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特開2024-128471合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法
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  • 特開-合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128471
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/02 20060101AFI20240913BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20240913BHJP
   C23C 2/28 20060101ALI20240913BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240913BHJP
   C22C 38/04 20060101ALI20240913BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240913BHJP
   B24C 1/00 20060101ALI20240913BHJP
   B24C 11/00 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C23C2/02
C23C2/06
C23C2/28
C22C38/00 301T
C22C38/04
C21D9/46 J
B24C1/00 C
B24C11/00 G
B24C11/00 C
B24C11/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037459
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】久保田 典禎
(72)【発明者】
【氏名】河津 那由他
(72)【発明者】
【氏名】小室 篤史
(72)【発明者】
【氏名】金藤 泰平
(72)【発明者】
【氏名】大毛 隆志
(72)【発明者】
【氏名】西村 秀生
(72)【発明者】
【氏名】眞嶋 康裕
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 完
(72)【発明者】
【氏名】後藤 靖人
(72)【発明者】
【氏名】宮田 卓哉
【テーマコード(参考)】
4K027
4K037
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AA23
4K027AB02
4K027AB14
4K027AB28
4K027AB44
4K027AC18
4K027AC73
4K037EA04
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA23
4K037EA27
4K037EA28
4K037EB01
4K037EB05
4K037EB08
4K037EB09
4K037FC04
4K037FC05
4K037FG00
4K037FG01
4K037FJ02
4K037FJ04
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FM02
4K037GA05
4K037GA08
4K037HA05
(57)【要約】
【課題】合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観を改善することが可能な、新規かつ改良された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、熱延鋼板をデスケーリングするデスケーリング工程、溶融亜鉛めっき工程、及び合金化処理工程を含む、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、デスケーリング工程が、グリットを研磨材として用いてブラスト処理を行うことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱延鋼板をデスケーリングするデスケーリング工程、溶融亜鉛めっき工程、及び合金化処理工程を含む、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、
前記デスケーリング工程が、グリットを研磨材として用いてブラスト処理を行う工程であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記デスケーリング工程が、前記グリットを用いたウェットブラストを行う工程であることを特徴とする、請求項1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記熱延鋼板は、0.5~3.0質量%のMn、0.01~3.0質量%のSi、及び0.01~0.12質量%のPからなる群から選択される何れか1種以上を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記デスケーリング工程は、前記熱延鋼板を冷間圧延及び焼鈍する前に行い、
前記デスケーリング工程を経た前記熱延鋼板の表面の転位密度を3.5×1015/m以上とすることを特徴とする、請求項3に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記グリットの粒径が30~800μmであることを特徴とする、請求項4に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記グリットがJIS Z0311に規定される鋳鉄グリットまたはJIS Z0312に規定されるアルミナグリットであるという条件、
