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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128572
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】制御システムおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/12 20060101AFI20240913BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
H02J3/12
H02J13/00 311R
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037603
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 武尊
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AA04
5G064AB05
5G064AC05
5G064AC09
5G064BA02
5G064CB03
5G064CB08
5G064CB13
5G064DA03
5G066AE01
5G066AE04
5G066AE05
5G066AE09
5G066DA01
5G066FB13
5G066FB15
(57)【要約】
【課題】電圧調整装置の整定値を更新する時間を適切に設定する。
【解決手段】制御システム20は、電力系統における電圧調整装置を制御する。制御システム20は、電力系統における電圧の状態を解析する電圧解析部41と、電圧の状態に応じて送信時間を設定する時間設定部42と、整定値を算定する整定値算定部43と、算定された整定値を送信時間に電圧調整装置に送信する整定値送信部44とを具備する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統における電圧調整装置を制御する制御システムであって、
前記電力系統における電圧の状態を解析する電圧解析部と、
前記電圧の状態に応じて送信時間を設定する時間設定部と、
整定値を算定する整定値算定部と、
前記算定された整定値を前記送信時間に前記電圧調整装置に送信する整定値送信部と
を具備する制御システム。
【請求項2】
前記時間設定部は、前記電力系統における電圧の傾向を表す観測値の時間変化について所定の条件が成立する時刻を特定し、当該時刻の特定の結果に応じて前記送信時間を設定する
請求項1の制御システム。
【請求項3】
前記所定の条件は、前記観測値が基準範囲の内側の数値から当該基準範囲の外側の数値に変化することを含む
請求項2の制御システム。
【請求項4】
前記所定の条件は、前記観測値が基準範囲の外側の数値から当該基準範囲の内側の基準値に到達することを含む
請求項2の制御システム。
【請求項5】
前記時間設定部は、前記観測値の散布度に応じて前記基準範囲の幅を設定する
請求項3または請求項4の制御システム。
【請求項6】
前記時間設定部は、
複数の単位期間の各々について、当該単位期間において前記観測値の時間変化について前記所定の条件が成立する候補時刻を解析し、
前記複数の単位期間の各々における前記候補時刻を集計することで、複数の時間帯の各々について前記候補時刻の度数を計数し、
前記複数の時間帯の各々における度数に応じて前記送信時間を設定する
請求項2の制御システム。
【請求項7】
前記電力系統は、無効電力補償装置を含み、
前記電圧解析部は、前記電圧調整装置による電圧の調整と、前記無効電力補償装置による無効電力の供給とを停止したと仮定された状態のもとで、前記電力系統における電圧の状態を解析する
請求項1の制御システム。
【請求項8】
前記整定値算定部は、過去の単位期間における前記送信時間以降の各時間における送出電圧が目標電圧に近付くように、前記電力系統における電圧の状態に応じて、当該送信時間において送信される前記整定値を算定する
請求項1の制御システム。
【請求項9】
電力系統における電圧調整装置を制御する方法であって、
前記電力系統における電圧の状態を解析し、
前記電圧の状態に応じて送信時間を設定し、
整定値を算定し、
前記算定された整定値を前記送信時間に前記電圧調整装置に送信する
コンピュータシステムにより実現される制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力系統に設置された電圧調整装置を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電に代表される分散型電源の普及等を背景として、電力系統の各地点における電圧を制御する技術の重要性が増加している。例えば非特許文献1には、配電系統における電圧調整装置(SVR:Step Voltage Regulator)の整定値を電圧集中制御システムにより制御する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】渡部ほか,“電圧集中制御システムを用いたSVR制御パラメータ決定手法に関する初期検討”,令和4年電気学会全国大会,2022年3月1日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術のもとでは、電圧調整装置の整定値が更新されるタイミングによっては、電圧調整装置の送出電圧の切替が過剰な頻度で発生する可能性、または、電力系統の電圧を適正な範囲に維持できない可能性がある。したがって、整定値を更新する時間を適切に設定することは重要な課題である。以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、電圧調整装置の整定値を更新する時間を適切に設定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本開示のひとつの態様に係る制御システムは、電力系統における電圧調整装置を制御する制御システムであって、前記電力系統における電圧の状態を解析する電圧解析部と、前記電圧の状態に応じて送信時間を設定する時間設定部と、整定値を算定する整定値算定部と、前記算定された整定値を前記送信時間に前記電圧調整装置に送信する整定値送信部とを具備する。
【0006】
本開示のひとつの態様に係る制御方法は、電力系統における電圧調整装置を制御する方法であって、前記電力系統における電圧の状態を解析し、前記電圧の状態に応じて送信時間を設定し、整定値を算定し、前記算定された整定値を前記送信時間に前記電圧調整装置に送信する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態における電力システムの構成を例示するブロック図である。
図2】ノードブランチモデルの説明図である。
図3】制御システムの構成を例示するブロック図である。
図4】計測データの模式図である。
図5】仕様データの模式図である。
図6】ノードデータの模式図である。
