(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128765
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】センサ
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20240913BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20240913BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20240913BHJP
H10N 30/06 20230101ALI20240913BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
G01N5/02 A
H10N30/30
H10N30/87
H10N30/06
H03H9/17 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037950
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】三浦 慎平
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA09
5J108BB07
5J108BB08
5J108CC02
5J108CC04
5J108DD01
5J108DD06
5J108EE03
5J108EE04
5J108EE13
5J108HH01
5J108HH05
5J108KK01
(57)【要約】
【課題】弾性エネルギーの損失を抑制し、かつスプリアスを抑制するセンサを提供する。
【解決手段】センサは、圧電膜14と、前記圧電膜を挟む下部電極12および上部電極16と、平面視において前記圧電膜を挟み前記下部電極と前記上部電極とが対向する共振領域50における前記上部電極上に設けられた感応膜18と、前記共振領域における前記感応膜の周囲に設けられた付加膜20と、を備え、前記共振領域の面積に対する、前記感応膜と前記付加膜とのうち前記感応膜のみが設けられた領域の面積の比は、0.02以上かつ0.8以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電膜と、
前記圧電膜を挟む下部電極および上部電極と、
平面視において前記圧電膜を挟み前記下部電極と前記上部電極とが対向する共振領域における前記上部電極上に設けられた感応膜と、
前記共振領域における前記感応膜の周囲に設けられた付加膜と、
を備え、
前記共振領域の面積に対する、前記感応膜と前記付加膜とのうち前記感応膜のみが設けられた領域の面積の比は、0.02以上かつ0.8以下であるセンサ。
【請求項2】
前記感応膜の密度と前記感応膜の厚さとの積は、前記付加膜の密度と前記付加膜の厚さとの積の0.7倍以上かつ1.3倍以下である請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記付加膜の音響インピーダンスは、前記感応膜の音響インピーダンスより高い請求項1または2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記付加膜は、無機絶縁体または金属を主成分とし、前記感応膜は有機絶縁体を主成分とする請求項1または2に記載のセンサ。
【請求項5】
前記領域は、前記共振領域の平面形状の中心を含む請求項1または2に記載のセンサ。
【請求項6】
前記付加膜は前記領域を囲むように設けられている請求項5に記載のセンサ。
【請求項7】
前記付加膜は、前記共振領域内から前記共振領域外にかけて設けられている請求項1または2に記載のセンサ。
【請求項8】
前記下部電極は基板上に設けられ、
前記付加膜は、前記下部電極および前記基板と前記圧電膜との間に設けられている請求項7に記載のセンサ。
【請求項9】
前記付加膜は、前記共振領域外に設けられていない請求項1または2に記載のセンサ。
【請求項10】
前記共振領域内において前記感応膜と前記付加膜とは重なり、
前記共振領域内において前記付加膜が設けられた領域の面積に対する前記感応膜と前記付加膜とが重なる領域の面積の比は、0.01以下である請求項1または2に記載のセンサ。
【請求項11】
圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられ、各々複数の電極指を有する一対の櫛型電極と、
前記複数の電極指の配列方向から見て、一方の櫛型電極の複数の電極指と他方の櫛型電極の複数の電極指とが重なる交差領域の平面視における一部の前記複数の電極指上に設けられた感応膜と、
前記交差領域内の平面視における一部に設けられた付加膜と、
を備え、
前記交差領域の面積に対する、前記感応膜と前記付加膜とのうち前記感応膜のみが設けられた領域の面積の比は、0.02以上かつ0.8以下であるセンサ。
【請求項12】
前記感応膜の密度と前記感応膜の厚さとの積は、前記付加膜の密度と前記付加膜の厚さとの積の0.7倍以上かつ1.3倍以下である請求項11に記載のセンサ。
【請求項13】
前記付加膜の音響インピーダンスは、前記感応膜の音響インピーダンスより高い請求項11または12に記載のセンサ。
【請求項14】
前記領域は、前記交差領域の前記複数の電極指の延伸方向における中心を含み、
前記付加膜は前記延伸方向における前記領域を挟むように設けられている請求項11または12に記載のセンサ。
【請求項15】
共振領域を有する基板と、
前記共振領域における前記基板上に設けられた下部電極と、
前記共振領域における前記下部電極上に設けられた下部圧電膜と、
前記共振領域における前記下部圧電膜上に設けられ、前記共振領域の中央領域に設けられた薄膜部と、前記共振領域における前記薄膜部の外側領域に設けられ、前記薄膜部より厚い厚膜部と、を有する挿入膜と、
前記共振領域における前記挿入膜上に設けられた上部圧電膜と、
前記共振領域における前記上部圧電膜上に設けられ、上面に前記薄膜部と前記厚膜部との境界に対応する段差が設けられた上部電極と、
前記段差の内側における前記上部電極上に設けられた感応膜と、
前記段差を覆うように、前記感応膜の周囲の前記上部電極上に設けられた付加膜と、
を備えるセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサに関し、例えば感応膜を有するセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜共振器を気体または液体等の流体中の特定の物質を検出するセンサに用いる場合に、圧電膜を挟み下部電極と上部電極とが対向する共振領域の一部に感応膜を設けることが知られている(例えば、特許文献1から3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-68995号公報
