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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128518
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/04 20160101AFI20240913BHJP
【FI】
H02P27/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037514
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇治
(72)【発明者】
【氏名】北原 通生
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 俊一
(72)【発明者】
【氏名】碓井 淳之
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA18
5H505CC05
5H505EE08
5H505EE30
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA05
5H505HA08
5H505HB01
5H505JJ09
5H505JJ28
5H505LL07
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL54
5H505MM15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】少ないモータ速度の低下量で直流電圧の低下を抑制し、瞬時停電による加速時間を短縮するモータ制御装置を提供する。
【解決手段】モータ制御装置1は、交流電源100からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路2と、直流電力を平滑化する平滑コンデンサ3と、平滑化された直流電力をモータ駆動用の交流電力に変換するインバータ回路4と、平滑コンデンサにかかる直流電圧から算出されたトルク制限値によりモータのトルクを制限するトルク制限器21と、弱め界磁制御部と、を備える。直流電圧が第1閾値まで低下した場合、トルク制限器がモータトルクを第1トルク値に制限し、弱め界磁制御部が弱め界磁を小さくしてモータMの誘起電圧を上げることで、直流電圧を上昇させて、直流電圧が第1閾値から第1閾値よりも大きい第2閾値まで上昇した場合、トルク制限器がモータMの力行方向のトルクを第1トルク値よりも大きい第2トルク値に制限する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路と、
前記直流電力を平滑化する平滑コンデンサと、
平滑化された前記直流電力をモータ駆動用の交流電力に変換するインバータ回路と、
前記平滑コンデンサにかかる直流電圧から算出されたトルク制限値に基づいて、モータのトルクを制限するトルク制限器と、
弱め界磁制御部と、
を備え、
前記直流電圧が第1閾値まで低下した場合、前記トルク制限器が前記モータの力行方向のトルクを第1トルク値に制限し、前記第1トルク値に制限することで、前記弱め界磁制御部により弱め界磁が小さくなり、前記モータの誘起電圧が上がることで、前記直流電圧を上昇させて、
前記直流電圧が前記第1閾値から前記第1閾値よりも大きい第2閾値まで上昇した場合、前記トルク制限器が前記モータの力行方向のトルクを第1トルク値よりも大きい第2トルク値に制限することを特徴とする、モータ制御装置。
【請求項2】
前記モータ制御装置は、前記トルク制限値を算出するトルク制限制御器をさらに備え、
前記トルク制限制御器は、互いに閾値が異なる複数のヒステリシスコンパレータを有し、
前記トルク制限制御器は、前記複数のヒステリシスコンパレータに前記直流電圧を入力させたときの出力に基づいて、前記トルク制限値を算出する、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記モータ制御装置は、前記モータの速度指令、および前記トルク制限制御器が算出するトルク制限値に基づいて、前記モータを制御する、請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記モータ制御装置は、
前記モータの速度指令、および前記トルク制限制御器が算出するトルク制限値に基づいて電流指令を算出し、
