(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128584
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】軟磁性金属粒子、圧粉磁心および磁性部品
(51)【国際特許分類】
H01F 1/24 20060101AFI20240913BHJP
H01F 1/33 20060101ALI20240913BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240913BHJP
H01F 3/08 20060101ALI20240913BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240913BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240913BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20240913BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F1/33
H01F27/255
H01F3/08
B22F3/00 B
B22F1/00 Y
B22F1/16 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037620
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】谷口 友祐
(72)【発明者】
【氏名】中澤 遼馬
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大塚 翔太
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕之
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018AA08
4K018AA10
4K018AA24
4K018AA40
4K018BA13
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC08
4K018BC11
4K018BC13
4K018BC33
4K018CA02
4K018CA09
4K018FA08
4K018HA04
4K018KA44
4K018KA58
4K018KA70
5E041AA05
5E041AA11
5E041AA19
5E041BB03
5E041BC01
5E041BC08
5E041CA01
5E041HB14
5E041NN05
(57)【要約】
【課題】絶縁膜の耐圧性および耐湿性が高い軟磁性金属粒子を提供する。
【解決手段】コア粒子と、コア粒子の表面に形成される絶縁膜と、を有する軟磁性金属粒子である。絶縁膜が第1膜および第2膜を有する。第2膜が第1膜の外側に位置する。第1膜がPおよびZnを含む。第2膜がSiおよびOを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア粒子と、前記コア粒子の表面に形成される絶縁膜と、を有し、
前記絶縁膜が第1膜および第2膜を有し、
前記第2膜が前記第1膜の外側に位置し、
前記第1膜がPおよびZnを含み、前記第2膜がSiおよびOを含む軟磁性金属粒子。
【請求項2】
前記第1膜の膜厚をd1、前記第2膜の膜厚をd2として、d2/d1が0.10以上9.00以下である請求項1に記載の軟磁性金属粒子。
【請求項3】
前記第1膜の膜厚をd1、前記第2膜の膜厚をd2として、d1+d2が10nm以上200nm以下である請求項1または2に記載の軟磁性金属粒子。
【請求項4】
前記コア粒子が、ビッカース硬度が700以上である金属を含む請求項1または2に記載の軟磁性金属粒子。
【請求項5】
前記第1膜と前記第2膜との間に中間領域を有する請求項1または2に記載の軟磁性金属粒子。
【請求項6】
前記第1膜が結晶性を示さず、かつ、前記第2膜が結晶性を示す請求項1または2に記載の軟磁性金属粒子。
【請求項7】
請求項1または2に記載の軟磁性金属粒子を含む圧粉磁心。
【請求項8】
