(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128594
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】車両用ソフトウェアの提供方法、車両用ソフトウェアの提供システム
(51)【国際特許分類】
G06F 8/65 20180101AFI20240913BHJP
G06F 8/30 20180101ALI20240913BHJP
【FI】
G06F8/65
G06F8/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037634
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】桑原 基彰
(72)【発明者】
【氏名】加勢田 吉隆
【テーマコード(参考)】
5B376
【Fターム(参考)】
5B376AB01
5B376AB25
5B376BC29
5B376CA05
(57)【要約】
【課題】車両用ソフトウェアを開発する際の工数を削減し、依頼内容が反映された車両用ソフトウェアを迅速に提供する。
【解決手段】車両用ソフトウェアの提供方法は、車両用ソフトウェアを生成するための基本データを登録するステップ(S1)と、対象となる車両用ソフトウェアを特定するためのパッケージ情報と更新内容を指示する予め定められた書式で記述された更新情報とが含まれた更新データを受け付けるステップ(S3)と、更新データをチェックするステップ(S4)と、車両用ソフトウェアの開発環境に更新データを受け渡して車両用ソフトウェアの生成を指示し、更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアを生成させるステップ(S7)と、生成された車両用ソフトウェアを提供するステップ(S15)と、を含んでいる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用ソフトウェアを提供するための方法であって、
車両用ソフトウェアを生成する際に必要な各種の情報を、対象の車両用ソフトウェアに対応付けて基本データとして登録するステップ(S1)と、
対象の車両用ソフトウェアを特定するためのパッケージ情報と、基本データに対する更新内容を指示するものであって予め定められた書式で記述されている更新情報とが含まれている更新データを受け付けるステップ(S3)と、
受け付けた更新データの書式をチェックするステップ(S4)と、
更新データに基づいて対象の車両用ソフトウェアを特定し、特定した車両用ソフトウェアの開発環境に更新データを受け渡して車両用ソフトウェアの生成を指示し、更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアを生成させるステップ(S7)と、
生成された新たな車両用ソフトウェアを提供するステップ(S15)と、
を含む車両用ソフトウェアの提供方法。
【請求項2】
更新データを受け付けるステップでは、ネットワークを経由した外部からのアクセスが可能なウェブインターフェースを介して更新データを受け付け、
新たな車両用ソフトウェアを提供するステップでは、ウェブインターフェースを介して車両用ソフトウェアを提供する請求項1に記載の車両用ソフトウェアの提供方法。
【請求項3】
新たな車両用ソフトウェアの評価を指示するステップ(S9)と、
シミュレーションによる車両用ソフトウェアの評価結果を取得するステップ(S10)と、
評価結果を提供するステップ(S15、S16)と、
をさらに含む請求項1または2に記載の車両用ソフトウェアの提供方法。
【請求項4】
実機での車両用ソフトウェアの評価を指示するステップ(S12)と、
車両用ソフトウェアを実機にダウンロードし、実機での評価結果を取得するステップ(S13)と、
評価結果を提供するステップ(S15、S16)と、
をさらに含む請求項1または2に記載の車両用ソフトウェアの提供方法。
【請求項5】
基本データには、車両用ソフトウェアで利用されるパラメータが含まれており、
更新データは、パラメータを変更するものである請求項1または2に記載の車両用ソフトウェアの提供方法。
【請求項6】
車両用ソフトウェアは、車載ネットワークで送受信されるデータを中継する中継装置を制御するものであり、
基本データには、データの中継元と中継先とが固定値で定義されたルーティングマップが含まれており、
更新データは、ルーティングマップに対する変更を指示するものである請求項1または2に記載の車両用ソフトウェアの提供方法。
【請求項7】
基本データには、車両用ソフトウェアのソースコードが含まれており、
更新データは、ソースコードに対する変更を指示するものである請求項1または2に記載の車両用ソフトウェアの提供方法。
【請求項8】
車両用ソフトウェアの評価結果を提供するための方法であって、
車両用ソフトウェアを生成する際に必要な各種の情報をまとめて基本データとして登録するステップと、
対象の車両用ソフトウェアを特定するためのパッケージ情報と、基本データに対する更新内容を指示するものであって予め定められた書式で記述されている更新情報とが含まれている更新データを受け付けるステップと、
受け付けた更新データの書式をチェックするステップと、
更新データに基づいて対象の車両用ソフトウェアを特定し、特定した車両用ソフトウェアの開発環境に更新データを受け渡し、更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアを生成させるステップと、
新たな車両用ソフトウェアの評価を指示するステップと、
新たな車両用ソフトウェアの評価結果を提供するステップと、
を含む車両用ソフトウェアの評価結果提供方法。
【請求項9】
車両用ソフトウェアを提供するためのシステムであって、
車両用ソフトウェアを生成する際に必要な各種の情報を、対象の車両用ソフトウェアに対応付けて基本データとして登録する登録部と、
対象の車両用ソフトウェアを特定するためのパッケージ情報と、基本データに対する更新内容を指示するものであって予め定められた書式で記述されている更新情報とが含まれている更新データを受け付ける受付部と、
受け付けた更新データの書式をチェックするチェック部と、
更新データに基づいて対象の車両用ソフトウェアを特定し、特定した車両用ソフトウェアの開発環境に更新データを受け渡して車両用ソフトウェアの生成を指示する指示部と、
指示部からの指示に基づいて更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアを生成させる生成部と、
生成された新たな車両用ソフトウェアを提供する提供部と、
を備える車両用ソフトウェアの提供システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用ソフトウェアの提供方法、車両用ソフトウェアの提供システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される車載装置は、車両用ソフトウェアによってその動作が制御されている。例えば特許文献1には、車両に搭載される中継装置において、受信した通信フレームの送信先を決定して通信ノード間の通信を中継する処理を行う車両用ソフトウェアが開示されている。以下、車両用ソフトウェアは車載ソフトウェアとも呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような車両用ソフトウェアの開発では、仕様を制定して開発を依頼する依頼側と、実際に開発を行う開発側とが異なることがある。その場合、依頼時には仕様書等のファイルを開発側に受け渡し、開発完了時には所定の納品形式にまとめた成果物や評価結果などのファイルを依頼側に受け渡す必要がある。そして、従来では、ファイルの受け渡しは電子メールやファイル転送サービスを利用して行われていた。
