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特開2024-128788無機素材で構成される屈曲可能な中空糸状複合半透膜
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  • 特開-無機素材で構成される屈曲可能な中空糸状複合半透膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128788
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】無機素材で構成される屈曲可能な中空糸状複合半透膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20240913BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240913BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20240913BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240913BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/00
B01D69/08
B01D69/10
B01D69/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037993
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100227352
【弁理士】
【氏名又は名称】白倉 加苗
(72)【発明者】
【氏名】荒木 貞夫
(72)【発明者】
【氏名】久保田 昇
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA02
4D006GA13
4D006GA25
4D006GA28
4D006HA01
4D006MA01
4D006MA07
4D006MA21
4D006MA33
4D006MB13
4D006MB15
4D006MB16
4D006MB19
4D006MC01X
4D006MC02
4D006MC03X
4D006NA03
4D006NA39
4D006NA46
4D006PA01
4D006PA04
4D006PB13
4D006PB14
4D006PC41
(57)【要約】
【課題】有機系液の処理(有機系液中の溶解有価物の分離精製濃縮等の処理)に有用な、有機系液中での機械強度に優れた中空糸状複合半透膜を提供する。
【解決手段】ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の外表面及び/又は内表面に、金属酸化物粒子又は、金属酸化物粒子及びアモルファス状シリカで構成される薄膜層を有する、中空糸状複合半透膜。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の外表面及び/又は内表面に、金属酸化物粒子又は、金属酸化物粒子及びアモルファス状シリカで構成される薄膜層を有する、中空糸状複合半透膜。
【請求項2】
ステンレスで構成される多孔性中空糸膜が、粒子径1.0μm以下かつ0.01μm以上のステンレス粒子の焼結体である、請求項1に記載の中空糸状複合半透膜。
【請求項3】
前記金属酸化物粒子が、粒子径0.1μm以下かつ0.001μm以上の、酸化アルミニウム、酸化ケイ素及び酸化ジルコニウムからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の中空糸状複合半透膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機素材で構成される中空糸状複合半透膜に関する。
【背景技術】
【0002】
膜は、液体は液体のまま、気体は気体のままで物質を分離できるため、蒸留法等の相変化(気体⇔液体⇔固体)を伴う古くからの分離手段に比べ、相変化に必要な潜熱の投与が不要になり、少ないエネルギーで物質の分離が可能である。
そのため、膜を用いた分離技術は、今後のカーボンニュートラルの時代に向け、エネルギー消費の少ない分離技術として、その活躍の場を広げることが期待されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、膜を用いた分離技術は、蒸留法を使った技術に比べてエネルギー効率が、格段に良いと記載されている。
【0004】
例えば、非特許文献2には、膜技術の誕生による、海水淡水化における、蒸留法から膜法への移行、つまり、海水淡水化プロセスにおいて、エネルギー多消費プロセス(蒸留)から、エネルギー小消費プロセス(逆浸透膜)への移行が記載されている。また、例えば、非特許文献2には、海水淡水化は、新たな分離技術(膜技術)の進歩とその導入により、「より少ないエネルギー(蒸留法の約1/5)で同等の分離(海水淡水化)」を実現した事例であることが記載されている。
【0005】
なお、上記の海水淡水化等、蒸留代替にも使用可能であり、溶解性物質の分離(例えば海水淡水化の場合、水と水に溶解した塩との分離、その他の場合にも水と水に溶解した高分子との分離等)にも使用できる膜は、「半透膜」と呼ばれる。
一般的には、「半透膜」は、逆浸透膜(RO膜)及び限外濾過膜(UF膜)と呼称される膜種であり、ふるい分け分離としての分離サイズは、100nm以下の領域である。
【0006】
本開示において、「半透膜」の語は、「溶解性物質を分離できる膜」の意で用い、「一般的には逆浸透膜及び限外濾過膜と呼ばれる領域の膜」の意で用いる。
【0007】
カーボンニュートラルの実現が大きな課題となっている今、「膜法を用いる、より少ないエネルギーでの分離」には大きな期待が寄せられており、既に実現している上記海水淡水化(水系液での蒸留代替)だけでなく、未だ蒸留法が主体のエネルギー多消費型の分離が行われている有機系液の分離(化学系産業での有機系液溶剤分離、有機系液中に溶解している有価物の分離等)にも膜法を適用しようとする研究が行われている。
【0008】
例えば、非特許文献2には、ゾルゲル法によって有機無機ハイブリッドシリカ膜を作製し、メタノール/トルエンの分離を検討したことが記載されている。
【0009】
有機系液の膜分離を行う場合、用いる膜は、当然ながら有機系液に対する耐性(有機系液に対して溶解しない、膨潤しない等)が必要である。
しかしながら、海水淡水化等の水系の液の分離で発達してきた従来の膜は、有機系高分子(酢酸セルロース、ポリスルホン等)を素材とする膜が主体であり、有機系高分子は、有機系液への耐性が弱いものが多い。そこで、有機系液の膜分離には、膜素材として無機素材(セラミックス等)が着目されている。
【0010】
例えば、非特許文献3には、セラミック膜で使用される材料は、一般的に各種溶剤・薬品に優れた耐食性を示すため、排水系を含む多岐にわたる用途への適用が可能であるとともに、化学薬品での洗浄にも対応可能であるなどの特長が挙げられる。このため、高分子材料で構成される有機膜と比較し、広い範囲での使用が可能となっていることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】D. S. Sholl and R. P. Lively, Seven chemical separations to change the world, Nature, 532 (2016) P436
【非特許文献2】「化学技術のフロンティアシリーズ(1)サーキュラー・バイオエコノミーを支える分離技術」第2部第2章2.3 P30、及び第4章 P62-63、新化学技術推進協会編・発行、2022年
【非特許文献3】「エネルギー・化学プロセスにおける膜分離技術」第6章第7節 P260、喜多英敏監修、S&T出版、2014年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
無機素材の膜は、耐有機系液性に優れ、かつ耐圧性等の静的な機械強度に優れるが、脆く(可撓性が弱い)、膜のハンドリングには慎重さが求められる。それらも影響してか、無機素材の膜は、容積当たりの充填膜面積が大きくできるため工業的利用に適するとされる中空糸膜の形状にすることが一般に困難である。
