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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128519
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】可変容量形ベーンポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 14/22 20060101AFI20240913BHJP
   F16K 17/30 20060101ALN20240913BHJP
【FI】
F04C14/22 D
F16K17/30 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037518
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002549
【氏名又は名称】弁理士法人綾田事務所
(72)【発明者】
【氏名】相川 温史
(72)【発明者】
【氏名】保井 健也
(72)【発明者】
【氏名】村松 聡
【テーマコード(参考)】
3H044
3H060
【Fターム(参考)】
3H044AA02
3H044BB05
3H044CC26
3H044DD03
3H044DD35
3H060AA09
3H060BB03
3H060CC15
3H060DA02
3H060DB13
3H060DC05
3H060DD02
3H060DD12
3H060EE06
3H060HH04
3H060HH19
(57)【要約】
【課題】 吐出通路の圧力損失を低減できる可変容量形ベーンポンプを提供する。
【解決手段】 可変容量形ベーンポンプ1は、吐出通路30と交差する感圧バルブ収容穴51と、感圧バルブ収容穴51内に移動可能に設けられ、一端側に作用する吸入圧と吐出通路30から導入されて他端側に作用する吐出圧との差圧に基づき移動制御されると共に、移動に伴い吐出通路30の流路断面積を変化させる感圧弁体52と、を有する圧力感応弁50を備える。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部と、該筒状部の一端開口を閉塞するように設けられた底壁部と、を有する第1ハウジングと、
前記筒状部の他端開口を閉塞するように設けられた第2ハウジングと、から構成され、該両者間の内部にポンプ要素収容部を有するポンプハウジングと、
該ポンプハウジング内に挿通されて、回転自在に軸支される駆動軸と、
前記ポンプ要素収容部内に収容される、円周方向に複数のスリットが形成されていると共に、前記駆動軸に回転駆動されるロータと、
前記スリットに出没自在に設けられたベーンと、
前記ポンプ要素収容部内で、移動可能に設けられ、前記ロータおよび前記ベーンと共に複数のポンプ室を形成する環状のカムリングと、
前記ポンプハウジングに設けられ、前記複数のポンプ室のうち前記ロータの回転に伴い容積が徐々に増大する吸入領域に開口する吸入口と、
前記複数のポンプ室のうち前記ロータの回転に伴い容積が徐々に減少する吐出領域に開口する吐出口と、
前記ポンプハウジングに設けられ、リザーバタンクに貯留された作動液を前記吸入口に供給する吸入通路と、
前記ポンプハウジングに設けられ、前記吐出口から吐出された作動液を前記ポンプハウジングの外部に供給する吐出通路と、
前記カムリングの外周側にそれぞれ設けられ、該カムリングが前記ロータに対する偏心量の増大する方向へ移動する場合において、容積が減少する側に形成された第1流体圧室と、
容積が増大する側に形成された第2流体圧室と、
前記ポンプハウジングに設けられ、前記吐出通路の途中に設けられ、且つ前記吐出通路と交差する第1バルブ収容穴と、
前記第1バルブ収容穴内に移動可能に設けられ、一端側に作用する吸入圧と前記吐出通路から導入されて他端側に作用する吐出圧との差圧に基づき移動制御されると共に、移動に伴い前記吐出通路の流路断面積を変化させる第1弁体と、
前記ポンプハウジングに設けられた第2バルブ収容穴と、
前記第2バルブ収容穴の一端側に設けられ、前記吐出口と連通するように形成された高圧室と、
他端側に設けられ、前記吐出通路の前記第1バルブ収容穴より下流側と連通するように形成された制御圧室と、
前記第2バルブ収容穴内に移動可能に設けられ、前記高圧室の圧力と前記制御圧室の圧力との差圧に基づき、前記第1流体圧室の圧力を制御する第2弁体と、
を備えた可変容量形ベーンポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の可変容量形ベーンポンプであって、
前記吐出通路と前記第1バルブ収容穴とは互いに直交する、
可変容量形ベーンポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の可変容量形ベーンポンプであって、
前記吐出通路と前記第1バルブ収納穴とが直交する前記吐出通路の油路径は、直交部以外の前記吐出通路の油路径よりも細く形成されている、
可変容量型ベーンポンプ
【請求項4】
請求項1に記載の可変容量形ベーンポンプであって、
前記吐出通路は、一直線上にある、
可変容量形ベーンポンプ。
【請求項5】
請求項1に記載の可変容量形ベーンポンプであって、
前記第1弁体は、前記吐出通路に直交する方向に沿って移動するように設けられている、
可変容量形ベーンポンプ。
【請求項6】
請求項1に記載の可変容量形ベーンポンプであって、
前記第1バルブ収容穴は、開口部側が前記吐出領域と連通するように設けられている、
可変容量形ベーンポンプ。
【請求項7】
請求項6に記載の可変容量形ベーンポンプであって、
前記ポンプハウジングは、
前記駆動軸の外周側に環状に形成され、前記ポンプハウジングと前記駆動軸との間をシールするシール部材を収容するシール部材収容部と、
前記シール部材収容部と前記吸入領域とを連通する低圧連通路と、
前記第1バルブ収容穴の一端側と前記シール部材収容部とを連通する低圧導入路と、
を有する可変容量形ベーンポンプ。
