(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012879
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】腫瘍反応性T細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240124BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240124BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240124BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240124BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
C12N15/12
A61K35/17 Z
A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114657
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(71)【出願人】
【識別番号】304058240
【氏名又は名称】ブライトパス・バイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108280
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】宮原 慶裕
(72)【発明者】
【氏名】珠玖 洋
(72)【発明者】
【氏名】山根 真妃子
(72)【発明者】
【氏名】平糠 和志
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087NA20
4C087ZB26
(57)【要約】
【課題】 時間・コスト・労力を最小化すると共に、発現分子マーカーを指標として、簡易に腫瘍反応性T細胞を効率的に選択可能とする技術を提供すること。
【解決手段】 (1)がん患者から採取した腫瘍浸潤T細胞(Tumoro-infiltrating lymphocyte:TIL)または全血から、細胞表面の抗原のうちPD-1及び/または4-1BBをマーカーとして、CD-8陽性T細胞を単離する候補単離工程、(2)候補単離工程で単離されたT細胞のT細胞受容体(TCR)遺伝子をT細胞に形質導入し、腫瘍反応性を備えたTCRを特定・評価する腫瘍反応性評価工程、(3)腫瘍に反応するT細胞をin vitroで増殖させ、前記がん患者に対して投与するための腫瘍治療用T細胞を得る治療用T細胞取得工程を備えたことを特徴とする腫瘍反応性T細胞の製造方法によって達成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)がん患者から採取した腫瘍浸潤T細胞(Tumor-infiltrating lymphocyte:TIL)または全血から、細胞表面の抗原のうちPD-1及び/または4-1BBをマーカーとして、CD-8陽性T細胞を単離する候補単離工程、(2)前記候補単離工程で単離されたT細胞のT細胞受容体(TCR)遺伝子を標的細胞に形質導入し、腫瘍反応性を備えたTCRを特定・評価する腫瘍反応性評価工程、(3)腫瘍に反応するTCRを持つT細胞をin vitroで増殖させ、前記がん患者に対して投与するための腫瘍治療用T細胞を得る治療用T細胞取得工程を備えたことを特徴とする腫瘍反応性T細胞の製造方法。
【請求項2】
前記固形腫瘍が、脳腫瘍、舌がん、食道がん、胃がん、小腸がん、大腸がん、肝臓がん、腎臓がん、膀胱がん、肺がん、甲状腺がん、乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、横紋筋肉腫及び平滑筋腫からなる群から選択される少なくとも一つである請求項1に記載の腫瘍反応性T細胞の製造方法。
【請求項3】
前記候補単離工程において、更にテトラスパニンをマーカーとすることを特徴とする請求項1または2に記載の腫瘍反応性T細胞の製造方法。
【請求項4】
前記テトラスパニンが、CD9、TSPAN2、CD151、CD53、CD37、CD82、CD81及びCD63からなる群から選択される少なくとも一つである請求項3に記載の腫瘍反応性T細胞の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍反応性T細胞の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PD-1やPD-L1などの分子に対する抗体を使用する抗チェックポイント抗体治療の進展によって、がん患者生体内には腫瘍を認識する、特に個々の腫瘍のゲノム変異に起因する変異抗原を認識するT細胞が存在し、抑制状態にあるT細胞が再活性化することで腫瘍退縮・予後延長が期待できることが明確になっている。
また従来、特に悪性黒色腫において、拡大培養したTIL(Tumor-infiltrating lymphocyte:腫瘍浸潤T細胞)を輸注する「TIL療法」が有効性を示し、その有効性の要因としてTILに含まれる変異抗原に特異的なT細胞が報告されている。
さらに、近年にはキメラ抗原受容体(CAR)あるいはT細胞受容体(TCR)によって腫瘍反応性を新規に付与されたT細胞(CAR-T細胞、TCR-T細胞)の投与により、腫瘍退縮効果が期待できることも明らかとなっている。
従って、変異抗原を含む腫瘍抗原を認識する腫瘍反応性T細胞、あるいはそのTCRを利用した治療法が、固形がんに対する有効な治療法となり得る期待が大きくなっている。このような背景から、各種がんにおいて腫瘍反応性T細胞を同定し取得する試みがなされてきたが、主に悪性黒色腫を対象とした研究であり、現時点では、大腸がんを含む他の癌腫において末梢血はもとより、腫瘍反応性T細胞が多く存在すると想定されるTILからも、腫瘍反応性T細胞を確実に取得することは現実的に極めて困難であった(非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】PD-1 identifies the patient-specific CD8+ tumor-reactive repertoire infiltrating human tumors. J Clin Invest. 2014 May;124(5):2246-59.
