(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128596
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】計測位置の決定方法および決定装置
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20240913BHJP
G01C 1/00 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
G01C15/00 102C
G01C1/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037637
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 智博
(57)【要約】
【課題】点計測の計測位置を最適化することができる計測位置の決定方法および決定装置を提供する。
【解決手段】測位衛星システムまたは測量機器により位置が計測され、計測対象物の表面に配置される計測位置を決定する方法であって、前記計測対象物の表面の複数点に前記計測位置の候補領域を設定するステップS1と、前記計測対象物の表面の面的な情報を取得するステップS2と、設定した前記候補領域と、取得した前記面的な情報に基づいて、前記計測位置を求めるための最適化問題を設定するステップS3と、設定した前記最適化問題を解くことにより、前記候補領域の中から前記計測位置を決定するステップS4とを有するようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位衛星システムまたは測量機器により位置が計測され、計測対象物の表面に配置される計測位置を決定する方法であって、
前記計測対象物の表面の複数点に前記計測位置の候補領域を設定するステップと、
前記計測対象物の表面の面的な情報を取得するステップと、
設定した前記候補領域と、取得した前記面的な情報に基づいて、前記計測位置を求めるための最適化問題を設定するステップと、
設定した前記最適化問題を解くことにより、前記候補領域の中から前記計測位置を決定するステップとを有することを特徴とする計測位置の決定方法。
【請求項2】
RTK-GNSS測位方式により、前記計測位置の位置が計測されることを特徴とする請求項1に記載の計測位置の決定方法。
【請求項3】
合成開口レーダーにより、前記面的な情報を取得することを特徴とする請求項1または2に記載の計測位置の決定方法。
【請求項4】
測位衛星システムまたは測量機器により位置が計測され、計測対象物の表面に配置される計測位置を決定する装置であって、
前記計測対象物の表面の複数点に前記計測位置の候補領域を設定する設定手段と、
前記計測対象物の表面の面的な情報を取得する取得手段と、
設定した前記候補領域と、取得した前記面的な情報に基づいて、前記計測位置を求めるための最適化問題を設定する問題設定手段と、
設定した前記最適化問題を解くことにより、前記候補領域の中から前記計測位置を決定する計測位置決定手段とを有することを特徴とする計測位置の決定装置。
【請求項5】
RTK-GNSS測位方式により、前記計測位置の位置が計測されることを特徴とする請求項4に記載の計測位置の決定装置。
【請求項6】
前記取得手段が、合成開口レーダーであることを特徴とする請求項4または5に記載の計測位置の決定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、地表面や構造物の変位モニタリングなどに好適な計測位置の決定方法および決定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、GPS(Global Positioning System)、GNSS(Global Navigation Satellite System)などの測位衛星システムや測量機器(傾斜計、トータルステーション)などを利用して、地表面の変動や構造物の変形などを点的に計測(点計測)してモニタリングすることにより、設計値との比較、危険度判定などが行われている(例えば、特許文献1を参照)。測位衛星システムや測量機器による点計測は、計測精度は高いものの計測密度が低く高コストであるといった問題がある。そこで、面的な計測(例えば、カメラ画像、LiDARセンサー、合成開口レーダー(SAR:Synthetic Aperture Radar)、塗料など)を併用する試みが近年盛んに行われ始めている。面的な計測は、広範囲を一度に計測できるものの、一般的に誤差やノイズが多く、点的な計測の精度と比較すると劣るケースが殆どであるため、面的な計測と点計測の両者の情報を統合して現状を把握することが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、点計測を行う計測位置(計測点)については、これまで人の経験に基づいて経験的に決定されてきており、どこで計測を行えば現状を把握するために最適であるかは考慮されていなかった。点計測において最適な計測位置を選定できれば、少ない計測値で高精度に現状を把握することが可能となり、面的な計測を高頻度にする必要がなくなるので、計測コストを低く抑えることができる。