(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128574
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】フィルムの水分バリア性を評価する方法
(51)【国際特許分類】
G01M 3/38 20060101AFI20240913BHJP
G01N 15/08 20060101ALI20240913BHJP
G01M 3/04 20060101ALN20240913BHJP
【FI】
G01M3/38 H
G01N15/08 C
G01M3/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037605
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河西 美理
(72)【発明者】
【氏名】南郷 瞬也
(72)【発明者】
【氏名】小沢 和美
(72)【発明者】
【氏名】奥山 真平
(72)【発明者】
【氏名】高山 圭将
【テーマコード(参考)】
2G067
【Fターム(参考)】
2G067AA36
2G067BB15
2G067BB31
2G067CC02
2G067DD10
(57)【要約】
【課題】金属腐食法によりフィルムの水分バリア性を評価する方法において、フィルムにダメージを与えることが無く、高精度の測定が可能であり、また、短時間での測定が可能であり、さらには欠陥箇所の同定も可能な方法を提供する。
【解決手段】水分と反応して腐食する腐食性金属の薄膜1が、下地シート3の一方の面上に設けられている水分バリア性評価用基板4と、2枚の評価フィルム5a,5bとを用意し、水分バリア性評価用基板4の両面に、2枚の評価フィルム5a,5bが互いに対面するように封止樹脂7により貼着され、且つ、互いに対面するように配置された評価フィルム5a,5bの間に、水分バリア性評価用基板4が封止樹脂7中に埋め込まれた構造の試験セル10を作製し、試験セル10を、恒温、恒湿下に置き、試験セル10中に存在する水分バリア性評価用基板4について、前記腐食性金属の経時による光学的変化を測定することにより、評価フィルム5a,5bの水分バリア性を評価する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分と反応して腐食する腐食性金属の薄膜が、下地シートの一方の面上に設けられている水分バリア性評価用基板と、2枚の評価フィルムとを用意し、
前記水分バリア性評価用基板の両面に、前記2枚の評価フィルムが互いに対面するように封止樹脂により貼着され、且つ、互いに対面するように配置された評価フィルムの間に、前記水分バリア性評価用基板が前記封止樹脂中に埋め込まれた構造の試験セルを作製し、
前記試験セルを、恒温、恒湿下に保持し、該試験セル中に存在する前記水分バリア性評価用基板について、前記腐食性金属の経時による光学的変化を測定することにより、前記評価フィルムの水分バリア性を評価する方法。
【請求項2】
前記評価フィルムは、前記下地シートよりも大面積である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水分バリア性評価用基板において、前記腐食性金属の薄膜は、50~500nmの厚みを有している請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記水分バリア性評価用基板において、前記腐食性金属の薄膜は、1mm2以上の面積を有している請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記封止樹脂が、ゴム系樹脂、エポキシ系樹脂または(メタ)アクリル系樹脂である請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム(特にバリアフィルム)の水分バリア性を評価する方法に関するものであり、より詳細には、金属腐食法によりフィルムの水分バリア性を評価する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック製のフィルムやシートなどは、食品、医薬品、電子部品などの包装に広く用いられているが、近年では、有機ELデバイス基板への適用なども検討されるようになっており、特に透明フィルムなどの基材は、画像表示に影響を与えないため、画像表示用のデバイスなどにも実用されている。
