(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128728
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】医療情報提供制御装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 10/00 20180101AFI20240913BHJP
【FI】
G16H10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037891
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】399035766
【氏名又は名称】エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】相津 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 陽一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 俊文
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健佑
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA21
(57)【要約】
【課題】情報所有者が所有する医療情報の秘匿性を保持した上で、情報利用者に対して必要な情報を提供できるようにする。
【解決手段】この発明の一態様は、医療情報提供制御装置が、複数の所有者端末から送信される医療情報をそれぞれ受信し、受信した複数の前記医療情報をそれぞれ複数の断片情報に変換して複数の保管装置に分散して登録する。そして、利用者端末から送信される情報取得要求に応じ、前記複数の保管装置に分散して保管される前記複数の断片情報に対し秘密計算を用いた統計分析処理を行い、この統計分析処理により得られる分析情報を取得要求元の前記利用者端末へ送信する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の医療情報所有者がそれぞれ使用する複数の所有者端末、および医療情報利用者が使用する利用者端末との間で、それぞれ情報データの伝送が可能な医療情報提供制御装置であって、
前記複数の所有者端末から送信される医療情報をそれぞれ受信し、受信した複数の前記医療情報をそれぞれ複数の断片情報に変換して複数の保管装置に分散して登録する第1の処理部と、
前記利用者端末から送信される情報取得要求に応じ、前記複数の保管装置に分散して保管される前記複数の断片情報に対し秘密計算を用いた統計分析処理を行う第2の処理部と、
前記統計分析処理により得られる分析情報を取得要求元の前記利用者端末へ送信する第3の処理部と
を具備する医療情報提供制御装置。
【請求項2】
前記複数の医療情報所有者および前記医療情報利用者の各々に対し設定された前記登録および前記統計分析処理に関する権限情報を取得し、保存する第4の処理部を、さらに具備し、
前記第1の処理部は、前記所有者端末から送信される情報登録要求に含まれる前記医療情報所有者の権限情報に基づいて、前記医療情報所有者が前記登録に関する権限を有するか否かを判定し、権限を有すると判定した場合に前記医療情報の登録処理を行い、
前記第2の処理部は、前記情報取得要求に含まれる前記医療情報利用者の権限情報に基づいて、前記医療情報利用者が前記統計分析処理に関する権限を有するか否かを判定し、権限を有すると判定した場合に前記統計分析処理を行う
請求項1に記載の医療情報提供制御装置。
【請求項3】
前記第1の処理部は、前記医療情報の所有者が所属する医療機関または二次医療圏を表す識別情報を含む前記医療情報を受信し、受信した前記医療情報を前記複数の断片情報に変換したのち前記医療機関または前記二次医療圏ごとに作成したテナントに対応付けた状態で前記複数の保管装置に分散して保管し、
前記第2の処理部は、前記情報取得要求に含まれる分析対象の前記医療機関または前記二次医療圏を指定する識別情報に応じて、対応する前記医療機関または前記二次医療圏ごとに、対応する前記テナントに保管される前記複数の断片情報に対し前記秘密計算を用いた前記統計分析処理を行って前記分析情報を算出し、
前記第3の処理部は、算出された前記分析情報を取得要求元の前記利用者端末へ送信する
請求項1に記載の医療情報提供制御装置。
【請求項4】
前記第2の処理部は、
前記情報取得要求に、分析対象として前記医療機関および前記二次医療圏を複数含む三次医療圏に関する分析要求が含まれる場合に、前記三次医療圏に含まれる前記医療機関および前記二次医療圏に対応する前記テナントに保管される複数の前記断片情報を結合した利用者テーブルを作成する処理と、
作成した前記利用者テーブルに保管される前記断片情報に対し前記秘密計算を用いた前記統計分析処理を行って前記分析情報を算出する処理と
を行う、請求項3に記載の医療情報提供制御装置。
【請求項5】
前記第1の処理部は、前記複数の所有者端末からそれぞれ前記医療情報として医療機関における耐性菌の発生状況を表す情報を受信し、受信した前記耐性菌の発生状況を表す情報をそれぞれ前記複数の断片情報に変換して前記複数の保管装置に分散して保管し、
前記第2の処理部は、前記複数の断片情報に対し前記秘密計算を用いた前記統計分析処理を行って、分析対象の菌種の抗菌薬に対する感受性を表す抗菌薬感受性情報を算出し、
前記第3の処理部は、算出された前記抗菌薬感受性情報を要求元の前記利用者端末へ送信する
請求項1に記載の医療情報提供制御装置。
【請求項6】
前記第1の処理部は、前記複数の所有者端末からそれぞれ前記医療情報として医療機関における耐性菌の発生状況を表す情報を受信し、受信した前記耐性菌の発生状況を表す情報をそれぞれ前記複数の断片情報に変換して前記複数の保管装置に分散して保管し、
