(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128760
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】マイクログリッドシステム制御方法、マイクログリッドシステム、電圧源インバータ及び電流源インバータ
(51)【国際特許分類】
H02J 3/38 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
H02J3/38 180
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037939
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000141060
【氏名又は名称】株式会社関電工
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】宮本 裕介
(72)【発明者】
【氏名】石橋 一成
(72)【発明者】
【氏名】喜舎場 朝士
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 亮佑
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066HA11
5G066HA13
5G066HB01
5G066HB03
5G066HB05
(57)【要約】
【課題】ブラックスタート時にインバータ電源を停止することなく立ち上げることができるマイクログリッドシステム制御方法、マイクログリッドシステム、電圧源インバータ及び電流源インバータを提供する。
【解決手段】マイクログリッドシステム制御方法は、上位系統に接続され、電圧源インバータと、電圧源インバータの出力を昇圧する第1昇圧トランスと、第1昇圧トランスに接続される供給系統とを備えるマイクログリッドシステムを制御するマイクログリッドシステム制御方法であって、上位系統の停電時に、電圧源インバータは、電圧源インバータの出力電圧を定格電圧に上昇させるソフトスタートを実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上位系統に接続され、電圧源インバータと、前記電圧源インバータの出力を昇圧する第1昇圧トランスと、前記第1昇圧トランスに接続される供給系統とを備えるマイクログリッドシステムを制御するマイクログリッドシステム制御方法であって、
前記上位系統の停電時に、前記電圧源インバータは、
前記電圧源インバータの出力電圧を定格電圧に上昇させるソフトスタートを実行する、
マイクログリッドシステム制御方法。
【請求項2】
前記上位系統の停電時に、前記電圧源インバータは、
運転開始から第1時点までの間で前記電圧源インバータの出力電圧を前記所定電圧まで増加させ、
前記第1時点から第2時点までの間で前記出力電圧を前記所定電圧に維持し、
前記第2時点から第3時点までの間で前記出力電圧を前記所定電圧から前記定格電圧へ増加させる、
請求項1に記載のマイクログリッドシステム制御方法。
【請求項3】
前記上位系統の停電時に、前記電圧源インバータは、
前記電圧源インバータの出力電流が電流閾値以下の場合、前記出力電圧を増加させ、
前記電圧源インバータの出力電流が前記電流閾値を超えた場合、前記出力電圧を維持し、
前記出力電圧を維持した後、前記出力電流が前記電流閾値以下となるように、前記出力電圧を調整して前記定格電圧まで増加させる、
請求項1に記載のマイクログリッドシステム制御方法。
【請求項4】
前記マイクログリッドシステムは、
内部トランスを有する電流源インバータと、前記供給系統と前記電流源インバータとの間に設けられる第2昇圧トランスとを備え、
前記電流源インバータは、
前記内部トランスと前記第2昇圧トランスとの間の電路を開閉する電路開閉部を備え、
前記電圧源インバータが前記ソフトスタートを実行する際に、前記電路開閉部を閉状態に制御して、前記供給系統を介して前記電圧源インバータが出力する電圧により前記内部トランスを励磁する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のマイクログリッドシステム制御方法。
【請求項5】
前記電流源インバータは、
前記電圧源インバータの出力電圧が前記定格電圧に到達し、前記供給系統側の電圧が適正値になった場合、運転開始する、
請求項4に記載のマイクログリッドシステム制御方法。
【請求項6】
前記マイクログリッドシステムは、
内部トランスを有する電流源インバータと、前記供給系統と前記電流源インバータとの間に設けられる第2昇圧トランスとを備え、
前記電流源インバータは、
前記内部トランスと前記第2昇圧トランスとの間の電路を開閉する電路開閉部を備え、