前記電流指令と弱め界磁制御部が算出するd軸と前記電流指令との間の電気角に基づいて、d軸電流指令およびq軸電流指令を算出する、請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
交流電源からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路と、
前記直流電力を平滑化する平滑コンデンサと、
平滑化された前記直流電力をモータ駆動用の交流電力に変換するインバータ回路と、
前記平滑コンデンサにかかる直流電圧に基づいて、モータのトルクを制限するトルク制限器と、
前記平滑コンデンサにかかる直流電圧に基づいて、弱め界磁を制限する弱め界磁制限器と、
を備え、
前記直流電圧が第1閾値まで低下した場合、
前記トルク制限器が前記モータの力行方向のトルクを第1トルク値に制限し、
前記弱め界磁制限器が弱め界磁を第1弱め界磁値に制限することで、
前記モータの誘起電圧が上がり、前記直流電圧が上昇し、
前記直流電圧が前記第1閾値から前記第1閾値よりも大きい第2閾値まで上昇した場合、
前記トルク制限器が前記モータの力行方向のトルクを第1トルク値よりも大きい第2トルク値に制限し、
前記弱め界磁制限器が弱め界磁を第1弱め界磁値よりも大きい第2弱め界磁値に制限することを特徴とする、モータ制御装置。
【請求項6】
前記モータ制御装置は、トルク制限値および弱め界磁制限値を算出する制限制御器をさらに備え、
前記制限制御器は、互いに閾値が異なる複数のヒステリシスコンパレータを有し、
前記制限制御器は、前記複数のヒステリシスコンパレータに前記直流電圧を入力させたときの出力に基づいて、前記トルク制限値および前記弱め界磁制限値を算出する、請求項5に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記モータ制御装置は、前記モータの速度指令、および前記制限制御器が算出する前記トルク制限値および前記弱め界磁制限値に基づいて、前記モータを制御する、請求項6に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記モータ制御装置は、
前記モータの速度指令、および前記制限制御器が算出するトルク制限値に基づいてq軸電流指令を算出し、
弱め界磁制御部が算出するd軸電流指令および前記弱め界磁制限値に基づいて、制限後のd軸電流指令を算出する、請求項6に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のモータ制御装置は、モータの力行動作中に交流電源の瞬時停電が発生した場合、平滑コンデンサからインバータを通してモータに電力を供給する。この時、平滑コンデンサの電圧がモータの駆動可能電圧より低下すると、電圧異常を検出してモータを停止させる。そのため、工場のラインが止まってしまい、工場の稼働率が低下してしまう。
【0003】
例えば、特許文献1には、インバータの直流電圧に関して、順次電圧低下の度合いが大きくなる電圧の第一、第二、第三閾値を設定したインバータの制御方法が開示されている。特許文献1に記載の制御方法は、電源停電の発生により直流電圧が低下して第二閾値以下になるとインバータに対する運転指令信号で減速させて、減速に伴う電力回生により直流電圧が増大して第一閾値を超えると運転指令信号で加速させる。以後、運転指令信号に対する減速・加速制御を繰り返すことで直流電圧の降下率の低減を図ると共に、直流電圧が第三閾値を超えていればインバータによる電動機の運転を継続させる。
【0004】
また、特許文献2には、電動機運転中に直流電圧が停電検出レベル電圧VU2より低くなると電動機を減速させて、直流電圧が下限許容電圧VU0と停電検出レベル電圧VU2との間になると加減速を停止して、電動機の速度を一定とし、直流電圧が下限許容電圧VU0を越えると通常制御に復帰する、電動機の停電時処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-165579号公報
【特許文献2】特開平11-308894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に開示された方法では、モータを減速させて直流電圧を上昇させるため、モータ速度の低下量が大きいという問題があった。速度の低下量が大きいと、加速時間が延びてしまい、工場の稼働率が低下してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、少ないモータ速度の低下量で直流電圧の低下を抑制して異常の発生を防止することにより、瞬時停電による加速時間の延びを短くすることのできるモータ制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係るモータ制御装置は、
