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特開2024-128412食肉加工品の製造方法及び食肉加工品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128412
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】食肉加工品の製造方法及び食肉加工品
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/75 20230101AFI20240913BHJP
   A23L 27/14 20160101ALI20240913BHJP
   A23L 13/60 20160101ALI20240913BHJP
【FI】
A23L13/75
A23L27/14
A23L13/60 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037376
(22)【出願日】2023-03-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000113067
【氏名又は名称】プリマハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慶一
(72)【発明者】
【氏名】西山 彰
(72)【発明者】
【氏名】白須 直樹
(72)【発明者】
【氏名】長井 めぐみ
【テーマコード(参考)】
4B042
4B047
【Fターム(参考)】
4B042AC01
4B042AC03
4B042AD01
4B042AD03
4B042AD07
4B042AD18
4B042AD20
4B042AD39
4B042AE02
4B042AE03
4B042AE10
4B042AG03
4B042AG07
4B042AH01
4B042AH02
4B042AK01
4B042AK04
4B042AK11
4B042AK20
4B042AP03
4B042AP07
4B042AP16
4B042AP17
4B042AP18
4B042AP20
4B042AP21
4B042AP23
4B042AP30
4B047LB02
4B047LB09
4B047LE06
4B047LE10
4B047LF04
4B047LG43
4B047LG44
4B047LG70
4B047LP08
4B047LP15
4B047LP20
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、挽きたて時のスパイスの新鮮な香味を有し、香味に優れた食肉加工品の製造方法及び食肉加工品を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、スパイスを微粉砕処理する微粉砕スパイス調製工程と、特定の条件下で微粉砕スパイスを封入する微粉砕スパイス封入工程と、特定の条件下で微粉砕スパイスと食肉原料を配合する微粉砕スパイス配合工程と、を含み、微粉砕スパイス配合工程を経て作製された製品のpHが5.8以下となる食肉加工品の製造方法及び食肉加工品を提供する。
本発明によれば、スパイスの香気成分が低下することを抑制し、香味に優れた食肉加工品の製造方法及び食肉加工品を提供することができる。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種又は2種以上のスパイスを選択・混合した後、微粉砕処理を施して微粉砕スパイスを調製する微粉砕スパイス調製工程と、
前記微粉砕スパイス調製工程で得られた微粉砕スパイスを、24時間以内に不活性ガスとともに酸素非透過性若しくは酸素難透過性の包装体に充填・封入し、酸素非存在下で貯蔵する微粉砕スパイス封入工程と、
前記微粉砕スパイス封入工程の後、微粉砕スパイスが封入された包装体を、封入から15日以内に開封し、かつ開封後所定時間以内の微粉砕スパイスを、塩処理により塩溶性タンパク質を溶出した食肉原料に添加及び/又は接触させる微粉砕スパイス配合工程と、を含み、
前記微粉砕スパイス配合工程を経て作製された製品のpHが5.8以下となることを特徴とする、食肉加工品の製造方法。
【請求項2】
前記製品の脂肪量が、25重量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の食肉加工品の製造方法。
【請求項3】
前記微粉砕スパイス調製工程は、ブラックペッパー、ホワイトペッパー、グリーンペッパー、セージ、メース、カルダモン、ガーリック、コリアンダー、バジル、キャラウエー、オールスパイス、シナモン、オレガノ、マジョラム、ナツメグ、オニオン、タイムからなる群のうち、1種又は2種以上のスパイスを選択・混合し、微粉砕することを特徴とする、請求項1又は2に記載の食肉加工品の製造方法。
【請求項4】
前記微粉砕スパイス封入工程における酸素非透過性若しくは酸素難透過性の包装体が、アルミニウム蒸着包材製の包装体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の食肉加工品の製造方法。
【請求項5】
塩処理により塩溶性タンパク質を溶出した食肉原料と、微粉砕スパイスと、を含有し、pHが5.8以下となる食肉加工品であって、
前記微粉砕スパイスは、
