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特開2024-128520セメント組成物、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128520
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】セメント組成物、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/19 20060101AFI20240913BHJP
   C04B 28/08 20060101ALI20240913BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20240913BHJP
   C04B 24/12 20060101ALI20240913BHJP
   C04B 7/52 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C04B7/19
C04B28/08
C04B24/02
C04B24/12
C04B7/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037519
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕太
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 怜至
(72)【発明者】
【氏名】林 建佑
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 彦次
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA10
4G112PB08
4G112PB15
4G112PB20
4G112PC01
(57)【要約】
【課題】本発明は、トリイソプロパノールアミンを用いて粉砕して製造したセメントと高炉スラグを混合したセメント組成物であって、強度発現性が向上したセメント組成物等を提供する。
【解決手段】本発明は、炭酸化カルシウム含有物、セメントクリンカ、石膏、高炉スラグ、および、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を少なくとも含むセメント組成物であり、好ましくは、セメントクリンカおよび高炉スラグの合計量を100質量部として、炭酸化カルシウム含有物を1.0~10.0質量部、セメントクリンカを40~70質量部、石膏をSO換算値で0.5~5.0質量部、高炉スラグを30~60質量部、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を、セメントクリンカに対し50~1000ppm少なくとも含む、セメント組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸化カルシウム含有物、セメントクリンカ、石膏、高炉スラグ、および、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を少なくとも含むセメント組成物。
【請求項2】
セメントクリンカおよび高炉スラグの合計量を100質量部として、炭酸化カルシウム含有物を1.0~10.0質量部、セメントクリンカを40~70質量部、石膏をSO換算値で0.5~5.0質量部、高炉スラグを30~60質量部、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を、セメントクリンカに対し50~1000ppm少なくとも含む、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
上記炭酸化カルシウム含有物のBET比表面積が6.0m/g以上である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項4】
上記炭酸化カルシウム含有物中の炭酸カルシウムの含有率が、50質量%以上である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項5】
炭酸化カルシウム含有物、セメントクリンカ、石膏、および、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を混合して粉砕した後、高炉スラグを混合して、請求項1に記載のセメント組成物を製造する、セメント組成物の製造方法。
【請求項6】
下記(A)および(B)の製造工程を少なくとも含む、請求項1に記載のセメント組成物を製造する、セメント組成物の製造方法。
(A)セメントクリンカ、石膏、炭酸化カルシウム含有物、および、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を混合して粉砕するか、または、
