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特開2024-128472標識化細胞外小胞体の製造方法、試薬及び試薬キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128472
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】標識化細胞外小胞体の製造方法、試薬及び試薬キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240913BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20240913BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
G01N33/53 S
C12N1/02
C12N1/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037460
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河内 寛明
(72)【発明者】
【氏名】山本 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】皆嶋 英範
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065BD14
4B065BD15
4B065BD18
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】
本発明は、未精製の検体から標識化細胞外小胞体を簡便かつ高効率で製造することを目的とする。
【解決手段】
細胞外小胞体を含む未精製の試料(A)中の細胞外小胞体を蛍光標識用色素により標識して、標識化細胞外小胞体を含む未精製の試料(B)を得る工程1と、前記試料(B)を精製する工程2とを含み、前記工程2が、超遠心分離、及び/又は、細胞外小胞体の構成成分と特異的に結合する結合部を含む吸着剤による吸着により行われる、標識化細胞外小胞体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外小胞体を含む未精製の試料(A)中の細胞外小胞体を蛍光標識用色素により標識して、標識化細胞外小胞体を含む未精製の試料(B)を得る工程1と、前記試料(B)を精製する工程2とを含み、前記工程2が、超遠心分離、及び/又は、細胞外小胞体の構成成分と特異的に結合する結合部を含む吸着剤による吸着により行われる、標識化細胞外小胞体の製造方法。
【請求項2】
前記工程1と、前記工程2との間に、フィルター濾過の工程3を含む、請求項1記載の標識化細胞外小胞体の製造方法。
【請求項3】
前記工程3に用いるフィルターの径が、0.2~5.0μmである、請求項2記載の標識化細胞外小胞体の製造方法。
【請求項4】
前記吸着剤が、磁性粒子である、請求項1又は2記載の標識化細胞外小胞体の製造方法。
【請求項5】
前記試料(A)は、動物細胞培養培地、植物細胞培養培地、バクテリア細胞培養培地、酵母培養培地、組織抽出物、癌組織、血清、血漿、唾液、涙、眼房水、汗、尿、糞、脳脊髄液、腹水、羊水、精液、乳、ほこり、淡水、海水、土壌及び発酵食品からなる群より選択される一つ以上である、請求項1又は2記載の標識化細胞外小胞体の製造方法。
【請求項6】
前記蛍光標識用色素は、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させた20μM色素溶液とリン酸緩衝生理食塩水(PBS)とを、体積比1:9で混合した際に生じる色素分散体の平均粒子径が、5~1000nm である、請求項1又は2記載の標識化細胞外小胞体の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2記載の標識化細胞外小胞体の製造方法に用いるための試薬であって、前記工程1において細胞外小胞体を標識するための蛍光標識用色素を含む、試薬。
【請求項8】
請求項1又は2記載の標識化細胞外小胞体の製造方法に用いるための試薬キットであって、前記工程1において細胞外小胞体を標識するための蛍光標識用色素、及び、前記工程2において前記試料(B)を精製するための吸着剤を含む、試薬キット。
【請求項9】
請求項1又は2記載の標識化細胞外小胞体の製造方法に用いるための試薬キットであって、前記工程1において細胞外小胞体を標識するための蛍光標識用色素、及び、前記工程2において前記試料(B)を精製するための装置を含む、試薬キット。
【請求項10】