1種又は2種以上のスパイスを選択・混合した後、微粉砕処理を施し、24時間以内に不活性ガスとともに酸素非透過性若しくは酸素難透過性の包装体に充填・封入し、酸素非存在下で貯蔵された包装体を、封入から15日以内に開封し、かつ開封後所定時間以内に使用されるものであることを特徴とする、食肉加工品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉加工品の製造方法及び食肉加工品に関するものである。より詳しくは、本発明は、香味に優れた食肉加工品の製造方法及び食肉加工品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハム、ソーセージやハンバーグ等の食肉加工品の製造方法においては、塩、醤油、砂糖などの一般的な調味料に、肉の味によく適合したガーリック、オニオン、ジンジャー等の根塊類スパイスを更に添加することにより風味が向上することは一般的によく知られている。一方、肉類由来の加工食品は、肉類が持つ獣臭、生臭さ等独特の不快風味があり、これを抑えるべく、一般的にコショウ、ローズマリー、ローレル、タイム、ナツメグ、メース等のハーブ系スパイス、その他スパイスが用いられている。
【0003】
この種の食肉加工品用の調味香辛料として、多種類の油脂製香辛料の必要量を混和し、その混和物を40℃~50℃に加熱して均一に混和撹拌し、得られた混合油脂性混和物を塩に添加して混合撹拌することによって油脂性香辛料を塩の結晶に分散付着させることよりなるハム、ソーセージ製造用調味香辛料の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、畜肉ねり製品の製造時にその原料に添加される畜肉ねり製品用調味料の製造方法であって、少なくとも複数種の天然の香辛料よりなる混合香辛料から酒精を用いて香辛料成分を抽出して得た抽出液に水を加えて非水溶性成分を析出させ、これに活性炭を加えて撹拌した後、これをろ過して香辛料抽出液を得る段階と、得られた香辛料抽出液に香味野菜及び果実類を酵素分解して得られる野菜・果実の酵素分解液と、糖類、食塩、天然調味料、及び醸造酢とを加える段階とよりなる畜肉製品用調味料の製造方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、ガーリック、オニオン、ジンジャーからなる群から選択される根塊類スパイス乾燥微粉末の1種以上と紅茶熱水抽出物とを含有する、肉類又は肉類加工食品の風味向上剤が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
スパイス自体についてみると、香気の劣化が少なく、優れた香気を有する高品質の粉砕香辛料を製造するため、香辛料ホールを果実部と種皮部とに分け、該果実部を45℃以下、かつ実質的に密封状態で粉砕し、これとは別に該種皮部を粉砕し、かつ上記の粉砕された果実部及び種皮部を混合する粉砕香辛料の製造方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
また、香気、風味を殆ど損うことなく粒度の細かい高品質の粉末香辛料を得るために、高速粉砕機を用いて香辛料粗粒を粉砕する際に、冷媒を供給して粉砕物を吸熱冷却しながら粉砕することにより、1回の粉砕工程で能率よく製造する方法が知られている(例えば、特許文献5参照)。
【0008】
一方、塩等の調味料の保存技術として、食塩の特性を維持するため、高温の食塩をあらかじめ十分乾燥して、乾燥雰囲気中で平均粒径100ミクロン以下に微粉砕し、乾燥雰囲気を保持したまま、微粉砕した食塩をアルミ箔製の包装袋に密封する微粒食塩の固結防止方法が知られている(例えば、特許文献6参照)。
【0009】
他方、香りと味を維持する技術として、焙煎したコーヒー豆の香りと味を焙煎したときのままに維持できるようにするために、気密性包装体(例えば、アルミ箔)の中に焙煎したコーヒー豆を入れて密封することによりコーヒーを保存する方法において、該気密性包装体の中の雰囲気ガスをCO含有ガスで置換するコーヒー豆の保存方法が知られている(例えば、特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭49-037272号公報
【特許文献2】特開昭63-017676号公報
【特許文献3】特開2000-224967号公報
【特許文献4】特開平6-090700号公報
【特許文献5】特開平8-242808号公報
【特許文献6】特開平5-345610号公報
【特許文献7】特開平5-000048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ハム、ソーセージやハンバーグ等の食肉加工品の製造に使用される従来のスパイスは、スパイスメーカーにおいて、スパイスを原形のまま殺菌処理し、細菌の事前確認検査を行い、スパイスを単品毎に微粉砕処理し、次いで粒度の均一化と異物除去のシフター処理を行い、再度細菌試験を行い、細菌検査終了後(微粉砕2日目以降)に、ガスバリア性の低い包材に空気の存在下で単品毎に包装(空気混入)した後、出荷され、賞味期限は約1年とされていた。そして、食肉加工メーカーでは、上記空気混入状態の各種微粉砕スパイスの包装体を入荷後常温保管し、各種微粉砕スパイスを使用ロットに合わせて計量した後、ブレンドし、使用までの2~7日間専用の容器に入れて保管していた。
【0012】
