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特開2024-128569塩素バイパスシステムの運転方法及び塩素バイパスシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128569
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】塩素バイパスシステムの運転方法及び塩素バイパスシステム
(51)【国際特許分類】
   F27D 17/00 20060101AFI20240913BHJP
   F28C 3/02 20060101ALI20240913BHJP
   C04B 7/60 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
F27D17/00 104D
F28C3/02
C04B7/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037597
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浜田 航綺
(72)【発明者】
【氏名】北澤 健資
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 拓真
【テーマコード(参考)】
4K056
【Fターム(参考)】
4K056AA12
4K056CA08
4K056DB05
4K056DB13
(57)【要約】
【課題】プローブの過度な大型化をすることなく、冷却性能を維持しつつ、圧力損失を抑えることができる塩素バイパスシステムの運転方法及び塩素バイパスシステムを提供する。
【解決手段】キルンからの燃焼ガスの一部を抽気した抽気ガスに、一次冷風を混合して一次冷却するプローブと、プローブで抽気ガスと一次冷風が混合された混合ガスに、二次冷風を混合して二次冷却する二次冷却器と、を備える塩素バイパスシステムの運転方法であって、二次冷却器は、プローブに接続される筒状の混合室と、混合室内の混合ガスの流れ方向に対して直角方向、かつ混合ガスの流れの中心方向に向かって二次冷風を各々吐出する複数の吐出口とを有し、混合室の入口における混合ガスの運動量に対する、複数の吐出口から吐出される二次冷風の総運動量の比が0.6~2.0を満たし、かつ混合室内の風速を混合室の内径で除した値が10~50(s-1)を満たす。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キルンからの燃焼ガスの一部を抽気した抽気ガスに、一次冷風を混合して温度450~550℃にまで一次冷却するプローブと、
前記プローブで前記抽気ガスと前記一次冷風が混合された混合ガスに、二次冷風を混合して温度300~400℃にまで二次冷却する二次冷却器と、を備える塩素バイパスシステムの運転方法であって、
前記二次冷却器は、前記プローブに接続される筒状の混合室と、前記混合室内の前記混合ガスの流れ方向に対して直角方向、かつ前記混合ガスの流れの中心方向に向かって前記二次冷風を各々吐出する複数の吐出口とを有し、
前記混合室の入口における前記混合ガスの運動量に対する、前記複数の吐出口から吐出される前記二次冷風の総運動量の比が0.6~2.0を満たし、かつ前記混合室内の風速を前記混合室の内径で除した値が10~50(s-1)を満たすことを特徴とする塩素バイパスシステムの運転方法。
【請求項2】
前記混合室の入口における前記混合ガスの運動量に対する、前記複数の吐出口から吐出される前記二次冷風の総運動量の比が0.6~1.1を満たし、かつ前記混合室内の風速を前記混合室の内径で除した値が18~40(s-1)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の塩素バイパスシステムの運転方法。
【請求項3】
前記二次冷風の風速は、20~50m/sであることを特徴とする請求項1又は2に記載の塩素バイパスシステムの運転方法。
【請求項4】
キルンからの燃焼ガスの一部を抽気した抽気ガスに、一次冷風を混合して温度450~550℃にまで一次冷却するプローブと、
前記プローブに前記一次冷風を供給する一次冷風ファンと、
