(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128560
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】創傷治療装置
(51)【国際特許分類】
A61M 27/00 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
A61M27/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037584
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】貝沼 雅彦
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA03
4C267JJ08
4C267JJ12
4C267JJ20
(57)【要約】
【課題】患者の動きを制限しにくい創傷治療装置を提供する。
【解決手段】創傷治療装置1は、一端部2a1が患者の体内に挿入され、体内で生じた浸出液を体外へ移送する移送管2と、体外において移送管2の他端部2b2に接続され、浸出液を移送管2を通じて内部に吸引する手動式の吸引ポンプ3を備え、吸引ポンプは、外圧による変形後の弾性回復により内部空間を陰圧とし、体内の浸出液を移送管2を通じて内部空間へ吸引し収容する収容部3aと、開閉自在に設けられ、収容部3aの内部空間の流体を排出可能な排出部3bと、移送管2との接続箇所に設けられ、収容部3aの内部空間から移送管2への流体の逆流を防止する逆止弁3cとを備え、移送管2の内部には、浸出液の流路が形成されており、移送管2の一端部2a1および他端部2b2に各々形成された端部開口部の他に、流路にアクセス可能な第1開口部が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部が患者の体内に挿入され、前記体内で生じた浸出液を体外へ移送する移送管と、
前記体外において前記移送管の他端部に接続され、前記浸出液を前記移送管を通じて内部に吸引する手動式の吸引ポンプとを備え、
前記吸引ポンプは、
外圧による変形後の弾性回復により内部空間を陰圧とし、前記体内の前記浸出液を前記移送管を通じて前記内部空間へ吸引し収容する収容部と、
開閉自在に設けられ、前記収容部の前記内部空間の流体を排出可能な排出部と、
前記移送管との接続箇所に設けられ、前記収容部の前記内部空間から前記移送管への流体の逆流を防止する逆止弁とを備え、
前記移送管の内部には、前記一端部と前記他端部とを結ぶ浸出液の流路が形成されており、前記移送管には、前記一端部および前記他端部にそれぞれ形成された端部開口部の他に、前記流路にアクセス可能な第1開口部が形成されている、創傷治療装置。
【請求項2】
前記移送管は、一端部が患者の体内に挿入されるドレーンと、前記ドレーンと前記吸引ポンプとを接続する中継チューブと、を備え、
前記ドレーンは、前記中継チューブに接続された状態と、前記中継チューブとの接続が解除された状態との間で切り換え可能となっており、前記中継チューブに接続される前記ドレーンの他端部に、前記第1開口部が形成されている、請求項1に記載の創傷治療装置。
【請求項3】
前記移送管は、外側から前記ドレーンと前記中継チューブとを連結する連結具を備える、請求項2に記載の創傷治療装置。
【請求項4】
前記移送管は、伸長方向における中央部よりも他端部側の部分において2又に分岐した略Y字状の形状をなしており、
分岐した2つの端部のうちの一方の端部は前記吸引ポンプに接続されており、他方の端部には前記第1開口部が形成され、前記第1開口部を覆う蓋が前記他方の端部に取り外し可能に取り付けられている、請求項1に記載の創傷治療装置。
【請求項5】
前記移送管の伸長方向における一部分の外周面を覆うように、前記移送管の径方向外側に略筒状の被覆部材が設けられており、
前記第1開口部は、前記被覆部材により覆われた前記移送管の周方向における一部の前記外周面を、前記流路まで径方向に貫通する、請求項1に記載の創傷治療装置。
【請求項6】
前記被覆部材が、前記移送管の径方向外側に回転可能に設けられており、
前記被覆部材の周方向における一部に、前記被覆部材内部まで径方向に貫通する第2開口部が形成されている、請求項5に記載の創傷治療装置。
【請求項7】
前記被覆部材には、前記移送管の外周面から離れるように捲れる捲れ部分が形成されており、
前記第1開口部に対向する前記捲れ部分の内面に、前記第1開口部を塞ぐ塞ぎ片が設けられている、請求項5に記載の創傷治療装置。
【請求項8】
前記ドレーンの外周面に、前記流路まで径方向に貫通する第3開口部が形成されており、前記ドレーンの内周面が円形をなす、請求項3に記載の創傷治療装置。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載された創傷治療装置と、
前記移送管の前記流路を掃除する掃除具とを含む、創傷治療キット。
【請求項10】
前記掃除具が、棒状のブラシである、請求項9に記載の創傷治療キット。
【請求項11】
前記掃除具が、シリンジに接続された中空のチューブであり、
前記チューブの外径が前記移送管の内径よりも小さい、請求項9に記載の創傷治療キット。
【請求項12】
患者の皮膚に貼り付けられる貼付部と、
前記貼付部に取り付けられるとともに、前記移送管を着脱可能に固定する固定部とを備える移送管固定具を含む、請求項9に記載の創傷治療キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創傷治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、創傷の治療においては、一般に、創傷部を開放して洗浄し、さらに場合によっては壊死組織を除去するデブリードマン等の処置も含む、感染コントロールの工程がまず行われる。その後、開いた状態の創傷部から滲出する浸出液を吸引して排出し創傷部の治癒を促進する陰圧閉鎖療法によって肉芽を形成した後に、二次創傷治癒や植皮、又は筋皮弁等により上皮化される。
【0003】
陰圧閉鎖療法に用いる装置として、例えば、特許文献1には、真空ポンプから延びるホースの先端部をパッドに接続させ、創傷部を当該パッドで覆うことで、創傷部の浸出液を、ホースを通じて容器内に収集することができる創傷治療装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、創傷部から滲出する浸出液を、ホースを通じて排出しつつ、洗浄液を創傷部に供給することができる創傷治療装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003-521962号公報
