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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128764
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】熱延鋼板の酸化スケールの除去方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 45/06 20060101AFI20240913BHJP
   B21B 45/08 20060101ALI20240913BHJP
   C23G 1/04 20060101ALI20240913BHJP
   C23G 3/02 20060101ALI20240913BHJP
   C23G 1/08 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B21B45/06 R
B21B45/06 S
B21B45/08 D
C23G1/04
C23G3/02
C23G1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037949
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】久保田 典禎
(72)【発明者】
【氏名】多根井 寛志
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲濱▼ 義久
(72)【発明者】
【氏名】近藤 泰光
【テーマコード(参考)】
4K053
【Fターム(参考)】
4K053PA02
4K053PA12
4K053QA01
4K053RA19
4K053SA06
4K053SA13
4K053SA16
4K053TA02
4K053YA02
4K053YA03
(57)【要約】
【課題】鋼板の酸洗速度を抜本的に高める熱延鋼板へのウェットブラスト処理の適正な適用方法を提供する。
【解決手段】熱延鋼板の酸化スケールの除去方法であって、グリットを用いるウェットブラスト処理により除去する工程と、その後の酸洗工程を含むことを特徴とする熱延鋼板のスケール除去方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱延鋼板の酸化スケールの除去方法であって、グリットを用いるウェットブラスト処理により除去する工程と、その後の酸洗工程を含むことを特徴とする熱延鋼板のスケール除去方法。
【請求項2】
前記ウェットブラスト処理工程が、鋼板表面の酸化スケールを90質量%以上除去することを特徴とする請求項1に記載の熱延鋼板のスケール除去方法。
【請求項3】
前記ウェットブラスト処理工程が、粒径30~1000μmのグリットを用いて、投射速度5m/s以上、投射量4.0×10-33/m2以上で行われる、請求項1または2に記載の熱延鋼板のスケール除去方法。
【請求項4】
前記投射量が、40.0×10-33/m2以下である請求項3に記載の熱延鋼板のスケール除去方法。
【請求項5】
前記酸洗工程で用いられる酸液が、鉄イオン、インヒビターを含有し、塩化水素濃度1~12質量%の塩酸水溶液である請求項1または2に記載の熱延鋼板のスケール除去方法。
【請求項6】
前記ウェットブラスト処理工程の前に、テンションレベラー処理又はスキンパスミル処理を行う、請求項1または2に記載の熱延鋼板のスケール除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼板の表面に生じた酸化スケールの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱間圧延のために加熱された熱延鋼板の表面は酸化され、鋼板表面にスケールが形成される。続く工程での冷間圧延に際し、表面にスケールが形成された鋼板のまま圧延すると、圧延によってスケールの一部は割れて剥離するが、一部は鋼板表面に付着したまま圧延が続けられる。スケールが部分的に付着した鋼板表面を圧延すると、スケールが鋼板(地金)に押し込まれて、スケール疵とよばれる表面疵が鋼板に生成される。また、圧延ロール表面にも疵が発生し、鋼板表面にロール疵と呼ばれる表面疵が転写される。このような表面疵は、鋼板の表面品位を低下させる。
