(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128516
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】レーザ加工装置の光学系、及びレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/073 20060101AFI20240913BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20240913BHJP
【FI】
B23K26/073
B23K26/064 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037512
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】小森 一範
(72)【発明者】
【氏名】坂本 敬志
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168BA87
4E168CB17
4E168DA02
4E168DA24
4E168DA28
4E168DA29
4E168DA39
4E168EA13
4E168EA15
4E168EA17
(57)【要約】
【課題】本件発明は、レーザビームのエネルギー利用効率が高く、様々な素材の加工対象物に適した、スポットにおけるレーザビームのスポット形状を中心部を有する環状とすることができるレーザ加工装置の光学系を提供することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため、光軸上の焦点の位置が異なる複数の領域を設けた光学面を有し、被加工物へのレーザビームの照射点の光軸上の位置は、光学面における複数の領域のうち少なくとも領域Aの焦点位置Aと同じ位置であり、かつ、光学面における複数の領域のうち少なくとも領域Bの焦点位置Bとは異なる位置であり、照射点における光軸に垂直な面において、領域Aを透過したレーザビームは光軸及び光軸の周辺部の点状の像Aを形成し、領域Bを透過したレーザビームは像Aの周囲であって光軸を中心とした環状の像Bを形成するレーザ加工装置の光学系を採用した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザビームを照射することによって被加工物を加工するレーザ加工装置の光学系であって、
光軸上の焦点の位置が異なる複数の領域を設けた光学面を有し、
前記複数の領域は前記光軸を中心とした同心円状の領域であり、
前記被加工物への前記レーザビームの照射点の前記光軸上の位置は、前記光学面における前記複数の領域のうち少なくとも領域Aの焦点位置Aと同じ位置であり、かつ、前記光学面における前記複数の領域のうち少なくとも領域Bの焦点位置Bとは異なる位置であり、
前記領域Aは前記光軸を含む領域であり、
前記照射点における前記光軸に垂直な面において、前記領域Aを透過した前記レーザビームは前記光軸及び前記光軸の周辺部に点状の像Aを形成し、前記領域Bを透過した前記レーザビームは前記像Aの周囲に前記光軸を中心とした環状の像Bを形成する、
ことを特徴とするレーザ加工装置の光学系。
【請求項2】
前記光学面は前記光軸を含む断面で曲率が連続的に変化するなめらかな非球面の形状であり、
前記非球面が以下の条件式(1)の偶数次非球面式で表されるとき、以下の条件式(2)を満たす請求項1に記載のレーザ加工装置の光学系。
z(r)=cr2/[1+{1-(1+k)・c2r2}1/2]+a2r2+a4r4+a6r6+a8r8+a10r10+a12r12+a14r14+a16r16 ・・・(1)
0.9<Cr/C0<1.0 ・・・(2)
但し、
z(r):前記光軸に対して垂直に距離r離れた位置での前記光軸方向の面位置(サグ量)。
c:曲率半径の逆数。
k:円錐定数。
a2~a16:2次から16次の非球面係数。
Cr:前記非球面の前記領域Bにおけるタンジェンシャル方向の曲率。
C0:前記非球面の前記領域Aにおける前記光軸の位置の曲率。
【請求項3】
以下の条件式(3)を満たす請求項1に記載のレーザ加工装置の光学系。
0.9<fB/fA<1.1 ・・・(3)
但し、
fA:最も前記被加工物に近い最像側光学面から前記焦点位置Aまでの距離。
fB:最も前記被加工物に近い最像側光学面から前記焦点位置Bまでの距離。
【請求項4】
前記光学面への前記レーザビームの入射側に、前記レーザビームを平行光にするためのコリメートレンズを備える請求項1に記載のレーザ加工装置の光学系。
【請求項5】
請求項1に記載のレーザ加工装置の光学系を備えることを特徴とするレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、レーザ加工装置の光学系、及びレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザビームが種々の製品の加工に広く用いられている。レーザビームは、1点に集光して被加工物に照射することによって被加工物の表面温度を急激に上昇させ、被加工物の被照射面を融解もしくは蒸発させる。このレーザビームを用いるレーザ加工装置は、このようにして、被加工物へ切断や穴開け、溶接といった加工を施す装置である。そして、レーザビームを1点に集光するため、ピンポイントで精密かつ微細な加工が可能である。また、より高エネルギーのレーザビームを用いることで、加工時間を短縮することができ、かつ、刃物での加工が困難な高硬度の被加工物の加工も可能である。
【0003】
