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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128679
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】増粘剤、及び、樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/32 20060101AFI20240913BHJP
   C08L 35/06 20060101ALI20240913BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240913BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C08F8/32
C08L35/06
C08L101/00
C09K3/00 103G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037802
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】前田 涼平
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002AA011
4J002AA021
4J002BC071
4J002BH012
4J002CL001
4J002CM041
4J002CP091
4J002CP161
4J002FD332
4J002GH00
4J002GN00
4J002GQ00
4J100AA02P
4J100AB02P
4J100AK32Q
4J100BA16H
4J100BA35H
4J100CA04
4J100CA31
4J100HA61
4J100HC43
4J100HE14
4J100JA15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】樹脂組成物の低誘電特性と耐熱性を良好に維持しつつ、粘度を増大させることができる増粘剤、及び、それを含む樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される構造単位(A)を有する重合体であることを特徴とする増粘剤。

(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を表す。R及びRは、互いに結合して環を形成していてもよい。R及びRは、同一又は異なって、直接結合、又は、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を表す。R及びRは、互いに結合していてもよい。Rは、置換基を有していてもよい炭素数1~18の炭化水素基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位(A)を有する重合体であることを特徴とする増粘剤。
【化1】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を表す。R及びRは、互いに結合して環を形成していてもよい。R及びRは、同一又は異なって、直接結合、又は、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を表す。R及びRは、互いに結合していてもよい。Rは、置換基を有していてもよい炭素数1~18の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記構造単位(A)の含有割合が、前記重合体の全構造単位100質量%に対して1~75質量%であることを特徴とする請求項1に記載の増粘剤。
【請求項3】
前記重合体は、前記構造単位(A)以外の芳香族炭化水素基含有構造単位(B)を更に有することを特徴とする請求項1に記載の増粘剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の増粘剤、及び、樹脂を含むことを特徴とする樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増粘剤、及び、それを含む樹脂組成物に関する。より詳しくは、加熱により誘電率が低く、耐熱性に優れたものとなる増粘剤、及びそれを含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料、接着剤、コーティング剤などの様々な分野で、粘性を付与して加工性や安定性を高めることを目的に増粘剤が使用されている。代表的な増粘剤としては、多糖類やカルボン酸ポリマーのような分子構造中に水酸基やカルボキシ基又はその金属塩のような、極性官能基を多数有するものが知られている(特許文献1~3)。
【0003】
一方、近年、携帯電話等の通信機器、サーバー等のネットワーク関連、コンピュータ等の電子機器等の電気・電子デバイスにおいては、高周波数化が進み、これらの電気・電子デバイスに用いられる材料には、伝送損失低減の観点から、誘電率の低い材料が要求されている。さらに、絶縁膜には、電気・電子デバイスの製造過程や使用時において耐熱性が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-135282号公報
【特許文献2】特開2019-11380号公報
【特許文献3】特開2022-77173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
誘電率は分子構造中に水酸基やカルボキシ基のような極性官能基が存在することで大きく上昇してしまうため、電気・電子デバイスの材料に、従来の、水酸基やカルボキシ基又はその塩のような極性官能基を多数含む増粘剤を使用することは適切とはいえない。また、水酸基やカルボキシ基は熱により分解するため、耐熱性の観点からも、従来の増粘剤の使用は好ましくない。
【0006】
