(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128741
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】ラックアンドピニオン機構
(51)【国際特許分類】
B62D 3/12 20060101AFI20240913BHJP
B62D 1/16 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B62D3/12 503Z
B62D1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037912
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075579
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100175259
【弁理士】
【氏名又は名称】尾林 章
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 啓太郎
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DC33
(57)【要約】
【課題】ラックアンドピニオン機構において、ハウジングに対して嵌合されたホールカバーが外力によって倒れるのを抑制する。
【解決手段】ラックアンドピニオン機構は、ハウジング10と、ハウジング10に外嵌されてピニオン軸107の一部を覆うホールカバー13と、ハウジング10の外周面とホールカバー13の内周面との間に挟持される環状のOリング又は異形リングであるシール部材20と、を備える。ホールカバー13は、円筒状の雌嵌合部13aを有し、ハウジング10は、ピニオン軸107が挿入されるとともに雌嵌合部13aに圧入嵌めされる円筒状の雄嵌合部10bを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジングに往復移動可能に支持され、外周の少なくとも一部にラック歯を有するラック軸と、前記ハウジングに回転可能に支持され、前記ラック歯に噛み合うピニオン歯を有するピニオン軸と、前記ハウジングに外嵌されて前記ピニオン軸の一部を覆うホールカバーと、を有するラックアンドピニオン機構であって、
前記ラックアンドピニオン機構は、前記ハウジングの外周面と前記ホールカバーの内周面との間に挟持される環状のOリング又は異形リングであるシール部材を備え、
前記ホールカバーは、円筒状の雌嵌合部を有し、
前記ハウジングは、前記ピニオン軸が挿入されるとともに前記雌嵌合部に圧入嵌めされる円筒状の雄嵌合部を有する、
ことを特徴とするラックアンドピニオン機構。
【請求項2】
前記ハウジングには、前記シール部材を配置するシール配置部が前記雄嵌合部よりも下方に形成され、
前記シール部材は、前記シール配置部の外周面上に形成された外周溝に配置されることを特徴とする請求項1に記載のラックアンドピニオン機構。
【請求項3】
前記シール部材の上方には、前記ハウジングの前記外周面と前記ホールカバーの前記内周面との間の隙間が形成されることを特徴とする請求項1に記載のラックアンドピニオン機構。
【請求項4】
前記シール部材の表面に上方に形成された、前記ハウジングの前記外周面と前記ホールカバーの前記内周面との間の前記隙間に、グリースが塗布又は充填されていることを特徴とする請求項3に記載のラックアンドピニオン機構。
【請求項5】
前記ホールカバーの前記雌嵌合部の内周面に軸方向に延在する複数の凸条が形成され、
前記ホールカバーを前記ハウジングに外嵌するときに前記複数の凸条が変形することにより前記雌嵌合部と前記雄嵌合部とが圧入嵌めされる、
ことを特徴とする請求項1に記載のラックアンドピニオン機構。
【請求項6】
前記ハウジングの前記雄嵌合部の外周面に周方向に延在する凸条が形成され、
前記ホールカバーを前記ハウジングに外嵌するときに前記凸条が変形することにより前記雌嵌合部と前記雄嵌合部とが圧入嵌めされる、
ことを特徴とする請求項1に記載のラックアンドピニオン機構。
【請求項7】