セメントクリンカ、炭酸化カルシウム含有物、および石膏から選ばれる1種以上に、トリイソプロパノールアミン単独、若しくはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を添加して、別々に粉砕して得られた各粉砕物を混合してセメントを製造する、セメントの製造工程
(B)上記セメントと、高炉スラグを混合してセメント組成物を製造する、セメント組成物の製造工程
【請求項7】
下記(C)および(D)の製造工程を少なくとも含む、請求項1に記載のセメント組成物を製造する、セメント組成物の製造方法。
(C)セメントクリンカ、石膏、および、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を混合して粉砕するか、または、石膏、およびセメントクリンカから選ばれる1種以上に、トリイソプロパノールアミン単独、若しくはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を添加して、別々に粉砕して得られた各粉砕物を混合してセメントを製造する、セメントの製造工程
(D)上記セメントと、高炉スラグ、および炭酸化カルシウム含有物を混合してセメントを製造する、セメント組成物の製造工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリイソプロパノールアミンを用いて粉砕して製造したセメントと高炉スラグを混合したセメント組成物であって、強度発現性が向上したセメント組成物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、セメントの粉砕助剤は、ジエチレングリコールとトリイソプロパノールアミン等がある。そして、セメントの強度発現性は、ジエチレングリコールよりもトリイソプロパノールアミンを用いた方が一般に高い。したがって、セメントを貯蔵するサイロの数が限られる場合、優先的に、トリイソプロパノールアミンを用いたセメントを貯蔵する場合がある。こうして貯蔵したセメントは、普通セメントとして出荷するほか、高炉スラグ等の混合材と混合して混合セメントとしても出荷する。
【0003】
しかし、高炉セメントの強度発現性は、後掲の表4、5に示すように、ジエチレングリコール(参考例2、3)よりも、トリイソプロパノールアミン(参考例4、5))を用いた方が低下する。
したがって、トリイソプロパノールアミンを用いたセメントと、高炉スラグを混合して製造したセメント組成物(高炉セメントに相当する。)の強度発現性の向上が課題である。
【0004】
ところで、セメント・コンクリートは、水和が進むと水酸化カルシウム等のカルシウム含有物が多く生成し、このカルシウム含有物は二酸化炭素と反応して固定し難溶性の炭酸化カルシウム含有物が生成する。したがって、セメント・コンクリート分野においてカーボンニュートラルを推進する上で、この豊富に存在するカルシウム含有物の二酸化炭素の固定化への利活用は、有用かつ有望なCCU(Carbon Capture and Utilization)技術となりうる。
【0005】
しかし、カルシウム含有物に二酸化炭素を固定した炭酸化カルシウム含有物は、水和活性がないため、大量消費が可能なセメント用混合材として利用する場合、コンクリート等の強度発現性が低下するから、その混合量には制約がある。ちなみに、現在のポルトランドセメントでは、JIS R 5210「ポルトランドセメント」の規定により、炭酸カルシウムの含有物である石灰石の混合量の上限は5質量%に制限されている。このような状況から、コンクリート等の強度発現性が低下することなく、炭酸化カルシウム含有物の混合量をさらに増加させる方法が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1に記載の方法は、セメントクリンカ粉末、石膏粉末、および炭酸化カルシウム含有粉末を含むセメント粉末組成物を製造する方法であって、炭酸化前の上記カルシウム含有粉末、および水を含むスラリーの中に、二酸化炭素含有ガスを供給して、炭酸化処理されたスラリーを得る炭酸化工程と、セメント製造用の仕上げミルの中に、セメントクリンカ、石膏粉末、および上記炭酸化処理されたスラリーを供給して粉砕し、上記セメント粉末組成物を得る粉砕工程を含むセメント粉末組成物の製造方法である。
そして、この製造方法で得られるセメント粉末組成物は、炭酸化カルシウム含有粉末を含むにもかかわらず、優れた強度発現性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-152631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、特許文献1に記載の発明をさらに発展させたものであり、トリイソプロパノールアミンを用いて粉砕して製造したセメントと高炉スラグを混合したセメント組成物であって、強度発現性が向上したセメント組成物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、トリイソプロパノールアミンを用いて粉砕して製造したセメント、二酸化炭素含有ガスをカルシウム含有物に接触させて炭酸化した炭酸化カルシウム含有物、および高炉スラグを少なくとも含むセメント組成物は上記課題を解決できることを見い出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の構成からなるセメント組成物等である。
