(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128609
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合工具及び摩擦攪拌接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20240913BHJP
B23C 3/12 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B23K20/12 344
B23C3/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037670
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 真三樹
(72)【発明者】
【氏名】下田 陽一朗
【テーマコード(参考)】
3C022
4E167
【Fターム(参考)】
3C022DD01
3C022DD11
4E167AA06
4E167BG04
4E167BG06
4E167BG22
(57)【要約】
【課題】接合後のビード幅の大きさを抑えつつ、被接合材同士を良好に接合させてバリを除去できる摩擦攪拌接合工具及び摩擦攪拌接合方法を提供する。
【解決手段】本体部11と、本体部11の一方の先端面の中心から軸方向に突出したプローブ13とを備え、被接合材41,43にプローブ13を回転させつつ押し当てることにより摩擦熱を発生させて、被接合材41,43同士を摩擦攪拌接合する。本体部11の先端面は、プローブ13の根元部に接続されて径方向外側に延びる環状の第一面23と、第一面23の外周縁に段部を介して接続され第一面23よりも突出高さが低い第二面25とを有する。本体部11には、被接合材41,43の表面を切削する切削刃33が設けられる。切削刃33は、第一面23の外周縁の径方向位置に刃先35が配置され、且つ刃先35の軸方向への突出高さは、第一面23の外周縁の突出高さと等しい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の本体部と、前記本体部の一方の先端面の中心から軸方向に突出したプローブとを備え、互いに突き合わせた被接合材同士の突合せ部に前記プローブを回転させつつ押し当てることにより摩擦熱を発生させて、前記被接合材同士を摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合工具であって、
前記本体部の先端面は、
前記プローブの根元部に接続されて径方向外側に延びる環状の第一面と、
前記第一面の外周縁に段部を介して接続され前記第一面よりも突出高さが低い第二面と、
を有し、
前記本体部には、前記被接合材の表面を切削する切削刃が設けられ、
前記切削刃は、前記第一面の外周縁の径方向位置に刃先が配置され、且つ前記刃先の前記軸方向への突出高さは、前記第一面の外周縁の突出高さと等しい、
摩擦攪拌接合工具。
【請求項2】
前記第一面は、前記プローブの根元部に近いほど前記突出高さが低くなる凹状のポケット部を形成する、
請求項1に記載の摩擦攪拌接合工具。
【請求項3】
前記本体部は、前記先端面の軸方向反対側にシャンク部を有する、
請求項1に記載の摩擦攪拌接合工具。
【請求項4】
前記本体部は、円柱形状の周面の一部を径方向に減肉して形成された減肉面を有する形状であり、
前記切削刃は、前記減肉面に固定されている、
請求項1に記載の摩擦攪拌接合工具。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の摩擦攪拌接合工具を用いた摩擦攪拌接合方法であって、
互いに接合する前記被接合材を突合せ、
前記本体部を回転させながら前記プローブを前記被接合材の突合せ部に押し当てて前記突合せ部に沿って相対移動させ、
発生する摩擦熱により前記被接合材を摩擦攪拌するとともに、前記切削刃によって前記被接合材の表面を切削する、
摩擦攪拌接合方法。
【請求項6】
