(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128691
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】誘導電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/28 20060101AFI20240913BHJP
H02K 17/16 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
H02K3/28 J
H02K17/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037825
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】横井 裕一
【テーマコード(参考)】
5H013
5H603
【Fターム(参考)】
5H013LL04
5H603AA01
5H603BB01
5H603BB08
5H603CA01
5H603CA02
5H603CB02
(57)【要約】
【課題】固定子電流による回転磁界に含まれる不要な成分の影響を除去できるようにした誘導電動機を提供する。
【解決手段】誘導電動機1は、固定子巻線22を分数スロット集中巻とし、回転子巻線32を全節巻とすると共に、回転子3の極数をP、固定子2のスロット数をM、P/2とMの最大公約数をG、回転子3を駆動する力を発生させる調波成分の次数をν
m、その高調波の次数をν
nとしたとき、極数Pは、(1)式で求められる次数ν
mの調波成分以外の主要な調波成分が、(2)式で求められる次数ν
nの高調波成分に含まれない値とした。
ν
m=P/(2G)・・・(1)
ν
n=(2K+1)ν
m・・・(2)
但し、Pは偶数である。また、Kは1以上の自然数とし、かつ、ν
nが入力電力の相数の倍数である場合の値は含まない。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子巻線を有した固定子と、
回転子巻線を有し、前記固定子と対向する回転子を備え、
前記固定子巻線を、前記固定子の1つずつの歯部に巻線を直巻きとした分数スロット集中巻とし、前記回転子巻線を全節巻とすると共に、
前記回転子の極数をP、前記固定子のスロット数をM、P/2とMの最大公約数をG、前記回転子を駆動する力を発生させる調波成分の次数をνm、その高調波の次数をνnとしたとき、
前記極数Pは、(1)式で求められる次数νmの調波成分以外の主要な調波成分が、(2)式で求められる次数νnの高調波成分に含まれない値とした
誘導電動機。
νm=P/(2G)・・・(1)
νn=(2K+1)νm・・・(2)
但し、Pは偶数である。また、Kは1以上の自然数とし、かつ、νnが入力電力の相数の倍数である場合の値は含まない。
【請求項2】
次数νmは、2以上である
請求項1に記載の誘導電動機。
【請求項3】
M=12、P=10とした
請求項1に記載の誘導電動機。
【請求項4】
前記回転子巻線は、3組ずつあるいは奇数組ずつの巻線をY字あるいはスター結線とした
請求項1に記載の誘導電動機。
【請求項5】
前記固定子のスロットのピッチをA、前記固定子のスロット間の開口幅をC、前記回転子のスロットのピッチをDとしたとき、
A>C=N×D(Nは自然数)とした
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の誘導電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導電動機は、自己始動性、信頼性、経済性に優れているため、ポンプ、送風機、圧縮機など産業用駆動装置として広く使用されている。構造としては、固定子巻線を分布巻とし、回転子巻線をかご形巻線とすることが一般的である。
【0003】
しかし、固定子巻線を分布巻とすると、固定子コアの両端より外に張り出した部分いわゆるコイルエンドが長くなるため、コイルエンドにおける巻線コイルの銅損が大きい、銅の使用量が増える、電動機全体の長手方向の寸法が長くなるという問題がある。
【0004】
