(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128524
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】発生ガスの捕集方法及び捕集装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
H01M10/48 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037523
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】杉山 彩代
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【テーマコード(参考)】
5H030
【Fターム(参考)】
5H030AA06
5H030AA10
5H030AS20
5H030FF31
(57)【要約】
【課題】簡易な手法により、蓄電デバイスで発生したガスの発生量及び成分を正確に把握することができる。
【解決手段】希釈ガスの供給環境130において、捕集容器110の内部を希釈ガスの減圧状態とし、捕集針120の第1の穿刺部位をリチウムイオン二次電池モジュール内に穿刺し、捕集針120の第2の穿刺部位を捕集容器110内に穿刺して、リチウムイオン二次電池モジュール内に滞留した発生ガスを抜き取って捕集容器110内に捕集し、供給環境130において、発生ガスが封入された捕集容器110内に希釈ガスを供給して、捕集容器110内を大気圧に調節する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスから発生するガスの捕集方法であって、
内容量が既知とされた捕集容器の内部を希釈ガスの減圧状態とする第1工程と、
一端に第1の穿刺部位を、他端に第2の穿刺部位をそれぞれ有する中空の捕集針を用いて、前記第1の穿刺部位を前記蓄電デバイス内に穿刺し、前記第2の穿刺部位を前記捕集容器内に穿刺して、前記蓄電デバイスの内部に滞留した発生ガスを抜き取って前記捕集容器の内部に捕集する第2工程と、
前記発生ガスが封入された前記捕集容器の内部に前記希釈ガスを供給して、前記捕集容器の内部を所定圧に調節する第3工程と、
を有する、
発生ガスの捕集方法。
【請求項2】
前記第1の穿刺部位の前記蓄電デバイス内への挿入部分の手前箇所にグリースを塗布しておき、前記第2工程において前記第1の穿刺部位の前記挿入部分を蓄電デバイス内に刺し入れる、
請求項1に記載の発生ガスの捕集方法。
【請求項3】
前記第1工程では、前記希釈ガスの環境下において前記捕集容器を密閉する、
請求項1又は2に記載の発生ガスの捕集方法。
【請求項4】
前記第1工程では、前記捕集容器を密閉した後に、捕集容器の内部を更に減圧して所定の減圧状態とする、
請求項3に記載の発生ガスの捕集方法。
【請求項5】
前記第3工程では、前記希釈ガスの前記所定圧の環境下において前記捕集容器の内部を捕集された前記発生ガス及び前記希釈ガスの前記所定圧に調節する、
請求項1又は2に記載の発生ガスの捕集方法。
【請求項6】
前記希釈ガスの前記所定圧の環境下において、中空針を前記捕集容器の栓を刺し貫いて前記捕集容器内に挿通し、前記中空針を通じて前記捕集容器内に前記希釈ガスを取り込む、
請求項5に記載の発生ガスの捕集方法。
【請求項7】
前記蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池モジュールである、
請求項1又は2に記載の発生ガスの捕集方法。
【請求項8】
蓄電デバイスから発生するガスの捕集装置であって、
内容量が既知とされた捕集容器と、
一端に第1の穿刺部位を、他端に第2の穿刺部位をそれぞれ有する中空の捕集針と、
希釈ガスの供給環境と、
を有し、
前記供給環境において、前記捕集容器の内部を希釈ガスの減圧状態とし、
前記第1の穿刺部位を前記蓄電デバイス内に穿刺し、前記第2の穿刺部位を前記捕集容器内に穿刺して、前記蓄電デバイスの内部に滞留した発生ガスを抜き取って前記捕集容器の内部に捕集し、
前記供給環境において、前記発生ガスが封入された前記捕集容器の内部に前記希釈ガスを供給して、前記捕集容器の内部を所定圧に調節する、
発生ガスの捕集装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発生ガスの捕集方法及び捕集装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時では、蓄電デバイスとしてリチウムイオン二次電池等が注目されている。リチウムイオン二次電池は、他の二次電池に比べて高いエネルギー密度を有し、高出力が得られる小型軽量な電池として、研究開発が進められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池では、内部短絡が生じると、電池内部の電解液が分解・蒸発してガスが発生する場合がある。そのため、電池の安全性を確保すべく、このような発生ガスを分析する安全性評価試験が行われている。リチウムイオン二次電池の安全性評価試験を行うには、例えば特許文献1で示されているような発生ガスの捕集装置が用いられている。