前記摩擦攪拌接合工具と前記被接合材とを前記突合せ部に沿って相対移動させる際に、前記被接合材の前記摩擦攪拌接合工具に対向する対向面の法線方向に対して、前記摩擦攪拌接合工具を接合方向後方側へ傾ける、
請求項5に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項7】
前記被接合材の厚さが互いに異なる場合に、前記摩擦攪拌接合工具を、前記相対移動の方向と直交する面内で薄肉側の前記被接合材へ向けて傾ける、
請求項6に記載の摩擦攪拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌接合工具及び摩擦攪拌接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両の車体を製造する際の被接合材を接合する接合工法として、摩擦熱を利用して被接合材を接合する摩擦攪拌接合法(FSW:Friction Stir Welding)がある。摩擦攪拌接合法は、プローブを有する工具を回転させつつ、被接合材の突合せ部にプローブを押し当てながら突合せ部に沿って移動させる接合方法である。これによれば、被接合材以外の素材を用いずに、工具と被接合材との間の摩擦、材料の塑性流動による入熱及び攪拌によって、被接合材の変形及び歪みを抑えた高強度な接合が可能となる。摩擦攪拌接合を実施する際、工具を被接合材に押し付けるために、材料が工具の外側へ流動してバリが生じる。そのため、接合の次工程において、生じたバリを切削又は研削によって除去している。
【0003】
特許文献1には、この摩擦攪拌接合法に用いられる工具として、非溶回転プローブを有する回転部材に、支持機構によって切刃が装着され、回転部材と非溶回転プローブの回転によって切刃が回転し、それによって切刃が摩擦スター溶接部の外側表面を切削加工する摩擦スター溶接工具が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、被接合部材に挿入されるピン部が突設された軸部の外周に螺刻されたねじに螺合するバリ取りカッターと、ねじに螺合してバリ取りカッターを軸部に固定する取付ナットとを備えた摩擦攪拌接合ツールが示されている。この摩擦攪拌接合ツールでは、摩擦攪拌接合加工時において被接合部材のビード部に生ずるバリを、摩擦攪拌接合加工を行いながら切削刃で除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3523983号公報
【特許文献2】特許第4774253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に記載の工具によれば、摩擦攪拌接合時に生じるバリを切削刃によって除去できる。しかし、これらの工具は外周に取り付けた切削刃によって被接合材の表面を切削するため、接合後に残る形成痕であるビードの幅寸法が大きい。また、前進角を付けるために工具を傾けて接合する場合には、切削刃が被接合材に食い込む量が大きくなり、被接合材が薄肉化される問題があった。
【0007】
そこで本発明は、接合後のビード幅の大きさを抑えつつ、被接合材同士を良好に接合させてバリを除去できる摩擦攪拌接合工具及び摩擦攪拌接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 柱状の本体部と、前記本体部の一方の先端面の中心から軸方向に突出したプローブとを備え、互いに突き合わせた被接合材同士の突合せ部に前記プローブを回転させつつ押し当てることにより摩擦熱を発生させて、前記被接合材同士を摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合工具であって、
前記本体部の先端面は、
前記プローブの根元部に接続されて径方向外側に延びる環状の第一面と、
前記第一面の外周縁に段部を介して接続され前記第一面よりも突出高さが低い第二面と、
を有し、
前記本体部には、前記被接合材の表面を切削する切削刃が設けられ、
前記切削刃は、前記第一面の外周縁の径方向位置に刃先が配置され、且つ前記刃先の前記軸方向への突出高さは、前記第一面の外周縁の突出高さと等しい、
摩擦攪拌接合工具。
(2) (1)に記載の摩擦攪拌接合工具を用いた摩擦攪拌接合方法であって、