前記雄嵌合部における前記ハウジングの外径は、前記ハウジングに前記シール部材が配置されるシール配置部における前記ハウジングの外径よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のラックアンドピニオン機構。
【請求項8】
前記雄嵌合部の上端部の外周面にテーパが形成されることを特徴とする請求項1に記載のラックアンドピニオン機構。
【請求項9】
前記ホールカバーは、円錐絞り部を有することを特徴とする請求項1に記載のラックアンドピニオン機構。
【請求項10】
前記ピニオン軸は、前記ピニオン歯が形成されたピニオンと、前記ピニオンにボルト締結された延長シャフトと、を備え、
前記ピニオンは、軸受により回転支持されることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載のラックアンドピニオン機構。
【請求項11】
前記軸受の外輪は、前記ハウジングに当接することで支持され、
前記軸受の内輪は、留め具により前記ピニオンに固定される、
ことを特徴とする請求項10に記載のラックアンドピニオン機構。
【請求項12】
前記ピニオンと前記延長シャフトとを締結するボルトは、前記ハウジングの上端より上方の位置において前記ピニオンと前記延長シャフトとを締結することを特徴とする請求項10に記載のラックアンドピニオン機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックアンドピニオン機構に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ピニオンシャフトの一部とラックシャフトとを収容するハウジングに対して、ハウジングの開口部から突出したピニオンシャフトの一部を覆うホールカバーが、隙間嵌めによって嵌合されているステアリング装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のステアリング装置では、ハウジングに対してホールカバーが隙間嵌めによって嵌合されているため、車両走行時に加わる外力によってホールカバーが倒れてピニオンシャフトと干渉する虞がある。
本発明は、ラックアンドピニオン機構において、ハウジングに対して嵌合されたホールカバーが外力によって倒れるのを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によるラックアンドピニオン機構は、ハウジングと、ハウジングに往復移動可能に支持され、外周の少なくとも一部にラック歯を有するラック軸と、ハウジングに回転可能に支持され、ラック歯に噛み合うピニオン歯を有するピニオン軸と、ハウジングに外嵌されてピニオン軸の一部を覆うホールカバーと、ハウジングの外周面とホールカバーの内周面との間に挟持される環状のOリング又は異形リングであるシール部材と、を備える。ホールカバーは、円筒状の雌嵌合部を有し、ハウジングは、ピニオン軸が挿入されるとともに雌嵌合部に圧入嵌めされる円筒状の雄嵌合部を有する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ラックアンドピニオン機構において、ハウジングに対して嵌合されたホールカバーが外力によって倒れるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態のラックピニオン式パワーステアリング装置の一例の全体斜視図である。
【
図2】
図1のステアリングギヤのラックとピニオンとの噛み合い部を示す縦断面図である。
【
図4】変形例における
図2のA部分の拡大縦断面図である。
【
図5】変形例における雌嵌合部の径方向断面図である。
【
図6】変形例におけるハウジングの部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
(構成)
図1は、実施形態のコラム式パワーステアリング装置の一例の全体斜視図である。
図1に示すように、コラム式パワーステアリング装置は、ステアリングホイール101の操作力を軽減するために、コラム105の中間部に取付けたモータ102の操舵補助力をステアリングシャフトに付与している。そして、ステアリングシャフトの回転は、中間シャフト106に伝達し、ピニオン軸107を介してラックピニオン式のステアリングギヤ103のラック軸を往復移動させ、タイロッド104を介して舵輪を操舵する。
