(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128689
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】金属酸化物多孔質繊維フィラーを含む樹脂組成物及び樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240913BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240913BHJP
C08K 7/08 20060101ALI20240913BHJP
C08K 7/24 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/22
C08K7/08
C08K7/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037822
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】劉 兵
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002BB001
4J002BD031
4J002CB001
4J002CF001
4J002CG001
4J002CK021
4J002CL001
4J002CL061
4J002DE136
4J002DE146
4J002DJ016
4J002FA046
4J002FA096
4J002FD016
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】高い補強効果を発揮しつつ、表面平滑性に優れた樹脂成形体用の樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、比表面積が50m
2/g以下である金属酸化物多孔質繊維フィラーと樹脂とを含んでいる樹脂組成物である。該樹脂組成物は、比表面積が大きすぎない所定の金属酸化物多孔質繊維フィラーを用いるため、優れるアンカー効果を発揮しつつ、吸湿性が抑制され、高流動性や分散性を有する樹脂組成物及びこれを用いた樹脂成形体を提供するものである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が50m2/g以下である金属酸化物多孔質繊維フィラーと樹脂とを含む、樹脂組成物。
【請求項2】
前記金属酸化物多孔質繊維フィラーの平均繊維径が0.1~5.0μmである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記金属酸化物多孔質繊維フィラーの平均細孔径が10~100nmである、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記金属酸化物多孔質繊維フィラーが、酸化アルミニウム、酸化チタン、アルミニウムとチタンの複合酸化物、チタンとバリウムの複合酸化物、および二酸化ケイ素からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1または2のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いた、樹脂成形体。
【請求項6】
請求項5に記載の樹脂成形体を用いた、電子・電気機器用部材。
【請求項7】
請求項5に記載の樹脂成形体を用いた、運輸機器用部材。
【請求項8】
請求項5に記載の樹脂成形体を用いた、層間絶縁材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物多孔質繊維フィラーを含む樹脂組成物及び樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチックや樹脂中に各種の無機フィラーを混ぜ合わせることで、強度や耐熱性などを向上させる他、新しい機能を持たせられること(補強効果)が知られている。このようなフィラーの中でも、各種特性向上に高い効果を発揮しやすい縦横比であるアスペクト比の大きい金属酸化物多孔質繊維フィラーが注目されている。このような金属酸化物多孔質繊維フィラーは通常の非多孔質繊維フィラーに比べて、大きな比表面積や細孔容積を持ち、また耐熱性や吸着活性が向上するため、樹脂と配合した複合体等の機能材料として工業的利用が試みられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、二つ以上の金属アセチルアセトネート前駆体を含む紡糸溶液を用いて静電紡糸後、電気炉を用いて600℃の焼成温度で3時間焼成して繊維径が0.1μm以下である多金属酸化物多孔質繊維が生成することが開示されている。この方法で製造した多金属酸化物多孔質繊維はナフィオンを含む過フッ素化樹脂と配合して燃料電池用高分子電解質膜と電極を製造する方法が開示されている。
また、特許文献2には、静電紡糸法で得られた複合繊維を、電気炉を用いて、500℃の焼成温度で8時間焼成して比表面積が200m2/g以上である金属酸化物多孔質繊維が製造されることが開示されている。このような金属酸化物多孔質繊維は電子材料、液体若しくは気体フィルター、触媒担体またはガスセンサーなどの用途に適用することができると報告されている。
また、特許文献3には、溶媒を用いて静電紡糸法で得られた複合繊維中の表面活性剤を除去することで、比表面積が500m2/g以上である多孔質繊維シリカが生成することが開示されている。この方法で得られた多孔質繊維シリカは電気化学センシング、触媒またはマイクロナノリアクター等に応用できると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2022/0195630号明細書
【特許文献2】特開2009-7697号公報
【特許文献3】中国特許第105648657号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1~3の金属酸化物多孔質繊維フィラーは、いずれも多数の細孔を設け、比表面積を増大させることを目的としている。しかし、金属酸化物多孔質繊維フィラーの比表面積を大きくしすぎると、樹脂と配合する場合、次のような課題がある。
第1に、金属酸化物多孔質繊維フィラーは、比表面積が大きくなりすぎると繊維として脆くなり、樹脂との配合工程において縦横比であるアスペクト比が短くなりやすい。樹脂への補強効果がアスペクト比に依存しているため、アスペクト比が小さくなるほど、補強効果が小さくなる。