ここで、レーザ加工装置はレーザ加工装置の光学系を備えている。そして、このレーザ加工装置の光学系は、レーザビームをスポットの1点に集光する機能に加えて、スポットにおけるレーザビームのスポット形状を円形で、エネルギー強度分布がガウシアン状やトップハット状のものとして照射する機能を有するものが従来採用されてきた。しかしながら、この従来のスポットのスポット形状を採用したレーザ加工においては、被加工物の切断や溶接、穴開けの際、レーザビームによって溶融した被加工物が切断面や穴部に残存してしまい、加工品質が悪化する問題があった。そこで、近年、スポットにおけるレーザビームのスポット形状を環状、又は中心部を有する環状にすることによって、溶融した被加工物を適切に飛ばして切断面や穴部に残存させないレーザ加工が提案されている。特に、スポットにおけるレーザビームのスポット形状が中心部を有する環状とすることによって、中心部のレーザビームで溶融することによって発生するスパッタを環状のレーザビームが抑えることによって飛び散るスパッタを大幅に抑制することが可能となり、加工品質が良くなることが知られはじめている。
【0004】
スポットにおけるレーザビームのスポット形状を中心部を有する環状にするために、例えば特許文献1では、回折光学素子を用いてレーザビームを空間的に分岐して、スポットにおけるレーザビームのスポット形状を中心部を有する環状とするレーザ溶接装置を開示している。また、特許文献2では、円錐台形レンズを用いて、スポットにおけるレーザビームのスポット形状を中心部を有する環状とするレーザ加工装置を開示している。また、特許文献3では、球面レンズ及び球面収差を発生可能な非球面レンズとの少なくとも一方を用いて、レーザビームの中心領域にあった光線を周辺領域へ倒置させ、かつ、レーザビームの周辺領域にあった光線を中心領域に倒置させることによって、スポットにおけるレーザビームのスポット形状を中心部を有する環状とするレーザ加工ヘッドを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-205327号公報
【特許文献2】特開2016-068131号公報
【特許文献3】国際公開第2012/164663号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のレーザ溶接装置は、回折光学素子を用いてレーザビームを空間的に分岐していることから、不要な回折光が発生することによってレーザビームのエネルギー利用効率が良くない。また、特許文献2に記載のレーザ加工装置は、円錐台形レンズの円錐部と平坦部との境目にエッジ部ができ、レーザビームのエネルギーが高い場合はエッジ部付近が破損する恐れがあり、さらに、円錐台形レンズとは別に、スポットにレーザビームを集光させる集光レンズが必要となり、光学系のコストが増加する。また、特許文献3に記載のレーザ加工ヘッドは、照射点において、中心部のレーザビームと環状のレーザビームとの間の領域にもレーザビームのエネルギーが残存しており、中心部と環状との境界が不明瞭であることから、上述した、スポットにおけるレーザビームのスポット形状が中心部を有する環状とした場合のスパッタの抑制効果を十分に発揮できない。
【0007】
本件発明は、レーザビームのエネルギー利用効率が高く、様々な素材の加工対象物に適した、スポットにおけるレーザビームのスポット形状を中心部を有する環状とすることができるレーザ加工装置の光学系、及びレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、鋭意研究の結果、以下の発明に想到した。
【0009】
本件発明に係るレーザ加工装置の光学系は、レーザビームを照射することによって被加工物を加工するレーザ加工装置の光学系であって、光軸上の焦点の位置が異なる複数の領域を設けた光学面を有し、前記複数の領域は前記光軸を中心とした同心円状の領域であり、前記被加工物への前記レーザビームの照射点の前記光軸上の位置は、前記光学面における前記複数の領域のうち少なくとも領域Aの焦点位置Aと同じ位置であり、かつ、前記光学面における前記複数の領域のうち少なくとも領域Bの焦点位置Bとは異なる位置であり、前記領域Aは前記光軸を含む領域であり、前記照射点における前記光軸に垂直な面において、前記領域Aを透過した前記レーザビームは前記光軸及び前記光軸の周辺部に点状の像Aを形成し、前記領域Bを透過した前記レーザビームは前記像Aの周囲に前記光軸を中心とした環状の像Bを形成することを特徴としている。
【0010】
本件発明に係るレーザ加工装置は、上述のレーザ加工装置の光学系を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本件発明に係るレーザ加工装置の光学系は、被加工物への前記レーザビームの照射点における光軸に垂直な面において、光軸及び光軸の周辺部の点状の像と、点状の像の周囲であって光軸を中心とした環状の像を形成することができる。これによって、レーザビームのエネルギー利用効率が高く、様々な素材の加工対象物に適したレーザ加工を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施の形態に係るレーザ加工装置の光学系の概略断面図である。
【
図2】本実施の形態に係るレーザ加工装置の光学系の概略断面図である。
【
図3】本実施の形態に係るレーザ加工装置の概略図である。
【
図4】実施例1の照射点におけるレーザビームのスポット形状図である。
【
図5】実施例1の照射点におけるレーザビームのエネルギー強度分布図である。
【
図6】実施例2の照射点におけるレーザビームのスポット形状図である。
【