【0003】
このようなスケール疵の生成を防ぐために、圧延前にスケールを除去する、すなわちデスケーリングが従来から行われている。デスケーリングの手法として、一般的に酸洗処理が行われる。
【0004】
熱延鋼板の表面に生じるスケール構造の模式図を図1に示す。生成するスケールは、表層から母材(鋼)に向かって順に、Fe23、Fe34、FeOから成る鉄酸化物の層である。さらに、鋼中に含まれている添加元素がFeO層と母材界面との間に濃化して存在していることが知られている。酸洗工程においては、鉄酸化物のスケールのみならず、この界面付近に濃化した鋼中の添加元素の層(以下、単に「濃化層」ともいう)も除去する必要がある。自動車の外板のような表面品位への要求の厳しい鋼種に関しては、高い表面均一性が要求される結果、酸洗時間が長くなる傾向がある。
【0005】
熱延鋼板の酸洗を促進する方法として、酸洗前にスケールブレーカやテンションレベラー、スキンパスミル、研削ブラシやショットブラストなどにより、スケールに亀裂を導入し、酸をスケール中に浸透しやすくすることによって、酸洗速度を向上させることが行われている。
【0006】
特許文献1には、ステンレス熱延鋼帯の例ではあるが、平均粒径が0.05mm以上0.30mm未満のショットを用いてショットブラスト処理(乾式)を行なった後、酸にて酸洗する方法が記載されている。しかし、特許文献1のショットブラスト処理は、スケールに亀裂を導入する事を目的としており、スケールそれ自体の除去を目的としていなので、酸洗速度が大きく向上するほどではない。
【0007】
特許文献2には、鋼帯表面のスケールにスケールブレーカ、スキンパス等の亀裂発生機構にて亀裂を発生させ、次いで固定粒子を圧力気体により鋼帯表面に衝突させ、次いで酸洗する方法が記載されている。
特許文献1および2はいずれも乾式のブラストの適用例である。
【0008】
特許文献3には、水と鋼鉄グリットから成るスラリー混合物を用いてウェットブラストを行い、薄板金から酸化鉄スケールを取り除き、錆抑制特性によって薄板金表面を作成する方法が記載されている。特許文献3は、本質的にすべてのスケールを取り除くものであるので、ウェットブラスト処理に続いて酸洗処理を行うことは想定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-56358号公報
【特許文献2】特開平4-72083号公報
【特許文献3】特表2012-522654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、鋼板の酸洗速度を抜本的に高める観点から、熱延鋼板へのウェットブラスト処理の適正な適用方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、鋼板の酸洗を促進する前処理方法として、グリットによるウェットブラストを適用することを初めて試みた。その結果、従来のショットブラスト処理に比較して、グリットを用いるウェットブラスト処理では、熱延鋼板の表面に生じる鉄酸化物層のFe23~FeO層までの大部分を除去できること、それによって、酸洗処理で除去すべき範囲が極少量となり、特に、塩酸に対する溶解速度の高いFeOと濃化層となるので、酸洗時間を50%以上大幅に短縮できることが判明した。
【0012】