図7】ブランチデータの模式図である。
図8】制御システムの機能的な構成を例示するブロック図である。
図9】電圧特定処理のフローチャートである。
図10】電力系統の各ノードにおける電圧の説明図である。
図11】解析データの説明図である。
図12】時間設定処理の説明図である。
図13】時間設定処理のフローチャートである。
図14】単位期間毎に特定される候補時間の説明図である。
図15】候補時間の度数分布の説明図である。
図16】目標電圧の説明図である。
図17】整定値算定処理のフローチャートである。
図18】送信時刻に対応する解析データを選択する処理の説明図である。
図19】電圧制御処理のフローチャートである。
図20】分散型電源による発電量と観測値Cの時間変化とのグラフである。
図21】第1実施形態における電圧調整装置の送出電圧のグラフである。
図22】対比例における電圧調整装置の送出電圧のグラフである。
図23】第2実施形態における時間設定処理の説明図である。
図24】第3実施形態における時間設定処理の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する形態は、本開示を実施する場合に想定される例示的な一形態である。したがって、本開示の範囲は、以下に例示する形態には限定されない。
【0009】
A:第1実施形態
図1は、第1実施形態における電力システム100のブロック図である。第1実施形態の電力システム100は、例えば事業設備または一般家庭等の複数の需要家18に電力を供給するためのシステムであり、電力系統10と制御システム20とを具備する。
【0010】
電力系統10は、例えば火力発電所または原子力発電所等の発電設備(図示略)により生成された電力を各需要家18に配電する配電系統である。電力系統10は、配電線により相互に接続された複数の要素設備を含む。電力系統10を構成する複数の要素設備は、例えば遮断機(FCB:Field-discharge Circuit-Breaker)11、電柱12、計測器13、無効電力補償装置(SVC:Static Var Compensator)14、分散型電源(PV:Photovoltaic)15および電圧調整装置(SVR:Step Voltage Regulator)16を含む。なお、電力系統10には実際には複数の電圧調整装置16が含まれるが、以下の説明では便宜的に1個の電圧調整装置16に着目する。
【0011】
計測器13は、電力系統10のうち当該計測器13が設置された地点における計測値Mを生成する。計測値Mは、例えば計測器13が設置された地点の電圧Mvと電流Miと力率Mfとを含む。第1実施形態の計測器13は、例えば電力の導通/遮断を切替える開閉器(SW:Switch)に搭載される。各電柱12には柱上変圧器が設置される。
【0012】
無効電力補償装置14は、電力系統10における無効電力を補償する。分散型電源15は、発電機(例えば太陽光発電機)および蓄電池等の電源設備である。分散型電源15が電力を発生する結果、電力系統10には、配電経路の下流側(末端側)に向かう順潮流のほか、配電経路の上流側(変電所側)に向かう逆潮流が発生し得る。なお、無効電力補償装置14および分散型電源15は電力系統10から省略されてもよい。
【0013】
電圧調整装置16は、電力系統10の電圧を調整する。具体的には、電圧調整装置16は、電力系統10の下流側に送出する電圧(以下「送出電圧」という)を調整することで、電圧調整装置16からみて下流側に位置する各地点の電圧を制御する。第1実施形態の電圧調整装置16は、整定値Zに応じて送出電圧を制御する。整定値Zは、電圧調整装置16の動作を指示するパラメータである。
【0014】
図2に例示される通り、以上に説明した電力系統10は、複数のノードNと複数のブランチBとで構成されるノードブランチモデルにより近似的に表現される。複数のノードNの各々は、電力系統10の各要素設備に相当し、複数のブランチBの各々は、各要素設備を相互に接続する配電線に相当する。
【0015】
電圧調整装置16は、1次側および2次側の2個のノードNにより表現される。図2の管轄区間Hは、電力系統10のうち電圧調整装置16が電圧を管理する区間である。管轄区間Hは、電力系統10のうち電圧調整装置16の下流側の区間である。
【0016】
図1の制御システム20は、電圧調整装置16を制御するためのコンピュータシステムである。具体的には、制御システム20は、電力系統10の電圧状態に応じて電圧調整装置16の整定値Zを制御する。制御システム20は、例えば専用線等の通信網30を介して、電圧調整装置16と通信可能である。
【0017】
図3は、制御システム20の構成を例示するブロック図である。図3に例示される通り、制御システム20は、制御装置21と記憶装置22と通信装置23と操作装置24と表示装置25とを具備する。なお、制御システム20は、単体の装置により実現されるほか、相互に別体で構成された複数の装置でも実現される。
【0018】
制御装置21は、制御システム20の各要素を制御する単数または複数のプロセッサで構成される。具体的には、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の1種類以上のプロセッサにより、制御装置21が構成される。
【0019】
通信装置23は、外部装置との間で有線または無線により通信する。具体的には、通信装置23は、例えば専用線等の通信網30を介して電力系統10の各要素設備と通信する。例えば、通信装置23は、計測値Mを各計測器13から受信する。各計測器13による計測と通信装置23による計測値Mの受信とは、例えば所定の周期で反復される。また、通信装置23は、電圧調整装置16に整定値Zを送信する。整定値Zは、通信網30を介して電圧調整装置16に提供される。なお、制御システム20とは別体の通信装置23が、制御システム20に有線または無線により接続されてもよい。
【0020】
操作装置24は、例えば制御システム20の利用者からの指示を受付ける入力機器である。操作装置24は、例えば、利用者が操作する操作子、または、利用者による接触を検知するタッチパネルである。制御システム20の利用者は、例えば電力事業者の従業者等の管理者である。表示装置25は、制御装置21による制御のもとで画像を表示する。表示装置25は、例えば、液晶表示パネルまたは有機EL(Electroluminescence)パネル等の表示パネルである。なお、制御システム20とは別体の操作装置24または表示装置25が、制御システム20に有線または無線により接続されてもよい。
【0021】
記憶装置22は、制御装置21が実行するプログラムと制御装置21が使用するデータとを記憶する単数または複数のメモリである。記憶装置22は、例えば磁気記録媒体または半導体記録媒体等の公知の記録媒体で構成される。複数種の記録媒体の組合せにより記憶装置22が構成されてもよい。制御システム20に対して着脱される可搬型の記録媒体が、記憶装置22として利用されてもよい。
【0022】
