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特開2024-128384多孔質液晶ポリマーシート、及び多孔質液晶ポリマーシートの製造方法
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  • 特開-多孔質液晶ポリマーシート、及び多孔質液晶ポリマーシートの製造方法 図1A
  • 特開-多孔質液晶ポリマーシート、及び多孔質液晶ポリマーシートの製造方法 図1B
  • 特開-多孔質液晶ポリマーシート、及び多孔質液晶ポリマーシートの製造方法 図2
  • 特開-多孔質液晶ポリマーシート、及び多孔質液晶ポリマーシートの製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128384
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】多孔質液晶ポリマーシート、及び多孔質液晶ポリマーシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/26 20060101AFI20240913BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240913BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240913BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240913BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C08J9/26 102
C08J9/26 CFD
H05K1/03 610H
B32B5/18
B32B15/08 J
B32B27/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037331
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(72)【発明者】
【氏名】永見 直斗
【テーマコード(参考)】
4F074
4F100
【Fターム(参考)】
4F074AA67
4F074AB03
4F074CB03
4F074CB17
4F074CB27
4F074DA02
4F074DA23
4F074DA24
4F074DA47
4F074DA54
4F100AB01B
4F100AK01A
4F100AK41A
4F100AK49A
4F100AL05A
4F100AS00A
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA23A
4F100DE01A
4F100DJ00A
4F100GB43
4F100JA05A
4F100JG05A
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】 多孔化剤として無機化合物を用いることなく、電気的信頼性に優れる多孔質液晶ポリマーシートを製造可能な多孔質液晶ポリマーシートの製造方法などの提供。
【解決手段】 液晶ポリマーと、多孔化剤とを混練して、前記液晶ポリマーと前記多孔化剤とを含有する組成物を調製する第1工程と、
前記組成物から前記多孔化剤を超臨界流体で抽出する第2工程とを含み、
前記多孔化剤がイミド化合物を含む、多孔質液晶ポリマーシートの製造方法。
【選択図】図1B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマー及び有機フィラーを含有する多孔質液晶ポリマーシートであって、
前記有機フィラーの含有量が、0.5質量%~25質量%である、
多孔質液晶ポリマーシート。
【請求項2】
前記有機フィラーが、イミド化合物である、請求項1に記載の多孔質液晶ポリマーシート。
【請求項3】
比誘電率が、3.10未満である、請求項1に記載の多孔質液晶ポリマーシート。
【請求項4】
空孔率が、60%以下である、請求項1に記載の多孔質液晶ポリマーシート。
【請求項5】
液晶ポリマーと多孔化剤とを混練して、前記液晶ポリマーと前記多孔化剤とを含有する組成物を調製する第1工程と、
前記組成物から前記多孔化剤を超臨界流体で抽出する第2工程とを含み、
前記多孔化剤がイミド化合物を含む、多孔質液晶ポリマーシートの製造方法。
【請求項6】
前記イミド化合物の融点又はガラス転移温度が、前記液晶ポリマーの融点よりも高い、請求項5に記載の多孔質液晶ポリマーシートの製造方法。
【請求項7】
前記イミド化合物の融点又はガラス転移温度が、前記液晶ポリマーの融点よりも20℃以上高い、請求項5に記載の多孔質液晶ポリマーシートの製造方法。
【請求項8】
前記イミド化合物が、ポリイミドである、請求項5に記載の多孔質液晶ポリマーシートの製造方法。
【請求項9】
前記第2工程における前記多孔化剤の前記組成物からの抽出率が、5%以上である、請求項5に記載の多孔質液晶ポリマーシートの製造方法。
【請求項10】
前記第2工程における前記多孔化剤の前記組成物からの抽出率が、80%以下である、請求項5に記載の多孔質液晶ポリマーシートの製造方法。
【請求項11】
請求項1から4のいずれかに記載の多孔質液晶ポリマーシート及び金属層を厚み方向に順に備える積層板。
【請求項12】
請求項1から4のいずれかに記載の多孔質液晶ポリマーシート及び導体層を厚み方向に順に備える配線回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質液晶ポリマーシート、及び多孔質液晶ポリマーシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質液晶ポリマーシートは、液晶ポリマーを多孔化させて得られる。多孔化の方法として、例えば、(1)第一の溶媒で溶解可能な無機化合物を含有する液晶性ポリマー組成物からなるフィルムを第一の溶媒で洗浄して、該無機化合物を溶出させ、フィルム両面を貫通する孔を空ける工程、及び(2)得られた多孔質フィルムを第二の溶媒で洗浄する工程を有する多孔質フィルムの製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-342282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、多孔質液晶ポリマーシートの製造において多孔化剤を使用する場合、多孔質液晶ポリマーシート中に多孔化剤が残存しないようにすることは難しい。多孔化剤としての無機化合物(特に金属成分)の残存は、たとえ少量であっても、多孔質液晶ポリマーシートを電子部品に適用した際の電気的信頼性を大きく低下させる。