【特許文献2】国際公開第2022/203057号
【特許文献3】特表2019-527834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
感応膜に用いられる材料は一般的に柔らかいため、共振領域の全域に感応膜を設けると、弾性エネルギーの損失が増加してしまう。共振領域の一部に感応膜を設けると、共振ピークが2つに分かれスプリアスが生じてしまう。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、弾性エネルギーの損失を抑制し、かつスプリアスを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、圧電膜と、前記圧電膜を挟む下部電極および上部電極と、平面視において前記圧電膜を挟み前記下部電極と前記上部電極とが対向する共振領域における前記上部電極上に設けられた感応膜と、前記共振領域における前記感応膜の周囲に設けられた付加膜と、を備え、前記共振領域の面積に対する、前記感応膜と前記付加膜とのうち前記感応膜のみが設けられた領域の面積の比は、0.02以上かつ0.8以下であるセンサである。
【0007】
上記構成において、前記感応膜の密度と前記感応膜の厚さとの積は、前記付加膜の密度と前記付加膜の厚さとの積の0.7倍以上かつ1.3倍以下である構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記付加膜の音響インピーダンスは、前記感応膜の音響インピーダンスより高い構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記付加膜は、無機絶縁体または金属を主成分とし、前記感応膜は有機絶縁体を主成分とする構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記領域は、前記共振領域の平面形状の中心を含む構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記付加膜は前記領域を囲むように設けられている構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記付加膜は、前記共振領域内から前記共振領域外にかけて設けられている構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記下部電極は基板上に設けられ、前記付加膜は、前記下部電極および前記基板と前記圧電膜との間に設けられている構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記付加膜は、前記共振領域外に設けられていない構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記共振領域内において前記感応膜と前記付加膜とは重なり、前記共振領域内において前記付加膜が設けられた領域の面積に対する前記感応膜と前記付加膜とが重なる領域の面積の比は、0.01以下である構成とすることができる。
【0016】
本発明は、圧電基板と、前記圧電基板上に設けられ、各々複数の電極指を有する一対の櫛型電極と、前記複数の電極指の配列方向から見て、一方の櫛型電極の複数の電極指と他方の櫛型電極の複数の電極指とが重なる交差領域の平面視における一部の前記複数の電極指上に設けられた感応膜と、前記交差領域内の平面視における一部に設けられた付加膜と、を備え、前記交差領域の面積に対する、前記感応膜と前記付加膜とのうち前記感応膜のみが設けられた領域の面積の比は、0.02以上かつ0.8以下であるセンサである。
【0017】
上記構成において、前記感応膜の密度と前記感応膜の厚さとの積は、前記付加膜の密度と前記付加膜の厚さとの積の0.7倍以上かつ1.3倍以下である構成とすることができる。
【0018】
上記構成において、前記付加膜の音響インピーダンスは、前記感応膜の音響インピーダンスより高い構成とすることができる。
【0019】
上記構成において、前記領域は、前記交差領域の前記複数の電極指の延伸方向における中心を含み、前記付加膜は前記延伸方向における前記領域を挟むように設けられている構成とすることができる。
【0020】
本発明は、共振領域を有する基板と、前記共振領域における前記基板上に設けられた下部電極と、前記共振領域における前記下部電極上に設けられた下部圧電膜と、前記共振領域における前記下部圧電膜上に設けられ、前記共振領域の中央領域に設けられた薄膜部と、前記共振領域における前記薄膜部の外側領域に設けられ、前記薄膜部より厚い厚膜部と、を有する挿入膜と、前記共振領域における前記挿入膜上に設けられた上部圧電膜と、前記共振領域における前記上部圧電膜上に設けられ、上面に前記薄膜部と前記厚膜部との境界に対応する段差が設けられた上部電極と、前記段差の内側における前記上部電極上に設けられた感応膜と、前記段差を覆うように、前記感応膜の周囲の前記上部電極上に設けられた付加膜と、を備えるセンサである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、弾性エネルギーの損失を抑制し、かつスプリアスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係るセンサの平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、シミュレーション1におけるそれぞれのセンサAおよびBの構造を示す断面図である。
【
図3】
図3(a)および
図3(b)は、シミュレーション1におけるそれぞれのセンサCおよびDの構造を示す断面図である。
【
図4】
図4は、シミュレーション1における周波数に対する|Y|を示す図である。
【
図5】
図5は、シミュレーション2における被覆率に対する感度およびΔYを示す図である。
【
図6】
図6は、シミュレーション3を行ったセンサの断面図である。
【
図7】
図7は、シミュレーション3におけるオーバラップ率に対する感度およびΔYを示す図である。
【
図8】
図8(a)から
図8(d)は、実施例1に係るセンサの製造方法を示す断面図である。
【
図9】
図9(a)から
図9(c)は、実施例1に係るセンサの製造方法を示す断面図である。
【
図10】
図10(a)から
図10(c)は、実施例1に係るセンサの製造方法を示す断面図である。
【
図11】
図11(a)および