これら従来の調製方法によるスパイスを用いた粗挽きソーセージの製造は、原料肉の異物チェックを行い、原料肉をグラインダーを用いて適切なサイズに細切りし、この細切りした食肉に塩漬剤(食塩、発色剤、リン酸塩等)を入れミキサーで混合して所定時間静置し、これに前日~1週間前にあらかじめ計量しておいた添加物(スパイス、調味料、保存料等)をミキサーを用いて脱気・混合した後、ケーシングに充填し、乾燥・スモーク・蒸煮等の熱処理を行い、製品としていた。
【0013】
また、従来のハム・ベーコンの製造は、原料肉の異物チェックと脂肪厚の調整を含む整形処理の後、スパイスを使用する場合は、そのままではピックル液に溶解しないので、インジェクターに適用し得るようにスパイスの熱水抽出液を作製し、この熱水抽出液を混合したピックル液をインジェクターで食肉原料にインジェクションし、タンブラーでマッサージして所定時間静置した後、ケーシングに充填し、乾燥・スモーク・蒸煮等の熱処理を行い、製品としていた。
【0014】
しかし、従来のハム、ソーセージ、ハンバーグ等の食肉加工品は、香味の点で十分と言い得るものではなかった。
本発明の課題は、挽きたて時のスパイスの新鮮な香味を有し、咀嚼時に感じる香味の強度、嚥下後に残る香味の強度、焼きさまし後に食したときの香味の強度に優れ、かつ、口に入れたときに香味を感じるまでの時間が早く、香味が口の中に残る香味の持続時間が長く、畜肉臭が矯臭されるなど、香味に優れた食肉加工品の製造方法及び食肉加工品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、調製及び保管に関して特定の工程を経たスパイスを用いるとともに、製品のpH調整を行うことで、スパイスの香気成分が低下することを抑制した食肉加工品の製造及び食肉加工品の提供が可能となるという知見に至り、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の食肉加工品の製造方法及び食肉加工品である。
【0016】
上記課題を解決するための本発明の食肉加工品の製造方法は、1種又は2種以上のスパイスを選択・混合した後、微粉砕処理を施して微粉砕スパイスを調製する微粉砕スパイス調製工程と、微粉砕スパイス調製工程で得られた微粉砕スパイスを、24時間以内に不活性ガスとともに酸素非透過性若しくは酸素難透過性の包装体に充填・封入し、酸素非存在下で貯蔵する微粉砕スパイス封入工程と、微粉砕スパイス封入工程の後、微粉砕スパイスが封入された包装体を、封入から15日以内に開封し、かつ開封後所定時間以内の微粉砕スパイスを、塩処理により塩溶性タンパク質を溶出した食肉原料に添加及び/又は接触させる微粉砕スパイス配合工程と、を含み、微粉砕スパイス配合工程を経て作製された製品のpHが5.8以下となることを特徴とするものである。
本発明の食肉加工品の製造方法によれば、1種又は2種以上のスパイスを選択・混合して微粉砕を行った後、特定条件下で封入・保管されたスパイスを所定期間以内に開封・使用するとともに、製品(食肉加工品)のpH調整を行うことで、スパイスの香気成分が低下することを抑制することができる。また、これにより、挽きたて時のスパイスの新鮮な香味を有し、咀嚼時に感じる香味の強度、嚥下後に残る香味の強度、焼きさまし後に食したときの香味の強度に優れ、かつ、口に入れたときに香味を感じるまでの時間が早く、香味が口の中に残る香味の持続時間が長く、畜肉臭が矯臭されるなど、香味に優れた食肉加工品の製造を行うことが可能となる。
【0017】
本発明の食肉加工品の製造方法の一実施態様としては、製品の脂肪量が、25重量%以上であることを特徴とするものである。
通常、食肉原料にスパイスを添加して作製される製品(食肉加工品)においては、製品として含有する脂肪量が増加することで、咀嚼時に感じる香味の強度、嚥下後に残る香味の強度、焼きさまし後に食したときの香味の強度などといった各種香味強度の低下、いわゆる香り立ちが弱くなるという現象が生じることが知られている。
一方、この特徴によれば、一定程度以上の脂肪量を含む製品であっても、挽きたて時のスパイスの新鮮な香味を有し、かつ香り立ちを維持した製品(食肉加工品)の製造を行うことが可能となる。
【0018】
また、本発明の食肉加工品の製造方法の一実施態様としては、微粉砕スパイス調製工程は、ブラックペッパー、ホワイトペッパー、グリーンペッパー、セージ、メース、カルダモン、ガーリック、コリアンダー、バジル、キャラウエー、オールスパイス、シナモン、オレガノ、マジョラム、ナツメグ、オニオン、タイムからなる群のうち、1種又は2種以上のスパイスを選択・混合し、微粉砕することを特徴とするものである。
この特徴によれば、食肉加工品に添加するスパイスとして、肉の味に適合し、十分な香味強度を示すことに加え、口に入れたときに香味を感じるまでの時間をより早め、口の中に残る香味の持続時間をより長くし、畜肉臭がより矯臭されるなど、より風味及び香味に優れた食肉加工品の製造を行うことが可能となる。
【0019】
さらに、本発明の食肉加工品の製造方法の一実施態様としては、微粉砕スパイス封入工程における酸素非透過性若しくは酸素難透過性の包装体が、アルミニウム蒸着包材製の包装体であることを特徴とするものである。
この特徴によれば、酸素非透過性能が高く、遮光機能を備えた素材からなる包装体を用いることで、封入・保管時において微粉砕スパイスの香気成分が低下することをより一層抑制することが可能となる。
【0020】