前記第2の処理部は、前記複数の断片情報に対し前記秘密計算を用いた前記統計分析処理を行って、分析対象の菌種の全株数に対する前記耐性菌として分離された前記菌種の株数の割合を表す耐性菌分離割合情報を算出し、
前記第3の処理部は、算出された前記耐性菌分離割合情報を要求元の前記利用者端末へ送信する
請求項1に記載の医療情報提供制御装置。
【請求項7】
前記第1の処理部は、前記複数の所有者端末からそれぞれ前記医療情報として医療機関における耐性菌の発生状況を表す情報を受信し、受信した前記耐性菌の発生状況を表す情報をそれぞれ前記複数の断片情報に変換して前記複数の保管装置に分散して保管し、
前記第2の処理部は、前記複数の断片情報に対し前記秘密計算を用いた前記統計分析処理を行って、分析対象の前記耐性菌の全株数に対する検出された前記耐性菌の株数の割合の時系列変化を表す耐性菌分離頻度情報を算出し、
前記第3の処理部は、算出された前記耐性菌分離頻度情報を要求元の前記利用者端末へ送信する
請求項1に記載の医療情報提供制御装置。
【請求項8】
複数の医療情報所有者がそれぞれ使用する複数の所有者端末、および医療情報利用者が使用する利用者端末との間で、それぞれ情報データの伝送が可能な制御装置が実行する医療情報提供制御方法であって、
前記複数の所有者端末から送信される医療情報をそれぞれ受信し、受信した複数の前記医療情報をそれぞれ複数の断片情報に変換して複数の保管装置に分散して登録する過程と、
前記利用者端末から送信される情報取得要求に応じ、前記複数の保管装置に分散して保管される前記複数の断片情報に対し秘密計算を用いた統計分析処理を行う過程と、
前記統計分析処理により得られる分析情報を取得要求元の前記利用者端末へ送信する過程と
を具備する医療情報提供制御方法。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載の医療情報提供制御装置が備える処理部の少なくとも1つが実行する処理を、前記医療情報提供制御装置が備えるプロセッサに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の一態様は、例えば医療機関が所有する医療情報を情報利用者に提供するシステムで使用される医療情報提供制御装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、保健医療の分野では、抗菌薬(抗生物質)に対し薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)を持つ細菌(以後耐性菌と呼ぶ)への対策が重要な課題となっている。耐性菌は、1980年以降世界中で増加しており、既に抗菌薬への耐性を持つ様々な細菌が確認されている。このため、感染症の予防や治療が困難になるケースが増えており、今後も抗菌薬が効かない感染症が増加することが予想されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
耐性菌が発生する原因として考えられるのは、例えば患者が以前に処方された残留薬を自己判断で服用したり、患者の自己判断で服用方法を変更したりすることが挙げられる。すなわち、抗菌薬の不適切な使用が大きな原因となっている。
【0004】
そこで、例えば都道府県単位または市町村単位で耐性菌の発生状況について調査し、その調査結果をもとに地域ごとに効果的な対策を検討する試みがなされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“耐性菌が効かない「薬剤耐性(AMR)」が拡大! 一人ひとりができることは?”、令和2年(2020年)11月4日、政府公報オンライン、インターネット<https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201611/2.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、耐性菌の発生状況に関する情報には患者や医療機関の個人情報が含まれることから、例えば自治体や研究機関が耐性菌の発生状況に関する情報を収集しようとしても容易に収集することができず、これが耐性菌の発生状況の調査および対策を進める上で大きな障害になっている。
【0007】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、情報所有者が所有する医療情報の秘匿性を保持した上で、情報利用者に対して必要な情報を提供できるようにする技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためにこの発明に係る医療情報提供制御装置または方法の一態様は、複数の所有者端末から送信される医療情報をそれぞれ受信し、受信した複数の前記医療情報をそれぞれ複数の断片情報に変換して複数の保管装置に分散して登録する。そして、利用者端末から送信される情報取得要求に応じ、前記複数の保管装置に分散して保管される前記複数の断片情報に対し秘密計算を用いた統計分析処理を行い、この統計分析処理により得られる分析情報を取得要求元の前記利用者端末へ送信するようにしたものである。
【0009】
この発明の一態様によれば、例えば医療機関等の情報所有者が所有する医療情報は、それのみでは意味を持たない複数の断片情報に変換されたのち分散して保管され、さらに上記複数の断片情報に対し秘密計算を用いた統計分析処理が行われ、これにより得られた分析情報が情報利用者に提供される。すなわち、医療情報は複数の断片情報に断片化されて分散保管され、かつ各断片情報は元の医療情報に復元されることなくそのまま秘密計算により統計分析処理される。このため、仮に制御装置から情報漏洩が発生したとしても、漏洩した情報はそれのみでは意味を持たない断片情報に過ぎず、かつ情報利用者には元の医療情報は提供されることがない。従って、情報所有者の医療情報の秘匿性を保持しつつ情報利用者にとって必要な情報を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
