(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128742
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】熱延鋼板の連続酸洗設備および連続酸洗方法
(51)【国際特許分類】
B21B 45/06 20060101AFI20240913BHJP
B24C 1/00 20060101ALI20240913BHJP
B24C 3/32 20060101ALI20240913BHJP
B24C 11/00 20060101ALI20240913BHJP
C23G 3/02 20060101ALI20240913BHJP
C23G 1/04 20060101ALI20240913BHJP
C23G 1/08 20060101ALI20240913BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240913BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B21B45/06 S
B24C1/00 C
B24C3/32 Z
B24C11/00 G
B21B45/06 R
C23G3/02
C23G1/04
C23G1/08
C22C38/00 301W
C22C38/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037913
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】久保田 典禎
(72)【発明者】
【氏名】多根井 寛志
(72)【発明者】
【氏名】平田 崇
(72)【発明者】
【氏名】松原 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和希
【テーマコード(参考)】
4K053
【Fターム(参考)】
4K053PA02
4K053PA12
4K053RA19
4K053SA13
4K053TA02
4K053TA16
4K053TA20
4K053YA02
4K053YA03
4K053YA30
(57)【要約】
【課題】酸洗負荷を低減することができ、且つ内部酸化層を除去できる、デスケーリング方法を提供すること。
【解決手段】熱延鋼板のスケールを酸で溶解して除去する酸洗処理と、研磨材を投射して残存するスケールを除去するブラスト処理と、を順に行うことを特徴とする熱延鋼板の連続酸洗装置および方法。前記ブラスト処理が、研磨材としてグリットを用い、前記研磨材と水とをスラリー状でブラストするウェットブラスト方式であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱延鋼板のスケールを酸で溶解して除去する酸洗処理を行う酸洗設備と研磨材を投射して残存するスケールを除去するブラスト処理を行うブラスト装置とが順に配置される熱延鋼板の連続酸洗設備。
【請求項2】
熱延鋼板のスケールを酸で溶解して除去する酸洗処理と、研磨材を投射して残存するスケールを除去するブラスト処理と、を順に行うことを特徴とする熱延鋼板の連続酸洗方法。
【請求項3】
前記ブラスト処理が、研磨材としてグリットを用い、前記研磨材と水とをスラリー状でブラストするウェットブラスト方式であることを特徴とする請求項2に記載の熱延鋼板の連続酸洗方法。
【請求項4】
前記熱延鋼板が、Si、Mn、Alを合計で1.0~6.0質量%含有する鋼材を熱間圧延し、600°C以上でコイル状に巻き取った熱延鋼板であることを特徴とする請求項2又は3に記載の熱延鋼板の連続酸洗方法。
【請求項5】
前記酸洗処理が、前記熱延鋼板の内部酸化層のボイドを内部酸化層の断面面積率で1.0面積%以上100面積%未満の範囲で、前記熱延鋼板の内部酸化層を除去することを特徴とする請求項2又は3に記載の熱延鋼板の連続酸洗方法。
【請求項6】
前記ブラスト処理において、研磨材粒径が30~800μm、投射速度が5m/sec以上、投射量が1×10-3m3/m2以上であることを特徴とする請求項2又は3に記載の熱延鋼板の連続酸洗方法。
【請求項7】
前記ブラスト処理がウェットブラスト方式である場合、研磨材/水比が5~50vol%であることを特徴とする請求項2又は3に記載の熱延鋼板の連続酸洗方法。
【請求項8】