「無機素材で構成される、脆くない(屈曲できる)、中空糸状複合半透膜」ができれば、有機系液の分離処理等において、エネルギー多消費型の蒸留法から、エネルギー低消費型の膜法への転換に貢献ができると考えられ、カーボンニュートラル社会の実現に貢献できる可能性が出てくる。
【0013】
本発明は、有機系液の処理(有機系液中の溶解有価物の分離精製濃縮等の処理)に有用な、有機系液中での機械強度に優れた無機素材で構成される中空糸状複合半透膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0015】
<<態様1>>
ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の外表面及び/又は内表面に、金属酸化物粒子又は、金属酸化物粒子及びアモルファス状シリカで構成される薄膜層を有する、中空糸状複合半透膜。
【0016】
<<態様2>>
ステンレスで構成される多孔性中空糸膜が、粒子径1.0μm以下かつ0.01μm以上のステンレス粒子の焼結体である、態様1に記載の中空糸状複合半透膜。
【0017】
<<態様3>>
前記金属酸化物粒子が、粒子径0.1μm以下かつ0.001μm以上の、酸化アルミニウム、酸化ケイ素及び酸化ジルコニウムからなる群から選ばれる1種以上である、態様1又は2に記載の中空糸状複合半透膜。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、有機系液の処理(有機系液中の溶解有価物の分離精製濃縮等の処理)に有用な、有機系液中での機械強度に優れた無機素材で構成される中空糸状複合半透膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、比較例1で得られた、膜AのFE-SEM像であり、(a)は外表面、(b)は外表面近傍の膜断面をそれぞれ示す。
図2図2は、比較例2で得られた、膜BのFE-SEM像であり、(a)は外表面、(b)は外表面近傍の膜断面をそれぞれ示す。
図3図3は、実施例1で得られた、膜CのFE-SEM像であり、(a)は外表面、(b)は外表面近傍の膜断面をそれぞれ示す。
図4図4は、実施例1で得られた、膜Cの写真であり、(a)は屈曲前、(b)は3°屈曲した状態、(c)は屈曲後をそれぞれ示す。
図5図5は、実施例2で得られた、膜DのFE-SEM像であり、(a)は外表面、(b)は外表面近傍の膜断面をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施形態ともいう。)について詳細に説明する。なお、本実施形態は、以下に記述する実施の形態に限定されるものではなく、その示す範囲内で種々変形して用いることができる。
【0021】
<中空糸状複合半透膜>
本実施形態における複合半透膜とは、概略的には、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の外表面及び/又は内表面に、金属酸化物粒子又は、金属酸化物粒子及びアモルファス状シリカで構成される薄膜層を有する、中空糸状複合半透膜である。
【0022】
<<用途>>
本開示において、本実施形態の複合半透膜が有機系液中での機械強度に優れるとは、後述の「屈曲性」を有することを意味する。
本実施形態の複合半透膜は、優れた屈曲性を有するため、有機系液の処理(有機系液中の溶解有価物の分離精製濃縮等の処理)に好適に用いることができる。
「有機系液中の溶解有価物」とは、本開示において、有機溶媒中に溶解している有価物を意味する。一態様において有価物の重量平均分子量は、100万以下である。
有価物の重量平均分子量は、通常の方法により求めることができる。例えば、高分子量~中分子量(重量平均分子量100万~千程度)の有価物の場合、ゲルパーミエーション(GPC)等により測定することができ、低分子量(重量平均分子量数十~数百程度)の有価物の場合、NMR等の分析により分子構造を同定することで測定することができる。
【0023】
本実施形態の複合半透膜を用いる有機系液の処理の手法としては、特には限定されないが、加圧又は陰圧による圧力濾過、濃度差による拡散分離(透析法)、浸透気化法又は気化浸透法などがある。
【0024】
<<屈曲性について>>
本実施形態による中空糸状複合半透膜は、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の外表面及び/又は内表面に、金属酸化物粒子又は、金属酸化物粒子及びアモルファス状シリカで構成される薄膜層を有する。
本実施形態の複合半透膜は、無機素材で構成される膜の特長である有機溶媒、熱(高温)及び圧力(高圧)への耐性を持つと共に、無機素材で構成される膜では通常は発現しない「屈曲性」を有する。
なお、「屈曲」とは、通常、折れ曲がった状態の形状をいうが、本開示においては、膜を屈曲させた力を開放して屈曲が無くなり、もとの真っ直ぐに近い形に戻ることもあるが、このような「もとに近い状態に戻る」場合も含めて「屈曲」ということとする。
ここでいう「屈曲性」とは、中空糸膜の長手方向の任意の1カ所を3°程度の角度で屈曲させた場合に、(1)外観目視で膜の破壊(折れる、割れる等)が確認されない、(2)屈曲の前後で膜性能(溶質の阻止性能等)に変化がない、ことを判断の目安とする性質である。
【0025】
中空糸膜は、実際に使う場合には、後述のように「モジュール」形態に組み立てるために各種のハンドリング作業にさらされる。また、実際の濾過運転時には、濾過対象の流体の流れ等による力の負荷や振動の負荷がかかる場合が多い。そのようなとき、「3°程度屈曲しても壊れない」ことは、工業的利活用の場面を想定したときに、大きな安心材料であると共に大きな利点となる。
【0026】
<<膜性能>>
膜性能には、液透過性及び溶質阻止性があり、それぞれ透過係数及び溶質阻止率によって評価することができる。
ここで、透過係数とは、加圧濾過における膜を透過した膜面積あたりの溶液量(単位:L・m-2・h-1・bar-1)であり、例えば0.1~30barの範囲で加圧した純水及びメタノール等の種々の溶液の膜面積あたりの膜を透過した溶液(透過液)の量(単位:L・m-2・h-1・bar-1)である。
溶質阻止率は、溶質を含む供給溶液の加圧濾過において、100×(1-膜を透過した透過液中の溶質濃度(重量%)/供給溶液中の溶質濃度(重量%))で算出される値(単位:%)である。
なお、透過係数及び溶質阻止率は、実施例記載の方法により測定する。
【0027】
本開示において、「半透性」とは、「半透膜」が逆浸透膜及び限外濾過膜の領域の膜である場合で「その分離対象サイズが、100nm以下の領域であること」であり、「緻密性」と同様の意で用いる。また、好ましい一態様において、「半透性」の膜は、重量平均分子量が数十~百万の範囲である溶質において、前記溶質の少なくとも1種の溶質阻止率を測定した場合の阻止率が75%以上の膜であってよい。
本実施形態の複合半透膜は、「半透性」を有するため、有機系液中の溶解有価物の分離精製濃縮等の処理に優れる。
【0028】
溶質阻止率の試験に用いる試験用溶質としては、一態様において、水系液ではデキストラン(重量平均分子量10000、70000、500000等)、硫酸ナトリウム(重量平均分子量142)、エバンスブルー(重量平均分子量961)及びポリエチレングリコール(重量平均分子量数百~数万程度、例えば、重量平均分子量400、600、1000、2000、6000及び10000等)などが挙げられる。
また、溶質阻止率の試験に用いる試験用溶質としては、一態様において、アルコール系やN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機系液では、メチルレッド(重量平均分子量269)、メチルオレンジ(重量平均分子量327)、タートラジン(重量平均分子量534)、アシッドレッド265(重量平均分子量636)、エバンスブルー(重量平均分子量961)及びローズベンガル(重量平均分子量1018)などが挙げられる。
溶質阻止率の試験に用いる溶液は、一態様において、水系液では、上記試験用溶質の水溶液が挙げられる。
また、溶質阻止率の試験に用いる溶液は、一態様において、有機系液では、上記試験用溶質のメタノール溶液やNMP溶液などが挙げられる。
上記に示す溶質群のうちの少なくとも1つの試験用溶質を含む溶液における溶質阻止率が75%~100%である複合半透膜は、有機系液中の溶解有価物の分離精製濃縮等の処理に有用であり得る。