【0003】
プラスチック製の基材は、金属やガラスなどに比して柔軟性、軽量性に優れており、成形加工も容易であるという利点を有しているが、酸素や水分に対する透過性が高いため、酸素バリア性や水蒸気に対するバリア性はその材料の重要な特性である。従って、これらバリア性のさらなる向上を求めて種々の研究開発がなされている。
【0004】
ところで、有機ELデバイスなど、各種電子機器の基板などへの適用に際しては、食品包装などに比して格段に高いレベルの水分バリア性(水蒸気バリア性とも呼ばれる)が要求される。水分バリア性の評価方法としては、カップ法(重量法、JIS-Z-0208)やモコン法(IR吸収法、JIS-K-7129)などが知られているが、その検出限界は10-2g/m2/day程度であり、包装分野で使用される基材の特性評価としては、この程度のレベルでの測定限界で十分であるが、電子機器の基板などではさらに高い水分バリア性が要求されるため、さらに微量の水分透過を測定し得る評価方法が必要となっている。また、包装分野においても、最近では、プラスチック基材の表面にプラズマCVDなどの手法によってケイ素酸化物(SiOx)などの蒸着膜を形成した基材が開発されており、このような基材は、プラスチック単独で形成されている基材に比して著しくバリア性が向上しており、このような基材のバリア性評価の観点からも、さらに検出限界が高められ、微量の水分透過を測定し得る水分バリア性の評価方法が必要となっている。
【0005】
カップ法やモコン法などに比して、さらに微量の水分透過量を測定し得る方法としては、クーロメトリック法、圧力法など、種々の方法が知られているが、何れも装置が著しく高額であったり、サンプルの破損を生じ易かったり、研究開発の分野での利用が困難である。
【0006】
また、最近では、Caなどの水分腐食性金属の腐食を利用した方法(以下、金属腐食法と呼ぶ)が提案されている(特許文献1~4参照)。これらの方法は、水分バリア性を評価すべき透明フィルムの一方の面に、水腐食性金属の薄膜を形成し、この薄膜の表面を水不透過性金属からなる水分遮断層(例えばAl蒸着層)で被覆して評価用のサンプルとし、これを水分含有雰囲気中に保持し、水腐食性金属の光学的変化を測定し、この光学的変化から透明フィルムを透過した水分透過量を算出するというものである。この方法の検出限界は、原理的には、10-6g/m2/dayに近いレベルにあり、比較的容易に測定できるばかりか、基材の欠陥部分(水蒸気バリア性の低い部分)を検知できるという利点もある。
【0007】
しかしながら、公知の金属腐食法による水分バリア性の評価方法には、何れも解決課題が残されており、改善が必要とされている。
【0008】
例えば、特許文献1,2では、水腐食性金属の薄膜を形成する際の熱負荷や真空引きによりバリアフィルム(評価フィルム)にクラック発生などのダメージを与える恐れがあり、高精度の測定という点で改善の余地がある。また、バリアフィルムを通って水腐食性金属の薄膜に流れる水分量が少ないため、測定に時間を要するという問題もある。
【0009】
また、特許文献3では、バリアフィルムにダメージを与えるという問題は解決されているが、測定に時間を要するという問題が残されている。
【0010】
さらに、特許文献4では、バリアフィルムを透過した水分は、中空空間を介して水腐食性金属の薄膜に導入される。即ち、水腐食性金属の薄膜の全体に、ほぼ一様に水分が導入されるため、バリアフィルムの欠陥部分を同定することができない。また、バリアフィルムの一部にダメージが与えられるため、高精度の測定という点でも課題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3958235号
【特許文献2】特許第5359575号
【特許文献3】特許第6635033号