図11(b)は、実施例1の変形例1に係るセンサの断面図である。
【
図12】
図12(a)および
図12(b)は、実施例1の変形例1に係るセンサの断面図である。
【
図13】
図13(a)および
図13(b)は、それぞれ実施例1の変形例2および3に係るセンサの断面図である。
【
図14】
図14(a)および
図14(b)は、それぞれ実施例1の変形例4および5に係るセンサの断面図である。
【
図18】
図18は、実施例4に係る検出システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照し実施例について説明する。
【実施例0024】
実施例1は、センサとして圧電薄膜共振器であるBAW(Bulk Acoustic Wave)共振器を用いる例である。
図1(a)は、実施例1に係るセンサ100の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。実施例1のセンサ100は、平面形状が矩形の基板10上に、下部電極12、圧電膜14および上部電極16を積層した構成を備える。下部電極12、圧電膜14および上部電極16の積層方法をZ方向、基板10の長辺の延伸方向をX方向、基板10の短辺の延伸方向をY方向とする。
【0025】
図1(a)および
図1(b)に示すように、平面形状が矩形の基板10の平坦な上面と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の中心部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状である。下部電極12上に、圧電膜14が設けられている。圧電膜14上に上部電極16が設けられている。共振領域50は、圧電膜14の少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16とが平面視において重なる(対向する)領域により画定される。共振領域50は、厚み縦振動モードのまたは厚みすべり振動モード等の弾性波が共振する領域である。実施例1のセンサ100は、共振領域50の平面形状が略楕円である。共振領域50の平面形状は、楕円以外でもよく、例えば四角形または五角形等の多角でもよい。
【0026】
図1(a)では、下部電極12および上部電極16を実線で示す。中央の共振領域50から、上部電極16は左側に、下部電極12は右側に、それぞれ延在している。圧電膜14、金属層22、挿入膜28は、不図示である。
【0027】
(下部電極12)
下部電極12は、基板10の上面に設けられる。
図1(a)では、右(+X)側に矩形のパターン、左(-X)側に楕円形のパターンがあり、両者が連続して一体となっている。右側(+X)側の矩形の3辺があるパターンの方が外部接続用の電極である。そして共振領域50より一回り大きな縦長の楕円のパターンが、圧電膜14が積層される下部電極12の本体である。
【0028】
(圧電膜14)
実施例1のセンサ100の圧電膜14は、2層である。圧電膜14は、下部電極12上に設けられた下部圧電膜14aと下部圧電膜14a上に設けられた上部圧電膜14bとを備えている。共振領域50内の下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に挿入膜28が設けられていてもよい。その場合、挿入膜28は、圧電膜14の一部に接して設けられることがある。下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの厚さはほぼ同じである。下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの厚さは同じでなくてもよいが、ほぼ同じとすることで、挿入膜28としての機能をより発揮する。例えば、挿入膜28は、センサ100の温度変化に起因する周波数変化を抑制できる。その場合、下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの厚さをほぼ同じとすることで、温度変化に起因する周波数変化をさらに抑制できる。
【0029】
(挿入膜28)
挿入膜28は、平面視で、中央の薄膜部28bおよび周囲の厚膜部28aを備えている。薄膜部28bのみ備えてもよく、例えば、薄膜部28bが、中央から周囲にかけて設けられてもよい。厚膜部28aは薄膜部28bより厚い。平面視において、共振領域50は、共振領域50の中心55を含む領域である中央領域56を有する。薄膜部28bは、中央領域56に設けられている。平面視において、共振領域50の、内側の中央領域56の外周を囲んで、共振領域50の外周を含む領域を外側領域58とする。厚膜部28aは、外側領域58に設けられている。厚膜部28aは、外側領域58の少なくとも一部に設けられてよい。厚膜部28aと薄膜部28bは連続して設けられているが、連続していなくてもよい。厚膜部28aの平面形状は、例えばリング状である。薄膜部28bの厚さは略均一であり、厚膜部28aの厚さは略均一である。
【0030】
(感応膜18と付加膜20)
平面視において、上部電極16上の共振領域50内には、感応膜18と付加膜20が設けられる。平面視において、感応膜18を囲んで、周囲に付加膜20が設けられる。平面視において、共振領域50の中心55を含む領域を、領域52とする。領域52の平面形状は、共振領域50の平面形状の相似形状である。実施例1のセンサ100では、中央領域56の平面形状の長手方向と短手方向のそれぞれよりも、領域52の平面形状の長手方向と短手方向のそれぞれの方が小さいため、中央領域56の外周は、領域52の外周を囲んでいる。感応膜18は、領域52に設けられている。平面視において、共振領域50の、内側の領域52を囲んで、共振領域50の外周を含む領域を領域54とする。付加膜20は、領域54に設けられている。付加膜20は、領域54の少なくとも一部に設けられていてもよい。付加膜20の平面形状は、例えばリング状である。実施例1のセンサ100では、感応膜18の平面形状の外周と、付加膜20の平面形状の内周とが、接している。感応膜18と付加膜20とは重なる領域を有してもよい。また付加膜20と感応膜18との間には、全周に渡り隙間があってもよい。
【0031】
例えば、気体または液体等の流体中の特定の原子または分子等の物質が感応膜18に吸着すると感応膜18の質量が増加する。感応膜18の質量が変化すると、圧電薄膜共振器の共振周波数が変化する。このように、圧電薄膜共振器を特定の物質を検出する検出素子として用いることができる。付加膜20の機能については後述する。
【0032】