これに対し、固定子巻線を集中巻にすれば、コイルエンドが長くなることに起因したこれらの問題は回避される。一方、固定子巻線を集中巻にした誘導電動機では、固定子と回転子との間のすき間であるギャップ中の磁束密度分布に、波長の異なるいくつかの空間調波が含まれる。
【0005】
誘導電動機は、固定子電流により回転磁界が発生し、回転磁界により回転子電流が誘導され、回転磁界と回転子電流により回転子を回転させるトルクが生成される。固定子巻線を集中巻にした誘導電動機では、ギャップ中の磁束密度分布にいくつかの空間調波が含まれることで、それぞれの空間調波の回転磁界により回転子電流が誘導され、それぞれに応じたトルクが生成される。
【0006】
固定子巻線を集中巻にした誘導電動機では、主要な空間調波による回転磁界に由来するトルクのうち最も大きいトルクが回転子の駆動に寄与する。これに対し、それ以外の空間調波による回転磁界は、上記と異なる速度で回転するため、回転子の駆動に悪影響を及ぼす。そして、回転子が従来のかご形巻線であると、この問題を回避できない。
【0007】
これに対して、特許文献1では、固定子に集中巻したコイルを備え、回転子が、電気的に互いに分離された少なくとも2組のかご形短絡巻線導体を備える回転電機が記載されている。特許文献1に記載のかご形短絡巻線導体は、回転子巻線(導体)が分布巻の波巻と同一の形態である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の固定子は、3スロット2極の分数スロット集中巻である。この場合、ギャップ中の磁束密度分布の空間調波において基本波、第2高調波、第4高調波、第5高調波が主要な成分となる。この場合の駆動に必要な成分は基本波である。回転子巻線は、それ以外の成分の内、第2高調波と第4高調波を抑制するが、第5高調波に対しては完全な抑制効果がない。そのため、トルク脈動の増加や自己始動ができなくなるという不都合が生じる。
【0010】
本発明は、このような課題を解決するためなされたもので、固定子電流による回転磁界に含まれる不要な成分の影響を除去できるようにした誘導電動機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するため、本発明は、固定子巻線を有した固定子と、回転子巻線を有し、固定子と対向する回転子を備え、固定子巻線を、固定子の1つずつの歯部に巻線を直巻とした分数スロット集中巻とし、回転子巻線を全節巻とすると共に、回転子の極数をP、固定子のスロット数をM、P/2とMの最大公約数をG、回転子を駆動する力を発生させる調波成分の次数をνm、その高調波成分の次数をνnとしたとき、極数Pは、(1)式で求められる次数νmの調波成分以外の主要な調波成分が、(2)式で求められる次数νnの高調波成分に含まれない値とした誘導電動機である。
νm=P/(2G)・・・(1)
νn=(2K+1)νm・・・(2)
但し、Pは偶数である。また、Kは1以上の自然数とし、かつ、νnが入力電力の相数の倍数である場合の値は含まない。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、固定子電流による回転磁界に含まれる不要成分に由来するトルクの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】本実施の形態の誘導電動機の一例を示す断面図である。
【
図1B】本実施の形態の誘導電動機の一例を示す回転子の結線図である。
【
図2A】本実施の形態の誘導電動機の回転子の他の例を示す斜視図である。
【
図2B】本実施の形態の誘導電動機の他の例を示す回転子の回路図である。
【
図5】60Hz、40Vの電圧供給における実施例と比較例の誘導電動機のトルク-速度特性を示すグラフである。
【
図6A】固定子及び回転子の寸法関係を示す説明図である。
【
図6B】固定子及び回転子の寸法関係を示す説明図である。
【
図6C】固定子及び回転子の寸法関係を示す説明図である。
【
図6D】固定子及び回転子の寸法関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の誘導電動機の実施の形態について説明する。
【0015】
図1Aは、本実施の形態の誘導電動機の一例を示す断面図、
図1Bは、本実施の形態の誘導電動機の一例を示す回転子の結線図である。また、