図7】実施例2の照射点におけるレーザビームのエネルギー強度分布図である。
【
図8】実施例3の照射点におけるレーザビームのスポット形状図である。
【
図9】実施例3の照射点におけるレーザビームのエネルギー強度分布図である。
【
図10】実施例4の照射点におけるレーザビームのスポット形状図である。
【
図11】実施例4の照射点におけるレーザビームのエネルギー強度分布図である。
【
図12】実施例5の照射点におけるレーザビームのスポット形状図である。
【
図13】実施例5の照射点におけるレーザビームのエネルギー強度分布図である。
【
図14】実施例6の照射点におけるレーザビームのスポット形状図である。
【
図15】実施例6の照射点におけるレーザビームのエネルギー強度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本件発明に係るレーザ加工装置の光学系、及びレーザ加工装置の実施の形態を説明する。なお、以下に説明するものは、単に一態様を示したものであり、以下の記載内容に限定解釈されるものではない。
【0014】
1.レーザ加工装置の光学系の実施の形態
本件発明に係るレーザ加工装置の光学系は、レーザ光を照射することによって被加工物を加工するレーザ加工装置に用いる光学系である。当該光学系は、光軸上の焦点の位置が異なる複数の領域を設けた光学面を有し、この複数の領域は光軸を中心とした同心円状の領域である。そして、被加工物へのレーザビームの照射点の光軸上の位置は、光学面における複数の領域のうち少なくとも領域Aの焦点位置Aと同じ位置であり、かつ、光学面における複数の領域のうち少なくとも領域Bの焦点位置Bとは異なる位置である。なお、領域Aは光軸を含む領域である。このとき、照射点における光軸に垂直な面において、領域Aを透過したレーザビームは光軸及び光軸の周辺部に点状の像Aを形成し、領域Bを透過したレーザビームは像Aの周囲に光軸を中心とした環状の像Bを形成するものである。
【0015】
このとき、被加工物のレーザビームの照射点(スポット)における光軸に垂直な面のレーザビームのスポット形状は、上述した像Aと像Bとの合成した像となることから、光軸及び光軸の周辺部の点状の像と、点状の像の周囲であって光軸を中心とした環状の像とを合成した像となる。
【0016】
本件発明によれば、照射点(スポット)における光軸に垂直な面のレーザビームのスポット形状が中心部の点状及び点状の周囲の環状とからなることから、本件発明に係るレーザ加工装置の光学系を採用したレーザ加工装置を用いることによって、アルミニウム材など光の反射率が高い被加工物を溶接や切断することができ、かつ、レーザビームのエネルギーの使用効率が高く、スパッタが少なく品質の良いレーザ加工を行うことが可能となる。
【0017】
レーザ発振器から光ファイバを介して光学面に入射されるレーザビームは、レーザ加工用に用いることができるレーザビームであれば、いかなるレーザビームであっても用いることができる。特に、YAGレーザ(波長1064nm)、ファイバレーザ(波長1070nm)、ディスクレーザ(波長1030nm)、半導体レーザ(波長935nm、940nm、980nm、940~980nm、940~1025nm)に代表される発振波長が約920~1080nmの近赤外レーザビームであることが好ましい。そして、レーザ加工用に用いることができるレーザビームであれば、青、緑、紫外線域のレーザビームであっても良い。また、光学面に入射されるレーザビームの光軸に垂直な面におけるエネルギー分布は、中心部(光軸部分)のエネルギーが強いガウシアン状であっても、均一であっても良い。
【0018】
なお、本件発明に係るレーザ加工装置の光学系は、レーザ加工を行うことができる限りにおいて、どのような光学系を含むこともできる。例えば、ガルバノミラーを備えたガルバノ光学系を含んでも良い。また、ビームスプリッターを用いてレーザビームを分岐して、被加工物の照射点に照射するレーザビームのスポット形状やエネルギー強度分布等を観測する観測系を含んでも良い。
【0019】
〔第一の実施形態〕
本実施の形態に係るレーザ加工装置の光学系の概略断面図を
図1に示す。
図1a及び
図1bは第一の実施形態である第一の光学系1及び第一の光学系1’を示している。
図1aは、光学面3を有する光学素子が配置されている側から、光学面3へレーザビームを入射した場合の、光学面3から出射されるレーザビームの略軌跡を示している。光軸10は、光学面3の光学中心を通っている。光学面3は、領域B11、領域B21、領域A12、領域A22で示す領域を有している。そして、領域B11と領域B21で示す領域は、光軸10を中心とする同心円状の領域Bである。また、領域A12と領域A22で示す領域は、光軸10を中心とする同心円状の領域Aである。すなわち、光学面3において、領域Aは光軸10を含む領域である。このとき、領域B及び領域Aを有する光学面3は、光軸10を含む断面において曲率が連続的に変化するなめらかな非球面の形状である。
【0020】
領域Aの焦点位置Aは、光軸10の位置A50の位置にある。一方、領域Bの焦点位置Bは、光軸10の位置B51の位置にある。このように、第一の光学系1は、光軸10上に複数の異なる焦点を設けた光学面3を有している。なお、
図1aにおいて、領域B11から出射されるレーザビームの光線101と、領域B21から出射されるレーザビームの光線201と、領域A12から出射されるレーザビームの光線102と、領域A22から出射されるレーザビームの光線202は、光学面3のそれぞれの領域から出射されるレーザビームの光線を、1本の線で簡略化して表現している。
【0021】
