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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128678
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】パルス信号発生器およびエンコーダ
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
G01D5/245 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037801
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000103792
【氏名又は名称】オリエンタルモーター株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521251039
【氏名又は名称】小関 栄男
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寳田 明彦
(72)【発明者】
【氏名】染谷 雅行
(72)【発明者】
【氏名】小関 栄男
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077NN17
2F077PP13
2F077VV02
(57)【要約】
【課題】小型化、分解能向上、配置自由度の向上に寄与するパルス信号発生器を提供する。
【解決手段】パルス信号発生器1は、発電センサ100と磁界発生源400とを含む。発電センサ100は、軸方向xに印加される交番磁界によって大バルクハウゼン効果を発現する磁性ワイヤ110と、磁性ワイヤに巻回されたコイル120と、磁性ワイヤの両端部にそれぞれ磁気的に結合された一対の磁束伝導片130,131と、を含む。一対の磁束伝導片は、軸方向に直交する軸直交方向zに互いに平行に延びる一対の軸直交部133と、軸直交部の先端部から軸方向に沿って互いに接近する方向に延びる一対の軸平行部134と、を備えている。発電センサは、軸平行部に対して磁性ワイヤとは反対側を検出領域140とするように構成されている。磁界発生源は、発電センサとの相対運動によって検出領域を通る軌道30に沿って移動する磁極401を有する。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電センサと磁界発生源との相対運動によってパルス信号を発生するパルス信号発生器であって、
前記発電センサは、
軸方向に印加される交番磁界によって大バルクハウゼン効果を発現する磁性ワイヤと、
前記磁性ワイヤに巻回されたコイルと、
前記磁性ワイヤの両端部にそれぞれ磁気的に結合された一対の軟磁性体部品を持ち、前記磁性ワイヤの前記軸方向の中心位置に設定される対称面に関して互いに対称な一対の磁束伝導片と、を含み、
前記一対の磁束伝導片は、前記磁性ワイヤの両端部がそれぞれ固定され前記磁性ワイヤの両端部から前記軸方向に直交する軸直交方向に互いに平行に延びる一対の軸直交部と、前記軸直交部の先端部から前記軸方向に沿って互いに接近する方向に延び、近接端同士が前記軸方向に間隔を空けて対向する一対の軸平行部と、を備え、
前記間隔の前記軸方向の距離が、前記磁性ワイヤとの結合位置における前記一対の軸直交部の間の前記軸方向の距離の5%~50%であり、
前記軸平行部に対して前記磁性ワイヤとは反対側を検出領域とするように構成されており、
前記発電センサと前記磁界発生源とは、前記軸直交方向のギャップを有するように配置されており、
前記磁界発生源は、前記相対運動によって前記検出領域を通る軌道に沿って移動する少なくとも一つの磁極を有し、前記軌道は、前記検出領域において前記軸方向と平行な直線部、または前記検出領域において前記軸方向と平行な接線を有する円弧部を含む、
パルス信号発生器。
【請求項2】
前記一対の磁束伝導片は、前記検出領域に配置される磁界発生源から前記磁性ワイヤの軸方向中間部に向かう磁界をシールドし、当該一対の磁束伝導片を含む空間に形成する磁界を前記軸方向の磁界に補正して前記磁性ワイヤに印加するように構成されている、請求項1に記載のパルス信号発生器。
【請求項3】
前記間隔の前記軸方向の距離が、前記磁性ワイヤとの結合位置における前記一対の軸直交部の間の前記軸方向の距離の20%~40%である、請求項1に記載のパルス信号発生器。
【請求項4】
前記磁束伝導片の前記軸直交部は、前記軸方向に貫通する穴または溝が形成されたワイヤ配置部を有し、
前記磁性ワイヤは前記ワイヤ配置部において前記軸直交部を貫通して、前記軸直交部に固定されている、請求項1に記載のパルス信号発生器。
【請求項5】
前記磁性ワイヤとの結合位置における前記軸直交部の前記軸方向の厚みが、前記磁性ワイヤの全長の10%~20%である、請求項1に記載のパルス信号発生器。
【請求項6】
前記軟磁性体部品は、保磁力が前記磁性ワイヤの保磁力以下であり、かつ透磁率が500以上の材料からなる、請求項1に記載のパルス信号発生器。
【請求項7】
前記発電センサは、前記検出領域に臨むように前記磁束伝導片の前記軸平行部に設けられた面実装用の外部端子電極をさらに含む、請求項1に記載のパルス信号発生器。
【請求項8】
前記発電センサと前記磁界発生源との間にプリント基板が介装されている、請求項1に記載のパルス信号発生器。
【請求項9】
前記磁界発生源は、前記磁極を有する磁石を含み、
前記磁極が前記検出領域内で前記軌道上にあるとき、前記磁性ワイヤと前記磁石との前記軸直交方向の距離は、前記磁性ワイヤの全長の50%以下である、請求項1に記載のパルス信号発生器。
【請求項10】
前記軌道が前記直線部を有し、
前記磁界発生源は、複数の前記磁極を有し、
前記複数の磁極の磁極ピッチは、前記磁性ワイヤと前記一対の磁束伝導片のそれぞれの前記軸直交部とが交差する一対の交差部における前記軸方向の中心位置の間の距離よりも短く、かつ当該距離の半分よりも長い、請求項1に記載のパルス信号発生器。
【請求項11】
前記軌道が前記円弧部を有し、
前記磁界発生源は、複数の前記磁極を有し、
前記円弧部において前記複数の磁極の前記中心軸線まわりの角度ピッチが、前記磁性ワイヤと前記一対の磁束伝導片のそれぞれの前記軸直交部とが交差する一対の交差部における前記軸方向の中心位置に前記中心軸線から垂直に延ばした一対の半直線の挟角よりも小さく、かつ当該挟角の半分よりも大きい、請求項1に記載のパルス信号発生器。
【請求項12】
前記軌道が前記円弧部を有し、
前記磁界発生源は、前記磁極を有する磁石を含み、
前記磁極が前記円弧部を通るときの前記磁石の回転軌跡の外周半径は、前記中心軸線から前記磁束伝導片の最近端までの距離より大きく、かつ前記中心軸線から前記磁束伝導片の最遠端までの距離よりも小さい、請求項1に記載のパルス信号発生器。
【請求項13】
前記磁界発生源は、円盤状またはリング状の単一磁石を有する、請求項1に記載のパルス信号発生器。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載のパルス信号発生器を備えるエンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁界の変化に応答して電力を発生する発電センサを用いるパルス信号発生器、およびそれを備えるエンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
大バルクハウゼン効果(大バルクハウゼンジャンプ)を有する磁性ワイヤは、ウィーガンドワイヤまたはパルスワイヤの名で知られている。この磁性ワイヤは、芯部とその芯部を取り囲むように設けられた表皮部とを備えている。芯部および表皮部の一方は弱い磁界でも磁化方向の反転が起きるソフト(軟磁性)層であり、芯部および表皮部の他方は強い磁界を与えないと磁化方向が反転しないハード(硬磁性)層である。このような磁性ワイヤにコイルを巻回することにより、発電センサを構成することができる。
【0003】
ハード層とソフト層とがワイヤの軸方向に沿って同じ向きに磁化されているときに、その磁化方向とは反対方向の外部磁界強度が増加して或る磁界強度に達すると、ソフト層の磁化方向が反転する。この磁化方向の反転は、磁性ワイヤの或る部分を開始位置としてワイヤ全体に伝播し、ソフト層の磁化方向が一斉に反転する。このとき、大バルクハウゼン効果が発現し、磁性ワイヤに巻かれたコイルにパルス信号が誘発される。上述の外部磁界強度がさらに増加し、或る磁界強度に達すると、ハード層の磁化方向が反転する。
【0004】
この明細書では、ソフト層の磁化方向が反転するときの磁界強度を「動作磁界」といい、ハード層の磁化方向が反転するときの磁界強度を「安定化磁界」という。
【0005】
コイルから得られる出力電圧は、入力磁界(外部磁界)の変化スピードにかかわらず一定であり、入力磁界に対するヒステリシス特性を持つためチャタリングがない、などの特徴を有する。そのため、コイルから生成されるパルス信号は、位置検出装置などに使用される。コイルからの出力は電力を持つため、外部電力の供給を要しない発電型のセンサ(発電センサ)を構成できる。
【0006】
大バルクハウゼン効果が発現するためには、ハード層およびソフト層の磁化方向が一致している状態から、ソフト層のみの磁化方向が反転することが必要である。ハード層およびソフト層の磁化方向が不一致の状態で、ソフト層のみの磁化方向が反転したとしても、パルス信号は生じないか、あるいは生じたとしても非常に小さい。
【0007】
また、得られる電力を最大化するためには、磁性ワイヤ全体の磁化方向が揃っている状態から、ソフト層の磁化反転が磁性ワイヤ全体に及ぶことが重要である。磁性ワイヤの磁化方向が部分的に揃っていない場合には、非常に小さいパルス信号が得られるに過ぎない。そのため、磁性ワイヤの全体に一様な磁界がかかることが好ましい。
【0008】
このように、発電センサが安定して十分な電力のパルス信号を発生するための条件として、磁性ワイヤにかかる磁界に関して以下の条件がある。
(1)磁界の向きが磁性ワイヤと平行であること。
(2)磁界の強さが十分な大きさであること(安定化磁界以上)。
(3)磁界の向き、強さが磁性ワイヤ全体にわたって均一であること。
【0009】
発電センサを用いるパルス信号発生器は、たとえば、特許文献1,2,3に開示されている。
【0010】
特許文献1の図3には、回転中心まわりに回転する2極磁石からなる磁界発生部と、回転中心からオフセットした位置で磁界発生部に対向する発電素子(発電センサ)とが示されている。発電素子は、磁性ワイヤの両端に設けられた集磁部材を有し、それらの集磁部材は磁界発生部に向かって回転中心軸方向に平行に延びている。この集磁部材は、オフセット配置による磁束減少の影響を緩和する。すなわち、集磁部材は、より磁石に近い位置から磁束を集めることで、磁性ワイヤにかかる磁束を強め、パルス信号の出力位相差を改善する。また、磁界発生部に向かって延びる集磁部材の働きによって、磁性ワイヤの磁束密度の均一性が向上し、発電特性の低下を抑制できる。特許文献1の実施例では、磁性ワイヤ長10mm~13mmに対して磁石の直径は20mm~22mmであり、磁性ワイヤと磁石表面との距離は6mm~9mmである。
【0011】
オフセット配置により減少する磁界を増やすためには、磁石と発電センサの距離を縮めればよい。しかしながら、距離を小さくすると、特許文献1の図1の発電センサの構造では、オフセット配置のときに、磁石から磁性ワイヤの軸方向中間部に磁束が入り、特性が悪化する。したがって、磁石と磁性ワイヤとの距離を十分に確保し、磁性ワイヤの軸方向中間部に入る磁界を問題のないレベルまで下げる必要がある。そめため、磁性ワイヤと磁石の間の距離が必要であり、小型化が難しい。特許文献1では、距離を離したことによる磁界の不足を補うため集磁部材を磁石に向かって延ばして、磁石近傍の磁界を集めて磁性ワイヤに誘導することで、動作に必要な磁界を確保している。
【0012】
集磁部材を磁石に近づければ近づけるほど磁界は強くできるが、別の問題が生じる。発電センサのオフセット配置と2極磁石との組合せにおいては、磁石近傍の磁界には、回転角に対して変化の少ない平坦部が本質的に現れる。この平坦部は、磁性ワイヤの長さに対するオフセット量の割合が大きいほど大きい。集磁部材と磁石の距離が近いほど、その影響が大きく出るため、近づけすぎるとパルス発生位置の位相差(ヒステリシス)が増大する。このことは、特許文献1においては、同文献の図16を参照して説明されている。同文献では、磁性ワイヤ軸方向中間部に入る磁界の影響は、磁束密度分布の均一性と表現されている。集磁部材の構成部分を、磁性ワイヤを挟んで磁界発生部とは反対側の第1構成部と磁界発生部側の第2構成部とに分けて考える場合に、第2構成部の第1構成部に対する体積比を大きくすることは、集磁部材をより磁石に近づけることに該当する。
【0013】
また、特許文献1の図1の集磁部材の形状は、磁石に対向する面積が少なく集磁効率が悪い。前述の理由のために集磁部材を磁石にあまり近づけることはできないため、動作に必要な磁界を得るためには大きな磁石が必要になる。したがって、小型化が難しい。
【0014】