請求項3記載の標識化細胞外小胞体の製造方法に用いるための試薬キットであって、前記工程1において細胞外小胞体を標識するための蛍光標識用色素、及び、前記工程3においてフィルター濾過するためのフィルターを含む、試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標識化細胞外小胞体の製造方法、試薬及び試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオイメージングは、生体内のタンパク質、細胞、及び組織等を可視化する技術である。バイオイメージングは、例えば、生体内の分子及び細胞の機能の解明、並びに創薬の研究等といった生物学及び医学の研究領域で幅広く活用されている。
中でも、蛍光バイオイメージング法は、現象の動的な観察、多色観察、及び高感度観察が可能なイメージング法である。蛍光バイオイメージング法は、非侵襲的に診断可能なイメージング法としても注目されてきており、患者への負担が少ない画像診断、及び手術中のリアルタイム診断等、臨床現場における応用が期待されている。そして近年、蛍光バイオイメージング法による細胞外小胞体の動態観察に注目が集まっている。
【0003】
細胞外小胞体(Extraceller Vesicles、EVs)は、細胞の普遍的なメカニズムで多数の種類の細胞から分泌されるナノサイズの生体粒子として、血液、尿、唾液、涙等の体液に存在しており、細胞から由来した脂質二重層を含み、20~1000nmの範囲の様々なサイズを有する膜構造の小胞体である。細胞外小胞体はmRNAとmiRNAを内包することがValadiらによって報告されたことをきっかけに、細胞外小胞体を介した細胞間での情報伝達機能に着目した研究が進んでいる。特に癌細胞の微小環境では、細胞外小胞体を介した癌の進行、転移、血管形成などに関する多くの機能が明らかになったことにより、癌を含む様々な疾患の診断マーカーとしての活用や、細胞外小胞体を利用した疾患治療等において、細胞外小胞体の動態観察は高い関心を浴びている。すなわち、バイオイメージング法、とりわけ蛍光バイオイメージング法によって細胞外小胞体の動態観察が可能となれば、様々な疾患に対して早期予防と治療に向けた糸口となり得ることが期待されている。
【0004】
細胞外小胞体をバイオイメージング法によって観察するには、細胞外小胞体への標識化が必要である。従来は未精製の検体から標識化細胞外小胞体を得るために、未精製の検体から1度細胞外小胞体を精製し、精製後の細胞外小胞体に標識化剤を添加して再度精製操作を行うという、少なくとも2回の精製操作を実施する必要があり、長い精製時間と精製による細胞外小胞体のロスが問題であった。この改善策としては、精製操作の回数を削減して標識化細胞外小胞体を獲得する方法が考えられる。特許文献1には、サイズ排除クロマトグラフィーを利用した、試料の精製又は前処理過程なしに試料中の細胞外小胞体を分析する方法が記載されている。しかし、特許文献1に記載されたサイズ排除クロマトグラフィーを用いた方法は、細胞外小胞体と同等サイズの夾雑タンパクがコンタミネーションするリスクがあり、その結果、タンパク質の量あたりの細胞外小胞体の回収率が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2020-535416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、未精製の検体から標識化細胞外小胞体を簡便かつ高効率で製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明の標識化細胞外小胞体の製造方法により、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、以下の[1]~[10]に関する。
[1]細胞外小胞体を含む未精製の試料(A)中の細胞外小胞体を蛍光標識用色素により標識して、標識化細胞外小胞体を含む未精製の試料(B)を得る工程1と、前記試料(B)を精製する工程2とを含み、前記工程2が、超遠心分離、及び/又は、細胞外小胞体の構成成分と特異的に結合する結合部を含む吸着剤による吸着により行われる、標識化細胞外小胞体の製造方法。
【0009】
[2]前記工程1と、前記工程2との間に、フィルター濾過の工程3を含む、[1]記載の標識化細胞外小胞体の製造方法。
【0010】
[3]前記工程3に用いるフィルターの径が、0.2~5.0μmである、[1]又は[2]記載の標識化細胞外小胞体の製造方法。
【0011】
[4]前記吸着剤が、磁性粒子である、[1]~[3]いずれか記載の標識化細胞外小胞体の製造方法。
【0012】