前記酸洗処理において、酸洗溶液が塩酸濃度1~20質量%、インヒビターを0.01~0.10質量%含有し、酸洗条件を40~90°C、浸漬時間5~80秒とすることを特徴とする請求項2又は3に記載の熱延鋼板の連続酸洗方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼板の連続酸洗設備および連続酸洗方法、特に熱延鋼板の内部酸化層を除去する連続酸洗装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用鋼板において、燃費向上と衝突安全性の両立や、複雑な形状の製品を製造するために、高強度かつ高延性な鋼材の適用が拡大している。高強度と高延性を両立するために、SiやMnの量を更に増加させた鋼板が開発されている。しかし、そのようなSiやMnを比較的多く含む鋼板において、以下の問題が存在する。まず、このSi、Mn含有鋼板は、冷延性または冷間加工性を確保するために高温で巻き取る必要があるが、熱延巻取り時に内部酸化層が発生し、酸洗負荷が増大するという問題がある。万一、酸洗後、内部酸化層が残留すると、冷延、連続焼鈍時に剥離し、表面疵につながるだけでなく、化成処理性の劣化などの問題にもつながる。そのため、冷延前に内部酸化層を除去することが必要となるが、酸洗による内部酸化層の除去には内部酸化のない鋼種に比較し、長時間の酸洗が必要となり、生産性が悪いという問題が存在する。
なお、内部酸化層は熱延プロセスにおいて鋼板をコイル状に巻き取った後、比較的高温に長時間さらされるため、熱延工程で生成した鋼板表面上の酸化物(スケール)を酸素源として、鋼板母材自体に含まれるFeより酸化しやすいSiやMnが母材内部で酸化することによって生成する。
【0003】
特許文献1は、内部酸化層(粒界酸化層)を短時間で除去できる酸洗方法を提供することを課題としている。具体的には、酸洗によって内部酸化層の少なくとも30質量%以上を除去した後に、高圧水スプレーまたは研削ブラシによって、残りの内部酸化層を除去することを提案している。
【0004】
非特許文献1は、酸洗処理の代わりにウェットブラストデスケーリングすることを提案している。具体的には、グリットと水を組み合わせたスラリーを鋼板表面へ吹き付けて、鋼板表面のスケールを除去している。また、非特許文献1の方法は、従来の酸洗処理と同等またはそれ以下のコストとなること、高張力鋼であってもデスケーリング性の低下は少ないことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】TMW社ホームページ(http://www.epsprocess.com)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のとおり、SiやMnを比較的多く含む鋼板において、内部酸化層が発生するが、この内部酸化層を除去するために、酸洗負荷が増大し、生産性が低下するという問題がある。
【0008】
特許文献1は、酸洗と、高圧水スプレーまたは研削ブラシとを組み合わせて、内部酸化層を除去することにより、酸洗負荷を低減することを提案する。しかし、実際のところ、高圧水スプレーでは研削能力が低く、内部酸化層を除去し切れない。また、研削ブラシではブラシが偏摩耗することにより、鋼板の幅方向に均一且つ持続的に内部酸化層を除去することは困難である。
【0009】
非特許文献1は、酸洗処理の代わりにウェットブラストデスケーリングすることを提案している。しかし、非特許文献1の方法では、スケールを除去することは可能であったが、内部酸化層はほとんど除去することができない。
【0010】
上記に鑑みて、本発明では、酸洗負荷を低減することができ、且つ内部酸化層を除去できる、連続酸洗設備および連続酸洗方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明により以下の手段が提供される。
[1]
熱延鋼板のスケールを酸で溶解して除去する酸洗処理を行う酸洗設備と研磨材を投射して残存するスケールを除去するブラスト処理を行うブラスト装置とが順に配置される熱延鋼板の連続酸洗設備。
[2]
熱延鋼板のスケールを酸で溶解して除去する酸洗処理と、研磨材を投射して残存するスケールを除去するブラスト処理と、を順に行うことを特徴とする熱延鋼板の連続酸洗方法。
[3]
前記ブラスト処理が、研磨材としてグリットを用い、前記研磨材と水とをスラリー状でブラストするウェットブラスト方式であることを特徴とする[2]に記載の熱延鋼板の連続酸洗方法。