上部電極16と感応膜18との間、および上部電極16と付加膜20との間に挟まれて、絶縁膜が設けられていてもよい。絶縁膜は、例えば、保護膜または周波数調整膜として機能する。平面視において、共振領域50外における下部電極12および上部電極16上に金属層22が設けられている。金属層22は、例えばパッドまたは配線である。下部電極12にはセンサ100の作製途中において犠牲層をエッチングするための孔部(不図示)が設けられている。孔部は空隙30につながっている。
【0033】
基板10は、例えばシリコン基板、サファイア基板、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板である。下部電極12および上部電極16は、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜である。下部電極12は、例えば基板10側からクロム膜およびルテニウム膜の順で積層されており、上部電極16は、例えば圧電膜14側からルテニウム膜およびクロム膜の順で積層される。
【0034】
圧電膜14は、例えば窒化アルミニウム(AlN)膜、酸化亜鉛(ZnO)膜、窒化ガリウム(GaN)膜、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)膜、チタン酸鉛(PbTiO3)膜、タンタル酸リチウム(LiTaO3)膜またはニオブ酸リチウム(LiNbO3)膜である。圧電膜14は、(002)方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。
【0035】
挿入膜28の薄膜部28bは、圧電膜14の弾性定数の温度係数とは逆符号の弾性定数の温度係数を有する。これにより、共振周波数等の温度係数を0に近づけることができる。薄膜部28bは、例えばフッ素等の不純物を含む酸化シリコン膜である。挿入膜28の厚膜部28aは、圧電膜14よりヤング率の小さい材料の膜を含み、例えば酸化シリコン膜、アルミニウム膜、チタン膜、クロム膜、ルテニウム膜またはタングステン膜を含む。金属層22は、例えば金膜、銅膜またはアルミニウム膜等の低抵抗膜である。保護膜または周波数調整膜は例えば酸化シリコン膜、窒化シリコン膜または酸化アルミニウム膜である。
【0036】
感応膜18は、例えば有機高分子膜、有機低分子膜、または無機膜である。有機高分子材料としては、例えばポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、6-ナイロン、セルロースアセテート、ポリ-9,9-ジオクチレフルオレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルカルバゾール、ポリエチレンオキシド、ポリ塩化ビニル、ポリ-p-フェニレンエーテルスルホン、ポリ-1-ブテン、ポリブタジエン、ポリフェニルメチルシラン、ポリカプロラクトン、ポリビスフェノキシホスファゼン、ポリプロピレンなどの単一構造からなるホモポリマー、ホモポリマー2種以上の共重合体であるコポリマー、これらを混合したブレンドポリマーなどを用いることができる。
【0037】
例えば、有機低分子材料としては、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)、ナフチルジアミン(α-NPD)、BCP(2,9 - dimethyl - 4,7 - diphenyl - 1,10 - phenanthroline)、CBP(4,4' - N,N' - dicarbazole - biphenyl)、銅フタロシアニン、フラーレン、ペンタセン、アントラセン、チオフェン、Ir(ppy(2 - phenylpyridinato))3、トリアジンチオール誘導体、ジオクチルフルオレン誘導体、テトラテトラコンタン、パリレンなどを用いることができる。
【0038】
例えば、無機材料としては、アルミナ、チタニア、五酸化バナジウム、酸化タングステン、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、アルミニウム、金、銀、スズ、インジウム・ティン・オキサイド(ITO)、カーボンナノチューブ、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムなどを用いることができる。
【0039】
また、センサ100がウィルスまたは細菌等の抗原を検出する場合、感応膜18は抗体を含んでもよい。例えば、感応膜18は、上部電極16上に設けられた接続層と、接続層上に設けられた抗体を有してもよい。接続層としては、例えば、上部電極16上に設けられたチタン層と、チタン層上に設けられた金層である。抗体と接続層との間に自己組織化単分子膜が設けられていてもよい。
【0040】
付加膜20は、感応膜18よりも音響インピーダンスが大きい材料である。例えば、酸化シリコン膜、炭化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、アルミニウム膜、チタン膜、クロム膜、銅膜、モリブデン膜、ルテニウム膜またはタングステン膜等の単層膜またはこれらの積層膜である。
【0041】
1.7GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器を用いたセンサ100の場合、下部電極12は、基板10側から膜厚が70nmのクロム膜および膜厚が220nmのルテニウム膜である。下部圧電膜14aは膜厚が586nmの窒化アルミニウム膜であり、上部圧電膜14bは膜厚が586nmの窒化アルミニウム膜である。挿入膜28は酸化シリコン(SiO2)膜であり、薄膜部28bの膜厚は80nm、厚膜部28aの膜厚は145nmである。上部電極16は、圧電膜14側から膜厚が220nmのルテニウム膜および膜厚が70nmのクロム膜である。感応膜18は、例えば膜厚が100nmのポリイミド系樹脂である。付加膜20は、例えば膜厚が20nmのクロム膜である。上部電極16と感応膜18との間に、膜厚が70nmの酸化シリコン膜が保護膜または周波数調整膜として設けられていてもよい。各層の膜厚は、所望の共振特性を得るため適宜設定することができる。
【0042】
[シミュレーション1]
センサの構造を変え、2次元の有限要素法を用いシミュレーションを行った。
図2(a)から
図3(b)は、シミュレーション1におけるそれぞれのセンサA~Dの構造を示す断面図である。センサAは実施例1に対応し、センサB~Dは比較例に対応する。
【0043】
図2(a)に示すように、センサAでは、共振領域50内における、領域52に感応膜18が設けられ、領域54に付加膜20が設けられている。
図2(b)に示すように、センサBでは、共振領域50内に感応膜18および付加膜20は設けられていない。
図3(a)に示すように、センサCでは、共振領域50の全面に感応膜18が設けられ、付加膜20は設けられていない。
