(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128405
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】熱伝導性シート、3次元構造体およびその製造法
(51)【国際特許分類】
C09K 5/14 20060101AFI20240913BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240913BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240913BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20240913BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20240913BHJP
【FI】
C09K5/14 E
C08K3/38
C08L1/02
B32B5/02 A
B32B7/027
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037364
(22)【出願日】2023-03-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年(2022)年10月24日 株式会社KRIのウェブサイトに公開。 公開のウェブページ:https://www.kri-inc.jp/conference-op/common/pdf/exhibition/317_34.pdf
(71)【出願人】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(72)【発明者】
【氏名】在間 弘朗
(72)【発明者】
【氏名】林 蓮貞
(72)【発明者】
【氏名】大仲 淳子
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AA14
4F100AA14A
4F100AA14C
4F100AJ06
4F100AJ06A
4F100AJ06B
4F100AJ06C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA06
4F100DE02A
4F100DE02C
4F100DG01
4F100DG01A
4F100DG01B
4F100DG01C
4F100EH46A
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100EJ17A
4F100EJ17B
4F100EJ17C
4F100EJ82A
4F100EJ82B
4F100EJ82C
4F100GB48
4F100JA13
4F100JB12B
4F100JJ01
4F100JJ01A
4F100JJ01C
4F100YY00A
4F100YY00C
4J002AB011
4J002DK006
4J002FD126
4J002FD206
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 一方向に配向した鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子を高濃度に含む高熱伝導性シート、および前記シートを積層した高熱伝導性3次元構造体、ならびにそれらを大規模な設備がなくても製造できる方法の提供。
【解決手段】 本発明の熱伝導性シートは、鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子とセルロースナノファイバーからなるシートであって、前記六方晶窒化ホウ素粒子を80~99重量%含有し、前記六方晶窒化ホウ素粒子のシート面内方向の配向度が0.8以上1未満であり、前記セルロースナノファイバーが極性基が導入されたセルロースナノファイバーである。また、本発明の熱伝導性3次元構造体は、前記熱伝導性シートを積層した3次元構造体であって、積層方向に垂直な方向の周期加熱法により測定した熱拡散率が5~30mm
2/sである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子とセルロースナノファイバーからなるシートであって、前記六方晶窒化ホウ素粒子を80~99重量%含有し、前記六方晶窒化ホウ素粒子のシート面内方向の配向度が0.8以上1未満であり、前記セルロースナノファイバーが極性基が導入されたセルロースナノファイバーである、熱伝導性シート。
【請求項2】
前記シートの周期加熱法により測定した面内方向の熱拡散率が15~55mm2/sである、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
請求項1に記載の熱伝導性シートを積層した3次元構造体であって、積層方向に垂直な方向の周期加熱法により測定した熱拡散率が5~30mm2/sである、熱伝導性3次元構造体。
