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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128654
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/18 20060101AFI20240913BHJP
   B60R 21/2338 20110101ALI20240913BHJP
   B60R 22/46 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B60R21/18
B60R21/2338
B60R22/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037747
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】矢嶋 孝敏
(72)【発明者】
【氏名】増田 泰士
(72)【発明者】
【氏名】三浦 渉
(72)【発明者】
【氏名】柿本 憲志
【テーマコード(参考)】
3D018
3D054
【Fターム(参考)】
3D018MA01
3D054AA02
3D054AA03
3D054AA07
3D054AA25
3D054CC11
3D054DD13
3D054FF16
(57)【要約】
【課題】シート前方の干渉物によってラップベルト部に設けられたエアバッグが広がりにくくなることを抑制するとともに、エアバッグの乗員に対する左右方向の位置決めを行うことができる乗員保護装置を提供する。
【解決手段】乗員保護装置10は、ラップベルト部13に設けられたエアバッグ30を備える。エアバッグ30のバッグ本体部30aは、テザー30cの一端部が連結され、突出部30a1b、30a1cを有する後壁部30a1と、後壁部30a1の前方で後壁部30a1と間隔を空けて配置され、テザー30cの他端部が連結された前壁部30a2と、テザー30cよりも上方で後壁部30a1と前壁部30a2とを接続する上壁部30a3と、を有し、テザー30cが支持体であるハンドル80に引っ掛かって係止されることにより、テザー30cを介してハンドル80に支持される。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシートに着座した乗員を保護するための乗員保護装置であって、
タングと、前記タングが結合されるバックルと、前記タングが前記バックルに結合された状態において前記シートに着座した前記乗員の腰部を拘束するラップベルト部と、を少なくとも有するシートベルトと、
膨張用ガスを発生させるインフレーターと、
前記ラップベルト部に設けられたエアバッグであって、前記膨張用ガスが供給されることにより膨張して前記乗員を受け止める本体部と、前記インフレーターに接続され、前記インフレーターから発生した前記膨張用ガスを前記本体部まで案内して前記本体部に前記膨張用ガスを流入させる導管部と、前記本体部の外周面に連結されたテザーと、を有するエアバッグと、
を備え、
膨張完了時の前記本体部は、
前記テザーの一端部が連結され、前記乗員に当接する後壁部であって、左右方向の一端側に配置され、少なくとも一部が前記後壁部における前記テザーの連結部位よりも下部に位置するように下方に突出する第1突出部と、左右方向の他端側で前記第1突出部と左右方向の間隔を空けた位置に配置され、少なくとも一部が前記後壁部における前記テザーの連結部位よりも下部に位置するように下方に突出する第2突出部と、を有する後壁部と、
前記後壁部の前方で前記後壁部と前後方向の間隔を空けて配置され、前記テザーの他端部が連結された前壁部と、
前記テザーよりも上方で前記後壁部と前記前壁部とを接続する上壁部と、
を有し、
前記本体部は、前記テザーが支持体に対して引っ掛かって係止されることにより、前記テザーを介して前記支持体に支持されることを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
前記第1突出部と前記第2突出部は、前記後壁部の左右方向の中心を基準として略対称の位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記第1突出部と前記第2突出部は、略左右対称形状であることを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記前壁部は、左右方向の一端側から後方に突出し、少なくとも一部が前記前壁部における前記テザーの連結部位よりも下部に位置する第3突出部と、左右方向の他端側で前記3突出部と左右方向の間隔を空けた位置から後方に突出し、少なくとも一部が前記前壁部における前記テザーの連結部位よりも下部に位置する第4突出部と、を有することを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項5】
前記第3突出部と前記第4突出部は、前記前壁部の左右方向の中心を基準として略対称の位置に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の乗員保護装置。
【請求項6】
前記第3突出部と前記第4突出部は、略左右対称形状であることを特徴とする請求項4に記載の乗員保護装置。
【請求項7】
前記シートベルトを巻き取り可能な巻き取り機構を備え、
前記インフレーターと前記巻き取り機構は、前記シートに搭載されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項8】
前記支持体は、前記車両に搭載されたハンドルであることを特徴とする請求項1乃至6のいずか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項9】
前記支持体は、前記乗員の膝部であることを特徴とする請求項1乃至6のいずか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項10】
車両のシートに着座した乗員を保護するための乗員保護装置であって、
タングと、前記タングが結合されるバックルと、前記タングが前記バックルに結合された状態において前記シートに着座した前記乗員の腰部を拘束するラップベルト部と、を少なくとも有するシートベルトと、
膨張用ガスを発生させるインフレーターと、