【非特許文献2】Bystander CD8+ T cells are abundant and phenotypically distinct in human tumour infiltrates. Nature. 2018 May;557(7706):575-579.
【非特許文献3】Isolation of T-Cell Receptors Specifically Reactive with Mutated Tumor-Associated Antigens from Tumor-Infiltrating Lymphocytes Based on CD137 Expression. Clin Cancer Res. 2017 May 15; 23(10): 2491-2505.
【非特許文献4】Fujii et al., Identification of an immunogenic neo-epitope encoded by mouse sarcoma using CXCR3 ligand mRNAs as sensors, Oncoimmunology. 2017 Mar 20;6(5):e1306617.
【非特許文献5】Hanson HL.et al., Eradication of Established Tumors by DUC18T Cell Adoptive Immunotherapy, Immunity 2000, 13:265-76.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
TIL中のPD-1, LAG3, TIM3の発現が腫瘍反応性T細胞の指標となりうることが報告されているが、悪性黒色腫での検討であり、その他のがんに対しては、適当な指標が見つけられていなかった。
また、(1)ペプチドあるいは腫瘍の溶解物を取り込んだ抗原提示細胞等をTILと共培養し、腫瘍特異的なT細胞を選択的に培養し増殖させることで取得可能になるとの報告や、(2)TILに対してsingle-cell RNA sequenceおよびTCR sequenceを行い、mRNAレベルで特徴的な発現分子群を指標として腫瘍反応性T細胞を選択する手法が報告されている。しかし、これらの方法は、個々のがん患者に対して適用するには、多くの時間・労力・コストを必要とするため現実的でなかった。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、時間・コスト・労力を最小化すると共に、発現分子マーカーを指標として、簡易に腫瘍反応性T細胞を効率的に選択可能とする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための発明に係る腫瘍反応性T細胞の製造方法は、(1)がん患者から採取した腫瘍浸潤T細胞(Tumor-infiltrating lymphocyte:TIL)または全血から、細胞表面の抗原のうちPD-1及び/または4-1BBをマーカーとして、CD-8陽性T細胞を単離する候補単離工程、(2)前記候補単離工程で単離されたT細胞のT細胞受容体(TCR)遺伝子を標的細胞に形質導入し、腫瘍反応性を備えたTCRを特定・評価する腫瘍反応性評価工程、(3)腫瘍に反応するTCRを持つT細胞をin vitroで増殖させ、前記がん患者に対して投与するための腫瘍治療用T細胞を得る治療用T細胞取得工程を備えたことを特徴とする。
上記発明において、標的細胞とは、所定のTCR遺伝子を発現させることで、腫瘍反応性を発揮し得る能力を持つ細胞のことを意味しており、例えばT細胞、末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell:PBMC)などが含まれる。
上記発明において、前記固形腫瘍が、脳腫瘍、舌がん、食道がん、胃がん、小腸がん、大腸がん、肝臓がん、腎臓がん、膀胱がん、肺がん、甲状腺がん、乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、横紋筋肉腫及び平滑筋腫からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
また、前記候補単離工程において、更にテトラスパニンをマーカーとすることを特徴とすることが好ましい。このとき、前記テトラスパニンが、CD9、TSPAN2、CD151、CD53、CD37、CD82、CD81及びCD63からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0007】
<本発明の概要>
1.自己腫瘍に反応するTCRの同定方法