【特許文献2】特開2012-105841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、陰圧閉鎖療法に用いる創傷治療装置では、強い吸引力を発揮できる真空ポンプ等を吸引手段として採用するため、電源が必要であるという問題と、装置全体の重量が非常に重く、サイズも嵩張ってしまい、患者の動きが制限されてしまうという問題があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、電源が不要で、かつ、患者の動きを制限しにくい創傷治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、以下の態様を包含する。
【0009】
[1]一端部が患者の体内に挿入され、前記体内で生じた浸出液を体外へ移送する移送管と、前記体外において前記移送管の他端部に接続され、前記浸出液を前記移送管を通じて内部に吸引する手動式の吸引ポンプとを備え、前記吸引ポンプは、外圧による変形後の弾性回復により内部空間を陰圧とし、前記体内の前記浸出液を前記移送管を通じて前記内部空間へ吸引し収容する収容部と、開閉自在に設けられ、前記収容部の前記内部空間の流体を排出可能な排出部と、前記移送管との接続箇所に設けられ、前記収容部の前記内部空間から前記移送管への流体の逆流を防止する逆止弁とを備え、前記移送管の内部には、前記一端部と前記他端部とを結ぶ浸出液の流路が形成されており、前記移送管には、前記一端部および前記他端部にそれぞれ形成された端部開口部の他に、前記流路にアクセス可能な第1開口部が形成されている、創傷治療装置。
【0010】
[2] 前記移送管は、一端部が患者の体内に挿入されるドレーンと、前記ドレーンと前記吸引ポンプとを接続する中継チューブと、を備え、前記ドレーンは、前記中継チューブに接続された状態と、前記中継チューブとの接続が解除された状態との間で切り換え可能となっており、前記中継チューブに接続される前記ドレーンの他端部に、前記第1開口部が形成されている、[1]に記載の創傷治癒装置。
【0011】
[3] 前記移送管は、外側から前記ドレーンと前記中継チューブとを連結する連結具を備える、[2]に記載の創傷治療装置。
【0012】
[4]前記移送管は、伸長方向における中央部よりも他端部側の部分において2又に分岐した略Y字状の形状をなしており、分岐した2つの端部のうちの一方の端部は前記吸引ポンプに接続されており、他方の端部には前記第1開口部が形成され、前記第1開口部を覆う蓋が前記他方の端部に取り外し可能に取り付けられている、[1]から[3]のいずれか1つに記載の創傷治療装置。
【0013】
[5] 前記移送管の伸長方向における一部分の外周面を覆うように、前記移送管の径方向外側に略筒状の被覆部材が設けられており、前記第1開口部は、前記被覆部材により覆われた前記移送管の周方向における一部の前記外周面を、前記流路まで径方向に貫通する、[1]から[3]のいずれか1つに記載の創傷治療装置。
【0014】
[6] 前記被覆部材が、前記移送管の径方向外側に回転可能に設けられており、
前記被覆部材の周方向における一部に、前記被覆部材内部まで径方向に貫通する第2開口部が形成されている、[5]に記載の創傷治療装置。
【0015】
[7] 前記被覆部材には、前記ドレーンの外周面から離れるように捲れる捲れ部分が形成されており、
前記第1開口部に対向する前記捲れ部分の内面に、前記第1開口部を塞ぐ塞ぎ片が設けられている、[5]に記載の創傷治療装置。
【0016】
[8] 前記ドレーンの外周面に、前記流路まで径方向に貫通する第3開口部が形成されており、前記ドレーンの内周面が略円形をなす、[3]に記載の創傷治療装置。
【0017】
[9] [1]から[8]のいずれか1つに記載された創傷治療装置と、
前記移送管の内部を掃除する掃除具とを含む、創傷治療キット。
【0018】
[10] 前記掃除具が、棒状のブラシである、[9]に記載の創傷治療キット。
【0019】
[11] 前記掃除具が、シリンジに接続された中空のチューブであり、前記チューブの外径が前記ドレーンの内径よりも小さい、[9]に記載の創傷治療キット。
【0020】
[12] 患者の皮膚に貼り付けられる貼付部と、前記貼付部に取り付けられるとともに、前記移送管を固定可能な固定部とを備える移送管固定具を含む、[9]から[11]のいずれか1つに記載の創傷治療キット。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、手動式のポンプを用いることで電源を不要としつつ、軽量かつコンパクトに製作できるため、患者の動きを制限しにくい創傷治療装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】好ましい実施形態にかかる創傷治療装置の全体図である。
【
図2】
図1に示されたドレーンの一端部の近傍を示す部分拡大図である。
【
図3】
図1に示された吸引ポンプの内部の状態を示す部分縦断面図である。
【
図4】
図4(a)は、ジョイントの全体斜視図であり、
図4(b)は、ドレーンからジョイントが引き抜かれて、ドレーンと中継チューブの接続が解除された状態を示す略斜視図である。
【
図5】
図1に示された創傷治療装置を用いた創傷部の治療方法を示す模式的平面図である。
【
図6】他の好ましい実施形態にかかる創傷治療装置のドレーンの一部分の近傍を示す図面である。
【
図7】さらに他の好ましい実施形態にかかる創傷治療装置のドレーンの近傍を示す略平面図である。
【
図8】別の好ましい実施形態にかかる創傷治療装置のドレーンの近傍を示す拡大図である。
【
図9】
図9(a)は、創傷治療キットに含まれる移送管固定具を示す略斜視図であり、
図9(b)は、移送管が
図9(a)に示された移送管固定具に取り付けられた状態を示す略斜視図である。
【
図10】
図10は、さらに別の好ましい実施形態にかかる創傷治療装置のドレーンと中継チューブとの接続状態を示す切断部端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面に基づき、本発明の好ましい実施形態について詳述する。
【0024】
図1は、好ましい実施形態にかかる創傷治療装置1の全体図である。
【0025】
創傷治療装置1は、患者の創傷部内側に位置する体内で生じた浸出液を移送する中空の移送管2と、浸出液を移送管2を通じて内部に吸引する吸引ポンプ3と、患者の衣服等に取り付けて携帯できるように吸引ポンプ3の外部に設けられたクリップ(図示せず)を備えている。移送管2の一端部は、創傷部の内部に配置され、創傷部が閉じられた状態で、吸引ポンプ3により陰圧が掛かったときに、創傷部内部の浸出液を体外に排出することで、従来の治療法に比して、創傷部の治癒を効果的に速めることができる。
【0026】