前記電圧源インバータの出力電圧が前記定格電圧に到達した状態で、前記電流源インバータが運転開始することで前記電圧源インバータの出力電流が許容値を超えて前記電圧源インバータの運転が停止した場合、前記電圧源インバータが再度前記ソフトスタートを実行する際に、前記電路開閉部を閉状態に制御して、前記供給系統を介して前記電圧源インバータが出力する電圧により前記内部トランスを励磁する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のマイクログリッドシステム制御方法。
【請求項7】
前記電流源インバータは、
前記供給系統側の電圧が適正値以下となった時点から停電検出待機時間が経過した時点で前記電路開閉部を開状態へ切替制御する停電検出機能を有し、
前記停電検出待機時間が経過する前に再連系を実行する、
請求項6に記載のマイクログリッドシステム制御方法。
【請求項8】
上位系統に接続され、電圧源インバータと、前記電圧源インバータの出力を昇圧する第1昇圧トランスと、前記第1昇圧トランスに接続される供給系統とを備えるマイクログリッドシステムであって、
前記上位系統の停電時に、前記電圧源インバータは、
前記電圧源インバータの出力電圧を定格電圧に上昇させるソフトスタートを実行する、
マイクログリッドシステム。
【請求項9】
上位系統に接続され、昇圧トランスと、前記昇圧トランスに接続される供給系統とを備えるマイクログリッドシステムの前記昇圧トランスに出力電圧を供給する電圧源インバータであって、
前記上位系統の停電時に、前記出力電圧を定格電圧に上昇させるソフトスタートを実行する実行部を備える、
電圧源インバータ。
【請求項10】
上位系統に接続され、昇圧トランスと、前記昇圧トランスに接続される供給系統とを備えるマイクログリッドシステムの前記昇圧トランスに出力電流を供給する電流源インバータであって、
内部トランスと、
前記内部トランスと前記昇圧トランスとの間の電路を開閉する電路開閉部と、
前記供給系統側の電圧が適正値以下となった時点から停電検出待機時間が経過した時点で前記電路開閉部を開状態へ切替制御する停電検出機能と、
前記停電検出待機時間が経過する前に再連系を実行する実行部と
を備える、
電流源インバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクログリッドシステム制御方法、マイクログリッドシステム、電圧源インバータ及び電流源インバータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、災害時のエネルギー供給の確保、エネルギー利用の効率化、地域のエネルギー活用による地域産業の活性化などのメリットがあることから、マイクログリッドが注目されている。マイクログリッドは、平常時は下位系統の潮流を把握し、災害等による上位系統の大規模停電時には、上位系統から切り離され、分散型のエネルギーリソースを用いて自立的に電力を供給することができる。
【0003】
特許文献1には、分散型のエネルギーリソースとしてのインバータ電源を備え、インバータ電源の交流端が昇圧トランスを介して配電系統に接続されるマイクログリッドシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上位系統の大規模停電時にインバータ電源を立ち上げた場合(ブラックスタート時)、インバータ電源の出力側には昇圧トランスが接続されているため、昇圧トランスを励磁するための過渡的に過大な励磁突入電流がインバータ電源から昇圧トランスに流れる。励磁突入電流がインバータ電源の定格電流を超えると、インバータ電源が電流を供給できずインバータ電源の運転が停止するおそれがある。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、ブラックスタート時にインバータ電源を停止することなく立ち上げることができるマイクログリッドシステム制御方法、マイクログリッドシステム、電圧源インバータ及び電流源インバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、本実施形態のマイクログリッドシステム制御方法は、上位系統に接続され、電圧源インバータと、前記電圧源インバータの出力を昇圧する第1昇圧トランスと、前記第1昇圧トランスに接続される供給系統とを備えるマイクログリッドシステムを制御するマイクログリッドシステム制御方法であって、前記上位系統の停電時に、前記電圧源インバータは、前記電圧源インバータの出力電圧を定格電圧に上昇させるソフトスタートを実行する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ブラックスタート時にインバータ電源を停止することなく立ち上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態のマイクログリッドシステムの構成の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態の電圧源インバータの構成の第1例を示す図である。