図1には、腫瘍反応性T細胞の細胞表面抗原を探索する方法について概要を示した。固形腫瘍を持つがん患者(例えば大腸がん患者)から、腫瘍組織(Tumor tissue)を取得する(1)。一般に、腫瘍組織中には、正常細胞に加え、腫瘍細胞及びTILが含まれている。この腫瘍組織に含まれる腫瘍細胞から癌組織由来スフェロイド(Cancer Tissue-Originated Spheroid:CTOS)を作成することでin vitroで患者腫瘍細胞を維持する(5)。一方、腫瘍組織からCD8陽性TIL(CD8
+TIL)を同定し(2)、ここからPD-1及び4-1BBの発現を指標としてCD8
+T細胞集団を細分化し、それぞれの細胞集団(PD-1陽性且つ4-1BB陰性(PD-1
+4-1BB
-)、PD-1陽性且つ4-1BB陽性(PD-1
+4-1BB
+)、PD-1及び4-1BB共に陰性(PD-1
-4-1BB
-))に属する個々のT細胞を取得し(候補単離工程)、そのT細胞のT細胞受容体(TCR)をsingle-cell PCRにより取得し、それらTCRの遺伝子配列を用いてレパトア解析を行う(3)。レパトアサイズの大きいTCRを中心に、個々のTCRを健常人末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell:PBMC)分画にレトロウイルスベクターを用いて発現導入し(4)、自己腫瘍由来CTOSと24時間共培養し、その培養上清のサイトカイン(IFN-γ)を測定することで、自己腫瘍に反応するTCRの同定を行える(6:腫瘍反応性評価工程)。
図の右上端には、CTOSの「腫瘍性」を確認するため、大腸がん組織に高発現するCEA(がん胎児性抗原)を抗CEA抗体を用いて染色したときに得られるイメージを示す。
【0008】
2.TCRの変異抗原に対する認識性の有無の検証方法
図2には、CTOSに反応する腫瘍反応性TCRについて、変異抗原(個々の腫瘍ゲノムの遺伝子変異に由来する抗原)に対する反応性を解析する検証方法を示した。
個々の患者腫瘍組織(1)から得られた核酸(DNA/RNA)及び患者末梢血から得られた正常組織核酸(DNA)(2)を次世代シークエンスにより解析し(3)、腫瘍特異的なアミノ酸変異を伴う遺伝子変異を同定する(4)。さらにin silicoでの解析を加え、患者HLAに提示されやすく、免疫原性が高いと想定される変異抗原を選択する(5)。それら変異抗原(アミノ酸配列として27-mer(中心に変異アミノ酸を置き、両側に13アミノ酸))をコードする塩基配列をタンデムに8~10種類並べたプラスミド(Tandem Mini Gene;TMG)を構築し(6)、さらにin vitro transcriptionによりmRNAを作製する。
一方、患者腫瘍組織からCD8
+TILを同定し、単離されたCD8
+TILのクローン性を分析する(7)。TCR遺伝子を形質導入し(8)、CTOSを用いて腫瘍反応性を評価する(9:候補単離工程)。
先に作製しておいたmRNAを患者のB細胞から作製したLCL(不死化B細胞株)に電気穿孔法(Electroporation)を用いて発現導入し、腫瘍反応性TCRを導入したT細胞と共培養しELISPOT法を用いてその反応性を解析する(腫瘍反応性評価工程)。TCRが特定の変異抗原を認識する場合には、TMG mRNAを導入したLCLに反応する。その場合、TMGには8~10種類の変異抗原があるため、個別に分けたTMGを新たに作製し、それらを解析することで、どの変異抗原を認識するのかが決定できる(10)。
【0009】
3.がん患者のTILまたはPBMCを利用した免疫細胞療法
図3には、がん患者由来のTILまたはPBMCを利用した免疫細胞療法の概要について示す。
がん患者から腫瘍(Tumor)またはPBMCを採取し、ここからPD-1
+4-1BB
+CD9
+のTriple Positive のCD8
+T細胞をTIL候補として取得する(1:候補単離工程)。ここからTCR遺伝子を解析し、腫瘍反応性TCRを取得する(2)。次いで、このTCRをT細胞に形質導入する(3:腫瘍反応性評価工程)。これとは別に、患者PBMCからPD-1
+4-1BB
+CD9
+の腫瘍反応性TCRを取得できる(4)。次に、(3)及び/または(4)で得た細胞をin vitroで増殖させた後(5:治療用T細胞取得工程)、これを患者に投与する(6)。このT細胞を投与することにより、免疫原性がない(少ない)腫瘍(cold tumor)から免疫原性の強い腫瘍(hot tumor)になるよう免疫反応を起こさせ(7)、治癒に導くことができる(8)。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、がん患者の腫瘍治療用T細胞を提供できる。このT細胞は、当該がん患者の治療に有効に使用できる。そのような治療方法としては、例えば次のようなものが考えられる。
