(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128669
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】バンド調整機構、中留、バンド及び時計
(51)【国際特許分類】
A44C 5/18 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
A44C5/18 G
A44C5/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037779
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】502366745
【氏名又は名称】セイコーウオッチ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000135759
【氏名又は名称】株式会社バンビ
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】石田 正浩
(72)【発明者】
【氏名】大谷 剛
(57)【要約】
【課題】従来技術と比較して外観の制限を軽減するとともに小型化が可能なバンド調整機構、このバンド調整機構を備えた中留、この中留を備えたバンド及びこのバンドを備えた時計を提供する。
【解決手段】バンド調整機構1は、第一バンドと接続される上箱11と、第二バンド15と接続されるスライダー4と、アンカー5と、係合部6と、を備える。アンカー5は、回転軸59を介して上箱11に開閉可能に連結され、スライダー4のスライドを許容する開状態とスライドを規制する閉状態とに開閉し、閉状態において上箱11に係合する係止突起55を有する。係合部6は、スライダー4からアンカー5側に向けて付勢されるように設けられ、アンカー5の開状態において、アンカー5の回転軸59と係合してスライダー4のスライドを規制する係合状態と、スライドを許容する非係合状態と、に変位する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一バンドと接続される上箱と、
第二バンドと接続され、前記上箱に対してスライドするスライダーと、
前記スライダーに対して前記上箱とは反対側に設けられた軸部を介して前記上箱に開閉可能に連結され、前記スライダーのスライドを許容する開状態と前記スライダーのスライドを規制する閉状態とに開閉し、前記閉状態において前記上箱に係合する係止部を有するアンカーと、
前記スライダーから前記アンカー側へ向かって突出するとともに前記アンカー側に向けて付勢されるように設けられ、前記アンカーの前記開状態において、前記アンカーの前記軸部と係合して前記スライダーのスライドを規制する係合状態と、前記スライダーのスライドを許容する非係合状態と、に変位可能な係合部と、
を備えるバンド調整機構。
【請求項2】
前記スライダーは、前記アンカーの前記閉状態において前記アンカーと係合することにより前記スライダーのスライドを規制する固定部を有し、
前記係合部は、前記固定部よりも弱い力で前記スライダーのスライドを規制する請求項1に記載のバンド調整機構。
【請求項3】
前記軸部は、前記スライダーのスライド方向と直交する前記上箱の幅方向に沿って延びており、
前記スライダーは、前記係合部が前記軸部に対して前記スライド方向の一方側に位置する第1の位置と、前記係合部が前記軸部に対して前記スライド方向の他方側に位置する第2の位置と、に移動する請求項1に記載のバンド調整機構。
【請求項4】
前記係合部は、前記非係合状態から前記係合状態へ戻る際にクリック感を生じさせる請求項1に記載のバンド調整機構。
【請求項5】
前記係合部は、係合部本体と、前記係合部本体を前記アンカー側へ向かって付勢する付勢部と、を有し、
前記係合部は、前記軸部に押されることにより、前記付勢部の付勢力に逆らう方向に力が作用して前記非係合状態に変位し、
前記付勢部の付勢力により前記係合部が前記非係合状態から前記係合状態へ戻ることにより前記クリック感を生じさせる請求項4に記載のバンド調整機構。
【請求項6】
前記アンカーは、前記軸部と前記係合部との係合位置と対応する箇所において、前記軸部を露出させるための切欠きを有する請求項1に記載のバンド調整機構。
【請求項7】
時計用の中留に請求項1から請求項6のいずれかに記載のバンド調整機構を設けた中留。
【請求項8】
前記アンカーは、前記中留が開放された状態において、前記中留の開閉とは独立して開閉可能となっている請求項7に記載の中留。
【請求項9】
請求項7に記載の中留を備えたバンド。
【請求項10】
時計本体と、
前記時計本体に接続された、請求項9に記載のバンドと、
を備える時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンド調整機構、中留、バンド及び時計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、腕時計の中留等に設けられ、バンドの長さを調整するための機構が種々提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、中留カバー(上箱)と、中留カバーに対してスライドすることで第一バンド及び第二バンド間の長さを変化させるスライド部材と、スライド部材に形成された溝に係合してスライドを規制する規制部と、操作されることにより規制部による規制を解除する操作部と、操作部を覆うロック機構と、を備えるバンド調整機構が開示されている。特許文献1に記載の技術によれば、操作部を押しながらスライド部材をスライドさせることにより、バンドの長さを調整できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の技術にあっては、スライド部材のスライドを規制する部分(規制部)にバネを用いるので、例えばバネのへたりや劣化によって長さ調整に係る操作性が低下するおそれがある。そこで、例えばスライドを規制する部分にバネを用いることなく構成し、スライド部材を段階的にスライドさせる構成とすることが考えられる。このような従来技術においては、操作時のクリック感を出すために、例えば上箱の側面に複数の孔を設け、スライド部材から上箱の側面に向けて付勢されて上箱の孔に係合する突起部を設ける場合がある。突起部が孔に係合する際にクリック感が生じることにより、ユーザーは、スライド部材の移動が完了したことを確認できる。
