(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128746
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】自動車試験装置
(51)【国際特許分類】
G01M 17/007 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
G01M17/007 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037921
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】越後 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】平田 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】武田 雄資
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で応答性に優れた自動車試験装置を提供する。
【解決手段】試験装置100は、自動車の車軸2と、車軸2に対してトルクを与えるダイナモメータ3と、ダイナモメータ3と車軸2とを接続する伝達軸4と、伝達軸4よりも自動車側である車軸2の出力端に配置された非接触タイプの回転計5と、ダイナモメータ3側に設けられたトルク計6と回転計7と、を備える。制御部8は、ダイナモメータ3が伝達軸4に与える目標トルクと、トルク計6が計測した伝達トルクの差分をゼロに近づける制御量と、車軸2と伝達軸4の接続部分に設けられた回転計5が検出した回転速度、又は回転角度と、ダイナモメータ3の備える回転計7の回転速度、又は回転角度の差分をゼロに近づける制御量との加算値を用い、ダイナモメータ3を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車軸と、
前記車軸に対してトルクを与えるダイナモメータと、
前記ダイナモメータと前記車軸とを接続する伝達軸と、
前記伝達軸よりも自動車側である前記車軸の出力端に配置された非接触タイプの回転計と、
前記ダイナモメータ側に設けられたトルク計と回転計と、
を備えることを特徴とする自動車試験装置。
【請求項2】
前記ダイナモメータが前記車軸に与える目標トルクと、前記トルク計が計測した伝達トルクの差分をゼロに近づける制御量と、前記車軸と前記伝達軸の接続部分に設けられた前記回転計が検出した回転速度、又は回転角度と、前記ダイナモメータの備える前記回転計の回転速度、又は回転角度の差分をゼロに近づける制御量との加算値を用い、前記ダイナモメータを制御する制御部を有する請求項1に記載の自動車試験装置。
【請求項3】
前記非接触タイプの回転計は、前記車軸と共に回転する被検出部と、前記車軸を支持する軸受側に固定され、前記被検出部の回転を電気量に変換する検出部を備える請求項1又は請求項2に記載の自動車試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車軸とダイナモメータの伝達軸との接続部分に回転計を備えた自動車試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の研究開発、設計、品質管理などには、自動車試験装置が用いられている。近年の技術進歩に伴い、自動車業界においては、自動車の高性能化、高機能化が進んでおり、これに対応するように、自動車試験装置においても計測精度の向上が要求されている。
【0003】
自動車の動力性能を計測する試験方法として、自動車の各車軸に対して動力負荷をかけるものがある。従来は、車両の出力軸端にトルク計を備え、負荷を吸収するダイナモメータの軸端にトルク計と回転計を備え、それぞれを等速ジョイントなどで接続することで動力を伝達し、動力負荷を制御することが一般的だった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、装置の抵抗を排除するために非接触のトルク計を採用するのが一般的であるが、非接触トルク計は回転部に対して固定側から非接触で電力とデータの送受信を行うため、トルク計自体が複雑な構成となっている。さらに、駆動軸ごとにトルク計を2台使用するため、装置が高額になってしまう。また、回転部と固定部のクリアランスが狭く、車両駆動軸の出力端に取り付けたトルク計は車両の挙動により回転部が固定部に接触することで装置の故障のリスクが高かった。