図3に例示される通り、第1実施形態の記憶装置22は、上限電圧VUと下限電圧VLとを記憶する。上限電圧VUは、電力系統10において許容される電圧の最大値である。下限電圧VLは、電力系統10において許容される電圧の最小値である。上限電圧VUと下限電圧VLとの間の範囲内に維持されるように電力系統10の電圧が制御される。また、図3に例示される通り、記憶装置22は、計測データD1と仕様データD2とノードデータD3とブランチデータD4とを記憶する。
【0023】
図4は、計測データD1の模式図である。計測データD1は、電力系統10の各計測器13の計測値M(電圧Mv,電流Mi,力率Mf)が登録されたデータベースである。各計測器13が生成した計測値Mは、当該計測器13の識別情報(ID)および計測日時(d,t)とともに計測データD1に登録される。計測日時(d,t)は、計測器13が計測値Mを計測した日付d(day)および時刻t(time)で規定される。通信装置23による計測値Mの受信毎に、計測値Mと識別情報と計測日時(d,t)とが計測データD1に追加される。すなわち、計測値Mの時系列が計測器13毎に計測データD1に登録される。
【0024】
図5は、仕様データD2の模式図である。仕様データD2は、電圧調整装置16の性能または機能に関する情報である。電力系統10に含まれる電圧調整装置16毎に仕様データD2が記憶される。具体的には、仕様データD2は、識別情報D31と定格情報D32と基準情報D33と制御情報D34と制御情報D35とを含む。識別情報D31は、電圧調整装置16を識別するための符号列である。
【0025】
定格情報D32は、電圧調整装置16の電気特性に関する基本的な情報であり、定格電圧と定格容量とタップ幅と素通しタップ位置と不感帯とを含む。タップ幅は、電圧調整装置16による電圧の調整幅であり、素通しタップ位置は、電圧調整装置16が電力系統10の電圧を変化させない状態における電圧調整装置16のタップ位置である。定格情報D32は、例えば操作装置24に対する操作で利用者により指定される。
【0026】
基準情報D33は、電圧調整装置16の基準電圧Vrefに関する情報であり、基準電圧Vrefと、基準電圧Vrefの上限値Vref_Uおよび下限値Vref_Lと、基準電圧Vrefの変動幅とを含む。基準電圧Vrefの上限値Vref_Uおよび下限値Vref_Lと変動幅とは、例えば操作装置24に対する操作で利用者により指定される。
【0027】
制御情報D34は、電圧調整装置16の動作を規定する制御値LDC_Rに関する情報である。具体的には、制御情報D34は、制御値LDC_Rと、制御値LDC_Rの上限値LDC_RUおよび下限値LDC_RLと、制御値LDC_Rの変動幅とを含む。上限値LDC_RUおよび下限値LDC_RLと制御値LDC_Rの変動幅とは、例えば操作装置24に対する操作で利用者により指定される。
【0028】
同様に、制御情報D35は、電圧調整装置16の動作を規定する制御値LDC_Xに関する情報である。具体的には、制御情報D35は、制御値LDC_Xと、制御値LDC_Xの上限値LDC_XUおよび下限値LDC_XLと、制御値LDC_Xの変動幅とを含む。上限値LDC_XUおよび下限値LDC_XLと制御値LDC_Xの変動幅とは、例えば操作装置24に対する操作で利用者により指定される。
【0029】
制御システム20から電圧調整装置16に指示される整定値Zは、基準電圧Vrefと制御値LDC_Rと制御値LDC_Xとを含む。電圧調整装置16は、制御システム20から受信した整定値Zに応じた送出電圧を出力する。
【0030】
図6は、ノードデータD3の模式図である。ノードデータD3は、電力系統10の各ノードNに関する情報が登録されたデータベースである。具体的には、ノードデータD3は、電力系統10の各ノードNについて、ノード番号とノードタイプと有効電力負荷Lpと無効電力負荷Lqと柱上変圧比とを含む。ノード番号は、複数のノードNの各々に一意に付与された番号である。ノードタイプは、ノードNに相当する要素設備の種別である。計測器13については識別情報がノードタイプとして指定される。したがって、計測データD1の識別情報が表す計測器13が、複数のノードNの何れに相当するのかが規定される。柱上変圧比は、電柱12に相当するノードNについて登録される。
【0031】
図7は、ブランチデータD4の模式図である。ブランチデータD4は、電力系統10の各ブランチBに関する情報が登録されたデータベースである。具体的には、ブランチデータD4は、電力系統10の各ブランチBについて、上流端と下流端とブランチタイプと抵抗値(配電線R)とリアクタンス(配電線X)とを含む。上流端は、ブランチBにおける上流側の端部に位置するノードNのノード番号である。下流端は、ブランチBにおける下流側の端部に位置するノードNのノード番号である。
【0032】
第1実施形態の制御システム20は、電圧調整装置16に対して整定値Zを送信すべき時刻(以下「送信時刻」という)Tを設定する。第1実施形態においては、所定長の期間(以下「単位期間」という)毎に、当該単位期間において整定値Zを送信すべき1以上の送信時刻Tが設定される。単位期間は、日付dにより指定される1日の期間である。具体的には、1個の単位期間(以下「目標期間」という)における1以上の送信時刻Tが、目標期間の開始前に事前に設定される。
【0033】
図8は、制御システム20の機能的な構成を例示するブロック図である。制御装置21は、記憶装置22に記憶されたプログラムを実行することで、電圧調整装置16の整定値Zを制御するための複数の機能(電圧解析部41,時間設定部42,整定値算定部43,整定値送信部44)を実現する。
【0034】
電圧解析部41は、電力系統10の管轄区間H内における電圧状態を解析する。具体的には、電圧解析部41は、目標期間の直前の単位期間(以下「参照期間」という)における各時刻tについて管轄区間H内の電圧状態を解析する。
【0035】
時間設定部42は、電圧解析部41が解析した電圧状態に応じて目標期間の1以上の送信時刻Tを設定する。整定値算定部43は、電圧調整装置16の整定値Zを算定する。具体的には、送信時刻T毎に整定値Zが算定される。また、整定値送信部44は、整定値算定部43が算定した整定値Zを、送信時刻Tにおいて通信装置23から電圧調整装置16に送信する。各送信時刻Tにおいては、当該送信時刻Tについて算定された整定値Zが送信される。すなわち、時間設定部42が設定した送信時刻T毎に、電圧調整装置16の整定値Zが更新される。図8に例示された各要素の機能について以下に詳述する。
【0036】
[電圧解析部41]
図9は、電圧解析部41が電圧状態を解析する処理(以下「電圧解析処理」という)のフローチャートである。電圧解析処理が開始されると、電圧解析部41は、参照期間におけるひとつの時刻(以下「選択時刻」という)tを選択する(S21)。選択時刻tは、電圧状態の解析対象となる時刻である。
【0037】
電圧解析部41は、無効電力補償装置14による無効電力の供給と電圧調整装置16による電圧の調整とが停止したと仮定された状態のもとで、選択時刻tにおける管轄区間H内の各ノードNの電圧V(t)を算定する(S22-S24)。