交流電源からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路と、
前記直流電力を平滑化する平滑コンデンサと、
平滑化された前記直流電力をモータ駆動用の交流電力に変換するインバータ回路と、
前記平滑コンデンサにかかる直流電圧に基づいて、モータのトルクを制限するトルク制限器と、
前記平滑コンデンサにかかる直流電圧に基づいて、弱め界磁を制限する弱め界磁制限器と、
を備え、
前記直流電圧が第1閾値まで低下した場合、
前記トルク制限器が前記モータの力行方向のトルクを第1トルク値に制限し、
前記弱め界磁制限器が弱め界磁を第1弱め界磁値に制限することで、
前記モータの誘起電圧が上がり、前記直流電圧が上昇し、
前記直流電圧が前記第1閾値から前記第1閾値よりも大きい第2閾値まで上昇した場合、
前記トルク制限器が前記モータの力行方向のトルクを第1トルク値よりも大きい第2トルク値に制限し、
前記弱め界磁制限器が弱め界磁を第1弱め界磁値よりも大きい第2弱め界磁値に制限する。
【0009】
本発明の一側面に係るモータ制御装置は、
交流電源からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路と、
前記直流電力を平滑化する平滑コンデンサと、
平滑化された前記直流電力をモータ駆動用の交流電力に変換するインバータ回路と、
前記平滑コンデンサにかかる直流電圧から算出されたトルク制限値に基づいて、モータのトルクを制限するトルク制限器と、
弱め界磁制御部と、
を備え、
前記直流電圧が第1閾値まで低下した場合、前記トルク制限器が前記モータの力行方向のトルクを第1トルク値に制限し、前記第1トルク値を制限することで、前記弱め界磁制御部が弱め界磁を小さくして前記モータの誘起電圧を上げることで、前記直流電圧を上昇させて、
前記直流電圧が前記第1閾値から前記第1閾値よりも大きい第2閾値まで上昇した場合、前記トルク制限器が前記モータの力行方向のトルクを第1トルク値よりも大きい第2トルク値に制限する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、少ないモータ速度の低下量で直流電圧の低下を抑制して異常の発生を防止することにより、瞬時停電による加速時間を短くすることのできるモータ制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第一実施形態に係るモータ制御装置のブロック図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る電流指令算出器のブロック図である。
図3】モータ速度と電気角φ’との関係を示すグラフである。
図4】本発明の第一実施形態に係るトルク制限制御器のブロック図である。
図5】モータ加速中に瞬時停電が発生した場合の動作を説明するグラフである。
図6】本発明の第二実施形態に係るモータ制御装置のブロック図である。
図7】本発明の第に実施形態に係る電流指令算出器のブロック図である。
図8】モータ速度とd軸電流指令との関係を示すグラフである。
図9】本発明の第二実施形態に係るトルク制限制御器のブロック図である。
図10】モータ加速中に瞬時停電が発生した場合の動作を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、実施形態の説明において既に説明された構成と同一の参照番号を有する構成については、説明の便宜上、その説明は省略する。
[第一実施形態]
【0013】
図1は、本発明の第一実施形態に係るモータ制御装置1のブロック図である。
図1に示すように、モータ制御装置1は、コンバータ回路2と、平滑コンデンサ3と、インバータ回路4と、を備える。また、モータ制御装置1は、トルク制限制御器10と、速度制御器20と、トルク制限器21と、電流指令算出器30と、速度算出器40と、電流検出器5と、フィードバック(FB)側座標変換器50と、q軸電流制御器60と、d軸電流制御器61と、指令側座標変換器70と、PWM制御器71と、を備える。
【0014】
コンバータ回路2は、三相(r相、s相、t相)のフルブリッジ回路であり、6個の整流ダイオードから構成される。コンバータ回路2は、交流電源100から入力される三相交流を直流に変換する。
【0015】