[5]前記試料(A)は、動物細胞培養培地、植物細胞培養培地、バクテリア細胞培養培地、酵母培養培地、組織抽出物、癌組織、血清、血漿、唾液、涙、眼房水、汗、尿、糞、脳脊髄液、腹水、羊水、精液、乳、ほこり、淡水、海水、土壌及び発酵食品からなる群より選択される一つ以上である、[1]~[4]いずれか記載の標識化細胞外小胞体の製造方法。
【0013】
[6]前記蛍光標識用色素は、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させた20μM色素溶液とリン酸緩衝生理食塩水(PBS)とを、体積比1:9で混合した際に生じる色素分散体の平均粒子径が、5~1000nm である、[1]~[5]いずれか記載の標識化細胞外小胞体の製造方法。
【0014】
[7][1]~[6]いずれか記載の標識化細胞外小胞体の製造方法に用いるための試薬であって、前記工程1において細胞外小胞体を標識するための蛍光標識用色素を含む、試薬。
【0015】
[8][1]~[6]いずれか記載の標識化細胞外小胞体の製造方法に用いるための試薬キットであって、前記工程1において細胞外小胞体を標識するための蛍光標識用色素、及び、前記工程2において前記試料(B)を精製するための吸着剤を含む、試薬キット。
【0016】
[9][1]~[6]いずれか記載の標識化細胞外小胞体の製造方法に用いるための試薬キットであって、請求項1又は2記載の標識化細胞外小胞体の製造方法に用いるための試薬キットであって、前記工程1において細胞外小胞体を標識するための蛍光標識用色素、及び、前記工程2において前記試料(B)を精製するための装置を含む、試薬キット。
【0017】
[10][1]~[6]いずれか記載の標識化細胞外小胞体の製造方法に用いるための試薬キットであって、前記工程1において細胞外小胞体を標識するための蛍光標識用色素、及び、前記工程3においてフィルター濾過するためのフィルターを含む、試薬キット。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施形態によれば、未精製の検体から標識化細胞外小胞体を簡便かつ高効率で製造することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。但し、本発明の実施形態は、以下の記載に限定されず様々な実施形態を含む。
【0020】
本発明の実施形態である標識化細胞外小胞体の製造方法は、細胞外小胞体を含む未精製の試料(A)中の細胞外小胞体を蛍光標識用色素により標識して、標識化細胞外小胞体を含む未精製の試料(B)を得る工程1と、前記試料(B)を精製する工程2とを含み、前記工程2が、超遠心分離、及び/又は、細胞外小胞体の構成成分と特異的に結合する結合部を含む吸着剤による吸着により行われる。
【0021】
ここで、「未精製の試料」とは、サイズ排除クロマトグラフィー、超遠心分離、吸着剤、又は細胞外小胞体精製用として販売されたキットによる精製を行っていない、一定量以上の夾雑物を含む試料を指し、限外濾過による濃縮、一般的なフィルター濾過、遠心力20,000×g未満の遠心操作等による簡易的な前処理を行ったものを排除するものではない。
【0022】
細胞外小胞体を含む未精製の試料(A)としては、操作の簡便性の点においては、検体からそのまま採取したものを用いることが好ましく、細胞外小胞体の含有量が少量の試料からより多くの標識化細胞外小胞体を獲得する点においては、限外濾過による濃縮工程を経たものを用いることが好ましい。
【0023】
一実施形態において、上記試料(A)は、動物細胞培養培地、植物細胞培養培地、バクテリア細胞培養培地、酵母培養培地、組織抽出物、癌組織、血清、血漿、唾液、涙、眼房水、汗、尿、糞、脳脊髄液、腹水、羊水、精液、乳、ほこり、淡水、海水、土壌及び発酵食品からなる群より選択される一つ以上であることが好ましい。
【0024】
工程1は、細胞外小胞体を含む未精製の試料(A)中の細胞外小胞体を蛍光標識用色素により標識して、標識化細胞外小胞体を含む未精製の試料(B)を得るものである。標識の方法は特に限定されず、公知の方法で行うことができるが、例えば、前記試料(A)の溶液と、蛍光標識用色素の溶液とを混合する方法が挙げられる。
【0025】
<蛍光標識用色素>
工程1で使用する蛍光標識用色素とは、紫外領域から近赤外領域の光(例えば、波長400~1500nmの光)を照射した際に蛍光を発する色素であり、公知の化合物であってよい。
【0026】
蛍光標識用色素としては、特に限定されないが、例えば、フルオレセイン類、ローダミン類、クマリン類、シアニン類、フタロシアニン類、ジケトピロロピロール類、ボロンジピロメテン(BODIPY)類、キサンテン類、ピレン類、メロシアニン類、ぺリレン類、スチルベン類、ピロメテン類、アクリジン類、ポルフィリン類及びウンべリフェロン類等の色素が挙げられ、イメージングにおける耐光性の観点から、フタロシアニン類、ジケトピロロピロール類、ボロンジピロメテン(BODIPY)類、キサンテン類がより好ましい。