グリットによるウェットブラスト処理を用いた場合の高い酸洗促進効果は、次の作用の違いによると推察される。グリットによるブラスト処理の類似技術として、従来から用いられているショットブラスト処理がある。ショットブラスト処理では研磨材が残留する懸念から、研磨材に球形のショットが用いられる。ショットブラスト処理では、球形の研磨材が衝突した際に、球形のため衝突面積が大きく、スケールの層を押込み、スケール層への亀裂の導入が主たる作用になる。一方、グリットを用いるウェットブラストでは、グリットの角がスケール層に衝突するため、スケール層の押し込みが少なく、スケール層の剥離量も多い傾向になる。つまり、ショットに対し、グリットを用いることで、スケール層の大部分を容易に剥離させることができることが分かった。また、ウェットブラストでは、研磨材と共に質量をもった水を投射するため、グリットが熱延鋼板と衝突すると同時に質量をもった水でグリット及び剥離したスケールを押し流すことができ、熱延鋼板表面にグリット及び剥離したスケールが残留しにくく、結果としてスケールの剥離性が高いと考えられる。一方で、前記の濃化層は母材(鋼)と強固に結合しており、グリットを用いるウェットブラストだけで、除去するには多くの投射量が必要であることも分かった。結果として、スケール層の大部分はグリットを用いるウェットブラストで除去させ、残るFeO層と濃化層は酸洗処理で溶解除去させることが、最も効率が高いことが判明した。本発明は、以上の知見から成されたものである。
【0013】
かくして、本発明によれば、下記を提供する:
(1)熱延鋼板の酸化スケールの除去方法であって、グリットを用いるウェットブラスト処理により除去する工程と、その後の酸洗工程を含むことを特徴とする熱延鋼板のスケール除去方法。
(2)前記ウェットブラスト処理工程が、鋼板表面の酸化スケールを90質量%以上除去することを特徴とする、前記(1)に記載の熱延鋼板のスケール除去方法。
(3)前記ウェットブラスト処理工程が、粒径30~1000μmのグリットを用いて、投射速度5m/s以上、投射量4.0×10-33/m2以上で行われる、前記(1)または(2)に記載の熱延鋼板のスケール除去方法。
(4)前記投射量が、40.0×10-33/m2以下である前記(3)に記載の熱延鋼板のスケール除去方法。
(5)前記酸洗工程で用いられる酸液が、鉄イオン、インヒビターを含有し、塩化水素濃度1~12質量%の塩酸水溶液である前記(1)~(4)のいずれか1つに記載の熱延鋼板のスケール除去方法。
(6)前記ウェットブラスト処理工程の前に、テンションレベラー処理又はスキンパスミル処理を行う、前記(1)~(5)のいずれか1つに記載の熱延鋼板のスケール除去方法。
【発明の効果】
【0014】
グリットを用いるブラスト処理は投射量が少なくても酸洗時間を大幅に短縮することができる。また、その結果、酸洗処理に用いる酸洗槽の容量を従来よりも小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、熱延鋼板の表面に生じるスケールの構造を示す模式図である。
図2図2は、本発明の熱延鋼板のスケール除去方法を含む、鋼の熱間圧延から、最終的な製品の出荷までの模式図である。
図3図3は、本発明の熱延鋼板のスケール除去方法の前にテンションレベラー処理またはスキンパス処理を設けた模式図である。
図4図4は、従来のショットブラスト処理と、本発明のグリットを用いるウェットショットブラスト処理における、酸洗完了時間と、研磨材投射量との関係を表すグラフである。
図5図5は、FeOの溶解・剥離過程と酸洗時間との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、熱延鋼板の酸化スケールの除去方法であって、グリットを用いるウェットブラスト処理により除去する工程と、その後の酸洗工程を含むことを特徴とする熱延鋼板のスケール除去方法である。
【0017】
(本発明のスケール除去方法の対象となる熱延鋼板)
本発明で用いる用語「熱延鋼板」とは、熱間圧延で製造される鋼板をいう。本発明の方法の対象となる熱延鋼板は、酸洗処理を実施してデスケーリングしている熱延鋼板全般である。具体的には、酸洗材、冷延材、表面処理材(冷延、熱延の両方)、一般構造用鋼板、建築用鋼板、自動車用鋼板、加工用鋼板、ブリキ等を挙げることができる。これらの鋼板はいずれも、熱間圧延工程においてその表面に図1に示すように、表層から母材(鋼)に向かって順に、Fe23、Fe34、FeOから成る鉄酸化物の層が生成している。さらに、鋼中に含まれている添加元素がFeO層と母材界面との間に濃化して存在する場合もあるが、この鋼中添加元素の濃化層がデスケール性に大きな影響を及ぼさない鋼種である。
【0018】