【特許文献4】特開2007-254000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の課題は、金属腐食法によりフィルムの水分バリア性を評価する方法において、フィルムにダメージを与えることが無く、高精度の測定が可能であり、また、短時間での測定が可能であり、さらには欠陥箇所の同定も可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、水分と反応して腐食する腐食性金属の薄膜が、下地シートの一方の面上に設けられている水分バリア性評価用基板と、2枚の評価フィルムとを用意し、
前記水分バリア性評価用基板の両面に、前記2枚の評価フィルムが互いに対面するように封止樹脂により貼着され、且つ、互いに対面するように配置された評価フィルムの間に、前記水分バリア性評価用基板が前記封止樹脂中に埋め込まれた構造の試験セルを作製し、
前記試験セルを、恒温、恒湿下に保持し、該試験セル中に存在する前記水分バリア性評価用基板について、前記腐食性金属の経時による光学的変化を測定することにより、前記評価フィルムの水分バリア性を評価する方法が提供される。
【0014】
本発明の方法においては、以下の態様が好適に採用される。
(1)前記評価フィルムは、前記下地シートよりも大面積であること。
(2)前記水分バリア性評価用基板において、前記腐食性金属の薄膜は、50~500nmの厚みを有していること。
(3)前記水分バリア性評価用基板において、前記腐食性金属の薄膜は、1mm2以上の面積を有していること。
(4)前記封止樹脂が、ゴム系樹脂、エポキシ系樹脂または(メタ)アクリル系樹脂であること。
【発明の効果】
【0015】
本発明方法においては、水分バリア性の評価を行うべき評価フィルム(例えばバリアフィルム)が試験セルに2枚貼り付けられている。このことから理解されるように、水分が透過する評価フィルムの面積が2倍になっており、腐食性金属の薄膜に導入される水分量が2倍となるため、水分の導入による腐食性金属の光学的変化を短時間で正確に測定することができる。
【0016】
また、腐食性金属の薄膜は、基板に設けられるため、腐食性金属の薄膜の形成時による熱履歴や真空引きなどによる評価フィルムへのダメージは無く、評価フィルムの水分バリア性を精度よく評価することができる。
【0017】
さらに、本発明においては、各評価フィルムと腐食性金属の薄膜との間には、封止樹脂(及び下地シート)が介在している。両者の間が中空空間である場合には、評価フィルムを透過した水分が中空空間内に一様に拡散してしまうため、腐食性金属の薄膜には水分が一様に導入されてしまうため、水分の透過し易い欠陥部分を同定することはできない。しかるに、本発明では、評価フィルムを透過した水分が封止樹脂を通って腐食性金属の薄膜に導入されるため、該薄膜中の腐食性金属の水分との反応による光学的変化が、評価フィルム中の水分が透過し易い箇所に対応し、該箇所を同定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の評価方法に用いる試験セルの構造を簡略して示す側断面図である。
【
図2】
図1の試験セルにおける腐食性金属の薄膜中の水分との反応による腐食性金属の光学的変化を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<試験セルの構造>
図1を参照して、本発明の水分バリア性評価方法に用いる試験セルは、全体として10(或いは11)で示されており、この試験セル10(或いは11)は、金属腐食性金属の薄膜1が下地シート3の一方の面に設けられた構造の水分バリア性評価用基板4を備えている。
【0020】
このような試験セルの大きな特徴は、上記評価用基板4が封止樹脂7に埋め込まれており、外部には露出しておらず、且つ2枚の評価フィルム5(5a、5b)が、互いに対面するように、上記の封止樹脂7に貼着されている点にある。即ち、この評価フィルム5が、水分バリア性が評価される評価サンプルである。
尚、
図1(a)での試験セル10では、封止樹脂7の厚みが一様となっているが、
図1(b)での試験セル11では、封止樹脂7の厚みが、評価用基板4の厚みよりも薄く形成されている例である。特に、側面からの水分流入の影響を完全に回避する場合には、側面部分の封止樹脂の長さd2’が長い
図1(b)の形態の試験セル11が好適である。
【0021】
