(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128759
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】マイクログリッドシステムの短絡事故検出方法、マイクログリッドシステム及び電圧源インバータ
(51)【国際特許分類】
H02J 3/38 20060101AFI20240913BHJP
H02J 9/06 20060101ALI20240913BHJP
H02H 3/08 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
H02J3/38 180
H02J9/06 120
H02H3/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037938
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000141060
【氏名又は名称】株式会社関電工
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】宮本 裕介
(72)【発明者】
【氏名】石橋 一成
(72)【発明者】
【氏名】喜舎場 朝士
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 亮佑
【テーマコード(参考)】
5G004
5G015
5G066
【Fターム(参考)】
5G004AA03
5G004AB03
5G004BA03
5G004DC07
5G004DC14
5G015FA02
5G015GA06
5G015JA05
5G015JA33
5G015JA34
5G015JA35
5G015JA52
5G066AE09
5G066HA11
5G066HA13
5G066HB05
(57)【要約】
【課題】短絡事故箇所を特定することができるマイクログリッドシステムの短絡事故検出方法、マイクログリッドシステム及び電圧源インバータを提供する。
【解決手段】マイクログリッドシステムの短絡事故検出方法は、上位系統に接続され、電圧源インバータと、電圧源インバータの出力側に接続される供給系統とを備えるマイクログリッドシステムの短絡事故検出方法であって、供給系統は、1又は複数の配電盤それぞれの複数の電路それぞれに設けられた遮断器を備え、上位系統が停電した際のマイクログリッド運転時に、電圧源インバータのソフトスタート時の出力電流により供給系統内の少なくとも一つの遮断器を遮断させて短絡事故を検出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上位系統に接続され、電圧源インバータと、前記電圧源インバータの出力側に接続される供給系統とを備えるマイクログリッドシステムの短絡事故検出方法であって、
前記供給系統は、1又は複数の配電盤それぞれの複数の電路それぞれに設けられた遮断器を備え、
前記上位系統が停電した際のマイクログリッド運転時に、前記電圧源インバータのソフトスタート時の出力電流により前記供給系統内の少なくとも一つの遮断器を遮断させて短絡事故を検出する、
マイクログリッドシステムの短絡事故検出方法。
【請求項2】
前記電圧源インバータの運転を停止させる過電流動作時間は、前記遮断器の瞬時引きはずし動作時間よりも短く、
前記供給系統内で短絡事故が発生して前記電圧源インバータの運転が停止した後に前記電圧源インバータの出力電圧及び出力電流の立ち上がりを抑制したソフトスタートにより前記電圧源インバータの運転を再開し、
前記電圧源インバータの出力電流が上限値に到達する前に前記電圧源インバータのソフトスタートによる出力電流特性を前記遮断器の瞬時引きはずし特性範囲内に入れて前記供給系統内の少なくとも一つの遮断器を遮断させる、
請求項1に記載のマイクログリッドシステムの短絡事故検出方法。
【請求項3】
前記供給系統内の配電線に流れる電流を計測する電流計測器を備え、
前記電圧源インバータのソフトスタート時の出力電流を前記電流計測器で計測した結果に基づいて短絡事故を検出する、
請求項1又は請求項2に記載のマイクログリッドシステムの短絡事故検出方法。
【請求項4】
前記電圧源インバータは、
運転開始から第1時点までの間で前記電圧源インバータの出力電圧を所定電圧まで増加させるソフトスタートを実行する、