前記プローブで前記抽気ガスと前記一次冷風が混合された混合ガスに、二次冷風を混合して温度300~400℃にまで二次冷却する二次冷却器と、
前記二次冷却器に前記二次冷風を供給する二次冷風ファンと、
前記混合ガスと前記二次冷風が混合された二次冷却ガスを誘引する排気ファンと、
少なくとも前記一次冷風ファン、前記二次冷風ファン、及び前記排気ファンを制御する制御部と、を備え、
前記二次冷却器は、前記プローブに接続される筒状の混合室と、前記混合室内の前記混合ガスの流れ方向に対して直角方向、かつ前記混合ガスの流れの中心方向に向かって前記二次冷風を各々吐出する複数の吐出口とを有し、
前記混合室の入口における前記混合ガスの運動量に対する、前記複数の吐出口から吐出される前記二次冷風の総運動量の比が0.6~2.0を満たし、かつ前記混合室内の風速を前記混合室の内径で除した値が10~50(s-1)を満たすことを特徴とする塩素バイパスシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素バイパスシステムの運転方法及び塩素バイパスシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
塩素バイパスシステムは、セメント製造設備から塩素を含むガスを抽気し塩素分を系外に排出することで、塩素に起因するキルンやプレヒータ系の閉塞等の問題を防止する設備である。塩素バイパスシステムは、セメント製造設備を構成するキルンの窯尻近傍に設けられた燃焼ガス抽気プローブ(以下、「プローブ」ともいう)によって燃焼ガスの一部を抽気する。抽気された燃焼ガス(以下、「抽気ガス」ともいう)は低温ガス(以下、「冷風」ともいう)と混合され、抽気ガス中に含まれる塩素分は気体状態から固体状態に相転移し、塩化カリウムを主成分とする塩素バイパスダストと呼ばれる形で回収・系外排出される。この際、抽気ガスを急冷することによって、塩素の除去効率の向上やプローブ内壁面への固結分の付着を抑制できることが分かっている。
【0003】
ところで、近年、脱炭素や原燃料コスト低減を目的に廃プラスチックを始めとする廃棄物の活用が推進されており、セメント製造設備に持ち込まれる塩素量(インプット塩素量)が増加している。そのため、塩素バイパスシステムの能力増強、つまり抽気ガス風量の増量(=抽気率の引き上げ)が必要となっている。一方、抽気ガス風量を増量させる場合、ガス温度を一定以下に冷却するため、冷風量もそれに応じて増量させる必要がある。他方、既設プレヒータのレイアウト上、プローブの大型化は困難な状況であり、抽気率を引き上げるとプローブ内風速が増加し、当該箇所における冷風との混合性の悪化や圧力損失の増加などが発生し、プローブ内壁面への固結成長や塩素除去効率の低下、さらに排気ファンの能力増強によるエネルギー損失の増大が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4294871号公報
【特許文献2】特許第6362219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、プローブの過度な大型化を避けるため、キルンからの排ガスの一部を抽気しつつ400~600℃にまで一次冷却するためのプローブと、プローブで抽気し冷却された排ガスを300~400℃にまで二次冷却する冷却器(以下、「混合室」ともいう)とを備え、二段階で排ガスを冷却する塩素バイパスシステムが開示されている。
【0006】
しかしながら、混合室における二次冷却では、排ガスに対する冷却ガス(低温ガス)の量が一次冷風と比べて相対的に少ないため、排ガスと一次冷風との混合ガス(一次冷却後のガス)の冷却が不十分になりやすい。そのため、例えば、混合室の流路径を小さくして二次冷却ガスを複数口から吐出することで、排ガスとの混合性を改善する。また、特許文献2のように、二次冷却ガスの吐出口近傍領域のみを独立した流路に分割することで圧力損失を最小限に抑える技術が知られている。一方、混合室における二次冷却において、抽気ガス風量の増加により、当該箇所(プローブ出口~二次冷却ガス混合部)の冷却性能の悪化や圧損の増加が懸念される。
【0007】