第2に、比表面積が大きいと細孔径は相対的に小さくなり、金属酸化物多孔質繊維フィラーに樹脂が入り込みにくく、樹脂の動きの抑制効果(アンカー効果)が小さくなるため、フィラーの補強効果が制限される。
第3に、金属酸化物多孔質繊維フィラーは、大きい比表面積を得るのに、低焼成温度での焼成(例えば、特許文献1および2)や焼成工程を行わないこと(特許文献3)が一般的である。そのため、高結晶度のものが得られなくなり、補強効果に優れるフィラーが得られにくい。
第4に、金属酸化物多孔質繊維フィラーは、比表面積が大きくなると、凝集しやすくなり、樹脂組成物中での分散性や流動性が低下するため、樹脂と配合した成形品の表面平滑性が低下する。
本発明はこのような事情を鑑みて研究・開発されたものであり、高い補強効果を発揮しつつ、表面平滑性に優れた樹脂成形体用の樹脂組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、特定の多孔質構造を有する金属酸化物多孔質繊維フィラーを樹脂と配合することで、高い補強効果を発揮しつつ、表面平滑性に優れた樹脂成形体用の樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のように構成される。
[1]比表面積が50m2/g以下である金属酸化物多孔質繊維フィラーと樹脂とを含む、樹脂組成物。
[2]前記金属酸化物多孔質繊維フィラーの平均繊維径が0.1~5.0μmである、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記金属酸化物多孔質繊維フィラーの平均細孔径が10~100nmである、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4]前記金属酸化物多孔質繊維フィラーが、酸化アルミニウム、酸化チタン、アルミニウムとチタンの複合酸化物、チタンとバリウムの複合酸化物、および二酸化ケイ素からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
[5][1]~[4]のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いた、樹脂成形体。
[6][5]に記載の樹脂成形体を用いた、電子・電気機器用部材。
[7][5]に記載の樹脂成形体を用いた、運輸機器用部材。
[8][5]に記載の樹脂成形体を用いた、層間絶縁材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物は、比表面積が大きすぎない所定の金属酸化物多孔質繊維フィラーを用いるため、優れるアンカー効果を発揮しつつ、吸湿性が抑制され、高流動性や分散性を有する樹脂組成物及びこれを用いた樹脂成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例1による酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(1)の走査型顕微鏡写真である。
【
図2】本発明の実施例2による酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(2)の走査型顕微鏡写真である。
【
図3】本願の比較例1による酸化アルミニウム繊維フィラー(1)の走査型顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、比表面積が50m2/g以下である金属酸化物多孔質繊維フィラーと樹脂とを含むことを特徴としている。
【0011】
<金属酸化物多孔質繊維フィラー>
本発明に用いる金属酸化物多孔質繊維フィラーにおいて、「繊維状」とは、細長いもの、すなわちアスペクト比が10以上であることを意味する。本発明におけるアスペクト比とは、繊維長と繊維直径との比で定義される。アスペクト比は、本発明の樹脂組成物から得られる樹脂成形体の補強効果を高く発揮する観点から、10以上であることが好ましい。
【0012】
本発明に用いる金属酸化物多孔質繊維フィラーの比表面積が50m2/g以下であり、40m2/g以下であることが好ましく、20m2/g以下であることがより好ましく、10m2/g以下であることがさらに好ましい。多孔質繊維フィラーとしての性能を発揮するには、3m2/g以上であることが好ましく、4m2/g以上であることがより好ましく、6m2/g以上であることがさらに好ましい。比表面積が50m2/g以下であれば、高い補強効果を発揮でき、また分散性にも優れるため、表面平滑性に優れる樹脂成形体が得られる。
【0013】
本発明に用いる金属酸化物多孔質繊維フィラーの平均繊維径は特に限定されないが、金属酸化物多孔質繊維フィラーの凝集を抑制する観点で、0.1~5.0μmであることが好ましく、0.2~3.0μmであることがより好ましく、0.5~1.5μmであることがさらに好ましい。平均繊維径が0.1μm以上であれば凝集を抑制させやすい。一方、平均繊維径5.0μm以下であれば、薄く、均一な物性を有する構造体を形成することができ、より薄膜化した複合体を得ることができる。
【0014】
本発明に用いる金属酸化物多孔質繊維フィラーの平均細孔径は特に限定されないが、アンカー効果を発揮しやすい観点で、10~100nmであることが好ましく、15~80nmであることがより好ましく、20~70nmであることがさらに好ましい。平均細孔径が10nm以上であれば、樹脂に配合する場合、樹脂が入り込んで樹脂の動きを抑制しやすくなり、平均細孔径が100nm以下であれば、比表面積が小さくなりすぎず、また金属酸化物多孔質繊維フィラーの強度を維持できる。
【0015】
本発明に用いる金属酸化物としては、特に限定されず、アルミニウム、チタン、シリカ、ベリリウム、スズ、亜鉛、マグネシウム、リチウム、ジルコニウム、カルシウム、カリウム、鉄、インジウム、リチウム、カドミウム、タングステン、ニオブ、ゲルマニウム、またはバリウム等の金属酸化物が挙げられる。なお、金属酸化物は金属を1種類のみ含んでいても、2種類以上含んでいてもよい。2種類以上の金属を含む複合酸化物の場合、複合した状態にあっても、複合せず混在した状態にあってもよい。例えば、アルミニウムとチタンを2種類含む場合、Al2TiO5であっても、Al2O3-TiO2であってもよい。これらの金属酸化物の中でも、酸化アルミニウム、酸化チタン、アルミニウムとチタンの複合酸化物、チタンとバリウムの複合酸化物、および二酸化ケイ素からなる群より選ばれた少なくとも1種を含むことが好ましく、熱伝導率向上の観点から酸化アルミニウムであることがより好ましい。