【0010】
図2は、
図1のステアリングギヤのラックとピニオンとの噛み合い部を示す縦断面図である。
図3は、
図2のA部分の拡大縦断面図である。
実施形態のステアリングギヤ103は、フロントサブフレーム等の図示しない車体フレームに取り付けられている。ステアリングギヤ103のハウジング10には、
図2の紙面に直交する車幅方向に摺動可能にラック軸11が内嵌している。ラック軸11の車幅方向の両端には図示しないボールジョイントソケットが各々ねじ込まれて取り付けられ、ボールジョイントソケットに連結されたタイロッド104、104が、図示しないナックルアームを介して車輪に接続されている。
【0011】
ピニオン軸107は、ラック軸の外周の少なくとも一部に設けられたラック歯に噛み合うピニオン歯が形成されたピニオン12と、ボルト15によってピニオン12にボルト締結された延長シャフト14を備える。
以下の説明において、ピニオン軸107が延びる延在方向(すなわちピニオン軸107の軸心方向)を「軸方向」と表記し、軸方向に直交する方向を「径方向」と表記し、ピニオン軸107の回転方向(すなわちピニオン軸107回りの円周方向)を「周方向」と表記することがある。
また、車両に搭載された状態においてピニオン軸107の下端となる位置から上端となる位置へ向かう方向を「上方向」と定義し、車両に搭載された状態においてピニオン軸107の上端となる位置から下端となる位置に向かう方向を「下方向」と定義する。
【0012】
ピニオン12は、ハウジング10の上端の開口部からハウジング10に挿入されて、ボール軸受16aによりハウジング10に軸支されている。すなわち、ピニオン12はハウジング10に回転可能に支持されている。ピニオン12と延長シャフト14とを締結するボルト15は、ハウジング10の上端10aより上方の位置においてピニオン12と延長シャフト14とを締結している。
ボール軸受16aの外輪は、ハウジング10に形成された円形孔に内嵌されてハウジング10に固定されている。また、ボール軸受16aの内輪は、ピニオン12の溝12aに装着してカシメられたカシメリング18と、ピニオン12の段差面12bとの間で挟み込まれることにより、ピニオン12に固定されている。カシメリング18は、特許請求の範囲に記載の「留め具」の一例である。
【0013】
また、ピニオン12の下部は、ニードル軸受16bによりハウジング10に径方向にのみ軸支されている。ピニオン軸107(延長シャフト14及びピニオン12)の回転はラック軸11のラック歯に伝達され、ラック軸11に連結された
図1のタイロッド104、104を介して、舵輪の向きを変更する。
【0014】
ハウジング10には、断面円形のガイド孔17aが
図2の左右方向に形成され、このガイド孔17aに円柱状のラックガイド17bが
図2の左右方向に摺動可能に内嵌している。ラックガイド17bには、ラック軸11の凸円弧状の外周面の曲率とほぼ同一曲率の凹円弧状面が形成され、この凹円弧状面がラック軸11の外周面に接触して、ラック軸11の外周にラックガイド17bを押し付けている。
【0015】
アジャストカバー17cを回転して螺合距離を適度に調整し、コイルバネ17dを介してラックガイド17bをラック軸11側に押しつけ、ラック軸11の外周にラックガイド17bを押し付けている。これにより、ピニオン軸107とラック軸11との噛み合い部のバックラッシュを無くし、ラック軸11が円滑に移動するようにしている。以上の構成により、ラック軸11はハウジング10に往復移動可能に支持される。
【0016】
ハウジング10には、ハウジング10の上端の開口部から突出したピニオン軸107の少なくとも一部を覆うホールカバー13が外嵌されている。ハウジング10の上部には、ホールカバー13と嵌合する円筒状の雄嵌合部10bが形成され、ピニオン軸107は雄嵌合部10bに挿入される。また、ハウジング10は、雄嵌合部10bより下方の位置に、雄嵌合部10bよりも大きな外径を有するフランジ状の着座部10cを有し、ホールカバー13と着座部10cとが当接することにより、ハウジング10に対するホールカバー13の軸方向の相対位置が位置決めされる。
