(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128457
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】アイスミックス及び冷菓
(51)【国際特許分類】
A23G 9/00 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
A23G9/00 101
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037442
(22)【出願日】2023-03-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】307013857
【氏名又は名称】株式会社ロッテ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】一政 洋子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋介
(72)【発明者】
【氏名】横田 善廣
【テーマコード(参考)】
4B014
【Fターム(参考)】
4B014GB18
4B014GG01
4B014GG06
4B014GG12
4B014GL04
4B014GP01
(57)【要約】
【課題】粘度上昇が抑制され、かつ、ざらつきが軽減されたアイスミックスの提供。
【解決手段】植物由来たんぱくと、クエン酸ナトリウムと、を含む、アイスミックスであって、
前記アイスミックスに含まれる固形分の量が、前記アイスミックスの質量を基準として、40~50質量%であり、
前記アイスミックスが、下記式(1)の関係を満たす、
Y≧0.045X-1.75(40≦X≦50)・・・(1)
[式中、
Yは、前記アイスミックスの質量を基準とした、前記クエン酸ナトリウムの質量%であり、
Xは、前記アイスミックスの質量を基準とした、前記固形分の質量%である]
前記アイスミックス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来たんぱくと、
クエン酸ナトリウムと、
を含む、アイスミックスであって、
前記アイスミックスに含まれる固形分の量が、前記アイスミックスの質量を基準として、40~50質量%であり、
前記アイスミックスが、下記式(1)の関係を満たす、
Y≧0.045X-1.75(40≦X≦50)・・・(1)
[式中、
Yは、前記アイスミックスの質量を基準とした、前記クエン酸ナトリウムの質量%であり、
Xは、前記アイスミックスの質量を基準とした、前記固形分の質量%である]
前記アイスミックス。
【請求項2】
前記アイスミックスが、下記式(2)の関係を満たす、
Y≧0.04X-1.5(40≦X≦50)・・・(2)
[式中、Y及びXは、前記のとおりである]
請求項1に記載のアイスミックス。
【請求項3】
前記植物由来たんぱくが、エンドウ豆、大豆、及びオーツ麦からなる群から選択される少なくとも1種に由来する、請求項1又は2に記載のアイスミックス。
【請求項4】
乳製品を含まない、請求項1又は2に記載のアイスミックス。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のアイスミックスを含む、冷菓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイスミックス及び冷菓に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、海外の冷菓市場では植物性冷菓の市場が拡大しており、日本でもSDGsの観点から植物素材を使った冷菓の需要が高まっている。消費者の中でも環境意識の高い人は、乳製品を使用した一般的な冷菓から植物性ベースの冷菓に置き換える流れになりつつある。
【0003】
植物性ベースの冷菓に関して、例えば、特許文献1は、バランスのよい豆乳特有の濃厚感及び豆乳本来のうまみやコクを有する濃縮豆乳及び前記濃縮豆乳を含む冷菓の提供を目的として、「炭水化物を2.5重量%以上含有し、かつ重量比で蛋白質1に対し炭水化物0.4以上に設定されてなることを特徴とする濃縮豆乳」及び前記濃縮豆乳を含む冷菓を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