【0010】
[1]炭酸化カルシウム含有物、セメントクリンカ、石膏、高炉スラグ、および、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を少なくとも含むセメント組成物。
[2]セメントクリンカおよび高炉スラグの合計量を100質量部として、炭酸化カルシウム含有物を1.0~10.0質量部、セメントクリンカを40~70質量部、石膏をSO換算値で0.5~5.0質量部、高炉スラグを30~60質量部、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を、セメントクリンカに対し50~1000ppm少なくとも含む、上記[1]に記載のセメント組成物。
[3]上記炭酸化カルシウム含有物のBET比表面積が6.0m/g以上である、上記[1]に記載のセメント組成物。
[4]上記炭酸化カルシウム含有物中の炭酸カルシウムの含有率が、50質量%以上である、上記[1]に記載のセメント組成物。
[5]炭酸化カルシウム含有物、セメントクリンカ、石膏、および、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を混合して粉砕した後、高炉スラグを混合して、上記[1]に記載のセメント組成物を製造する、セメント組成物の製造方法。
[6]下記(A)および(B)の製造工程を少なくとも含む、上記[1]に記載のセメント組成物を製造する、セメント組成物の製造方法。
(A)セメントクリンカ、石膏、炭酸化カルシウム含有物、および、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を混合して粉砕するか、または、
セメントクリンカ、炭酸化カルシウム含有物、および石膏から選ばれる1種以上に、トリイソプロパノールアミン単独、若しくはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を添加して、別々に粉砕して得られた各粉砕物を混合してセメントを製造する、セメントの製造工程
(B)上記セメントと、高炉スラグを混合してセメント組成物を製造する、セメント組成物の製造工程
[7]下記(C)および(D)の製造工程を少なくとも含む、上記[1]に記載のセメント組成物を製造する、セメント組成物の製造方法。
(C)セメントクリンカ、石膏、および、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を混合して粉砕するか、または、石膏、およびセメントクリンカから選ばれる1種以上に、トリイソプロパノールアミン単独、若しくはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を添加して、別々に粉砕して得られた各粉砕物を混合してセメントを製造する、セメントの製造工程
(D)上記セメントと、高炉スラグ、および炭酸化カルシウム含有物を混合してセメントを製造する、セメント組成物の製造工程
【発明の効果】
【0011】
本発明のセメント組成物は、
(i)高炉スラグとトリイソプロパノールアミンを含むにも拘わらず、強度発現性が向上する。
(ii)高炉スラグ、および、炭酸化カルシウム含有物を多量に含むことができるから、その分、セメントクリンカの使用量、しいてはセメントクリンカの生産量を減らすことができ、また、二酸化炭素の排出量を減らすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を、セメント組成物とその製造方法に分けて詳細に説明する。
1.セメント組成物
本発明のセメント組成物は、炭酸化カルシウム含有物、セメントクリンカ、石膏、高炉スラグ、および、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を少なくとも含むセメント組成物である。ただし、上記炭酸化カルシウム含有物は石灰石を含まない。
また、本発明のセメント組成物は、好ましくは、セメントクリンカおよび高炉スラグの合計量を100質量部として、炭酸化カルシウム含有物を1.0~10.0質量部、セメントクリンカを40~70質量部、石膏をSO換算値で0.5~5.0質量部、高炉スラグを30~60質量部、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を、セメントクリンカに対し50~1000ppm少なくとも含む。上記各成分の含有割合が、上記範囲内にあれば、セメント組成物の強度発現性が向上する。