この捕集装置は、試験対象であるリチウムイオン二次電池が所定の希釈ガス雰囲気下で収容される密封耐圧ブース、リチウムイオン二次電池に釘を突き刺してガスを密封耐圧ブース内に拡散させる動作を行う機構、及び、密封耐圧ブース内に拡散したガスを配管で連通するバッファタンクを介して捕集するガスバッグ等を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン二次電池を対象とした従来の安全性評価試験を行うには、上記のような大規模構成のガス捕集装置を用いることを要するところ、より簡易な手法により安全性評価試験を行うことが望まれている。また、安全性評価試験時において、リチウムイオン電池から発生するガス量は、上記のようなガス捕集装置においてリチウムイオン二次電池が収容される密封耐圧ブースの内容積に比べて極少量である。リチウムイオン二次電池に釘を突き刺すことで極少量のガスが放出され、比較的大きな容積の密封耐圧ブース内に拡散するため、希釈ガスによる発生ガスの希釈倍率が高く、ガス捕集装置に厳しい検知感度が要求される。そのため、ガスの発生量及び成分を正確に把握できない懸念がある。
【0006】
本発明は、簡易な構成及び手法により、蓄電デバイスで発生したガスの発生量及び成分を正確に把握することができる、発生ガスの捕集方法及び捕集装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記のような知見に基づいて鋭意検討を重ねた結果、以下に示す発明の態様に想到した。
【0008】
蓄電デバイスから発生するガスの捕集方法であって、
内容量が既知とされた捕集容器の内部を希釈ガスの減圧状態とする第1工程と、
一端に第1の穿刺部位を、他端に第2の穿刺部位をそれぞれ有する中空の捕集針を用いて、前記第1の穿刺部位を前記蓄電デバイス内に穿刺し、前記第2の穿刺部位を前記捕集容器内に穿刺して、前記蓄電デバイスの内部に滞留した発生ガスを抜き取って前記捕集容器の内部に捕集する第2工程と、
前記発生ガスが封入された前記捕集容器の内部に前記希釈ガスを供給して、前記捕集容器の内部を所定圧に調節する第3工程と、
を有する、
発生ガスの捕集方法。
【0009】
蓄電デバイスから発生するガスの捕集装置であって、
内容量が既知とされた捕集容器と、
一端に第1の穿刺部位を、他端に第2の穿刺部位をそれぞれ有する中空の捕集針と、
希釈ガスの供給環境と、
を有し、
前記供給環境において、前記捕集容器の内部を希釈ガスの減圧状態とし、
前記第1の穿刺部位を前記蓄電デバイス内に穿刺し、前記第2の穿刺部位を前記捕集容器内に穿刺して、前記蓄電デバイスの内部に滞留した前記発生ガスを抜き取って前記捕集容器の内部に捕集し、
前記供給環境において、前記発生ガスが封入された前記捕集容器の内部に前記希釈ガスを供給して、前記捕集容器の内部を所定圧に調節する、
発生ガスの捕集装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る発生ガスの捕集方法及び捕集装置によれば、簡易な構成及び手法により、蓄電デバイスで発生したガスの発生量及び成分を正確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態による発生ガスの捕集装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】捕集容器として用いられるヘッドスペースバイアルを示す概略断面図である。
【
図3】捕集針として用いられる採血用針を示す概略側面図である。
【
図4】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池モジュールを示す概略断面図である。
【
図5】本実施形態における発生ガスの捕集・分析方法を示すフロー図である。
【
図6】リチウムイオン二次電池モジュール内の発生ガスにより外装フィルムが膨張した様子を示す概略断面図である。
【
図7】捕集針を試験対象サンプルの外装フィルムに穿刺した様子を示す概略断面図である。
【
図8】試験対象サンプルの内部に滞留した発生ガスを抜き取って捕集容器内に封入する様子を示す概略断面図である。
【
図9】本実施形態を適用した実施例におけるGC-MSの分析結果を示す特性図である。
【
図10】本実施形態を適用した実施例におけるGCの分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明による発生ガスの捕集方法及び捕集装置をリチウムイオン二次電池の安全性評価試験に適用した実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
(発生ガスの捕集装置の構成)
本実施形態において、蓄電デバイスの安全性評価試験に用いられる発生ガスの捕集装置の構成について説明する。
図1は、本実施形態による発生ガスの捕集装置の概略構成を示す模式図である。
捕集装置100は、捕集容器110、捕集針120、及び希釈ガスの供給環境130を備えている。
【0014】
捕集容器110は、内容量が既知とされた例えば捕集ビンであり、いわゆるヘッドスペースバイアルが好適に用いられる。捕集容器110として用いられるヘッドスペースバイアルは、