【0005】
本発明は、多孔化剤として無機化合物を用いることなく、電気的信頼性に優れる多孔質液晶ポリマーシートを製造可能な多孔質液晶ポリマーシートの製造方法、当該製造方法によって製造可能な多孔質液晶ポリマーシート、並びに当該多孔質液晶ポリマーシートを備える積層板、及び配線回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は以下を包含する。
【0007】
[1] 液晶ポリマー及び有機フィラーを含有する多孔質液晶ポリマーシートであって、
前記有機フィラーの含有量が、0.5質量%~25質量%である、
多孔質液晶ポリマーシート。
[2] 前記有機フィラーが、イミド化合物である、[1]に記載の多孔質液晶ポリマーシート。
[3] 比誘電率が、3.10未満である、[1]又は[2]に記載の多孔質液晶ポリマーシート。
[4] 空孔率が、60%以下である、[1]から[3]のいずれかに記載の多孔質液晶ポリマーシート。
[5] 液晶ポリマーと多孔化剤とを混練して、前記液晶ポリマーと前記多孔化剤とを含有する組成物を調製する第1工程と、
前記組成物から前記多孔化剤を超臨界流体で抽出する第2工程とを含み、
前記多孔化剤がイミド化合物を含む、多孔質液晶ポリマーシートの製造方法。
[6] 前記イミド化合物の融点又はガラス転移温度が、前記液晶ポリマーの融点よりも高い、[5]に記載の多孔質液晶ポリマーシートの製造方法。
[7] 前記イミド化合物の融点又はガラス転移温度が、前記液晶ポリマーの融点よりも20℃以上高い、[5]又は[6]に記載の多孔質液晶ポリマーシートの製造方法。
[8] 前記イミド化合物が、ポリイミドである、[5]から[7]のいずれかに記載の多孔質液晶ポリマーシートの製造方法。
[9] 前記第2工程における前記多孔化剤の前記組成物からの抽出率が、5%以上である、[5]から[8]のいずれかに記載の多孔質液晶ポリマーシートの製造方法。
[10] 前記第2工程における前記多孔化剤の前記組成物からの抽出率が、80%以下である、[5]から[9]のいずれかに記載の多孔質液晶ポリマーシートの製造方法。
[11] [1]から[4]のいずれかに記載の多孔質液晶ポリマーシート及び金属層を厚み方向に順に備える積層板。
[12] [1]から[4]のいずれかに記載の多孔質液晶ポリマーシート及び導体層を厚み方向に順に備える配線回路基板。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、多孔化剤として無機化合物を用いることなく、電気的信頼性に優れる多孔質液晶ポリマーシートを製造可能な多孔質液晶ポリマーシートの製造方法、当該製造方法によって製造可能な多孔質液晶ポリマーシート、並びに当該多孔質液晶ポリマーシートを備える積層板、及び配線回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A図1Aは、多孔質液晶ポリマーシートの製造方法の一実施形態を説明するための工程図である(その1)。
図1B図1Bは、多孔質液晶ポリマーシートの製造方法の一例を説明するための工程図である(その2)。
図2図2は、積層板の一実施形態の概略断面図である。
図3図3は、配線回路基板の一実施形態の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(多孔質液晶ポリマーシートの製造方法)
本発明の多孔質液晶ポリマーシートの製造方法は、第1工程と、第2工程とを含む。
多孔質液晶ポリマーシートの製造方法は、その他の工程を含んでいてもよい。
【0011】
本発明の多孔質液晶ポリマーの製造方法の一実施形態である多孔質液晶ポリマーシート1の製造方法を、図1A図1Bとを参照して説明する。この製造方法は、第1工程と、第2工程とを必須の工程として備える。また、この製造方法は、第3工程を任意の工程として備える。この製造方法では、例えば、第1工程から第3工程までが、順に実施される。
【0012】
<第1工程>
第1工程は、液晶ポリマーと多孔化剤とを混練して、前記液晶ポリマーと前記多孔化剤とを含有する組成物を調製する工程である。
【0013】
<<液晶ポリマー>>
液晶ポリマーは、限定されない。液晶ポリマーは、液晶性の熱可塑性樹脂である。液晶ポリマーとしては、例えば、液晶ポリエステル、好ましくは、芳香族液晶ポリエステルが挙げられる。液晶ポリマーは、例えば、特開2020-147670号公報、および、特開2004-189867号公報に具体的に記載される。
液晶ポリマーは、市販品を用いることができる。市販品として、例えば、UENO LCP(登録商標、以下同様)8100シリーズ(低融点タイプ、上野製薬社製)、および、UENO LCP 5000シリーズ(高融点タイプ、上野製薬社製)が挙げられる。好ましくは、UENO LCP5000シリーズが挙げられる。
【0014】
液晶ポリマーの融点は、限定されない。液晶ポリマーの融点は、例えば、200℃以上、好ましくは、220℃以上、より好ましくは、250℃以上であり、また、例えば、370℃以下である。液晶ポリマーの融点は、示差走査熱量測定によって求められる。示差走査熱量測定では、昇温速度は、10℃/minであり、25℃から400℃までの範囲を操作し、窒素雰囲気で液晶ポリマーを加熱する。また、液晶ポリマーが市販品であれば、市販品のカタログ値をそのまま採用することができる。液晶ポリマーの融点が上記した上限以下であれば、多孔質液晶ポリマーシート1は、取扱性および加工性に優れる。液晶ポリマーの融点が上記した下限以上であれば、多孔質液晶ポリマーシート1は、耐熱性に優れる。