【0038】
まず、電圧解析部41は、無効電力補償装置14(SVC)に相当する各ノードNについてノードデータD3に登録された無効電力負荷Lqを0に設定する(S22)。すなわち、無効電力補償装置14による無効電力の供給が停止した状態が仮想的に生成される。また、電圧解析部41は、電圧調整装置16に相当するノードNを素通しタップ位置に設定する(S23)。具体的には、電圧解析部41は、電圧調整装置16に相当するノードNについてブランチデータD4に登録された抵抗値およびリアクタンスを、素通しタップ位置に対応する数値に設定する。すなわち、電圧調整装置16による電圧の調整が停止した状態が仮想的に生成される。
【0039】
電圧解析部41は、以上に説明した処理後のノードデータD3およびブランチデータD4と、計測値Mが登録された計測データD1とを適用した潮流計算により、管轄区間H内の複数のノードNの各々における電圧V(t)を算定する(S24)。潮流計算には、公知の技術が任意に採用される。電圧解析部41が算定した各ノードNの電圧V(t)は記憶装置22に記憶される。
【0040】
以上の説明の通り、第1実施形態においては、電圧調整装置16による電圧の調整と無効電力補償装置14による無効電力の供給とが停止した状態が仮定される。したがって、電力系統10が無効電力補償装置14を含む形態においても、電力系統10の電圧状態を適切に特定できる。
【0041】
図10は、管轄区間H内の各ノードNについて電圧解析部41が算定した電圧V(t)の模式図である。電圧解析部41は、相異なるノードNについて算定された複数の電圧V(t)から、管轄区間H内における最大値Vmax(t)および最小値Vmin(t)を特定する(S25)。最大値Vmax(t)および最小値Vmin(t)は記憶装置22に記憶される。また、電圧解析部41は、電圧調整装置16の二次側の電圧Vsvr(t)を特定する(S26)。管轄区間Hの起点(左端)に位置するノードNが電圧調整装置16であり、当該ノードNの電圧Vが電圧調整装置16の二次側の電圧Vsvr(t)である。電圧Vsvr(t)は記憶装置22に記憶される。
【0042】
電圧解析部41は、電圧調整装置16の通過有効電力Psvr(t)および通過無効電力Qsvr(t)を算定する(S27)。通過有効電力Psvr(t)は、電圧調整装置16を通過する有効電力であり、通過無効電力Qsvr(t)は、電圧調整装置16を通過する無効電力である。通過有効電力Psvr(t)および通過無効電力Qsvr(t)は記憶装置22に記憶される。
【0043】
電圧解析部41は、選択時刻tにおける電力系統10の電圧V(t)の傾向を表す観測値C(t)を算定する(S28)。観測値C(t)は、相異なるノードNに対応する複数の電圧V(t)の代表値である。具体的には、電圧解析部41は、以下の数式(1)で表現される通り、最大値Vmax(t)と最小値Vmin(t)との平均値を観測値C(t)として算定する。観測値C(t)は記憶装置22に記憶される。以上の説明から理解される通り、観測値C(t)は、選択時刻tにおける電力系統10の電圧V(t)の高低の傾向を表す指標である。
【数1】
【0044】
電圧解析部41は、参照期間の全部の時刻tについて以上の処理(S21-S28)を実行したか否かを判定する(S29)。未処理の時刻tがある場合(S29:NO)、電圧解析部41は、処理をステップS21に移行することで選択時刻tを変更したうえで(S21)、変更後の選択時刻tについて管轄区間H内の電圧状態を解析する(S22-S28)。すなわち、図11に例示される通り、電力系統10の電圧状態を表す解析データAが、参照期間内の時刻t毎に生成および記憶される。解析データAは、最大値Vmax(t)、最小値Vmin(t)、電圧Vsvr(t)、通過有効電力Psvr(t)および通過無効電力Qsvr(t)を含む。参照期間の全部の時刻tについて処理を実行した場合(S29:YES)、電圧解析部41は、電圧解析処理を終了する。
【0045】
以上に例示した電圧解析処理が単位期間毎(例えば1日毎)に実行される結果、図11に例示される通り、複数の単位期間の各々について、時刻t毎の解析データA(Vmax(t),Vmin(t),Vsvr(t),Psvr(t),Qsvr(t))が記憶装置22に記憶される。すなわち、日付dおよび時刻tの相異なる組合せに対応する複数の解析データAが記憶装置22に記憶される。
【0046】
[時間設定部42]
図12は、時間設定部42が送信時刻Tを設定する処理(以下「時間設定処理」という)の説明図である。前述の通り、電圧解析部41は、観測値C(t)の時系列を生成する。すなわち、図12に例示される通り、参照期間内における観測値C(t)の時間変化が解析される。観測値C(t)の時系列は、管轄区間H内の概略的な電圧の時間変化に関する傾向を意味する。
【0047】
図13は、時間設定処理のフローチャートである。時間設定処理が開始されると、時間設定部42は、図12の基準範囲Wを設定する(S31-S33)。基準範囲Wは、下限値wLと上限値wUとの間の範囲である。基準範囲W内には基準値Crefが設定される。
【0048】
まず、時間設定部42は、参照期間における複数の観測値C(t)の平均値Caを算定する(S31)。また、時間設定部42は、参照期間における複数の観測値C(t)の標準偏差σを算定する(S32)。標準偏差σは、観測値C(t)の散らばりの度合を表す指標(散布度)である。具体的には、時間設定部42は、以下の数式(2)の演算により標準偏差σを算定する。
【数2】
【0049】
時間設定部42は、平均値Caおよび標準偏差σに応じて基準範囲Wを設定する(S33)。具体的には、時間設定部42は、複数の観測値C(t)の平均値Caを基準範囲W内の基準値Crefとして設定する。また、時間設定部42は、図12に例示される通り、基準値Crefから標準偏差σを減算した数値を基準範囲Wの下限値wLとして設定し(wL=Cref-σ)、基準値Crefに標準偏差σを加算した数値を基準範囲Wの上限値wUとして設定する(wU=Cref+σ)。したがって、基準範囲Wは、基準値Cref(平均値Ca)を中点とする幅2σの範囲である。以上の説明の通り、時間設定部42は、観測値C(t)の標準偏差σに応じて基準範囲Wの幅を設定する。したがって、観測値C(t)の時間的な変動の度合に応じて送信時刻Tを適切に設定できる。
【0050】
基準範囲Wを設定すると、時間設定部42は、観測値C(t)の時間変化に応じて候補時刻Tcを特定する(S34)。候補時刻Tcは、観測値C(t)の時間変化について所定の条件(以下「抽出条件」という)が成立する時刻である。候補時刻Tcは、送信時刻Tの候補となる時刻を意味する。参照期間において抽出条件を充足する1以上の候補時刻Tcが特定される。ただし、参照期間内において1度も抽出条件が成立しない場合には、当該参照期間内に候補時刻Tcは特定されない。
【0051】