図2に示すように、発生ガスの容器であるバイアルビン111と、発生ガスをバイアルビン111内に封止するためのバイアルビン111のキャップ部分112とを有している。キャップ部分112は、金属キャップ112aと、金属キャップ112aで固定されたブチルゴム等のゴム栓112bとを備えている。
【0015】
捕集針120は、一端に第1の穿刺部位を、他端に第2の穿刺部位をそれぞれ有する中空の細針構造であり、例えば採血用針が好適に用いられる。捕集針120として用いられる採血用針は、
図3に示すように、エアベントフィルター121と、第1の穿刺部位である針管122と、第2の穿刺部位であり、未使用の状態ではゴムスリーブ123で覆われて密閉されている針124とを有している。捕集針120の使用時には、エアベントフィルター121は所定の硬化剤により硬化されて閉塞される。針管122は、試験対象となる蓄電デバイスにおける発生ガスの滞留部位(例えば、蓄電セルを覆う外装フィルムの発生ガスによる膨張部分)に穿刺して、発生ガスを抜き取るものである。針124は、使用時にはゴムスリーブ123を刺し貫いて捕集容器110のキャップ部分112のゴム栓112bを穿刺し、希釈ガスの減圧状態とされたバイアルビン111内に抜き取った発生ガスを捕集するものである。
【0016】
希釈ガスの供給環境130は、希釈ガス(例えばHeガス)による所期の減圧状態に調節自在とされており、捕集容器110及び捕集針120等が配されて試験対象である蓄電デバイスにおける発生ガスの捕集作業が行われる環境である。この供給環境130を用いることにより、大気環境下でのサンプリングでも、大気混入を最低限に抑えることができる。なお、当該供給環境130は密閉環境としても良い。希釈ガスの供給環境130としては、例えば外気と遮断された不活性ガス環境下で作業が可能となるように、内部に作業者の手のみが入れられるように設計された密閉容器であるグローブボックスが好適に用いられる。
【0017】
本実施形態による発生ガスの捕集装置100は、従来のような大規模な装置構成を有することなく、発生ガスの捕集容器110、捕集針120、及び希釈ガスの供給環境130を基本構成とする簡素な構成とされており、捕集装置の大幅な簡略化及びコンパクト化が実現する。しかも本実施形態の装置構成では、従来の大規模な装置構成で課題となる発生ガスの希釈化によるガス分析精度の低下や装置構成の密閉性の欠如の問題を解決し、簡易な装置構成によりガスの発生量及び成分を正確に把握することができる。
【0018】
本実施形態では、試験対象物である蓄電デバイスとして、リチウムイオン二次電池を例示する。
図4は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池モジュールを示す概略断面図である。
【0019】
(リチウムイオン二次電池モジュールの構成)
リチウムイオン二次電池モジュール1は、リチウムイオン二次電池1Aを備えている。リチウムイオン二次電池1Aは、負極集電体11及び負極活物質層12からなる負電極2と、正極活物質層14及び正極集電体15からなる正電極3とが、セパレータ13を介して積層させた平板上の積層電池(単電池)からなる電池セル20として構成される。即ち、リチウムイオン二次電池1Aを構成する電池セル20は、負極集電体11、負極活物質層12、セパレータ13、正極活物質層14、正極集電体15が上方向に向けて積層され、全体として略矩形平板状に形成されている。
【0020】
リチウムイオン二次電池1Aは、更に電池セル20の周縁に配設される環状の枠部材9を備えている。枠部材9は、セパレータ13の端部が埋め込まれてなることで当該セパレータ13を支持すると共に、枠部材9は、その上面及び下面に正極集電体15及び負極集電体11を面接触させた上でそれぞれ固定している。負極集電体11、正極集電体15及びセパレータ13の周縁部がこの枠部材9を介して固定されることにより、負極活物質層12及び正極活物質層14を外部に漏洩させることなく強固に封止することが可能となる。また、枠部材9は、負極集電体11、セパレータ13、正極集電体15のそれぞれの位置関係を定めることができる。負極集電体11とセパレータ13との間隔、セパレータ13と正極集電体15との間隔は、電池の容量に応じて予め調整されるが、枠部材9を通じてこの調整された間隔を保持できるように負極集電体11、セパレータ13、正極集電体15を固定することができる。
【0021】
負極集電体11の下側には、導電体層としての負極側電流供給層10が平面状に積層され、正極集電体15の上側には、同じく導電体層としての正極側電流取出層16が平面状に積層されている。負極側電流供給層10及び正極側電流取出層16には、それぞれ電流が供給される箇所となる導電部7,8が形成されている。
【0022】
リチウムイオン二次電池モジュール1は、リチウムイオン二次電池1Aを覆う外装フィルム101が設けている。外装フィルム101としては、例えば絶縁材料からなり、電池に用いられている公知の材質のものを用いることが可能であり、好ましくはラミネートフィルムである。ラミネートフィルムとしては、外側にナイロンフィルム、中心にアルミニウム箔、内側に変性ポリプロピレン等の接着層を有した3層ラミネートフィルムを好ましく用いることができる。
【0023】
なお、リチウムイオン二次電池1Aは、リチウムイオン二次電池の電池セル20を単電池で構成される場合に限定されるものではない。例えば、電池セル20を複数に亘り積層させて接続した組電池を形成するものであってもよい。