図2Aは、本実施の形態の誘導電動機の回転子の他の例を示す斜視図、
図2Bは、本実施の形態の誘導電動機の他の例を示す回転子の回路図である。
【0016】
本実施の形態の誘導電動機1は、固定子2と、固定子2と対向する回転子3を備える。固定子2は、周方向に形成される複数のスロット20と、周方向に所定の間隔を開けて設けられ、間にスロット20が形成される歯部21と、歯部21に巻かれる固定子巻線22を備える。
【0017】
固定子2は、銅などの線材である固定子巻線22を、1つずつの歯部21に直巻とした分数スロット集中巻で構成される。
【0018】
回転子3は、周方向に形成される複数のスロット30と、スロット30が形成されるコア31と、スロット30に入れられる回転子巻線32を備える。
【0019】
回転子3は、回転子巻線32で構成されるコイルのピッチが磁極ピッチと等しくなる全節巻で構成される。回転子3は、回転子巻線32が銅などの線材である場合、
図1AにU、V、Wで示す3相の回転子巻線32を備え、例えば
図1Bに示すような波巻となる所定の経路で、回転子巻線32がスロット30に通される。回転子3は、3相の回転子巻線32が短絡線32aによりスター結線で互いに接続される。回転子巻線32は重ね巻であってもよい。両者はいずれも全節巻とし、巻線で構成する場合は重ね巻,ダイキャストで構成する場合は波巻となる。
【0020】
また、回転子3は、回転子巻線32がアルミニウムや銅などの導体をダイキャストなどの成型法で所定の形状のものとする場合、スロット30に通された回転子巻線32が、例えば
図2Aに示すような波巻となるように、短絡部32bで接続される。
【0021】
次に、固定子2を分数スロット集中巻とし、回転子3を全節巻とした誘導電動機1において、固定子2のスロット数と、回転子3の極数と、固定子2と回転子3とのギャップ中の磁束密度分布に含まれる空間調波において、回転子3を駆動する力(トルク)を発生させる成分と、それ以外の主要な成分の関係について説明する。
【0022】
固定子2と回転子3とのギャップ中の磁束密度分布に含まれる空間調波の次数をνとしたとき、回転子3を駆動する力を発生させる調波成分の次数をνm、その高調波成分の次数をνnとする。また、回転子3の極数をP、固定子2のスロット数をM、P/2とMの最大公約数をGとする。スロット数M及び極数Pは、(1)式で求められる次数νmの調波成分以外の主要な調波成分が、(2)式で求められる次数νnの高調波成分に含まれない値とする。
【0023】
νm=P/(2G)・・・(1)
νn=(2K+1)νm・・・(2)
【0024】
但し、Pは偶数である。また、Kは1以上の自然数とし、かつ、νnが入力電力の相数の倍数である場合の値は含まない。
【0025】
入力電力の相数が3である場合に、(1)式及び(2)式で以上の条件を満たす固定子2のスロット数M、回転子3の極数Pについて考える。
【0026】
固定子2のスロット数Mが12、回転子3の極数Pが10である場合、G=1であり、(1)式から次数νm=5である。したがってこの場合、5次の高調波(第5高調波)が、回転子3を駆動する力を発生させる主要な空間調波成分である。それ以外の主要な調波成分は、基本波(ν=1)および第7高調波(ν=7)であるが、いずれも(2)式を満たさない(ν≠νn)。なお、入力電力の相数が3なので、K=1の場合のνn、すなわちν=15は含まない。ν=25は、(2)式においてK=2の場合のνnになるが、第25高調波は主要成分ではないため、この成分の影響は無視できる。
【0027】
これにより、以上の条件を満たす一例として、固定子2のスロット数が12、回転子3の極数が10である場合、ギャップ中の磁束密度分布の基本波と第7高調波により回転子電流が誘導されないようにすればよいことがわかる。次に、ギャップ中の磁束密度分布に含まれる所定の次数の空間調波により回転子電流が誘導されることを抑制できる理由について説明する。
【0028】
固定子2が分数スロット集中巻である誘導電動機1において、回転子3を全節巻とすることにより、回転子3を駆動する力を発生させる調波成分以外の成分を排除することができる。
【0029】