【0005】
そのため、車両用ソフトウェアを開発する際には、提供されたファイルをサーバ等の所定の箇所に格納し、格納された仕様書を開発担当者が取り出し、必要であれば質疑応答などを行って仕様書の内容を確認し、仕様書に記述された情報を開発環境に入力して車両用ソフトウェアを生成し、生成した車両用ソフトウェアや評価結果を依頼側に提供するといった仕組みで作業が必要となっていた。
【0006】
しかしながら、従来の仕組みでは、ファイルの格納や仕様書の確認および開発環境への入力などの工数が発生していた。また、例えばパラメータを変更するといった単純な仕様変更を依頼する場合であっても依頼側と開発側では正規の依頼手順を踏む必要があるため、変更内容が反映された車両用ソフトウェアを入手するまでに要する時間が長くなりがちであった。
【0007】
本開示は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両用ソフトウェアを開発する際の工数を削減することができ、依頼内容が反映された車両用ソフトウェアを迅速に提供することができる車両用ソフトウェアの提供方法、車両用ソフトウェアの提供システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様による車両用ソフトウェアの提供方法は、車両用ソフトウェアを生成する際に必要な各種の情報を、対象の車両用ソフトウェアに対応付けて基本データとして登録するステップ(S1)と、対象の車両用ソフトウェアを特定するためのパッケージ情報と、基本データに対する更新内容を指示するものであって予め定められた書式で記述されている更新情報とが含まれている更新データを受け付けるステップ(S3)と、受け付けた更新データの書式をチェックするステップ(S4)と、更新データに基づいて対象の車両用ソフトウェアを特定し、特定した車両用ソフトウェアの開発環境に更新データを受け渡して車両用ソフトウェアの生成を指示し、更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアを生成させるステップ(S7)と、生成された新たな車両用ソフトウェアを提供するステップ(S15)と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態における提供システムの概略構成を示す図
【
図2】車両用ソフトウェアが実行される中継装置の概略構成を示す図
【
図6】従来の開発態様と提供システムを利用した開発態様を対比する図
【
図7】車両用ソフトウェアの提供方法における各ステップを説明する図
【
図9】パッケージ情報を入力する画面の一例を示す図
【
図10】開発の依頼時および完了時における操作画面の一例を示す図
【
図12】開発装置における開発プロセスを説明する図
【
図16】提供システムの他の概略構成を示す図その1
【
図17】提供システムの他の概略構成を示す図その2
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に一例として示す車両用ソフトウェアの提供システム1は、車両用ソフトウェアの開発を依頼する依頼側と実際に開発を行う開発側との間において、開発に必要とされる各種の情報の受け渡し、及び、開発が完了した車両用ソフトウェアや評価結果などの成果物の受け渡しを可能にするものである。以下、提供システム1を利用して各種の情報や成果物の受け渡しを可能にするサービスを提供サービスと称する。本実施形態では、OEMの担当者が提供サービスを利用する状況を想定しており、各種の情報や成果物はファイルで受け渡されることを想定している。OEMは完成車メーカーとも呼ぶ。
【0011】
車両用ソフトウェアの開発では、開発を依頼する依頼側において仕様が決定され、その仕様に基づいて実際に開発を行う開発側で車両用ソフトウェアの開発が行われる。このため、開発側には、車両用ソフトウェアを開発するための開発装置2や、車両用ソフトウェアを実際に動作させて評価するための評価ボード3などを含む開発環境4が設けられている。以下、評価ボード3を実機とも称する。
【0012】
また、依頼側には、車両用ソフトウェアを評価するための評価装置5や評価ボード3などを含む評価環境6が設けられている。なお、ここでは開発環境4と区別するために評価環境6と称しているが、実際の装置構成は同じものであってもよい。また、依頼側には、提供サービスを利用するための操作端末7が設けられている。
【0013】
これら依頼側と開発側との間におけるファイルの受け渡しは、クラウドサービスを使用して行われる。クラウドサービスは、クラウドサーバ8によって提供されている。そして、このクラウドサーバ8には、ファイルを受け渡すためのユーザインターフェースを提供するインターフェース部9が設けられている。インターフェース部9は、ユーザインターフェースとして、ネットワークを経由した外部からのアクセスが可能なウェブインターフェースを提供する。
【0014】
そのため、依頼側では、操作端末7でブラウザソフトウェアを利用することにより提供システム1へのアクセス、つまりは、提供サービスの利用が可能になっている。また、開発側では、クラウドサーバ8を介して更新データの取得および成果物の提供が可能になっている。本実施形態の場合、クラウドサーバ8と開発装置2とはウェブAPIで連携しており、自動的にファイルの受け渡しが行われるように構成されている。つまり、開発側においては、ファイルの受け渡しには人手が不要となっている。
【0015】
ここで、車両用ソフトウェアの開発について補足説明する。
車両用ソフトウェアの開発には、ベースとなる車両用ソフトウェアが存在し、変更箇所が定数やパラメータなどに限られる場合と、ベースとなる車両用ソフトウェアが全くないか、大幅な変更を伴う更新で、ベースとなる車両用ソフトウェアがあっても全体としては何もない状態から車両用ソフトウェアを開発する場合とがある。本開示は、主に前者の場合を想定している。
【0016】
次に、開発対象となる車両用ソフトウェアについて説明する。本実施形態では、車両用ソフトウェアとして、
図2に示す中継装置10用のソフトウェアを想定している。この中継装置10は、車両に搭載された際、通信ノード11や他の中継装置10と通信可能に接続される。そして、中継装置10は、制御部10aにおいて、記憶部10bに記憶されている車両用ソフトウェアを実行することにより、中継部10cの各チャンネルに接続される通信ノード11から受信した通信フレーム中継する。なお、
図2では、チャンネルをCHと示している。また、上記した評価ボード3は、中継装置10と共通するハードウェア構成となっている。
【0017】
通信ノード11は電子制御装置である。中継装置10と通信ノード11は通信バスを介して接続されている。通信バスを介した通信のプロトコルは、例えば、CAN(登録商標)である。なお、通信のプロトコルはイーサネット(登録商標)プロトコルによる通信でもよい。また、通信フレームの変換を中継装置10にて行うことで、異なる通信プロトコルを採用する通信バスが接続されてもよい。
【0018】
この
図2において、各通信ノード11に付されている数値は通信フレームに付与されるフレームIDを示し、カッコ内に付されている数値は各通信ノード11や中継装置10に固有に割り当てられる固有IDを示している。例えば、固有IDが「101」の通信ノード11は中継装置10のチャンネル1に接続されており、その通信ノード11からはフレームIDが「17」の通信フレームが送信されることが示されている。ただし、