このように、従来の増粘剤を低誘電特性や耐熱性を有する樹脂組成物に添加した場合、樹脂組成物の粘度を増大させることはできても、電気・電子デバイスにおける高周波数化、製造・使用時の熱に対応できる十分な低誘電特性や耐熱性を維持することができず、低下してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、樹脂組成物の低誘電特性と耐熱性を良好に維持しつつ、粘度を増大させることができる増粘剤、及び、それを含む樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、増粘剤について種々検討したところ、特定のジカルボン酸モノアミド構造(アミック酸構造)を有する繰り返し単位を有する重合体とすることにより、加熱により誘電率が低く、耐熱性に優れたものとなる増粘剤となることを見出し、そのような増粘剤を樹脂組成物に添加することで、樹脂組成物の低誘電特性と耐熱性を良好に維持しつつ、粘度を増大させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、下記の態様を含む。
[1]下記式(1)で表される構造単位(A)を有する重合体であることを特徴とする増粘剤。
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を表す。R及びRは、互いに結合して環を形成していてもよい。R及びRは、同一又は異なって、直接結合、又は、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を表す。R及びRは、互いに結合していてもよい。Rは、置換基を有していてもよい炭素数1~18の炭化水素基を表す。)
[2]上記構造単位(A)の含有割合が、上記重合体の全構造単位100質量%に対して1~75質量%であることを特徴とする上記[1]に記載の増粘剤。
[3]上記重合体は、上記構造単位(A)以外の芳香族炭化水素基含有構造単位(B)を更に有することを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の増粘剤。
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載の増粘剤、及び、樹脂を含むことを特徴とする樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の増粘剤を用いれば、樹脂組成物の低誘電特性と耐熱性を良好に維持しつつ、粘度を増大させることができる。本発明の増粘剤及び樹脂組成物は、塗料、接着剤、コーティング剤等において好適に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
本明細書において、数値範囲「(最小値)~(最大値)」は、「(最小値)以上(最大値)以下」を意味し、例えば、「5~10」と記載される場合、「5以上10以下」を意味する。
【0014】
1.増粘剤
本発明の増粘剤は、下記式(1)で表される構造単位(A)を有する重合体であることを特徴とする。なお、本発明において、「構造単位」とは、重合体を構成する単量体由来等の繰り返し単位を意味する。
【0015】
【化2】
【0016】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を表す。R及びRは、互いに結合して環を形成していてもよい。R及びRは、同一又は異なって、直接結合、又は、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を表す。R及びRは、互いに結合していてもよい。Rは、置換基を有していてもよい炭素数1~18の炭化水素基を表す。)
【0017】
本発明の増粘剤が、加熱により低誘電率で、耐熱性に優れたものになるのは、上記式(1)で表されるように、ジカルボン酸無水物に第1級アミンを付加させたジカルボン酸モノアミド構造(アミック酸構造)単位を含むポリマーであるためである。このようなアミック酸構造は、加熱により、誘電率が低く、耐熱性の高いイミド構造に変換されるため、加熱後はポリマー中に増粘剤由来の複数のイミド構造を有することになり、そのようなイミド構造によって、誘電率が低く、耐熱性が高いポリマーとなる。従って、本発明の増粘剤は、加熱により、誘電率が低く、耐熱性に優れたポリマーとなる。このような本発明の増粘剤を用いると、誘電率が低く、耐熱性に優れた成形体又は硬化物を与えることができる樹脂組成物を容易に調製することができる。
【0018】
上記式(1)において、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を表す。なかでも、R及びRは、水素原子であることが好ましい。
【0019】
上記置換基としては、好ましくはハロゲン原子、又は、炭化水素基が挙げられる。
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
上記炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0020】
上記脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、1-メチルエチル基(イソプロピル基)、n-ブチル基、1-メチルプロピル基(s-ブチル基)、2-メチルプロピル基(イソブチル基)、1,1-ジメチルエチル基(t-ブチル基)、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、2,2-ジメチルプロピル(ネオペンチル基)、1-エチルプロピル基、n-ヘキシル基、1,1-ジメチルプロピル基、1-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基等のアルキル基や、ビニル基、n-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-メチル-1-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、1-ヘキセニル基等のアルケニル基等が挙げられる。
【0021】
