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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128694
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】積層造形品の処理方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 31/14 20060101AFI20240913BHJP
   B24B 31/033 20060101ALI20240913BHJP
   B24B 31/12 20060101ALI20240913BHJP
   A61F 2/28 20060101ALI20240913BHJP
   A61F 2/30 20060101ALI20240913BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20240913BHJP
   F01D 5/14 20060101ALI20240913BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B24B31/14
B24B31/033
B24B31/12 Z
A61F2/28
A61F2/30
F01D25/00 X
F01D5/14
F02C7/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037829
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 仁
(72)【発明者】
【氏名】平野 雅雄
(72)【発明者】
【氏名】辻 俊哉
【テーマコード(参考)】
3C158
3G202
4C097
【Fターム(参考)】
3C158AA01
3C158AA09
3C158AA11
3C158AB01
3C158AB04
3C158AB08
3C158CA01
3C158CA04
3C158CB01
3C158DA02
3C158DA09
3G202BA10
3G202BB05
4C097AA01
4C097AA03
4C097BB01
4C097CC02
4C097CC03
4C097DD09
4C097MM03
4C097MM04
4C097MM05
(57)【要約】
【課題】金属を含む積層造形品の表面の粗さを適切に低減させると共に、積層造形品に残留応力を付与できる積層造形品の処理方法を提供する。
【解決手段】金属を含む積層造形品と金属で構成されたメディアとをバレル研磨装置内に収容する工程と、積層造形品とメディアとを撹拌させて、積層造形品の表面の粗さを低減させるとともに積層造形品に残留応力を付与する工程と、を含み、メディアの表面は、湾曲面で構成されている、積層造形品の処理方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を含む積層造形品と金属で構成されたメディアとをバレル研磨装置内に収容する工程と、
前記積層造形品と前記メディアとを撹拌させて、前記積層造形品の表面の粗さを低減させるとともに前記積層造形品に残留応力を付与する工程と、
含み、
前記メディアの表面は、湾曲面で構成されている、
積層造形品の処理方法。
【請求項2】
前記付与する工程では、砥粒を用いることなく、前記積層造形品と前記メディアとを撹拌させる、請求項1に記載の積層造形品の処理方法。
【請求項3】
前記メディアは、鋼球メディアである、請求項1又は2に記載の積層造形品の処理方法。
【請求項4】
前記積層造形品は、航空機エンジンのブレード又は医療用部品である、請求項1又は2に記載の積層造形品の処理方法。
【請求項5】
前記バレル研磨装置は、遠心バレル研磨装置であって、
前記メディアは、球状であって、前記メディアの径は、20mm以下である、請求項1又は2に記載の積層造形品の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層造形品の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ショットピーニング方法を開示する。この方法は、第一部材と第二部材とが溶接部を介して接合された構造体である被処理対象物に対して、投射材を投射する方法であって、被処理対象物の表面において溶接部と隣り合う溶接周囲部に対して、ノズルの先端を向けた状態で、ノズルから投射材を投射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/008901号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、積層造形品は、他の金属加工によって製造された金属部材に比べて、積層造形直後においては、面粗度が大きい場合、及び、残留応力が小さい場合がある。