(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128379
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】X線管
(51)【国際特許分類】
H01J 35/16 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
H01J35/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037323
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 誠
(57)【要約】 (修正有)
【課題】長寿命化を図ることができるX線管を提供する。
【解決手段】電子ビームを発生する陰極5と、電子ビームの照射によりX線を放射する陽極ターゲット9を有する陽極と、陰極5及び陽極を収納した真空外囲器3とを備えるX線管1であって、真空外囲器3は金属製であり、内面の一部に絶縁部材13が配置されている。これにより、陽極ターゲット9から反跳した電子eを、真空外囲器3の内表面に配置された絶縁部材13の表面に一時的に蓄えられることにより、真空外囲器3が局所的な発熱により融解し、真空リークが発生することを防止できるから、X線管の長寿命化を図ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発生する陰極と、
前記電子ビームの照射によりX線を放射する陽極ターゲットを有する陽極と、
前記陰極及び前記陽極を収納した真空外囲器と、を備え、
前記真空外囲器は金属製であり、内面の一部に絶縁部材が配置されているX線管。
【請求項2】
前記絶縁部材は、前記陽極ターゲットが前記電子ビームを受けたときに生じる反跳電子を受ける領域に配置されている請求項1に記載のX線管。
【請求項3】
前記陰極に対向する側から見た前記陽極ターゲットは円盤形状であり、
前記真空外囲器は、前記陽極ターゲットの外周側端面と対向する領域で且つ陰極側の領域に配置されている請求項1に記載のX線管。
【請求項4】
前記真空外囲器は鉄材製であり、前記絶縁材はCr2O3である請求項2又は3に記載のX線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
X線管は、陰極で発生させた電子を高速で陽極ターゲットに衝突させてX線を発生させる。一度ターゲットに衝突した電子の一部は、反跳電子として跳ね返り、真空外囲器の内面に再度衝突することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これに対して、真空外囲器が絶縁部材で形成されている場合には、真空外囲器の内面に金属膜を配置することで、反跳電子を金属膜の全面に拡散して、部分的に強く帯電するのを防止する技術が公知である。
しかし、真空外囲器が金属材でできている場合には、真空外囲器の内面に反跳電子が局所的に衝突した際に、電子が持っているエネルギーがそのまま熱に変わり、衝突した場所では局所的な発熱が生じるという問題があった。発熱の度合いによっては外囲器の材料が融解して真空リークが発生することがあり、X線管に必要な高真空が保てなくなり、これによりX線管の寿命が短くなるという問題点があった。
【0005】
実施形態が解決しようとする課題は、長寿命化を図ることができるX線管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態は、電子ビームを発生する陰極と、前記電子ビームの照射によりX線を放射する陽極ターゲットを有する陽極と、前記陰極及び前記陽極を収納した真空外囲器と、を備え、前記真空外囲器は金属製であり、内面の一部に絶縁部材が配置されているX線管である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1(a)は、
図2に示すA部の概略断面図であり、
図1(b)は、
図1(a)における反跳電子の作用を説明する図である。
【
図2】
図2は、第1実施の形態にかかるX線管の概略的構成を示した断面図である。
【
図3】
図3は、真空外囲器の内面に絶縁部材が配置されていない場合の反跳電子の作用を説明する比較例の図であって、
図1(a)に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、開示はあくまで一例に過ぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べて、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する詳細な説明を適宜省略することがある。