【0013】
次に、本発明のセメント組成物の必須成分である、炭酸化カルシウム含有物、セメントクリンカ、石膏、高炉スラグ、および、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物について詳細に説明する。
【0014】
(1)炭酸化カルシウム含有物
上記炭酸化カルシウム含有物は、カルシウム含有物と二酸化炭素が反応した炭酸化物であり、炭酸化カルシウムの含有率が高い程好ましく、例えば、炭酸化生コンクリートスラッジ粉末(炭酸化スラッジ粉末)、生コンクリートスラッジ水中の炭酸化沈殿物の粉末(炭酸化スラッジ水沈殿物粉末)、および、炭酸化廃コンクリート粉末から選ばれる1種以上である。
【0015】
上記炭酸化スラッジ粉末は、例えば、生コンクリートスラッジを乾燥し粉砕した粉末のスラリー中に、二酸化炭素を吹き込んだ後、再度、乾燥し粉砕して得ることができる。
また、上記炭酸化スラッジ水沈殿物粉末は、例えば、生コンクリートスラッジ水の中に二酸化炭素を吹き込むことにより生成した沈殿物を乾燥し粉砕して得ることができる。
また、上記炭酸化廃コンクリート粉末は、例えば、廃コンクリートから骨材を回収する際に発生する、セメントペースト分を多く含む粉末を、二酸化炭素と乾式で接触させることにより得ることができる。
【0016】
上記炭酸化カルシウム含有物の含有割合は、セメント組成物の強度発現性が向上することから、セメントクリンカおよび高炉スラグの合計量を100質量部として、好ましくは1.0~10.0質量部である。なお、該含有割合は、より好ましくは2.0~9.0質量部、さらに好ましくは3.0~8.0質量部である。
【0017】
また、上記炭酸化カルシウム含有物のBET比表面積は、好ましくは6.0m/g以上である。6.0m/g以上であれば、本発明のセメント組成物の強度発現性はより高い。なお、該BET比表面積は、より好ましくは10~80m/g、さらに好ましくは20~60m/gである。
【0018】
また、上記炭酸化カルシウム含有物中の炭酸カルシウムの含有率は、好ましくは50質量%以上である。炭酸カルシウムの含有率が50質量%以上であれば、セメント組成物の強度発現性が高い。なお、炭酸カルシウムの含有率は、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。
【0019】
(2)セメントクリンカ
上記セメントクリンカは、普通ポルトランドセメントクリンカ、早強ポルトランドセメントクリンカ、超早強ポルトランドセメントクリンカ、中庸熱ポルトランドセメントクリンカ、低熱ポルトランドセメントクリンカ、耐硫酸塩ポルトランドセメントクリンカ、およびエコセメントクリンカから選ばれる1種以上が挙げられる。
【0020】
また、上記セメントクリンカの含有割合は、セメントクリンカおよび高炉スラグの合計量を100質量部として、好ましくは40~70質量部である。セメントクリンカの含有割合が40質量部未満では、セメント組成物の強度発現性が低く、70質量部を超えると、高炉スラグの使用量が減る。なお、セメントクリンカの含有割合は、より好ましくは45~65質量部、より好ましくは55~60質量部である。
【0021】
(3)石膏
上記石膏は、特に制限されず、例えば、二水石膏、α型半水石膏、β型半水石膏、および無水石膏から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、上記石膏の含有割合は、セメントクリンカおよび高炉スラグの合計量を100質量部として、SO換算で、好ましくは0.5~5.0質量部である。上記石膏の含有率が0.5質量部未満では、セメント組成物の凝結が速く可使時間の確保が困難な場合があり、5.0質量部を超えると、凝結が遅く強度発現性が低下するおそれがある。なお、石膏の含有割合は、SO換算値で、より好ましくは0.8~4.0質量部、さらに好ましくは1.0~3.0質量部である。
【0022】
(4)高炉スラグ
上記高炉スラグは、高炉で銑鉄を製造する際に副生する溶融状態のスラグを、水で急冷し破砕して得られる水砕スラグである。
また、高炉スラグの含有割合は、セメントクリンカおよび高炉スラグの合計量を100質量部として、好ましくは30~60質量部である。該含有割合が該範囲内にあれば、高炉スラグの有効利用が図れるとともに、セメント組成物の強度発現性を高くできる。なお、高炉スラグの含有割合は、より好ましくは35~50質量部、さらに好ましくは40~45質量部である。
【0023】
また、上記高炉スラグのJIS A 6206に規定する活性度指数は、活性度指数の低い高炉スラグを有効利用するため、材齢7日かつブレーン比表面積が3500cm/g以上で5000cm/g未満の場合に、85以下、好ましくは75以下、さらに好ましくは65以下、特に好ましくは55未満であり、活性度指数の下限は50である。