【0016】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、樹脂と、上述した金属酸化物多孔質繊維フィラーとを含むことを特徴としている。本発明の樹脂組成物を用いることで、優れる物性を有する高性能樹脂成形体が得られる。
【0017】
<樹脂>
本発明に用いる樹脂としては、特に限定されず、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であっても、光硬化性樹脂であってもよく、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、アラミド樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスルホン樹脂、セルロール系樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、マレイミド樹脂を例示できる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
本発明における金属酸化物多孔質繊維フィラーの含有率としては、特に限定されないが、樹脂組成物中の固形分(樹脂組成物に含まれる溶媒以外の成分)の5~70重量%であることが好ましく、15~60重量%であることがより好ましく、20~45重量%であることがさらに好ましい。金属酸化物多孔質繊維フィラーの含有率が、樹脂組成物中の固形分の5重量%以上であれば、優れる性能を有する樹脂成形体を得ることが可能となり、70重量%以下であれば、流動性や分散性に優れた樹脂組成物を得られ、表面平滑性に優れた樹脂成形体を得ることが可能となる。
【0019】
樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、樹脂および金属酸化物多孔質繊維フィラー以外の成分として、溶媒、硬化剤、硬化促進剤、硬化遅延剤、分散剤、高分子化合物、無機粒子、金属粒子、界面活性剤、帯電防止剤、レベリング剤、粘度調整剤、チクソ性調整剤、密着性向上剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、顔料、チタンブラック、カーボンブラック、または染料などの公知の添加剤を要求される特性や用途に応じて含んでもよい。
【0020】
樹脂組成物に含まれる溶媒としては、特に限定されず、水、メタノール、エタノール、プロパノール、1-ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、キシレン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、または1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、シクロペンタノンを例示できる。これらは、樹脂の溶解性やフィラーの分散性を鑑み、適宜選択すればよく、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
樹脂組成物に含まれる硬化剤としては、特に限定されず、多官能酸無水物、スチレン無水マレイン酸樹脂(SMA)、アミン系硬化剤、チオール系硬化剤、シアネート系硬化剤、活性エステル系硬化剤、またはフェノール系硬化剤などを用いることができる。これらは、反応性や得られる樹脂成形体の特性に応じて適宜選択すればよく、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
樹脂組成物は、粉末の形態(例えば、金属酸化物多孔質繊維フィラーおよび樹脂を混合してなる粉体混合物)であっても、ペレット等の形態(例えば、金属酸化物多孔質繊維フィラーおよび樹脂を混錬してなるペレット)であってもよく、液状(例えば、樹脂、金属酸化物多孔質繊維フィラー、および溶媒を含む塗料、インク、ワニス等の液状組成物)であってもよい。本発明の樹脂組成物は、樹脂成形体(樹脂組成物が硬化したもの)を製造するために用いることができ、また、未硬化や半硬化状態の樹脂組成物を塗料や接着剤、充填材などとして用いることもできる。
【0023】
<樹脂組成物の製造方法>
樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、金属成分を含む紡糸溶液を調製する工程(以下、紡糸溶液調製工程という)と、上記紡糸溶液を静電紡糸して前駆体繊維を作製する工程(以下、紡糸工程という)と、上記前駆体繊維を焼成して金属酸化物多孔質繊維を作製する工程(以下、焼成工程という)と、上記金属酸化物多孔質繊維を粉砕して金属酸化物多孔質繊維フィラーを作製する工程(以下、粉砕工程という)と、上記金属酸化物多孔質繊維フィラーと樹脂とを混合する工程(以下、混合工程という)を含むことが好ましい。
【0024】
<紡糸溶液調製工程>
紡糸溶液は、曳糸性を有し、溶媒および金属成分を含んでいれば、特に限定されず、金属成分が溶媒に分散または溶解した状態の紡糸溶液であってもよいが、金属酸化物多孔質繊維の平均直径を小さくし、直径や組成の均一性を向上させる観点から、金属成分が溶媒に溶解している状態の紡糸溶液を用いることが好ましい。このような紡糸溶液を得る方法としては、特に限定されず、マグネティックスターラー、振とう器、遊星式攪拌機、または超音波装置などの公知の設備を用いて得ることができる。
【0025】
金属成分としては、上述した金属酸化物多孔質繊維フィラーが得られれば、特に限定されず、アルミニウム、ケイ素、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、イットリウム、ランタン、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛、ホウ素、インジウム、スズ、鉛、ビスマスなどの酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、蓚酸塩、硫酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、またはアルコキシドを例示できる。紡糸溶液調製工程の操業性の観点から、金属成分はアルコキシドを含むことが好ましい。アルコキシドとしては、テトラエトキシシラン、トリエトキシシラン、アルミニウムsec-ブトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソプロポキシド、マグネシウムアルコキシドまたはジルコニウムテトライソプロポキシドを例示できる。