よって、本発明の目的は、プローブの過度な大型化をすることなく、冷却性能を維持しつつ、圧力損失を抑えることができる塩素バイパスシステムの運転方法及び塩素バイパスシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の塩素バイパスシステムの運転方法は、キルンからの燃焼ガスの一部を抽気した抽気ガスに、一次冷風を混合して温度450~550℃にまで一次冷却するプローブと、
前記プローブで前記抽気ガスと前記一次冷風が混合された混合ガスに、二次冷風を混合して温度300~400℃にまで二次冷却する二次冷却器と、を備える塩素バイパスシステムの運転方法であって、
前記二次冷却器は、前記プローブに接続される筒状の混合室と、前記混合室内の前記混合ガスの流れ方向に対して直角方向、かつ前記混合ガスの流れの中心方向に向かって前記二次冷風を各々吐出する複数の吐出口とを有し、
前記混合室の入口における前記混合ガスの運動量に対する、前記複数の吐出口から吐出される前記二次冷風の総運動量の比が0.6~2.0を満たし、かつ前記混合室内の風速を前記混合室の内径で除した値が10~50(s-1)を満たす。
【0009】
また、本発明の塩素バイパスシステムは、キルンからの燃焼ガスの一部を抽気した抽気ガスに、一次冷風を混合して温度450~550℃にまで一次冷却するプローブと、
前記プローブに前記一次冷風を供給する一次冷風ファンと、
前記プローブで前記抽気ガスと前記一次冷風が混合された混合ガスに、二次冷風を混合して温度300~400℃にまで二次冷却する二次冷却器と、
前記二次冷却器に前記二次冷風を供給する二次冷風ファンと、
前記混合ガスと前記二次冷風が混合された二次冷却ガスを誘引する排気ファンと、
少なくとも前記一次冷風ファン、前記二次冷風ファン、及び前記排気ファンを制御する制御部と、を備え、
前記二次冷却器は、前記プローブに接続される筒状の混合室と、前記混合室内の前記混合ガスの流れ方向に対して直角方向、かつ前記混合ガスの流れの中心方向に向かって前記二次冷風を各々吐出する複数の吐出口とを有し、
前記混合室の入口における前記混合ガスの運動量に対する、前記複数の吐出口から吐出される前記二次冷風の総運動量の比が0.6~2.0を満たし、かつ前記混合室内の風速を前記混合室の内径で除した値が10~50(s-1)を満たす。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プローブの過度な大型化をすることなく、冷却性能を維持しつつ、圧力損失を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る塩素バイパスシステムの一実施形態を表わす全体構成図
図2】プローブから二次冷却器までの概略斜視図
図3】二次冷風/抽気ガス運動量比と混合室内風速/混合室径の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る塩素バイパスシステムの運転方法及び塩素バイパスシステムにおける一実施形態について、図1及び図2を参照しながら説明する。なお、各図において、図面の寸法比と実際の寸法比とは、必ずしも一致しておらず、また、各図面の間での寸法比も、必ずしも一致していない。
【0013】
図1は、本発明に係る塩素バイパスシステムの一実施形態を模式的に示す全体構成図である。塩素バイパスシステム100は、キルン1の窯尻1aから最下段サイクロン(不図示)に至るまでのキルン排ガス流路から燃焼ガスG1の一部を抽気するプローブ2と、プローブ2に一次冷風C1を供給する一次冷風ファン3と、抽気ガスG2と一次冷風C1が混合された混合ガスG3を二次冷却する二次冷却器4と、二次冷却器4に二次冷風C2を供給する二次冷風ファン5と、混合ガスG3と二次冷風C2が混合された二次冷却ガスG4に含まれる粗紛A1を分離する分級機としてのサイクロン6と、サイクロン6から排出された微粉A2を含む排ガスG5を冷却する三次冷却器7と、三次冷却器7から排出された排ガスG6から微粉A2を回収する集塵装置8と、集塵装置8の排ガスG7を誘引する排気ファン9と、排気ファン9の風速等を測定する計測器10(風速計・温度計等)と、を備える。また、塩素バイパスシステム100は、少なくとも一次冷風ファン3、二次冷風ファン5、及び排気ファン9を制御する制御部(不図示)を備えていてもよい。
【0014】