1.腫瘍反応性T細胞のTCRを利用した遺伝子改変T細胞輸注療法、2.腫瘍反応性T細胞の集団を改変せず拡大培養して輸注する治療法、3.テトラスパニン分子をTCR/CARでの遺伝子改変と同時に共発現させ有効性を高める治療法、及び4.腫瘍反応性T細胞からのエクソソームを含む細胞外小胞(extracellular vesicle:EV)のがん治療への応用などである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】腫瘍反応性T細胞の細胞表面抗原を探索する方法を説明する概要図である。
【
図2】CTOSに反応する腫瘍反応性TCRについて、変異抗原に対する反応性を解析する検証方法を説明する概要図である。
【
図3】がん患者由来のTILまたはPBMCを利用した免疫細胞療法の概要図である。
【
図4】CCP1について、腫瘍反応性TCRを解析した結果を示す図である。(A)4-1BBとPD-1の発現の有無によって、TILを3種類の細胞集団に分けた結果を示すパイチャート、(B)DP-1~DP-9がIFN-γを産生するか否かを調べた結果を示すグラフ、(C)4種類のTMGから作製したmRNAをCCP1患者由来LCLに発現導入した後、ELISPOT法で解析した結果を示すグラフである。
【
図5】CCP3について、腫瘍反応性TCRを解析した結果を示す図である。(A)4-1BBとPD-1の発現の有無によって、TILを3種類の細胞集団に分けた結果を示すパイチャート、(B),(C)4種類のTMGを用いて、CCP3患者由来LCLに発現導入した後、反応性を調べた結果を示す図である。
【
図6】CCP5について、腫瘍反応性TCRを解析した結果を示す図である。(A)PD-1の発現の有無によって、TILを2種類の細胞集団に分けたパイチャート及びそれぞれの細胞集団から個々のTCR遺伝子を取得し、レパトア解析をした結果を示す図、(B)2種類のTMGから作製したmRNAをCCP5患者由来LCLに発現導入した後、ELISPOT法で解析した結果を示すグラフ、(C)TMG1中の遺伝子を個々に分割したTMについて、反応性を調べた結果を示すグラフである。
【
図7】CCP15について、腫瘍反応性TCRを解析した結果を示す図である。(A)PD-1及び4-1BBの発現の有無によって、TILを3種類の細胞集団に分けたパイチャート、(B)4種類のTMGから作製したmRNAをCCP15患者由来LCLに発現導入した後、ELISPOT法で解析した結果を示すグラフ、(C)TMG1中の遺伝子を個々に分割したTMについて、反応性を調べた結果を示すグラフである。
【
図8】12症例のCCPから得られたCD8
+TILのうち腫瘍反応性TCRについてPD-1及び4-1BBの発現頻度を調べた結果を示す図である。(A)PD-1
+4-1BB
+のDP(Double Positive)集団の割合を比較した図、(B)CCP1について、PD-1と4-1BBの発現の有無を調べた結果を示す図、(C)CCP1について、TILをPD-1と4-1BBの発現の有無で3種類の細胞集団に分けたパイチャートである。
【
図9】16症例の予後について、「CD8
+TIL中のPD-1
+4-1BB
+細胞集団頻度3%以上」を基準にログランク検定を実施した結果を示すグラフである。
【
図10】CCP1症例TILを用いて、sc(single cell)RNA-seq解析及びTCR-seq解析を行った結果を示す図である。(A)PD-1
+4-1BB
+のDP集団を調べた結果を示すパイチャート及びCTOSへの反応性を調べた結果を示すグラフ、(B)2種類のTCRについて、近似したRNA発現プロファイルを示すグラフ、(C)DP5-6及びDP53-1と他の細胞のRNA発現解析を実施した結果を示す図である。
【
図11】CCP9について、腫瘍反応性TCRを解析した結果を示す図である。(A)PD-1
+で選択し、TCRを調べた結果を示すパイチャート、(B)PD-1
+4-1BB
+CD9
+のTP(Triple Positive)で選択し、TCRを調べた結果を示すパイチャート、(C)SP12-2等がIFN-γを産生するか否かを調べた結果を示すグラフである。
【
図12】マウスモデルを用いて、CD9分子の発現が腫瘍反応性の指標となり得るか否かを検討した結果を示す図である。(A)IFN-γICS法に使用するCD8
+T細胞の採取スケジュールを示す図、(B)IFN-γICS法を実施した結果を示すグラフ、(C)変異型Snd1ペプチドとアジュバント(CHP:疎水化多糖類)がCMS7担癌マウスに効果があることを調べた結果を示す図(上側は実験プロトコール、下側は腫瘍長と腫瘍投与との関係を調べたグラフ)である。