上記脂環式炭化水素基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基や、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基等が挙げられる。
【0022】
上記芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等のアリール基や、ベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。
【0023】
なかでも、上記炭化水素基は、好ましくは脂肪族炭化水素基であり、より好ましくはアルキレン基である。
【0024】
上記炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~6であり、より好ましくは1~4であり、更に好ましくは1~3である。
【0025】
及びRは、互いに結合して環を形成していてもよい。すなわち、RとRとが互いに結合して、R及びRが結合する炭素原子とともに環を形成していてもよい。
形成される環は、飽和又は不飽和の脂環であることが好ましく、耐熱性の点で、飽和の脂環であることが好ましい。
上記形成される環は、好ましくは5~8員環であり、より好ましくは5~7員環であり、更に好ましくは5~6員環である。
【0026】
及びRが互いに結合して形成される環の具体例としては、好ましくは下記が挙げられる。
【0027】
【化3】
【0028】
上記式(1)において、R及びRは、同一又は異なって、直接結合、又は、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を表す。
及びRで表される炭化水素基としては、上述した炭化水素基から水素原子を1つ減らして2価にした基が挙げられる。
なかでも、R及びRで表される炭化水素基としては、2価の脂肪族炭化水素基が好ましく、アルキレン基がより好ましい。
【0029】
及びRで表される炭化水素基の炭素数は、加熱によりイミド基が形成されやすい点で、好ましくは0~5、より好ましくは1~5、更に好ましくは1~3である。なお、R及びRで表される炭化水素基の炭素数が0とは、直接結合を意味する。
【0030】
また、R及びRで表される炭化水素基の炭素数の合計は0~5であることが好ましい。上記炭素数の合計が0とは、R及びRが共に直接結合であることを意味する。上記炭素数の合計が1とは、R及びRの少なくとも一方が直接結合であることを意味する。
【0031】
及びRは、イミド構造が形成しやすい観点から、R及びRの少なくとも一方が直接結合又は炭素数1~5の炭化水素基であることが好ましく、直接結合又は炭素数1~3の炭化水素基であることがより好ましい。
【0032】
及びRは、互いに結合していてもよい。すなわち、RとRとが結合して、R又はRが結合する主鎖上の2つの炭素原子と、R及びRをそれぞれ構成する少なくとも一つの原子とで環を形成していてもよい。
【0033】
とRとが結合して形成される環としては、飽和又は不飽和の脂環であることが好ましく、飽和の脂環であることがより好ましい。
とRとが結合して形成される環は、好ましくは5~8員環であり、より好ましくは5~7員環であり、更に好ましくは5~6員環である。
【0034】
とRとが結合して形成される環の具体例としては、好ましくは下記が挙げられる。
【0035】
【化4】
【0036】
上記のようにRとRとが結合して環が形成される場合、Rに結合する-C(=O)-NHRと、Rに結合するカルボキシ基は、形成される環のいずれの位置にあってもよい。すなわち、-C(=O)-NHRは、Rを構成するいずれの炭素原子に結合していてもよく、カルボキシ基は、Rを構成するいずれの炭素原子に結合していてもよい。
なかでも、イミド構造を形成しやすい点で、-C(=O)-NHRが結合するRの炭素原子と、カルボキシ基が結合するRの炭素原子とが隣接していることが好ましい。
【0037】
及びRで表される2価の炭化水素基が有していてもよい置換基としては、エーテル基、チオエーテル基、シリル基、シロキシ基、フルオロ基等が挙げられる。
【0038】
は、置換基を有していてもよい炭素数1~18の炭化水素基を表す。
で表される炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は、芳香族炭化水素基を挙げることができる。これらの基としては、上述した脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は、芳香族炭化水素基であって、炭素数が1~18のものが挙げられる。
【0039】
なかでも、Rで表される炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、又は、芳香族炭化水素基であることが好ましく、加熱によりイミド構造を形成しやすい点で、脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、アルキル基であることが更に好ましい。
【0040】
で表される炭化水素基の炭素数は、入手が容易である点で、好ましくは1~10、より好ましくは1~8、更に好ましくは1~6である。
【0041】
で表される炭化水素基は、置換基を有していてもよい。上記置換基としては、例えば、アミノ基、エーテル基、チオエーテル基、シリル基、シロキシ基、フルオロ基等が挙げられる。
【0042】
上記構造単位(A)を有する重合体は、当該構造単位(A)を与える単量体を含む単量体成分を重合したり、ジカルボン酸無水物を含む単量体成分を重合してプレポリマーを得た後、プレポリマーのカルボキシ基に第1級アミンを付加することにより得ることができる。
【0043】
上記構造単位(A)の含有割合は、上記重合体の全構造単位100質量%に対して1~75質量%であることが好ましい。上記構造単位(A)の含有割合が上述の範囲であると、低誘電特性と耐熱性がより一層優れる。上記構造単位(A)の含有割合は、耐熱性の点で、上記重合体の全構造単位100質量%に対して、より好ましくは10~70質量%であり、更に好ましくは20~65質量%である。
【0044】