前記ラップベルト部に設けられたエアバッグであって、前記膨張用ガスが供給されることにより膨張して前記乗員を受け止める本体部と、前記インフレーターに接続され、前記インフレーターから発生した前記膨張用ガスを前記本体部まで案内して前記本体部に前記膨張用ガスを流入させる導管部と、前記本体部の外周面に連結されたテザーと、を有するエアバッグと、
を備え、
膨張完了時の前記本体部は、
前記テザーの一端部が連結され、前記乗員に当接する後壁部であって、左右方向の一端側から後方に突出する第1突出部と、左右方向の他端側で前記第1突出部と左右方向の間隔を空けた位置から後方に突出する第2突出部と、を有する後壁部と、
前記後壁部の前方で前記後壁部と前後方向の間隔を空けて配置され、前記テザーの他端部が連結された前壁部と、
前記テザーよりも上方で前記後壁部と前記前壁部とを接続する上壁部と、
を有し、
前記本体部は、前記テザーが支持体に対して引っ掛かって係止されることにより、前記テザーを介して前記支持体に支持されることを特徴とする乗員保護装置。
【請求項11】
前記第1突出部と前記第2突出部は、前記後壁部の左右方向の中心を基準として略対称の位置に配置されていることを特徴とする請求項10に記載の乗員保護装置。
【請求項12】
前記第1突出部と前記第2突出部は、略左右対称形状であることを特徴とする請求項10に記載の乗員保護装置。
【請求項13】
前記前壁部は、左右方向の一端側から後方に突出し、少なくとも一部が前記前壁部における前記テザーの連結部位よりも下部に位置する第3突出部と、左右方向の他端側で前記3突出部と左右方向の間隔を空けた位置から後方に突出し、少なくとも一部が前記前壁部における前記テザーの連結部位よりも下部に位置する第4突出部と、を有することを特徴とする請求項10に記載の乗員保護装置。
【請求項14】
前記第3突出部と前記第4突出部は、前記前壁部の左右方向の中心を基準として略対称の位置に配置されていることを特徴とする請求項13に記載の乗員保護装置。
【請求項15】
前記第3突出部と前記第4突出部は、略左右対称形状であることを特徴とする請求項13に記載の乗員保護装置。
【請求項16】
前記シートベルトを巻き取り可能な巻き取り機構を備え、
前記インフレーターと前記巻き取り機構は、前記シートに搭載されていることを特徴とする請求項10乃至15のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項17】
前記支持体は、前記車両に搭載されたハンドルであることを特徴とする請求項10乃至15のいずか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項18】
前記支持体は、前記乗員の膝部であることを特徴とする請求項10乃至15のいずか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項19】
車両のシートに着座した乗員を保護するための乗員保護装置であって、
タングと、前記タングが結合されるバックルと、前記タングが前記バックルに結合された状態において前記シートに着座した前記乗員の腰部を拘束するラップベルト部と、を少なくとも有するシートベルトと、
膨張用ガスを発生させるインフレーターと、
前記ラップベルト部に設けられたエアバッグであって、前記膨張用ガスが供給されることにより膨張して前記乗員を受け止める本体部と、前記インフレーターに接続され、前記インフレーターから発生した前記膨張用ガスを前記本体部まで案内して前記本体部に前記膨張用ガスを流入させる導管部と、前記本体部の外周面に連結されたテザーと、を有するエアバッグと、
を備え、
膨張完了時の前記本体部は、
前記テザーの一端部が連結され、前記乗員に当接する後壁部と、
前記後壁部の前方で前記後壁部と間隔を空けて配置され、前記テザーの他端部が連結された前壁部であって、左右方向の一端側から後方に突出し、少なくとも一部が前記前壁部における前記テザーの連結部位よりも下部に位置する第1突出部と、左右方向の他端側で前記1突出部と左右方向の間隔を空けた位置から後方に突出し、少なくとも一部が前記前壁部における前記テザーの連結部位よりも下部に位置する第2突出部と、を有する前壁部と、
前記テザーよりも上方で前記後壁部と前記前壁部とを接続する上壁部と、
を有し、
前記本体部は、前記テザーが支持体に対して引っ掛かって係止されることにより、前記テザーを介して前記支持体に支持されることを特徴とする乗員保護装置。
【請求項20】
前記第1突出部と前記第2突出部は、前記前壁部の左右方向の中心を基準として略対称の位置に配置されていることを特徴とする請求項19に記載の乗員保護装置。
【請求項21】
前記第1突出部と前記第2突出部は、略左右対称形状であることを特徴とする請求項19に記載の乗員保護装置。
【請求項22】
前記シートベルトを巻き取り可能な巻き取り機構を備え、
前記インフレーターと前記巻き取り機構は、前記シートに搭載されていることを特徴とする請求項19乃至21のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項23】
前記支持体は、前記車両に搭載されたハンドルであることを特徴とする請求項19乃至21のいずか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項24】
前記支持体は、前記乗員の膝部であることを特徴とする請求項19乃至21のいずか1項に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートに着座した乗員を保護するための乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、運転席に着座した乗員を保護するための構成として、ハンドルにエアバッグを設ける構成が広く知られている。また、特許文献1では、シートベルトにおける乗員の腰部を拘束するラップベルト部にエアバッグを設けて、乗員を保護する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-66425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
運転席は、前後方向に移動可能に構成されていることが一般的であるため、運転席の位置に応じて運転席に着座する乗員とハンドルとの間の距離が変化する。ここで運転席に着座する乗員とハンドルとの間の距離が大きい場合、ハンドルに設けられたエアバッグで乗員を保護するよりも、特許文献1に記載の構成のようにラップベルト部に設けられたエアバッグで乗員を保護する方が乗員を的確に保護できる可能性がある。特にこの構成は、車両の自動運転化などに伴い、運転席に着座する乗員の前方に広い空間を確保するため、従来よりも運転席を後方に大きく移動可能とする構成が採用された場合に有効である。