【
図13】変異型Snd1特異的CD8+T細胞がCD9分子を発現しているか否かを調べた結果を示す図である。(A)CD8+T細胞の採取スケジュールを示す図、(B)IFN-γICS法を実施した結果を示すグラフ、(C)ELISPOT法によって、変異型Snd1ペプチド特異的CD8
+細胞の頻度を調べた結果を示すグラフである。
【
図14】CD8
+CD9
+CD81
+T細胞のTCRレパトア解析を実施した結果を示す図である。(A)脾細胞の採取スケジュールを示す図、(B)Day21の脾臓中CD8
+CD9
+CD81
+T細胞のTCR解析を行った結果を示す図、(C) 変異型Snd1に特異的なCD8
+T細胞でのCD81の発現を解析した結果を示す図である。
【
図15】CMS7担癌後ICI無治療マウス脾臓中のCD8
+CD9
+CD81
+T細胞集団のTCRレパトア解析とTCRのCMS7への反応性の解析を行った結果を示す図である。(A)マウスIFN-γ(mIFN-γ)の測定結果を示すグラフ、(B)マウスTNFα(mTNFα)の測定結果を示すグラフ、(C)CMS7を特異的に認識するTCRが3細胞で認められた結果を示すパイチャートである。
【
図16】CT26担癌マウス脾臓中のCD8
+CD9
+CD81
+T細胞集団のTCRレパトア解析を行った結果を示す図である。(A)マウス脾臓の採取スケジュールを示す図、(B)Day21の脾臓中CD8陽性細胞のCD9
+CD81
+細胞のレパトア解析を行った結果を示す図である。
【
図17】CT26担癌ICI無治療マウス脾臓中のCD8
+CD9
+CD81
+T細胞集団の特徴を調べた結果を示す図である。(A)マウス脾臓の採取スケジュールを示す図、(B)、(C)マウスIFN-γ(mIFN-γ)の測定結果を示すグラフである。
【
図18】CD9の発現が抗腫瘍効果を高めることを検証するための実験結果を示す図である。(A)試験スケジュールを示す図、(B)腫瘍投与と腫瘍サイズの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施できる。
<材料と試験方法>
1.ヒトサンプルに関する倫理
患者と健康なボランティアから、ヘルシンキ宣言のガイドラインに従って、書面によるインフォームドコンセントを得た。試験プロトコールは、三重大学医学部の倫理委員会によって承認された。
2.マウス実験に関する倫理
全ての動物実験は、三重大学生命科学センターの動物管理使用委員会によって承認されたプロトコルを使用して実施した。
3.マウス
雌性BALB/cマウスは、静岡動物研究所から購入した。H-2Kd mERK2136-144と反応するα/β-TCRトランスジェニックDUC18マウスは、既報に従って確立した。NOGマウスとして知られるNOD/Shi-scid/IL-2Rγnullマウスは、中央実験動物研究所から購入した。全てのマウスは、特定病原体除去環境化で飼育し、8~10週齢で使用した。
【0013】
4.抗体
フルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合抗ヒトCD3モノクローナル抗体(mAb、OKT3)、フィコエリスリン(PE)-Cy7結合抗ヒトCD8 mAb(RPA-T8)、PerCP-Cy5.5結合抗ヒトCD9(HI9a)、アロフィコシアニン(APC)結合抗ヒトPD-1 mAb(EH12.2H7)、PE結合抗ヒト4-1BB(CD137)mAb(4B4-1)およびeFluor780-Fixable Viability Dye をBioLegendから購入した。PerCP-Cy5.5結合抗マウスCD3 mAb(145-2C11)、APC-Cy7結合抗マウスCD8 mAb(53-6.7)、FITC結合抗マウスCD9 mAb(MZ3)、PE結合 抗マウスCD81 mAb(Eat-2)およびPE-Cy7結合抗マウスPD-1 mAbについては、BioLegend社から購入した。FITC結合抗CEA mAb(CB30)はAbcam社から購入した。マウスの治療のために、抗マウスPD-1(RMP1-14)、抗マウスCTLA-4(9D9)および抗マウスGITR(DTA-1)mAbをハイブリドーマから産生し、プロテインGカラムで精製した。
5.細胞株
CMS5およびCMS7は、BALB/c由来の3-メチルコラントレン誘発性肉腫細胞株である。CT26は、BALB/cマウスへのN-ニトロソ-N-メチルウレタンの直腸内注射に由来する結腸上皮腫瘍細胞株である。P1.HTRは、DBA/2由来のP815肥満細胞腫細胞株の亜株(サブライン)である。ヒトBリンパ芽球様細胞株(human B-lymphoblastoid cell lines :LCL)は、EBVを含む上清を使用して、患者の末梢血から当研究室で生成した。全てのマウス腫瘍株およびLCLは、10%熱不活化ウシ胎児血清(FCS)、50μM 2-メルカプトエタノール(2-ME)、および0.2 mg/mLグルタミンを添加したRPMI-1640培地で培養した。