【0006】
動力伝達部としても、一般的には設置性に優れる等速ジョイントなどを使用するが、これらには機械的なガタが存在し、そのガタによる不感帯により、制御できない状況が発生してしまうため、応答性を落とさざるを得ない状態となっている。これを解決するためにガタの無いリジットなシャフトを使うこともできるが、その場合は設置性が悪く、調整が困難となってしまう。
【0007】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものである。本発明は、車両駆動軸の出力端に取り付けるトルク計を使用せずにダイナモメータに設けたトルク計のみを使用することでトルク検出のための構成を単純化すると共に、ダイナモメータと車軸の接続構造に起因する応答性の低下や振動誤差を解消した自動車試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の自動車試験装置は、次のような構成を有することを特徴とする。
(1)自動車の車軸。
(2)前記車軸に対してトルクを与えるダイナモメータ。
(3)前記ダイナモメータと前記車軸とを接続する伝達軸。
(4)前記伝達軸よりも前記自動車側である前記車軸の出力端に配置された非接触タイプの回転計。
(5)前記ダイナモメータ側に設けられたトルク計と回転計。
【0009】
本発明において、下記のような構成を採用することも可能である。
(1)前記ダイナモメータが前記車軸に与える目標トルクと、前記トルク計が計測した伝達トルクの差分をゼロに近づける制御量と、前記車軸と前記伝達軸の接続部分に設けられた前記回転計が検出した回転速度、又は回転角度と、前記ダイナモメータの備える前記回転計の回転速度、又は回転角度の差分をゼロに近づける制御量との加算値を用い、前記ダイナモメータを制御する制御部を有する。
(2)前記非接触タイプの回転計は、前記車軸と共に回転する被検出部と、前記車軸を支持する軸受側に固定され、前記被検出部の回転を電気量に変換する検出部を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、等速ジョイントよりも自動車側である車両の出力端に、回転部に電力を要しない非接触タイプの回転計を配置し、ダイナモメータ側にトルク計と回転計を備えることにより、以下の効果が発揮される。
(1)自動車側の回転計と、ダイナモメータ側の回転計を同じ回転速度に制御することで、等速ジョイントのガタを排除することができ、ガタによるトルク計の不感帯の影響を受けずにダイナモメータ側のトルク計にてトルク計測が可能となる。
(2)車軸の出力端には簡単な構成の非接触回転計のみとなるので、軸端にかかる余計な慣性量を最小限に抑えることで制御性を落とすことなく、さらに回転体への電力供給の必要がないため、簡単な構成で応答性に優れた装置を低コストで実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態の使用状態を示す全体構成図である。
【
図2】第1実施形態の全体構成を示す斜視図である。
【
図3】第1実施形態の全体構成を示す分解斜視図である。
【
図4】第2実施形態の全体構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
以下、第1実施形態の自動車試験装置(以下、試験装置と呼ぶ)100について説明する。第1実施形態の試験装置100は、車軸やダイナモメータに接続された伝達軸の軸受支持部として、自動車に通常装着されるタイヤやホイールを模した模擬車輪型のものを採用しているが、伝達軸の軸受支持部としては、
図4に示す第2実施形態のように、タイヤを持たない中間軸受型のものであってもよい。なお、実施形態において、伝達軸の中心軸を基準として、中心軸から離れる方向を外周あるいは外周面と呼び、中心軸と直交する方向を端部あるいは端面と呼ぶ。
【0013】
図1は、試験装置100を用いて自動車の試験を行う状態を示す。試験装置100は、自動車のトランスミッション1から伸びる車軸2と、車軸2に対して回転力を与えるダイナモメータ3と、ダイナモメータ3の回転力を車軸2に伝える伝達軸4とを備える。