植物素材を使用した比較的固形分量の多い冷菓では、たんぱくの凝集やアイスミックスの粘度上昇が起こり、製造が困難となる場合がある。なお、オペレーション上、アイスミックス原料を混合してから直ぐにフリージングを実施しないこともあり、そのまま1日又は2日経過した場合に特にアイスミックスの粘度上昇が観察される。また、たんぱくの凝集によって、ざらつきが感じられ、品質が低下することがある。
【0006】
そのため、本発明は、粘度上昇が抑制され、かつ、ざらつきが軽減されたアイスミックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等が鋭意検討した結果、所定量のクエン酸ナトリウムを使用することによって、粘度上昇を抑制し、かつ、ざらつきを軽減できることを見出した。
【0008】
なお、前記特許文献1は、クエン酸ナトリウムを所定量で使用することによって、粘度上昇の抑制、及びざらつきの軽減が可能であることを開示していない。
【0009】
本発明は以下の実施形態を含む。
[1]
植物由来たんぱくと、
クエン酸ナトリウムと、
を含む、アイスミックスであって、
前記アイスミックスに含まれる固形分の量が、前記アイスミックスの質量を基準として、40~50質量%であり、
前記アイスミックスが、下記式(1)の関係を満たす、
Y≧0.045X-1.75(40≦X≦50)・・・(1)
[式中、
Yは、前記アイスミックスの質量を基準とした、前記クエン酸ナトリウムの質量%であり、
Xは、前記アイスミックスの質量を基準とした、前記固形分の質量%である]
前記アイスミックス。
[2]
前記アイスミックスが、下記式(2)の関係を満たす、
Y≧0.04X-1.5(40≦X≦50)・・・(2)
[式中、Y及びXは、前記のとおりである]
[1]に記載のアイスミックス。
[3]
前記植物由来たんぱくが、エンドウ豆、大豆、及びオーツ麦からなる群から選択される少なくとも1種に由来する、[1]又は[2]に記載のアイスミックス。
[4]
乳製品を含まない、[1]~[3]のいずれかに記載のアイスミックス。
[5]
[1]~[4]のいずれかに記載のアイスミックスを含む、冷菓。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粘度上昇が抑制され、かつ、ざらつきが軽減されたアイスミックスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
<アイスミックス>
本発明の一実施形態は、植物由来たんぱくと、クエン酸ナトリウムと、を含む、アイスミックスであって、
前記アイスミックスに含まれる固形分の量が、前記アイスミックスの質量を基準として、40~50質量%であり、
前記アイスミックスが、下記式(1)の関係を満たす、前記アイスミックスに関する。
Y≧0.045X-1.75(40≦X≦50)・・・(1)
[式中、
Yは、前記アイスミックスの質量を基準とした、前記クエン酸ナトリウムの質量%であり、
Xは、前記アイスミックスの質量を基準とした、前記固形分の質量%である]
【0013】
本実施形態に係るアイスミックスは、所定量のクエン酸ナトリウムを含むことによって、粘度上昇を抑制し、かつ、ざらつきを軽減することができる。
【0014】
本実施形態に係るアイスミックスは、その質量を基準として、40~50質量%の固形分を含む。このような多量の固形分を含むアイスミックスでは、粘度上昇及びたんぱく凝集が生じる傾向にあるため、本発明の好適な対象となる。本明細書において「固形分」とは、アイスミックスから水分を除去した後に残る成分である。
【0015】
本実施形態に係るアイスミックスは、植物由来たんぱくを含む。植物由来たんぱくの種類は特に限定されないが、例えば、エンドウ豆、大豆、及びオーツ麦からなる群から選択される少なくとも1種に由来するたんぱくが挙げられる。
【0016】
エンドウ豆に由来するたんぱく(以下、「エンドウ豆たんぱく」という。)は、エンドウ豆から水のみを用いて分離抽出した粉末状のたんぱくであることが好ましい。エンドウ豆は、黄色エンドウ豆(学名: Pisum sativum)であることが好ましい。
【0017】
大豆に由来するたんぱく(以下、「大豆たんぱく」という。)は、豆乳クリーム及び/又は低脂肪豆乳に含まれるたんぱくであることが好ましい。豆乳クリームは、大豆から分離された成分であり、たんぱく含量が3~8質量%(好ましくは5~6質量%)かつ脂質含量が10~15質量%(好ましくは12~13質量%)であるものが好ましく、不二製油株式会社によって開発されたUltra Soy Separation(USS)製法によって得られた豆乳クリーム画分のものがより好ましい。低脂肪豆乳は、大豆から分離された成分であり、たんぱく含量が3~8質量%(好ましくは5~6質量%)かつ脂質含量が0~3質量%(好ましくは0~1質量%)であるものが好ましく、USS製法によって得られた低脂肪豆乳画分のものがより好ましい。