すなわち、この発明の一態様によれば、情報所有者が所有する医療情報の秘匿性を保持した上で、情報利用者に対して必要な情報を提供できるようにする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、この発明の一実施形態に係る医療情報提供制御装置を備える医療情報提供システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、この発明の一実施形態に係る医療情報提供制御装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、この発明の一実施形態に係る医療情報提供制御装置のソフトウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、秘密計算システムの情報登録処理動作の概要を説明するための図である。
【
図5】
図5は、秘密計算システムの統計分析処理動作の概要を説明するための図である。
【
図6】
図6は、
図3に示した医療情報提供制御装置の制御部が実行する登録処理の処理手順と処理内容の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、
図3に示した医療情報提供制御装置の制御部が実行する統計分析処理の処理手順と処理内容の一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、
図6に示した登録処理におけるテナント構築処理の一例を説明するための図である。
【
図9】
図9は、
図6に示した登録処理における参加者情報登録処理の一例を説明するための図である。
【
図10】
図10は、登録対象とする参加者情報の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、
図6に示した登録処理における参加者へのアカウント付与処理の一例を説明するための図である。
【
図12】
図12は、
図6に示した登録処理における医療情報登録処理の一例を説明するための図である。
【
図14】
図14は、統計分析処理の第1の実施例である「抗菌薬感受性分析」のための秘密計算実行処理の一例を示す図である。
【
図16】
図16は、統計分析処理の第2の実施例である「耐性菌分離割合分析」のための秘密計算実行処理の一例を示す図である。
【
図18】
図18は、
図17に示した「耐性菌分離割合分析」の実行結果の表示例を示す図である。
【
図19】
図19は、統計分析処理の第3の実施例である「耐性菌分離頻度分析」のための秘密計算実行処理の一例を示す図である。
【
図21】
図21は、
図20に示す「耐性菌分離頻度分析」の実行結果の第1の表示例を示す図である。
【
図22】
図22は、
図20に示した「耐性菌分離頻度分析」の実行結果の第2の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態を説明する。
【0013】
[一実施形態]
(構成例)
(1)システム
図1は、この発明の一実施形態に係る医療情報提供制御装置SVを備える医療情報提供システムの構成の一例を示す図である。
【0014】
一実施形態に係る医療情報提供システムは、その中核として医療情報提供制御装置SVを備える。そして、この医療情報提供制御装置SVと、情報所有者である複数の医療機関HP1~HPnがそれぞれ使用する所有者端末HT1~HTnとの間、情報利用者である複数の医療機関、研究機関または自治体等の情報利用者RD1~RDmがそれぞれ使用する利用者端末RT1~RTmとの間、および管理者端末MTとの間で、それぞれネットワークNWを介して情報データの伝送を可能にしたものである。
【0015】
所有者端末HT1~HTnおよび利用者端末RT1~RTmは、いずれも例えばパーソナルコンピュータにより構成される。このうち、所有者端末HT1~HTnは、医療機関HP1~HPnの担当者が、医療情報提供制御装置SVに対し自院の医療情報を登録するために使用される。利用者端末RT1~RTmは、研究機関RD1~RDmの研究者が医療情報提供制御装置SVに対し分析要求を送信して、医療情報提供制御装置SVから分析情報を取得するために使用される。なお、所有者端末HT1~HTnおよび利用者端末RT1~RTmとしては、パーソナルコンピュータ以外にサーバコンピュータが使用されてもよい。
【0016】
管理者端末MTは、例えばパーソナルコンピュータからなり、上記情報所有者および情報利用者等のシステム利用者(参加者とも云う)の要望に応じて、システム管理者が医療情報提供制御装置SVに対しテナント構築や参加者情報の登録等の管理処理を行う際に使用される。なお、管理者端末MTについても、パーソナルコンピュータ以外にサーバコンピュータが用いられてもよい。
【0017】
ネットワークNWは、例えばインターネットを中核とする広域ネットワークと、この広域ネットワークに対しアクセスするためのアクセスネットワークとを備える。アクセスネットワークとしては、例えば、有線または無線を使用する公衆通信ネットワーク、有線または無線を使用するLAN(Local Area Network)、CATV(Cable Television)ネットワークが使用される。また、ネットワークNWには、地上波または衛星を使用する放送媒体が含まれていてもよい。
【0018】
(2)医療情報提供制御装置SV
医療情報提供制御装置SVは、相互に協調して処理を実行する複数のサーバコンピュータ(この例では3台)SV1,SV2,SV3を備える。これらのサーバコンピュータSV1~SV3は秘密計算システムを構成する。
【0019】
図2および