特許文献2では、磁界発生源として4つの磁石を使用し、120度の角度間隔で配置された3個の発電センサに対して2周期/回転の磁界変化を与えている。磁石は半径Rの回転軌道上を移動し、発電センサの両端部が回転軌道上に整合するように配置されている。回転軸を中心とする円周接線方向に発電センサを配置することにより、半径方向に沿う配置よりも小型化が可能である、と説明されている。円周接線方向に発電センサを配置した場合、その両端に極性の異なる磁石が対向するときに磁性ワイヤに磁束が通ってパルス発生動作が生じる。一方、磁石が発電センサの中央の位置にあるときは、磁性ワイヤの軸方向中間部から両端に向かう異なる方向の磁束が発生し、動作に悪影響を与える。特許文献2では磁性ワイヤの軸方向中間部に向かう磁束を遮断する隔壁部材を発電センサとは別に備えることにより悪影響を排除している。
【0015】
特許文献2の場合、磁性ワイヤ軸方向中間部に向かう磁界は隔壁部材により遮断されるため、同文献の図1に示されているとおり、磁石と発電センサとのギャップを小さくすることができる。
【0016】
しかし、特許文献2の構成では、磁束を遮断する隔壁部材を設ける必要があるので、コストがかかる。また、磁石中心軌道が、発電センサの両端を通過する必要があるので、磁界発生部のサイズは、それ以上、小さくできない。さらに、磁石ピッチ(磁極ピッチ)は磁性ワイヤ長とほぼ同じである必要がある。そのため、さらなる小型化や着磁極数をさらに増やすことは難しい。
【0017】
特許文献3の図2では、回転運動する4つの角型磁石に合わせて設計された磁性体(集磁部材)を備えた発電センサ用いてパルス信号を発生する。また、特許文献3の回転検出部は、発電センサとは別の構成であるサイドヨークを備えている。サイドヨークは、発電センサと磁石とが向かいあったときに、磁石の磁束が磁性ワイヤに向かわないように、すなわち、隣の磁石に向かうようにしている。このサイドヨークの働きにより、磁石と発電センサとを比較的近接した位置に配置できる。
【0018】
しかしながら、特許文献3の構成は、磁石の回転軌道の外側に発電センサを配置する必要があり、小型化が難しい。また、磁石形状に合わせた磁性体(集磁部材)を備えた発電センサは汎用性に欠ける。しかも、サイドヨークを設ける必要があるので、コストがかかるという問題がある。
【0019】
計測装置には小型化の要求があり、それに使用されるパルス信号発生器についても小型化要求が高い。また、計測装置の分解能向上のために、発電センサと多極磁石とを組み合わせてパルス信号発生器が構成される場合も多い。
【0020】
また、計測装置によっては、回転軸を貫通させたい場合も多く、回転軸中心上に部品を配置できない場合がある。軸中心上に発電センサを置かない場合、発電センサの配置の選択肢としては、半径方向、円周接線方向の2種類があるが、前者は半径が大きくなってしまうので、小型化には後者が向く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特許第7109713号公報
【特許文献2】特許第5964117号公報
【特許文献3】特許第6959588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
この発明の一実施形態は、小型化、分解能向上および配置自由度の向上に対応可能な構造のパルス信号発生器を提供する。また、この発明の一実施形態は、そのようなパルス信号発生器を有するエンコーダを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
1.発電センサと磁界発生源との相対運動によってパルス信号を発生するパルス信号発生器。前記発電センサは、軸方向に印加される交番磁界によって大バルクハウゼン効果を発現する磁性ワイヤと、前記磁性ワイヤに巻回されたコイルと、前記磁性ワイヤの両端部にそれぞれ磁気的に結合された一対の軟磁性体部品からなり、前記磁性ワイヤの前記軸方向の中心位置に設定される対称面に関して互いに対称な一対の磁束伝導片と、を含む。前記一対の磁束伝導片は、前記磁性ワイヤの両端部がそれぞれ固定され前記磁性ワイヤの両端部から前記軸方向に直交する軸直交方向に互いに平行に延びる一対の軸直交部と、前記軸直交部の先端部から前記軸方向に沿って互いに接近する方向に延び、近接端同士が前記軸方向に間隔を空けて対向する一対の軸平行部と、を備えている。前記近接端同士の前記間隔の前記軸方向の距離は、前記磁性ワイヤとの結合位置における前記一対の軸直交部の間の前記軸方向の距離の5%~50%である。前記発電センサは、前記軸平行部に対して前記磁性ワイヤとは反対側を検出領域とするように構成されている。前記発電センサと前記磁界発生源とは、前記軸直交方向のギャップを有するように配置されている。前記磁界発生源は、前記相対運動によって前記検出領域を通る軌道に沿って移動する少なくとも一つの磁極を有する。一つの実施形態では、前記軌道は、前記検出領域において前記軸方向と平行な直線部を含む。他の実施形態では、前記軌道は、前記検出領域において前記軸方向と平行な接線を有する円弧部を含む。前記円弧部は、前記軸直交方向に平行な中心軸線上に中心を有してもよい。
【0024】
この構成によれば、検出領域の磁界は、軟磁性体部品を持つ磁束伝導片によって磁性ワイヤの両端部に導かれる。そのうえ、検出領域と磁性ワイヤとの間には磁性ワイヤの軸方向に平行な軸平行部が位置しているので、検出領域から磁性ワイヤの軸方向中間部(軸方向途中位置)へと向かう磁束は、軸平行部によって遮蔽される。とくに、一対の磁束伝導片の軸平行部の近接端同士の軸方向の距離が磁性ワイヤとの結合位置における軸直交部の間の距離の5%~50%であるので、優れた磁気遮蔽効果が得られる。したがって、磁性ワイヤの軸方向の広い範囲にわたってその軸方向の磁界を印加することができるので、大バルクハウゼン効果を十分に引き起こすことができ、高出力の信号を得ることができる発電センサを実現できる。
【0025】
しかも、発電センサが磁束伝導片を備えており、その磁束伝導片と磁性ワイヤとが互いに固定されて結合されているので、検出領域に検出媒体としての磁界発生源(典型的には磁石)が配置されるようにすればよい。したがって、異なる形状および/または極性を有する磁界発生源との組合せが容易である。
【0026】
発電センサと磁界発生源とが相対運動するとき、磁界発生源の磁極は、検出領域を通る軌道に沿って移動する。その軌道は、検出領域において軸方向と平行な直線部を含むか、または検出領域において軸方向と平行な接線を有する円弧部を含む。したがって、磁極が検出領域を通るとき、その磁極は軸平行部に対向するので、磁極が発生する磁束が磁束伝導片を通って磁性ワイヤに印加される。
【0027】
磁束伝導片の軸平行部は、磁性ワイヤの軸方向に延びているので、その磁気遮蔽効果により、磁極と磁性ワイヤとの間の距離が短くても、磁極から磁性ワイヤの軸方向中間部には磁束は入り難い。したがって、磁性ワイヤと磁極の軌道とを接近させることができ、それに応じて、パルス信号発生器を小型化できる。
【0028】
また、磁性ワイヤの軸方向に延びる軸平行部は、多くの磁束を集めることができる。そのため、磁極から発生する磁束が弱くても、大バルクハウゼン効果の発現に必要な磁界を磁性ワイヤに印加できる。したがって、磁極数の増加に応じて個々の磁極が小さくなり、各磁極からの磁束が弱くなっても、パルス信号を支障なく発生させることができる。また、軸平行部は、検出領域内の広い範囲で磁極に対向でき、かつ磁性ワイヤの軸方向中間部への磁束の進入を抑制するので、様々な磁極ピッチに対応できる。よって、磁極数を増やして分解能を向上する場合に有利であり、同一設計の発電センサで多様な分解能に対応でき、かつ磁極数の増加に応じて磁石を大きくする必要もない。
【0029】
また、磁界発生源が回転移動する磁石を含む場合であっても、回転中心から発電センサをオフセット配置しながら、十分な強さの磁界を磁性ワイヤに与えることができる。すなわち、軸平行部によって広い範囲の磁界を集めることができるので、発電センサと磁界発生源との相対配置の自由度を高めることができる。
【0030】
2.前記一対の磁束伝導片は、前記検出領域に配置される磁界発生源から前記磁性ワイヤの軸方向中間部に向かう磁界をシールドし、当該一対の磁束伝導片を含む空間に形成する磁界を前記軸方向の磁界に補正して前記磁性ワイヤに印加するように構成されている、項1に記載のパルス信号発生器。
【0031】
この構成により、磁束伝導片が検出領域に配置される磁界発生源からの磁界を補正する磁界補正機能を有し、それにより、磁性ワイヤの軸方向中間部に向かう磁界をシールドし、かつ磁性ワイヤの両端部の間に、その軸方向の磁界を印加することができる。それにより、大バルクハウゼン効果を十分に引き出して、高出力のパルス信号を発生させることができる。
【0032】
3.前記間隔の前記軸方向の距離が、前記磁性ワイヤとの結合位置における前記一対の軸直交部の間の前記軸方向の距離の20%~40%である、項1または2に記載のパルス信号発生器。
【0033】
この構成により、磁性ワイヤが有する素性の大バルクハウゼン効果をほぼ完全に引き出すことができるので、一層高出力なパルス信号発生器を実現できる。
【0034】
4.前記磁束伝導片の前記軸直交部は、前記軸方向に貫通する穴または溝が形成されたワイヤ配置部を有し、前記磁性ワイヤは前記ワイヤ配置部において前記軸直交部を貫通して、前記軸直交部に固定されている、項1~3のいずれか一項に記載のパルス信号発生器。
【0035】
この構成によれば、磁性ワイヤが軸直交部を貫通する構成とすることにより、磁束伝導片と磁性ワイヤの両端部とを確実に磁気結合することができ、かつそれらの間の固定を確実にすることができる。
【0036】
軸直交部は、たとえばコイルの径と同程度の大きさに構成することができる。この場合、磁性ワイヤと検出領域との間には軸平行部が配置されるので、磁性ワイヤの軸方向から磁束伝導片を見たときに、ワイヤ配置部は、検出領域から離れる方向にオフセットされた(偏った)位置に配置されることになる。このような構成により、発電センサを小型に構成できる利点がある。
【0037】
5.前記磁性ワイヤとの結合位置における前記軸直交部の前記軸方向の厚みが、前記磁性ワイヤの全長の10%~20%である、項1~4のいずれか一項に記載のパルス信号発生器。
【0038】
この構成によれば、軸直交部における磁気通路が狭くなりすぎず、かつ軸直交部に起因して大バルクハウゼン効果のピックアップ効率が実質的に低下することを回避できる。それにより、高出力のパルス信号を生成可能なパルス信号発生器を実現できる。
【0039】
6.前記軟磁性体部品は、保磁力が前記磁性ワイヤの保磁力以下であり、かつ透磁率が500以上の材料からなる、項1~5のいずれか一項に記載のパルス信号発生器。
【0040】
このような材料は、低磁気抵抗、低ヒステリシス、低自己誘電等の特性を有する。それにより、磁界発生源が高速に移動したときに生じる高周波の交番磁界が印加されたときでも、発電センサの出力特性に対する影響が少ない。具体的には、前記軟磁性体部品は、Ni系フェライトまたはMn系フェライトの材料からなることが好ましい。
【0041】
7.前記発電センサは、前記検出領域に臨むように前記磁束伝導片の前記軸平行部に設けられた面実装用の外部端子電極をさらに含む、項1~6のいずれか一項に記載のパルス信号発生器。
【0042】
この構成により、発電センサの構成部品点数を少なくすることができ、構造が簡単で小型な面実装型の発電センサを備えるパルス信号発生器を提供できる。
【0043】
8.前記発電センサと前記磁界発生源との間にプリント基板が介装されている、項1~7のいずれか一項に記載のパルス信号発生器。
【0044】
典型的には、前記プリント基板の一方または両方の主面に、電気部品および/または電子部品が実装されている。前記プリント基板の主面に、前記発電センサが実装されていてもよい。より具体的には、前記軸平行部に設けられた外部端子電極を前記プリント基板の主面の配線導体に接合することにより、前記発電センサが前記プリント基板の主面に面実装されていてもよい。
【0045】
9.前記磁界発生源は、前記磁極を有する磁石を含み、
前記磁極が前記検出領域内で前記軌道上にあるとき、前記磁性ワイヤと前記磁石との前記軸直交方向の距離は、前記磁性ワイヤの全長の50%以下である、項1~8のいずれか一項に記載のパルス信号発生器。
【0046】
この構成により、磁性ワイヤと磁石との距離が短く、それに応じて小型のパルス信号発生器を提供できる。磁性ワイヤと磁石との距離を磁性ワイヤの全長の50%以下とする配置は、軸平行部を有する磁束伝導片を用いることによって可能となる。軸平行部を有しない磁束伝導片を用いると、磁性ワイヤの軸方向中間部に磁石からの磁束が入るので、磁性ワイヤの軸方向各部での磁界を一様にできず、大バルクハウゼン効果を発現させる設計は難しい。
【0047】
10.前記軌道が前記直線部を有し、
前記磁界発生源は、複数の前記磁極を有し、
前記複数の磁極の磁極ピッチ(磁極間間隔)は、前記磁性ワイヤと前記一対の磁束伝導片のそれぞれの前記軸直交部とが交差する一対の交差部における前記軸方向の中心位置の間の距離(前記一対の磁束伝導片の前記軸直交部の前記軸方向の中心位置間の距離)よりも短く、かつ当該距離の半分よりも長い、項1~9のいずれか一項に記載のパルス信号発生器。
【0048】