互いに接合する前記被接合材を突合せ、
前記本体部を回転させながら前記プローブを前記被接合材の突合せ部に押し当てて前記突合せ部に沿って相対移動させ、
発生する摩擦熱により前記被接合材を摩擦攪拌するとともに、前記切削刃によって前記被接合材の表面を切削する、
摩擦攪拌接合方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接合後のビード幅の大きさを抑えつつ、被接合材同士を良好に接合させてバリを除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】
図2は、摩擦攪拌接合工具の要部斜視図である。
【
図3】
図3は、摩擦攪拌接合工具の先端部分における側面図である。
【
図4】
図4は、摩擦攪拌接合工具の先端部分の軸方向から見た平面図である。
【
図5】
図5は、摩擦攪拌接合工具を用いた被接合材の接合手順を説明する説明図である。
【
図6】
図6は、摩擦攪拌接合工具による被接合材の接合状況を示す図で、突合せ部に直交する方向に被接合材を断面視した側面図である。
【
図7】
図7は、摩擦攪拌接合工具による被接合材の接合状況を示す図で、突合せ部に沿う方向に被接合材を断面視した側面図である。
【
図8】
図8は、参考例の摩擦攪拌接合工具の先端部分の平面図である。
【
図9】
図9は、参考例の摩擦攪拌接合工具による被接合材の接合状況を示す図で、突合せ部に直交する方向に被接合材を断面視した概略側面図である。
【
図10】
図10は、実施形態の摩擦攪拌接合工具による被接合材の接合状況を示す図で、突合せ部に直交する方向に被接合材を断面視した概略側面図である。
【
図11】
図11は、実施形態の摩擦攪拌接合工具の摩擦面を示す先端部分の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本実施形態の摩擦攪拌接合工具は、互いに突き合わせた被接合材同士の突合せ部にプローブを回転させつつ押し当てることにより摩擦熱を発生させて、被接合材同士を摩擦攪拌接合する工具であり、以下にその具体的な構成例を示す。なお、本発明は以下に示される構成に限らず、適宜な変更が可能である。
【0012】
<摩擦攪拌接合工具の構成>
図1は、摩擦攪拌接合工具100の側面図である。
図2は、摩擦攪拌接合工具100の要部斜視図である。
本実施形態の摩擦攪拌接合工具100は、本体部11と、プローブ13と、本体部11に設けられた切削刃33とを備える。本体部11は、後述する取付面31によって円柱形状の一部が切り欠かれた柱状に形成されている。本体部11の一方(
図1,
図2の下方)の先端面には、プローブ13が軸方向に突出して設けられている。プローブ13は、本体部11の外周円に対して同軸となる円柱形状であり、外周面に螺旋状突起19が形成されている。このプローブ13の根元部分にはショルダ部15が設けられている。ショルダ部15を構成する先端面は、第一面23と、第二面25とを有する。第一面23及び第二面25は、それぞれ本体部11の軸方向から見た平面視において、本体部11と同心円状に配置されている。
【0013】
本体部11の他方(
図1,
図2の上方)の側には、シャンク部17が本体部11と一体に設けられている。シャンク部17は、摩擦攪拌接合工具100を回転方向Rtに駆動させる不図示の回転駆動用のモータ等に支持される。なお、シャンク部17に代えて、本体部11にテーパ軸固定用のテーパ状の内周面を形成してもよく、公知の工具固定用の機構を採用できる。
【0014】
本明細書においては、本体部11の軸線方向に沿ったプローブ13側を「前方」、シャンク部17側を「後方」として説明することがある。
【0015】
図3は、摩擦攪拌接合工具100の先端部分を一部断面で示す側面図である。本体部11の第一面23は、プローブ13の根元部に接続されて径方向外側に延びる環状の面である。また、第一面23は、軸方向断面において、任意の形状として良いが、本実施形態では、径方向内方へ向かってプローブ13の後端へ傾斜した形状としている。つまり、第一面23は、プローブ中心の軸線Axに近いほど突出高さが低くなるように傾斜して、プローブ13の後方側の根元部分に凹状のポケット部23aを形成する。