即ち、かかる試験セル10,11においては、封止樹脂7が水蒸気透過性の材料から形成されており、この試験セル10の外部から評価フィルム5a、5bを透過した水分が腐食性金属の薄膜1に導入される構造となっている。この場合、評価フィルム5は、
図1から明らかなように、封止樹脂7の上面及び下面を被覆するように貼着されている。
【0022】
水分バリア性評価用基板4;
この試験セル10,11において、水分バリア性評価用基板4は、腐食性金属の薄膜1が下地シート3の一方の面に形成された構造を有している。
【0023】
薄膜1を形成する腐食性金属としては、容易に水と反応する金属、例えばカルシウム、マグネシウム等を使用することができるが、通常は、最も水との反応性が高く、且つ安価であるという観点から、カルシウムが使用される。即ち、評価フィルム5(5a,5b)を透過した水分により、薄膜1を形成する腐食性金属が腐食して外観が光学的に変化する。即ち、水分バリア性評価用基板4に設けられている腐食性金属の薄膜1の光学的変化を観察することにより、評価フィルム5の水分バリア性を評価するわけである。
【0024】
即ち、薄膜1を形成している水腐食性金属が評価フィルム5a,5b、封止樹脂7及び下地シート3を透過した水分(水蒸気)によって腐食し、下記式(1)にしたがい水酸化物を形成する。
M + mH2O → M(OH)m+(m/2)H2 (1)
式中、Mは、腐食性金属を示し、
mは、腐食性金属の価数である。
例えば、腐食性金属としてCaを用いた場合には、上記反応は、下記式(1’)で表されることとなる。
Ca+2H2O→Ca(OH)2+H2 (1’)
【0025】
上記のようにして薄膜1を形成している腐食性金属が水分の侵入により経時的に腐食すると、光学的変化が生じる。例えば光の散乱等が変化して、透明性や色等に変化が生じる。この光学的変化を測定することにより、評価フィルム5(5a,5b)の水分バリア性を評価するわけである。この光学的変化による水分バリア性の評価については、後述する。
【0026】
このような腐食性金属の薄膜1の厚みは、50~500nmの範囲にあるのが好ましい。この厚みが薄すぎると、腐食性金属と水分との反応による光学的変化が小さくなり、光学的変化を正確に測定することが困難となる。また、薄膜1の厚みが過度に厚い場合には、格別のメリットがないばかりか、成膜時の熱応力が大きくなり、下地シート3からの剥離を生じ易くなる。
【0027】
また、上記薄膜1の面積(
図2の平面図参照)は、通常、1mm
2以上、特に4mm
2以上であることが好ましい。薄膜1の面積がある程度以上大きいことにより、腐食性金属と水分との反応による光学的変化を正確に測定することができるばかりか、光学的変化が迅速に生じる場所(即ち、評価フィルム5中の水分を透過し易い箇所)の同定が容易となる。
【0028】
上述した腐食性金属の薄膜1は、下地シート3を下地としての蒸着により成膜されるが、この蒸着は、真空蒸着装置を用いて実行される。水腐食性金属が水分(水蒸気)と接触しないようにして薄膜1を形成しなければならないからである。例えば、この真空蒸着装置内に水腐食性金属の蒸着源(例えば金属カルシウム)を設けての真空蒸着により下地シート3の一方の面上に、所定の面積及び厚みを有する腐食性金属の薄膜1を形成する。これにより成膜時における水腐食性金属の腐食を防止することができる。
【0029】
前述した水腐食性金属の薄膜1の下地となる下地シート3は、種々の熱可塑性樹脂や熱硬化性材料のほか、ガラス板も用いることができ、これらの表面にコーティングもしくは表面処理が施されていてもよい。樹脂材料として好適なものは、例えば各種のオレフィン系樹脂やポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂であり、薄膜1を成膜する際の熱履歴に対する耐久性を考慮すれば、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル樹脂が最も好ましい。
【0030】
また、下地シート3としては、上述した材料のように光線透過性を有するもののみならず、例えば金属薄膜や金属箔を付した光線不透過性のものも使用することができる。
【0031】