【請求項8】
請求項1に記載の可変容量形ベーンポンプであって、
前記第1バルブ収容穴は、前記吐出口が配置される側に設けられている、
可変容量形ベーンポンプ。
【請求項9】
請求項1に記載の可変容量形ベーンポンプであって、
前記第1弁体は、ランドを有し、該ランドと前記吐出通路とのオーバーラップ量を変化させることにより、前記吐出通路の流路断面積を変化させるスプールバルブである、
可変容量形ベーンポンプ。
【請求項10】
請求項1に記載の可変容量形ベーンポンプであって、
前記第1弁体を他端側に付勢するばね部材を有し、
前記第1バルブ収容穴は、一端部に前記第1弁体の一端側方向への移動を規制するストッパを有する、
可変容量形ベーンポンプ。
【請求項11】
請求項10に記載の可変容量形ベーンポンプであって、
前記ばね部材は、コイルスプリングであって、
前記第1弁体は、一端側に前記ばね部材の一部を収容保持するスプリング保持部を有する、
可変容量形ベーンポンプ。
【請求項12】
請求項1に記載の可変容量形ベーンポンプであって、
前記第1バルブ収容穴は、他端部に前記第1弁体の他端側方向への移動を規制するストッパを有する、
可変容量形ベーンポンプ。
【請求項13】
請求項12に記載の可変容量形ベーンポンプであって、
前記第1弁体は、前記ストッパにより移動が規制された際に、前記流路断面積が最大となるように形成されている、
可変容量形ベーンポンプ。
【請求項14】
請求項12に記載の可変容量形ベーンポンプであって、
前記吐出通路は、前記第1弁体の他端側に作用する吐出圧の圧力上昇に伴って、前記流路断面積の変化率が漸次減少するように形成されている、
可変容量形ベーンポンプ。
【請求項15】
請求項1に記載の可変容量形ベーンポンプであって、
前記第1バルブ収容穴は、その底部側が前記吸入通路と連通するように設けられている、
可変容量形ベーンポンプ。
【請求項16】
請求項1に記載の可変容量形ベーンポンプであって、
前記吸入通路および前記吐出通路は、通路が円筒外周である、
可変容量型ベーンポンプ。
【請求項17】
車両のパワーステアリング装置に作動液を供給する可変容量形ベーンポンプであって、
平板状に形成された第1ハウジングと、
筒状部と該筒状部の一端開口を閉塞するように設けられた底壁部とを有し、前記第1ハウジングによって前記筒状部の他端開口が閉塞される第2ハウジングと、から構成され、
該両者間の内部にポンプ要素収容部を有するポンプハウジングと、
該ポンプハウジング内に挿通されて、回転自在に軸支される駆動軸と、
前記駆動軸のうち前記ポンプハウジングの外部に突出した部分に設けられ、外部の動力を前記駆動軸に伝達する駆動軸伝達部と、
前記ポンプ要素収容部内に収容され、円周方向に複数のスリットが形成されていると共に、前記駆動軸に回転駆動されるロータと、
前記スリットに出没自在に設けられたベーンと、
前記ポンプ要素収容部内に移動可能に設けられ、前記ロータおよび前記ベーンと共に複数のポンプ室を形成する環状のカムリングと、
前記ポンプハウジングに設けられ、前記複数のポンプ室のうち前記ロータの回転に伴い容積が徐々に増大する吸入領域に開口する吸入口と、
前記ポンプハウジングに設けられ、前記複数のポンプ室のうち前記ロータの回転に伴い容積が徐々に減少する吐出領域に開口する吐出口と、
前記ポンプハウジングに設けられ、リザーバタンクに貯留された作動液を前記吸入口に供給する吸入通路と、
前記ポンプハウジングに設けられ、前記吐出口から吐出された作動液を前記ポンプハウジングの外部に供給する吐出通路と、
前記カムリングの外周側にそれぞれ設けられ、該カムリングが前記ロータに対する偏心量の増大する方向へ移動する場合において、容積が減少する側に形成された第1流体圧室と、
容積が増大する側に形成された第2流体圧室と、
前記第2ハウジングのうち、前記駆動軸の軸方向の前記ロータよりも前記駆動軸伝達部側の位置でかつ、前記吐出通路の途中に設けられた第1バルブ収容穴と、
前記第1バルブ収容穴内に移動可能に設けられ、一端側に作用する吸入圧と、前記吐出通路から導入されて他端側に作用する吐出圧との差圧に基づき移動制御されると共に、移動に伴い前記吐出通路の流路断面積を変化させる第1弁体と、
前記ポンプハウジングに設けられた第2バルブ収容穴と、前記第2バルブ収容穴の一端側に設けられ、前記吐出口と連通するように形成された高圧室と、
他端側に設けられ、前記吐出通路の前記第1バルブ収容穴より下流側と連通するように形成された制御圧室と、
前記第2バルブ収容穴内に移動可能に設けられ、前記高圧室の圧力と前記制御圧室の圧力との差圧に基づき、前記第1流体圧室の圧力を制御する第2弁体と、
を備えた可変容量形ベーンポンプ。
【請求項18】
請求項17に記載の可変容量形ベーンポンプであって、
前記第1弁体は、前記駆動軸の軸方向に沿って移動するように設けられている、
可変容量形ベーンポンプ。
【請求項19】
請求項18に記載の可変容量形ベーンポンプであって、
前記第1バルブ収容穴は、前記駆動軸の円周方向において、前記吐出領域とオーバーラップするように設けられている、
可変容量形ベーンポンプ。
【請求項20】
筒状部と、該筒状部の一端開口を閉塞するように設けられた底壁部と、を有する第1ハウジングと、
前記筒状部の他端開口を閉塞するように設けられた第2ハウジングと、から構成され、該両者間の内部にポンプ要素収容部を有するポンプハウジングと、
該ポンプハウジング内に挿通されて、回転自在に軸支される駆動軸と、
前記ポンプ要素収容部内に収容され、円周方向に複数のスリットが形成されていると共に、前記駆動軸に回転駆動されるロータと、
前記スリットに出没自在に設けられたベーンと、
前記ポンプ要素収容部内に移動可能に設けられ、前記ロータおよび前記ベーンと共に複数のポンプ室を形成する環状のカムリングと、
前記ポンプハウジングに設けられ、前記複数のポンプ室のうち前記ロータの回転に伴い容積が徐々に増大する吸入領域に開口する吸入口と、
前記ポンプハウジングに設けられ、前記複数のポンプ室のうち前記ロータの回転に伴い容積が徐々に減少する吐出領域に開口する吐出口と、