請求項1又は請求項2に記載のマイクログリッドシステムの短絡事故検出方法。
【請求項5】
上位系統に接続され、電圧源インバータと、前記電圧源インバータの出力側に接続される供給系統とを備えるマイクログリッドシステムであって、
前記供給系統は、1又は複数の配電盤それぞれの複数の電路それぞれに設けられた遮断器を備え、
前記上位系統が停電した際のマイクログリッド運転時に、前記電圧源インバータのソフトスタート時の出力電流により前記供給系統内の少なくとも一つの遮断器を遮断させて短絡事故を検出する、
マイクログリッドシステム。
【請求項6】
上位系統に接続され、供給系統を備えるマイクログリッドシステムに電力を供給する電圧源インバータであって、
出力電圧を定格電圧に上昇させる途中で、前記出力電圧を所定電圧に維持するソフトスタートを実行する実行部を備え、
前記実行部によるソフトスタート時の出力電流により前記供給系統内の少なくとも一つの遮断器を遮断させて短絡事故を検出する、
電圧源インバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクログリッドシステムの短絡事故検出方法、マイクログリッドシステム及び電圧源インバータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、災害時のエネルギー供給の確保、エネルギー利用の効率化、地域のエネルギー活用による地域産業の活性化などのメリットがあることから、マイクログリッドが注目されている。マイクログリッドは、平常時は下位系統の潮流を把握し、災害等による上位系統の大規模停電時には、上位系統から切り離され、分散型のエネルギーリソースを用いて自立的に電力を供給することができる。
【0003】
特許文献1には、分散型のエネルギーリソースとしてのインバータ電源を備え、インバータ電源の交流端が昇圧トランスを介して配電系統に接続されるマイクログリッドシステムが開示されている。
【0004】
マイクログリッドシステムには、複数の配電盤が設置されている。各配電盤内は複数の電気負荷に接続される複数の電路が設けられ、各電路には電気負荷などの事故(例えば、短絡、過負荷など)が発生した場合に自動的に電路を遮断する遮断器が設置され、事故箇所をマイクログリッドシステムから切り離すようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インバータ電源が電力を供給するマイクログリッドシステム内で短絡事故が発生した場合、遮断器よりもインバータ電源の過電流に対する応答が速いときは、遮断器が電路を遮断する前にインバータ電源が運転を停止して過電流を止める。このため、遮断器による短絡箇所の切り離しが行われず短絡事故箇所を特定できない可能性がある。
【0007】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、短絡事故箇所を特定することができるマイクログリッドシステムの短絡事故検出方法、マイクログリッドシステム及び電圧源インバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、本実施形態のマイクログリッドシステムの短絡事故検出方法は、上位系統に接続され、電圧源インバータと、前記電圧源インバータの出力側に接続される供給系統とを備えるマイクログリッドシステムの短絡事故検出方法であって、前記供給系統は、1又は複数の配電盤それぞれの複数の電路それぞれに設けられた遮断器を備え、前記上位系統が停電した際のマイクログリッド運転時に、前記電圧源インバータのソフトスタート時の出力電流により前記供給系統内の少なくとも一つの遮断器を遮断させて短絡事故を検出する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、短絡事故箇所を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態のマイクログリッドシステムの構成の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態の電圧源インバータの構成の第1例を示す図である。
【
図3】ソフトスタート時の第1例の電圧源インバータの出力電圧の制御方法の一例を示す図である。
【
図4】本実施形態の電圧源インバータの構成の第2例を示す図である。
【