【請求項4】
前記シート間にセルロースナノファイバーまたは硬化性樹脂の硬化物からなる有機層を有する、請求項2に記載の熱伝導性3次元構造体。
【請求項5】
鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子と極性基が導入されたセルロースナノファイバーからなるシートが積層した3次元構造体の製造方法であって、前記セルロースナノファイバーと前記窒化ホウ素粒子を混合した水分散液を基板にキャストまたはブレードコートした後、脱水処理してシートを作製する工程、前記シートを積層する工程および積層したシートを圧着する工程を含む、熱伝導性3次元構造体の製造方法。
【請求項6】
前記シートを圧着する工程の前にシートの少なくとも片面に前記セルロースナノファイバーの水分散液または硬化性樹脂を塗布または含浸する工程を含む、請求項4に記載の熱伝導性3次元構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項3または請求項4に記載の熱伝導性3次元構造体のシート積層方向に平行な面が熱源となる面に接するように配置される前記熱伝導性3次元構造体の放熱または熱伝導材の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート面内方向に配向した鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子を高濃度に含む電気絶縁性熱伝導性シート、それを積層した電気絶縁性熱伝導性3次元構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素は、電気伝導性のない鱗片状の結晶粒子で、電子機器の放熱材用フィラーとして期待されている。六方晶窒化ホウ素の熱伝導率は、窒化ホウ素結晶のc軸方向が数W/(K・m)であるのに対し、結晶のa軸方向は~150W/(K・m)と著しく大きいため、この特徴を有効利用すべく、鱗片状粒子の面方向を熱伝導方向と同じ方向に揃えることが試みられている。
【0003】
例えば、六方晶窒化ホウ素と樹脂を混合後、プレスなどによって窒化ホウ素が面内配向したシートを作製し、これを積層した後、積層方向に裁断する方法(特許文献1~2、非特許文献1)、混練した窒化ホウ素と樹脂を第一のギャップを通して窒化ホウ素を流れ方向に配向させた後、第二のギャップにより面方向に略垂直な方向に折り畳みながら融着させる方法(特許文献3)などが開示されている。
【0004】
上記先行技術の製造方法では、樹脂中の窒化ホウ素粒子含有量が増すと粒子同士の接触頻度が増して粒子の動きが制限されるようになるため、窒化ホウ素粒子が配向し難くなる。つまり、窒化ホウ素粒子の含有量と配向を両立させることは困難という問題がある。また、製造工程が複雑なため、製造コストがかかる問題がある。
【0005】
熱伝導性粒子の含有量と配向を両立させる方法としては、膨張黒鉛をバインダレスでプレス成形してシート化する方法(特許文献4)が知られているが、物性の異なる窒化ホウ素ではバインダレスでシート化することは困難である。
【0006】
簡単な工程で窒化ホウ素が面内配向したシートを作製する方法として、ダイヤモンド粒子でコーティングされたセルロースナノファイバーと窒化ホウ素を含む水分散液から濾過や真空加熱プレスで溶媒を除く方法(特許文献5)が開示されている。しかし、得られるシートは多くの空隙を有しているためシート面方向の高い熱伝導率は期待できない。
【0007】
特許文献6では、表面がエステル化及び/又はエーテル化したセルロースナノファイバーと高濃度の窒化ホウ素を混合した液をキャスト法やコーティング法によってシート化して放熱シートを作製する方法が開示されている。だたし、窒化ホウ素のシート面内配向については言及されておらず、実施例のシートの面内方向の熱伝導率も特に高いものではないので、窒化ホウ素のシート面内配向度は低いと推測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平6-38460号公報
【特許文献2】特開平11-019948号公報
【特許文献3】国際公開2016/031212号
【特許文献4】特開2009-055021号公報
【特許文献5】特開2021-21048号公報