平滑コンデンサ3は、例えば電解コンデンサであり、コンバータ回路2が出力する直流を平滑化し、蓄電する。
【0016】
インバータ回路4は、三相(u相、v相、w相)のフルブリッジ回路であり、6個の半導体スイッチング素子から構成される。半導体スイッチング素子は、例えば、IGBTと、逆並列された還流ダイオードとから構成される。インバータ回路4は、PWM制御器71が6個の半導体スイッチング素子を駆動することで、平滑コンデンサ3からの直流またはコンバータ回路2が出力する直流をモータ駆動用の三相交流に変換し、モータMへ供給する。
【0017】
エンコーダEは、モータMに搭載されていて、モータMのロータの位置θFBを検出する。検出されたロータの位置θFBは、速度算出器40に入力される。速度算出器40は、検出されたロータの位置θFBを微分処理してモータ速度VFBを算出する。
【0018】
速度制御器20は、速度指令Vcmdとモータ速度VFBとの偏差が入力され、トルク指令Tcを算出し、出力する。
【0019】
トルク制限制御器10は、平滑コンデンサ3にかかる直流電圧VPNが入力され、トルク制限値TLを算出し、出力する。トルク制限値TLの算出方法については後述にて説明する。
【0020】
トルク制限器21は、速度制御器20からトルク指令Tcが入力され、トルク制限制御器10からトルク制限値TLが入力され、トルク制限後のトルク指令TcLを算出し、出力する。
【0021】
電流指令算出器30は、トルク制限器21からトルク制限後のトルク指令TcLが入力され、q軸電流指令IqCとd軸電流指令IdCを算出し、出力する。
【0022】
q軸電流制御器60は、電流指令算出器30からのq軸電流指令IqCとフィードバック側座標変換器50からのq軸電流フィードバックIqFとの偏差が入力され、入力された偏差からq軸電圧指令VqCを算出し、出力する。
【0023】
同様に、d軸電流制御器61は、電流指令算出器30からのd軸電流指令IdCとフィードバック側座標変換器50からのd軸電流フィードバックIdFとの偏差が入力され、入力された偏差からd軸電圧指令VdCを算出し、出力する。
【0024】
q軸電圧指令VqCとd軸電圧指令VdCは、指令側座標変換器70に入力される。指令側座標変換器70は、ロータの位置θFBに基づいて、q軸電圧指令VqCとd軸電圧指令VdCを、dq回転座標系から三相静止座標系へ座標変換し、三相電圧指令VUC、VVC、VWCを算出する。三相電圧指令VUC、VVC、VWCはPWM制御器71に入力され、PWM制御器71は入力された三相電圧指令VUC、VVC、VWCからPWM制御信号を生成し、出力する。PWM制御信号がインバータ回路4の6個の半導体スイッチング素子に入力されることで、インバータ回路4をPWM制御し、モータMを駆動制御する。
【0025】
電流検出器5はモータMのU相のモータ電流IUと、V相のモータ電流IVを検出する。モータ電流IU、IVの電流検出値はフィードバック側座標変換器50に入力される。フィードバック側座標変換器50は、ロータの位置θFBに基づいて、モータ電流IU、IVの電流検出値を、三相静止座標系からdq回転座標系へ座標変換し、q軸電流フィードバックIqFとd軸電流フィードバックIdFを算出する。
【0026】
図2に、本発明の第一実施形態に係る電流指令算出器30のブロック図である。
図2に示すように、電流指令算出器30は、トルク定数除算器31と、SIN乗算器32と、COS乗算器33と、絶対値演算器34と、弱め界磁制御部35と、を備える。
【0027】
トルク定数除算器31は、トルク制限器21からトルク制限後のトルク指令TcLが入力され、制限後のトルク指令TcLをトルク定数TKで除算して電流指令Icを算出する。算出された電流指令Icは、SIN乗算器32に入力される。また、算出された電流指令Icは、絶対値演算器34に入力される。絶対値演算器34は、入力された電流指令Icの絶対値|Ic|を算出する。算出された絶対値|Ic|はCOS乗算器33に入力される。
【0028】
弱め界磁制御部35は、モータ速度VFBが入力され、d軸と電流指令Icとの間の電気角φを算出する。算出された電気角φは、SIN乗算器32と、COS乗算器33に入力される。
【0029】
SIN乗算器32は、入力される電流指令Icと弱め界磁制御部35で算出された電気角φに基づいて、以下の数式(1)によりq軸電流指令IqCを算出し、出力する。
【式1】
【0030】
IqC=Ic×SINφ
同様に、COS乗算器33は、入力される絶対値|Ic|と弱め界磁制御部35で算出された電気角φに基づいて、以下の数式(2)によりd軸電流指令IdCを算出し、出力する。
