(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012870
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】コンクリート床版切断方法及び床版撤去方法
(51)【国際特許分類】
E01D 24/00 20060101AFI20240124BHJP
E01D 19/12 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
E01D24/00
E01D19/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114643
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000216025
【氏名又は名称】鉄建建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391059414
【氏名又は名称】コンクリートコーリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 啓太
(72)【発明者】
【氏名】阿川 洋平
(72)【発明者】
【氏名】岩城 圭介
(72)【発明者】
【氏名】畠中 保
(72)【発明者】
【氏名】江島 賢一
(72)【発明者】
【氏名】大野 俊平
(72)【発明者】
【氏名】礒部 善隆
(72)【発明者】
【氏名】小澤 純
(72)【発明者】
【氏名】海老原 孝
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
(57)【要約】
【課題】主桁の上面の近傍において効率よくコンクリート床版をワイヤーソーで切断できるコンクリート床版切断方法、及び効率よく鋼桁からコンクリート床版を撤去できる床版撤去方法を提供することを目的とする。
【解決手段】主桁21の上面21aと接合されたコンクリート床版10を、主桁21の上面21aの近傍において無端状のワイヤーソー100で切断するコンクリート床版切断方法において、切断対象箇所Xの橋軸方向Lの両側に、ワイヤーソー100の橋軸直角方向Wに沿って延びる所定深さの進行方向スリット31を形成するとともに、切断対象箇所Xの縁部において、橋軸方向Lに延びる所定深さの交差方向スリット32を形成し、進行方向スリット31及び交差方向スリット32の内部に配置したワイヤーソー100を回転走行させて、コンクリート床版10における主桁21の上面21aの近傍を切断する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主桁の上面と接合されたコンクリート床版を、前記主桁の前記上面の近傍において無端状のワイヤーソーで切断するコンクリート床版切断方法であって、
前記ワイヤーソーの切断進行方向に沿って延びる所定深さの進行方向スリットを切断対象箇所において対向する両縁部に形成するとともに、
前記切断進行方向に交差する方向に沿って延びる所定深さの交差方向スリットを前記切断対象箇所の縁部に形成し、
前記ワイヤーソーを、両方の前記進行方向スリット及び前記交差方向スリットの内部に配置するとともに回転走行させて、前記コンクリート床版における前記主桁の前記上面の近傍を切断する
コンクリート床版切断方法。
【請求項2】
前記交差方向スリットは、前記コンクリート床版の底面側に形成された
請求項1に記載のコンクリート床版切断方法。
【請求項3】
前記交差方向スリットは、前記コンクリート床版の厚みの半分以下の深さで形成された
請求項2に記載のコンクリート床版切断方法。
【請求項4】
前記進行方向スリットは、前記コンクリート床版の上面側に形成され、
前記コンクリート床版の底面側に形成された前記交差方向スリットと連通する
請求項2に記載のコンクリート床版切断方法。
【請求項5】
前記進行方向スリットは、前記ワイヤーソーが挿入できる溝幅となるように厚切りカッター刃で切削形成された
請求項2に記載のコンクリート床版切断方法。
【請求項6】
前記ワイヤーソーを回転走行させる回転装置は前記コンクリート床版の上面側に配置され、
前記コンクリート床版を厚み方向に貫通し、前記ワイヤーソーを挿通する挿通孔が設けられた