上記課題を解決するための本発明の食肉加工品は、塩処理により塩溶性タンパク質を溶出した食肉原料と微粉砕スパイスとを含有し、pHが5.8以下となる食肉加工品であって、微粉砕スパイスは、1種又は2種以上のスパイスを選択・混合した後、微粉砕処理を施し、24時間以内に不活性ガスとともに酸素非透過性若しくは酸素難透過性の包装体に充填・封入し、酸素非存在下で貯蔵された包装体を、封入から15日以内に開封し、かつ開封後所定時間以内に使用されるものであることを特徴とするものである。
本発明の食肉加工品によれば、1種又は2種以上のスパイスを選択・混合して微粉砕を行った後、特定条件下で封入・保管されたスパイスを所定期間以内に開封・使用するとともに、pH調整を行うことで、スパイスの香気成分が低下することを抑制することができる。また、これにより、挽きたて時のスパイスの新鮮な香味を有し、咀嚼時に感じる香味の強度、嚥下後に残る香味の強度、焼きさまし後に食したときの香味の強度に優れ、かつ、口に入れたときに香味を感じるまでの時間が早く、香味が口の中に残る香味の持続時間が長く、畜肉臭が矯臭されるなど、香味に優れた食肉加工品を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、挽きたて時のスパイスの新鮮な香味を有し、咀嚼時に感じる香味の強度、嚥下後に残る香味の強度、焼きさまし後に食したときの香味の強度に優れ、かつ、口に入れたときに香味を感じるまでの時間が早く、香味が口の中に残る香味の持続時間が長く、畜肉臭が矯臭されるなど、香味に優れた食肉加工品の製造方法及び食肉加工品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】スパイスの微粉砕後における香気成分の挙動(香気成分濃度の経時変化)についての分析結果を示す図である。
図2】微粉砕後の経過時間が異なるスパイスを用いたソーセージにおける香気成分の分析結果を示す図である。
図3】製品のpHとスパイスの香気成分量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の食肉加工品の製造方法及び食肉加工品について詳細に説明する。なお、実施態様に記載する事項については、本発明を説明するために例示したに過ぎず、これらに限定されるものではない。また、物の発明についての記載は、実質的に同一とみなせる方法の発明(製造方法)の説明に置き換えるものとする。
【0024】
本発明者らは、まずスパイスの微粉砕後における香気成分の挙動について分析を行った。具体的には、11種類のスパイスをあらかじめ混合して微粉砕し、ガスクロマトグラフィーにより経時的な香気成分の濃度変化を調べた。このとき微粉砕スパイスの保管方法としては、冷凍密閉保管(アルミ包材で密封後冷凍保管;空気混入)、25℃密封保管(アルミ包材で密封後25℃保管;空気混入)及び25℃開放保管(開放状態で25℃保管)の3方法で行った。結果を図1に示す。
図1の「冷凍密閉保管」と「25℃密封保管」との比較から、アルミ包材での密封保管においては、保管温度の差異による香気成分濃度の経時変化にはほとんど差がないことがわかった。また、図1の「25℃密封保管」と「25℃開放保管」との比較から、密封保管では経時的に香気成分濃度の減少は余り見られないが、開放保管では2日目以降に香気成分が有意に低下することや、ピークの高い香気成分の減少率が特に大きいことがわかった。この結果から、スパイスを微粉砕した後、24時間以内に密封包装、特に酸素非存在下に保管することがスパイスの挽きたての香気を有効利用する上で好ましいことがわかった。また、粉砕後17日以内に微粉砕スパイスを使用することが好ましいことがわかった。
【0025】
また、微粉砕後12時間以内のスパイスと、微粉砕後一週間経過後のスパイスを用いてソーセージを作製し、香気成分のガスクロマトグラフィー測定を行った結果を図2に示す。
図2より、微粉砕後一週間経過後のスパイスを用いたソーセージの香気成分は、微粉砕後12時間以内のスパイスを用いたソーセージの香気成分に比べて少ないことがわかった。
【0026】
本発明は、上記知見に基づく食肉加工品の製造方法及び食肉加工品に係る発明である。
すなわち、本発明の香味に優れた食肉加工品の製造方法は、1種又は2種以上のスパイスを選択・混合した後、微粉砕処理を施して微粉砕スパイスを調製する微粉砕スパイス調製工程と、得られた微粉砕スパイスを、24時間以内に不活性ガスとともに酸素非透過性若しくは酸素難透過性の包装体に充填・封入し、酸素非存在下で貯蔵する微粉砕スパイス封入工程と、微粉砕スパイスが封入された包装体を、封入から15日以内に開封し、かつ開封後所定時間以内の微粉砕スパイスを、塩処理により塩溶性タンパク質を溶出した食肉原料に添加及び/又は接触させる微粉砕スパイス配合工程とを含み、かつ、微粉砕スパイス配合工程を経て作製された製品(食肉加工品)のpHが5.8以下となる方法であればよく、具体的な内容については特に限定されない。なお、微粉砕スパイス調製工程及び微粉砕スパイス封入工程を経た後、微粉砕スパイス配合工程において包装体開封後、所定時間以内の微粉砕スパイスについては、以下、「挽きたてスパイス」と呼ぶものとする。
同様に、本発明の食肉加工品は、塩処理により塩溶性タンパク質を溶出した食肉原料と、上記挽きたてスパイスと、を含有し、pHが5.8以下となる食肉加工品であればよく、その他の含有物については特に限定されない。
【0027】
