(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128664
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】アミド基含有構造を有するビスマレイミド
(51)【国際特許分類】
C07D 207/452 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
C07D207/452 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037768
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐己
(72)【発明者】
【氏名】田窪 由紀
(72)【発明者】
【氏名】小野 遼平
(72)【発明者】
【氏名】柴田 健太
(57)【要約】
【課題】柔軟性、密着性に優れたビスマレイミド化合物の提供。
【解決手段】一般式(1)で示されるアミド基を含有したビスマレイミドである。すなわち、アミド基を含有したジアミン成分とマレイン酸成分とが脱水縮合した化学構造を有する。ジアミン成分はダイマジアミンとダイマ酸とからなることが好ましく、ジアミンに由来する構造の好ましい繰り返し単位数は1~10である。半導体等を用いた電子部品製造や、封止材組成物、接着剤組成物等の成分として好適に用いることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される構造を有するビスマレイミド。
【化1】
(一般式(1)において、Xは、ジカルボン酸由来の二価炭化水素基を、Yは、ジアミン由来の二価炭化水素基を、それぞれ示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスマレイミドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、スマートフォン、ノート型パソコン等の電子機器に用いられる電子部品は高密度集積化、高密度実装化等が進んでいる。これらの電子部品に用いられる接着剤、封止材等の樹脂材料には、吸水率が低く信頼性に優れた耐熱性の材料が求められる。これらの接着剤、封止材等に用いられる組成物の成分として、ダイマジアミン(炭素数24~48のダイマ酸から誘導される脂肪族ジアミン)のアミノ基がマレイミド化されたマレイミド化合物を用いる方法が知られており、例えば、LED素子の実装用の接着剤組成物、プリント配線基板用の異方性導電性接着剤組成物、半導体封止用の固体状組成物として利用されている。(特許文献1~4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-31227号公報
【特許文献2】特開2015-193725号公報
【特許文献3】特開2018-24747号公報
【特許文献4】特開2018-83893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記した従来のビスマレイミドには、柔軟性と密着性に改良の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ビスマレイミドの構造にアミド基を導入することにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記を要旨とするものである。
一般式(1)で示される構造を有するビスマレイミド。
【化1】
(一般式(1)において、Xは、ジカルボン酸由来の二価炭化水素基を、Yは、ジアミン由来の二価炭化水素基を、それぞれ示す。)
【発明の効果】
【0007】
本発明のビスマレイミドは、アミド基を含有しているため、柔軟性および密着性が良好である。従い、半導体等を用いた電子部品製造や、封止材組成物、接着剤組成物等の成分として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1で得られたビスマレイミドの1H-NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のビスマレイミドは、一般式(1)で示されるアミド基を含有したビスマレイミドである。すなわち、アミド基を含有したジアミン成分とマレイン酸成分とが脱水縮合した化学構造を有する。
【化2】
【0010】
一般式(1)において、Xは、炭素数10以上の脂肪族ジカルボン酸由来の二価炭化水素基を示し、飽和または不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでもよい。X基を与える脂肪族ジカルボン酸の炭素数は通常、10~50であり、耐熱性、機械的特性、柔軟性および誘電特性のさらなる向上の観点から、好ましくは20~50、より好ましくは30~42、さらに好ましくは34~38である。一般式(1)において、n(繰り返し単位数)の好ましい範囲は、1~10であり、より好ましくは1~5、さらに好ましくは1~3である。
【0011】
前記X基を与えるジカルボン酸としては、例えば、セバシン酸(炭素数10)、ドデカン二酸(同12)、オクタデカン二酸(同18)、ノナデカン二酸(同19)、エイコサン二酸(同20)、ヘンエイコサン二酸(同21)、ドコサン二酸(同22)、トリコサン二酸(同23)、テトラコサン二酸(同24)、ペンタコサン二酸(同25)、ヘキサコサン二酸(同26)、ヘプタコサン二酸(同27)、オクタコサン二酸(同28)、ノナコサン二酸(同29)、トリアコンタン二酸(同30)、ヘントリアコンタン二酸(同31)、ドトリアコンタン二酸(同32)、トリトリアコンタン二酸(同33)、テトラトリアコンタン二酸(同34)、ペンタトリアコンタン二酸(同35)、ダイマー酸(同36)が挙げられる。中でも、汎用性が高く、得られる硬化物の柔軟性が向上することから、ダイマー酸が好ましい。