前記ポンプハウジングに設けられ、リザーバタンクに貯留された作動液を前記吸入口に供給する吸入通路と、
前記ポンプハウジングに設けられ、前記吐出口から吐出された作動液を前記ポンプハウジングの外部に供給する吐出通路と、
前記カムリングの外周側にそれぞれ設けられ、該カムリングが前記ロータに対する偏心量の増大する方向へ移動する場合において、容積が減少する側に形成された第1流体圧室と、
容積が増大する側に形成された第2流体圧室と、
前記第1ハウジングの前記底壁部でかつ、前記吐出通路の途中に設けられた第1バルブ収容穴と、
前記第1バルブ収容穴内に移動可能に設けられ、一端側に作用する吸入圧と、前記吐出通路から導入されて他端側に作用する吐出圧との差圧に基づき移動制御されると共に、移動に伴い前記吐出通路の流路断面積を変化させつつ、他端側に作用した作動液を導出する第1弁体と、
前記ポンプハウジングに設けられた第2バルブ収容穴と、
前記第2バルブ収容穴の一端側に設けられ、前記吐出口と連通するように形成された高圧室と、
他端側に設けられ、前記吐出通路の前記第1バルブ収容穴より下流側と連通するように形成された制御圧室と、
前記第2バルブ収容穴内に移動可能に設けられ、前記高圧室の圧力と前記制御圧室の圧力との差圧に基づき、前記第1流体圧室の圧力を制御する第2弁体と、
を備えた可変容量形ベーンポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量形ベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、吐出通路の途中に圧力感応弁を備えた可変容量形ベーンポンプが記載されている。圧力感応弁は、パワーステアリング装置の負荷圧の増大に伴い、ポンプ要素の吐出量が増大するように吐出通路の流路断面積を変化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/080113号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の可変容量形ベーンポンプにあっては、作動油が圧力感応弁を通過する際の油路抵抗が大きいため、圧力損失により要求流量を満たせないおそれがあった。
本発明の目的の一つは、吐出通路の圧力損失を低減できる可変容量形ベーンポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態における可変容量形ベーンポンプは、吐出通路と交差する第1バルブ収容穴と、第1バルブ収容穴内に移動可能に設けられ、一端側に作用する吸入圧と吐出通路から導入されて他端側に作用する吐出圧との差圧に基づき移動制御されると共に、移動に伴い吐出通路の流路断面積を変化させる第1弁体と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明の可変容量形ベーンポンプにあっては、吐出通路の圧力損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態1の可変容量形ベーンポンプ1の斜視図である。
図2】実施形態1の可変容量形ベーンポンプ1の縦断面図である。
図3図2のS3-S3線矢視断面図である。
図4】実施形態1の可変容量形ベーンポンプ1の要部を示す縦断面図である。
図5】実施形態1の圧力感応弁50を示す図4の要部拡大図である。
図6】実施形態1の可変容量形ベーンポンプ1のポンプ回転数とポンプ吐出量との関係を示す図である。
図7】実施形態1の可変容量形ベーンポンプ1の圧力と流量との関係を示す図である。
図8】実施形態2のコイルスプリング53の荷重特性の一例である。
図9】実施形態2のコイルスプリング53の荷重特性の一例である。
図10】実施形態2の圧力感応弁50の圧力とオリフィス面積との関係を示す図である。
図11】実施形態3の可変容量形ベーンポンプ1の要部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施形態1〕
実施形態1は、本発明の可変容量形ベーンポンプを、自動車のパワーステアリング装置に適用した例である。図1は実施形態1の可変容量形ベーンポンプ1の斜視図、図2は実施形態1の可変容量形ベーンポンプ1の縦断面図、図3図2のS3-S3線矢視断面図である。
可変容量形ベーンポンプ1は、図1図3に示すように、内部に円柱状のポンプ要素収容部であるポンプ要素収容室2aを有するポンプハウジング2と、ポンプ要素収容室2a内に収容されたポンプ要素3と、を備え、ポンプ要素収容室2aを挿通する駆動軸4によってポンプ要素3を回転駆動することでポンプ作動を行う。
【0009】
ポンプハウジング2は、図1および図2に示すように、有底円筒状に形成された第1ハウジングであるフロントハウジング5と、フロントハウジング5の開口部を閉塞する第2ハウジングであるリアハウジング6と、を有し、この両ハウジング5,6が複数のボルト7によって供締め固定されている。ポンプ要素3は、図2および図3に示すように、フロントハウジング5の筒状部5a内周面に嵌着固定された円環状のアダプタリング8と、アダプタリング8の楕円形状に形成された内部空間内を移動可能に設けられた円環状のカムリング9と、カムリング9の内周側に駆動軸4と一体回転可能に設けられたロータ10と、フロントハウジング5の底壁部5bに配置され、リアハウジング6と共にカムリング9やロータ10を挟持する円盤状のプレッシャプレート11と、を備えている。
【0010】
アダプタリング8は、図3に示すように、内周面8aの下部に板状シール部材12を有している。この板状シール部材12は、アダプタリング8とカムリング9との間をシールする機能を有していると共に、カムリング9がアダプタリング8の内部空間内を移動する際の転動面としての機能を有している。また、アダプタリング8の内周面8aのうち、板状シール部材12と径方向で対向する位置には、板状シール部材12と同様に、アダプタリング8とカムリング9との間をシールするシール部材13が設けられている。
【0011】