特許文献1に記載のショットピーニング方法では、対象物の表面に残留応力を付与することができるものの、対象物の表面の粗さを十分に低減できる旨の開示がない。よって、積層造形品の表面の粗さを適切に低減するためには、他の処理をさらに実行する必要があり得るため、積層造形品の処理に係る工数が増大する場合がある。よって、積層造形品の表面の粗さを適切に低減させると共に、積層造形品に残留応力を付与できる積層造形品の処理方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る積層造形品の処理方法は、金属を含む積層造形品と金属で構成されたメディアとをバレル研磨装置内に収容する工程と、積層造形品とメディアとを撹拌させて、積層造形品の表面の粗さを低減させるとともに積層造形品に残留応力を付与する工程と、を含み、前記メディアの表面は、湾曲面で構成されている。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、金属を含む積層造形品の表面の粗さを適切に低減させると共に、積層造形品に残留応力を付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係る積層造形品の処理方法のフローチャートである。
図2】実施形態に係る積層造形品の処理方法に用いられるバレル研磨装置を概略的に示す正面図である。
図3】実施例に係る加工条件に対する積層造形品の表面の粗さの試験結果である。
図4】実施例に係る加工条件に対する積層造形品の残留応力の試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示の実施形態の概要]
最初に、本開示の実施形態の概要を説明する。
【0009】
(条項1) 本開示の一側面に係る積層造形品の処理方法は、収容する工程と、付与する工程とを含む。収容する工程は、金属を含む積層造形品と金属で構成されたメディアとをバレル研磨装置内に収容する。付与する工程は、積層造形品とメディアとを撹拌させて、積層造形品の表面の粗さを低減させるとともに積層造形品に残留応力を付与する。メディアの表面は、湾曲面で構成されている。
【0010】
この積層造形品の処理方法によれば、付与する工程において積層造形品とメディアとが撹拌されることで積層造形品にメディアが押し当てられる。メディアが金属で構成されており、例えばプラスティック等の他の構成材料に比べて比重が大きいため、メディアは、積層造形品により大きい力で押し当てられる。このため、この方法は、積層造形品に容易に残留応力を付与することができる。また、金属を含む積層造形品の表面の粗さは、一般的に他の金属加工によって製造された金属部材の表面の粗さより大きい。金属で構成されたメディアは、表面の粗さの小さい対象物の表面加工時に用いられ得る。しかし、この積層造形品の処理方法では、金属を含む積層造形品と金属で構成されたメディアとを撹拌させることで、積層造形品を変形(塑性変形)させることができるため、積層造形品の表面の粗さを適切に低減させることができる。さらに、メディアの表面が湾曲面で構成されていることで、鋭角な角部を含むメディアに比べて、積層造形品の表面における打痕の形成が抑制され、積層造形品の表面の粗さの増大を抑制できる。よって、この積層造形品の処理方法は、金属を含む積層造形品の表面の粗さを適切に低減させると共に、積層造形品に残留応力を付与できる。
【0011】
(条項2) 条項1に記載の積層造形品の処理方法において、付与する工程では、砥粒を用いることなく、積層造形品とメディアとを撹拌してもよい。この場合、この積層造形品の処理方法によれば、積層造形品の表層が削られることが抑制される。この積層造形品の処理方法によれば、砥粒を用いて撹拌する場合と比較して、残留応力が付与された積層造形品の表層部分を砥粒によって削られることが抑制されるので、当該処理方法の実行後に、残留応力が適切に付与された積層造形品を得ることができる。
【0012】
(条項3) 条項1又は2に記載の積層造形品の処理方法において、メディアは、鋼球であってもよい。この場合、メディアが球状であることで、積層造形品に対するメディアの当たり方が一様になるため、打痕の発生をさらに抑制することができる。
【0013】
(条項4) 条項1~3の何れか一項に記載の積層造形品の処理方法において、積層造形品は、航空機エンジンのブレード又は医療用部品であってもよい。この場合、この積層造形品の処理方法によって、積層造形品は、表面の粗さが小さくなり、空気抵抗が小さくなるため、積層造形品は、航空機のエンジンのブレードに用いられ得る。また、積層造形品は、表面の粗さが小さくなり、細胞剥離性など医療用部品に求められる機能が向上するため、積層造形品は、医療用部品に用いられ得る。
【0014】