吸引ポンプ3は電源不要な手動式ポンプの機能を備えた略長球状の容器となっており、内部が陰圧になったときに、移送管2を通じて浸出液を内部に吸引し、収容することができる。
【0027】
移送管2は、一部が一端部2a1側から患者の体内に挿入されるドレーン2aと、一端部2b1がドレーン2aに、他端部2b2が吸引ポンプ3にそれぞれ接続された中継チューブ2bと、連結具2dと、ジョイント2cを備えている。
【0028】
本明細書においては、ドレーン2aと中継チューブ2bの各端部について、浸出液の流路における上手側の端部を一端部、下手側の端部を他端部として説明を進める。
【0029】
本実施形態のドレーン2aと中継チューブ2bは、外径が略同一の20Fr(フレンチ、約6.7mm)となっており、ジョイント2cを介して浸出液を移送可能に接続されている。
【0030】
ドレーン2aは、ジョイント2cを介して中継チューブ2bに接続された状態と、中継チューブ2bとの接続が解除された状態との間で切り換え可能になっている。つまり、ドレーン2aは、中継チューブ2bとの間の接続を解除および再接続可能となっている。
【0031】
後に詳述するように、ドレーン2aと中継チューブ2bとの間の接続を解除する(換言すれば、ドレーン2aを中継チューブ2bから取り外す)ことで、一端部2a1が体内に挿入されているドレーン2aの内部の掃除を行うことができる。
【0032】
ドレーン2aと吸引ポンプ3とを接続する中継チューブ2bは、透明に形成されており、内部の状態が外部から分かるようになっているが、中継チューブ2bの透明性はとくに限定されるものではない。したがって、たとえば、中継チューブを半透明に形成してもよく、不透明に形成してもよい。
【0033】
図2は、
図1に示されたドレーン2aの一端部の近傍を示す部分拡大図である。より詳細には、
図2(a)は、ドレーン2aの一端部2a1の近傍を
図1に示された矢印Aの方向から見た部分拡大図であり、
図2(b)は、ドレーン2aの一端部2a1の近傍を
図1に示された矢印Bの方向から見た部分拡大図であり、
図2(c)は、ドレーン2aの一端部2a1の近傍を
図1に示された矢印Cの方向から見た部分拡大図である。
【0034】
移送管2の内部には、移送管2の一端部(ドレーン2aの一端部)2a1と、他端部(中継チューブ2bの他端部)2b2とを結ぶ浸出液の流路2iが形成されている(
図2(a)参照)。
【0035】
ドレーン2aの伸長方向における中央部よりも一端部2a1側においては、一端部2a1に開口部2a3が、一端部2a1の近傍に2つの開口部2a4、2a5(第3開口部)が形成されている。開口部2a4と開口部2a5とは、ドレーン2aの周方向において互いに位相を異にして形成されている。
【0036】
2つの開口部2a4、2a5は、
図2(b)及び
図2(c)に示されるように、各々、ドレーン2aの外周面の一部を径方向にドレーン内部(換言すれば浸出液の流路2i)まで貫通するように形成されている。そして、略楕円状をなしており、ドレーン2aの伸長方向(=流路の方向)において約1cm程度の幅を有している。
【0037】
開口部2a4は一端部2a1から約1cmほど他端部2a2側に位置し、開口部2a5は一端部2a1から約2.5cmほど他端部2a2側に位置している。
【0038】
このように、ドレーン2aの外周面にも開口部2a4、2a5を形成することで、ドレーン2aの一端部2a1に形成された開口部2a3が体内で塞がれてしまった場合でも、2つの開口部2a4,2a5を通じて浸出液を吸引し排出し続けることができる。
【0039】
ドレーン2aの内径は、内部の閉塞を防ぐために2mm以上であることが好ましく、ドレーン2aを体内から引き抜いた後に自然治癒させることと、吸引力を保つため、ドレーン2aの外径は2.7mm(外周にして8Fr)以上1cm以下であることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0040】
ドレーン2aの内周面の形状(換言すれば、ドレーン2aの縦断面の形状)は、
図2(a)に示されるように、滑らかな円形であることが好ましい。ドレーン2aの内周面を円形とすることで、ドレーン2aの内部に角がないため、ドレーン2aの内部を容易に掃除できるとともに、陰圧を掛けやすくすることができる。
【0041】
これに対して、例えば内周面の形状が四角形である場合、四隅に老廃物が溜まってしまうとともに、陰圧が掛かりにくいというデメリットがある。この場合、排出液の老廃物がドレーン内に溜まり、ドレーン感染を引き起こす恐れがある。
【0042】
また、いわゆるフラットドレーンを用いた場合、後に詳述する8Frのチューブ5aをドレーンの内部に挿入することができないため、遠位端から閉塞し易く、ドレーン感染を引き起こす恐れがあり、ドレーンの交換が必要となる。
【0043】
本実施形態においては、ドレーン2aはシリコーン樹脂により形成され、中継チューブ2bはポリ塩化ビニルにより形成されているが、ドレーン2aおよび中継チューブ2bの素材はこれらに限定されるものではない。
【0044】
ドレーン2aおよび中継チューブ2bの素材としては、生体適合性を有し、滅菌可能であり、毒性を有さず、且つ耐久性を有する生体材料が望ましい。このような生体材料としては、たとえば、クロロプレンなどの合成ゴム、天然ゴム、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン、ポリウレタン、フッ素樹脂、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレンなどの高分子素材が挙げられる。
【0045】
また、ドレーン2aおよび中継チューブ2bは柔軟性の高い素材で形成することが好ましい。柔軟性の高い素材を用いることで、臓器や血管などの損傷を抑制することができる。
【0046】
図3は、
図1に示された吸引ポンプ3の内部の状態を示す部分縦断面図である。
【0047】
吸引ポンプ3は、移送管2を通じて体内から移送された浸出液を内部に収容する収容部3aと、収容部3a内の流体を吸引ポンプ3の外部に排出するための排出部3bと、収容部3aの内部空間から移送管2への流体の逆流を防止する逆止弁3cと、収容部3aの上部を覆う蓋部3dと、中継チューブ2bの他端部2b2に接続する接続管3eを備えている。接続管3eおよび排出部3bは蓋部3dから略上方に突出するように形成されている。なお、ここにいう流体とは、具体的には空気または浸出液を指す。
【0048】
収容部3aの外側面には、収容部3aの内部の浸出液の容量を示す目盛り3a1が形成されており、収容部3aを透明または半透明に形成することで、収容部3aの内部に収容された浸出液の容量を確認することができる。
【0049】
蓋部3d、接続管3eおよび逆止弁3cは、半透明の生体材料により形成されている。