【0016】
第二面25は、第一面23の外周縁に段部27を介して接続され、第一面23よりも突出高さが低くなっている。段部27は、第一面23の外周縁と第二面25の内周縁とを接続し、第二面25を第一面23の外周縁の突出高さよりも低くしている。この第二面25は、第一面23の外周を囲うように設けられ、断面視において軸線Axに直交する平坦面で形成される。第二面25は、平坦面のほか、第一面23と同様に凹状のポケット部を形成するテーパ面又は湾曲面であってもよい。
【0017】
また、本体部11には、切削刃33が設けられる取付面31を有する。取付面31は、任意の形状とすることができる。本実施形態では、
図2に示すように、取付面31は、本体部11の円柱形状の周面の一部を径方向に減肉して形成された平坦な形状の減肉面である。つまり、取付面31は、本体部11における周面の一部に切り欠いて形成されており、軸線Axに沿った平面である。このようにすることで、本実施形態では、切削刃33を本体部11の軸中心側へ寄せることができる。
【0018】
図4は、摩擦攪拌接合工具100の先端部分を軸方向から見た平面図である。
図4に示すように、取付面31は、第一面23の外周縁に形成された段部27の接線を通る面で構成される。したがって、第二面25は、その一部が取付面31によって切断されている。
【0019】
切削刃33は、全体が板状であり、片面を取付面31に面接触させて固定される。切削刃33の刃先35は、回転方向Rtの先方に配置され、
図4に示すように、第二面25の径方向幅と略等しい幅で径方向に延びて形成されている。また、
図3に示すように、刃先35の軸方向への突出高さは、第一面23の外周縁の突出高さと等しい。ここでいう「高さが等しい」とは、刃先35が、軸方向に関して第一面23の外周縁と同一の高さ、又は略同一の高さ位置に配置されることを意味し、後述するバリの切削に影響がない範囲で高さ位置がずれていてもよい。
【0020】
図1等に示すように、上記した切削刃33は、例えば、座ぐり孔からなる2つの固定用挿通孔37を有する。また、本体部11の取付面31には、固定用挿通孔37に対応する位置にねじ孔(不図示)が形成されている。切削刃33は、取付面31に重ね合わせて、それぞれの固定用挿通孔37にボルト等の締結部材39を挿し込み、取付面31に形成されたねじ孔にねじ込むことにより本体部11と締結される。この締結の形態は一例であって、刃先35の位置が調整可能となる適宜な機構を設けてもよい。
【0021】
<摩擦攪拌接合の手順>
次に、上記の摩擦攪拌接合工具を用いて被接合材同士を接合する摩擦攪拌接合の手順を説明する。
図5は、摩擦攪拌接合工具100を用いた被接合材41,43の接合手順を説明する説明図である。まず、2枚の被接合材41,43を突合せて配置し、突合せ部45を形成する。互いに接合させる被接合材41,43としては、例えば、アルミニウム合金板等が挙げられる。
【0022】
図6は、摩擦攪拌接合工具100による被接合材41,43の接合状況を示す図で、突合せ部45に直交する方向に被接合材41,43を断面視した側面図である。
図7は、摩擦攪拌接合工具100による被接合材41,43の接合状況を示す図で、突合せ部45に沿う方向に被接合材41,43を断面視した側面図である。
【0023】
次に、
図6及び
図7に示すように、摩擦攪拌接合工具100の本体部11を回転させつつ、被接合材41,43の一方の面側から突合せ部45にプローブ13を押し当てて、摩擦熱を発生させる。
【0024】
そして、本体部11を回転させながら摩擦攪拌接合工具100を、突合せ部45に沿う一方向の移動方向Y(
図5及び
図7参照)へ移動させる。このとき、摩擦攪拌接合工具100は、被接合材41,43の垂直方向に対して移動方向Yの後方側へ傾斜角θの前進角をつけて移動させる(
図7参照)。つまり、被接合材41,43の摩擦攪拌接合工具100に対向する対向面の法線方向に対して、摩擦攪拌接合工具100を接合方向後方側へ傾斜角θで傾ける。
【0025】