カムリング9は、両シール部材12,13を介してアダプタリング8との間に第1流体圧室14および第2流体圧室15を隔成しており、これら各流体圧室14,15間の圧力差に基づき図3中左右方向へ移動することで、ロータ10に対する偏心量を増減させる。また、カムリング9は、その外周に弾接するリターンスプリング16によってロータ10に対する偏心量が最大となる方向へ常時付勢される。
さらに、アダプタリング8とカムリング9との間で、かつ、板状シール部材12の図3中反時計回り方向側、すなわち第2流体圧室15側の位置には、カムリング9の位置を保持する位置保持ピン17が設けられている。この位置保持ピン17は、カムリング9の位置を保持する機能の他に、アダプタリング8に対するカムリング9の過度な回動を規制するための回り止め機能を有している。
【0012】
ロータ10は、図外のエンジンによって駆動軸4が回転駆動されると、これに伴い図3中の半時計方向(矢印方向)へ回転する。また、ロータ10の外周部には、放射方向に延びる複数のスリット18が円周方向のほぼ等間隔位置に切欠形成されていると共に、各スリット18を介して平板状のベーン19がロータ10の径方向に出没自在にそれぞれ収容されている。各ベーン19は、各スリット18のロータ10内周側に形成された背圧室20に導入される作動液である作動油の圧力によって、カムリング9の内周面方向へ常時付勢される。た、各ベーン19は、隣接する二枚のベーン19,19によってカムリング9とロータ10との間の環状空間を仕切ることで、複数のポンプ室21を形成する。
【0013】
また、リアハウジング6のポンプ要素収容室2aに臨む内端面6aのうち、ロータ10の回転に伴い各ポンプ室21の容積が漸次拡大する吸入領域に相当する部位には、図2および図3に示すように、円弧状の第1吸入口22が形成されている。この第1吸入口22は、リアハウジング6に穿設された吸入通路23を介して作動油を貯留するリザーバタンクTと連通している。吸入通路23は、円筒形状を有する。これにより、リザーバタンクTに貯留された作動油は、吸入通路23内を流動して第1吸入口22へ導かれた後に、吸入領域に生じるポンプ吸入作用によって各ポンプ室21へ吸入される。
【0014】
さらに、フロントハウジング5の底面とプレッシャプレート11の一端面11aとの間には、図2に示すように、第1吸入口22とほぼ同形状の第2吸入口24が切欠形成されている。この第2吸入口24は、フロントハウジング5に形成された低圧連通路である還流通路25を介してシール部材収容部であるシールリング溝26と連通している。
シールリング溝26は、駆動軸4の外周側に環状に形成されていると共に、内部にフロントハウジング5と駆動軸4との間をシールするシール部材であるシールリング27を収容している。これにより、ポンプ要素収容室2aから駆動軸4を伝って来た作動油がポンプハウジング2の外部へ漏出するのを規制すると共に、この余剰な作動油を、還流通路25を介して第2吸入口24へ環流する。
【0015】
また、プレッシャプレート11の一端面11aのうち、ロータ10の回転に伴い各ポンプ室21の容積が漸次縮小する吐出領域に相当する部位には、図2および図3に示すように、円弧状の吐出口28が形成されている。この吐出口28は、フロントハウジング5の底壁部5bに凹設された圧力室29と連通している。この圧力室29は、内部の圧力によってプレッシャプレート11をロータ10側へ付勢する役割を有している。また、吐出口28は、図2および図3に示すように、フロントハウジング5の底壁部5bに形成された吐出通路30を介して、作動油を図外のパワーステアリング装置のロータリーバルブへ供給する。吐出通路30は、円筒形状を有する。吐出通路30は、フロントハウジング5の上下方向に一直線上に設けられ、駆動軸4と直交する。吐出通路30は、その途中に、横断面ほぼ円形状のメータリングオリフィス32を有する。メータリングオリフィス32の油路径は、メータリングオリフィス32以外の吐出通路30の油路径よりも細く形成され、作動油に差圧を生じさせる機能を有する。
【0016】
また、フロントハウジング5の上端部には、図2および図3に示すように、流量制御弁33が配設されている。この流量制御弁33は、フロントハウジング5に駆動軸4と直交するように設けられた第2バルブ収容穴である制御弁収容穴34と、制御弁収容穴34の内部に摺動自在に収容された第2弁体である制御弁体35と、制御弁収容穴34の軸方向一端側の開口部を閉止するプラグ36と、プラグ36側に向けて制御弁体35を付勢するバルブスプリング37と、を備えている。
【0017】
制御弁収容穴34の内部には、図3に示すように、プラグ36と制御弁体35との間に設けられ、メータリングオリフィス32上流側の圧力(吐出圧)が導入される高圧室38と、軸方向他端側に設けられ、バルブスプリング37を収容すると共に、メータリングオリフィス32下流側の圧力(制御圧)が導入される制御圧室39と、制御弁体35の外周側に形成され、低圧通路40を介して吸入通路23からポンプ吸入圧が導入される低圧室41と、が設けられている。これら各圧力室38,39および41は、制御弁体35の第1,第2ランド部35a,35bによってそれぞれ隔成されている。
なお、吐出通路30と制御圧室39との間には、制御圧室39に導入される作動油の流体圧を降下させて、脈動の影響を低減するためのダンパオリフィス42が設けられている。
【0018】
制御弁体35は、高圧室38の圧力と制御圧室39の圧力との差圧に基づいて、軸方向に移動するよう構成されている。
詳述すると、高圧室38と制御圧室39との圧力差が比較的小さく、バルブスプリング37のばね力によって、制御弁体35がプラグ36側に位置する場合には、第1流体圧室14と制御弁収容穴34とを連通する連通路43が低圧室41に開口する。これにより、第1流体圧室14には、低圧室41から吸入圧が導入される。
【0019】
一方、高圧室38と制御圧室39との圧力差が比較的大きく、制御弁体35が制御圧室39の圧力およびバルブスプリング37の付勢力に抗して図3中右側へ移動した場合には、低圧室41と第1流体圧室14との連通が漸次遮断され、高圧室38が連通路43を介して第1流体圧室14と連通する。これにより、第1流体圧室14には、高圧室38から高圧が導入される。