【特許文献6】特開2016-79202号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】清水紀弘「ネットワークポリマー」Vol.32,No.4,205-209頁(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、電気絶縁性を有するとともに一方向に配向した鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子を高濃度に含む高熱伝導性シート、および、一方向に配向した高濃度の六方晶窒化ホウ素粒子を含有する高熱伝導性3次元構造体、ならびにそれらを大規模な設備がなくても製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、高濃度の鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子と極性基が導入されたセルロースナノファイバーの混合水分散液を基板にキャストやブレードコートした後、脱水処理すると、水の除去に伴う体積収縮によって六方晶窒化ホウ素粒子が面内配向して高密度化した熱伝導性シートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下の構成からなることを特徴とする。
〔1〕 鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子とセルロースナノファイバーからなるシートであって、前記六方晶窒化ホウ素粒子を80~99重量%含有し、前記六方晶窒化ホウ素粒子のシート面内方向の配向度が0.8以上1未満であり、前記セルロースナノファイバーが極性基が導入されたセルロースナノファイバーである、熱伝導性シート。
〔2〕 前記シートの周期加熱法により測定した面内方向の熱拡散率が15~55 mm2/sである、前記〔1〕に記載の熱伝導性シート。
〔3〕 前記〔1〕に記載の熱伝導性シートを積層した3次元構造体であって、積層方向に垂直な方向の周期加熱法により測定した熱拡散率が5~30mm2/sである、熱伝導性3次元構造体。
〔4〕 前記シート間にセルロースナノファイバーまたは硬化性樹脂の硬化物からなる有機層を有する、前記〔2〕に記載の熱伝導性3次元構造体。
〔5〕 鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子と極性基が導入されたセルロースナノファイバーからなるシートが積層した3次元構造体の製造方法であって、前記セルロースナノファイバーと前記窒化ホウ素粒子を混合した水分散液を基板にキャストまたはブレードコートした後、脱水処理してシートを作製する工程、前記シートを積層する工程および積層したシートを圧着する工程を含む、熱伝導性3次元構造体の製造方法。
〔6〕 前記シートを圧着する工程の前にシートの少なくとも片面に前記セルロースナノファイバーの水分散液または硬化性樹脂を塗布または含浸する工程を含む、前記〔4〕に記載の熱伝導性3次元構造体の製造方法。
〔7〕 前記〔3〕または前記〔4〕に記載の熱伝導性3次元構造体のシート積層方向に平行な面が熱源となる面に接するように配置される前記熱伝導性3次元構造体の放熱または熱伝導材の使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、六方晶窒化ホウ素結晶a軸がシート面内方向に配向した鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子を高濃度に含有することにより配向方向に非常に高い熱伝導性および電気絶縁性を有するシート、そして、それを積層することにより高い熱伝導性および電気絶縁性を有する3次元構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】3次元構造体のシート積層方向に平行な面の走査型電子顕微鏡像
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0016】
〈シート〉
本発明のセルロースナノファイバーと窒化ホウ素粒子とを含む熱伝導性シートは、鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子と極性基が導入されたセルロースナノファイバーからなるシートであって、前記六方晶窒化ホウ素粒子を80~99重量%含有し、前記六方晶窒化ホウ素粒子のシート面内方向の配向度が0.8以上1未満であることを特徴とする。
【0017】
六方晶窒化ホウ素は、電気絶縁性の鱗片状粒子であり、窒素原子とホウ素原子が交互に結合した六角網面が積み重なった六方晶系の結晶構造を有する。
図1に結晶の結晶軸とそれに対応するXRDピークの面指数を模式的に示す。
本発明で用いられる六方晶窒化ホウ素粒子は、市販品等で入手可能な六方晶窒化ホウ素でかつ累積粒度分布のメディアン径(D50粒子径)が4μm以上、好ましくは6μm以上、より好ましくは8μm以上の鱗片状または板状粒子であることが好ましい。メディアン径(D50粒子径)上限は、市販品等で入手可能な六方晶窒化ホウ素に依存し、特に限定されない。メディアン径(D50粒子径)が4μmより小さいと粒子が配向しにくくなる。メディアン径は、動的光散乱法、レーザー回折・散乱法または画像解析法のいずれかで計測された値が好ましい。六方晶窒化ホウ素粒子のアスペクト比(=c軸方向の長さの平均値/メディアン径)は、5以上、好ましくは7以上、より好ましくは9以上である。5より小さいと粒子が配向しにくくなる。なお、メディアン径の異なる粒子を2種以上混ぜて用いても良い。その場合、混合比率は3次元構造体の密度が最も高くなる比率が好ましい。