【0050】
接続管3eは、中継チューブ2bの内径よりも僅かに大きい外径を有しており、柔軟性を有する中継チューブ2bの他端部2a2側から中継チューブ2bの内部に挿入することで、接続管3eに中継チューブ2bをつなぐことができる。
【0051】
逆止弁3cは、移送管2との接続箇所に設けられている。より具体的には、逆止弁3cは、接続管3eに下側から接続しており、逆止弁3cの内部の空間は、接続管3eの内部の空間と連通している。逆止弁3cは、収容部3aが陰圧になっている間に開き、収容部3aの内部の空間と、接続管3eの内部および移送管2の内部とを連通するようになっている。
【0052】
排出部3bは、内部が略上側に突出した排出管3b1と、排出管3b1に着脱可能に挿入される栓3b2を備えている。排出管3b1は樹脂により、栓3b2はゴム素材によりそれぞれ形成されている。
【0053】
栓3b2は、排出管3b1の上端の排出口3b1aから排出管3b1内に挿脱可能となっている。
図1に示されるように、栓3b2が排出管3b1に挿入された状態では、収容部3aの内部の流体を排出口3b1aから外部に排出することはできない。
図3に示されるように、排出口3b1aから栓3b2が取り外されてはじめて、収容部3aの内部の流体を排出口3b1aから吸引ポンプ3の外部に排出することができる。
【0054】
以下において、栓3b2が排出管3b1から取り外されて収容部3a内部の流体を排出可能な状態を「排出状態」といい、栓3b2が排出管3b1に挿入されて収容部3a内部の流体を排出不能な状態を「非排出状態」という。
【0055】
栓3b2の基部は排出管3b1の外周面に取り付けられており、栓3b2が排出管3b1から取り外されているときでも、栓3b2を紛失してしまう恐れがない。
【0056】
収容部3aは、弾性を有するシリコーン樹脂により形成されており、栓3b2が取り外された排出状態で、操作者により外部から押圧されることで、外圧により内部の流体が排出口3b1aから排出され、収容部3aが変形し、圧縮されるようになっている。以下において、収容部3aが外部から押圧された状態を「押圧状態」といい、収容部3aが外部から押圧されていない状態を「非押圧状態」という。
【0057】
なお、非排出状態では、収容部3a内部の流体の逃げ場がないため、収容部3aを押圧して収容部3aを圧縮することはできないようになっている。
【0058】
排出状態かつ押圧状態にあるときに、非排出状態に切り換え、その後に非押圧状態に切り換えると、収容部3aはその弾性回復により外側に膨らもうとする。
【0059】
このとき、収容部3aの内部空間は陰圧となるため、逆止弁3cが開いて、収容部3aの内部の空間、接続管3eの内部の空間、および移送管2の内部の空間が連通する。
【0060】
その結果、患者の浸出液が、ドレーン2aの各開口部2a3~2a5を通じてドレーン2a内に吸引され、さらに移送管2、接続管3eおよび逆止弁3cを通じて収容部3aの内部に移送され、収容される。
【0061】
吸引ポンプ3の陰圧(吸引力)の強さは、20~30mmHgが好ましく、25mmHg前後が特に好ましいが、これらに限定されるものではない。なお、1mmHgは約133.3Paである。
【0062】
上述のように、収容部3aは透明に形成されているため、吸引ポンプ3の外部から、目盛り3a1と、収容部3aの内部に収容された浸出液の液面の位置とを見比べることで、例えば日ごとの浸出液の排出量を知ることができる。また、収容部3aに収容された浸出液の色を外部から見て、体内の状況を推測できる。
【0063】
なお、収容部3aの全体でなく一部のみを透明に形成した場合にも、浸出液の排出量と色を外部から確認できる。
【0064】
また、収容部3aの形状は、とくに限定されるものではない。たとえば、
図1に示されるように、正面視で略楕円状や略円形に形成してもよく、略円柱状や直方体状に形成してもよい。
【0065】
図4(a)は、ジョイント2cの全体斜視図であり、
図4(b)は、ドレーン2aからジョイント2cが引き抜かれて、ドレーン2aと中継チューブ2bの接続が解除された状態を示す略斜視図である。
【0066】
ジョイント2cは、
図4(a)に示されるように、大径部2c1と、大径部2c1よりも径が小さく、且つ大径部2c1に隣接する2つの小径部2c2,2c3を備えた中空部材である。2つの小径部2c2,2c3の外径は、ドレーン2aと中継チューブ2bの内径よりも僅かに大きく形成されている。
【0067】
一方の小径部2c2がドレーン2aの他端部2a2から内部に、他方の小径部2c3が一端部2b1から中継チューブ2bの内部に、それぞれ挿入されることで、ドレーン2aと中継チューブ2bとがジョイント2cを介して浸出液を移送可能に接続されている。
【0068】
ジョイント2cの外径は、浸出液が詰まってしまうことを抑制するため、2.7mm(外周にして8Fr)以上あることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0069】
連結具2dは、
図4(b)に示されるように、2つの略輪状の取付部2d1と、2つの取付部2d1を連結する略帯状の連結部2d2を備えている。そして一方の取付部2d1がドレーン2aの他端部2a2の外周面に、他方の取付部2d1が中継チューブ2bの一端部2b1の外周面にそれぞれ取り付けられることで、ドレーン2aと中継チューブ2bを連結している。
【0070】
連結部2d2の長手方向の長さは、ジョイント2cの小径部2c2の伸長方向(延びる方向)における長さよりも長く構成されている。
【0071】
このように構成することで、
図4(b)に示されるように、ドレーン2aと中継チューブ2bが外側から連結具2dにより連結された状態で、ドレーン2aからジョイント2cの小径部2c2を引き抜き、ドレーン2a中継チューブ2bとの接続を解除できる。なお、ここにいう接続とは、ドレーン2aと中継チューブ2bの端部同士を接続することをいう。
【0072】
本実施形態においては、移送管2の端部開口部である一端部2a1と他端部2b2以外に、開口部2a8が形成されている。開口部2a8は、移送管2の一端部2a1と他端部2b2を結ぶ浸出液の流路2iにアクセス可能な「第1開口部」の一例である。
【0073】
このため、ドレーン2aからジョイント2cの小径部2c2を引き抜くことで、ドレーン2aの他端部2a2の開口部2a8から内部(流路2i)に掃除具5を挿入してドレーン2aの内部を容易に掃除でき、ドレーン2a内部の浸出液等による詰まりを予防・解消できる。
【0074】
また、ドレーン2aと中継チューブ2bとが連結具2dにより連結されているため、ジョイント2cを引き抜いたときに、ドレーン2aを把持していれば、中継チューブ2bが意図せず垂れてしまうことを防止できる。
【0075】