【
図3】ソフトスタート時の第1例の電圧源インバータの出力電圧の制御方法の一例を示す図である。
【
図4】本実施形態の電圧源インバータの構成の第2例を示す図である。
【
図5】ソフトスタート時の第2例の電圧源インバータの出力電圧及び出力電流の制御方法の一例を示す図である。
【
図6】コントローラによる
図5に示す制御方法を実現する処理手順の一例を示す。
【
図7】ブラックスタート時の本実施形態の電圧源インバータの出力電圧・出力電流及び比較例の電圧源インバータの出力電圧・出力電流の推移の一例を示す図である。
【
図8】電流源インバータの構成の一例を示す図である。
【
図9】ブラックスタート時の電圧源インバータと電流源インバータとの連系の一例を示す図である。
【
図10】本実施形態の電圧源インバータ及び電流源インバータの連系動作の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態のマイクログリッドシステムの構成の一例を示す図である。マイクログリッドシステムは、開閉器2を介して上位系統1に接続される。上位系統は、一般送配電事業者等が所有する送電線、配電線などである。平常時には、開閉器2が閉じた状態になっており、マイクログリッドシステムは、上位系統1を通じて電力供給を受ける。
【0011】
マイクログリッドシステムは、電圧源インバータ10、電圧源インバータ10の出力を昇圧する昇圧トランス51(第1昇圧トランス)、昇圧トランス51に接続される供給系統5、電流源インバータ20、供給系統5と電流源インバータ20との間に設けられる昇圧トランス52(第2昇圧トランス)、電流源インバータ30、供給系統5と電流源インバータ30との間に設けられる昇圧トランス53(第2昇圧トランス)、構内負荷40、供給系統5と構内負荷40との間に設けられる降圧トランス54などを備える。昇圧トランス51~53は、例えば、210Vを6600Vに昇圧することができる。
【0012】
供給系統5は、例えば、6.6kV(高圧)の配電系統であり、複数の降圧トランス4、各降圧トランス4に接続される需要設備(不図示)、降圧トランス4と上位系統1及び昇圧トランス51~53、及び降圧トランス54との間をつなぐ配電線3などを備える。配電線3の下流側には、開閉器2aが接続され、当該開閉器2aよりも下流側の隣接系統と分離できるようになっている。降圧トランス4には、需要家負荷6が接続されている。
【0013】
昇圧トランス52の高圧側と低圧側には、開閉スイッチ61、62が設けられている。昇圧トランス53の高圧側と低圧側には、開閉スイッチ63、64が設けられている。降圧トランス54の高圧側と低圧側には、開閉スイッチ65、66が設けられている。
【0014】
災害等により上位系統1が停電した非常時には、事故復旧の一手段として、開閉器2が閉状態から開状態に切り替えられ、マイクログリッドシステムが上位系統1から切り離される。また、開閉器2aを閉状態から開状態に切り替えることで、マイクログリッドシステムを隣接系統から切り離すことができる。また、開閉スイッチ61~64は、状況に応じて開状態から閉状態に切り替えられる。開閉スイッチ65~66は、常時閉状態になっている。本明細書では、開閉スイッチ61~64は閉状態に切り替えられるとする。そして、供給系統5に電力を供給すべく、まず電圧源インバータ10の運転が開始される(いわゆる、ブラックスタート:供給系統5に電圧が印加されていないときの運転開始)。電圧源インバータ10の出力電圧が定格電圧(例えば、200V程度)に達すると、昇圧トランス51によって配電線3には、6600Vの電圧が供給される。
【0015】
電圧源インバータ10が立ち上がることで配電線3に6600Vの電圧が供給されると、開閉スイッチ61、62、及び昇圧トランス52を介して、電流源インバータ20の出力端には、供給系統5側から適正値の入力電圧が印加される。電流源インバータ20は、出力端の電圧が適正値であると判定すると、運転を開始し、昇圧トランス52を介して供給系統5に所定の電流を供給する。電流源インバータ30についても同様であり、電圧源インバータ10が立ち上がることで配電線3に6600Vの電圧が供給されると、開閉スイッチ63、64、及び昇圧トランス53を介して、電流源インバータ30の出力端には、供給系統5側から適正値の入力電圧が印加される。電流源インバータ30は、出力端の電圧が適正値であると判定すると、運転を開始し、昇圧トランス53を介して供給系統5に所定の電流を供給する。これにより、供給系統5には所要の電力が供給される。なお、