【0027】
蛍光標識用色素は、酵素基質、酵素、抗体、タンパク質、ペプチド、核酸、ビオチン、アビジン、金属及び放射性同位元素からなる群より選択される一つ以上との複合物として用いることも好ましく、細胞外小胞体を選択的かつ特異的に染色できる観点から、抗体との複合物として用いることがより好ましい。
【0028】
蛍光標識用色素は、色素単体をDMSOに溶解させた20μM色素溶液とリン酸緩衝生理食塩水(PBS)とを、体積比1:9で(好ましくは、DMSOに溶解させた20μM色素溶液100μLと、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)900μLとを)混合した際に生じる色素分散体の平均粒子径が、5~1000nm であることが好ましい。標識化後の細胞外小胞体の系中での分散性維持の観点から、当該平均粒子径は、500nm以下であることがより好ましく、400nm以下であることが更に好ましく、200nm以下であることが特に好ましい。また、細胞外小胞体表面への色素吸着の観点から、色素単体は完全な水溶性よりも若干の疎水性をもつ、すなわち、前記色素分散体の平均粒子径が5nm以上であることが好ましい。
【0029】
上記色素分散体の平均粒子径は、以下のようにして測定される。
DMSOに、蛍光標識用色素を20μMの濃度になるように溶解し、色素溶液100μLを得る。この色素溶液をPBSで10倍希釈して混合し、2μMの濃度の色素分散液1000μLを調製する。この色素分散液を、ピペッティングを10回以上行って混合し、粒度分布を粒度分布測定装置(スペクトリス株式会社製、ゼータサイザーナノZSP)にて、25℃の条件下で測定した。そこで算出されるZ平均粒子径を、本発明における平均粒子径とする。平均粒子径の測定は、色素分散液を調製してから5分以内に行う。
【0030】
一実施形態において、工程2における超遠心分離による精製は、20,000×g以上の遠心力で行うことが好ましく、細胞外小胞体の回収率向上の観点から、当該遠心力は50,000×g以上であることがより好ましく、100,000×g以上であることが更に好ましい。
【0031】
一実施形態において、工程2の細胞外小胞体の構成成分と特異的に結合する結合部を含む吸着剤は、結合部を含む磁性粒子又はガラスビーズであることが好ましい。特に精製操作の容易性から、磁石による単離が可能である磁性粒子を吸着剤として用いることがより好ましい。結合部としては、CD9、CD63、CD81、Tim4等の細胞外小胞体の外膜に固有のタンパク質と吸着する抗体又はペプチドが好ましい。
【0032】
吸着剤として磁性粒子を用いる場合、細胞外小胞体の吸着能を維持し続ける点において、磁性粒子の核と細胞外小胞体の結合部は、ストレプトアビジンとビオチンとの相互作用で結合していることが好ましい。
【0033】
本発明の実施形態である標識化細胞外小胞体の製造方法は、細胞外小胞体より大きな夾雑物を取り除く観点から、前記工程1と、前記工程2との間に、フィルター濾過の工程3を含むことも好ましい。
【0034】
一実施形態において、工程3で使用するフィルターは、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン、ポリエーテルスルホン等の材質のものが挙げられ、特に限定はされないが、タンパクの低吸着による回収率向上の観点から、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンを用いることが好ましい。
【0035】
一実施形態において、工程3で使用するフィルターの径は、0.2~5.0μm であることが好ましく、細胞外小胞体の標識に関わらない余剰色素除去の観点から、0.2~0.5μmであることがより好ましい。
【0036】
本発明の実施形態である試薬は、前記工程1において未精製の細胞外小胞体を含む試料を標識するための蛍光標識用色素を含むことが好ましい。前記工程2において前記試料(B)を精製するための吸着剤、又は装置を含むことも好ましい。吸着剤の好ましい形態は、上述した通りである。当該装置としては、例えば、遠心分離装置が挙げられる。
【0037】
一実施形態において、試薬キットは、前記蛍光標識色素のほか、更に、前記工程3においてフィルター濾過するためのフィルターを含むことも好ましい。フィルターの好ましい形態は、上述した通りである。
【実施例0038】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
[蛍光標識用色素]
蛍光標識用色素として、以下の色素を用いた。
・Sciforiem(登録商標) FI7510(東洋インキSCHD株式会社製、以下FIと略す)