図2に示す通信ノード11の数や接続態様は一例である。
【0019】
そして、中継装置10は、
図3に示すルーティングマップに基づいて、受信した通信フレームをどのチャンネルに中継するかを判定する。このルーティングマップは、受信フレームIDと、その受信フレームIDの通信フレームを中継すべき中継先となるチャンネルとが固定的に対応付けられたデータである。例えば、受信フレームIDが「11」の通信フレームは、チャンネル1、チャンネル3、チャンネル5に中継するように定義付けされている。なお、
図3に示すルーティングマップは一例である。
【0020】
このようなルーティングマップは、依頼側から提供された仕様書に基づいて生成される。ただし、通信ノード11の数が多くなったり経路が複雑になったりすると、仕様書に記述されている対応付けを読み間違えたり、プログラミング時に入力を間違えたりするおそれがる。そのため、本実施形態では、ルーティングマップを生成するために必要となる情報を予め定められた書式の通信仕様書として入力する構成となっている。この通信仕様書は、更新情報に相当する。
【0021】
通信仕様書は、
図4に示すように、例えば表計算ソフトウェアのファイルのように行列形式のセルを有しており、中継装置10で中継されるフレームIDの一覧が、中継元となるチャンネルと中継先となるチャンネルとに対応付けられている。この通信仕様書の場合、中継元の「S」はそのフレームIDの通信フレームが受信されるチャンネルを示し、中継先の「D」はその通信フレームを中継すべきチャンネルを示している。例えば、フレームIDが「17」の通信フレームの場合、チャンネル1で受信され、その通信フレームはチャンネル2、チャンネル4、およびチャンネル5に中継されるべきものであることが記述されている。なお、
図4に示す通信仕様書は一例である。
【0022】
そして、開発装置2は、通信仕様書が受け渡されると自動的に通信仕様書を解析し、通信仕様書に応じたルーティングマップを生成する。つまり、提供システム1では、対象となる車両用ソフトウェアが特定され、その車両用ソフトウェアに対応する通信仕様書が規定の書式で入力されると、自動的に通信仕様書に対応した車両用ソフトウェアが生成される。
【0023】
具体的には、
図5に示すように、開発装置2は、制御部20、記憶部21、通信部22などを備えている。制御部20は、コンピュータで構成されており、記憶部21に記憶されているプログラムを実行することにより開発装置2の全体を制御する。記憶部21は、不揮発性の記憶装置によって構成されており、各種のデータを記憶している。また、記憶部21は、詳細は後述するが、車両用ソフトウェアを開発するための基本データを記憶している。
【0024】
さらに、記憶部21は、車載ネットワーク構成に関する情報を記憶し、生成部35または評価部36からの要求に応じて車載ネットワークに関する情報を提供する。車載ネットワークに関する情報は、例えば、車載ネットワーク構成、車載ネットワークに含まれる中継装置で発生する通信遅延時間、通信バスの転送速度を含む。通信部22は、クラウドサーバ8や評価ボード3あるいは試験装置23との間で各種の通信を行う。なお、通信部22を複数設けて、クラウドサーバ8との間の外部通信用と、評価ボード3などとの間の内部通信用とを切り分ける構成としてもよい。
【0025】
制御部20には、管理部30、登録部31、受付部32、チェック部33、指示部34、生成部35、評価部36、提供部37などの機能部が提供サービスを実現するために設けられている。これらの機能部は、制御部20でプログラムを実行することによりソフトウェアで実現されている。
【0026】
管理部30は、開発装置2における車両用ソフトウェアの生成プロセスを全体的に管理するものであり、クラウドサーバ8に更新データが入力されたことを起点として、車両用ソフトウェアを提供するために必要な処理を各機能部に実行させる。また、管理部30は、車両用ソフトウェア生成をプロジェクト単位で個別に管理可能になっている。このため、同じ提供サービスを利用して、例えば1つの車両用ソフトウェアに対して異なる変更を加えたり、異なる車両用ソフトウェアの開発を行ったりすることができる。なお、管理部30はクラウドサーバ8側に設ける構成とすることもできる。
【0027】
登録部31は、車両用ソフトウェアを生成する際に必要な各種の情報を、対象の車両用ソフトウェアに対応付けて基本データとして登録する。この基本データは、車両用ソフトウェアのバージョン、そのバージョンの車両用ソフトウェアを生成するためのソースコード、ヘッダファイルやライブラリ、対応する評価ボード3などの情報が含まれている。この基本データは、開発装置2に接続されているディスプレイ等の表示装置24やキーボード等の入力装置25を利用して、開発側の担当者によって登録される。なお、開発側において、車両用ソフトウェアや車両用ソフトウェアの評価版を開発する過程で基本データを生成し、登録してもよい。あるいは、開発装置2の外部より登録部31を介して入力されてもよい。後述するベースソフトウェアに関する情報は車両用ソフトウェアのバージョン情報に相当する。記憶部21は、車両用ソフトウェアのバージョンに対して、そのバージョンの車両用ソフトウェアを生成するためのソースコードやライブラリ、対応する評価ボード3などの情報を記憶している。
【0028】
受付部32は、開発の対象となる車両用ソフトウェアを特定するためのパッケージ情報と、基本データに対する更新内容を指示するものであって予め定められた書式で記述されている更新情報とが含まれている更新データを受け付ける。つまり、受付部32は、依頼側から入力された更新データを、インターフェース部9を介して開発環境4で利用するために取得する。
【0029】
チェック部33は、受け付けた更新データの書式が正しいかをチェックする。より具体的には、チェック部33は、パッケージ情報と更新情報との対応が正しいか、また、更新情報の書式が正しいかをチェックする。本実施形態の場合であれば、
図4に示す通信仕様書において、同じフレームIDが重複していないか、定義されているフレームIDに中継元と中継先とが定義されているかといったチェックが行われる。なお、チェック部33はクラウドサーバ8側に設ける構成とすることもできる。
【0030】
指示部34は、更新データに基づいて開発の対象となる車両用ソフトウェアを特定し、特定した車両用ソフトウェアの開発環境4に更新データを受け渡し、更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアを生成させる。
【0031】
生成部35は、指示部34からの指示に基づいて更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアを生成させる。この生成部35では、コード生成ツール35aによって更新情報からソースコードが生成され、オブジェクト生成ツール35bによってソースコードから新たな車両用ソフトウェアのオブジェクトが生成される。
【0032】
ここでオブジェクト生成について補足説明する。
オブジェクト生成ツール23は、依頼側から入力された通信仕様書に基づいてソースコードを生成する。このソースコードは
図12のRMコードに相当する。また、依頼側から入力されたパッケージ情報に基づいて、パッケージ情報により特定される車両用ソフトウェアの生成に必要なファイルであって、例えば、ヘッダファイル、ライブラリ、ソースファイルなどを記憶部より取得する。これらのファイルやライブラリは