請求項2に記載のコンクリート床版切断方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のうちいずれかに記載のコンクリート床版切断方法で前記コンクリート床版における前記主桁の前記上面の近傍を切断し、
前記主桁を有する鋼桁から前記コンクリート床版を撤去した後、前記主桁の前記上面に残る残置コンクリートを撤去する
床版撤去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、主桁の上面と接合されたコンクリート床版を、前記主桁の上面の近傍で切断するコンクリート床版切断方法及び床版撤去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート床版が主桁で支持された道路橋などの橋梁では、設計時に比べて車両の大型化や通行台数の増加が進み、コンクリート床版の疲労損傷などによるコンクリート床版の取替えが要求されており、様々な工法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、無端状のワイヤーソーでコンクリート床版の底面において、主桁の上フランジの上面の近傍を水平方向に切断する橋梁床版切断技術が開示されている。
しかしながら、特許文献1に開示された橋梁床版切断技術は、複数のプーリーを移動させてワイヤーソーによる切断位置を維持しており、移動可能な複数のプーリーの設置・撤去に手間がかかるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこでこの発明は、主桁の上面の近傍において効率よくコンクリート床版をワイヤーソーで切断できるコンクリート床版切断方法、及び効率よく鋼桁からコンクリート床版を撤去できる床版撤去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、主桁の上面と接合されたコンクリート床版を、前記主桁の前記上面の近傍において無端状のワイヤーソーで切断するコンクリート床版切断方法であって、前記ワイヤーソーの切断進行方向に沿って延びる所定深さの進行方向スリットを切断対象箇所において対向する両縁部に形成するとともに、前記切断進行方向に交差する方向に沿って延びる所定深さの交差方向スリットを前記切断対象箇所の縁部に形成し、前記ワイヤーソーを、両方の前記進行方向スリット及び前記交差方向スリットの内部に配置するとともに回転走行させて、前記コンクリート床版における前記主桁の前記上面の近傍を切断することを特徴とする。
【0007】
またこの発明は、上述のコンクリート床版切断方法で前記コンクリート床版における前記主桁の前記上面の近傍を切断し、前記主桁を有する鋼桁から前記コンクリート床版を撤去した後、前記主桁の前記上面に残る残置コンクリートを撤去する床版撤去方法であることを特徴とする。
【0008】
切断進行方向は、主桁が延びる橋軸方向あるいは橋軸方向に直交する橋軸直角方向、あるいはこれらに対して水平面上で斜め方向に交差する方向を指す。
前記切断進行方向に交差する方向は、水平面上において直交していてもよいし、斜め方向に交差していてもよく、切断進行方向が橋軸方向である場合は例えば橋軸直角方向であり、切断進行方向が橋軸直角方向である場合は例えば橋軸方向となる。
【0009】
上述の切断対象箇所において対向する両縁部に形成する進行方向スリットは、切断対象箇所の対向する縁部と同じ長さ、縁部より長く、あるいは縁部より短く形成してもよい。
前記切断対象箇所の縁部に形成する交差方向スリットは、進行方向スリットが形成された前記切断対象箇所の縁部と異なり、切断開始位置となる縁部において、縁部と同じ長さ、あるいは縁部より長く形成してもよい。
【0010】
また、上記交差方向スリットは、切断対象箇所において対向する両縁部において切断進行方向に沿って延びる両側の進行方向スリットと連結されていてもよいし、連結されていなくてもよい。
上述の進行方向スリットと交差方向スリットとは前記コンクリート床版における上面側と底面側との異なる側に設けられる態様、あるいは同じ側に設けられる態様が含まれる。
【0011】
この発明により、前記コンクリート床版における主桁の上面の近傍を効率よくワイヤーソーで切断することができる。