プローブ2は、窯尻1aからキルン排ガス流路の一部として上方へ向かう立上がり部1bに突設されている。プローブ2の入口は、立上がり部1b内のキルン排ガス流路に開口する。プローブ2による抽気率は、5%以上であり、好ましくは10~15%である。なお、抽気率は、窯尻1aを単位時間に通過する燃焼ガスG1のガス風量(Nm3/単位時間)に対する、単位時間に抽気される抽気ガスG2のガス風量(Nm3/単位時間)の割合(比率)をいう。
【0015】
また、抽気ガスG2の抽気量は、2,500Nm3/h以上が好ましく、10,000Nm3/h以上がより好ましい。抽気ガスG2の抽気量(風量)は、排気ファン9の出力を制御することにより、調整され得る。すなわち、排気ファン9の出力を変えることで、誘引される排ガスG5~G7、二次冷却ガスG4、混合ガスG3の風量を変えることができ、これに伴って抽気ガスG2の風量を変えることができる。
【0016】
図2は、プローブ2から二次冷却器4までの概略斜視図である。
【0017】
プローブ2は、燃焼ガスG1の一部を抽気した温度1000~1200℃の抽気ガスG2に、一次冷風ファン3から供給された一次冷風C1を混合して温度450~550℃に一次冷却する。この抽気ガスG2と一次冷風C1が混合されたガスを混合ガスG3と称する。
【0018】
二次冷却器4は、混合ガスG3に、二次冷風ファン5から供給された二次冷風C2を混合して温度300~400℃に二次冷却する。二次冷却器4は、プローブ2に接続される筒状の混合室41と、混合室41内の混合ガスG3の流れ方向に対して直角方向、かつ混合ガスG3の流れの中心方向に向かって二次冷風C2を各々吐出する複数の吐出口42とを有する。
【0019】
混合室41は、入口41a及び出口41bを有する。入口41aは、プローブ2の出口に接続され、混合ガスG3が入口41aから流入する。出口41bは、サイクロン6に接続され、混合ガスG3と二次冷風C2が混合された二次冷却ガスG4が出口41bから流出する。
【0020】
なお、本実施形態では、出口41bが4つに分かれているが、これに限定されない。出口41bが4つに分かれているのは、抽気ガスG2の増加に伴って二次冷却ガスG4が増加し、二次冷却ガスG4を4系統の排出設備(サイクロン6、三次冷却器7、及び集塵装置8等、図1では1系統のみ図示)で処理することを考慮したものであり、排出設備が1系統の場合には、出口41bを分ける必要はない。
【0021】
混合室41は、入口41aから上方へ延びる円筒部41cと、円筒部41cの上端から上方へ延びる第一拡径部41dと、第一拡径部41dの上端から上方へ延びる第二拡径部41eとを備えている。出口41bは、第二拡径部41eの上端に設けられている。
【0022】
複数の吐出口42は、円筒部41cに穿設されている。本実施形態では、4つの吐出口42が円筒部41cの周方向に等間隔で設けられているが、これに限定されない。吐出口42は、3つ以下でもよく、5つ以上でもよい。複数の吐出口42は、円筒部41cの延伸方向において略同じ位置に配置され、好ましくは同じ位置に配置されている。言い換えると、複数の吐出口42は、円筒部41cの延伸方向に対して垂直な同一面内に配置されていることが好ましい。複数の吐出口42は、円筒部41c内の混合ガスG3の流れ方向に対して直角方向に二次冷風C2を各々吐出する。また、複数の吐出口42は、円筒部41c内の混合ガスG3の流れの中心方向に向かって二次冷風C2を各々吐出する。二次冷風C2の風速は、20~50m/sである。
【0023】
本発明は、混合室41の入口41aにおける混合ガスG3の運動量MGに対する、複数の吐出口42から吐出される二次冷風C2の総運動量MCの比(以下、「運動量比MC/MG」ともいう)と、混合室41内の風速Vを混合室41の内径Dで除した値(以下、「風速V/内径D」ともいう)とから算出されるパラメータが一定の範囲となるように運転を行うことで、プローブ2の過度な大型化をすることなく、冷却性能を維持しつつ、圧力損失を抑えることができる二段階で抽気ガスG2を冷却する塩素バイパスシステム100を提供する。
【0024】
例えば、配管内の圧力損失は、管内風速(Q/A)の2乗で増加する。ここで、Qは風量であり、Aは管路断面積である。そのため、配管径を大きくすると圧力損失が低減する。しかしながら、単純に配管径を大きくするだけでは、混合ガスG3の流れと二次冷風C2の吐出位置やその移動・拡散などの関係から混合性の悪化に繋がる。