本発明の増粘剤の重合体は、更に、上記構造単位(A)以外の芳香族炭化水素基含有構造単位(B)を有することが好ましい、上記構造単位(B)を更に有することで、耐熱性がより一層優れる。
【0045】
上記構造単位(B)は、側鎖に芳香族炭化水素基を有する構造単位であって、上記構造単位(A)以外の構造単位である。
上記構造単位(B)における芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基、トリフェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基や、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等のアラルキル基等が挙げられる。
【0046】
上記芳香族炭化水素基は、当該基を構成する炭素原子又は水素原子の少なくとも一つが、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ハロゲン原子、エーテル基、チオエーテル基、アルコキシ基等に置換されていてもよい。
【0047】
上記芳香族炭化水素基の炭素数は、好ましくは4~13であり、より好ましくは5~11であり、更に好ましくは6~10である。
【0048】
上記構造単位(B)としては、好ましくは、下記式(2)で表される構造単位が挙げられる。
【0049】
【化5】
【0050】
上記式(2)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、芳香族炭化水素基を表す。Rで表される芳香族炭化水素基としては、上述した芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0051】
上記構造単位(B)は、より好ましくは、芳香族ビニル基含有単量体由来の構造単位である。
上記芳香族ビニル基含有単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、キシレン、メトキシスチレン、エトキシスチレン等が挙げられる。
なかでも、上記構造単位(B)としては、低誘電特性がより一層優れる点で、スチレン由来の構造単位が更に好ましい。
【0052】
上記構造単位(B)の含有割合は、上記重合体の全構造単位100質量%に対して1~75質量%であることが好ましい。上記構造単位(B)の含有割合が上述の範囲であると、加熱による低誘電特性と耐熱性がより一層優れる。上記構造単位(B)の含有割合は、低誘電特性が更により優れる点で、上記重合体の全構造単位100質量%に対して、より好ましくは10~70質量%であり、更に好ましくは20~60質量%である。
【0053】
上記重合体は、上述した構造単位(A)又は(B)以外に他の構造単位(C)を含んでいてもよい。上記他の構造単位(C)としては、例えば、上記構造単位(A)又は構造単位(B)を与える単量体と重合可能な単量体由来の構造単位が挙げられる。
上記構造単位(A)又は構造単位(B)を与える単量体と重合可能な単量体としては、例えば、以下の単量体が挙げられる。
【0054】
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸s-アミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、1,4-ジオキサスピロ[4,5]デカ-2-イルメタアクリル酸、(メタ)アクリロイルモルホリン、4-(メタ)アクリロイルオキシメチル-2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン、4-(メタ)アクリロイルオキシメチル-2-メチル-2-イソブチル-1,3-ジオキソラン、4-(メタ)アクリロイルオキシメチル-2-メチル-2-シクロヘキシル-1,3-ジオキソラン、4-(メタ)アクリロイルオキシメチル-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン等の(メタ)アクリル酸エステル単量体。
【0055】
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類。
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、n-ノニルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル等のビニルエーテル類。
【0056】
ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム等の重合体分子鎖の片末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマー類;
【0057】
N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルモルフォリン、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニル化合物類。
(メタ)アクリル酸イソシアナトエチル、アリルイソシアネート等の不飽和イソシアネート類;等。
【0058】
上記構造単位(C)の含有割合は、上記重合体の全構造単位100質量%に対して、好ましくは0~20質量%であり、より好ましくは0~15質量%であり、更に好ましくは0~10質量%である。
【0059】
上記重合体の重量平均分子量は、増粘効果と取り扱いの観点から、好ましくは10000~200000であり、より好ましくは20000~160000であり、更に好ましくは30000~140000であり、特に好ましくは50000~120000である。上記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC)により求めることができる。
【0060】
上記重合体の酸価は、下限値は機械強度の観点から、上限値は硬化収縮抑制の観点から、好ましくは10~500mgKOH/gであり、より好ましくは25~400mgKOH/gであり、更に好ましくは50~300mgKOH/gである。上記酸価は、水酸化カリウム(KOH)溶液を用いた中和滴定法により測定して得られる値であり、樹脂固形分1gあたりの酸価である。