図1の例では、電流源インバータを2台備える構成であるが、電流源インバータの数は2台に限定されるものではなく、非常時に供給系統5が必要とする電力量などを考慮して、電流源インバータの数は適宜変更してもよい。
【0016】
ブラックスタート時に電圧源インバータを立ち上げた際、電圧源インバータの出力側の昇圧トランスを励磁するための励磁電流が流れる。状況によっては、当該励磁電流が過渡的に過大な電流となって電圧源インバータの出力電流の上限値を超えると、電圧源インバータの電流保護回路がトリップ(過電流トリップ)して電圧の立ち上げに失敗することになる。電圧源インバータの電圧の立ち上げは複数回繰り返されるが、その都度過電流トリップが生じて電圧源インバータが運転できないケースが生じる場合がある。本実施形態では、ブラックスタート時に電圧源インバータの出力電圧を立ち上げる際にソフトスタートを実行する。以下、ソフトスタートについて説明する。
【0017】
図2は本実施形態の電圧源インバータ10の構成の第1例を示す図である。電圧源インバータ10は、いわゆる電圧形インバータであり、所定の電圧を出力するタイプのインバータである。電圧源インバータ10は、入力端側に設けられたスイッチ11、スイッチ11に接続されたコイル12(インダクタ)、コイル12に接続されたDC/DCコンバータ13、DC/DCコンバータ13に接続されたDC/ACコンバータ15、DC/ACコンバータ15に接続されたコイル16、コイル16に接続された電圧調整用トランス18、電圧調整用トランス18と出力端との間に設けられたスイッチ19、電圧調整用トランス18の2次側の電圧を検出してDC/ACコンバータ15に対して制御信号を出力するコントローラ100、DC/DCコンバータ13とDC/ACコンバータ15との電路に並列に接続されたコンデンサ14、及びコイル16と電圧調整用トランス18との電路に並列に接続されたコンデンサ17などを備える。
【0018】
ガスバルクに保管されたLPガスをLPガス発電機に供給してLPガス発電機が生成する直流電力を電圧源インバータ10へ供給する。電圧源インバータ10は、入力端から供給された直流電圧をDC/DCコンバータ13によって所要の直流電圧に変換する。変換された直流電圧はDC/ACコンバータ15に入力される。DC/ACコンバータ15は、入力された直流電圧を交流電圧に変換し、変換した交流電圧を、LCフィルタ(コイル16及びコンデンサ17)を介して電圧調整用トランス18に入力する。電圧調整用トランス18は、変換された交流電圧が電圧源インバータ10の定格電圧(例えば、200V程度)になるように電圧調整する。なお、電圧源インバータ10に直流電力を供給する電源は、LPガス発電機に限定されるものではなく、他の直流電源でもよい。
【0019】
コントローラ100は、電圧源インバータ10の出力電圧の立ち上がり時に、出力電流が上限値を超えないようにソフトスタートを実行する。具体的には、コントローラ100(電圧源インバータ10)は、上位系統1の停電時に、電圧源インバータ10の出力電圧を定格電圧に上昇させるソフトスタートを実行する。
【0020】
図3はソフトスタート時の第1例の電圧源インバータ10の出力電圧の制御方法の一例を示す図である。
図3において、縦軸は電圧(交流電圧の実効値)を示し、横軸は時間を示す。運転開始時点を0で表す。コントローラ100は、運転開始から第1時点t1までの加速時間Δt1では、出力電圧が0Vから所定電圧まで増加するようにDC/ACコンバータ15を制御する。コントローラ100は、第1時点t1から第2時点t2までの待機期間Δt2では、出力電圧を所定電圧で維持するようにDC/ACコンバータ15を制御する。コントローラ100は、第2時点t2から第3時点t3までの加速時間Δt3では、出力電圧を所定電圧から定格電圧まで増加するようにDC/ACコンバータ15を制御する。
【0021】
所定電圧は、0Vから定格電圧までの範囲内で適宜設定できる。加速時間Δt1は、例えば、0秒から5秒までの間の時間、待機時間Δt2は、例えば、0.1秒から5秒までの間の時間、加速時間Δt3は、例えば、0.1秒から5秒までの間の時間で適宜設定できる。加速時間Δt1、Δt3、待機時間Δt2、及び所定電圧は、予めユーザが設定することができる。
図3に示すように、出力電圧を定格電圧に上昇させる途中で、出力電圧を所定電圧に維持することにより、昇圧トランス51の励磁や供給系統5に接続された負荷機器への急激な突入電流を抑制して、ブラックスタート時に電圧源インバータ10(インバータ電源)を停止することなく立ち上げることができる。
【0022】
