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  • 特開-ステンレスの表面処理方法。 図1
  • 特開-ステンレスの表面処理方法。 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012865
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】ステンレスの表面処理方法。
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/18 20060101AFI20240124BHJP
   C25F 3/16 20060101ALI20240124BHJP
   C25F 3/24 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C23C8/18
C25F3/16 D
C25F3/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114635
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000113838
【氏名又は名称】マルイ鍍金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】井田 義明
(57)【要約】
【課題】 薬品等への金属溶出量が極めて少ないステンレスの加熱方法。
【解決手段】電解研磨の後、酸化雰囲気中で200~350℃の範囲で1~3時間加熱するステンレスの表面処理方法。この方法により、薬品や食品による腐食の核となる白点が発生しないので、金属の溶出量は著しくすくなくなる。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレスを電解研磨するステップ、
酸化雰囲気中で200~350℃の範囲で1~3時間加熱するステップ
よりなることを特徴とするステンレスの表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレスの表面処理に関し、特に、薬品等に対する耐腐食性と、金属イオンの染み出し抵抗を備えたステンレスの表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オーステナイトのステンレス鋼(例えばSUS304、SUS316)は一般的に、処理される物質の純度が重要な要件であるような工程に使用される配管、容器、及び装置に使用される。
【0003】
このような鋼はまた、強力な溶媒又はその他の腐食物質が存在する工程に使用される。この場合、特に高温においては、非常に純粋な物質、強力な溶媒、又は腐食性物質の存在が鋼の腐食の防止及び/又は鋼からの様々な金属イオン等の汚染成分の融解の抑制を困難にさせる。
【0004】
例えば半導体の洗浄工程で使用されるイソプロピルアルコールは、現状でも金属イオンの析出濃度が多くともppb単位であることが要求される。
【0005】
上記のような薬品、飲食物等への金属イオンの溶出量は、ステンレスの表面処理によって形成される酸化膜層の薬品、飲食物等に対する耐性に依存することになる。
【0006】
特表2002-510751では、ステンレス材料を300℃の循環乾燥空気の存在下で加熱し、更に、それより高い温度に昇圧された静止乾燥空気の存在下で加熱することが開示されている。
【0007】
特開平10-140322では、ステンレス材料を酸化雰囲気中で400~500℃に1~3時間加熱することによって、過酸化水素溶液に対する耐性を向上させようとするものである。
【0008】
更に、特開平10-140324では、ステンレス材料を酸化雰囲気中で300~500℃に1~3時間加熱することによって、屋外暴露に対する耐性を向上させようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2002-510751号公報
【特許文献2】特開平10-140322号公報
【特許文献3】特開平10-140324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
移動体通信において5Gが既に実用化しており、6Gが試験段階に入っている現状、当該通信システムに使用する半導体の品質も各世代に応じた通信容量に応じた品質が要求されるところである。そこで、半導体の製造過程で使用されるIPAを入れる容器の品質も見直され、IPAへの金属の溶出量が、ppb単位はもとより、より好ましくは、ppt単位の溶出量に抑えることが望まれる。
【0011】
上記の各特許文献で開示されている内容は、上記の厳しい要求がない世代に開発・出願されたものであり、半導体の洗浄液であるイソプロピルアルコールを入れたときに以下の問題が生じることとなる。
【0012】
ステンレス鋼からの金属の溶出量を抑えるには、その表面の酸化膜の厚みを厚くすればいいことになるが、当該酸化膜の厚みを確保するためには、ステンレスを所定温度・所定時間以上に加熱する必要がある。
【0013】
ところが、後に詳しく説明するように、ステンレスを400℃あるいはそれ以上に加熱すると、結晶粒内あるいは結晶粒界に細かな白点が現れ、この白点を起点として腐食が進行し、当然金属の溶出量も大きくなる。
【0014】
従って、上記従来技術では、金属の溶出量をppt単位に抑えることはできなかった。
【0015】
本発明は上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、薬品や食品に対する金属の溶出量が極めて小さいステンレスの表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は以下の手段よりなる。
【0017】
電解研磨の後、酸化雰囲気中で200~350℃の範囲で1~3時間加熱するステンレスの表面処理方法。
【発明の効果】
【0018】
薬品や食品による腐食の核となる白点が発生しないので、金属の溶出量は著しくすくなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】払拭電解研磨試料についての無加熱および450での加熱試料のSEM写真。
図2】払拭電解研磨試料についての350℃および250での加熱試料のSEM写真。