【0005】
一方、特許文献1に記載のエアバッグは、膨張完了時に乗員の前方側で隙間なく広がる形状であることから、運転席とハンドルとの間の距離が近い状態でエアバッグが膨張する場合、エアバッグがハンドルと干渉して広がりにくくなるおそれがある。また、特許文献1に記載のエアバッグは、膨張完了時のエアバッグの乗員に対する左右方向の位置決めを行うための構成が設けられていないため、両者の相対位置が狙いの位置からずれるおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、シート前方の干渉物によってラップベルト部に設けられたエアバッグが広がりにくくなることを抑制するとともに、エアバッグの乗員に対する左右方向の位置決めを行うことができる乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る乗員保護装置の代表的な構成は、車両のシートに着座した乗員を保護するための乗員保護装置であって、タングと、前記タングが結合されるバックルと、前記タングが前記バックルに結合された状態において前記シートに着座した前記乗員の腰部を拘束するラップベルト部と、を少なくとも有するシートベルトと、膨張用ガスを発生させるインフレーターと、前記ラップベルト部に設けられたエアバッグであって、前記膨張用ガスが供給されることにより膨張して前記乗員を受け止める本体部と、前記インフレーターに接続され、前記インフレーターから発生した前記膨張用ガスを前記本体部まで案内して前記本体部に前記膨張用ガスを流入させる導管部と、前記本体部の外周面に連結されたテザーと、を有するエアバッグと、を備え、膨張完了時の前記本体部は、前記テザーの一端部が連結され、前記乗員に当接する後壁部であって、左右方向の一端側に配置され、少なくとも一部が前記後壁部における前記テザーの連結部位よりも下部に位置するように下方に突出する第1突出部と、左右方向の他端側で前記第1突出部と左右方向の間隔を空けた位置に配置され、少なくとも一部が前記後壁部における前記テザーの連結部位よりも下部に位置するように下方に突出する第2突出部と、を有する後壁部と、前記後壁部の前方で前記後壁部と前後方向の間隔を空けて配置され、前記テザーの他端部が連結された前壁部と、前記テザーよりも上方で前記後壁部と前記前壁部とを接続する上壁部と、を有し、前記本体部は、前記テザーが支持体に対して引っ掛かって係止されることにより、前記テザーを介して前記支持体に支持されることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、乗員保護装置において、シート前方の干渉物によってラップベルト部に設けられたエアバッグが広がりにくくなることを抑制するとともに、エアバッグの乗員に対する左右方向の位置決めを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】乗員保護装置を搭載したシートの斜視図である。
図2】シートの左側面図である。
図3】シートの正面図である。
図4】エアバッグが膨張した際のシートの左側面図である。
図5図3に示すA-A部を切断したバッグ組付体の断面図である。
図6】エアバッグが膨張した状態のバッグ組付体を下側から見た斜視図である。
図7】エアバッグが膨張した際のシートの周囲を左側から見た図である。
図8】エアバッグが膨張した際のシートの周囲を左側から見た図である。
図9】エアバッグが膨張した際のシートの周囲を前方から見た図である。
図10】エアバッグが膨張した状態のバッグ組付体を下側から見た斜視図である。
図11】エアバッグが膨張した際のシートの周囲を左側から見た図である。
図12】エアバッグが膨張した際のシートの周囲を左側から見た図である。
図13】エアバッグが膨張した状態のバッグ組付体を下側から見た斜視図である。
図14】エアバッグが膨張した際のシートの周囲を左側から見た図である。
図15】エアバッグが膨張した際のシートの周囲を左側から見た図である。
図16】乗員保護装置を助手席に搭載した構成において、エアバッグが膨張した際のシートの周囲を左側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係る乗員保護装置10の全体構成について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。また、以下の説明において、左右方向は、乗員保護装置10を搭載したシート1の左方向と右方向、具体的にはシート1に着座する乗員Mから見た左方向と右方向を意味する。前後方向は、シート1の前方向と後方向、具体的にはシート1に着座する乗員Mから見た前方向と後方向を意味する。上下方向は、鉛直方向の上方向と下方向を意味する。
【0011】
図1は、乗員保護装置10を搭載したシート1の斜視図である。図2は、シート1の左側面図である。図3は、シート1の正面図であり、シート1に着座してシートベルト11を装着した状態の乗員Mと乗員保護装置10の膨張状態のエアバッグ30とを二点鎖線で示している。図4は、エアバッグ30が膨張した際のシート1の左側面図であり、シート1に着座してシートベルト11を装着した状態の乗員Mを二点鎖線で示している。
【0012】
図1図4に示す様に、乗員保護装置10は、車両の運転席であるシート1に搭載されており、シート1に着座した乗員Mを保護するために設けられている。乗員保護装置10は、シートベルト11、エアバッグ30を備えるバッグ組付体29、及びエアバッグ30に膨張用ガスを供給するインフレーター24から構成されている。シート1は、背もたれ部2と座部5を備える。また、シート1は、不図示のシートスライドによって前後方向にスライド移動可能に構成されている。シートスライドは、シート1の下側で左右二本のレールを車両のボディに取り付け、シートフレーム4にこの二本のレールに係合するレールを取り付け、その間にロック機構を設けたものである。なお、本実施形態の車両には自動運転モードは搭載されていないものの、シート1は自動運転モードを搭載した車両にも対応可能となるように、不図示のシートスライドによって後方に大きく移動可能に構成されており、乗員Mの足元の空間を広く確保できるようになっている。
【0013】