図12の品番コードに相当する。オブジェクト生成ツール23は、通信仕様書に基づくソースコード、ヘッダファイル、ライブラリ、ソースファイルなど車両ソフトウェアの生成に必要なファイルをビルドし、新たな車両用ソフトウェアの実行プログラムを生成する。
図12のSWはソフトウェアを示す。ビルド処理では、例えば、プリプロセッサ、コンパイラ、アセンブラ、リンカなどの処理が行われる。実行プログラムはオブジェクトとも呼ばれる。
【0033】
評価部36は、生成された車両用ソフトウェアの評価を行う。この評価部36には、評価環境生成ツール36a、シミュレーションツール36b、実機テストツール36cが設けられている。評価環境生成ツール36aは、通信仕様書に基づいてテストデータや期待値といった中継装置10を評価するための環境を生成する。テストデータは、通信仕様書に記述されているフレームIDの全てを網羅するようなデータとして生成される。また、期待値は、例えばあるフレームIDに対する中継先のチャンネルを通信仕様書の記述から導出したものであり、シミュレーションや実機での動作と比較するためのものである。
【0034】
シミュレーションツール36bは、テストデータや期待値を用いて車両用ソフトウェアをシミュレーションにより評価するためのツールである。また、実機テストツール36cは、評価ボード3に車両用ソフトウェアをダウンロードし、テストデータに基づいて試験装置23からダミーの通信フレームの送受信を行うことなどにより、評価ボード3上での車両用ソフトウェアの実際の動作を評価するためのツールである。
【0035】
提供部37は、生成された車両用ソフトウェアや評価結果などの提供物を依頼側に提供する。本実施形態の場合、提供部37は、成果物を依頼側で取得可能にするためにクラウドサーバに保存する。
【0036】
次に、上記した構成の作用および効果について説明する。
前述のように、車両用ソフトウェアの開発では、開発を依頼する依頼側と、実際に開発を行う開発側とが異なることがある。例えば、本実施形態のようなOEM製品の開発の場合、一般的には依頼側の企業と開発側の企業とが異なっている。そのため、
図6に比較例として示すように、開発を依頼する際には、依頼側の担当者が仕様書を作成し、納期調整などを行い、社内手続きなどの正規の依頼手順を踏んで仕様書のファイルとともに依頼し、必要に応じて質疑対応などを行っていた。また、開発の完了時には、所定の納品形式にまとめられた成果物や評価結果などのファイルを受け取っていた。これは、依頼側から開発環境4を直接操作することはできないためである。
【0037】
そして、ファイルの受け渡しは、従来では電子メールやファイル転送サービスを利用して行われている。この場合、車両用ソフトウェアを開発するためには、提供されたファイルをサーバ等の所定の箇所に格納し、格納された仕様書を開発担当者が取り出し、依頼内容や仕様書を確認し、必要であれば質疑応答を行い、仕様書に記述されている情報を開発装置2に入力して車両用ソフトウェアを生成していた。また、生成した車両用ソフトウェアや評価結果を出荷する際には、成果物や評価結果を確認し、それらをレポートにまとめ、出荷判定を受けてから車両用ソフトウェアや評価結果を送付する作業が必要となっていた。なお、
図6では、車両用ソフトウェアをSWと示している。
【0038】
つまり、従来では、車両用ソフトウェアの開発には、開発を開始する前の時点と開発が完了した後の時点の双方において、人手を要する作業が多かった。言い換えると、開発を開始する前の時点と開発が完了した後の時点の双方において、工数が発生し、コストが発生していた。さらに、依頼側にとっては、例えば仕様変更を検討する際、既存のパラメータを変更するといった単純な作業であっても正規の依頼手順を踏む必要があり、変更内容が反映された車両用ソフトウェアを入手するまでに要する時間が長くなりがちであった。なお、
図6は比較例と実施例のそれぞれをわかりやすく説明するため記載している。この
図6は、実施例の工程の一部、および、詳細は省略している。本実施形態で説明する車両用ソフトウェアの開発工程は、実行プログラムの開発においては、開発側の技術者による介在が一切不要となるように、開発システムを構築している。
【0039】
そこで、本実施形態では、車両用ソフトウェアを開発する際の人手や時間の削減、ならびに、依頼内容が反映された車両用ソフトウェアの迅速な提供を可能にしている。以下、
図6に実施例として示すように、依頼側から間接的に開発環境4を操作することができるようにして、1回は開発が行われている車両用ソフトウェアのルーティングマップを変更する状況、つまりは、車両用ソフトウェアに設定されている固定値のパラメータを変更する状況における提供サービスの利用形態を例にして説明する。本実施形態では、事前に車両用ソフトウェアの基本データが登録されており、更新データが入力されると、実行プログラムの提供までの全工程が一連の処理としてコンピュータによりデータ処理される。このため、車両用ソフトウェアは迅速に依頼側へと提供される。
【0040】
図7は、提供システム1による車両用ソフトウェアの提供方法の流れを示している。提供システム1には、まず、車両用ソフトウェアを生成する際に必要な各種の情報を対象となる車両用ソフトウェアに対応付けた基本データが登録される(S1)。この基本データには、車両用ソフトウェアのソースコードや製品の種類を示す品番コードなどが含まれている。この基本データは、プロジェクトごとに個別のファイルリポジトリを持った形で登録される。
【0041】
続いて、基本データが登録された車両用ソフトウェアについて、提供サービスを開始する(S2)。このステップS2では、依頼側からの更新データの入力の受け付けが開始される。そして、提供システム1は、更新データが入力されたか否かを判定し(S3)、入力されていなければ(S3:NO)、更新データの入力を待機する。
【0042】
さて、依頼側がルーティングマップを更新したい場合には、通信仕様書を変更することになる。この通信仕様書は、対象となる車両用ソフトウェアにおける通信経路が規定されている。通信仕様書は成果物として開発側から依頼側に提供される。あるいは、通信仕様書は、開発依頼時に依頼側から開発側に提供されるそして、依頼側は、例えば
図2に示した通信ノード11の接続態様を変更する際には、
図4に示した通信仕様書においてフレームIDの中継元と中継先を変更することにより、希望する通信経路を定義することができる。このとき、通信仕様書にはフレームIDなどが項目名として記載されているため、依頼側は、開発環境4に詳しくなくても、また、通信仕様について熟知していなくても、容易に通信経路を変更することができる。
【0043】
通信仕様書を更新すると、依頼側は、操作端末7からブラウザソフトウェアにより提供システム1にアクセスして更新データの入力を行う。以下、提供システム1へのログインから成果物の取得までの画面例を参照しながら説明するが、いずれも画面も一例である。また、依頼側が実際にアクセスするのはクラウドサーバ8ではあるが、説明の簡略化のために、提供サービスにアクセスするとして説明する。
【0044】
依頼側が提供システム1にアクセスすると、ブラウザソフトウェアの画面には、例えば
図8に示すようなログイン画面が表示される。そして、依頼側は、入力欄に予め登録されているメールアドレスあるいはユーザIDと、パスワードを入力してログインボタンM1を押すことにより、提供システム1へのログイン、つまりは、提供サービスの利用が可能になる。このログイン画面からは、パスワードを忘れた場合の操作、パスワードを変更する操作、アカウントを新規作成する操作も可能である。
【0045】