図3】払拭電解研磨試料についてのIPA浸漬後の無加熱および所定温度での加熱試料のSEM写真。
図4】払拭電解研磨試料についてのIPA浸漬後にスケール除去をした状態の無加熱および所定温度での加熱試料のSEM写真。
図5】浸漬電解研磨試料についての無加熱および所定温度での加熱試料のSEM写真。
図6】浸漬電解研磨試料についてのIPA浸漬後の無加熱および所定温度での加熱試料のSEM写真。
図7】浸漬電解研磨試料についてのIPA浸漬後にスケール」除去をした状態の無加熱および所定温度での加熱試料のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、以下の説明で、払拭電解研磨とは、電解液保持材(例えばスポンジ)に電解液を含浸した状態で、当該電解液保持材と研磨対象のステンレス材との間に電圧を掛けて移動させながら電解研磨を行う方法である。一方、通常電解研磨とは、研磨対象のステンレスを電解液に浸漬した状態で行う電解研磨である。また、ここで対象のステンレスはSUS316Lである。
【0021】
前記、払拭式電解研磨を施した試料、通常電解研磨を施した試料について、それぞれ、250℃、350℃、450℃で1時間加熱した試料を用意するとともに、無加熱の試料も用意しておく。
【0022】
<SEM観察>
図1図2(写真)は払拭式電解研磨を施したステンレス試料を450℃(図1(b))350℃(図2(a))、250℃(図2(b))で1時間加熱したとき、および無加熱(図1(a))のときの5000倍の操作電子顕微鏡(SEM)写真である。450℃では金属組織の結晶内および粒界に微細な白点を見ることができる。350℃ではこの白点の数が少なくなっており、250℃では観察することはできない。もちろん加熱処理をしないステンレスの表面には前記の白い斑点はできない。
【0023】
上記の白い斑点は、いかなる性質のものかは明確ではないが、以下のIPAへの浸漬結果から推定して、加熱に起因する一種の腐食と考えられる。
図3(写真)は、上記の各試料をIPA(イソプロピルアルコール)に30日間浸漬したときの結果を示すものである。図3(b)に示すように450℃に加熱したときの白点はIPAに浸漬前の白点より大きくなっていることが確認できるが、図3(c)に示すように250℃加熱ではIPAに浸漬したときの変化は見られない。尚、図3(a)は、無加熱試料のIPA浸漬後の状態である。
【0024】
図4(b)は、前記450℃に加熱した試料でのIPA浸漬試料を、当該浸漬後に、加熱処理やIPA浸漬により生成し腐食生成物を除去する脱スケール処理をした状態を示すものである。前記白点位置に微細なピットの存在が認められる。
【0025】
図5(b)(写真)は、通常電解研磨を施した後、450℃で1時間加熱処理をしたSUS316Lの操作電子顕微鏡写真である。払拭電解研磨の場合よりは微細ではあるが、多数の白点を観察することができる。同図(a)は通常電解研磨の無加熱試料である。
【0026】
図6(b)に示すように、IPAに30日間浸漬した場合、払拭電解研磨の場合より大きな白点に成長している。更に、図7(b)に示すように、脱スケール処理をすると、微細なピットの存在が認められる点も払拭電解研磨の場合と同様である。
【0027】
すなわち、払拭電解研磨であろう通常電解研磨であろうと、前記の白点は350℃以上の加熱処理で発生していると考えることができる。
【0028】
<質量変化>
前記バフ研磨、通常電解研磨、払拭電解研磨の各試料について、加熱処理しない試料について、IPA浸漬後の質量変化について測定した結果を表1の(a)、(b)、(c)に示す。
【0029】
表1(a)はバフ研磨の試料3点についての平均質量変化、同(b)は通常電解研磨の試料3点についての平均質量変化、同(c)は払拭電解研磨の試料3点についての平均質量変化(減少質量:mass loss mg/mm)を示すものである。
【0030】
通常電解研磨、払拭電解研磨では面積あたりの質量変化が、10―5オーダであるのに対して、バフ研磨だけの場合は、10-4オーダとなっており、電解研磨を掛けた方が質量変化が少ないという結果が得られている。
【0031】
通常電解研磨と払拭電解研磨の結果を比較した場合、僅かではあるが、通常電解研磨を施した試料の方が質量変化は少ない。
【0032】
次いで、表2の(a)、(b)、(c)は、450℃で1時間加熱した前記バフ研磨、通常電解研磨、払拭電解研磨の各試料について、IPA浸漬後の質量変化について測定した結果を示すものである。
【0033】
【表1】
【0034】
表2(a)はバフ研磨の試料3点についての平均質量変化、同(b)は通常電解研磨の試料3点についての平均質量変化、同(c)は払拭電解研磨の試料3点についての平均質量変化を示すものである。
【0035】
バフ研磨を施した試料では、加熱処理しない場合に比べて30%程度の増加であるが、通常電解研磨、払拭電解研磨した試料では60%の増加になっており、450℃という温度での加熱処理について是非が問われることになる。
【0036】
【表2】
【0037】
表3は、加熱温度がそれぞれ、無加熱、250℃、350℃、450℃である場合のバフ研磨と払拭電解研磨についての複数試料についての平均質量変化を示すものである。各温度とも、バフ研磨に比べて、払拭研磨の方がよいパーフォーマンスを示している。また、バフ研磨、払拭研磨を問わず、無加熱の試料の質量変化を超えない加熱温度は、250~350℃であり、特に払拭電解研磨で、加熱温度が250~350℃の範囲で質量変化が最も少ないことが理解できる。
【0038】
【表3】
【0039】
<孔食電位>
表4は、バフ研磨、払拭電解研磨の試料について0.15MのHCI溶液中での孔食電位を測定した結果を示すものである。
【0040】
バフ研磨試料、払拭電解研磨試料とも無加熱に対して250℃に加熱した試料の方が孔食電位が高くなるが、それ以上の温度での加熱処理の試料は孔食電位が低くなる。350℃加熱処理で、無加熱試料と同等になるが、450℃加熱試料では無加熱試料より孔食電位は低くなる。
【0041】
以上の観点から、孔食電位の観点からみても、IPAへの金属の溶出が最も少なくなるのは、250~350℃であり、特に、250℃近辺の加熱処理が有効と結論付けられる。
【0042】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7