【式2】
【0031】
IdC=|Ic|×COSφ
【0032】
図3は、モータ速度VFBと電気角φとの関係を示すグラフである。縦軸に電気角φを、横軸にモータ速度VFBを示す。図3に示すように、モータ速度VFBの低速領域では、電流指令Icに対してモータMの最大トルクである第2トルク値TPが得られるように電気角φが調整される。また、モータ速度VFBの高速領域では、モータMにかかるモータ電圧がインバータ回路4の出力電圧以下になるように、弱め界磁制御部35がモータ速度VFBに応じて電気角φを大きくすることで弱め界磁を行う。
【0033】
図4は、本発明の第一実施形態に係るトルク制限制御器10のブロック図である。図4を用いて、トルク制限制御器10の内部構成、およびトルク制限値TLの算出方法について説明する。
【0034】
トルク制限制御器10は、第1ヒステリシスコンパレータ11と、第2ヒステリシスコンパレータ12と、トルク制限値算出器13と、を備える。
【0035】
第1ヒステリシスコンパレータ11は、2つの閾値V0、V2を有し、第2ヒステリシスコンパレータ12は、2つの閾値V1、V2を有する。閾値V2は、直流電圧VPNの低下異常電圧より少し高い値に設定される。ここで、低下異常電圧とは、直流電圧VPNがモータMの駆動可能電圧より低い異常状態を検出する所定範囲の電圧値を意味する。また、閾値V1は閾値V2より高い値に、閾値V0は閾値V1より高い値に設定される。
第1ヒステリシスコンパレータ11は、直流電圧VPNが閾値V2以下の場合は1を出力し、閾値V0を超えると0を出力する。さらに、直流電圧VPNが閾値V0を超えてから閾値V2以下に低下すると1を出力する。同様に、第2ヒステリシスコンパレータ12は、直流電圧VPNが閾値V2以下の場合は1を出力し、閾値V1を超えると0を出力する。さらに、直流電圧VPNが閾値V1を超えてから閾値V2以下に低下すると1を出力する。
【0036】
第1ヒステリシスコンパレータ11と第2ヒステリシスコンパレータ12からの出力値(0または1)が、トルク制限値算出器13に入力される。トルク制限値算出器13は、第1ヒステリシスコンパレータ11の出力値が1、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値が1の場合、トルク制限値TLを0として出力する。また、トルク制限値算出器13は、第1ヒステリシスコンパレータ11の出力値が1、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値が0の場合、トルク制限値TLを第1トルク値TR(直流電圧VPNの低下量が急峻とならない値であって、例えばモータMの最大トルクTPの1/2である)として出力する。また、トルク制限値算出器13は、第1ヒステリシスコンパレータ11の出力値が0、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値が0の場合、トルク制限値TLを第2トルク値TP(モータMの最大トルク)として出力する。
【0037】
図1に示すトルク制限器21は、トルク制限制御器10から出力されるトルク制限値TLに基づいて、モータMの力行方向のトルクを制限する。具体的には、直流電圧VPNが閾値V2まで低下した場合、トルク制限器21はモータMの力行方向のトルク指令を0に制限する。トルク指令が0に制限されることで、d軸電流指令IdCは0になり、弱め界磁が小さくなり、モータMの誘起電圧Viが上がる。これにより直流電圧VPNを上昇させる。直流電圧VPNが閾値V2から閾値V1まで上昇した場合、トルク制限器21はモータMの力行方向のトルクを第1トルク値TRに制限する。ここで、トルク制限器21において力行方向のトルクのみを制限しているのは、モータMの力行運転時に直流電圧VPNの低下が起きるためであり、モータMの回生時は直流電圧VPNが上昇するため、トルクの制限の必要がないからである。なお、トルク指令Tcとモータ速度VFBの極性に基づいて、モータMが力行運転を行っているか回生動作を行っているかを判別することができる。
【0038】
図5は、モータ加速中に瞬時停電が発生した場合の動作を説明するグラフである。縦軸に、上段から平滑コンデンサ3にかかる直流電圧VPN、第1ヒステリシスコンパレータ11の出力値、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値、トルク制限値TL、モータ速度VFBを示す。横軸に、時間を示す。