ダイマー酸は、例えばオレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸から選択される2つの分子を付加反応することにより得られる化合物である。当該2つの分子は同種の分子であってもよいし、または相互に異種の分子であってもよい。ダイマー酸は、使用する目的に応じて、不飽和結合を有するジカルボン酸であってもよいし、または水素添加反応して不飽和度を低下させたジカルボン酸であってもよい。脂肪族ジカルボン酸は、水素添加反応を施したものであってもよいし、環状構造を有していてもよい。また、脂肪族ジカルボン酸は、分岐を有してもよいし、不飽和結合を有してもよい。ダイマー酸の市販品としては、築野食品社製「ツノダイム395」、クロ―ダジャパン社製「PRIPOL1009」、クロ―ダジャパン社製「PRIPOL1004」が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0012】
一般式(1)において、Yは、炭素数10以上の脂肪族ジアミン由来の二価炭化水素基を示す。Yは、飽和または不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでもよい。Y基を与える脂肪族ジアミンの炭素数は通常、10~50であり、耐熱性、機械的特性、柔軟性および誘電特性のさらなる向上の観点から、好ましくは20~50、より好ましくは30~42、さらに好ましくは34~38である。
【0013】
前記Y基を与えるジアミンとしては、例えば、デカンジアミン(同10)、ドデカンジアミン(同12)、オクタデカンジアミン(同18)、ノナデカンジアミン(同19)、イコサンジアミン(同20)、ヘンイコサンジアミン(同21)、ドコサンジアミン(同22)、トリコサンジアミン(同23)、テトラコサンジアミン(同24)、ペンタコサンジアミン(同25)、ヘキサコサンジアミン(同26)、ヘプタコサンジアミン(同27)、オクタコサンジアミン(同28)、ノナコサンジアミン(同29)、トリアコンタンジアミン(同30)、ヘントリアコンタンジアミン(同31)、ドトリアコンタンジアミン(同32)、トリトリアコンタンジアミン(同33)、テトラトリアコンタンジアミン(同34)、ペンタトリアコンタンジアミン(同35)、ダイマージアミン(同36)が挙げられる。中でも、汎用性が高く、得られる硬化物の柔軟性が向上することから、ダイマージアミンが好ましい。ダイマージアミンは、例えば、上記したダイマー酸を還元、アミノ化(還元的アミノ化)することにより得られる化合物である。ダイマージアミンは、使用する目的に応じて、不飽和結合を有するジアミンであってもよいし、または水素添加反応して不飽和度を低下させたジアミンであってもよい。脂肪族ジアミンは、水素添加反応を施したものであってもよいし、環状構造を有していてもよい。脂肪族ジアミンは、分岐を有してもよいし、不飽和結合を有してもよい。ダイマージアミンの市販品としては、BASFジャパン社製「バーサミン551」、BASFジャパン社製「バーサミン552」(バーサミン551の水素添加物)、クロ―ダジャパン社製「PRIAMINE1075」、クロ―ダジャパン社製「PRIAMINE1074」が挙げられる。脂肪族ジアミンは、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
アミド基を含有するジアミン成分の製法は特に限定されない。例えば、上記したジカルボン酸と上記ジアミンとを公知の方法により縮合反応させて得ることができる。前記反応は、溶媒中もしくは無溶媒で、また、触媒の存在下もしくは無触媒で、おこなうことができ、反応温度としては、150~300℃を例示することができる。
【0015】
次に、アミド基を含有したジアミン成分のマレイミド化をおこなう。まず、前記ジアミン成分と、当量の無水マレイン酸を反応させて、マレアミック酸を得る。この反応は、溶媒を用いて、温度50~140℃でおこなうことが好ましい。
次いで、マレアミック酸のアミック酸部分を脱水閉環してビスマレイミドとする。この反応は、溶媒中、酸触媒存在下において、50~200℃の温度で反応させることが好ましい。
【0016】
マレイミド化に用いられる溶媒に制限はないが、トルエン、キシレン(o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン)、エチルベンゼン、メシチレン、ソルベントナフサ等の炭化水素系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系溶媒、グライム、ジグライム等のエーテル系溶媒が好ましく用いられる。これらの溶媒は、単独、または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0017】
マレアミック酸の脱水閉環反応に用いられる酸触媒に制限はないが、硫酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、マレイン酸等を用いることができる。これらの触媒は、単独、または2種以上を組み合わせて用いられる。また、これらの酸のトリエチルアミン塩を用いることもできる。脱水閉環する際は、マレイミド化により生成する水を、共沸等により反応系外に除去することが好ましい。
【0018】
前記のようにして得られたビスマレイミドは、公知の方法により、精製することができる。例えば、分液洗浄、再沈殿、再結晶などの方法を用いることができ、製造工程での容易さから分液洗浄が好ましい。
【0019】
また、得られたビスマレイミドは、カルボジイミド化合物(CDI)を用いて、不純物としての酸成分を除去してもよい。すなわち、溶媒中、CDIを、ビスマレイミド中の酸成分と反応させて、ビスマレイミド中の酸成分とCDIとの反応による副生成物であるCDIの尿素誘導体を、水、アルコール(メタノール、エタノール等)等で洗浄して、低酸価のビスマレイミドとすることができる。
【0020】