【0015】
液晶ポリマーのガラス転移温度は、限定されない。液晶ポリマーのガラス転移温度は、例えば、80℃以上であり、また、例えば、125℃以下である。液晶ポリマーのガラス転移温度は、昇温速度10℃/minで実施される示差走査熱量測定法により求められる。
【0016】
<<多孔化剤>>
多孔化剤は、液晶ポリマーを多孔化するために液晶ポリマーに分散される成分である。また、多孔化剤は、例えば、混練温度(後述)において、液晶ポリマーと相分離する。相分離は、液晶ポリマーに溶解せず、混練物中において一定形状を確保することを含む。
【0017】
本発明の多孔質液晶ポリマーシートの製造方法で好適に用いられる多孔化剤は、イミド化合物を含む。
有機材料であるイミド化合物を多孔化剤として用いることで、無機化合物を多孔化剤に用いる必要がない。そのため、無機化合物の残存による電気的信頼性の低下を防ぐことができ、電気的信頼性に優れる多孔質液晶ポリマーシートを製造できる。ここで、電気的信頼性とは、絶縁不良の防止、金属成分のマイグレーションの防止などが挙げられる。
また、イミド化合物は高融点であるため、融点の高い液晶ポリマーの多孔化剤として好適に用いることができる。その点において、液晶ポリマーの融点は、250℃以上が好ましい。
【0018】
イミド化合物としては、イミド結合を有する限り、特に限定されず、低分子化合物であってもよいし、高分子化合物(ポリマー)であってもよい。
【0019】
多孔化剤におけるイミド化合物の割合としては、特に制限されないが、50体積%~100体積%が好ましく、70体積%~100体積%がより好ましく、90体積%~100体積%が特に好ましい。
多孔化剤は無機化合物を含有しないことが好ましい。その点において、多孔化剤における無機化合物の含有量は、0体積%~1体積%が好ましく、0体積%~0.1体積%がより好ましく、0体積%が特に好ましい。
【0020】
イミド化合物としては、例えば、ポリイミドが挙げられる。
【0021】
ポリイミドは、例えば、芳香族ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物を用いて、ポリアミド酸への重合、化学イミド化反応、生成ポリイミドの析出による粉体の形成、及び乾燥の工程を経て製造される。
【0022】
芳香族ジアミン化合物としては、例えば、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエ-テル、4,4’-ジアミノジフェニルエ-テル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(4-アミノフェニル)スルホン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェニル)スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-フルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルなどが挙げられる。
【0023】
これらの芳香族ジアミン化合物は単独で用いてもよく、2種類以上の芳香族ジアミン化合物を使用してもよい。
【0024】
そして、透明性や耐熱性の観点から、好ましい芳香族ジアミン化合物としては、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルなどのフルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物が挙げられ、使用する芳香族ジアミン化合物の少なくとも1種類はフルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物であることが好ましく、特に好ましくは2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルである。フルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物を用いることで、透明性、耐熱性を得ることが容易となる。
【0025】
テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,4-ヒドロキノンジベンゾエ-ト-3, 3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物などが例示される。
【0026】
これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよく、二種類以上のテトラカルボン酸二無水物を使用してもよい。
【0027】
そして、透明性、及び耐熱性の観点から、4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物など、少なくとも1種類のフルオロ基を有するテトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。
【0028】
ポリイミドとしては、例えば、国際公開第2017/179367号パンフレット、特開2019-059834号公報、特開2019-059835号公報、特開2020-029486号公報などに記載のポリイミド粉体が挙げられる。これら公開公報の内容は、全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0029】
イミド化合物として市販品を用いてもよい。ポリイミドの市販品としては、例えば、河村産業社製のKPI-MX300Fなどが挙げられる。
市販品をそのまま用いてもよいし、分級して用いてもよいし、粉砕して用いてもよい。
【0030】
イミド化合物は、通常、粉末の状態で混練に供される。
イミド化合物の平均粒子径としては、特に制限されず、多孔化の程度、多孔質液晶ポリマーシートの厚みなどに応じて、適宜定めることができる。
粉末のイミド化合物の平均粒子径は、例えば、0.001mm~0.8mmであり、好ましくは0.003mm~0.6mm、より好ましくは0.005mm~0.4mmである。