本発明における食肉加工品の製造に用いる原料肉(食肉原料)としては、豚肉、牛肉、馬肉、羊肉、山羊肉、猪肉等の畜肉、鶏肉、七面鳥肉等の家禽肉、魚肉等の可食性肉であればどのようなものでもよく、また、肉の種類もバラ肉、ロース肉、肩肉、胴肉等を単独若しくは2種以上混合して使用することができる。
なお、本発明においては、整形処理や塩処理等の各種処理を行う前の可食性肉を「原料肉」と呼び、処理済みのものを「食肉原料」と呼ぶものとする。
【0028】
本発明における食肉加工品の具体例としては、ハム・ベーコン、ソーセージ・ハンバーグ、唐揚げ・フライドチキン等のフライ製品など、従来公知の食肉加工品を挙げることができる。より具体的には、ボンレスハム、ロースハム、ショルダーハム、プレスハム、混合プレスハム、ベーコン、ロースベーコン、ショルダーベーコン、ミドルベーコン、サイドベーコン、ボロニアソーセージ、フランクフルトソーセージ、ウィンナーソーセージ、リオナソーセージ、レバーソーセージ、レバーペースト、フレッシュソーセージ、スモークソーセージ、クックドソーセージ、セミドライソーセージ、ドライソーセージ、混合ソーセージ等を挙げることができる。
また、ハム、ソーセージの包装材料としては、通常これらの製造において使用されるものを用いることができ、例えば牛腸、豚腸、羊腸、コラーゲンフィルム、セルロースフィルムなどのほか、合成樹脂フィルム、例えば、塩化ビニリデン系樹脂(例えば、塩化ビニル-塩化ビニリデン系共重合体、アルキル(メタ)アクリレート-塩化ビニリデン系共重合体) 、オレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、エチレン系共重合体、ポリプロピレン、ポリプロピレン系共重合体、環状オレフィン系樹脂)、ポリアミド樹脂(脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド)などからなるフィルム及びこれらからなる各種多層フィルムであってもよい。
【0029】
本発明におけるスパイス(香料物質)としては、ブラックペッパー、ホワイトペッパー、グリーンペッパー、セージ、メース、カルダモン、ガーリック、コリアンダー、キャラウエー、オールスパイス、シナモン、オレガノ、マジョラム、オニオン、タイム、クローブ、アンゼリカ、アニス、シソ、ジンジャー、タラゴン、チリペッパー、ケーパー、ターメリック、バジル、ローレル、ディルシード、ホースラディッシュ、ナツメグ、フェンネル、パプリカ、パセリ、ペパーミント、ローズマリー、サフラン、チャイブ、セロリ、シロガラシ、セサミ、スターアニス、バニラ、マスタード等を挙げることができる。これらのスパイスは目的に応じて、1種又は2種以上用いることができる。
特に、本発明におけるスパイスとしては、ブラックペッパー、ホワイトペッパー、グリーンペッパー、セージ、メース、カルダモン、ガーリック、コリアンダー、バジル、キャラウエー、オールスパイス、シナモン、オレガノ、マジョラム、ナツメグ、オニオン、タイムからなる群から、1種又は2種以上のスパイスを選択して用いることが好ましい。これにより、食肉加工品に添加するスパイスとして、肉の味に適合し、十分な香味強度を示すことに加え、口に入れたときに香味を感じるまでの時間をより早め、口の中に残る香味の持続時間をより長くし、畜肉臭がより矯臭されるなど、より風味及び香味に優れた食肉加工品の製造を行うことが可能となる。
【0030】
以下、本発明の食肉加工品の製造方法における各工程として、主に微粉砕スパイス調製工程、微粉砕スパイス封入工程及び微粉砕スパイス配合工程について説明する。
【0031】
微粉砕スパイス調製工程は、1種又は2種以上のスパイスを選択・混合した後、微粉砕処理を施して微粉砕スパイスの調製を行うためのものである。
ここで、微粉砕処理に用いられる粉砕機としては、バッチ式粉砕機と連続式粉砕機に大別することができ、微粉砕の程度としては、10~40メッシュ、中でも20~40メッシュが好ましい。
【0032】
バッチ式粉砕機としては、スパイスの逃げ場がなく、必ずカッターの刃で粉砕されるための球状の容器と、超高速で回転する粉砕刃と、冷却によりスパイスの温度上昇を抑制するジャケットなどを備えるものを好適に例示することができる。通常、閉鎖系の球状の容器にスパイスを投入し、ジャケットで冷却しながら超高速の回転刃で粉砕と混合を行うことができ、処理速度は連続式粉砕機に劣るが、均一に混合しながら粉砕することができるので、スパイスの粉砕のバラツキが生じにくいという特長を有する。なお、バッチ式粉砕を窒素ガス等の不活性ガスの存在下に行うこともできる。
【0033】
連続式粉砕機としては、下部に供給スクリュウを有する原料スパイス投入用ホッパーと、外周にヘリボン(フィルター)を有するパルペライザー粉砕機と、回収袋などを備えたものを例示することができる。連続式粉砕機は処理スピードに優れているが、気流により選別と回収を行うことから、スパイスの香気成分が逸散するおそれがあり、また、回収袋にスパイスが偏在するので、粉砕後に均一に混合する必要があり、さらに、目詰まりにより昇温するのでスパイスの香味の損失も問題になる。
【0034】
以上の点から、微粉砕処理としては、バッチ式粉砕機による粉砕を行うことが、連続式粉砕機による粉砕を行うことよりも好ましい。
【0035】