【0017】
ホールカバー13は、例えばナイロンやPOM等の耐油性の良い合成樹脂に、ガラス、カーボン等の補強用フィラーを混入した材料で形成されている。ホールカバー13はピニオン軸107の上部の周囲を覆って上方に延び、ホールカバー13の上端に固定されたゴム製のガスケット(図示せず)がトーボード(車体)に当接して、ホールカバー13が上方へ移動することを規制している。ホールカバー13は、ハウジング10とピニオン軸107との間の隙間に異物が侵入することを防止している。
【0018】
ホールカバー13は、ハウジング10の雄嵌合部10bと嵌合する円筒状の雌嵌合部13aと、円錐絞り部13bと、雌嵌合部13aよりも径の大きい大径部13dと、裾部13eを有する。ホールカバー13の雌嵌合部13aは、ハウジング10の雄嵌合部10bと圧入嵌めによって嵌合される。これにより、ホールカバー13の雌嵌合部13aとハウジング10の雄嵌合部10bとが固定されるので、例えば路面からの外力を受けてハウジング10とホールカバー13とが相対変位しても、ホールカバー13がハウジング10から外れて倒れるのを抑制できる。
また、圧入嵌めによってホールカバー13をハウジング10に固定することにより、外力によりハウジング10とホールカバー13との相対変位を抑制できるため、ホールカバー13とハウジング10との間のシール性(密封性)の低下を抑制できる。
裾部13eは、横方向の外力を受けた場合に径方向にハウジング10と当接することでホールカバー13の倒れを抑制する。大径部13dの機能については後述する。
【0019】
着座部10cは、ハウジング10の上部の上面がホールカバー13の下部の下面と径方向に重複して当接する重複箇所21を有する。着座部10cの外径を長くして重複箇所21の面積を広くすることにより、重複箇所21でハウジング10と当接するホールカバー13の部位の単位面積当たりに加わる荷重が小さくなるため、強度が低い安価な材料でもホールカバー13に用いることができる。
【0020】
ハウジング10の外周面とホールカバー13の内周面との間には、ハウジング10の外周面とホールカバー13の内周面との間を密封するための環状のシール部材20が挟持される。
例えばシール部材20は、断面形状が円形又は楕円形であるOリングであってよい。また例えばシール部材20は、断面形状が台形や、矩形、多角形等である異形リングであってもよい。シール部材20は、径方向に圧縮されることによって径方向の緊迫力(圧縮反力)を発生させる径方向シールである。シール部材20の材料は、例えばゴムや樹脂などの軟質材の弾性体であってよい。
【0021】
図3を参照する。シール部材20は、ハウジング10の雄嵌合部10bと着座部10cとの間のシール配置部10eの外周上に圧入される。例えば、シール配置部10eの外周面上に外周溝10gを形成し、外周溝10gにシール部材20を配置してよい。
シール配置部10eにおけるハウジング10の外径は、雄嵌合部10bにおける外径よりも大きく、着座部10cにおける外径よりも小さくてよい。雄嵌合部10bにおけるハウジング10の外径が、シール配置部10eにおける外径よりも小さいことにより、シール部材20をシール配置部10eに圧入する際の雄嵌合部10bでのシール部材20の引っかかりを抑制できる。雄嵌合部10bでのシール部材20の引っかかりを抑制するために、雄嵌合部10bの上端部の外周面にテーパ10fを形成してもよい。
【0022】
また例えば、シール部材20を、ハウジング10の着座部10cの端面に当接するように配置して、ハウジング10に対するシール部材20の軸方向の相対位置を位置決めしてよい。
また例えば、シール部材20をシール配置部10eに配置した状態において(例えばシール部材20が外周溝10g内に配置された状態や、シール部材20が着座部10cの端面に当接した状態において)、シール部材20の上方に、ハウジング10の外周面とホールカバー13の内周面との間に隙間22を形成してもよい。
【0023】
シール部材20の上方に隙間22を設けることにより、シール部材が径方向に圧縮された場合においても軸方向に伸長できるため、シール20およびホールカバー13に発生する応力を低減できる。