また、加速時間Δt1、Δt3における出力電圧の立ち上がり速度を調整できるので、昇圧トランス51の励磁や供給系統5に接続された負荷機器への急激な突入電流を抑制して、ブラックスタート時に電圧源インバータ10を停止することなく立ち上げることができる。
【0023】
図2及び
図3に示す第1例では、電圧源インバータ10の出力電圧の推移を制御する構成であったが、ソフトスタートは第1例の構成に限定されるものではない。例えば、電圧源インバータ10の出力電圧だけでなく出力電流も検出してソフトスタートを実行してもよい。以下、出力電流も考慮したソフトスタートについて説明する。
【0024】
図4は本実施形態の電圧源インバータ10の構成の第2例を示す図である。
図2に示す第1例との相違点は、コントローラ100が電圧調整用トランス18の2次側の電圧だけでなく、電圧調整用トランス18の2次側の出力電流を検出してDC/ACコンバータ15に対して制御信号を出力する点である。他の構成は第1例と同様であるので説明は省略する。
【0025】
コントローラ100(電圧源インバータ10)は、上位系統1の停電時に、電圧源インバータ10の出力電流が電流閾値以下の場合、電圧源インバータ10の出力電圧を増加させ、出力電流が電流閾値を超えた場合、出力電圧を維持し、出力電圧を維持した後、出力電流が電流閾値以下となるように、出力電圧を調整して定格電圧まで増加させる。
【0026】
図5はソフトスタート時の第2例の電圧源インバータ10の出力電圧及び出力電流の制御方法の一例を示す図である。
図5において、縦軸は電圧(交流電圧の実効値)及び電流(交流電流の実効値)を示し、横軸は時間を示す。コントローラ100は、電圧源インバータ10の出力電圧を初期設定値で上昇させる。初期設定値は、出力電圧が0Vから定格電圧に到達するまでの加速時間tであり、加速時間tは、例えば、0秒から5秒の範囲で適宜設定できる。コントローラ100は、電圧源インバータ10の運転開始(立ち上げ)とともに出力電圧及び出力電流を検出する。
【0027】
コントローラ100は、出力電流が電流閾値以下の場合、出力電圧を初期設定値で上昇させる。コントローラ100は、出力電流が電流閾値を超えた場合、その時点における出力電圧の電圧値を維持する。出力電圧を当該電圧値に維持することは、出力電圧の傾き(時間に対する電圧の増分を0にすることに相当する。コントローラ100は、出力電圧を当該電圧値に維持した後は、出力電流が電流閾値以下になるように、出力電圧の傾きを調整しつつ、定格電圧まで上昇させる。
【0028】
図6はコントローラ100による
図5に示す制御方法を実現する処理手順の一例を示す。コントローラ100は、設定した加速時間tでソフトスタートを開始し(S11)、電圧源インバータ10の出力電流を検出する(S12)。以降、コントローラ100は、所定のサンプリング周期で出力電圧及び出力電流を検出する。
【0029】
コントローラ100は、出力電流>閾値(電流閾値)であるか否かを判定し(S13)、出力電流>閾値でない場合(S13でNO)、設定した加速時間tで出力電圧を定格電圧まで上昇させる(S14)。コントローラ100は、出力電圧が定格電圧に到達したか否かを判定し(S15)、定格電圧に到達していない場合(S15でNO)、ステップS13以降の処理を続ける。定格電圧に到達した場合(S15でYES)、コントローラ100は、ソフトスタートが完了したとして、ソフトスタートを終了し(S16)、処理を終了する。
【0030】
出力電流>閾値である場合(S13でYES)、コントローラ100は、出力電圧の傾き(時間に対する電圧の増加分)を0にし(S17)、出力電流>閾値(電流閾値)であるか否かを判定する(S18)。出力電流>閾値でない場合(S18でNO)、コントローラ100は、出力電圧の傾きを増加し(S19)、出力電流>閾値(電流閾値)であるか否かを判定する(S20)。
【0031】
出力電流>閾値でない場合(S20でNO)、コントローラ100は、出力電圧を定格電圧まで上昇させ(S21)、出力電圧が定格電圧に到達したか否かを判定し(S22)、定格電圧に到達していない場合(S22でNO)、ステップS18以降の処理を続ける。定格電圧に到達した場合(S22でYES)、コントローラ100は、ステップS16の処理を行う。
【0032】
ステップS18又はステップS20において、出力電流>閾値である場合(S18でYES又はS20でYES)、コントローラ100は、出力電圧の傾きを減少し(S23)、出力電流>閾値であるか否かを判定する(S24)。出力電流>閾値でない場合(S24でNO)、コントローラ100は、ステップS19以降の処理を続ける。出力電流>閾値である場合(S24でYES)、コントローラ100は、ソフトスタートを完了できないとして、ソフトスタートを終了し(S25)、処理を終了する。
【0033】