平均粒子径はレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置により測定することができる。
【0031】
イミド化合物の融点又はガラス転移温度は、液晶ポリマーの融点(Tm)よりも高いことが好ましく、液晶ポリマーの融点よりも10℃以上高いことがより好ましく、液晶ポリマーの融点よりも20℃以上高いことが特に好ましい。
イミド化合物の融点又はガラス転移温度は、例えば、液晶ポリマーの融点+100℃以下であることが好ましい。
イミド化合物の融点及びガラス転移温度は、それぞれ、液晶ポリマーの融点及びガラス転移温度の測定方法と同じ方法で求めることができる。
【0032】
液晶ポリマーと多孔化剤との配合割合は、限定されない。液晶ポリマーと多孔化剤との配合割合は、得られる多孔質液晶ポリマーシートが所望の空孔率Pとなるように、適宜調整される。具体的には、液晶ポリマーと多孔化剤との合計体積に対する多孔化剤の体積の百分率は、例えば、20体積%以上、好ましくは、30体積%以上、より好ましくは、40体積%以上であり、また、例えば、90体積%以下、好ましくは、80体積%以下、より好ましくは、70体積%以下である。なお、液晶ポリマーと多孔化剤との合計体積に対する多孔化剤の体積の百分率は、液晶ポリマーと多孔化剤との合計質量に対する多孔化剤の質量の百分率から比重を用いる換算によって、求められる。また、液晶ポリマー100質量部に対する多孔化剤の質量割合は、例えば、10質量部以上、好ましくは、50質量部以上であり、また、例えば、500質量部以下、好ましくは、250質量部以下でもある。
【0033】
第1工程において、さらに、添加剤を混練してもよい。添加剤としては、例えば、フィラーが挙げられる。フィラーとしては、例えば、中空球体が挙げられる。中空球体は、例えば、ガラスバルーンを含む。中空球体は、例えば、特開2004-189867号公報に記載される。
【0034】
第1工程において、中空球体を混練すれば、空孔率Pが高い多孔質液晶ポリマーシート1を製造できる。
【0035】
他方、第1工程において、中空球体を混練しなければ、多孔質液晶ポリマーシート1が脆くなることを抑制できる。
【0036】
混練の際の混練温度は、限定されない。例えば、混練温度は、上記した多孔化剤の熱分解量が少ない温度に設定される。具体的には、混練温度は、例えば、200℃以上、好ましくは、210℃以上であり、また、例えば、350℃以下、好ましくは、300℃以下、より好ましくは、270℃以下、さらに好ましくは、250℃以下である。また、混練温度は、例えば、230℃±30℃の範囲(つまり、200℃以上、260℃以下)、好ましくは、230℃±20℃の範囲(つまり、210℃以上、250℃以下)、より好ましくは、230℃±10℃の範囲(つまり、220℃以上、240℃以下)、さらに好ましくは、230℃±5℃の範囲(つまり、225℃以上、235℃以下)である。
また、混練の際の混練温度は、例えば、液晶ポリマーの融点±30℃の範囲(つまり、液晶ポリマーの融点が280℃の場合、250℃以上、310℃以下)、好ましくは、液晶ポリマーの融点±20℃の範囲、より好ましくは、液晶ポリマーの融点±10℃の範囲、更に好ましくは、液晶ポリマーの融点±5℃の範囲である。
また、混練の際の混練温度は、例えば、多孔化剤の融点-5℃以下、好ましくは、多孔化剤の融点-10℃以下、より好ましくは、多孔化剤の融点-20℃以下である。言い換えれば、多孔化剤の融点は、例えば、混練温度よりも5℃以上高く、好ましくは、混練温度よりも10℃以上高く、より好ましくは、混練温度よりも20℃以上高い。なお、「多孔化剤の融点」は、多孔化剤が明瞭な融点を有さないがガラス転移温度を有する場合は、「多孔化剤のガラス転移温度」と読み替える。
【0037】
第2工程に供される組成物は、例えば、シート状である。
第2工程に供される組成物がシート状の場合、第1工程では、例えば、図1Aに示すように、組成物をシート化して、無孔質シート3を得る。組成物をシート化するには、例えば、プレス、押出、および、射出が挙げられる。好ましくは、プレスが挙げられ、より好ましくは、熱プレスが挙げられる。
熱プレスの温度は、限定されない。例えば、熱プレスの温度は、上記した多孔化剤の熱分解量が少ない温度に設定される。具体的には、熱プレスの温度は、例えば、200℃以上、300℃以下である。また、熱プレスの温度は、例えば、液晶ポリマーの融点よりも5℃以上高いことが好ましい。
プレスの圧力は、例えば、1MPa以上、好ましくは、4MPa以上であり、例えば、20MPa以下、好ましくは、10MPa以下である。これにより、液晶ポリマーと多孔化剤とを含む無孔質シート3が得られる。
【0038】
無孔質シート3の厚みは、特に限定されない。例えば、無孔質シート3の厚みは、多孔質液晶ポリマーシート1の狙い厚みに応じて適宜設定する。
【0039】
<第2工程>
第2工程は、組成物から多孔化剤を超臨界流体で抽出する工程である。具体的には、シート状の組成物である無孔質シート3における多孔化剤を超臨界流体で抽出する。
例えば、図1Bに示すように、第2工程は、超臨界装置10を用いる。超臨界装置10は、圧力容器11と、図示しない循環装置とを備える。圧力容器11は、超臨界流体15を収容しながら、内部において流通可能である。循環装置は、圧力容器11に超臨界流体15を循環させる。また、循環装置には、回収装置が設けられる。回収装置は、超臨界流体15に抽出された多孔化剤を除去する。
【0040】
<<超臨界流体15>>
超臨界流体15の種類は、限定されない。超臨界流体15としては、例えば、超臨界二酸化炭素、超臨界窒素が挙げられる。超臨界流体15として、製造コストの観点から、好ましくは、超臨界二酸化炭素が挙げられる。
【0041】
<<エントレーナ>>
超臨界流体15にエントレーナが配合されていてもよい。エントレーナは、超臨界流体15による多孔化剤の抽出効率を高めるために、超臨界流体15に配合される。エントレーナは、超臨界流体15および多孔化剤と相溶する。
エントレーナとしては、例えば、水、アルコール化合物、ケトン化合物、エステル化合物、芳香族化合物、長鎖アルキル化合物、非プロトン性のアミド系化合物などが挙げられる。