[4]
前記熱延鋼板が、Si、Mn、Alを合計で1.0~6.0質量%含有する鋼材を熱間圧延し、600°C以上でコイル状に巻き取った熱延鋼板であることを特徴とする[2]又は[3]に記載の熱延鋼板の連続酸洗方法。
[5]
前記酸洗処理が、前記熱延鋼板の内部酸化層のボイドを内部酸化層の断面面積率で1.0面積%以上100面積%未満の範囲で、前記熱延鋼板の内部酸化層を除去することを特徴とする[2]~[4]のいずれか1項に記載の熱延鋼板の連続酸洗方法。
[6]
前記ブラスト処理において、研磨材粒径が30~800μm、投射速度が5m/sec以上、投射量が1×10-3m3/m2以上であることを特徴とする[2]~[5]のいずれか1項に記載の熱延鋼板の連続酸洗方法。
[7]
前記ブラスト処理がウェットブラスト方式である場合、研磨材/水比が5~50vol%であることを特徴とする[2]~[6]のいずれか1項に記載の熱延鋼板の連続酸洗方法。
[8]
前記酸洗処理において、酸洗溶液が塩酸濃度1~20質量%、インヒビターを0.01~0.10質量%含有し、酸洗条件を40~90°C、浸漬時間5~80秒とすることを特徴とする[2]~[7]のいずれか1項に記載の熱延鋼板の連続酸洗方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸洗負荷を低減することができ、且つ内部酸化層を除去できる、デスケーリング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の熱延鋼板の連続酸洗設備の構成の一例である。
【
図2】
図2は、内部酸化層を有する熱延板の表面付近の断面観察写真の一例である。
【
図3】
図3は、ボイド面積率とスケール除去に必要なブラスト投射量の関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明により、熱延鋼板のスケールを酸で溶解して除去する酸洗処理を行う酸洗設備と研磨材を投射して残存するスケールを除去するブラスト処理を行うブラスト装置とが順に配置される熱延鋼板の連続酸洗設備、及び、熱延鋼板のスケールを酸で溶解して除去する酸洗処理と、研磨材を投射して残存するスケールを除去するブラスト処理と、を順に行うことを特徴とする熱延鋼板の連続酸洗方法が提供される。
【0015】
<本発明で扱う熱延鋼板>
(鋼材成分)
本発明で扱う熱延鋼板は、Si、Mn、Alを合計で1.0~6.0質量%含有するものであってよい。本発明の作用効果に影響を及ぼさない限り、目的、用途に応じてC等のような任意添加元素が含まれてもよい。残部の主たる元素としてFeを含む。残部として不純物を含んでもよい。不純物とは、本発明の作用効果に影響を及ぼさない成分を意味する。不可避的不純物に関して、Pは0.20質量%以下、Sは0.020質量%以下、Nは0.010質量%以下に抑制することが好ましい。
【0016】
Siは鋼の強度上昇に寄与する元素であり、また脱酸元素として有効である。しかし、過剰に含有すると強度が上昇しすぎて加工性が低下したり、Znめっきをする場合不めっきが生じたり、また合金化遅延の要因となる。強度を増加させる目的でSiを添加する場合、おおよそ0.1質量%以上5.0質量%以下を添加すればよい。
【0017】
Mnは、固溶強化及び焼入れ強化により強度および靱性の向上に寄与する元素であり、必要に応じて添加する。しかし、過剰に含有すると強度が上昇しすぎて加工性が低下し、また、不めっきの要因となる。さらに、スラブに割れが生じ易くなったり、スポット溶接性が劣化する。Mnを添加する場合、おおよそ0.30質量%以上2.70質量%以下を添加すればよい。
【0018】
Alは、脱酸元素として有効であり、結晶粒を微細にする効果を有する。しかし、過剰に含有すると粗大な介在物が生成し、加工性が低下する。Alを添加する場合、おおよそ0.01質量%以上3.00質量%以下を添加すればよい。
【0019】
Si、Mn、Alは上記のとおり、鋼の性質に影響を与える重要な成分であるが、それぞれの平衡酸素分圧が、Feの平衡酸素分圧よりも低いという性質も有する。つまり、Si、Mn、Alは、Feと比べて、より低い酸素分圧で酸化反応を生じる。鋼材内部がそのような酸素分圧である場合、Feは酸化しないが、Si、Mn、Alが酸化する状態、すなわち内部酸化を生じやすい。