【0018】
本発明で用いられるセルロースナノファイバーは、極性基が導入されたセルロースナノファイバーであることが好ましい。極性基としては、カルボキシル基あるいはそのアルカリ金属またはアンモニウム塩、スルホ基あるいはそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、リン酸基あるいはそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、亜リン酸基あるいはそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、ザンデート基あるいはそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、カルボキシメチル基、アセチル基などを挙げることができるが、これらに限定されない。本発明のシートを作製する時の媒体として環境面から水が好ましいため、極性基の導入量としては、セルロースナノファイバーが後述する繊維径で水に分散する量であればよい。
【0019】
本発明で用いられるセルロースナノファイバーは、繊維径が細く、繊維長が長いことが好ましい。繊維径としては、走査型電子顕微鏡または原子間力顕微鏡観察によって50本程度の繊維径を測定した場合の最大値が3~100nmの範囲内、好ましくは4~80nmの範囲内、より好ましくは4~50nmの範囲内にある。最大の繊維径が100nmより大きくなるとシートおよび3次元構造体の密度が下がって熱伝導率が低下する。繊維長としては、走査型電子顕微鏡または原子間力顕微鏡観察によって50本程度の繊維長を測定した場合の最小値が、150nm以上、好ましくは200nm以上、より好ましくは300nm以上である。繊維径が細くても繊維長が150nmより小さいとシートの形状を維持し難くなる。なお、上限は特に限定されない。
【0020】
本発明のシートは、シートの80~99重量%、好ましくは81~97重量%、より好ましくは82~95重量%の六方晶窒化ホウ素粒子を含有する。80重量%より少ない場合、シートを積層して3次元構造体とした場合に構造体中の六方晶窒化ホウ素粒子の含有量が50重量%より少なくなりやすいため、3次元構造体の高い熱伝導性が得られなくなる。99重量%より多い場合、シートが崩壊しやすくなる。基本的にシートに含まれる窒化ホウ素以外の成分はセルロースナノファイバーであるが、必要に応じて、窒化ホウ素の一部を置き換える割合で、鱗片状熱伝導性粒子を含むことができる。鱗片状熱伝導性粒子としては、グラファイトや平板状カーボンナノファイバーなどの炭素材、鱗片状のアルミニウム、銅、銀などの金属、鱗片状アルミナなどの金属酸化物などを挙げることができる。窒化ホウ素を置き換える割合としては、導電性のある炭素材や金属の場合、シートの表面抵抗率が10
-4以上、好ましくは10
-5以上、より好ましくは10
-6 Ω/sq.以上となる範囲内であれば良い。シートの表面抵抗率が10
-4より小さいとシートを積層して3次元構造体とした場合に構造体の絶縁性が悪くなる。導電性のない金属酸化物の場合は、窒化ホウ素よりも熱伝導率が低いものが多いため、窒化ホウ素の20重量%以下、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下とすることが好ましい。なお、
図2に示すように本発明のシートは凹凸のある構造をしていて正確な体積を決めにくいため、重量基準で六方晶窒化ホウ素粒子の濃度を規定する。
【0021】
本発明のシートの実測密度は、窒化ホウ素とセルロースナノファイバーの組成から計算される密度の80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。80%より小さいと空隙が増えてシート面内方向の熱伝導性が悪くなる。シートの密度はガス置換法によって測定することができる。
【0022】
本発明のシートの厚みは、1~800μm、好ましくは3~700μm、より好ましくは5~600μmである。1μmより薄いとシートの強度が低下して積層しづらくなる。800μmより厚い場合、シート内の空隙が増加して熱伝導に悪影響がでやすい。
【0023】
六方晶窒化ホウ素粒子のシート面内方向の配向度は、シート表面のX線回折測定を行い、下記式(1)で定義される式により求めたものである。
配向度=I002/(I002+I100) (1)
ここで、I002:X線回折における六方晶窒化ホウ素結晶の(002)ピークの積分強度、I100:X線回折における六方晶窒化ホウ素結晶の(100)ピークの積分強度。
【0024】