前記グリットと水の体積比率が5体積%以上であるという条件、
前記グリットの前記熱延鋼板の表面への投射速度が5m/s以上であるという条件、及び
前記グリットの投射量が2×10-3/m以上であるという条件のうち、少なくとも1つ以上が満たされることを特徴とする、請求項5に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法、特に熱延鋼板のデスケーリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温暖化対策の観点から、自動車の燃費向上が求められている。自動車の燃費向上の方法の一つに車体の軽量化があり、このような軽量化の観点より自動車用鋼板の薄肉化が要望されている。また、衝突安全性を確保し、複雑な形状の製品を製造するために、自動車用鋼板には、高い強度及び延性(例えばプレス成形性)も要望されている。さらに、自動車の審美性を高める等の観点から、自動車用鋼板には優れた耐食性、塗装性、及び表面外観も求められる。特に合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、これらの要望を満たす鋼板として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-158254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、自動車用鋼板として使用される合金化溶融亜鉛めっき鋼板には、さらなる特性の改善が求められている。このような観点から、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の母材となる鋼板に各種の元素を添加することが広く行われている。例えば、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の強度を高めるために、鋼板(より具体的には連続鋳造前の溶鋼)にSi、Mn、またはP等の元素が添加される。
【0005】
ところで、鋼板に添加された元素は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観不良の原因となる場合がある。例えば、上述したMn及びPは、連続鋳造時にデンドライト樹間に偏析する傾向がある。そして、MnまたはPが偏析した鉄組織は、鋳片の熱間圧延及び冷間圧延後に鋼板の表面に圧延方向に沿って筋状に分布する場合がある。MnまたはPが偏析した鉄組織は他の鉄組織と異なる外観を有しているため、鋼板の表面に筋状の欠陥(以下、このような欠陥を「偏析欠陥」とも称する。)が生じることになる。したがって、鋼板の外観不良が生じることになる。
【0006】
偏析欠陥は鋼板の内部にも形成されるため、単に鋼板の表面を研削ブラシ等で研削しただけでは、新たな偏析欠陥が露出するだけである。したがって、鋼板の表面の研削によって偏析欠陥を消失させることは困難である。さらに、偏析欠陥が生じた鋼板に合金化溶融亜鉛めっきを施しても依然として外観不良が解消されない場合がある。具体的には、合金化溶融亜鉛めっき処理では、まず鋼板に溶融亜鉛めっきを施し、その後合金化処理を行う。このような合金化処理において、偏析欠陥が形成された部分の直上に存在するめっき部分と他のめっき部分との間で合金化速度が異なる場合がある。この結果、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に筋状の凹凸が形成される。すなわち、反応速度が相対的に速い領域は凸形状となり、反応速度が遅い領域は凹形状となる。そして、このような凹凸によって合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観が損なわれる。
【0007】
このように、鋼板に添加される元素の偏析によって合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観不良が生じる場合があった。一方、特許文献1には、冷間圧延前にショットブラスト処理及びブラシ研削処理を行う技術が開示されている。しかし、本発明者が当該技術について検討したところ、当該技術によっても依然として合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観を改善することができなかった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観を改善することが可能な、新規かつ改良された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、熱延鋼板をデスケーリングするデスケーリング工程、溶融亜鉛めっき工程、及び合金化処理工程を含む、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、デスケーリング工程が、グリットを研磨材として用いてブラスト処理を行う工程であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が提供される。
【0010】
ここで、デスケーリング工程が、グリットを用いたウェットブラストを行う工程であってもよい。
【0011】
また、熱延鋼板は、0.5~3.0質量%のMn、0.01~3.0質量%のSi、及び0.01~0.12質量%のPからなる群から選択される何れか1種以上を含んでいてもよい。
【0012】