【0024】
以下、電池セル20を構成する各構成材料の好ましい態様について説明する。
【0025】
正極活物質層には、電極組成物として正極活物質が含まれる。
正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属元素が1種である複合酸化物(LiCoO2、LiNiO2、LiAlMnO4、LiMnO2及びLiMn2O4等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO4、LiNi1-xCoxO2、LiMn1-yCoyO2、LiNi1/3Co1/3Al1/3O2及びLiNi0.8Co0.15Al0.05O2)及び遷移金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMaM'bM”cO2(M、M'及びM”はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO4、LiCoPO4、LiMnPO4及びLiNiPO4)、遷移金属酸化物(例えばMnO2及びV2O5)、遷移金属硫化物(例えばMoS2 及びTiS2)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用しても良い。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであっても良い。
【0026】
本実施形態では、正極活物質は、導電助剤及び被覆樹脂で被覆された被覆正極活物質である。
正極活物質の周囲が被覆樹脂で被覆されていると、電極の体積変化が緩和され、電極の膨張を抑制することができる。
【0027】
導電助剤としては、金属系導電助剤[アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅及びチタン等]、炭素系導電助剤[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びサーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられる。
これらの導電助剤は1種単独で用いられても良いし、2種以上併用しても良い。また、これらの合金又は金属酸化物として用いられても良い。
【0028】
なかでも、電気的安定性の観点から、より好ましくはアルミニウム、ステンレス、銀、金、銅、チタン、炭素系導電助剤及びこれらの混合物であり、更に好ましくは銀、金、アルミニウム、ステンレス及び炭素系導電助剤であり、特に好ましくは炭素系導電助剤である。
また、これらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料[好ましくは、上記した導電助剤のうち金属のもの]をめっき等でコーティングしたものでも良い。
【0029】
導電助剤の形状(形態) は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であっても良く、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電助剤として実用化されている形態であっても良い。
【0030】
被覆樹脂と導電助剤の比率は特に限定されるものではないが、電池の内部抵抗等の観点から、重量比率で被覆樹脂(樹脂固形分重量):導電助剤が1:0.01~1:50であることが好ましく、1:0.2~1:3.0であることがより好ましい。
【0031】
被覆樹脂としては、例えば、炭素数4~12の1価の脂肪族アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物(a11)、(メタ)アクリル酸(a12)並びに(メタ)アクリル酸(a12)のカルボキシル基と反応しうる基を2つ以上有する化合物(b1)、ラジカル重合性を有する基を2つ以上有する化合物(b2)及び(メタ)アクリル酸(a12)のカルボキシル基と反応しうる基とラジカル重合性を有する基をそれぞれ1つ以上有する化合物(b3)からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる架橋剤(b)を含んでなる単量体組成物を重合してなる非水系二次電池活物質被覆樹脂を好適に用いることができる。この非水系二次電池活物質被覆樹脂では、エステル化合物(a11)と(メタ)アクリル酸(a12)の重量比[エステル化合物(a11)/(メタ)アクリル酸(a12)]が10/90~90/10であることが好ましい。
【0032】
また、正極活物質層は、被覆正極活物質に含まれる導電助剤以外にも導電助剤を含んでも良い。
導電助剤としては、上述した被覆正極活物質に含まれる導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
【0033】
正極活物質層は、正極活物質を含み、正極活物質同士を結着する結着材を含まない非結着体であることが好ましい。
ここで、非結着体とは、正極活物質が結着材(バインダともいう)により位置を固定されておらず、正極活物質同士及び正極活物質と集電体が不可逆的に固定されていないことを意味する。
【0034】