連結具2dは、たとえばシリコーンゴムやポリ塩化ビニルにより構成することで、ドレーン2aにジョイント2cの小径部2c2を抜き差しするのに充分な耐久性を持たせることができる。しかしながら、連結具2dの素材はとくに限定されるものではない。
【0076】
掃除具5としては、外径がドレーン2aの内径よりも細い形状のものであれば何でもよいが、たとえば、柄のついた棒状のブラシ5bや、シリンジ5cに接続された中空のチューブ5a等の細長い棒状のものを用いることができる。
【0077】
ブラシ5bを用いる場合、ドレーン2aの内部に他端部2a2からブラシ5bを挿入し、掻き出すようにブラシ5bを出し入れすることで、ドレーン2aの内部に詰まった浸出液や老廃物等を取り除くことができる。
【0078】
また、チューブ5aを用いる場合、ドレーン2aの内部に他端部2a2からチューブ5aを挿入した後に、ピストン5c1を引くようにシリンジ5cを操作することで、ドレーン2aの内部に詰まった浸出液や老廃物等を吸引し取り除くことができる。20Frのドレーン2aの場合、チューブ5aの外周の長さは8Fr程度が望ましい。
【0079】
なお、ドレーン2aの内部に他端部2a2から掃除具5を挿入したときに、掃除具5の先端部が体内にまで侵入し、組織を損傷してしまうことのないように、掃除具5の外周面から径方向外側に突出する突出部を設けることが好ましい。これにより、掃除具5の過度な挿入が規制されるため、掃除具5の扱いに慣れていない操作者でも、安心して掃除具5を用いてドレーン2aの内部を掃除することができる。
【0080】
また、突出部を設けるのに代えて、チューブ5aに、ドレーン2a内部へ挿入された量(長さ)を示す目盛りを設けてもよい。目盛りを見ながらドレーン2a内にチューブ5aを挿入することで、チューブ5aがドレーン2aの開口部2a3を通じて体内に侵入してしまうことを効果的に抑制できる。
【0081】
ドレーン2aの内部の掃除後には、掃除に先立ってドレーン2aから引き抜いたジョイント2cの小径部2c2を再びドレーン2aに挿入することで、ドレーン2aと中継チューブ2bとを容易に再接続することができる。
【0082】
以上のように構成された創傷治療装置1は、以下のように用いることで、患者の創傷を治癒することができる。
【0083】
図5は、
図1に示された創傷治療装置1を用いた創傷部の治療方法を示す模式的平面図であり、
図5(a)は、以下に詳述する挿入工程に、
図5(b)は、閉鎖工程に、
図5(c)は接続工程に、それぞれ対応している。
【0084】
図5には、創傷部の一例として、消化管穿孔に対する処置として人工肛門を造設した患者の術後創部離開した正中創Xを治癒する例が示されている。
【0085】
まず、人工肛門Zの近傍に形成された正中創Xの近傍を小切開して、ドレーン2aを挿入する孔Yを形成し、移送管2のドレーン2aを一端部2a1側から孔Yを通じて正中創Xの内側の位置まで通す(挿入工程、
図5(a)参照)。
【0086】
このとき、ドレーン2aを、一端部2a1の近傍に形成された3つの開口部2a3~2a5のうちの一番他端部2a2側に位置する開口部2a5よりも数cm以上他端部2a2側まで体内に入れておく必要がある。
【0087】
本実施形態のドレーン2aの場合、遠位端である一端部2a1から近位側に約3cm程度の位置まで開口部2a5が形成されているため、一端部2a1から5cm以上、最大でも20cm程度まで体内に挿入する。これにより、3つの開口部2a3~2a5を通じて浸出液を確実に吸引することができる。
【0088】
さらに、体内に挿入したドレーン2aを、体内で組織に医療用接着剤で固定してもよく、体内で溶ける吸収糸を用いて組織に縫い付けてもよい。これにより、体内で吸引に適切な場所にドレーン2aを保持することができる。
【0089】
加えて、吸引ポンプ3が手術の妨げにならないように、挿入工程に先立って予め吸引ポンプ3を移送管2から取り外しておくことが望ましい。しかしながら、移送管2を吸引ポンプ3に接続した状態で挿入工程を行ってもよく、この場合には後述の接続工程は不要となる。
【0090】
また、ドレーン2aは、浸出液を確実に吸引できるように、体内において、直線的に延ばしておくことが望ましい。
【0091】
こうして、ドレーン2aの一端部2a1を正中創Xの下方にセットすると、正中創Xの左右の皮膚を縫合して正中創Xを閉鎖する(閉鎖工程、
図5(b)参照)。
【0092】
次いで、移送管2の中継チューブ2bを吸引ポンプ3の接続管3eに接続する(接続工程)。
【0093】
接続管3eを吸引ポンプ3へ接続した後、上述のように、排出状態かつ押圧状態とした後に、押圧状態のまま非排出状態に切り換え、その後に非押圧状態とすることで、収容部3a内部を陰圧にし、移送管2を通じた収容部3a内への浸出液の移送を行う(移送工程)。
【0094】
これにより、創内の浸出液や老廃物を、移送管2を通じて体外の収容部3aへ排出することができる。
【0095】
加えて、収容部3a内部を陰圧にすることで、体内への逆行性感染の発生を抑制できるとともに、陰圧により肉芽の形成を促進することができる。
【0096】
浸出液の移送を行う合間、例えば1日1回など定期的に、又はドレーン2aの内部が詰まったときに、
図4(b)に示されたように、患者又は医療従事者が、ドレーン2aと中継チューブ2bとの接続を解除し、掃除具5を用いてドレーン2aを掃除する(掃除工程)。
【0097】
従来の陰圧閉鎖療法に用いられた創傷治癒装置においては、浸出液の移送用のホース等の管状部材の内部の閉塞が進むと、浸出液の排泄効果が低下し、逆行性感染や増悪のリスクが増大するため、内部の閉塞が進んだ際には交換することが前提となっていた。
【0098】
これに対し、本実施形態においては、ドレーン2aと中継チューブ2bとの接続を解除可能となっているため、ドレーン2aの内部を掃除することで、内部の詰まりを防止し、ドレナージ効果を維持でき、逆行性感染を抑制できる。また、ドレーン培養陽性でもドレーン2aを交換することなく、ドレーン培養陰性化でき、創傷治癒までドレーン2aを交換なく使用できる。
【0099】
加えて、ドレーン2aの交換を不要とすることで、コストと患者の体への負担を低減することができる。
【0100】
また、吸引ポンプ3の収容部3a内に浸出液が溜まったときには、非排出状態から排出状態に切り換えた後に、押圧状態とすることで、浸出液を排出口3b1aから排出することができる。
【0101】
最後に、正中創Xが治癒した段階で、ドレーン2aを体内から引き抜く(引き抜き工程)。ドレーン2a挿入用の孔Yは自然に閉じていく。創傷治療装置1を用いた本治療方法によれば、正中創Xを1週間程の短期間で治癒できる。
【0102】