これらは、単独使用または併用できる。
【0042】
アルコール化合物としては、例えば、メタノール、エタノールなどが挙げられる。
ケトン化合物としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
エステル化合物としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなどが挙げられる。
芳香族化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
長鎖アルキル化合物としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどが挙げられる。
非プロトン性のアミド系化合物としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)などが挙げられる。
エントレーナとして、好ましくは、アルコール化合物、エステル化合物、非プロトン性のアミド系化合物が挙げられる。
【0043】
エントレーナの配合割合は、適宜設定される。具体的には、エントレーナの配合流量は、超臨界流体の循環流量100mL/minに対して、例えば、0.1mL/min以上、好ましくは、1mL/min以上であり、また、例えば、20mL/min以下、好ましくは、5mL/min以下である。
【0044】
無孔質シート3を圧力容器11に設置する。続いて、超臨界装置10において圧力容器11に超臨界流体15を流入させる。続いて、図示しない循環装置によって、超臨界流体15を循環させる。これらによって、超臨界流体15は、無孔質シート3に接触する。
【0045】
すると、まず、無孔質シート3の外部の超臨界流体15は、無孔質シート3に含浸される。つまり、超臨界流体15が無孔質シート3の内部に浸入する。すると、上記した超臨界流体15は、多孔化剤を溶解しながら、無孔質シート3の外部に戻る。これによって、無孔質シート3から多孔化剤が超臨界流体15で抽出される。
【0046】
第2工程の条件は、限定されない。超臨界流体15の温度は、例えば、上記した液晶ポリマーのガラス転移温度より高い。また、超臨界流体15の温度は、例えば、上記した液晶ポリマーのガラス転移温度より、例えば、少なくとも10℃高く、好ましくは、少なくとも30℃高く、より好ましくは、少なくとも50℃高く、さらに好ましくは、70℃高い。上記したように、超臨界流体15の温度が液晶ポリマーのガラス転移温度より高ければ、第2工程における超臨界流体15の抽出効率を高くできる。そのため、高い空孔率Pの多孔質液晶ポリマーシート1を製造できる。超臨界流体15の温度は、例えば、40℃以上、好ましくは、75℃以上、より好ましくは、110℃以上、さらに好ましくは、120℃以上、とりわけ好ましくは、150℃以上、最も好ましくは、170℃以上であり、また、例えば、200℃以下、好ましくは、190℃以下、より好ましくは、180℃以下である。
【0047】
超臨界流体15の圧力は、例えば、10MPa以上、好ましくは、20MPa以上であり、また、例えば、30MPa以下、好ましくは、27MPa以下である。
【0048】
抽出時間は、例えば、20分以上、好ましくは、1時間以上、より好ましくは、3時間以上、さらに好ましくは、5時間以上、とりわけ好ましくは、8時間以上、最も好ましくは、10時間以上であり、また、例えば、100時間以下、好ましくは、48時間以下、より好ましくは、24時間以下である。抽出時間が上記した下限以上であれば、第2工程における超臨界流体の抽出効率を高くでき、高い空孔率Pを有する多孔質液晶ポリマーシート1を製造できる。抽出時間が上記した上限以下であれば、タクトタイムを短縮でき、製造効率を向上できる。
【0049】
多孔化剤の組成物からの抽出率としては、特に制限されないが、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、20%以上が特に好ましい。
多孔化剤の組成物からの抽出率としては、特に制限されないが、90%以下が好ましく、85%以下がより好ましく、80%以下が特に好ましい。
抽出率が大きいほど、空孔率も大きくなる。その点で、抽出率は、5%以上が好ましい。
他方、抽出率を大きくしようとすると、抽出時間が長くなる傾向がある。その点で、抽出率は、90%以下が好ましい。
抽出率の測定方法は、後の実施例で記載する。
【0050】
<第3工程>
第3工程では、圧力容器11の内部の超臨界流体15を除去しつつ、圧力容器11の圧力を降下させる。具体的には、圧力容器11の圧力を大気圧に戻す。圧力の降下の速度は、限定されない。例えば、圧力の降下の速度は、無孔質シート3に含浸された超臨界流体15による発泡が抑制されるように、調整される。この際、圧力容器11を加熱してもよいし、加熱をしなくてもよい。加熱温度は、第2工程における超臨界流体の温度と同様であり、例えば、40℃以上、好ましくは、75℃以上、より好ましくは、110℃以上、さらに好ましくは、120℃以上、とりわけ好ましくは、150℃以上、最も好ましくは、170℃以上であり、また、例えば、200℃以下、好ましくは、190℃以下、より好ましくは、180℃以下である。加熱時間は、例えば、10分以上、3時間以下である。即ち、第3工程の一例では、圧力容器11の圧力を大気圧に戻すまでは、第2工程における超臨界流体の温度と同様の加熱温度にしておき、圧力容器11の圧力を大気圧に戻した後は、その加熱温度を維持してもよいし、加熱をやめてもよい。
【0051】
以上により、無孔質シート3において含浸されていた多孔化剤に代わって、複数の気孔2が形成される。これによって、多孔質液晶ポリマーシート1が製造される。
【0052】
上記した第1工程から第3工程までの実施により、多孔質液晶ポリマーシート1が製造される。
【0053】
(多孔質液晶ポリマーシート1)
多孔質液晶ポリマーシート1は、例えば、本発明の多孔質液晶ポリマーシートの製造方法によって得られる。