具体的には、主桁の上面と接合されたコンクリート床版を、前記主桁の前記上面の近傍において無端状のワイヤーソーで切断するコンクリート床版切断方法において、前記切断対象箇所の対向する両縁部において、前記ワイヤーソーの切断進行方向に沿って延びる所定深さの進行方向スリットと、前記切断対象箇所の縁部において、前記切断進行方向に交差する方向に沿って延びる所定深さの交差方向スリットとの内部に配置した前記ワイヤーソーを回転走行させて、前記コンクリート床版における前記主桁の前記上面の近傍を切断する。
【0012】
つまり、ワイヤーソーは進行方向スリットと交差方向スリットとの内部に配置しているため、ワイヤーソーによる切断位置を維持するための移動する複数のプーリーを用いることなく、前記コンクリート床版における前記主桁の前記上面の近傍を切断することができる。
【0013】
また、交差方向スリットにおいて回転走行してコンクリート床版を切断するワイヤーソーは前記進行方向スリットにおいても回転走行しているため、ワイヤーソーによるコンクリート床版の切断進行方向をある程度規制することができる。
【0014】
この発明に態様として、前記交差方向スリットは、前記コンクリート床版の底面側に形成されてもよい。
この発明により、前記コンクリート床版における前記主桁の前記上面の近傍を確実に切断することができる。
【0015】
詳述すると、交差方向スリットが前記コンクリート床版の底面側に形成されているため、前記ワイヤーソーによる切断開始位置から前記主桁の前記上面の近傍を切断することができ、前記コンクリート床版における前記主桁の前記上面の近傍を確実に切断することができる。
【0016】
またこの発明に態様として、前記交差方向スリットは、前記コンクリート床版の厚みの半分以下の深さで形成されてもよい。
上述の前記コンクリート床版の厚みの半分以下の深さは、ワイヤーソーの線径より深く、例えば、前記コンクリート床版のかぶり厚さ程度の深さやワイヤーソーの線径の数倍程度の深さである。
【0017】
この発明により、前記主桁の前記上面の近傍の切断対象箇所において、前記コンクリート床版が余分に前記交差方向スリットで切り欠かれることがなく、前記ワイヤーソーの切断後の前記コンクリート床版が不用意に分断されたり、分断して脱落されたりすることが防止できる。
【0018】
またこの発明に態様として、前記進行方向スリットは、前記コンクリート床版の上面側に形成され、前記コンクリート床版の底面側に形成された前記交差方向スリットと連通してもよい。
この発明により、前記進行方向スリットの内部に配置される前記ワイヤーソーは前記進行方向スリットの底部に載置された状態で回転走行するため、前記ワイヤーソーによる切断位置を規制できる。そのため前記進行方向スリットを前記ワイヤーソーで切断する高さに合う深さで形成することで前記ワイヤーソーによる切断位置を、移動しながら切断位置を維持する複数のプーリーを用いることなく、規制しながら所望の高さで切断することができる。
【0019】
またこの発明に態様として、前記進行方向スリットは、前記ワイヤーソーが挿入できる溝幅となるように厚切りカッター刃で切削形成されてもよい。
この発明により、内部に配置された前記ワイヤーソーの回転走行に支障することのない溝幅の前記進行方向スリットは、通常のコンクリートカッター刃で形成すると複数回の切断を施す必要があるが、厚切りカッター刃で前記コンクリート床版を切断して前記進行方向スリットを形成するため、効率よく形成することができる。
【0020】
またこの発明に態様として、前記ワイヤーソーを回転走行させる回転装置は前記コンクリート床版の上面側に配置され、前記コンクリート床版を厚み方向に貫通し、前記ワイヤーソーを挿通する挿通孔が設けられてもよい。
【0021】
この発明により、作業効率を向上することができる。
詳述すると、前記コンクリート床版の下方は複数の桁や橋脚が配置されており、狭隘な作業空間になりやすいが、前記コンクリート床版の底面側で切断する前記ワイヤーソーを、挿通孔を挿通できるため、作業空間に制限の少ない前記コンクリート床版の上面側に回転装置を配置できるため、作業効率を向上することができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、主桁の上面の近傍において効率よくコンクリート床版をワイヤーソーで切断できるコンクリート床版切断方法、及び効率よく鋼桁からコンクリート床版を撤去できる床版撤去方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】ワイヤーソーによる切断状況の要部断面図による説明図。