図3は、それぞれ上記各サーバコンピュータSV1~SV3のハードウェア構成およびソフトウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0020】
サーバコンピュータSV1~SV3は、いずれも中央処理ユニット(Central Processing Unit:CPU)等のハードウェアプロセッサを有する制御部1を備え、この制御部1に対し、バス5を介して、プログラム記憶部2およびデータ記憶部3を有する記憶ユニットと、通信インタフェース(以後インタフェースをI/Fと略称する)部4を接続したものとなっている。
【0021】
通信I/F部4は、上記所有者端末HT1~HTn、利用者端末RT1~RTmおよび管理者端末MTとの間で、ネットワークNWにより規定される通信プロトコルに従い情報データの送受信を行う。
【0022】
プログラム記憶部2は、例えば、記憶媒体としてSSD(Solid State Drive)等の随時書込みおよび読出しが可能な不揮発性メモリと、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリとを組み合わせて構成したもので、OS(Operating System)等のミドルウェアに加えて、一実施形態に係る各種制御処理を実行するために必要なアプリケーション・プログラムを格納する。なお、以後OSと各アプリケーション・プログラムとをまとめてプログラムと称する。
【0023】
データ記憶部3は、例えば、記憶媒体として、SSD等の随時書込みおよび読出しが可能な不揮発性メモリと、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリと組み合わせたもので、その記憶領域にはテナント記憶領域31が設けられる。テナント記憶領域31には、テナントごとに作成される複数のテナント情報が記憶される。各テナント情報には少なくとも1つのデータテーブルが含まれる。
【0024】
制御部1は、一実施形態を実施するために必要な処理機能として、テナント構築処理部11と、参加者情報登録処理部12と、医療情報登録処理部13と、統計分析処理部14と、分析情報送信処理部15とを備える。これらの処理部11~15は、何れもプログラム記憶部2に格納されたアプリケーション・プログラムを制御部1のハードウェアプロセッサに実行させることにより実現される。
【0025】
なお、上記各処理部11~15の一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0026】
テナント構築処理部11は、システム管理者の管理者端末MTから送信されるテナント構築要求に応じて、データ記憶部3のテナント記憶領域31に、テナントごとにテナント情報記憶部を設ける。一実施形態では、医療機関等の施設が所属する二次医療圏ごとにテナントが割り当てられる。そのためテナント構築処理部11は、上記二次医療圏ごとにテナント情報記憶部を設ける。
【0027】
また、テナント構築処理部11は、テナントごとに、例えば、その二次医療圏に所属する施設のみが利用可能なテナントテーブルと、他のテナントも利用可能とする横断分析テーブルと、情報利用者の要求に応じて作成される利用者テーブルをそれぞれ設ける。
【0028】
参加者情報登録処理部12は、システム管理者の管理者端末MTから送信される参加者情報登録要求に応じて、システムの利用を希望する参加者、つまり情報所有者および情報利用者の属性情報と権限情報を、テナント記憶領域31中の対応するテナント情報記憶部に登録する処理を行う。なお、上記参加者の属性情報および権限情報は、データ記憶部3にテナント記憶領域31とは別に設けられる参加者情報記憶領域に登録されるようにしてもよい。属性情報および権限情報の一例は動作例において説明する。
【0029】
医療情報登録処理部13は、所有者端末HT1~HTnから医療情報登録要求を受信した場合に、要求元の情報所有者に対する認証手順と権限判定手順を実行する。そして、医療情報登録処理部13は、情報所有者が情報の登録に関する権限を有する場合に、所有者端末HT1~HTnから登録対象の医療情報を取得し、取得した医療情報を該当するテナント情報記憶部に記憶する。
【0030】
統計分析処理部14は、利用者端末RT1~RTmから分析要求を受信した場合に、この分析要求に含まれる分析条件に従い、対応するテナント情報記憶部に記憶されている医療情報に対し統計分析処理を行う。この統計分析処理の一例については動作例において説明する。
【0031】
分析情報送信処理部15は、上記統計分析処理部14により得られた分析情報をもとに、予め用意された表示形式の表示データを生成する。そして、生成した上記表示データを要求元の情報利用者が使用する利用者端末RT1~RTmへ送信する。上記表示データの一例についても動作例で説明する。
【0032】
(動作例)
以上のように構成された医療情報提供制御装置SVの動作例を説明する。
【0033】
(1)秘密計算システムの動作の概要
先ず、医療情報提供制御装置SVの動作説明に先立ち、この医療情報提供制御装置SVが備える秘密計算システムの処理動作の概要を説明する。
【0034】
図4および
図5は、それぞれ秘密計算システムにおける情報登録処理および統計分析処理の概要を説明する図である。
【0035】
データ所有者Ua、Ubからそれぞれ送信された元データDa,Dbは、先ず(1) において無意味な複数の断片データ(この例では3つ)Sa1~Sa3,Sb1~Sb3に変換された後、(2) において3台のサーバコンピュータSV1~SV3に分散された状態で保管される。このため、仮に攻撃者が上記サーバコンピュータSV1~SV3から断片データを不正取得したとしても、元データDa,Dbを復元することは不可能である。
【0036】