【0025】
ところが、本発明者らは、鋭意検討の結果、塩素バイパスシステム100を、運動量比MC/MGが0.6~2.0を満たし、かつ風速V/内径Dが10~50(s-1)を満たすように、運転を行うことで、プローブ2の過度な大型化をすることなく、冷却性能を維持しつつ、圧力損失を抑えることができることが分かった(詳しくは後述の実施例を参照)。運動量比MC/MGは、主に二次冷風ファン5の出力を制御することにより、調整される。また、風速V/内径Dは、主に二次冷風ファン5及び排気ファン9の出力を制御することにより、調整される。また、排気ファン9の出力が変化すると、抽気ガスG2の風量も変わるため、一次冷風ファン3及び二次冷風ファン5の出力を制御して一次冷風C1及び二次冷風C2の風量を調整する必要がある。
【0026】
なお、本明細書において、ガス(ここでは混合ガスG3、二次冷風C2)の(単位時間当たりの)運動量は、例えば、以下のように定義される。
【0027】
ガスの運動量[kg・m/s2]=密度[kg/m3]×風速[m/s]×風量[m3/s]
【0028】
また、混合室41内の風速Vは、円筒部41c内の風速であり、混合室41の内径Dは、円筒部41cの内径である。
【0029】
運動量比MC/MGを小さくし過ぎると、混合ガスG3の運動量に対して二次冷風C2の運動量が小さいため、混合ガスG3と二次冷風C2の混合性が悪化する。そのため、運動量比MC/MGは0.6以上である。
【0030】
運動量比MC/MGを大きくし過ぎると、混合ガスG3の運動量に対して二次冷風C2の運動量が大きいため、混合室41内を逆流する二次冷風C2が発生し、圧力損失の原因となり得る。そのため、運動量比MC/MGの2.0以下であり、好ましくは1.1以下である。
【0031】
風速V/内径Dを小さくし過ぎると、混合室41の内径Dが過大となり、設備の設置費用や維持費用の高額化をまねく。また、風速Vが遅いため、混合室41内を逆流する二次冷風C2が発生し、圧力損失の増大の原因となり得る。そのため、風速V/内径Dは、10(s-1)以上であり、好ましくは18(s-1)以上である。
【0032】
風速V/内径Dを大きくし過ぎると、混合ガスG3の風速が二次冷風C2と比較して速すぎるため、二次冷風C2との混合性は悪化する。そのため、風速V/内径Dは、50(s-1)以下であり、好ましくは40(s-1)以下である。
【0033】
なお、吐出口42の開口面積を変動させる不図示の可変ノズルを設け、二次冷風C2の風量を維持したまま風速Vのみを増加させることで運動量比MC/MGを増加してもよい。
【実施例0034】
以下、本発明についてさらに詳細に説明するために具体的な実施例等を示すが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0035】
本発明者らは、混合ガスG3と二次冷風C2の混合状態のシミュレーション解析を通じ、混合室41における冷却効率改善に資する因子の探索を実施した。シミュレーション解析に用いたソフトウェアは、ANSYS社製のFluent 2020 R2である。塩素バイパスシステム100での抽気率は10~15%とした。また、混合室41の入口41aにおける混合ガスG3の平均温度は550℃、出口41bにおける平均温度は350℃である。抽気率10%の条件では、抽気ガスG2は、温度1150℃、風量260Nm3/min、一次冷風C1は、温度20℃、風量370Nm3/min、二次冷風C2は、温度20℃、風量430Nm3/minとして実施した。抽気率15%の条件では、各風量はその1.5倍とし、各所温度は同じとした。また、解析例3-1~3-4では、吐出口42の開口面積を小さくし、二次冷風C2の風量を一定としつつ二次冷風C2の風速を高速化させた。各解析例の解析条件を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
本実施例では、混合室41の入口41aから約1.3m離れた評価面41s(図2を参照)における温度偏差と、混合室41の入口41aと評価面41sとの間での圧力損失について、混合室41の内径D(表1では混合室径と表示、後述の表2も同様)や二次冷風C2の風速を変化させた際の挙動について解析した。
【0038】