しかしながら、このような従来技術にあっては、上箱の側面に形成された孔が外から見えるので、外観の制限が生じ、その結果外観品質が低下するおそれがあった。また、スライド機構とは別にクリック感を生じさせるための孔及び突起部を設ける必要がある。このため、孔及び突起部を形成するスペースを確保するために中留全体のスライド方向に沿う長さが長くなるおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、従来技術と比較して外観の制限を軽減するとともに小型化が可能なバンド調整機構、このバンド調整機構を備えた中留、この中留を備えたバンド及びこのバンドを備えた時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一つの形態のバンド調整機構は、第一バンドと接続される上箱と、第二バンドと接続され、前記上箱に対してスライドするスライダーと、前記スライダーに対して前記上箱とは反対側に設けられた軸部を介して前記上箱に開閉可能に連結され、前記スライダーのスライドを許容する開状態と前記スライダーのスライドを規制する閉状態とに開閉し、前記閉状態において前記上箱に係合する係止部を有するアンカーと、前記スライダーから前記アンカー側へ向かって突出するとともに前記アンカー側に向けて付勢されるように設けられ、前記アンカーの前記開状態において、前記アンカーの前記軸部と係合して前記スライダーのスライドを規制する係合状態と、前記スライダーのスライドを許容する非係合状態と、に変位可能な係合部と、を備える。
【0008】
この構成によれば、アンカーの開状態においてスライダーをスライドさせることにより、第一バンドと第二バンド間の長さを調整できる。また、アンカーは軸部によって上箱に回動可能に構成されるとともに係止部が係合することで閉塞される構成とされている。つまりアンカーを開閉するためにバネ等を用いていない。よって、スライドを規制するアンカーの開閉にバネ等を用いる従来技術と比較して、バネの劣化に伴う誤動作の発生や耐久性の低下を抑制できる。またバネを用いる場合と比較して簡素な構成とすることができる。
スライダーに設けられた係合部は、アンカーの軸部に係合する係合状態と、係合が解除された非係合状態と、に変位する。係合部はアンカー側に付勢されているので、係合部がアンカーの軸部を乗り越えて非係合状態から係合状態へ戻ることにより、クリック感を生じさせることができる。これにより、ユーザーの操作性を向上できる。係合部はアンカーの軸部に係合するので、例えば上箱の側面に係合部用の孔等を設ける必要がない。よって、上箱の側面に複数の孔を設け、この孔に係合部を係合させる従来技術と比較して、外観品質を向上でき、外観の制限を軽減することができる。さらに、アンカーの軸部を係合部の係合先として利用できるので、スペースを有効に利用できる。よって、例えば上箱に係合部の係合先(例えば孔等)を別途設ける従来技術と比較して、構成を簡素化し、上箱の長さを短くできる。また、スライダーの係合部をアンカーの軸部の近傍に配置できる。よって、従来技術のようにアンカーの軸部より外側に係合部を設ける場合と比較して、スライダーの長さを短くできる。
したがって、従来技術と比較して外観の制限を軽減するとともに小型化が可能なバンド調整機構を提供できる。
【0009】
また、前記バンド調整機構は、前記スライダーは、前記アンカーの前記閉状態において前記アンカーと係合することにより前記スライダーのスライドを規制する固定部を有し、前記係合部は、前記固定部よりも弱い力で前記スライダーのスライドを規制する。
【0010】
この構成によれば、スライダーの固定部がアンカーと係合することにより、スライダーのスライドが規制される。これにより、アンカーを閉状態とした場合には、スライダーを操作不能とすることができる。よって、例えばユーザーの身体からバンドを脱着する際などに、誤ってスライダーが操作される等の誤動作の発生を抑制し、ユーザーの操作性を向上できる。
係合部は、固定部よりも弱い力でスライダーのスライドを規制する。「固定部よりも弱い力でスライドを規制する」とは、例えば無負荷の場合(又は所定値未満の力が作用した場合)にはスライダーのスライドを規制するが、ユーザーがスライダーを意図的にスライドさせようとする力が作用した場合(すなわち所定値以上の力が作用した場合)にはスライド可能な状態である。これにより、段階的にバンドの長さを調節できる。またスライダーがスライドした際にクリック感を付与できる。よって、ユーザーの操作性を向上できる。
【0011】
また、前記バンド調整機構は、前記軸部は、前記スライダーのスライド方向と直交する前記上箱の幅方向に沿って延びており、前記スライダーは、前記係合部が前記軸部に対して前記スライド方向の一方側に位置する第1の位置と、前記係合部が前記軸部に対して前記スライド方向の他方側に位置する第2の位置と、に移動する。
【0012】
この構成によれば、係合部をアンカーの軸部よりもスライド方向の一方側へ移動させることにより、スライダーを第1の位置に配置できる。一方、係合部をアンカーの軸部よりもスライド方向の他方側へ移動させることにより、スライダーを第2の位置に配置できる。これにより、ユーザーは少なくとも第1の位置と第2の位置とにスライダーをスライドさせてバンドの長さを調整することができる。よって、例えば手がむくんでバンドの巻き付けがきついと感じた場合やバンドが緩いと感じた場合などに、バンドの長さを容易に調整できる。さらに、スライダーが第1の位置から第2の位置へ移動した際、及び第2の位置から第1の位置へ移動した際に、係合部の変位によりクリック感を生じさせることができる。よって、従来技術と比較して外観が簡素かつ小型化された構成により、容易にクリック感を付与し、ユーザーの操作性を向上できる。
【0013】
また、前記バンド調整機構は、前記係合部は、前記非係合状態から前記係合状態へ戻る際にクリック感を生じさせる。
【0014】
この構成によれば、簡素な構成により、スライダーの移動に伴いユーザーにクリック感を付与できる。よって、ユーザーの操作性を向上できる。
【0015】
また、前記バンド調整機構は、前記係合部は、係合部本体と、前記係合部本体を前記アンカー側へ向かって付勢する付勢部と、を有し、前記係合部は、前記軸部に押されることにより、前記付勢部の付勢力に逆らう方向に力が作用して前記非係合状態に変位し、前記付勢部の付勢力により前記係合部が前記非係合状態から前記係合状態へ戻ることにより前記クリック感を生じさせる。
【0016】
この構成によれば、係合部は、係合部本体と付勢部とを有する。よって、付勢部により効果的にクリック感を生じさせることができる。
【0017】
また、前記バンド調整機構は、前記アンカーは、前記軸部と前記係合部との係合位置と対応する箇所において、前記軸部を露出させるための切欠きを有する。
【0018】