一方、情報利用者Ucから、(1) において計算要求が送信されると、サーバコンピュータSV1~SV3はその要求内容に従い、(2) において断片データSa1~Sa3,Sb1~Sb3に対し復号することなく秘密計算を用いた統計分析処理(以後「析秘」処理とも云う)を行う。そして、その計算結果Deを(3) において要求元の情報利用者Ucへ返送し、利用者Ucは(4) において上記計算結果Deのみを受け取る。計算結果Deは統計分析されたものであるため、この計算結果Deから情報所有者等の個人情報を特定することはできない。
【0037】
「析秘」処理により実行可能な分析機能には、例えば、テーブルに記憶された表データの行、列または領域単位でのデータ結合処理、線形回帰分析やロジスティック回帰分析等の回帰分析処理、登録数の総和や平均、分散、最大値、最小値、中央値、積和等の各種データ集計処理、分析のための各種関数演算処理が含まれる。
【0038】
以上の説明から明らかなように、秘密計算システムを用いて医療情報の提供を制御することで、医療情報を提供する情報所有者の個人情報の秘匿性を保持しつつ、上記医療情報から統計分析して得た分析情報を情報利用者に提供することが可能となる。すなわち、医療情報を、その所有者の個人情報の秘匿性を保持した上で、保健や診療、投薬管理等に係る各種対策に広く役立てることが可能となる。
【0039】
(2)医療情報提供制御装置SVにおける各種登録処理
図6は、医療情報提供制御装置SVの制御部1が実行する登録処理の処理手順と処理内容の一例を示すフローチャートである。
【0040】
(2-1)テナントの構築
図8は、テナント構築処理動作の一例を説明するための図である。
医療機関HP1~HPnが所有する医療情報の登録を行う場合、システム管理者は、始めに管理者端末MTから医療情報提供制御装置SVに対しテナントの構築要求を送信する。テナント構築要求には、テナントの割当対象となる、例えば医療機関HP1~HPn等の施設が所属する二次医療圏E1~Ekの識別情報が含まれる。
【0041】
医療情報提供制御装置SVの制御部1は、ステップS10において、上記テナント構築要求を通信I/F部4を介して受信すると、テナント構築処理部11の制御の下、ステップS11において以下のようにテナント構築処理を実行する。
【0042】
すなわち、テナント構築処理部11は、上記テナント構築要求に含まれる二次医療圏E1~Ekの識別情報に応じて、テナント記憶領域31に二次医療圏E1~Ek別のテナント情報記憶部TN1~TNkを設ける。また、それと同時にテナント構築処理部11は、上記テナント情報記憶部TN1~TNkの各々に、二次医療圏E1~Ekに所属する施設のみが利用可能なテナントテーブルと、他のテナントも利用可能とする横断分析テーブルと、情報利用者の要求に応じて作成される利用者テーブルとをそれぞれ設ける。
【0043】
(2-2)参加者情報の登録
図9は参加者情報の登録処理の一例を説明するための図である。
システム管理者は、管理者端末MTにより、システムへの参加を希望する参加者、つまり情報所有者および情報利用者の各々から属性情報を取得する。またシステム管理者は、上記情報所有者および情報利用者が希望する処理の種類に対応して権限を設定する。そしてシステム管理者は、管理者端末MTにおいて、参加者ごとにその識別情報に属性情報と上記設定した権限を表す情報とを対応付けた参加者情報を生成し、生成した上記参加者情報を、参加者情報登録要求と共に医療情報提供制御装置SVへ送信する。
【0044】
これに対し、医療情報提供制御装置SVの制御部1は、ステップS12により上記参加者情報登録要求を検出すると、参加者情報登録処理部12の制御の下、ステップS13において上記参加者情報を通信I/F部4を介して受信する。そして、参加者情報登録処理部12は、受信した上記参加者情報を、当該参加者情報に含まれる二次医療圏の識別コードに基づいて、対応するテナント情報記憶部TN1~TNkに記憶する。
【0045】
図10は、記憶される参加者情報の一例を示すものである。この例では、参加者ごとに、その属性情報として、所属する二次医療圏E1,E2,Ekおよび施設名(A病院、B病院、C病院、D病院)と、参加者が所有する端末のメールアドレスが設定され、さらに権限情報として「登録」、「分析」、「登録&分析」のいずれかが設定されている場合を示している。
【0046】
(2-3)アカウント情報の設定
図11は、アカウント情報の設定処理の一例を説明するための図である。
上記参加者情報の登録が終了するとシステム管理者は、続いて上記参加者情報に基づいて各参加者に対しアカウント情報を割り当てる。割り当てられたアカウント情報は、管理者端末MTから参加者である情報所有者が使用する端末HT1~HTn、および情報利用者が使用する端末RT1~RTmに通知されると共に、医療情報提供制御装置SVに送信される。医療情報提供制御装置SVの制御部1は、上記アカウント情報を各参加者に対応付けて上記テナント情報記憶部に保存する。
【0047】
(2-4)医療情報の登録
図12は、医療情報の登録処理の一例を説明するための図である。
医療情報の所有者は、自院の医療情報を登録する際に、先ず自身に割り当てられた上記アカウント情報を用いて、端末HT1~HTnから医療情報提供制御装置SVに対し医療情報登録要求を送信する。
【0048】
これに対し、医療情報提供制御装置SVの制御部1は、ステップS15において上記医療情報登録要求を検出すると、医療情報登録処理部13の制御の下、先ず上記医療情報登録要求に含まれるアカウント情報を、参加者情報に対応付けて保存されているアカウント情報と照合することにより、要求者の認証を行う。そして、上記認証により要求者の正当性が確認されると、医療情報登録処理部13は続いてステップS16において、参加者情報に設定されている権限情報に基づいて、要求者に「登録」処理に関する権限があるか否かを判定する。
【0049】
上記判定の結果、例えば