(条項5) 条項1~4の何れか一項に記載の積層造形品の処理方法において、バレル研磨装置は、遠心バレル研磨装置であって、メディアは、球状であって、メディアの径は、20mm以下であってもよい。この場合、バレル研磨装置が遠心バレル研磨装置であることで、他の方式のバレル研磨装置である場合に比べて、撹拌させるときに積層造形品に対してメディアが強く押し当てられるように調整することができる。また、メディアが球状であることで、積層造形品に対するメディアの当たり方が一様になるため、積層造形品の表面における打痕の発生を抑制することができる。さらに、メディアの径は、バレル研磨装置の大きさ、積層造形物の材質や形状、付与する残留応力の目標値、等に応じて設定することができる。
【0015】
[本開示の実施形態の例示]
以下、図面を参照して、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は繰り返さない。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。「上」「下」「左」「右」の語は、図示する状態に基づくものであり、便宜的なものである。
【0016】
図1は、実施形態に係る積層造形品の処理方法のフローチャートである。図1に示される積層造形品の処理方法は、積層造形品とメディアとを撹拌させて、積層造形品の表面の粗さを低減させるとともに積層造形品に残留応力を付与する方法である。本実施形態の積層造形品の処理方法は、例えば、航空機エンジンのブレード又は医療用部品に用いられる積層造形品に対して適用される。医療用部品とは、例えば、人工骨又は人工関節である。
【0017】
積層造形品は、金属を含む積層造形物である。積層造形品は、付加製造による造形品である。積層造形品は、例えば、少なくとも表層の一部が金属で構成されている。積層造形品は、例えば、表層の一部が金属で構成され、表層の一部が樹脂で構成されていてもよい。この場合、積層造形品の表面に樹脂が露出していてもよい。本実施形態の積層造形品は、例えば、金属で構成されている。積層造形品は、例えば、金属粉末が溶融されて一層ずつ形成される。金属粉末は、レーザ等で溶融される。金属粉末を溶融して形成した直後の積層造形品の表面は、例えば、JIS-B0601:2013に規定される算術平均粗さRaが5μm以上50μm以下程度となり、表面の粗さが非常に大きい。
【0018】
金属粉末の材料は、一例として、純鉄及び鉄合金である。鉄合金は、ステンレス及びマルエージングを含んでもよい。金属粉末の材料は、純アルミニウム及びアルミニウム合金であってもよい。金属粉末の材料は、純銅及び銅合金であってもよい。金属粉末の材料は、純ニッケル及びニッケル合金であってもよい。ニッケル合金は、ニッケル基超合金を含んでもよい。金属粉末の材料は、コバルト合金であってもよい。金属粉末の材料は、純チタン及びチタン合金であってもよい。金属粉末の材料は、純マグネシウム及びマグネシウム合金であってもよい。金属粉末の材料は、チタン系合金であってもよい。金属粉末の材料は、超硬合金であってもよい。超硬合金は、タングステンカーバイドを含んでもよい。
【0019】
メディアの表面は、湾曲面で構成されている。メディアが角部を有する場合、当該メディアは、すべての角部が丸みを帯びた形状を呈する多面体を含む。メディアは、すべての角部が鈍角である多面体であって、当該角部が丸みを帯びた形状を呈する多面体を含む。当該多面体の例として、メディアは、スプートニック(土星形)を含む。土星形とは、球体の一部が径方向に拡大した形状を含む。メディアがスプートニックである場合、メディアが他の形状を呈する場合と比べて、後述のバレル研磨装置内での流動性が高い。本実施形態のメディアは、球状(球体)である。メディアが球状である場合、メディアのすべての表面が緩やかな湾曲面で構成されている。このため、メディアが球状である場合、メディアが他の形状を呈する場合と比べて、積層造形品の表層の切削をより抑制できる。
【0020】
メディアの径は、20mm以下である。メディアの径は、後述するバレル研磨装置10の大きさに合わせて変更してもよい。例えば、後述するバレル研磨装置10のバレル槽11の容積が8Lである場合、加工時の撹拌の効率の観点から直径が20mm以下のメディアが選定される。
【0021】
メディアは、金属で構成されている。メディアの硬度は、例えば、積層造形品の硬度より大きい。これにより、後述の撹拌させる工程(ステップS12)において、撹拌時にメディアと積層造形品とが衝突して生じる粉塵内に、メディアの一部が含まれることが低減される。本実施形態のメディアは、鋼球である。メディアの材質は、例えば、SUJ2である。メディアがSUJ2で構成されている場合、メディアが他の鋼材又は他の材料で構成されている場合と比較して、コストを低く抑えることができ、かつ、硬度が高いため、積層造形品を塑性変形させやすい。メディアは、例えば、セラミック等の金属材料又は樹脂コーティングで覆われた材料で構成されていてもよく、鉄、セラミック、樹脂等の組み合わせによって構成されていてもよい。メディアがセラミック製である場合、後述の積層造形品の処理方法において、積層造形品以外の不純物がバレル研磨装置内に残留することを抑制できる。メディアが樹脂コーティングされている場合、後述の積層造形品の処理方法において、積層造形品の表面にメディアによる打痕の形成を抑制できる。メディアは、例えば、積層造形品と同種の金属材料で構成されていてもよい。