正極活物質層には、粘着性樹脂が含まれていても良い。
粘着性樹脂としては、例えば、特開2017-54703号公報に記載された非水系二次電池活物質被覆樹脂に少量の有機溶剤を混合してそのガラス転移温度を室温以下に調整したもの、及び、特開平10-255805号公報に粘着剤として記載されたもの等を好適に用いることができる。
【0035】
なお、粘着性樹脂は、溶媒成分を揮発させて乾燥させても固体化せずに粘着性(水、溶剤、熱などを使用せずに僅かな圧力を加えることで接着する性質)を有する樹脂を意味する。一方、結着材として用いられる溶液乾燥型の電極バインダは、溶媒成分を揮発させることで乾燥、固体化して活物質同士を強固に接着固定するものを意味する。
従って、溶液乾燥型の電極バインダ(結着材)と粘着性樹脂とは異なる材料である。
【0036】
正極活物質層の厚みは、特に限定されるものではないが、電池性能の観点から、150μm~600μmであることが好ましく、200μm~450μmであることがより好ましい。
【0037】
負極活物質層には、電極組成物として負極活物質が含まれる。
負極活物質としては、公知のリチウムイオン電池用負極活物質が使用でき、炭素系材料[黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)及び炭素繊維等]、珪素系材料[珪素、酸化珪素(SiOx)、珪素-炭素複合体(炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、珪素粒子又は酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの並びに炭化珪素等)及び珪素合金(珪素-アルミニウム合金、珪素-リチウム合金、珪素-ニッケル合金、珪素-鉄合金、珪素-チタン合金、珪素-マンガン合金、珪素-銅合金及び珪素-スズ合金等)等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物及びリチウム・チタン酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-アルミニウム合金及びリチウム-アルミニウム-マンガン合金等)等及びこれらと炭素系材料との混合物等が挙げられる。
【0038】
本実施形態では、負極活物質は、上述した被覆正極活物質と同様の導電助剤及び被覆樹脂で被覆された被覆負極活物質である。
導電助剤及び被覆樹脂としては、上述した被覆正極活物質と同様の導電助剤及び被覆樹脂を好適に用いることができる。
【0039】
また、負極活物質層は、被覆負極活物質に含まれる導電助剤以外にも導電助剤を含んでもよい。導電助剤としては、上述した被覆正極活物質に含まれる導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
【0040】
負極活物質層は、正極活物質層と同様に、負極活物質同士を結着する結着材を含まない非結着体であることが好ましい。また、正極活物質層と同様に、粘着性樹脂が含まれていても良い。
【0041】
負極活物質層の厚みは、特に限定されるものではないが、電池性能の観点から、150μm~600μmであることが好ましく、200μm~450μmであることがより好ましい。
【0042】
正極集電体及び負極集電体は、金属集電体でもよいが、例えば導電性高分子材料からなり、可撓性を有する樹脂集電体であることが好ましい。
樹脂集電体の形状は特に限定されず、導電性高分子材料からなるシート状の集電体、及び、導電性高分子材料で構成された微粒子からなる堆積層であっても良い。
樹脂集電体の厚さは、特に限定されないが、50μm~500μmであることが好ましい。
【0043】
樹脂集電体を構成する導電性高分子材料としては例えば、導電性高分子や、樹脂に必要に応じて導電剤を添加したものを用いることができる。
導電性高分子材料を構成する導電剤としては、上述した被覆正極活物質に含まれる導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
【0044】
導電性高分子材料を構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、更に好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
【0045】
セパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン製の多孔性フィルム、多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンとの積層フィルム、合成繊維(ポリエステル繊維及びアラミド繊維等)又はガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用のセパレータが挙げられる。
【0046】
正極活物質層及び負極活物質層には電解液が含まれる。
電解液としては、公知のリチウムイオン電池の製造に用いられる、電解質及び非水溶媒を含有する公知の電解液を使用することができる。
【0047】