また、デスケーリング工程は、熱延鋼板を冷間圧延及び焼鈍する前に行い、デスケーリング工程を経た熱延鋼板の表面の転位密度を3.5×1015/m以上としてもよい。
【0013】
また、グリットの粒径が30~800μmであってもよい。
【0014】
また、グリットがJIS Z0311に規定される鋳鉄グリットまたはJIS Z0312に規定されるアルミナグリットであるという条件、グリットと水の体積比率が5体積%以上であるという条件、グリットの熱延鋼板の表面への投射速度が5m/s以上であるという条件、及びグリットの投射量が2×10-3/m以上であるという条件のうち、少なくとも1つ以上が満たされてもよい。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態において、グリットとは、使用前の状態で、稜角をもつ角張った形状であり、丸い部分がその粒子の全表面積の1/2未満の粒子をいう。ショットとは、使用前の状態で、稜角、破砕面又は他の鋭い表面欠陥がなく、長径が短径の2倍以内の球形状の粒子をいう。
また、本実施形態における「熱延鋼板の表面」は、特に説明が無い限り、内部酸化層の内側に存在する母材の表面を意味するものとする。この部分に上述した偏析欠陥が生じうるからである。
【0018】
<1.本発明者による検討>
まず、本発明者による検討について説明する。上述したように、鋼板に添加した元素は、連続鋳造において偏析し、偏析欠陥を生じさせる場合がある。偏析欠陥を生じさせる元素としては、例えばMn、P等が挙げられる。偏析欠陥は、それ自体が鋼板の外観不良の原因となる他、合金化処理において反応速度のばらつきの原因ともなる。このような反応速度のばらつきによって合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に凹凸が生じる。偏析欠陥は鋼板の内部にも形成されるため、単に鋼板の表面を研削ブラシ等で研削しただけでは、新たな偏析欠陥が露出するだけである。したがって、鋼板の表面の研削によって偏析欠陥を消失させることは困難である。
【0019】
そこで、本発明者は、鋼板表面の鉄組織に着目した。冷間圧延後の焼鈍の際に表面の再結晶を促進して微細な結晶粒を大量に鋼板表面に形成すれば、鋼板の表面に偏析した元素を分散させて偏析欠陥を抑制することができるのではないかと考えた。そして、本発明者は、焼鈍処理の前に表面欠陥を鋼板表面に多く導入することで、それらを核として鋼板表面の再結晶を効率的に促進できるのではないかと考えた。
【0020】
本発明者は、検討の結果、特定のデスケーリング方法によって鋼板表面に表面欠陥を十分に導入することができ、外観不良を低減できることを知見した。さらに、冷延や焼鈍を行わない場合でも、つまり、表面の再結晶を行わない場合でも、表面欠陥を十分に導入することで、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観に及ぼす偏析欠陥の影響を低減できることを知見した。本発明者は、このような知見に基づいて本実施形態に係る熱延鋼板のデスケーリング方法(デスケーリング処理)を特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に想到した。以下、本実施形態について詳細に説明する。
【0021】
<1.合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程>
本実施形態に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、デスケーリング処理を行った熱延鋼板に対して、冷間圧延、焼鈍、溶融亜鉛めっき、及び合金化処理を順次行うことで作製される。ここで、冷間圧延前に酸洗を行ってもよい。また、比較的厚い鋼板の場合には、冷間圧延および焼鈍を省略することもできる。図1に合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程の概要を示す。これらの処理の具体的な条件は特に制限されず、従来と同様であってもよい。以下、各工程の概要を説明する。デスケーリング工程については後述する。
【0022】
(酸洗工程)
デスケーリング処理後の熱延鋼板に残留した表層スケール及び内部酸化層を除去する目的で、酸洗を行ってもよい。酸洗の条件は特に制限されず、従来と同様であってもよい。一例として、酸洗に用いられる酸は、従来の酸洗で通常用いられる酸を用いればよく、例えば塩酸、硫酸、ふっ酸、及び硝酸等から選択されればよい。経済性や作業性の観点から、酸洗液として塩酸濃度1~20質量%の40~90℃の溶液を使用することが好ましい。酸洗時間は1~60秒程度とすることが好ましい。酸洗液には、酸化物の溶解速度を向上させるために公知の酸洗促進剤を添加してもよい。また、酸洗液には、鋼板母材の溶解を抑制する公知のインヒビター(酸洗抑制剤)を添加してもよい。なお、十分なデスケーリング処理を実施することで、酸洗を省略することも可能である。つまり、デスケーリング処理後の熱延鋼板を酸洗せずに冷間圧延してもよい。ただし、デスケーリング処理後の熱延鋼板の表面には数μm程度のグリットの摩耗粉が残留する可能性がある。特に、ドライブラスト処理を行った場合、熱延鋼板の表面にグリットの摩耗粉が残留する可能性がより高い。これらの摩耗粉は酸洗によって除去されるため、デスケーリング処理後に酸洗を行うことが好ましい。なお、酸洗工程後に後述するデスケーリング処理を行ってもよい。
【0023】
(冷間圧延工程)
冷間圧延の条件も特に制限されないが、冷延率が90%以下の場合に、本実施形態に係るデスケーリング処理は特に効果を発揮する。冷延率が90%より大きい場合、冷間圧延によって熱延鋼板に付与される転位密度が大きくなると推定されるからである。冷延率の下限値は特に制限されないが、デスケーリング処理後の熱延鋼板の表面を平滑にするという観点から、30%以上としてもよい。