さらに、本実施形態の複合半透膜は屈曲性を有するため、屈曲処理前後で純水やNMPなどの有機系液の透過係数及び溶質阻止率は変化しないことが好ましいが、実使用上、屈曲処理前後での純水やNMP等の有機系液の透過係数の変化は相対値でプラスマイナス10%以下であればよく、溶質阻止率の変化も相対値でプラスマイナス10%以下であれば好適に使用できる。
【0029】
(有機系液)
有機系液とは、有機溶媒に溶質あるいは他の溶媒が溶解している溶液を指すものである。有機溶媒は特定の種類に限定されず、単独又は複数種の有機溶媒であってもよい。また、有機系液には、水を含む液(一態様において、水系液)も含まれる。
(有機溶媒)
有機系液が含む有機溶媒としては、例えば、炭化水素系の非極性溶媒であるトルエン、キシレン、ヘキサン及び流動パラフィンなどの非極性溶媒、そして、メタノール及びエタノールなどのアルコール、酢酸などの有機酸、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミドなどの極性溶媒、そして酢酸エチルなどの有機酸エステルが挙げられる。
【0030】
<ステンレスで構成される多孔性中空糸膜>
「ステンレス」は、ステンレス鋼(stainless steel)とも言い、鉄を50重量%以上、クロムを10.5重量%以上含み、炭素の含有量が1.2重量%以下の合金鋼である。また、ニッケルを15重量%以下含む場合もある。
多孔性中空糸膜は、典型的にはステンレスのみで構成されてよいが、本発明の効果を損なわない範囲でステンレス以外の材料を含むことは排除されない。
【0031】
「多孔性膜」は、膜の外表面と内表面との両面間で連通した空間部分(孔)を有する膜である。「ステンレスで構成される多孔性膜」は、融着等で連結したステンレス粒子により構成(形成)される膜構造の中に、ステンレスが存在しない空間部分(孔)が膜の両面間に連通した形で存在する膜である。連通した孔は、近似的には、断面の不定形度の高い、曲がりくねった円柱として表現することができる。
この「円柱」の直径は、電子顕微鏡観察等により確認できるが、円形近似で数十μmから数十nmである。この「円柱」の直径は、1つの円柱の中で場所に依らず一定の値である必要は無く、1つの円柱の中で場所により変化してもかまわない(例えば、膜表面に近い場所では直径が大きく膜表面から遠い場所では直径が小さい、あるいはその逆、あるいは大きな直径の場所と小さな直径の場所とがランダムに存在する等)。
また、中空糸膜の厚み部分の体積中に占める「孔」の部分の体積比率(「空孔率」と一般に呼ばれる)は、10%~80%である。「空孔率」は、膜の透過抵抗を低くする観点からは大きい方が好ましいが、膜の機械的強度を高くする観点からは小さい方が好ましく、用途目的に応じて両者のバランスがとれる適切な範囲が存在する。「空孔率」は、20%~75%が好ましく、30%~70%がより好ましい。
「空孔率」は、下記数式(1)により算出できる。
空孔率(%)=(1-G・ρ―1・V-1)×100 ・・・数式(1)
(数式(1)中、Gは中空糸膜の質量(g)であり、ρは中空糸膜を構成する材料の質量平均密度(g/cm)であり、Vは中空糸膜の体積(cm)である。)
空孔率測定用の膜サンプルは、乾燥処理を行ったものを用いる。
Gは、膜サンプルに対し、天秤(電子天秤等)を用いて測定される。
ρは、文献値を用いることができる。
Vは、膜のサンプルの外径、内径及び長さを測定した後、{(外径/2)π─(内径/2)π}×長さ、により算出できる。
中空糸膜の長さは、中空糸膜の片端を起点として、もう一方の端を終点とする膜の長手方向における長さとして、定規を用いて測定できる。
【0032】
「中空糸膜」は、一態様において、膜の直径(外径)が1cm以下の管状の膜である。「中空糸膜」は、膜の表面として「外表面」と「内表面」の両面が存在し、外表面と内表面との間が、「膜厚」部分である。
「多孔性中空糸膜」は、外表面と内表面との間(膜厚部分)に、前述の「連通した空間部分(孔)」を有する。
【0033】
中空糸膜を含む膜は、実際に濾過分離等で使用する際には、膜を容器の中に収めて、被処理液が膜に透過する前の被処理流体側と、膜を透過した後の流体側とを隔離シールした、「モジュール」という形で用いられる。
中空糸膜は、他の形態の膜(シート状の膜(平膜)等)に比べ、容器の中に収める際に、単位容積当たりに充填できる膜面積を大きくでき得るので、コンパクトな「モジュール」(大きな膜面積を、小さな空間容積で実現できる「モジュール」)にすることができる。
また、中空糸膜は、工業的実用に適した膜形態である。「モジュール」がコンパクトにできると、結果として、「モジュール」を組み込んだ膜濾過装置(設備)もコンパクトにできる。
【0034】
容積当たりの充填膜面積を大きくするためには、中空糸膜の直径(外径)は小さい方が好ましい。
一方、中空糸膜の直径(外径)が小さくなりすぎると中空糸膜の内径も小さくなるため、中空部分を流れる流体の圧力損失調整の観点から、中空糸膜の直径(外径)としては、好ましくは5mm以下かつ0.3mm以上、より好ましくは3mm以下かつ0.5mm以上である。
【0035】
また、中空糸膜の内外径比(外径÷内径)の値は、膜の機械的強度の確保及び膜断面を透過する流体の透過抵抗の低減の両面から重要である。
中空糸膜の内径及び外径は、中空糸膜サンプルを輪切りにした切片の切断断面の光学顕微鏡観察にて測定する。
内外径比は、機械的強度の確保の観点からは大きい方が好ましく、透過抵抗の低減の観点からは小さい方が好ましい。中空糸膜の内外径比は、好ましくは1.10以上3.00以下、より好ましくは1.20以上2.50以下である。
【0036】
<ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の製法>
ステンレスで構成される多孔性中空糸膜は、例えば、概略的には以下の(1)から(4)の工程を行うことで得ることができる;
(1)ステンレス粒子、高分子樹脂及び高分子樹脂の溶媒からなるスラリー液を調製する。なお、高分子樹脂は高分子樹脂の溶媒に溶けているが、ステンレス粒子は溶けていないので、溶液ではなくスラリー液になる。
(2)調製したスラリー液を、紡糸口金(一態様において、二重環状ノズル等)より円環状(中空糸状)に押し出して中空糸状物を得る。
(3)押し出した中空糸状物を、高分子樹脂の貧溶媒に接触させて(例えば高分子樹脂の貧溶媒からなる浴中に、押し出した中空糸状物を導入)、高分子樹脂を凝固させ、ステンレス粒子と高分子樹脂とからなる中空糸状固形物(以下、前駆体とも言う)を得る。
このとき、高分子樹脂の溶媒は、高分子樹脂の貧溶媒中に拡散してその多くが中空糸状固形物から除去されるが、より完全に高分子樹脂の溶媒を中空糸状固形物から除去するために、中空糸状固形物を高分子樹脂の貧溶媒中に浸漬等をすることもできる。
(4)得られた中空糸状固形物を高温下で焼成する(焼成することにより高分子樹脂は消失し、かつ、ステンレス粒子間に融着が起こり、ステンレス粒子で構成される多孔性中空糸膜が得られる)。
【0037】
≪(1)の工程≫
(1)の工程では、まず、ステンレス粒子と高分子樹脂を、必要に応じてステンレス粒子の分散剤を用いて、高分子樹脂の溶媒にそれぞれステンレス粒子を分散及び高分子樹脂を溶解させ、スラリー液を調製する。
【0038】
スラリー液の組成として、スラリー液中のステンレス粒子の濃度は50重量%以上70重量%以下が好ましく、55重量%以上65重量%以下がより好ましい。
スラリー液の組成として、スラリー液中の高分子樹脂の溶媒の濃度は20重量%以上50重量%以下が好ましく、30重量%以上40重量%以下がより好ましい。
スラリー液の組成として、スラリー液中の高分子樹脂の濃度は3重量%以上15重量%以下が好ましく、4重量%以上8重量%以下がより好ましい。
また、必要に応じてスラリー液に分散剤を添加することができ、この場合のスラリー液中の分散剤の濃度は0.01重量%以上5重量%以下が好ましく、0.1重量%以上0.8重量%以下がより好ましい。
ステンレス粒子の濃度が低すぎると、焼成後に構造物が得られず、ステンレス粒子の濃度が高すぎるとスラリー液中で充分な分散性が得られない。
また、高分子樹脂の濃度が低すぎると、中空糸状固形物(前駆体)の構造を維持することができず、高分子樹脂の濃度が高すぎると高分子樹脂の溶媒に溶解できないなどの問題がある。
高分子樹脂が存在する液中での混合には、遊星ボールミルなどを用いることができるが、高分子樹脂が完全に溶解し、ステンレス粒子が充分に分散(例えば1日程度でステンレス粒子の沈降が観察されない程度)していれば混合方法は特には限定されない。