このため、点計測の計測位置を最適化することができる技術が求められていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、点計測の計測位置を最適化することができる計測位置の決定方法および決定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る計測位置の決定方法は、測位衛星システムまたは測量機器により位置が計測され、計測対象物の表面に配置される計測位置を決定する方法であって、前記計測対象物の表面の複数点に前記計測位置の候補領域を設定するステップと、前記計測対象物の表面の面的な情報を取得するステップと、設定した前記候補領域と、取得した前記面的な情報に基づいて、前記計測位置を求めるための最適化問題を設定するステップと、設定した前記最適化問題を解くことにより、前記候補領域の中から前記計測位置を決定するステップとを有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る他の計測位置の決定方法は、上述した発明において、RTK-GNSS測位方式により、前記計測位置の位置が計測されることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他の計測位置の決定方法は、上述した発明において、合成開口レーダーにより、前記面的な情報を取得することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る計測位置の決定装置は、測位衛星システムまたは測量機器により位置が計測され、計測対象物の表面に配置される計測位置を決定する装置であって、前記計測対象物の表面の複数点に前記計測位置の候補領域を設定する設定手段と、前記計測対象物の表面の面的な情報を取得する取得手段と、設定した前記候補領域と、取得した前記面的な情報に基づいて、前記計測位置を求めるための最適化問題を設定する問題設定手段と、設定した前記最適化問題を解くことにより、前記候補領域の中から前記計測位置を決定する計測位置決定手段とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の計測位置の決定装置は、上述した発明において、RTK-GNSS測位方式により、前記計測位置の位置が計測されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他の計測位置の決定装置は、上述した発明において、前記取得手段が、合成開口レーダーであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る計測位置の決定方法によれば、測位衛星システムまたは測量機器により位置が計測され、計測対象物の表面に配置される計測位置を決定する方法であって、前記計測対象物の表面の複数点に前記計測位置の候補領域を設定するステップと、前記計測対象物の表面の面的な情報を取得するステップと、設定した前記候補領域と、取得した前記面的な情報に基づいて、前記計測位置を求めるための最適化問題を設定するステップと、設定した前記最適化問題を解くことにより、前記候補領域の中から前記計測位置を決定するステップとを有するので、測位衛星システムまたは測量機器による点計測の計測位置を最適化することができるという効果を奏する。
【0013】
また、本発明に係る他の計測位置の決定方法によれば、RTK-GNSS測位方式により、前記計測位置の位置が計測されるので、RTK-GNSS測位方式による点計測の計測位置を最適化することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る他の計測位置の決定方法によれば、合成開口レーダーにより、前記面的な情報を取得するので、合成開口レーダーによる計測結果をもとに、点計測の計測位置を最適化することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る計測位置の決定装置によれば、測位衛星システムまたは測量機器により位置が計測され、計測対象物の表面に配置される計測位置を決定する装置であって、前記計測対象物の表面の複数点に前記計測位置の候補領域を設定する設定手段と、前記計測対象物の表面の面的な情報を取得する取得手段と、設定した前記候補領域と、取得した前記面的な情報に基づいて、前記計測位置を求めるための最適化問題を設定する問題設定手段と、設定した前記最適化問題を解くことにより、前記候補領域の中から前記計測位置を決定する計測位置決定手段とを有するので、測位衛星システムまたは測量機器による点計測の計測位置を最適化することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る他の計測位置の決定装置によれば、RTK-GNSS測位方式により、前記計測位置の位置が計測されるので、RTK-GNSS測位方式による点計測の計測位置を最適化することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る他の計測位置の決定装置によれば、前記取得手段が、合成開口レーダーであるので、合成開口レーダーによる計測結果をもとに、点計測の計測位置を最適化することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明に係る計測位置の決定方法の実施の形態を示す概略フロー図である。