請求項1または2に記載の軟磁性金属粒子を含む磁性部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、軟磁性金属粒子、圧粉磁心および磁性部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、偏平粉末のアスペクト比を制御し、かつ、偏平粉末を被覆する絶縁被覆がチタンアルコキシド類を含む重合物からなることが記載されている。
【0003】
特許文献2には、複数の種類の酸化膜により被覆された軟磁性合金粒子を含む磁性材料に関する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/033825号
【特許文献2】特開2018-11043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の一実施形態は、絶縁膜の耐圧性および耐湿性が高い軟磁性金属粒子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係る軟磁性金属粒子は、
コア粒子と、前記コア粒子の表面に形成される絶縁膜と、を有し、
前記絶縁膜が第1膜および第2膜を有し、
前記第2膜が前記第1膜の外側に位置し、
前記第1膜がPおよびZnを含み、前記第2膜がSiおよびOを含む。
【0007】
上記軟磁性金属粒子において、前記第1膜の膜厚をd1、前記第2膜の膜厚をd2として、d2/d1が0.10以上9.00以下であってもよい。
【0008】
上記いずれかの軟磁性金属粒子において、前記第1膜の膜厚をd1、前記第2膜の膜厚をd2として、d1+d2が10nm以上200nm以下であってもよい。
【0009】
上記いずれかの軟磁性金属粒子において、前記コア粒子が、ビッカース硬度が700以上である金属を含んでもよい。
【0010】
上記いずれかの軟磁性金属粒子において、前記第1膜と前記第2膜との間に中間領域を有してもよい。
【0011】
上記いずれかの軟磁性金属粒子において、前記第1膜が結晶性を示さなくてもよく、かつ、前記第2膜が結晶性を示してもよい。
【0012】
本開示の一実施形態に係る圧粉磁心は上記いずれかの軟磁性金属粒子を含む。
【0013】
本開示の一実施形態に係る磁性部品は上記いずれかの軟磁性金属粒子を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の一実施形態に係る圧粉磁心の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態を、図面を参照しながら説明する。以下に説明する本開示の実施形態は、本開示を説明するための例示である。本開示の実施形態に係る各種構成要素、例えば数値、形状、材料、製造工程などは、技術的に問題が生じない範囲内で改変したり変更したりすることができる。
【0016】
また、本開示の図面に表された形状等は、実際の形状等とは必ずしも一致しない。説明のために形状等を改変している場合があるためである。
【0017】
<軟磁性金属粒子>
本開示の一実施形態に係る軟磁性金属粒子は
図1に示すように、コア粒子11と、コア粒子11の表面11aに形成される絶縁膜13と、を有する。絶縁膜13が第1膜13aおよび第2膜13bを有する。第2膜13bが第1膜13aに接し、かつ、第1膜13aの外側に位置する。
【0018】
第1膜13aがPおよびZnを含み、第2膜13bがSiおよびOを含む。
【0019】
第1膜13aがどのようにPおよびZnを含むかについては特に制限はない。例えば第1膜13aがPおよびZnを含むガラスを含んでもよく、具体的には、第1膜13aがP2O5およびZnOを含むガラスを含んでもよい。第1膜13aがPおよびZn以外の元素の酸化物を含むガラスを含んでもよい。PおよびZn以外の元素の酸化物としては、例えば、SiO2、Bi2O3、B2O3、R2O、Al2O3、またはBaOが挙げられる。なお、上記のRはアルカリ金属を表す。また、第1膜13がPおよびその他の元素を含む複合酸化物を含んでもよく、Znおよびその他の元素を含む複合酸化物を含んでもよい。その他の元素としては、Ba、Na、Mg、Al、Si、Ca、Ti等が挙げられる。
【0020】
第2膜13bがSiの酸化物を含んでもよい。具体的には、第2膜13bがSi-O系酸化物(シリコン酸化物)を含んでもよい。
【0021】
Si-O系酸化物の種類には特に制限はない。例えば、SiO2などのSiの酸化物の他、Siおよびその他の元素を含む複合酸化物などであってもよい。その他の元素としては、Ba、Ca、Mg、Al、Ti、Nb、Ta、Zr、Ni、Mn、Zn、Cr等が挙げられる。