【0061】
上記重合体の製造方法としては、上記構造単位(A)、及び、必要に応じて上記構造単位(B)又は(C)を有する重合体が得られる方法であれば、特に限定されず、公知の方法で製造すればよいが、なかでも、製造効率が良好である点で、ジカルボン酸無水物を含む単量体成分を重合してプレポリマーを得た後、プレポリマーのカルボキシ基に第1級アミンを付加させる方法が好ましく挙げられる。
【0062】
ジカルボン酸無水物としては、好ましくは、無水マレイン酸、無水イタコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、又は、これらの誘導体が挙げられる。
【0063】
上記プレポリマーを合成するための単量体成分はまた、上記構造単位(B)又は(C)を与える単量体を含むことが好ましい。
【0064】
上記プレポリマーの合成は、上述した単量体成分を公知の方法で重合すればよい。なかでも、工業的に有利で、分子量等の構造調整が容易な点で、溶液重合が好ましい。また、上記単量体成分の重合機構としては、特に限定されず、公知の重合機構であればよいが、工業的に有利な点で、ラジカル重合機構に基づく重合方法が好ましい。
【0065】
上記単量体成分を重合して得られるプレポリマーの分子量は、重合開始剤の量や種類、重合温度、連鎖移動剤の種類や量を公知の方法で調整する等により、制御することができる。重合開始剤や連鎖移動剤は、公知のものを使用すればよい。
【0066】
重合で使用する溶媒としては、特に限定されず、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、バレロニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等のエーテル系溶媒;等が挙げられる。これらの1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
重合温度としては、特に限定されないが、好ましくは0~150℃、より好ましくは、20~125℃、更に好ましくは40~100℃である。
重合時間としては、特に限定されないが、好ましくは1分~12時間、より好ましくは5分~6時間、更に好ましくは10分~3時間である。
【0068】
また、プレポリマーとして、市販のポリマーを用いてもよい。上記プレポリマーとして使用できる市販品としては、例えば、XIRAN(登録商標)1000、2000、2500、3000、3500、3600、4000、6000、9000、EF10、EF30、EF40、EF41、EF61、EF80等(いずれもPolyscope社製)等が挙げられる。
【0069】
上記プレポリマーに第1級アミンを付加させる方法としては、上記プレポリマーに第1級アミンを添加して加熱する方法が挙げられる。
【0070】
上記第1級アミンは、一分子中に少なくとも1つのアミノ基(-NH)を有する化合物であり、好ましくは、R-NH(Rは、置換基を有していてもよい炭素数1~18の炭化水素基を表す。)で表される化合物である。
で表される、置換基を有していてもよい炭素数1~18の炭化水素基としては、上述したRで表されるものと同様の基が挙げられる。
【0071】
上記第1級アミンの具体例としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-オクタデシルアミン等のアルキルアミン;シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン等のシクロアルキルアミン;ビニルアミン、アリルアミン、オレイルアミン等のアルケニルアミン;アニリン、ベンジルアミン、ナフチルアミン等のアリールアミン等が挙げられる。なかでも、イミド構造を形成しやすいという点で、n-ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミンが好ましく、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミンがより好ましい。
【0072】
付加反応の温度は、好ましくは0~100℃、より好ましくは10~80℃、更に好ましくは20~60℃である。また、反応時間は、好ましくは10分~12時間、より好ましくは20分~8時間、更に好ましくは30分~4時間である。
【0073】
上記付加反応は、通常使用される添加剤、溶媒等を更に添加して行ってもよい。
【0074】
上記重合体の製造方法は、上述した反応工程以外の他の工程を含んでいてもよい。上記他の工程としては、例えば、熟成工程、中和工程、重合開始剤や連鎖移動剤の失活工程、希釈工程、乾燥工程、濃縮工程、精製工程等が挙げられる。これらの工程は、公知の方法により行うことができる。
【0075】
本発明の増粘剤は、上記重合体からなる。本発明の増粘剤は、樹脂組成物の粘度を増大させることができる。また、加熱により誘電率が低く、耐熱性に優れた重合体となるので、樹脂組成物の低誘電特性や耐熱性を良好に維持又は向上させることができる。このため、本発明の増粘剤は、低誘電特性や耐熱性が必要とされる用途に好適に使用することができる。加熱温度としては、60℃以上が好ましく、60~300℃がより好ましく、80~250℃が更に好ましい。
【0076】
2.樹脂組成物
本発明はまた、上述した増粘剤、及び、樹脂を含むことを特徴とする樹脂組成物である。本発明の樹脂組成物は、上述した増粘剤を含むので、加熱により低誘電特性と耐熱性に優れたもの(成形体又は硬化物)を与えることができる。
【0077】
本発明の樹脂組成物に含まれる樹脂としては、特に限定されず、硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよい。上述した増粘剤は、硬化性樹脂と組み合わせた場合であっても、熱可塑性樹脂と組み合わせた場合であっても、樹脂組成物の粘度を増大させるとともに、加熱処理や加熱を伴う成形加工後に得られる樹脂の成形体又は硬化物を、誘電率が低く、耐熱性にも優れたものとすることができる。