なお大径部13dは、外力により撓んだときに後述のシール20が破断しない程度に、隙間22の範囲でほどよく撓むように形成されている。
【0024】
(変形例)
(1)
図4は、第1変形例における
図2のA部分の拡大縦断面図である。ハウジング10の外周面とホールカバー13の内周面との間を密封するための環状の第2シール部材23を、雄嵌合部10bと雌嵌合部13aとの間に挟持してよい。例えば、ハウジング10の雄嵌合部10bの外周面上に第2の外周溝10hを形成し、第2の外周溝10hに環状の第2シール部材23を配置してよい。シール部材20は、断面形状が円形又は楕円形であるOリングや、断面形状が台形や、矩形、多角形等である異形リングなどの径方向シールであってよい。第2シール部材23の材料は、例えばゴムや樹脂などの軟質材の弾性体であってよい。
【0025】
これにより雄嵌合部10bと雌嵌合部13aとを隙間嵌めで固定できる。また、第2シール部材23によりハウジング10に緊迫力を作用させることにより、路面からの外力を受けてハウジング10とホールカバー13とが相対変位しても、ホールカバー13がハウジング10から外れて倒れるのを抑制できる。また、ハウジング10の雄嵌合部10bとホールカバー13の雌嵌合部13aとを圧入嵌めする場合と比べて、ホールカバー13にハウジング10を挿入する際の負荷を低減できるので、組み付け性を向上できる。
【0026】
(2)
図5は、第2変形例における雌嵌合部13aの径方向断面図である。ホールカバー13の雌嵌合部13aの内周面に、軸方向に延在する複数の凸条13cを形成してよい。ホールカバー13の雌嵌合部13aにハウジング10の雄嵌合部10bを圧入してホールカバー13をハウジング10に外嵌する際に、凸条13cが変形することにより雌嵌合部13aと雄嵌合部10bとが圧入嵌めされる。
これにより、ホールカバー13の雌嵌合部13aの内周面のうち、凸条13c以外の部分に抜き勾配を設けることができる。これにより、樹脂インジェクションによりホールカバー13を形成する際の成型性を向上できる。
【0027】
(3)
図6は、第3変形例におけるハウジング10の部分縦断面図である。ハウジング10の雄嵌合部10bの外周面に周方向に延在する凸条10iを形成してよい。ホールカバー13の雌嵌合部13aにハウジング10の雄嵌合部10bを圧入してホールカバー13をハウジング10に外嵌する際に、凸条10iが変形することにより雌嵌合部13aと雄嵌合部10bとが圧入嵌めされる。
これにより、ホールカバー13の雌嵌合部13aの内周面に抜き勾配を設けることができる。これにより、樹脂インジェクションによりホールカバー13を形成する際の成型性を向上できる。
【0028】
(実施形態の効果)
(1)ラックアンドピニオン機構は、ハウジング10と、ハウジング10に往復移動可能に支持され、外周の少なくとも一部にラック歯を有するラック軸11と、ハウジング10に回転可能に支持され、ラック歯に噛み合うピニオン歯を有するピニオン軸107と、ハウジング10に外嵌されてピニオン軸107の一部を覆うホールカバー13と、ハウジング10の外周面とホールカバー13の内周面との間に挟持される環状のOリング又は異形リングであるシール部材20と、を備える。
【0029】
ホールカバー13は、円筒状の雌嵌合部13aと、円錐絞り部13bとを有し、ハウジング10は、ピニオン軸107が挿入されるとともに雌嵌合部13aに圧入嵌めされる円筒状の雄嵌合部10bを有し、シール部材20の上方には、ハウジング10の外周面とホールカバー13の内周面との間の隙間22が形成される。
これにより、ホールカバー13の雌嵌合部13aとハウジング10の雄嵌合部10bとが固定されるので、例えば路面からの外力を受けてハウジング10とホールカバー13が相対変位しても、ホールカバー13がハウジング10から外れて倒れるのを抑制できる。
【0030】
また、圧入嵌めによってホールカバー13をハウジング10に固定することにより、外力によりハウジング10とホールカバー13との相対変位を抑制でき、仮に外力によりハウジング10とホールカバー13とが相対変位しても、外力によってシール部材20が偏るのを抑制できる。この結果、ホールカバー13とハウジング10との間のシール性(密封性、防水性)を向上できる。