【0039】
・ステンレス
素材としてのステンレスの種類には特に制限はないが、SUS304やSUS316などを用いることができる。ステンレス粒子の粒子径については、所望の中空糸膜の細孔径に応じて、適切な大きさを選定する必要があるが、粒子径30μm以下0.01μm以上の範囲が好ましく、1.0μm以下0.01μm以上の範囲がさらに好ましい。
【0040】
なお、本実施形態で言う「粒子径」とは、「平均粒子径」のことをいう。
本開示における平均粒子径の測定は、レーザー回折・散乱法(測定される粒度分布における、三次元球形近似での体積分布における積算50%の球の直径を「平均粒子径」とする)、あるいは電子顕微鏡観察法(透過型電子顕微鏡(TEM)観察において、ランダムに測定した約100個程度の粒子の、二次元円形近似での円の直径の数平均値を「平均粒子径」とする)にて求めることができる。
なお、粒子径が100nm超の場合にはレーザー回折・散乱法を、粒子径が100nm以下の場合には電子顕微鏡法を用いて平均粒子径の測定を行うことが、より適切である。
【0041】
・高分子樹脂
高分子樹脂には相転換法(相分離法)を用いて高分子膜が調製できる高分子樹脂であれば、どのようなものでも用いることができる。
例えば、高分子樹脂としては、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、酢酸セルロース等のセルロース誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデンなどを用いることができる。
【0042】
・高分子樹脂の溶媒
高分子樹脂の溶媒には、高分子樹脂を溶解させ、かつ、代表的な高分子樹脂の貧溶媒である水に任意に混和できるものであれば特に制限はないが、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド及びジメチルホルムアミドなどを用いることができる。
【0043】
・ステンレスの分散剤
ステンレスの分散剤には、ステンレス粒子の分散性を助け、かつ高分子樹脂の溶解を妨げないものであれば特に制限されるものではないが、ジポリヒドロキシステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリグリセリン脂肪酸エステルやソルビタン脂肪酸エステルなどエステル系分散剤、アクリル酸系ポリマーなどを用いることができる。
【0044】
≪(2)の工程≫
(2)の工程では、二重環状構造を持つ紡糸口金の外環に(1)で調製したスラリー液を口金からの吐出線速にて0.01~0.50m/秒を目安にポンプ(例えば、シリンジポンプ、プランジャーポンプ及びギヤポンプなど)で供給する。
また、紡糸口金の内環に高分子樹脂の貧溶媒又は高分子樹脂の貧溶媒と高分子樹脂との良溶媒(高分子樹脂の溶媒等)との混合物を口金からの吐出線速にて0.03~1.50m/秒を目安にポンプ(例えば、シリンジポンプ、プランジャーポンプ、ギヤポンプ、ペリスタポンプ及びロータリーポンプなど)で供給し、円環状に(即ち中空糸状に)中空糸状物を押し出す。
また、紡糸口金の形状は必ずしも二重環状である必要はなく、ハニカム状であっても、外環内に複数の内環が設置されていてもよい。
【0045】
≪(3)の工程≫
(3)の工程では、(2)の工程で紡糸口金から押し出した中空糸状物を、高分子樹脂の貧溶媒と接触をさせて、押し出した中空糸状物中の高分子樹脂を凝固固化させる(同時に、高分子樹脂の溶媒の大部分も、高分子樹脂の貧溶媒中へ拡散除去される)。
高分子樹脂の貧溶媒との接触は、押し出した中空糸状物を、例えば高分子樹脂の貧溶媒からなる浴中に導入する(引き入れる)ことで行うことができる。押し出した中空糸状物を、若干(一態様において、紡糸口金と水面との距離1cm程度)の空中走行後に高分子樹脂の貧溶媒と接触をさせても良い。
【0046】
高分子樹脂の貧溶媒には、水が代表的に用いられる。
また、高分子樹脂の貧溶媒として、高分子樹脂の貧溶媒としての性質(高分子樹脂を実質的に溶解しない性質)を失わない範囲で、水に高分子樹脂の溶媒を混合した液を用いることもできる。高分子樹脂を実質的に溶解しない性質とは、スラリー液調製時に、スラリー液に含有した高分子樹脂量の10重量%以上は溶解させない高分子樹脂の貧溶媒の性質をいう。
(3)の工程により、ステンレス粒子と高分子樹脂とからなる中空糸状の固形物(前駆体)を得ることができる。得られる中空糸状固形物から高分子樹脂の溶媒をより完全に除去するために、得られる中空糸状の固形物を、高分子樹脂の貧溶媒の液中に浸漬することもできる。
【0047】
≪(4)の工程≫
(4)の工程では、(3)の工程で得られる中空糸状の固形物を、高温下で焼成する。
まず、(3)の工程で得られる中空糸状固形物(高分子樹脂の貧溶媒を含有している)を室温下で乾燥し、その後に還元雰囲気又は真空下で焼成することで、高分子樹脂が消失し、ステンレス粒子間の融着が起こり、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜を得ることができる。
還元雰囲気の例として、水素やアンモニアの雰囲気がある。焼成温度は、ステンレスの粒子径や所望の多孔性中空糸膜の細孔径にも依るが、一般的に1100℃以上1600℃以下が好ましく、1300℃以上1500℃以下がより好ましい。焼成温度が低すぎると、機械的強度が得られず、焼成温度が高すぎると焼結が進みすぎて多孔性(空孔性)が失われる。
【0048】
<金属酸化物粒子又は、金属酸化物粒子及びアモルファス状シリカで構成される薄膜層>
ステンレスで構成される多孔性中空糸膜は、構造的に強固で屈曲性も保有し、有機系液の処理には好適である。一態様において、粒子径1.0μm以下かつ0.01μm以上のステンレス粒子の焼結体からなる多孔性中空糸膜は、構造的に強固で屈曲性も保有するため、有機系液の処理に特に好ましい。
一方で、その分離できるサイズは、μmオーダーであり、「半透膜」と呼べる分離性(溶解物の分離)は難しい場合が多い。
【0049】
そこで、一態様において、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜に「半透性(半透膜としての性質)」を付与するために、ステンレスの多孔性中空糸膜の表面(外表面及び/又は内表面)に、粒径の小さい無機素材(一態様において、金属酸化物)の粒子(例えば、金属酸化物粒子)を薄膜状に堆積させて薄膜層を形成させ、緻密性(半透性)を出すことができる。
つまり、本実施形態の中空糸状複合半透膜は、一態様において、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の外表面及び/又は内表面に、金属酸化物粒子で構成される薄膜層を有するため、緻密性(半透性)を有する。
【0050】
一態様において、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜に「半透性(半透膜としての性質)」を付与するために、ステンレスの多孔性中空糸膜の表面(外表面及び/又は内表面)に、無機素材(金属酸化物粒子)及びアモルファス状シリカを薄膜状に堆積させて薄膜層を形成させ、緻密性(半透性)を出すことができる。
つまり、本実施形態の中空糸状複合半透膜は、一態様において、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の外表面及び/又は内表面に、金属酸化物粒子及びアモルファス状シリカで構成される薄膜層を有するため、緻密性(半透性)を有する。
本実施形態の薄膜層は、典型的には、金属酸化物粒子又は、金属酸化物粒子及びアモルファス状シリカのみで構成されてよいが、本発明の効果を損なわない範囲で他の材料を含むことは排除されない。
【0051】
また、別の一態様において、本実施形態の中空糸状複合半透膜は、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の外表面及び/又は内表面に、金属酸化物粒子で構成される薄膜層を有することにより、構造的に強固で屈曲性もあり、かつ、緻密性(半透性)を有するため、有機系液の処理には好適である。
【0052】