第1実施形態の抽出条件は、第1条件と第2条件とを含む。第1条件は、観測値C(t)が基準範囲Wの内側の数値から当該基準範囲Wの外側の数値に変化することである。すなわち、時間設定部42は、観測値C(t)が、基準範囲Wの内側の数値から上限値wUを上回る数値または下限値wLを下回る数値に変化する時刻を、候補時刻Tcとして特定する。例えば図12に候補時刻Tcとして例示された「10:30」は、第1条件が成立する時刻である。第1条件が成立する候補時刻Tcは、観測値C(t)が基準範囲W内で安定した状態から、基準範囲Wの外側において顕著に変動する状態に遷移する時点に相当する。観測値C(t)の状態が以上のように変化した場合には、電圧調整装置16の整定値Zを更新する必要性が高い。したがって、第1条件は、電圧調整装置16の整定値Zを更新する必要性を評価するためのひとつの条件に相当する。
【0052】
第2条件は、観測値C(t)が基準範囲Wの外側の数値から基準範囲Wの内側の基準値Crefに到達することである。すなわち、時間設定部42は、観測値C(t)が、上限値wUを上回る数値または下限値wLを下回る数値から変化して基準値Crefに到達する時刻を、候補時刻Tcとして特定する。例えば図12に候補時刻Tcとして例示された「8:00」は、第2条件が成立する時刻である。第2条件が成立する候補時刻Tcは、観測値C(t)が基準範囲Wの外側において顕著に変動する状態から、基準範囲W内で安定した状態に遷移する時点に相当する。観測値C(t)の状態が以上のように変化した場合には、電圧調整装置16の整定値Zを更新する必要性が高い。したがって、第2条件は、電圧調整装置16の整定値Zを更新する必要性を評価するためのひとつの条件に相当する。
【0053】
以上に例示した処理が参照期間毎(すなわち1日毎)に実行される結果、図14に例示される通り、目標期間に対して過去の複数の単位期間の各々について、平均値Caおよび標準偏差σと1以上の候補時刻Tcとが記憶装置22に記憶される。すなわち、第1実施形態の時間設定部42は、複数の単位期間の各々について、当該単位期間において観測値C(t)の時間変化について抽出条件が成立する1以上の候補時刻Tcを解析する。
【0054】
以上の処理により候補時刻Tcを解析すると、時間設定部42は、図15に例示される通り、過去の複数の単位期間における候補時刻Tcを集計することで、複数の時間帯τの各々について候補時刻Tcの度数Kを計数する(S35)。すなわち、時間設定部42は、各時間帯τを階級として候補時刻Tcを集計した度数分布を生成する。各時間帯τの度数Kは、過去の複数の単位期間において当該時間帯τ内に抽出条件が成立した回数である。
【0055】
候補時刻Tcの集計対象となる単位期間は、例えば目標期間の直前に位置する所定個の単位期間である。具体的には、目標期間の直前の数週間から1ヶ月程度の期間にわたる複数の単位期間が集計対象とされる。ただし、時間設定部42は、候補時刻Tcが特定された過去の複数の単位期間のうち所定の条件を充足する単位期間を、候補時刻Tcの集計対象として選択してもよい。例えば、目標期間と同種の単位期間が選択される。具体的には、休日/平日の区別または曜日の区別が目標期間と共通する単位期間が選択されてもよい。また、目標期間と気候が共通する単位期間が集計対象として選択されてもよい。例えば、目標期間と天気(晴れ/曇り/雨等)が共通する単位期間、目標期間と温度または湿度が共通する単位期間が、集計対象として選択される。
【0056】
時間設定部42は、複数の時間帯τの各々における度数Kに応じて、目標期間の1以上の送信時刻Tを設定する(S36)。具体的には、時間設定部42は、複数の時間帯τのうち度数Kが所定の閾値Kthを上回る時間帯τに対応する1以上の時刻を、送信時刻Tとして設定する。時間帯τに対応する時刻は、例えば、時間帯τの階級値(中央値)に相当する時刻、または時間帯τの始点または終点の時刻である。すなわち、過去において抽出条件が成立した回数が多い時刻が、送信時刻Tとして設定される。送信時刻Tは、整定値Zの更新の必要性が高い時刻とも表現される。
【0057】
なお、複数の時間帯τにおいて度数Kが閾値Kthを上回る場合、各時間帯τに対応する複数の送信時刻Tが目標期間について設定される。すなわち、目標期間においては複数階にわたり整定値Zが更新される。他方、度数Kが閾値Kthを上回る時間帯τがない場合、目標期間について送信時刻Tは設定されない。すなわち、目標期間において整定値Zは更新されない。なお、例えば度数Kの降順で上位に位置する所定個の時間帯τに対応する時刻を、時間設定部42が送信時刻Tとして設定してもよい。
【0058】
以上の説明から理解される通り、第1実施形態の時間設定部42は、観測値C(t)の時間変化に応じて送信時刻Tを設定する。具体的には、時間設定部42は、電力系統10における電圧V(t)の傾向を表す観測値C(t)の時間変化について抽出条件が成立する候補時刻Tcを特定し、候補時刻Tcの特定の結果に応じて送信時刻Tを設定する。以上の構成によれば、電力系統10における電圧V(t)の傾向のもとで当該電力系統10の電圧V(t)を維持するのに適切な時刻を送信時刻Tとして設定できる。
【0059】
第1実施形態においては特に、複数の単位期間において特定された候補時刻Tcを集計した結果(度数分布)に応じて送信時刻Tが設定される。したがって、複数の単位期間にわたる観測値C(t)の時間変化の傾向のもとで、電力系統10の電圧V(t)を適切な範囲内に維持できるように送信時刻Tを設定できる。
【0060】
また、第1実施形態においては、抽出条件が、観測値C(t)が基準範囲Wの内側の数値から当該基準範囲Wの外側の数値に変化すること(第1条件)を含む。すなわち、電力系統10の過去の電力状態のもとで、電圧V(t)が基準範囲Wの内側の数値から当該基準範囲Wの外側の数値に遷移する可能性が高い時刻が、送信時刻Tとして設定される。したがって、電力系統10の電圧V(t)が基準範囲Wから逸脱することが有効に抑制されるように、適切な送信時刻Tを設定できる。
【0061】
第1実施形態においては、抽出条件が、観測値C(t)が基準範囲Wの外側の数値から当該基準範囲Wの内側の基準値Crefに到達すること(第2条件)を含む。すなわち、電力系統10の過去の電力状態のもとで、電圧V(t)が基準範囲Wの外側の数値から基準範囲Wの内側の数値に遷移する可能性が高い時刻が、送信時刻Tとして設定される。したがって、電力系統10の電圧V(t)が基準範囲W内に維持されるように、適切な送信時刻Tを設定できる。
【0062】
[整定値算定部43]
図16は、管轄区間H内の各ノードNにおける電圧V(t)の模式図である。図16の特性G1は、電圧解析部41が各ノードNについて特定した電圧V(t)の系列である。すなわち、特性G1は、整定値Zの更新前における電力系統10の現実の電圧状態を表す。管轄区間Hの起点(左端)に位置するノードNが電圧調整装置16であり、当該ノードNの電圧Vが電圧調整装置16の二次側の電圧Vsvr(t)である。
【0063】