【
図3】ワイヤーソーによる切断状況の要部平面図及び要部底面図による説明図。
【
図5】要部断面図によるスリットの形成についての説明図。
【
図6】要部平面図によるスリットの形成についての説明図。
【
図7】要部底面図によるスリットの形成についての説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
図1はコンクリート床版撤去の概略説明図を示し、
図2はワイヤーソー100による切断状況の要部断面図による説明図を示し、
図3はワイヤーソー100による切断状況の要部平面図及び要部底面図による説明図を示し、
図4は切断完了状態の要部断面図を示している。
【0025】
詳述すると、
図1(a)は撤去前の合成桁橋1の橋軸直角方向Wの断面図を示し、
図1(b)は鋼桁20からコンクリート床版10を分離した状況の橋軸直角方向Wの断面図を示し、
図1(c)はコンクリート床版10の撤去が完了した鋼桁20の橋軸直角方向Wの断面図を示している。
【0026】
図2(a)はワイヤーソー100による切断状況を示す、合成桁橋1において進行方向スリット31を通る橋軸直角方向Wの要部断面図であり、
図2(b)は
図2(a)におけるA-A矢視断面図を示している。
図3(a)はワイヤーソー100による切断状況の要部平面図を示し、
図3(b)はワイヤーソー100による切断状況の要部底面図を示し、
図4は切断完了状態の橋軸直角方向Wの要部断面図を示している。
【0027】
図5は要部断面図によるスリット30の形成について説明する説明図を示し、
図6は要部平面図によるスリット30の形成について説明する説明図を示し、
図7は要部底面図によるスリット30の形成について説明する説明図を示している。
【0028】
図5(a)はスリット30を形成する前の要部断面図を示し、
図5(b)はスリット30を形成した状態の要部断面図を示している。なお、
図5(a)において、進行方向スリット31及び交差方向スリット32を形成する箇所を破線で図示している。
図6(a)はスリット30を形成する前の要部平面図を示し、
図6(b)はスリット30を形成した状態の要部平面図を示している。なお、
図6(a)において進行方向スリット31を形成する箇所を破線で図示している。
図7(a)はスリット30を形成する前の要部底面図を示し、
図7(b)はスリット30を形成した状態の要部底面図を示している。なお、
図7(a)において、交差方向スリット32を形成する箇所を破線で図示している。
【0029】
なお、上述の図面において、橋脚や支承の図示は省略している。また、
図2乃至
図7において図示する合成桁橋1の要部は
図1(a)において四角枠で囲むa部としている。さらに、主桁21の長手方向を橋軸方向Lとし、複数の主桁21が所定の間隔を隔てて配置された配置方向を橋軸直角方向Wとし、橋軸方向Lかつ橋軸直角方向Wのそれぞれと直交する方向を高さ方向Hとしている。また、高さ方向Hのうち上側を上側Hu、下側を下側Hdとしている。
【0030】
本発明は、道路橋などの合成桁橋1において、コンクリート床版10の取替え等のために撤去する撤去工法及び、撤去工法において主桁21の上面21aと接合されたコンクリート床版10を、主桁21の上面21aの近傍において無端状のワイヤーソー100で切断するコンクリート床版切断方法であり、以下で詳細に説明する。
【0031】
本発明でコンクリート床版10を鋼桁20から分離し撤去する合成桁橋1は、コンクリート床版10と鋼桁20とで構成され、一体化している、
鋼桁20は、橋軸方向Lに沿って延設され、橋軸直角方向Wに所定間隔を隔てて配置された複数の主桁21と、橋軸直角方向Wに隣接する主桁21同士を連結する対傾構22とを備えている。
【0032】
主桁21は、高さ方向Hの所定高さを有するとともに断面I型となるI型鋼で構成され、上側フランジの上側Huの面を上面21aとしている。なお、上面21aには、コンクリート床版10と接続するジベル(図示省略)が複数配置されている。
【0033】
対傾構22は、例えばL型鋼などで構成され、主桁21においてフランジとウェブとの間に設けた補強板23に取り付けられたガセット24を介して主桁21に接続されている。対傾構22は、橋軸方向Lにおいて所定間隔を隔てて複数配置されている。