【0026】
紡糸溶液調製工程に用いる溶媒としては、特に限定されず、水、メタノール、エタノール、プロパノール、1-ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、キシレン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、または1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、シクロペンタノン、アセチルアセトン、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等を例示できるが、金属成分の分散性や溶解性、長時間の安定紡糸性の観点から、沸点100~150℃を有するアルコール系溶媒を含むことが好ましい。溶媒の沸点が100℃以上であれば、紡糸工程において、溶媒の揮発によるノズルのつまりを抑えることができ、また、紡糸溶液調製工程において、加熱によって溶解性を向上させることにより容易に均一な紡糸溶液を得ることが可能となり、150℃以下であれば、高い吐出量で紡糸しても溶媒が揮発することができ、均一な前駆体繊維を得ることが可能となる。沸点が100~150℃を有するアルコール系溶媒としては、1-ブタノール、イソブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルであることが好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルであることがより好ましい。
【0027】
紡糸溶液は、特に限定されないが、曳糸性を向上させる目的で、さらに繊維形成性高分子を含有してもよい。繊維形成性高分子は、紡糸溶液の繊維化を促す作用を奏すればよく、上記溶媒に溶解可能で、焼成により分解されるものから選ばれる。繊維形成性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、セルロース、セルロース誘導体、キチン、キトサン、コラーゲン、またはこれらの共重合体や混合物を例示できる。これら繊維形成性高分子は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。繊維形成性高分子は、溶媒への溶解性、及び焼成工程での分解性の観点から、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、またはポリアクリル酸であることが好ましく、ポリビニルピロリドンであることがより好ましい。
【0028】
紡糸溶液中における金属成分の配合量は、10~50重量%であり、好ましくは20~40重量%であり、より好ましくは25~35重量%である。金属成分の配合量が10重量%以上であれば紡糸溶液の安定性や曳糸性を向上させ、高い生産性で製造することができる。また金属成分の配合量が50重量%以下であれば紡糸溶液の粘度が高くなりすぎず安定的な紡糸が行えるとともに細い繊維が得られやすくなる。
【0029】
紡糸溶液中の金属成分と紡糸助剤との混合重量比率が1:0.1~1:0.5の範囲であり、好ましくは1:0.1~1:0.4、より好ましくは1:0.15~1:0.3である。紡糸助剤の割合が小さくなると、細孔が形成されにくくなり、比表面積が小さくなりすぎる。一方、紡糸助剤の割合が大きくなりすぎると、比表面積が大きくなりすぎる。
【0030】
本発明の効果を著しく損なわない範囲であれば、上記以外の成分も紡糸溶液の成分として含んでもよく、例えば、導電助剤、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤を含んでもよい。
【0031】
<紡糸工程>
次いで、紡糸工程において、調製した紡糸溶液を静電紡糸することで前駆体繊維を得る。
【0032】
静電紡糸は、紡糸溶液をノズル等から吐出させるとともに、吐出された紡糸溶液に電界を作用させて繊維化し、コレクター上に繊維を得る方法である。この静電紡糸の条件は、紡糸溶液から所定の繊維径の繊維が製造できれば、特に限定されるものではない。
例えば、紡糸溶液の吐出量としては、0.1~10mL/hrであることが好ましい。吐出量が0.1mL/hr以上であれば充分な生産性を得ることができ、10mL/hr以下であれば均一かつ細い繊維を得られ易くなる。
また印加させる電圧の極性は、正であっても負であってもよい。例えば、正の電圧の場合、5kV以上、100kV以下の範囲が挙げられる。
また、ノズルとコレクターとの距離は、繊維が形成されれば特に限定されないが、5~50cmの範囲を例示できる。コレクターは、紡糸された前駆体繊維を捕集できるものであればよく、その素材や形状などは特に限定されない。コレクターの素材としては、金属などの導電性材料が好適に用いられる。コレクターの形状としては、特に限定されないが、平板状、シャフト状、コンベア状を例示できる。コレクターがコンベア状であると、前駆体繊維を連続的に製造することができるため好ましい。
さらに、ノズルとコレクターとの間の電界を作用させた紡糸空間(静電紡糸装置のチャンバー内)の湿度を30%以上、40%以上、50%以上、特に60%以上とするのが好ましい。紡糸空間の湿度を30%以上とすることにより、繊維に細孔が形成されやすくなる。
【0033】
<焼成工程>
次いで、焼成工程において、紡糸工程により得られた前駆体繊維を焼成することで、金属酸化物多孔質繊維を得る。焼成工程により、前駆体繊維の繊維形成性高分子を除去して繊維に細孔を形成させるとともに、金属成分が酸化して金属酸化物となることで、金属酸化物多孔質繊維となる。
【0034】
本発明における焼成温度は、特に限定されないが、800~1300℃であることが好ましく、900~1250℃であることがより好ましく、1100~1200℃であることがさらに好ましい。焼成温度を上げることにより比表面積を減少させることができる。そして、焼成温度を800℃以上とすることにより、所定の多孔質構造が得られ、焼成温度を1300℃以下とすることにより空隙率が増大し、多孔質としての特性を得られやすい。
焼成温度までの昇温速度は、特に限定されず、1~20℃/分、好ましくは5~15℃/分、より好ましくは8~12℃/分である。
焼成時間は、特に限定されず、焼成温度で1~8時間、より好ましくは2~4時間である。
焼成の雰囲気は、特に限定されず、金属酸化物を効率的に得るという観点から、空気雰囲気中で焼成することが好ましい。
【0035】
<粉砕工程>
次いで、粉砕工程において、焼成工程で得られた金属酸化物多孔質繊維を粉砕することで、金属酸化物多孔質繊維フィラーを得る。