図3(b)に示すように、センサDでは、領域52に感応膜18が設けられ、領域54に付加膜20は設けられていない。
【0044】
領域52の中心と共振領域50の中心とは一致し、領域52の幅W2は、共振領域50の幅W1の46%とした。各部材の材料および厚さは、1.7GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器として例示した材料および厚さとした。
【0045】
図4は、シミュレーション1における周波数に対する|Y|を示す図である。縦軸|Y|は、アドミッタンスの絶対値でありdB表示している。
【0046】
図4に示すように、共振周波数frにおいて、|Y|は極大値となり、反共振周波数faにおいて、|Y|は極小値となる。共振周波数frの|Y|と反共振周波数faの|Y|との差ΔYが大きいと、Q値が大きく弾性エネルギーの損失が小さいことに対応する。
【0047】
感応膜18は、下部電極12、上部電極16または圧電膜14よりも柔らかい材料が用いられる。下部電極12および上部電極16は金属であり、圧電膜14は圧電性材料である。下部電極12、上部電極16または圧電膜14は、共振器としての特性を考慮すると、弾性エネルギーの損失を低減するために、硬い材料が用いられる。一方、感応膜18は、ガス分子またはにおいの原因物質への吸着性と選択性を考慮し、有機の高分子膜または無機の金属酸化物を用いるため、相対的に柔らかくなる。このため、感応膜18の損失係数は、下部電極12、圧電膜14および上部電極16より大きくなる。ここで、損失係数とは、複素弾性率の実部に対する虚部の比である。つまり、損失係数が大きくなるほど、ある弾性エネルギーが付加されたとき、失われる弾性エネルギーが大きくなるということを示す。
【0048】
センサBでは、損失係数の大きい感応膜18が設けられていない。このため、弾性エネルギーの損失が小さくなり、
図4においてΔYがセンサA~Dのなかで最も大きくなる。
【0049】
センサCでは、損失係数の大きい感応膜18が共振領域50の全面に設けられている。このため、弾性エネルギーの損失が大きくなり、ΔYが小さくなる。
【0050】
センサDでは、感応膜18が共振領域50の一部の領域52に設けられ、領域54に設けられていない。このため、弾性エネルギーの損失がセンサCより小さくなる。しかし、領域52の共振周波数と領域54の共振周波数が異なってしまうため、2つの共振特性を有するスプリアスが生じる。各々のΔYは、センサCのΔYより小さくなってしまう。
【0051】
センサAでは、感応膜18が領域52に設けられ、付加膜20が領域54に設けられている。これにより、領域52を1つの構造と仮定したときの共振周波数と、領域54を1つの構造と仮定したときの共振周波数を略一致させることができる。以降の説明では、単に領域52と領域54の共振周波数を略一致させるというとき、上記仮定における共振周波数のことを指している。これにより、共振ピークが2つに分かれて、スプリアスが生じることを抑制できる。損失係数の大きい感応膜18が領域54に設けられていないため、センサCよりΔYが大きくなる。
【0052】
領域52と54の共振周波数を略一致させるためには、領域52における単位面積当たりの感応膜18の重さと領域54における単位面積当たりの付加膜20の重さとを略一致させる。すなわち、感応膜18の厚さおよび密度をそれぞれT1およびρ1とし、付加膜20の厚さおよび密度をそれぞれT2およびρ2としたとき、ρ1×T1とρ2×T2とを略一致させることが好ましい。
【0053】
また、付加膜20の損失係数を感応膜18の損失係数より小さくするためには、付加膜20の音響インピーダンスを感応膜18の音響インピーダンスより大きくする。
【0054】
縦波の弾性波と横波の弾性波の音響インピーダンスをそれぞれZa
LおよびZa
Sとし、密度ρ、縦波の音速V
Lおよび横波の音速V
Sを用いると、それぞれ数1および数2で表される。主モードの弾性波が縦振動モードの場合には、縦波の音響インピーダンスZa
Lを用いる。
【数1】
【数2】
【0055】
縦波の音速V
Lおよび横波の音速V
Sは、ラメ定数λおよびμを用いて、それぞれ数3および数4で表される。
【数3】
【数4】
【0056】
ラメ定数λおよびμは、ヤング率Eおよびポアソン比σを用い、それぞれ数5および数6で表される。
【数5】
【数6】
【0057】
表1は、感応膜18に用いられる材料の密度ρ、ヤング率E、ポアソン比σ、音響インピーダンスZa
LおよびZa
Sを示す表である。感応膜18の材料の例として、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、6-ナイロン、ポリイミドおよび銅フタロシアニンを示している。
【表1】
【0058】
表2は、付加膜20に用いられる材料の密度ρ、ヤング率E、ポアソン比σ、音響インピーダンスZa
LおよびZa
Sを示す表である。付加膜20の材料に例として、酸化シリコン(SiO
2)、炭化シリコン(SiC)、窒化シリコン(SiN)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)およびタングステン(W)を示している。
【表2】
【0059】
表1および表2のように、感応膜18として有機絶縁体を用い、付加膜20として無機絶縁体または金属を用いると、付加膜20の密度ρは感応膜18の密度ρより大きくなる。よって、付加膜20は感応膜18より薄くなる。また、付加膜20の音響インピーダンスZaLは感応膜18の音響インピーダンスZaLより大きくなる。このため、感応膜18の損失係数ηは0.1程度であるのに対し、付加膜20の損失係数ηは0.001~0.0004程度とすることができる。
【0060】
シミュレーション1のように、感応膜18として、ポリイミドを用いると、感応膜18の密度ρ1は1.53g/cm3である。付加膜20としてクロムを用いると付加膜20の密度ρ2は7.09g/cm3である。感応膜18の厚さT1を100nm、付加膜20の厚さT2を20nmとすると、ρ1×T1=153(g/cm3)・nm、ρ2×T1=141.8(g/cm3)・nmである。このように、ρ1×T1はρ2×T2の1.08倍となり、ρ1×T1とρ2×T2とはほとんど同じとなる。よって、領域52の共振周波数と領域54の共振周波数とは略一致する。また、感応膜18の音響インピーダンスZaLは2.57×106Pa/(m/s)であり、付加膜20の音響インピーダンスZaLは47.19×106Pa/(m/s)である。このように、付加膜20の音響インピーダンスは感応膜18の音響インピーダンスの約15倍となる。このため、付加膜20の損失係数が小さくなり、ΔYが向上する。
【0061】