本発明の熱延鋼板のスケール除去方法は、グリットを用いるウェットブラスト処理により除去する工程と、その後の酸洗工程を含む。図2に本発明の熱延鋼板のスケール除去方法を含む、鋼の熱間圧延から、最終的な製品の出荷までの模式図を示す。
【0019】
(グリットを用いるウェットブラスト処理工程)
ウェットブラスト処理では、研磨材としてグリットを用いる。グリットとは、研磨材の一種で、球状の研削材を使用するショットブラストとは異なり、鋭角な形状をした研削材をいう。本実施形態において、グリットとは、使用前の状態で、稜角をもつ角張った形状であり、丸い部分がその粒子の全表面積の1/2未満の粒子をいう。なお、ショットとは、使用前の状態で、稜角、破砕面又は他の鋭い表面欠陥がなく、長径が短径の2倍以内の略球形状の粒子をいう。
本発明で用いることができるグリットには、一般的に使用されるグリットを用いることができる。例えば市場流通量の多い、JISZ0311、JISG5903に規定される金属系グリット、JISZ0312に規定されるアルミナグリットを用いることができる。
【0020】
使用するグリットの粒径は、30~1000μmであることが好ましい。粒径が30μm以上とすることで、1粒子あたりの研磨材の衝突エネルギーを高めることができるので、ウェットブラストによる酸化スケールの除去効率を高めることができる。一方、粒径1000μm以下とすることで、設定された投射量に対する粒子数、つまり研磨材の衝突回数を十分に確保することができるので、ブラストによるスケールの除去効率を高めることができる。さらに、100μm以上400μm以下の範囲がより好ましい。このように、グリットの粒径に適正な範囲が存在するのは、スケール層の研削量が1粒子あたりの研削力と衝突粒子数との積によって決まるためである。
【0021】
ここで粒径とは平均粒径を示す。本発明における平均粒径はMie散乱理論に基づくレーザ回折散乱法(JIS Z 8825)によって測定したものとする。レーザ回折散乱式粒度分布測定装置として、例えば堀場製作所製LA-960が挙げられる。
【0022】
また、グリットの特性を決める一つの項目として、グリット自体の密度が挙げられるが、本発明のグリットに関しては、密度より粒径の方が重要である。グリットの密度が変化するより、粒径が変化する方がグリット1粒子あたりの質量の影響が大きいためである。例えば、粒径が2倍大きくなると1粒子あたりの重量は8倍になるのに対し、グリットの密度が2倍大きくなっても1粒子あたりの質量は2倍しか変わらない。また、上記の研磨材粒径が30~1000μmの範囲であれば、スケールの破壊・研削にとって十分なエネルギーを有しており、研磨材の密度の影響は小さい。
【0023】
本発明のスケール除去方法では、酸洗工程に先立ち、グリットを用いるウェットブラスト処理工程を設ける。すなわち、球状の研削材を使用するショットブラストに代えて、グリットを用いるウェットブラスト処理を行う点に特徴がある。
【0024】
図4は、以下に示す実施例、比較例に基づく、スケール除去方法における、酸洗完了時間と、研磨材投射量との関係をグリットおよびショットで比較したグラフである。いずれの投射量においてもグリットの方がショットに比較して酸洗時間が短くなる。特に、本発明のグリットを用いるウェットブラスト処理では、研磨材の投射量の増加に伴って、スケールは剥離して粉砕除去されていくので、酸洗完了時間は投射量が比較的少ない領域で急激に短くなっている。
【0025】
グリットを用いるウェットブラスト処理によって、鋼板表面の酸化スケールを90質量%除去するのが好ましい。
ここの、酸化スケールの除去率は、熱延鋼板の酸化スケール除去前後の質量変化から求める。酸化スケール除去後の重量は、インヒビターを添加した酸洗溶液で所定時間浸漬した後、直ちに水洗、乾燥を行った際に、外観でスケールが完全に除去できた最小の酸洗時間の状態とし、除去されたスケール総重量に対して、ブラスト処理における研削量の割合(質量%)を示す。
【0026】