【0024】
(焼鈍工程)
焼鈍の条件も特に制限されず、従来から行われる焼鈍と同様の条件であればよい。一例として、焼鈍は、冷間圧延後の熱延鋼板、すなわち冷延鋼板を焼鈍炉内で600~1000℃で1~500秒保持することで行われてもよい。保持温度を600~1000℃とすることで、冷延鋼板の鉄組織の再結晶を促しつつ、オーステナイト粒径の粗大化を抑制することができる。特に、本実施形態では、冷延鋼板の表面に多数の転位が形成されているので、これらの転位を核として微細な結晶粒が多数形成される。これにより、冷延鋼板の表面の偏析欠陥が緩和される。
【0025】
さらに、保持時間を1~500秒とすることで、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の生産性を高めつつ、オーステナイト粒径の粗大化を抑制することができる。保持時間の上限値は250秒以下とすることが好ましい。また、炉内雰囲気は、Hを0~10体積%で含み、残部が不活性ガス(N等)で構成され、露点が-60~60℃となる雰囲気であってもよい。もちろん、焼鈍の条件はこれらに限定されず、最終生成物である合金化溶融亜鉛めっき鋼板に求められる特性等に応じて適宜設定されればよい。
【0026】
(溶融亜鉛めっき工程)
溶融亜鉛めっき工程の条件も特に制限されず、従来と同様であってもよい。以下、一例を説明する。焼鈍後の冷延鋼板を440~500℃まで冷却し、溶融亜鉛めっき浴に浸漬する。また、後述するデスケーリングを施した熱延鋼板に対して溶融亜鉛めっきを施してもよい。さらに、焼鈍工程においてH等の還元雰囲気によって表面を活性化する代わりに、Niプレめっき処理等を施し、焼鈍工程を省略してもよい。冷延および焼鈍工程の両方を省略する場合はNiプレめっき後、熱延鋼板を440~500℃まで加熱し、溶融亜鉛めっき浴に浸漬することが好ましい。めっき目付量は特に制約はないが、耐食性の観点より鋼板片面あたり20~80g/mとすることが好ましい。めっき浴は0.01~0.20質量%のAlを含み、残部が亜鉛及び不可避的不純物で構成されていてもよい。Al濃度を0.01質量%以上値とすることで、浴中でZn-Fe合金化反応の発生を抑制することができる。浴中でこのような合金化反応が進行すると、めっき厚の制御が難しくなるだけでなく、脆い合金層が冷延鋼板の表面に発達し、めっき密着性が低下する可能性が生じる。したがって、浴中でのZn-Fe合金化反応はなるべく抑制されることが好ましい。また、Al濃度を0.20質量%以下とすることで、Fe-Al合金層の発達を抑制することができる。Fe-Al合金層は、めっき付着性を低下させる他、後述する合金化処理におけるZn-Fe合金化反応を阻害する可能性があるため、Fe-Al合金層はなるべく薄く形成されることが好ましい。めっき浴温は特に限定されるものでないが450~470℃が好ましい。
【0027】
(合金化処理工程)
合金化処理工程の条件も特に制限されず、従来と同様であってもよい。一例として、合金化処理はめっき層中のFe濃度が7質量%以上となる条件で行うことが好ましい。例えば、合金化処理温度が450~550℃、かつ合金化処理時間が5~60秒で行うことが好ましい。合金化処理における加熱方法は特に限定されず、例えば通電加熱、高周波誘導加熱、輻射加熱等の公知のいずれの方法でよい。本実施形態によれば、偏析欠陥が緩和された冷延鋼板に対して溶融亜鉛めっき及び合金化処理を行うので、合金化処理において反応速度のばらつきを抑制することができる。したがって、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面の凹凸を抑制することができる。すなわち、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観を改善することができる。
【0028】
(後処理工程)
合金化処理後の後処理も特に限定されず、調質圧延やレベラーによる材質調整や形状矯正を行ってもよく、必要に応じてクロメート処理など通常行われる後処理を行ってもよい。
【0029】
<2.発明の対象となる熱延鋼板>
本実施形態に係るデスケーリング処理は、熱間圧延後の鋼板、すなわち熱延鋼板に対して行われる。熱延鋼板の組成は特に制限されず様々な組成の熱延鋼板に本実施形態に係るデスケーリング処理を施してもよい。ただし、偏析欠陥を生じやすい元素を多く含む熱延鋼板に本実施形態に係るデスケーリング処理を施すことが好ましい。このような熱延鋼板の表面には偏析欠陥が形成されやすいからである。本実施形態に係るデスケーリング処理によって偏析欠陥の影響を緩和することができる。すなわち、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観が均質化される。
【0030】
偏析欠陥を生じやすい元素としては、例えばMn及びPが挙げられる。また、鋼板の強度を高めるという観点から、鋼板にSiが添加されてもよい。したがって、本実施形態に係るデスケーリング処理の対象となる鋼板は、例えば、0.5~3.0質量%のMn、0.01~3.0質量%のSi、及び0.01~0.12質量%のPからなる群から選択される何れか1種以上を含んでいてもよい。Mn及びPは特に偏析しやすいので、Mn及びPの少なくとも1種以上を上述した質量%で含んでいる鋼板に対して本実施形態に係るデスケーリング処理を行うことが好ましい。各元素の質量%は、鋼板の総質量に対する質量%である。
【0031】