【0020】
Si、Mn、Alは上記のとおり、鋼に要求される材質に合わせ、SiまたはMn、Alのうち1種または2種以上を含有する必要がある。一方でその合計が1.0質量%未満の場合は、所望の鋼の強度や靱性等の性質を得ることが難しい。また、1.0質量%未満であれば、内部酸化が生じる可能性も低い。Si、Mn、Alの合計量は6.0質量%以下である。これを超えると、上述したような、加工性の低下、めっき性の低下等の問題を生じやすくなる。
【0021】
Cは、鋼板の強度向上元素であり、且つ、残留オーステナイトを確保して加工性を改善するのに有効な元素であり、任意で添加されてもよい。強度向上のために添加する場合にはC量は好ましくは0.08質量%以上、より好ましくは0.11質量%以上である。C量は、鋼板の強度確保を考慮すると多い方がよいが、C量が過剰になると耐食性、スポット溶接性、加工性が劣化することを考慮すると、C量は好ましくは0.25質量%以下、より好ましくは0.20質量%以下である。一方、磁気特性を向上させる場合はCを極力低減させることが望ましく、この場合0.004質量%以下としてもよい。
【0022】
Si、AlおよびMnは、スケールにおいて共晶化合物を生成するなどして、スケールの性状にも影響を与える。より具体的には、鋼板が熱間圧延等のために加熱されると、大気雰囲気に晒された鋼板の表面近傍のFeが外方酸化されFe主体のスケールが形成される。そこ(Feスケールに変化した鋼)に含まれていたSi、AlおよびMn等の添加元素は、主にFe主体のスケール/鋼界面に濃化する。濃化したSiはスケール/鋼界面にファイアライト(Fe2SiO4)を生じて、Fe主体のスケールと鋼板との密着性を高くする。Al、Mnの元素も、Siと同様にスケールと地金の密着性を高め、デスケーリングを難しくする。しかし、本願発明によれば、酸洗によりスケールは溶解除去され、万一酸洗で一部のスケールが残存したとしても、ブラストによるデスケーリングにより、鋼材のスケールを着実に除去することが可能である。
【0023】
(熱延方法)
本発明で扱う熱延鋼板は、600°C以上でコイル状に巻き取ったものであってもよい。
巻取り温度を600°Cの未満とした場合、巻取り後の鋼板強度が高くなりすぎ、冷延性が低下しやすい。そのため、巻取り温度を600°C以上としてもよい。なお、内部酸化は熱延プロセスにおいて鋼板をコイル状に巻き取った後、比較的高温(600℃以上)に長時間さらされるため、熱延工程で生成した鋼板表面上の酸化物(スケール)を酸素源として、鋼板母材自体に含まれるFeより酸化しやすいSiやMnが母材内部で酸化することによって生成する。つまり、巻取り温度が600°C未満であれば、内部酸化が生成しにくい。
【0024】
<連続酸洗設備>
本発明の熱延鋼板の連続酸洗設備の一例の構成を
図1に示す。本発明の熱延鋼板の連続酸洗設備は、順に、アンコイラー、ルーパー(入側)、テンションレベラー、酸洗設備、ブラスト設備、ルーパー(出側)およびコイラーで構成されてもよい。テンションレベラーに代えてスキンパスミルを設けてもよい。酸洗設備の後に通常の酸の洗浄設備であるリンス槽や乾燥設備を設けてもよい。同様にブラスト設備の後にも洗浄設備を設けてもよく、さらに鋼板表面を乾燥させるためのエアブロー等の乾燥設備を設けてもよい.また、デスケーリングした鋼帯はコイラーで巻き取らず、冷延を行ってもよい。
ここに、熱延鋼板のスケールを酸で溶解して除去する酸洗処理を行う酸洗設備と研磨材を投射して残存するスケールを除去するブラスト処理を行うブラスト装置とが順に配置されることを特徴とする。これによって、内部酸化層を効率的に除去できる効果が得られる。
さらに、ブラスト設備は、研磨材と水とをスラリー状でブラストするウェットブラスト方式であるのが好ましい。これによって、研削力の高いグリットを用いる場合でも、研磨材の押し込みが少なく、鋼板表面の研磨材の残留が少なくなる。また、ウェットブラスト方式では、酸洗後の鋼板の乾燥が不必要なため、酸洗設備とウェットブラスト設備の間に乾燥設備が不要となる。さらに、ウェットブラストは粉塵が発生せず、粉塵爆発の危険性もなく、粉塵対策が不要である点で好ましい。
【0025】
<連続酸洗方法>
(酸洗処理)
本発明では、熱延鋼板のデスケーリングにおいて、先に酸洗処理を行った後、ブラスト処理を行う。このとき、酸洗処理は内部酸化層のボイドが断面面積率で内部酸化層の1.0面積%以上100面積%未満となる条件で酸洗をすることが好ましい。