さらに、一態様において、本実施形態の中空糸状複合半透膜は、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の外表面及び/又は内表面に、金属酸化物粒子及びアモルファス状シリカで構成される薄膜層を有することにより、構造的に強固で屈曲性もあり、かつ、緻密性(半透性)を有するため、有機系液の処理には好適である。
【0053】
加えて、本実施形態の中空糸状複合半透膜は、一態様において、粒子径1.0μm以下かつ0.01μm以上のステンレス粒子の焼結体である多孔性中空糸膜の外表面及び/又は内表面に、金属酸化物粒子で構成される薄膜層を有することにより、構造的に強固で屈曲性もあり、かつ、緻密性(半透性)を有するため、有機系液の処理には好適である。
【0054】
加えて、本実施形態の中空糸状複合半透膜は、一態様において、粒子径1.0μm以下かつ0.01μm以上のステンレス粒子の焼結体である多孔性中空糸膜の外表面及び/又は内表面に、金属酸化物粒子及びアモルファス状シリカで構成される薄膜層を有することにより、構造的に強固で屈曲性もあり、かつ、緻密性(半透性)を有するため、有機系液の処理には好適である。
【0055】
(金属酸化物粒子で構成される薄膜層の形成)
金属酸化物粒子としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化鉄及び酸化亜鉛等の粒子を用いることができる。金属酸化物粒子としては、必ずしも単一の種類を用いる必要は無く、複数の種類を混合して用いることもできる。
酸化アルミニウムは、一般的な化学式はAlで、αアルミナやγアルミナ等が含まれる。
酸化ケイ素は、シリカとも呼ばれ、一般的な化学式はSiOである。
酸化ジルコニウムは、ジルコニアとも呼ばれ、一般的な化学式はZrOである。酸化ジルコニウムには、酸化イットリウム(イットリア(化学式はY))を添加して構造を安定化させた、イットリア安定化ジルコニア(通称はYSZ)も含まれる。
酸化チタンは、チタニアとも呼ばれ、一般的な化学式はTiOである。
酸化セリウムは、セリアとも呼ばれ、一般的な化学式はCeOである。
酸化鉄の一般的な化学式はFeO、Fe及びFeである。
酸化亜鉛の一般的な化学式はZnOである。
用いる金属酸化物の種類は特に限定されない。金属酸化物粒子の中でも、粒子径の小さな粒子などの様々な粒子径の粒子をつくる技術が発達している、酸化アルミニウム、酸化ケイ素及び酸化ジルコニウムからなる群から選ばれる1種以上が本実施形態の中空糸状複合半透膜に係る薄膜層を形成する金属酸化物粒子として好ましく用いられる。
【0056】
金属酸化物の粒子径については、所望の中空糸膜の細孔径に応じて、適切な大きさを選定する必要がある。「半透性」(限外濾過膜や逆浸透膜の領域)の現出のためには、本実施形態の中空糸状複合半透膜に係る薄膜層を形成する金属酸化物粒子の粒子径が0.1μm以下かつ0.001μm以上が望ましい。
本実施形態の中空糸状複合半透膜に係る薄膜層を形成する金属酸化物粒子は、粒子径0.1μm以下かつ0.001μm以上の、酸化アルミニウム、酸化ケイ素及び酸化ジルコニウムからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0057】
このように、金属酸化物粒子を、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の外表面及び/又は内表面に堆積させることで、限外濾過膜レベルの半透性(分離対象サイズが、数nmから数十nm程度)を持つ、無機素材の中空糸状複合半透膜を得ることができる。
また、一態様において、粒子径0.1μm以下かつ0.001μm以上である金属酸化物粒子を、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の外表面及び/又は内表面に堆積させることで、限外濾過膜レベルの半透性(分離対象サイズが、数nmから数十nm程度)を持つ、無機素材の中空糸状複合半透膜を得ることができる。
半透性の分離対象サイズをさらに小さく(数nmから数オングストローム程度)するために、上記の金属酸化物粒子の薄膜層の上に、さらにアモルファス状シリカの堆積層(薄膜層)を形成することもできる。
【0058】
(アモルファス状シリカで構成される薄膜層の形成)
アモルファス状シリカは、ケイ素原子と酸素原子とが不規則に配列して結合している状態の酸化ケイ素系化合物である。なお、アモルファス状シリカには、その中のケイ素原子のうち一部のケイ素原子が、酸素ではなく、有機官能基(一態様において、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基及びフェニル基などの炭化水素基等)と結合している場合も含まれる。
【0059】
ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の表面(外表面及び/又は内表面)に堆積(形成)させた金属酸化物粒子で構成される薄膜層の上に形成(堆積)されるアモルファス状シリカの薄膜層は、金属酸化物粒子の薄膜層を覆うことができていればよく、その形状や厚みに特段の制限はない。なお、アモルファス状シリカは、その一部が、金属酸化物粒子で構成される薄膜層内に含浸されて存在していてもよい。また、アモルファス状シリカで構成される薄膜層の厚みには、その下地である金属酸化物粒子で構成される薄膜層に含浸された部分は含めない。
アモルファス状シリカで構成される薄膜層は、数百nm未満の厚みの層を形成していることが望ましく、詳細には、1nm以上100nm以下の範囲が望ましい。
アモルファス状シリカで構成される薄膜層の厚みが小さいと、金属酸化物粒子で形成される層の表面の細孔を完全に覆うことが難しくなり、厚みが大きいと膜としての透過性が下がるため望ましくない。
【0060】
半透性機能を持つ緻密層(一態様において、金属酸化物粒子又は、金属酸化物粒子及びアモルファス状シリカで構成される薄膜層)は、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の外表面又は内表面のどちらに形成されていても良い。また、半透性機能を持つ緻密層は、ステンレスの多孔性中空糸膜の両面(外表面及び内表面)ともに形成されていても良い。
半透性機能を持つ緻密層を、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の外表面若しくは内表面又は両方の面ともに形成するかについては、作製する膜の用途目的等に応じて適宜設定することができる。例えば、有機系液中に溶解している有価物(低分子量の医薬原薬等)を濃縮精製する場合には、濃縮液が精製される側の膜面に緻密層が存在し、かつ緻密層が存在する側の膜面から被処理液の濾過を行うことが、一般的には適している。
なお、半透性機能を持つ緻密層の存在は、膜全体としての液の透過抵抗を高めることになるために、緻密層を膜の両面に持つことは透過性能の観点からは好ましくないが、透過性能よりも分離性能を重視する用途目的の場合には、膜の両面に緻密層を持つことが好ましい場合も有り得る。
【0061】
(ステンレスで構成される多孔性中空糸膜表面への、金属酸化物粒子で構成される薄膜層の形成方法)
無機素材(金属酸化物)で構成される粒子径の小さな粒子を薄膜状に堆積させて薄膜層を形成するには、前記の酸化アルミニウム、酸化ケイ素及び酸化ジルコニウムからなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物粒子をコロイド状に分散させた液(金属酸化物粒子液:ゾル)を、ステンレスの多孔性中空糸膜の表面(外表面及び/又は内表面)に塗布する。
具体的には、例えば、以下の(1)から(3)の工程を行うことで、金属酸化物粒子で構成される薄膜層を形成することができる。
【0062】
(1)金属酸化物粒子液の調製:金属酸化物粒子液は、例えば以下のようにして調製をすることができる。例えば、酸化アルミニウムや酸化ケイ素の金属酸化物粒子液は、それぞれの金属アルコキシド(アルミニウムの場合は例えばアルミニウム sec-ブトキシド、シリカの場合は例えばケイ酸エチル、ケイ酸メチルなど)と水、又は水とエタノールやメタノールなどの低級アルコールとの混合液に溶解させ、さらに塩酸や硝酸などの酸を触媒として添加し、加水分解および重縮合反応をさせることで、粒子径0.1μm以下かつ0.001μm以上の金属酸化物粒子液を調製することができる。なお、市販の、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾルやチタニアゾルを、金属酸化物粒子液として用いることも可能である。