スケール除去率が90質量%以上が好ましい理由は、以下による。まずスケールが鋼板から除去される過程を説明する。酸化スケールは酸に対する溶解速度がFe23<Fe34<FeOの順でFeOの方が速く、通常の酸化スケールは前述の通り、表層から母材(鋼)に向かって順に、Fe23、Fe34、FeOから成っている。そのため、スケールが鋼板表面から除去される過程は、スケールの亀裂から酸が浸透し、スケール/母材界面のFeOが溶解される過程(1)、スケール/母材界面のFeOの溶解が進み、FeOを含めたスケールが塊り状で剥離する過程(2)、母材に残留したFeOが溶解する過程(3)の3段階の過程で進行する事が知られている。これら過程を溶解量で整理すると図5となる。
従来技術である、ショットブラストやテンションレベラーでは亀裂を導入することに主眼が置かれているため、過程(1)の酸浸透・FeO溶解の確率頻度を増やし、過程(2)のFeOの塊状剥離を短時間化させる。本発明である、グリットを用いたウェットブラストでは前記の通り、スケールがFeOと母材の界面からスケールを剥離除去するため、過程(1)および(2)の少なくとも一部を省略でき、酸洗時間を大幅に短時間化できるものである。ウェットブラスト処理によるスケールの除去率が50質量%以上となれば、スケールの残留率も50質量%程度以下となるため、過程(2)におけるスケール/母材界面のFeOの溶解が半分程度となり、ウェットブラスト後の酸洗時間を半分以下にできるため、スケール除去率を50質量%以上とすることが好ましい。ウェットブラストによる100質量%未満のスケール除去率ではFeOや鋼中の濃化元素の酸化物が母材表面に膜状に残っており、この膜状の酸化物も溶解除去する必要があるため、酸洗時間を半分以下にするためには、ウェットブラスト処理による鋼板表面の酸化スケールの除去率は、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0027】
さらに、図4では、グリットの投射量が、4.0×10-33/m2(30kg/m2)のところで、酸洗工程単独の場合と比較して、酸洗時間が1/2になったことを示している。グリットの投射量が、4.0×10-33/m2(30kg/m2)での酸化スケールの除去比率は90質量%である。
【0028】
さらに、グリットの投射量を増加させて、13×10-33/m2(100kg/m2)のところで酸洗完了時間の最小値に漸近している。但し、Fe23~FeO層が除去されても、鋼界面にある鋼中添加元素の濃化部分は鋼板上にほとんど残った状態となっている。投射量13×10-33/m2(100kg/m2)以降、さらに投射量を増加させると、この鋼中添加元素の濃化部も徐々に除去されるものの、酸洗時間は漸減するだけで、グリットの投射量増加に見合った酸洗時間の短縮は得られていない。
【0029】
一方、ショットを用いる乾式ショットブラスト処理では、ショットの投射量を40×10-33/m2(300kg/m2)を超えても酸洗完了時間は、酸洗工程単独の場合と比較して、1/2まで短縮されていない。したがって、酸洗時間の短縮効果がある投射量の上限を、40×10-33/m2(300kg/m2)してもよい。より好ましくはグリットによるウェットブラストで酸洗時間が漸近する投射量13×10-33/m2(100kg/m2)を上限としてもよい。
【0030】
用語「投射量」は、ブラスト処理の条件であって、熱延鋼板の単位面積当たりの表面に衝突する水などの液体を除く研磨材自体の積算体積である。研磨材の体積は、JIS Z2504に規定される静かさ密度が、例えば7500kg/m3のグリットを使用する場合、4×10-33/m2の投射量を「質量」基準の投射量に換算すると30kg/m2(4×10-3[m3/m2]×7500[kg/m3]=30[kg/m2])となる。本実施形態で投射量を体積基準で規定する理由は、グリットブラスト処理では熱延鋼板に投射するグリットの個数が重要になるからである。すなわち、本実施形態では、グリットの粒径は所定の範囲内の値となるので、グリット粒子の体積も所定の範囲に定まる。したがって、体積基準で投射量を規定すれば、グリットの材質が異なっても、熱延鋼板に投射するグリットの個数をある程度揃えることができる。一方で、投射量を質量基準で規定した場合、グリットの材質(具体的にはかさ密度)によって熱延鋼板に投射するグリットの個数が変わるので、材質ごとに投射量を規定する必要がある。したがって、投射量を体積基準で規定する。