【0022】
本実施形態の積層造形品の処理方法は、バレル研磨装置によって実現される。図2は、実施形態に係る積層造形品の処理方法に用いられるバレル研磨装置を概略的に示す正面図である。図2に示されるバレル研磨装置10は、水平型の遠心バレル研磨装置である。なお、水平型の遠心バレル装置とは、水平方向に延在する公転軸及び自転軸を有しており、バレル槽を自転軸を中心に自転させながら公転軸を中心に公転させることで、バレル槽内の被加工物を研磨する装置である。
【0023】
図2に示すように、このバレル研磨装置10は、複数のバレル槽11、複数のバレル槽ケース12、一対のタレット13(公転円盤)、公転軸14、駆動機構15、及び、従動機構16を備えている。一実施形態では、バレル研磨装置10は、4つのバレル槽11を備えている。図2には、4つのバレル槽11のうち3つのバレル槽11が図示されている。バレル槽11には、積層造形品とメディアとが収容されている。バレル槽ケース12は、自転軸12aを含んでいる。駆動機構15は、駆動モータ15a、モータプーリ15b、公転プーリ15c、及び駆動ベルト15dを含んでいる。
【0024】
バレル研磨装置10では、駆動モータ15aが作動すると、モータプーリ15b、駆動ベルト15d及び公転プーリ15cを介して駆動力がタレット13に伝達され、公転軸14を中心にタレット13が回転する。このタレット13の回転に伴い、バレル槽ケース12に固定されたバレル槽11が公転軸14を軸心として旋回(公転)する。また、従動機構16によって、バレル槽11は自転軸12aを軸心としてタレット13の回転方向と逆方向に回転(自転)する。以上の様に、バレル槽11は、水平に延在する自転軸12aを中心とした自転、及び、水平に延在する公転軸14を中心とした公転をする。すなわち、バレル槽11は、水平に延在する回転軸を軸心とした遊星運動をする。
【0025】
なお、積層造形品の処理方法に用いられるバレル研磨装置は、図2に示されるバレル研磨装置10に限定されない。例えば、積層造形品の処理方法に用いられるバレル研磨装置は、振動式バレル研磨装置、流動式バレル研磨装置、回転式バレル研磨装置又はジャイロ式バレル研磨装置の何れかであってもよい。例えば、バレル研磨装置が振動式バレル研磨装置である場合、比較的大きい積層造形品であっても、当該積層造形品をバレル研磨装置内に適切に収容することができる。
【0026】
再び図1を参照する。積層造形品の処理方法は、収容する工程(ステップS10)と、撹拌させる工程(ステップS12)とを含む。収容する工程(ステップS10)では、積層造形品とメディアとがバレル研磨装置10のバレル槽11内に収容される。例えば、バレル槽11の容積が8Lの場合、積層造形品及びメディアの総量は、6L以下、かつ、15kg以下となるように調整される。このとき、砥粒は、バレル槽11内に収容されない。
【0027】
続いて、撹拌させる工程(付与する工程の一例:ステップS12)では、積層造形品とメディアとを撹拌させて、積層造形品の表面の粗さを低減させるとともに積層造形品に残留応力を付与する。バレル研磨装置10は、例えば、自転軸12aを中心としてバレル槽11を5rpm以上600rpm以下の速度で自転させる。バレル研磨装置10は、例えば、公転軸14を中心としてバレル槽11を10rpm以上300rpm以下の速度で公転させる。自公転比(自転速度と公転速度との比)は、-1:1、-2:1、又は-0.5:1である。なお、負の値は、正の値に対して回転方向が異なる(反対回りである)ことを意味する。バレル研磨装置10は、例えば、上述の自転速度及び公転速度で、60分の間、積層造形品とメディアとを撹拌させる。
【0028】
撹拌させる工程(ステップS12)では、砥粒を用いることなく、積層造形品とメディアとを撹拌させる。すなわち、少なくとも撹拌させる工程(ステップS12)の実行前において、積層造形品が収容されたバレル研磨装置10のバレル槽11内に砥粒を収容する工程は実行されない。撹拌させる工程(ステップS12)が終了すると、図1に示されたフローチャートが終了する。
【0029】