ここで、領域B11と領域B21とで示す光学面3の同心円状の領域から出射される光線101及び光線201は、光軸10の位置B51の位置で1点に収束し、位置B51を通過後、徐々に拡散状に広がりながら光軸10の位置A50を通過する。また、領域A12と領域A22とで示す光学面3の同心円状の領域から出射される光線102及び光線202は、光軸10の位置A50の位置で1点に収束する。このとき、領域A12と領域A22とで示す領域を出射した光線102及び光線202は、位置A50における光軸10に垂直な面において、光軸10及び光軸10の周辺部の点状の像Aを形成する。そして、領域B11と領域B21とで示す領域を出射した光線101及び光線201は、位置A50における光軸10に垂直な面において、像Aの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Bを形成する。すなわち、被加工物へのレーザビームの照射点の光軸10上の位置を位置A50とすることによって、照射点における光軸10に垂直な面のレーザビームのスポット形状は、上述した像Aと像Bとの合成した像であり、光軸10及び光軸10の周辺部の点状の像Aと、点状の像Aの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Bとを合成した像となる。
【0022】
図1aにおいて、光学面3への入射光は、レーザ発振器から光ファイバを介して入射されるレーザビームであり、拡散状に広がるレーザビームであっても、コリメートレンズを用いて平行光にしたレーザビームであっても良い。このことから、第一の光学系1において、光学面3へのレーザビームの入射側にコリメートレンズを備えても良い。
【0023】
なお、
図1aにおいては、集光機能を有する光学素子が光学面3を備えている。一方、第一の実施形態においては、
図1bに示す第一の光学系1’の構成も可能である。第一の光学系1’においては、コリメート機能を有する光学素子が光学面3を備えている。第一の光学系1’の場合であっても、光学面3における領域B11、領域B21、領域A12、領域A22については、第一の光学系1で説明したものと同じ規定である。そして、領域B11と領域B21とで示す光学面3の同心円状の領域から出射される光線101及び光線201は、集光レンズ5で集光され、光軸10の位置B51の位置で1点に収束し、位置B51を通過後、徐々に拡散状に広がりながら光軸10の位置A50を通過する。また、領域A12と領域A22とで示す光学面3の同心円状の領域から出射される光線102及び光線202は、集光レンズ5で集光され、光軸10の位置A50の位置で1点に収束する。このとき、領域A12と領域A22とで示す領域を出射した光線102及び光線202は、位置A50における光軸10に垂直な面において、光軸10及び光軸10の周辺部の点状の像Aを形成する。そして、領域B11と領域B21とで示す領域を出射した光線101及び光線201は、位置A50における光軸10に垂直な面において、像Aの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Bを形成する。すなわち、被加工物へのレーザビームの照射点の光軸10上の位置を位置A50とすることによって、照射点における光軸10に垂直な面のレーザビームのスポット形状は、上述した像Aと像Bとの合成した像であり、光軸10及び光軸10の周辺部の点状の像Aと、点状の像Aの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Bとを合成した像となる。
【0024】
上述の領域B及び領域Aを有する光学面3は、光軸10を含む断面において曲率が連続的に変化するなめらかな非球面の形状である。この非球面は、以下の条件式(1)の偶数次非球面式で表すことができる。
【0025】
z(r)=cr2/[1+{1-(1+k)・c2r2}1/2]+a2r2+a4r4+a6r6+a8r8+a10r10+a12r12+a14r14+a16r16 ・・・(1)
但し、
z(r):光軸10に対して垂直に距離r離れた位置での光軸10方向の面位置(サグ量)
c:曲率半径の逆数
k:円錐定数
a2~a16:2次から16次の非球面係数
【0026】
このとき、以下の条件式(2)を満たすことが好ましい。光学面3の非球面の形状が条件式(2)を満たすことによって、光軸10上の焦点の位置が異なる複数の領域を光学面3に備えることになり、そのことから、上述したように、照射点における光軸10に垂直な面のレーザビームのスポット形状を、光軸10及び光軸10の周辺部の点状の像Aと、点状の像Aの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Bとを合成した像とすることができるからでる。
【0027】
0.9<Cr/C0<1.0 ・・・(2)
但し、
Cr:非球面の領域Bにおけるタンジェンシャル方向の曲率。
C0:非球面の領域Aにおける光軸の位置の曲率。
【0028】
また、位置A50及び位置B51について、以下の条件式(3)を満たすことが好ましい。位置A50及び位置B51の位置関係が条件式(3)を満たすことによって、照射点における光軸10に垂直な面のレーザビームのスポット形状において、点状の像Aの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Bの大きさ(光軸10を中心とする直径)が、像Aを形成するレーザビームで溶融することによって発生するスパッタが飛び散ることを抑制するのに適切な大きさになるからである。
【0029】
0.9<fB/fA<1.1 ・・・(3)
但し、
fA:最も被加工物に近い最像側光学面から位置A50までの距離。