【0039】
瞬時停電が発生して、直流電圧VPNが閾値V2まで低下すると、第1ヒステリシスコンパレータ11、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値がともに1になるため、トルク制限値TLは0になり、力行方向のトルク指令Tcは0に制限される。
【0040】
力行方向のトルク指令Tcが0に制限されると、モータMはフリーラン状態になり、モータ速度VFBは徐々に低下する。また、トルク制限値TLを0にすることで、d軸電流指令IdCが0になり、弱め界磁が減少する。そのため、モータMの誘起電圧Viが大きくなり、直流電圧VPNが上昇する。
【0041】
直流電圧VPNが閾値V1を超えると、第1ヒステリシスコンパレータ11の出力値は1になり、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値は0になるため、トルク制限値TLが第1トルク値TRまで緩和される。そのため、モータMが加速し、直流電圧VPNは低下する。
【0042】
直流電圧VPNが再び閾値V2まで低下すると、第1ヒステリシスコンパレータ11、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値がともに1になるため、トルク制限値TLは0になり、力行方向のトルク指令Tcは0に制限される。
【0043】
その後、瞬時停電が継続している間は上記の通り直流電圧VPNの上昇低下が繰り返される。瞬時停電が終了すると、直流電圧VPNが上昇して閾値V0を超えて、第1ヒステリシスコンパレータ11、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値がともに0になるため、トルク制限値TLはモータMの最大トルクである第2トルク値TPまで緩和され、モータMは通常運転に復帰する。
【0044】
なお、上記で説明したトルク制限は、いずれも力行方向のトルク制限であり、回生方向のトルク制限ではない。また、第1ヒステリシスコンパレータ11、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値がともに1の場合のトルク制限値TLは0に限定されず、微小な値としてもよい。この場合、モータMが僅かに加速するため直流電圧VPNの低下が想定されるが、弱め界磁の減少による直流電圧VPNの上昇の割合が、モータMの加速による直流電圧VPNの低下の割合より大きくなるように設定することで、全体として直流電圧VPNを上昇させることができる。
【0045】
以上より、少ないモータ速度の低下量で直流電圧の低下を抑制して異常の発生を防止することにより、瞬時停電による加速時間の延びを短くすることができる。
[第二実施形態]
【0046】
図6は、本発明の第二実施形態に係るモータ制御装置1’のブロック図である。
図6に示すように、モータ制御装置1’は、コンバータ回路2と、平滑コンデンサ3と、インバータ回路4と、を備える。また、モータ制御装置1’は、制限制御器10’と、速度制御器20と、トルク制限器21と、電流指令算出器30と、速度算出器40と、電流検出器5と、フィードバック側座標変換器50と、q軸電流制御器60と、d軸電流制御器61と、指令側座標変換器70と、PWM制御器71と、を備える。図1に示す第一実施形態に係るモータ制御装置1のブロック図と、図6に示す第二実施形態に係るモータ制御装置1’のブロック図を比較すると、第二実施形態に係るモータ制御装置1’は、トルク制限制御器10が制限制御器10’に置き換わった構成である。
【0047】
制限制御器10’は、平滑コンデンサ3にかかる直流電圧VPNが入力され、トルク制限値TLおよび弱め界磁制限値WLを算出し、出力する。トルク制限値TLおよび弱め界磁制限値WLの算出方法については後述にて説明する。
【0048】
トルク制限器21は、速度制御器20からトルク指令Tcが入力され、制限制御器10’からトルク制限値TLが入力され、トルク制限後のトルク指令TcLを算出し、出力する。
【0049】
電流指令算出器30は、トルク制限器21からトルク制限後のトルク指令TcLが入力され、制限制御器10’から弱め界磁制限値WLが入力され、q軸電流指令IqCと制限後のd軸電流指令IdCLを算出し、出力する。
【0050】
他の構成(コンバータ回路2、平滑コンデンサ3、インバータ回路4、電流検出器5、エンコーダE、速度制御器20、q軸電流制御器60、d軸電流制御器61、フィードバック側座標変換器50、指令側座標変換器70、PWM制御器71)については、図1に示す第一実施形態に係るモータ制御装置1と同様のため説明を省略する。