このように、被接合材41,43の突合せ部45に、回転するプローブ13を押圧して圧入し、突合せ部45に沿う移動方向Yへ移動させると、被接合材41,43は、摩擦攪拌接合工具100のプローブ13及び被接合材41,43に接触する第一面23によって突合せ部45に摩擦熱が発生して摩擦攪拌される。これにより、被接合材41,43が突合せ部45において互いに接合される。
【0026】
このとき、摩擦攪拌接合工具100では、プローブ13によって塑性流動された被接合材41,43の塑性流動物が第一面23のポケット部23aで一旦保持されて第一面23の外周へ溢れ出る。さらに、第一面23の外周側の第二面25では、第一面23の外周へ溢れ出た塑性流動物によって第二面25と被接合材41,43との間が埋まる。したがって、ショルダ部15では、第一面23の外周側においても、第二面25と塑性流動物とが接触して摩擦熱が発生する。
【0027】
このように、摩擦攪拌接合工具100では、ポケット部23aを有する第一面23が小径であっても、第二面25での発熱によって十分な入熱量が得られ、良好に摩擦攪拌接合が行われる。
【0028】
また、摩擦攪拌接合工具100では、被接合材41,43を接合させる際に、本体部11の取付面31に取り付けられた切削刃33の刃先35によって、被接合材41,43の表面が切削される。これにより、プローブ13による摩擦攪拌によって生じた塑性流動物からなるバリが切削屑となって除去される。これにより、被接合材41,43同士が突合せ部45で接合された接合体は、切削刃33によって切削されてバリが除去された形成痕であるビードB(
図5参照)が形成される。
【0029】
また、第一面23から溢れ出た塑性流動物が平面からなる第二面25によって押し潰れされるので、切削刃33にあたる塑性流動物の高さが一定となる。したがって、切削刃33の切り込み量が一定となり、安定した切削が可能である。
【0030】
なお、摩擦攪拌接合工具100と被接合材41,43とは、いずれか一方が他方に対して相対移動させればよく、一方を固定し他方を移動させるほか、双方を互いに移動させる構成にしてもよい。
【0031】
<参考例との対比>
ここで、参考例の摩擦攪拌接合工具200を説明し、本実施形態の摩擦攪拌接合工具100と参考例の摩擦攪拌接合工具200とを対比する。
図8は、参考例の摩擦攪拌接合工具200の先端部分の平面図である。
図9は、参考例の摩擦攪拌接合工具200による被接合材41,43の接合状況を示す図で、突合せ部45に直交する方向に被接合材41,43を断面視した概略側面図である。
図10は、実施形態の摩擦攪拌接合工具100による被接合材41,43の接合状況を示す図で、突合せ部45に直交する方向に被接合材41,43を断面視した概略側面図である。
図11は、実施形態の摩擦攪拌接合工具100における摩擦面を示す先端部分の平面図である。
【0032】
図8に示すように、参考例の摩擦攪拌接合工具200は、ショルダ部51の先端面にプローブ53を有する本体部55を備え、この本体部55の外周に刃先57を有する切削刃59が取り付けられている。この参考例の摩擦攪拌接合工具200では、被接合材41,43を接合させる際に、本体部55の外周に取り付けられた切削刃59によって、被接合材41,43の表面を切削し、プローブ53による摩擦攪拌によって生じた塑性流動物からなるバリを切削する。
【0033】
参考例の摩擦攪拌接合工具200は、外周に取り付けた切削刃59によって被接合材41,43の表面を切削するため、大きな加工幅WのビードBが形成されてしまう。しかも、本体部55の外周に切削刃59を備えるため、傾斜角θからなる前進角を付けて摩擦攪拌接合を行った場合、切削刃59の被接合材41,43への食い込み量が多くなる。これにより、被接合材41,43への切削刃59の食い込みによって被接合材41,43の肉厚が薄くなってしまう。
【0034】