【0036】
粉砕の方法は、金属酸化物多孔質繊維フィラーが上述した形状を維持できれば、特に限定されず、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、高圧ホモジナイザー、遊星ミル、ロータリークラッシャー、ハンマークラッシャー、カッターミル、石臼、乳鉢、またはスクリーンメッシュ粉砕を例示でき、乾式であっても湿式であってもよいが、特定の形状や大きさに制御しやすい点で、スクリーンメッシュ粉砕が好ましく用いられる。スクリーンメッシュ粉砕は、所定の目開きを有するメッシュ上に金属酸化物多孔質繊維を乗せ、ブラシやヘラなどで濾す方法や、アルミナ、ジルコニア、ガラス、PTFE、ナイロン、またはポリエチレンなどのビーズと金属酸化物多孔質繊維とをメッシュ上に乗せて、縦および/または横方向の振動を加える方法を例示できる。使用するメッシュの目開きとしては、特に限定されないが、20~1000μmであることが好ましく、50~500μmであることがより好ましい。目開きが20μm以上であれば、粉砕処理時間を短縮できるため好ましく、1000μm以下であれば、粗大物や凝集物を除去できるため好ましい。求められる特性に対して、粉砕方法や条件などは適宜変更すればよい。
【0037】
<混合工程>
次いで、混合工程において、粉砕工程で得られた金属酸化物多孔質繊維フィラーと樹脂とを混合することで、樹脂組成物を得る。
【0038】
混合方法は、特に限定されず、乾式法であっても、湿式法であってもよい。乾式法の場合には、溶媒を必要とせずに樹脂組成物が得られる点で好ましい。溶液法の場合には、物性のばらつきが小さい樹脂組成物や樹脂成形体が得られるため好ましい。乾式法による樹脂組成物の製造方法としては、例えば、金属酸化物多孔質繊維フィラーおよび樹脂を配合し、常温にて乳鉢を用いて混合する方法や、ペレタイザーなどを用いて溶融混錬する方法を挙げることができる。湿式法による樹脂組成物の製造方法としては、例えば、金属酸化物多孔質繊維フィラー、樹脂、および溶媒を配合し、マグネティックスターラー、振とう器、ボールミル、ジェットミル、遊星式攪拌機、または超音波装置などの公知の設備を用いて混合する方法を挙げることができ、混合した後溶媒を蒸発させてもよい。混合条件としては、特に限定されず、例えば、10~120℃において、1~24時間行うことができる。
【0039】
<樹脂成形体>
本発明の樹脂成形体は、樹脂組成物を硬化させたものであり、形状は特に限定されない。例えば、板状、フィルム状、シート状などであってもよい。また、所定の形状に成形されたものでもよい。本発明の樹脂成形体は、誘電特性、絶縁特性、線熱膨張特性、機械的な特性および耐摩耗性などの各種特性に優れるため、電子・電気機器用部材、運輸機器用部材、光学部品、機械部材、生活・スポーツ部品、電池部品および包装材料などに好適に用いることができる。具体的には、バッファーコート、再配線用絶縁膜、層間絶縁膜、平坦化膜、絶縁膜、保護膜、封止剤、アンダーフィル材、ダイアタッチ材、シール材、光学レンズ、接着剤、波長変換剤、光反射板などが挙げられる。
【0040】
<樹脂成形体の製造方法>
粉末状やペレット状の樹脂組成物を用いる場合、常法の成形方法により行うことができ、例えば、押出成形(異形押出成形を含む)、射出成形、真空成形、ブロー成形などにより行うことができる。
【0041】
液状の樹脂組成物を用いる場合、例えば、樹脂組成物を支持体上に塗布し、溶媒を乾燥除去することで硬化させる方法、さらに熱硬化や光硬化させる方法が挙げられる。塗布する方法としては、特に限定されず、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、またはキャストコーティング法などの公知の方法を用いて行うことができる。また、パターン化が必要な場合には、インクジェット法、スクリーン印刷法、またはフレキソ印刷法などの公知の方法を用いて行うことができる。液状の樹脂組成物を塗布する支持体としては、特に限定されず、ガラス基板、アルミニウム基板、銅基板などの無機基材、または高分子フィルムなどの有機基材を用いることができる。樹脂成形体を支持体上に被膜として残してもよいが、自立膜を形成させるために、表面が離型処理された支持体を用いてもよい。溶媒を乾燥除去する方法としては、特に限定されるものではなく、誘導加熱、熱風循環加熱、真空乾燥、赤外線、またはマイクロ波加熱を例示できる。乾燥条件としては、例えば、40~150℃で1~180分間乾燥してもよく、さらに熱硬化目的で、200~400℃で20~90分間加熱処理を行ってもよい。乾燥後の樹脂成形体は、ボイドを抑制させる目的で、さらに、熱プレスや熱処理を行うことができる。熱プレス条件としては、特に限定されず、プレス温度としては60~400℃、プレス圧力としては1~30MPa、プレス時間としては1~60分間の範囲を例示できる。熱処理条件としては、例えば、オーブンなどで60~200℃で1~24時間行ってもよい。なお、半硬化状態の樹脂組成物を使用すると、扱い易さをより向上させることができる。例えば、半硬化状態の組成物をフィルム形状に形成し、好みの形に切り取り、これを好適な部材と部材の間に配置し貼りあわせることが可能となる。本発明の樹脂組成物における半硬化状態は、少なくとも一部において架橋反応が生じ、流動性が低下しているものであればよく、弾性や粘性を有するものや、加熱により軟化または溶融するものなども含まれる。
【0042】
<電子・電気機器用部材>
本発明の電子・電気機器部材は、上記樹脂成形体を部品に使用したものである。本発明の電子・電気機器用部材は、軽量でありながら、誘電特性、絶縁特性、線熱膨張特性、化学的安定性、耐熱性、硬度及び機械特性などに優れる。なお、前記機械特性とは、ヤング率、引っ張り強度、引き裂き強度、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度などである。そのため、上記樹脂成形体は電子・電気機器用部材として好適である。電子・電気機器用部材としては特に限定されないが、特開2001―081318号公報に記載の大型ディスプレイ、ノート型パソコン、携帯用電話機、PHS、PDA、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯用ラジオカセット再生機などのハウジング、ケーシング、またはそれらの部品などが挙げられる。特にこれらの電子・電気部品に含まれるバッファーコート、再配線用絶縁膜、層間絶縁膜、平坦化膜、絶縁膜、保護膜、封止剤、アンダーフィル材、ダイアタッチ材、シール材、光学レンズ、接着剤、波長変換剤、光反射板、プリント配線板、半導体素子、発光ダイオード(LED)などに使用される部品を例示できる。