[シミュレーション2]
センサAについて、感応膜18を設ける領域52の幅W2を変えて、感度とΔYをシミュレーションした。被覆率を面積の比として表すため、被覆率をW22/W12とした。感度は、感応膜18の体積を変えずに、感応膜18の密度を6.61kg/m3増加させたときの共振周波数の変化量である。
【0062】
図5は、シミュレーション2における被覆率に対する感度およびΔYを示す図である。ΔYは、被覆率が大きくなると小さくなる。これは、被覆率が大きくなると、損失係数の大きい感応膜18の面積が大きくなるためである。一方、感度は、被覆率が0.01において顕著に小さい。これは、感応膜18が設けられた領域52の振動より、付加膜20が設けられた領域54の振動が主体となるためと考えられる。このとき、感応膜18に伝わるべき弾性エネルギーのほとんどが、付加膜20に伝わり、感応膜18に質量を負荷しても、センサとしての振動への影響が少なくなる。すなわち、質量負荷に起因する、共振周波数の変化が小さくなる。よって、感度が小さくなる。
【0063】
逆に、被覆率が0.04となると、感度が高くなる。被覆率が0.04から大きくなると、徐々に、感度は低下していき、0.6付近で安定する。これは、被覆率が大きくなると、共振領域50全体に占める弾性波エネルギーのうち、感応膜18の最表面に到達する弾性波エネルギーが占める割合が小さくなるためと考えられる。これは、以下の理由による。感応膜18の被覆率が変化すると、センサ100の振動の分布(弾性エネルギーの分布)が変化する。被覆率が小さいと、共振領域50の中央の領域のみが振動する。逆に、被覆率が大きくなると、共振領域50の中央の領域だけでなく、センサ100の共振領域50の積層膜全体が振動する。よって、被覆率が大きくなると、共振領域50の積層膜全体の弾性エネルギー量は増加する。このとき、共振領域50全体の弾性エネルギーは、共振領域50の積層膜の体積積分であるため、断面でみたときの被覆長さの3乗に比例して増加し、感応膜18の最表面のエネルギーは面積積分であるため、断面で見たときの被覆長さの2乗に比例して増加する。したがって、被覆率の増加に対する、共振領域50の積層膜全体と、感応膜18の最表面それぞれのエネルギー増加速度の差から、被覆率が大きくなると、共振領域50全体に占める弾性波エネルギーのうち、感応膜18の最表面に到達するエネルギーの割合は小さくなる。
【0064】
[シミュレーション3]
図6は、シミュレーション3を行ったセンサの断面図である。
【0065】
領域54に設けられた付加膜20に重なるように感応膜18が設けられている。感応膜18と付加膜20とが重なる領域53の幅はW3である。領域54の幅はW4である。幅W3を変えて、感度とΔYをシミュレーションした。オーバラップ率を面積の比で表すため、オーバラップ率をW32/W42とした。
【0066】
図7は、シミュレーション3におけるオーバラップ率に対する感度およびΔYを示す図である。感度が96kHzおよびΔYが73dBの破線は、
図3(a)のセンサCの感度およびΔYを示している。
【0067】
ΔYは、オーバラップ率が0から大きくなると、大きくなり、オーバラップ率が0.0009において極大となる。オーバラップ率が0.0009から大きくなると、ΔYは徐々に小さくなる。ΔYが極大を有する理由は不明である。感度は、オーバラップ率が大きくなると徐々に小さくなる。オーバラップ率が0.01以下の範囲では、感度およびΔYはいずれもセンサCよりは大きくなる。このように、感度の観点からオーバラップ率は小さい方がよい。感応膜18自体が全体に渡り均一な膜が好ましい。
【0068】
以上のように、実施例1では、感応膜18は、領域52の上部電極16上に設けられている。付加膜20は、領域54に設けられている。共振領域50の面積に対する感応膜18および付加膜20のうち感応膜18のみが設けられた領域52の面積の比(すなわち被覆率)は、共振領域50の面積の0.02以上かつ0.8以下である。これにより、
図5のように、感度を向上させることができる。被覆率は、0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。被覆率は、0.6以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。
【0069】
領域52と54との共振周波数を略一致させる観点から、感応膜18の密度ρ1と感応膜18の厚さT1との積ρ1×T1は、付加膜20の密度ρ2と付加膜20の厚さT2との積ρ2×T2の0.7倍以上かつ1.3倍以下が好ましい。ρ1×T1は、ρ2×T2の0.8倍以上がより好ましく、0.9倍以上がさらに好ましい。ρ1×T1は、ρ2×T2の1.2倍以下がより好ましく、1.1倍以下がさらに好ましい。
【0070】
付加膜20の損失係数を感応膜18の損失係数より大きくする観点から、付加膜20の音響インピーダンスは、感応膜18の音響インピーダンスより高い。付加膜20の音響インピーダンスは、感応膜18の音響インピーダンスの2倍以上が好ましく、5倍以上がより好ましく、10倍以上がさらに好ましい。
【0071】
共振領域50の中心55付近に感応膜18を設けることで、感度を向上させることができる。この観点から、領域52は、共振領域50の平面形状の中心、例えば平面形状の重心、を含む。これにより、感度を向上できる。さらに、付加膜20は領域52を囲むように設けられている。これにより感度を向上できる。
【0072】
図7のように、共振領域50内において感応膜18と付加膜20との重なる領域53の面積が大きいと感度が低下する。この観点から、共振領域50内において付加膜20が設けられた領域54の面積に対する領域53の面積の比(すなわちオーバラップ率)は、0.01以下が好ましい。オーバラップ率は、0.008以下が好ましく、0.006以下がより好ましい。ΔYを向上させる観点から、オーバラップ率は、0.0005以上が好ましい。
【0073】
[実施例1の製造方法]
図8(a)から
図10(c)は、実施例1に係るセンサ100の製造方法を示す断面図である。
図8(a)に示すように,平坦な上面を有する基板10上に空隙を形成するための犠牲層38を形成する。犠牲層38は、例えば酸化マグネシウム(MgO)膜、酸化亜鉛(ZnO)膜、ゲルマニウム(Ge)膜、酸化シリコン(SiO
2)膜またはリンケイ酸ガラス(PSG:phosphosilicate glass)膜である。犠牲層38の厚さは、例えば10~100nmである。犠牲層38は、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。その後、犠牲層38を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。犠牲層38の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状であり、例えば共振領域50となる領域を含む。