図7はブラックスタート時の本実施形態の電圧源インバータ10の出力電圧・出力電流及び比較例の電圧源インバータの出力電圧・出力電流の推移の一例を示す図である。
図7Aは本実施形態の電圧源インバータ10の出力電圧及び出力電流を示し、
図7Bは比較例の電圧源インバータの出力電圧及び出力電流を示す。比較例の電圧源インバータは、本実施形態のようなソフトスタート機能を具備していない。
【0034】
図7Aに示すように、本実施形態の電圧源インバータ10では、ソフトスタート機能を具備しているので、出力電圧は、例えば、
図3に例示したようなスフトスタートの期間を経過して定格電圧に到達する。また、出力電流は、ソフトスタートによって過渡的に急増することが抑制され、上限値を超えることなく繋がる負荷が必要な電流まで増加する。なお、ソフトスタート機能は、
図7Aの例に限定されるものではなく、例えば、
図5に示した方法でもよい。
【0035】
一方、
図7Bに示すように、比較例の電圧源インバータでは、ソフトスタート機能を具備しないので、出力電圧は一定(ソフトスタートを具備する場合に比べて)で増大し、出力電流も変圧器の励磁や電気負荷の容量成分等による急激な突入電流となり、上限値を超えることで過電流トリップが生じ、電圧源インバータの立ち上げに失敗する。電圧源インバータに再度立ち上げ機能がある場合、起動を繰り返すが、同様の現象によって立ち上げに失敗し、電圧源インバータの運転ができない事態が生じる可能性がある。
【0036】
上述のように、本実施形態によれば、昇圧トランスの励磁や供給系統に接続された負荷機器への急激な突入電流を抑制して、ブラックスタート時に電圧源インバータ10を停止することなく立ち上げることができる。
【0037】
次に、電流源インバータについて説明する。
図1において、電流源インバータ20、30を備えるが、いずれも構成は同等であるので、以下では、電流源インバータ20について説明する。
【0038】
図8は電流源インバータ20の構成の一例を示す図である。電流源インバータ20は、いわゆる電流形インバータであり、所定の電流を出力するタイプのインバータである。電流源インバータ20は、入力端側に設けられたスイッチ21、スイッチ21に接続されたDC/ACコンバータ22、DC/ACコンバータ22に接続されたコイル23、コイル23に接続された内部トランス25、内部トランス25と出力端との間に設けられた電路開閉部(スイッチ)26、昇圧トランス側から電流源インバータ20の出力端に入力される入力電圧を検出して電路開閉部26の開閉を制御するコントローラ200、及びコイル23と内部トランス25との電路に並列に接続されたコンデンサ24などを備える。
【0039】
直流発電機で生成された直流電力を電流源インバータ20へ供給する。電流源インバータ20は、入力端から供給された直流電圧をDC/ACコンバータ22によって交流電圧に変換し、変換した交流電圧を、LCフィルタ(コイル23及びコンデンサ24)を介して内部トランス25に入力する。内部トランス25は、電路開閉部26が閉じている場合、所要の交流電流を昇圧トランスへ供給する。なお、電流源インバータ20に直流電力を供給する電源は、直流発電機に限定されるものではなく、他の直流電源でもよい。
【0040】
図9はブラックスタート時の電圧源インバータ10と電流源インバータ20との連系の一例を示す図である。
図9において、縦軸は電圧源インバータ10の出力電圧を示し、横軸は時間を示す。災害等により上位系統1が停電した非常時には、マイクログリッドシステムが上位系統1から切り離される。そして、供給系統5に電力を供給すべく、まず電圧源インバータ10の運転が開始される(ブラックスタート)。電圧源インバータ10は、
図9に示すようにソフトスタートを実行し、出力電圧が定格電圧に到達する。電圧源インバータ10の出力電圧が定格電圧(例えば、200V程度)に達すると、昇圧トランス51によって配電線3には、6600Vの電圧が供給される。
【0041】
電圧源インバータ10が立ち上がることで配電線3に6600Vの電圧が供給されると、電流源インバータ20の出力端には、供給系統5側から適正値の入力電圧が印加される。電流源インバータ20のコントローラ200は、出力端の入力電圧が適正値であると判定すると、電路開閉部26を開状態から閉状態にして電流源インバータ20の運転を開始する。
図9の例では、電圧源インバータ10が運転開始した時点から時間Δt4経過した時点で電流源インバータ20の運転が開始される。なお、時間Δt4は、数十秒から1分程度かかるため、電流源インバータ20が運転を開始する際には、出力端の入力電圧(適正値)がそのまま内部トランス25に印加される。すなわち、電流源インバータ20の電路開閉部26が閉じると、出力端の入力電圧による励磁突入電流が発生し、結果として電圧源インバータ10の出力電流が過渡的に過大な電流となり、電圧源インバータ10が脱落(運転停止)するケースが発生する可能性がある。