以上説明したように、積層造形品の処理方法によれば、撹拌させる工程(ステップS12)において積層造形品とメディアとが撹拌されることで積層造形品にメディアが押し当てられる。メディアが金属で構成されており、例えばプラスティック等の他の構成材料に比べて比重が大きいため、メディアは、積層造形品により大きい力で押し当てられる。このため、この方法は、積層造形品に容易に残留応力を付与することができる。この方法により、例えば、積層造形品に含まれる金属部分に残留応力が付与される。残留応力が付与されるため、この方法は、積層造形品の耐久性を向上させることができ、長期間の使用を可能とすることができる。また、積層造形品の内部に空間、隙間等が積層造型時に生じている場合であっても、メディアによって積層造形品が押し当てられることで、当該空間を小さくすることができ、密に積層させた状態の積層造形品を得ることができる。
【0030】
さらに、積層造形品の表面の粗さは、一般的に他の金属加工によって製造された金属部材の表面の粗さより大きい。金属で構成されたメディアは、表面の粗さの小さい対象物の表面加工時に用いられ得る。しかし、この積層造形品の処理方法では、金属を含む積層造形品と金属で構成されたメディアとを撹拌させることで、積層造形品を変形(塑性変形)させることができるため、積層造形品の表面の粗さを適切に低減させることができる。また、メディアの表面が湾曲面で構成されていることで、鋭角な角部を含むメディアに比べて、積層造形品の表面における打痕の形成が抑制され、積層造形品の表面の粗さの増大を抑制できる。よって、この積層造形品の処理方法は、積層造形品の表面の粗さを適切に低減させると共に、積層造形品に残留応力を付与できる。
【0031】
従来、残留応力を付与し、積層造形品の表面の粗さを適切に低減させるためには、例えば、ショットピーニングを実行した後に、作業者による手作業による研磨又はバレル研磨を実行することが求められる。しかし、この場合、積層造形品の処理に係る工数が増大する場合がある。一方で、本実施形態の積層造形品の処理方法がバレル研磨装置10を用いて実行されることで、上述した表面の粗さの低減及び残留応力付与の効果を共に得ることができるため、積層造形品の処理に係る工数を減らすことができ、生産性を向上させることができる。
【0032】
また、この積層造形品の処理方法における付与する工程では、砥粒を用いることなく、積層造形品とメディアとを撹拌している。この場合、この積層造形品の処理方法によれば、積層造形品の表層が削られることが抑制される。
【0033】
また、この積層造形品の処理方法において、メディアは、鋼球メディアである。この場合、この積層造形品の処理方法は、例えば、コストを低く抑えることができ、かつ、メディアの硬度が比較的高いため、積層造形品を塑性変形させやすい。
【0034】
また、積層造形品の処理方法において、積層造形品は、航空機エンジンのブレード又は医療用部品である。この場合、この積層造形品の処理方法によって、航空機エンジンのブレードとして用いられる積層造形品は、表面の粗さが小さくなり、空気抵抗が小さくなり、かつ、気流の剥離性が高まる。また、医療用部品として用いられる積層造形品は、表面の粗さが小さくなることで、人口骨の美観向上、摺動部の摺動性の向上、長期的な耐久性の向上、仮止めボルトなどの短期的に使用される部品の細胞剥離性の向上、などが見込める。さらに、この積層造形品の処理方法によって、残留応力が付与されるため、積層造形品の疲労強度に対する信頼性が向上する。したがって、積層造形品は、航空機エンジンのブレード又は医療用部品に用いられる。
【0035】
また、積層造形品の処理方法において、バレル研磨装置10は、遠心バレル研磨装置であって、メディアは、球状であって、メディアの径は、20mm以下であってもよい。この場合、バレル研磨装置10が遠心バレル研磨装置であることで、他の方式のバレル研磨装置である場合に比べて、撹拌させるときに積層造形品に対してメディアを強く押し当てられるように調整することができる。また、メディアが球状であることで、積層造形品に対するメディアの当たり方が一様になるため、積層造形品の表面の打痕の発生を抑制できる。当たり方が一様とは、例えば、メディアのどの部位が積層造形品に当接しても、同一の曲率で形成されたメディアの球面が当接することを指す。メディアの当接する部位による表面の粗さの変動が抑制されている。さらに、メディアの径は、バレル研磨装置の大きさに応じて設定することができる。
【実施例0036】
[表面の粗さ及び残留応力の確認]
積層造形品に対する金属で構成された球状のメディアの効果を評価するために、積層造形品に対して積層造形品の処理方法を実行した。
【0037】
[実施例]
積層造形品と球状のメディアとを準備する工程を実行した。積層造形品は、レーザを照射して金属粉末を溶融し、積層造形する製造装置(3D SYSTEMS)により製造されたものを用いた。金属粉末は、オーステナイト系ステンレス鋼の粉末(SUS316L)とした。積層造形品は、直径12mm、高さ130mmの円柱である。メディアは、スチールボール(SSB-3.8)を用いた。メディアの直径は、3.8mmである。収容する工程(ステップS10)において、積層造形品とメディアとをバレル研磨装置に収容した。バレル研磨装置は、遠心バレル研磨装置(新東工業製SKC-32S)であった。撹拌させる工程(ステップS12)では、自公転比-1:1、公転速度200rpm、稼働時間30分、と設定して、積層造形品とメディアとを撹拌させた。稼働終了後、バレル研磨装置から積層造形品を取り出した。