【0034】
コンクリート床版10は、上述の鋼桁20の上部に配置される鉄筋コンクリート製の床版であり、鋼桁20と一体化されている。なお、コンクリート床版10としてはPC床版であってもよい。
コンクリート床版10は、橋軸直角方向Wに複数配置された主桁21を橋軸直角方向Wに跨ぐとともに、橋軸直角方向Wの外側の主桁21よりさらに外側に張り出した断面形状である。
【0035】
なお、コンクリート床版10は、底面側で主桁21の上面21aと接合され、鋼桁20と一体化されているが、主桁21の上面21aと接合部には、主桁21の上面21aから橋軸直角方向Wに離れるにつれ上側Huに向かって傾斜するハンチ11が設けられ、ハンチ11の内部において上述のジベル(図示省略)が埋設され、主桁21と一体化されている。
鉄筋コンクリート製のコンクリート床版10は、ハンチ11の内部も含めて橋軸方向L及び橋軸直角方向Wに延びる鉄筋が配筋されている。
【0036】
上述のように構成された合成桁橋1において、コンクリート床版10の取替え等のため、鋼桁20からコンクリート床版10を効率よく撤去することが求められている。
そこで、本コンクリート床版切断方法は、合成桁橋1において、コンクリート床版10と鋼桁20とが一体化されているコンクリート床版10のハンチ11と鋼桁20における主桁21の上面21aとの接合箇所を切断対象箇所Xとし、ワイヤーソー100で切断対象箇所Xを効率よく切断し、床版撤去工法として鋼桁20からコンクリート床版10を効率よく撤去することができる。
【0037】
なお、ワイヤーソー100は、ダイヤモンドチップが所定間隔で埋め込まれ、可撓性を有するロープ状であり、無端状にしたワイヤーソー100を、切断対象箇所Xに巻き掛け、図示省略する回転ユニットで高速回転走行させながら、引っ張り力を作用させて対象物を切断するものである。なお、ワイヤーソー100の線径は10mm程度である。
【0038】
そのため、コンクリート床版10のハンチ11と鋼桁20における主桁21の上面21aとの接合箇所を切断対象箇所Xとして無端状のワイヤーソー100を巻き掛ける必要があるが、主桁21は橋軸方向Lに長いため、主桁21とハンチ11の接合箇所の全体にワイヤーソー100巻き掛けることができず、橋軸方向Lに所定の長さごとに切断対象箇所Xを設定し、これを繰り返して全長に亘って切断する。
【0039】
しかしながら、上述したように主桁21は橋軸方向Lに連続しているため、そのままでは、所定長さの切断対象箇所Xに対してワイヤーソー100を巻き掛けることができない。
なお、切断対象箇所Xは、コンクリート床版10の底面側において鋼桁20との接合箇所であるハンチ11の橋軸直角方向Wの両外側の際と、所定の橋軸方向Lの長さで囲われた範囲とする。
【0040】
そこで、ワイヤーソー100を切断対象箇所Xに巻き掛けるため、切断対象箇所Xの周囲にスリット30を設けている。
具体的には、スリット30として、
図5乃至
図7に示すように、切断対象箇所Xにおける橋軸方向Lの両側において橋軸直角方向Wに延びる両縁部に沿って形成された進行方向スリット31と、切断対象箇所Xの橋軸方向Lの両側に形成した進行方向スリット31の端部同士を橋軸方向Lに跨ぎ、切断対象箇所Xの橋軸方向Lに延びる縁部に沿って形成された所定深さの交差方向スリット32とを設け、進行方向スリット31と交差方向スリット32とで切断対象箇所Xに対して平面視方向においてコの字状に囲うように構成している。
【0041】
進行方向スリット31は、切断対象箇所Xの橋軸方向Lの端部において、橋軸直角方向Wに沿ってハンチ11に対応する長さ及び位置で形成しており、コンクリート床版10の上側Huから、下側Hdに向かってコンクリート床版10を高さ方向Hに貫通するように形成している。
【0042】
なお、進行方向スリット31は、ロードカッターで切削して形成するものの、通常の刃よりも厚みが倍程度厚い厚切り刃で切削して形成している。そのため、ワイヤーソー100を上側Huから進行方向スリット31の内部に配置することができる。なお、本実施形態では、15mm程度の厚みの厚切り刃を用いている。また、進行方向スリット31は通常の厚みの刃で複数回切削して形成してもよい。
【0043】
交差方向スリット32は、切断対象箇所Xの橋軸方向Lの両側に形成した橋軸直角方向Wに延びる進行方向スリット31の端部同士を橋軸方向Lに沿って跨ぐように、内部にワイヤーソー100を収容できる幅で橋軸方向Lに沿って、形成されている。