【0018】
エンドウ豆たんぱくと、豆乳クリーム及び/又は低脂肪豆乳とを組み合わせて使用することによって、好ましくは、エンドウ豆たんぱくと、豆乳クリームと、低脂肪豆乳とを組み合わせて使用することによって、豆特有の臭い及び味を抑え、かつ、冷菓のボディ感及びコクを向上させることができる。
【0019】
オーツ麦に由来するたんぱく(以下、「オーツ麦たんぱく」という。)は、オーツ麦を粉末化したパウダーを糖化し、その糖化液をスプレードライでパウダーにしたものに含まれるたんぱくであることが好ましい。糖化により甘味が生じるため、冷菓における使用に好適となる。
【0020】
植物由来たんぱくの量(合計量)は、全体的に味わいや気泡を安定化させ、組織をなめらかにし、ボディを作り上げる観点から、アイスミックスの質量を基準として、好ましくは0.5~7質量%であり、より好ましくは1~6質量%であり、更に好ましくは1.5~5.5質量%である。
【0021】
本実施形態に係るアイスミックスは、所定量のクエン酸ナトリウムを含む。クエン酸ナトリウムを使用することによって、粘度上昇を抑制し、かつ、ざらつきを軽減することができる。
【0022】
クエン酸ナトリウムは、下記式(1)の関係を満たす量で使用されることが好ましい。
Y≧0.045X-1.75(40≦X≦50)・・・(1)
[式中、
Yは、アイスミックスの質量を基準とした、クエン酸ナトリウムの質量%であり、
Xは、アイスミックスの質量を基準とした、固形分の質量%である]
【0023】
クエン酸ナトリウムは、下記式(2)の関係を満たす量で使用されることがより好ましい。
Y≧0.04X-1.5(40≦X≦50)・・・(2)
[式中、Y及びXは、前記のとおりである]
【0024】
式(1)及び式(2)は、アイスミックスの固形分の量が多くなるほど、必要となるクエン酸ナトリウムの量も多くなることを示したものであり、具体的な実験結果から規定されたものである。
【0025】
クエン酸ナトリウムの量は、アイスミックスの質量を基準として決定してもよい。具体的には、クエン酸ナトリウムの量は、アイスミックスの質量を基準として、好ましくは0.05~3.0質量%であり、より好ましくは0.1~3.0質量%である。
【0026】
本実施形態に係るアイスミックスは、更なる成分を含んでいてもよい。更なる成分としては、例えば、油脂(例えば植物油脂)、糖質(糖アルコール等も含む。)、塩、乳化剤、安定剤、香料、着色料、果汁、乳製品、酸味料、pH調整剤、及び水が挙げられる。
【0027】
油脂の量は、特に限定されないが、アイスミックスの質量を基準として、好ましくは0~20質量%であり、より好ましくは1~18質量%であり、更に好ましくは5~15質量%である。
【0028】
糖質(糖アルコール等も含む。)の量は、特に限定されないが、アイスミックスの質量を基準として、好ましくは1~50質量%であり、より好ましくは10~45質量%であり、更に好ましくは15~43質量%である。
【0029】
本実施形態に係るアイスミックスは、乳製品を含んでいないことが好ましく、動物性原料を含んでいないことがより好ましい。乳製品を含まないアイスミックスから製造された冷菓は、後述の氷菓に分類される。本明細書において「乳製品」とは、動物の乳に由来する製品であり、例えば、牛の乳に由来する製品が挙げられる。
【0030】
<冷菓>
本発明の一実施形態は、上述のアイスミックスを含む冷菓に関する。
【0031】
本明細書における「冷菓」は、アイスクリーム類、氷菓等の冷凍下で保管する菓子であり、プリン等のチルド温度帯で保管する菓子は含まない。
アイスクリーム類には、アイスクリーム、アイスミルク、及びラクトアイスが包含される。本明細書における「アイスクリーム類」、「アイスクリーム」、「アイスミルク」、及び「ラクトアイス」は、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(平成30年8月8日厚生労働省令第106号)における定めに従う。
【0032】
具体的には、アイスクリーム類は、乳又はこれらを原料として製造した食品を加工し、又は主要原料としたものを凍結させたものであつて、乳固形分3.0%以上を含むもの(発酵乳を除く。)である。