【0022】
絶縁膜はコア粒子11の表面11aの全体を被覆していなくてもよく、コア粒子11の表面11a全体の90%以上を被覆していればよい。また、第2膜13bは第1膜13aの表面の全体を被覆していなくてもよく、第1膜13aの表面全体の90%以上を被覆していればよい。
【0023】
第2膜13bがSiおよびO以外の元素を含んでいてもよい。SiおよびO以外の元素の含有量には特に制限はない。例えば、SiおよびO以外の元素の含有量が合計で0.1mol%以下であってもよい。
【0024】
第1膜13aと第2膜13bとは接していてもよい。また、軟磁性金属粒子が第1膜13aと第2膜13bとの間に中間領域を有していてもよい。中間領域の厚さには特に制限はない。例えば1nm以下であってもよい。
【0025】
第1膜13a、中間領域および第2膜13bを区別する方法には特に制限はない。例えば、軟磁性金属粒子の断面をSEM-EDS、STEM-EDS、TEM-EDS等で観察する場合には、明るさやコントラストの違いにより区別してもよく、組成分析の結果を用いて組成の違いにより区別してもよい。
【0026】
特に中間領域の有無を確認する方法、および、中間領域の厚さを測定する方法としては、例えば、TEM-EDS等を用いて組成のライン分析を行い、第1膜13aの組成と第2膜13bの組成との間の組成を有する部分を中間領域としてよい。特にP濃度のライン分析、Zn濃度のライン分析、Si濃度とP濃度との比のライン分析などで中間領域の厚さを測定してよい。
【0027】
中間領域は主に第1膜13aに含まれる元素および第2膜13bに含まれる元素を含む。第1膜13aにも第2膜13bにも微量しか含まれない元素、すなわち、第1膜13aにおける濃度も第2膜13bにおける濃度も0.1mol%以下である元素の中間領域における濃度は合計で0.2mol%以下である。
【0028】
軟磁性金属粒子における第1膜13aの膜厚をd1、第2膜13bの膜厚をd2とする。d1、d2の大きさには特に制限はない。d1は5nm以上150nm以下であってもよく、10nm以上110nm以下であってもよく、37.5nm以上75nm以下であってもよい。d2は5nm以上150nm以下であってもよく、10nm以上110nm以下であってもよく、37.5nm以上75nm以下であってもよい。
【0029】
d2/d1が0.10以上9.00以下であってもよく、0.11以上9.00以下であってもよく、0.33以上1.22以下であってもよい。d2/d1が上記の範囲内であることにより、初透磁率μiを維持しながら絶縁膜13の耐圧性を向上しやすくなる。
【0030】
d1+d2が10nm以上300nm以下であってもよく、10nm以上200nm以下であってもよく、30nm以上200nm以下であってもよく、75nm以上150nm以下であってもよい。d1+d2が上記の範囲内であることにより、初透磁率μiを維持しながら絶縁膜13の耐圧性および耐湿性を向上しやすくなる。d1+d2が大きいほど絶縁膜13の耐圧性および耐湿性は向上するが初透磁率μiは低下する傾向にある。
【0031】
第1膜13aが結晶性を示さなくてもよく第2膜13bが結晶性を示してもよい。各膜が結晶性を示すか否かを確認する方法には特に制限はない。たとえば、高分解能電子顕微鏡を用いて第1膜13aおよび第2膜13bを観察し、第1膜13aに周期配列に起因する格子縞が確認されず第2膜13bに周期配列に起因する格子縞が確認される場合には第1膜13aが結晶性を示さず第2膜13bが結晶性を示すと判断できる。なお、軟磁性金属粒子が中間領域を有する場合には中間領域は結晶性を示しても示さなくてもよい。
【0032】
本開示の一実施形態に係る軟磁性金属粒子の耐圧性および耐湿性が向上するメカニズムは明確ではない。相対的に第1膜13aが耐圧性の向上に大きく寄与する傾向にあり、第2膜13bが耐湿性の向上に大きく寄与する傾向にある。
【0033】
絶縁膜13はコア粒子11の表面に直接的または間接的に形成される。すなわち、コア粒子11の表面11aと絶縁膜13とが接していてもよく、コア粒子11の表面11aと絶縁膜13との間に絶縁膜13以外の膜が介在していてもよい。
【0034】
上記の絶縁膜13以外の膜の材質には特に制限はない。上記の絶縁膜13以外の膜の材質は、例えば、コア粒子中の元素およびSiを含む酸化物であってもよく、あらかじめ形成しておいたリン酸化合物であってもよい。コア粒子11の表面11aと絶縁膜13との間に絶縁膜13以外の膜が介在する場合における絶縁膜13以外の膜の膜厚は20nm以下であってもよい。