また、シール部材20の上方に隙間22を設けることにより、シール部材が径方向に圧縮された場合においても軸方向に伸長できるため、シール20およびホールカバー13に発生する応力を低減できる。
【0031】
(2)ハウジング10には、シール部材20を配置するシール配置部10eが雄嵌合部10bよりも下方に形成されもよい。シール部材20は、シール配置部10eの外周面上に形成された外周溝10gに配置されてもよい。
これにより、ハウジング10に対するシール部材20の軸方向の相対位置を位置決めすることができる。
【0032】
(3)シール部材20の表面に上方に形成された、ハウジング10の外周面とホールカバー13の内周面との間の上記の隙間22にグリースが塗布又は充填されていてもよい。
これにより、ハウジング10とホールカバー13との組付け力を低減できる。
【0033】
(4)ホールカバー13の雌嵌合部13aの内周面に軸方向に延在する複数の凸条13cが形成されてもよい。ホールカバー13をハウジング10に外嵌するときに複数の凸条13cが変形することにより雌嵌合部13aと雄嵌合部10bとを圧入嵌めしてもよい。
これにより、ホールカバー13の雌嵌合部13aの内周面のうち、凸条13c以外の部分に抜き勾配を設けることができる。これにより、樹脂インジェクションによりホールカバー13を形成する際の成型性を向上できる。
【0034】
(5)ハウジング10の雄嵌合部10bの外周面に周方向に延在する凸条10iが形成されてもよい。ホールカバー13をハウジング10に外嵌するときに凸条10iが変形することにより雌嵌合部13aと雄嵌合部10bとを圧入嵌めしてもよい。
これにより、ホールカバー13の雌嵌合部13aの内周面に抜き勾配を設けることができる。これにより、樹脂インジェクションによりホールカバー13を形成する際の成型性を向上できる。
【0035】
(6)雄嵌合部10bにおけるハウジング10の外径は、ハウジング10にシール部材20が配置されるシール配置部10eにおけるハウジング10の外径よりも小さくてもよい。
これにより、シール部材20をシール配置部10eに圧入する際の雄嵌合部10bでのシール部材20の引っかかりを抑制できる。
【0036】
(7)雄嵌合部10bの上端部の外周面にテーパ10fを形成してもよい。
これにより、シール部材20をシール配置部10eに圧入する際の雄嵌合部10bでのシール部材20の引っかかりを抑制できる。
【0037】
(8)ピニオン軸107は、ピニオン歯が形成されたピニオン12と、ピニオン12にボルト締結された延長シャフト14と、を備え、ピニオン12は、ボール軸受16aにより回転支持されていてもよい。
このように、ピニオン歯が形成されたピニオン12に延長シャフト14を連結してピニオン軸107を構成することで、ラックアンドピニオン機構の組み立てが容易になる。
【0038】
(9)ボール軸受16aはハウジング10に当接することで外輪を支持され、且つカシメリング18により内輪をピニオン12に固定されていてもよい。
これにより、ピニオン軸107を回転可能にハウジング10に支持できる。
【0039】
(10)ピニオン12と延長シャフト14とを締結するボルト15は、ハウジング10の上端10aより上方の位置でピニオン12と延長シャフト14とを締結してもよい。
これにより、ピニオン12へ延長シャフト14をボルト締結する際の作業スペースを確保できる。
【符号の説明】
【0040】
10…ハウジング、10a…上端、10b…雄嵌合部、10c…着座部、10e…シール配置部、10f…テーパ、10g…外周溝、10h…第2の外周溝、10i、13c…凸条、11…ラック軸、12…ピニオン、12a…溝、12b…段差面、13…ホールカバー、13a…雌嵌合部、13b…円錐絞り部、13d…大径部、13e…裾部、14…延長シャフト、15…ボルト、16a…ボール軸受、16b…ニードル軸受、17a…ガイド孔、17b…ラックガイド、17c…アジャストカバー、17d…コイルバネ、18…カシメリング、20…シール部材、21…重複箇所、22…隙間、23…第2シール部材、101…ステアリングホイール、102…モータ、103…ステアリングギヤ、104…タイロッド、105…コラム、106…中間シャフト、107…ピニオン軸