【0014】
車軸2と伝達軸4の接続部分には、非接触タイプの回転計5が設けられている。ダイナモメータ3は、その運転時に伝達軸4に与えている伝達トルクを計測するトルク計6と、ダイナモメータ3の回転数を検出する回転計7を備える。これらの回転計5,7とトルク計6は、制御部8に接続されている。制御部8は、ダイナモメータ3が伝達軸4に与える目標トルクとトルク計6が計測した伝達トルクの差分をゼロに近づける制御量と車軸2と伝達軸4の接続部分に設けられた回転計5が検出した回転速度、又は回転角度と、ダイナモメータ3の備える回転計7の回転速度、又は回転角度の差分をゼロに近づける制御量との加算値を用い、ダイナモメータ3を制御する。
【0015】
図2及び
図3に示すように、試験装置100に用いられる軸受支持部(図は模擬車輪型)は、伝達軸4の支持部として、タイヤ10とその内周に固定されたホイール部11を備える。タイヤ10とホイール部11は、試験時において回転することがない様に、床面或いは架台などに拘束或いは固定される。ホイール部11の内周にはリング状の軸受支持部12が固定され、軸受支持部12の内周には軸受13が固定されている。
【0016】
軸受13内には軸連結部15が回転可能に支持されている。軸受13から車体側に突出した軸連結部15の端面に、車軸2の端部が連結固定されている。軸連結部15のダイナモメータ3側の端部には支持部材17を介して伝達軸4の先端が固定される。支持部材17の外周には回転計5の被検出部16が設けられ、被検出部16は支持部材17を介して、車軸2に対して一体に連結されている。
【0017】
軸受支持部12における上部側の位置にはブラケット18が固定され、このブラケット18に回転計5の検出部19が支持されている。非接触タイプの回転計5は、車軸2と共に回転する被検出部16と、車軸2を支持する軸受13側に固定され、被検出部16の回転を電気量に変換する検出部19とを備える。回転計5としては、例えば、以下のような回転・角度検出手段が採用できる。
【0018】
(1)被検出部16として、リング状の被検出部16の外周に歯車状に凹凸を形成し、被検出部16の回転時において、この凹凸を検出部19が電磁気的あるいは光学的に検出することで、パルス状などの電気的な出力波形を得るもの。
(2)前記(1)の凹凸に代えて、板状の被検出部16に所定の間隔で開口部を形成したものや、所定の間隔で磁性体を埋設したもの。
(3)一般に角度計と呼ばれ、検出部19は、その固定位置に対する被検出部16の回転角を検出し、その回転角を制御部8側でクロックに基づいて回転速度にあるいは加速度に変換するもの。
【0019】
本実施形態において、回転計5の検出部19を支持するブラケット18は、複数の断面L字形の金具をボルトによって組合せたものであるが、その形状は特に限定されるものではなく、検出部19と被検出部16が所定の間隔を保って対向して配置されるものであれば、1部材あるいは複数部材から構成させるものが使用できる。両者の位置調整を行えるものが望ましい。
【0020】
[1-2.作用]
本実施形態において、目標トルク値の設定後、自動車を運転させて試験を開始すると、車軸2及びダイナモメータ3の回転に伴い、軸連結部15の外周に設けられた被検出部16も回転するので、軸受支持部12にブラケット18により固定されている検出部19を被検出部16の凹凸部が順次通過することになる。回転計5は検出部19による被検出部16の通過速度に基づいて軸連結部15の回転速度を検出、そのデータを制御部8へ送信する。
【0021】
一方、ダイナモメータ3は、それに設けられた回転計7によってダイナモメータ3の回転速度を検出すると共に、トルク計6によって伝達トルクを検出し、検出された回転速度及び伝達トルクを制御部8に送信する。制御部8においては、設定された目標トルク値とトルク計で計測された伝達トルクの差分を計算すると共に、車軸2と伝達軸4の接続部分に設けられた回転計5が検出した回転速度、又は回転角度と、ダイナモメータ3の備える回転計7の回転速度、又は回転角度の差分を計算する。そして、それぞれの差分をゼロに近づける制御量の加算値を用い、ダイナモメータ3を制御する。
【0022】