提供システム1へのログインが完了すると、操作画面が表示される。依頼側は、この操作画面で「コード生成」のリンクを押すことにより、車両用ソフトウェアの生成を依頼することができる。この操作画面には、既に依頼済みのプロジェクトに関する情報が、状態、依頼日時、プロジェクト名、ベースソフトウェア、生成コードの各項目について表示される。
【0046】
図8の場合、依頼済みのプロジェクトが3つ存在しており、1番目と2番目のプロジェクトは、状態のところに車両用ソフトウェアの生成が完了したことを示す「File Regist Comp」と表示されており、生成コードのところにダウンロードボタンが表示されている。つまり、1番目と2番目のプロジェクトについては、車両用ソフトウェアの取得が可能となっていることが示されている。一方、3番目のプロジェクトは、状態のところに車両用ソフトウェアの生成に失敗したことを示す「Project Failed」と表示されており、ダウンロードボタンM2も表示されていないことから、車両用ソフトウェアの生成が失敗していることが示されている。
【0047】
依頼側は、この画面でコード新規作成ボタンを押すことにより、車両用ソフトウェアの新規作成を依頼することができる。具体的には、コード新規作成ボタンM3が押されると、
図9に示すように、プロジェクト名入力画面が表示される。依頼側は、例えばPrj004のように既存のプロジェクトと重ならない任意のプロジェクト名を入力して次へボタンM4aを押す。すると、対象となる車両用ソフトウェアを選択するベースソフトウェア選択画面が表示されるため、対象となるベースソフトウェアを選択する。
図9の場合、ゲートウェイソフトウェア Ver1.1が選択されていることを示している。
【0048】
この状態で次へボタンM4bを押すと、通信仕様書をアップロードするためのアップロード画面が表示される。そのため、依頼側は、作成した通信仕様書を、必要であればパスワードを付して例えば7zip方式で圧縮したファイルを選択してアップロードして次へボタンM4cを押す。すると、入力したプロジェクト名やファイル名などが一覧表示される確認画面が表示されるため、内容に問題が無ければ、SubmitボタンM5を押すことにより、入力した情報と通信仕様書のファイルとが提供システム1に受け渡される。つまり、車両用ソフトウェアの新規作成依頼が完了する。
【0049】
そして、操作端末7の画面は、
図10に示す依頼時画面に遷移し、依頼した4番目のプロジェクトの状態が、車両用ソフトウェアの作成依頼が受け付けられた「In Progress」として表示される。そして、依頼側は、状態が「File Regist Comp」になるか、「Project Failed」になるかを待機する。なお、提供システム1は、車両用ソフトウェアの生成が完了した場合や失敗した場合にはメールで通知する構成となっていてもよい。そのため、依頼側は、必ずしもこの画面のまま待機する必要は無い。
【0050】
また、入力された情報は、
図11に示すように、パッケージ情報として提供システム1に通知される。このパッケージ情報は、開発対象となる車両用ソフトウェアを特定するための情報であり、添付された通信仕様書つまりは更新情報と共に、更新データを構成する。つまり、上記した手順により、更新データが提供システム1に入力されている。なお、パッケージ情報は一例であり、例えば対象とするハードウェアを指定するなど、他の情報が含まれた形式とすることもできる。
【0051】
更新データが入力されると、提供システム1は、
図7において、更新データが入力されたことから(S3:YES)、更新データが正しいか否かを判定する(S4)。このステップS4では、上記したようにパッケージ情報と更新情報との対応関係や、更新情報つまりは通信仕様書の書式が正しいかがチェックされる。そして、提供システム1は、更新データが正しくない場合には(S4:NO)、依頼側のメールアドレスに更新データの誤りを通知するとともに、例えば
図10の依頼時画面の状態を「Project Failed」とする(S5)。
【0052】
つまり、提供システム1は、従来の手順では必要であった開発側の担当者による仕様の確認や質疑を削減することができる。また、依頼側にとっては、更新データを入力して直ぐに更新データの誤りを把握することができ、通信仕様書の見直しなどを迅速に行うことが可能になる。
【0053】
さて、提供システム1は、更新データが正しい場合には(S4:YES)、パッケージ情報に基づいて特定される車両用ソフトウェアの開発環境4に更新データを受け渡す(S6)。この場合、開発環境4が1台の開発装置2で構成されていればそのまま更新データを利用することになる。また、複数台の開発装置2が存在していたり、チェック部33がクラウドサーバ8側に設けられていたりする場合には、対象となる車両用ソフトウェア用の開発装置2に更新データが受け渡されることになる。
【0054】
続いて、提供システム1は、車両用ソフトウェアの生成を指示して(S7)、更新データが反映された車両用ソフトウェアを生成させる。そして、提供システム1は、
図12に示す流れで車両用ソフトウェアを新たに生成する。
図7と重複する部分については説明を省略するが、提供システム1は、通信仕様書を解析して通信経路を取得し、コード生成ツール35aにより、通信経路に対応したルーティングマップ用のソースコードを生成する。なお、
図12では、ルーティングマップ用のソースコードをRMコードとして示している。また、提供システム1は、パッケージ情報に基づいて、品番コードなどの必要なソースコードを取得する。
【0055】
そして、提供システム1は、オブジェクト生成ツール35bにより、車両用ソフトウェアを生成する。
図12にSWとして示す車両用ソフトウェアは、評価ボード3上で実行可能な実行オブジェクトとして生成されている。そして、提供システム1は、
図7に示すように車両用ソフトウェアの品質確認を指示する(S8)。このステップS8では、生成されたコードのチェックやオブジェクトサイズの確認といった一般的なソフトウェアの品質確認が行われる。また、提供システム1は、
図12に示すように成果物としての車両用ソフトウェアや、生成時のログなどをまとめるリリース作業も併せて行う。
【0056】
車両用ソフトウェアの生成が完了すると、提供システム1は、車両用ソフトウェアの評価を指示する(S9)。このステップS9では、
図12に示すように、通信仕様書に基づいて、評価環境生成ツール36aによってテストデータや期待値が生成され、シミュレーションツール36bによって車両用ソフトウェアの動作が評価される。そして、成果物としてのシミュレーション結果は、
図7に示すように評価結果として取得される(S10)。
【0057】
続いて、提供システム1は、実機つまりは評価ボード3上での評価を実施するか否かを判定する(S11)。実機での評価は、例えば提供サービスの契約内容に含まれている場合や、図示は省略するが依頼時に依頼された場合に行われる。そのため、提供システム1は、実機での評価を実施する場合には(S11:YES)、車両用ソフトウェアを実機にダウンロードし、実機上での動作の評価を指示する(S12)。このステップS12では、
図12に示すように、実機テストツール36cによって車両用ソフトウェアの実機での動作が評価される。そして、成果物である実機での動作結果は、
図7に示すように評価結果として取得される(S13)。
【0058】