【0044】
交差方向スリット32は、コンクリート床版10のハンチ11の際の底面において上側Huに向かって、コンクリート床版10の厚みの半分以下である40~50mm程度の深さで形成されている。なお、交差方向スリット32の深さである40~50mm程度は、コンクリート床版10のかぶり厚さに対応している。
具体的には、交差方向スリット32は、コンクリート床版10の底面側において、上向きにセットされたコンクリートカッター刃により、ワイヤーソー100を内部に収容できる幅で形成している。
【0045】
なお、進行方向スリット31と交差方向スリット32とはどちらを先に形成してもよい。
また、橋軸直角方向Wにおいて主桁21に対して交差方向スリット32が形成された側をスリット形成側Wsとする。
【0046】
このように進行方向スリット31及び交差方向スリット32を有するスリット30を用いてワイヤーソー100で切断対象箇所Xを切断するには、図示省略する回転ユニットと所定のプーリー111を有するワイヤーソー装置110をコンクリート床版10の上面側に配置するとともに(
図2参照)、ワイヤーソー装置110で回転走行するワイヤーソー100を、コンクリート床版10を高さ方向Hに貫通する挿通孔34を挿通させてコンクリート床版10の底面側に導通する。
【0047】
ワイヤーソー装置110は、コンクリート床版10の上面側において、橋軸方向Lに対して交差方向スリット32が形成されたスリット形成側Wsと橋軸直角方向Wの反対側となる機器設置側Wmに配置する。
【0048】
挿通孔34は、機器設置側Wmの切断対象箇所Xの側方において、ワイヤーソー100が通過可能な径の円筒状空間として形成され、往側のワイヤーソー100が通過する34と、復側のワイヤーソー100が通過する挿通孔34とが橋軸方向Lに所定間隔を隔てて配置されている。
なお、挿通孔34は、コンクリートコアドリル等で形成することができる。
【0049】
このように、予めスリット30及び挿通孔34を形成した合成桁橋1に対して、コンクリート床版10の上面側の機器設置側Wmにおける所定位置にワイヤーソー装置110を設置するとともに、コンクリート床版10の底面側における機器設置側Wmの所定位置に、ワイヤーソー100の延伸方向を変更する適宜のプーリー111を配置する。
【0050】
そして、ワイヤーソー装置110から延びるワイヤーソー100を、挿通孔34を通して、コンクリート床版10の底面側に導通し、切断対象箇所Xの橋軸方向Lの両側の進行方向スリット31の内部にワイヤーソー100を通してスリット形成側Wsまで導き、交差方向スリット32の内部にワイヤーソー100を配置する。
【0051】
つまり、無端状のワイヤーソー100は、ワイヤーソー装置110、挿通孔34、進行方向スリット31、交差方向スリット32、進行方向スリット31、挿通孔34及びワイヤーソー装置110をこの順で通っている。
【0052】
この状態でワイヤーソー100に引っ張り力を作用させると、
図2に示すように、ワイヤーソー100は交差方向スリット32の上側Huの際に配置され、進行方向スリット31において、機器設置側Wmのプーリー111とを結ぶように、主桁21の上面21aの上側Huにおいて、スリット形成側Wsから機器設置側Wmに向かって下方に傾斜するように切断対象箇所Xに巻き掛けることができる。
【0053】
そして、このように切断対象箇所Xに巻き掛けたワイヤーソー100を高速で回転走行しながらスリット形成側Wsから機器設置側Wmに向かって引っ張り力を作用させると、ワイヤーソー100は、スリット形成側Wsから機器設置側Wmに向かって下方に傾斜するように主桁21の上面21aの上方のコンクリート床版10(ハンチ11)を切断し、切断ラインCLで高さ方向Hに分断することができる(
図4参照)。
【0054】
なお、切断ラインCLには、主桁21の上面21aに設けた図示省略するジベルも存在するが、ワイヤーソー100の切断進行方向(橋軸直角方向W)に略直交するため、ワイヤーソー100で容易に切断することができる。
【0055】
このようにして、ワイヤーソー100による切断対象箇所Xの切断を、橋軸方向Lの全長に亘って行うとともに、橋軸直角方向Wの所定間隔を隔てて配置した複数の主桁21の全数に対して行うことで、