回転子3を全節巻とすることによるフィルタリング効果は、回転磁界から理論的に推定可能である。そこで、実施例と比較例の誘導電動機における空間調波のフィルタリング効果の有無を、回転磁界から理論的に推定する。
【0030】
実施例の誘導電動機1は、
図2Aに示すように、回転子3が10スロットで回転子巻線32が波巻、図示しない固定子が分数スロット集中巻である。
図3Aは、比較例の回転子を示す斜視図、
図3Bは、比較例の回転子の回路図である。比較例は、回転子3Bのスロット30Bの数が10で、スロット30Bに入れられた導体32B(回転子巻線)が、コア31Bの両端に設けたエンドリング33Bで短絡されたかご形である。なお、回転子が10極である場合、回転子は10以上のスロットを必要とするため、以下の説明では、回転子のスロット数を10とする。
【0031】
時間t及び位置θsでの固定子の角度座標における固定子と回転子とのエアギャップ中の空間的及び時間的磁束密度分布Bs(t,θs)は、次の(3)式で近似的に示される。
【0032】
【0033】
(3)式において、Bsν(ν=1,5,7) は、次数νの空間調波の振幅を示し、ωは、固定子巻線に流れる電流(固定子電流と称す)の角周波数を示す。ν=1は基本波、ν=5は5次の高調波(第5高調波)、ν=7は7次の高調波(第7高調波)を示す。
【0034】
また、空間調波により誘起される回転子電流は、回転子の各スロットの導体に誘導される起電力から推定される。回転子のスロットに1、2・・・と位置番号を付したとき、位置番号がnのスロット内の回転子巻線に誘導される起電力Erは、次の(4)式に示される。
【0035】
【0036】
(4)式において、θmは、回転子の角度位置を示し、Erν(ν=1,5,7) は、次数νの空間調波での起電力を示す。
【0037】
さらに、時間t及び角度位置θmで位置番号がnのスロット内の回転子巻線に誘導される空間調波成分における起電力Erν(ν=1,5,7)は、次の(5a)、(5b)、(5c)式に示される。
【0038】
【0039】
回転子が
図3Aに示すかご形であると、
図3Bに示す位置番号がnのスロット内の導体(回転子巻線)に誘導される電流Irは、以下の(6)式に示される。
【0040】
【0041】
回転子が
図3Aに示すかご形であると、エンドリングの電気抵抗を無視すると、スロット内の導体を短絡する両方のエンドリング間に電圧が発生しないため、回転子電流は、主要な全ての空間調波によって誘導される。これにより、回転子電流Irが基本波、第5高調波及び第7高調波に誘導され、基本波及び各高調波がトルク生成に寄与することがわかる。したがって、第5高調波により誘導された回転子電流によるトルクで回転子を駆動しようとした場合、基本波及び第7高調波により誘導された回転子電流によるトルクで始動が妨げられる、また、トルク脈動が増加する可能性がある。
【0042】
これに対し、回転子が
図2Aに示す波巻形であると、スロット内の導体(回転子巻線)に誘導される電流Irは、以下の(7)式に示される。
【0043】
【0044】
回転子が
図2Aに示す波巻形であると、回転子電流は、第5高調波のみによって誘導され、基本波及び第7高調波がトルク生成に寄与しないことがわかる。したがって、回転子が
図2Aに示す波巻形であると、回転磁界で発生する所望の空間調波に対するフィルタリング効果を有することがわかる。
【0045】
誘導電動機のトルク-速度特性は、有限要素法(FEM)解析によって予測可能である。そこで、実施例と比較例の誘導電動機のトルク-速度特性を、有限要素法解析によって数値的に予測する。実施例の誘導電動機1は、
図1Aに示すように、固定子2のスロット20の数が12、回転子3の極数が10であり、固定子巻線22が分数スロット集中巻、回転子巻線32が、
図1Bに示すように波巻である。
図4は、比較例の誘導電動機を示す断面図である。比較例の誘導電動機1Cは、固定子2Cのスロット20Cの数が12、回転子3Cの極数が10相当である。固定子2Cは、固定子巻線22Cが分数スロット集中巻で構成される。回転子3Cは、コア31Cに形成されたスロット30Cに入れられた導体32Cの両端が短絡部32Dで短絡されたかご形である。実施例の誘導電動機1の回転子3、比較例の誘導電動機1Cの回転子3Cは、いずれもスロット数が30である。
【0046】