・PKH26赤色蛍光細胞リンカーキット(EtOH溶液、Merck社製、以下PKH26と略す)
・PKH67緑色蛍光細胞リンカーキット(EtOH溶液、Merck社製、以下PKH67と略す)
・DiD(Biotium社製)
・IVISense DiR 750 Fluorescent Cell Labeling Dye(住商ファーマインターナショナル株式会社製、以下DiRと略す)
・BODIPYTM FL NHS Ester(Thermo Fisher Scientific株式会社製、以下BFL-NHSと略す)
【0040】
表1に、上記の各色素について、DMSOに溶解させた20μM色素溶液100μLとリン酸緩衝生理食塩水(PBS)900μLとを混合した際に生じる色素分散体の平均粒子径の結果を示す。平均粒子径は上記の調液後、5分以内に粒度分布測定装置(スペクトリス株式会社、ゼータサイザーナノ ZSP)にて測定した。各蛍光標識用色素のZ平均粒子径を、下記の基準に基づいて判定した。
(判定基準)
5:Z平均粒子径 5nm未満
4:Z平均粒子径 5nm以上、200nm未満
3:Z平均粒子径 200nm以上、500nm未満
2:Z平均粒子径 500nm以上、1000nm以下
1:Z平均粒子径 1000nm超
【0041】
表1に示す色素はいずれも色素分散体の平均粒子径が、5~1000nm、すなわち判定基準が2~4であるため、蛍光標識化用色素として好適に使用可能である。但し、本発明の蛍光標識用色素は、これらに限定されない。
【0042】
【表1】
【0043】
<細胞外小胞体を含む未精製の試料(A)の準備>
細胞外小胞体を含む未精製の試料(A)として、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞の培養上清を20倍に濃縮したもの(以下20倍濃縮上清と略す)を使用した。上記20倍濃縮上清の調整方法を以下に記す。
【0044】
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞を170cells/cmで播種し、10%Fetal Bovine Serum(FBS)及び1%ペニシリン―ストレプトマイシンを含ませたD-MEM(低グルコース)培地(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いて、インキュベーター(37℃、5%CO含有Air、加湿環境)内で、2日間培養した。その後、培地を取り除き、PBSで洗浄してから細胞外小胞体フリーの培地(牛胎児血清不含のD-MEM培地)に置換して、2日間37℃でインキュベーションした。インキュベーション後に、培地を回収し、前処理として、150×g及び10,000×gの遠心操作による培地中の死細胞の除去、並びに分画分子量30kDaの限外濾過を行い、培地を20倍に濃縮した。
【0045】
[実施例1]
<FI色素による標識及び磁性粒子を用いた精製>
上記20倍濃縮上清1mlにPBS1mlを加えて混合し、さらに200μM FI色素DMSO溶液を40μl加えて混合した。得られた混合溶液を37℃で1h静置し、その後0.45μmのPVDFフィルターで濾過を行い、ろ液(標識化細胞外小胞体を含む未精製の試料(B))を得た。ろ液500μlについて、MagCaptureTMExosome Isolation Kit PS Ver.2(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた磁性粒子による精製操作を実施して、標識化細胞外小胞体分散液を100μl得た。
【0046】
[実施例2]
<FI色素による標識及び超遠心分離機を用いた精製>
上記20倍濃縮上清1mlにPBS1mlを加えて混合し、さらに200μM FI色素DMSO溶液を40μl加えて混合した。得られた混合溶液を37℃で1h静置し、その後0.45μmのPVDFフィルターで濾過を行い、ろ液(標識化細胞外小胞体を含む未精製の試料(B))を得た。ろ液500μlを30PAボトル(C)クミ(エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ株式会社製)に入れた後、PBSでメスアップして、超遠心分離機CP80NX(エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ株式会社製)により、4℃、209,000×gで80分間超遠心分離を実施した。上清を除去した後、底部のペレットを100μlのPBSで分散して、標識化細胞外小胞体分散液を100μl得た。
【0047】
[実施例3]
<PKH26色素による標識及び磁性粒子を用いた精製>