多孔質液晶ポリマーシート1は、厚みを有し、シート形状を有する。シート形状は、フィルム形状を含む。多孔質液晶ポリマーシート1は、面方向に延びる。面方向は、厚み方向に直交する。多孔質液晶ポリマーシート1は、微細な空孔(気孔)を多数有する。また、多孔質液晶ポリマーシート1の気泡構造としては、例えば、独立気泡構造、連続気泡構造、および、半独立半連続気泡構造が挙げられる。
回路基板加工性の観点から独立気泡構造(独泡構造)であることが好ましい。これは例えば、回路基板を作製する際、ドリルやレーザなどで穴あけをしたうえでめっき処理をすると、穴あけにより露出した多孔部からめっき液が侵入し、導体層が析出してしまうといった問題(めっき液浸)、あるいは、多孔質シートを銅箔に貼り合わせる際、熱プレスにより孔が潰れてしまうといった問題(耐プレス性)が考えられるためである。
【0054】
多孔質液晶ポリマーシートの構造が独泡構造であることは、JISに規定されている浸透探傷試験(JIS Z 2343-1等)で用いられるような浸透液を使用して、確認することができる。好ましくは、ポリマー表面に対する接触角が25°以下、粘度が2.4mm/s(37.8℃)である浸透液を使用する。すなわち、多孔質液晶ポリマーシートを表面に対してほぼ垂直に切断して多孔質断面を露出させ、この断面を赤色浸透液などの浸透液に5分間浸漬後、液浸長(断面から浸透液が浸透した距離)を測定する。この液浸長が500μm以下、さらには300μm以下である場合には、多孔質液晶ポリマーシートの構造は独泡構造であるといえる。
【0055】
多孔質液晶ポリマーシート1の厚みとしては、特に制限されないが、例えば、0.01mm~1mmであり、0.05mm~1mmがより好ましく、0.1mm~1mmが特に好ましい。
【0056】
<空孔率P>
多孔質液晶ポリマーシート1の空孔率Pは、例えば、1%以上、好ましくは、1.5%以上、より好ましくは、5%以上、さらに好ましくは、10%以上であり、特に好ましくは15%以上である。多孔質液晶ポリマーシート1の空孔率Pの上限は、限定されない。多孔質液晶ポリマーシート1の空孔率Pの上限は、例えば、60%、好ましくは、50%である。多孔質液晶ポリマーシートの空孔率の測定方法は、後の実施例で記載する。
なお、後の実施例で記載する方法では空孔率が求められない場合、以下の(1)~(3)のような方法で空孔率を求めてもよい。
(1)多孔質液晶ポリマーシートの比誘電率(Dk)を測定する。測定は後の実施例で記載する方法により行う。
(2)多孔質液晶ポリマーシートにおける空気以外の成分の比誘電率(Dk)を求める。Dkは、多孔質液晶ポリマーシートにおける空気以外の各成分の体積割合と、比誘電率とから、Maxwell-Garnettモデルを用いて求める。
(3)比誘電率(Dk)と比誘電率(Dk)とから、Maxwell-Garnettモデルを用いて、多孔質液晶ポリマーシートにおける空気の体積割合(空孔率)を求める。
なお、多孔質液晶ポリマーシートにおける空気以外の各成分の体積割合は、例えば、多孔質液晶ポリマーシートにおける多孔化剤の量の算出結果、抽出率の算出結果などを用いて算出することができる。
【0057】
<比誘電率>
10GHzにおける多孔質液晶ポリマーシート1の比誘電率は、例えば、3.10未満、好ましくは、2.90以下、より好ましくは、2.80以下、さらに好ましくは、2.75以下である。多孔質液晶ポリマーシート1の比誘電率が上記した上限以下であれば、多孔質液晶ポリマーシートは、低誘電である。10GHzにおける多孔質液晶ポリマーシートの比誘電率の下限は、限定されない。例えば、10GHzにおける多孔質液晶ポリマーシートの比誘電率の下限は、1.00である。多孔質液晶ポリマーシートの比誘電率の測定方法は、後の実施例で記載する。
【0058】
<誘電正接>
10GHzにおける多孔質液晶ポリマーシート1の誘電正接は、例えば、0.0025以下、好ましくは、0.0020以下、より好ましくは、0.0010以下、さらに好ましくは、0.00070以下、とりわけ好ましくは、0.00060以下である。
多孔質液晶ポリマーシート1の誘電正接が上記した上限以下であれば、多孔質液晶ポリマーシートは、低誘電である。10GHzにおける多孔質液晶ポリマーシートの誘電正接の下限は、限定されない。例えば、10GHzにおける多孔質液晶ポリマーシートの誘電正接の下限は、0.00000である。多孔質液晶ポリマーシートの誘電正接の測定方法は、後の実施例で記載する。
【0059】
多孔質液晶ポリマーシートの一例は、液晶ポリマー及び有機フィラーを含有する。
液晶ポリマーは、例えば、前述の液晶ポリマーである。
有機フィラーは、例えば、多孔化剤であり、好ましくは前述のイミド化合物である。イミド化合物は熱的安定性に優れるため、有機フィラーがイミド化合物である場合、多孔質液晶ポリマーシートを可撓性の配線回路基板(FPC:フレキシブルプリント回路基板)に用いた場合でも、FPCの加工時に加工時の熱によって有機フィラーに起因するガス(アウトガス)が発生するのを防ぐことができる。
多孔質液晶ポリマーシートにおける有機フィラーの含有量としては、特に制限されないが、多孔質液晶ポリマーシートの0.5質量%~25質量%が好ましい。
なお、有機フィラーであれば、無機化合物と異なり、多孔質液晶ポリマーシートに残存していても、電気的信頼性を損なう恐れがない。他方、液晶ポリマーを多孔化する際に、多孔化剤である有機フィラーを完全に除去しようとすると、製造時間が長くなる傾向がある。それらの観点を踏まえると、多孔質液晶ポリマーシートにおける有機フィラーの含有量は、多孔質液晶ポリマーシートの0.5質量%以上が好ましい。
なお、有機フィラーの種類によっては、多孔質液晶ポリマーシートの比誘電率及び誘電正接が高くなる。その観点から、多孔質液晶ポリマーシートにおける有機フィラーの含有量は、多孔質液晶ポリマーシートの25質量%以下が好ましい。
【0060】
多孔質液晶ポリマーシートにおける多孔化剤の量は、例えば、後の実施例で記載する方法で求めてもよいし、他の方法で求めてもよい。