【0009】
図1及び
図2を参照して、第1実施形態に係るX線管1を説明する。
図2に示すように、X線管1は、真空外囲器3と、真空外囲器3内に設けて電子を放出する陰極5と、真空外囲器3内に設けて陰極5から放出された電子が衝突してX線を発生する陽極7とを備えている。このX線管1は回転陽極型X線管であり、陽極7は回転機構8により回転軸TAを回転軸として、陽極ターゲット9が回転される。陰極5は、陰極支持体6に支持されており、高電圧で生成される電子ビーム(電子)を陽極ターゲット9に向けて射出する。
【0010】
陽極ターゲット9は、電子ビームの照射によりX線を放射する。陽極ターゲット9は、陰極5側から見た形状が円盤形状を成している。
【0011】
真空外囲器3は、金属製であり、本実施形態では、SUS(ステンレス)等の鉄材製である。
図1(a)に示すように、真空外囲器3の内面には、陰極5側であって、陽極ターゲットの外周端面9aに対向する領域には、絶縁部材13が塗布により配置されている。この実施形態では、絶縁部材13を塗布する領域は、陽極ターゲット9の外周端面9aに対向する部分3aから、この部分3aと、陽極ターゲット9において陰極5と反対側の面9bと対向する真空外囲器3の部分3bとが成すコーナー部分3cまでの領域としてある。
絶縁部材13が塗布される領域は、陽極ターゲット9が陰極5から電子ビームを受けたときに生じる反跳電子eを受ける領域でもある。
【0012】
絶縁部材13としては、酸化クロム(Cr2O3)や窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)が好ましく用いられる。III価の酸化クロム(Cr2O3)は、電荷移動型絶縁材であることから、特に好ましく用いられる。
【0013】
本実施形態に係るX線管1の作用効果について、説明する。
【0014】
図1(b)に示すように、陽極ターゲット9が回転されており、陰極5から電子ビームを高速で陽極ターゲット9に衝突させて、陽極ターゲット9からX線が放射される。
【0015】
一度陽極ターゲット9に衝突した電子の一部は、反跳電子eとして跳ね返り、陽極ターゲット9以外の場所、即ち真空外囲器3の内側表面における陽極ターゲット9に対向する部分3aに衝突する。
この陽極ターゲット9に対向する部分3aには、絶縁部材13が配置されているから、陽極ターゲット9から反跳した電子eは、真空外囲器2の内表面に配置された絶縁部材13の表面に一時的に蓄えられる。
【0016】
そして、
図1(b)に示すように、一定量以上の電子eが帯電した後、絶縁材料13を塗布した真空外囲器3の表面を通して電子eは均一に放出される。これにより、反跳電子eによる発熱は局所的でなく、広範囲の緩やかな発熱となる。
このようにして、真空外囲器3が局所的な発熱により融解し、真空リークが発生することを防止できるから、X線管の長寿命化を図ることができる。
【0017】
特に、本実施の形態では、絶縁材料13として電荷移動型絶縁体であるIII価の酸化クロム(Cr2O3)を用いているので、一定量以上の電子eが帯電した後、真空外囲器3の表面を通して電子eは均一に放出することができる。
【0018】
これに対して、比較例を
図3に示すように、金属材製の真空外囲器3の内面に絶縁部材13が無い場合には、反跳電子eは、真空外囲器3における陽極ターゲット9との対向部分3aに衝突して、そのまま反跳電子eが持っているエネルギーが熱に変わり、衝突した場所(
図3中破線で示す領域)では局所的な発熱が生じる。尚、
図3に示す比較例では、真空外囲器の内面に絶縁部材13を設けていないことが実施例と異なっており、それ以外の構成は実施例と同様である。
これに対して、一実施形態では、陽極ターゲット9に対向する部分3aには、絶縁部材13が配置されているから、反跳電子eは、絶縁部材13の表面に一時的に蓄えられ、その後均一に放出されるので、衝突した反跳電子eが局所的な領域でそのまま熱に変わるのを防止できる。
【0019】
また、真空外囲器3は、鉄系の金属材を用いているので、製造及び加工がし易い。
【0020】
上述した一実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0021】
例えば、X線管1は、回転陽極型X線管に限らず、固定陽極型X線管であっても良い。
【符号の説明】
【0022】
1…X線管、3…真空外囲器、3a…陽極ターゲットの外周側端面と対向する領域、
5…陰極、7…陽極、13…絶縁部材。