評価面41sにおける温度偏差は、混合ガスG3と二次冷風C2の混合度の指標と見なすことができ、温度偏差の値が小さいほど混合が進んでいると評価できる。また、混合室41の入口41aから評価面41sに至るまでの圧力損失が小さいほど、排気ファン9の動力を小さくすることができる(エネルギーロスが少ない)と評価できる。解析例の解析結果(温度偏差、圧力損失)を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
解析例1-1は、温度偏差及び圧力損失がいずれも問題ない水準の例である。表2において、温度偏差と圧力損失がいずれも解析例1-1(ブランク)を下回る、もしくは上回る場合は10%以内に収まる解析例について「〇」とした。また、混合室41内で逆流が発生した解析例は「△」とした。
【0041】
混合室径が1.10mの場合、抽気率の増加に伴い混合室41内を通過する風量が増加するため、解析例2-1のように、解析例1-1に比べ、温度偏差と圧力損失はいずれも増加した。一方、二次冷風C2の風速を1.5倍に高速化した場合、解析例3-1のように、解析例1-1に比べ、温度偏差は低下したが圧力損失は若干増加した。
【0042】
混合室径を0.83mとした(小さくした)場合、混合ガスG3の運動量MGが大きくなるため、二次冷風C2との混合が悪化傾向となり、解析例1-2、解析例2-2、解析例3-2のように、解析例1-1、解析例2-1、解析例3-1に比べ、温度偏差は大きくなった。また、混合室41内の風速Vも速くなることから、圧力損失も増加した。
【0043】
混合室径を1.38mとした(大きくした)場合、混合ガスG3の運動量MGが小さくなるため、混合室41内で二次冷風C2と十分に混合されるようになり、解析例1-3、解析例2-3、解析例3-3のように、解析例1-1、解析例2-1、解析例3-1に比べ、温度偏差は低下した。また、混合室41内の風速Vが遅くなるため、圧力損失も低減した。
【0044】
混合室径を1.75mとさらに大きくした場合、解析例1-4、解析例2-4、解析例3-4のように、解析例1-3、解析例2-3、解析例3-3に比べ、温度偏差は低減する一方、圧力損失は同程度となった。これは、混合ガスG3の運動量MGが過度に小さくなり二次冷風C2の逆流が増加したためと考えられる。二次冷風C2の逆流は、温度偏差の低減には効果がある一方、圧力損失の原因となり得る。また、混合室41の過度な大型化は、設備の設置費用や維持管理費用の高額化を招くおそれがある。
【0045】
以上の結果より、混合室41の内径Dをブランクよりも大きくした水準(混合室径を1.38mとした水準)では、抽気率を引き上げた場合であっても、温度偏差と圧力損失をブランク程度に抑えることができ、好適な条件といえる。
【0046】
次に、解析例の二次冷風/抽気ガス運動量比(運動量比MC/MG)と混合室内風速/混合室径(風速V/内径D)の関係を図3に示す。なお、表2中の判定結果(×、△、○)を表記した。二次冷風C2においては、二次冷風/混合ガスの運動量比MC/MGが0.6~2.0かつ混合室内風速/混合室径(風速V/内径D)が10~50(s-1)の範囲(図3で破線の矩形枠で囲まれた範囲)であれば、抽気率、混合室径に関わらず温度偏差や圧力損失が好適な条件である。さらに、運動量比MC/MGが0.6~1.1かつ混合室内風速/混合室径(風速V/内径D)が18~40(s-1)の範囲(図3で実線の矩形枠で囲まれた範囲)では、混合室41内の逆流なども抑制でき、かつ混合室41の過度な大型化を抑制できるため、より好ましいことが分かる。よって、この指標を用いることで、異なる混合室41を有する塩素バイパスシステム100であっても、塩素バイパスの十分な冷却を達成できる。
【0047】
以上のように、本実施形態に係る塩素バイパスシステム100の運転方法は、キルン1からの燃焼ガスG1の一部を抽気した抽気ガスG2に、一次冷風C1を混合して温度450~550℃にまで一次冷却するプローブ2と、前記プローブ2で前記抽気ガスG2と前記一次冷風C1が混合された混合ガスG3に、二次冷風C2を混合して温度300~400℃にまで二次冷却する二次冷却器4と、を備える塩素バイパスシステム100の運転方法であって、前記二次冷却器4は、前記プローブ2に接続される筒状の混合室41と、前記混合室41内の前記混合ガスG3の流れ方向に対して直角方向、かつ前記混合ガスG3の流れの中心方向に向かって前記二次冷風C2を各々吐出する複数の吐出口42とを有し、前記混合室41の入口41aにおける前記混合ガスG3の運動量MGに対する、前記複数の吐出口42から吐出される前記二次冷風C2の総運動量MCの比MC/MGが0.6~2.0を満たし、かつ前記混合室41内の風速Vを前記混合室41の内径Dで除した値が10~50(s-1)を満たす。