図10の参加者情報に登録された、A病院に所属する参加者AAのように、要求者が「登録」処理に関する権限を有していれば、医療情報登録処理部13は、上記要求者の端末HT1~HTnから送信される医療情報を、ステップS17において通信I/F部4を介して受信する。そして、医療情報登録処理部13は、受信した上記医療情報を、上記要求者が所属する二次医療圏E1に対応するテナント情報記憶部TN1に、
図12に示すように記憶する。また、この医療情報を記憶する際に、医療情報登録処理部13は上記医療情報をステップS18により無意味な複数の断片データに変換し、ステップS19においてサーバコンピュータSV1~SV3にそれぞれ設けられているテナント情報記憶部TN1に分散させて保管する。
【0050】
なお、例えば
図10の参加者情報に登録された、B病院に所属する要求者ABのように、「分析」処理に関する権限は有しているものの、「登録」処理に関する権限を有していない場合には、医療情報登録処理部13は登録要求に応じず、ステップS12による参加者情報登録要求の受信監視に戻る。
【0051】
医療情報登録処理部13は、最後にステップS20において医療情報の登録処理が終了したか否かを判定し、未登録の医療情報が残っていればステップS15に戻り、ステップS15~ステップS20において医療情報の登録処理を繰り返し実行する。これに対し、要求されたすべての医療情報の登録処理が終了すると、登録処理を終了する。
【0052】
(3)統計分析および分析結果の出力
図7は医療情報提供制御装置SVの制御部1が実行する統計分析および分析結果の出力処理の処理手順と処理内容の一例を示すフローチャート、
図13は統計分析処理の一例を説明するための図である。
【0053】
(3-1)統計分析処理
医療情報提供制御装置SVの制御部1は、情報利用者が使用する端末RT1~RTmから送信される分析要求をステップS30で受信すると、統計分析処理部14の制御の下、統計分析処理を以下のように実行する。
【0054】
すなわち、統計分析処理部14は、先ず上記分析要求に含まれる要求者のアカウント情報を、参加者情報に対応付けて保存されているアカウント情報と照合することにより、要求者の認証を行う。そして、上記認証により要求者の正当性が確認されると、統計分析処理部14は、続いてステップS31において、参加者情報に設定されている権限情報に基づいて、要求者に「分析」処理に関する権限があるか否かを判定する。
【0055】
上記判定の結果、例えば
図10の参加者情報に登録された、C病院に所属する参加者BAのように、要求者が「分析」処理に関する権限を有していれば、統計分析処理部14は、ステップS32において、上記分析要求に含まれる分析条件に従い統計分析処理を実行する。
【0056】
例えば、
図13の(1) に示すように分析要求に含まれる分析条件に、分析の種類として「比較」が指定され、さらに比較対象として「自施設」、「医療圏E1」、「全医療圏E」が指定されていたとする。この場合、統計分析処理部14は、先ず(2) に示すように、医療圏E1、E2,Ekの各テナント情報記憶部TN1,TN2,TNkに設けられているテナントテーブルからそれぞれ医療情報を読み出し、読み出した各テナントテーブルの医療情報を合成して全医療圏Eに対応する利用者テーブルを作成する。
【0057】
統計分析処理部14は、次に(3) に示すように、比較対象となる医療圏E1のテナントテーブルと、上記全医療圏Eに対応する利用者テーブルとを用いて、「自施設」、「医療圏E1」、「全医療圏E」の各々について医療情報の登録件数を集計する。この結果、
図13の(4) に示すような集計結果が得られる。
【0058】
なお、統計分析処理の種類としては、上記した登録件数の集計以外に、この集計結果についてさらに平均、分散、最大値、最小値、中央値、積和等を行うものであってもよい。また、その他の統計分析処理として、表データの行、列または領域単位でのデータ結合処理や、線形回帰分析やロジスティック回帰分析等の回帰分析処理、分析のための各種関数演算処理が行われてもよい。
【0059】
以上述べたいずれの処理が行われても、複数の医療情報に基づく統計分析処理であるため、元の医療情報に含まれる患者や医療機関に係る個人情報が分析結果に含まれることはない。
【0060】
(3-2)分析結果の出力
上記分析結果が得られると、医療情報提供制御装置SVの制御部1は、分析情報送信処理部15の制御の下、ステップS33において、上記分析結果を上記分析条件に対応して予め設定された表示形式で編集することで表示データを生成する。そして、分析情報送信処理部15は、生成した上記表示データを通信I/F部4から要求元の利用者端末RT1~RTmへ送信する。例えば、分析情報送信処理部15は、要求者がC病院の参加者BAであれば、当該参加者BAが使用する端末RT3へ送信する。表示データの表示形式には、表形式や円グラフ、折れ線グラフ、棒グラフなどの任意の表示形式が使用可能である。
【0061】
(4)統計分析処理を適用した具体的な実施例
次に、耐性菌の発生状況について統計分析を行う場合を例にとり、その複数の実施例を説明する。
【0062】
(4-1)抗菌薬感受性分析
「抗菌薬感受性」とは、分析対象の菌種と、それに対して使用した薬剤の感性率(感受性)を示すものである。
【0063】
抗菌薬感受性分析を行う場合、分析条件として、例えば分析期間、診療科、検査材料、患者の性別、年齢、菌分類および抗菌薬コードが指定される。さらに分析条件としては、分析対象となる例えば「自施設」、「二次医療圏」に対応する、医療機関コードおよび二次医療機関コードも指定される。なお、分析対象として、「全医療圏」および「自院以外の他の施設」が含まれていてもよい。
【0064】
医療情報提供制御装置SVの制御部1は、情報利用者の端末RT1~RTmから上記分析条件を含む分析要求を受信すると、統計分析処理部14の制御の下、上記分析条件に従い分析対象となる施設および二次医療圏に対応するテナントテーブルから医療情報を読み出して利用者テーブルを作成する。