図5は、60Hz、40Vの電圧供給における実施例と比較例の誘導電動機のトルク-速度特性を示すグラフである。
【0047】
回転子がかご形である比較例の誘導電動機は、回転子の回転速度が600min-1付近の高速域で高いトルクを発生している。しかし、低速域でのトルクは、高速域で発生する最大トルクよりも低くなり、これは、主に基本波および第7高調波が影響していると考えられ、かご形の回転子の理論的推定として、主要な全ての空間調波から電流が誘導されることを反映していると考えられ、回転子がかご形である比較例の誘導電動機では、自己始動を達成できないことを示している。
【0048】
これに対し、回転子が波巻である実施例の誘導電動機は、回転子の回転速度が0超~540min-1程度の速度域で、10Nmのほぼ一定のトルクを発生できることがわかる。これは、回転子が波巻である実施例の誘導電動機では、自己始動を実現できることを示している。回転子が重ね巻でも同様の効果がある。
【0049】
なお、特許文献1に記載の実施の形態のように、3スロット2極で分数スロット集中巻である場合、ギャップ中の磁束密度分布の空間調波において基本波、第2高調波、第4高調波、第5高調波が主要な成分となる。固定子の極数P=2であるので、(1)式から次数ν
m=1であり、基本波が回転子を駆動する力を発生させる。ν=2、ν=4の場合、(2)式を満たさないことから、第2高調波、第4高調波については抑制できる。しかし、ν=5の場合、(2)式を満たすことから、第5高調波については抑制できない。このため、特許文献1のように、3スロット2極の誘導電動機では、固定子が分数スロット集中巻で回転子が波巻であっても、
図5に示す比較例と同等のトルク-速度特性を示すと考えられ、トルク脈動の増加や自己始動ができなくなるという不都合が生じる可能性がある。
【0050】
これに対し、実施例の誘導電動機は、このような特性は見られない。これは、空間調波の次数ν、スロット数M及び極数Pが(1)式及び(2)式で以上の条件を満たす波巻あるいは重ね巻の回転子では、主要な調波成分のうち、駆動に必要な成分以外からの電流が誘導されないことを意味し、回転子による空間調波のフィルタリング効果を裏付けていると考えられる。
【0051】
また、特許文献1に記載の実施の形態のように、3相の各相に対応する3組の波巻導体が互いに電気的に分離していると、各相のバランスがとれず、その結果、トルク脈動の増加や自己始動ができなくなるという不都合が生じる可能性がある。
【0052】
これに対し、実施例の誘導電動機では、
図1Bに示すように、回転子3は、3相の回転子巻線32が短絡線32aによりスター結線で互いに接続される。このように、3組ずつあるいは奇数組ずつの回転子巻線32をY字あるいはスター結線とすることで、各相のバランスをとることができ、トルク脈動が抑制され、また、確実に自己始動ができる。
【0053】
なお、固定子巻線22を集中巻にすることで、コイルエンドが短くなるため、固定子巻線22を分布巻とする場合と比較して、コイルエンドにおける巻線コイルの銅損が小さくなり、固定子巻線22が銅線である場合、銅の使用量を少なくできる、また、電動機全体の長手方向の寸法を短くできる。一方、回転子巻線32については、固定子巻線22に比べて巻数やスロット段面積が小さいため,波巻あるいは重ね巻で構成したとしてもコイルエンド部分も小さいため,電動機全体の長手方向の寸法の増加が抑制され、また、回転子巻線32を波巻のダイカストで構成すれば,従来のかご形と同程度の製造工程で製作可能である。
【0054】
図6A、
図6B、
図6C及び
図6Dは、固定子及び回転子の寸法関係を示す説明図であり、次に、固定子のスロットの開口幅が与える影響について説明する。特許文献1に記載の実施の形態のように、固定子の歯部の側面がストレート形状であると、スロットの開口幅が広くなる。スロットの開口幅が広くなると、必要な電流が大きくなり電力効率が低下する。
【0055】
そこで、固定子2を集中巻にする場合、歯部21の側面を突出させた形態のつば部21aを設け、固定子2のスロット20の開口幅Cを狭くして、必要電流の低減を図ることが考えられる。
【0056】
しかし、