図5】ソフトスタート時の第2例の電圧源インバータの出力電圧及び出力電流の制御方法の一例を示す図である。
【
図6】コントローラによる
図5に示す制御方法を実現する処理手順の一例を示す。
【
図7】ブラックスタート時の本実施形態の電圧源インバータの出力電圧・出力電流及び比較例の電圧源インバータの出力電圧・出力電流の推移の一例を示す図である。
【
図8】マイクログリッドシステムの供給系統の短絡事故箇所の第1例を示す図である。
【
図9】遮断器の動作特性曲線の一例を示す図である。
【
図10】短絡事故に対する遮断器及び電圧源インバータの応答の一例を示す図である。
【
図11】再連系における電圧源インバータのソフトスタート時の出力電流特性の一例を示す。
【
図12】マイクログリッドシステムの供給系統内の短絡事故箇所の第2例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態のマイクログリッドシステムの構成の一例を示す図である。マイクログリッドシステムは、開閉器2を介して上位系統1に接続される。上位系統は、一般送配電事業者等が所有する送電線、配電線などである。平常時には、開閉器2が閉じた状態になっており、マイクログリッドシステムは、上位系統1を通じて電力供給を受ける。
【0012】
マイクログリッドシステムは、電圧源インバータ10、電圧源インバータ10の出力を昇圧する昇圧トランス51、昇圧トランス51に接続される供給系統5、構内負荷40、供給系統5と構内負荷40との間に設けられる降圧トランス54などを備える。昇圧トランス51は、例えば、210Vを6600Vに昇圧することができる。
【0013】
供給系統5は、例えば、6.6kV(高圧)の配電系統であり、複数の降圧トランス4、各降圧トランス4の二次側(低圧側)に接続される複数の配電盤(不図示)を備える。複数の配電盤それぞれには、複数の電気負荷に接続される複数の電路が設けられ、各電路には電気負荷などの事故(例えば、短絡、過負荷など)が発生した場合に自動的に電路を遮断する遮断器6、6、…が設置されている。また、降圧トランス4の一次側(高圧側)に電流計測器7を備えてもよい。電流計測器7は、例えば、不図示のEMS(エネルギー管理システム)に対して計測した電流値を出力する。また、供給系統5は、降圧トランス4と上位系統1及び昇圧トランス51、降圧トランス54との間をつなぐ配電線3などを備える。配電線3の下流側には、開閉器2aが接続され、当該開閉器2aよりも下流側の隣接系統と分離できるようになっている。降圧トランス4には、遮断器6が接続されている。
【0014】
降圧トランス54の高圧側と低圧側には、開閉スイッチ65、66が設けられている。
【0015】
災害等により上位系統1が停電した非常時には、事故復旧の一手段として、開閉器2が閉状態から開状態に切り替えられ、マイクログリッドシステムが上位系統1から切り離される。また、開閉器2aを閉状態から開状態に切り替えることで、マイクログリッドシステムを隣接系統から切り離すことができる。また、開閉スイッチ65、66は、常時閉状態になっている。そして、供給系統5に電力を供給すべく、電圧源インバータ10の運転が開始される(いわゆる、ブラックスタート:供給系統5に電圧が印加されていないときの運転開始)。電圧源インバータ10の出力電圧が定格電圧(例えば、200V程度)に達すると、昇圧トランス51によって配電線3には、6600Vの電圧が供給される。
【0016】
ブラックスタート時に電圧源インバータを立ち上げた際、電圧源インバータの出力側の昇圧トランスを励磁するための励磁電流が流れる。状況によっては、当該励磁電流が過渡的に過大な電流となって電圧源インバータの出力電流の上限値を超えると、電圧源インバータの電流保護回路がトリップ(過電流トリップ)して電圧の立ち上げに失敗することになる。電圧源インバータの電圧の立ち上げは複数回繰り返されるが、その都度過電流トリップが生じて電圧源インバータが運転できないケースが生じる場合がある。本実施形態では、ブラックスタート時に電圧源インバータの出力電圧を立ち上げる際にソフトスタートを実行する。以下、ソフトスタートについて説明する。
【0017】