この構成により、磁極間隔を短くできるので、分解能の高い直動型のパルス信号発生器を実現できる。磁性ワイヤと一対の軸直交部とのそれぞれの交差部の中心位置の間の距離よりも短い磁極ピッチを適用可能な設計は、軸平行部を有する磁束変動片の使用によって可能となる。軸平行部を有さず、軸直交部のみを有する磁束伝導片を用いる場合には、磁性ワイヤと一対の軸直交部とのそれぞれの交差部の中心位置の間の距離よりも短い磁極ピッチでは、磁性ワイヤに大バルクハウゼン効果を生じさせる設計は難しい。
【0049】
11.前記軌道が前記円弧部を有し、
前記磁界発生源は、複数の前記磁極を有し、
前記円弧部において前記複数の磁極の前記中心軸線まわりの角度ピッチが、前記磁性ワイヤと前記一対の磁束伝導片のそれぞれの前記軸直交部とが交差する一対の交差部における前記軸方向の中心位置に前記中心軸線から垂直に延ばした一対の半直線の挟角よりも小さく、かつ当該挟角の半分よりも大きい、項1~9のいずれか一項に記載のパルス信号発生器。
【0050】
この構成によれば、磁極間の角度ピッチを小さくできるので、分解能の高い回転型のパルス信号発生器を実現できる。磁性ワイヤと軸直交部との交差部の中心位置間の角度間隔よりも小さい磁極間角度ピッチを適用可能な設計は、軸平行部を有する磁束変動片の使用によって可能となる。軸平行部を有さず、軸直交部のみを有する磁束伝導片を用いる場合には、磁性ワイヤと軸直交部との交差部の中心位置間の角度間隔よりも短い磁極間角度ピッチでは、磁性ワイヤに大バルクハウゼン効果を生じさせる設計は難しい。
【0051】
12.前記軌道が前記円弧部を有し、
前記磁界発生源は、前記磁極を有する磁石を含み、
前記磁極が前記円弧部を通るときの前記磁石の回転軌跡の外周半径は、前記中心軸線から前記磁束伝導片の最近端までの距離より大きく、かつ前記中心軸線から前記磁束伝導片の最遠端までの距離よりも小さい、項1~11のいずれか一項に記載のパルス信号発生器。
【0052】
この構成によれば、磁石の少なくとも一部が磁束伝導片に対向し、それによって、発電センサからパルス信号を発生させることができる。磁束伝導片の軸平行部による集磁効果により、大きな面積で磁石と軸平行部とが対向することを必要とすることなく、パルス信号の発生が可能である。それにより、磁石の回転軌跡の外周半径を小さくすることが可能となり、それに応じて、パルス信号発生器の小型化を図ることができる。
【0053】
13.前記磁界発生源は、円盤状またはリング状の単一磁石を有する、項1~12のいずれか一項に記載のパルス信号発生器。
【0054】
14.項1~13のいずれか一項に記載のパルス信号発生器を備えるエンコーダ。
【発明の効果】
【0055】
この発明によれば、小型化、分解能向上および配置自由度の向上に対応可能な構造のパルス信号発生器を提供できる。また、この発明によれば、そのようなパルス信号発生器を有するエンコーダを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1A図1Aは、第1実施形態に係るパルス信号発生器の斜視図である。
図1B図1Bは、図1Aの矢印101の方向に見た正面図である。
図2A-2B】図2Aおよび図2Bは、回転型のパルス信号発生器のモデルを示す。
図3図3は、図2Bに示す配置での3次元磁気シミュレーションの結果を示す。
図4図4は、前記モデル(図2B参照)の構造について、一対の磁束伝導片の間の磁性ワイヤの位置での距離に対する近接端の間の距離の比率と、コイルから出力されるパルス信号の波高との関係を調べた結果を示す。
図5A-5C】図5Aは、上記のモデルに対応する回転型のパルス信号発生器を備えた回転検出装置の具体的な構造例を説明するための斜視図であり、図5Bはその平面図である。図5Cは、図5Bの矢印VC方向に見た正面図である。
図6A-6B】図6Aおよび図6Bは、回転検出装置の他の構成例を示す。
図7図7は、同極性の磁極を発電センサに対向させた回転検出装置の構成例を示す。
図8A-8B】図8Aおよび図8Bは、回転検出装置のさらに別の構成例を示す。
図9A図9Aは、L字形の磁束伝導片を用いて構成した発電センサの検出領域に磁石を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果を示す。
図9B図9Bは、L字形の磁束伝導片を用いて構成した発電センサの検出領域に磁石を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果を示す。
図9C図9Cは、磁石位置に対する磁性ワイヤ内の磁束密度の変化を示す。
図10A図10Aは、I字形の磁束伝導片を用いて構成した発電センサの検出領域に磁石を配置した場合の2次元磁気シミュレーション結果を示す。
図10B図10Bは、I字形の磁束伝導片を用いて構成した発電センサの検出領域に磁石を配置した場合の2次元磁気シミュレーション結果を示す。
図10C図10Cは、磁石位置に対する磁性ワイヤ内の磁束密度の変化を示す。
図11A図11Aは、I字形の磁束伝導片を有する発電センサの検出領域に磁石を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果であり、図10A図10Cのシミュレーションの場合に比較して、磁石から磁性ワイヤまでの軸直交方向の距離を長くした場合のシミュレーション結果を示す。
図11B図11Bは、I字形の磁束伝導片を有する発電センサの検出領域に磁石を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果であり、図10A図10Cのシミュレーションの場合に比較して、磁石から磁性ワイヤまでの軸直交方向の距離を長くした場合のシミュレーション結果を示す。
図11C図11Cは、I字形の磁束伝導片を有する発電センサの検出領域に磁石を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果であり、図10A図10Cのシミュレーションの場合に比較して、磁石から磁性ワイヤまでの軸直交方向の距離を長くした場合のシミュレーション結果を示す。
図12A図12Aは、L字形の磁束伝導片を有する発電センサの検出領域に複数の磁極を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果を示す。
図12B図12Bは、L字形の磁束伝導片を有する発電センサの検出領域に複数の磁極を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果を示す。
図12C図12Cは、L字形の磁束伝導片を有する発電センサの検出領域に複数の磁極を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果を示す。
図13A図13Aは、I字形の磁束伝導片を有する発電センサの検出領域に複数の磁極を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果を示す。
図13B図13Bは、I字形の磁束伝導片を有する発電センサの検出領域に複数の磁極を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果を示す。
図13C図13Cは、I字形の磁束伝導片を有する発電センサの検出領域に複数の磁極を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果を示す。
図14A図14Aは、L字形の磁束伝導片を有する発電センサの検出領域に磁石を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果であり、図12A図12Cのシミュレーションの場合に比較して磁極ピッチを短くした場合のシミュレーション結果を示す。
図14B図14Bは、L字形の磁束伝導片を有する発電センサの検出領域に磁石を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果であり、図12A図12Cのシミュレーションの場合に比較して磁極ピッチを短くした場合のシミュレーション結果を示す。
図14C図14Cは、L字形の磁束伝導片を有する発電センサの検出領域に磁石を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果であり、図12A図12Cのシミュレーションの場合に比較して磁極ピッチを短くした場合のシミュレーション結果を示す。
図15A図15Aは、I字形の磁束伝導片を有する発電センサの検出領域に磁石を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果であり、図13A図13Cのシミュレーションの場合に比較して磁極ピッチを短くした場合のシミュレーション結果を示す。
図15B図15Bは、I字形の磁束伝導片を有する発電センサの検出領域に磁石を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果であり、図13A図13Cのシミュレーションの場合に比較して磁極ピッチを短くした場合のシミュレーション結果を示す。
図15C図15Cは、I字形の磁束伝導片を有する発電センサの検出領域に磁石を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果であり、図13A図13Cのシミュレーションの場合に比較して磁極ピッチを短くした場合のシミュレーション結果を示す。
図16図16は、磁極ピッチの好ましい条件の一例を説明するための図である。
図17図17は、磁極ピッチの好ましい条件の他の例を説明するための図である。
図18図18は、回転型のパルス信号発生器における発電センサと多極磁石との大きさの関係を説明するための平面図である。
図19A図19Aは、第2実施形態に係る発電センサの斜視図である。
図19B図19Bは、第2実施形態に係る発電センサの一部分解斜視図である。
図19C図19Cは、第2実施形態に係る発電センサの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0058】
[第1実施形態]
図1Aおよび図1Bに、第1実施形態に基づくパルス信号発生器1を示す。図1Aはパルス信号発生器1の斜視図であり、図1B図1Aの矢印101の方向に見た正面図である。パルス信号発生器1は、発電センサ100と、磁界発生源400とを含む。発電センサ100と磁界発生源400とが相対的に運動することによって、発電センサ100がパルス信号を発生する。発電センサ100と磁界発生源400との相対運動は、発電センサ100および磁界発生源400の少なくとも一方の運動によって達成される。以下では、主として、磁界発生源400の移動によって相対運動が達成される例について説明する。
【0059】
発電センサ100は、大バルクハウゼン効果を発現する磁性ワイヤ110と、磁性ワイヤ110に巻回されたコイル120と、軟磁性体部品を持つ一対の磁束伝導片130,131とを含む。コイル120は、磁性ワイヤ110の第1端部111と第2端部112とを同じ長さで露出するように、磁性ワイヤ110に巻回されている。この実施形態では、コイル120は、一対の磁束伝導片130,131の間で磁性ワイヤ110に巻回されている。一対の磁束伝導片130,131は、磁性ワイヤ110の第1端部111および第2端部112にそれぞれ磁気的に結合している。
【0060】
一対の磁束伝導片130,131は、実質的に同形同大の構成を有している。より具体的には、一対の磁束伝導片130,131は、磁性ワイヤ110の軸方向x(長さ方向、線長方向)の中心位置(以下「軸中心位置」という。)113において軸方向xに直交する対称面115(幾何学的配置を説明するための仮想的な平面)に対して互いに対称に構成されている。一対の磁束伝導片130,131は、磁性ワイヤ110の両端部111,112から軸方向xに直交する軸直交方向zに互いに平行に延びる軸直交部133と、軸直交部133の先端部から軸方向xに沿って互いに接近する方向に延びる軸平行部134とを備えている。
【0061】
一対の磁束伝導片130,131の軸直交部133の基端部に、磁性ワイヤ110の両端部111,112がそれぞれ固定されている。より具体的には、軸直交部133の基端部には、軸方向xに貫通する穴または溝が形成されたワイヤ配置部130a,131aが設けられている。図1A等には、ワイヤ配置部130a,131aを穴で構成した例を示す。ワイヤ配置部130a,131aを溝で構成する場合には、当該溝は、後述する検出領域140とは反対側の端面に開放するように軸直交方向zに沿って延びる溝であることが好ましい。磁性ワイヤ110の第1端部111および第2端部112は、ワイヤ配置部130a,131aにおいて軸直交部133を貫通した状態で、当該軸直交部133に固定されている。さらに具体的には、ワイヤ配置部130a,131aを構成する穴または溝内に樹脂(図示省略)が配置されることにより、磁性ワイヤ110の端部111,112が軸直交部133に固定され、それらが互いに結合されている。これにより、磁性ワイヤ110と一対の磁束伝導片130,131とが、互いに機械的に結合され、かつ互いに磁気的に結合されている。
【0062】