【0065】
統計分析処理部14は、続いて上記利用者テーブルに記憶される施設および二次医療圏に対応する各医療情報から、上記分析条件により指定される各条件に対応する情報要素をそれぞれ抽出し、抽出した各情報要素に対し秘密計算を用いた統計分析処理を行う。
【0066】
例えば、医療情報には、厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)で定義された菌分類や抗菌薬などの分析に必要な複数の情報要素が含まれている。そこで、「抗菌薬感受性分析」を行う場合、統計分析処理部14は、上記JANISの医療情報をもとに、施設と二次医療圏との各組合せについて、分析対象となる複数の細菌と当該細菌の治療に使用される複数の抗菌薬とのすべての組合せごとに、S,I,Rの各々の株数をカウントする。
図14はそのカウント結果の一例を示す図である。
【0067】
そして、統計分析処理部14は、例えば
図14のC1,C2のように、細菌と抗菌薬との各組合せについてS,I,Rの各株数カウント値の合計値を算出し、算出した各合計値のうち値が最も大きい細菌と抗菌薬との組合せを分析結果とする。
【0068】
上記分析結果が得られると、医療情報提供制御装置SVの制御部1は、分析情報送信処理部15の制御の下、上記分析結果を例えば表形式に編集する。
図15は、編集された「抗菌薬感受性分析」の分析結果の一例を示すものである。この例では、すべての「菌分類」と「抗菌薬コード」との組み合わせについて、株数に対する“S”のカウント値の割合%を算出し、その各算出結果を表形式で示した場合を示している。
【0069】
分析情報送信処理部15は、上記表形式に編集された「抗菌薬感受性分析」の分析結果を表す表示データを利用者端末へ送信し表示させる。この結果、情報利用者は、自院における分離菌種に対する各抗菌薬の感受性の分析結果を、二次医療圏E1,E2における分析結果と比較検討することが可能となる。
【0070】
(4-2)耐性菌分離割合分析
「耐性菌分離割合」とは、全ての分離菌の株数に対する、検出された各耐性菌の株数の割合を示すものである。
【0071】
耐性菌分離割合分析を行う場合、分析条件として、例えば分析期間、診療科、検査材料、患者の性別、年齢が指定される。さらに分析条件としては、分析対象となる例えば「自施設」および「二次医療圏」に対応する医療機関コードおよび二次医療機関コードと、「薬剤耐性菌カテゴリ」も指定される。薬剤耐性菌カテゴリでは、分析対象となる耐性菌として、例えばJANISで薬剤耐性菌判定基準が示される7種類の耐性菌MRSA、VRSA、VRE 、PRSP、MDRP、MDRA、CRE に加えて、MRSA&VRSA および非耐性菌を含めた計9種類が定義される。
【0072】
医療情報提供制御装置SVの制御部1は、情報利用者の端末RT1~RTmから上記分析条件を含む分析要求を受信すると、統計分析処理部14の制御の下、上記分析条件に従い分析対象となる施設および二次医療圏に対応するテナントテーブルから医療情報を読み出して利用者テーブルを作成する。
【0073】
統計分析処理部14は、続いて上記利用者テーブルに記憶される施設および二次医療圏に対応する各医療情報から、上記分析条件により指定される各条件に対応する情報要素をそれぞれ抽出し、抽出した各情報要素に対し秘密計算を用いた統計分析処理を行う。
【0074】
例えば、統計分析処理部14は、上記JANISの医療情報をもとに、施設と二次医療圏との各組合せについて、分析対象となる上記9種類の細菌(非耐性菌を含む)の検出株数をカウントする。
図16はそのカウント結果の一例を示す図である。そして統計分析処理部14は、同種の細菌ごとにその株数のカウント値の合計値を算出する。この結果、例えば
図16のC3に示す耐性菌CRE については、株数の合計値として“10”が得られる。さらに、統計分析処理部14は、施設および二次医療圏ごとの全検出株数に対する、上記9種類の細菌(非耐性菌を含む)の検出株数の割合を算出し、その算出結果を分析結果とする。
【0075】
上記分析結果が得られると、医療情報提供制御装置SVの制御部1は、分析情報送信処理部15の制御の下、上記分析結果を編集する。
図17は、編集された「耐性菌分離割合分析」の分析結果の一例を示すものである。この例では、A病院、二次医療圏E1,E2の各々について、検出された全株数と、9種類の耐性菌(非耐性菌を含む)ごとの検出株数およびその上記全株数に対する割合を、表形式で編集した場合を示している。また、分析情報送信処理部15は、上記分析結果をもとに、例えば
図18に示すように、上記9種類の細菌(非耐性菌を含む)の検出株数の割合を円グラフで示した表示データを編集することもできる。
【0076】
分析情報送信処理部15は、上記表形式に編集された「耐性菌分離割合分析」の分析結果の表示データを、要求元の利用者端末へ送信し表示させる。この結果、情報利用者は、自院における耐性菌ごとの検出株数と全耐性菌の株数に対する割合を、二次医療圏E1,E2における分析結果と比較検討することが可能となる。
【0077】
(4-3)耐性菌分離頻度分析
「耐性菌分離頻度」とは、分析対象の各耐性菌について、JANISで定義された判定対象の菌種の株数を分母とし、検出された各耐性菌の株数を分子としたときの割合の時系列変化を示すものである。
【0078】
耐性菌分離頻度分析を行う場合、上記耐性菌分離割合分析の場合と同様に、分析条件として、分析期間、診療科、検査材料、患者の性別、年齢が指定される。分析期間としては、例えば検体が提出された「年」、「月」が指定される。さらに分析条件としては、分析対象となる例えば「自施設」および「二次医療圏」に対応する医療機関コードおよび二次医療機関コードと、「薬剤耐性菌カテゴリ」が指定される。
【0079】