【
図2】
図2は、GNSS測量により計測された点的な情報の一例を示す図である(出典:参考文献1(国土地理院、箱根山周辺の地殻変動、火山噴火予知連絡会会報、第129号(2018))。
【
図3】
図3は、SARにより計測された面的な情報の一例を示す図である(出典:参考文献1、Analysis by GSI from ALOS-2 raw data of JAXA)。
【
図4】
図4(1)はSAR解析画像、(2)は(1)のSAR解析画像の低次元基底による再構築のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る計測位置の決定方法および決定装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
本発明の実施の形態に係る計測位置の決定方法は、測位衛星システムまたは測量機器により位置(点的な情報)が計測され、計測対象物の表面に配置される計測位置を決定する方法である。本実施の形態の計測対象物は、例えば、地表面や地表上に固定された構造物(例えば、ビルなどの建物やダムなどの堤体)などを想定している。
【0021】
測位衛星システムには、例えば、GPSやGNSSなどの測位システムを利用することができる。このうちRTK-GNSS(Real Time Kinematic GNSS)測位などの相対測位システムを用い、より高精度な位置情報を取得してもよい。また、測量機器には、例えば、傾斜計、トータルステーションなどを用いることができる。
【0022】
本実施の形態は、
図1に示すように、ステップS1~S4の手順で実行される。
具体的には、まず、計測対象物の表面に、計測位置の候補領域を設定する(ステップS1)。続いて、計測対象物の表面の面的な情報を取得する(ステップS2)。次に、設定した候補領域と、取得した面的な情報に基づいて、計測位置を求めるための最適化問題を設定する(ステップS3)。次に、設定した最適化問題をコンピュータなどの演算処理装置で解くことにより、候補領域の中から計測位置を決定する(ステップS4)。このようにすれば、測位衛星システムまたは測量機器による点計測の計測位置を最適化することができる。
【0023】
上記のステップS2において、SARを用いてSAR解析画像(面的な情報)を取得してもよいし、LiDARセンサー、カメラ、(感圧)塗料などを用いて、計測対象物の表面の面的な情報を取得してもよい。
【0024】
次に、上記の手順によって最適な計測位置の決定が可能となる理由について、GNSS測量およびSARを用いる場合を例にとり説明する。
図2に、GNSS測量により計測された所定エリアの点的な情報の一例を示す。
図3に、SARにより計測された同一エリアのSAR解析画像(面的な情報)の一例を示す。
【0025】
あるエリアにおけるSAR解析画像(変動情報)が得られているとき、点的な計測位置を最適化することは、複数個配置されたGNSSの計測値のみから、SAR解析画像と可能な限り同等な画像を再構築(推定)する問題を解くことと同値となる。
図4(1)に、SAR解析画像を示す。
図4(2)に(1)のSAR解析画像の低次元基底による再構築のイメージを示す。
【0026】
つまり、従来の画像圧縮などに利用される手法(例えば、下記の参考文献2に示される画像の部分情報から画像を復元する手法)にしたがい、yをGNSS測量による観測値ベクトル、Cを計測位置を示す行列、Ψを新たに定義する基底行列(固有直交分解などによる)、sを潜在変数ベクトル(求めたいもの)とすると、y=CΨsと表すことができる。
【0027】
ΨはSAR解析画像(あるいはその時系列データを並べたもの)から主要な成分を抽出したものとすることで低次元化することができ、yが与えられたとき、sの近似解はCΨの擬似逆行列を用いることで求められる。したがって、計測位置の最適化問題は、CΨの行列式やトレースなど特徴的な量の最大化問題に帰着し、この問題は貪欲法(例えば、下記の参考文献2を参照)、凸緩和法、アニーリング法などによって解くことができる。ここで、計測位置に拘束条件があるときは、Ψにその情報を付加することで望ましい結果を得ることができる。
【0028】
上記の方法により、CΨの行列式やトレースなど特徴的な量を最大化するCを探索し、探索したCに基づいて、点的な計測位置の最適な位置を決定する。これにより、最適な計測位置の決定が可能となる。また、こうして決定した計測位置をGNSS測量の計測位置に選定することにより、その計測データからの面的情報の再構築(推定)が可能となる。また、このような計測位置を選定すれば、少ない計測位置で高精度に全体の状況をモニタリングし、把握することが可能となる。
【0029】
[参考文献2] K. Manohar, Data-Driven Sparse Sensor Placement for Reconstruction, IEEE Control Systems Magazine, 38, 63/86 (2018).