実際に、人工肛門の造設後に腸管と皮膚、正中創の創離開、手術部位感染が起きた症例では、患者が高齢のため、創部を解放し毎日洗浄創部処置、感染コントロールすることが極めて困難であった。このため、再手術により腸管と皮膚、正中創を再縫合し、ドレーン2aを体内に挿入して皮膚を閉じ、吸引ポンプ3を用いて体液を吸引し続けることで、約3週間で治癒した。
【0103】
従来の治療方法では、創傷部の洗浄等の感染コントロールの工程に1~2週間、特許文献1,2に記載されたような創傷治療装置を用いた陰圧閉鎖療法の工程に3~4週間、上皮化の工程まで含めて計2,3か月の治療期間を要し、患者に多大な負担となっていた。
【0104】
これに対して、本実施形態の創傷治療装置1を用いた治療方法においては、従来の治療方法における陰圧閉鎖療法と異なり、皮膚を閉じた状態で浸出液を吸引し続ける。
【0105】
このため、従来の陰圧閉鎖療法では禁忌とされた汚染創や感染創に対しても使用できるとともに、上皮化の工程が不要となり、治療期間を大幅に短縮することができ、患者の負担を大幅に軽減できる。
【0106】
また、汚染創、感染創、壊死組織等に使用する場合でも、皮膚を閉じてドレナージし続けることで、湿潤環境を維持し、貪食作用を促進して創部を自然に浄化し、壊死組織を切除する必要もなく治すことができる。上記の人工肛門の症例においては、治療3週間目にドレーン2aにより移送された浸出液(排液)を培養した結果、細菌の陰性が確認できた。なお、ドレーン培養の排液の陰性化は、創部離開、胆汁漏、および膵液瘻の臨床例でも確認することができた。
【0107】
また、創傷治療装置1は、従来の陰圧閉鎖療法に用いる装置と異なり、手動式ポンプとして構成されており、真空ポンプ等の高額な部材を備えておらず、蓋部3d、接続管3e、逆止弁3cおよび排出管3b1は樹脂により、栓3b2はゴム素材により、ドレーン2aおよび収容部3aはシリコーン樹脂により、中継チューブはポリ塩化ビニルにより各々形成されている。このため、創傷治療装置1を非常に軽量且つ安価に製造でき、患者の動きを制限しにくい。加えて、創傷治療装置1の構造を簡素化することができる。
【0108】
加えて、このように非金属性の素材で創傷治療装置1を形成することで、MRI検査やCT検査を実施した場合に、ハレーションの発生を防止できる。
【0109】
さらに、従来の陰圧閉鎖療法に用いる装置の場合、陰圧の強さが100~125mmHg程度と強いため、場合によっては腸管穿孔等の臓器損傷の恐れがあるが、手動式である吸引ポンプ3の陰圧の強さは25mmHg程度と小さいため、安心して使用することができる。
【0110】
また、従来の陰圧閉鎖療法の場合、週に数回程度、スポンジ等のパッドやテープ等を交換する必要があるが、創傷治療装置1を用いた治療方法によれば、何ら交換の必要がなく、この移送工程は、創傷の治りに応じて、数日から数カ月にわたり行われる。患者の負担を軽減できる。
【0111】
創傷治療装置1の用途は、上述の正中創Xに限られず、肝切除後の胆汁漏や、膵液瘻、感染創、汚染創のSSI(Surgical Site Infection)治療、創部離開治療、心臓外科の縦隔炎症の予防および治療、腹腔内膿瘍の治療、ケロイド切除での併用治療、人工関節等の創、深部SSI治療等、臓器が露出している創傷部等、様々な創傷部の治療に用いることができる。いずれの創部の場合にも、体内における創部の内側の位置にドレーン2aの一端部2a1を配置し、創部を閉じた後に、創傷の度合いや種類に応じて数日から数週間にわたる移送工程の合間に、定期的に、または内部に詰まりが生じたときにドレーン2aを掃除することで、創部を早期に治癒できる。
【0112】
たとえば、膵液瘻の治療に使用する場合、ドレーン2aを体内に挿入して創部を閉じ、体内で漏れ出た膵液を吸引ポンプ3で吸引することにより、仮性動脈瘤による術後出血の予防、ドレーン逆行性感染の抑制や腹腔内膿瘍の予防および治療で、治癒することができる。
【0113】
一方、壊死性軟部組織感染症(壊死性筋膜炎)に関しては、感染および敗血症増悪を起こすリスクがあるため、使用しない。
【0114】
図6は、他の好ましい実施形態にかかる創傷治療装置1のドレーン2aの一部分の近傍を示す図面である。
【0115】
より詳細には、
図6(a)は、ドレーン2aの内部と外部が連通した状態を示す部分拡大斜視図であり、
図6(b)は、
図6(a)に示されたドレーン2aの内部と外部が隔絶された状態を示す部分拡大斜視図である。
【0116】
また、
図6(c)は、ドレーン2aの部分拡大斜視図であり、
図6(d)は、ドレーン2aを覆う第1被覆部材2eの斜視図である。
【0117】
さらに、
図6(e)は、
図6(a)に示されたW-W線に沿う部分縦断面図であり、
図6(f)は、
図6(b)に示されたV-V線に沿う部分縦断面図である。
【0118】
本実施形態にかかる創傷治療装置1は、以下に述べる点を除き、前記実施形態の創傷治療装置1と同様に構成されている。
【0119】
本実施形態にかかる移送管2には、連結具2dが設けられておらず、ドレーン2aと中継チューブ2bとがジョイント2cを介して接続されており、移送管2のドレーン2aの径方向外側には以下に述べる第1被覆部材2eが設けられている。
【0120】
本実施形態において、ドレーン2aは、その伸長方向(延びる方向、流路の方向)における中央部よりも他端部2a2側の部分に、小径部2a6と、小径部2a6の両側に位置し、小径部2a6よりも径が大きい大径部2a7を備えている。
【0121】
小径部2a6の径方向外側には、
図6(d)に示される略筒状の第1被覆部材2eが回転可能に設けられており、小径部2a6の外周面が第1被覆部材2eの内周面により覆われている。換言すれば、小径部2a6は、略筒状の第1被覆部材2eの内部を通されている。
【0122】
小径部2a6には、その周方向の一部において径方向にドレーン内部(流路2i)まで貫通する開口部2a6aが形成されている。
【0123】
同様に、第1被覆部材2eには、その周方向の一部において径方向に第1被覆部材の内部まで貫通する開口部2e1(第2開口部)が形成されている。
【0124】
かかる構成により、
図6(a)および
図6(e)に示されるように、開口部2a6aと開口部2e1の位置が重なったとき、開口部2a6aおよび開口部2e1を通じてドレーン2aの内部と外部とが連通する。
【0125】
これに対して、
図6(b)および
図6(f)に示されるように、開口部2a6aと開口部2e1の位置が重なっていないときには、開口部2a6aを通じてドレーン2aの内部と外部とが連通していない。
【0126】
このため、患者または医療従事者は、ドレーン2aの内部を掃除具5により掃除するときに限り、第1被覆部材2eを周方向に回転操作し、開口部2a6aと開口部2e1の位置を重ねることで、両開口部2a6a、2e1を通じて掃除具5をドレーン2a内部に挿入できる。開口部2a6aは、移送管2の一端部2a1と他端部2b2を結ぶ浸出液の流路2iにアクセス可能な「第1開口部」の一例である。