この実機での評価において、提供システム1は、車両用ソフトウェアをダウンロードするのではなく、車両用ソフトウェアを実機に書き込んで動作を評価することも可能である。車両用ソフトウェアのような組み込みソフトウェアの場合、一般的にセキュリティの観点から実機への自由な書き込みが制限されている。そのため、従来では、実機での動作を検証したい場合には開発側に依頼するしかなかった。これに対して、提供システム1は、開発側の開発環境4を利用していることから、実機への書き込みを行うことができる。つまり、依頼側は、提供サービスを利用することにより、実機に書き込んだ状態における車両用ソフトウェアの評価結果を取得することが可能となっている。
【0059】
車両用ソフトウェアにはハードリアルタイムシステムにて用いられるソフトウェアと、ソフトリアルタイムシステムにて用いられるソフトウェアがある。1台の車両には機能や性能が異なるだけでなく、アーキテクチャも異なる多数(例えば、20個から100個以上)の電子制御装置が搭載される。そのため、実機やシミュレーションツールを用いて、車両用ソフトウェアを動作検証することはソフトウェア品質を確保する上でメリットが大きい。
【0060】
さて、評価結果を取得すると、提供システム1は、車両用ソフトウェアの提供が必要であるか否かを判定する(S14)。このステップS14では、提供システム1は、提供サービスの契約内容に車両用ソフトウェアの提供が含まれている場合や、依頼時に車両用ソフトウェアの提供を依頼された場合には、車両用ソフトウェアを提供する必要があると判定して(S14:YES)、生成された車両用ソフトウェアおよび評価結果を提供する(S15)。
【0061】
一方、提供システム1は、車両用ソフトウェアの提供が必要でない場合には(S14:YES)、評価結果を提供する(S16)。例えば通信経路の変更を検討している段階においては、変更後の車両用ソフトウェアの実際の動作ではなく、変更による大まかな影響をまずは把握したいという要望がある。そのため、提供システム1は、車両用ソフトウェアは含まず、評価結果を提供することができる。すなわち、提供システム1は、車両用ソフトウェアの評価結果を提供する提供方法にも対応した構成となっている。このように車両用ソフトウェアあるいは評価結果を提供すると、提供システム1は、依頼された車両用ソフトウェアの生成に関する一連の処理を終了する。この場合、実際の提供システム1では、ステップS3に移行して次の更新データの入力を待機することになる。
【0062】
開発装置2は既に基本データが登録されている。よって、次回以降の車両用ソフトウェアの更新では、依頼側から入力される更新データと、記憶部21に保存された更新データ以外の情報を用いて、新たな車両用ソフトウェアは生成され、依頼側に提供される。言い換えると、車両用ソフトウェアが更新される際、依頼側は車両用ソフトウェアの開発に関する全ての情報を開発側に提供する必要はない。依頼側は、更新予定の車両用ソフトウェアについてバージョンを含めて特定する情報と、更新部分を示した情報とを開発側に提供すればよい。更新予定の車両用ソフトウェアについてバージョンを含めて特定する情報は、例えば、パッケージ情報やベースソフトウェアの情報である。更新部分を示した情報は、予め定められた書式のファイルであり、例えば、表計算ソフトウェアのファイル、ARXML形式のファイル、JSON形式のファイルである。
【0063】
車両用ソフトウェアの生成が完了した場合、例えばメールによって完了したことが依頼側に通知される。そして、依頼側の担当者が操作端末7から提供システム1にログインすると、
図10に示す完了時画面が表示される。この完了時画面には、今回依頼した4番目のプロジェクトの状態が「File Regist Comp」となり、生成コードのところにダウンロードボタンM2が表示され、車両用ソフトウェアの生成が完了したことが示されている。このとき、依頼したプロジェクトの番号には、下線にて模式的に示すリンクが付されており、番号をクリックするとダウンロードボタンM2を押したときと同様の画面遷移が発生する。なお、何らかの理由でエラーになった場合、その旨が通知されることになる。
【0064】
そして、番号あるいはダウンロードボタンM2を押すことにより、
図13に示す詳細画面が表示され、プロジェクトの内容を確認した上で、成果物がまとめられたファイルのダウンロードが可能になる。
図13の場合、成果物は、output_RM_004.7zというファイル名で示されている。
【0065】
この成果物には、評価ボード3にダウンロードして実行できる形式の車両用ソフトウェアのオブジェクト、生成時のログ、評価結果などが含まれている。評価結果としては、
図14に示すように、例えば各フレームIDを中継した際の中継遅延時間を表計算ソフトウェアの形式にまとめたデータなどが提供される。中継遅延時間は、該当するフレームIDの通信フレームを受信してから、対応する中継先に中継するまでに要する時間である。
【0066】
この
図14には、例えばチャンネル1で受信したフレームIDが「17」の通信フレームを中継先であるチャンネル2、4、5に中継する際に要する時間が、最大値と最小値を示すバーと平均値を示す黒丸によって示されているとともに、各フレームIDを中継する際の許容時間が破線にて示されている。そのため、依頼側は、評価結果を参照することにより、例えば通信経路を変更した場合の通信状況を把握することができる。また、異なるプロジェクトを依頼し、異なる通信経路の評価結果を取得することにより、通信経路を変更した際の傾向を把握すること、つまりは、経路変更の妥当性の目途付けをすることができる。
【0067】
このように、提供システム1は、依頼側から更新データが入力されたことを起因として、更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアを生成し、車両用ソフトウェアを評価し、車両用ソフトウェアあるいはその評価結果を提供するまでの一連の処理を自動的に実施可能に構成されている。これにより、
図6に実施例として示すように、車両用ソフトウェアを開発する際の開発側における人手や時間を削減することができるとともに、更新データつまりは依頼内容が反映された車両用ソフトウェアを迅速に提供することができる。
【0068】
そして、このような提供システム1ならびに提供方法を利用することにより、例えば
図15にユースケースその1として示すように、最終的な仕様書を決定する前の段階で通信状態の評価結果を入手することが可能となり、また、通信遅延時間などに基づいて再度修正を行うことが可能になるなど、従来では実車に搭載するまで把握できなかった通信経路の変更を、仕様書を決定する前に検討することができるようになる。
【0069】
また、例えば
図15にユースケースその2として示すように、通信仕様の決定時期を遅らせることが可能となる。通常の開発プロセスでは、車両ソフトウェアの開発が完了して評価を開始するまでにある程度の時間がかかると想定される。その場合、開発が完了するまでの期間で提供サービスを利用して通信経路の評価を先行して行うことができ、通信仕様を最終的に決定する時期を依頼時よりも遅らせることができ、より詳細に検討した状態の車両用ソフトウェアを開発することができる。
【0070】
また、例えば
図15にユースケースその3として示すように、新たな機能を検討する際に提供サービスを利用することができる。例えば
図2における通信経路において、ある通信ノード11を入れ替えた際の通信性能が期待通りにならなかった場合、異なる通信経路で試してみたいという状況が想定される。その場合、提供サービスを利用すれば、通信経路を変更した際の評価結果を迅速に、また、繰り返し何度も取得できるため、最終的に仕様を決定するまでに十分な検討を重ねることができる。
【0071】
以上説明した実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