シートベルト11は、滑り性能が良好なポリエステル繊維等を編んだ帯状の材料で形成されている。シートベルト11は、シート1に着座した乗員Mの左肩口付近において、その上端11a側を背もたれ部2の左上縁付近の内部に設けられた巻き取り機構15から繰り出し可能に構成されている。シートベルト11の下端11b側は、座部5の左側に設けられたアンカ部材17に固定された固定端となっている。また、シートベルト11の中間部位には、タング20が設けられている。タング20は、シート1の座部5の右側に設けられたバックル19に締結される。乗員Mがシート1に着座し、タング20がバックル19に締結された状態が、乗員Mにシートベルト11が装着された状態である。
【0014】
乗員Mに装着された状態のシートベルト11は、タング20から巻き取り機構15側に延び、乗員Mの上半身MUの前面側に配置され、乗員Mの上半身MUを拘束可能な部位であるショルダーベルト部12と、タング20から下端11b側に延び、乗員Mの腰部MWの前面側に配置され、腰部MWを拘束可能な部位であるラップベルト部13を有する。なお、乗員Mは、バックル19に設けられた不図示のリリースボタンを押圧操作することによってタング20のバックル19に対する締結状態を解除し、タング20をバックル19から取り外すことができる。
【0015】
巻き取り機構15は、シートベルト11の急激な引き出しがある場合は引き出しを停止させ、さらに車両の衝突等があれば引き出したシートベルト11を巻き取り可能に構成されたプリテンショナー機構16を有する。プリテンショナー機構16は、汎用のものであって、内蔵したガスジェネレータを作動させてシートベルト11を巻き付けていた軸を回転させて、シートベルト11を瞬時に巻き取るものである。
【0016】
インフレーター24は、膨張用ガスを放出するインフレーター本体25と、インフレーター本体25から放出された膨張用ガスをエアバッグ30に案内するパイプ部26から構成されている。インフレーター本体25は、シート1の座部5を支持するシートフレーム4に取り付けられている。パイプ部26は、インフレーター本体25から延出し、座部5の底面から側面に沿うように略L字状に屈曲した形状をしている。
【0017】
バッグ組付体29は、バッグ本体部30aや導管部30bを有するエアバッグ30と、バッグ連結部52と、バッグカバー59を備える。バッグ本体部30aは、エアバッグ30が作動する前の状態では、折り畳まれた状態でバッグカバー59の内部に収納されている。エアバッグ30の導管部30bは、インフレーター24のパイプ部26に接続されており、インフレーター24から放出される膨張用ガスを取り込んでバッグ本体部30aまで案内する。エアバッグ30の導管部30bの基端部30bx2と、インフレーター24のパイプ部26は、クランプ27で締結されることによって連結されている。
【0018】
次に、乗員保護装置10による乗員Mの保護動作について説明する。まず車両が衝突すると、巻き取り機構15のプリテンショナー機構16が作動し、乗員Mのシート1への着座姿勢を安定させるために乗員Mに装着したシートベルト11が巻き取られる。これによりシートベルト11のラップベルト部13がタング20側に引き込まれるとともに、ラップベルト部13から連なるショルダーベルト部12が乗員Mの肩口側に引き込まれる。その後、インフレーター24が作動し、膨張用ガスがインフレーター本体25からパイプ部26、エアバッグ30の導管部30bを経由してエアバッグ30のバッグ本体部30aに供給されると、バッグ本体部30aが膨張する。これにより前方移動する乗員Mの上半身MUがバッグ本体部30aに受け止められて乗員Mが保護される。
【0019】
次に、バッグ組付体29の構成について説明する。図5は、図3に示すA-A部を切断したバッグ組付体29の断面図である。図6は、エアバッグ30が膨張した状態のバッグ組付体29を下方から見た斜視図であり、バッグカバー59は省略している。図5図6に示す様に、バッグ組付体29は、エアバッグ30、バッグ連結部52、及びバッグカバー59を備える。
【0020】
エアバッグ30は、ポリエステル繊維を平織り等して形成した織布であるバッグ用基布によって形成されており、膨張用ガスにより膨張して乗員Mを受け止める本体部としてのバッグ本体部30aと、インフレーター24のパイプ部26に接続され、インフレーター24から放出される膨張用ガスをバッグ本体部30aの流入口30a1aまで案内してバッグ本体部30aに膨張用ガスを流入させる導管部30bと、バッグ本体部30aの外周面に連結されたテザー30cから構成されている。バッグ本体部30aと導管部30bは、縫合されることによって連結されている。
【0021】
膨張完了時のバッグ本体部30aは、乗員Mの直ぐ前方に配置され、前方移動する乗員Mの上半身MUに当接して上半身MUを受け止める後壁部30a1と、後壁部30a1の前方で後壁部30a1と間隔を空けて配置された前壁部30a2と、後壁部30a1の上部と前壁部30a2の上部を接続する上壁部30a3を有する。前壁部30a2は、後壁部30a1に対し、乗員M側とは反対側に配置されている。また、後壁部30a1と前壁部30a2が前後方向において間隔を空けて配置されていることから、上壁部30a3の下方において、後壁部30a1と前壁部30a2との間には空隙35が形成されている。また、後壁部30a1の下部には、導管部30b内の膨張用ガスを流入させるための開口部である流入口30a1aが設けられている。このバッグ本体部30aの形状は、略直方体状のバッグ本体部30aがテザー30cの張力によって屈曲されることで作られている。
【0022】
また、後壁部30a1には、下方に突出する二つの突出部30a1b、30a1cが設けられている。突出部30a1b(第1突出部)は、後壁部30a1の左端部から下方に突出しており、後壁部30a1におけるテザー30cの連結部位30a1xよりも下部に配置されている。突出部30a1c(第2突出部)は、後壁部30a1の右端部から下方に突出しており、後壁部30a1におけるテザー30cの連結部位30a1xよりも下部に配置されている。また、突出部30a1b、30a1cは、後壁部30a1の左右方向の中心を基準として略対称の位置に配置され、略左右対称形状となっている。ここで略対称の位置とは、両者が完全に同一の位置に位置する構成の他に、公差の範囲でずれている構成が含まれる。また、略左右対称形状とは、両者が左右対称の形状の他に、公差の範囲で異なる形状も含まれる。なお、突出部30a1b、30a1cは、必ずしも後壁部30a1の左右両端に配置されている必要はなく、突出部30a1bが後壁部30a1の左右方向の中央部に対して左側に配置され、突出部30a1cが後壁部30a1の左右方向の中央部に対して右側で突出部30a1bと間隔を空けた位置に配置されていればよい。また、突出部30a1b、30a1cは、その全体が後壁部30a1におけるテザー30cの連結部位30a1xの下部に位置していても、一部が連結部位30a1xの下部に位置していてもよい。