【0063】
金属酸化物粒子液中の金属酸化物粒子の濃度は1重量%以上10重量%以下が好ましい。濃度が薄すぎると金属酸化物粒子の堆積層が充分にステンレスで構成される多孔性中空糸膜の表面を覆うことができず、濃度が濃すぎると金属酸化物粒子の堆積層(薄膜層)が厚くなってしまい、透過性が低下してしまう。
また、液の粘度を調整するために高分子化合物を液に添加することもできる。用いる高分子化合物は、水に溶解する高分子化合物であれば特に制限がないが、ポリビニルアルコールなどを用いることができる。
【0064】
(2)金属酸化物粒子液の塗布:(1)で調製した液を、ステンレスからなる多孔性中空糸膜表面に塗布する方法としては、中空糸膜の外表面又は内表面に塗布する場合があり、以下のとおりである。
例えば、外表面に塗布する場合は、(1)で調製した液中に、端部を封止した中空糸膜を0.5~10mm/秒の速度で垂直に浸漬し、膜全体が液中に浸漬された状態で5~300秒保持した後、0.01~5mm/秒の速度で膜を液中から垂直に引き上げて室温付近(10~60℃)で1~24時間を目安に乾燥させることで行うことができる。
また、内表面に塗布する場合は、例えば(1)で調製した液を、中空糸膜の中空部内に注入し、ドレイン後、室温付近(10~60℃)で1~24時間を目安に乾燥させることで行うことができる。
また、工程(2)は、実施の態様に応じて、複数回実施してもよい。
【0065】
(3)塗布処理後の膜の焼成:(2)で調製した膜を、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気中又は水素や一酸化炭素を含む還元雰囲気中で150℃以上650℃以下で熱処理することで、より構造の強固な金属酸化物粒子で構成される薄膜層を得ることができる。
また、工程(3)は、実施の態様に応じて、複数回実施してもよい。
【0066】
例えば上記(1)から(3)の工程を行うことで得られる金属酸化物粒子で構成される薄膜層の厚みは、ステンレスからなる多孔性中空糸膜の表面を欠陥無く覆うことができれば、特に制限されるものではないが、その厚みは、数十nm以上数μm以下が好ましく、詳細には、20nm以上2μm以下の範囲が好ましい。なお、塗布した金属酸化物粒子の一部は、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の孔内に入り込んでいても良い。
【0067】
(ステンレスで構成される多孔性中空糸膜表面への、アモルファス状シリカ層の形成方法)
アモルファス状シリカ層は、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の表面(外表面及び/又は内表面)に堆積(形成)させた金属酸化物粒子の薄膜層の上に形成(堆積)される。なお、アモルファス状シリカ層の一部が、金属酸化物粒子で構成される薄膜層内に含浸されて存在していても良い。
例えば、以下の(1)から(3)の工程を行うことでアモルファス状シリカ層を作製することができる。
アモルファス状シリカ層の形成方法は、工程(1)酸化ケイ素系重合化合物溶液の調製、(2)酸化ケイ素系重合化合物溶液の塗布及び(3)膜の加熱処理を含む。
【0068】
(1)酸化ケイ素系重合化合物溶液の調製
(1)の工程では、シリコンアルコキシドを溶媒中、触媒存在下、加水分解する。その後、該加水分解物の重縮合反応を行うことで、酸化ケイ素系重合化合物が溶解(あるいは懸濁)した液(酸化ケイ素系重合化合物溶液)を調製する。
【0069】
シリコンアルコキシドには、テトラメトキシシラン、テトラエトキシランや、架橋基を持つ、ビス(トリエトキシル)メタン、1,2-ビス(トリエトキシル)エタン、1,2-ビス(トリメトキシル)エタンや、アルコキシドの1箇所または2箇所が炭化水素基で置換されているメチルトリメトキシシランやエチルトリメトキシシランやプロピルトリメトキシシランやシクロヘキシルトリメトキシシランやフェニルトリエトキシシラン、などを目的に応じて用いることができる。
【0070】
溶媒にはメタノールやエタノールなどのアルコールの他、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロフランなどの極性溶媒を用いることができる。
【0071】
シリコンアルコキシドの加水分解反応及び重縮合反応の触媒として酸やアルカリを用いることができる。
酸触媒には硝酸、塩酸などを用いることができ、アルカリ触媒ではアンモニア、水酸化ナトリウムなどを用いることができる。
【0072】
また、アモルファス状シリカ層に適切な径の細孔を形成させるために添加剤(分子鋳型剤)を必要に応じて添加することもできる。分子鋳型剤には特に制限はないが、カチオン性界面活性剤であるヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩などの4級アンモニウム塩などを用いることができる。
【0073】
酸化ケイ素系重合化合物溶液の組成は、モル比として、シリコンアルコキシド1に対して、溶媒及び水のモル比は1以上30以下の範囲が好ましく、3以上5以下がさらに好ましい。溶媒あるいは水のモル比が少なすぎると、シリコンアルコキシドの濃度が高くなり、加水分解及び重縮合反応が過剰に進行してしまう。逆に、溶媒あるいは水のモル比が多すぎると、シリコンアルコキシドの濃度が低くなり、加水分解及び重縮合反応が充分に進行しない。
【0074】
触媒としての酸又はアルカリは、シリコンアルコキシド1に対してモル比で0.01以上0.5以下の範囲が好ましく、0.05以上0.2以下の範囲がさらに好ましい。触媒としての酸又はアルカリは、少なすぎると加水分解及び重縮合反応が充分に進行せず、逆に多すぎると、加水分解及び重縮合反応が過剰に進行してしまう。
【0075】
添加剤(分子鋳型剤)を用いる場合は、シリコンアルコキシド1に対してモル比で0.001以上0.5以下が好ましく、0.01以上0.2以下の範囲がさらに好ましい。
【0076】
(2)酸化ケイ素系重合化合物溶液の塗布:(2)の工程において、(1)で調製した液を、ステンレスで構成される中空糸膜表面に堆積(形成)させた金属酸化物粒子の薄膜層上に塗布する方法としては、中空糸膜の外表面又は内表面に塗布する場合で異なり、以下のとおりである。
例えば、アモルファス状シリカ層で構成される薄膜層を中空糸膜の外表面に堆積させる場合の塗布方法は、(1)で調製した液中に、端部を封止した金属酸化物粒子の薄膜層を有する中空糸膜を0.5~10mm/秒の速度で垂直に浸漬し、膜全体が液中に浸漬された状態で5~300秒保持した後、0.01~5mm/秒の速度で膜を液中から垂直に引き上げて室温付近(10~60℃)で1~24時間を目安に乾燥させることで行うことができる。
また、アモルファス状シリカ層で構成される薄膜層を中空糸膜の内表面に堆積させる場合の塗布方法は、例えば(1)で調製した液を、中空糸膜の中空部内に注入し、ドレイン後、室温付近(10~60℃)で1~24時間を目安に乾燥させることで行うことができる。
さらに、中空糸膜中に残留している添加剤(分子鋳型剤)は、例えば、エタノールなどの溶媒に膜を24時間程度浸漬することで除去できる。
【0077】
(3)膜の加熱処理:(3)の工程では、(2)の工程で得られた乾燥膜を加熱処理する。加熱処理は、例えば50℃以上650℃以下、1~24時間で、例えば空気中、又は、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気中又は水素や一酸化炭素を含む還元雰囲気中で焼成することができる。
【0078】
(ステンレスで構成される多孔性中空糸膜表面の事前平坦化処理)
金属酸化物粒子をステンレスで構成される多孔性中空糸膜の表面(一態様において、外表面及び/又は内表面)に堆積させる前に、ステンレスの多孔性中空糸膜の表面の凸凹を平坦化する目的(金属酸化物粒子の薄膜層を、より確実に欠陥無く形成させる目的)で、ステンレスの多孔性中空糸膜表面に対して、必要に応じて、事前平坦化処理をすることができる。
形成された平坦化処理部は、一態様において、金属酸化物粒子又は、金属酸化物粒子及びアモルファス状シリカで構成される薄膜層の一部を構成する。
事前平坦化処理は、一態様において、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化鉄及び酸化亜鉛等の無機素材で構成される粒子径1.0μm以下かつ0.01μm以上の粒子を、ステンレスの多孔性中空糸膜の表面に薄く塗布する処理である。