Mnは鋼板の強度と靭性を高めるために有効な元素である。Mnの添加量が多いほど鋼板の強度が向上するが、加工性が低下する可能性がある。また、めっき性が低下する可能性もある。これらの観点から、Mnの添加量は3.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2.5質量%以下である。一方、Mnによる偏析欠陥が顕著に生じるのは0.5質量%以上である。このため、Mnの添加量は0.5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは1.0質量%以上である。
【0032】
Siは鋼板の強度を増加させるために有効な元素である。Siの添加量が多いほど鋼板の強度が向上するが、加工性が低下する可能性がある。また、不めっき及び合金化遅延の要因ともなりうる。これらの観点から、Siの添加量は3.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2.0質量%以下である。一方、鋼板の強度を増加させるというSiの効果を十分に高めるためには、Siの添加量は0.01質量%以上であることが好ましい。
【0033】
Pは鋼板の強度を増加させるために有効な元素であり、鋼中に不可避的不純物として含有される元素でもある。Pの添加量が多いほど鋼板の強度が向上するが、靭性が低下する可能性がある。これらの観点から、Pの添加量は0.12質量%以下であることが好ましい。一方、脱リンコストの観点から、Pの質量%は0.01質量%以上であることが好ましい。また、Pの質量%が0.01質量%以上となる場合、Pに起因する偏析欠陥が多くなるので、本実施形態による効果をより効果的に得ることができる。
【0034】
熱延鋼板を得るための熱間圧延の条件は特に制限されず、従来から行われる熱間圧延と同様の条件であればよい。一例として、熱間圧延は、微細な析出物の発生を抑制するために、950~1200℃程度の温度で行われてもよい。また、熱間圧延後の熱延鋼板の厚さは0.8~3.0mm程度であってもよい。もちろん、熱間圧延の条件はこれらに限定されず、最終生成物である合金化溶融亜鉛めっき鋼板に求められる特性等に応じて適宜設定されればよい。
【0035】
<3.デスケーリング処理>
(ウェットブラスト処理)
【0036】
本実施形態に係るデスケーリング処理は、具体的にはグリットを用いたブラスト処理、すなわちグリットブラスト処理である。後述する実施例で示すように、グリットはショットと比較して少ない投射量で発明の効果を発現する。
【0037】
さらに本発明者は、グリットの角ばった形状によって効果が得られたと考えている。すなわち、球形状のショットを研磨材として使用した場合、研磨材の角がないため、熱延鋼板の表面には圧縮変形が主に形成され、塑性変形がほとんど形成されない。一方で、グリットを研磨材として使用した場合、研磨材の角が熱延鋼板の表面に食い込むので熱延鋼板の表面で塑性流動が起きやすく、結果として熱延鋼板の表面に多くの表面欠陥を付与することができる。
【0038】
本実施形態のグリットブラスト処理は、上記グリットを用いたウェットブラスト処理であることが好ましい。つまり、本実施形態のグリットブラスト処理は、グリットのみを熱延鋼板に投射するドライ(乾式)ブラスト処理であってもよいが、グリットが水中に分散したスラリーを熱延鋼板に投射するウェット(湿式)ブラスト処理であることが好ましい。その理由は以下の通りである。
【0039】
上述したように、本実施形態では、グリットが熱延鋼板の表面に食い込むことによって効率的に表面欠陥を熱延鋼板の表面に付与することができる。熱延鋼板の表面に食い込んだグリットは直ちに熱延鋼板から離脱し、除去される。しかしながら、ドライブラスト処理では、熱延鋼板に食い込んだグリットが稀に残留することがある。熱延鋼板の表面に残留したグリットは表面欠陥の原因ともなりうる。
【0040】
この点、ウェットブラスト処理では、グリットが熱延鋼板に衝突すると同時に比重を持った水でグリットを押し流すことができる。したがって、熱延鋼板にグリットが残留しにくくなるので、グリット由来の表面欠陥が生じにくくなる。したがって、ウェットブラスト処理を行うことが好ましい。
【0041】
なお、ウェットブラスト処理では、上述したように、熱延鋼板にはグリットがほとんど残留しない。さらに、ウェットブラスト処理の他の条件(後述の投射量等)によっては、酸洗工程が不要になる程度まで表層スケール及び内部酸化層を除去できる場合がある。この場合、酸洗工程は省略してもよい。以下、ウェットブラスト処理の好ましい条件について説明する。これらの条件のうち、いずれか1つ以上が満たされることが好ましく、全て満たされることが最も好ましい。
【0042】
(転位密度)
本実施形態に係るデスケーリング処理は、上述した熱延鋼板に対して行われる。熱延鋼板の表面には、熱間圧延によって表層スケールが形成される。さらに、表層スケールの内側(母材側)に内部酸化層が形成される場合もある。本実施形態に係るデスケーリング処理では、表層スケール及び内部酸化層を除去するとともに、デスケーリング処理後の熱延鋼板の表面に表面欠陥を導入する。表面欠陥の導入の程度を表す指標として、鋼材表面の転位密度を指標にできる。後述する実施例で示すように、ブラスト処理によって、転位密度を3.5×1015/m以上とするのがよい。なお、ショットを用いたブラスト処理では、熱延鋼板の表面の転位密度を3.5×1015/m以上とすることが難しい。転位密度は4.0×1015/m以上であることが好ましい。
【0043】