すなわち、第1流体圧室14には、低圧室41または高圧室38の油圧が選択的に導入される。
【0020】
そして、第2流体圧室15には、ポンプ吸入圧が常時導入されるようになっており、第1流体圧室14に低圧室41からの吸入圧が導入されているときには、リターンスプリング16の付勢力に基づき、カムリング9がロータ10に対する偏心量の最大となる位置へ配置され、ポンプ吐出量が最大となる。
一方、第1流体圧室14に高圧室38の高圧が導入されるときには、高圧に基づき、カムリング9がリターンスプリング16の付勢力に抗して偏心量が減少する方向、すなわち第2流体圧室15側へ転動することで、ポンプ吐出量が減少することとなる。
【0021】
なお、制御弁体35の内部には、リリーフバルブ44が形成されている。このリリーフバルブ44は、制御圧室39の圧力が所定以上になったとき、つまり、パワーステアリング装置側の負荷圧が所定以上となったときに開弁し、圧力の高まった作動油を、低圧室41および低圧通路40を介して吸入通路23へ環流する。
そして、吐出通路30のメータリングオリフィス32の途中には、図4に示すように、パワーステアリング装置側の負荷圧に感応してメータリングオリフィス32の下流側に至る流路断面積を変化させる圧力感応弁50が設けられている。
【0022】
図5は、実施形態1の圧力感応弁50を示す図4の要部拡大図である。
圧力感応弁50は、感圧バルブ収容穴51、感圧弁体52およびコイルスプリング53を備える。感圧バルブ収容穴51は、第1バルブ収容穴であり、フロントハウジング5の底壁部5bに形成された円筒形状の穴である。感圧バルブ収容穴51は、駆動軸4の円周方向において、吐出領域とオーバーラップするように配置されている。
感圧弁体52は、第1弁体であり、感圧バルブ収容穴51の内部に摺動自在に収容されている。コイルスプリング53は、感圧弁体52をプレッシャプレート11側へ付勢するばね部材であり、感圧バルブ収容穴51の内部に摺動自在に収容されている。
【0023】
感圧バルブ収容穴51は、吐出通路30(のメータリングオリフィス32)の途中に設けられている。感圧バルブ収容穴51は、吐出通路30と直交し、かつ、駆動軸4の軸方向と平行に配置されている。感圧弁体52およびコイルスプリング53は、吐出通路30と直交する方向、かつ、駆動軸4の軸方向に沿ってそれぞれ移動する。感圧バルブ収容穴51の一端側には底面511が設けられ、他端側には吐出領域と連通する開口部512が設けられている。図5において、感圧バルブ収容穴51が延びる方向、すなわち、駆動軸4に沿う方向にx軸を設定し、x軸方向において、開口部512の側から底面511の側へ向かう方向を正方向、反対方向を負方向と定義する。感圧バルブ収容穴51は、x軸方向において、ロータ10よりもx軸正方向側の位置に配置されている。
感圧バルブ収容穴51には、x軸方向において、開口部512に近い位置に、メータリングオリフィス32と連通する吸入ポート513および吐出ポート514が設けられている。両ポート513,514は互いに対向する。
【0024】
感圧弁体52は、スプールバルブであり、x軸の負方向側から正方向側に向かって、第1縮径部521、第1ランド部522、第2縮径部523、第2ランド部524および第3縮径部525を有する。3つの縮径部521,523,525は、両第1ランド部522、524よりも小径である。x軸方向において、第2ランド部524は、感圧弁体52の中央よりもx軸負方向側に配置されている。両ランド部522,524は、感圧バルブ収容穴51の内周面と摺動自在に形成されている。第2ランド部524の外周面と感圧バルブ収容穴51との間は、Oリング526によりシールされている。第2縮径部523の幅(x軸方向長さ)は、両ポート513,514の幅よりも広く設定されている。感圧弁体52は、第2ランド524と両ポート513,514とのオーバーラップ量を変化させることにより、メータリングオリフィス32の流路断面積を変化させる。
【0025】
コイルスプリング53は、感圧バルブ収容穴51の内側であって、第3縮径部525の外周側の空間に設けられ、x軸方向において、第2ランド部524と底面511との間に配置されている。コイルスプリング53は、ばね定数が線形の特性を有するように形成され、感圧弁体52をx軸負方向側へ常時付勢する。コイルスプリング53のx軸正方向端は、底面511と接し、x軸負方向端は、第2ランド部524のx軸正方向側面(スプリング保持部)524aと接する。底面511は、感圧弁体52の第3縮径部525のx軸正方向端525aと当接可能に設けられ、感圧弁体52のx軸正方向への移動を規制するストッパとして機能する。
【0026】
感圧バルブ収容穴51の内部には、両ランド部522,524によって、x軸の負方向側から正方向側に向かって順に、受圧室54、通路構成部55および吸入圧室56が隔成されている。受圧室54は、吐出通路30と連通し、内部に吐出圧が導入される。通路構成部55は、感圧バルブ収容穴51において、第1ランド部522、第2縮径部523および第2ランド部524に囲まれた空間であって、吸入ポート513から吐出ポート514へ作動油を導く通路として機能する。吸入圧室56は、感圧バルブ収容穴51に開口する低圧導入路57を介してシールリング溝26と連通しており、ここから低圧(吸入圧)が導入される。
【0027】
感圧バルブ収容穴51のx軸負方向端には、環状溝58が設けられている。環状溝58には、C型のストッパリング59が嵌合されている。ストッパリング59は、感圧弁体52の第1ランド部522のx軸負方向側面522aと当接可能に設けられ、感圧弁体52のx軸負方向への移動を規制するストッパとして機能する。感圧弁体52は、ストッパリング59により感圧弁体52のx軸負方向への移動が規制された状態で、流路断面積は最大となるように形成されている。吐出通路30は、受圧室54に作用する吐出圧の圧力上昇に伴い、x軸正方向へ移動し、流路断面積の変化率が漸次減少するように形成されている。