【0031】
前工程として、グリットによるウェットブラスト処理を用いると、酸洗工程単独の場合と比較して、1/2以上の十分な酸洗時間の短縮効果が得られることは、予想外の効果であった。このことは、生産性が倍増できる、あるいは、生産性一定のもとでは、酸洗設備の半減が可能となることを意味する。さらに、ウェットブラスト処理では、グリットが熱延鋼板と衝突すると同時に質量をもった水でグリット及び剥離したスケールを押し流すことができ、結果として熱延鋼板表面にグリット及び剥離したスケールが残留しにくくなる。熱延鋼板表面にグリット及び剥離したスケールが残留しにくくなるので、グリット及び剥離したスケール由来の表面欠陥が生じにくくなるという効果も提供する。
【0032】
本発明のグリットを用いるウェットブラスト処理では、グリットの投射速度は5m/s以上であることが好ましい。用語「投射速度」は、グリットが熱延鋼板に衝突する際の速度である。これは、高速度カメラを用い、単位時間当たりのグリットの平均移動距離(複数のグリットについて測定された移動距離の算術平均値)を測定することによって算出した値である。
投射速度が5m/s未満では、粒径30~1000μmのグリットを用いたときにスケールの除去がほとんど進行しなくなる。したがって、5m/s以上の投射速度が好ましい。また、グリットの鋼板表面への衝突速度が大きいほど、スケールの除去効率が向上するが、投射速度を高めるためには設備能力を大きくする必要があり、設備全体のコストが増加する。このため、投射速度の上限は150m/sとしてもよい。
【0033】
グリットの投射角度は30~90°であることが好ましい。用語「投射角度」は、グリットが熱延鋼板の表面に衝突する際のグリットの進行方向と熱延鋼板の表面とのなす角度である。例えば、熱延鋼板の表面(スケールの表面)に対して垂直にグリットを投射する場合、投射角度は90°となる。なお、熱延鋼板の移動速度、方向は特に制限されない。投射角度を所定の範囲内とすることで、より多くの表層スケールを除去することができる。すなわち、表層スケールの除去効果が向上する。投射角度が60~90°の範囲に表層スケールの除去効果の最大値があるため、グリットの投射角度は60~90°であることがより好ましい。
【0034】
ウェットブラスト処理では、スラリー濃度を5~50vol%とすることが好ましい。水とグリットを混合したスラリー中のグリットの体積比率(スラリー濃度)が、5vol%以上であることが好ましい。スラリーの濃度が高いほど、単位体積当たりのスラリーの投射量に対する、熱延鋼板表面にあたるグリットの量が大きくなり、少ないスラリー投射量で前記投射量を達成できる。一方で、スラリーの濃度が高いほど、スラリーの流動性が低下し、グリットがスラリー搬送用の配管に詰まる可能性が高まる。このような観点から、スラリー濃度は50vol%以下としてもよい。
【0035】
(酸洗工程)
本発明の熱延鋼板のスケール除去方法は、ウェットブラスト処理工程後に、酸洗工程が続く。酸洗工程は従来の酸洗ラインで用いられる酸の濃度や酸洗温度を用いることができる。酸洗に用いる酸は、通常用いられる酸を用いることができる。例えば塩酸、硫酸、ふっ酸、硝酸などから適宜選択することができる。経済性や作業性の観点より、塩化水素濃度1~12質量%の塩酸水溶液を酸液として用いることが好ましい。酸液は、鉄鋼の過剰溶解を防ぐ目的で、酸洗抑制剤としてインヒビターを含有することができる。用いることができるインヒビターの例としては、例えば、朝日化学工業製のインヒビターのイビット(商標)やスギムラ化学工業製のインヒビターのヒビロン(商標)を挙げることができる。インヒビターの添加量は、0.01~0.1質量%の範囲が好ましい。
【0036】
また、酸液には、実操業では鋼板を含むスケールから溶出した鉄イオンを含むため、予め鉄イオンを添加してもよい。具体的には、塩酸であれば、例えば塩化鉄(II)や塩化鉄(III)の鉄化合物を添加すればよい。