上記20倍濃縮上清1mlにPBS1mlを加えて混合し、さらにPKH26赤色蛍光細胞リンカーキット(Merck社製)のPKH26 EtOH溶液をDMSOで希釈した200μM PKH26色素DMSO溶液を40μl加えて混合した。得られた混合溶液を37℃で1h静置し、その後0.45μmのPVDFフィルターで濾過を行い、ろ液(標識化細胞外小胞体を含む未精製の試料(B))を得た。ろ液500μlについて、MagCaptureTMExosome Isolation Kit PS Ver.2(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた磁性粒子による精製操作を実施して、標識化細胞外小胞体分散液を100μl得た。
【0048】
[実施例4]
<PKH67色素による標識及び磁性粒子を用いた精製>
上記20倍濃縮上清1mlにPBS1mlを加えて混合し、さらにPKH67緑色蛍光細胞リンカーキット(Merck社製)のPKH67 EtOH溶液をDMSOで希釈した200μM PKH67色素DMSO溶液を40μl加えて混合した。得られた混合溶液を37℃で1h静置し、その後0.45μmのPVDFフィルターで濾過を行い、ろ液(標識化細胞外小胞体を含む未精製の試料(B))を得た。ろ液500μlをMagCaptureTMExosome Isolation Kit PS Ver.2(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた磁性粒子による精製操作を実施して、標識化細胞外小胞体分散液を100μl得た。
【0049】
[実施例5]
<DiD色素による標識及び磁性粒子を用いた精製>
上記20倍濃縮上清1mlにPBS1mlを加えて混合し、さらに200μM DiD色素DMSO溶液を40μl加えて混合した。得られた混合溶液を37℃で1h静置し、その後0.45μmのPVDFフィルターで濾過を行い、ろ液(標識化細胞外小胞体を含む未精製の試料(B))を得た。ろ液500μlについて、MagCaptureTMExosome Isolation Kit PS Ver.2(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた磁性粒子による精製操作を実施して、標識化細胞外小胞体分散液を100μl得た。
【0050】
[実施例6]
<DiR色素による標識及び磁性粒子を用いた精製>
上記20倍濃縮上清1mlにPBS1mlを加えて混合し、さらに200μM DiR色素DMSO溶液を40μl加えて混合した。得られた混合溶液を37℃で1h静置し、その後0.45μmのPVDFフィルターで濾過を行い、ろ液(標識化細胞外小胞体を含む未精製の試料(B))を得た。ろ液500μlについて、MagCaptureTMExosome Isolation Kit PS Ver.2(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた磁性粒子による精製操作を実施して、標識化細胞外小胞体分散液を100μl得た。
【0051】
[実施例7]
<FI色素による標識及び磁性粒子を用いた精製(0.22μmフィルター使用)>
上記20倍濃縮上清1mlにPBS1mlを加えて混合し、さらに200μM FI色素DMSO溶液を40μl加えて混合した。得られた混合溶液を37℃で1h静置し、その後0.22μmのPVDFフィルターで濾過を行い、ろ液(標識化細胞外小胞体を含む未精製の試料(B))を得た。ろ液500μlについて、MagCaptureTMExosome Isolation Kit PS Ver.2(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた磁性粒子による精製操作を実施して、標識化細胞外小胞体分散液を100μl得た。
【0052】
[実施例8]
<BFL色素結合抗体による標識及び磁性粒子を用いた精製>
1mg/ml抗CD9抗体(コスモ・バイオ株式会社製)1.2mlに対して、2mM BFL-NHS色素DMSO溶液を40μl添加して、室温で1時間インキュベーションした。その後、フィルトレーションチューブ(分画分子量30K)にて標識化抗体を回収して、最終的に100μlの標識化抗体分散液を得た。
上記20倍濃縮上清1mlにPBS1mlを加えて混合し、さらに標識化抗体分散液を100μl加えて混合した。得られた混合溶液を37℃で1h静置し、その後0.45μmのPVDFフィルターで濾過を行い、ろ液(標識化細胞外小胞体を含む未精製の試料(B))を得た。ろ液500μlについて、MagCaptureTMExosome Isolation Kit PS Ver.2(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた磁性粒子による精製操作を実施して、BFL標識化細胞外小胞体分散液を100μl得た。
