテーテルであり、二相性の直流電圧を印加する場合では、通電の前半は電極Aをマイナス、電極Bをプラスとし、右心房から冠状静脈洞側に向かって電流を流し、通電の後半は電極Aをプラス、電極Bをマイナスとして冠状静脈洞から右心房側に向かって電流を流すことができる。
【0044】
カテーテル2が心腔内除細動カテーテルであり、複数の電極aが配される場合、電極bは、最も近位側に配置される電極aよりも近位側に配されることが好ましい。このように電極aと電極bを配置することにより、効率よく除細動できる。
【0045】
複数の電極aと複数の電極bが配される場合、電極aの数と電極bの数はそれぞれ特に限定されず、異なっていてもよいし、同じであってもよく、同じであることが好ましい。これにより、複数の電極aの合計表面積と複数の電極bの合計表面積を容易に同じにすることができる。
【0046】
カテーテル2の遠位部に、同じ数の電極を均等に配置し、複数の電極aの合計表面積と複数の電極bの合計表面積を同じとすることにより、心内電位の測定精度を高めることができる。また、除細動やアブレーションを効率よく行うことができる。
【0047】
カテーテル2の遠位部に、複数の電極aと複数の電極bが配される場合、電極aと電極bの数は、それぞれ、例えば、6個以上が好ましく、より好ましくは8個以上であり、12個以下が好ましく、より好ましくは10個以下である。複数の電極aと複数の電極bが配される場合、カテーテル2の長手方向における各電極の幅は異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。各電極の幅は、例えば、0.5mm以上5mm以下が好ましい。複数の電極aと複数の電極bが配される場合、隣り合う電極の配置間隔、すなわち、一方の電極の遠位端と、一方の電極よりも遠位側に設けられる他方の電極の近位端との離間距離は、例えば、1mm以上10mm以下が好ましく、より好ましくは3mm以上8mm以下である。このように電極の幅や離間距離を設定することにより心内電位の測定精度を一層高めることができる。複数の電極aと複数の電極bが配される場合、カテーテル2の長手方向における各電極の幅が同じで、複数の電極aの合計表面積と複数の電極bの合計表面積が同じであることにより、心筋への接触条件を統一できる。なお、電極の幅は、長手方向における電極の長さを指す。
【0048】
各電極は、樹脂チューブの外周の半分以上の領域に存在していることが好ましく、リング状に、樹脂チューブの外周の全部を覆う領域に形成されていることがより好ましい。このように電極を形成することにより、心臓との接触面積が増大するため、心内電位の測定や電圧の印加を行いやすくなる。
【0049】
各電極は、導電材料を含有していることが好ましく、導電材料としては、例えば、白金やステンレス等が挙げられる。各電極は、導電材料のなかでも、X線不透過材料を含有していることがより好ましい。X線不透過材料としては、例えば、白金を含有していることが好ましい。X線不透過材料を含有することにより、X線透視下において電極の位置を把握しやすくなる。
【0050】
電極Aが、複数の電極aで構成されており、電極Bが、複数の電極bで構成されている場合、配線接続部を配することが好ましい。配線接続部では、複数の電極aの配線同士、および複数の電極bの配線同士をひとつにまとめ、短絡させることが好ましい。短絡させることにより、複数の電極に対して電圧を誤差なく印加できる。
【0051】
カテーテル2の遠位側には、電極部3の他に、更に電極が配されていることが好ましい。更に電極を設けることにより、電極部3以外の場所における心内電位を測定できる。
【0052】
電極部3と別に配される電極は、心電計5に接続されていることが好ましい。電極と心電計5は、スイッチや抵抗を介して接続されていてもよいが、スイッチおよび抵抗を介さずに接続されていることが好ましい。これにより、電極に電圧を印加している間も心内電位を測定できる。
【0053】