さらに、酸液には、酸洗促進剤として、例えば、スギムラ化学工業製の酸洗促進剤であるサンスピードを添加することができる。
【0037】
酸洗温度は、通常の酸洗工程での酸洗温度を用いることができ、40~90℃の範囲が好ましい。
本発明の熱延鋼板のスケール除去方法の酸洗工程は、酸化スケール層が90質量%以上除去された状態で行われる場合、酸洗時間を、酸洗工程単独の場合と比較して、酸洗時間は1/2未満に短縮することができる。
【0038】
本発明の熱延鋼板のスケール除去方法は、ウェットブラスト処理工程の前に、テンションレベラー処理又はスキンパスミル処理を行うことができる。図3にテンションレベラー処理又はスキンパスミル処理を追加した場合の模式図を示す。
テンションレベラー処理やスキンパスミル処理によって酸化スケール層に亀裂が入るため、グリットによるウェットブラスト時にスケールの除去効率が高まる。テンションレベラー処理やスキンパスミル処理の場合、鋼板の伸び率が1%以上であることが好ましい。1%未満であれば、テンションレベラー処理やスキンパスミル処理によるウェットブラスト時のスケール除去効率の改善はほとんどない。鋼板の伸び率が高いほど、ウェットブラスト時の酸化スケール除去効率が向上する。テンションレベラーやスキンパスミルの能力と経済性の観点より、鋼板の伸び率10%以下が好ましい。
【0039】
熱延鋼板のスケール除去の酸洗設備として、図2に示すように、酸化スケール除去の工程にウェットブラストスケール除去装置を組み入れて熱延鋼板の連続酸洗設備とすることができる。
【実施例0040】
以下、本発明の実施例および比較例について説明をするが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。
供試材として、表1に示す化学成分、スケール厚を有する熱延鋼板を用いた。いずれも、鋼中添加元素の濃化層がデスケール性に大きな影響を及ぼさない鋼種であり、スケール厚のみが異なる供試材である。生成している酸化スケール層は、Fe23、Fe34、FeOから成る鉄酸化物の層であることを確認した。次いで熱延コイルより50×50mm角のサンプルを切り出し、以下に説明するスケール除去実験を行った。
【0041】
【表1】
【0042】
(酸洗)
塩化水素濃度9質量%の塩酸に、インヒビターとして朝日化学工業製のイビット710K(商標)を0.04質量%添加した酸洗溶液を入れたビーカーを恒温水槽で酸洗溶液を80℃に保持し、サンプルを酸洗溶液に所定時間浸漬した後、直ちに水洗、乾燥を行った。外観でスケールが完全に除去できた時間を酸洗完了時間とした。
【0043】
(鋼種)
鋼板サンプルA~Dに対し、以下に示す表3中のNo.3の条件とブラストなしの条件で実施した際の酸洗完了時間および結果を下記表2に示す。鋼板サンプルA~Dで酸洗時間は、酸洗工程単独の場合と比較して、いずれも1/2以下となっており、鋼種に依らないことが分かる。
【0044】
【表2】
【0045】
(ブラスト処理)
鋼板サンプルAに対して、ウェットブラスト処理、乾式ショットブラスト処理を行い、その後、酸洗い処理を行った。ブラスト処理における研削量は、ブラスト前後の鋼板サンプルの質量測定から求めた。酸洗処理における溶削量は、酸洗前後の鋼板サンプルの質量測定から求めた。各ブラスト処理でのスケール除去比率(%)とは、熱延鋼板のスケール除去前後の質量変化によって求めた、除去されたスケール総重量に対して、ブラスト処理における研削量の割合(%)を示す。
【0046】
本発明の実施例のウェットブラスト処理では、マコー株式会社製のウェットブラスト装置(型式MSB-VI)を用いた。処理条件は次のとおりである。
・研磨材:粒径400μm、JIS G5903に規定される鋳鉄製のグリット
・投射角度:90°
・投射速度:約13m/秒(実測値)
・投射量:表3に記載する。
・ブラスト時の水比率:15vol%
表3中記載の体積基準の投射量[m3/m2]は単位時間当たりのスラリーの流量[L/min]および、スラリー濃度[vol%]、単位時間当たりの処理面積[m2/min]から求めた。なお、表3中の質量基準の投射量[kg/m2]はかさ密度7500kg/m3とし、換算した値である。