上述のとおり、内部酸化層は母材金属(Fe)中にSiやMnやAlの酸化物が分散した形態をとる。これらの酸化物の方が母材である金属より溶解が早いため、内部酸化層中の酸化物が優先的に溶解する。内部酸化層中の酸化物は酸洗により溶解除去されるが、金属部は残留するため、短時間の酸洗では内部酸化層は除去し切れないものの、内部酸化層中にボイドが形成される。このようなボイドを含む組織は、ブラストで研削されやすい組織となる。その結果、その後のブラスト処理によって、内部酸化層を除去することができる。
【0026】
なお、酸洗をしない場合、すなわち、熱延巻取り後に生成した内部酸化層のままでは、ブラスト処理によって内部酸化層をほとんど除去できない。ブラスト処理によって、脆性材料であるスケールは容易に破壊し研削できるものの、母材金属のような延性材料では破壊が容易ではないため研削がほとんど進まない。内部酸化層は、母材金属中にSiやMnの酸化物が分散したものであり、内部酸化層のブラスト処理による研削性は母材と同等であるためである。したがって、酸洗を行わずに、ブラスト処理するだけでは内部酸化層を除去できない。
【0027】
ボイドの断面面積率の定義について説明する。ボイドの断面面積率とは、熱延鋼板の断面において、酸洗後のボイドの断面面積を酸洗前の内部酸化層の断面面積で除した割合[面積%]とする。酸洗前の内部酸化層の断面面積は以下の手順で測定する。内部酸化層を有する熱延板の表面付近の断面を光学顕微鏡で約1000倍の倍率で観察する。
図2に示すように母材に対しコントラストが濃い部分が内部酸化層と確認できる。観察画像において、内部酸化層上部(スケールと内部酸化層との界面)から内部酸化層下部(内部酸化層と母材との界面)までの範囲に含まれるピクセル数に基づいて、内部酸化層の断面面積を求める。少なくとも、3視野について測定を行い、平均値を採用する。酸洗後のボイドの断面面積は次の手順で測定する。酸洗を行い、表層付近の断面を上記と同様に観察する。母材金属より酸化物の方が塩酸への溶解速度が高いため、内部酸化層中の酸化物が優先的に溶け、内部酸化層中にボイドが発生している。酸洗前の内部酸化層の面積を求めたときと同様の手法および視野範囲でボイドの断面面積を測定する。
【0028】
本発明者らは、ブラストを行った後に酸洗をする方法ではなく、酸洗を行った後にブラストする方法であれば、内部酸化層を効果的に除去できることを見出した。さらに、ボイドの断面面積率が1.0面積%以上となる酸洗を行うことで、ブラストで内部酸化層を除去しやすくなることを見出した。従来の一般的な内部酸化層除去は、内部酸化層を全て酸洗のみによって除去するものであり、それはボイドの断面面積積を100面積%とすることを意味する。これに対して、本願発明によれば、酸洗処理を行った後にブラスト処理を行うことで効果的に内部酸化層を除去することができる。これは、酸洗負荷の大幅な低減、ひいては生産性の大幅な向上につながる。
【0029】
ただし、ボイドの断面面積率が1.0面積%未満であると、内部酸化層は十分に脆性化されておらず、ブラストによる内部酸化層の破壊が難しくなり、内部酸化層が除去できない可能性が高くなる。そのため、本発明では、酸洗後のボイド断面面積率を1.0面積%以上としてもよい。ボイドの断面面積率は大きいほど、内部酸化層の脆性化が進み、ブラストによる内部酸化層の除去は容易になる。一方で、ボイドの断面面積率が100面積%ということは、酸洗後に内部酸化層が存在しないこと意味し、ブラストするメリットがなくなる。そのため、ボイドの断面面積率は100面積%未満とする。つまり、本発明の効果を享受するために、少なくとも酸洗後のボイドの断面面積率が100面積%未満となる酸洗時間にする。酸洗処理の負荷を低減する観点からは、酸洗時間が短くなるためボイドの断面面積率は低いほど好ましい。酸洗負荷と、ブラスト材のコスト等を比較考量して、酸洗条件を決定してもよい。また、ボイドの面積率が50面積%を超える酸洗時間の設定は難しく、また、酸洗時間が長くなるばかりでなく、酸洗後のブラスト処理で内部酸化層の除去のしやすさがあまり変わらなくなるため、ボイドの面積率が50面積%以下としてもよい。
【0030】