【0078】
上記硬化性樹脂としては、例えば、光硬化性樹脂、又は、熱硬化性樹脂が挙げられる。
光硬化性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アクリレート等のオリゴマー、プレポリマー等が挙げられる。
【0079】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0080】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フッ素樹脂、セルロース誘導体、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。
【0081】
なかでも、低誘電絶縁材料に汎用的に使用されている点で、上記樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドが好ましく、ポリイミドがより好ましい。
【0082】
本発明の樹脂組成物において、上記増粘剤の含有量は、固形分総量100質量%に対して、好ましくは1~40質量%、より好ましくは2.5~35質量%、更に好ましくは5~30質量%である。
本明細書において、「固形分総量」とは、加熱処理や硬化時に揮発する成分(例えば溶媒等)を除く成分の総量を意味する。
【0083】
上記樹脂組成物において、上記樹脂の含有量は、固形分総量100質量%に対して、好ましくは10~99質量%、より好ましくは20~97質量%、更に好ましくは30~95質量%である。
【0084】
上記樹脂組成物において、上記増粘剤と上記樹脂との質量比(増粘剤/樹脂)は、好ましくは1/99~40/60であり、より好ましくは2.5/97.5~35/65であり、更に好ましくは5/95~30/70である。
【0085】
本発明の樹脂組成物は、更に、必要に応じて他の成分を1種又は2種以上含んでいてもよい。例えば、溶媒、カップリング剤、添着剤、光増感剤、硬化促進剤、可撓性成分、無機充填剤、反応性希釈剤、不飽和結合を有さない飽和化合物、顔料、染料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、非反応性化合物、連鎖移動剤、重合開始剤、重合禁止剤、有機充填剤、熱安定剤、防菌・防カビ剤、難燃剤、艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、湿潤・分散剤、沈降防止剤、増粘剤・タレ防止剤、色分かれ防止剤、乳化剤、スリップ・スリキズ防止剤、皮張り防止剤、乾燥剤、防汚剤、帯電防止剤、導電剤(静電助剤)等が挙げられる。これらは、公知のものから適宜選択して使用すればよい。また、これらの含有量も公知の方法から適宜選択すればよい。
【0086】
上記樹脂組成物の粘度は、特に限定されず、樹脂組成物の目的・用途に応じて適宜設定すればよいが、作業性の観点から、好ましくは10~10000mPa・s、より好ましくは50~7500mPa・s、更に好ましくは100~5000mPa・sである。上記粘度は、E型粘度計を用いて25℃で測定することにより求めることができ、具体的には、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。
【0087】
上記樹脂組成物の調製方法は、特に限定されず、公知の方法を用いればよく、例えば、上述した各含有成分を、押出機、ブレンダーやミキサー、ニーダー等の公知の混合機、分散機、混練機等を用いて混合することにより調製することができる。
【0088】
本発明の樹脂組成物は、加熱することにより、低誘電率で耐熱性に優れた樹脂組成物の硬化物又は成形体を与えることができる。
【0089】
上記硬化物は、上述した本発明の樹脂組成物を硬化したものである。上記硬化物の製造方法は、上記樹脂組成物を硬化させて硬化物を得ることができる方法であれば、特に限定されないが、下記の工程1及び工程2をこの順で含むことが好ましい。
工程1:上記樹脂組成物を基材に塗布する塗布工程
工程2:塗布された樹脂組成物を硬化する硬化工程
【0090】
上記工程1における、基材への塗布方法は特に限定されず、例えば、スピンコート法、スリットコート法、スプレー法、ロールコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、ディップ法等の公知の方法を用いることができる。
【0091】
塗布膜の厚さは、特に制限されないが、10~250μmであることが好ましく、より好ましくは20μm~200μmであり、更に好ましくは30~150μmである。塗布膜の厚さは、硬化物としての好ましい膜厚となるよう、適宜調整することが好ましい。
【0092】
上記基材としては、金属基材、シリコン・無機基材、複合基材等が挙げられる。上記金属基材としては、表面がアルミニウム、銅、金、銀、チタン、モリブデン等の金属を主成分とする基材が挙げられる。上記シリコン・無機基材としては、例えば、シリコン、シリコンナイトライド、酸化シリコン等のシリコン関連材料、ガラス、石英等の無機材料を主成分とする基材が挙げられる。上記複合基材としては、樹脂、シリコン、シリコンナイトライド、酸化シリコン、ガラス、石英等よりなる基材の表面の一部または全部に金属の薄膜等が設けられた基材が挙げられる。上記基材の中でも、上記硬化物との密着性が良好となりやすい点から、シリコン・無機基材、又は、金属基材が好ましく、金属基材がより好ましい。
上記基材の形状は、特に制限されず、例えば、板状、線状等が好ましい。
【0093】
上記工程2における、硬化方法は、加熱による方法が好ましい。加熱温度は、基材の種類、加熱時間等により適宜選択することができるが、通常、100~400℃の範囲であることが好ましく、150~350℃の範囲であることがより好ましい。上記加熱時間は基材の種類、加熱温度等により適宜選択することができるが、通常、1分~10時間であることが好ましく、10分以上がより好ましく、30分以上がさらに好ましい。上限は5時間以下がより好ましい。また加熱は所定の昇温速度で連続的に昇温し所定の温度で加熱保持する方法で行ってもよいし、例えば、100℃以上200℃未満の温度で所定時間、第一の加熱を行い、200℃以上300℃未満の温度で所定時間、第二の加熱を行い、更に300℃以上400℃未満の温度で所定時間、第三の加熱を行うといったように、加熱温度を段階的に上げていく方法を採用することもできる。加熱する際の雰囲気は特に制限されないが、窒素ガス雰囲気等の不活性雰囲気あるいは空気等の酸化性雰囲気で行うことが好ましい。