ビスマレイミド中の酸成分と反応させるCDIとしては、N,N′-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミド、N,N′-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ポリ(1,6-ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′-メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3-シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4-シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(4,4′-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3′-ジメチル-4,4′-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(メチル-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリイソプロピルベンゼンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリイソプロピルベンゼンおよび1,5-ジイソプロピルベンゼンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)等を用いることができ、DICまたはEDCが好ましい。これらのCDIは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
ビスマレイミド中の酸成分とCDIとの反応に用いられる溶媒に制限はないが、トルエン、キシレン(o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン)、エチルベンゼン、メシチレン、ソルベントナフサ等の炭化水素系溶媒が好ましい。
【0022】
本発明のビスマレイミドは、従来のビスマレイミドが用いられていたいずれの用途にも好適に使用することができる。例えば、半導体等を用いる電子部品製造や、封止材組成物、接着剤組成物等の成分として好適に用いることができる。
【実施例0023】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお本発明は実施例により限定されるものではない。
【0024】
(1)ビスマレイミドの生成確認
ビスマレイミドの生成は、下記条件で1H-NMR分析することにより確認した。
下記条件において、マレイミド基のビニルプロトンのピークに対応するケミカルシフトは約6.7ppm、マレアミック酸のケミカルシフトは約6.3ppmである。
なお、
図1の1H-NMRチャートにおいて、7.1~7.3ppmに見られるピークは、残留溶媒であるトルエンに由来するものである。
<1H-NMR測定条件>
装置:核磁気共鳴装置(日本電子社製:型番ECA500)
周波数:500.16MHz
基準物質:テトラメチルシラン
溶媒:重クロロホルム
測定温度:25℃
【0025】
(2)ビスマレイミドの酸価
JIS K0070(1992)の規定に基づき、中和滴定法で測定した。
ビスマレイミド溶液を精秤し、THFでビスマレイミド濃度がおよそ2質量%になるように希釈し、ブロモチモールブルー(BTB)を指示薬として用い、水酸化カリウム(KOH)で滴定をおこない、中和に消費されたKOHのmg数をビスマレイミド1gあたりに換算した値を用いた。
【0026】
(3)ビスマレイミドの粘度
トキメック社製DVL-BII型デジタル粘度計(B型粘度計)を用い、25±0.2℃における回転粘度を測定した。
【0027】
<実施例1>
1)アミド基を含有したジアミンの調製
加熱機構、撹拌機構を備えた反応容器にダイマー酸(クローダジャパン株式会社製「プリポール1009」、分子量:567):0.12モル、ダイマージアミン(クローダジャパン株式会社製「プリアミン1074」、分子量:547):0.18モルを投入した。その後、撹拌下、230℃で加熱し、縮合水を系外に除去しながら、窒素気流下常圧で2時間重合をおこない、ジアミンAを得た。ジアミンAは、一般式(1)のビスマレイミドの構造中、その繰り返し単位数nの数平均値が2となる構造を与えるジアミンである。
2)ビスマレイミドの作製
水分離器付き還流冷却器、攪拌機、温度計を備えたガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、トルエンとNMPとからなる混合溶媒(質量比:トルエン/NMP=80/20)、上記ジアミンA:0.10モル、無水マレイン酸:0.20モル、メタンスルホン酸:0.18モルを投入して攪拌した。得られた溶液を、攪拌しながら昇温して内容物を加熱還流させた。反応により生成する水を共沸分離しながら約125℃で6時間還流を続けた後、冷却して、2相化した橙黄色溶液を得た。
その後、得られた溶液の上相を取り出し、水系溶媒で2回洗浄し、N,N′-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)2g、メチルアルコールを投入し、60℃で60分加熱した後、冷却して、橙黄色溶液を得た。得られた溶液を水系溶媒で2回洗浄することにより精製し、溶媒を留去することで、ビスマレイミド濃度が80質量%(トルエン20質量%)のビスマレイミド溶液を得た。
ビスマレイミドの生成は、1H-NMR測定においてマレアミック酸のピークの消失により確認した。
このビスマレイミド溶液の粘度は24Pa・sであり、この溶液に含まれるビスマレイミドの酸価は0.1mg-KOH/gであった。
本発明のビスマレイミドは、アミド基を含有しているため、柔軟性および密着性が良好である。従い、半導体等を用いた電子部品製造や、封止材組成物、接着剤組成物等の成分として好適に用いることができる。