【0028】
受圧室54は、感圧バルブ収容穴51において、開口部512、第1縮径部521および第1ランド部522に囲まれた空間であって、開口部512から導入された圧力流体を、第1ランド部522のx軸負方向側面522aに作用させる。感圧弁体52は、受圧室54と低圧導入路57との差圧に基づきx軸方向に移動し、これに伴い第2ランド部524のよってメータリングオリフィス32(の吸入ポート513および吐出ポート514)の一部を閉塞することで、流路断面積を変化させる。
【0029】
詳述すると、図5において、受圧室54と低圧導入路57との圧力差が比較的小さい場合には、コイルスプリング53の付勢力によって感圧弁体52は、第1ランド部522のx軸負方向側面522aがストッパリング59と当接する位置に配置される。このとき、第2ランド部524がメータリングオリフィス32のほぼ半分を閉塞することにより、メータリングオリフィス32の流路断面積がほぼ半減する。
【0030】
一方、受圧室54と低圧導入路57との圧力差が増大し、感圧弁体52がコイルスプリング53の付勢力に打ち勝ってx軸正方向へ移動すると、メータリングオリフィス32と第2ランド部524とのオーバーラップ量が漸次減少し、これに伴い、メータリングオリフィス32の流路断面積が漸次大きくなる。そして、第3縮径部525のx軸正方向端525aと感圧バルブ収容穴51の底面511が当接すると、オーバーラップ量がゼロとなり、メータリングオリフィス32の流路断面積は最大となる。
なお、感圧弁体52は、可変容量形ベーンポンプ1の組み立て時において、コイルスプリング53を組み込んだ状態の感圧バルブ収容穴51に対して、感圧バルブ収容穴51の開口部512側から底面511側へ向かって挿入した後に、プレッシャプレート11で閉塞されることで組み付けられる。
【0031】
実施形態1の可変容量形ベーンポンプ1では、例えば、操舵アシスト力を必要としない直進走行時にあっては、図外のロータリーバルブに供給された作動油は、そのほとんどが操舵アシストに供されることなくリザーバタンクTへ環流されることから、パワーステアリング装置側の負荷圧は低い状態となる。そして、これに伴いパワーステアリング装置と連通している吐出通路30内の作動油の流体圧も低い状態が維持されることから、感圧弁体52の第2ランド部524によるメータリングオリフィス32の閉塞量が大きく、流路断面積が小さなものとなる。すなわち、可変オリフィスでいうところの絞り量が多くなった場合と同様の状態になる。
このため、メータリングオリフィス32における上流側の流体圧と下流側の流体圧との差圧が大きくなることから、これを感知して流量制御弁33がカムリング9をロータ10に対する偏心量が小さくなる方向へ転動させることにより、図6の破線で示すように、ポンプ吐出量が減少することとなる。
【0032】
一方、操舵アシスト力が必要となる操舵時においては、ロータリーバルブに供給された作動油が、リザーバタンクTへ環流されず、閉空間であるパワーシリンダ内部へ供給されることから、パワーステアリング装置側の負荷圧が上昇する。すると、これに伴い吐出通路30内の作動油の流体圧も上昇することから、感圧弁体52の第2ランド部524が、x軸正方向へ移動するため、メータリングオリフィス32の閉塞量が小さく、流路断面積が大きなものとなる。すなわち、可変オリフィスでいうところの絞りを緩めた状態となる。
このため、メータリングオリフィス32上流側の流体圧と下流側の流体圧との差圧が小さくなることから、これを感知して流量制御弁33がカムリング9をロータ10に対する偏心量が大きくなる方向へ転動させることにより、図6の実線で示すように、ポンプ吐出量が増大することとなる。したがって、パワーステアリング装置に供給される作動油の吐出量は、操舵時において、図6の実線で示すように、比較多量な状態が維持される。
【0033】
次に、実施形態1の作用効果を説明する。
従来の可変容量形ベーンポンプの圧力感応弁において、感圧バルブ収容穴の開口部側から導入された圧力流体は、感圧弁体の軸方向に沿って感圧弁体の内部を通過した後、感圧バルブ収容穴に対して直交するメータリングオリフィスへ流出する。このように、従来の圧力感応弁では、圧力流体が感圧弁体内部を通過し、さらに流路が直角方向に変化するため、油路抵抗が大きく、圧力損失により要求流量を満たせないおそれがあった。
【0034】
これに対し、実施形態1の圧力感応弁50において、感圧バルブ収容穴51は、吐出通路30(のメータリングオリフィス32)の途中に設けられ、吐出通路30と交差する。吐出通路30のメータリングオリフィス32から吸入ポート513を介して感圧バルブ収容穴51に流入した圧力流体は、第2縮径部523の外側の空間を通過し、吐出ポート514からメータリングオリフィス32へ流出する。このとき、圧力流体は、感圧バルブ収容穴51と交差する方向に流れるため、急激な方向転換は発生せず、かつ、感圧弁体52の内部を通過しない。よって、図7に示すように、実施形態1の圧力感応弁50は、従来の圧力感応弁と比較して圧力損失を大幅に低減でき、要求流量を満足できる。
【0035】
吐出通路30と感圧バルブ収容穴51とが直交するメータリングオリフィス32の油路径は、メータリングオリフィス32以外の吐出通路30の油路径よりも細く形成されている。これにより、作動油に差圧を生じさせる機能を実現できる。また、吐出通路30は、フロントハウジング5の上下方向に一直線上に設けられている。よって、切削加工により吐出通路30を成形する際の加工を容易化できると共に、圧力流体が吐出通路30を流れる際の圧力損失を最小限に抑えられる。
さらに、吐出通路30と感圧バルブ収容穴51とは互いに直交するため、切削加工により感圧バルブ収容穴51を成形する際の加工が容易であり、吐出通路30に対して精度を出し易い。また、感圧バルブ収容穴51は、駆動軸4の軸方向に沿う方向に延び、感圧弁体52は、吐出通路30に直交する方向に沿って移動するため、駆動軸4との干渉を回避できる。
【0036】