図1(b)に示すように、鋼桁20とコンクリート床版10とを切断ラインCLで高さ方向Hに分断することができる。
【0056】
なお、主桁21の上面21aには、切断ラインCLより下側Hdとなる残置コンクリート13が残ることとなる。残置コンクリート13には、ジベルの一部も内在しているため、残置コンクリート13を手斫りするとともに、内在させたジベルを露出して溶断したり、ジベルカッターを用いたりして撤去することで、
図1(c)に示すように、合成桁橋1における鋼桁20に対するコンクリート床版10の撤去は完了する。
【0057】
上述したように、主桁21の上面21aと接合されたコンクリート床版10を、主桁21の上面21aの近傍において無端状のワイヤーソー100で切断するコンクリート床版切断方法として、ワイヤーソー100の橋軸直角方向Wに沿って延びる所定深さの進行方向スリット31を切断対象箇所Xの対向する両縁部に形成するとともに、切断対象箇所Xの縁部において、橋軸方向Lに延びる所定深さの交差方向スリット32を形成し、ワイヤーソー100を、両方の進行方向スリット31及び交差方向スリット32の内部に配置するとともに回転走行させて、コンクリート床版10における主桁21の上面21aの近傍を切断する。
【0058】
また、床版撤去方法は、当該コンクリート床版切断方法でコンクリート床版10における主桁21の上面21aの近傍を切断し、主桁21を有する鋼桁20からコンクリート床版10を撤去した後、主桁21の上面21aに残る残置コンクリート13を撤去する。そのため、主桁21の上面21aの近傍において効率よくワイヤーソー100で切断し、効率よく鋼桁20からコンクリート床版10を撤去することができる。
【0059】
具体的には、ワイヤーソー100は進行方向スリット31と、切断対象箇所Xの両側に形成した進行方向スリット31の端部同士を橋軸方向Lに跨ぐ交差方向スリット32との内部に配置しているため、ワイヤーソー100による切断位置を維持するための移動する複数のプーリーを用いることなく、コンクリート床版10における主桁21の上面21aの近傍を切断することができる。
【0060】
また、交差方向スリット32において回転走行してコンクリート床版10を切断するワイヤーソー100は進行方向スリット31においても回転走行しているため、ワイヤーソー100によるコンクリート床版10の橋軸直角方向Wをある程度規制することができる。
【0061】
また、交差方向スリット32は、コンクリート床版10の底面側に形成されているため、コンクリート床版10における主桁21の上面21aの近傍を確実に切断することができる。
詳述すると、切断対象箇所Xの縁部において、橋軸方向Lに延びる所定深さの交差方向スリット32がコンクリート床版10の底面側に形成されているため、ワイヤーソー100による切断開始位置から主桁21の上面21aの近傍を切断することができ、コンクリート床版10における主桁21の上面21aの近傍を確実に切断することができる。
【0062】
また、交差方向スリット32は、コンクリート床版10の厚みの半分以下の深さである40~50mm程度の深さで形成されているため、主桁21の上面21aの近傍の切断対象箇所Xにおいて、切断ラインCLより下側Hdに残る残置コンクリート13を小さくでき、さらにワイヤーソー100の切断後のコンクリート床版10が不用意に分断されたり、分断して脱落されたりすることが防止できる。
【0063】
なお、交差方向スリット32の深さである40~50mm程度は、コンクリート床版10のかぶり厚さに対応する深さであるため、ワイヤーソー100で橋軸方向Lや橋軸直角方向Wに延びるコンクリート床版10の鉄筋を切断することがなく、コンクリート床版10における主桁21の上面21aの近傍を効率よく切断することができる。
【0064】
また、進行方向スリット31は、コンクリート床版10の上面側に形成され、コンクリート床版10の底面側に形成された交差方向スリット32と連通しているため、進行方向スリット31の内部に配置されるワイヤーソー100は進行方向スリット31の底部に載置された状態で回転走行し、ワイヤーソー100による切断位置を規制できる。
したがって、進行方向スリット31をワイヤーソー100で切断する高さに合う深さで形成することでワイヤーソー100による切断位置を、プーリーを用いることなく、規制しながら所望の高さで切断することができる。