一対の磁束伝導片130,131の軸平行部134は、それらの近接端134a同士が、磁性ワイヤ110の軸中心位置113を通る対称面115を挟んで互いに対向している。すなわち、それらの近接端134aは、軸方向xに間隔を空けて互いに対向している。この間隔の軸方向xの中間位置は、軸中心位置113の軸方向xの位置に相当しており、したがって、一対の軸平行部134の近接端134aから対称面115までの軸方向xの距離は等しい。当該間隔の軸方向xの距離Lは、磁性ワイヤ110と軸直交部133との結合位置における一対の軸直交部133の間の距離Dの5%~50%とされ、より好ましくは、20%~40%とされる。距離Dは、より具体的には、磁性ワイヤ110との結合位置において軸方向xに対向する一対の磁束伝導片130,131の内側面130b,131b(軸直交部133の内側面)の間の軸方向xの距離である。
【0063】
この発電センサ100は、軸平行部134に対して磁性ワイヤ110とは反対側の領域を検出領域140とするように構成されている。この検出領域140に、検出すべき磁界を発生する磁界発生源400が配置される。発電センサ100と磁界発生源400とは、軸直交方向zのギャップ21を有するように配置されている。このギャップ21は、完全なエアギャップであってもよく、たとえば、プリント基板20が介装されていてもよい。すなわち、プリント基板20の一方の主面側に発電センサ100が配置され、その他方の主面側に磁界発生源400が配置されてもよい。プリント基板20の一方または両方の主面には、電気部品および/または電子部品が実装されていてもよい。一つの具体例では、プリント基板20の一主面に発電センサ100が実装される。
【0064】
典型的には、磁界発生源400は、検出領域140を通過するように、発電センサ100に対して相対的に移動する。すなわち、磁界発生源400の移動経路上に検出領域140が配置される。より具体的には、磁界発生源400は、軸直交方向zに着磁された磁石で構成されていてもよい。磁界発生源400は、検出領域140を通る軌道30に沿って移動するときに発電センサ100(より具体的には軸平行部134)に対向する1つ以上の磁極401を有する。
【0065】
複数の磁極401が設けられる場合、それらは複数の磁石によって構成されてもよいし、一つ以上の多極磁石を用いて構成されてもよい。磁界発生源400が複数の磁極401を有するとき、それらは同極性の磁極であってもよいし、異なる極性の磁極を含んでいてもよい。より具体的には、磁界発生源400の移動によって、複数の同極性の磁極が順に発電センサ100に対向してもよいし、異極性の磁極が交互に発電センサ100に対向してもよい。いずれの場合にも、磁極401が検出領域を通って移動するときに生じる磁界の変化によって、発電センサ100がパルス電圧を出力する。このパルス電圧を信号処理して計数することによって、直線位置、回転位置等の位置情報を生成する位置検出装置、すなわちエンコーダを構成することができる。
【0066】
検出領域140における磁極401の移動方向、すなわち運動方向は、軸方向xに沿っている。すなわち、磁性ワイヤ110とほぼ平行である。換言すれば、軌道30は、検出領域140において、軸方向xに実質的に平行な部分を有する。一つの具体例では、軌道30は、検出領域140において軸方向xと平行な直線部を有する。軌道30は、全体が直線状であってもよいし、曲線部を有していてもよい。他の具体例では、軌道30は、検出領域140において軸方向xに平行な接線を持つ円弧部を有する。この円弧部は、軸直交方向zに平行な中心軸線40上に中心を有していてもよい。軌道30は、全体が円弧部、すなわち円周状であってもよい。また、軌道30は、直線部、楕円形部など、円弧状以外の形状の部分を有していてもよい。
【0067】
一対の磁束伝導片130,131は、検出領域140に配置された磁界発生源400が当該磁束伝導片130,131を含む空間に形成する磁界を軸方向xの磁界に補正して磁性ワイヤ110に印加するように構成されている。
【0068】
さらに具体的に説明すると、軟磁性体部品からなる磁束伝導片130,131は、略直方体形状の軸直交部133と、軸直交部133の磁界発生源400に対向する側、すなわち検出領域140側の端部である先端部に連設された略直方体形状の軸平行部134とを有し、軸直交部133と軸平行部134との結合部で直角に曲がったL字形状を有している。軸平行部134は、磁性ワイヤ110を覆うように、すなわち、磁性ワイヤ110と検出領域140との間を遮蔽するように、軸方向xに沿って延びている。互いに対称な形状を有する一対の磁束伝導片130,131の軸平行部134は、磁性ワイヤ110の軸中央側に延びており、それらの近接端134aは、磁性ワイヤ110の軸中心位置113の付近で間隔を空けて互いに対向している。近接端134aは、軸方向xに直交する平面をなしており、2つの近接端134aをそれぞれ形成する2つの平面は互いに平行であり、それらが軸方向xに対峙している。2つの近接端134aの間の間隔の方向xの距離Lは、2つの近接端134aを形成する2つの平面の間の距離である。
【0069】
軟磁性体部品からなる磁束伝導片130,131とコイル120とは、それらを覆うケース(図示省略)に接着樹脂、嵌合、その他の適切な固定手段によって固定される。前述のとおり、磁性ワイヤ110の両端部111,112は、2つの貫通する穴または溝からなるワイヤ配置部130a,131aに樹脂(図示省略)によって固定されている。したがって、一対の磁束伝導片130,131、コイル120および磁性ワイヤ110が互いに固定されて一体化された構造によって発電センサ100が構成されている。
【0070】
コイル120の両端は、軸平行部134に設けた外部電極に接続されていてもよい。この外部電極をプリント基板20の一主面に設けた配線導体に接合することによって、発電センサ100がプリント基板20に面実装されていてもよい。
【0071】
[モデル]
図2Aおよび図2Bは、発電センサ100を回転型のパルス信号発生器1に適用したモデルを示す。パルス信号発生器1は、回転軸線42,43まわりに回転する磁石420,430と、回転軸線42,43に直交するように軸方向xを設定して配置した発電センサ100とを含む。ただし、各図において、発電センサ100のコイル120(図1Aおよび図1B参照)の図示は省略してある。磁性ワイヤ110は、磁石420,430から、回転軸線42,43と平行な方向に間隔を空けて配置されている。さらに、磁性ワイヤ110は、回転軸線42,43に対して回転半径方向にオフセットして配置されている。回転軸線42,43は、軸直交方向zに平行である。
【0072】
この例では、磁界発生源400は、発電センサ100の検出領域140を通る4つの磁極401、すなわち、2つのN極および2つのS極を構成する磁石420,430である。
【0073】
図2Aの構成では、発電センサ100に対向する表面にN極領域とS極領域とを周方向に交互に配置した4つの磁極領域を有するリング形状の磁石420で磁界発生源400が構成されている。磁石420は、磁性ワイヤ110の全長Lw(図1B参照)よりも径の小さいリング形状を有していてもよい。着磁方向は、回転軸線42に平行であり、したがって、軸直交方向zに平行である。リング形状の磁石420は、その中心軸線と整合する回転軸線42まわりに回転し、それによって、発電センサ100の検出領域140に交番磁界を形成する。磁石420の4つの磁極領域は、回転軸線42に一致する中心軸線40まわりの円周状の軌道30に沿って移動する複数の磁極401を形成している。
【0074】
図2Bの構成では、磁界発生源400は、4個の個別の磁石430で構成されている。着磁方向は、回転軸線43に平行であり、したがって、軸直交方向zに平行である。4個の磁石430は、回転軸線43を中心とする円周に沿って配置されており、たとえば、その円周の周方向に等間隔で配置された同形同大の永久磁石である。4個の磁石430は、全体としてリング形状を成していると見なすことができる。そのリング形状の径は、磁性ワイヤ110の全長Lwよりも短くてもよい。4個の磁石430は、回転軸線43まわりの相対位置を保持しながら、回転軸線43のまわりを回転する。各磁石430は、着磁方向を回転軸線43と平行に設定して配置されている。4個の磁石430は、発電センサ100に対向する側にN極およびS極が回転方向に沿って交互に並ぶように配置されている。したがって、4個の磁石430が回転軸線43まわりに周回するとき、発電センサ100にN極およびS極が交互に対向し、それによって、発電センサ100の検出領域140に交番磁界が形成される。4個の磁石430において発電センサ100に対向する側の磁極は、回転軸線43に一致する中心軸線40まわりの円周状の軌道30に沿って移動する複数の磁極401を形成している。
【0075】
図2Aに示すリング形状の磁石420においては、1つの磁極領域の周方向の長さ(α)は、N極領域の周方向中心からS極領域の周方向中心までの長さである磁極ピッチλと等しい。図2Bに示す個別の磁石においては、1つの磁極の周方向の長さ(α)は、隣り合う磁石の周方向中心位置間の周方向の距離である磁極ピッチλより短い。
【0076】
発電センサ100は、磁石420,430の回転軸線42,43から磁性ワイヤ110を回転半径方向にオフセットさせて配置されている。すなわち、磁性ワイヤ110は、磁石420,430の回転軌跡に対して回転軸線42,43に平行な方向(軸直交方向z)に沿って対向する位置までオフセットされている。発電センサ100は、回転軸線42,43を中心軸とする仮想的な円の接線に沿うように磁性ワイヤ110の軸方向xを設定し、検出領域140(図1B参照)を磁石420,430の側に設定して配置されている。図2Aおよび図2Bのいずれの構成においても、磁極ピッチλは、磁束伝導片130,131の軸直交部133の間の距離D以下に設定されている。
【0077】
図3は、図2Bに示す配置での3次元磁気シミュレーションの結果を示す。図3は、4つの磁石430を回転軸線43まわりに回転させ、複数の回転角度において磁性ワイヤ110に印加される磁界をグラフで表したものである。横軸のワイヤ位置は、磁性ワイヤ110の軸方向xの各部の位置を表す。具体的には、図2Bの配置の場合における2つの磁束伝導片130,131の軸直交部133の軸方向xに対峙する2つの内側面130b,131b(図1B参照)の間の区間を10等分し、その区間の一端を「0」と表し、他端を「10」と表してある。回転角度は、図2Bに示す状態を0度とし、磁極ピッチλだけ回転した状態を90度とした。
【0078】
図3には、第一象限の回転角度範囲、すなわち、0度から90度の範囲の磁気シミュレーション結果を示してある。この第一象限の回転角度範囲にて、ハード層およびソフト層の磁化方向が一致する準備状態(プラス信号の出力前のセット状態)にできる安定化磁界と、ソフト層を反転させてハード層およびソフト層の磁化方向を反対にできる(マイナス信号が出力される)動作磁界とが確認できる。磁界強度は安定化磁界が|±1|以上となるように規格化した。動作磁界は約±0.5となる。つまり、図3において、-1.0以下(絶対値が1以上)の磁界強度(安定化磁界)となるワイヤ位置では、ハード層およびソフト層の両方の磁化方向を反転させることができる。また、図3において、-0.5以下(絶対値が0.5以上)の磁界強度(動作磁界)となるワイヤ位置では、ソフト層の磁化方向を反転させることができる。-0.5以下、かつ-1.0より大きい(絶対値が0.5以上1.0未満)の磁界強度となるワイヤ位置では、ソフト層の磁化方向を反転させることができるが、ハード層の磁化方向は反転させることができない。
【0079】
図3から、全ての回転角度において、磁性ワイヤ110の両端付近と軸方向中間部とで磁界強度の実質的な差がないことが分かる。このことは、磁性ワイヤ110に印加される磁界が、いずれの回転角度においても、磁性ワイヤ110の全長に渡って、その軸方向xに平行であることを示す。換言すれば、磁石430が発生する磁界が、磁性ワイヤ110の軸方向xに平行な磁界に補正されて磁性ワイヤ110に印加されていることを示す。
【0080】
また、図3から、回転角度が0度から90度まで変化する回転運動の間に、マイナス側の安定化磁界(-1以下(絶対値1以上)の強度の磁界)と、プラス側の安定化磁界(+1以上の強度の磁界)と、マイナス側の動作磁界(-0.5以下(絶対値0.5以上)の強度の磁界)と、プラス側の動作磁界(+0.5以上の強度の磁界)と、が印加されることが分かる。換言すれば、回転角度が0度から90度まで変化する回転運動の間に、プラス信号の出力の前にハード層およびソフト層の磁化方向が一致するセット状態(準備状態)と、そのセット状態から動作磁界が印加されてソフト層のみが反転してプラス信号が出力される状態と、マイナス信号の出力の前にハード層およびソフト層の磁化方向が一致するセット状態(準備状態)とが達成され、さらに、回転角度が90度から180度まで変化する回転運動によって、そのセット状態から動作磁界が印加されてソフト層のみが反転してマイナス信号が出力される状態が達成され、元の状態に戻る。したがって、4個の磁石430が回転軸線43まわりを1回転(360度回転)する間に、プラス信号が2パルス、マイナス信号が2パルス出力され、合計で4パルスの信号が出力されることが分かる。図示は省略するが、図2Aに示す配置での3次元磁気シミュレーションの結果も図3と実質的に同様であった。