【0035】
絶縁膜13が第2膜13bの外側に第1膜13aおよび第2膜13b以外の膜を有していてもよい。
【0036】
上記の第1膜13aおよび第2膜13b以外の膜の材質には特に制限はない。上記の第1膜13aおよび第2膜13b以外の膜の膜厚は20nm以下であってもよい。
【0037】
コア粒子11は磁性を示す材料を含んでいれば特に制限はない。コア粒子11がFeを含んでもよい。コア粒子11がFeを主成分として含む場合には、飽和磁化が高くなりやすい。コア粒子11がFeおよびSiを主成分として含む場合には、初透磁率μiが高くなりやすい。コア粒子11がFeおよびNiを主成分として含む場合には、初透磁率μiが高くなりやすい。コア粒子11がFeおよびCoを主成分として含む場合には、初透磁率μiが高くなりやすい。
【0038】
なお、「主成分として含む」とは、主成分として含まれる元素のそれぞれの含有比率が1重量%以上であり、主成分として含まれる元素の合計含有比率が40重量%以上であり、かつ、主成分として含まれる元素以外の元素のそれぞれの含有比率が主成分として含まれる元素のうち含有比率が最も低い元素の含有比率よりも低いことを指す。
【0039】
コア粒子11がFeを主成分として含む場合には、Feの含有比率が40重量%以上であり、かつ、Fe以外の各元素の含有比率がFeの含有比率よりも低い。なお、コア粒子11における主成分以外の成分の種類には特に制限はない。主成分(Fe)以外の成分の種類としては、例えば、Cr、Mn、Ni、Co、Al、Si、Zr、V、B、C、Nb、Ta、Cuが挙げられる。
【0040】
コア粒子11がFeおよびSiを主成分として含む場合には、Feの含有比率が1重量%以上であり、Siの含有比率が1重量%以上であり、FeおよびSiの合計含有比率が40重量%以上であり、かつ、FeおよびSi以外の各元素の含有比率がFeとSiのうち含有比率が低い元素の含有比率よりも低い。なお、コア粒子11における主成分以外の成分の種類には特に制限はない。主成分(FeおよびSi)以外の成分の種類としては、例えば、Cr、Mn、Ni、Co、Al、Zr、V、B、C、Nb、Ta、Cuが挙げられる。
【0041】
コア粒子11がFe、または、FeおよびSiを主成分として含む場合には、コア粒子11におけるFeとSiとの含有比率には特に制限はない。重量比でSi/Fe=0/100~20/80であってもよい。重量比でSi/Fe=0/100~10/90である場合に、飽和磁化が高くなりやすい。
【0042】
コア粒子11がFeおよびNiを主成分として含む場合には、Feの含有比率が1重量%以上であり、Niの含有比率が1重量%以上であり、FeおよびNiの合計含有比率が40重量%以上であり、かつ、FeおよびNi以外の各元素の含有比率がFeとNiのうち含有比率が低い元素の含有比率よりも低い。なお、コア粒子11における主成分以外の成分の種類には特に制限はない。主成分(FeおよびNi)以外の成分の種類としては、例えば、Cr、Mn、Co、Al、Si、Zr、V、B、C、Nb、Ta、Cuが挙げられる。
【0043】
コア粒子11がFe、または、FeおよびNiを主成分として含む場合には、コア粒子11におけるFeとNiとの含有比率には特に制限はない。重量比でNi/Fe=0/100~75/25であってもよい。
【0044】
コア粒子11がFeおよびCoを主成分として含む場合には、Feの含有比率が1重量%以上であり、Coの含有比率が1重量%以上であり、FeおよびCoの合計含有比率が40重量%以上であり、かつ、FeおよびCo以外の各元素の含有比率がFeとCoのうち含有比率が低い元素の含有比率よりも低い。なお、コア粒子11における主成分以外の成分の種類には特に制限はない。主成分(FeおよびCo)以外の成分の種類としては、例えば、Cr、Mn、Ni、Al、Si、Zr、V、B、C、Nb、Ta、Cuが挙げられる。
【0045】
コア粒子11がFe、または、FeおよびCoを主成分として含む場合には、コア粒子11におけるFeとCoとの含有比率には特に制限はない。重量比でCo/Fe=0/100~50/50であってもよい。
【0046】