【0079】
具体的には、例えば以下の(1)から(3)の工程を行うことで、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の表面の平坦化処理を行うことができる。
(1)平坦化処理用の塗布液の調製:平坦化処理用の塗布液は、例えば次のようにして調製することができる。
粒子径1.0μm以下かつ0.01μm以上の無機素材で構成される粒子を水に分散させ、さらに、無機素材の粒子の焼結温度を低減するための無機バインダーとして、粒子径0.1μm以下かつ0.001μm以上の金属酸化物をコロイド状に分散させた液(ゾル)を添加する。
無機素材で構成される粒子として用いることができるのは、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化鉄及び酸化亜鉛などの粒子であり、好ましくは粒子径1.0μm以下かつ0.01μm以上のこれら無機素材の粒子であり、特に好ましくはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)粒子である。
無機バインダーとして用いることができる金属酸化物として、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどがある。
また、必要に応じて、平坦化処理用の塗布液の粘度を調整するために、さらに高分子化合物を添加することもできる。用いる高分子化合物は、水に溶解する高分子化合物であれば特に制限がないが、ポリビニルアルコールなどを用いることができる。
【0080】
平坦化処理用の塗布液の配合として、粒子径1.0μm以下かつ0.01μm以上の無機素材で構成される粒子は、平坦化処理用の塗布液を基準として5重量%以上15重量%以下が好ましく、8重量%以上12重量%以下がより好ましい。
平坦化処理用の塗布液の配合として、無機バインダー(コロイド状の金属酸化物)は、平坦化処理用の塗布液を基準として1重量%以上20重量%以下が好ましく、1重量%以上10重量%以下がより好ましい。
平坦化処理用の塗布液の配合として、高分子化合物は、平坦化処理用の塗布液を基準として0.1重量%以上3重量%以下が好ましく、0.5重量%以上1.5重量%以下がより好ましい。
【0081】
(2)塗布の実施:(1)で調製した平坦化処理用の塗布液を、ステンレスからなる多孔性中空糸膜表面に塗布する方法としては、中空糸膜の外表面又は内表面に塗布する場合があり、以下のとおりである。
例えば、外表面に塗布する場合は、(1)で調製した液中に、端部を封止した中空糸膜を0.5~10mm/秒の速度で垂直に浸漬し、膜全体が液中に浸漬された状態で5~300秒保持した後、0.01~5mm/秒の速度で膜を液中から垂直に引き上げて室温付近(10~60℃)で1~24時間を目安に乾燥させることで行うことができる。
また、内表面に塗布する場合は、例えば(1)で調製した液を、中空糸膜の中空部内に注入し、ドレイン後、室温付近(10~60℃)で1~24時間を目安に乾燥させることで行うことができる。
【0082】
(3)後処理(加熱処理):(2)で作製した乾燥後の膜を、例えば窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気中又は水素や一酸化炭素を含む還元雰囲気中で150℃以上650℃以下で加熱処理することで、「平坦化処理」部の構造をより強固にすることができる。
【実施例0083】
(比較例1)
<ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の作製>
平均粒子径100nm(電子顕微鏡観察法で測定)のステンレス粒子(日本イオン株式会社の製品名:NanoPure ステンレス鋼(SUS316相当)ナノパウダー)250g、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)148g及びステンレスの分散剤(ジポリヒドロキシステアリン酸ポリエチレングリコール)2gを遊星ボールミル専用容器に加え、48時間ボールミル処理をした。その後、得られた液(500mL)に、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)(三菱ケミカル製VH001)26gを加え、PMMAが充分に溶解するまで(120時間程度)ボールミルで撹拌し、スラリー液を得た。
なお、ステンレスの平均粒子径は、電子顕微鏡観察法(透過型電子顕微鏡(TEM)観察において、ランダムに測定した約100個程度の粒子の、二次元円形近似での円の直径の数平均値を「平均粒子径」とする)にて求めた。
【0084】
次に、スラリー液を脱気し、シリンジポンプに移した。
その後、外環の内径が3mm、内環の内径が1.8mmの紡糸口金(二重環状ノズル)に対して、外環側にスラリー液を、内環側に純水を、それぞれ11mL/分(口金からの吐出線速にて0.04m/秒)及び22mL/分(口金からの吐出線速にて0.14m/秒)にて供給し、中空部内に水を含む中空糸状物を押し出した。
【0085】
押し出した中空糸状物は、大量の純水からなる水浴中に引き入れ(二重環状ノズルと水面との距離(中空糸状物の空中走行距離)は1cm)、PMMAとステンレスからなる中空糸状固形物(前駆体)を作製した。得られた中空糸状固形物(前駆体)を適切な長さに切断し、水中に浸漬して充分にNMPを除去後、室温下で乾燥させた。
【0086】
次いで、水素雰囲気下で1335℃にて焼成を行った(室温から2℃/minにて600℃まで昇温し、その後600℃にて2h保持し、その後3℃/minにて1335℃まで昇温し、その後1335℃にて1h保持し、その後5℃/minにて室温まで降温)。
得られた膜の外径は2.0mm、内径は1.6mmであった。
また、得られた膜の空孔率は、40%であった。
得られた膜を、以後「膜A」と言う。
【0087】
<ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の外表面の平坦化処理>
(比較例2)
無機バインダーとしての20重量%のコロイダルシリカ液(日産化学製:スノーテックスO-40、粒子径約20nm)25mL、高分子化合物としての3.4重量%のポリビニルアルコール(PVA)(重合度約2000)水溶液10gの両液を室温で混合した。その後、その混合液へ、無機素材で構成される粒子としての平均粒子径0.55μmのイットリア安定化ジルコニア(YSZ)粒子4gを少量ずつ加えながら、800rpmで撹拌した。その後、15分間超音波処理を行い、平坦化処理用の塗布液を調製した。
【0088】
その液中へ、端部を封止した、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜(膜A)を浸漬した(2mm/秒の速度で中空糸膜を液中に垂直に浸漬し、膜全体が液中に浸漬された状態で20秒保持し、その後0.5mm/秒の速度で中空糸膜を液中から垂直に引き上げた)。
【0089】
膜の引き上げ後、室温で3時間乾燥させた後、水素雰囲気下で600℃で加熱処理をした(室温から1℃/分で600℃まで昇温し、600℃で24時間保持し、1℃/分で室温まで降温した)。
得られた膜を、以後「膜B」と言う。
【0090】
<ステンレスで構成される多孔性中空糸膜外表面への、金属酸化物粒子で構成される薄膜層の形成>
(実施例1)
80℃に加熱した純水225mL中に、アルミニウム sec-ブトキシド50gを撹拌しながら加え、次いで90℃に加熱後に濃度1mol/Lの硝酸を10.0mL加えた。その後90℃で24時間還流しながら撹拌し、粒子径30nm、濃度1mol/L(濃度6重量%)のγアルミナ粒子液(べーマイトゾル)を調製した。このγアルミナ粒子液25mlに、高分子化合物としての濃度5重量%のポリビニルアルコール(重合度約2000)水溶液10gを加え、15分間超音波処理を行った。
【0091】
このγアルミナ粒子液中へ、端部を封止した、前述の外表面の平坦化処理済のステンレスで構成される多孔性中空糸膜(膜B)を浸漬した(2mm/秒の速度で中空糸膜を液中に垂直に浸漬し、膜全体が液中に浸漬された状態で20秒保持し、その後0.5mm/秒の速度で中空糸膜を液中から垂直に引き上げた)。
【0092】