fB:最も被加工物に近い最像側光学面から位置B51までの距離。
【0030】
ここで、条件式(3)のfA、fBの定義における「最像側光学面」とは、光学系に配置した光学素子において、最も被加工物に近い、すなわち最も像側に配置された光学素子の、像側の光学面のことである。第一の実施形態においては、
図1aの第一の光学系1の場合は光学面3であり、
図1bの第一の光学系1’の場合は集光レンズ5の像側の光学面である。なお、カバーガラスなど光学的に意味を持たないものは、仮に最も被加工物に近くても、「最も被加工物に近い最像側光学面」からは除かれる。
【0031】
上述では、光軸上の焦点の位置が位置A50と位置B51との2つある場合について説明した。しかし、第一の実施形態においては、光学面3における領域Bの外側に、さらに1つ又は複数の領域を備えることによって光軸上の焦点の位置を3つ以上とすることも可能である。例えば、光学面3における領域Bの外側に光軸10を中心とする同心円状の領域Cを設け、領域Cの焦点の位置を位置B51よりもレーザビームの光源側となる焦点位置Cとする。この場合、領域Cから出射した光線は焦点位置Cで1点に収束し、焦点位置Cを通過後、徐々に拡散状に広がりながら光軸10の位置A50を通過する。このとき、領域Cを出射した光線は、位置A50における光軸10に垂直な面において、光線101及び光線201による光軸10を中心とした環状の像Bよりも外側に、光軸10を中心とした環状の像Cを形成することができる。したがって、位置A50を照射点とした光軸10に垂直な面のレーザビームのスポット形状は、点状の像Aと、点状の像Aの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Bと、環状の像Bの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Cとを合成した像となる。
【0032】
なお、上述のように、光軸上の焦点の位置が異なる3つ以上の領域を設けた光学面を採用した場合、条件式(2)で用いられるCrの定義は、光学面の領域の焦点が照射点の位置から一番離れた位置にある光軸10を中心とした同心円状の領域(上述の場合領域C)におけるタンジェンシャル方向の曲率である。すなわち、条件式(2)においては、領域Bは、その領域の焦点が照射点の位置から一番離れた位置にある光軸10を中心とした同心円状の領域(上述の場合領域C)に置き換えて適用するものである。また、条件式(3)におけるfBの定義は、最も被加工物に近い最像側光学面から、光学面の領域の焦点が照射点の位置から一番離れた位置にある焦点の位置(上述の場合焦点位置C)までの距離である。すなわち、条件式(3)においては、位置B51は、その領域の焦点が照射点の位置から一番離れた位置にある焦点の位置(上述の場合焦点位置C)に置き換えて適用するものである。
【0033】
また、上述のように、光学面3が、光軸10上の焦点の位置が異なる複数の領域として、光軸10を中心として同心円状に順に領域Aと領域Bと領域Cとを有している場合において、領域Aの焦点の位置が照射点の位置であって、かつ、領域Aから出射した光線が照射点の位置で光軸10及び光軸10の周辺部の点状の像Aを形成する限りにおいて、領域Cから出射した光線が照射点の位置で点状の像Aの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Cを形成し、領域Bから出射した光線が照射点の位置で環状の像Cの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Bを形成するようにしても良い。
【0034】
また、上述では、光軸上の焦点の位置が異なる複数の領域を、同一の光学素子の光学面に設けた場合で説明したが、例えば、コリメート機能を有する光学素子の光学面に領域Bを備え、集光機能を有する光学素子の光学面に領域Aを備えることもできる。
【0035】
上述の点状の像Aと点状の像Aの周囲の環状の像Bとの、光軸10に垂直な面における光軸10を含む任意の直線上のエネルギー強度分布は、光軸10に対して対称に分布するものである。ここで、
図1の光学面3よりもレーザ発振器側に、レーザビームを光軸10に対してチルトもしくはシフトする機構を備えても良い。チルトは、光軸10に平行していたレーザビームの進路方向を、光軸10に対して傾けることである。また、シフトは、光軸10に一致させていたレーザビームの中心の位置を、光軸10とは異なる位置に光軸10に平行にずらすことである。このように、チルト、もしくはシフトさせたレーザビームを光学面3に入射することによって、位置A50を照射点とした光軸10に垂直な面のレーザビームのスポット形状は、点状の像Aと、点状の像Aの周囲であって環状の像Bとの合成した像であり、かつ、点状の像A及び環状の像Bの光軸10に垂直な面における光軸10を含む任意の直線上のエネルギー強度分布が光軸10に対して対称ではない分布となる。具体的には、エネルギー強度分布はチルトもしくはシフトした方向に対して強弱の分布を有するようになる。レーザ加工時のレーザビームの進行方向に対して、このエネルギー強度分布の強弱について、進行方向に強と配したり、進行方向に弱と配したり、進行方向の左右に強弱を配したりすることによって、様々な材料の被加工物を加工することができる。
【0036】
なお上記はレーザビームを光軸10に対してチルトもしくはシフトさせる内容で説明したが、光学面3を有する光学素子を光軸10に対してチルトもしくはシフトさせても良い。この場合であっても、上述の効果を奏するものである。
【0037】
〔第二の実施形態〕
次に、
図2を参照して第二の実施形態を説明する。