【0043】
<運輸機器用部材>
本発明の運輸機器用部材は、上記樹脂成形体を部品として使用したものである。本発明の運輸機器用部材は、軽量でありながら、化学的安定性、耐熱性、硬度及び機械特性などに優れている。なお、前記機械特性とは、ヤング率、引っ張り強度、引き裂き強度、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度などである。そのため、上記樹脂成形体は運輸機器用部材として好適である。運輸機器用部材として特に限定されないが、特開2023-002799号公報に記載の車両、自動車、オートバイ、自転車、列車、バス、カート、人力車、船、航空機、ロケット、衛星、ドローン、バルーンなどの運輸機器に使用される部品を例示できる。
【0044】
<層間絶縁材料>
本発明の樹脂成形体は絶縁特性を利用し、層間絶縁材料にも使用できる。層間絶縁材料を得る方法は特に限定されないが、具体的には、本発明の樹脂組成物を、回路を形成した配線基板にスプレーコーティング法、カーテンコーティング法、またはスクリーン印刷法等の公知の方法で塗布し、硬化させる。硬化方法は限定されないが、溶媒を飛ばして硬化させる方法、熱硬化させる方法、または光硬化させる方法などが挙げられる。その後、必要に応じて所定のスルーホール部等の穴あけを行った後、粗化剤により処理し、その表面を湯洗することによって、凹凸を形成させ、銅などの金属をめっき処理する。当該めっき方法としては、無電解めっき、電解めっき処理が好ましく、また上記の粗化剤としては酸化剤、アルカリ及び有機溶剤の中から選ばれた少なくとも1種が用いられる。このような操作を所望に応じて順次繰り返し、樹脂絶縁層及び所定の回路パターンの導体層を交互にビルドアップして形成することができる。但し、スルーホール部の穴あけは、最外層の樹脂絶縁層の形成後に行なう。また、本発明の半硬化状態の樹脂組成物を用いてビルドアップ基板用層間絶縁材料を作製することもできる。たとえば、回路を形成した配線基板上で、前記と同様の条件下に当該樹脂組成物を半硬化させ、その後、必要に応じて所定のスルーホール部等の穴あけを行った後、粗化剤により粗面化処理を行ない、樹脂絶縁層の表面及びスルーホール部に凹凸状の良好な粗化面を形成させる。次いで、このように粗面化された樹脂絶縁層表面に前記と同様に金属めっきを施した後、再度、当該樹脂組成物をコーティングし、170~250℃で加熱処理を行う。このような操作を所望に応じて順次繰り返し、樹脂絶縁層及び所定の回路パターンの導体層を交互にビルドアップして形成することもできる。また、銅箔上で当該樹脂組成物を半硬化させた樹脂付き銅箔を、回路を形成した配線基板上に、170~250℃で加熱圧着することで、粗化面を形成、メッキ処理の工程を省き、ビルドアップ基板を作製することも可能である。
【実施例0045】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、以下の実施例は例示を目的としたものに過ぎない。本発明の範囲は、本実施例に限定にされない。
実施例で用いた物性値の測定方法または定義を以下に示す。
【0046】
<比表面積、平均細孔径>
マイクロトラック・ベル株式会社の自動比表面積/細孔分布測定装置(BELSORP MAX2)を使用し、吸着ガスとして、窒素ガスを使用した。比表面積は、BET法で評価を行った。平均細孔径は、BJH法を用いて評価を行った。なお、平均細孔径が検出限界以下である場合、無孔質と判断した。
【0047】
<平均繊維径>
株式会社日立製作所製の走査型電子顕微鏡(SN-3400N)を使用して、金属酸化物多孔質繊維フィラーを観察し、画像解析機能を用いて金属酸化物多孔質繊維フィラー50本以上の繊維径を測定し、平均値を求めた。
【0048】
<線熱膨張係数>
(株)日立ハイテクサイエンスの熱機械測定装置TMA-7100を用い、試験片3×20mm、50mNの引張荷重下、昇温速度10℃/minで、樹脂成形体の平面方向(XY方向)の100~360℃までの線熱膨張係数を測定した。単位はppm/K。
【0049】
<熱伝導率>
熱伝導率(λ)は、JIS R1611に準じて、熱拡散率((株)日立ハイテクサイエンス製アイ・フェイズ熱拡散率測定装置で測定した。)と比熱((株)パーキンエルマー製、diamond DSC型入力補助型示差走査熱量測定装置で測定した。)と比重(アルファーミラージュ(株)製MD-300s型電子比重計により測定した。)を測定し、これらの値を掛け合わせることにより熱伝導率を算出した。
【0050】
<表面平滑性>
得られた樹脂成形体(フィルム状)の平滑性は目視により官能的に評価した。ツヤ感が良好なものを〇、ツヤ感はあまりないものを△、ツヤ感は全くないものを×と判定した。
【0051】
[実施例1]
<紡糸溶液の調製>
プロピレングリコールモノメチルエーテル13.5重量部と、アセチルアセトン1.9重量部を撹拌しながら、ポリビニルピロリドン0.6重量部を添加し、1時間撹拌させた。次いで、アルミニウムsec-ブトキシド7.5重量部を添加して紡糸溶液を調製した。
【0052】
<繊維の作製>
上記方法により調製した紡糸溶液を、シリンジポンプにより内径0.30mmのノズルに5.5ml/hrで供給すると共に、ノズルに35kVの電圧を印加し、接地されたコレクターに前駆体繊維を捕集した。このとき、紡糸湿度は、60%であった。ノズルとコレクターの距離は210mmとした。静電紡糸された前駆体繊維を空気中、10℃/分の昇温速度で1150℃まで昇温し、1150℃の焼成温度で2時間保持した。その後、室温まで冷却し、酸化アルミニウム多孔質繊維(1)を得た。次いで、目開き500μmスクリーンメッシュ上に、直径9.5mmナイロンボールとともに乗せ、縦方向に振動させて粉砕することで、酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(1)を得た。得られた酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(1)の比表面積は3.7m
2/g、平均繊維径は0.5μm、平均細孔径は32nmであった。得られた酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(1)の走査型電子顕微鏡写真を
図1に示す。
【0053】
<樹脂組成物の作製>