【0014】
6.患者及びサンプル
三重大学医学部附属病院の消化管・小児外科を訪れ、2016年~2018年の間に手術を受けた結腸直腸癌(colorectal cancer:CRC)の患者を本研究に登録した。外科的に切除されたCRCから新鮮な腫瘍組織サンプルを収集した。患者個人からの対となる末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell:PBMC)は、Ficoll-Paque PLUS(GE Healthcare社製)で密度勾配遠心分離を行い、新鮮なヘパリン化静脈血サンプルから分離した。
7.癌組織由来スフェロイド(Cancer Tissue-Originated Spheroid:CTOS)系統およびTILの調製
CTOSは、既報に適当な変更を加えて準備した。簡単に説明すると、次の通りである。切除した腫瘍を速やかに機械的に細かく切断し、最終濃度として26 units/mLのリベラーゼDH(ロッシュ社製)を含むDMEM/Ham F12培地(和光純薬工業社製)で、37°Cにて90分間、連続攪拌しながら培養した。10μg/mLのDNase I(ロッシュ社製)を添加した後、さらに15分間培養した。消化された培養液を500、250、100および40μmのメッシュフィルター(BD Falcon社製)を使用して連続的に濾過した。100~250μm(Fr.100-250)と40~100μm(Fr.40-100)の間で画分を回収した。Fr.40-100サンプルをSTEM PRO hESC SFM(Invitrogen社製)を用いて、5%CO2、20%O2環境下で37°Cにて24~48時間培養し、CTOSを形成した。Fr.100-250サンプルは、27ゲージの針を使用してプランジャーを数回上下させることにより機械的に破壊した後、Fr.40-100サンプルと同様に培養した。
40μmメッシュフィルターを通過した細胞を回収し、Cellbanker-1培地(タカラバイオ社製)を用いて-80℃で凍結し、これをTILとして使用した。
【0015】
8.ヒトサンプルからのDNA及びRNAの精製
直径5 mmの腫瘍組織サンプルを用いて、DNAおよびRNAを単離した。RNAとゲノムDNAの精製には、RNeasy and Puregene Coreキット(キアゲン社製)を使用し、製造元のプロトコルに従って実施した。DNA分離には5×106PBMCを使用した。PBMCからのゲノムDNAの精製には、QIAmp DNAキット(キアゲン社製)を使用し、製造元のプロトコルに従って実施した。
9.次世代シークエンス及びデータ解析
患者の正常組織及び腫瘍組織より抽出したゲノムDNAを200ng用い150~200 bpに切断し、SureSelect XT HS キット(Agilent technology社製)を用いてアダプターを連結後、Exon領域についてSureSelect Human All Exon V6にMHC領域を追加したビオチン化オリゴRNAベイトを用いてハイブリダイゼーションを実施した。アビジンビーズを用いてサンプルを回収し、PCR増幅を行ってライブラリを得た後、NextSeq550(illumina社製)を用いた101 bpペアエンドのWhole Exome Sequence (WES)を実施した。腫瘍組織より抽出したTotal RNAを300~500 ng用い、TruSeqTM Stranded mRNA Library キット(llumina社製)を用いてmRNAにアダプターを連結後、PCR増幅を行ってライブラリを得た後、NextSeq550を用いた76 bpペアエンドのRNA Sequence(RNA-Seq)を実施した。
【0016】
10.腫瘍組織中の体細胞変異体の同定
ヒトリファレンスゲノムhg38を用いて患者の正常組織および腫瘍組織のWESデータを比較解析し、腫瘍特異的な体細胞変異を検出した。また同リファレンスゲノムと正常組織のWESデータを用いて生殖細胞変異を検出した。それぞれの解析はGATK best practicesに準ずる方法で行った。検出された変異について、フィルタリングを行い確度の高いものに絞った後、GENCODEヒトリファレンス遺伝子モデルを用いて遺伝子のタンパク翻訳配列上に位置する変異を抽出した。同一遺伝子のタンパク翻訳配列上に存在し、かつゲノム座位的に近い体細胞変異と生殖細胞変異はフィジカルフェージングを行い、体細胞変異を有するアリルの周辺範囲のハプロタイプを決定した。更にこのハプロタイプ情報を元に変異抗原エピトープとなり得る8~11残基のペプチド配列の総パターンを切り出した。