【0074】
図8(b)に示すように、犠牲層38および基板10上に下部電極12となる金属層を形成する。この金属層は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜される。その後、金属層を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングし、下部電極12を形成する。下部電極12は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0075】
図8(c)に示すように、下部電極12および基板10上に下部圧電膜14aの材料を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。
【0076】
図8(d)に示すように、下部圧電膜14a上に挿入膜28の材料を形成する。フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い挿入膜28の材料を所望の形状にパターニングする。挿入膜28は、リフトオフ法により形成してもよい。挿入膜28には厚膜部28aと薄膜部28bが設けられる。パターニングされた挿入膜28の材料の、薄膜部28bに相当する部分をライトエッチングし、膜厚を薄くすることで挿入膜28を形成することができる。
【0077】
図9(a)に示すように、下部圧電膜14aおよび挿入膜28上に上部圧電膜14bの材料を形成する。上部圧電膜14bの材料は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜される。こうして、挿入膜28を挟み、下部圧電膜14aおよび上部圧電膜14bで構成される圧電膜14が形成される。
【0078】
図9(b)に示すように、上部圧電膜14b上に、上部電極16の材料を形成する。上部電極16の材料は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜される。上部電極16の材料を例えばフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングし、上部電極16を形成する。上部電極16は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0079】
図9(c)に示すように、上部電極16上に、付加膜20の材料を形成する。付加膜20の材料は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜される。付加膜20の材料を例えばフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングし、付加膜20を形成する。付加膜20は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0080】
図10(a)に示すように、圧電膜14の材料を例えばフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングし、圧電膜14を形成する。
図10(b)に示すように、共振領域50の外側における下部電極12および上部電極16上に金属層22を形成する。
図10(c)に示すように、犠牲層38を除去することで、基板10と下部電極12との間にドーム状の空隙30を形成する。
【0081】
図1(b)に示すように、上部電極16の上面の領域52に感応膜18を形成する。感応膜18は、例えば感応膜18の材料が溶解された溶剤を塗布し、その後溶剤を乾燥させることにより形成する。このように、スプレー法またはインクジェット法により、塗布して感応膜18を形成することができる。感応膜18をスピンコート法によって形成してもよい。また、感応膜18は、スパッタリング法または真空蒸着法とリフトオフ法を用い所望のパターンに形成してもよい。これにより、実施例1に係るセンサ100が製造される。
【0082】
[実施例1の変形例1]
図11(a)から
図12(b)は、実施例1の変形例1に係るセンサの断面図である。
【0083】
図11(a)に示すように、センサ102では、付加膜20は圧電膜14と上部電極16との間に挟まれて設けられている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0084】
図11(b)に示すように、センサ103では、付加膜20は挿入膜28と上部圧電膜14bとの間に挟まれて設けられている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0085】
図12(a)に示すように、センサ104では、付加膜20は下部圧電膜14aと挿入膜28との間に挟まれて設けられている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0086】
図12(b)に示すように、センサ105では、付加膜20は下部電極12と圧電膜14との間に挟まれて設けられている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0087】
付加膜20は、領域52と領域54との共振周波数を近づけるために設けられる。この観点から、
図11(a)から
図12(b)のセンサ102から105のように、下部電極12、圧電膜14および上部電極16の積層方向において、付加膜20は、空隙30から上部電極16上までの任意の箇所に設けられていればよい。さらに、上部電極16上に、付加膜20を設けることが、好ましい。感応膜18は、測定対象の物質を吸着して、共振周波数の変化を検出するが、上部電極16への水分の吸着は、外乱となる。上部電極16上に、上部電極16の材料よりも、水分の吸着量の少ない材料の付加膜20を設ければ、水分による外乱を低減することができる。
【0088】
[実施例1の変形例2]
図13(a)は、実施例1の変形例2に係るセンサ106の断面図である。
図13(b)に示すように、付加膜20は、下部電極12の上面から基板10の上面に渡り、感応膜18が設けられた領域52に対応する領域を除いて、全域に設けられ、共振領域50の内側から外側まで設けられている。その他の構成は
図12(b)のセンサ105と同じであり説明を省略する。
【0089】
付加膜20が共振領域50内から外にかけて設けられると、共振領域50の内と外との間の段差に起因し、付加膜20にクラックが生じることがある。
図1(b)、
図11(a)から