また、コア粒子11が、ビッカース硬度が700以上である金属を含んでいてもよい。コア粒子11が硬い金属を含む場合には、絶縁膜13が加圧により破損しやすくなる。そのため、コア粒子11が硬い金属を含む場合には、コア粒子11が軟らかい金属を含む場合と比較して、上記の第1膜13aおよび第2膜13bを有することによる耐圧性向上の効果が明確に表れやすい。
【0047】
ビッカース硬度の確認方法については特に制限はない。例えば、コア粒子11に含まれる金属と同組成の金属試料を準備して当該金属試料のビッカース硬度を測定することにより、コア粒子11に含まれる金属のビッカース硬度を確認することができる。
【0048】
本開示の軟磁性合金粒子の用途には特に制限はない。例えば、磁性部品が挙げられる。磁性部品としては、例えば圧粉磁心が挙げられる。
【0049】
<圧粉磁心>
本開示の一実施形態に係る圧粉磁心は上記の軟磁性金属粒子を含む。本開示の一実施形態に係る圧粉磁心1は
図1に示すように、軟磁性金属粒子同士の間に粒界相12を有する。粒界相12に含まれる化合物の種類には特に制限はない。例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、イミド樹脂、および/または、Si-O系酸化物であってもよい。また、粒界相12が空隙を含んでいてもよい。粒界相12に含まれていてもよいシリコーン樹脂としては、例えばメチル系のシリコーン樹脂などが挙げられる。エポキシ樹脂としては、例えばクレゾールノボラックなどが挙げられる。イミド樹脂としては、例えばビスマレイミドなどが挙げられる。
【0050】
なお、後述する熱処理により、粒界相12に含まれるシリコーン樹脂の一部または全部がSiO2等のSi-O系酸化物に変性する場合がある。
【0051】
圧粉磁心1におけるコア粒子11の含有量、および、粒界相12に含まれる化合物の含有量には特に制限はない。圧粉磁心1全体に占めるコア粒子11の含有量は90重量%~99.9重量%であってもよい。圧粉磁心1全体に占める粒界相12に含まれる化合物の含有量は0.1重量%~10重量%であってもよい。
【0052】
圧粉磁心1の断面を観察する方法には特に制限はない。例えば、SEMまたはTEMを用いて適切な倍率で圧粉磁心1を観察してもよい。
【0053】
<製造方法>
本開示の一実施形態に係る軟磁性金属粒子および圧粉磁心1の製造方法を以下に示すが、軟磁性金属粒子および圧粉磁心1の製造方法は下記の方法に限定されない。
【0054】
まず、コア粒子11を準備する。コア粒子11として市販の合金粒子を準備してもよく、コア粒子11を作製してもよい。コア粒子11の作製方法には特に制限はないが、例えばガスアトマイズ法、水アトマイズ法などが挙げられる。コア粒子11の粒子径および円形度には特に制限はない。粒子径の中央値(D50)は1μm~100μmである場合には初透磁率μiが高くなりやすい。コア粒子の円形度は、例えば、0.5以上1以下であってもよく、0.7以上1以下であってもよく、0.8以上1以下であってもよい。
【0055】
次に、コア粒子11の表面11aに第1膜13aを形成するためのコーティングを行う。コーティング方法には特に制限はないが、例えばP2O5、ZnOを含むガラスを含むコーティング溶液(以下、ガラスコーティング溶液と記載する場合がある)をコア粒子11へ塗布する方法が挙げられる。ガラスコーティング溶液をコア粒子11へ塗布する方法には特に制限はなく、例えば噴霧拡散による方法が挙げられる。
【0056】
ガラスコーティング溶液におけるガラスの濃度および溶媒の種類にも特に制限はない。ガラスの濃度は目的とする第1膜13aの膜厚d1等により決定すればよい。
【0057】
溶媒としては、水、エタノール、イソプロピルアルコールなどが例示される。
【0058】
また、噴霧拡散時において、コア粒子11全量に対するガラスの割合は0.1重量%~5重量%であってもよい。また、ガラスが多いほど第1膜13aの膜厚d1が大きくなる傾向にある。
【0059】
ガラスコーティング溶液を噴霧拡散した後のコア粒子11を乾燥させて溶媒を除去することによりPおよびZnを含む第1膜13aが形成される。また、コア粒子11をメッシュの篩に通して整粒してもよい。
【0060】
次に、コア粒子11の第1膜13aの表面に第2膜13bを形成するためのコーティングを行う。コーティング方法には特に制限はないが、例えば、アルコキシシランを含むコーティング溶液(以下、Siコーティング溶液と記載する場合がある)をコア粒子11へ塗布する方法が挙げられる。Siコーティング溶液をコア粒子11へ塗布する方法には特に制限はなく、例えば噴霧拡散による方法が挙げられる。