変異抗原を翻訳するmRNAの転写発現量を定量化するため、患者の腫瘍組織のRNA-Seqデータを用いて転写発現量解析を行い、TPM(Transcript Per Million)による数値化をアイソフォームレベルで行った。一連の解析はGTEx/TOPMed RNA-Seq pipelineに準ずる方法で行った。同一の体細胞変異にオーバーラップするtranscript isoformが複数存在する場合、それぞれのTPM値を合算してTPM_SUMとした。更に体細胞変異を含むアリル特異的な転写発現量を見積もるため、WESで検出された体細胞変異のRNA Seqデータ上での変異アリル頻度を計算し、これをTPMまたはTPM_SUM値に乗じたものをTPMvarまたはTPM_SUMvarとして算出した。
【0017】
変異抗原エピトープとなり得る8~11残基のペプチド配列のヒト主要組織適合遺伝子複合体(MHC)への提示可能性を順位付けるため、ブライトパスバイオ社独自に開発した提示予測モデルによるスコア計算を行った。提示予測モデルの構築は公共データベースから取得したimmunopeptidomeデータとランダムペプチドを学習データとする一般化線形モデル(ロジスティック回帰モデル)によって行い、MHC結合予測ツールであるNetMHCpan-4.0およびMHCflurry-1.4、ならびにプロテアソーム切断予測ツールであるNetChop-3.1の予測値を説明変数とした最尤法よるパラメータ推定を行った。この推定されたパラメータを持つ線形予測子を使って、患者由来の変異抗原エピトープの提示可能性を患者が持つHLAアリル毎にスコア化した。具体的には式(1)に示すように、各ペプチドに対する線形予測子の計算値(z)をソフトプラス変換したものを提示スコア(SCORE)とした。更に転写発現量による補正を行うため式(2)を用いてSCOREadjを算出した。
【0018】
【0019】
【数2】
患者が持つHLAアリルの中で最もSCOREの値が高いHLAアリルをその変異抗原エピトープの予測HLAアリルとし、そのHLAアリルのSCOREadjが高い順に変異抗原エピトープの順位付けを行った。
【0020】
11.タンデム・ミニ・ジーン(tandem minigene:TMG)をコードするDNAの調製とin vitro 転写
TMG法に使用するDNA配列は次のように設計した。変異体残基を中心とする27merのペプチド配列を設計し、DNA配列に逆翻訳した。挿入・欠失型の体細胞変異の場合、8~11merの変異抗原エピトープを中心とした27merのペプチド配列を用い、DNA配列への逆翻訳を行った。TMGは、pcDNA3.1(+)のMCS中のBamHIとXhoIを使用してクローン化した。XhoI酵素による切断によって、プラスミドDNAを線形化した後、酢酸ナトリウムとエタノールを用いてDNAを沈殿させた。次に、1μgのDNAを使用し、mMESSAGE mMACHINE T7 Ultra キット(Life Technologies社製)を用い、製造元のプロトコールに従って、in vitroで転写されたRNAを生成した。得られたキャップ及びテール付きRNAを1μg/μLの水に再懸濁し、LCLのトランスフェクションに使用する前に-80℃で保存した。
【0021】
12.エレクトロポーレーション
LCLを採取し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、RPMI1640培地に再懸濁した。次に、10μgのmRNAを最大1×106個の細胞を含む100μlの細胞懸濁液と混合し、2 mmギャップキュベット(Genetronics社製)に移し、BTXECM830矩形波エレクトロポレーター(Genetronics社製.)を用いてエレクトロポレーションした。エレクトロポレーション後、細胞を直ちに2.0 mlの培地に移し、使用するまでCO2インキュベーター内で37℃の24ウェルプレートで一晩培養した。
13.細胞内染色(Intracellular staining:ICS)
細胞内サイトカイン染色については、次の通りに実施した。脾細胞(1×106)を50μMの合成ペプチドまたはDMSOと室温で15分間インキュベートし、続いてGolgiPlug(BD Bioscience社製)と4時間インキュベートした。細胞をCD8α特異的mAb、CD9特異的mAb、またはCD81特異的mAbで4°Cで15分間染色した。Cytofix/Cytopermキット(BD Biosciences社製)を使用し、製造元のプロトコールに従って透過処理および固定した後、細胞をアロフィコシアニン結合抗IFNγ mAbで染色した。