【0051】
図7に、本発明の第二実施形態に係る電流指令算出器30のブロック図である。
図7に示すように、電流指令算出器30は、トルク定数除算器31と、弱め界磁制御部35と、弱め界磁制限器36と、を備える。
【0052】
トルク定数除算器31は、トルク制限器21からトルク制限後のトルク指令TcLが入力され、制限後のトルク指令TcLをトルク定数TKで除算してq軸電流指令IqCを算出し、出力する。
【0053】
弱め界磁制御部35は、モータ速度VFBが入力され、d軸電流指令IdCを算出する。弱め界磁制限器36は、弱め界磁制御部35からd軸電流指令IdCが入力され、制限制御器10’から弱め界磁制限値WLが入力され、制限後のd軸電流指令IdCLを算出し、出力する。
【0054】
図8は、モータ速度VFBとd軸電流指令Idcとの関係を示すグラフである。縦軸にd軸電流指令Idcを、横軸にモータ速度VFBを示す。図8に示すように、モータ速度VFBの低速領域では、モータMの最大トルクである第2トルク値TPが得られるようにd軸電流指令Idcが0に調整される。また、モータ速度VFBの高速領域では、モータMにかかるモータ電圧がインバータ回路4の出力電圧以下になるように、d軸電流指令IdCをモータ速度VFBに応じて負の値に設定することで弱め界磁を行う。
【0055】
図9は、本発明の第二実施形態に係る制限制御器10’のブロック図である。図9を用いて、制限制御器10’の内部構成、およびトルク制限値TLの算出方法について説明する。なお、図4に示す第一実施形態に係るトルク制限制御器10のブロック図と、図9に示す第二実施形態に係る制限制御器10’のブロック図を比較すると、第二実施形態に係る制限制御器10’は、弱め界磁制限値算出器14が追加された構成である。
【0056】
制限制御器10’は、第1ヒステリシスコンパレータ11と、第2ヒステリシスコンパレータ12と、トルク制限値算出器13と、弱め界磁制限値算出器14と、を備える。
【0057】
トルク制限値算出器13と弱め界磁制限値算出器14には、第1ヒステリシスコンパレータ11と第2ヒステリシスコンパレータ12からの出力値(0または1)が入力される。第1ヒステリシスコンパレータ11の出力値が1、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値が1の場合、トルク制限値算出器13はトルク制限値TLを0として出力し、弱め界磁制限値算出器14は弱め界磁制限値WLを0として出力する。また、第1ヒステリシスコンパレータ11の出力値が1、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値が0の場合、トルク制限値算出器13はトルク制限値TLを第1トルク値TR(直流電圧VPNの低下量が急峻とならない値であって、例えばモータMの最大トルクTPの1/2である)として出力し、弱め界磁制限値算出器14は弱め界磁制限値WLを第1弱め界磁値(1/2)として出力する。また、第1ヒステリシスコンパレータ11の出力値が0、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値が0の場合、トルク制限値算出器13はトルク制限値TLを第2トルク値TP(モータMの最大トルク)として出力し、弱め界磁制限値算出器14は弱め界磁制限値WLを第2弱め界磁値(弱め界磁制限がない値であり、1である)として出力する。
【0058】
他の構成(第1ヒステリシスコンパレータ11、第2ヒステリシスコンパレータ12)については、図4に示す第一実施形態に係る制限制御器10と同様のため説明を省略する。
【0059】
図10は、モータ加速中に瞬時停電が発生した場合の動作を説明するグラフである。縦軸に、上段から平滑コンデンサ3にかかる直流電圧VPN、第1ヒステリシスコンパレータ11の出力値、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値、トルク制限値TL、弱め界磁制限値WL、制限後のd軸電流指令IdCL、モータ速度VFBを示す。横軸に、時間を示す。
【0060】
瞬時停電が発生して、直流電圧VPNが閾値V2まで低下すると、第1ヒステリシスコンパレータ11、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値がともに1になるため、トルク制限値TLは0になり、力行方向のトルク指令Tcは0に制限される。また、弱め界磁制限値WLも0になり、d軸電流指令IdCは0に制限される。