この構成によれば、アンカーのうち係合部と接触する位置に切欠きが設けられるので、係合部とアンカーとの接触を回避できる。これにより、アンカーの開閉状態によらず、係合部をアンカーの軸部に安定的に係合させることができる。係合部がアンカーの開閉動作による影響を受けにくくなるので、アンカーの開閉動作に伴うユーザーの意図しないスライダーのスライドを抑制できる。また、係合部が確実にアンカーの軸部と係合するので、係合部がアンカーと接触(係合)する場合と比較して、係合部の係合状態を安定的に保持できる。よって、安定的にクリック感を付与できる。
【0019】
本発明の一つの形態の中留は、時計用の中留に上述のバンド調整機構を設けた。
【0020】
この構成によれば、時計の中留に適用した場合に、特に顕著な作用効果を奏することができる。すなわち、長さ調整機構は簡素な構成で形成されるので、時計の中留のように小さい(薄い)部品に適用した場合であっても外観やデザイン性を損なうことなく長さの調整機能を有することができる。
中留のバンド調整機構は、スライダーを有し、スライダーの係合部は、アンカーの軸部に係合する。よって、上箱の側面に複数の孔を設け、この孔に係合部を係合させる従来技術と比較して、中留の外観品質を向上でき、外観の制限を軽減することができる。さらに、アンカーの軸部を係合部の係合先として利用できる。よって、上箱に係合部の係合先(例えば孔等)を別途設ける従来技術と比較して、構成を簡素化し、中留全体の長さを短くできる。
したがって、従来技術と比較して外観の制限を軽減するとともに小型化が可能なバンド調整機構を備えた中留を提供できる。
【0021】
また、前記中留は、前記アンカーは、前記中留が開放された状態において、前記中留の開閉とは独立して開閉可能となっている。
【0022】
この構成によれば、アンカーの開閉と中留の開閉とが独立している。これにより、中留の開閉に伴って意図せず調整機構が操作されてしまうことを防ぐことができる。よって、調整機構の誤動作を抑制でき、ユーザーの操作性を向上できる。
【0023】
本発明の一つの形態のバンドは、上述の時計用の中留を備える。
【0024】
この構成によれば、従来技術と比較して外観の制限を軽減するとともに小型化が可能なバンド調整機構を備えた中留を有するバンドを提供できる。
【0025】
本発明の一つの形態の時計は、時計本体と、前記時計本体に接続された、上述のバンドと、を備える。
【0026】
この構成によれば、従来技術と比較して外観の制限を軽減するとともに小型化が可能なバンド調整機構を備えた中留を有するバンドを設けた時計を提供できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、従来技術と比較して外観の制限を軽減するとともに小型化が可能なバンド調整機構、このバンド調整機構を備えた中留、この中留を備えたバンド及びこのバンドを備えた時計を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図3】実施形態に係る中留の上箱部分を拡大した側面図。
【
図4】実施形態に係るアンカーが閉状態であり、かつスライダーが第1の位置に配置されている状態を示すバンド調整機構の側方断面図。
【
図5】実施形態に係るアンカーが開状態であり、かつスライダーがスライド中の状態を示すバンド調整機構の側方断面図。
【
図6】実施形態に係るアンカーが閉状態であり、かつスライダーが第2の位置に配置されている状態を示すバンド調整機構の側方断面図。
【
図7】実施形態に係るバンド調整機構を裏側から見た斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。以下の説明において、ユーザーの腕に腕時計を装着した際に腕を向く側を裏側といい、その反対を表側という場合がある。
【0030】
(時計およびバンド)
図1は、実施形態に係る時計の一例を示す上面図である。
図1に示す時計は腕時計100aであり、時計本体10aと、腕時計用のバンドである第一バンド14及び第二バンド15と、を備える。
時計本体10aは、例えば時計ケース内に文字板や指針、指針の動きを制御するムーブメント等を備えることにより構成される。なお、時計ケースは、例えば金属製の枠体である胴、ガラス、プラスチック等の透明部材で形成された風防ガラス、および金属製の裏蓋、によって構成される。
第一バンド14および第二バンド15はそれぞれ、例えば複数の金属製の駒15aを連結することにより構成されるバンドである。第一バンド14および第二バンド15はそれぞれ、時計本体10aと、不図示のばね棒等により接続される。なお、
図1には、第一バンド14および第二バンド15の一部のみを例示している。
【0031】
(中留)
図2は、実施形態に係る中留10の側面図である。
中留10は、例えば
図1に示す腕時計100a用の中留10である。中留10は、第一バンド14及び第二バンド15のうち時計本体10aとは反対側の端部に設けられ、第一バンド14及び第二バンド15を接続している。中留10は、レール12と、上箱11と、中留開閉機構13と、バンド調整機構1と、を有する。
【0032】
レール12は、一端部が第一バンド14に連結される内レール19と、内レール19の他端部においてヒンジ19aを介して内レール19と連結される外レール18と、を備える。内レール19及び外レール18は、互いに同程度の長さを有する帯状の部材である。内レール19及び外レール18は、腕時計100aの装着時に互いに重なり合うとともに、ユーザーの手首に沿うように、側方から見て円弧状にそれぞれ湾曲する。内レール19と外レール18とが重なる状態とは、円弧状の内レール19のうち外周側の面である主面と、円弧状の外レール18のうち内周側の面である裏面と、が互いに重なる状態である。
【0033】
内レール19の一端部には、第一バンド14が回動可能に接続される。なお、内レール19の一端部に第一バンド14が固定されてもよい。内レール19の他端部には、外レール18を接続するためのヒンジ19aが設けられる。内レール19は、一方の主面に立つように設けられたロックピン21を有する。ロックピン21は、円柱状の茎部21aと、茎部21aの先端に設けられた半球部21bと、を有する。半球部21bは、茎部21aより大きな径を有する半球状に形成されている。半球部21bは、ロックピン21の先端に向かうほど径が小さくなるように配置されている。ロックピン21は、詳しくは後述する中留開閉機構13の一部を構成している。
【0034】
外レール18は、内レール19の他端部に設けられたヒンジ19aを介して内レール19の他端部に回動可能に接続される。さらに外レール18は、内レール19が接続される一端部とは反対側の他端部において、ヒンジ18aを介して上箱11に接続される。外レール18には、内レール19と外レール18とが重なった状態で、ロックピン21が貫通する不図示の貫通孔が形成されている。