【0023】
テザー30cは、上壁部30a3の下方の空隙35内において、一端部30c1が後壁部30a1の外周部に縫合されて連結されており、他端部30c2が前壁部30a2の外周部に縫合されて連結されている。つまり上壁部30a3は、テザー30cの上方において前壁部30a2と後壁部30a1とを接続している。また、テザー30cの他端部30c2は、前壁部30a2の先端部30a2aよりも上壁部30a3側の位置に連結されている。なお、テザー30cは、後壁部30a1や前壁部30a2と一体的に形成された構成としてもよい。つまり、ここでいうテザー30cが連結されているとは、テザー30cが後壁部30a1や前壁部30a2に縫合等の方法で連結されている構成の他に、後壁部30a1や前壁部30a2と一体的に形成されている構成も含まれる。また、バッグ本体部30aは、後壁部30a1、前壁部30a2、及び上壁部30a3の厚みを確保するため、内部テザー63(図7図8参照)がバッグ本体部30aの内部に複数設けられている。
【0024】
導管部30bは、インフレーター24のパイプ部26とバッグ本体部30aにそれぞれ連結され、ラップベルト部13の長手方向に沿って延びる筒状の部材である。導管部30bは、バッグ本体部30aの流入口30a1aと連通する連通口30b1を有する。導管部30bの内部の膨張用ガスは、連通口30b1、流入口30a1aを経由して、バッグ本体部30aの内部に流入する。
【0025】
バッグ連結部52は、エアバッグ30を形成するバッグ用基布と同様の素材で形成された筒状の部材であり、エアバッグ30をラップベルト部13に連結する部材である。バッグ連結部52の筒内部の空間は、ラップベルト部13が挿通されるベルト挿通部52aとなっている。ベルト挿通部52aにラップベルト部13が挿通された後、両者が縫合されることでバッグ連結部52とラップベルト部13とが連結される。また、バッグ連結部52の上面は、エアバッグ30の導管部30bの下面に縫合されて連結されている。
【0026】
バッグカバー59は、シート1の素材に使用されるようなファブリックで形成された筒状の部材である。バッグカバー59は、筒内部に折り畳まれた状態のエアバッグ30のバッグ本体部30a、導管部30bの一部、バッグ連結部52、及びラップベルト部13におけるバッグ組付体29に組み付けられる部分を収容する。バッグカバー59は、エアバッグ30のバッグ本体部30aが膨張する際にバッグ本体部30aから圧力を受けてその一部が破断し、バッグ本体部30aをバッグカバー59から繰り出させる。
【0027】
次に、エアバッグ30が膨張した際のバッグ本体部30aとその周囲の部材や乗員Mとの位置関係について説明する。図7は、シート1が後方側に位置し、シート1とハンドル80との間の距離が遠い状態でエアバッグ30が膨張した際のシート1の周囲を左側から見た図である。図8は、シート1が前方側に位置し、シート1とハンドル80との間の距離が近い状態でエアバッグ30が膨張した際のシート1の周囲を左側から見た図である。図9は、エアバッグ30が膨張した際のシート1の周囲を前方から見た図である。
【0028】
図7に示す様に、シート1とハンドル80との間の距離が遠い場合、まずエアバッグ30のバッグ本体部30aは上方且つ前方に向かって膨張し、その後に前壁部30a2の先端部30a2a側が重力によって垂れ下がる。これによりテザー30cが乗員Mの膝部MK(支持体)に上方から引っ掛かって係止され、テザー30cを介してバッグ本体部30aが乗員Mの膝部MKに支持される。このようにテザー30cが膝部MKに引っ掛かって係止され、テザー30cを介してバッグ本体部30aが支持されることにより、乗員Mの膝部MKによってバッグ本体部30aを安定的に支持させ、意図した位置にバッグ本体部30aを配置させやすくなり、またバッグ本体部30aが膝部MKや膝部MKと連なる大腿部MDから反力を得やすくなる。つまり後壁部30a1と前壁部30a2との接続部分である上壁部30a3がテザー30cより下方にある場合、膨張用ガスが流入した上壁部30a3が膝部MKに当接する際に上壁部30a3の反発力によって上壁部30a3が膝部MKから弾かれやすく、バッグ本体部30aが膝部MKに安定的に支持されない可能性がある。一方、本実施形態のように上壁部30a3がテザー30cの上方に配置されている場合、膨張用ガスが流入していないテザー30cが膝部MKの上面に沿うように引っ掛かって係止されることから、テザー30cと膝部MKとの接触面積を大きく確保して摩擦力を大きくし、バッグ本体部30aをテザー30cを介して膝部MKに安定的に支持させることができる。このため、意図した位置にバッグ本体部30aを配置させやすくなり、バッグ本体部30aが膝部MKや膝部MKと連なる大腿部MDから反力を得やすくなる。また、テザー30cの他端部30c2は、前壁部30a2における先端部30a2aより上壁部30a3側の位置に連結されているため、当該連結部分から先端部30a2aまでの間の前壁部30a2の先端領域30a2bを乗員Mの膝部MKのすぐ前方に配置させることができる。このため、バッグ本体部30aによって乗員Mの膝部MKを保護しやすくなり、尚且つテザー30cを膝部MKに引っ掛けやすくすることができる。
【0029】
図8に示す様に、シート1とハンドル80との間の距離が近い場合、まずエアバッグ30のバッグ本体部30aはハンドル80を乗り越えるように上方且つ前方に向かって膨張し、その後に前壁部30a2の先端部30a2a側が重力によって垂れ下がる。この時、ハンドル80は、バッグ本体部30aの後壁部30a1と前壁部30a2との間に形成された空隙35に配置されることから、バッグ本体部30aが膨張して広がる際にバッグ本体部30aとハンドル80が干渉しにくく、バッグ本体部30aが広がることが妨げられにくい。このように本実施形態の乗員保護装置10によれば、シート1の前方に干渉物であるハンドル80がある場合であっても、バッグ本体部30aとハンドル80との干渉が抑制され、ハンドル80によってエアバッグ30のバッグ本体部30aが広がりにくくなることを抑制することができる。
【0030】