【0081】
このように、多極構成の磁石420,430を磁界発生源400とするモデルにおいて、その運動によって検出領域140に形成される交番磁界が、磁性ワイヤ110の軸方向xの磁界に補正される機能を実現できる。図示は省略するが、2極構成の磁石を用いて磁界発生源400を構成する場合も同様である。
【0082】
次に、磁性ワイヤ110の位置で2つの磁束伝導片130,131の軸方向xの距離Dと、磁性ワイヤ110から検出領域140側にオフセットされた位置で2つの磁束伝導片130,131が対峙する間隔(距離L)との関係について説明する。距離Dは、具体的には、一対の軸直交部133の対向する内側面130b,131bの間の軸方向xの距離である。距離Lは、具体的には、一対の軸平行部134の近接端134a同士の軸方向xの距離である。磁束伝導片130,131が磁性ワイヤ110の軸中心位置113を通る対称面115に関して互いに対称な形状を有しているので、検出領域140(図1B参照)から見たときに、一対の近接端134aは、対称面115を挟んで対向している。
【0083】
以下では、軸直交部133の間の距離Dに対する軸平行部134の近接端134a同士の間隔Lの比率についての実験結果について説明する。
【0084】
上記のモデル(図2B参照)の構造について、磁性ワイヤ110の位置での磁束伝導片130,131間の距離Dに対する近接端134aの間の距離Lの比率と、コイル120から出力されるパルス信号の波高との関係を確認した。その結果を図4に示す。図4の横軸は距離(D)対する距離Lの比率(%)を表し、同図の縦軸は出力波高を表す。出力波高は、その最大値を1として規格化して表してある。パルスの信号の波高は、磁石430を正転方向に回転させたときに出力される正負2パルスの波高の絶対値と、それらを反転方向に回転させたときに出力される正負2パルスの波高の絶対値との平均値である。
【0085】
図4より、磁性ワイヤ110の素性が有する大バルクハウゼン効果の100%を引き起こすことが可能となるのは、約20%から45%の比率であることが分かる。約5%の比率では、磁性ワイヤ110の素性から大バルクハウゼン効果が数%低下している。これは、軸平行部134の近接端134a同士の間隔が狭い(距離Lが小さい)ために、この狭い間隔を通って形成される磁気通路による影響であると推測される。約50%を超える比率になると、磁性ワイヤ110の素性よりも低い大バルクハウゼン効果となる。これは、磁石430と対向する軟磁性体部品の面積の減少によると推測される。すなわち、磁束伝導片130,131の軸平行部134が磁性ワイヤ110を磁石430から覆う面積が少なく、それにより、前述したシールド効果が減少することが影響していると推測される。
【0086】
5%~50%の範囲の比率とすれば、磁性ワイヤ110の素性の90%以上の大バルクハウゼン効果を引き起こすことが可能となる。さらに20%~40%の範囲の比率とすれば、磁性ワイヤ110の素性が有する大バルクハウゼン効果の100%を引き起こすことが可能となる。
【0087】
以上のように、軟磁性体部品からなる磁束伝導片130,131は、磁界発生源が検出領域140に形成する交番磁界を、磁性ワイヤ110の軸方向xに補正して当該磁性ワイヤ110に印加する機能を有する。それにより、磁性ワイヤ110に巻回されたコイル120に誘発される信号が高出力になる。このような磁界補正機能を有する磁束伝導片130,131を一体的に備えた発電センサ100は、多様な検出媒体に対応することができる。
【0088】
また、一対の磁束伝導片130,131の磁性ワイヤ110の位置における距離Dに対して、磁性ワイヤ110から検出領域140側にオフセットされた位置で対向する近接端134a同士の距離Lの比率を前述の範囲に定めることによって、磁束伝導片130,131は前述のような優れた磁界補正機能を発揮する。磁性ワイヤ110の軸長が異なる場合であっても、比率の範囲を守るように設計すれば足りるので、磁束伝導片130,131の形状設計は容易である。
【0089】
図1Aおよび図1Bの例では、磁性ワイヤ110の第1端部111および第2端部112は、軟磁性体部品からなる磁束伝導片130,131より露出している。しかし、第1端部111および第2端部112は、磁束伝導片130,131から露出しなくてもよい。また、露出する場合に、第1端部111および第2端部112は、磁束伝導片130,131から軸方向xに突出していてもよく、突出していなくてもよい。突出する場合の突出長は限定されない。軟磁性体部品からなる磁束伝導片130,131に軸方向xに貫通して形成されるワイヤ配置部130a,131aを構成する穴の径または溝の幅は、使用する磁性ワイヤ110に応力がかからないように、磁性ワイヤ110が滑る(摺接する)程度の穴径または溝幅以上が好ましい。具体的には、磁性ワイヤ110の径の数%以内の大きめの径または幅に定めればよい。
【0090】
ワイヤ配置部130a,131aは、軸方向xに磁束伝導片130,131を見たときに、磁界発生源に対向しない側、すなわち、検出領域140から離れる方向にオフセットした位置に配置されることが好ましい。すなわち、図1Aに示すように、磁性ワイヤ110から軸直交部133の一端(検出領域140とは反対の端)までの距離hと、磁性ワイヤ110から磁束伝導片130,131の検出領域対向面134bまでの距離Hとが、h<Hの関係となることが好ましい。より好ましくは、距離hをコイル120の半径とほぼ等しくすることにより、磁束伝導片130,131の軸直交方向zの長さh+Hが短くなり、発電センサ100の軸直交方向zの大きさを小さくできる。また、磁束伝導片130,131を軸方向xに見たときの磁束伝導片130,131の幅tをコイル120の直径とほぼ等しくすれば、発電センサ100の幅方向yの大きさを小さくできる。こうして、発電センサ100を小型にすることができる。
【0091】
磁束伝導片130,131を構成する軟磁性体部品は、保磁力が磁性ワイヤ110の保磁力以下であり、かつ高透磁率(たとえば500以上)の磁性体で構成することが好ましく、具体的には、Ni系フェライトまたはMn系フェライトを含む材質が好ましい。これらの材質は、低ヒステリシス、低自己誘電、低鉄損等の優れた特性を備えており、そのため、磁界発生源が高速移動したときに生じる高周波の交番磁界が発電センサ100に印加されたときに、出力特性に影響が出ない利点がある。
【0092】
さらに、磁束伝導片130,131を貫通して形成される穴の幅、すなわち、軸直交部133の厚さW(図1A参照)は、大きすぎると、コイル120の配置幅が狭くなるので磁性ワイヤ110の大バルクハウゼン効果をピックアップする効率が低下し、小さすぎると、磁気通路が狭くなる。そのため、実験的知見より、厚さWは、磁性ワイヤ110の全長の10%~20%が好ましい。
【0093】
[第1実施形態の具体例]
図5Aは、上記のモデルに対応する回転型のパルス信号発生器1を備えた回転検出装置2の具体的な構造例を説明するための斜視図であり、図5Bはその平面図である。また、図5Cは、図5Bの矢印VC方向に見た正面図である。回転検出装置2は、エンコーダの一例であり、回転軸50の中心軸線40(回転軸線)まわりの回転位置を検出する。回転検出装置2は、この例では、パルス信号発生器1およびセンサ要素55(たとえば磁気センサ)を含む。図示は省略するが、回転検出装置2は、パルス信号発生器1が発生するパルス出力を信号処理して計数するカウント処理回路、カウント処理回路による計数結果を保存する不揮発性メモリなどをさらに含んでいてもよい。カウント処理回路は、センサ要素55の出力を考慮して計数動作を行うように構成されていてもよい。
【0094】
パルス信号発生器1は、発電センサ100と、磁界発生源400とを含む。発電センサ100は、第1の支持体51に配置され、当該第1の支持体51に支持されている。この実施形態では、第1の支持体51に、センサ要素55も搭載されている。
【0095】
磁界発生源400は、第2の支持体52に固定されている。第2の支持体52は、第1の支持体51に対して相対移動する。具体的には、第2の支持体52は、回転軸50に結合(固定)されており、回転軸50とともに中心軸線40(回転軸線)まわりに回転する。したがって、第2の支持体52は、回転体の一部であり得る。それに対して、第1の支持体51は、固定配置されていて、非回転状態に保持されている。それにより、磁界発生源400は、第2の支持体52とともに中心軸線40まわりに回転して、第1の支持体51に対して相対移動する。
【0096】
回転軸50は、典型的には、電動モータ(図示せず)の駆動軸からの駆動力によって回転される。電動モータが双方向に駆動される場合には、それに応じて、回転軸50は反時計回り方向CCWおよび時計回り方向CWの双方向に回転する。第1の支持体51は、中心軸線40に直交する平面に沿って配置されたプリント基板20(図1Aおよび図1B参照)であってもよい。
【0097】
磁界発生源400は、この例では、中心軸線40を取り囲むリング状の多極着磁磁石M(図示の例では4極着磁磁石)で構成されている。着磁方向は、中心軸線40と平行、すなわち、軸直交方向zである。4極着磁磁石Mは、中心軸線40の一方向から見たときに、中心軸線40を中心とする円周上にN極およびS極が交互に配列されたk個(kは自然数。好ましくはk≧2。図示の例ではk=2)の磁極対(N極とS極との対)が配列された構成を有し、k個のN極n1,n2,…,nkおよびk個のS極s1,s2,…,skを有している。各磁極n1,n2,…,nk;s1,s2,…,skは、中心軸線40まわりの360度/2k(この実施形態では90度)の角度領域に渡っている。したがって、回転軸50とともに第2の支持体52が回転し、それに応じて磁界発生源400が中心軸線40(回転軸線)まわりに回転することにより、発電センサ100にはk周期(図示の例では2周期)の交番磁界が印加される。
【0098】
発電センサ100は、第1の支持体51(プリント基板20)の一方主面に実装されている。発電センサ100の磁性ワイヤ110は、中心軸線40上に中心を有する円周の接線上にあり、磁性ワイヤ110の軸中心位置113は、当該接線の接点上にある。発電センサ100は、中心軸線40まわりの360度/2k(この実施形態では90度)の角度領域に渡る一つの磁極n1,n2,…,nk;s1,s2,…,skの中央と磁性ワイヤ110の軸中心位置113とが整合するときに、2つの磁束伝導片130,131から伝導される磁気がバランスするように配置されている。コイル120は、たとえば、N極n1,n2,…,nkからの磁束が一つの磁束伝導片131から伝導される第1状態で負の電圧パルスを生成し、N極n1,n2,…,nkからの磁束が他の磁束伝導片130から伝導される第2状態で正の電圧パルスを生成する。
【0099】
磁束伝導片130,131の軸平行部134は、検出領域140に対向する検出領域対向面134bを検出領域側に形成している。検出領域対向面134bは、軸方向xに平行な平坦面である。この検出領域対向面134bは、検出領域140に磁極が配置されたときに、その磁極からの磁束を磁束伝導片130,131の内部へと導く磁束伝導端を形成している。
【0100】
磁束伝導片130,131の軸平行部134が第1の支持体51(プリント基板20)の一方の主面に形成された配線パターン(図示せず)に接合され、それによって、発電センサ100が第1の支持体51(プリント基板20)に面実装されている。発電センサ100は、中心軸線40上に中心を有する円周上の一つの点(接点)における接線に磁性ワイヤ110の軸方向xが沿うように配置されており、磁性ワイヤ110の軸中心位置113が当該接点に一致する配置となっている。発電センサ100の検出領域140は、軸平行部134に対して磁性ワイヤ110とは反対側であり、この例では、第1の支持体51(プリント基板20)の他方の主面側の領域である。
【0101】
第2の支持体52は、この例では、中心軸線40を取り囲む円環状に構成されている。より具体的には、第2の支持体52は、円環状の板状体で構成されており、中心軸線40と直交する平面に沿って配置されていて、第1の支持体51(プリント基板20)と平行になっている。第2の支持体52において、第1の支持体51(プリント基板20)の前記他方の主面に対向する面に、磁石Mが固定されている。磁石Mの磁極n1,s1,n2,s2,…,nk,skは、この実施形態では、中心軸線40まわりの周方向に等間隔で配置されている。図示の具体例では、中心軸線40まわりに90度の角度間隔で4つの磁極n1,s1,n2,s2が配置され、それらが第1の支持体51(プリント基板20)に対向するように、磁石Mが第2の支持体52に固定されている。中心軸線40から磁極n1,s1,n2,s2,…,nk,skの中心までの距離は、中心軸線40から磁性ワイヤ110の軸中心位置113までの距離に等しくてもよい。すなわち、中心軸線40に沿う平面視において、磁性ワイヤ110および磁極n1,s1,n2,s2,…,nk,skは、中心軸線40を中心軸線とする等しい半径の円周上に位置し、それによって、中心軸線40に平行な方向に対向可能な位置関係となっていてもよい。第2の支持体52は、軟磁性体で構成されたヨークであることが好ましい。