【0127】
また、掃除後には再び第1被覆部材2eを回転させ、開口部2a6aと開口部2e1の位置を異にすることで、ドレーン2aの開口部2a3、2a4、2a5に陰圧を掛け、浸出液を吸引することができる。
【0128】
一方、
図7は、さらに他の好ましい実施形態にかかる創傷治療装置1のドレーン2aの近傍を示す略平面図である。
【0129】
図7(a)には、ドレーン2aの分岐した他方の端部に蓋が取り付けられた状態が示されており、
図7(b)には、ドレーン2aの分岐した他方の端部から蓋が取り外された状態が示されている。
【0130】
また、
図7(a)および
図7(b)には、ドレーン2aの内部空間が破線で示されている。
【0131】
本実施形態にかかる創傷治療装置1は、以下に述べる点を除き、
図1から
図5に示された実施形態にかかる創傷治療装置1と同様に構成されている。
【0132】
本実施形態の移送管2には、連結具2dが設けられておらず、ドレーン2aと中継チューブ2bとがジョイント2cを介して接続されている。
【0133】
本実施形態のドレーン2aは、その伸長方向(延びる方向、流路の方向)における中央部よりも他端部側、すなわち中継チューブ2bに近い部分において、2又に分岐した略Y字状の形状をなしている。
【0134】
他端部側で分岐した2つの端部2a2a、2a2bのうちの一方の端部2a2aには中継チューブ2bの一端部2b1がジョイント2cを介して接続されている。他方の端部2a2bには、端部2a2bに形成された開口部2a9を覆う蓋2fが取り外し可能に取り付けられている。開口部2a9は、移送管2の一端部2a1と他端部2b2を結ぶ浸出液の流路2iにアクセス可能な「第1開口部」の一例である。
【0135】
ドレーン2aは、手術時に、一端部2a1から患者の体内へ挿入され、分岐した部分の手前、すなわち分岐した部分よりも一端部2a1側の位置まで挿入される。
【0136】
このため、患者または医療従事者は、蓋2fを取り外して他方の端部2a2bの開口部2a9から掃除具5を挿入することで、ドレーン2aと中継チューブ2bとの間の接続を解除することなく、流路2iにアクセスし、ドレーン2aの掃除を行うことができる。そして、掃除を終えた後に、蓋2fを端部2a2bに取り付けて開口部2a9を塞ぐことで、再び陰圧を掛けることが可能になる。
【0137】
図8は、別の好ましい実施形態にかかる創傷治療装置1のドレーン2aの近傍を示す拡大図である。
【0138】
より詳細には、
図8(a)は、創傷治療装置1のドレーン2aおよび第2被覆部材2gの近傍の拡大平面図であり、
図8(b)は、
図8(a)に示された第2被覆部材2gの捲れ部分が大きく捲られた状態を示すドレーン2aの近傍の拡大斜視図であり、
図8(c)は、
図8(a)に示された第2被覆部材2gの捲れ部分がドレーン2aに引き付けられた状態を示すドレーン2aの近傍の拡大斜視図である。
【0139】
また、
図8(d)は、第2被覆部材2gが取り外された状態を示すドレーン2aの部分拡大斜視図である。
【0140】
本実施形態にかかる創傷治療装置1は、以下に述べる点を除き、
図1から
図5に示された実施形態にかかる創傷治療装置1と同様に構成されている。
【0141】
本実施形態の移送管2には、連結具2dが設けられておらず、ドレーン2aと中継チューブ2bとがジョイント2cを介して接続されている。
【0142】
本実施形態の移送管2のドレーン2aの径方向外側には、ドレーン2aの伸長方向における一部分の外周面を覆う略筒状の第2被覆部材2gが設けられている。換言すれば、移送管2のドレーン2aは、略筒状の第2被覆部材2gの内部を通されている。
【0143】
第2被覆部材2gには、
図8(a)に示されるように、上面視で略逆U字状の切れ込みが形成されており、これにより、第2被覆部材2gの一部が、ドレーン2aの外周面から離れるように捲れる捲れ部分2g1が形成されている(
図8(b)参照)。
【0144】
この捲れ部分2g1により覆われるドレーン2aの部分には、径方向にドレーン2a内部(流路2i)まで貫通する開口部2a10が形成されている。患者または医療従事者は、開口部2a10を通じて上述の掃除具5をドレーン2aの内部に挿入することで、内部を掃除でき、詰まりを予防または防止することができる。開口部2a10は、移送管2の一端部2a1と他端部2b2を結ぶ浸出液の流路2iにアクセス可能な「第1開口部」の一例である。
【0145】
一方で、開口部2a10に対向する捲れ部分2g1の内面には、開口部2a10の形状と略同一の形状(略直方体状)をなす塞ぎ片2g1aが設けられている。
【0146】
捲れ部分2g1は、吸引ポンプ3の収容部3a内に陰圧が生じている間、
図8(c)に示されるように、ドレーン2aの開口部2a10の方へ引きつけられる。
【0147】
このとき、開口部2a10が塞ぎ片2g1aにより塞がれるため、掃除用の開口部2a10が形成されていても、浸出液の移送時には問題なく移送することができる。
【0148】
[創傷治療キット]
一実施形態にかかる創傷治療キットには、創傷治療装置1と、創傷治療装置1のドレーン2aの内部を掃除する掃除具5が含まれている。
【0149】
創傷治療キットに含まれる創傷治療装置1としては、
図1から
図8に示された各実施形態にかかる創傷治療装置1を用いることができる。
【0150】
創傷治療キットに含まれる掃除具5としては、上述(
図4(b)参照)のように、外径がドレーン2aの内径よりも小さいものであれば何でもよいが、たとえば、柄のついた棒状のブラシ5bや、シリンジ5cに接続された中空のチューブ5a等の細長い棒状のものを用いることができる。
【0151】
創傷治療キットには、さらに、以下に詳述する移送管固定具が含まれてもよい。
【0152】
図9(a)は、創傷治療キットに含まれる移送管固定具を示す略斜視図であり、
図9(b)は、
図9(a)に示された移送管2が移送管固定具に取り付けられた状態を示す略斜視図である。
【0153】
移送管固定具6は、下面に粘着層を有する貼付パッド6a(貼付部の一例)と、貼付パッド6aの上面に取り付けられた固定チューブ6b(固定部の一例)を備えている。移送管固定具6は、貼付パッド6aの下面の粘着層を患者の皮膚に当接させて、患者の皮膚に貼り付けることができる。
【0154】
固定チューブ6bは、柔軟性を有し、縦断面視で略C字状をなす部材である。
図9(b)に示されるように、固定チューブ6bの上部に形成された開口部6b1を通じて、上方から固定チューブ6bの内側に移送管2を嵌め込むことで、移送管2を患者の体表面付近に固定できる。このため、移送管2が患者の動きを妨げにくい。
【0155】