【0048】
この構成によれば、プローブ2の過度な大型化をすることなく、冷却性能を維持しつつ、圧力損失を抑えることができる。
【0049】
また、本実施形態に係る塩素バイパスシステム100の運転方法においては、前記混合室41の入口41aにおける前記混合ガスG3の運動量MGに対する、前記複数の吐出口42から吐出される前記二次冷風C2の総運動量MCの比MC/MGが0.6~1.1を満たし、かつ前記混合室41内の風速Vを前記混合室41の内径Dで除した値が18~40(s-1)を満たすことが好ましい。
【0050】
この構成によれば、混合室41内の逆流なども抑制でき、かつ混合室41の過度な大型化を抑制できる。
【0051】
また、本実施形態に係る塩素バイパスシステム100の運転方法においては、前記二次冷風の風速は、20~50m/sであることが好ましい。
【0052】
この構成によれば、混合室41内の逆流を抑制できる。
【0053】
また、本実施形態に係る塩素バイパスシステム100は、キルン1からの燃焼ガスG1の一部を抽気した抽気ガスG2に、一次冷風C1を混合して温度450~550℃にまで一次冷却するプローブ2と、前記プローブ2に前記一次冷風C1を供給する一次冷風ファン3と、前記プローブ2で前記抽気ガスG2と前記一次冷風C1が混合された混合ガスG3に、二次冷風C2を混合して温度300~400℃にまで二次冷却する二次冷却器4と、前記二次冷却器4に前記二次冷風C2を供給する二次冷風ファン5と、前記混合ガスG3と前記二次冷風C2が混合された二次冷却ガスG4を誘引する排気ファン9と、少なくとも前記一次冷風ファン3、前記二次冷風ファン5、及び前記排気ファン9を制御する制御部と、を備え、前記二次冷却器4は、前記プローブ2に接続される筒状の混合室41と、前記混合室41内の前記混合ガスG3の流れ方向に対して直角方向、かつ前記混合ガスG3の流れの中心方向に向かって前記二次冷風C2を各々吐出する複数の吐出口42とを有し、前記混合室41の入口41aにおける前記混合ガスG3の運動量MGに対する、前記複数の吐出口42から吐出される前記二次冷風C2の総運動量MCの比MC/MGが0.6~2.0を満たし、かつ前記混合室41内の風速Vを前記混合室41の内径Dで除した値が10~50(s-1)を満たす。
【0054】
この構成によれば、プローブ2の過度な大型化をすることなく、冷却性能を維持しつつ、圧力損失を抑えることができる。
【0055】
なお、塩素バイパスシステム100の運転方法及び塩素バイパスシステム100は、上記した実施形態の構成に限定されるものではなく、また、上記した作用効果に限定されるものではない。また、塩素バイパスシステム100の運転方法及び塩素バイパスシステム100は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記した複数の実施形態の各構成や各方法等を任意に採用して組み合わせてもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0056】
1 :キルン
1a :窯尻
1b :立上がり部
2 :プローブ
3 :一次冷風ファン
4 :二次冷却器
5 :二次冷風ファン
6 :サイクロン
7 :三次冷却器
8 :集塵装置
9 :排気ファン
10 :計測器
41 :混合室
41a :入口
41b :出口
41c :円筒部
41d :第一拡径部
41e :第二拡径部
41s :評価面
42 :吐出口
100 :塩素バイパスシステム
A1 :粗紛
A2 :微粉
C1 :一次冷風
C2 :二次冷風
D :混合室の内径
G1 :燃焼ガス
G2 :抽気ガス
G3 :混合ガス
G4 :二次冷却ガス
G5 :排ガス
G6 :排ガス
G7 :排ガス
MC :二次冷風の総運動量
MG :混合ガスの運動量
V :混合室内の風速
図1
図2
図3