本実施形態における転位密度は、XRD(X線回折)による修正Williamson-Hall法と修正Warren-Averbach法を組み合わせたラインプロファイル解析により求めることができる。Cu管球の場合、X線侵入深さが概ね5~10μm程度であるので、本解析手法によって得られる数値は熱延鋼板の表面から深さ5~10μm程度の平均的な転位密度である。つまり、本実施形態における転位密度は、熱延鋼板の表面から深さ5~10μm程度の領域内における転位密度を意味する。具体的な測定手順は、例えばT.Ungar et al. J.Appl. Cryst. 32 (1999)、 992、あるいは友田ら:鉄と鋼、103(2017)、73.等を参考にしてもよい。詳細な測定手順は実施例で説明する。
【0044】
仮に冷間圧延によって熱延鋼板の表面の転位密度を3.5×1015/m以上とするためには、圧下率95%程度以上の冷間圧延が必要となると想定される。この圧下率の達成は困難であるので、冷間圧延による転位の付与は現実的でない。
【0045】
(その他のブラスト条件)
グリットを用いたウェットブラスト処理の他の条件(グリットの材質、形状、粒径、投射量、投射速度、水研磨材比等)は特に制限されない。つまり、熱延鋼板の表面の転位密度は、グリットブラスト処理の条件によって様々に変動する。このため、実際にグリットブラスト処理を行った後に熱延鋼板の表面の転位密度を上述した測定方法によって測定し、その結果をフィードバックすればよい。例えば、測定された転位密度が3.5×1015/m未満となる場合、投射量、投射速度またはスラリー濃度を高めればよい。ただし、後述する条件のいずれか1つ以上を満たすグリットブラスト処理を行うことが好ましい。これらの条件を満たすグリットブラスト処理を行うことで、例えば熱延鋼板の表面の転位密度をより高めることができる。
【0046】
(グリットの粒径)
グリットの粒径は30~800μmであることが好ましい。ここで粒径とは平均粒径を示す。本実施形態における平均粒径はMie散乱理論に基づくレーザ回折散乱法(JIS Z8825)によって測定されるものとする。レーザ回折散乱式粒度分布測定装置として、例えば堀場製作所製LA-960が挙げられる。
【0047】
グリットの粒径を30μm以上とすることで、個々のグリットの衝突エネルギーを高めることができるので、熱延鋼板の表面の転位密度をより高めることができる。さらに、グリットブラスト処理によるデスケーリング性も向上する。一方、グリットの粒径を800μm以下とすることで、設定された投射量(熱延鋼板の単位面積に対して投射されるグリットの積算体積)に対するグリットの個数を十分に確保することができるので、熱延鋼板の表面の転位密度をより高めることができる。さらに、グリットブラスト処理によるデスケーリング性も向上する。グリットの粒径のより好ましい下限値は150μm以上であり、より好ましい上限値は400μm以下である。
【0048】
(グリットと水の体積比率)
スラリー中のグリットと水の体積比率(すなわち、スラリーの濃度)は、5体積%以上であることが好ましい。スラリーの濃度が高いほど、単位体積あたりのスラリーにおけるグリットの投射量が多くなるので、熱延鋼板の表面の転位密度がより高くなるからである。さらに、経済性や作業効率も高まる。ここで、グリットと水の体積比率は、スラリー中の水及びグリットの総体積に対するグリットの体積%を意味する。一方で、スラリーの濃度が高いほど、スラリーの流動性が低下し、グリットがスラリー搬送用の配管に詰まる可能性が高まる。このような観点から、スラリーの濃度は50体積%以下としてもよい。
【0049】
(グリットの材質)
グリットの材質は特に制限されないが、例えば、市場での流通量の多いという観点から、JIS Z0311に規定される鋳鉄グリットまたはJIS Z0312に規定されるアルミナグリットであることが好ましい。また、グリットはJIS G5903等に規定されるグリットであってもよい。
【0050】
(投射速度)
グリットの熱延鋼板の表面への投射速度が大きいほど、熱延鋼板の表面の転位密度をより確実に3.5×1015/m以上とすることができる。さらに、グリットブラスト処理によるデスケーリング性も向上する。したがって、投射速度は5m/s以上であることが好ましい。ここで、投射速度はグリットが熱延鋼板に衝突する際の速度であり、高速度カメラ等を用い、単位時間当たりのグリットの平均移動距離(複数のグリットについて測定された移動距離の算術平均値)を測定することによって測定可能である。投射速度の上限値は特に制限されないが、投射速度を高めるためには設備能力を大きくする必要がある。したがって、投射速度を高めようとするほど経済性が低下する。このため、投射速度の上限値は150m/sであってもよい。
【0051】
(投射量)
グリットの投射量は2×10-3/m以上であることが好ましい。ここで、グリットの投射量は、熱延鋼板の単位面積あたりの表面に衝突する水などの液体を除くグリットのみの積算体積である。グリットの投射量を2×10-3/m以上とすることで、熱延鋼板の表面の転位密度をより高めることができる。さらに、グリットブラスト処理によるデスケーリング性も向上する。なお、グリットの投射量が多いほど上述した効果が大きくなるので投射量の上限値に特に制限はない。ただし、経済性の観点から、グリットの投射量は100×10-3/m以下であってもよい。後述する実施例で示される通り、本実施形態によれば、投射量が15×10-3/m以下であっても熱延鋼板の表面の転位密度を3.5×1015/m以上とすることができる。
【0052】
ここで、JIS Z2504に規定される方法で測定されるかさ密度が7000kg/mのグリットを使用する場合、2×10-3/mの投射量を質量基準の投射量に換算すると、14kg/m(2×10-3(m/m)×7000(kg/m)=14(kg/m)となる。本実施形態で投射量を体積基準で規定することとしたのは、グリットブラスト処理では熱延鋼板に投射するグリットの個数が重要になるからである。すなわち、本実施形態では、グリットの粒径は所定範囲内の値となることが好ましく、この場合、グリット粒子の体積も所定範囲に定まる。したがって、体積基準で投射量を規定すれば、グリットの材質が異なっても、熱延鋼板に投射するグリットの個数をある程度揃えることができる。一方で、投射量を質量基準で規定した場合、グリットの材質(具体的にはかさ密度)によって熱延鋼板に投射するグリットの個数がばらつく可能性がある。