これに対して、本実施形態の摩擦攪拌接合工具100では、バリを切削して除去する切削刃33が、第二面25の領域に設けられて第一面23の外径部分と略同一高さ位置に刃先35が配置されている。したがって、傾斜角θからなる前進角を付けて摩擦攪拌接合を行ったとしても、切削刃33の被接合材41,43への食い込み量を抑えることができる。これにより、被接合材41,43への切削刃33の食い込みによる被接合材41,43の薄肉化を抑制できる。また、本実施形態では、取付面31は、本体部11の円柱形状の周面の一部を径方向に減肉して形成された平坦な形状の減肉面である。したがって、切削刃33を本体部11の軸中心側へ寄せることができるため、被接合材41,43の突合せ部45に沿った加工痕の幅(加工幅W)を小さくできる。
【0035】
また、
図9に示すように、異なる板厚の被接合材41,43を摩擦攪拌接合させ、板厚が異なる部分を有するテーラードブランク材とする場合、摩擦攪拌接合工具200を突合せ部45に対して移動方向と直交する方向へ傾けてプローブ53を圧入することになる。したがって、この場合では、摩擦攪拌接合工具200の傾斜側の被接合材41への切削刃59の食い込み量がより多くなり、この被接合材41の肉厚がより薄くなってしまう。
【0036】
これに対して、本実施形態の摩擦攪拌接合工具100によれば、
図10に示すように、異なる板厚の被接合材41,43の突合せ部45に摩擦攪拌接合工具100を斜めに傾けて、即ち、摩擦攪拌接合工具100と被接合材41,43との相対移動の方向と直交する面内で、プローブ13を薄肉側の被接合材41へ向けて傾けて圧入しても、摩擦攪拌接合工具100の傾斜側の被接合材41への切削刃33の食い込み量を抑制でき、この被接合材41の薄肉化を抑えることができる。
【0037】
ここで、摩擦攪拌接合を行う際の摩擦攪拌箇所への入熱量Q[W]は、次式(1)で表される。
【0038】
Q=(4/3)π2μPNR3 …(1)
ただし、
μ:摩擦係数
P:摩擦攪拌箇所の圧力[N/m3]
N:工具の回転数[S-1]
R:ショルダの半径[m]
【0039】
上式(1)のように、摩擦攪拌接合を行う際の摩擦攪拌箇所への入熱量Qは、摩擦攪拌接合工具(ツール)のショルダの半径Rが大きく影響し、被接合材への接触面積が大きくなると入熱量Qも大きくなる。
【0040】
参考例の摩擦攪拌接合工具200では、ショルダ部51の先端の面Sb(
図8における斜線部分)が被接合材41,43に接触する摩擦面となる。一方、本実施形態の摩擦攪拌接合工具100では、
図11に示すように、第一面23だけでなく第二面25も含む面Sa(
図11における斜線部分)が被接合材41,43に接触する摩擦面となる。
【0041】
本実施形態の摩擦攪拌接合工具100の摩擦面となる面Saと、参考例の摩擦攪拌接合工具200の摩擦面となる面Sbとが同一径である場合、取付面31を形成した分だけ面Saが面Sbよりも減少する。しかし、この摩擦面となる面Saの減少量は本体部11の周面の一部を切り欠いた程度の僅かな量であるので、摩擦面となる面Saは、良好に摩擦攪拌させるための入熱量を得る摩擦面として十分な面積である。
【0042】
なお、切削刃33は、本体部11に対して軸方向へ取り付け位置を調整できるのが好ましい。この場合、被接合材41,43の材質等に応じて切削刃33の取り付け位置を調整し、刃先35におけるすくい角や逃げ角を調整できる。
【0043】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0044】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 柱状の本体部と、前記本体部の一方の先端面の中心から軸方向に突出したプローブとを備え、互いに突き合わせた被接合材同士の突合せ部に前記プローブを回転させつつ押し当てることにより摩擦熱を発生させて、前記被接合材同士を摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合工具であって、
前記本体部の先端面は、
前記プローブの根元部に接続されて径方向外側に延びる環状の第一面と、
前記第一面の外周縁に段部を介して接続され前記第一面よりも突出高さが低い第二面と、
を有し、
前記本体部には、前記被接合材の表面を切削する切削刃が設けられ、
前記切削刃は、前記第一面の外周縁の径方向位置に刃先が配置され、且つ前記刃先の前記軸方向への突出高さは、前記第一面の外周縁の突出高さと等しい、