実施形態による車両用ソフトウェアの提供方法は、車両用ソフトウェアを生成する際に必要な各種の情報を、対象の車両用ソフトウェアに対応付けて基本データとして登録するステップと、対象の車両用ソフトウェアを特定するためのパッケージ情報と、基本データに対する更新内容を指示するものであって予め定められた書式で記述されている更新情報とが含まれている更新データを受け付けるステップと、受け付けた更新データの書式をチェックするステップと、更新データに基づいて対象の車両用ソフトウェアを特定し、特定した車両用ソフトウェアの開発環境4に更新データを受け渡して車両用ソフトウェアの生成を指示し、更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアを生成させるステップと、生成された新たな車両用ソフトウェアを提供するステップとを含んでいる。
【0072】
これにより、依頼側で更新データを入力すれば、その更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアを自動的に生成して提供することが可能になる。したがって、車両用ソフトウェアを開発する際の開発側における人手や時間を削減することができるとともに、更新データつまりは依頼内容が反映された車両用ソフトウェアを迅速に提供することができる。
【0073】
また、車両用ソフトウェアの提供方法は、更新データを受け付けるステップでは、ネットワークを経由した外部からのアクセスが可能なウェブインターフェースを介して更新データを受け付け、新たな車両用ソフトウェアを提供するステップでは、ウェブインターフェースを介して車両用ソフトウェアを提供する。これにより、開発側に更新データを受け渡す際に人手を介することがなくなるとともに、依頼側から任意のタイミングで更新データの提供すなわち車両用ソフトウェアの生成を依頼することができるため、依頼側と開発側の双方で大きな利点を享受できる。また、実施形態のようなOEM製品の開発において依頼側の企業と開発側の企業とが異なる場合などにおいてはさらに有意なものとなる。
【0074】
また、車両用ソフトウェアの提供方法は、新たな車両用ソフトウェアの評価を指示するステップと、シミュレーションによる車両用ソフトウェアの評価結果を取得するステップと、評価結果を提供するステップとをさらに含む。これにより、例えば異なる仕様変更を検討する際などにおいて、それぞれの評価結果を得て検証することがで、仕様変更の目途付けを迅速且つ容易に行うことができる。
【0075】
また、車両用ソフトウェアの提供方法は、実機での車両用ソフトウェアの評価を指示するステップと、車両用ソフトウェアを実機にダウンロードし、実機での評価結果を取得するステップと、評価結果を提供するステップとをさらに含む。これにより、実際の車両用ソフトウェアの動作結果を検証することができる。
【0076】
また、車両用ソフトウェアの提供方法では、基本データには車両用ソフトウェアで利用されるパラメータが含まれており、更新データはパラメータを変更するものである。これにより、パラメータの変更といった単純な仕様変更を依頼する場合において、従来の仕組みとは異なり、依頼側で正規の依頼手順を踏む必要がなくなり、変更内容が反映された車両用ソフトウェアを入手するまでに要する時間を短縮することができる。
【0077】
また、車両用ソフトウェアの提供方法では、車両用ソフトウェアは、車載ネットワークで送受信されるデータを中継する中継装置10を制御するものであり、基本データには、データの中継元と中継先とが固定値で定義されたルーティングマップが含まれており、更新データは、ルーティングマップに対する変更を指示するものである。これにより、実施形態で示したルーティングマップの変更のような単純な仕様変更を依頼する場合において、従来の仕組みとは異なり、依頼側で正規の依頼手順を踏む必要がなくなり、変更内容が反映された車両用ソフトウェアを入手するまでに要する時間を短縮することができる。
【0078】
また、車両用ソフトウェアの評価結果の提供方法は、車両用ソフトウェアを生成する際に必要な各種の情報をまとめて基本データとして登録するステップと、対象の車両用ソフトウェアを特定するためのパッケージ情報と、基本データに対する更新内容を指示するものであって予め定められた書式で記述されている更新情報とが含まれている更新データを受け付けるステップと、受け付けた更新データの書式をチェックするステップと、更新データに基づいて対象の車両用ソフトウェアを特定し、特定した車両用ソフトウェアの開発環境4に更新データを受け渡し、更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアを生成させるステップと、新たな車両用ソフトウェアの評価を指示するステップと、新たな車両用ソフトウェアの評価結果を提供するステップと、を含む。
【0079】
これにより、依頼側で更新データを入力すれば、その更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアの評価を自動的に行い、その評価結果を提供することが可能になる。したがって、車両用ソフトウェアを開発する際の開発側における人手や時間を削減することができるとともに、更新データつまりは依頼内容が反映された車両用ソフトウェアの評価結果を迅速に提供することができる。
【0080】
また、車両用ソフトウェアの提供システム1は、車両用ソフトウェアを生成する際に必要な各種の情報を、対象の車両用ソフトウェアに対応付けて基本データとして登録する登録部31と、対象の車両用ソフトウェアを特定するためのパッケージ情報と、基本データに対する更新内容を指示するものであって予め定められた書式で記述されている更新情報とが含まれている更新データを受け付ける受付部32と、受け付けた更新データの書式をチェックするチェック部33と、更新データに基づいて対象の車両用ソフトウェアを特定し、特定した車両用ソフトウェアの開発環境4に更新データを受け渡して車両用ソフトウェアの生成を指示する指示部34と、指示部34からの指示に基づいて更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアを生成させる生成部35と、生成された新たな車両用ソフトウェアを提供する提供部37と、を備える。
【0081】
これにより、依頼側で更新データを入力すれば、その更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアを生成してから提供するまでの一連の処理を自動的に行うことができる。したがって車両用ソフトウェアを開発する際の開発側における人手や時間を削減することができるとともに、更新データつまりは依頼内容が反映された車両用ソフトウェアを迅速に提供することができるなど、上記した提供方法と同様の効果を得ることができる。
【0082】
車両用ソフトウェアの提供システム1および提供方法においては、基本データに車両用ソフトウェアのソースコードを含め、更新データにソースコードに対する変更を指示する内容を含め、
図7に示したステップを実行することにより、ソースコードに対する変更を可能にする構成とすることができる。このような構成によっても、依頼側で更新データを入力すれば、その更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアを生成してから提供するまでの一連の処理を自動的に行うことができる。したがって車両用ソフトウェアを開発する際の開発側における人手や時間を削減することができるとともに、更新データつまりは依頼内容が反映された車両用ソフトウェアやその評価結果を迅速に提供することができるなど、上記した提供方法と同様の効果を得ることができる。