ここで、活性度指数とは、普通ポルトランドセメントの50質量%を高炉スラグで置換した混合セメントモルタルの圧縮強さを、普通ポルトランドセメントモルタルの圧縮強さで割って得た比を100倍した値である。
【0024】
上記高炉スラグのブレーン比表面積は、好ましくは3000cm/g以上である。該値が3000cm/g未満では、セメント組成物の強度発現性の向上効果が小さい。なお、上記高炉スラグのブレーン比表面積は、より好ましくは3500cm/g以上、さらに好ましくは4000cm/g以上である。また、高炉スラグのブレーン比表面積の上限は、粉砕コストの観点から12000cm/gである。
また、高炉スラグは、高炉スラグをボールミルやジェットミル、竪型ローラーミルなどの粉砕機で粉砕して得ることができる。
上記高炉スラグの塩基度は、好ましくは1.6以上である。該値が1.6未満ではセメント組成物の強度発現性の向上効果が小さい。なお、高炉スラグの塩基度は、より好ましくは1.7以上、さらに好ましくは1.8以上である。ちなみに、塩基度は下記(1)式を用いて算出する。
塩基度=〔(CaO+MgO+Al)/SiO〕 ・・・(1)
ただし、式中の化学式は、高炉スラグ中の、該化学式が表す化合物の含有率(質量%)を表す。
【0025】
また、上記高炉スラグのガラス化率は、好ましくは90%以上である。該値が90%未満では、セメント組成物の強度発現性の向上効果は小さい。該値は、より好ましくは95%以上である。ここで、上記ガラス化率は、例えば、以下の(i)と(ii)により求めることができる。
(i)62~105μmの高炉スラグを篩分けして得た後、ここから400~500個の粒子を無作為に抽出する。
(ii)次に、抽出した粒子をブロムナフタレン溶液に浸し、偏光顕微鏡を通してガラス粒子数を数え、全粒子数に対するガラス粒子数の比として、ガラス化率を求める。
【0026】
(5)トリイソプロパノールアミン単独およびトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物
上記トリイソプロパノールアミンは、セメント組成物の粉砕助剤としての効果および強度発現性の向上効果を有し、また、上記ジエチレングリコールは主に粉砕助剤としての効果を有する。したがって、トリイソプロパノールアミン単独およびトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を、「粉砕助剤」と云うことがある(後掲の表4)。
【0027】
トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物の含有割合は、粉砕効率を上げるため、セメントクリンカに対し、好ましくは50~1000ppmである。該含有割合が50ppm未満では、強度発現性の向上効果および粉砕効果が低く、1000ppmを超えると連行空気量が過大になる傾向がある。なお、該含有割合は、より好ましくは100~800ppm、さらに好ましくは200~600ppmである。
【0028】
また、上記トリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物中のトリイソプロパノールアミンの含有率は、好ましくは25質量%以上である。トリイソプロパノールアミンの含有率が25質量%以上であれば、セメント組成物の強度発現性が高い。なお、トリイソプロパノールアミンの含有量は、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
【0029】
本発明のセメント組成物のブレーン比表面積は、強度発現性、作業性、およびコスト等の観点から、好ましくは2000~6000cm/g、より好ましくは3000~5000cm/g、さらに好ましくは3000~4000cm/gである。
【0030】
本発明のセメント組成物は、上記の必須成分のほかに、セメント組成物の用途や、耐久性、および作業性等の要求特性に応じて、フライアッシュ、石灰石粉末、石炭灰、シリカ粉末、およびシリカフューム等から選ばれる1種以上を、任意成分として含んでもよい。
【0031】
2.セメント組成物の製造方法
(1)混合粉砕による製造方法
該方法は、炭酸化カルシウム含有物、セメントクリンカ、石膏、および、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を混合して粉砕した後、高炉スラグを混合して、セメント組成物を製造する方法である。上記製造方法は、セメント組成物の上記各成分を混合して一度に粉砕するため製造効率が高い。
上記成分の内、炭酸化カルシウム含有物は、二酸化炭素含有ガスをカルシウム含有物に接触させて炭酸化して作製する。上記二酸化炭素含有ガスは、特に制限されず、例えば、セメント製造工場、石炭火力発電所、ガス火力発電所、石油火力発電所、製鉄所、石油化学コンビナート、製油工場、製紙工場、または焼却場から排出される排ガスであり、炭酸化の効率が向上するため、好ましくは、二酸化炭素の濃度が5体積%以上の排ガスである。