図12(b)のセンサ100~105のように、付加膜20は共振領域50内に設けられ共振領域50の外に設けられていなくてもよい。これにより、付加膜20の下の段差に起因して付加膜20にクラックが生じることを抑制できる。
【0090】
図12(b)のセンサ105では、下部電極12の端部付近の領域57に対応する圧電膜14に応力が集中し、クラックが生じる場合がある。
図13(a)のセンサ106のように、付加膜20は、共振領域50内から共振領域50外にかけて設けられていてもよい。これにより、付加膜20が下部電極12の端部を覆うことで、領域57における下部電極12の段差を緩和し、クラックを抑制できる。
【0091】
[実施例1の変形例3]
図13(b)は、実施例1の変形例3に係るセンサ113の断面図である。実施例1の変形例3のセンサ113のように、挿入膜28の薄膜部28bと厚膜部28aとの段差に相当する段差59が上部電極16の上面に形成されることがある。センサ113の平面図は
図1(a)と同じである。上部電極16の上面の段差59は、
図1(a)における中央領域56と外側領域58との間の破線となる。付加膜20は、段差59を覆うように設けられている。
【0092】
別の表現で説明すると、
図1(a)のように、平面視において、共振領域50の中心55を含む領域52とし、その外側でリング状に設けられた領域が付加膜20の形成領域54とする。この領域52の平面形状は、共振領域50の平面形状の相似形状である。感応膜18は、この領域52に設けられている。平面視で見ると、共振領域50の内側である。好ましくは、段差59(
図1(a)における中央領域56と外側領域58との間の破線)より、内側に間隔をおいて形成される。
【0093】
共振領域50は、圧電膜14が振動する振動エリアである。よって積層膜の形成状況によっては、経時的に積層膜のうち一部の膜が剥がれ、クラックなどが発生する。段差59が形成された場合の第1の問題点として、上部電極16と付加膜20の材質の違いによる密着性の劣化の問題がある。また第2の問題点として、感応膜18自身の感応特性の劣化の問題がある。
【0094】
第1の問題点について説明する。上部電極16の最表面は、金属材料であり、ここでは一例としてクロムである。付加膜20は、シリコン酸化膜もしくはシリコン窒化膜などの無機系絶縁体、または、クロム、モリブデンもしくはタングステンなどの金属系材料が考えられる。特に、上部電極16が金属系材料であり、密着性を考えると、付加膜20を金属系材料とすることが好ましい。さらには、金属系材料の付加膜20は、上部電極16との密着性および被覆性に優れ、上部電極16の段差59を被覆するのに優れる。
【0095】
第2の問題点について説明する。感応膜18は、全域がほぼ一定の膜厚の状態が好ましい。これは、感応膜18を段差59上まで設けた場合、段差59の部分における底部の角部(中央領域56の段差59側の上部電極16の上面)に、樹脂溜まりまたは気泡が発生し、段差59付近の感応膜18が厚くなる。感応膜18が厚い部分は、気体中の物質の吸着および脱離が生じにくく、検出精度が落ちることがある。このため、感応膜18は段差59を避けるように設けることが好ましい。
【0096】
以上のように、挿入膜28が、共振領域50の中央領域56に設けられた薄膜部28bと、共振領域50における薄膜部28bの外側領域58に設けられ、薄膜部28bより厚い厚膜部28aと、を有する場合には、上部電極16の上面に、薄膜部28bと厚膜部28aとの境界に対応する段差59が設けられることがある。この場合、感応膜18は、段差59の内側における上部電極16上に設け、付加膜20は、感応膜18の周囲であり、段差59を覆うように上部電極16上に設ける。これにより、付加膜20の上部電極16からの剥がれ、および感応膜18が厚くなり検出精度が低下することを抑制できる。
【0097】
[実施例1の変形例4]
実施例1の変形例4は、空隙30が基板10側に形成された例である。
図14(a)は、実施例1の変形例4に係るセンサの断面図である。
図14(a)に示すように、センサ107では、基板10の上面に、下側に凹んだ窪みが形成されている。下部電極12は、基板10上に平坦に形成されている。これにより、空隙30が、基板10の窪みに形成されている。空隙30は共振領域50を含むように形成されている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。空隙30は、基板10を貫通するように形成されていてもよい。
【0098】
[実施例1の変形例5]
図14(b)は、実施例1の変形例5に係るセンサの断面図である。
図14(b)に示すように、センサ108では、共振領域50の下部電極12下に音響反射膜31が形成されている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜31aと音響インピーダンスの高い膜31bとが交互に設けられている。膜31aおよび31bの膜厚は例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。膜31aと膜31bの積層数は任意に設定できる。音響反射膜31は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜31の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0099】
実施例1およびその変形例1から4のセンサ100~107および113のように、センサに用いる圧電薄膜共振器は、共振領域50において空隙30が下部電極12下に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例1の変形例5のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において下部電極12下に圧電膜14を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜31を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。センサ102~107および113において、空隙30の代わりに音響反射膜31を設けてもよい。
センサ109では圧電膜14を挟んで、下部電極12と上部電極16が設けられている。圧電膜14は、例えば単結晶水晶である。共振領域50の領域52の上部電極16上に感応膜18が設けられ、領域54の上部電極16上に付加膜20が設けられている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例2のセンサ109のように、水晶振動子に感応膜18および付加膜20を設けてもよい。