また、微粉砕スパイス調製工程においては、2種以上のスパイスを選択した場合、単品毎に微粉砕処理したものを使用時に混合して量比を調整することもできるが、選択した2種以上のスパイスをあらかじめ混合しておき、混合した状態で微粉砕処理をする方が好ましい。単品粉砕物の量比を調整して混合する場合、調整時に香味成分の劣化のおそれがあり、また、配合割合の少ないものは量比を調整する都度外気に曝されて香味成分が劣化するおそれがある。さらに、メース、ナツメグなどの脂肪分の高いものを単品で粉砕する場合、通常、冷凍させて粉砕が行われるが、他の乾燥スパイスと混合して粉砕する場合は冷凍前処理が不要となるという利点も奏する。
【0036】
また、微粉砕スパイス調製工程としては、微粉砕処理の前処理を含むものであってもよい。微粉砕処理の前処理の一例としては、例えば、スパイスを原形のまま殺菌処理し、細菌の事前確認検査を行うことなどが挙げられる。
【0037】
微粉砕スパイス封入工程は、微粉砕スパイス調製工程で得られた微粉砕スパイスを、24時間以内に不活性ガスとともに酸素非透過性若しくは酸素難透過性の包装体に充填・封入し、酸素非存在下での貯蔵を行うためのものである。
微粉砕スパイスを入れる包装体の材料としては、酸素非透過性若しくは酸素難透過性のものであればよく、例えば、アルミ箔を貼り合わせる、若しくはアルミニウムを蒸着したポリエチレンフィルムを補強用のナイロンフィルムを挟んで接着した積層フィルムや、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、EVOH(エチレンビニルアルコール共重合体)等の樹脂層を少なくとも一層有するフィルム、若しくはPVDC等をコーティングしたフィルムなどを用いることができる。
本発明における包装体としては、アルミニウムラミネートフィルムやアルミニウム蒸着フィルム等の遮光機能を備えたフィルム素材からなる包装体が好ましく、アルミニウム蒸着包材製の包装体とすることが特に好ましい。
【0038】
微粉砕スパイス封入工程の一例としては、微粉砕スパイス調製工程で得られた微粉砕スパイスを、微粉砕処理当日に、酸化防止のため窒素ガス、炭酸ガス等の不活性ガス置換下で、アルミニウム蒸着包材等の酸素非透過性の包装体に充填して密封することが挙げられる。また、不活性ガス置換下で酸素非透過性の包装体に密封する代わりに、酸素非透過性の包装体へ充填した後に真空包装をすることや、脱酸素剤が封入された酸素非透過性又は酸素難透過性の包装体に充填して密封することもできる。
このとき、微粉砕スパイスを充填包装するまでの時間は、24時間以内、好ましくは12時間以内、より好ましくは6時間以内、とりわけ3時間以内が望ましい。また、包装体の容量は、開封する度に使い切れるように、使用ロットに合わせて小袋包装とすることが好ましい。
なお、微粉砕スパイス封入工程として、微粉砕スパイスを充填包装する前に、粒度の均一化と異物除去のシフター処理を行うものとしてもよい。
【0039】
包装体に封入された微粉砕スパイスは、常温で流通・保管することができる。このとき、保管期限を封入後15日以内、より好ましくは10日以内、とりわけ7日以内とし、この保管期限内に、後述する微粉砕スパイス配合工程で使用することが好ましい。
【0040】
微粉砕スパイス配合工程は、微粉砕スパイスが封入された包装体を、封入から15日以内に開封し、かつ開封後所定時間以内の微粉砕スパイス(挽きたてスパイス)を、塩処理により塩溶性タンパク質を溶出した食肉原料に添加及び/又は接触を行うためのものである。
【0041】
微粉砕スパイス配合工程における包装体の開封に関する具体例としては、微粉砕スパイスが封入された包装体を、上述した所定の保管期限内に開封し、かつ食肉原料に対して微粉砕スパイス(挽きたてスパイス)を添加及び/又は接触させる直前(以下、「使用の直前」と呼ぶ)~6時間以内、好ましくは使用の直前~1時間以内、より好ましくは使用の直前~10分以内に開封することが好ましい。また、挽きたてスパイスは、包装体開封後すべて使い切ることが好ましい。
【0042】
ハム・ソーセージ類等の食肉加工品の食感は、主に肉中のタンパク質のうち、塩溶性タンパク質と呼ばれるものが加熱により互いに結合し、立体的な網目構造をつくり、その網目の中に水分や脂肪を抱き込むことから得られることが知られている。塩により溶出する塩溶性タンパク質に網目構造をつくらせるには十分に溶出させることが重要とされ、そのためには2%以上の塩分が必要とされているが、本発明者らは、塩溶性タンパク質が香味の保持にも関与することを既に見出している。すなわち、塩処理により塩溶性タンパク質を溶出した食肉原料に挽きたてスパイスを添加及び/又は接触させることで、塩溶性タンパク質に香味成分が補足され、香味の強度・香味の持続性の点で優れた製品(食肉加工品)を得ることができる。
【0043】
本発明において、塩処理とは、食肉(原料肉)の塩溶性タンパク質を可溶化させる処理をいい、用いられる塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等を挙げることができ、1種又は2種類以上を組み合わせて用いることができるが、呈味や塩溶性タンパク質の溶出効率の点で、塩化ナトリウムを使用することが好ましい。塩化ナトリウムを使用する場合、その添加量は特に制限されないが、呈味や塩溶性タンパク質の溶出との関係から、通常1~5重量%、好ましくは1~3重量%程度になるように添加すればよい。
【0044】