【0065】
また、進行方向スリット31は、ワイヤーソー100が挿入できる溝幅となるように厚切りカッター刃で切削形成されているため、内部に配置されたワイヤーソー100の回転走行に支障することがなく、通常のコンクリートカッター刃で形成すると複数回の切断を施す必要があるが、厚切りカッター刃でコンクリート床版10を切断して進行方向スリット31を効率よく形成することができる。
【0066】
また、ワイヤーソー100を回転走行させるワイヤーソー装置110はコンクリート床版10の上面側に配置され、コンクリート床版10を厚み方向に貫通し、ワイヤーソー100を挿通する挿通孔34が設けられているため、作業効率を向上することができる。
【0067】
詳述すると、コンクリート床版10の下方は複数の主桁21や対傾構22あるいは橋脚が配置されており、狭隘な作業空間になりやすいが、コンクリート床版10の底面側で切断するワイヤーソー100を、挿通孔34を挿通できるため、作業空間に制限の少ないコンクリート床版10の上面側にワイヤーソー装置110を配置して、作業効率を向上することができる。
【0068】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の主桁は主桁21に対応し、
以下同様に、
上面は上面21aに対応し、
コンクリート床版はコンクリート床版10に対応し、
ワイヤーソーはワイヤーソー100に対応し、
切断対象箇所は切断対象箇所Xに対応し、
切断進行方向は橋軸直角方向Wに対応し、
進行方向スリットは進行方向スリット31に対応し、
切断進行方向に交差する方向は橋軸方向Lに対応し、
交差方向スリットは交差方向スリット32に対応し、
挿通孔は挿通孔34に対応するが、この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0069】
例えば、上述の説明では、進行方向スリット31はコンクリート床版10の上面側に設けられ、交差方向スリット32はコンクリート床版10の底面側に設けられたが、進行方向スリット31及び交差方向スリット32が同じ側に設けられてよい。
【0070】
また、切断対象箇所Xの橋軸方向Lの両端部に形成した進行方向スリット31のスリット形成側Wsの端部を橋軸方向Lに跨ぐように交差方向スリット32を形成したが、交差方向スリット32は、進行方向スリット31の端部ではなく、スリット形成側Wsであれば進行方向スリット31の途中部分を跨ぐように形成してもよい。
【0071】
また、橋軸直角方向Wにおいて主桁21の上面21aより長ければ進行方向スリット31を切断対象箇所Xの橋軸直角方向Wに延びる縁部より短く形成し、両進行方向スリット31と交差方向スリット32とが連結されていなくてもよい。
【0072】
また、ハンチ11における橋軸直角方向Wの両際まで進行方向スリット31を形成したが、少なくとも主桁21の上フランジ、すなわち上面21aに対応する長さと位置で形成してもよい。
さらにまた、交差方向スリット32を底面側から上側Huを向かう溝形状で形成したが、上面側から上面21aの近傍までの深さの溝形状で形成してもよい。
【0073】
さらには、上述の説明では、切断対象箇所Xの橋軸方向Lの両端部に沿って橋軸直角方向Wの進行方向スリット31を形成するとともに、進行方向スリット31のスリット形成側Wsの端部を跨ぐように橋軸方向Lに沿って交差方向スリット32を形成し、主桁21の上面21aの近傍を橋軸直角方向Wに向かって切断した。
【0074】
しかしながら、切断対象箇所Xの橋軸直角方向Wの両端部に沿って橋軸方向Lに延びる進行方向スリット31を形成するとともに、橋軸方向Lに延びる進行方向スリット31の端部を跨ぐように橋軸直角方向Wに沿って交差方向スリット32を形成し、主桁21の上面21aの近傍を橋軸方向Lに向かって切断してもよい。
【0075】
この場合、橋軸方向Lに沿って形成する進行方向スリット31は、コンクリート床版10の上面側あるいは底面側のいずれか、あるいは一方の進行方向スリット31を上面側に形成し、他方の進行方向スリット31をコンクリート床版10の底面側に形成してもよい。
【符号の説明】
【0076】
10…コンクリート床版
21…主桁
21a…上面
31…進行方向スリット
32…交差方向スリット
34…挿通孔
100…ワイヤーソー
L…橋軸方向
W…橋軸直角方向
X…切断対象箇所