六方晶窒化ホウ結晶のc軸がシート面に垂直に向く割合が高くなるほど(002)ピーク強度が大きくなるため、式(1)から配向度は大きくなる。すなわち、シート面内配向している六方晶窒化ホウ素粒子が多くなる。すべての窒化ホウ素粒子結晶のc軸が同じ方向に配向した場合、配向度は1となる。本発明の熱伝導性シートは、前記六方晶窒化ホウ素粒子のシート面内方向の配向度は、0.8以上1未満、好ましくは0.83以上0.99以下、より好ましくは0.85以上0.98以下である。配向度が0.8未満では、六方晶窒化ホウ素粒子の配向の乱れが大きくなるため、シート面内方向の熱伝導に悪影響が出やすくなる。
【0025】
本発明のシートは、シート内の六方晶窒化ホウ素粒子の配向度と濃度が前記範囲内であれば、周期加熱法により測定したシートの面内方向の熱拡散率は15~55mm2/s、好ましくは17~53mm2/s、より好ましくは20~50mm2/sと非常に高い熱伝導性を示す。なお、一般に用いられている熱伝導率は熱拡散率と密度と熱容量の積で算出されるが、本明細書では周期加熱法により絶対値として得られる熱拡散率が対象の熱物性を最も正確に表していると判断し、熱伝導性を示す指標として周期加熱法による熱拡散率を採用した。
【0026】
〈シートの作製方法〉
本発明の熱伝導性シートは、前記セルロースナノファイバーを含有する水分散液に所定量の前記六方晶窒化ホウ素粒子を混合して分散処理した混合液を基材に塗布した後、常温または100℃未満の加熱乾燥、あるいはアルコールやアセトンなどの親水性有機溶媒浸漬による脱水処理後、乾燥することにより作製できる。前記セルロースナノファイバーを含有する水分散液中の前記セルロースナノファイバーの濃度は、セルロースナノファイバーの作製方法によって異なるが、TEMPO酸化法によって作製されたセルロールナノファイバーでは、0.2~1.7重量%、好ましくは0.3~1.5重量%、より好ましくは0.4~1.3重量%である。0.2重量%より少ないと窒化ホウ素粒子が沈降しやすくなって塗膜に濃度むらが出やすい。1.7重量%より多いと塗布し難くなる。前記セルロース水分散液に添加する前記六方晶窒化ホウ素粒子の量は、作製後の前記熱伝導性シート中の前記六方晶窒化ホウ素粒子が80~99重量%になる量である。セルロースナノファイバーを含有する液への窒化ホウ素粒子の分散処理は、超音波洗浄機、超音波ホモジナイザー、マグネチックスターラー、メカニカルスターラー、遊星式ボールミル、ビーズミル、高速攪拌機、プラネタリーミキサー、フィルミックス(登録商標:プライミクス社)などを用いて行うことができる。混合液を基材上に塗布する方法としては、ブレードコートやロールコートのような塗布液に対してせん断力の働く方法が好ましい。塗布膜の厚さは、乾燥シートの厚さが1~800μmになるように調整すれば良い。
【0027】
〈3次元構造体〉
本発明の熱伝導性3次元構造体は、セルロースナノファイバーと窒化ホウ素粒子を含むシートが2枚以上積層した構造を有し、以下のような物性を有する。
【0028】
本発明の熱伝導性3次元構造体は、シート積層方向に垂直な面において、前記式(1)で定義される六方晶窒化ホウ素粒子の配向度が、0.7以上1未満、好ましくは0.75以上0.99以下、より好ましくは0.8以上0.98以下となる。なお積層方向に垂直な面は曲面であっても良い。
【0029】
前記式(1)から明らかなように、すべての六方晶窒化ホウ素粒子のc軸が同じ方向に配向した場合、配向度は1となる。配向度が大きいほど、シート積層方向に垂直な面において面内配向している六方晶窒化ホウ素粒子が多くなる。配向度が0.7より小さい場合、前記3次元構造体の内部に六方晶窒化ホウ素粒子の向きを乱すような構造的欠陥があることを示している。
【0030】
シート積層方向に対する六方晶窒化ホウ素粒子の傾きは、シート積層方向に対する六方晶窒化ホウ素結晶a軸の角度Φを下記式(2)(J.Hu et al.,Composites Science and Technology 160,2018,127-137)によって算出することにより評価できる。なお、算出される角度Φは、多数の六方晶窒化ホウ素粒子がなす角度の平均値であり、最大値は90°となる。
Φ = Σ(Ihkl×φhkl)/ΣIhkl (2)
ここで、Ihklは、シート積層方向に並行な面のX線回折における六方晶窒化ホウ素結晶の回折ピークの積分強度、φhklは六方晶窒化ホウ素結晶のa軸と(hkl)面間の角度で(3)式より算出される。
cosφhkl=(31/2al)/(h2+k2+l2+(3al/2c)2)1/2 (3)
ここで、aとcは六方晶窒化ホウ素の結晶パラメーター(a=0.2173、c=0.6657)、h、k、lはそれぞれ六方晶窒化ホウ素のミラー指数。
【0031】
Φはシート積層方向に対して50°≦Φ≦90°、好ましくは55°≦Φ≦89°、より好ましくは60°≦Φ≦88°の範囲にある。50°より小さい場合、シート積層方向に対してランダムな方向を向いている六方晶窒化ホウ素粒子の割合が多くなる。