また、ハンドル80を乗り越えたバッグ本体部30aは、テザー30cがハンドル80(支持体)における乗員Mが把持して回転操舵するリング部80aの上面に上方から引っ掛かって係止されることにより、テザー30cを介してハンドル80のリング部80aに支持される。このようにテザー30cがハンドル80に引っ掛かって係止され、テザー30cを介してバッグ本体部30aが支持されることにより、ハンドル80によってバッグ本体部30aを安定的に支持させ、意図した位置にバッグ本体部30aを配置させやすくなり、またバッグ本体部30aがハンドル80から反力を得やすくなる。つまり後壁部30a1と前壁部30a2との接続部分である上壁部30a3がテザー30cより下方にある場合、膨張用ガスが流入した上壁部30a3がハンドル80に当接する際に上壁部30a3の反発力によって上壁部30a3がハンドル80から弾かれやすく、バッグ本体部30aがハンドル80に安定的に支持されない可能性がある。一方、本実施形態のように上壁部30a3がテザー30cの上方に配置されている場合、膨張用ガスが流入していないテザー30cがハンドル80のリング部80aの上面に沿うように引っ掛かって係止されることから、テザー30cとハンドル80との接触面積を大きく確保して摩擦力を大きくし、バッグ本体部30aをテザー30cを介してハンドル80に安定的に支持させることができる。このため、意図した位置にバッグ本体部30aを配置させやすくなり、バッグ本体部30aがハンドル80から反力を得やすくなる。また、テザー30cの他端部30c2は、前壁部30a2における先端部30a2aより上壁部30a3側の位置に連結されているため、前壁部30a2の先端領域30a2bをハンドル80のすぐ前方に配置させやすくなり、テザー30cをハンドル80に引っ掛けやすくすることができる。
【0031】
また、図9に示す様に、バッグ本体部30aの後壁部30a1に突出部30a1b、30a1cが設けられているため、バッグ本体部30aの膨張完了時に乗員Mの大腿部MDが突出部30a1b、30a1cによって左右両側から挟まれる。これにより膨張完了時のバッグ本体部30aの乗員Mに対する左右方向の位置決めが行われることから、バッグ本体部30aが乗員Mを狙いの位置で受け止めやすくなり、乗員Mを安定的に保護することができる。
【0032】
また、後壁部30a1の突出部30a1b、30a1cは、下方に突出して乗員Mの大腿部MDを挟み込む構成であることから、位置決めに際して乗員Mが突出部30a1b、30a1cから受ける圧力によって乗員Mの身体がダメージを受けることを抑制することができる。すなわち、仮に後壁部30a1における鉛直方向の中央部よりも上部の位置から後方に突出部が突出している場合、当該突出部と乗員Mの頭部や首部とが接触することによってバッグ本体部30aの乗員Mに対する左右方向の位置が決められ得るものの、この位置決めに際して乗員Mの急所である頭部や首部に負荷がかかりやすく、乗員Mの身体がダメージを受けるおそれがある。これに対して本実施形態の構成では、突出部30a1b、30a1cが下方に突出して乗員Mの大腿部MDを挟み込む構成であることから、乗員Mの身体がダメージを受けることを抑制することができる。
【0033】
また、バッグ本体部30aは空隙35を有することから、バッグ本体部30aが乗員Mの前方側で隙間なく広がる形状と比較して、バッグ本体部30aの膨張用ガスが流入する部分の容積を小さくすることができる。このため、バッグ本体部30aが膨張を開始してから完了するまでの時間を短縮することができ、バッグ本体部30aによって乗員Mをより安全に保護することができる。
【0034】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る乗員保護装置10について説明する。上記の第1実施形態と説明の重複する部分については、同一の図面を使用し、又は同一の符号を用いて説明を簡略化又は省略する。
【0035】
図10は、本実施形態に係る乗員保護装置10におけるエアバッグ30が膨張した状態のバッグ組付体29を下方から見た斜視図であり、バッグカバー59は省略している。図11は、シート1が後方側に位置し、シート1とハンドル80との間の距離が遠い状態でエアバッグ30が膨張した際のシート1の周囲を左側から見た図である。図12は、シート1が前方側に位置し、シート1とハンドル80との間の距離が近い状態でエアバッグ30が膨張した際のシート1の周囲を左側から見た図である。
【0036】
図10に示す様に、本実施形態の乗員保護装置10は、第1実施形態の構成に対し、エアバッグ30のバッグ本体部30aの形状のみが異なる。具体的には、本実施形態の乗員保護装置10は、第1実施形態の乗員保護装置10のバッグ本体部30aの後壁部30a1に設けられた突出部30a1b、30a1cが無く、その代わりに後壁部30a1に突出部30a1d、30a1eが設けられている。
【0037】
突出部30a1d(第1突出部)は、後壁部30a1の左端部から後方に突出し、突出部30a1e(第2突出部)は後壁部30a1の右端部から後方に突出している。また、突出部30a1d、30a1eは、後壁部30a1における鉛直方向の中央部よりも下側に配置されている。また、突出部30a1d、30a1eは、後壁部30a1の左右方向の中心を基準として略対称の位置に配置され、略左右対称形状となっている。ここで略対称の位置とは、両者が完全に同一の位置に位置する構成の他に、公差の範囲でずれている構成が含まれる。また、略左右対称形状とは、両者が左右対称形状の構成の他に、公差の範囲で異なる形状の構成も含まれる。なお、突出部30a1d、30a1eは、必ずしも後壁部30a1の左右両端に配置されている必要はなく、突出部30a1dが後壁部30a1の左右方向の中央部に対して左側に配置され、突出部30a1eが後壁部30a1の左右方向の中央部に対して右側で突出部30a1dと間隔を空けた位置に配置されていればよい。また、本実施形態に係る乗員保護装置10のその他の構成は、第1実施形態の乗員保護装置10の構成と同様であるため説明を省略する。
【0038】
本実施形態の乗員保護装置10によれば、第1実施形態と同様のメカニズムにより、シート1とハンドル80との間の距離が遠い場合、エアバッグ30が膨張すると、テザー30cが乗員Mの膝部MKの上面に沿うように引っ掛かって係止され、テザー30cを介してバッグ本体部30aが支持される(図11)。これにより乗員Mの膝部MKによってバッグ本体部30aを安定的に支持させ、意図した位置にバッグ本体部30aを配置させやすくなり、またバッグ本体部30aが膝部MKや膝部MKと連なる大腿部MDから反力を得やすくなる。また、前壁部30a2の先端領域30a2bが乗員Mの膝部MKのすぐ前方に配置されるため、バッグ本体部30aによって乗員Mの膝部MKを保護しやすくなり、尚且つテザー30cを膝部MKに引っ掛けやすくすることができる。