図2a及び
図2bは第二の実施形態である第二の光学系2及び第二の光学系2’を示している。
図2aは、光学面4を有する光学素子が配置されている側から、光学面4へレーザビームを入射した場合の、光学面4から出射されるレーザビームの略軌跡を示している。光軸10は、光学面4の光学中心を通っている。光学面4は、領域B31、領域B41、領域A32、領域A42で示す領域を有している。そして、領域B31と領域B41とで示す領域は、光軸10を中心とする同心円状の領域Bである。また、領域A32と領域A42とで示す領域は、光軸10を中心とする同心円状の領域Aである。すなわち、光学面4において、領域Aは光軸10を含む領域である。このとき、領域B及び領域Aを有する光学面4は、光軸10を含む断面において曲率が連続的に変化するなめらかな非球面の形状である。
【0038】
領域Aの焦点位置Aは、光軸10の位置A50の位置にある。一方、領域Bの焦点位置Bは、光軸10の位置B51の位置にある。このように、第二の光学系2は、光軸10上に複数の異なる焦点を設けた光学面4を有している。なお、
図2aにおいて、領域B31から出射されるレーザビームの光線301と、領域B41から出射されるレーザビームの光線401と、領域A32から出射されるレーザビームの光線302と、領域A42から出射されるレーザビームの光線402は、光学面4のそれぞれの領域から出射されるレーザビームの光線を、1本の線で簡略化して表現している。
【0039】
ここで、領域B31と領域B41とで示す光学面4の同心円状の領域から出射される光線301及び光線401は、徐々に収束しながら光軸10の位置A50を通過後、光軸10の位置B51の位置で1点に収束する。また、領域A32と領域A42とで示す光学面4の同心円状の領域から出射される光線302及び光線402は、光軸10の位置A50の位置で1点に収束する。このとき、領域A32と領域A42とで示す領域を出射した光線302及び光線402は、位置A50における光軸10に垂直な面において、光軸10及び光軸10の周辺部の点状の像Aを形成する。そして、領域B31と領域B41とで示す領域を出射した光線301及び光線401は、位置A50における光軸10に垂直な面において、像Aの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Bを形成する。すなわち、被加工物へのレーザビームの照射点の光軸10上の位置を位置A50とすることによって、照射点における光軸10に垂直な面のレーザビームのスポット形状は、上述した像Aと像Bとの合成した像であり、光軸10及び光軸10の周辺部の点状の像Aと、点状の像Aの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Bとを合成した像となる。
【0040】
図2aにおいて、光学面4への入射光は、レーザ発振器から光ファイバを介して入射されるレーザビームであり、拡散状に広がるレーザビームであっても、コリメートレンズを用いて平行光にしたレーザビームであっても良い。このことから、第二の光学系2において、光学面4へのレーザビームの入射側にコリメートレンズを備えても良い。
【0041】
なお、
図2aにおいては、集光機能を有する光学素子が光学面4を備えている。一方、第二の実施形態においては、
図2bに示す第二の光学系2’の構成も可能である。第二の光学系2’においては、コリメート機能を有する光学素子が光学面4を備えている。第二の光学系2’の場合であっても、光学面4における領域B31、領域B41、領域A32、領域A42については、第二の光学系2で説明したものと同じ規定である。そして、領域B31と領域B41とで示す光学面4の同心円状の領域から出射される光線301及び光線401は、集光レンズ6で集光され、徐々に収束しながら位置A50を通過後、光軸10の位置B51の位置で1点に収束する。また、領域A32と領域A42とで示す光学面4の同心円状の領域から出射される光線302及び光線402は、集光レンズ5で集光され、光軸10の位置A50の位置で1点に収束する。このとき、領域A32と領域A42とで示す領域を出射した光線302及び光線402は、位置A50における光軸10に垂直な面において、光軸10及び光軸10の周辺部の点状の像Aを形成する。そして、領域B31と領域B41とで示す領域を出射した光線301及び光線401は、位置A50における光軸10に垂直な面において、像Aの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Bを形成する。すなわち、被加工物へのレーザビームの照射点の光軸10上の位置を位置A50とすることによって、照射点における光軸10に垂直な面のレーザビームのスポット形状は、上述した像Aと像Bとの合成した像であり、光軸10及び光軸10の周辺部の点状の像Aと、点状の像Aの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Bとを合成した像となる。
【0042】
上述の領域B及び領域Aを有する光学面4は、光軸10を含む断面において曲率が連続的に変化するなめらかな非球面の形状である。この非球面は、第一の実施形態で説明した条件式(1)の偶数次非球面式で表される。
【0043】
このとき、光学面4は、第一の実施形態で説明した条件式(2)を満たすことが好ましい。光学面4の非球面の形状が条件式(2)を満たすことによって、光軸10上の焦点の位置が異なる複数の領域を光学面4に備えることになり、そのことから、上述したように、照射点における光軸10に垂直な面のレーザビームのスポット形状を、光軸10及び光軸10の周辺部の点状の像Aと、点状の像Aの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Bとを合成した像とすることができるからでる。