樹脂として特開2010-159402号公報に記載の方法により合成したポリイミド樹脂1.5重量部、溶媒として3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(KJケミカルズ(株)、KJCMPA(登録商標)-100)1.5重量部、フィラーとして酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(1)1.01重量部を配合し、あわとり練太郎((株)シンキー、ARE-310)で混合し、液状の樹脂組成物を調製した。酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(1)の含有率は、樹脂組成物中の固形分の40.2質量%(20体積%)であった。
【0054】
<樹脂成形体の作製>
次いで、アプリケーターを用いて、厚さ25μmのアルミニウム基板上に、液状の樹脂組成物を流延し、80℃のホットプレート上で30分間乾燥した後、150℃のオーブンで15分間と350℃のオーブンで30分間加熱し、樹脂成形体を作製した。得られた樹脂成形体における線熱膨張係数は22.5ppm/K、熱伝導率は0.83W/m・Kであった。また、樹脂成形体表面のツヤ感は良好であった。
【0055】
[実施例2]
<紡糸溶液の調製>
プロピレングリコールモノメチルエーテル12.8重量部と、アセチルアセトン1.5重量部を撹拌しながら、ポリビニルピロリドン1.6重量部を添加し、1時間撹拌させた。次いで、アルミニウムsec-ブトキシド5.9重量部を添加して紡糸溶液を調製した。
【0056】
<繊維の作製>
上記方法により調製した紡糸溶液を、シリンジポンプにより内径0.30mmのノズルに8.0ml/hrで供給すると共に、ノズルに28kVの電圧を印加し、接地されたコレクターに前駆体繊維を捕集した。このとき、紡糸湿度は、32%であった。ノズルとコレクターの距離は210mmとした。静電紡糸された前駆体繊維を空気中、10℃/分の昇温速度で1150℃まで昇温し、1150℃の焼成温度で2時間保持した。その後、室温まで冷却し、酸化アルミニウム多孔質繊維(2)を得た。次いで、目開き500μmスクリーンメッシュ上に、直径9.5mmナイロンボールとともに乗せ、縦方向に振動させて粉砕することで、酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(2)を得た。得られた酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(2)の比表面積は8.5m
2/g、平均繊維径は1.0μm、平均細孔径は62nmであった。得られた酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(2)の走査型電子顕微鏡写真を
図2に示す。この走査型電子顕微鏡写真から繊維表面に複数の細孔が形成されていることがわかる。
【0057】
<樹脂組成物および樹脂成形体の作製>
酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(1)に変えて、酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(2)を用いた以外は、実施例1と同様に、樹脂組成物および樹脂成形体を作製した。酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(2)の含有率は、樹脂組成物中の固形分の40.2質量%(20体積%)であった。得られた樹脂成形体における線熱膨張係数は26.9ppm/K、熱伝導率は0.92W/m・Kであった。また、樹脂成形体表面のツヤ感は良好であった。
【0058】
[実施例3]
<樹脂組成物および樹脂成形体の作製>
酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(2)の配合量を1.73重量部に変えた以外は、実施例2と同様に、樹脂組成物および樹脂成形体を作製した。酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(2)の含有率は、樹脂組成物中の固形分の53.6質量%(30体積%)であった。得られた樹脂成形体における線熱膨張係数は24.1ppm/K、熱伝導率は1.76W/m・Kであった。また、樹脂成形体表面のツヤ感は良好であった。
【0059】
[実施例4]
<紡糸溶液の調製および繊維の作製>
焼成温度を1000℃とした以外は、実施例2と同様にして、酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(3)を作製した。得られた酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(3)の比表面積は39.9m2/g、平均繊維径は1.0μm、平均細孔径は22nmであった。
【0060】
<樹脂組成物および樹脂成形体の作製>
酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(2)に変えて、酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(3)を用いた以外は、実施例3と同様に、樹脂組成物および樹脂成形体を作製した。酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(3)の含有率は、樹脂組成物中の固形分の53.6質量%(30体積%)であった。得られた樹脂成形体における得られた樹脂成形体における線熱膨張係数は28.2ppm/K、熱伝導率は0.78W/m・Kであった。また、樹脂成形体表面のツヤ感はあまりなかった。
【0061】
[実施例5]
<紡糸溶液の調製>
プロピレングリコールモノメチルエーテル13.5重量部と、アセチルアセトン3.0重量部を撹拌しながら、ポリビニルピロリドン1.3重量部を添加し、1時間撹拌させた。次いで、アルミニウムsec-ブトキシド7.5重量部と、チタン酸テトライソプロピル4.3重量部を添加して紡糸溶液を調製した。
【0062】
<繊維の作製>
上記方法により調製した紡糸溶液を、シリンジポンプにより内径0.30mmのノズルに7ml/hrで供給すると共に、ノズルに25kVの電圧を印加し、接地されたコレクターに前駆体繊維を捕集した。このとき、紡糸湿度は、60%であった。ノズルとコレクターの距離は210mmとした。静電紡糸された前駆体繊維を空気中、10℃/分の昇温速度でそれぞれ950℃まで昇温し、950℃の焼成温度で2時間保持した。その後、室温まで冷却し、酸化アルミニウム-酸化チタン多孔質繊維(1)を得た。次いで、目開き500μmスクリーンメッシュ上に、直径9.5mmナイロンボールとともに乗せ、縦方向に振動させて粉砕することで、酸化アルミニウム-酸化チタン多孔質繊維フィラー(1)を得た。得られた酸化アルミニウム-酸化チタン多孔質繊維フィラー(1)の比表面積は10.0m2/g、平均繊維径は1.0μm、平均細孔径は50nmであった。