【0061】
力行方向のトルク指令Tcが0に制限されると、モータMはフリーラン状態になり、モータ速度VFBは徐々に低下する。また、d軸電流指令IdCを0に制限することにより、弱め界磁が減少する。そのため、モータMの誘起電圧Viが大きくなり、直流電圧VPNが上昇する。
【0062】
直流電圧VPNが閾値V1を超えると、第1ヒステリシスコンパレータ11の出力値は1になり、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値は0になるため、トルク制限値TLが第1トルク値TRまで緩和され、弱め界磁制限値WLが第1弱め界磁値(1/2)まで緩和され、制限後のd軸電流指令IdCLが第1電流指令値(第2電流指令値IdcNの1/2である)まで緩和される。そのため、モータMが加速し、直流電圧VPNは低下する。
【0063】
直流電圧VPNが再び閾値V2まで低下すると、第1ヒステリシスコンパレータ11、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値がともに1になるため、トルク制限値TLは0になり、力行方向のトルク指令Tcは0に制限される。
【0064】
その後、瞬時停電が継続している間は上記の通り直流電圧VPNの上昇低下が繰り返される。瞬時停電が終了すると、直流電圧VPNが上昇して閾値V0を超えて、第1ヒステリシスコンパレータ11、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値がともに0になるため、トルク制限値TLはモータMの最大トルクである第2トルク値TPまで緩和され、弱め界磁制限値WLは第2弱め界磁値(弱め界磁制限のない値であり、1である)まで緩和され、制限後のd軸電流指令IdCLが第2電流指令値(IdcN)まで緩和され、モータMは通常運転に復帰する。
【0065】
なお、上記で説明したトルク制限は、いずれも力行方向のトルク制御であり、回生方向のトルク制限ではない。また、第1ヒステリシスコンパレータ11、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値がともに1の場合のトルク制限値TLは0に限定されず、微小な値としてもよい。同様に、弱め界磁制限値WLも0に限定されず、微小な値としてもよい。さらに、第1ヒステリシスコンパレータ11の出力値が1、第2ヒステリシスコンパレータ12の出力値が0の場合のトルク制限値TLは第1トルク値TRに限定されず、第1トルク値TRに微小な値が加算または減算された値としてもよい。同様に、弱め界磁制限値WLは、第1弱め界磁値(1/2)に限定されず、第1弱め界磁値(1/2)に微小な値が加算または減算された値としてもよい。
【0066】
以上より、少ないモータ速度の低下量で直流電圧の低下を抑制して異常の発生を防止することにより、瞬時停電による加速時間の延びを短くすることができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明をしたが、本発明の技術的範囲が本実施形態の説明によって限定的に解釈されるべきではないのは言うまでもない。本実施形態は単なる一例であって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、様々な実施形態の変更が可能であることが当業者によって理解されるところである。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された発明の範囲及びその均等の範囲に基づいて定められるべきである。
【符号の説明】
【0068】
1、1’:モータ制御装置
2:コンバータ回路
3:平滑コンデンサ
4:インバータ回路
10:トルク制限制御器
10’:制限制御器
11:第1ヒステリシスコンパレータ
12:第2ヒステリシスコンパレータ
13:トルク制限値算出器
14:弱め界磁制限値算出器
20:速度制御器
21:トルク制限器
30:電流指令算出器
31:トルク定数除算器
32:SIN乗算器
33:COS乗算器
34:絶対値演算器
35:弱め界磁制御部
36:弱め界磁制限器
40:速度算出器
50:フィードバック側座標変換器
60:q軸電流制御器
61:d軸電流制御器
70:指令側座標変換器
71:PWM制御器
100:交流電源
M:モータ
E:エンコーダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10