さらに、下地シート3の水蒸気透過度は評価内容に合わせて任意のものを用いてよい。たとえば評価フィルム5a、5bの合計の水蒸気透過量を評価する場合、評価フィルム5bを透過した水分が薄膜1に直接(評価フィルム5bおよび下地シート3の面に対して垂直の方向)に導入されるのに十分な水蒸気透過度を持つことが望ましい。しかしながら上記評価において下地シート3の水蒸気透過度が大きすぎる場合、評価フィルム5b側から透過した水分が下地シート3を介して拡散してしまい、欠陥箇所を精確にとらえることは困難となる。
その他の例として、下地シート3として水分不透過性のガラスを用いた場合には、評価フィルム5bを透過した水分は薄膜1へは直接には導入されず、封止樹脂7を介して供給されるため、たとえば薄膜1の端部から反応する様子が観測される。このように水分の導入経路も含めた評価が可能であることから、下地シート3は評価内容に合わせて任意の水蒸気透過度のものを使用できるが、一般的には、40℃、90%RHで100g/m2/day以下の水蒸気透過度であることが好適である。
【0032】
また、下地シート3は、薄膜1を成膜する際に熱変形しない程度の厚みを有していることが好ましく、一般に、50~1000μm程度の厚みに設定されている。尚、かかる下地シート3は、薄膜1の下地となるものであるため、当然、薄膜1よりも大面積である。
【0033】
上述した腐食性金属の薄膜1と下地シート3とからなる水分バリア性評価用基板4は、封止樹脂7中に埋め込まれており、この基板4を挟むようにして、水分バリア性を評価する評価フィルム5が2枚、封止樹脂7に貼着される。
【0034】
評価フィルム5;
本発明において、水分バリア性を評価する評価フィルム5は2枚使用され(評価フィルム5a、評価フィルム5b)、2枚は同一のものでも異なるものでもよい。例えば
図1に示されているように、封止樹脂7の上端面には評価フィルム5aが貼り付けられており、封止樹脂7の下端面には、評価フィルム5bが貼り付けられている。すなわち、これら2枚の評価フィルム5a、5bの間に封止樹脂7を介して薄膜1が覆われるように配置されている。
【0035】
また、水分バリア性評価用基板4が封止樹脂7中に埋め込まれていることから理解されるように、評価フィルム5(5a、5b)は、下地シート3よりも大面積であり、従って薄膜1よりも大面積となっている。
【0036】
本発明で用いる試験セル10,11は、評価フィルム5を2枚使用し、2枚の評価フィルム5(5a,5b)を透過した水分が水腐食性金属の薄膜1に導入されるような構造となっている。
【0037】
評価フィルム5a、5bとして同一のフィルムを用いた場合には、従来公知の方法の様に、1枚の評価フィルムを透過した水分による水腐食性金属の腐食を測定する方法に比して、2倍の水分が水腐食性金属の薄膜1に導入されるため、腐食の速度が2倍となっており、より迅速に水分バリア性の評価を行うことが可能となっている。
【0038】
評価フィルム5a、5bとしてそれぞれ異なるフィルムを用いて評価することも可能である。一例として、評価フィルム5aとして透明色のフィルムを用い、評価フィルム5bとして非透明色のフィルムを用いる場合、評価フィルム5aの側に薄膜1が位置するように試験セル10,11を作製し評価フィルム5aの側から薄膜1の変化を観察することで、評価フィルム5a、5bの総合的な評価が可能であり、従来公知の方法の様に、1枚の評価フィルムを透過した水分による水腐食性金属の腐食をそれぞれ測定する方法に比して、より迅速に水分バリア性の評価を行うことが可能となっている。
【0039】
また、
図1(b)に示されている様な試験セル11のように封止樹脂7の厚みd1’をたとえば下地シート3の厚み以下となるような任意の厚みに調整した形状を作製しても同様の評価が可能である。
【0040】
封止樹脂7;
評価フィルム5(5a,5b)の貼着及び水分バリア性評価用基板4の埋め込みに用いる封止樹脂7は、水腐食性金属の腐食による光学的変化の測定を妨げることが無い程度の透明性と評価フィルム5(5a,5b)を透過した水分を薄膜1に導入し得る適度な水分透過性を有するものであり、それ自体公知の接着剤や粘着剤を使用することができる。
【0041】
接着剤としては、これに限定されるものではないが、ビニル基などの不飽和脂肪族基を有する(メタ)アクリル系の光硬化型或いは熱硬化型の接着剤、エポキシ系の熱硬化型或いは化学硬化型の接着剤などが代表的である。