図16の特性G2は、特性G1の調整により実現されるべき理想的な電圧V(t)の系列である。第1実施形態の整定値算定部43は、電圧調整装置16の二次側の電圧Vsvr(t)が目標電圧Vs(t)に接近または一致するように、電圧調整装置16の整定値Zを算定する。すなわち、電圧調整装置16の二次側の電圧Vsvr(t)が調整量ΔV(t)だけ変化するように整定値Zが設定される。以上のように整定値Zを更新することで、管轄区間H内の各ノードNの電圧Vが調整量ΔV(t)だけ変化する。時間設定部42が目標期間について設定した送信時刻T毎に整定値Zが算定される。
【0064】
図17は、整定値算定部43が各送信時刻Tの整定値Zを算定する処理(以下「整定値算定処理」という)のフローチャートである。整定値算定処理が開始されると、整定値算定部43は、目標期間について設定された1個の送信時刻T(以下「選択送信時刻T」という)を選択する(S41)。
【0065】
図11を参照して前述した通り、記憶装置22には、日付dと時刻tとの相異なる組合せに対応する複数の解析データAが記憶されている。整定値算定部43は、過去の各日付d(単位期間)における選択送信時刻T以降の各時刻t(以下「参照時刻t」という)に対応する解析データAを記憶装置22から選択する(S42)。具体的には、整定値算定部43は、選択送信時刻Tから直後の送信時刻Tまでの期間内における各参照時刻tの解析データAを選択する。例えば、図18には、「8:00」および「10:30」が送信時刻Tとして設定された場合が想定されている。整定値算定部43は、「8:00」の選択送信時刻Tに対して、各単位期間(4/1,4/2,…)における「8:00」から「10:15」までの各参照時刻tの解析データAを選択する。
【0066】
整定値算定部43は、各参照時刻tについて電圧調整装置16の目標電圧Vs(t)を算定する(S43)。前述の通り、目標電圧Vs(t)は、電圧調整装置16の送出電圧Vsvr(t)の目標値である。具体的には、整定値算定部43は、各参照時刻tの解析データAを利用して、当該参照時刻tの目標電圧Vs(t)を算定する。例えば、整定値算定部43は、各参照時刻tの解析データAに含まれる各数値を適用した以下の数式(3)の演算により、参照時刻tの目標電圧Vs(t)を算定する。
【数3】
数式(3)から理解される通り、最大値Vmax(t)と最小値Vmin(t)との平均値が、上限電圧VUと下限電圧VLとの平均値を上回る場合、調整量ΔV(t)は負数となる。したがって、調整量ΔV(t)は電圧Vsvr(t)を減少させるように作用する。他方、最大値Vmax(t)と最小値Vmin(t)との平均値が、上限電圧VUと下限電圧VLとの平均値を下回る場合、調整量ΔV(t)は正数となる。したがって、調整量ΔV(t)は電圧Vsvr(t)を増加させるように作用する。
【0067】
以上の説明から理解される通り、目標電圧Vs(t)は、電圧Vsvr(t)と比較して上限電圧VUと下限電圧VLとの平均値に接近する。具体的には、図16における差分ΔVUと差分ΔVLとが近似(理想的には一致)するように、目標電圧Vs(t)が設定される。差分ΔVUは、管轄区間H内における目標電圧Vs(t)の最大値と上限電圧VUとの差分の絶対値である。他方、差分ΔVLは、管轄区間H内における目標電圧Vs(t)の最小値と下限電圧VLとの差分の絶対値である。
【0068】
整定値算定部43は、電圧調整装置16の現実の送出電圧Vs'(t)が目標電圧Vs(t)に近付くように整定値Zを算定する(S44)。具体的には、整定値算定部43は、数式(4)で表現される目的関数F(Z)が最小化されるように基準電圧Vrefと制御値LDC_Rと制御値LDC_Xとを算定する。
【数4】
数式(4)から理解される通り、目的関数F(Z)は、目標電圧Vs(t)と送出電圧Vs'(t)との差分の自乗を、複数の参照時刻tにわたり合計した数値として算定される。すなわち、目的関数F(Z)は、目標電圧Vs(t)と送出電圧Vs'(t)との誤差の指標である。
【0069】
数式(4)の送出電圧Vs'(t)は、例えば以下の数式(5)で表現される。数式(5)の記号PTは所定の正数である。
【数5】
【0070】
整定値算定部43は、以下に例示する制約条件のもとで整定値Zを算定する。
【数6】
制約条件の各変数の数値は、仕様データD2に登録された数値である。以上の通り、整定値Zに含まれる基準電圧Vref、制御値LDC_Rおよび制御値LDC_Xは、仕様データD2に指定された範囲内において最適化される。
【0071】
すなわち、整定値算定部43は、所定の制約条件のもとで目的関数F(Z)が最小化されるように整定値Z(決定変数)を最適化する最適化処理を実行する。最適化処理には公知の技術が任意に採用される。整定値Zの最適化処理としては、例えば厳密解法と近似解法とが想定される。厳密解法は、例えば、全通りの整定値Zについて目的関数F(Z)を算定し、目的関数F(Z)が最小となる整定値Zを選択する処理である。近似解法は、目的関数F(Z)を近似的に最小化する整定値Zを算定する処理である。例えば、遺伝的アルゴリズム等の進化的アルゴリズム、または、粒子群最適化(PSO:Particle Swarm Optimization)等の群知能アルゴリズムが、近似解法として想定される。
【0072】
以上の説明から理解される通り、第1実施形態の整定値算定部43は、電圧調整装置16による送出電圧Vs'(t)が目標電圧Vs(t)に近付くように整定値Zを算定する。すなわち、整定値算定部43は、過去の単位期間における選択送信時刻T以降の各参照時刻tにおける送出電圧Vs'(t)が目標電圧Vs(t)に近付くように、電力系統10における電圧状態を表す解析データAに応じて、当該選択送信時刻Tの整定値Zを算定する。以上の構成によれば、電力系統10の過去の電圧状態の傾向のもとで、送信時刻T以降の各参照時刻tにおいて電力系統10の送出電圧Vsvr(t)が適切な範囲に維持されるように、整定値Zを算定できる。
【0073】
整定値算定部43は、目標期間内の全部の送信時刻Tについて整定値Zを算定したか否かを判定する(S45)。整定値Zが算定されていない送信時刻Tがある場合(S45:NO)、整定値算定部43は、処理をステップS41に移行することで未処理の送信時刻Tを選択したうえで(S41)、当該選択送信時刻Tについて整定値Zを算定する(S42-S44)。目標期間の全部の送信時刻Tについて整定値Zを算定した場合(S45:YES)、整定値算定部43は、整定値算定処理を終了する。
【0074】
図19は、制御装置21が実行する処理(以下「電圧制御処理」という)の具体的な手順を例示するフローチャートである。例えば、操作装置24に対する利用者からの指示を契機として電圧制御処理が開始される。電圧制御処理は、「制御方法」の一例である。
【0075】
電圧制御処理が開始されると、制御装置21は、整定値Zの制御に必要なデータ(D1~D4)の読込を実行する(S1)。制御装置21(電圧解析部41)は、図9に例示した電圧解析処理を実行することで、電力系統10の電力状態を表す解析データAを生成する(S2)。制御装置21(時間設定部42)は、図13に例示した時間設定処理を実行することで、目標期間内の1以上の送信時刻Tを設定する(S3)。