図2は本実施形態の電圧源インバータ10の構成の第1例を示す図である。電圧源インバータ10は、入力端側に設けられたスイッチ11、スイッチ11に接続されたコイル12(インダクタ)、コイル12に接続されたDC/DCコンバータ13、DC/DCコンバータ13に接続されたDC/ACコンバータ15、DC/ACコンバータ15に接続されたコイル16、コイル16に接続された電圧調整用トランス18、電圧調整用トランス18と出力端との間に設けられたスイッチ19、電圧調整用トランス18の二次側の電圧を検出してDC/ACコンバータ15に対して制御信号を出力するコントローラ100、DC/DCコンバータ13とDC/ACコンバータ15との電路に並列に接続されたコンデンサ14、及びコイル16と電圧調整用トランス18との電路に並列に接続されたコンデンサ17などを備える。
【0018】
ガスバルクに保管されたLPガスをLPガス発電機に供給してLPガス発電機が生成する直流電力を電圧源インバータ10へ供給する。電圧源インバータ10は、入力端から供給された直流電圧をDC/DCコンバータ13によって所要の直流電圧に変換する。変換された直流電圧はDC/ACコンバータ15に入力される。DC/ACコンバータ15は、入力された直流電圧を交流電圧に変換し、変換した交流電圧を、LCフィルタ(コイル16及びコンデンサ17)を介して電圧調整用トランス18に入力する。電圧調整用トランス18は、変換された交流電圧が電圧源インバータ10の定格電圧(例えば、200V程度)になるように電圧調整する。なお、電圧源インバータ10に直流電力を供給する電源は、LPガス発電機に限定されるものではなく、他の直流電源でもよい。
【0019】
コントローラ100は、電圧源インバータ10の出力電圧の立ち上がり時に、出力電流が上限値を超えないようにソフトスタートを実行する。具体的には、コントローラ100(電圧源インバータ10)は、上位系統1の停電時に、電圧源インバータ10の出力電圧を定格電圧に上昇させる途中で、出力電圧を所定電圧に維持するソフトスタートを実行する。
【0020】
図3はソフトスタート時の第1例の電圧源インバータ10の出力電圧の制御方法の一例を示す図である。
図3において、縦軸は電圧(交流電圧の実効値)を示し、横軸は時間を示す。運転開始時点を0で表す。
図3では、便宜上、電圧の推移を折れ線で示しているが、実際の電圧の推移は、
図3の例に限定されるものではない。また、実際の電圧波形は、実効値(波高値)のピークが
図3のように推移する正弦波の集合である。コントローラ100は、運転開始から第1時点t1までの加速時間Δt1では、出力電圧が0Vから所定電圧まで増加するようにDC/ACコンバータ15を制御する。コントローラ100は、第1時点t1から第2時点t2までの待機期間Δt2では、出力電圧を所定電圧で維持するようにDC/ACコンバータ15を制御する。コントローラ100は、第2時点t2から第3時点t3までの加速時間Δt3では、出力電圧を所定電圧から定格電圧まで増加するようにDC/ACコンバータ15を制御する。
【0021】
所定電圧は、0Vから定格電圧までの範囲内で適宜設定できる。加速時間Δt1は、例えば、0秒から5秒までの間の時間、待機時間Δt2は、例えば、0.1秒から5秒までの間の時間、加速時間Δt3は、例えば、0.1秒から5秒までの間の時間で適宜設定できる。加速時間Δt1、Δt3、待機時間Δt2、及び所定電圧は、予めユーザが設定することができる。
図3に示すように、出力電圧を定格電圧に上昇させる途中で、出力電圧を所定電圧に維持することにより、昇圧トランス51の励磁や供給系統5に接続された負荷機器への急激な突入電流を抑制して、ブラックスタート時に電圧源インバータ10(インバータ電源)を停止することなく立ち上げることができる。
【0022】
また、加速時間Δt1、Δt3における出力電圧の立ち上がり速度を調整できるので、昇圧トランス51の励磁や供給系統5に接続された負荷機器への急激な突入電流を抑制して、ブラックスタート時に電圧源インバータ10を停止することなく立ち上げることができる。
【0023】
図2及び
図3に示す第1例では、電圧源インバータ10の出力電圧の推移を制御する構成であったが、ソフトスタートは第1例の構成に限定されるものではない。例えば、電圧源インバータ10の出力電圧だけでなく出力電流も検出してソフトスタートを実行してもよい。以下、出力電流も考慮したソフトスタートについて説明する。
【0024】
図4は本実施形態の電圧源インバータ10の構成の第2例を示す図である。