ところで、可変容量形ベーンポンプ1の内部には、ポンプ要素3、吸入通路23および吐出通路30といった様々な構成が内装されており、新たな構成を設けることが困難となっている。ここで、構成が内装されていない部位として、図4の二点鎖線で示すような領域Cが挙げられるが、領域Cには駆動軸4が挿通していることから、駆動軸4との干渉を避ける必要がある。このため、複雑な動作を伴う機構等に対して実質的なデッドスペースとなっており、新たな構成を設けるのにあたっては、機構の外付けやポンプハウジング2の大型化等に伴う装置全体の大型化が余儀なくされていた。
【0037】
そこで、実施形態1では、直線的に動作する圧力感応弁50を利用し、圧力感応弁50を収容する感圧バルブ収容穴51を、ポンプハウジング2のうち、駆動軸4の軸方向において、ロータ10よりもx軸正方向側の位置に配置することにより、デッドスペースとなっていた個所への取り付けを可能としつつ、パワーステアリング装置に適した吐出量を得られるようにした。
さらに、感圧バルブ収容穴51を、駆動軸4の円周方向において吐出領域とオーバーラップするように配置した。これにより、感圧バルブ収容穴51へ吐出圧を導くための流路を短縮できるため、更なる省スペース化が図れる。
また、感圧バルブ収容穴51は、開口部512側が吐出領域と連通するため、受圧室54への吐出圧の導入を容易化できる。そして、感圧弁体52を、感圧バルブ収容穴51の開口部512側から挿入し、プレッシャプレート11で閉塞することで組み付けを行っていることから、封止栓(プラグ)等の封止部材が不要となるため、コストの削減を図れる。
【0038】
ポンプハウジング2は、駆動軸4の外周側に環状に形成され、ポンプハウジング2と駆動軸4との間をシールするシールリング27を収容するシールリング溝26と、シールリング溝26と吸入領域とを連通する還流通路25と、感圧バルブ収容穴51のx軸正方向端とシールリング溝26とを連通する低圧導入路57と、を有する。これにより、吸入領域とは離間した個所に配置された低圧導入路57における吸入圧の導入を実現できる。
駆動軸4の軸方向から見たとき、駆動軸4の左右のうち、感圧バルブ収容穴51は、吐出口28が配置される側に設けられている。これにより、感圧バルブ収容穴51と吐出口28とが近接するため、吐出口28から吐出通路30に至る経路を短縮化できる。
実施形態1の感圧弁体52は、第2ランド部524を有し、第2ランド部524と吐出通路30の吸入ポート513および吐出ポート514とのオーバーラップ量を変化させることにより、吐出通路30の流路断面積を変化させるスプールバルブである。これにより、機構の複雑化や、これに伴う装置の大型化等を抑制できる。
【0039】
感圧バルブ収容穴51は、感圧弁体52のx軸正方向側への移動を規制するストッパとして機能する底面511を有する。従来の圧力感応弁では、感圧バルブ収容穴の途中の内径を細くして段差面を設け、この段差面をストッパとして機能させている。このため、感圧バルブ収容穴のうちコイルスプリングを収容する部分の内径を、感圧弁体を収容する部分の内径よりも細くする必要があり、コイルスプリングの外径を大きく取れなかった。この結果、セット荷重やストロークを大きくできず、チューニング幅が狭いという問題があった。
これに対し、実施形態1では、感圧バルブ収容穴51の底面511をストッパとしているため、感圧バルブ収容穴51の内径を一様にできるため、従来の圧力感応弁と比べて、セット荷重やストロークのチューニング幅を拡大できる。
【0040】
また、感圧弁体52は、コイルスプリング53の一部を収容保持する第2ランド部524(のx軸正方向側面524a)を有する。これにより、コイルスプリング53の外径を第2ランド部524の外径まで大きくできるため、セット荷重やストロークのチューニング幅をより拡大できる。
感圧バルブ収容穴51は、x軸負方向端に感圧弁体52のx軸負方向側への移動を規制するストッパリング59を有する。これにより、コイルスプリング53の付勢力で感圧弁体52が感圧バルブ収容穴51から脱落するのを回避できる。
【0041】
感圧弁体52は、ストッパリング59によりx軸負方向側への移動が規制された際、流路断面積が最大となるよう形成されている。これにより、パワーステアリング装置側の負荷圧が低い場合には、カムリング9のロータ10に対する偏心量が最小となるため、ポンプ吐出量が最低となり、エネルギロスを最小限に抑えられる。
また、吐出通路30は、感圧弁体52の第1ランド部522に作用する吐出圧の圧力に伴って、流路断面積の変化率が漸次減少するように形成されている。これにより、パワーステアリング側の負荷圧が高くなるほど、カムリング9のロータ10に対する偏心量が大きくなるため、ポンプ吐出量が増大して要求流量を満足できる。
【0042】
感圧バルブ収容穴51の吸入圧室56は、低圧導入路57およびシールリング溝26を介して吸入通路23と連通する。これにより、吸入領域とは離間した個所に配置された吸入圧室56における吸入圧の導入を実現できる。
また、吸入通路23および吐出通路30は、通路が円筒外周である。よって、切削加工により吸入通路23および吐出通路30を成形する際の加工が容易である。
【0043】
〔実施形態2〕
図8図10は、実施形態2を示し、基本的な構成は実施形態1と同様であるため、コイルスプリング53として非線形のばね定数を有するばね(非線形ばね)を適用したものである。
すなわち、実施形態2のコイルスプリング53は、コイル径、ピッチおよび線径等の設計パラメータのうち、少なくとも一つ以上のパラメータがコイルスプリング53の軸方向に沿って変化するように形成されており、これによって、ばね荷重Fと自然長からの変位Lとの関係が非線形となっている。
【0044】
なお、図8および図9は、実施形態2に供されるコイルスプリング53の一例におけるばね荷重Fと変位Lとの関係を示すものであって、図8は一端側と他端側のピッチが異なるいわゆる2段ピッチばねを、図9はコイル径が一端側から他端側に向かってテーパ状に拡径するいわゆるテーパばねをそれぞれ表している。
【0045】
次に、実施形態2の作用効果を説明する。