電解質としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、LiN(FSO2)2、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6及びLiClO4等の無機酸のリチウム塩、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2 及びLiC(CF3SO2)3等の有機酸のリチウム塩等が挙げられる。これらのうち、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはイミド系電解質[LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2 及びLiN(C2F5SO2)2等]及びLiPF6である。
【0048】
非水溶媒としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン等及びこれらの混合物を用いることができる。
【0049】
電解液の電解質濃度は、15mol/L~5mol/Lであることが好ましく、1.5mol/L~4mol/Lであることがより好ましく、2mol/L~3mol/Lであることが更に好ましい。
電解液の電解質濃度が1mol/L未満であると、電池の充分な入出力特性が得られないことがあり、5mol/Lを超えると、電解質が析出してしまうことがある。
なお、電解液の電解質濃度は、リチウムイオン電池用電極又はリチウムイオン電池を構成する電解液を、溶媒等を用いずに抽出して、その濃度を測定することで確認することができる。
【0050】
(発生ガスの捕集・分析方法)
以下、本実施形態において、蓄電デバイスの安全性評価試験で行われる発生ガスの捕集・分析方法について説明する。
図5は、本実施形態における発生ガスの捕集・分析方法を示すフロー図である。
図5において、ステップS1~S6が発生ガスの捕集工程を、ステップS7が発生ガスの分析工程をそれぞれ示す。
【0051】
本実施形態では、上述した構成の発生ガスの捕集装置を用いて捕集工程を行う。また蓄電デバイスとして、上述した構成のリチウムイオン二次電池モジュールを試験対象サンプルとする場合を例示する。
【0052】
図6に示すように、リチウムイオン二次電池モジュール1では、例えば短絡試験においてリチウムイオン二次電池1Aに穴をあけて内部短絡を生じさせると、リチウムイオン二次電池1Aから発生したガスが外装フィルム101内に放出されて滞留する。このとき、外装フィルム101において例えば部分的に膨張した外観となる。
図6等において、この膨張部分を102として示す。
【0053】
本実施形態における発生ガスの捕集方法では、先ず、希釈ガスの供給環境内に必要な各種部材を用意する(ステップS1)。
希釈ガスの供給環境としては、密閉容器である例えばグローブボックスを用いる。このグローブボックスは、希釈ガス(例えばHeガス)の供給機構を備えている。捕集容器としては、内容量が既知とされた(例えば内容量20mL)例えばヘッドスペースバイアルを用いる。捕集針としては例えば、一方側に針管が、他方側にゴムスリーブで覆われた針が設けられた採血用針を用いる。捕集針は、使用に先立って、エアベントフィルターが硬化剤により硬化され閉塞されることが必要である。グローブボックス内に、試験対象サンプルであるリチウムイオン二次電池モジュール、捕集容器、及び捕集針と共に、通常の注射針を備えたシリンジ(注射器)、及び高真空用グリース等を用意する。ここで、試験対象サンプルについては、例えばグローブボックスの空きスペースが足りない場合には、グローブボックスと連通するように別途他の収容ボックス等を用意して収容するようにしてもよい。
【0054】
続いて、捕集容器の内部を所定の真空状態とする(ステップS2)。
グローブボックス内を希釈ガスの雰囲気で置換する。このグローブボックス内でバイアルビンにキャップ部分を取り付け、ヘッドスペースバイアルを密閉する。そして、注射器を用いてヘッドスペースバイアル内が所定の減圧状態であると見なせる程度まで十分な回数(例えば5回)、ヘッドスペースバイアル中の希釈ガスを抜き取る作業を繰り返し行う。
【0055】
続いて、捕集針の所定部位に高真空用グリースを塗布する(ステップS3)。
グローブボックス内において、捕集針の針管に対して、その試験対象サンプルの外装フィルムへの挿入部分の手前箇所(例えば、捕集針の先端から0.5cm~1.0cm程度離れた箇所)に高真空用グリースを塗布する。
【0056】
続いて、捕集針を試験対象サンプルの外装フィルムに穿刺する(ステップS4)。
ステップS4の一例を
図7に示す。
図7では、針管122を太く強調して示している。高真空用グリースが塗布された捕集針120の針管122(グリース塗布箇所を140で示す)を、グリース塗布箇所140が試験対象サンプルであるリチウムイオン二次電池モジュール1の外装フィルム101の表面に接触するまで、膨張部分102内に刺し入れる。このとき、外装フィルム101の穿孔と捕集針120の針管122との間に生じた極微細な空隙が塗布箇所140の高真空用グリースにより閉塞され、外装フィルム101内の密閉性が十分に確保される。ここで、針管122の外装フィルム101内への穿刺の際に、高真空用グリースが外装フィルム101内に入らないように、塗布箇所140が外装フィルム101の表面に留まるように穿刺する。これにより、捕集針120の穿刺時における外気の混入や発生ガスの漏洩が防止される。