また、粘着剤は、評価フィルム5(5a,5b)を引き剥がし可能に貼着する場合に好適であり、(メタ)アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤などが好適に使用される。
上記接着剤および粘着剤の水蒸気透過度については、それ自体の透過度が著しく高いものを用いた場合、封止樹脂7を透過した水分により薄膜1の水腐食が発生し、本来評価すべき評価フィルム5a、5bの評価ができなくなってしまうため、一定のバリア性が必要であり、特にゴム系粘着剤、エポキシ系接着剤が好適に使用される。
【0042】
また、封止樹脂7は評価フィルム5と一定以上の密着性を有していることが必要である。密着性が不十分の場合、評価フィルム5と封止樹脂7との界面で剥離を生じ精確な評価ができないだけでなく、封止樹脂7と評価フィルム5の界面の空隙を透過した水分により薄膜1の水腐食が生じてしまうためである。具体的には0.01N/mm以上が好ましく、0.02N/mm以上がより好ましく、0.04N/mm以上が最も好ましい。
【0043】
上述した構造の試験セル10および11では、上記封止樹脂7の厚みd1およびd1’は、側面からの水分流入による薄膜1の腐食を抑制し、精度よく水分バリア性を評価するために、薄膜1と封止樹脂7の側面との距離d2およびd2’よりも厚みd1およびd1’が小さいこと、例えばd2>10d1であることが好適である。このようにすることにより、側面からの水分流入による薄膜1の腐食を有効に抑制し、測定精度を高めることができる。
【0044】
さらに、側面からの水分流入による薄膜1の腐食を確実に防止するために、封止樹脂7の側面に、水分不透過性の金属箔を貼着することもできる。
【0045】
上述した構造の試験セル10および11は、例えば、評価フィルム5の一方の面に、半硬化状態の封止樹脂を塗布もしくは粘着剤を貼付し、その上に水分バリア性評価用基板4を重ね、さらに、水分バリア性評価用基板4を埋め込むようにして封止樹脂を塗布もしくは粘着剤を貼付し、その上にもう一方の評価フィルム5を貼着し、必要により光或いは熱により封止樹脂を硬化させることにより製造される。尚、このような作業は、封止樹脂の含水を防止するために、全て乾燥雰囲気下で行われる。
【0046】
<水分バリア性の評価>
上述した試験セル10,11を用いての評価フィルム5についての水分バリア性の評価は、次のようにして行われる。
【0047】
先ず、試験セル10(或いは11)を、温度及び湿度が一定条件に保持された恒温恒湿槽に保持し、一定時間毎に試験セル10(或いは11)を取出し、評価フィルム5a或いは5bの側から光学装置で薄膜1の腐食状態を観察する。光学装置としては、レーザ顕微鏡、光学顕微鏡、デジタルカメラ、スキャナなど種々の光学系を用いることができる。
【0048】
即ち、経時と共に、評価フィルム5a、5bでは、薄膜1(水腐食性金属)の腐食が進行していく。この腐食は、評価フィルム5a、5bの内、水分バリア性の低い箇所或いはクラック等の欠陥が存在する箇所から進行していく。この腐食は、前述した式(1)或いは式(1’)で表され、腐食による水酸化物の生成によって薄膜1中に生じる光学的変化を、前述した光学装置で観察するわけである。
【0049】
図2の薄膜1の平面図には、光学装置により観察される光学的変化の一例が示されている。
即ち、試験セル10(或いは11)を恒温恒湿槽に保持すると、経時と共に、評価フィルム5a、5bを透過した水分により薄膜1の腐食が進行し、光学特性の変化により、例えば
図2(A)に示される状態が観察される。
図2(A)において、Xで示す部分が、腐食が進行していない領域であり、Yで示す領域が、腐食が進行している領域である。例えば、腐食性金属がCaの場合、腐食が生じていない状態では、薄膜1は金属光沢を呈しているが(
図2(A)のXで示す領域)、腐食して水酸化カルシウムになると、その部分は透明となる(
図2(A)のYで示す領域)。
【0050】
しかるに、腐食している領域Yは、評価フィルム5a、5bの水分バリア性の低い部分に対応しているから、
図2(A)より、評価フィルム5a、5bの水分バリア性の低い部分(欠陥部分)を同定することができる。
【0051】
また、さらに時間が経時すると、最終的には、薄膜1の全体が腐食し、