【0035】
上箱11は、外レール18の他端部に設けられたヒンジ18aを介して外レール18の他端部に回動可能に接続される。換言すれば、第一バンド14は、レール12を介して上箱11の第一端部26(
図3参照)に接続される。上箱11は、側方から見て、内レール19及び外レール18と同等の曲率の円弧状に形成されている。上箱11は、裏側(腕時計100aの装着時に腕を向く側)に向かって開口する箱状に形成されている。具体的に、上箱11は、湾曲した矩形板状の表面部23と、表面部23の短手方向の両端部に設けられて長手方向に沿って延び、互いに平行に対向する一対の側壁である第一側壁24及び第二側壁25(
図3参照)と、を有する。上箱11は、互いに重なる状態の内レール19及び外レール18を覆う。
なお、本実施形態において、上箱11は、詳しくは後述するバンド調整機構1の構成要素の一部でもある。
【0036】
中留開閉機構13は、内レール19、外レール18及び上箱11が重なった状態である中留10を閉じた状態と、内レール19、外レール18及び上箱11の重なりが解除された状態である中留10を開いた状態と、の間で中留10を開閉する。中留開閉機構13は、上箱11に設けられたボタンユニット81と、内レール19に設けられた上述のロックピン21と、を有する。
【0037】
図3は、実施形態に係る中留10の上箱11部分を拡大した側面図である。
図3に示すように、ボタンユニット81は、上箱11の長手方向において、内レール19が接続される端部(第一端部26)の近傍に設けられる。ボタンユニット81は、一対のボタン部材82と、一対のバネ(不図示)と、保持部材84と、を有する。ボタンユニット81は、一対のボタン部材82の一部を除いてほぼ全体が上箱11の内側に収容される。
【0038】
一対のボタン部材82は、上箱11の第一側壁24及び第二側壁25のそれぞれから幅方向の外側に突出形成されている。一対のボタン部材82の一部は、上箱11の内側に収容されている。
不図示の一対のバネは、ボタン部材82のうち上箱11の内側に収容された部分と接している。一対のバネは、ボタン部材82が上箱11の外側に向かって突出するようにボタン部材82を付勢している。
【0039】
保持部材84は、上箱11の内部に設けられる。保持部材84は、中留10を閉じた状態でロックピン21が挿入される挿入孔85を有する。挿入孔85は、互いに近接又は離間するように開閉する一対の把持部(不図示)の間に形成される。つまり一対の把持部間の距離が変わることにより挿入孔85の内径が変化する。一対の把持部は、互いに近接するように不図示のバネにより常に付勢されている。
【0040】
一対の把持部は、ボタン部材82と連結されている。例えばユーザーが指でボタン部材82を内側に押すと、一対の把持部が互いに離間する方向に動く。一方、ユーザーがボタン部材82から手を離すと、バネ力により一対の把持部が互いに近接する方向に動く。よって、ボタン部材82を操作することにより、挿入孔85の内径を変化させることができる。
この結果、ユーザーがレール12と上箱11を重ねると、保持部材84の挿入孔85にロックピン21の半球部21bが係止されて中留10が閉じられる。一方、ロックピン21が係止された状態で、ユーザーがボタン部材82を押してロックピン21を挿入孔85から離脱させることにより、中留10が開かれる。
【0041】
(バンド調整機構)
バンド調整機構1は、例えば手がむくんでバンドの巻き付けがきついと感じた場合やバンドが緩いと感じた場合などに、バンドの長さを調整するための機構である。バンド調整機構1は、上述したボタンユニット81よりも上箱11の長手方向における第二端部27側に設けられている。バンド調整機構1は、上述した中留10の構成要素でもある上箱11と、スライダー4と、スライダー4を裏側(腕時計100aの装着時に腕を向く側)から覆うアンカー5と、スライダー4のスライドを緩い力で規制する係合部6と、を有する。
【0042】
図4は、実施形態に係るアンカー5が閉状態ST1であり、かつスライダー4が第1の位置P1に配置されている状態を示すバンド調整機構1の側方断面図である。
図5は、実施形態に係るアンカー5が開状態ST2であり、かつスライダー4がスライド中の状態を示すバンド調整機構1の側方断面図である。
図6は、実施形態に係るアンカー5が閉状態ST1であり、かつスライダー4が第2の位置P2に配置されている状態を示すバンド調整機構1の側方断面図である。
図7は、実施形態に係るバンド調整機構1を裏側から見た斜視図である。
【0043】
上述したとおり、上箱11は、湾曲帯状に形成された表面部23と、互いに対向する第一側壁24及び第二側壁25と、により、裏側に向かって開口する箱状に形成されている。上箱11は、さらに係合パイプ2を備える。
図4から
図6に示すように、係合パイプ2は、上箱11の内側であって長手方向の中央部に設けられている。係合パイプ2は、円筒状に形成されている。係合パイプ2は、上箱11の長手方向と直交する幅方向に沿って延びている。係合パイプ2は、上箱11の幅方向と平行な軸線C2に沿って延びる軸20回りに回転可能となっている。軸20の両端部は、上箱11の第一側壁24及び第二側壁25にそれぞれ固定されている。
【0044】
スライダー4は、上箱11の内側に収容され、上箱11の長手方向に沿ってスライドする。以下の説明において、スライダー4のスライド方向のうち上箱11の第一端部26側へ向かう向きを第一方向D1といい、その反対を第二方向D2(いずれも
図3参照)という場合がある。また、スライド方向及び表裏方向とそれぞれ交差する方向を幅方向という場合がある。
本実施形態において、スライダー4は、相対的に上箱11の第一端部26側に位置する第1の位置P1(
図4参照)と、第1の位置P1よりも上箱11の第二端部27側に位置する第2の位置P2(
図6参照)と、の間でスライド可能となっている。スライダー4は、スライダー本体41と、固定部43と、立壁45と、を有する。
【0045】
スライダー本体41は、上箱11の表面部23に沿う板状に形成されている。スライダー本体41は、側方から見て、上箱11の表面部23と同等の曲率を有する円弧状に形成されている。よって、スライダー本体41は、上箱11の内側で上箱11の長手方向に沿ってスライドすることができる。表裏方向において、スライダー本体41に対して上箱11の表面部23と反対側(すなわち、スライダー本体41よりも裏側)には、アンカー5を取り付けるための回転軸59(請求項の軸部)が設けられている。スライダー本体41は、厚み方向(裏表方向)において、上箱11の表面部23と回転軸59(及びアンカー5)とに挟まれている。この結果、スライダー4の上箱11からの離脱が抑制されている。