【0042】
そこで、本実施形態では、以下のようにしてマイクログリッドシステムを制御(連系)する。すなわち、電流源インバータ20は、内部トランス25と昇圧トランス52(第2昇圧トランス)又は出力端との間の電路を開閉する電路開閉部26を備え、電圧源インバータ10がソフトスタートを実行する際に、電路開閉部26を閉状態に制御して、供給系統5を介して電圧源インバータ10が出力する電圧により電流源インバータ20の内部トランス25を励磁する。電流源インバータ30を用いる場合も同様である。
【0043】
そして、電流源インバータ20は、電圧源インバータ10の出力電圧が定格電圧に到達し、供給系統5側の電圧が適正値になった場合、運転開始する。電流源インバータ30を用いる場合も同様である。
【0044】
図10は本実施形態の電圧源インバータ10及び電流源インバータ20の連系動作の一例を示す図である。
図10において、縦軸は電圧源インバータ10の出力電圧を示し、横軸は時間を示す。時点t0から時点t11までのソフトスタート期間が経過すると電圧源インバータ10の出力電圧は定格電圧に到達する。時点t12において、電流源インバータ20のコントローラ200が出力端の電圧(昇圧トランス52からの入力電圧)が適正値であると判定し、電路開閉部26を閉じたとする。このとき、電流源インバータ20の内部トランス25を励磁する急峻な励磁電流が流れ、電圧源インバータ10の出力電流が急激に増加し、過電流により電圧源インバータ10が脱落(運転停止)する。電流源インバータ20のコントローラ200は、時点t12以降も電路開閉部26を閉じた状態に保持する。具体的には、
図10に示すように、停電検出待機時間を電流源インバータ20の再連系時点よりも長くする。停電検出待機時間は、供給系統側の電圧が適正値以下となる時点から電路開閉部26を開状態へ切り替えるまでの待機時間である。停電検出待機時間中は、電路開閉部26が閉じた状態となっている。
【0045】
脱落した電圧源インバータ10は、時点t12から再連系待機時間が経過した時点t13でソフトスタートを再開する。そして、ソフトスタート期間が経過すると電圧源インバータ10の出力電圧は定格電圧に到達する。ソフトスタート期間では、電流源インバータ20の電路開閉部26は閉状態に保持されているので、電流源インバータ20の内部トランス25は、電圧源インバータ10のソフトスタート中の定格電流以下の電流で励磁されるため、電圧源インバータ10の出力電流は急峻な突入電流のようにならない。その後、時点t14で電流源インバータ20の再連系を行う。この時点t14では、電流源インバータ20の内部トランス25は励磁されているので、電圧源インバータ10の出力電流が急激に増加することなく、電圧源インバータ10の脱落を防止できる。これにより、マイクログリッドシステムにおけるブラックスタートが成功する。電流源インバータ30を用いる場合も同様である。
【0046】
上述のように、電圧源インバータ10の出力電圧が定格電圧に到達した状態で、電流源インバータ20が運転開始することで電圧源インバータ10の出力電流が許容値を超えて電圧源インバータ10の運転が停止した場合、電流源インバータ20(コントローラ200)は、電圧源インバータ10が再度ソフトスタートを実行する際に、電路開閉部26を閉状態に制御して、供給系統5を介して電圧源インバータ10が出力する電圧により内部トランス25を励磁してもよい。これにより、電流源インバータによる連系を行う場合でも、電圧源インバータの脱落(運転停止)を防止できる。
【0047】
また、電流源インバータ20は、供給系統5側の電圧が適正値以下となった時点から停電検出待機時間が経過した時点で電路開閉部26を開状態へ切替制御する停電検出機能を有する。電流源インバータ20は、停電検出機能が動作する前、すなわち、停電検出待機時間が経過する前(電路開閉部26が開状態へ切り替わる前)に再連系を実行することができる。これにより、電流源インバータによる連系を行う場合でも、電圧源インバータの脱落(運転停止)を防止できる。
【0048】
(付記1)マイクログリッドシステム制御方法は、上位系統に接続され、電圧源インバータと、前記電圧源インバータの出力を昇圧する第1昇圧トランスと、前記第1昇圧トランスに接続される供給系統とを備えるマイクログリッドシステムを制御するマイクログリッドシステム制御方法であって、前記上位系統の停電時に、前記電圧源インバータは、前記電圧源インバータの出力電圧を定格電圧に上昇させるソフトスタートを実行する。
【0049】