【0102】
第2の支持体52が回転軸50とともに中心軸線40(回転軸線)まわりに回転することにより、磁極n1,s1,n2,s2,…,nk,skは、中心軸線40を中心とし、検出領域140を通る円周状の軌道30上を移動する。磁性ワイヤ110の軸方向xは、円周状の軌道30上の或る点(接点)を通る接線と平行であり、軸中心位置113は、当該接点において当該接線に立てた垂線(この例では、中心軸線40に平行な垂線)上にある。換言すれば、磁性ワイヤ110の軸中心位置113は、中心軸線40上に中心を有し、円周状の軌道30と等しい半径の円周上の或る点(接点)に位置し、磁性ワイヤ110は、当該接点における接線に沿っている。
【0103】
第1の支持体51および第2の支持体52の中心軸線40に沿う方向の距離は、第2の支持体52の回転によって、磁極n1,s1,n2,s2,…,nk,skが発電センサ100の検出領域140に進入可能な適切な値に定められる。
【0104】
第1の支持体51を構成するプリント基板20において、発電センサ100が実装されている主面には、さらに、たとえば磁気センサからなるセンサ要素55が実装されている。プリント基板20の主面には、さらに前述のカウント処理回路、不揮発性メモリなどの他の電気部品または電子部品が実装されていてもよい。
【0105】
センサ要素55は、発電センサ100の中央部に対向する磁極の極性を検出できるように配置されている。センサ要素55は、たとえば、ホールIC等の磁気センサからなり、N極を検知すると(発電センサ100の中央部にN極が対向すると)H信号を出力し、S極を検知すると(発電センサ100の中央部にS極が対向すると)L信号を出力する。それにより、センサ要素55は、その近傍を通る磁極の極性を判別し、結果として、発電センサ100の中央部に対向する磁極の極性を識別する識別信号を出力する。この実施形態では、センサ要素55は、発電センサ100に対して、中心軸線40まわりの位相差180度の位置、すなわち、中心軸線40に関して対称な位置で磁極を検出するように配置されている。kが偶数(たとえば2)であれば、センサ要素55は、発電センサ100の中央部に対向する磁極と同じ極性の磁極を検出する。kが奇数(たとえば3)のとき、センサ要素55は、発電センサ100の中央部に対向する磁極と反対の極性の磁極を検出する。いずれの場合でも、センサ要素55は、発電センサ100の中央部に対向する磁極の極性を検出できる。
【0106】
このような構成により、中心軸線40(回転軸線)まわりの反時計回り方向CCWの回転によって、一つの磁極対n1,s1;n2,s2;…;nk,skが円周状の軌道30に沿って検出領域140を通過するたびに、一つの負パルスと一つの正パルスとが順に生成される。また、中心軸線40(回転軸線)まわりの時計回り方向CWの回転によって、一つの磁極対n1,s1;n2,s2;…;nk,skが円周状の軌道30に沿って検出領域140を通過するたびに、一つの正パルスと一つの負パルスとが順に生成される。そして、これらのパルスと、磁束伝導片130,131の間の円周状の軌道30上にある磁極の極性を表す識別信号を出力するセンサ要素55とによって、回転位置および回転方向を識別することができる。
【0107】
図5A図5Cに示す具体例は、k=2の場合、すなわちリング状の4極着磁磁石Mによって磁界発生源400が構成されている。出願人の試作例では、磁性ワイヤ110の全長Lwは11mm、リング状の磁石Mの直径は12mm、磁性ワイヤ110の軸中心位置113からリングの磁石Mの表面までの距離Ldは4mm(磁性ワイヤ110の全長Lwの36%)であった。
【0108】
なお、回転軸50が磁石を貫通する必要がなければ、リング状磁石Mに代えて、円盤状の磁石を用いてもよい。
【0109】
図6Aおよび図6Bに他の構成例を示す。図6Aおよび図6Bにおいて、図5Aおよび図5Bの各部の対応部分に同一参照符号を付す。この構成例は、磁界発生源の構成が図5A図5Cの構成例とは異なる。図5A図5Cに示した構成例においては、多極着磁した一つのリング状の磁石Mが磁界発生源400を構成しているのに対して、図6Aおよび図6Bに示す構成例では、複数個、すなわち2k個(図示の例ではk=2)の個別磁石M1,M2,…を第2の支持体52に固定して、図5A等に示した構成と同様の機能を達成している。個別磁石M1,M2,…は、中心軸線40に平行な方向、すなわち軸直交方向zに着磁されており、中心軸線40まわりに等角度間隔で配置されている。中心軸線40に平行な方向から見た平面視(図6B参照)において、周方向にN極およびS極が交互に並んでいる。すなわち、第2の支持体52が中心軸線40(回転軸線)まわりの一方向に回転することにより、N極およびS極が発電センサ100の検出領域140(図5C参照)に交互に進入し、発電センサ100の近傍に交番磁界を生成する。生産性の観点では、複数の個別磁石M1,M2,…を第2の支持体52にそれぞれ固定する必要がある図6Aおよび図6Bの構造よりも、1個の多極磁石を用いる図5A図5Cの構造の方が有利である。
【0110】
前述のとおり、同極性の磁極が発電センサ100に対向する構成としてもよい。この場合、図6Bと同様の視点から見た平面図である図7に示すように、複数の個別磁石M1,M2,…を、同じ極性の磁極(図示の例ではN極)が検出領域140(図5C参照)において発電センサ100に対向するように、第2の支持体52に固定すればよい。第2の支持体52が中心軸線40(回転軸線)まわりに一方向に回転すると、間隔を空けて配置された同極性の磁極が順に検出領域140に進入する。それによって、検出領域140の近傍において一方向磁界が移動し、その結果、磁性ワイヤ110に交番磁界が印加され、それに応じて、発電センサ100がパルス電圧を生成する。この場合、磁極数は偶数である必要はなく、奇数個の同極性磁極を中心軸線まわりの円周上に等間隔配置してもよい。
【0111】
図8Aおよび図8Bにさらに別の構成例を示す。図8Aおよび図8Bにおいて、図5Aおよび図5Bの各部の対応部分に同一参照符号を付す。この構成例は、磁界発生源400の構成が図5A等の構成例とは異なる。具体的には、図5A図5Cの構成では、4個の磁極が中心軸線40まわりの周上に等間隔配置された多極磁石(4極磁石)Mで磁界発生源400が構成されている。それに対して、図8Aおよび図8Bの構成例では、6個の磁極が中心軸線40まわりの周上に等間隔配置された多極磁石(6極磁石)Mで磁界発生源400が構成されている。すなわち、k=3の例である。
【0112】
さらに、この構成例においては、磁束伝導片130,131の構成も異なっている。具体的には、軸直交部133の構成が異なる。さらに具体的には、軸直交部133は、磁性ワイヤ110から検出領域140に向かって、すなわち磁界発生源400に向かって延びる部分のみを有し、磁性ワイヤ110から検出領域140とは反対側、すなわち磁界発生源400から離れる方向に延びる部分を有していない。このような構成によっても、軸平行部134によって集められた磁界は軸直交部133によって磁性ワイヤ110の両端に導かれるので、図5A図5Cに示した構成と同様のパルス信号をコイル120から生成させることができる。図5A図5C図6Aおよび図6B、ならびに図7の構成においても、図8Aおよび図8Bに示した構成の磁束伝導片130,131を適用できる。
【0113】
たとえば、前述の4極磁石を用いた試作例と同様に、たとえば、磁性ワイヤ110の全長Lwは11mm、リング状磁石Mの直径は12mm、磁性ワイヤ110の軸中心位置113からリング磁石Mの表面までの距離Ldは4mm(磁性ワイヤの全長の約36%)として動作させることができる。すなわち、磁極数を増やして分解能を高める場合でも、発電センサ100の設計を実質的に変更する必要はなく、リング状磁石Mを大きくする必要もない。
【0114】
図5A図5Cならびに図8Aおよび8Bに示した構成のいずれにおいても、リング状磁石Mの外径が少なくとも8mm程度であれば、中心軸線40に沿って見た平面視において、磁束伝導片130,131の軸平行部134と磁極(リング状磁石M)とが少なくとも部分的に重なり合う。それにより、検出領域140において交番磁界を生成でき、発電センサ100からパルス電圧を生成させることができる。
【0115】
[L字形磁束伝導片とI字形磁束伝導片との比較]
図9Aおよび図9Bは、発電センサ100の検出領域に磁石410を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果を示す。磁石410の着磁方向は、軸直交方向zであり、磁石410の磁極は、発電センサ100に対向する側がN極、その反対側がS極である。磁性ワイヤ110の全長Lwは11mmであり、磁石410の表面から磁性ワイヤ110の軸中心位置(軸方向xの中心位置)までの距離Ldは4.5mmである。この場合、磁性ワイヤ全長Lwに対する距離Ldの比率Ld/Lwは、約40%である。
【0116】
図9Aは、磁性ワイヤ110の軸中心位置に磁石410が対向するとき、すなわち、磁石410が発電センサ100の検出領域の中央部にあるときの磁束を表す。図9Aに示すとおり、磁石410が中央にあるときには、一対の磁束伝導片130,131に入る磁束がバランスしており、磁性ワイヤ110に磁束は通らない。磁石410から磁性ワイヤ110の軸方向中間部に向かう磁束は、磁束伝導片130,131の軸平行部134によって遮蔽され、かつ軸平行部134によって集められて、磁束伝導片130,131内を通って伝導する。
【0117】
図9Bは、図9Aの場合の磁石410の位置を基準位置として、磁石410が基準位置の右に0.5mmの位置にあるときの磁束を表す。図9Bに表れているとおり、磁石410が基準位置から少し右に動くと、図中右の磁束伝導片130から左の磁束伝導片131に向かって、磁性ワイヤ110に磁束が通る。
【0118】
図9Cは、磁石410を基準位置から0.5mm間隔で右に動かした各磁石位置において、磁性ワイヤ110の各部での磁束密度を調べた結果を示す。横軸は磁性ワイヤ110内の位置を示し、0は磁性ワイヤ110の軸中心位置である。縦軸は磁束密度である。2次元シミュレーションでは簡易的に磁束の流れる方向および磁束密度の傾向を知ることができるが、磁束密度の絶対値は求められないので、グラフの縦軸は任意単位(arb.unit)としている。また、グラフでは図の左から右に向かう磁束を正、右から左に向かう磁束を負としている。
【0119】
磁石位置が基準位置から離れるに従って、磁性ワイヤ110中の磁束密度が高くなっているのが分かる。また、磁性ワイヤ110の内部では、ほぼ一定の磁束密度になっており、軸方向位置によらずにほぼ一様な磁束密度となっていることが分かる。図示していないが、基準位置に対して左側の磁石位置では、磁束密度の符号が反転して同様の結果が得られる。
【0120】
図10Aおよび図10Bは、軸平行部のない磁束伝導片130i,131iを用いて構成した発電センサ100iの検出領域に磁石410を配置した場合の2次元磁気シミュレーション結果を示す。磁束伝導片130i,131iは、磁性ワイヤ110の軸方向xに直交する軸直交部のみを有するI字形の構造を有している。図9Aおよび図9Bの場合と同様に、磁石410の着磁方向は、軸直交方向zであり、磁石410の磁極は、発電センサに対向する側がN極、その反対側がS極である。磁性ワイヤ110の全長Lwは11mmであり、磁石表面から磁性ワイヤ110までの軸直交方向zの距離Ldは4.5mmである。この場合、磁性ワイヤ全長Lwに対する距離Ldの比率Ld/Lwは、約40%である。
【0121】
軸平行部がないので、磁石410からの磁束が磁性ワイヤ110の軸方向中間部に入る。図10Aに示す通り、磁石410が発電センサ100iの中央にあるとき、磁性ワイヤ110の軸方向中心付近から両端に向けて異なる方向の磁束が通る。図10Bは、図10Aの磁石410の位置を基準位置として、磁石410が基準位置から右に0.5mmの位置にあるときの磁束を表す。図10Aの場合と同様に、磁石410からの磁束が磁性ワイヤ110の軸方向中間部に入り、磁性ワイヤ110の軸方向中心よりもやや右の位置から両端に向けて異なる方向の磁束が通る。
【0122】
図10Cは、磁石410を基準位置から0.5mm間隔で右に動かした各磁石位置において、磁性ワイヤ110の各部での磁束密度を調べた結果を示す。横軸および縦軸は図9Cの場合と同様である。図10Cに示すとおり、軸平行部がないI字形の磁束伝導片130i,131iを用いる場合、磁性ワイヤ110内の軸方向位置により磁束密度が異なり、磁性ワイヤ110中の磁束密度が均一にならない。それによって、出力特性の劣化を招き、パルス電圧が出力されないおそれがある。
【0123】
図11A図11Bおよび図11Cは、図10A図10Cに示したシミュレーションの場合に比較して、磁石410から磁性ワイヤ110までの軸直交方向zの距離Ldを長くして、6mmとし、さらに、その距離の増加分だけ磁束伝導片130i,131iを磁石側に伸長した場合のシミュレーション結果である。このときの、磁性ワイヤ全長Lwに対する距離Ldの比率Ld/Lwは、約55%である。図10A図10Bおよび図10Cと比較すると、磁束密度の均一性は改善されているが、十分ではない。さらに距離Ldを長くすれば磁束密度の均一性は改善されるが、軸直交方向zの寸法増大を招くので、小型のパルス信号発生器を構成し難い。