図2に示す第1例との相違点は、コントローラ100が電圧調整用トランス18の二次側の電圧だけでなく、電圧調整用トランス18の二次側の出力電流を検出してDC/ACコンバータ15に対して制御信号を出力する点である。他の構成は第1例と同様であるので説明は省略する。
【0025】
コントローラ100(電圧源インバータ10)は、上位系統1の停電時に、電圧源インバータ10の出力電流が電流閾値以下の場合、電圧源インバータ10の出力電圧を増加させ、出力電流が電流閾値を超えた場合、出力電圧を維持し、出力電圧を維持した後、出力電流が電流閾値以下となるように、出力電圧を調整して定格電圧まで増加させる。
【0026】
図5はソフトスタート時の第2例の電圧源インバータ10の出力電圧及び出力電流の制御方法の一例を示す図である。
図5において、縦軸は電圧(交流電圧の実効値)及び電流(交流電流の実効値)を示し、横軸は時間を示す。実際の電圧波形及び電流波形は、実効値(波高値)のピークが
図5のように推移する正弦波の集合である。コントローラ100は、電圧源インバータ10の出力電圧を初期設定値で上昇させる。初期設定値は、出力電圧が0Vから定格電圧に到達するまでの加速時間tであり、加速時間tは、例えば、0秒から5秒の範囲で適宜設定できる。コントローラ100は、電圧源インバータ10の運転開始(立ち上げ)とともに出力電圧及び出力電流を検出する。
【0027】
コントローラ100は、出力電流が電流閾値以下の場合、出力電圧を初期設定値で上昇させる。コントローラ100は、出力電流が電流閾値を超えた場合、その時点における出力電圧の電圧値を維持する。出力電圧を当該電圧値に維持することは、出力電圧の傾き(時間に対する電圧の増分)を0にすることに相当する。コントローラ100は、出力電圧を当該電圧値に維持した後は、出力電流が電流閾値以下になるように、出力電圧の傾きを調整しつつ、定格電圧まで上昇させる。
【0028】
図6はコントローラ100による
図5に示す制御方法を実現する処理手順の一例を示す。コントローラ100は、設定した加速時間tでソフトスタートを開始し(S11)、電圧源インバータ10の出力電流を検出する(S12)。以降、コントローラ100は、所定のサンプリング周期で出力電圧及び出力電流を検出する。
【0029】
コントローラ100は、出力電流>閾値(電流閾値)であるか否かを判定し(S13)、出力電流>閾値でない場合(S13でNO)、設定した加速時間tで出力電圧を定格電圧まで上昇させる(S14)。コントローラ100は、出力電圧が定格電圧に到達したか否かを判定し(S15)、定格電圧に到達していない場合(S15でNO)、ステップS13以降の処理を続ける。定格電圧に到達した場合(S15でYES)、コントローラ100は、ソフトスタートが完了したとして、ソフトスタートを終了し(S16)、処理を終了する。
【0030】
出力電流>閾値である場合(S13でYES)、コントローラ100は、出力電圧の傾き(時間に対する電圧の増加分)を0にし(S17)、出力電流>閾値(電流閾値)であるか否かを判定する(S18)。出力電流>閾値でない場合(S18でNO)、コントローラ100は、出力電圧の傾きを増加し(S19)、出力電流>閾値(電流閾値)であるか否かを判定する(S20)。
【0031】
出力電流>閾値でない場合(S20でNO)、コントローラ100は、出力電圧を定格電圧まで上昇させ(S21)、出力電圧が定格電圧に到達したか否かを判定し(S22)、定格電圧に到達していない場合(S22でNO)、ステップS18以降の処理を続ける。定格電圧に到達した場合(S22でYES)、コントローラ100は、ステップS16の処理を行う。
【0032】
ステップS18又はステップS20において、出力電流>閾値である場合(S18でYES又はS20でYES)、コントローラ100は、出力電圧の傾きを減少し(S23)、出力電流>閾値であるか否かを判定する(S24)。出力電流>閾値でない場合(S24でNO)、コントローラ100は、ステップS19以降の処理を続ける。出力電流>閾値である場合(S24でYES)、コントローラ100は、ソフトスタートを完了できないとして、ソフトスタートを終了し(S25)、処理を終了する。
【0033】
図7はブラックスタート時の本実施形態の電圧源インバータ10の出力電圧・出力電流及び比較例の電圧源インバータの出力電圧・出力電流の推移の一例を示す図である。
図7Aは本実施形態の電圧源インバータ10の出力電圧及び出力電流を示し、