【0083】
また、開発環境4を構成する例えば開発装置2の制御部20に、上記した提供方法における各ステップを実行させる車両用ソフトウェアの提供プログラムによっても、上記した提供方法や提供システム1と同様の各種の効果を得ることができる。また、開発環境4を構成する複数の装置により、上記した各処理を分散して実行させる構成とすることもできる。
【0084】
また、依頼側と開発側との間におけるファイルの受け渡しは、実施形態のようにクラウドサービスを介して間接的に行うのではなく、依頼側から直接的に開発側にファイルを受け渡す構成とすることができる。例えば、
図16に示すように、インターフェース部9に相当するウェブインターフェース機能を開発装置2に設けた提供システム1Aを利用することにより、依頼側から直接的にファイルを受け渡す構成とすることができる。あるいは、
図17に示すように、ウェブインターフェース機能を開発装置2および評価装置5に設けた提供システム1Bを利用することにより、依頼側の評価装置5から直接的にファイルを受け渡す構成とすることもできる。このような構成によっても、実施形態の提供システム1と同様の効果を得ることができる。
【0085】
また、依頼側と開発側との間におけるファイルの受け渡しはインターフェース部9を介して行われる。インターフェース部9と開発環境4がファイルの受け渡しをする構成としている。開発環境4のどの機能をインターフェース部9に開放するか制限できるので、セキュリティを維持したままで依頼側の利便性を向上することができる。
【0086】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することにより提供された専用コンピュータにより実現されても良い。或いは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によりプロセッサを構成することにより提供された専用コンピュータにより実現されても良い。若しくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路により構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより実現されても良い。又、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていても良い。
【0087】
本件は、特許請求の範囲に記載の発明に加え、以下のような発明を含む。
[1]車両用ソフトウェアを提供するための方法であって、
車両用ソフトウェアを生成する際に必要な各種の情報を、対象の車両用ソフトウェアに対応付けて基本データとして登録するステップ(S1)と、
対象の車両用ソフトウェアを特定するためのパッケージ情報と、基本データに対する更新内容を指示するものであって予め定められた書式で記述されている更新情報とが含まれている更新データを受け付けるステップ(S3)と、
受け付けた更新データの書式をチェックするステップ(S4)と、
更新データに基づいて対象の車両用ソフトウェアを特定し、特定した車両用ソフトウェアの開発環境に更新データを受け渡して車両用ソフトウェアの生成を指示し、更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアを生成させるステップ(S7)と、
生成された新たな車両用ソフトウェアを提供するステップ(S15)と、
を含む車両用ソフトウェアの提供方法。
【0088】
[2]更新データを受け付けるステップでは、ネットワークを経由した外部からのアクセスが可能なウェブインターフェースを介して更新データを受け付け、
新たな車両用ソフトウェアを提供するステップでは、ウェブインターフェースを介して車両用ソフトウェアを提供する[1]に記載の車両用ソフトウェアの提供方法。
【0089】
[3]新たな車両用ソフトウェアの評価を指示するステップ(S9)と、
シミュレーションによる車両用ソフトウェアの評価結果を取得するステップ(S10)と、
評価結果を提供するステップ(S15、S16)と、
をさらに含む[1]または[2]に記載の車両用ソフトウェアの提供方法。
【0090】
[4]
実機での車両用ソフトウェアの評価を指示するステップ(S12)と、
車両用ソフトウェアを実機にダウンロードし、実機での評価結果を取得するステップ(S13)と、
評価結果を提供するステップ(S15、S16)と、
をさらに含む[1]から[3]のいずれかに記載の車両用ソフトウェアの提供方法。
【0091】
[5]
基本データには、車両用ソフトウェアで利用されるパラメータが含まれており、
更新データは、パラメータを変更するものである[1]から[4]のいずれかに記載の車両用ソフトウェアの提供方法。
【0092】
[6]
車両用ソフトウェアは、車載ネットワークで送受信されるデータを中継する中継装置を制御するものであり、
基本データには、データの中継元と中継先とが固定値で定義されたルーティングマップが含まれており、
更新データは、ルーティングマップに対する変更を指示するものである[1]から[5]のいずれかに記載の車両用ソフトウェアの提供方法。
【0093】
[7]
基本データには、車両用ソフトウェアのソースコードが含まれており、
更新データは、ソースコードに対する変更を指示するものである[1]から[6]のいずれかに記載の車両用ソフトウェアの提供方法。
【0094】
[8]
車両用ソフトウェアの評価結果を提供するための方法であって、
車両用ソフトウェアを生成する際に必要な各種の情報をまとめて基本データとして登録するステップと、
対象の車両用ソフトウェアを特定するためのパッケージ情報と、基本データに対する更新内容を指示するものであって予め定められた書式で記述されている更新情報とが含まれている更新データを受け付けるステップと、
受け付けた更新データの書式をチェックするステップと、
更新データに基づいて対象の車両用ソフトウェアを特定し、特定した車両用ソフトウェアの開発環境に更新データを受け渡し、更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアを生成させるステップと、
新たな車両用ソフトウェアの評価を指示するステップと、
新たな車両用ソフトウェアの評価結果を提供するステップと、
を含む車両用ソフトウェアの評価結果提供方法。
【0095】
[9]
車両用ソフトウェアを提供するためのシステムであって、
車両用ソフトウェアを生成する際に必要な各種の情報を、対象の車両用ソフトウェアに対応付けて基本データとして登録する登録部と、
対象の車両用ソフトウェアを特定するためのパッケージ情報と、基本データに対する更新内容を指示するものであって予め定められた書式で記述されている更新情報とが含まれている更新データを受け付ける受付部と、
受け付けた更新データの書式をチェックするチェック部と、
更新データに基づいて対象の車両用ソフトウェアを特定し、特定した車両用ソフトウェアの開発環境に更新データを受け渡して車両用ソフトウェアの生成を指示する指示部と、
指示部からの指示に基づいて更新データが反映された新たな車両用ソフトウェアを生成させる生成部と、
生成された新たな車両用ソフトウェアを提供する提供部と、
を備える車両用ソフトウェアの提供システム。
【符号の説明】
【0096】
図面中、1、1A、1Bは提供システム、3は評価ボード(実機)、4は開発環境、31は登録部、32は受付部、33はチェック部、34は指示部、35は生成部、36は評価部、37は提供部を示す。