【0124】
このように、L字形の磁束伝導片130,131の軸平行部134は、磁性ワイヤ110の軸方向中間部に入る磁束を遮断し、かつ磁束を集めて磁性ワイヤ110の両端に誘導する。それにより、磁性ワイヤ110の軸長全体に渡って磁束密度の均一性が向上する。軸平行部が無いI字型の磁束伝導片130i,131iを用いると、磁性ワイヤ110と磁石410との距離Ldを磁性ワイヤ長Lwの50%以下とする設計は難しいが、軸平行部134を有するL字型の磁束伝導片130,131を用いると、当該距離Ldを磁性ワイヤ長Lwの50%以下とする設計が容易であり、パルス信号発生器の軸直交方向zのサイズ縮小が可能になる。
【0125】
図12A図12Bおよび図12Cは、軸平行部を有するL字形の磁束伝導片130,131を有する発電センサ100の検出領域に磁石411,412,413を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果を示す。図9A図9Cのシミュレーションと同じく、磁性ワイヤ110の全長Lwは11mmであり、磁石表面から磁性ワイヤ110までの軸直交方向zの距離Ldは4.5mmである。磁性ワイヤ全長Lwに対する距離Ldの比率Ld/Lwは、約40%である。一方、図9A図9Cのシミュレーションとは異なり、磁性ワイヤ110と平行に検出領域を横切る直線状の軌道30上に3個の磁極が配列されている。この例では、軸直交方向zに着磁した3個の個別磁石411,412,413を用いて、S極、N極およびS極が順に配列されている。この例では、同形同大の円盤状の個別磁石411,412,413を3個準備し、それらを直線状の軌道30に沿って接触して配置してある。したがって、磁極ピッチLpは個別磁石411,412,413の直径に等しい。磁極ピッチLpは、8.5mmに設定してある。この例では、磁極ピッチLpは、一対の軸直交部133の軸方向中心位置の間の距離Lcに等しく、磁性ワイヤ110に与えられる交番磁界の振幅が最も大きくなる条件である。
【0126】
図12Aおよび図12Bに示すように、N極が中央に位置し、その両側にS極が位置している。図12Aでは、N極が磁性ワイヤ110の軸方向中心位置に対向し、したがって、N極とその両側のS極との境界が両側の磁束伝導片130,131の軸直交部133の軸方向中心位置にそれぞれ対向している。図12Bは、図12Aの磁極配置を基準位置として、その基準位置から右に0.5mm動いた磁極配置での磁束を表す。
【0127】
図12Aに表れているように、中央の磁極(N極)が発電センサ100の中央に対向するときには、磁性ワイヤ110に磁束は通らない。一方、図12Bに表れているとおり、N極が発電センサ100の中央から少し右に動くと,右の磁束伝導片130から左の磁束伝導片131に向かって磁性ワイヤ110に磁束が通る。
【0128】
図12Cは、磁極を基準位置(図12A参照)から0.5mmずつ右に動かした各磁極配置において、磁性ワイヤ110の各部での磁束密度を調べた結果を示す。横軸および縦軸は、図9Cの場合と同様である。磁極配置が基準位置から離れるに従って、磁性ワイヤ110の磁束密度が高くなっているのが分かる。また、磁性ワイヤ110の内部では、いずれの軸方向位置でもほぼ一定の磁束密度になっており、軸方向位置によらずにほぼ一様な磁束密度となっていることが分かる。全体の磁束密度は、単一磁石の場合(図9C参照)よりも高い。図示していないが、基準位置に対して左側の磁極配置では、磁束密度の符号が反転して同様の結果が得られる。
【0129】
図13A図13Bおよび図13Cは、軸平行部のないI字形の磁束伝導片130i,131iを用いて構成した発電センサ100iの検出領域に磁石411,412,413を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果を示す。図11A図11Cのシミュレーションと同じく、磁性ワイヤ110の全長Lwは11mmであり、磁石表面から磁性ワイヤ110までの軸直交方向zの距離Ldは6mmである。この場合、磁性ワイヤ全長Lwに対する距離Ldの比率Ld/Lwは、約55%である。磁界発生源は、図12A図12Aのシミュレーションと同じく、3個の個別磁石411,412,413で構成されている。
【0130】
図11A図11Cとの比較から分かるように、単体磁石(単一の磁石)で磁界発生源を構成したときと同様の傾向が表れている。ただし、単体磁石の場合(図11A図11C)に比べて磁束密度が高くなり、それに応じて、磁性ワイヤ110内での磁束密度の均一性は悪くなっている。磁性ワイヤ110の軸方向中心部での磁束密度は、磁石位置に応じて変化する。
【0131】
図14A図14Bおよび図14Cは、軸平行部を有するL字形の磁束伝導片130,131を有する発電センサ100の検出領域に磁石421~425を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果を示す。図12A図12Cのシミュレーションとの相違は、磁極ピッチLpであり、この例では、4.25mmに設定してある。この磁極ピッチLpは、一対の軸直交部133の軸方向中心位置の間の距離Lcの50%に相当する。具体的には、磁性ワイヤ110と平行に検出領域を横切る直線状の軌道30上に5個の磁極が配列されている。この例では、軸直交方向zに着磁した5個の個別磁石421~425を用いて、N極、S極、N極、S極およびN極が順に配列されている。この例では、同形同大の円盤状の5個の個別磁石421~425を準備し、それらを直線状の軌道30に沿って接触して配置してある。したがって、磁極ピッチLpは個別磁石421~425の直径に等しい。
【0132】
図12A図12Cとの比較から、磁極ピッチLpの縮小によって、磁束密度が低くなることが分かる。しかし、磁石位置による磁束密度の変化は得られており、磁束密度の均一性についても問題ない。したがって、発電センサ100からパルス電圧を発生させることができる。
【0133】
図15A図15Bおよび図15Cは、軸平行部のないI字形の磁束伝導片130i,131iを用いて構成した発電センサ100iの検出領域に磁石421~425を配置したときの2次元磁気シミュレーション結果を示す。図13A図13Cのシミュレーションとの相違は、磁極ピッチLpであり、図14A図14Cのシミュレーションの場合と同じく、4.25mmに設定してある。つまり、I字形の磁束伝導片130i,131iの軸方向中心位置間の距離Lcの50%である。磁界発生源の構成は、図14A図14Cのシミュレーションと同じであり、5個の個別磁石421~425を用いて、検出領域を通る直線状の軌道30上に5個の磁極(順にN極、S極、N極、S極およびN極)が配列されている。
【0134】
図15Cに表れているように、磁石位置の変化による磁束密度の変化がほとんどなくなる。よって、パルス出力を得られなくなる。理論的には、磁性ワイヤ110の軸方向中心位置での磁束密度は変化しない。図15Cにおいて多少の変化が見られるのは、シミュレーション条件に起因する誤差である。具体的には、左端の磁石421の左隣に他の磁石が無いことによる。
【0135】
このように、軸平行部を持たないI字形磁束伝導片130i,131iを用いた発電センサ100iは、磁束伝導片130i,131i間の距離Lc(より具体的にはI字形磁束伝導片130i,131iの軸方向中心位置間の距離)よりも狭い磁極ピッチLpの磁石と組み合わせでは、磁束密度の減少が激しい。一般的には、磁束伝導片130i,131i間の距離と同じか、それよりも長い磁極ピッチの磁石と組み合わせて使用する必要がある。磁束伝導片130i,131i間の距離の半分の磁極ピッチになると、磁性ワイヤ110の軸方向中心での磁束密度は0となり、磁石が移動しても磁束密度が変化しないため、パルス信号を発生できなくなる。
【0136】
これに対して、軸平行部を持つL字形磁束伝導片130,131を用いて構成された発電センサ100の場合、磁極ピッチLpが変化しても比較的安定した特性が得られる。とくに磁極ピッチLpが、磁束伝導片130,131の軸直交部133間の距離Lc(より具体的には軸直交部133の軸方向中心位置間の距離)の半分になっても十分動作することが可能であり、パルス電圧を発生できる。したがって、幅広い磁極ピッチLpに対応が可能で、磁極ピッチLpが変わっても同じ設計の発電センサ100を使用できる。
【0137】
図16は、磁極ピッチLpの好ましい条件の一例を説明するための図である。この例では、磁界発生源400の複数の磁極は、軸直交方向zに着磁した多極磁石440で構成されている。そして、複数の磁極は、検出領域140において磁性ワイヤ110に平行な直線部を有する軌道30に沿って移動する。この移動は、発電センサ100に対する相対移動であり、発電センサ100が静止し、多極磁石440が移動してもよいし、発電センサ100が移動し、多極磁石440が静止してもよいし、発電センサ100および多極磁石440の両方が移動してもよい。
【0138】
多極磁石440の隣り合う磁極の間隔、すなわち磁極ピッチLpは、一対の磁束伝導片130,131の軸直交部133の軸方向中心位置の間の距離Lcの半分(Lc/2)よりも長い。距離Lcは、言い換えれば、磁性ワイヤ110と一対の磁束伝導片130,131のそれぞれの軸直交部133とが交差する一対の交差部137における軸方向xの中心位置の間の距離である。(Lc/2)<Lpの条件が充足されれば、多極磁石440の移動に伴う磁界の変化によって、発電センサ100からパルス電圧を発生させることができる。磁極ピッチLpが距離Lc以上であっても発電センサ100からパルス電圧を発生させることができる。その一方で、磁極ピッチLpを距離Lcよりも短くする設計も可能であり、それにより、発電センサ100の設計を実質的に変更することなく多極磁石440の軌道30に沿う単位長あたりの磁極数を増やして、分解能の高い位置検出のために、発電センサ100の出力を用いることができる。よって、磁極ピッチLpを、(Lc/2)<Lp<Lcの範囲とすることにより、発電センサ100の設計を実質的に変更することなく、分解能の高い直動型のパルス信号発生器を実現できる。
【0139】
図17は、磁極ピッチの好ましい条件の他の例を説明するための図である。この例では、磁界発生源400の複数の磁極は、軸直交方向zに着磁した多極磁石450で構成されている。より具体的には、多極磁石450は、軸直交方向z(図17の紙面に垂直な方向)に平行な中心軸線40に中心を整合させ、その中心軸線40(回転軸線)まわりに回転移動するリング状磁石であって、等角度間隔で複数の磁極451~456の領域を有するように着磁されている。回転移動は、発電センサ100に対する相対移動であり、発電センサ100が静止し、多極磁石450が回転移動してもよいし、発電センサ100が回転移動し、多極磁石450が静止してもよいし、発電センサ100および多極磁石450の両方が回転移動してもよい。このような回転移動によって、多極磁石450の複数の磁極451~456は、検出領域140において磁性ワイヤ110に平行な接線を有する円弧部を含む軌道30に沿って移動する。この例では、軌道30の全体が円周をなしており、円周の中心は中心軸線40上にある。
【0140】
多極磁石450の隣り合う磁極の間隔は、この場合、中心軸線40から見た角度、すなわち磁極間角度ピッチθpによって定義するのが妥当である。そこで、中心軸線40から一対の磁束伝導片130,131の軸直交部133を見たときの角度間隔θcを導入する。角度間隔θcは、具体的には、中心軸線40に沿って見た平面視において、中心軸線40から磁性ワイヤ110上における軸直交部133の軸方向中心位置に向けて引いた2つの半直線の挟角である。言い換えれば、角度間隔θcは、磁性ワイヤ110と一対の磁束伝導片130,131のそれぞれの軸直交部133とが交差する一対の交差部137における軸方向xの中心位置に中心軸線40から垂直に延ばした一対の半直線の挟角である。
【0141】
中心軸線40まわりの周方向に隣り合う磁極の間隔、すなわち磁極間角度ピッチθpは、一対の磁束伝導片130,131の軸直交部133の軸方向中心位置の間の角度間隔θcの半分よりも大きい。この条件が充足されれば、多極磁石450の回転移動に伴う磁界の変化によって、発電センサ100からパルス電圧を発生させることができる。磁極間角度ピッチθpが角度間隔θc以上であっても発電センサからパルス電圧を発生させることができる。その一方で、磁極間角度ピッチθpを角度間隔θcよりも小さくする設計も可能であり、それにより、発電センサ100の設計を実質的に変更することなく、かつ多極磁石450の径を大きくすることなく、磁極数を増やして、分解能の高い回転位置検出のために発電センサ100の出力を用いることができる。よって、磁極間角度ピッチθpを、(θc/2)<θp<θcの範囲とすることにより、発電センサ100の設計を実質的に変更することなく、かつ磁石450を大型化することなく、分解能の高い回転型のパルス信号発生器を実現できる。
【0142】