ちなみに、下記文献Aによれば、大気中に排出される二酸化炭素の濃度は、セメント製造工場で15~30体積%、石炭火力発電所で10~15体積%、製鉄所で20~30体積%、および石油化学コンビナートで5~20体積%等である。
文献A:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 環境部次世代火力・CCUグループ 谷村 寧昭、“CO分離・回収技術の概要”、2020年度成果報告会
【0032】
また、上記二酸化炭素含有ガスは、炭酸化の効率のさらなる向上のため、より好ましくは、上記排ガスから、二酸化炭素を分離し回収して得られる、二酸化炭素の濃度が80体積%以上のガスである。そして、上記二酸化炭素の分離・回収方法は、物理吸収法、化学吸収法、固体吸収法、および膜分離法等が挙げられる。
【0033】
また、炭酸化に用いるカルシウム含有物は、生コンクリートスラッジ粉末、廃コンクリート粉末、および生コンクリートスラッジ水から選ばれる1種以上が好ましい。また、上記カルシウム含有物は、炭酸化の効率を上げるために、炭酸化の前に、カルシウムを多く含む部分の分離、調湿、および微粉化するために粉砕等を行うとよい。
【0034】
上記二酸化炭素含有ガスを上記カルシウム含有物に接触させて炭酸化する方法は、炭酸化が達成できれば特に制限されず、例えば、カルシウム含有物の粉末に二酸化炭素含有ガスを直接吹き込む乾式方法、該粉末を流動および/または転動させた状態で二酸化炭素含有ガスを吹き込む乾式方法、該粉末を加湿して二酸化炭素含有ガスを吹き込む湿式方法、該粉末に水を加えてスラリーにして二酸化炭素含有ガスを吹き込む湿式方法、および生コンクリートスラッジ水に二酸化炭素含有ガスを吹き込む湿式方法等が挙げられる。
【0035】
また、上記炭酸化の温度は、好ましくは5~100℃である。該温度が5℃以上であれば、炭酸化が速く進行するため、炭酸化の効率が向上し、100℃を超えるとエネルギーコストが過大になる。なお、上記炭酸化の温度は、より好ましくは10~70℃、さらに好ましくは15~50℃、特に好ましく20~35℃である。
【0036】
また、上記炭酸化を乾式方法で行う場合、炭酸化における相対湿度は、好ましくは20~90%である。相対湿度が20%以上で、炭酸化の進行が速く生産効率が向上する。一方、相対湿度が90%を超えるのは困難であり、設備等にかかるコストが過大になる。なお、上記相対湿度は、より好ましくは30~80%、さらに好ましくは40~70%である。
【0037】
(2)一部混合粉砕・一部個別粉砕による製造方法
該方法は、下記(A)および(B)の製造工程を少なくとも含む製造方法である。
(A)セメントクリンカ、石膏、炭酸化カルシウム含有物、および、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を混合して粉砕するか、または、
セメントクリンカ、炭酸化カルシウム含有物、および石膏から選ばれる1種以上に、トリイソプロパノールアミン単独、若しくはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を添加して、別々に粉砕して得られた各粉砕物を混合してセメントを製造する、セメントの製造工程
(B)上記セメントと、高炉スラグを混合してセメント組成物を製造する、セメント組成物の製造工程
【0038】
該方法は、セメントを貯蔵するサイロの数が限られる場合、優先的に、トリイソプロパノールアミン等を用いたセメントをサイロに貯蔵して、普通セメント等として出荷するほか、高炉セメントの注文があれば、該セメントに、高炉スラグを混合して高炉セメントとして、迅速に出荷できるという利点がある。
なお、上記炭酸化カルシウム含有物の製造方法は、上記混合粉砕による製造方法において述べた方法と同じである。
【0039】
(3)個別粉砕による製造方法
該方法は、下記(C)および(D)の製造工程を少なくとも含む製造方法である。
(C)セメントクリンカ、石膏、および、トリイソプロパノールアミン単独またはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を混合して粉砕するか、または、石膏、およびセメントクリンカから選ばれる1種以上に、トリイソプロパノールアミン単独、若しくはトリイソプロパノールアミンとジエチレングリコールの混合物を添加して、別々に粉砕して得られた各粉砕物を混合してセメントを製造する、セメントの製造工程
(D)上記セメントと、炭酸化カルシウム含有物、および高炉スラグを混合してセメントを製造する、セメント組成物の製造工程
該方法は、セメントを貯蔵するサイロの数が限られる場合、優先的に、トリイソプロパノールアミン等を用いたセメントをサイロに貯蔵して、普通セメント等として出荷するほか、高炉セメントの注文があれば、炭酸化カルシウム含有物、および高炉スラグの混合量を、それぞれ個別に調整して該セメントに混合するから、高炉セメントの要求特性に応じてきめ細かく対応できるという利点がある。