酸洗に用いる酸は、通常用いられる酸を用いればよく、例えば塩酸、硫酸、ふっ酸、硝酸などから適宜選択すればよい。また、鋼板母材の溶解を抑制する公知のインヒビター(酸洗抑制剤)を使用してもよい。さらに酸化物の溶解速度を向上させるために公知の酸洗促進剤を使用してもよい。経済性や作業性の観点より、塩酸濃度1~20質量%、インヒビターを0.01~0.10質量%含有する酸洗溶液を用いてもよい。酸洗溶液は40~90°Cで用いてもよく、酸洗溶液へ熱延鋼板を浸漬する時間は5~80秒としてもよい。
【0031】
(ブラスト処理)
本発明では、熱延鋼板のデスケーリングにおいて、先に酸洗処理を行った後、ブラスト処理を行う。酸洗処理によってボイドが形成された内部酸化層は、十分に脆性化されており、上記のブラストにより着実に除去される。
【0032】
ブラストに用いる研磨材の粒径は30μm~800μmが好ましい。より好ましくは150μm~400μmである。ここで粒径とは平均粒径を示す。本発明における平均粒径はMie散乱理論に基づくレーザ回折散乱法(JIS Z8825)によって測定したものとする。レーザ回折散乱式粒度分布測定装置として、例えば堀場製作所製LA-960が挙げられる。粒径が30μm未満となると、スケールの除去に必要な衝突エネルギーが小さくなりすぎ、デスケーリング性が悪化することがある。一方で、粒径が大きくなりすぎると同じ投射量中で研磨材の粒子数が少なくなり、デスケーリング性が悪化することがある。実効性の観点より30μm~800μmであり、経済性の観点より好ましくは150μm~400μmである。研磨材の材質の一つに密度が挙げられるが、本発明の研磨材に関して、密度より粒径のほうが重要である。例えば粒径が2倍大きくなると1粒子あたりの質量は8倍となるのに対し、研磨材の密度が2倍となっても、1粒子あたりの質量は2倍である。つまり、研磨材の密度が変化することより、粒径が変化するほうが、1粒子あたりの質量の影響が大きいためである。
【0033】
研磨材は上記粒径の範囲内で、一般的に使用される研磨材を用いればよく、例えば、市場での流通量の多い、JIS Z0311やJIS G5903に規定される鉄系の研磨材やJIS Z0312に規定されるアルミナグリット、等を使用すればよい。
【0034】
投射速度は大きいほど、より大きな研削効果、つまりデスケーリング速度が得られる。なお、投射速度は研磨材が被加工物に衝突する際の速度である。スケールを着実に除去するためには投射速度は5m/sec以上とすることが好ましい。5m/sec未満ではスケールが除去できなくなる場合がある。投射速度の上限は特に限定しないが、投射速度を高めるためには設備能力を大きくする必要があり経済性が悪くなる。そのため、投射速度の上限を150m/secとしてもよい。衝突時の投射速度を調整するために、ブラスト距離(ブラスト装置のノズル先端から被ブラスト面までの距離)を調整してもよい。一般に、ブラスト距離は100~300mm程度が妥当とされており、その範囲で適宜調整してもよい。
投射速度は、研磨材が被加工物に衝突する位置での実際の研磨材の移動速度とする。測定方法としては、例えば、高速度カメラ(キーエンス社製VW-9000)を用い、研磨材が被加工物に衝突する位置において、ブラストにより投射される研磨材を所定の間隔(フレームレート、例えば35,000 fps)で撮影し、数フレーム間における研磨材粒子の移動距離を測定することで求められる。フレーム数(撮影時間)と研磨材粒子の移動距離の関係より、研磨材の移動速度が求まる。
【0035】
鋼板の単位面積当たり1×10-3m3/m2以上の投射量としてもよい。これより少ない投射量では研削量が少なくなり、内部酸化層が十分に除去できない可能性が高くなる。上限は特に制限はないが、経済性の観点より50×10-3m3/m2以下としてもよい。ここで投射量とはブラストにより投射された単位面積あたりの積算の研磨材の体積を示す。1×10-3m3/m2の投射量はかさ密度が7000kg/m3の研磨材の場合、研磨材の質量に換算すると7kg/m2(1×10-3[m3/m2]×7000[kg/m3]=7[kg/m2])となる。ここで、かさ密度とは正確にはJIS Z2504に規定される方法で測定された静かさ密度を示す。
【0036】