図2(B)に示されているように、薄膜1の全体がYで示されている領域となる。この状態の変化から評価フィルム5(5a、5b)の水蒸気透過度を算出し、水分バリア性を評価することができる。
【0052】
たとえば、腐食により生じた金属水酸化物のモル数Zは下式で表される。
Z(モル数)=[薄膜1の面積(mm2)]×[薄膜1の厚み(mm)]×
[薄膜1の密度(g/mm3)]/[薄膜1の原子量(g/mol)]
上記Zを用いて、評価フィルムから透過した単位面積当たりの合計水分量を下記式より算出できる。
合計水分量Tw(g/m2)=Z・18・m×(106/A)
また、評価フィルム5a、5bとして同一のフィルムを用い、水腐食の量が2枚のフィルムから同様に透過した水分によるものとすれば水蒸気透過度を下記式より算出できる。
水蒸気透過度[(g/m2/day)]=Tw×(24/T)/2
上記式中、Zは、上記で算出された腐食により生じた金属水酸化物のモル数、
mは、水腐食性金属(例えばCa)の価数、
Aは、水腐食性金属の薄膜1の面積(mm2)
Tは、水蒸気含有雰囲気中での試験セル10の保持時間(hour)
【0053】
本発明では、評価フィルム5として同一のものを評価フィルム5a、5bとして使用した場合、薄膜1の全体が腐食するまでの時間Tが1/2に短縮されているため、短時間で水分バリア性を評価することが可能となっている。
【0054】
尚、試験セル10(或いは11)を保持する恒温恒湿槽での湿度、及び温度条件は、適度な濃度で水蒸気を含有している限り、特に制限されるものではないが、水蒸気濃度があまり低かったり温度が低かったりすると、保持時間が長くなるので、評価フィルムの水蒸気透過度を測定する場合、一般的には、相対湿度が50%以上、温度が35℃以上の雰囲気を適用するのがよい。この場合、雰囲気温度は、評価フィルム5或いは下地シート3が変形しない程度の温度に設定すべきである。
【0055】
本発明の水分バリア性評価方法は、任意のフィルムを評価フィルム5として使用することができるが、特に無機金属膜(例えばケイ素酸化物膜やアルミ酸化物などの蒸着膜)を備えたバリアフィルムの評価に好適である。このようなバリアフィルムは、水分透過性が低く、従来法では測定に長時間要するが、本発明では、測定を短時間で行うことができるからである。
【実施例0056】
本発明を次の実験例で説明する。
【0057】
<水分バリア性評価用基板4の作製手順>
まず下地シート3として、厚みが100μmのPETフィルムを用意し、この下地シートの一方の面に、薄膜1として真空蒸着装置を用いてカルシウム薄膜(水腐食性金属の薄膜)を形成した。上記PETフィルムはカルシウム薄膜と残留水分との反応を抑制するため、カルシウム薄膜の形成前に十分な乾燥処理を行ってから使用する。
尚、カルシウム薄膜は金属カルシウムを蒸着源として使用し、所定のマスクを介して蒸着することで任意の大きさの薄膜を形成することができる。下記実施例および比較例にて作製した試験セルの一覧を表1に示した。
【0058】
<実施例1>
評価フィルム5a、5bとしてそれぞれガスバリアフィルム(厚み100μmのPETフィルムに厚み100nmのケイ素酸化膜(SiOx膜)が形成されているもの)を準備し試験セルを作製した。
まず、下地シート3として厚み100μmのPETフィルムを準備し、薄膜1としてカルシウムを厚みが100nmとなるように成膜し、水分バリア評価用基板4とした。次いで上記の評価フィルム5aの片面に、封止樹脂7としてエポキシ系樹脂を均一に塗工した。作製したバリア評価用基板4を評価フィルム5aの封止樹脂7が塗布されている面に設置し、さらに封止樹脂7で評価用基板4を埋めるように均一に塗工する。その後評価フィルム5bのガスバリアフィルムが形成されている面が封止樹脂7に面する向きで貼り合わせたのち、紫外線および熱を用いて前記封止樹脂7を硬化させることで、試験セル10を作製した。
【0059】
<実施例2>
封止樹脂としてゴム系粘着剤を用いた以外には実施例1と同様にして試験セル10を作製した。
【0060】
<実施例3>
下地シート3として厚み100μmのポリイミドフィルムを用いた以外には実施例1と同様にして試験セル10を作製した。
【0061】
<実施例4>