【0061】
Siコーティング溶液におけるアルコキシシランの濃度および溶媒の種類には特に制限はない。アルコキシシランの濃度は目的とする第2膜13bの膜厚d2等により決定すればよい。
【0062】
アルコキシシランとしては、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、テトラアルコキシシランが例示される。モノアルコキシシランとしては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチル(フェノキシ)シラン等が例示される。ジアルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジエトキシシラン等が例示される。トリアルコキシシランとしては、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等が例示される。テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン等が例示される。アルコキシシランとしては、1種類のアルコキシシランを用いてもよく、2種類以上のアルコキシシランを併用してもよい。
【0063】
溶媒としては、水、エタノール、イソプロピルアルコールなどが例示される。
【0064】
また、噴霧拡散時において、コア粒子11全量に対するアルコキシシランの割合は0.1重量%~5重量%であってもよい。また、アルコキシシランが多いほど第2膜13bの膜厚d2が厚くなる傾向にある。
【0065】
噴霧拡散の条件には特に制限はないが、50℃~90℃で熱処理を行いながら噴霧拡散を行うことにより、第2膜13bを形成するゾルゲル反応が促進される。
【0066】
Siコーティング溶液を噴霧拡散した後のコア粒子11を乾燥させて溶媒を除去した後に、200℃~400℃で1時間~10時間加熱することにより、ゾルゲル反応が進行してSiおよびOを含む第2膜13bが形成される。このときの加熱温度が高く加熱時間が長いほど第2膜13bの密度が高くなる傾向にある。
【0067】
なお、軟磁性金属粒子が第1膜13aと第2膜13bとの間に意図的に中間領域を有するようにする場合には、例えば、第2膜13bの形成前に第1膜13aの表面を活性化させてもよい。具体的には、酸成分、例えば塩酸等により第1膜13aの表面近傍をイオン化させる処理を施す。当該処理を施したのちに第2膜13bを形成することにより、第1膜13aと第2膜13bとの界面において、第1膜13aの成分の一部が第2膜13bに取り込まれる。そして、中間領域が形成される。
【0068】
次に、後述する熱処理前の圧粉体における粒界相12が樹脂を含む場合には、樹脂溶液を作製する。樹脂溶液には、上記したシリコーン樹脂、エポキシ樹脂および/またはイミド樹脂の他、硬化剤を添加してもよい。硬化剤の種類には特に制限はなく、例えばエピクロルヒドリンなどが挙げられる。また、樹脂溶液の溶媒についても特に制限はないが、揮発性の溶媒であってもよい。例えば、アセトン、エタノール等を用いることができる。また、樹脂溶液全体を100重量%とした場合における樹脂および硬化剤の合計濃度は10~80重量%としてもよい。
【0069】
次に、絶縁膜13を形成したコア粒子11、すなわち軟磁性金属粒子と、樹脂溶液とを混合する。そして、樹脂溶液の溶媒を揮発させて顆粒を得る。得られた顆粒はそのまま金型に充填してもよいが、整粒してから金型に充填してもよい。整粒する場合の整粒方法には特に制限はなく、例えば、目開き45~500μmのメッシュを用いてもよい。
【0070】
次に得られた顆粒を所定の形状の金型に充填し、加圧して圧粉体を得る。加圧時の圧力(成形圧力)には特に制限はなく、例えば500~1500MPaとすることができる。成形圧力が高いほど最終的に得られる圧粉磁心1の初透磁率μiが高くなる。
【0071】
作製した圧粉体を圧粉磁心としてもよい。また、作製した圧粉体に対して熱処理を行い、当該熱処理により作製した焼結体を圧粉磁心としてもよい。熱処理の条件に特に制限はない。樹脂としてシリコーン樹脂を用いる場合にはシリコーン樹脂が焼結する条件で熱処理を行ってもよい。例えば400℃~1000℃で0.1時間~10時間、熱処理を行ってもよい。また、熱処理時の雰囲気にも特に制限はなく、大気中で熱処理をしてもよく、窒素雰囲気中で熱処理してもよい。
【0072】