なお、上記炭酸化カルシウム含有物の製造方法は、上記混合粉砕による製造方法において述べた方法と同じである。
【実施例0040】
以下、本発明の実施例を、炭酸化カルシウム含有物の作製、セメント組成物の製造、セメント組成物の強度発現性の順に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0041】
1.炭酸化カルシウム含有物の作製
表1に示す強熱減量および化学組成を有する石灰石粉末、生コンクリートのスラッジ粉末、生コンクリートのスラッジ水のうち、石灰石粉末を除く、上記スラッジ粉末のスラリーおよびスラッジ水を、下記の方法で炭酸化して、炭酸化スラッジ粉末、および炭酸化スラッジ水沈殿物粉末(炭酸化カルシウム含有物)を作製した。
【0042】
【表1】
【0043】
(i)炭酸化スラッジスラリーおよび炭酸化スラッジ粉末の作製
生コンクリートスラッジを乾燥した後、メジアン径(D50)が10μm以下になるまで粉砕して、スラッジ粉末を作製した。次に、該粉末200gと水800gを混合したスラリーに、20℃で、100体積%の二酸化炭素ガスを80リットル/時間で1時間吹き込んで、該粉末が炭酸化したスラリーを作製した。さらに、該スラリーを乾燥した後に粉砕して、炭酸化スラッジ粉末を作製した。
【0044】
(ii)炭酸化スラッジ水沈殿物粉末の作製
pH11.8のスラッジ水5リットルに、20℃で、5体積%の二酸化炭素ガスを50リットル/時間で1時間吹き込んだ後、生成した沈殿物を遠心分離により回収して乾燥し、炭酸化スラッジ水沈殿物粉末を作製した。
【0045】
上記の各種炭酸化カルシウム含有物の強熱減量、炭酸カルシウムの含有率、BET比表面積、および粒度分布を表2に示す。
なお、二酸化炭素の含有率は、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA、雰囲気ガスは窒素ガスを用いた。)を用いて、炭酸化カルシウム含有粉末を20℃/分で1000℃まで加熱して減量曲線求めた。次に、この減量曲線における600~700℃付近のピークの減量値を、上記炭酸化による二酸化炭素の固定量と見做して、炭酸カルシウムの含有率を算出した。
また、炭酸化カルシウム含有物の比表面積は窒素吸着法(BET)により測定した。
また、上記粒度分布は、粒度分布測定装置(製品名: マイクロトラックMT3300EX-II、マイクロトラック・ベル社製)を用いて、レーザー回折・散乱法により測定した。この測定は、分散媒であるエタノール200cmに対し、炭酸化カルシウム含有物0.06gを添加して、内蔵の超音波プローブにより超音波分散して行った。
【0046】
【表2】
【0047】
2.セメント組成物の製造
表3に示す化学組成を有する普通ポルトランドセメントクリンカ、排煙脱硫石膏(二水石膏)、並びに、ジエチレングリコール(DEG)および/またはトリイソプロパノールアミン(TIPA)を、表4に示す混合割合(単位は、クリンカ等は質量部、DEG等はクリンカに対するppm)で混合した後、該混合物をバッチ式テストミルで粉砕して、ブレーン比表面積が3300cm/gの粉砕物を製造した。
次に、上記粉砕物、表3に示す高炉スラグ粉末、および上記炭酸化カルシウム含有物を表4に示す混合割合で混合して、セメント組成物(高炉セメントB種に相当する。)を製造した。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
3.セメント組成物の強度発現性
上記セメント組成物を用いて、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠しモルタルを作製し、該モルタル(実施例1~6、比較例、基準例、および参考例1~5)の圧縮強さを測定した。該モルタルの圧縮強さ、および、基準例に対する実施例、比較例、および参考例の圧縮強さの比を表5に示す。
なお、比較例は炭酸化していないスラッジ粉末を含むセメント組成物であり、基準例は炭酸化カルシウム含有物を含まず、TIPAを用いたセメント組成物であり、参考例1は上記基準例のTIPAに代えてDEPを用いたセメント組成物である。
また、参考例2~5は、石灰石粉末を含むセメント組成物であり、上述したように、現在のポルトランドセメントは、JIS R 5210により石灰石の混合量が5質量%まで認められている。
【0051】
【表5】
【0052】
表5に示すように、実施例1~6の圧縮強さの比は、すべての材齢において、1.1~1.5と高く、すべての実施例が基準例を超えているのに対し、炭酸化していないスラッジ粉末を含む比較例では材齢7日および28日において、0.9と基準例を下回っている。また、実施例1~6の圧縮強さの比は、高炉セメントとして流通しているDEGを含む参考例1~2と同等である。
したがって、本願発明のセメント組成物は、炭酸化カルシウム含有物を添加するという簡単な操作だけで、強度発現性が向上する。