上記のように、本発明では、食肉加工品の製造に係る微粉砕スパイス配合工程において、塩処理により塩溶性タンパク質を溶出した食肉原料に、挽きたてスパイスを添加・接触させることが必要とされ、そのため、食肉原料に対する挽きたてスパイスの添加・接触方法や添加・接触時期に大きな特長を有する。
ここで、添加・接触方法や添加・接触時期は、食肉加工品の種類によって異なるが、以下、ソーセージ、ハム・ベーコン類、フライドチキンを例にとって、挽きたてスパイスの添加・接触方法や添加・接触時期について説明する。
【0045】
本発明によりソーセージを製造する場合、例えば、粗挽きソーセージの場合、原料肉の異物チェックを行い、原料肉をグラインダーを用いて適切なサイズに細切りし、この細切りした食肉に塩漬剤(食塩、発色剤、リン酸塩等)を入れ、ミキサーで混合して所定時間静置し(塩処理)、塩溶性タンパク質を溶出した食肉原料に、これに二次配合として挽きたてスパイス、調味料、保存料等をミキサーを用いて脱気・混合した後、ケーシングに充填し、乾燥・スモーク・蒸煮等の熱処理を行い、製品とする。すなわち、二次配合工程に挽きたてスパイスを添加・混練する点に特長を有する。
【0046】
また、細挽きソーセージの場合、サイレントカッター等を使用し、食肉に塩漬剤を入れ細切りし、塩溶性タンパク質を溶出した食肉原料に、挽きたてスパイス、調味料、保存料等をサイレントカッターを用いて脱気・混合した後、ケーシングに充填し、乾燥・スモーク・蒸煮等の熱処理を行い、製品とする。
【0047】
本発明によりハム・ベーコン類を製造する場合、例えば、原料肉の異物チェックと脂肪厚の調整を含む整形処理の後、ピックル液をインジェクターで食肉原料にインジェクションし(塩処理)、次いでテンダライザー処理をすることで、塩溶性タンパク質が溶出した後、挽きたてスパイスを添加してタンブラーでマッサージして所定時間静置した後、ケーシングに充填し、又は充填しないで、乾燥・スモーク・蒸煮等の熱処理を行い、製品とする。すなわち、タンブリング工程に挽きたてスパイスを添加・接触させる点に特長を有し、本発明により製造されるハム・ベーコン類は、粉末(固形)状のスパイスがその表面に散在しているという見かけの特長も有する食肉加工品となる。
【0048】
本発明によりフライドチキンを製造する場合、例えば、原料ニワトリ冷凍肉を解凍し、原料肉の異物チェックと選別を行い、塩漬により調味するためタンブラーでマリネーションを行い(塩処理)、次いで、塩溶性タンパク質を溶出した食肉原料に、挽きたてスパイスを混入したバッターミキサー(1)を添加してタンブラーでバタリング(1)した後、挽きたてスパイスを含まないバッターミキサー(2)を添加して連続式バタリングマシーンを使用してバタリング(2)した後、フライヤーでフライして、オーブン処理を行い、製品とする。すなわち、最初のバタリング工程(1)で挽きたてスパイスを添加・接触させる点に特長を有する。バッターミキサー(1)に含まれる挽きたてスパイスは、塩溶性タンパク質を溶出した食肉原料に接触することになる。
【0049】
また、本発明の食肉加工品の製造方法は、上述した微粉砕スパイス配合工程を経て作製される製品のpHが所定範囲を満たすという点に特長を有する。本発明者らは、食肉加工品(製品)のpHが、微粉砕スパイスの香気成分量に関係することを見出した。具体的には、挽きたてスパイスを用いるソーセージ製品と、粉砕後のスパイスを混合し、25℃開放保管したスパイス(従来製法のスパイス)を用いるソーセージ製品について、各製品のpHを変えたものを作製し、ガスクロマトグラフィーにより香気成分量を測定した。結果を図3に示す。なお、図3(A)は、挽きたてスパイスを用いたソーセージ製品についての結果を、図3(B)は、従来製法のスパイスを用いたソーセージ製品についての結果を表している。また、図3の縦軸は、pH6.0の製品における香気成分量を1.0としたときの比率を表している。
図3から、特に、挽きたてスパイスを用いた場合、食肉加工品(製品)のpHが、香気成分量に大きく影響することがわかった。一方、従来製法のスパイスを用いた場合については、食肉加工品(製品)のpHによる香気成分量への影響は、挽きたてスパイスを用いた場合と比べ、小さいことがわかった。
図3の結果から、挽きたてスパイスを用いた製品のpHとしては、pH5.8以下とすることが好ましく、pH5.6以下とすることがより好ましい。これにより、微粉砕スパイス(挽きたてスパイス)の香気成分量を高め、より香味に優れた製品(食肉加工品)を提供することが可能となる。
【0050】
本発明において、製品のpHを調整する方法については特に限定されない。例えば、選択するスパイスと食肉原料との組み合わせにより、所望するpHに調整することや、食肉加工品(製品)の作製において一般的に使用されるpH調整剤を添加することなどが挙げられる。なお、このとき使用されるpH調整剤の例としては、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酢酸、グルコン酸(グルコノデルタラクトン)、コハク酸、フマル酸、リン酸類、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0051】
また、本発明の食肉加工品の製造方法は、上述した微粉砕スパイス配合工程を経て作製される製品のpHが所定範囲を満たすことと併せて、製品の脂肪量が所定値以上であるという点に特長を有する。