研磨材の形状は、一般的に、球状であるショット形状と、球状の粒を二つ以上に割ったもので三角錐、四角錐状の鋭角部と若干のR面をもつ形状を有するグリット形状に大別される。グリット形状の研磨材は研削能力が高く、内部酸化層の除去を迅速に行うことができる。球状であるショット形状の研磨材は、加工表面の凹凸を叩いて平滑化する効果が高い。本発明では、角ばったグリット形状の研磨材または球形のショット形状の研磨材のいずれでも適用可能であるが、グリットの方がショットに比べ、少ない投射量で内部酸化層の除去が完了するため、グリットを用いることが望ましい。また、前述の研磨材の残留の懸念から、研磨材にグリットを用いる場合、研磨材を水と共に投射するウェットブラスト技術を用いることが好ましい。グリット形状の研磨材とショット形状の研磨材を混合して用いてもよい。
【0037】
ブラストでは、投射角度を、水平方向を基準(0°)として、30°~90°としてもよい。ここで、投射角度とは、研磨材が被加工物(鋼板)に衝突するときの角度である。通常、鋼板はデスケーリング装置に水平に設置されるので、鋼板表面の方向が水平方向に対応している。そのため、水平方向を基準(0°)として、投射角度を設定してもよい。例えば、投射角度が90°とは、水平な鋼板に対して垂直にブラストすることを意味する。
ブラストでは、投射角度が30°より小さくなると内部酸化層の除去効率が急激に悪化し、内部酸化層が残留する可能性が高くなるため、30°以上で投射することが望ましい。投射角度が90°に近いほど、内部酸化層の除去効率は高まる。そのため、投射角度は30°以上90°以下の範囲が望ましい。さらに好ましくは45°以上90°以下であり、より好ましくは60°以上90°以下である。ブラストによるデスケーリング速度は60°~90°の範囲に最大値があるためである。
【0038】
ブラスト処理の方法は、研磨材を水と混合したスラリーを投射するウェット(湿式)ブラストと、研磨材のみを圧縮空気または遠心力により投射する乾式のブラストがある。本発明の方法は、ウェットブラストまたは乾式ブラストのいずれでも適用可能である。特に、ウェットブラストは粉塵が発生せず、粉塵爆発の危険性もなく、粉塵対策が不要である点で好ましい。また、研磨材に研削力の高いグリットを用いる場合、ウェットブラストの方が研磨材の母材表面への押し込みが少ない。そのため、ブラスト処理方法として、ウェットブラスト技術を用いることが望ましい。
【0039】
ウェットブラストでは、研磨材のスラリー中の濃度(体積割合)はスラリー中の水の体積を基準として、50vol%以下が望ましい。研磨材の濃度が50vol%を超えるとスラリーの流動性が低下し、スラリーが配管に詰る可能性が高くなるためである。スラリーの流動性の観点より、研磨材濃度は低いほうが望ましいが、一方で、研磨材濃度は高い方が、研磨材の投射量が増え、経済性や作業効率の観点では好ましく、下限を1vol%以上としてもよい。より望ましくは5vol%以上としてもよい。
【実施例0040】
本発明を、実施例を参照しながら、さらに具体的に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定して解釈されるものではない。
【0041】
表1に示す化学成分を有する鋼材を加熱炉にて1200°Cに加熱後、板厚2mmまで熱間圧延し、700°Cで巻取り、大気中で室温まで冷却した。鋼種A~Dは、内部酸化層を生成する鋼種である。鋼種EはSi+Mn+Alが1質量%未満であり、内部酸化層が生成していない鋼種である。各鋼板を30×40mmに切り出し、以下の試験に供した。
【0042】
【0043】
(酸洗処理条件)
塩酸(濃度9質量%)に0.04質量%のインヒビターを混合し、85°Cで40秒間酸洗した。
【0044】
(ブラスト条件)
ブラスト処理における研磨材の平均粒径は200μmの鋳鉄ショットまたはステンレスグリットを用い、乾式のブラストは新東工業社製ショットブラスト装置STN-1PEを、ウェットブラストはマコー株式会社製のウェットブラスト装置MSB-VI改を用いた。乾式のブラスト装置は、3.7kWのインペラー2台で研磨材を投射する方式であり2.7rpmで回転するターンテーブル上に鋼板を置いてブラスト処理を行った。この時の研磨材の投射速度はカタログ値で、58m/sであった。ウェットブラストは水に対して研磨材を15vol%混合させたスラリーを圧縮空気によって鋼板に投射する方式であり、圧縮空気の圧力は0.25MPa、ブラストノズルと鋼板の距離は100mmとした。このとき、ウェットブラストの研磨材の投射速度は、高速度カメラで観察し研磨材の移動平均速度を実測した結果、15m/sであった。