以上、本実施形態に係る圧粉磁心およびその製造方法について説明したが、本開示の圧粉磁心およびその製造方法は上記の実施形態に限定されない。
【0073】
また、本開示の圧粉磁心の用途にも特に制限はない。例えば、インダクタ、リアクトル、チョークコイル、トランス等の磁性部品が挙げられる。本開示の一実施形態に係る磁性部品は上記の圧粉磁心を含む。
【0074】
また、本開示の軟磁性合金粒子は、例えば薄膜インダクタ、磁気ヘッドなどの磁性部品にも好適に用いることができる。さらに、当該軟磁性合金粒子を用いた磁性部品は電子機器に好適に用いることができる。
【実施例0075】
以下、本開示を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本開示は、これら実施例に限定されない。
【0076】
<軟磁性合金粉末の作製>
金属磁性粒子(コア粒子)として、Fe-Si-Cr-B-C系の合金粒子(エプソンアトミックス社製KUAMET6B2)を準備した。当該合金粒子は粒子径の中央値(D50)が23μmであり、非晶質からなる構造を有していた。円形度は約0.90であった。また、当該Fe-Si-Cr-B-C系の合金のビッカース硬度は700以上であった。
【0077】
次に、第1膜の形成に用いられるガラスコーティング溶液、および、第2膜の形成に用いられるSiコーティング溶液を作製した。
【0078】
ガラスコーティング溶液は、P2O5-ZnO系ガラスおよびエタノールを混合して作製した。P2O5-ZnOガラスにおけるP2O5の含有量は0.1~5重量%、ZnOの含有量は0.1~5重量%であった。P2O5-ZnO系ガラスの濃度は、最終的に得られる第1膜の膜厚d1が表1~表2に示す値となるようにした。
【0079】
Siコーティング溶液は、前記金属磁性粒子の全量を100重量部として15重量部のエタノールと、トリメトキシシランと、2.0重量部の純水と、を混合して作製した。トリメトキシシランの量は、最終的に得られる第2膜の膜厚d2が表1~表2に示す値となるようにした。
【0080】
前記金属磁性粒子および前記ガラスコーティング溶液を混合し、噴霧撹拌した。そして噴霧攪拌後に乾燥することで第1膜を有する金属磁性粒子を得た。また、得られた金属磁性粒子を140メッシュの篩に通した。乾燥時の熱処理温度は80℃、熱処理時間は1時間とした。
【0081】
次に、第1膜を有する金属磁性粒子および前記Siコーティング溶液を混合し、噴霧撹拌しながら熱処理を行った。熱処理温度は80℃、熱処理時間は1時間とした。さらに、熱処理後に乾燥することで第1膜および第2膜を有する金属磁性粒子を得た。具体的には、得られた金属磁性粒子を140メッシュの篩に通した後に熱処理を行った。乾燥時の熱処理温度は300℃、熱処理時間は5時間とした。
【0082】
比較例1では第2膜を形成しなかった。比較例2では第1膜を形成せず、金属磁性粒子に直接、第2膜を形成した。
【0083】
<最大耐荷重の測定>
得られた各実施例および比較例の軟磁性金属粒子をそれぞれ5g秤量し、三菱ケミカルアナリテック社製のハイレスタ-UX MCP-HT800の測定冶具に投入した。その後、直径20mmの測定電極に1Vの電圧を印加し、かつ、軟磁性金属粒子へ加える荷重を増加させながら体積抵抗率を測定した。体積抵抗率が測定下限値である1.0×103Ωとなる時点での荷重を算出し、その荷重から1MPを減じた荷重を最大耐荷重とした。例えば、荷重31MPaで体積抵抗率が1.0×103Ωとなったサンプルについては、30MPaが最大耐荷重であると判断した。最大耐荷重が30.0MPa以上である場合に絶縁膜の耐圧性が良好であるとし、40.0MPa以上である場合に絶縁膜の耐圧性がさらに良好であるとした。結果を表1~表2に示す。
【0084】
<耐湿試験>
耐湿試験は得られた各実施例および比較例の軟磁性金属粒子を温度85℃、湿度85%で5時間、放置することにより行った。放置後の各実施例および比較例の軟磁性金属粒子をそれぞれ5g秤量し、三菱ケミカルアナリテック社製のハイレスタUXMCP-HT800の測定冶具に投入した。その後、直径10mmの測定電極に1Vの電圧を印加して体積抵抗率を測定した。耐湿試験後の体積抵抗率が1.00×107Ω以上である場合に耐湿性が良好であるとした。また、5.00×108Ω以上である場合に耐湿性がさらに良好であるとした。結果を表1~表2に示す。なお、表1~表2では、3.76E+08(実施例1)などと表記しているが、これは3.76×108という意味である。