【0032】
前記3次元構造体に含有される六方晶窒化ホウ素粒子は、50~93体積%、好ましくは60~92体積%、より好ましくは70~91体積%である。含有量の下限は限定されないが、3次元構造体に必要とされる熱伝導性を考慮すると50体積%以上が好ましい。
【0033】
前記3次元構造体の密度は、前記窒化ホウ素と前記セルロースナノファイバーの組成から計算される密度の70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上である。70%より小さいと前記3次元構造体を放熱または熱伝導材として用いた時の熱伝導性能が不十分となる。
【0034】
本発明の熱伝導性3次元構造体は、前記シート積層方向に垂直な面における六方晶窒化ホウ素粒子の配向度と濃度とシート積層方向に対する六方晶窒化ホウ素粒子の傾きが前記範囲内であれば、周期加熱法により測定したシート積層方向に垂直な方向の熱拡散率は5~30mm2/s、好ましくは7~28mm2/s、より好ましくは10~25mm2/sとなる。
【0035】
〈3次元構造体の作製方法〉
本発明の熱伝導性3次元構造体は、前記熱伝導性シートを2枚以上積層して圧着することで作製される。積層する方法としては、例えば、(1)大きなシートから所定の大きさのシートを切り出してこれらを積み重ねる方法、(2)大きなシートを所定の大きさで折りたたむ方法、(3)1枚または複数枚のシートを順に巻き重ねる方法、(4)前記(1)または前記(2)の方法で作った複数の積層体をシート積層方向にさらに積層する方法、(5)前記(1)または前記(2)と前記(3)を組み合わせた方法、などを挙げることができる。積層枚数の上限は、3次元構造体の望む大きさに合わせて選択すればよい。圧着する時の圧力は、圧力により3次元構造体の密度が変わるため、3次元構造体の目的・用途によって調整することができる。ただし、密度を高めるために圧力をかけ過ぎると、六方晶窒化ホウ素粒子間の滑りが発生して3次元構造体が崩壊しやすくなる。およその圧力の上限は、100MPa、好ましくは80MPa、より好ましくは60MPaである。こうした加圧は、ラボプレスなどのプレス機や小さいサンプルならバイスを用いて行うことができる。
【0036】
圧着に際して、シート間の接着を確実にするためにシート間に前記セルロースナノファイバーの水分散液または硬化性の樹脂を塗布または含浸することができる。硬化性の樹脂としては、ラジカル重合性のモノマーやオリゴマー、ラジカル硬化性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、湿気硬化性シリコーン樹脂、熱硬化性シリコーン樹脂などの液状樹脂を挙げることができる。塗布方法としては、シート片面に前記セルロースナノファイバーの水分散液または液状樹脂を塗布して積層すればよい。含浸方法としては、積層したシートを前記セルロースナノファイバーの水分散液または樹脂液に浸漬するなどの方法で実施できる。なお、樹脂を塗布または含浸した場合、シート間に閉じ込められた空気を除くため、圧着操作前に減圧などにより脱泡することが好ましい。次いで、積層シートに適切な圧力をかけたまま樹脂に応じた硬化処理を行って、3次元構造体となる。
【0037】
(放熱または熱伝導材としての使用)
前記熱伝導性3次元構造体は、前記熱伝導性3次元構造体のシート積層方向に平行な面が熱源となる面に接するように配置される前記熱伝導性3次元構造体の放熱または熱伝導材として使用することができる。
前記熱伝導性3次元構造体を放熱または熱伝導材として使う場合は、シート積層方向に並行な面が熱源となる面に対して30°以上、好ましくは40°以上、より好ましくは50°以上の角度になるように配置されることが好ましい。30°より小さい角度になると、放熱または熱伝導効果が悪くなる。なお、上限は90°となる。熱源としては特に限定されないが、例えば、パワー半導体、高集積ロジックIC、リチウムイオン電池などが挙げられる。
【0038】
熱源の面積が大きい場合、曲面である場合、複雑な面で構成される場合などは、3次元構造体をタイルのように敷き詰めてもよい。曲面の場合は、その曲率に合わせて3次元構造体と面との間に隙間ができないように3次元構造体の大きさを調整することができる。
【実施例0039】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例には限定されない。
【0040】
(実施例1)
(セルロースナノファイバーと窒化ホウ素粒子を含むシート1)