このように、車軸2と伝達軸4の接続部分の回転計5とダイナモメータ3の回転計7が同じ速度で回転し、かつ位相角を制御することで、伝達軸4がガタツキや応答遅れが発生しやすい自在継手であっても、車軸2とダイナモメータ3の間の位相や捩じれが発生することがなくなる。また、両者が同じ速度及び位相で回転していればその軸にかかるトルクはゼロであることから、ダイナモメータ3のトルク計6で検出しているトルク値が車両側(車軸2側)のトルク値になる。このように、本実施形態では、車両側の回転状態を検出して、その検出値に合うようにダイナモメータ3を制御することで、トルク検出をダイナモメータ側のトルク計6で正確に測定することができる。
【0023】
[1-3.効果]
(1)本実施形態では、車軸2と伝達軸4の接続部分にトルク計を設けることなく、回転計5を設けることにより、ダイナモメータ3側のトルク計6と回転計7を使用して、ダイナモメータ3の高精度なトルク制御を実施することが可能となる。その結果、車軸2と伝達軸4の接続部分に電源供給やデータ通信用の機器を設けることが不要となり、トルク計に比較して遥かに簡単な回転計5によってトルク制御が可能となり、試験装置の構造の単純化や軽量化を実現できる。
【0024】
(2)ダイナモメータ3の伝達軸4として、自在継手のようなガタ付きが不可避な部材を採用した場合でも、2つの回転計5,7の回転速度と角度を同一とするように制御することで、車軸2とダイナモメータ3の回転速度と角度を一致させることでき、自在継手のガタ付きによる不感帯での応答遅れを改善することができる。すなわち、本実施形態では、自在継ぎ手よりも自動車側に配置した回転計5を用いることで、自在継ぎ手に存在する機械的なガタの影響なく車軸の回転を計測できるため、その信号をフィードバックすることで、制御の応答遅れを最小化することができる。
【0025】
(3)回転計5のみであれば、検出するセンサにもよるが回転する部材に対して電力供給をする必要もなく、被検出部16に歯車状の歯を作り、非接触でその凹凸を検出できるため、構造も単純で、回転する軸連結部15や支持部材17の慣性量としても無視できる程度にすることができ、低コストで高応答化が実現できる。
【0026】
[2.第2実施形態]
第2実施形態は、
図4に示すように、模擬車輪を用いることなく、軸受支持部12が試験装置100の設置箇所に固定された架台20に支持されている。第2実施形態の他の部分構成は、第1実施形態と同様である。
【0027】
このように、軸受支持部12を架台20に支持された場合においても、軸受支持部12に固定された回転計5の検出部19により、軸連結部15側の支持部材17に設けられた被検出部16の回転を検出することが可能である。その結果。第2実施形態においても、第1実施形態に述べたと同様な作用効果が発揮される。また、第2実施形態は、模擬車輪を使用しないため、タイヤ10の弾性による影響を排除した試験を行う場合に有効である。
【0028】
[3.他の実施形態]
変形例を含めた実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。以下は、その一例である。
【0029】
(1)車軸2と伝達軸4の接続部分の構成は、図示のものに限定されない。例えば、ホイール部11と軸受支持部12、軸受支持部12と軸受13、軸連結部15と被検出部16の支持部材17、支持部材17と被検出部16など、図面で別部材として記載されているものを一体化することができる。
【0030】
(2)第1実施形態で説明したように、本発明における回転計には、回転速度を測定する回転計はもとより、角度計のように検出部と被検出部の相対移動を検出したデータに基づいて、制御部8に車軸2と伝達軸4の接続部分の回転速度を出力できるものであれば、種々のものを使用できる。なお、回転側に電源やデータ送信手段を必要とする機器は含まれない。
【0031】
(3)回転計5の被検出部16として、歯車やスリットなどを備えたリング状の検出板を使用し、その歯車を外歯、かさ歯車、冠歯車形状にすることで検出部19の取付位置を自由に設定することができ、検出部19をカバーなどで覆わなくても、防塵性や安全性を確保できる。
【符号の説明】
【0032】
1…トランスミッション
2…車軸
3…ダイナモメータ
4…伝達軸
5,7…回転計
6…トルク計
8…制御部
10…タイヤ
11…ホイール部
12…軸受支持部
13…軸受
15…軸連結部
16…被検出部
17…支持部材
18…ブラケット
19…検出部
20…架台
100…試験装置