【0044】
また、位置A50及び位置B51について、第一の実施形態で説明した条件式(3)を満たすことが好ましい。位置A50及び位置B51の位置関係が条件式(3)を満たすことによって、照射点における光軸10に垂直な面のレーザビームのスポット形状において、点状の像Aの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Bの大きさ(光軸10を中心とする直径)が、像Aを形成するレーザビームで溶融することによって発生するスパッタが飛び散ることを抑制するのに適切な大きさになるからである。
【0045】
ここで、条件式(3)のfA、fBの定義における「最像側光学面」とは、光学系に配置した光学素子において、最も被加工物に近い、すなわち最も像側に配置された光学素子の、像側の光学面のことである。第二の実施形態においては、
図2aの第二の光学系2の場合は光学面4であり、
図2bの第二の光学系2’の場合は集光レンズ6の像側の光学面である。なお、カバーガラスなど光学的に意味を持たないものは、仮に最も被加工物に近くても、「最も被加工物に近い最像側光学面」からは除かれる。
【0046】
上述では、光軸上の焦点の位置が位置A50と位置B51との2つある場合について説明した。しかし、第二の実施形態においては、光学面4における領域Bの外側に、さらに1つ又は複数の領域を備えることによって光軸上の焦点の位置を3つ以上とすることも可能である。例えば、光学面4における領域Bの外側に光軸10を中心とする同心円状の領域Cを設け、領域Cの焦点の位置を位置B51よりもレーザビームの光源側と反対方向に離れた焦点位置Cとする。この場合、領域Cから出射した光線は、徐々に収束しながら光軸10の位置A50を通過後、光軸10の焦点位置Cで1点に収束する。このとき、領域Cを出射した光線は、位置A50における光軸10に垂直な面において、光線301及び光線401による光軸10を中心とした環状の像Bよりも外側に、光軸10を中心とした環状の像Cを形成することができる。したがって、位置A50を照射点とした光軸10に垂直な面のレーザビームのスポット形状は、点状の像Aと、点状の像Aの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Bと、環状の像Bの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Cとを合成した像となる。
【0047】
なお、上述のように、光軸上の焦点の位置が異なる3つ以上の領域を設けた光学面を採用した場合、条件式(2)で用いられるCrの定義は、光学面の領域の焦点が照射点の位置から一番離れた位置にある光軸10を中心とした同心円状の領域(上述の場合領域C)におけるタンジェンシャル方向の曲率である。すなわち、条件式(2)においては、領域Bは、その領域の焦点が照射点の位置から一番離れた位置にある光軸10を中心とした同心円状の領域(上述の場合領域C)に置き換えて適用するものである。また、条件式(3)におけるfBの定義は、最も被加工物に近い最像側光学面から、光学面の領域の焦点が照射点の位置から一番離れた位置にある焦点の位置(上述の場合焦点位置C)までの距離である。すなわち、条件式(3)においては、位置B51は、その領域の焦点が照射点の位置から一番離れた位置にある焦点の位置(上述の場合焦点位置C)に置き換えて適用するものである。
【0048】
また、上述のように、光学面3が、光軸10上の焦点の位置が異なる複数の領域として、光軸10を中心として同心円状に順に領域Aと領域Bと領域Cとを有している場合において、領域Aの焦点の位置が照射点の位置であって、かつ、領域Aから出射した光線が照射点の位置で光軸10及び光軸10の周辺部の点状の像Aを形成する限りにおいて、領域Cから出射した光線が照射点の位置で点状の像Aの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Cを形成し、領域Bから出射した光線が照射点の位置で環状の像Cの周囲であって光軸10を中心とした環状の像Bを形成するようにしても良い。
【0049】
また、上述では、光軸上の焦点の位置が異なる複数の領域を、同一の光学素子の光学面に設けた場合で説明したが、例えば、コリメート機能を有する光学素子の光学面に領域Bを備え、集光機能を有する光学素子の光学面に領域Aを備えることもできる。
【0050】
上述の点状の像Aと点状の像Aの周囲の環状の像Bとの、光軸10に垂直な面における光軸10を含む任意の直線上のエネルギー強度分布は、光軸10に対して対称に分布するものである。ここで、
図2の光学面4よりもレーザ発振器側に、レーザビームを光軸10に対してチルトもしくはシフトする機構を備えても良い。チルトは、光軸10に平行していたレーザビームの進路方向を、光軸10に対して傾けることである。また、シフトは、光軸10に一致させていたレーザビームの中心の位置を、光軸10とは異なる位置に光軸10に平行にずらすことである。このように、チルト、もしくはシフトさせたレーザビームを光学面4に入射することによって、位置A50を照射点とした光軸10に垂直な面のレーザビームのスポット形状は、点状の像Aと、点状の像Aの周囲であって環状の像Bとの合成した像であり、かつ、点状の像A及び環状の像Bの光軸10に垂直な面における光軸10を含む任意の直線上のエネルギー強度分布が光軸10に対して対称ではない分布となる。具体的には、エネルギー強度分布はチルトもしくはシフトした方向に対して強弱の分布を有するようになる。レーザ加工時のレーザビームの進行方向に対して、このエネルギー強度分布の強弱について、進行方向に強と配したり、進行方向に弱と配したり、進行方向の左右に強弱を配したりすることによって、様々な材料の被加工物を加工することができる。