投射速度は、高速度カメラ(Keyence製VW-9000)を用い、研磨材が鋼板に衝突する位置において、ブラストにより投射させる研磨材を撮影し、数フレーム間における研磨材粒子の移動距離を測定することによって求めた。
【0047】
比較例の乾式ショットブラスト処理では、厚地鉄工株式会社製のショットブラスト装置(型式AV-2AH)を用いた。処理条件は次のとおりである。
・研磨材:粒径400μm、JIS G5903に規定される鋳鉄製のショット
・投射角度:90°
・投射速度:約20m/秒(実測値)
・投射量:表3に記載する。
【0048】
表3に記載の体積基準の投射量[m3/m2]は単位時間、単位処理面積当たりの質量基準の投射量[kg/m2]を測定し、かさ密度7500kg/m3として求めた値である。
投射速度は、高速度カメラ(Keyence製VW-9000)を用い、研磨材が鋼板に衝突する位置において、ブラストにより投射させる研磨材を撮影し、数フレーム間における研磨材粒子の移動距離を測定することによって求めた。
【0049】
結果を表3に示す。乾式ショットブラスト処理と、本発明のグリットを用いるウェットショットブラスト処理における、酸洗完了時間と、研磨材投射量との関係を図4のグラフ示す。
【表3】
【0050】
表3の結果から、乾式ショットブラスト処理よりグリットを用いるウェットブラスト処理の方が、酸化スケールの除去量が多く、酸洗促進効果も高いことが分かる。
ショットを用いる乾式ショットブラスト処理では、ショットの投射量の増加に伴って、概ね、比例するように酸洗完了時間が短くなっている。しかし、ショットの投射量が40.0×10-33/m2(300kg/m2)を超えても、酸洗完了時間は、酸洗工程単独の場合と比較して、1/2まで短縮されていない。また、ショットを用いたウェットブラスト処理を行ったNo.8でも、投射量が同じ乾式のショットブラストを行ったNo.11と酸洗促進効果はほとんど変わらない。
【0051】
一方、グリットを用いるウェットブラスト処理では、グリットの投射量の増加に伴って、酸洗完了時間は急激に短くなっている。グリットの投射量が、4.0×10-33/m2(30kg/m2)のところで、酸洗工程単独の場合と比較して、酸洗時間が1/2になったことを示している。グリットの投射量が、4.0×10-33/m2(30kg/m2)での酸化スケールの除去比率は90質量%である。このことから、酸洗工程単独の場合と比較して、1/2以上の十分な酸洗時間の短縮効果を得るためには、ウェットブラスト処理工程で、酸化スケールを90質量%除去すればよいことが分かる。
尚、また、グリットを用いたウェットブラストでは、乾式ショットブラスト処理に比較して、研磨材の残留が無かった。
【0052】
(スキンパス圧延)
鋼板サンプルAの熱延コイルをあらかじめ、鋼板伸び率が0.5~10%となるように圧下率を調整し、圧延したものを50×50mm角のサンプルを切り出して用いた。結果を表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
ウェットブラストなしの場合で、スキンパス圧延によって鋼板伸び率を10%与えても酸洗時間は35秒必要であった。これに対して、表3のNo.2はスキンパスなしでウェットブラストをしたケースであり、酸洗時間は28秒である。このことから、一般に酸洗処理の前にスケールに亀裂を入れる目的で実施されるテンションレベラーやスキンパス圧延よりも本発明は酸洗促進効果が高いことが分かる。また、スキンパス圧延によって鋼板伸び率を0.5%(No.18)、1.0%(No.17)と与え、No.4のブラストと同じ条件でウェットブラストした場合、ブラストによるスケールの除去量が増え、その結果、酸洗時間はそれぞれ25秒、22秒であった。スキンパス圧延をしないNo.4の25秒に比べ、鋼板伸び率を1%与えた条件は酸洗時間が短くなっており、好適であった。したがって、予めスキンパス圧延やテンションレベラー処理をする場合は、鋼板伸び率が1%以上となる条件が望ましいことが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5