なお、スライダー本体41と上箱11の表面部23との摩擦が大きい場合には、スライダー本体41または上箱11の表面部23に凹凸等を設けてもよい。
【0046】
固定部43は、スライダー本体41から裏側(アンカー5側)へ向かって突出している。固定部43は、スライダー本体41と一体形成されている。なお、固定部43は、スライダー本体41と別部品により構成されてもよい。固定部43は、スライダー本体41の幅方向全体に亘って延びるように形成されている。固定部43は、スライダー本体41のうち、スライド方向の第一方向D1側の端部から所定の距離だけ離れた位置に設けられている。スライダー本体41のうち固定部43よりも第一方向D1側に位置する部分は、延長部42とされている。延長部42は、係合パイプ2と上箱11の表面部23との間に挿入されている。
【0047】
固定部43は、詳しくは後述するアンカー5に設けられた凸部52と係合することにより、スライダー4のスライドを規制する。つまり、固定部43がアンカー5の凸部52と係合すると、スライダー4はスライド不能となる。固定部43とアンカー5の凸部52との係合が解除されると、スライダー4はスライド可能となる。
【0048】
立壁45は、スライダー本体41から裏側(アンカー5側)へ向かって立設されている。立壁45は、スライダー本体41と一体形成されている。立壁45は、スライダー本体41のうち、スライド方向の第二方向D2側の端部に設けられている。立壁45は、スライダー本体41の幅方向全体に亘って延びるように形成されている。立壁45は、スライダー4の厚み方向(表裏方向)において固定部43よりも高く形成されている。
【0049】
図5に示すように、立壁45の第二方向D2側の面には、継手固定部47を介して第二バンド15が接続されている。なお、図においては第二バンド15を単一の金属製の駒15aで簡略的に表示しているが、実際の第二バンド15は、
図1にその一部を示すように、複数の金属製の駒15aにより形成されている。複数の駒15aのうち継手固定部47と接続される駒15aには、例えば継手固定部47と接続するための嵌合部16(
図3参照)が設けられている。駒15aに嵌合部16が直接設けられることにより、バンド調整機構1による調整長さが長い場合であっても、腕装着時の快適性の低下が抑制される。
【0050】
図3から
図6に示すように、アンカー5は、回転軸59を介して上箱11に開閉可能に連結されている。回転軸59は、上箱11の長手方向と直交する幅方向と平行な軸線C3に沿って延びている。アンカー5は、スライダー4のスライドを許容する開状態ST2(
図5参照)と、スライダー4のスライドを規制する閉状態ST1(
図4参照)と、に開閉する。アンカー5は、中留開閉機構13により中留10が開放された状態において、操作可能となっている。アンカー5は、中留10が開放された状態において、中留10の開閉とは独立して開閉可能となっている。
アンカー5は、蓋部51と、軸保持部50と、凸部52と、係止突起55(請求項の係止部)と、を有する。
【0051】
蓋部51は、係合パイプ2及びスライダー4よりも裏側に設けられている。蓋部51は、アンカー5の閉状態ST1において係合パイプ2及びスライダー4を裏側から覆う板状に形成されている。蓋部51は、中留10を閉じる際に外レール18及び内レール19と干渉せず、かつ中留10の喰い付きに影響しない形状に形成されている。
図7に示すように、蓋部51は、上箱11の開口における幅方向のほぼ全体に亘って設けられている。
【0052】
軸保持部50は、蓋部51のうち第二方向D2側の端部に接続されている。軸保持部50は、蓋部51と一体形成されている。軸保持部50は、回転軸59の周囲に設けられている。軸保持部50は、回転軸59回りに回動可能に取り付けられている。回転軸59の両端部は、上箱11の第一側壁24及び第二側壁25にそれぞれ固定されている。アンカー5の回転軸59は、係合パイプ2の軸20よりもスライド方向の第二方向D2側に設けられている。
図7に示すように、軸保持部50には、回転軸59の軸方向に沿う幅方向の中央部において、後述する係合部6との接触を回避するための切欠き57が設けられている。切欠き57は、回転軸59と係合部6との係合位置に対応する箇所(本実施形態では幅方向の中央部)において、回転軸59を露出させている。切欠き57は、アンカー5の開閉状態ST1に依らずに係合部6との接触を回避できるように、回転軸59の周方向に沿って延びるように形成されている。より具体的に、切欠き57は、少なくともアンカー5が閉状態ST1(
図4参照)から開状態ST2(
図5参照)へ回転するまでの間に、係合部6が当接する回転軸59の表側の面が常に露出される程度に形成されている。
【0053】
図4に示すように、凸部52は、アンカー5の閉状態ST1において、アンカー5からスライダー4に向かって突出している。本実施形態において、凸部52は、1個だけ設けられている。凸部52は、蓋部51と一体形成されている。凸部52は、蓋部51の長手方向における中央部に設けられている。凸部52は、アンカー5の幅方向の全体に亘って延びるように形成されている。凸部52は、アンカー5の閉状態ST1において、スライダー4のスライドを規制する。
【0054】
図4に示すように、スライダー4が第1の位置P1にあるとき、スライダー4の固定部43は、アンカー5の凸部52よりも第一方向D1側に位置している。このとき、アンカー5の凸部52の第一方向D1を向く面にスライダー4の固定部43が当接することにより、凸部52はスライダー4の第2方向へのスライドを抑制している。より詳細には、スライダー4が第1の位置P1にあるとき、スライダー4の固定部43は、スライダー4のスライド方向において係合パイプ2と凸部52との間に配置される。つまりスライダー4の固定部43は、係合パイプ2及び凸部52によりスライド方向の両側から係止される。これによりスライダー4のスライドが規制される。
【0055】
一方、
図6に示すように、スライダー4が第2の位置P2にあるとき、スライダー4の固定部43は、アンカー5の凸部52よりも第二方向D2側に位置している。このとき、アンカー5の凸部52の第二方向D2を向く面にスライダー4の固定部43が当接することにより、凸部52はスライダー4の第1方向へのスライドを抑制している。より詳細には、スライダー4が第2の位置P2にあるとき、スライダー4の固定部43は、スライダー4のスライド方向において凸部52と軸保持部50(回転軸59)との間に配置される。つまりスライダー4の固定部43は、凸部52及び軸保持部50(回転軸59)によりスライド方向の両側から係止される。これによりスライダー4のスライドが規制される。また、軸保持部50(回転軸59)にスライダー4の固定部43が係止することにより、スライダー4が上箱11から第二方向D2に離脱するのを抑制している。