膜の引き上げ後、室温で3時間乾燥させた後、水素雰囲気下で600℃で焼成した(室温から1℃/minで600℃まで昇温し、600℃で24h保持し、1℃/minで室温まで降温した)。この浸漬及び焼成の操作を、2回繰り返した。このようにして、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の外表面にγアルミナ粒子で構成される薄膜層を有する中空糸状複合半透膜を得た。
得られた膜を、以後「膜C」と言う。
【0093】
<得られる膜のキャラクタライゼーション方法>
作製した膜の表面及び断面の物理的構造観察は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)(装置:HITACHI S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)によって観察した。測定前に蒸着装置(JEOL製,JFC-3000FC)を用いてサンプルを金でコートした。
【0094】
<膜A~Cの性能評価>
作製した膜の液透過性及び溶質阻止性を、以下の通り、評価した。
溶質として重量平均分子量7万のデキストランを純水に溶解した濃度0.3重量%水溶液を、圧力容器内に設置した膜A~Cに対し、ポンプにより、膜の外表面側へ供給し、30barで加圧濾過を行った。膜の外表面側から内表面側に透過した透過液の重量から透過係数[L・m-2・h-1・bar-1]を測定した。
また、溶質(デキストラン)濃度から溶質阻止率[%]を測定した。
溶質濃度は、密度計:アントンパール、DMA4500Mにより溶質の密度を測定し、密度の変化により求めた。
【0095】
<得られる膜のキャラクタライゼーション結果>
膜A、膜B及び膜Cの、外表面及び断面の外表面近傍のFE-SEM像を、図1図2及び図3に、それぞれ示す。
図1aより、膜Aの外表面には、μmあるいはサブμmクラスの孔が観察され、半透性は期待ができないことがFE-SEM観察からもわかる。
図2aより、膜Bの外表面には、少ないながらμmあるいはサブμmクラスの孔が観察される。
また、図1aと図2aとの比較から、膜Bでは多少の凸凹は残るものの、膜Aで観察される孔の大部分が埋められており、平坦化が進んでいることがFE-SEM観察からもわかる。
さらに、図3aでは、膜Cの外表面に図1a及び図2aのような孔は観察されなかった。
加えて、図1bと図3bとの比較から、実施例1において形成された金属酸化物粒子(γアルミナ)で構成される層は厚みが全体的にほぼ1μmであることから、薄膜であることがわかる。
【0096】
膜A、膜B及び膜Cのそれぞれの、純水の透過係数及び溶質(重量平均分子量7万のデキストラン)阻止率を、表1に示す。
膜A及び膜Bでは水に溶けた溶質(デキストラン(重量平均分子量7万))の阻止率が0%であるため、膜A及び膜Bは「半透性」を有しないと言える。
一方で、膜Cでは水に溶けた溶質(デキストラン(重量平均分子量7万))が100%近く阻止されているため、膜Cは分離対象サイズとして数nmから数十nm程度の限外濾過膜レベルの「半透性」を有すると言える。
【0097】
<膜Cの屈曲テスト>
図4(a)で示す屈曲前の膜Cに対し、図4(b)に示すように、円盤状の金属治具を膜に当てる形で、手で膜Cに力をかけ、3°の角度で膜を曲げた。曲げた後、数秒の保持後、曲げるために膜にかけた力を開放した。膜に手でかけていた力を開放すると、図4(c)で示す屈曲後の膜Cは元の真っ直ぐな状態に戻った。
手でかけていた力を開放した後の、3°の角度で曲げた膜Cに対し、<前記膜A~Cの性能評価>に従って純水の透過係数及び溶質(重量平均分子量7万のデキストラン)阻止率を測定した。測定結果を、表1に示す。
3°の曲げを行った後も、純水の透過係数及び溶質阻止率に変化が認められなかったことから、3°の曲げにより、膜Cの半透性は失われなかったものと考えられる。また、外観上も、図4(c)に示すように、3°の曲げを行った後の膜Cには、破壊や破損は観察されなかった。
【0098】
(実施例2)
<ステンレスで構成される多孔性中空糸膜外表面への、金属酸化物粒子及びアモルファス状シリカで構成される薄膜層の形成>
添加剤(分子鋳型剤)としてヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩であるヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド[CH3(CH2)15N(Br)(CH33](略称:CTAB)0.005モルを溶解したエタノール25mL(エタノールは約0.43モル)中に、シリコンアルコキシドとしてプロピルトリメトキシシラン0.1モルを加え、溶解させた。酸触媒として1モル/Lの硝酸7.5mL(硝酸は約0.0075モル、水は約0.42モル)を上記溶液中に攪拌をしつつゆっくりと滴下し、室温で6時間攪拌を続け、酸化ケイ素系重合化合物溶液を調製した。
【0099】
この酸化ケイ素系重合化合物溶液中へ、実施例1で作製した「膜C」を、端部を封止した状態にて室温で浸漬した(膜Cを2mm/秒の速度で液中に垂直に浸漬し、膜全体が液中に浸漬された状態で60秒保持し、その後、0.5mm/秒の速度で膜Cを液中から垂直に引き上げた)。液中から引き上げた後に、室温で3時間風乾後、180℃で空気中で3時間オーブンで加熱した。その後、膜中に残留しているCTABを除去する目的で、エタノール中で24時間浸漬した。
このようにして、ステンレスで構成される多孔性中空糸膜の外表面に、金属酸化物粒子(γアルミナ粒子)及びアモルファス状シリカで構成される薄膜層を有する中空糸状複合半透膜を得た。
得られた膜を、以後「膜D」と言う。
【0100】
<得られる膜のキャラクタライゼーション方法>
作製した膜Dの表面及び断面の物理的構造観察は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)(装置:HITACHI S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)によって観察した。測定前に蒸着装置(JEOL製、JFC-3000FC)を用いてサンプルを金でコートした。
【0101】
<膜Dの性能評価>
作製した膜Dの液透過性及び溶質阻止性を、以下の通り、評価した。
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びメチルレッド(重量平均分子量269)を濃度1ミリモル/L含むメチルレッドのNMP溶液を、圧力容器内に設置した膜Dに対し、ポンプより膜の外表面側へ供給し、30barで室温にて加圧濾過を行った。膜の外表面側から内表面側に透過した透過液の重量及び溶質(メチルレッド)濃度から、それぞれ透過係数(L・m・h-1・bar-1)及び溶質阻止率(%)を測定した。
溶質濃度は、紫外可視分光光度計(UV-2600i、島津製作所製)による吸光度測定により求めた。
【0102】
<得られる膜のキャラクタライゼーション結果>
膜Dの外表面及び断面の外表面近傍のFE-SEM像を、図5に示す。
図5(a)の目視観察により、膜Dの外表面は孔が観察されず、緻密な層で欠陥無く覆われていることがわかる。
図5(b)より、膜Dの外表面において形成されている、γアルミナ粒子及びアモルファス状シリカで構成される層は、厚みが全体的にほぼ1μmと薄く、かつ、緻密であることがわかる。
【0103】
膜Dの純NMPの透過係数及び溶質(メチルレッド)の阻止率を、表2に示す。
膜DはNMPに溶けた溶質(メチルレッド(重量平均分子量269))を8割程度阻止しているため、分離対象サイズとして数nmから数オングストローム程度の低分子量物質に対しても半透性を有するといえる。
【0104】
<膜Dの屈曲テスト>
膜Dの屈曲を前記<膜Cの屈曲テスト>と同様に行い、3°の角度で膜Dを曲げた。
屈曲後の膜性能の評価として、前記<膜Dの性能評価>に従い、純NMPの透過係数及びメチルレッドの阻止率を測定した。
3°の曲げを行った後の膜性能を、表2に示す。
3°の曲げを行った後も、純NMPの透過係数及びメチルレッドの阻止率に変化が認められなかったことから、3°の曲げにより、膜Dの半透性は失われなかったものと考えられる。また、外観上も、3°の曲げを行った後の膜Dに、破壊や破損は観察されなかった。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、化学工業や医薬工業等での各種有機系液の処理(有機系液中の溶解有価物の分離精製濃縮等の処理)等、幅広い産業分野での利用が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5