日本製紙製セルロースナノファイバー セレンピア(登録商標)(1%水分散液)18.0gと蒸留水13.0gをマグネチックスターラーで20分撹拌後、超音波洗浄機(アズワン製ASU-6)で1時間脱泡処理をした。この液にAR BROWN製鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子HSL(カタログ記載D50平均粒子径30μm)2.5gを添加して、マグネチックスターラーで20分撹拌して窒化ホウ素分散液を得た。次いで、ガラス基板に窒化ホウ素分散液をのせ、間隔200μmのアプリケーターで塗膜を作製した。これをアセトンに5分間浸漬後、ガラス基板から剥離したシートを60℃で乾燥して厚み32μmのシート1を得た。シート面のXRD測定を行い、窒化ホウ素の配向度を算出したところ0.90であった。ガス置換法で測定した密度は1.98であり、理論密度の95%であった。シート面内方向の熱拡散率測定(使用機器:ベテル製サーモウェーブアナライザTA)を行ったところ、2測定点平均の熱拡散率は25.7mm2/s(実測密度と比熱から計算される熱伝導率は41.0W/(K・m))であった。また、シート厚さ方向の2測定点平均の熱拡散率は0.562mm2/s(実測密度と比熱から計算される熱伝導率は0.90W/(K・m))であった。
【0041】
(実施例2)
(セルロースナノファイバーと窒化ホウ素粒子を含むシート2)
日本製紙製セルロースナノファイバー セレンピア(登録商標)(1%水分散液)18.0gと蒸留水8.0gをマグネチックスターラーで20分撹拌後、超音波洗浄機(アズワン製ASU-6)で1時間脱泡処理をした。この液にAR BROWN製鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子HSL(カタログ記載D50平均粒子径30μm)2.0gを添加して、マグネチックスターラーで20分撹拌して窒化ホウ素分散液を得た。次いで、ガラス基板に窒化ホウ素分散液をのせ、間隔150μmのアプリケーターで塗膜を作製した。ついで、110μmのスペーサーを設け、間隔150μmのアプリケーターで先に作製した塗膜にさらに塗膜を積層した。この作業を計8回行った後、塗膜をアセトンに10分間浸漬後、ガラス基板から剥離したシートを60℃で乾燥して厚み130μmのシート2を得た。シート面のXRD測定を行い、窒化ホウ素の配向度を算出したところ0.89であった。
【0042】
(3次元構造体1)
シート2から幅2cm、長さ3cmのシートを10枚切り出し、これらを重ねてバイスで圧縮して厚さ596μmの薄板を作製した。ガス置換法で測定した密度は1.95であり、理論密度の95%であった。この薄板の熱拡散率測定を行ったところ、シート積層方向に垂直な方向の2測定点平均の熱拡散率は35.7mm2/s(実測密度と比熱から計算される熱伝導率は57.0W/(K・m))であった。また、薄板厚さ方向の2測定点平均の熱拡散率は0.291mm2/s(実測密度と比熱から計算される熱伝導率は0.46W/(K・m))であった。
【0043】
(実施例3)
(3次元構造体2)
幅6cm、長さ20cmのシート2を幅方向に折りたたんで幅約1cm、長さ20cmの短冊状にした後、長さ方向に巻いていって高さ約1cm、長さ約2.5cm、幅約2mmのバウムクーヘンを押しつぶしたような積層体を作製した。同じ作業を計7回行って、7個の積層体を作り、エポキシ樹脂(日新レジン製クリスタルレジンNEO+硬化剤)の50%MEK溶液に10分浸漬した。次いで、取り出して直方体状の積層体の長辺が重なるように並べてバイスで軽く圧縮して、1時間減圧処理した後、さらにバイスで圧縮しながら2日間放置して硬化させ、圧縮方向にシートが積層した3次元構造体試料を得た。試料のシート積層面のSEM画像(
図3)から、殆どの窒化ホウ素粒子が一定の方向に向いていることがわかった。
【0044】
試料から高さ約5mm、長さ約20mm、幅約6mmのブロックを削り出し、その密度をガス置換法で測定したところ1.79であり、理論密度の87%であった。ブロックのシート積層方向垂直面のXRD測定を行い、窒化ホウ素の配向度を算出したところ0.85であり、窒化ホウ素はよく配向していることがわかった。また、ブロックのシート積層方向並行面のXRD測定を行い、シート積層方向に対する窒化ホウ素結晶a軸の角度Φを算出したところ77°であり、殆どの窒化ホウ素粒子はSEM観察結果と同様に一定の方向に向いていることがわかった。
【0045】
次にブロックから厚さ0.799mm×長さ20mm×幅5mmの試料を作製し、シート積層方向に垂直な方向の熱拡散率測定(使用機器:ベテル製サーモウェーブアナライザTA)を行ったところ、6測定点平均の熱拡散率は12.6mm2/s(実測密度と比熱から計算される熱伝導率は18.8W/(K・m))であった。
本発明の熱伝導性シートは、シート面内方向の熱伝導性が非常に高いが厚み方向の熱伝導性はとても低いため、熱を特定の方向に誘導することができる電気絶縁性を有する機能性材料、例えば機能性断熱材料となり得る。さらに柔軟で高い加工性を有してため、シートを折りたたんだり巻いたりすることで、容易にシート積層体とすることができる。そのことにより、電気絶縁性を有するとともにシート積層方向に垂直な方向にひじょうに高い熱伝導性を示す放熱または熱伝導性材料を簡単な工程で作製することができる。