図7Bは比較例の電圧源インバータの出力電圧及び出力電流を示す。比較例の電圧源インバータは、本実施形態のようなソフトスタート機能を具備していない。実際の電圧波形及び電流波形は、実効値(波高値)のピークが
図7のように推移する正弦波の集合である。
【0034】
図7Aに示すように、本実施形態の電圧源インバータ10では、ソフトスタート機能を具備しているので、出力電圧は、例えば、
図3に例示したようなスフトスタートの期間を経過して定格電圧に到達する。また、出力電流は、ソフトスタートによって過渡的に急増することが抑制され、比較的緩やかな立ち上がり時間で徐々に上昇し、上限値を超えることなく繋がる負荷が必要な電流まで増加する。なお、ソフトスタート機能は、
図7Aの例に限定されるものではなく、例えば、
図5に示した方法でもよい。
【0035】
一方、
図7Bに示すように、比較例の電圧源インバータでは、ソフトスタート機能を具備しないので、出力電圧は一定(ソフトスタートを具備する場合に比べて)で増大し、出力電流も変圧器の励磁や電気負荷の容量成分等による急激な突入電流となり、上限値を超えることで過電流トリップが生じ、電圧源インバータの立ち上げに失敗する。電圧源インバータに再度立ち上げ機能がある場合、起動を繰り返すが、同様の現象によって立ち上げに失敗し、電圧源インバータの運転ができない事態が生じる可能性がある。
【0036】
上述のように、本実施形態によれば、昇圧トランスの励磁や供給系統に接続された負荷機器への急激な突入電流を抑制して、ブラックスタート時に電圧源インバータ10を停止することなく立ち上げることができる。
【0037】
次に、供給系統5内で短絡事故が発生した場合について説明する。
【0038】
図8はマイクログリッドシステムの供給系統5内の短絡事故箇所の第1例を示す図である。
図8中、短絡箇所をX印で示している。
図8の例では、降圧トランス4の二次側(低圧側)での短絡事故であり、例えば、単相3線の2線間短絡としている。
図8の例では、電圧源インバータ10が供給系統5に対して電力を供給している状態を図示している。
【0039】
図9は遮断器6の動作特性曲線の一例を示す図である。
図9において、縦軸は動作時間を示し、横軸は電流を示す。遮断器6の動作特性曲線は、時延引きはずし、瞬時引きはずしの両方の特性を備える。時延引きはずしは、電線の許容電流・時間特性に合わせた特性で、さらに負荷機器の始動電流で動作しないようにしている。過電流が大きい場合は動作時間が短かく、小さい場合は長くする。瞬時引きはずしは、短絡事故による短絡電流などの大きな電流が流れた時、瞬時に動作させる特性であり、
図9において、「瞬時引きはずし」で示す電流領域での引きはずしである。また、短絡発生から引きはずし動作開始までの時間をリレー時間と称する。リレー時間は、例えば、数ms(2ms~5msなど)であり、リレー時間を超えて短絡電流が流れると瞬時動作して遮断器6は電路を遮断する。すなわち、遮断器6の短絡電流に対する応答(瞬時引きはずし動作時間)は、数msのオーダである。なお、便宜上
図9では動作特性曲線を1本の曲線で示しているが、実際には幅があり最小値と最大値を示す2本の曲線内の領域で動作特性が表される。
【0040】
図10は短絡事故に対する遮断器6及び電圧源インバータ10の応答の一例を示す図である。
図10に示すように、時点t1において、
図8に示した遮断器6の下流側で短絡事故が発生したとする。この場合、電圧源インバータ10の出力には過大な短絡電流が流れる。電圧源インバータ10の出力電流が上限値を超えた場合に、電圧源インバータ10の保護等の目的のために電圧源インバータ10は運転を停止する。電圧源インバータ10の運転を停止させる過電流動作時間(応答スピード)は、凡そμsのオーダである。
図10の例では、短絡発生時点t1からμsオーダの時間が経過した時点t2において、過電流動作時間となって電圧源インバータ10は運転を停止する。短絡電流を流す供給源が停止したので、時点t2において短絡電流は0になる。
【0041】
一方、前述したように、遮断器6のリレー時間(瞬時引きはずし動作時間)は数msオーダであり、過電流動作時間よりも長いため遮断器6は短絡電流に対して応答せず遮断器6は電路を遮断せず電路は閉じたままの状態となる。すなわち、供給系統5内で短絡事故が発生した場合、遮断器6による遮断前に電圧源インバータ10が運転を停止して短絡電流が流れなくなる。
【0042】