【0094】
上記工程2は、通常、上記工程1の後に行うことが好ましいが、工程1と同時に行う方法も採用できる。当該方法は、例えば、工程1において基材を加熱しながら塗布を行うことにより達成される。
【0095】
本発明の樹脂組成物が溶媒を含む場合、下記工程3を行うことが好ましい。
工程3:塗布された樹脂組成物から溶媒の一部又は全部を除去する溶媒除去工程
上記溶媒除去工程において、溶媒を除去する方法としては、加熱による方法、減圧(脱気)による方法又はこれらを組み合わせた方法が好ましく採用される。よって上記溶媒除去工程においては、基材上に塗布された樹脂組成物の塗布膜から、加熱及び/又は減圧(脱気)等により、溶媒の一部又は全部が留去される。溶媒除去工程における加熱温度は、好ましくは50~150℃であり、より好ましくは120℃以下、更に好ましくは100℃未満である。加熱時間は好ましくは30秒~2時間であり、より好ましくは10分~1時間である。
【0096】
上記工程3は、上記工程1の後に行うことが好ましいが、工程1と同時に行うこともできる。また上記工程3は、上記工程2の前に行うことが好ましいが、工程2と同時に行うこともできる。上記工程1を行った後、基材及び基材に塗布された樹脂組成物を加熱し、工程2及び工程3を連続的に行う方法が好ましい。以上のようにして、種々の基材の表面及び/又は内部に、本発明の樹脂組成物の硬化物が形成される。
【0097】
上記硬化物の膜厚は、特に制限されないが、5~500μmであることが好ましい。より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは15μm以上である。上限はより好ましくは400μm以下であり、さらに好ましくは300μm以下である。
上記膜厚は、マイクロメータを使用して測定することができ、該方法で得られた値を採用することが好ましい。
【0098】
上記樹脂組成物の硬化物の5%重量減少温度は、耐熱性の観点から、340℃以上であることが好ましい。
上記5%重量減少温度とは、上記樹脂組成物の硬化物を空気雰囲気下で室温から昇温速度10℃/分で昇温した時に重量減少が5質量%となる温度である。
上記樹脂組成物の硬化物の5%重量減少温度は、より好ましくは360℃以上であり、さらに好ましくは380℃以上である。上限は、特に制限されないが、通常、450℃以下である。上記5%重量減少温度は、TG-DTA装置を用いて測定して得られる値である。TG-DTA装置としては、TG-DTA2000SR(NESZTCH社製)、MTC1000SA(Bruker社製)が推奨される。
【0099】
上記樹脂組成物の硬化物の誘電率は、特に制限されないが、10GHzでの誘電率が、2.0以上、2.9以下であることが好ましい。より好ましくは2.7以下であり、さらに好ましくは2.6以下であり、特に好ましくは2.5以下である。下限はより好ましくは2.1以上である。上記誘電率は、ネットワークアナライザー E8361A(Agilent Technologies社製)を使用し、空洞共振器法で、温度25℃、湿度50%、周波数10GHzの条件で測定して得られる値である。
【0100】
上記樹脂組成物はまた、公知の加熱を伴う成形加工により、低誘電特性と耐熱性に優れた成形体を与えることができる。
【0101】
3.用途
本発明の増粘剤及び樹脂組成物は、上述のとおり、加熱により低誘電特性と耐熱性に優れたものを与えることができる。そのため、低誘電特性や耐熱性が必要とされる用途に好適に使用することができる。
本発明の増粘剤及び樹脂組成物は、例えば、電気・電子部品材料、機械部品材料、自動車部品材料、電気・電子デバイス用塗料、接着剤、コーティング剤用の絶縁膜を形成するために好ましく用いられる。なかでも、電気・電子デバイスにおけるシリコン等の基板上に有する金属配線や他の金属配線、導電部材等を絶縁する絶縁膜を形成するために用いることがより好ましい。また、高電圧で使用されるモータ等の適用電圧が高い電気機器における絶縁電線においては、コロナ放電開始電圧の向上が求められており、絶縁電線における絶縁層の低誘電率化が効果的であると言われている。よって、本発明の樹脂組成物は、上記モータが有する電気コイルを構成する絶縁電線の絶縁層を形成するために、好適に用いることができる。
【0102】
以上のとおり、本発明の増粘剤は、樹脂組成物の低誘電特性と耐熱性を良好に維持しつつ、粘度を増大させることができ、加熱により低誘電特性と耐熱性に優れた樹脂組成物の硬化物又は成形体を与えることができる。
【実施例0103】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0104】
各種物性については、下記の方法で評価を行った。
(粘度)
E型粘度計(TPE-100、東機産業社製)を使用して、25℃で粘度を測定した。
【0105】
(誘電率)
ネットワークアナライザー E8361A(Agilent Technologies社製)を使用し、空洞共振器法で、温度25℃、湿度50%、周波数10GHzの条件で測定した。
【0106】
(5%重量減少温度)
TG-DTA2000SR(NESZTCH社製)、MTC1000SA(Bruker社製)を使用し、樹脂組成物の硬化物を空気雰囲気下で室温から昇温速度10℃/分で昇温した時に重量減少が5質量%となる温度(5%重量減少温度)を測定した。
【0107】
(実施例1)
バイアルにXIRAN3500(POLYSCOPE社製、スチレン-無水マレイン酸共重合体)2.5gと酢酸ブチル2.5gを入れ、60℃で加熱攪拌しながら溶解させた。得られた溶液に、2-エチルヘキシルアミン0.8gを酢酸ブチル0.8gとプロピレングリコールモノプロピルエーテル2.0gに溶解させた溶液を滴下して、増粘剤(1)を得た。