【0039】
また、図12に示す様に、シート1とハンドル80との間の距離が近い場合、第1実施形態と同様のメカニズムにより、エアバッグ30が膨張すると、ハンドル80がバッグ本体部30aの後壁部30a1と前壁部30a2との間に形成された空隙35に配置される。このため、シート1の前方に干渉物であるハンドル80がある場合であっても、バッグ本体部30aとハンドル80との干渉が抑制され、ハンドル80によってエアバッグ30のバッグ本体部30aが広がりにくくなることを抑制することができる。また、テザー30cがハンドル80のリング部80aの上面に上方から引っ掛かって係止されることにより、テザー30cを介してハンドル80のリング部80aに支持される。これによりハンドル80によってバッグ本体部30aを安定的に支持させ、意図した位置にバッグ本体部30aを配置させやすくなり、またバッグ本体部30aがハンドル80から反力を得やすくなる。また、前壁部30a2の先端領域30a2bがハンドル80のすぐ前方に配置されるため、テザー30cをハンドル80に引っ掛けやすくすることができる。
【0040】
また、バッグ本体部30aの後壁部30a1に突出部30a1d、30a1eが設けられているため、バッグ本体部30aの膨張完了時に乗員Mの上半身MUが突出部30a1d、30a1eによって左右両側から挟まれる。これにより膨張完了時のバッグ本体部30aの乗員Mに対する左右方向の位置決めが行われることから、バッグ本体部30aが乗員Mを狙いの位置で受け止めやすくなり、乗員Mを安定的に保護することができる。
【0041】
また、後壁部30a1の突出部30a1d、30a1eは、後壁部30a1における鉛直方向の中央部よりも下側に配置されており、乗員Mの下腹部付近を挟み込む構成であることから、位置決めに際して乗員Mが突出部30a1d、30a1eから受ける圧力によって乗員Mの身体がダメージを受けることを抑制することができる。すなわち、仮に後壁部30a1における鉛直方向の中央部よりも上部の位置から後方に突出部が突出している場合、当該突出部と乗員Mの頭部や首部とが接触することによってバッグ本体部30aの乗員Mに対する左右方向の位置が決められ得るものの、この位置決めに際して乗員Mの急所である頭部や首部に負荷がかかりやすく、乗員Mの身体がダメージを受けるおそれがある。これに対して本実施形態の構成では、突出部30a1d、30a1eが後壁部30a1における鉛直方向の中央部よりも下側に配置されており、乗員Mの下腹部付近を挟み込む構成であることから、乗員Mの身体がダメージを受けることを抑制することができる。
【0042】
また、バッグ本体部30aは空隙35を有することから、バッグ本体部30aが乗員Mの前方側で隙間なく広がる形状と比較して、バッグ本体部30aの膨張用ガスが流入する部分の容積を小さくすることができる。このため、バッグ本体部30aが膨張を開始してから完了するまでの時間を短縮することができ、バッグ本体部30aによって乗員Mをより安全に保護することができる。
【0043】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る乗員保護装置10について説明する。上記の第1実施形態、第2実施形態と説明の重複する部分については、同一の図面を使用し、又は同一の符号を用いて説明を簡略化又は省略する。
【0044】
図13は、本実施形態に係る乗員保護装置10におけるエアバッグ30が膨張した状態のバッグ組付体29を下方から見た斜視図であり、バッグカバー59は省略している。図14は、シート1が後方側に位置し、シート1とハンドル80との間の距離が遠い状態でエアバッグ30が膨張した際のシート1の周囲を左側から見た図である。図15は、シート1が前方側に位置し、シート1とハンドル80との間の距離が近い状態でエアバッグ30が膨張した際のシート1の周囲を左側から見た図である。
【0045】
図13に示す様に、本実施形態の乗員保護装置10は、第1実施形態の構成に対し、エアバッグ30のバッグ本体部30aの形状のみが異なる。具体的には、本実施形態の乗員保護装置10は、第1実施形態の乗員保護装置10のバッグ本体部30aの後壁部30a1に設けられた突出部30a1b、30a1cが無く、その代わりに前壁部30a2に突出部30a2c、30a2dが設けられている。
【0046】
突出部30a2c(第1突出部)は、前壁部30a2の左端部から後方に突出しており、その一部が前壁部30a2におけるテザー30cの連結部位30a2xよりも下部に配置されている。突出部30a2d(第2突出部)は、前壁部30a2の右端部から下方に突出しており、その一部が前壁部30a2におけるテザー30cの連結部位30a2xよりも下部に配置されている。また、突出部30a2c、30a2dは、前壁部30a2の左右方向の中心を基準として略対称の位置に配置され、略左右対称形状となっている。ここで略対称の位置とは、両者が完全に同一の位置に位置する構成の他に、公差の範囲でずれている構成が含まれる。また、略左右対称形状とは、両者が左右対称形状の構成の他に、公差の範囲で異なる形状の構成も含まれる。なお、突出部30a2c、30a2dは、必ずしも前壁部30a2の左右両端に配置されている必要はなく、突出部30a2cが前壁部30a2の左右方向の中央部に対して左側に配置され、突出部30a2dが前壁部30a2の左右方向の中央部に対して右側で突出部30a2cと間隔を空けた位置に配置されていればよい。また、突出部30a2c、30a2dは、その全体が前壁部30a2におけるテザー30cの連結部位30a2xの下部に位置していても、一部が連結部位30a2xの下部に位置していてもよい。また、本実施形態に係る乗員保護装置10のその他の構成は、第1実施形態の乗員保護装置10の構成と同様であるため説明を省略する。
【0047】
本実施形態の乗員保護装置10によれば、第1実施形態と同様のメカニズムにより、シート1とハンドル80との間の距離が遠い場合、エアバッグ30が膨張すると、テザー30cが乗員Mの膝部MKの上面に沿うように引っ掛かって係止され、テザー30cを介してバッグ本体部30aが支持される(図14)。これにより乗員Mの膝部MKによってバッグ本体部30aを安定的に支持させ、意図した位置にバッグ本体部30aを配置させやすくなり、またバッグ本体部30aが膝部MKや膝部MKと連なる大腿部MDから反力を得やすくなる。また、前壁部30a2の先端領域30a2bが乗員Mの膝部MKのすぐ前方に配置されるため、バッグ本体部30aによって乗員Mの膝部MKを保護しやすくなり、尚且つテザー30cを膝部MKに引っ掛けやすくすることができる。