(付記2)マイクログリッドシステム制御方法は、付記1において、前記上位系統の停電時に、前記電圧源インバータは、運転開始から第1時点までの間で前記電圧源インバータの出力電圧を前記所定電圧まで増加させ、前記第1時点から第2時点までの間で前記出力電圧を前記所定電圧に維持し、前記第2時点から第3時点までの間で前記出力電圧を前記所定電圧から前記定格電圧へ増加させる。
【0050】
(付記3)マイクログリッドシステム制御方法は、付記1又は付記2において、前記上位系統の停電時に、前記電圧源インバータは、前記電圧源インバータの出力電流が電流閾値以下の場合、前記出力電圧を増加させ、前記電圧源インバータの出力電流が前記電流閾値を超えた場合、前記出力電圧を維持し、前記出力電圧を維持した後、前記出力電流が前記電流閾値以下となるように、前記出力電圧を調整して前記定格電圧まで増加させる。
【0051】
(付記4)マイクログリッドシステム制御方法は、付記1から付記3のいずれか一つにおいて、前記マイクログリッドシステムは、内部トランスを有する電流源インバータと、前記供給系統と前記電流源インバータとの間に設けられる第2昇圧トランスとを備え、前記電流源インバータは、前記内部トランスと前記第2昇圧トランスとの間の電路を開閉する電路開閉部を備え、前記電圧源インバータが前記ソフトスタートを実行する際に、前記電路開閉部を閉状態に制御して、前記供給系統を介して前記電圧源インバータが出力する電圧により前記内部トランスを励磁する。
【0052】
(付記5)マイクログリッドシステム制御方法は、付記4において、前記電流源インバータは、前記電圧源インバータの出力電圧が前記定格電圧に到達し、前記供給系統側の電圧が適正値になった場合、運転開始する。
【0053】
(付記6)マイクログリッドシステム制御方法は、付記1から付記3のいずれか一つにおいて、前記マイクログリッドシステムは、内部トランスを有する電流源インバータと、前記供給系統と前記電流源インバータとの間に設けられる第2昇圧トランスとを備え、前記電流源インバータは、前記内部トランスと前記第2昇圧トランスとの間の電路を開閉する電路開閉部を備え、前記電圧源インバータの出力電圧が前記定格電圧に到達した状態で、前記電流源インバータが運転開始することで前記電圧源インバータの出力電流が許容値を超えて前記電圧源インバータの運転が停止した場合、前記電圧源インバータが再度前記ソフトスタートを実行する際に、前記電路開閉部を閉状態に制御して、前記供給系統を介して前記電圧源インバータが出力する電圧により前記内部トランスを励磁する。
【0054】
(付記7)マイクログリッドシステム制御方法は、付記6において、前記電流源インバータは、前記供給系統側の電圧が適正値以下となった時点から停電検出待機時間が経過した時点で前記電路開閉部を開状態へ切替制御する停電検出機能を有し、前記停電検出待機時間が経過する前に再連系を実行する。
【0055】
(付記8)マイクログリッドシステムは、上位系統に接続され、電圧源インバータと、前記電圧源インバータの出力を昇圧する第1昇圧トランスと、前記第1昇圧トランスに接続される供給系統とを備えるマイクログリッドシステムであって、前記上位系統の停電時に、前記電圧源インバータは、前記電圧源インバータの出力電圧を定格電圧に上昇させるソフトスタートを実行する。
【0056】
(付記9)電圧源インバータは、上位系統に接続され、昇圧トランスと、前記昇圧トランスに接続される供給系統とを備えるマイクログリッドシステムの前記昇圧トランスに出力電圧を供給する電圧源インバータであって、前記上位系統の停電時に、前記出力電圧を定格電圧に上昇させるソフトスタートを実行する実行部を備える。
【0057】
(付記10)電流源インバータは、上位系統に接続され、昇圧トランスと、前記昇圧トランスに接続される供給系統とを備えるマイクログリッドシステムの前記昇圧トランスに出力電流を供給する電流源インバータであって、内部トランスと、前記内部トランスと前記昇圧トランスとの間の電路を開閉する電路開閉部と、前記供給系統側の電圧が適正値以下となった時点から停電検出待機時間が経過した時点で前記電路開閉部を開状態へ切替制御する停電検出機能と、前記停電検出待機時間が経過する前に再連系を実行する実行部とを備える。
【0058】
各実施形態に記載した事項は相互に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した独立請求項及び従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることが可能である。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 上位系統
5 供給系統
10 電圧源インバータ
20、30 電流源インバータ
25 内部トランス
26 電路開閉部
51、52、53 昇圧トランス
54 降圧トランス
100、200 コントローラ