【0056】
図4及び
図6に示すように、係止突起55は、アンカー5の閉状態ST1において、係合パイプ2に係合する。本実施形態において、係止突起55は、蓋部51からスライダー4側に突出する延在部71と、延在部71の先端に設けられる爪部72と、を有する。爪部72が係合パイプ2を乗り越えて係合パイプ2と係合することで、アンカー5が上箱11に係合した状態、すなわちアンカー5の閉状態ST1が維持される。アンカー5の閉状態ST1において、蓋部51のうち係止突起55より第一方向D1側には、引っ掛け部73が設けられている。引っ掛け部73にユーザーの指等を引っ掛けて蓋部51を引き上げることにより、ユーザーはアンカー5を開くことができる。
【0057】
係合部6は、スライダー4のスライダー本体41に取り付けられている。本実施形態において係合部6は、スライダー本体41の長手方向において固定部43と立壁45との間に設けられている。係合部6は、スライダー4とともにスライド方向に移動する。係合部6は、スライダー本体41からアンカー5側へ向かって突出するとともに、アンカー5側に向けて付勢されるように設けられている。係合部6は、アンカー5の回転軸59と係合してスライダー4のスライドを規制する係合状態ST5(
図4及び
図6参照)と、スライダー4のスライドを許容する非係合状態ST6(
図5参照)と、に変位可能となっている。係合部6は、アンカー5が開いた状態において上記した係合状態ST5及び非係合状態ST6間の変位が可能となっている。アンカー5が閉じた状態においては、係合部6は、係合状態ST5となっている。
【0058】
係合部6は、スライダー4の固定部43よりも弱い力でスライダー4のスライドを規制するように設けられている。「固定部43よりも弱い力でスライドを規制する」とは、例えば無負荷の場合(又は所定値未満の力が作用した場合)にはスライダー4のスライドを規制するが、ユーザーがスライダー4を意図的にスライドさせようとする力が作用した場合(すなわち所定値以上の力が作用した場合)にはスライダー4をスライド可能にする程度の力でスライダー4を保持(係合)している状態である。本実施形態において、係合部6は、バネ66の付勢力によって、ユーザーがスライダー4を引き出した際にスライド可能となるように形成されている。係合部6は、係合部本体61と、バネ66(請求項の付勢部)と、を有する。
【0059】
係合部本体61は、筒部62と、頭部63と、小頭部64と、を有する。筒部62は、スライダー4の厚み方向(表裏方向)に延びる円柱状に形成されている。筒部62は、スライダー本体41を厚み方向に貫通する挿通孔48に挿通されている。挿通孔48は例えば円形状に形成されている。挿通孔48の延在方向の一部には、内径側へ向かって突出して挿通孔48の内径を狭める内フランジ48aが設けられている。筒部62は、この内フランジ48aの内径寸法よりも小さい外径寸法を有している。よって筒部62は、内フランジ48aを含む挿通孔48全体に挿通されている。
【0060】
筒部62の裏側の端部は、スライダー本体41よりも裏側に突出している。この筒部62の裏側の端部には、頭部63が接続されている。頭部63は、筒部62と一体形成されている。頭部63は、筒部62よりも大きな外径寸法を有する傘状に形成されている。頭部63のうち筒部62と反対側の面は、アンカー5の回転軸59を乗り越えやすくするために、曲面(球面)となっている。頭部63の外径は、挿通孔48の内径よりも大きい。よって、頭部63は、スライダー本体41の裏側を向く面よりも表裏方向の裏側(すなわちアンカー5側)に突出した状態で維持されている。
【0061】
筒部62の表側の端部には、小頭部64が接続されている。小頭部64は、筒部62と一体形成されている。小頭部64は、筒部62の外径寸法よりも大きくかつ頭部63の外径寸法よりも小さい外径寸法を有する傘状に形成されている。小頭部64の外径寸法は、挿通孔48の内径寸法よりも小さく、かつ内フランジ48aの内径寸法よりも大きい。小頭部64は、例えば係合部本体61を挿通孔48に挿通した後に据え込み加工等を行うことにより形成される。本実施形態において、上箱11の表面部23には、小頭部64との干渉を回避するための逃げ部29が設けられている。
頭部63及び小頭部64を設けることにより、スライダー4からの係合部本体61の抜けが防止される。また、頭部63及び小頭部64間の軸方向に沿う長さは、スライダー本体41の裏側を向く面と内フランジ48aの表側を向く面との間の距離よりも大きい。これにより係合部本体61は、その軸方向(中留10の表裏方向)に沿って挿通孔48内を移動することが可能となっている。
【0062】
本実施形態において係合部6は、付勢部の一例としてバネ66を有する。バネ66は、例えばコイルバネである。バネ66は、筒部62の外周部に設けられている。バネ66の一端部は、頭部63の傘状部分の底部と当接している。バネ66の他端部は、スライダー4の内フランジ48aの裏側を向く面に当接している。バネ66は、スライダー本体41に対して係合部本体61をアンカー5側へ向けて付勢している。
【0063】
図4及び
図6に示すように、係合部6は、係合部6に作用する負荷が小さい状態又は負荷がゼロの状態において、バネ66の付勢力によって、最もアンカー5側に突出した状態で保持されている。この状態を係合部6の係合状態ST5と呼ぶ。係合部6が係合状態ST5のとき、小頭部64は、内フランジ48aの表側を向く面に当接している。係合部6が係合状態ST5のとき、小頭部64は、表裏方向において、内フランジ48aと、スライダー本体41の表側を向く面と、の間の段部に収容されている。また頭部63は、スライダー本体41から裏側へ離間した箇所に位置している。さらに、係合部6は、係合状態ST5において、アンカー5の回転軸59と係合することにより、スライダー4のスライドを規制している。これにより、例えば振動や衝撃等によりスライダー4が意図せずにスライドしてしまうことを抑制できる。
【0064】
一方、