通常、食肉原料にスパイスを添加して作製される製品(食肉加工品)においては、製品として含有する脂肪量が増加することで、スパイスに関する香り立ちが弱くなることから、食肉加工品としての香味とジューシー感の両立には課題があった。
ここで、本発明者らは、調製工程が異なる2種類のスパイスを用い、食肉加工品(製品)の脂肪量と、スパイスの香味に係る関係について、評価を行った。具体的には、挽きたてスパイスを用いるソーセージ製品(pH5.6)と、粉砕後のスパイスを混合し、25℃開放保管したスパイス(従来製法のスパイス)を用いるソーセージ製品(pH5.6)について、各製品の脂肪量を変えたものを作製し、官能検査を行った。なお、本官能検査では、製品の脂肪量が30重量%以内のものを「低脂肪」、30重量%以上のものを「高脂肪」と呼ぶ。
評価に係る項目としては、咀嚼時の香味の強度について、各製品同士をブラインドで比較し、最も強く香味を感じるものを評点4、以下、香味を感じる順に評点3、評点2、評点1とし、同程度の香味を感じる製品同士には同評点を付したものについて、パネリスト5名の平均値で表した結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1から、挽きたてスパイス(低脂肪)>挽きたてスパイス(高脂肪)>従来製法のスパイス(低脂肪)>従来製法のスパイス(高脂肪)の順に、強く香味を感じることが分かった。すなわち、挽きたてスパイスを用いた場合、従来製法のスパイスを用いた場合と比べて、食肉加工品(製品)の脂肪量(低脂肪・高脂肪)によらず、香味の強度が強くなることが分かった。特に、従来製法のスパイスを用いた低脂肪のものと、挽きたてスパイスを用いた高脂肪のものとを比べた場合、香り立ちにおいては本来不利な条件(製品の脂肪量が多い)であっても、挽きたてスパイスを用いることで強い香味を感じられることが分かった
表1の結果から、挽きたてスパイスを用いた製品の脂肪量としては、25質量%以上とすることが好ましく、28質量%以上とすることがより好ましい。これにより、挽きたて時のスパイスの新鮮な香味を有し、かつ香り立ちを維持しつつ、十分なジューシー感を得ることができる食肉加工品の製造が可能となる。また、特に高脂肪(30質量%以上)の範囲において、本発明による効果が顕著に発揮されるものとなる。
【0054】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、実施例中の%表記は、すべて重量%を示す。
【0055】
(挽きたてスパイスの調製)
以下の各実施例における挽きたてスパイスの調製について説明する。
スパイスの微粉砕には、冷却ジャケットを備えた三井鉱山株式会社製「高速刃粉砕機Q型MH20」をバッチ式粉砕機として用い、冷却下に刃の速度1700rpmで微粉砕した。なお、原料スパイスには蒸気殺菌法により殺菌処理を施している。そして、2種以上のスパイスを選択した場合、あらかじめ混合したものを微粉砕した。微粉砕後2時間で、窒素ガス置換下に容量150gのアルミニウム蒸着包材の包装体に充填・密封し、以後、常温で流通・保管させたものを封入15日目に使用した。
【実施例0056】
(粗挽きソーセージ)
ブラックペッパー、グリーンペッパー、セージ、メース、ガーリック、オールスパイス、バジル、オレガノ、マジョラム、オニオン、タイムをあらかじめ混合し、微粉砕処理を施し、平均粒径約40メッシュの粗挽きソーセージ用挽きたてスパイスを調製した。
【0057】
原料肉である豚肉、豚脂肪から異物やすじ等を取り、豚肉と豚脂肪3000gをチョッピングした後、ミキサーに入れて攪拌しながら、塩漬剤(食塩、亜硝酸混合塩、L-アスコルビン酸ナトリウム、リン酸製剤)と調味料をあわせて200gを加え、さらに氷水を加え、良く混和する。混和後、バットに移し、ラップして5~7℃で一晩塩漬した。塩漬肉をミキサーに入れ、挽きたてスパイス、pH調整剤を入れ、約5分間脱気混合し、ケーシングに充填し、乾燥・スモーク・蒸煮等の熱処理を行い、製品とした。このときの製品のpHは5.6であり、脂肪量は32%であった。
【0058】
得られた粗挽きソーセージ製品について専門のパネリスト10名による官能検査を実施した。なお、上述した従来製法のスパイスを添加したものを対照品とした。
評価項目は、咀嚼時に感じる香味の強度、嚥下後に残る香味の強度、口に入れたときに香味を感じるまでの時間、香味が口の中に残る香味の持続時間、旨味の5項目とした。そして、各項目とも対照品を基準(評点3)とし、実施例について「優れている」を評点5、「やや優れている」を評点4、「普通(同程度)」を評点3、「やや劣る」を評点2、「劣る」を評点1とし、10名の平均値で表した。結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
表2に示すように、実施例として得られた粗挽きソーセージは、従来製法のスパイスを添加した対照品に比べ、咀嚼時に感じる香味の強度、嚥下後に残る香味の強度、口に入れたときに香味を感じるまでの時間、香味が口の中に残る香味の持続時間、旨味のいずれにも優れたものであった。
また、ハンバーグ、ロースハム、フライドチキン等、その他の食肉加工品においても同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の食肉加工品の製造方法及び食肉加工品は、香味の優れたソーセージ、ハムなどの食肉加工品の製造・提供に際し、好適に利用することができる。



図1
図2
図3