【0053】
(投射角度)
グリットの投射角度は30~90°であることが好ましい。ここで、グリットの投射角度は、グリットが表層スケールの表面に衝突する際のグリットの進行方向と表層スケールの表面とのなす角度である。例えば、表層スケールの表面に対して垂直にグリットを投射する場合、投射角度は90°となる。なお、熱延鋼板の移動速度、方向は特に制限されない。投射角度をこの範囲内とすることで、熱延鋼板の表面の転位密度をより高めることができ、かつ、より多くの表層スケールを除去することができる。したがって、グリットの投射角度は60~90°であることがより好ましい。
【0054】
なお、上述したグリットの材質、投射速度、投射量、及び投射角度はウェットブラスト処理の好ましい態様として説明したが、ドライブラスト処理を行う場合に適用されてもよい。
【0055】
以上述べた通り、本実施形態によるグリットブラスト処理によれば、研磨材として角ばった形状を有するグリットを使用する。これにより、熱延鋼板の表面の転位密度をより高めることができ、ひいては熱延鋼板の表面の転位密度を3.5×1015/m以上とすることができる。
【0056】
本実施形態によれば、熱延鋼板に対して上述した各処理を行うので、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観を改善することができる。
【実施例0057】
<1.実験例1>
実験例1では、グリットを用いたブラスト処理を行うことで合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観(表面性状)が改善されることを確認するために、以下の実験を行った。
【0058】
(1-1.試験サンプルの準備)
試験サンプルとして、以下の表1に示す化学組成を有する熱延鋼板を準備した。ここで、熱延鋼板は、以下の表1に示す化学組成を有する鋼片を1150℃で熱間圧延することで得た。表1中の各元素の数値は熱延鋼板の総質量に対する質量%である。残部は鉄及び不純物である。
【0059】
【表1】
【0060】
(1-2.ブラスト処理)
試験サンプルを表2に示す条件でグリットブラスト処理または比較としてショットブラスト処理を行った。各ブラスト処理の具体的な処理方法は以下の通りである。
【0061】
(1-2-1.グリットブラスト処理)
グリットブラスト処理は、ドライ(乾式)ブラスト処理またはウェット(湿式)ブラスト処理として行った。ドライブラスト処理では、研磨材を圧縮空気によって試験サンプル(熱延鋼板)に投射した。ここで、圧縮空気の圧力を0.5MPa、ブラストノズルと試験サンプルとの間の距離を100mmとした。この時の研磨材の投射速度は実測で約20m/sec実測値であった。使用した研磨材はJIS Z0311に規定される粒径約400μmの鋳鉄グリットとした。なお、粒径は上述した方法で測定した値である。投射量は表2に示す値とし、投射角度は90°とした。
【0062】
ウェットブラスト処理では、グリット/(グリット+水)の体積比率を15体積%としたスラリーを圧縮空気によって試験サンプルに投射した。ここで、圧縮空気の圧力は0.25MPaとし、研磨材の投射速度を実測で約13m/secとし、ブラストノズルと鋼板の距離を100mmとした。研磨材は粒径10~1000μmの角ばった形状のJIS Z0311に規定される鋳鉄グリットとした。なお、粒径は上述した方法で測定した値であり、実施例毎に10~1000μmの範囲内で異なる値とした。投射量は表2に示す値とし、投射角度は90°とした。
【0063】
(1-2-2.ショットブラスト処理)
ショットブラスト処理はドライ(乾式)ブラスト処理として行った。ドライブラスト処理は、研磨材を粒径約400μmの鋳鉄ショットとした他は上述したグリットブラスト処理におけるドライブラスト処理と同様にして行った。
【0064】
(1-3.酸洗)
上記各ブラスト処理を行った後、熱延鋼板を酸洗した。酸洗液は0.04質量%のインヒビターを混合した濃度9質量%の塩酸水溶液とした。酸洗液の温度は85℃とし、酸洗時間は40秒とした。
(1-4.冷延、溶融亜鉛めっき、及び合金化処理)
酸洗処理を行った後、熱延鋼板を75%の圧下率で冷間圧延した。ついで、冷間圧延後の熱延鋼板、すなわち冷延鋼板を焼鈍した。ここで、焼鈍雰囲気を5体積%H-bal.(残部)N、露点を-40℃、焼鈍温度(炉内温度)を800℃、均熱時間を30秒とした。
【0065】
ついで、焼鈍後の冷延鋼板を溶融亜鉛めっきした。ここで、侵入板温を470℃、浴温を470℃、めっき浴中のAl濃度を0.135質量%、めっき処理時間(めっき浴への鋼板の浸漬時間)を1秒、めっき付着量(目付量)を50g/m(片面あたり)とした。ついで、溶融亜鉛めっき後の冷延鋼板を550℃、20秒で合金化処理した。以上の工程により、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を作製した。
【0066】
(1-5.外観評価)
作製した合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観を目視により観察し、筋状のムラ(欠陥)が全く見られない場合は◎、筋状のムラは見られないが、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観にほとんど影響を与えない程度の微細な疵が見られる場合は○、筋状のムラが見られた場合を×とした。結果を表2にまとめて示す。