【0048】
また、バッグ本体部30aの前壁部30a2に突出部30a2c、30a2dが設けられているため、バッグ本体部30aの膨張完了時に乗員Mの大腿部MDが突出部30a2c、30a2dによって左右両側から挟まれる。これにより膨張完了時のバッグ本体部30aの乗員Mに対する左右方向の位置決めが行われることから、バッグ本体部30aが乗員Mを狙いの位置で受け止めやすくなり、乗員Mを安定的に保護することができる。
【0049】
また、図15に示す様に、シート1とハンドル80との間の距離が近い場合、第1実施形態と同様のメカニズムにより、エアバッグ30が膨張すると、ハンドル80がバッグ本体部30aの後壁部30a1と前壁部30a2との間に形成された空隙35に配置される。このため、シート1の前方に干渉物であるハンドル80がある場合であっても、バッグ本体部30aとハンドル80との干渉が抑制され、ハンドル80によってエアバッグ30のバッグ本体部30aが広がりにくくなることを抑制することができる。また、テザー30cがハンドル80のリング部80aの上面に上方から引っ掛かって係止されることにより、テザー30cを介してハンドル80のリング部80aに支持される。これによりハンドル80によってバッグ本体部30aを安定的に支持させ、意図した位置にバッグ本体部30aを配置させやすくなり、またバッグ本体部30aがハンドル80から反力を得やすくなる。また、前壁部30a2の先端領域30a2bがハンドル80のすぐ前方に配置されるため、テザー30cをハンドル80に引っ掛けやすくすることができる。
【0050】
また、バッグ本体部30aの前壁部30a2に突出部30a2c、30a2dが設けられているため、バッグ本体部30aの膨張完了時にハンドル80のリング部80aが突出部30a2c、30a2dによって左右両側から挟まれる。これにより膨張完了時のバッグ本体部30aのハンドル80に対する左右方向の位置決めが行われる。そして乗員Mは、身体の中心がハンドル80の真正面付近に位置することが一般的であることから、バッグ本体部30aとハンドル80との位置決めが行われることにより、間接的にバッグ本体部30aと乗員Mとの位置決めが行われる。このため、バッグ本体部30aが乗員Mを狙いの位置で受け止めやすくなり、乗員Mを安定的に保護することができる。
【0051】
また、バッグ本体部30aは空隙35を有することから、バッグ本体部30aが乗員Mの前方側で隙間なく広がる形状と比較して、バッグ本体部30aの膨張用ガスが流入する部分の容積を小さくすることができる。このため、バッグ本体部30aが膨張を開始してから完了するまでの時間を短縮することができ、バッグ本体部30aによって乗員Mをより安全に保護することができる。
【0052】
なお、上記の第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態の構成は、要求されるエアバッグ30のバッグ本体部30aと乗員Mとの間の位置決め性能に応じて適宜組み合わせることも可能である。すなわち、例えば第1実施形態の構成と第2実施形態の構成を組み合わせてバッグ本体部30aの後壁部30a1が突出部30a1b、30a1c、30a1d、30a1eを有する構成としてもよい。また、第1実施形態の構成と第3実施形態の構成を組み合わせてバッグ本体部30aの後壁部30a1が突出部30a1b、30a1c(第1突出部、第2突出部)を有し、前壁部30a2が突出部30a2c、30a2d(第3突出部、第4突出部)を有する構成としてもよい。また、第2実施形態の構成と第3実施形態の構成を組み合わせてバッグ本体部30aの後壁部30a1が突出部30a1b、30a1c(第1突出部、第2突出部)を有し、前壁部30a2が突出部30a2c、30a2d(第3突出部、第4突出部)を有する構成としてもよい。
【0053】
また、上記の第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態では、乗員保護装置10を車両の運転席に設ける構成について説明したものの、本発明はこれに限られず、車両の後部座席や助手席に設けることもできる。例えば第1実施形態の乗員保護装置10を車両の助手席に設ける場合、図16に示す様に、シート1とシート1の前方のインストルメントパネル95との間の距離が遠い状態でエアバッグ30が膨張すると、テザー30cが助手席に着座する乗員Mの膝部MKに上方から引っ掛かって係止され、テザー30cを介してバッグ本体部30aが乗員Mの膝部MKに支持される。
【0054】
また、上記の第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態では、シートベルト11がショルダーベルト部12とラップベルト部13を備えるいわゆる三点式のシートベルト11を例示して乗員保護装置10を説明したものの、本発明はこれに限られるものではない。即ち、シートベルト11がショルダーベルト部12を備えずにラップベルト部13を備えるいわゆる二点式のシートベルト11に本発明を適用しても、上記同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0055】
1…シート、10…乗員保護装置、11…シートベルト、13…ラップベルト部、15…巻き取り機構、19…バックル、20…タング、24…インフレーター、30…エアバッグ、30a…バッグ本体部(本体部)、30a1…後壁部、30a1b…突出部(第1突出部)、30a1c…突出部(第2突出部)、30a1d…突出部(第1突出部)、30a1e…突出部(第2突出部)、30a2…前壁部、30a2c…突出部(第1突出部、第3突出部)、30a2d…突出部(第2突出部、第4突出部)、30a3…上壁部、30b…導管部、30c…テザー、80…ハンドル(支持体)、M…乗員、MK…膝部(支持体)、MW…腰部
図1
図2
図3
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図5
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図7
図8
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図10
図11
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