【0085】
<トロイダルコアの作製>
初透磁率μiの測定および軟磁性金属粒子の微細構造の観察に必要な数のトロイダルコアを作製した。
【0086】
次に、エポキシ樹脂、硬化剤およびアセトンを混合して樹脂溶液を作製した。エポキシ樹脂としてはクレゾールノボラックを用いた。硬化剤としてはエピクロルヒドリンを用いた。エポキシ樹脂、硬化剤およびアセトンの重量比が10:10:80となるように混合した。
【0087】
得られた各実施例および比較例の軟磁性金属粒子を100重量部として、上記の樹脂溶液を10重量部添加し、混合した。次に乾燥させてアセトンを揮発させて顆粒を得た。次に、顆粒を42メッシュの篩に通して整粒した。得られた顆粒を50℃のホットプレート上で0.5時間、乾燥させて造粒粉を作製した。
【0088】
造粒粉100重量部に対してステアリン酸亜鉛を0.1重量部添加し、金型成形を行った。造粒粉の充填量を5gとした。成形圧は、最終的に得られるトロイダル圧粉磁心の密度が5.5g/cm3程度となるように適宜、調整した。金型の形状は外径Φ17.5mm、内径Φ10.0mm、厚さ4.8mmのトロイダル形状とした。
【0089】
得られたトロイダルコアに対して200℃で1時間、熱処理を行い、トロイダル圧粉磁心を得た。最終的に得られる圧粉磁心全体を100重量%として、軟磁性金属粒子が98重量%程度となるようにした。
【0090】
<絶縁膜の構造等の確認>
各実施例および比較例のトロイダルコアをTEM-EDS観察することによって、軟磁性金属粒子を被覆している絶縁膜が存在していることを確認した。
【0091】
各実施例の軟磁性金属粒子では絶縁膜が第1膜および第2膜を有し、第2膜が第1膜に接し、かつ、第2膜が第1膜の外側に位置することを確認した。さらに、第1膜がP2O5およびZnOを含むガラスを含み、第2膜が実質的にSiおよびOのみを含むことを確認した。
【0092】
各実施例および比較例1~2の軟磁性金属粒子では第1膜が結晶性を示さず第2膜が結晶性を示すことを確認した。具体的には、高分解能電子顕微鏡を用いて軟磁性金属粒子を観察し、周期配列に起因する格子縞が第1膜に存在せず第2膜に存在することを確認した。
【0093】
比較例1の軟磁性金属粒子では絶縁膜が実質的にP2O5およびZnOを含むガラスのみを含む単層膜であることを確認した。比較例2の軟磁性金属粒子では絶縁膜が実質的にSiおよびOのみを含む単層膜であることを確認した。
【0094】
第1膜の膜厚および第2膜の膜厚はTEM観察によって計測した。軟磁性金属粒子の表面に測定点を設定した。そして、当該測定点から絶縁膜の方向に垂線を引き、当該垂線のうち第1膜にある部分の長さを当該測定点における第1膜の厚みとした。当該垂線のうち第2膜にある部分の長さを当該測定点における第2膜の厚みとした。測定点を10点設定して各測定点について第1膜の厚みを測定し平均した値をd1とした。各測定点について第2膜の厚みを測定し平均した値をd2とした。さらに、d1+d2およびd2/d1を算出した。結果を表1および表2に示す。
【0095】
また、各実施例および比較例において、圧粉磁心に含まれる各軟磁性金属粒子のd1、d2が概ね同一であることを確認した。
【0096】
<初透磁率μiの測定>
トロイダルコアの初透磁率μiは、トロイダル圧粉磁心にワイヤを巻数50ターンで巻きつけ、LCRメーター(HP社LCR428A)により測定した。初透磁率μiは30.0以上を良好とし、35.0以上をさらに良好とし、39.0以上を特に良好とした。
【0097】
トロイダルコアの密度は得られたトロイダルコアの寸法および重量から算出した。全ての実施例および比較例において5.5g/cm3程度であることを確認した。
【0098】
【0099】
【0100】
表1は絶縁膜の膜厚を変化させずにd2/d1を変化させた実施例および比較例を示す。絶縁膜が第1膜および第2膜を有する各実施例は耐圧性、耐湿性、初透磁率μiが全て良好であった。
【0101】
絶縁膜が第2膜を有さない比較例1は各実施例と比較して耐湿性が著しく低下した。絶縁膜が第1膜を有さない比較例2は各実施例と比較して耐圧性が著しく低下した。
【0102】
表2は、表1の実施例6についてd2/d1を変化させずに絶縁膜の膜厚を変化させた実施例を示す。d1+d2が10nm以上200nm以下である各実施例は、d1+d2が200nmを上回る実施例18と比較して初透磁率μiが良好であった。