運転が停止した電圧源インバータ10は、自動再連系により、運転停止から再連系待機時間(例えば、5秒など)が経過した時点においてソフトスタートを実行して運転を再開する。本実施形態では、ソフトスタート時の電圧源インバータ10の出力特性を利用して短絡事故が発生した箇所の遮断器6を遮断させて短絡事故箇所を検出する。以下、短絡事故検出方法について説明する。
【0043】
図11は再連系における電圧源インバータ10のソフトスタート時の出力電流特性の一例を示す。
図11において、縦軸は電流を示し、横軸は時間を示す。
図7で例示したように、ソフトスタート時の電圧源インバータ10の出力電流は、比較的緩やかな立ち上がり時間で徐々に上昇し、上限値を超えることなく繋がる負荷が必要な電流まで増加する。ただし、この場合には、遮断器6による電路の遮断がされていないので、理論的には電圧源インバータ10の出力電流は、短絡電流値に向かって比較的緩やかな立ち上がり時間で徐々に上昇することになる。短絡電流値は、電圧÷短絡抵抗値(例えば、0.5Ωなど)で概算できる。上限値は、電圧源インバータ10が運転を停止する出力電流の上限値であり、例えば、定格電流×係数で設定される。係数は、例えば、1.5などとすることができるが、これに限定されない。
【0044】
図11に示すように、ソフトスタートによって電圧源インバータ10の出力電流は徐々に増加するが、上限値に到達する前に遮断器6の瞬時取り外し特性に対応する瞬時引きはずし電流値に到達すると、遮断器6が電路を遮断する。すなわち、電圧源インバータ10よりも先に遮断器6が電路を遮断する。これにより、短絡箇所が供給系統5から分離されるため、短絡電流は0となる。すなわち、遮断した遮断器6の箇所により短絡事故箇所を検出できる。その後、電圧源インバータ10の出力電圧が定格電圧に到達するとソフトスタートが終了する。
【0045】
上述のように、電圧源インバータ10のソフトスタート時の出力電流により供給系統5内の少なくとも一つの遮断器6を遮断させて短絡事故を検出することができる。これにより、インバータ電源が電力を供給する供給系統5内で短絡事故が発生した場合、遮断器が電路を遮断する前にインバータ電源が運転を停止して短絡電流を止めてしまい、遮断器6による短絡箇所の切り離しが行われず短絡事故箇所を特定できない場合でも、短絡事故箇所を特定することができる。
【0046】
より具体的には、本実施形態のマイクログリッドシステムの短絡事故検出方法においては、電圧源インバータ10の運転を停止させる過電流動作時間は、遮断器6の瞬時引きはずし動作時間よりも短く、供給系統5内で短絡事故が発生して電圧源インバータ10の運転が停止した後に当該電圧源インバータ10の出力電圧及び出力電流の立ち上がりを抑制したソフトスタートにより電圧源インバータ10の運転を再開し、当該電圧源インバータ10の出力電流が上限値に到達する前に電圧源インバータ10のソフトスタートによる出力電流特性を遮断器6の瞬時引きはずし特性範囲内に入れて供給系統5内の少なくとも一つの遮断器を遮断させることができる。これにより、短絡事故箇所を特定することができる。
【0047】
また、電圧源インバータ10は、出力電圧を定格電圧に上昇させる途中で、出力電圧を所定電圧に維持するソフトスタートを実行するコントローラ100(実行部)を備え、コントローラ100によるソフトスタート時の出力電流により供給系統5内の少なくとも一つの遮断器6を遮断させて短絡事故を検出することができる。
【0048】
図12はマイクログリッドシステムの供給系統5内の短絡事故箇所の第2例を示す図である。
図12中、短絡箇所をX印で示している。
図12の例では、降圧トランス4の二次側(低圧側)での短絡事故であり、例えば、単相3線の2線間短絡としている。また、電圧源インバータ10が供給系統5に対して電力を供給している状態を図示している。短絡箇所の上流の降圧トランス4の一次側(高圧側)には電流計測器7が設けられている。電流計測器7で計測された電流値はEMS(エネルギー管理システム)へ出力される。
図11に示したように、再連系における電圧源インバータ10のソフトスタート時の出力電流は、比較的緩やかな立ち上がり時間で徐々に上昇し、上限値を超えることなく繋がる負荷が必要な電流まで増加する。この場合、遮断器6による電路の遮断がされていないので、理論的には電圧源インバータ10の出力電流は、短絡電流値に向かって比較的緩やかな立ち上がり時間で徐々に上昇することになる。電圧源インバータ10の出力電流を電流計測器7で計測することができれば、電流計測器7が設けられた箇所の下流側に短絡箇所があることが分かるので、仮に遮断器6が遮断しない場合でも凡その短絡箇所を特定できる。電流計測器7による計測に時間を要する場合でも、ソフトスタートによる出力電流は緩やかに増加するので、電流計測器7による電流計測が可能である。