図6Dに示すように、固定子2のスロット20の開口幅Cを、例えば回転子3の歯幅Eより狭くすると、回転子3の歯幅Eが固定子2のスロット20の開口幅Cを跨ぐことで、固定子2からギャップGを経由して回転子3に移り、また固定子2に戻る二点鎖線で示すような経路の漏れ磁束が発生する。漏れ磁束は、回転子巻線には鎖交しないため、誘導起電力の上昇や力率の低下という不具合が生じる。
【0057】
そこで、固定子2のスロット20の開口幅をC、回転子3のスロット30のピッチをDとしたとき、漏れ磁束の影響を抑制できるような両者の寸法関係は、以下の(8)式で示される。
【0058】
C≧D・・・(8)
【0059】
固定子2のスロット20の開口幅Cと回転子3のスロット30のピッチDとの寸法関係を、(8)式のように規定すると、固定子2に対する回転子3の角度位置によらず、回転子3の歯幅Eが固定子2のスロット20の開口幅Cを跨ぐことなく、固定子2の隣接する歯部21間に、回転子3のスロット30の開口幅Fが必ず介在する。これにより、磁路の抵抗が大きくなり、固定子2から回転子3を経由して固定子2に戻る漏れ磁束を抑制できる。
【0060】
図6Aは、C=Dの場合を示し、
図6Bは、C=1.5Dの場合を示す。いずれの場合も、回転子3を経由して固定子2の歯部21間を通過する磁路抵抗は1倍であり同じである。これに対し、
図6Cに示すC=2Dの場合、この磁路抵抗が2倍になる。図示しないが、C=2.5Dの場合、C=2Dの場合と同様に、C=Dの場合の磁路抵抗の2倍になる。
【0061】
したがって、本発明では、固定子2のスロット20のピッチをA、固定子2のスロット20の開口幅をC、回転子3のスロット30のピッチをDとしたとき、Nを自然数として、これらの寸法関係を以下の(9)式で規定する。
【0062】
A>C=N×D・・・(9)
【0063】
(8)式、(9)式から、固定子2のスロット20のピッチAを回転子3のスロット30のピッチDのN倍超とすることで、回転子3を経由する漏れ磁束を抑制でき、例えば、C=DとC=1.5Dのいずれの場合も、固定子2の歯部21間を通過する磁路抵抗は同じであることから、回転子3を経由する漏れ磁束の抑制効果を同一としたときに、最小となる固定子2のスロット20の開口幅Cを求めることができる。
【0064】
具体例で考えると、固定子2が12スロットで固定子巻線22が分数スロット集中巻、回転子3が10極で回転子巻線32が3相である場合、固定子2のスロット20のピッチAは、
A=360°/12(スロット数)=30°、
回転子3のスロット30のピッチDは、
D=360°/(10極×3相;スロット数30)=12°
である。
【0065】
N=1の場合、固定子2のスロット20の開口幅Cは、
C=1×12°=12°、
固定子2の歯幅Bは、
B=A-C=30°-12°=18°
である。
【0066】
回転子3については、回転子3のスロット30のピッチDは、
D=(回転子3のスロット30の開口幅F+回転子3の歯幅E)
であり、F=2°とするなら、E=10°である。
【0067】
N=2の場合、固定子2のスロット20の開口幅Cは、
C=2×12°=24°、
固定子2の歯幅Bは、
B=A-C=30°-24°=6°
である。回転子3については、N=1の場合と同じである。
【0068】
N=3の場合、固定子2のスロット20の開口幅Cは、C=3×12°=36°となり、固定子2のスロット20のピッチA=30°を超えるので、N=3以上は不可である。
【0069】
N=1とN=2の場合を比べると、固定子2のスロット20の開口幅Cは、N=1の場合が小さいので、必要な電流を低減する上では有利である。しかしながら、開口幅Cが小さいということは、回転子3を経由せず、固定子2の歯部21間を直接通過する経路の漏れ磁束が大きくなる可能性がある。また、回転子3を経由する漏れ磁束の抑制効果は、N=2の半分である。
【0070】
したがって、固定子2のスロット20の開口幅Cを、必要な電流と、回転子3を経由する漏れ磁束と、回転子3を経由せず、固定子2の歯部21間を直接通過する漏れ磁束などを考慮して選定することができる。
【符号の説明】
【0071】
1・・・誘導電動機、2・・・固定子、20・・・スロット、21・・・歯部、22・・・固定子巻線、3・・・回転子、30・・・スロット、31・・・コア、32・・・回転子巻線、32a・・・短絡線、32b・・・短絡部