図5に示すように、係合部6は、係合部6に作用する負荷が所定値よりも大きくなった場合、上述の係合状態ST5から非係合状態ST6に変位する。具体的には、アンカー5を開いた状態でユーザーがスライダー4をスライド方向に引き出した(又は押し出した)際、回転軸59からの反力によりバネ66の付勢力に逆らう方向に力が作用して、係合部6がスライダー4側に押し込まれる。これにより、係合部6と回転軸59との係合が解除された非係合状態ST6となる。換言すれば、非係合状態ST6において、係合部6は、回転軸59との係合が解除されている。非係合状態ST6において、係合部本体61の頭部63が回転軸59上を滑ることで、係合部6はスライダー4のスライドを許容する。これにより、係合部6を有するスライダー4が第1の位置P1から第2の位置P2へ、或いはその逆方向へスライドする。スライダー4の第1の位置P1において、係合部6は、回転軸59に対してスライド方向の第一方向D1側に位置する。スライダー4の第2の位置P2において、係合部6は、回転軸59に対してスライド方向の第二方向D2側に位置する。
【0065】
さらに、係合部6は、バネ66の付勢力により非係合状態ST6から係合状態ST5へ戻る際に、クリック感を生じさせる。本実施形態では、係合部6は、スライダー4が第1の位置P1から第2の位置P2へ移動した場合、及びスライダー4が第2の位置P2から第1の位置P1へ移動した場合に、バネ66の付勢力によりクリック感を生じさせる。
【0066】
次に、上述したバンド調整機構1によりバンドの長さを調整する方法について
図2から
図6を参照して詳細に説明する。以下ではスライダー4を第1の位置P1から第2の位置P2へスライドさせる場合について説明する。なお、スライダー4を第2の位置P2から第1の位置P1へスライドさせる場合については、スライド方向が逆になる以外は同じ手順であるため、説明を省略する。
図3に示すように、長さの調整を行う前であって、かつ腕時計100aをユーザーの腕に装着している状態において、アンカー5及び中留10は閉じられている。
図3に示す例では、このとき、スライダー4は、初期位置として第1の位置P1に位置している。第1の位置P1において、スライダー4の固定部43は、係合パイプ2及びアンカー5の凸部52との間に入り込んだ状態で、係合パイプ2及び凸部52に係合している。これによりスライダー4のスライドが規制されている。
【0067】
長さ調整を行う際には、まず、
図2に示すように、中留開閉機構13のボタンユニットを操作して、中留10を開く。中留10を開くと、
図7に示すようにアンカー5が操作可能に露出する。
図4及び
図5に示すように、ユーザーはさらに、アンカー5の引っ掛け部73に指を掛けてアンカー5を閉状態ST1から開状態ST2に遷移させ、アンカー5を開く。
【0068】
次に、
図5に示すように、ユーザーは、第二バンド15をスライド方向の第二方向D2に沿ってスライドさせる。つまり第二バンド15を上箱11から引き出す。すると、スライダー4に連結された係合部6が回転軸59を乗り越え、スライダー4が第2の位置P2へスライドする。第2の位置P2への移動が完了すると、係合部6が非係合状態ST6から係合状態ST5へ戻ることによりクリック感が生じるので、ユーザーはスライダー4の移動が完了したことを確認できる。
【0069】
図6に示すように、スライダー4をスライドさせた後、ユーザーは、再びアンカー5を回転軸59回りに回動させてアンカー5を開状態ST2から閉状態ST1へ遷移させる。より詳細には、ユーザーは、アンカー5の係止突起55が係合パイプ2に係合するまでアンカー5を上箱11に向かって押し込むことで、アンカー5を閉じる。このとき、スライダー4の固定部43は、アンカー5の凸部52と軸保持部50(回転軸59)との間に入り込んだ状態で、凸部52及び軸保持部50(回転軸59)に係合している。
【0070】
以上の操作により、スライダー4を第1の位置P1から第2の位置P2へ移動させ、バンドの長さを長くするための調整が完了する。腕時計100aを装着する場合には、この後さらに中留10を閉じてもよい。なお、バンドを短くしたい場合には、上述の手順におけるアンカー5を開いた後に、スライダー4を第一方向D1にスライドさせればよい。
【0071】
(作用、効果)
次に、上述のバンド調整機構1、中留10、バンド及び時計100aの作用、効果について説明する。
本実施形態のバンド調整機構1によれば、アンカー5の開状態ST2においてスライダー4をスライドさせることにより、第一バンド14と第二バンド15間の長さを調整できる。また、アンカー5は回転軸59(請求項の軸部)によって上箱11に回動可能に構成されるとともに係止突起55(請求項の係止部)が係合することで閉塞される構成とされている。つまりアンカー5を開閉するためにバネ等を用いていない。よって、スライドを規制するアンカー5の開閉にバネ等を用いる従来技術と比較して、バネの劣化に伴う誤動作の発生や耐久性の低下を抑制できる。またバネを用いる場合と比較して簡素な構成とすることができる。
スライダー4に設けられた係合部6は、アンカー5の回転軸59に係合する係合状態ST5と、係合が解除された非係合状態ST6と、に変位する。係合部6はアンカー5側に付勢されているので、係合部6がアンカー5の回転軸59を乗り越えて非係合状態ST6から係合状態ST5へ戻ることにより、クリック感を生じさせることができる。これにより、ユーザーの操作性を向上できる。係合部6はアンカー5の回転軸59に係合するので、例えば上箱11の側面に係合部6用の孔等を設ける必要がない。よって、上箱11の側面に複数の孔を設け、この孔に係合部6を係合させる従来技術と比較して、外観品質を向上でき、外観の制限を軽減することができる。さらに、アンカー5の回転軸59を係合部6の係合先として利用できるので、スペースを有効に利用できる。よって、例えば上箱11に係合部6の係合先(例えば孔等)を別途設ける従来技術と比較して、構成を簡素化し、上箱11の長さを短くできる。また、スライダー4の係合部6をアンカー5の回転軸59の近傍に配置できる。よって、従来技術のようにアンカー5の回転軸59より外側に係合部6を設ける場合と比較して、スライダー4の長さを短くできる。
したがって、従来技術と比較して外観の制限を軽減するとともに小型化が可能なバンド調整機構1を提供できる。
【0072】
スライダー4は、アンカー5の閉状態ST1においてアンカー5と係合する固定部43を有し、係合部6は、固定部43よりも弱い力でスライダー4のスライドを規制する。この構成によれば、スライダー4の固定部43がアンカー5と係合することにより、スライダー4のスライドが規制される。これにより、アンカー5を閉状態ST1とした場合には、スライダー4を操作不能とすることができる。よって、例えばユーザーの身体からバンドを脱着する際などに、誤ってスライダー4が操作される等の誤動作の発生を抑制し、ユーザーの操作性を向上できる。