【0067】
【表2】
【0068】
ブラスト処理およびブラスト有無の比較の結果、表2から明らかな通り、研磨材としてグリットを使用することで、外観が改善した。また、添加元素の少ない鋼種Bではブラストによって外観が改善するものの、ブラストを実施しない水準1-7でも外観が○であった。本実施形態に係るデスケーリング工程は、元々の外観が不良となりやすい鋼種Aへの適用がより有効であると言える。
【0069】
<2.実験例2>
実験例2では、本実施形態によるデスケーリング処理(ブラスト処理)と鋼板の表面に生じる転位密度との関係を検証するために、以下の実験を行った。
【0070】
(2-1.ブラスト処理)
表1に示す鋼種Aの試験サンプルに対して表3に示す条件でブラスト処理を行った。
(2-2.酸洗処理)
ブラスト処理後の熱延板を酸洗した。酸洗の条件は実施例1と同様とした。
【0071】
(2-3.転位密度の測定)
酸洗後の鋼板から30mm角の試験片を切り出し、リガク製X線回折装置UltimaIIIを用いてXRD測定を実施した。ここで、X線源としてCuKα線を用い、出力を40kV、40mAとし、集中法光学系で高速一次元検出器D/teX Ultraにより2θ=40~145°の範囲の回折プロファイルを測定した。この時、発散スリットを1/2°、受光スリット1を8mm、受光スリット2を13mm、長手制限10mmとした。回折プロファイルはα-Feの110、200、211、220、310の5つとした。各回折ピークの半値幅はバックグラウンド及びKα2線を除去した後、ローレンツ関数でフィッティングして求めた。さらに、XRD装置由来の半値幅を除去するために無歪み標準試料(LaB6)の半値幅を測定し、この半値幅を測定試料の半値幅から差し引き、真の半値幅を算出した。得られた真の半値幅に対して修正Williamson-Hall法と修正Warren-Averbach法を組み合わせたラインプロファイル解析を行い、転位密度を算出した。実験結果を表3にまとめて示す。
【0072】
(2-4.冷延、溶融亜鉛めっき、合金化処理)
酸洗処理後の鋼板に対して、実施例1と同様の冷延、溶融亜鉛めっき、及び合金化処理を行った。合金化処理後の鋼板の外観を実施例1と同様の指標で評価を行った。
【0073】
【表3】
【0074】
鋼種Aを用いたブラスト処理の比較の結果、表3から明らかな通り、研磨材としてグリットを使用し、さらに他の条件(ここでは研磨材の粒径及び投射量)を調整することで転位密度を3.5×1015/m以上とすることで、外観が◎となった。特に、ウェットブラスト処理を行い、かつ粒径が30~800μmとなる水準2-1~2-3、2-7では、比較的少ない投射量で転位密度を3.5×1015/m以上とすることができた。なお、水準2-4、2-5では研磨材の粒径が30~800μmの範囲外の値となっており、転位密度が3.5×1015/mに届いていない条件に関しては、外観が○であった。しかし、投射量をさらに増加させることで、これらの水準でも転位密度を3.5×1015/m以上かつ、外観を◎とすることができた。ただし、投射量が多くなるので、投射量がより少ない水準2-1~2-3、2-7が好ましいことになる。水準2-6では投射量が少ないために転位密度が3.5×1015/mに届かなかったが、水準2-1、2-2と同程度まで投射量を増加させれば転位密度が3.5×1015/m以上となり、外観が◎となっている。
【0075】
<3.実験例3>
冷間圧延および焼鈍を省略した実施例を実験例3として示す。
(3-1.ブラスト処理)
実験例1で準備した表1に示す鋼種Aの試験サンプル(熱延鋼板)に対して水準1-3で示すブラスト処理を行った。
【0076】
(3-2.酸洗、溶融亜鉛めっき、及び合金化処理)
ブラスト処理後の熱延鋼板を酸洗した。酸洗の条件は実験例1と同様とした。酸洗処理を行った後、以下に示す2種のめっき方法にて溶融亜鉛めっき、及び合金化処理を施した。
【0077】
(3-2-1.溶融亜鉛めっき条件1)
酸洗後の鋼板に対して、0.3g/mのNiプレめっき処理を施した後、20℃/sで470℃まで鋼板を加熱し、浴温470℃、めっき浴中のAl濃度0.135質量%、めっき処理時間(めっき浴への鋼板の浸漬時間)1秒、めっき付着量(目付量)50g/m(片面あたり)の溶融亜鉛めっき処理を施した。ついで、溶融亜鉛めっき後の鋼板を550℃、20秒で合金化処理した。
【0078】
(3-2-2.溶融亜鉛めっき条件2)
酸洗後の鋼板に対して実験例1と同様の焼鈍・めっき処理を施し、ついで、溶融亜鉛めっき後の鋼板を550℃、20秒で合金化処理した。以上の工程により、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を作製した。
【0079】
(3-3.外観評価)
作製した合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観を目視により観察し、筋状のムラ(欠陥)が見られない場合は○、筋状のムラが見られた場合を×とした。結果を表3にまとめて示す。
【0080】
【表4】
【0081】
ブラストを実施した水準3-1、3-3(実施例)では、外観が○以上となった。一方で、ブラスト処理を実施しなかった水準3-2、3-4では、外観が×、すなわち筋状の模様が発生していた。よって、冷延や焼鈍を行わない合金化溶融亜鉛めっき鋼板でもグリットブラストを行うことによって、外観を改善することができる。
【0082】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
図1