【0051】
なお上記はレーザビームを光軸10に対してチルトもしくはシフトさせる内容で説明したが、光学面4を有する光学素子を光軸10に対してチルトもしくはシフトさせても良い。この場合であっても、上述の効果を奏するものである。
【0052】
2.レーザ加工装置の実施の形態
本件発明に係るレーザ加工装置は、上述の本件発明に係るレーザ加工装置の光学系を備えている。
図3に、本実施の形態に係るレーザ加工装置の概略図を示す。レーザ加工装置80は、レーザ発振器81、光路82、光学系83、加工ステージ84を含む構成となっている。加工ステージ84上には、被加工物85が設置される。そして、レーザ加工装置80は、光学系83からレーザビーム86を被加工物85に照射することによって、被加工物85をレーザ加工するものである。このとき、レーザ発振器81は加工に用いるレーザビームを出力する装置である。被加工物85の材料や、加工の厚み、加工精度などによって使用するレーザビームの種類や出力が選ばれる。光路82は、レーザ発振器81から出力されたレーザビームを光学系83へ伝送するためのものであり、反射ミラーを利用するタイプや、光ファイバーを用いるタイプがある。そして光学系83は、本件発明に係るレーザ加工装置の光学系を採用したものであって、伝送されたレーザビームを、被加工物85にレーザビーム86として照射するものである。加工ステージ84は被加工物85を固定して設置し、被加工物85の照射点の移動にあわせて、被加工物85もしくは光学系83、あるいはその両方を動かすための装置を備えている。
【0053】
このとき、光学系83は、本件発明に係るレーザ加工装置の光学系を採用したものであることから、被加工物85へのレーザビーム86の照射点における光軸に垂直な面において、光軸及び光軸の周辺部の点状の像と、点状の像の周囲であって光軸を中心とした環状の像とを形成する。すなわち、レーザ加工装置80は、レーザビームのエネルギー利用効率が高く、様々な素材の加工対象物に適したレーザ加工を行うことが可能となる。
【0054】
以上説明した本件発明に係る実施の形態は、本件発明の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、以下実施例を挙げて本件発明をより具体的に説明するが、本件発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0055】
図1aで説明した、第一の光学系1の実施例を説明する。実施例1で用いる光学素子は、当該光学素子の光学面3に領域B及び領域Aを有している。ここで、この領域B及び領域Aを有する光学面3は、光軸10を含む断面において曲率が連続的に変化するなめらかな非球面の形状である。この非球面は、上述の条件式(1)の偶数次非球面式で表される。
【0056】
実施例1の光学素子として、光学面3の有効径が45mmである光学素子を用いる。ここで、領域Bの非球面は、条件式(1)を用いると以下の数値を満足する形状である。
c=0.008897
k=-0.5798207
a2~a16=0.0
【0057】
同様に、領域Aの非球面は、条件式(1)を用いると以下の数値を満足する形状である。
c=0.008897
k=-1372007.9
a2=4.4501917×10-3
a4=3.6921161×10-8
a6~a16=0.0
【0058】
ここで、Cr=0.008589、C0=0.008897であることから、Cr/C0=0.965であり、条件式(2)を満足している。
【0059】
また、領域Bの焦点の位置B51は、最も被加工物に近い光学面、すなわち光学面3からの距離がfB=245.37mmであった。そして、領域Aの焦点の位置A50は、最も被加工物に近い光学面、すなわち光学面3からの距離がfA=247.17mmであった。このとき、fB/fA=245.37/247.17=0.993であることから、条件式(3)を満足している。
【0060】
実施例1の光学系について、Zemax社のOptical Design Programを用いて光学シミュレーションを行った結果を
図4及び
図5に示す。
図4は、実施例1の照射点における光軸に垂直な平面上のレーザビームのスポット形状をモノクロの濃淡で表したものである。
図5は、実施例1の照射点における光軸に垂直な平面上において
図4のx位置がゼロのy位置軸上におけるレーザビームのエネルギー強度分布を最大値を1.0とした強度比として表したものである。
図4及び
図5から、実施例1は、光軸10の位置A50の位置における光軸10に垂直な面において、光軸10及び光軸10の周辺部の点状の像と、点状の像の周囲であって光軸10を中心とした環状の像とを形成することが明らかになった。
実施例2の光学素子として、光学面4の有効径が45mmである光学素子を用いる。ここで、領域Bの非球面は、条件式(1)を用いると以下の数値を満足する形状である。
c=0.008897
k=-0.5798207
a2~a16=0.0
また、領域Bの焦点の位置B51は、最も被加工物に近い光学面、すなわち光学面3からの距離がfB=248.97mmであった。そして、領域Aの焦点の位置A50は、最も被加工物に近い光学面、すなわち光学面3からの距離がfA=247.17mmであった。このとき、fB/fA=248.97/247.17=1.007であることから、条件式(3)を満足している。