【0030】
本実施の形態の決定方法によれば、従来では得られなかった最適な計測位置を得ることができる。計測位置の数を必要最低限に絞り込めるので、計測コストを低減可能である。また、少ない計測位置で高精度に全体の状況を把握することが可能となり、面的な情報を高頻度に取得する必要がなくなる、あるいは面的な情報を高精度に補正することが可能となる。このため、モニタリングコストを大幅に削減可能である。なお、補正方法としては、例えば、再構築された面的な情報と、実際に計測された面的な情報の両者をデータ同化させるなどの方法が挙げられる。また、本実施の形態によれば、最適化する前に点的な計測が既に行われており位置を変更できないケースにおいても、上記の決定方法を用いることで可能な限り面的な情報を再構築することもできる。
【0031】
なお、上記の実施の形態では、計測位置の決定方法について説明したが、本発明の実施の形態に係る計測位置の決定装置は、これに対応して構成される。すなわち、本実施の形態の計測位置の決定装置は、計測対象物の表面の複数点に計測位置の候補領域を設定する設定手段と、計測対象物の表面の面的な情報を取得する取得手段と、設定した候補領域と、取得した面的な情報に基づいて、計測位置を求めるための最適化問題を設定する問題設定手段と、設定した最適化問題を解くことにより、候補領域の中から計測位置を決定する計測位置決定手段とを有しており、これらの各手段は、上記の各ステップS1~S4に対応している。各手段は、目的に応じた機器やコンピュータなどにより構成される。この計測位置の決定装置によれば、上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0032】
以上説明したように、本発明に係る計測位置の決定方法によれば、測位衛星システムまたは測量機器により位置が計測され、計測対象物の表面に配置される計測位置を決定する方法であって、前記計測対象物の表面の複数点に前記計測位置の候補領域を設定するステップと、前記計測対象物の表面の面的な情報を取得するステップと、設定した前記候補領域と、取得した前記面的な情報に基づいて、前記計測位置を求めるための最適化問題を設定するステップと、設定した前記最適化問題を解くことにより、前記候補領域の中から前記計測位置を決定するステップとを有するので、測位衛星システムまたは測量機器による点計測の計測位置を最適化することができる。
【0033】
また、本発明に係る他の計測位置の決定方法によれば、RTK-GNSS測位方式により、前記計測位置の位置が計測されるので、RTK-GNSS測位方式による点計測の計測位置を最適化することができる。
【0034】
また、本発明に係る他の計測位置の決定方法によれば、合成開口レーダーにより、前記面的な情報を取得するので、合成開口レーダーによる計測結果をもとに、点計測の計測位置を最適化することができる。
【0035】
また、本発明に係る計測位置の決定装置によれば、測位衛星システムまたは測量機器により位置が計測され、計測対象物の表面に配置される計測位置を決定する装置であって、前記計測対象物の表面の複数点に前記計測位置の候補領域を設定する設定手段と、前記計測対象物の表面の面的な情報を取得する取得手段と、設定した前記候補領域と、取得した前記面的な情報に基づいて、前記計測位置を求めるための最適化問題を設定する問題設定手段と、設定した前記最適化問題を解くことにより、前記候補領域の中から前記計測位置を決定する計測位置決定手段とを有するので、測位衛星システムまたは測量機器による点計測の計測位置を最適化することができる。
【0036】
また、本発明に係る他の計測位置の決定装置によれば、RTK-GNSS測位方式により、前記計測位置の位置が計測されるので、RTK-GNSS測位方式による点計測の計測位置を最適化することができる。
【0037】
また、本発明に係る他の計測位置の決定装置によれば、前記取得手段が、合成開口レーダーであるので、合成開口レーダーによる計測結果をもとに、点計測の計測位置を最適化することができる。
【0038】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施の形態に係る計測位置の決定方法および決定装置は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」の目標などの達成に貢献し得る。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上のように、本発明に係る計測位置の決定方法および決定装置は、地表面や構造物の変位モニタリングなどに有用であり、特に、点計測の計測位置を最適化するのに適している。