図18は、回転型のパルス信号発生器における発電センサ100と多極磁石450との大きさの関係を説明するための平面図である。L字形の磁束伝導片130,131は、軸平行部134を有しているので、軸平行部134を有しないI字形の磁束伝導片よりも、磁石との対向面積、すなわち集磁面積が大きい。そのため、I字形の磁束伝導片を用いる場合よりも小さな磁石との組み合わせにおいても、発電センサ100からパルス電圧を出力させることができる。具体的には、軸平行部を持たないI字形の磁束伝導片を用いる発電センサにおいては、中心軸線40(回転軸線)に沿って見た平面視において、磁束伝導片の全体が多極磁石450の外縁の内側に入る設計とするのが通常である。すなわち、中心軸線40から磁束伝導片の最遠端までの距離rb以上の半径の磁石が用いられる。一方、磁束伝導片130,131が軸平行部134を有する発電センサ100の場合には、軸平行部134によって集磁がなされるので、距離rb未満の半径の磁石を用いることが可能である。より具体的には、中心軸線40から磁束伝導片130,131の最近端までの距離raよりも大きな半径の磁石450を用いれば、磁石450の回転に応じて、発電センサ100からパルス電圧を発生させることができる設計が可能である。パルス信号発生器の小型化のためには、磁石450の半径が小さい方が有利であるので、磁石450の半径rmの好ましい範囲は、ra<rm<rbである。
【0143】
磁石が中心軸線40まわりの回転体でない場合まで一般化すると、磁極が軌道30に沿って検出領域140内の円弧部を通るときの磁石の回転軌跡の外周半径をrmとして、上記不等式を充足することが好ましい。
【0144】
この種のパルス信号発生器は、流量計、エンコーダなどの計測装置に用いられる。これらの計測装置の小型化の要求とともに分解能の向上などの要求がある。装置の小型化のために、パルス信号発生器には、設置面積が小さくかつ高さの低い設計が要求される。
【0145】
高さ方向のサイズを小さくするには、小さな磁石を使い、かつ磁石と発電センサとの距離を縮めて設計する必要がある。しかし、従来の発電センサでは、磁石を発電センサに近づけると、磁性ワイヤの軸方向中間部へ直接入る磁束が生じ、磁性ワイヤ内の磁束密度の均一性に問題が生じる。そのため、磁性ワイヤと磁石との間に十分な距離を確保するか、あるいは、発電センサとは別に磁束を遮蔽する構造(特許文献3参照)を設ける必要があった。そのため小型化が難しかった。磁性ワイヤと磁石との距離を大きくすると、磁界は距離の2乗に反比例して弱くなるので、強く大きな磁石を使用する必要があり、さらに小型化の阻害要因を生む。この実施形態の発電センサ100は、別途の遮蔽構造を用いることなく、磁性ワイヤ長Lwの1/2以下の極めて近い距離に磁石を近づけることが可能であるので、従来の発電センサでは達成し得ないレベルの小型化を達成できる。
【0146】
一方、分解能の向上のためには、同じ変位に対する交番磁界の周期を多くする必要があるので、磁石の磁極ピッチを狭めた設計が必要となる。一般的に、発電センサと組み合わせられる磁界発生源の磁極ピッチは、磁性ワイヤ長(磁束伝導片の間隔)に合わせて設計される。そのため、回転検出においては、一般的に、極数に比例して検出半径(回転軸線から磁性ワイヤまでの距離)を大きく設計する必要がある。この実施形態の発電センサ100においては、軸平行部134を有するL字形の磁束伝導片130,131を有することにより、磁性ワイヤ長(磁束伝導片間隔)よりも狭い磁極ピッチに対応できる。そのため、同じ検出半径で極数を増やすことができる。
【0147】
また、同じ半径の磁石で極数を増やすと、1極あたりの磁界は弱くなり、それに応じて、磁界も近くまでしか届かなくなる。そのため、より磁石に近い位置で磁界を検出する必要がある。前述のとおり、この実施形態の発電センサ100では、磁石近傍磁界の検出が可能である。すなわち、磁束伝導片130,131の軸平行部134が磁性ワイヤ110の軸方向中間部に向かう磁束を遮蔽するので、磁性ワイヤ110と磁石との距離を短くできる。
【0148】
また、小型化のためには小さな磁石を用いる方が有利である。この実施形態の発電センサ100では、磁束伝導片130,131の軸平行部134で集磁を行えるので、軸平行部134の一部が磁石に対向していれば、パルス電圧の発生に必要な磁束を集めることができる。そのため、小さな磁石での検出が可能であり、パルス信号発生器1の小型化が可能である。発電センサ100が発生するパルス信号の電力は概ね磁性ワイヤ110の長さで決まる。そこで、必要とする電力に応じて磁性ワイヤ110の長さを定め、その長さを変えることなく、パルス信号発生器1の小型化を図ることができる。
【0149】
[第2実施形態]
第1実施形態の発電センサ100の磁束伝導片130,131は、磁界発生源に対向する(検出領域140に対向する)平坦面を有しているので、この平面を面実装エリアとすることができる。
【0150】
図19A図19Bおよび図19Cは、それぞれ、第2実施形態に係る発電センサ200の構成を説明するための斜視図、一部分解斜視図および側面図である。第2実施形態の説明において、前述の第1実施形態の構成部分に対応する各部には、第1実施形態と同じ参照符号を用いる。
【0151】
この第2実施形態の発電センサ200においては、面実装が可能な外部端子電極240,241を軟磁性体部品からなる磁束伝導片130,131に直接設けている。
【0152】
具体的には、外部端子電極240,241が磁束伝導片130,131の磁界発生源に対向する面に設けられている。より具体的には、外部端子電極240,241は、軸平行部134の検出領域対向面134b、すなわち、軸平行部134に対して磁性ワイヤ110とは反対側の面に設けられている。外部端子電極240,241は、たとえば、メッキ層または導電ペーストと半田層とからなる。外部端子電極240,241は、この実施形態では、軸平行部134の検出領域対向面134bの全域を覆うように設けられている。ただし、外部端子電極240,241は、軸平行部134の検出領域対向面134bの一部の領域のみを覆うように設けられてもよい。
【0153】
この実施形態の発電センサ200は、さらに、磁性ワイヤ110、コイル120および磁束伝導片130,131を収容するケース210を備えている。ケース210は、磁束伝導片130,131の検出領域対向面134b側に開口した箱形に形成されており、磁束伝導片130,131の検出領域対向面134bを露出した状態で磁性ワイヤ110、コイル120および磁束伝導片130,131を収容するように構成されている。前述のように、磁性ワイヤ110は磁束伝導片130,131に固定されている。具体的には、磁性ワイヤ110の両端部111,112は、磁束伝導片130,131の軸直交部133を貫通して形成された穴または溝からなるワイヤ配置部130a,131aに樹脂によって固定されている。そして、磁束伝導片130,131およびコイル120は、たとえば接着樹脂および/または嵌合によって、ケース210に固定されている。これにより、ケース210まで含めて一体化されて完結した構成の発電センサ200が実現されている。
【0154】
図19Bはケース210を嵌める前の状態を表す一部分解斜視図であり、図19Cはケース210を取り外した状態で磁束伝導片130の側から軸方向xに見た側面図である。この実施形態では、実質的に直方体形状の軸直交部133は、軸方向xに直交しかつ検出領域対向面134bに平行な幅方向yに突出した突起130x,130y,131x,131yを幅方向yの両側に備えている。これらの突起130x,130y,131x,131yは、図示の例では、磁性ワイヤ110に対して検出領域対向面134bとは反対側に配置されている。軸直交部133において検出領域対向面134bとは反対側の端面には、幅方向yの両端の角に面取り部133a(たとえばアール面取り部)が形成されている。面取り部133aは、ケース210の挿入をスムーズにするガイド部として機能する。
【0155】
ケース210には、磁束伝導片130,131の突起130x,130y,131x,131yがそれぞれ嵌る穴220x,220y,221x,221yが対応位置に設けてある。また、ケース210に組み込むときに磁性ワイヤ110の両端部が接触しないように、ケース210に溝230,231が設けてある。溝230,231は、検出領域対向面134bと直交する軸直交方向zに延びており、この軸直交方向zから溝230,231に磁性ワイヤ110の両端部が挿入されるように、ケース210の組み付けが行われる。
【0156】
軸方向xから見た側面図である図19Cに最も良く表れているとおり、コイル120との電気的コンタクトをとるための端末線120aが通る溝130c,131cが磁束伝導片130の検出領域対向面134bに設けてある。端末線120aは、溝130c,131cにおいて、半田層によって外部端子電極240,241に結線される。たとえば、製造工程においては、端末線120aを溝130c,131cに配置した後に、検出領域対向面134bに外部端子電極240,241を形成することが好ましい。図19Bに表れているように、溝130c,131cは、軸平行部134の近接端134aにも連続していてもよい。
【0157】
[その他の実施形態]
この発明の実施形態について説明してきたが、この発明は、以下に例示的に列記するとおり、さらに他の形態で実施することが可能である。
【0158】
前述の実施形態では、磁束伝導片130,131はL字形状の一体品であるが、軸直交部133および軸平行部134をそれぞれ構成する2つの直方体部分を組み合わせて磁束伝導片を構成してもよい。この場合、2つの直方体部分は、L字形状を成すように配置して組み合わせることが好ましい。ただし、2つの直方体部分は、完全なL字形状を形成する必要はなく、たとえば、軸平行部を成す直方体部分の軸方向xの中間部に軸直交部をなす直方体部分の端面が突き当たる配置(T字形配置)であってもよい。2つの直方体部分は、同一の軟磁性体材料で構成しても、異なった軟磁性体材料を用いて構成しても良く、前述の材質の範囲で選択した材料で構成することが好ましい。
【0159】
また、磁束伝導片の軸直交部および軸平行部は、完全な直方体形状である必要はなく、コイルの配置、組立性、構造保持性等に応じて必要な変形を加えても発電センサの検出性能を保持できる。たとえば、軸平行部には、コイルを受ける円筒面状の凹部が形成されていてもよい。また、軸直交部133は、軸方向xの厚さが軸直交方向zの各位置で一様である必要はなく、たとえば、軸直交部133の軸方向xの厚さは、検出領域対向面134b側では小さく、その反対側では大きくなっており、それらの間の領域では厚さはリニアに変化していてもよい。つまり、軸直交部133は、軸直交方向zに沿って検出領域対向面134bに向かうに従って先細るテーパ形状を有していてもよい。このように、軸直交部133および軸平行部134は、厳密な直方体形状である必要はなく、磁束伝導片130,131の磁界補正機能を損なわない範囲の実質的な直方体形状であれば足りる。軸直交部133および軸平行部134は、実質的な直方体形状に構成することが好ましいが、前述のような磁界補正機能が得られる別の形状に構成されてもよい。
【0160】
前述の第2実施形態では、検出領域対向面134bに外部端子電極240,241を設けた構成を示したが、リードフレームによって外部端子電極を構成してもよい。たとえば、リードフレームは、磁束伝導片130,131の形状に合うようにフォーミングされ、検出領域対向面134bに沿う底面部が、プリント基板等に接合可能な面実装用外部接続端子を構成していてもよい。
【0161】
前述の実施形態では、一対の磁束伝導片130,131は、磁性ワイヤ110の軸中心位置113に設定された対称面115に対して対称に構成されているが、この場合の「対称」は、磁束伝導片130,131の磁界補正機能に影響のない範囲での相違を許容するものであり、幾何学的に厳密に対称である必要はない。
【0162】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0163】
1 :パルス信号発生器
2 :回転検出装置
20 :プリント基板
30 :軌道
40 :中心軸線
100 :発電センサ
110 :磁性ワイヤ
113 :軸中心位置
120 :コイル
130 :磁束伝導片
131 :磁束伝導片
133 :軸直交部
134 :軸平行部
134a :近接端
134b :検出領域対向面
140 :検出領域
200 :発電センサ
240 :外部端子電極
241 :外部端子電極
400 :磁界発生源
401 :磁極
410 :磁石
411~413:磁石
420 :磁石
421~425:磁石
430 :磁石
440 :多極磁石
450 :多極磁石
451~455:磁極
456 :磁極
D 距離
L :距離
Lc :距離
Ld :距離
Lp :磁極ピッチ
Lw :磁性ワイヤ長
M :リング磁石
M1~M4:個別磁石
n1,n2,n3:N極
s1,s2,s3:S極
ra :距離
rb :距離
rm :半径
θc :角度間隔
θp :磁極間角度ピッチ
x :軸方向
y :幅方向
z :軸直交方向
図1A
図1B
図2A-2B】
図3
図4
図5A-5C】
図6A-6B】
図7
図8A-8B】
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図15C
図16
図17
図18
図19A
図19B
図19C