係合部6は、固定部43よりも弱い力でスライダー4のスライドを規制する。「固定部43よりも弱い力でスライドを規制する」とは、例えば無負荷の場合(又は所定値未満の力が作用した場合)にはスライダー4のスライドを規制するが、ユーザーがスライダー4を意図的にスライドさせようとする力が作用した場合(すなわち所定値以上の力が作用した場合)にはスライド可能な状態である。これにより、段階的にバンドの長さを調節できる。またスライダー4がスライドした際にクリック感を付与できる。よって、ユーザーの操作性を向上できる。
【0073】
アンカー5の回転軸59は、上箱11の幅方向に沿って延びており、スライダー4は、係合部6が回転軸59に対してスライド方向の一方側に位置する第1の位置P1と、係合部6が回転軸59に対してスライド方向の他方側に位置する第2の位置P2と、に移動する。この構成によれば、係合部6をアンカー5の回転軸59よりもスライド方向の一方側へ移動させることにより、スライダー4を第1の位置P1に配置できる。一方、係合部6をアンカー5の回転軸59よりもスライド方向の他方側へ移動させることにより、スライダー4を第2の位置P2に配置できる。これにより、ユーザーは少なくとも第1の位置P1と第2の位置P2とにスライダー4をスライドさせてバンドの長さを調整することができる。よって、例えば手がむくんでバンドの巻き付けがきついと感じた場合やバンドが緩いと感じた場合などに、バンドの長さを容易に調整できる。さらに、スライダー4が第1の位置P1から第2の位置P2へ移動した際、及び第2の位置P2から第1の位置P1へ移動した際に、係合部6の変位によりクリック感を生じさせることができる。よって、従来技術と比較して外観が簡素かつ小型化された構成により、容易にクリック感を付与し、ユーザーの操作性を向上できる。
【0074】
係合部6は、非係合状態ST6から係合状態ST5へ戻る際にクリック感を生じさせる。この構成によれば、簡素な構成により、スライダー4の移動に伴いユーザーにクリック感を付与できる。よって、ユーザーの操作性を向上できる。
【0075】
係合部6は、係合部本体61とバネ66(請求項の付勢部)とを有し、係合部6は、回転軸59に押されることによりバネ66の付勢力に逆らう方向に力が作用して非係合状態ST6に変位し、バネ66の付勢力により係合部6が非係合状態ST6から係合状態ST5へ戻ることによりクリック感を生じさせる。この構成によれば、バネ66により効果的にクリック感を生じさせることができる。
【0076】
アンカー5は、回転軸59と係合部6との係合位置と対応する箇所において、回転軸59を露出させるための切欠き57を有する。この構成によれば、アンカー5のうち係合部6と接触する位置に切欠き57が設けられるので、係合部6とアンカー5との接触を回避できる。これにより、アンカー5の開閉状態ST1によらず、係合部6をアンカー5の回転軸59に安定的に係合させることができる。係合部6がアンカー5の開閉動作による影響を受けにくくなるので、アンカー5の開閉動作に伴うユーザーの意図しないスライダー4のスライドを抑制できる。また、係合部6が確実にアンカー5の回転軸59と係合するので、係合部6がアンカー5と接触(係合)する場合と比較して、係合部6の係合状態ST5を安定的に保持できる。よって、安定的にクリック感を付与できる。
【0077】
本実施形態の中留10によれば、時計100aの中留10に適用した場合に、特に顕著な作用効果を奏することができる。すなわち、長さ調整機構は簡素な構成で形成されるので、時計100aの中留10のように小さい(薄い)部品に適用した場合であっても外観やデザイン性を損なうことなく長さの調整機能を有することができる。
中留10のバンド調整機構1は、スライダー4を有し、スライダー4の係合部6は、アンカー5の回転軸59に係合する。よって、上箱11の側面に複数の孔を設け、この孔に係合部6を係合させる従来技術と比較して、中留10の外観品質を向上でき、外観の制限を軽減することができる。さらに、アンカー5の回転軸59を係合部6の係合先として利用できる。よって、上箱11に係合部6の係合先(例えば孔等)を別途設ける従来技術と比較して、構成を簡素化し、中留10全体の長さを短くできる。
したがって、従来技術と比較して外観の制限を軽減するとともに小型化が可能なバンド調整機構1を備えた中留10を提供できる。さらに、このような中留10を備えたバンド及び時計100aを提供することができる。
【0078】
アンカー5は、中留10が開放された状態において、中留10の開閉とは独立して開閉可能となっている。この構成によれば、アンカー5の開閉と中留10の開閉とが独立している。これにより、中留10の開閉に伴って意図せず調整機構が操作されてしまうことを防ぐことができる。よって、調整機構の誤動作を抑制でき、ユーザーの操作性を向上できる。
【0079】
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述の実施形態において、凸部52が複数設けられてもよい。この場合、複数の凸部52は互いに長手方向に離間して設けられることにより、複数の凸部52の間に少なくとも1以上の凹部を形成してもよい。またこの場合、スライダー4は、上述した第1の位置P1及び第2の位置P2に加え、第3の位置や第4の位置等へ段階的にスライド可能とされてもよい。
第1の位置P1及び第2の位置P2は、図示された位置に限定されない。第1の位置P1と第2の位置P2との(スライド方向に沿う)長さは、図示された長さに限定されない。
【0080】
上述の実施形態では、付勢部の一例としてコイルバネを用いた構成について説明したが、これに限られない。付勢部は係合部本体61をアンカー5側へ付勢可能であればよく、例えばコイルバネ以外の態様のバネ(例えば板バネ等)を用いてもよい。また、付勢部の一例としてバネ以外の構成を適用してもよい。例えば係合部本体61を、弾性を有する材料により形成し、係合部本体61そのものが伸縮可能に形成されてもよい。この場合、係合部本体61が付勢部を兼ねる構成としてもよい。
【0081】
バンド調整機構1は、腕時計100aの中留10以外に設けられてもよい。例えば腕時計100aの時計本体10aとバンド14,15との接続部分に設けられてもよい。また、腕時計100a以外の身体に装着して(巻き付けて)使用する機器に設けられてもよい。
【0082】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 バンド調整機構
4 スライダー
5 アンカー
6 係合部
10 中留
10a 時計本体
11 上箱
14 第一バンド(バンド)
15 第二バンド(バンド)
43 固定部
55 係止突起(係止部)
57 切欠き
59 回転軸(軸部)
61 係合部本体
66 バネ(付勢部)
100a 時計
P1 第1の位置
P2 第2の位置
ST1 (アンカーの)閉状態
ST2 (アンカーの)開状態
ST5 (係合部の)係合状態
ST6 (係合部の)非係合状態