【0076】
制御装置21(整定値算定部43)は、図17に例示した整定値算定処理を実行することで、各送信時刻Tの整定値Zを算定する(S4)。制御装置21(整定値送信部44)は、各送信時刻Tにおいて通信装置23から電圧調整装置16に整定値Zを送信する(S5)。具体的には、制御装置21は、各送信時刻Tの到来を契機として、当該送信時刻Tに対応する整定値Zを電圧調整装置16に送信する。以上に例示した電圧制御処理が単位期間毎に反復される。
【0077】
以上に説明した通り、第1実施形態においては、電力系統10の電圧状態に応じて送信時刻Tが設定され、送信時刻Tにおいて電圧調整装置16に整定値Zが送信される。したがって、電力系統10の電圧状態に応じた適切な時点において適切な頻度により、電力系統10の電圧が適切に維持されるように電圧調整装置16を制御できる。
【0078】
図20から図22は、第1実施形態の効果の説明図である。図20には、分散型電源15による発電量と、単位期間(1日)内における観測値C(t)の時間変化とが併記されている。図20に例示される通り、分散型電源15は、5:00から18:00までの期間内において電力を発生する。観測値C(t)が図20のように変化した結果、第1実施形態の構成においては、8:30、9:00および20:30が送信時刻Tとして設定される。
【0079】
図21および図22は、電圧調整装置16の送出電圧に関する最大値および最小値の時間変化を表すグラフである。図21は、第1実施形態における送出電圧の時間変化であり、図22は、対比例における送出電圧の時間変化である。対比例は、電力系統10の電圧状態に応じて整定値Zを更新する構成である。
【0080】
図21の第1実施形態において整定値Zが更新されるのは、8:30、9:00および20:30の3回である。他方、図22の対比例において整定値Zが更新されるのは、5:00および18:00の2回である。ただし、電圧調整装置16のタップ動作の回数(すなわち、送出電圧が不連続に変化する時点の個数)は、第1実施形態においては1回であり、対比例においては7回である。以上の説明から理解される通り、第1実施形態によれば、対比例と比較して適切な時点において整定値Zが更新される結果、電圧調整装置16のタップ動作の回数を低減しながら、電力系統10の送出電圧を基準範囲W内に維持できる。なお、電圧調整装置16においては機器の制約からタップ動作の回数に上限がある。以上の事情を考慮すると、タップ動作の回数を低減しながら送出電圧を適正に維持できる第1実施形態は、特に有効である。
【0081】
B:第2実施形態
本開示の第2実施形態を説明する。なお、以下に例示する各態様において機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明と同様の符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0082】
図23は、第2実施形態における時間設定処理の説明図である。第1実施形態においては、参照期間における複数の観測値C(t)の平均値Caを基準範囲Wの基準値Crefとして設定した。第2実施形態の時間設定部42は、図23に例示される通り、参照期間における複数の観測値C(t)の中央値Cm(median)を基準値Crefとして設定する。
【0083】
また、第2実施形態の時間設定部42は、記憶装置22に記憶された上限電圧VUを基準範囲Wの上限値wUとして設定し、記憶装置22に記憶された下限電圧VLを基準範囲Wの下限値wLとして設定する。
【0084】
第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。第1実施形態および第2実施形態の例示から理解される通り、基準値Crefは、参照期間における複数の観測値C(t)の代表値(平均値Caまたは中央値Cm)に設定され得る。ただし、基準値Crefは、観測値C(t)に依存しない所定値に設定されてもよい。
【0085】
C:第3実施形態
図24は、第3実施形態における時間設定処理の説明図である。第3実施形態の時間設定部42は、第1実施形態と同様に、参照期間における複数の観測値C(t)の平均値Caを基準値Crefとして設定する。なお、第2実施形態と同様に、複数の観測値C(t)の中央値Cmが基準値Crefとして設定されてもよい。
【0086】
第3実施形態の時間設定部42は、電圧調整装置16の低圧換算タップ幅Δに応じて基準範囲Wの幅を設定する。低圧換算タップ幅Δは、電圧調整装置16のタップ幅を低圧電力に対応する数値に換算した所定値である。例えば、電圧調整装置16のタップ幅(例えば100V)に所定の比率(例えば6600/105)を乗算することで、低圧換算タップ幅Δ(例えば1.6V)が算定される。
【0087】
具体的には、時間設定部42は、基準値Crefに低圧換算タップ幅Δを加算した数値を基準範囲Wの上限値wUとして設定し(wU=Cref+Δ)、基準値Crefから低圧換算タップ幅Δを減算した数値を基準範囲Wの下限値wLとして設定する(wL=Cref-Δ)。第3実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。
【0088】
D:変形例
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0089】
(1)前述の各形態においては、最大値Vmax(t)と最小値Vmin(t)との平均値を観測値C(t)として算定したが、観測値C(t)を算定する方法は以上の例示に限定されない。例えば、相異なるノードNに対応する複数の電圧V(t)の平均値または中央値を観測値C(t)として算定してもよい。観測値C(t)は、電力系統10における電圧の傾向を表す指標として包括的に表現される。
【0090】
(2)第1実施形態においては、観測値C(t)の標準偏差σに応じて基準範囲Wの幅を設定したが、基準範囲Wの幅の設定に適用される散布度は標準偏差σに限定されない。例えば、時間設定部42は、参照期間における複数の観測値C(t)の分散σ2に応じて基準範囲Wの幅を設定してもよい。具体的には、時間設定部42は、基準値Crefに分散σ2を加算することで基準範囲Wの上限値wUを算定し、基準値Crefから分散σ2を減算することで基準範囲Wの下限値wLを設定する。以上の例示から理解される通り、時間設定部42は、観測値C(t)の散布度(標準偏差σまたは分散σ2)に応じて基準範囲Wの幅を設定する。
【0091】
(3)前述の各形態においては、複数の単位期間にわたり候補時刻Tcを集計した結果(度数分布)を利用して送信時刻Tを設定したが、送信時刻Tを設定する方法は以上の例示に限定されない。例えば、参照期間について特定された候補時刻Tcを観測期間における送信時刻Tとして確定してもよい。以上の説明から理解される通り、時間設定部42は、観測値C(t)の時間変化に応じて抽出条件が成立する時刻を特定し、当該時刻の特定の結果に応じて送信時刻Tを設定する。時刻の特定の結果に応じて送信時刻Tを設定する動作には、複数の単位期間にわたり候補時刻Tcを集計することで送信時刻Tを設定する前述の各形態の処理のほか、抽出条件に応じて特定された候補時刻Tcを送信時刻Tとして採用する処理も含まれる。