【0108】
<調製例1>分散体1の調製
(工程1A)
攪拌機、滴下口、温度計を備えた50LのSUS製容器にメタノール16500g、水3200g、25%アンモニア水1300g、アセトン110gを加え、30分間撹拌することで均一な混合溶液を得た。上記混合溶液の液温を49~51℃に調整し撹拌しながら、テトラメチルオルトシリケート(TMOS)5700gを滴下口から90分間かけて滴下した。滴下終了後も引き続き上記液温を維持しながら30分間攪拌を行うことで、シリカ粒子のアルコール性溶液懸濁体(懸濁体1A)を得た。
【0109】
(工程1B)
上記工程1Aで得られた懸濁体1Aを再び攪拌しながら50℃へ昇温し、液温および攪拌を維持しながら、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM-503)1620gを滴下口から260分間かけて滴下した。滴下終了後も引き続き上記液温を維持しながら15時間攪拌を行うことで、粒子表面にメタクリル基を有するシリカ粒子のアルコール性溶液懸濁体(懸濁体1B)を得た。
【0110】
(工程1C)
上記工程1Bで得られた懸濁体1Bを、分画分子量約10000のセラミック製管状限外ろ過膜が装着された市販の限外ろ過膜を用いて、室温でメタノールを適宜加えながら溶媒置換を行い、SiO濃度が約11%になるまで濃縮することで、粒子表面にメタクリル基を有するシリカ粒子のメタノール懸濁体(懸濁体1C)を得た。
【0111】
(工程1D)
上記工程1Cで得られた懸濁体1Cを、水素型強酸性陽イオン交換樹脂アンバーライトIR-120B(オルガノ社製)を充填したカラムに、室温条件下、1時間あたりの空間速度が3の通液速度で通過させることで、粒子表面にメタクリル基を有するシリカ粒子のメタノール懸濁体(懸濁体1D)を得た。
【0112】
(工程1E)
上記工程1Dで得られた懸濁体1Dを1800g秤量し、ロータリーエバポレーターで減圧度30~300hPa、40℃で溶媒を減圧蒸留により濃縮しながら、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)を逐次添加することで懸濁体の溶媒をPGMに置換を行い、SiO濃度が約50%になるよう濃縮することで、粒子表面にメタクリル基を有するシリカ粒子のPGM分散体(分散体1)を得た。分散体中のシリカ粒子の平均粒子径は24nmであった。なお、平均粒子径は、日本電子社製走査型電子顕微鏡JSM-7600Fで撮影し、撮影したSEM像から任意の粒子50個について、直径をノギスで測定し、50個の直径の算術平均値を採用した。なお、走査型電子顕微鏡での写真撮影において、写真1枚の視野の中に粒子が50~100個となるように測定倍率を設定して行った。
【0113】
(実施例2)
樹脂組成物の調製
バイアルに、アミノ変性シリコーンである、KF-8012(信越化学工業社製、官能基当量2200g/mol)を3.44g、スチレン/マレイン酸ハーフエステル共重合体である、アラスター700(荒川化学工業社製、官能基当量320g/mol)を、プロピレングリコールモノプロピルエーテルに50質量%になるように溶解させた溶液を1.00g、溶媒として、プロピレングリコールモノプロピルエーテルを0.88g、D-リモネンを5.25g投入し、攪拌することにより均一な溶液を得た。得られた溶液に、上記調製例1で得られた分散体1を3.38g、酸化防止剤としてAO-30(ADEKA社製)を1-ブタノールに20質量%になるよう溶解させた溶液を0.13g、AO-503(ADEKA社製)を1-ブタノールに20質量%になるよう溶解させた溶液を0.13g、それぞれ添加し、あわとり混錬機(シンキー社製、ARE-300)を用いて2000rpmで3分、脱気工程として2200rpmで2分混錬することにより、組成物(1a)を得た。得られた組成物(1a)に、実施例1で得られた増粘剤(1)を20質量%(2.84g)添加し、攪拌することにより樹脂組成物(1)を得た。得られた樹脂組成物(1)の粘度を上記の方法で測定した。
【0114】
次いで、得られた樹脂組成物(1)を、一定の厚みで平らなPTFE板上に塗布し、100℃で30分間、200℃で30分間、250℃で30分間、300℃で1時間加熱することで熱硬化させ、PTFE板上に硬化物膜(1)を形成し、PTFE板を剥離することにより、硬化物膜(1)の独立膜(厚み150μm)を得た。得られた独立膜について、上記の方法で誘電率、5%重量減少温度を評価した。結果を表1に示す。
【0115】
(実施例3~6、比較例1~4)
増粘剤の種類と添加量(樹脂組成物の固形分総量100質量%に対する量)を表1に示すようにしたこと以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物を調製し、粘度、誘電率、及び5%重量減少温度を評価した。比較例1~4には、有機溶剤に可溶もしくは分散する増粘剤として、ポリエステル系増粘剤ディスパロン3800(楠本化成社製、増粘剤(2))、ポリアミド系増粘剤ディスパロン3900EF(楠本化成社製、増粘剤(3))、モンモリロナイト粘土系増粘剤エスベンWX(日本有機粘土社製、増粘剤(4))、及び、エスベンNZ(日本有機粘土社製、増粘剤(5))を使用した。結果を表1に示す。
【0116】
(参考例1)
実施例2において組成物(1a)に増粘剤(1)を添加しない以外は実施例2と同様にして、樹脂組成物(r)を得た。得られた樹脂組成物(r)の粘度を上記の方法で測定した。結果を表1に示す。
次に実施例2において樹脂組成物(1)の代わりに樹脂組成物(r)を用いた以外は実施例2と同様にして硬化物膜(r)の独立膜(厚み150μm)を得た。得られた独立膜について、上記の方法で誘電率、5%重量減少温度を評価した。結果を表1に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
表1より、実施例の増粘剤を含む樹脂組成物は、比較例の増粘剤を含む樹脂組成物と比べて、粘度を増大させることができ、低誘電特性と耐熱性も良好であった。