薬剤耐性菌カテゴリでは、分析対象となる耐性菌として、例えばJANISで薬剤耐性菌判定基準が示される7種類の耐性菌であるMRSA、VRSA、VRE 、PRSP、MDRP、MDRA、CRE に加え、「特定の耐性菌」と定義された4種類の耐性菌CRPsA 、3CRKP 、3CREC 、FQREC を含めた計11種類が定義される。
【0080】
医療情報提供制御装置SVの制御部1は、情報利用者の端末RT1~RTmから上記分析条件を含む分析要求を受信すると、統計分析処理部14の制御の下、上記分析条件に従い分析対象となる施設および二次医療圏に対応するテナントテーブルから医療情報を読み出して利用者テーブルを作成する。
【0081】
統計分析処理部14は、続いて上記利用者テーブルに記憶される施設および二次医療圏に対応する各医療情報から、上記分析条件により指定される各条件に対応する情報要素をそれぞれ抽出し、抽出した各情報要素に対し秘密計算を用いた統計分析処理を行う。
【0082】
例えば、統計分析処理部14は、上記JANISの医療情報をもとに、施設と二次医療圏との各組合せについて、分析対象となる上記11種類の各細菌の検体提出年月ごとの検出株数をカウントする。
【0083】
さらに統計分析処理部14は、上記株数のカウント値をもとに、各耐性菌種(親)について、集計結果の“菌名コード”が例えば“A菌&B菌”の場合、“A菌”および“B菌”それぞれの「分母」および「分子」を算出する。例えば、
図19のC4に示す各カウント値の合計は「分母」として算出される。また、例えば
図19のC5に示す各カウント値の合計は「分子」として算出される。この例では、耐性菌“MRSA”の場合を示しており、集計結果の“耐性菌カテゴリ”が“MRSA”であるものと“MRSA&VRSA”であるものが「分子」として算出される。
【0084】
そして、統計分析処理部14は、上記「分母」に対する「分子」の割合を算出する。
図20は、以上のようにそれぞれ算出された分析結果の一例を示すものである。
【0085】
上記分析結果が得られると、医療情報提供制御装置SVの制御部1は、分析情報送信処理部15の制御の下、上記分析結果を編集する。
図21、
図22は、編集された「耐性菌分離頻度分析」の分析結果の一例を示すものである。
【0086】
図21の例は、表示単位として「割合(%)」が指定された場合の、自院における“MRSA”の割合の時系列変化と、二次医療圏E1,E2における“MRSA”の割合の時系列変化を折れ線グラフで示したものである。
【0087】
一方、
図22の例は、表示単位として「株数」が指定された場合の、自院における“MRSA”の検出株数の時系列変化と、二次医療圏E1,E2における“MRSA”の検出株数の時系列変化を折れ線グラフで示したものである。
【0088】
なお、上記「耐性菌分離頻度分析」の分析結果の表示例としては、他に表形式を採用してもよく、その他にも任意の形式を採用可能である。
【0089】
分析情報送信処理部15は、上記折れ線グラフに編集された「耐性菌分離頻度分析」の分析結果の表示データを、要求元の利用者端末へ送信し表示させる。この結果、情報利用者は、自院における耐性菌ごとの検出株数または検出割合の時系列変化を、二次医療圏E1,E2における分析結果と比較検討することが可能となる。
【0090】
(効果)
以上述べたように一実施形態では、医療情報提供制御装置SVとして秘密計算システムを用い、この秘密計算システムにより医療機関HP1~HPnの医療情報を断片化した後サーバコンピュータSV1,SV2,SV3に分散させて保管する。そして、情報利用者から分析要求が送られた場合に、この分析要求に含まれる分析条件に従い、上記秘密計算システムにおいて上記断片データに対する統計分析処理を行い、その分析結果を上記要求元の情報利用者に送信するようにしている。
【0091】
従って、一実施形態によれば、医療機関HP1~HPnがそれぞれ所有する医療情報に含まれる患者や医療機関の個人情報に対する秘匿性を保持した上で、上記医療情報を統計分析した結果を他の医療機関または研究機関に対し提供することが可能となる。すなわち、医療情報を、その所有者の個人情報の秘匿性を保持した上で、保健や診療、投薬管理等に係る各種対策に広く役立てることが可能となる。
【0092】
[その他の実施形態]
一実施形態では、実施例として耐性菌の発生状況を調査する場合を例にとって説明したが、特定の疾病の発症状況や入院患者数等を調査する場合にも、この発明は適用可能である。
【0093】
その他、医療情報提供制御装置SVの機能構成、登録および統計分析に係る各処理手順と処理内容、医療情報の構成、統計分析処理の種類とその具体的処理内容、分析結果の表示形式などについても、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【0094】
以上、この発明の実施形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点においてこの発明の例示に過ぎない。この発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、この発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0095】
要するにこの発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0096】
SV…医療情報提供制御装置(秘密計算システム)
SV1,SV2,SV3…サーバコンピュータ
HP1~HPn…医療機関
HT1~HTn…所有者端末
RD1~RDm…情報利用者
RT1~RTm…利用者端末
MT…管理者端末
NW…ネットワーク
E1~Ek…二次医療圏
TN1~TNk…テナント情報記憶部
1…制御部
2…プログラム記憶部
3…データ記憶部
4…通信I/F部
5…バス
11…テナント構築処理部
12…参加者情報登録処理部
13…医療情報登録処理部
14…統計分析処理部
15…分析情報送信処理部
31…テナント記憶領域