【0053】
[比較例1]
<精製後の試料に対する、FI色素による標識及び磁性粒子を用いた精製>
上記20倍濃縮上清1mlについてMagCaptureTMExosome Isolation Kit PS Ver.2(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた磁性粒子による精製操作を実施して、細胞外小胞体分散液を400μl得た。
上記細胞外小胞体分散液を400μlにPBS400μlを加えて混合し、さらに200μM FI色素DMSO溶液を16μl加えて混合した。得られた混合溶液を37℃で1h静置し、その後0.45μmのPVDFフィルターで濾過を行った。ろ液200μlについて、MagCaptureTMExosome Isolation Kit PS Ver.2(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた磁性粒子による精製操作を実施して、標識化細胞外小胞体分散液を100μl得た。
【0054】
[比較例2]
<精製後の試料に対する、FI色素による標識及び超遠心分離機を用いた精製>
上記20倍濃縮上清1mlを30PAボトル(C)クミ(エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ株式会社製)に入れた後、PBSでメスアップして、超遠心分離機CP80NX(エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ株式会社製)で4℃、209,000×gで80分間超遠心分離を実施した。上清を除去した後、底部のペレットを400μlのPBSで分散して、細胞外小胞体分散液を400μl得た。
上記細胞外小胞体分散液400μlにPBS400μlを加えて混合し、さらに200μM FI色素DMSO溶液を16μl加えて混合した。得られた混合溶液を37℃で1h静置し、その後0.45μmのPVDFフィルターで濾過を行った。ろ液200μlを30PAボトル(C)クミ(エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ株式会社製)に入れた後、PBSでメスアップして、超遠心分離機CP80NX(エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ株式会社製)で4℃、209,000×gで80分間超遠心分離を実施した。上清を除去した後、底部のペレットを100μlのPBSで分散して、標識化細胞外小胞体分散液を100μl得た。
【0055】
[比較例3]
<FI色素による標識及びサイズ排除クロマトグラフィーを用いた精製>
上記20倍濃縮上清1mlにPBS1mlを加えて混合し、さらに200μM FI色素DMSO溶液を40μl加えて混合した。得られた混合溶液を37℃で1h静置し、その後0.45μmのPVDFフィルターで濾過を行った。ろ液500μlについて、miniPURE-EV:Size exclusion chromatography column(HansaBioMed Life Sciences株式会社製)による精製操作を実施して、標識化細胞外小胞体分散液を400μl得た。
【0056】
[評価]
<μBCA法によるタンパク質定量>
実施例及び比較例で得られた標識化細胞外小胞体分散液について、Micro BCATM Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific株式会社製)を用いてタンパク質濃度を定量し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
(評価基準)
P(合格):タンパク質濃度検出(0.1μg/ml以上)
F(不合格):タンパク質濃度未検出
【0057】
<ELISAによる細胞外小胞体定量>
実施例及び比較例で得られた標識化細胞外小胞体分散液について、ヒト由来エクソソーム定量用CD9×CD63 ELISAキット(コスモ・バイオ株式会社製)を用いて、CD9とCD63双方のタンパクを有する細胞外小胞体濃度を測定した。
さらに、得られた値を上記のμBCAで検出されたタンパク質濃度の値で割ることで、タンパク質濃度が統一された状態での細胞外小胞体濃度を計算した。計算した値を、下記の基準に基づいて判定した。2以上であると、未精製の検体からの標識化細胞外小胞体の製造効率が良好であるといえる。結果を表2に示す。
(判定基準)
3(回収率が極めて良好):120[pg/ml]/[μg/ml]以上
2(回収率良好):50[pg/ml]/[μg/ml]以上、120[pg/ml]/[μg/ml]未満
1(回収率不良):50[pg/ml]/[μg/ml]未満
【0058】
【表2】