従来、ドレーン等のチューブを患者の体の表面に固定する場合、チューブをテープにより体に貼り付けることが多かった。
【0156】
しかしながら、本実施形態のドレーン2aをテープにより体に張り付ける場合、ドレーン2aの内部を掃除したり、体を拭いたりする度に、体からテープを剥がす必要があり、皮膚が荒れてしまうなど、患者にとって大きな負担となってしまう。
【0157】
このため、本実施形態にかかるキットには、移送管固定具6が含まれており、固定チューブ6bに対して移送管2を容易に付け外しできるため、患者の負担を低減することができる。換言すれば、固定チューブ6bは、移送管2を着脱可能に固定することができる。
【0158】
固定チューブ6bは、ポリ塩化ビニル等の柔軟性を有する素材で形成された中空のチューブに、チューブの伸長方向に切れ目を入れることで、製造することができる。
【0159】
なお、固定チューブ6bに代えて、移送管2を挟んで固定するクリップを貼付パッド6aの上面に固定してもよく、固定部として、着脱可能に固定可能な他の固定手段を採用してもよい。
【0160】
[その他の実施形態]
1実施形態において、本発明は、患者の浸出液を体外へ移送する移送管と、前記移送管に接続され、前記浸出液を前記移送管を通じて内部に吸引する手動式の吸引ポンプとを備えた創傷治療装置の前記移送管を、開いた創傷部の近傍に形成された孔を通じて創傷部の内側の位置へ挿入する工程と、内側に前記移送管が挿入された前記創傷部を閉じる工程と、前記創傷部を閉じた後に、前記吸引ポンプを用いて、前記創傷部の内側の浸出液を、前記移送管を通じて体外へ排出する工程とを含む、創傷部の治療方法を提供する。
【0161】
創傷治療装置、移送管、吸引ポンプにはそれぞれ、
図1から
図10に示された各実施形態のものを用いることができる。創傷部の近傍に形成された孔は、上述の孔Yに相当する。
【0162】
1実施形態において、本発明は、前記吸引ポンプを用いて、前記創傷部の内側の浸出液を、前記移送管を通じて体外へ排出する前記工程の合間に、前記移送管の内径よりも細い形状の掃除具を用いて前記移送管の内部を掃除する工程を行う、創傷部の治療方法を提供する。
【0163】
本発明は、以上の各実施態様に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【0164】
たとえば、
図1から
図9に示された各実施形態においては、収容部3aが弾性を有する素材により形成されているが、収容部の素材は特に限定されるものではない。例えば収容部を弾性を有しない素材で形成する場合には、収容部の内部にバネ等の反発力を有する部材を収容することによって、押圧状態から非押圧状態に切り換わったときに、バネ等の反発力により収容部を膨らませ、内部に陰圧を発生させることができる。換言すれば、収容部は外圧による変形後の弾性回復により内部空間を陰圧とするが、収容部の変形後の弾性回復は、収容部の素材自体によるものに限定されるものではなく、収容部の内部に配置したバネ等による作用であってもよい。
【0165】
また、
図1から
図9に示された各実施形態においては、ドレーン2aと中継チューブ2bとがジョイント2cを介して接続されていたが、ドレーン2aの径と中継チューブ2bの径を異にすることで、ジョイント2cを介さずに、直接接続できるように構成してもよい。この場合にも、ドレーン2aと中継チューブ2bとの接続は解除可能で、且つ再接続可能であることが好ましい。さらに、連結具2dは、ドレーン2aと中継チューブ2bとを連結したままで、ドレーン2aの他端部と中継チューブ2bの一端部との接続を解除できるように構成することが好ましい。
【0166】
さらに、
図1から
図9に示された各実施形態においては、ジョイント2cがドレーン2aの内部と中継チューブ2bの内部に挿入されることで、ドレーン2aと中継チューブ2bとが接続されているが、
図10に示されるように、略筒状のジョイント2hを用いて、ドレーン2aと中継チューブ2bとを取り巻くようにドレーン2aと中継チューブ2bとを接続してもよい。なお、
図10には、ドレーン2aおよび中継チューブ2bの延伸方向に延びる面で縦に切断したドレーン2aおよび中継チューブ2bの切断部端面図が示されている。
【0167】
この場合には、ジョイント2hの一方側の開口部2h1にドレーン2aを挿入し、他方側の開口部2h2に中継チューブ2bを挿入することで、ドレーン2aと中継チューブ2bとを接続することができる。
【0168】
このように接続することで、ドレーン2aと中継チューブ2bとの間の接続部の内径が狭くならず、浸出液によるジョイント部分の詰まりを効果的に抑制できる。
【0169】
また、
図1から
図9に示された各実施形態においては、ドレーン2aの外周面に、ドレーン内部まで径方向に貫通する開口部2a4、2a5が浸出液の吸引用に形成されているが、外周面に形成された、浸出液の吸引用の開口部の数はとくに限定されない。
【0170】
しかしながら、ドレーン2aの外周面に設けられた浸出液の吸引用の開口部の数が3つ以上の場合、各開口部にかかる吸引力が大きく低下する恐れがあるため、外周面の開口部の数は1つまたは2つであることが好ましい。なお、各開口部の寸法は、小さすぎると浸出液等によりすぐに閉塞してしまうため、5mm以上の大きさであることが望ましい。
【0171】
加えて、
図6から
図10に示された各実施形態においては、移送管2がドレーン2aと中継チューブ2bを備えているが、移送管2が中継チューブ2bを備えることは必ずしも必要でない。したがって、ドレーン2aの他端部2a2を吸引ポンプ3に接続することで、移送管2の流路2iをドレーン2aのみで形成してもよい。
【0172】
この場合には、移送管2の流路2iは、ドレーン2aの一端部2a1と他端部2a2とを結ぶ流路である。また、この場合の各実施形態の開口部2a6a、2a9、2a10はそれぞれ、移送管2の一端部2a1と他端部2a2に各々形成された端部開口部2a3,2a8以外で、浸出液の流路2iにアクセス可能な「第1開口部」の一例である。
【0173】
また、ドレーン2aを
図7に示されたように略Y字状に2又に形成した場合で、ドレーン2aのみで流路2iを形成した場合には、分岐した2つの端部2a2a、2a2bのうちの一方の端部2a2aは、吸引ポンプ3の接続管3eに接続することとなる。
【符号の説明】
【0174】
1 創傷治療装置
2 移送管
2a ドレーン
2b 中継チューブ
2c ジョイント
2d 連結具
2e 第1被覆部材
2f 蓋
2g 第2被覆部材
3 吸引ポンプ
3a 収容部
3b 排出部
3b1 排出管
3b1a 排出口
3b2 栓
3c 逆止弁
3d 蓋部
3e 接続管
5 掃除具
5a チューブ
5b ブラシ
5c シリンジ
5c1 ピストン
6 移送管固定具
6a 貼付パッド
6b 固定チューブ
X 正中創
Y 孔
Z 人工肛門