参考例として、研磨材を含まない、熱延工程で用いられる一般的な高圧水デスケーリングも実施した。高圧水デスケーリングはエバーロイ製DNH1525のデスケーリングチップを用い、水圧15MPa、チップと鋼板の距離は120mm、鋼板の移動速度120mpmで実施した。
【0045】
(ボイド面積率)、
酸洗後の内部酸化層のボイドの面積率を評価する目的で、酸洗前後の鋼板表面付近の断面を光学顕微鏡(OLYMPUS製DSX510)で総合倍率×1000倍で各試験片について3視野観察した。ボイドの断面面積率は、酸洗後のボイド断面面積を酸洗前の内部酸化層断面面積で除したものである。ボイド断面面積は、酸洗後の内部酸化層上部(試料の表面)から内部酸化層下部(内部酸化層と母材との界面)までの範囲に含まれるボイドのpixel数より求めた。酸洗前の内部酸化層の断面面積は、内部酸化層上部(スケールと内部酸化層との界面)から内部酸化層下部(内部酸化層と母材との界面)までのpixel数より求めた。
【0046】
(内部酸化層の除去の評価方法)
ブラストの投射量を、10、50、100、500×10-3m3/m2の4段階で行い、ブラスト後の内部酸化層の有無を、上記と同様に鋼板表面付近の断面を光学顕微鏡で観察することで評価した。そして、残存するスケールが観察されなくなる最小の投射量をスケール除去に必要なブラスト投射量とした。投射量500×10-3m3/m2でもなお残存が観察される場合は、>500(以下、投射量は×10-3m3/m2を省略する。)と表記した。
【0047】
(酸洗処理とブラスト処理の順序の効果)
試験結果(スケール除去に必要なブラスト投射量)を試験条件とともに表2に示す。
参考例は、従来の高圧水によるデスケーリングを行った例である。内部酸化層を有する鋼種Aではスケールの除去はできなかった。
比較例1は、乾式ショットのブラスト後に酸洗を行った場合である。投射量500においてもスケールの残存が認められた。これに対して、酸洗後に乾式ショットのブラストを行った発明例1では、投射量100でスケール残存が認められなくなった。以上より、本発明の酸洗を先に行う方法の方が、少ない投射量でスケールを除去できることが判る。
発明例2では、湿式のショットブラストの場合である。乾式の発明例1に比較してスケール除去に必要な投射量に差はなかった。
発明例3は、研磨材をグリットに代えて乾式でブラストした例である。投射量10においてすでにスケールの残存は認めらえなかった。ショットを用いた発明例1、2と比較して、スケール除去に必要な投射量が低減できることが判る。
発明例4は、グリットを用いて湿式でブラストした例である。乾式の発明例3と比較してスケール除去に必要な投射量に差はなかった。しかし、乾式の発明例3では鋼板表面に軽微な研磨材の残留が見られた一方、湿式の発明例4ではそれがなかった。
以上より、発明例4の、酸洗後にグリットを用いてウェットブラストする方法が最も好ましいことがわかる。
発明例5~8は、発明例4に対して、グリットを用いたウェットブラストにおいて、鋼種をAからB、C、DまたはEに変更した例である。いずれの鋼種においても発明例4と同等の投射量でデスケーリングできた。ただし、内部酸化層が生成しない鋼種Eにおいては、比較例2に示すように、従来法でも投射量50でデスケーリングできており、本発明の効果は内部酸化層が生成する鋼種A~Dに比較すると小さくなる。
【0048】
【0049】
(好適な酸洗処理時間について‐内部酸化層のボイド面積率)
本発明における好適な酸洗時間を検討することを目的として、鋼種Aを用い、前記の酸洗条件で酸洗時間を10~120秒に変更した酸洗処理を行った後、グリットを用いた湿式のブラスト処理を行い、酸洗後のボイド面積率とスケール除去に必要な投射量を調べた。
図3に酸洗後のボイド面積率とスケール除去に必要な投射量の関係を示す。ボイド面積率が1面積%までは、その増加とともに急激に投射量が減少するが、25面積%を超えると面積率増加にともう投射量の減少量は小さくなる。ボイド面積率と酸洗時間は同一鋼種であれば概ね比例するので、ボイド面積率を1~25面積%の範囲で酸洗してスケール除去し、以降をブラスト処理でスケール除去する方法が好ましい両者の組み合わせであることがわかる。なお、前記実施例における酸洗40秒の場合、ボイド面積率はいずれも約15面積%であった。
鋼種によってスケールの構造や量が異なるため、好ましい酸洗処理の時間は鋼種で異なる可能性がある。ここに、酸洗処理時間でなくボイド面積率を指標に用いることで、鋼種によらず汎用可能となる。