【0092】
(4)前述の各形態においては、時間設定部42が送信時刻Tを設定したが、時間設定部42が設定する情報は「時刻」に限定されない。例えば、時間設定部42は、電圧調整装置16に整定値Zを送信すべき時間帯を設定してもよい。具体的には、時間設定部42は、複数の時間帯τのうち度数Kが所定の閾値Kthを上回る時間帯τを、整定値Zを送信すべき時間帯として設定する。整定値送信部44は、時間設定部42が設定した各時間帯τ内の適切な時刻において電圧調整装置16に整定値Zを送信する。以上の説明から理解される通り、時間設定部42は、整定値Zを送信すべき時間(送信時間)を設定する要素として包括的に表現される。「送信時間」は、前述の各形態に例示した送信時刻Tのほか、所定長の期間(すなわち時間帯)も含む概念である。
【0093】
(5)前述の各形態においては、電力系統10に1個の電圧調整装置16が設置された形態を例示したが、複数の電圧調整装置16が電力系統10に設置されてもよい。例えば電圧調整装置16-1と下流側の電圧調整装置16-2とを電力系統10が含む形態を想定すると、電圧調整装置16-1と電圧調整装置16-2との間の区間が、電圧調整装置16-1の管轄区間Hとして画定される。
【0094】
(6)前述の各形態に係る制御システム20の機能は、前述の通り、制御装置21を構成する単数または複数のプロセッサと、記憶装置22に記憶されたプログラムとの協働により実現される。以上に例示したプログラムは、コンピュータが読取可能な記録媒体に格納された形態で提供されてコンピュータにインストールされ得る。記録媒体は、例えば非一過性(non-transitory)の記録媒体であり、CD-ROM等の光学式記録媒体(光ディスク)が好例であるが、半導体記録媒体または磁気記録媒体等の公知の任意の形式の記録媒体も包含される。なお、非一過性の記録媒体とは、一過性の伝搬信号(transitory, propagating signal)を除く任意の記録媒体を含み、揮発性の記録媒体も除外されない。また、配信装置が通信網を介してプログラムを配信する構成では、当該配信装置においてプログラムを記憶する記録媒体が、前述の非一過性の記録媒体に相当する。
【0095】
E:付記
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0096】
本開示のひとつの態様(態様1)に係る制御システムは、電力系統における電圧調整装置を制御する制御システムであって、前記電力系統における電圧の状態を解析する電圧解析部と、前記電圧の状態に応じて送信時間を設定する時間設定部と、整定値を算定する整定値算定部と、前記算定された整定値を前記送信時間に前記電圧調整装置に送信する整定値送信部とを具備する。以上の態様においては、電力系統の電圧状態に応じて送信時間が設定され、電圧調整装置に対して当該送信時間に整定値が送信される。したがって、電力系統の電圧状態に応じた適切な時点において適切な頻度により、電力系統の電圧が適切に維持されるように電圧調整装置を制御できる。
【0097】
態様1の具体例(態様2)において、前記時間設定部は、前記電力系統における電圧の傾向を表す観測値の時間変化について所定の条件が成立する時刻を特定し、当該時刻の特定の結果に応じて前記送信時間を設定する。以上の態様によれば、観測値の時間変化について特定の条件が成立する特定時刻の特定の結果に応じて送信時間が設定されるから、電力系統における電圧の傾向のもとで当該電力系統の電圧を維持するのに適切な時点を、送信時間として設定できる。
【0098】
態様2の具体例(態様3)において、前記所定の条件は、前記観測値が基準範囲の内側の数値から当該基準範囲の外側の数値に変化することを含む。以上の態様によれば、電力系統の電圧が基準範囲から逸脱することが有効に抑制されるように、適切な送信時間を設定できる。
【0099】
態様2または態様3の具体例において、前記所定の条件は、前記観測値が基準範囲の外側の数値から当該基準範囲の内側の基準値に到達することを含む。以上の態様によれば、電力系統の電圧が基準範囲内に維持されるように適切な送信時間を設定できる。
【0100】
態様3または態様4の具体例(態様5)において、前記時間設定部は、前記観測値の散布度に応じて前記基準範囲の幅を設定する。以上の態様によれば、観測値の時間的な変動の度合に応じて送信時間を適切に設定できる。
【0101】
態様2から態様5の何れかの具体例(態様6)において、前記時間設定部は、複数の単位期間の各々について、当該単位期間において前記観測値の時間変化について前記所定の条件が成立する候補時刻を解析し、前記複数の単位期間の各々における前記候補時刻を集計することで、複数の時間帯の各々について前記候補時刻の度数を計数し、前記複数の時間帯の各々における度数に応じて前記送信時間を設定する。以上の態様によれば、複数の単位期間にわたる観測値の時間変化の傾向のもとで電力系統の電圧を適切な範囲内に維持できるように送信時間を設定できる。
【0102】
態様1から態様6の何れかの具体例(態様7)において、前記電力系統は、無効電力補償装置を含み、前記電圧解析部は、前記電圧調整装置による電圧の調整と、前記無効電力補償装置による無効電力の供給とを停止したと仮定された状態のもとで、前記電力系統における電圧の状態を解析する。以上の態様においては、電圧調整装置による電圧の調整と無効電力補償装置による無効電力の供給とが停止した状態が仮定される。したがって、電力系統が無効電力補償装置を含む形態においても、電力系統の電圧状態を適切に特定できる。
【0103】
態様1から態様7の何れかの具体例(態様8)において、前記整定値算定部は、過去の単位期間における前記送信時間以降の各時間における送出電圧が目標電圧に近付くように、前記電力系統における電圧の状態に応じて、当該送信時間において送信される前記整定値を算定する。以上の態様においては、電力系統の過去の電圧状態の傾向のもとで、送信時間以降の各時間において電力系統の電圧が適切な範囲に維持されるように、整定値を適切に算定できる。
【0104】
本開示のひとつの態様(態様9)に係る制御方法は、電力系統における電圧調整装置を制御する方法であって、前記電力系統における電圧の状態を解析し、前記電圧の状態に応じて送信時間を設定し、整定値を算定し、前記算定された整定値を前記送信時間に前記電圧調整装置に送信する。
【符号の説明】
【0105】
100…電力システム、10…電力系統、11…遮断機、12…電柱、13…計測器、14…無効電力補償装置、15…分散型電源、16…電圧調整装置、18…需要家、20…制御システム、21…制御装置、22…記憶装置、23…通信装置、24…操作装置、25…表示装置、30…通信網、41…電圧解析部、42…時間設定部、43…整定値算定部、44…整定値送信部。
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