電極Aが、複数の電極aで構成されており、電極Bが、複数の電極bで構成されている場合、電源4には、電圧を印加する電極を選択する電極選択スイッチが接続されていることが好ましい。これにより、特定の電極にのみ電圧を印加できる。電極選択スイッチは、例えば、リレースイッチまたは半導体スイッチを用いることができる。半導体スイッチの素子としては、例えば、IGBT、MOSFET、サイリスタ、SiC半導体を用いた素子、GaN半導体を用いた素子が挙げられる。
【0054】
電源4には、例えば、スイッチの遮断時に発生する高電圧を吸収する保護回路が設けられていてもよい。これにより、各スイッチの破損を防ぐことができる。保護回路の種類は特に限定されず、公知の保護回路を用いることができ、上記保護回路7の説明が参照できる。
【0055】
電源4とスイッチ6との接続経路には、電源出力制御部が配されていることが好ましい。電源出力制御部では、電源4から入力された電圧をパルス電力として出力する。電源出力制御部で極性を切替えることにより、電極Aと電極Bの出力の極性を反転させることができる。
【0056】
電源出力制御部には、スイッチが設けられていることが好ましく、電源出力制御部に設けるスイッチは、スイッチ6に設けるスイッチよりも応答速度が大きいものを用いることが好ましい。電源出力制御部に設けるスイッチは、例えば、半導体スイッチを用いることが好ましい。
【0057】
電源4には、安全用のスイッチ(安全スイッチ)が設けられていていることが好ましい。これによりスイッチ6が故障したときなどに、意図せず患者に電圧が印加されることを防止できるフェールセーフ機能を電源4に持たせることができる。安全スイッチは、電源4とスイッチ6との接続経路に配されていることが好ましい。安全スイッチの数は特に限定されないが、複数の電極aに対して少なくとも1つ設けられており、複数の電極bに対して少なくとも1つ設けられていることが好ましい。安全スイッチは、例えば、リレースイッチまたは半導体スイッチを用いることができる。半導体スイッチの素子としては、例えば、IGBT、MOSFET、サイリスタ、SiC半導体を用いた素子、GaN半導体を用いた素子が挙げられる。安全スイッチは、単極単投形であってもよいし、多極単投形であってもよいが、多極単投形が好ましい。
【0058】
カテーテル2の遠位端部には、
図2に示すように、先端チップ21が設けられていることが好ましい。先端チップ21は、遠位側に向かって外径が小さくなっているテーパ部を有していることが好ましい。これにより、カテーテル2の体内腔への挿通性を向上させることができる。
【0059】
先端チップ21を構成する材料は、例えば、導電材料や高分子材料が挙げられる。特に、導電材料から構成されていていることにより、先端チップ21を電極として機能させることができる。先端チップ21の硬度は、カテーテル2の硬度よりも低くすることが好ましい。これにより、先端チップ21が体内腔に接触したときに、体内組織を保護できる。
【0060】
カテーテル2の近位側には、
図2に示すように、カテーテル2を作動させる際に使用者が把持するハンドル22が設けられていることが好ましい。ハンドル22の形状は特に制限されないが、樹脂チューブとハンドル22の接続箇所への応力集中を緩和するために、遠位側に向かって外径が小さくなる錐形状に形成されていることが好ましい。ハンドル22の大きさは、使用者が片手で把持するのに適していれば特に制限されない。ハンドル22の長さは、例えば、5cm以上20cm以下が好ましく、ハンドル22の最外径は、例えば、1cm以上5cm以下が好ましい。ハンドル22を構成する材料としては、例えば、ABSやポリカーボネート等の合成樹脂や、ポリウレタン発泡体等の発泡プラスチックを用いることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 電圧印加用カテーテルシステム
2 カテーテル
3 電極部
4 電源
5 心電計
6 スイッチ
7 保護回路
8 インピーダンス変換回路
7a 第1抵抗
7b 第2抵抗
21 先端チップ
22 ハンドル
31 電極A
32 電極B
71 バリスタ