アイスクリームは、乳固形分が15.0%以上であって、乳脂肪分が8.0%以上のものである。
アイスミルクは、乳固形分が10.0%以上であって、乳脂肪分が3.0%以上のもの(アイスクリームを除く。)である。
ラクトアイスは、乳固形分が3.0%以上のもの(アイスクリーム及びアイスミルクを除く。)である。
【0033】
氷菓は、乳固形分が3.0%未満のものである。
【0034】
本実施形態に係る冷菓は、氷片を含んでいてもよい。本明細書における「氷片」とは、アイスミックスとは別に加えられるものであり、その長さが0.06mm以上のものをいう。氷片は、アイスミックス中の水分がフリージングによって固まって生じる氷の結晶(通常30~55μm)とは区別される。
【0035】
氷片の平均長さは、好ましくは0.06~14mmであり、より好ましくは0.06~1.7mmであり、更に好ましくは0.06~1.0mmである。また、氷片の平均長さは、例えば、0.10~1.7mm、0.15~1.7mm、0.10~1.0mm、又は0.15~1.0mmであってもよい。氷片の平均長さを前記の範囲内とすることにより、滑らかな食感及び冷涼感を与えることができる。
【0036】
本明細書における氷片の「長さ」とは、光学顕微鏡を使用して撮影した、又は肉眼で観察した氷片の外縁における任意の2点を結んだ距離が最大となる2点間の距離を意味する。本明細書における氷片の「平均長さ」とは、ランダムに選択した100個の氷片の長さの平均値である。
【0037】
氷片の量は、冷菓の質量を基準として、例えば、10~80質量%、20~70質量%、又は30~60質量%とすることができる。
【実施例0038】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0039】
<アイスミックスの製造>
下記表1に示す成分を混合し、アイスミックスを製造した。
【表1】
【0040】
<アイスミックスの評価>
各アイスミックスに、所定の量のクエン酸ナトリウムを加えて(又は加えることなく)、各種の評価を行った。各種の評価方法は以下のとおりであり、評価結果を表2に示す。なお、アイスミックスの固形分が30質量%である参考例では、粘度上昇及びざらつきは生じなかったため、クエン酸ナトリウムを加える必要はなかった。
【0041】
[粘度]
粘度を以下の方法で測定し、粘度が1000cP以上の場合、製造適正が無いと判断した。
(測定方法)
1.200ml(内径67mm)のビーカーに測定液であるアイスミックスを準備した。
2.測定液を10℃に温調した。
3.粘度計のガード・ローターを取り付けた。
4.温調したビーカー内を20回攪拌した後に粘度を測定した。
(測定条件)
装置:TVB-10型粘度計(東機産業株式会社製)
ローター:No.21(M2)又はローターNo.22(M3)
回転数:30rpm
時間:30秒
【0042】
[ホモゲナイザー処理]
ホモゲナイザーによる均質化の目的は、アイスミックス中の脂肪球を微粒化し、乳化状態を作ること、及び脂肪以外の成分も均一に分散させることである。均質圧力はアイスミックスの成分や、均質バルブの構造によっても異なるが、通常は100~150kg/cm2(第一段と第二段の合計)である。今回は、殺菌後約70℃のアイスミックス約2kgを2段式均質機を用いて第一段80kg/cm2、第2段35kg/cm2の圧力で処理を行った。
ホモゲナイザーの処理の可否は、ホモゲナイザーの出口からアイスミックスが出てくるか否かで判断した。ざらつきが大きいと、ホモゲナイザーの機械に詰まってアイスミックスが出てこなくなる。ホモゲナイザー処理ができなかった場合、製造適正が無いと判断した。
【0043】
[官能評価]
アイスミックスのざらつき及び粉っぽさについて、訓練を受けた5名の専門パネルが官能評価を行った。評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
1:砂のような大きめのしっかりとしたざらつきを感じる。
2:しっかりとしたざらつきを感じる。
3:細かいが、ややざらつきを感じる。
4:ざらつきをあまり感じないが、たまに細かいざらつきを感じる。
5:全くざらつきを感じない。なめらかなミックスの状態。
【0044】
[粒子径(メジアン径D50)]
粒子径(メジアン径D50)を以下の条件で測定した。メジアン径が11.5μmを超えるとざらつきを感じる傾向にある。
(測定条件)
装置:マイクロトラック粒子径分布測定装置(MT3300EX)
粒子屈折率:1.81
溶媒:水
溶媒屈折率:1.333
【0045】