【0057】
続いて、試験対象サンプルの内部に滞留した発生ガスを抜き取って捕集容器内に封入する(ステップS5)。
ステップS5の一例を
図8に示す。
図8では、針管122を太く強調して示している。グローブボックス外において、捕集針120のゴムスリーブ123で覆われた針124を、ゴムスリーブ123及び捕集容器110のキャップ部分112のゴム栓112bを刺し貫いてバイアルビン111内に挿通する。捕集容器110内の陰圧により、試験対象サンプルであるリチウムイオン二次電池モジュール1の外装フィルム101内に滞留した発生ガスが捕集針120を通じて抜き取られ、捕集容器110内に捕集される。1回のステップS5では試験対象サンプルの外装フィルム内の全ての発生ガスが回収されない場合(例えば、試験対象サンプルに別の膨張部分が残存している場合等)には、全ての発生ガスが回収されるまで繰り返しステップS5を実行する。試験対象サンプルの外装フィルム101内の発生ガスが全て抜き取られた後、捕集針120の針124を捕集容器110から引き抜く。
【0058】
続いて、発生ガスが封入された捕集容器内に希釈ガスを供給して、捕集容器の内部を所定圧、ここでは常圧(大気圧)に調節する(ステップS6)。
グローブボックス内を希釈ガスの雰囲気で常圧に調節する。グローブボックス内において、ステップS2で用いた注射器から注射針を外し、この注射針を捕集容器110のキャップ部分112のゴム栓112bを刺し貫いてバイアルビン111内に挿通する。捕集容器110内の陰圧により、捕集容器110内が常圧となるまで、グローブボックス内の希釈ガスが注射針を通じて捕集容器110内に供給される。
【0059】
捕集容器110から注射針を外し、捕集容器110をグローブボックスから搬出することにより、発生ガスの捕集工程が終了する。捕集容器110内では、捕集された発生ガスが希釈ガスで希釈され常圧とされて封入されている。
【0060】
本実施形態では、発生ガスの捕集に続いて、発生ガスの各成分及び各成分量を分析する(ステップS7)。
捕集容器に捕集された発生ガスについて、ガスクロマトグラフ(GC)、ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフ、イオンクロマトグラフ等のガス分析器を用いて、当該発生ガスの各成分及び各成分量を分析する。発生ガスの捕集に用いたシリンジとは別のシリンジを用いて、捕集容器内のガス(発生ガスと希釈ガスの混合ガス)を抜き取り、ガス分析器に所定量(例えば10μL)注入して分析する。
【0061】
ガス分析では、ガス成分ごとのガス成分濃度(例えば10μL中の絶対量)が算出される。従って、算出された各ガス成分濃度を捕集容器の既定内容量(例えば20mL)で割り戻す(例えば、算出された各ガス成分濃度に20/10×10-3=2000を乗ずる)ことにより、試験対象サンプルで発生した各ガス成分の絶対量を把握することができる。
【0062】
本実施形態による発生ガスの捕集方法では、従来のような大規模構成の捕集装置を用いることなく、発生ガスの捕集容器、捕集針、及び希釈ガスの供給環境を基本構成とする簡素な捕集装置を用いて、試験対象サンプルで発生したガスを捕集する。発生ガスを捕集するには、捕集針の一方側の針管を試験対象サンプルの外装フィルムに穿刺し、捕集針の他方側のゴムスリープで覆われた針を減圧された捕集容器のゴム栓に穿刺する。このとき、捕集容器内の陰圧により、試験対象サンプル内に滞留した発生ガスが捕集針のみを介して捕集容器内に捕集される。この捕集方法によれば、従来の捕集方法のように発生ガスを比較的大きな容積の試験容器内に拡散させることを要せず、捕集針のみを媒介として、ガス発生源である試験対象サンプル内から発生ガスを捕集針で直接的に抜き取ってそのまま捕集容器内に封入する。この手法によれば、捕集途中で発生ガスを拡散・希釈させることなく、発生ガスをそのまま捕集容器に封入することができる。これにより、発生ガスが極微量であっても、試験容器の既定内容量に見合った必要最小限の希釈倍率で発生ガスの正確な分析が可能となる。
【0063】
本実施形態では、発生ガスの捕集時における密閉性を確保すべく、捕集針と試験対象サンプルの外装フィルムとの接触箇所、及び捕集針と捕集容器との接触箇所に着目する。前者については、捕集針の外装フィルムとの接触箇所に高真空用グリースを塗布しておき、捕集針の針管を穿刺した際に外装フィルムの穿孔と針管との間に生じた極微細な空隙を高真空用グリースで閉塞する。これにより、外装フィルムと針管との間における密閉性が確実に保持される。後者については、捕集容器として例えばヘッドスペースバイアルを用い、そのゴム栓に針を穿刺することにより、針と捕集容器との間における密閉性が確実に保持される。また、捕集針として例えば採血用針を用いる場合には、使用に先立って捕集針のエアベントフィルターを硬化剤により硬化して閉塞させておくことにより、捕集針における密閉性が確実に保持される。以上のように本実施形態では、発生ガスの捕集時において、発生ガスの滞留箇所である外装フィルム内から捕集容器内までの全体の密閉性が可及的に保持され、発生ガスのコンタミネーションが防止されて発生ガスの正確な分析に寄与することになる。
【0064】