他の方法としては、例えば、多孔化剤に含まれる特定の元素を定量する方法が挙げられる。例えば、多孔化剤が含窒素化合物である場合、CHN元素分析(Elemental Analysis(Carbon,Hydrogen,Nitrogen):EA)、TN分析(Total Nitrogen Analysis)などにより含窒素化合物である多孔化剤の量を求めてもよい。
【0061】
<多孔質液晶ポリマーシート1の用途>
多孔質液晶ポリマーシート1の用途は、限定されない。多孔質液晶ポリマーシート1の用途としては、例えば、配線回路基板の絶縁層、無線通信のアンテナ基板などが挙げられる。
【0062】
(積層板)
本発明の積層板の一例は、多孔質液晶ポリマーシート及び金属層を厚み方向に順に備える。
多孔質液晶ポリマーシートは、例えば、前述の多孔質液晶ポリマーシートの製造方法により得られる多孔質液晶ポリマーシートである。
多孔質液晶ポリマーシートは、例えば、液晶ポリマー及び有機フィラーを含有する。
積層板は、その他の構成として、例えば、接着層を備える。
積層板において、多孔質液晶ポリマーシートは、絶縁層である。
【0063】
<金属層>
金属層は、シート(板)形状を有する。
金属層の材料は、特に限定されず、例えば、銅、鉄、銀、金、アルミニウム、ニッケル、それらの合金(ステンレス、青銅)などが挙げられる。好ましくは、銅が挙げられる。
【0064】
金属層の厚みは、例えば、0.1μm以上であり、1μm以上が好ましく、また、例えば、100μm以下であり、50μm以下が好ましい。
【0065】
<接着層>
接着層は、例えば、多孔質液晶ポリマーシートの厚み方向一方面において、面方向に沿うシート形状を有する。
【0066】
接着層の材料としては、特に限定されず、ホットメルト型接着剤、熱硬化型接着剤など、種々の型の接着剤が挙げられ、具体的には、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤などが挙げられる。好ましくは、アクリル系接着剤が挙げられる。
【0067】
接着層の厚みは、例えば、2μm以上であり、5μm以上が好ましく、また、例えば、50μm以下であり、25μm以下が好ましい。
【0068】
積層板は、例えば、各種用途に用いられ、好ましくは、第五世代(5G)の規格に適合する高周波アンテナや高速伝送基板(高速伝送FPCなど)の製造に用いられる。具体的には、積層板は、高周波アンテナや高速FPCの基板材として用いられる。
【0069】
積層板の一例は、図2に示すように、多孔質液晶ポリマーシート1及び金属層51を厚み方向の一方側に向かって順に備える。
なお、図2及び後述の図3では、多孔質液晶ポリマーシート1中の気孔の記載は省略している。
【0070】
(配線回路基板)
本発明の配線回路基板は、多孔質液晶ポリマーシート及び導体層を厚み方向に順に備える。
多孔質液晶ポリマーシートは、例えば、前述の多孔質液晶ポリマーシートの製造方法により得られる多孔質液晶ポリマーシートである。
多孔質液晶ポリマーシートは、例えば、液晶ポリマー及び有機フィラーを含有する。
配線回路基板において、多孔質液晶ポリマーシートは、絶縁層である。
【0071】
配線回路基板は、例えば、導体層として、配線を有する。配線としては、例えば、信号配線、アンテナ配線、グランド配線などが挙げられる。配線は、例えば、金属層をフォトリソグラフィ(例えば、サブトラクティブ法)によってパターニングすることにより形成することができる。
【0072】
配線回路基板の一例を図を用いて説明する。
図3は、本発明の配線回路基板の一実施形態の概略断面図である。
図3に示す配線回路基板200は、面方向に延びる。配線回路基板200は、シート形状を有する。配線回路基板200は、多孔質液晶ポリマーシート1と、導体層52とを厚み方向の一方側に向かって順に備える。導体層52は、多孔質液晶ポリマーシート1の厚み方向の一方面に接触する。導体層52は、所定の配線パターンを有する。
図3に示す配線回路基板200は、例えば、以下の様にして作製することができる。
まず、図2に示す積層板100を用意する。
次に、図2に示す積層板100の金属層51を、フォトリソグラフィによってパターニングすることにより、多孔質液晶ポリマーシート1上に導体層52を形成する。
変形例では、多孔質液晶ポリマーは、バルク形状を有していてもよい。つまり、第1工程で、無孔質バルク体を作製し、第2工程および第3工程において、多孔質液晶バルク体を製造する。好ましくは、多孔質液晶ポリマーシート1を製造する。そうすれば、薄い多孔質液晶ポリマーシート1を作製でき、これを狭小空間に配置できる。
【0073】
変形例において、第3工程後の多孔質液晶ポリマーシート1をさらに薄くすることができる。多孔質液晶ポリマーシート1を薄くする方法としては、例えば、プレス、延伸、および、圧延が挙げられる。好ましくは、製品として得られる多孔質液晶ポリマーシート1の厚みの調整の精度の観点から、プレスが挙げられる。
【0074】
変形例の配線回路基板は、導体層と、絶縁層と、導体層とを厚み方向の一方側に向かって順に備える。絶縁層は、上記した多孔質液晶ポリマーシートからなる。2つの導体層のそれぞれは、絶縁層の厚み方向の一方面および他方面のそれぞれに配置されており、所定の配線パターンを有する。
【実施例0075】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例及び比較例に限定されない。
【0076】
<比較例1>
<<多孔質液晶ポリマーシートの製造>>
上野製薬社製の液晶ポリマーUENO LCP A5000と、硫酸ナトリウムとを、東洋精機社製の混練装置 ラボプラストミル4C150を用いて混練した。この液晶ポリマーの融点は280℃であった。この融点は、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製の示差走査熱量計SDT650を用いて、示差走査熱量測定法に従って測定された。示差走査熱量測定法において、昇温速度は10℃/分であり、窒素雰囲気でこの液晶ポリマーを加熱した。混練前の硫酸ナトリウムは、一次粒子が凝集して形成された二次粒子として存在していた。硫酸ナトリウムの一次粒子の粒径は1~10μmであり、硫酸ナトリウムの二次粒子の粒径は10~50μmであった。ラボプラストミルは、東洋精機社製の登録商標である。混練した液晶ポリマーの体積及び硫酸ナトリウムの体積の和に対する硫酸ナトリウムの体積の比は0.55であった。液晶ポリマーと硫酸ナトリウムとの混練における混練装置の内部の温度は350℃であった。混練装置におけるスクリューの回転速度は30rpm(revolutions per minute)に調整された。