摩擦攪拌接合工具。
この摩擦攪拌接合工具によれば、被接合材を接合させる際に、本体部に設けられた切削刃の刃先によって、被接合材の表面が切削される。これにより、プローブによる摩擦攪拌によって生じた塑性流動物からなるバリを切削して除去できる。また、バリを切削して除去する切削刃が、第二面の領域に設けられて第一面の外径部分と等しい高さ位置に刃先が配置されている。したがって、前進角を付けて摩擦攪拌接合を行ったとしても、切削刃の被接合材への食い込み量を抑えることができる。これにより、被接合材への切削刃の食い込みによる被接合材の薄肉化を抑制できる。しかも、第一面だけでなく第二面も含む面が被接合材に接触する摩擦面にできるため、良好に摩擦攪拌させるための入熱量を得ることができる。
【0045】
(2) 前記第一面は、前記プローブの根元部に近いほど前記突出高さが低くなる凹状のポケット部を形成する、(1)に記載の摩擦攪拌接合工具。
この摩擦攪拌接合工具によれば、ポケット部を有する第一面によって一旦保持されて溢れ出た塑性流動物が平面からなる第二面によって押し潰れされる。これにより、切削刃にあたる塑性流動物の高さが一定となる。したがって、切削刃の切り込み量が一定となり、安定した切削が可能である。
【0046】
(3) 前記本体部は、前記先端面の軸方向反対側にシャンク部を有する、(1)に記載の摩擦攪拌接合工具。
この摩擦攪拌接合工具によれば、各種の工作機械に容易に取り付けできる。
【0047】
(4) 前記本体部は、円柱形状の周面の一部を径方向に減肉して形成された減肉面を有する形状であり、
前記切削刃は、前記減肉面に固定されている、(1)に記載の摩擦攪拌接合工具。
この摩擦攪拌接合工具によれば、切削刃が本体部の径方向外側に大きく張り出すことがなく、接合時における被接合材の薄肉化を抑制できる。
【0048】
(5) (1)から(4)のいずれか1つに記載の摩擦攪拌接合工具を用いた摩擦攪拌接合方法であって、
互いに接合する前記被接合材を突合せ、
前記本体部を回転させながら前記プローブを前記被接合材の突合せ部に押し当てて前記突合せ部に沿って相対移動させ、
発生する摩擦熱により前記被接合材を摩擦攪拌するとともに、前記切削刃によって前記被接合材の表面を切削する、
摩擦攪拌接合方法。
この摩擦攪拌接合方法によれば、被接合材を接合させる際に、本体部に設けられた切削刃の刃先によって、被接合材の表面を切削できる。これにより、プローブによる摩擦攪拌によって生じた塑性流動物からなるバリを切削して除去できる。また、バリを切削して除去する切削刃が、第二面の領域に設けられて第一面の外径部分と等しい高さ位置に刃先が配置され、本体部の中心側へ寄せられている。したがって、被接合材の突合せ部に沿った加工痕であるビードの加工幅を小さくできる。しかも、第一面だけでなく第二面も含む面を被接合材に接触する摩擦面とすることにより、良好に摩擦攪拌させるための入熱量を得ることができる。
【0049】
(6) 前記摩擦攪拌接合工具と前記被接合材とを前記突合せ部に沿って相対移動させる際に、前記被接合材の前記摩擦攪拌接合工具に対向する対向面の法線方向に対して、前記摩擦攪拌接合工具を接合方向後方側へ傾ける、(5)に記載の摩擦攪拌接合方法。
この摩擦攪拌接合方法によれば、摩擦攪拌接合工具を被接合材の法線方向から接合方向後方側へ傾けることにより、摩擦攪拌接合を行う際に生じる内部欠陥を抑えることができる。これにより、接合強度の低下を抑制できる。
【0050】
(7) 前記被接合材の厚さが互いに異なる場合に、前記摩擦攪拌接合工具を、前記相対移動の方向と直交する面内で薄肉側の前記被接合材へ向けて傾ける、(6)に記載の摩擦攪拌接合方法。
この摩擦攪拌接合方法によれば、厚さの異なる被接合材を接合する際に、摩擦攪拌接合工具を傾けた薄肉側の被接合材への切削刃の食い込み量を少なくでき、この被接合材の薄肉化を抑えることができる。
【符号の説明】
【0051】
11 本体部
13 プローブ
17 シャンク部
23 第一面
23a ポケット部
25 第二面
33 切削刃
35 刃先
41,43 被接合材
45 突合せ部
100 摩擦攪拌接合工具