【0038】
[比較例1]
比較例1では、積層造形品に対して、上述の実施形態に係る積層造形品の処理方法を実行していない。すなわち、収容する工程(ステップS10)及び撹拌させる工程(ステップS12)を実行していない。それ以外の条件は、実施例と同一とした。
【0039】
[比較例2]
比較例2では、上述の実施形態に係る積層造形品の処理方法に代えて、積層造形品に対してショットピーニングを実行した。ショットピーニングを実施した装置は、重力式ブラスト装置(新東工業製:MY-30)である。ショットピーニングで用いられた投射材は、粒度範囲が150nm~50μmの球状のステンレスビーズ(SUS 150B)を用いた。噴射圧力は0.5MPaとした。ショットピーニング終了後、重力式ブラスト装置から積層造形品を取り出した。
【0040】
[比較例3]
比較例3では、実施例に係る条件のうち、メディアを鋭角な角部を有するメディアに置き換え、その以外の条件は、実施例と同一とした。当該メディアは、角部を有する三角柱状のセラミックメディアである新東工業製のV7-T10を用いた。
【0041】
[表面の粗さの評価]
上記条件で作成された実施例及び比較例1~3の表面の粗さとして算術平均粗さRaを接触式表面粗さ計(東京精密製:SURFCOM)により測定した。算術平均粗さRaは、JIS-B0601:2013に基づいて算出した。図3は、実施例に係る加工条件に対する積層造形品の表面の粗さの試験結果である。図3に示されるように、実施例の算術平均粗さRaは、1.308μmであり、比較例1~3の算術平均粗さRaは、それぞれ12.687μm、3.546μm、1.369μmであった。
【0042】
実施例と比較例1とを比較すると、上述の実施形態に係る積層造形品の処理方法を実行することで、積層造形品の表面の粗さを大幅に低減できることが確認された。金属で構成された球状のメディアは、一般的に、表面の粗さの小さい対象物の表面加工時に用いられ得る。しかし、この積層造形品の処理方法では、金属で構成された球状のメディアと積層造形品とを撹拌させることで、積層造形品を変形させることができるため、積層造形品の表面の粗さを適切に低減させることができると考えられる。実施例と比較例2とを比較することで、ショットピーニングに比べて、上述の実施形態に係る積層造形品の処理方法の方が、積層造形品の表面の粗さの低減に大幅に寄与することが確認された。実施例と比較例3とを比較すると、メディアが球状であることで、積層造形品に対するメディアの当たり方が一様になるため、鋭角な角部を含むメディアに比べて、積層造形品の表面における打痕の形成が抑制され、積層造形品の表面の粗さの増大を抑制できると考えられる。
【0043】
[残留応力の評価]
上記条件で作成された実施例及び比較例1~3の表面の粗さとして残留応力を測定した。残留応力は、特開2007-009356号公報に記載の残留応力測定装置により測定した。残留応力測定装置は、移動機構及び移動制御部により、測定対象物の回折X線の強度を第1検出位置で検出する第1検出素子、及び、測定対象物の回折X線の強度を第1検出位置とは異なる第2検出位置で検出する第2検出素子を備えている。図4は、実施例に係る加工条件に対する積層造形品の残留応力の試験結果である。図4では、値が小さいほど積層造形品に付与された残留応力が大きいことを示している。図4に示されるように、実施例の残留応力は、約-460MPaであり、比較例1~3の残留応力は、それぞれ約39MPa、約-780MPa、約-120MPaであった。
【0044】
実施例と比較例1とを比較すると、上述の実施形態に係る積層造形品の処理方法を実行することで、積層造形品に対して残留応力を付与できることが確認された。実施例と比較例2とを比較することで、ショットピーニングにややは劣るものの、上述の実施形態に係る積層造形品の処理方法においても、積層造形品にショットピーニングに近い残留応力を付与できることが確認された。実施例と比較例3とを比較することで、金属で構成された球状のメディアを用いることで、積層造形品に残留応力を大幅に付与できることが確認された。すなわち、積層造形品と共に撹拌されるメディアの質量が実施例の方が大きいので、積層造形品にメディアを押し当てる力が強くなり、積層造形品に残留応力を大きく付与できると考えられる。
【0045】
実施例と比較例1~3とを比較すると、上述の実施形態に係る積層造形品の処理方法は、積層造形品の表面の粗さを適切に低減させると共に、積層造形品に残留応力を付与できることが確認された。
【符号の説明】
【0046】
10…バレル研磨装置、11…バレル槽、12…バレル槽ケース、12a…自転軸、13…タレット、14…公転軸、15…駆動機構、16…従動機構。
図1
図2
図3
図4