【0077】
井元製作所社製の手動油圧真空プレス11FDを用いて、液晶ポリマーと硫酸ナトリウムとの混練物がシート状に成形され、無孔シートが得られた。無孔シートの厚みは約200μm~約250μmであった。混練物のプレスにおける温度は350℃であり、プレス圧力は4~10MPaであった。
【0078】
ザルトリウス社の実験装置MSE224S-0000-DIを用いて、無孔シートから、溶媒としての超純水に硫酸ナトリウムを抽出させた。超純水の温度は150℃に調整された。超純水を無孔シートの周囲に送るときの無孔シートの周囲の圧力はゲージ圧で36MPaに調整した。無孔シートを超純水に含浸させた時間である抽出時間は、50分間であった。その後、超純水に硫酸ナトリウムを抽出させて得られたシートを乾燥させて、厚み220μmの多孔質液晶ポリマーシート(多孔シート)を得た。
得られた多孔質液晶ポリマーシートは、連続気泡構造であった。
【0079】
以下の式で求められる空孔率は、55%であった。
空孔率[%]=100×{(M-M)/M
・M:液晶ポリマーの比重
・M:多孔シートの比重
【0080】
また、ICP-MS分析によって求めた、多孔質液晶ポリマーシート中のNa含有量は、3000質量ppmであった。
【0081】
<実施例1>
<<第1工程>>
液晶ポリマーとしての上野製薬(株)製のUENO LCP A5000(融点280℃)70体積部と、多孔化剤としてのKPI-MX300F(粉末、河村産業社製、ポリイミド、ガラス転移温度354℃、融点≧400℃)30体積部とを、東洋精機社製のラボプラストミル(型番:100C100)で混練して、組成物を調製した。混練における温度は、340℃であり、混練装置におけるスクリューの回転速度は30rpm(revolutions per minute)に調整された。
【0082】
続いて、混練物から、井元製作所社製の手動油圧真空プレス(型番:11FD)を用いて、厚み180μmの無孔質シート(無孔シート)を作製したプレスにおける温度は、340℃であり、圧力は、4MPaであった。
【0083】
<<第2工程>>
神鋼エアーテック製「CO超臨界流体実験装置」を用いて、超臨界流体としての超臨界二酸化炭素を用いて、無孔質シートから多孔化剤を抽出した。第2工程における超臨界二酸化炭素の温度は、150℃であり、超臨界二酸化炭素の圧力は、25MPaであり、含浸時間(抽出時間)は、180分であった。
【0084】
<<第3工程>>
圧力容器の内部の超臨界二酸化炭素を除去しつつ、圧力容器の圧力を降下させ大気圧に戻し、加熱を止めた。これにより、厚み780μmの多孔質液晶ポリマーシート(多孔シート)を得た。
【0085】
<実施例2>
実施例1において、含浸時間(抽出時間)を60分に変更した以外は、実施例1と同様にして、多孔質液晶ポリマーシート(多孔シート)を得た。
【0086】
<実施例3>
実施例1において、含浸時間(抽出時間)を30分に変更した以外は、実施例1と同様にして、多孔質液晶ポリマーシート(多孔シート)を得た。
【0087】
<比較例2>
実施例1において、KPI-MX300Fをカフェイン(粉末、融点238℃)に変更した以外は、実施例1と同様にして、多孔質液晶ポリマーシートの作製を試みた。そのところ、混練温度がカフェインの融点よりも高い温度であったため、混練の際にカフェインの粉末が揮発し、液晶ポリマー内に残らなかった。そのため、得られた液晶ポリマーシートでは、孔の形成が確認できなかった。
【0088】
<多孔化剤の量>
多孔質液晶ポリマーシートにおける多孔化剤の量を、以下の式から求めた。結果を表1に示した。
多孔化剤の量[質量%]=100×{(M-M)/M
・M:多孔シートの質量
・M:原料における液晶ポリマーの質量
【0089】
<抽出率>
抽出率は、以下の式から求めた。結果を表1に示した。
抽出率[%]=100×{(M-M)/M
・M:無孔シートの質量
・M:多孔シートの質量
・M:原料における多孔化剤の質量
【0090】
<空孔率>
実施例1~3の多孔質液晶ポリマーシートの空孔率は、以下の(i)~(iv)のようにして求めた。結果を表1に示した。
(i)多孔シートの比誘電率(Dk)を測定した。測定は後述する方法により行った。
(ii)多孔シートを熱プレスし、無孔フィルムを作製した。熱プレスは、例えば、340℃、4MPaで行った。なお、無孔フィルムが作製できる条件であれば、熱プレスの温度、圧力、時間は、特に限定されない。
(iii)上記(ii)により作製した無孔フィルムの比誘電率(Dk)を測定した。測定は後述する方法により行った。
(iv)比誘電率(Dk)と比誘電率(Dk)とから、Maxwell-Garnettモデルを用いて、多孔シートにおける空気の体積割合(空孔率)を求めた。
【0091】
<比誘電率及び誘電正接>
ASTMD150に準拠したSPDR方式(スプリットポスト誘電体共振方式)にて、QWED社製「10GHzSPDR共振器」を用いて、10GHzにおける液晶ポリマーシートの比誘電率(Dk)と誘電正接(Df)を測定した。結果を表1に示した。
【0092】
<液浸性の評価>
多孔質液晶ポリマーシート断面を剃刀にて切断して、露出させた。赤色浸透液(太洋物産(株)製NRC-ALII)に5分間浸漬後、表面に付着した浸透液をふき取った。多孔質液晶ポリマーシートをさらに露出断面に対し垂直に切断し、液浸長を光学顕微鏡により評価した。
液浸長が300μm以下の場合、多孔質液晶ポリマーシートの多孔質の構造は独泡構造であるとした。結果を表1に示した。
【0093】
【表1】
【符号の説明】
【0094】
1 多孔質液晶ポリマーシート
2 気孔
3 無孔質シート
10 超臨界装置
11 圧力容器
15 超臨界流体
51 金属層
52 導体層
100 積層板
200 配線回路基板
図1A
図1B
図2
図3