薄膜1として厚み50nmのカルシウム薄膜を形成した以外は実施例1と同様にして試験セル10を作製した。
【0062】
<実施例5>
薄膜1として厚み30nmのカルシウム薄膜を形成した以外は実施例1と同様にして試験セル10を作製した。
【0063】
<実施例6>
下地シート3として厚み150μmのガラス板を用いた以外は実施例1と同様にして試験セル10を作製した。
【0064】
<実施例7>
評価フィルム5bとして厚み30μmのアルミ箔を用いた以外には実施例1と同様にして試験セル10を作製した。
【0065】
<比較例1>
厚み150μmのガラス板上に、厚み100nmのカルシウム薄膜を形成し、水分バリア評価用基板を作製した。評価フィルム5aとしてガスバリアフィルムを準備し、評価フィルム5aの片面に、封止樹脂としてエポキシ系樹脂を均一に塗工したのち、上記の方法で形成した水分バリア評価用基板のカルシウム薄膜が設けられている面と封止樹脂が対面する向きで貼り合わせ、試験セル12とした。なお、試験セル12は厚み150μmのガラス板と評価フィルム5aによりカルシウム薄膜が覆われた構造となっており、評価フィルム5bは用いていない。
【0066】
<比較例2>
評価フィルム5aとしてガスバリアフィルムを準備し、評価フィルム5aのケイ素酸化膜が付与されている面に対し真空蒸着を用いて厚み100nmのカルシウム薄膜を形成し、水分バリア評価用基板を作製した。次いで、厚み150μmのガラス板の片面に、封止樹脂としてエポキシ系樹脂を均一に塗工したのち、上記の方法で形成した水分バリア評価用基板のカルシウム薄膜が設けられている面と封止樹脂が対面する向きで貼り合わせ、試験セル13とした。なお、試験セル13は評価フィルム5aと厚み150μmのガラス板によりカルシウム薄膜が覆われた構造となっており、評価フィルム5bは用いていない。
【0067】
<試験セルの評価>
前述の手順で作製した試験セルを恒温恒湿槽にて40℃90%の環境で保管し、カルシウム薄膜が消失するまでの様子を経時で目視観察した。特に48時間、96時間および192時間後については、膜外観の目視観察に加えて顕微鏡で観察を行い、カルシウム膜の反応面積から各経過時間における合計水分量を算出した。なお、実施例1~6、および比較例1、2で作製したセルについては透過顕微鏡を用いて観察を行い、実施例7で作製したセルについては反射顕微鏡を用いて観察を行った。
【0068】
<評価基準>
本発明の効果である評価の迅速性は、合計評価時間[hours]で表し、各セルにおいて成膜したカルシウム膜がすべて消失するのに要した時間の長さとして評価した。評価結果を表2に示した。
【0069】
【0070】
【0071】
実施例1~3について、比較例1と対比して合計評価時間を短縮できており、本発明の手法が優れていることが示された。実施例4のように相対的にカルシウム厚みが小さい場合には反応完了までの時間は当然短くなるが、実施例5のように厚みを極端に小さくするとセル作製時点で薄膜1の色味(外観)が薄いものとなり、恒温、恒湿下での保管前後における変化を比較的観測しづらく、精確性に劣る。実際には適切なカルシウム厚みは評価フィルムの水蒸気透過度も踏まえて決定する必要があるが、たとえば無機金属膜を備えた高いバリア性を有するフィルムを評価する場合など、迅速性と精確性の両者が求められる評価においては、カルシウム厚みを50nm以上設けることが望ましいということを示している。
【0072】
また実施例6においては、薄膜の端部から反応する様子が観察され、下地シート3の水蒸気透過度による透過現象の違いを観測できている。これは下地シート3が水分不透過性であることにより、評価フィルム5bの側からの透過水分が直接(フィルム平面方向に対して垂直の方向)には薄膜1へ供給されていないことを示している。
【0073】
比較例2は評価フィルム1枚のみを評価する方法であるが、カルシウム膜をバリアフィルムに直接成膜したことによりフィルムにクラックが発生し、クラック箇所起因の腐食が生じたため正確な評価が困難であった。同様に1枚のみのフィルムを評価する方法として、実施例7のように評価フィルム5bとして水分不透過性のものを用いることで、フィルムに直接薄膜1を成膜せずに、すなわち評価フィルムへの負荷なく、バリアフィルムの評価をすることも可能であった。