【0049】
上述のように、マイクログリッドシステムの短絡事故検出方法においては、供給系統5内の配電線に流れる電流を計測する電流計測器7を備え、電圧源インバータ10のソフトスタート時の出力電流を電流計測器7で計測した結果に基づいて短絡事故を検出してもよい。
【0050】
上述のように、本実施形態によれば、電圧源インバータ10の再連系の際のソフトスタートを利用することで、ソフトスタート時の出力電流が徐々に増加して遮断器6を遮断させるので、短絡事故箇所を特定することができる。
【0051】
(付記1)マイクログリッドシステムの短絡事故検出方法は、上位系統に接続され、電圧源インバータと、前記電圧源インバータの出力側に接続される供給系統とを備えるマイクログリッドシステムの短絡事故検出方法であって、前記供給系統は、1又は複数の配電盤それぞれの複数の電路それぞれに設けられた遮断器を備え、前記上位系統が停電した際のマイクログリッド運転時に、前記電圧源インバータのソフトスタート時の出力電流により前記供給系統内の少なくとも一つの遮断器を遮断させて短絡事故を検出する。
【0052】
(付記2)マイクログリッドシステムの短絡事故検出方法は、付記1において、前記電圧源インバータの運転を停止させる過電流動作時間は、前記遮断器の瞬時引きはずし動作時間よりも短く、前記供給系統内で短絡事故が発生して前記電圧源インバータの運転が停止した後に前記電圧源インバータの出力電圧及び出力電流の立ち上がりを抑制したソフトスタートにより前記電圧源インバータの運転を再開し、前記電圧源インバータの出力電流が上限値に到達する前に前記電圧源インバータのソフトスタートによる出力電流特性を前記遮断器の瞬時引きはずし特性範囲内に入れて前記供給系統内の少なくとも一つの遮断器を遮断させる。
【0053】
(付記3)マイクログリッドシステムの短絡事故検出方法は、付記1又は付記2において、前記供給系統内の配電線に流れる電流を計測する電流計測器を備え、前記電圧源インバータのソフトスタート時の出力電流を前記電流計測器で計測した結果に基づいて短絡事故を検出する。
【0054】
(付記4)マイクログリッドシステムの短絡事故検出方法は、付記1から付記3のいずれか一つにおいて、前記電圧源インバータは、運転開始から第1時点までの間で前記電圧源インバータの出力電圧を所定電圧まで増加させるソフトスタートを実行する。
【0055】
(付記5)マイクログリッドシステムは、上位系統に接続され、電圧源インバータと、前記電圧源インバータの出力側に接続される供給系統とを備えるマイクログリッドシステムであって、前記供給系統は、1又は複数の配電盤それぞれの複数の電路それぞれに設けられた遮断器を備え、前記上位系統が停電した際のマイクログリッド運転時に、前記電圧源インバータのソフトスタート時の出力電流により前記供給系統内の少なくとも一つの遮断器を遮断させて短絡事故を検出する。
【0056】
(付記6)電圧源インバータは、上位系統に接続され、供給系統を備えるマイクログリッドシステムに電力を供給する電圧源インバータであって、出力電圧を定格電圧に上昇させる途中で、前記出力電圧を所定電圧に維持するソフトスタートを実行する実行部を備え、前記実行部によるソフトスタート時の出力電流により前記供給系統内の少なくとも一つの遮断器を遮断させて短絡事故を検出する。
【0057】
各実施形態に記載した事項は相互に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した独立請求項及び従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることが可能である。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載してもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 上位系統
4 降圧トランス
5 供給系統
6 遮断器
7 電流計測器
10 電圧源インバータ
51 昇圧トランス
54 降圧トランス