【0063】
<樹脂組成物および樹脂成形体の作製>
酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(1)に変えて、酸化アルミニウム-酸化チタン多孔質繊維フィラー(1)を1.64重量部用いた以外は、実施例1と同様に、樹脂組成物および樹脂成形体を作製した。酸化アルミニウム-酸化チタン多孔質繊維フィラー(1)の含有率は、樹脂組成物中の固形分の52.2質量%(30体積%)であった。得られた樹脂成形体における線熱膨張係数は23.8ppm/Kであった。また、樹脂成形体表面のツヤ感は良好であった。
【0064】
[比較例1]
<紡糸溶液の調製および繊維の作製>
紡糸湿度を32%とした以外は、実施例1と同様にして、酸化アルミニウム繊維フィラー(1)を作製した。得られた酸化アルミニウム繊維フィラー(1)の比表面積は2.5m
2/g、平均繊維径は0.5μm、無孔質であった。得られた酸化アルミニウム繊維フィラー(1)の走査型電子顕微鏡写真を
図3に示す。
【0065】
<樹脂組成物および樹脂成形体の作製>
酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(1)に変えて、酸化アルミニウム繊維フィラー(1)を用いた以外は、実施例1と同様に、樹脂組成物および樹脂成形体を作製した。酸化アルミニウム繊維フィラー(1)の含有率は、樹脂組成物中の固形分の40.2質量%(20体積%)であった。得られた樹脂成形体における線熱膨張係数は32.2ppm/K、熱伝導率は0.65W/m・Kであった。また、樹脂成形体表面のツヤ感は良好であった。
【0066】
[比較例2]
<紡糸溶液の調製および繊維の作製>
焼成温度を650℃とした以外は、実施例2と同様にして、酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(4)を作製した。得られた酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(4)の比表面積は78.6m2/g、平均繊維径は1.0μm、平均細孔径は9nmであった。
【0067】
<樹脂組成物および樹脂成形体の作製>
酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(1)に変えて、酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(4)を用いた以外は、実施例1と同様に、樹脂組成物および樹脂成形体を作製した。酸化アルミニウム多孔質繊維フィラー(4)の含有率は、樹脂組成物中の固形分の40.2質量%(20体積%)であった。得られた樹脂成形体における線熱膨張係数は53.6ppm/K、熱伝導率は0.25W/m・Kであった。また、樹脂成形体表面のツヤ感は全くなかった。
【0068】
[比較例3]
<紡糸溶液の調製および繊維の作製>
焼成温度を1150℃とした以外は、実施例5と同様にして、酸化アルミニウム-酸化チタン繊維フィラー(1)を作製した。得られた酸化アルミニウム・酸化チタン繊維フィラー(1)の比表面積は3.0m2/g、平均繊維径は1.0μm、無孔質であった。
【0069】
<樹脂組成物および樹脂成形体の作製>
酸化アルミニウム-酸化チタン多孔質繊維フィラー(1)に変えて、酸化アルミニウム-酸化チタン繊維フィラー(1)を用いた以外は、実施例5と同様に、樹脂組成物および樹脂成形体を作製した。酸化アルミニウム-酸化チタン繊維フィラー(1)の含有率は、樹脂組成物中の固形分の52.2質量%(30体積%)であった。得られた樹脂成形体における線熱膨張係数は34.0ppm/Kであった。また、樹脂成形体表面のツヤ感は良好であった。
【0070】
実施例1~5、比較例1~3で用いた金属酸化物繊維フィラー、樹脂、および樹脂成形体の物性について表1にまとめる。
【0071】
【0072】
<線熱膨張係数の評価>
実施例1と比較例1との対比、実施例5と比較例3の対比から、無孔質のフィラーを使用するより、多孔質のフィラーを用いた樹脂成形体の線熱張係数が低くなることが分かった。これは、多孔質のフィラーに樹脂が入り込むことで、ポリマーの熱による膨張が抑制できたためと考えられる。
実施例2と比較例4との対比から、比表面積が大きすぎない多孔質のフィラーを用いた樹脂成形体の線熱膨張係数が低くなることが分かった。これは、高い比表面積を有する比較例2のフィラーの細孔径が非常に小さく、樹脂が細孔に入り込みにくく、ポリマーの熱による膨張への抑制ができなかったためと考えられる。
これらの結果からポリマーの熱による膨張への抑制効果は細孔有無および比表面積に依存していることがわかった。
【0073】
<熱伝導率の評価>
実施例1、2と比較例1の対比から、無孔質のフィラーを使用するより、多孔質のフィラーを用いた樹脂成形体の方が熱伝導率は大きくなることが分かった。これは、多孔質のフィラーに樹脂が入り込むことで、フィラー間の距離が縮まったためと考えられる。
比較例2の樹脂成形体に対して、実施例2の樹脂成形体の熱伝導率は格段に大きくなることがわかった。これは、実施例2に比べ、比較例2の焼成温度が低く、高結晶化度の酸化アルミニウムが得られなかったためと考えられる。
これらの結果から樹脂成形体の熱伝導率は比表面積に依存していることもわかった。
【0074】
<表面平滑性の評価>
比較例2の樹脂成形体の表面平滑性が悪かったのに対して、実施例1~4および比較例1の樹脂成形体の表面平滑性は優れることがわかった。これは、比較例2のフィラーの比表面積が大きすぎ、粒子結合点が多くなり、全体の結合強度が向上するため、分散性が低く、凝集してしまったためと考えられる。
この結果から、樹脂成形体の表面平滑性は、比表面積に依存していることがわかった。
本発明の樹脂組成物は、比表面積が大きすぎない所定の金属酸化物多孔質繊維フィラーを用いるため、高い補強効果を発揮しつつ、表面平滑性に優れた樹脂成形体用の樹脂組成物を提供できる。そのため、電子・電気機器用部材、運輸機器用部材、層間絶縁材料、半導体製造装置、光学機器、計測機器、航空宇宙などの用途に好適に使用することができる。