上述した実施形態1では、コイルスプリング53が線形特性を有していることから、感圧弁体52に作用する圧力流体の圧力Pと、感圧弁体52のx軸正方向側への移動量がほぼ比例する。このため、圧力Pの上昇に伴うメータリングオリフィス32の開口面積S(以下、単に「オリフィス開口面積S」と呼ぶ)の変化特性は、メータリングオリフィス32の断面形状(円形状)の影響を大きく受けることとなって、オリフィス開口面積Sが最小値Sminから最大値Smaxに変化するにあたり、感圧弁体52の動き始めに最も大きく変化する一方、圧力Pが大きくなるにつれて漸次減少するように一意的に定められる(図10の一点鎖線参照)。
【0046】
これに対し、実施形態2では、コイルスプリング53が非線形特性を有していることから、圧力Pと感圧弁体52のx軸正方向側への移動量が比例の関係とならず、特定の圧力域において感圧弁体52が大きく移動したり、逆に移動量が微々たるものとなったりする。そうすると、圧力Pの上昇に伴うオリフィス開口面積Sの変化特性が、メータリングオリフィス32の断面形状(円形状)の影響のみならず、コイルスプリング53のばね特性の影響をも大きく受けて変化することとなる。これにより、圧力Pの上昇に伴うオリフィス開口面積Sの変化特性を、図10の実線で示すような変則的な特性とすることが可能になる。
【0047】
そして、この変化特性は、コイルスプリング53を異なる非線形特性を有するものに変更することで、ある程度自由に調節することが可能となる。
したがって、実施形態2によれば、実施形態1と同様の作用効果が得られるのは勿論のこと、非線形特性のコイルスプリング53によって圧力Pの上昇に伴うオリフィス開口面積Sの変化特性を所望の値に容易に調整できることから、チューニングの自由度を向上できる。
【0048】
〔実施形態3〕
図11は実施形態3を示し、基本構成は実施形態1と同様であるが、ポンプハウジング2の構成を変更したものである。なお、以下の説明においては、実施形態1と共通の構成箇所には同一の符号を付して具体的な説明を省略する。
すなわち、実施形態3のポンプハウジング2は、図11に示すように、平板状に形成された第1ハウジングであるフロントハウジング5と、有底円筒状に形成された第2ハウジングであるリアハウジング6と、から構成されている。そして、リアハウジング6の開口部をフロントハウジング5のリアハウジング6側の内端面で閉塞することにより、内部にポンプ要素収容室2aが形成されている。
【0049】
また、ポンプハウジング2の構成変更に伴い、ポンプ要素3を構成するアダプタリング8は、リアハウジング6の筒状部6b内周面に嵌着固定されると共に、プレッシャプレート11は、フロントハウジング5と共にカムリング9やロータ10を挟持するように、リアハウジング6の底壁部6cに配置されている。
さらに、ポンプハウジング2に軸支される駆動軸4は、そのフロントハウジング5側の一端部4aがポンプハウジング2の外部に突出していると共に、この突出部に駆動軸伝達部であるプーリ66が設けられている。プーリ66は、図外のベルト等を介して伝達されたエンジンの動力を駆動軸4に伝達することにより、駆動軸4を回転駆動する。
【0050】
また、実施形態3の流量制御弁33は、ポンプハウジング2の構成変更に伴い、その配設箇所がリアハウジング6の筒状部6bの上端部に変更されている。さらに、実施形態3の圧力感応弁50も、ポンプハウジング2の構成変更に伴い、その配設箇所が変更されている。すなわち、実施形態3の圧力感応弁50は、その感圧バルブ収容穴51が、吐出通路30の途中で、かつ、フロントハウジング5の駆動軸4の軸方向におけるロータ10よりもプーリ66側となる位置に配設されている。
なお、流量制御弁33や圧力感応弁50の他の構成や接続関係については、実施形態1と同様のものであるから具体的な説明を省略する。
【0051】
次に、実施形態3の作用効果を説明する。
実施形態3においても、基本構成が実施形態1と同様であることから、圧力感応弁50によって大きな操舵アシスト力が必要となる操舵時においてポンプ吐出量を増大させたり、操舵アシスト力を必要としない直進走行時においてポンプ吐出量を減少させたりすることが可能となる。これにより、ポンプ吐出量が運転状態に応じて適正化されることから、ポンプ作動に係るエネルギロスを低減することができる。
【0052】
また、実施形態3においても、フロントハウジング5の駆動軸4近傍の領域C(図11中の二点鎖線参照)が、駆動軸4や駆動軸4を軸支する図外のベアリング等との干渉を避けるといった観点から、複雑な動作を伴う機構等に対する実質的なデッドスペースとなっているところ、圧力感応弁50を直線的に動作する単純な構成とし、これを領域Cに配設したことから、圧力感応弁50を設けることによる装置の大型化を抑制できる。
【0053】
〔他の実施形態〕
以上、本発明を実施するための実施形態を説明したが、本発明の具体的な構成は実施形態の構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、実施形態1では、感圧バルブ収容穴51が吐出通路30(メータリングオリフィス32)と直交する例を示したが、感圧バルブ収容穴51は、吐出通路30と交差していればよい。
【符号の説明】
【0054】
1…可変容量形ベーンポンプ、 2…ポンプハウジング、 2a…ポンプ要素収容室(ポンプ要素収容部)、 4…駆動軸、 5…フロントハウジング(第1ハウジング)、 5a…筒状部、 5b…底壁部、 6…リアハウジング(第2ハウジング)、 9…カムリング、 10…ロータ、 18…スリット、 19…ベーン、 21…ポンプ室、 22…第1吸入口22(吸入口)、 23…吸入通路、 28…吐出口、 30…吐出通路、 32…メータリングオリフィス、 34…制御弁収容穴(第2バルブ収容穴)、 35…制御弁体(第2弁体)、 38…高圧室、 39…制御圧室、 51…感圧バルブ収容穴(第1バルブ収容穴)、 52…感圧弁体(第1弁体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11