本実施形態による発生ガスの分析方法では、上記した捕集方法により捕集した発生ガスが封入された既定内容量の捕集容器を用いて分析を行う。発生ガスの捕集に用いたシリンジとは別のシリンジを用いて捕集容器からガスを採取して分析に供することにより、発生ガスのコンタミネーションを可及的に抑止することができ、発生ガスの各成分及び各成分量の正確な把握が可能となる。
【0065】
以上説明したように、本発明の一実施形態に係る発生ガスの捕集方法は、
蓄電デバイスから発生するガスの捕集方法であって、
内容量が既知とされた捕集容器の内部を希釈ガスの減圧状態とする第1工程と、
一端に第1の穿刺部位を、他端に第2の穿刺部位をそれぞれ有する中空の捕集針を用いて、前記第1の穿刺部位を前記蓄電デバイス内に穿刺し、前記第2の穿刺部位を前記捕集容器内に穿刺して、前記蓄電デバイスの内部に滞留した発生ガスを抜き取って前記捕集容器の内部に捕集する第2工程と、
前記発生ガスが封入された前記捕集容器の内部に前記希釈ガスを供給して、前記捕集容器の内部を所定圧に調節する第3工程と、
を有する。
【0066】
上記一実施形態では、前記第1の穿刺部位の前記蓄電デバイス内への挿入部分の手前箇所にグリースを塗布しておき、前記第2工程において前記第1の穿刺部位の前記挿入部分を蓄電デバイス内に刺し入れる。
【0067】
上記一実施形態では、前記希釈ガスの環境下において前記捕集容器を密閉する。
【0068】
上記一実施形態では、前記第1工程では、前記捕集容器を密閉した後に、捕集容器の内部を更に減圧して所定の減圧状態とする。
【0069】
上記一実施形態において、前記第3工程では、前記希釈ガスの前記所定圧の環境下において前記捕集容器の内部を捕集された前記発生ガス及び前記希釈ガスの前記所定圧に調節する。
【0070】
上記一実施形態では、前記希釈ガスの前記所定圧環境下において、中空針を前記捕集容器の栓を刺し貫いて前記捕集容器内に挿通し、前記中空針を通じて前記捕集容器内に前記希釈ガスを取り込む。
【0071】
上記一実施形態では、前記蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池モジュールである。
【0072】
本発明の一実施形態に係る発生ガスの捕集装置は、
蓄電デバイスから発生するガスの捕集装置であって、
内容量が既知とされた捕集容器と、
一端に第1の穿刺部位を、他端に第2の穿刺部位をそれぞれ有する中空の捕集針と、
希釈ガスの供給環境と、
を有し、
前記供給環境において、前記捕集容器の内部を希釈ガスの減圧状態とし、
前記第1の穿刺部位を前記蓄電デバイス内に穿刺し、前記第2の穿刺部位を前記捕集容器内に穿刺して、前記蓄電デバイスの内部に滞留した発生ガスを抜き取って前記捕集容器の内部に捕集し、
前記供給環境において、前記発生ガスが封入された前記捕集容器の内部に前記希釈ガスを供給して、前記捕集容器の内部を所定圧に調節する。
【実施例0073】
以下、本実施形態による発生ガスの捕集・分析方法を適用した具体的な実施例について説明する。
本実施例では、同一構成の2つの大面積のリチウムイオン二次電池モジュールを用意し、これらを被検査対象として、本実施形態で
図5を用いて説明したステップS1~S6の捕集工程を行って捕集したガスについて、ステップS7としてGC-MS分析及びGC分析を行った。上記の被検査対象を、電池モジュールA,Bとする。
【0074】
捕集工程では、ステップS4において、電池モジュールA,Bの各々について、電池表面の左寄りの部位及び右寄りの部位の2箇所で捕集針を外装フィルム内に刺し入れた。電池モジュールAの左寄りの所定部位を捕集位置A-左、電池モジュールAの右寄りの所定部位を捕集位置A-右、電池モジュールBの左寄りの所定部位を捕集位置B-左、電池モジュールBの右寄りの所定部位を捕集位置B-右とする。
【0075】
GC-MSの分析結果を
図9に示す。ここでは、A-左及びB-左を捕集位置として発生ガスを捕集した。捕集工程で捕集されたガスは、図示のように、主に、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2-ジエトキシエタン(エチレングリコールジエチルエーテル)について、既知のリチウムイオン二次電池の電解液と対応するそれぞれのピークが認められた。なお、被検査対象の電池モジュールA,Bでは、電池の作製から分析検査までに数日が経過したため、特に水素のような軽元素の成分は被検査対象から抜け出しており、GC-MSの分析でも水素の有意なピークは確認されなかった。
【0076】
GCの分析結果を
図10に示す。ここでは、A-左、A-右、B-左、及びB-右を捕集位置として発生ガスを捕集した。捕集工程で捕集されたガスは、図示のように、CO、CO
2、CH
4、C
2H
4、及びC
2H
6等について、既知のリチウムイオン二次電池の電解液に対応するそれぞれの所定量を含むことが認められた。なお、上記と同様に、GCの分析でも水素は殆ど検出されなかった。
【0077】
以上のように、GCの分析結果及びGC-MSの分析結果により、捕集工程で本実施形態の捕集装置を用いて捕集されたガスは、被検査対象であるリチウムイオン二次電池の電池モジュールA,Bの電解液由来のものであることが認められる。従って、本実施形態の捕集装置を用いることにより、被検査対象に溜まった発生ガスの発生量及び成分を正確に把握することができることが確認された。