【0022】
14.酵素免疫測定法(Enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)
培養上清中のヒトまたはマウスのサイトカイン濃度は、ELISAキット(Thermo fisher Scientific社製)を使用し、製造元のプロトコールに従って決定した。
15.酵素結合免疫スポット(Enzyme-linked immunospot: ELISPOT)アッセイ
ヒトIFNγ ELISPOTアッセイは、少しの変更を加えて前述のように実行した。簡単に説明すると、ELISPOTプレート(MAHA S4510、ミリポア社製)を抗ヒトIFNγ mAb(1-D1K、Mabtech社製)でコーティングした。合計2×104個のTCR形質導入T細胞と2×104個のTMG mRNA形質導入LCLをプレートの各ウェルに添加した。37℃で22時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、ビオチン化捕捉用抗体(7-B6-1、Mabtech社製)を加え、4℃で一晩インキュベートした。ウェルを洗浄後、細胞をアルカリホスファターゼ標識ストレプトアビジンと反応させ、次にアルカリホスファターゼ標識基質キット(Bio-Rad社製)で染色した。ELISPOTプレートリーダー(ImmunoSpot、CTL-Europe GmbH社製)を使用してスポットをカウントした。
【0023】
16.ペプチド
MuLV gp70由来AH-1(SPSYVYHQF(配列番号1))、変異ERK2由来ペプチド(mERK2-9m: QYIHSANVL(配列番号2))、変異Snd1由来ペプチド(mSnd1: YAPCRGEF(配列番号3))、および非変異Snd1由来ペプチド(wSnd1: YAPRRGEF(配列番号4))については、Invitrogen社に依頼し、80%を超える純度のものを得た。全てのペプチドを10mMの濃度でDMSOに溶解し、使用前に分注し、-80℃で保存した。
17.単離細胞RNAシークエンス及びTCRシークエンスの実施
CCP1 TILを複数回洗浄した後、0.04%BSAを含む1×PBSに再懸濁した。Chromium Controller(10x Genomics社製)を使用したGEM(エマルジョン中のゲルビーズ)の生成には、100%の生存率を持つ約5×103個の細胞を使用した。この方法によって、RNA分子を、各細胞で個別にタグ付けした。TCRのV(D)J遺伝子に由来するものを含む分子タグ付きRNAフラグメントをcDNAに変換した後、Chromium Single Cell V(D)J Reagent Kits v1.1(10×Genomics社製)を使用して、次世代シーケンシング用のライブラリーを確立した。得られたライブラリーは、Qubit dsDNA Assay(ThermoFisher Scientific社製)およびTapeStation D1000(Agilent社製)によって定量化した。遺伝子発現用ライブラリーとV(D)Jライブラリーはそれぞれ9:1の比率でプールし、イルミナHiSeqプラットフォームによって、次の構成でシーケンスした。すなわち、読み取り1:26bp、読み取り2:91bp、及びi7インデックス:8bpとし、サンプルあたりに合計で約400Mのペアエンドリードとした。画像解析とベースコールは、HiSeq機器のソフトウェアによって実行した。FASTQ読取り生データは、マッピング、遺伝子発現カウント、クロノタイプアノテーションを行うために、Cell Ranger V(D)Jパイプライン(10×Genomics社製)にインポートした。上記単離細胞分析は、製造元のプロトコールに従って実施した。
【0024】
18.PBMCの調製
PBMCは、Ficoll-Paque PLUS(GE Healthcare社製)を用いて密度勾配遠心分離を行い、ヘパリン処理した新鮮静脈血サンプルから分離した。
19.マウス脾細胞の調製
マウス脾臓を顕微鏡スライドを用いて粉砕し、塩化アンモニウム・カリウム(ACK)で処理し、Cell Trics(登録商標)30μm(Sysmex Partec社製)でろ過した。プールした脾臓からの単離細胞懸濁液を適当なペプチドとともに、5×106個/mlの密度で96ウェルV底プレートで培養した。いくつかの実験では、CD8+脾臓T細胞は、MACSシステム(Miltenyi Biotec社製)を使用したポジティブエンリッチメントによって得た。フローサイトメトリーにより、T細胞画分に95%を超えるCD8+T細胞が含まれていることを確認した。
20.フローサイトメトリー分析と単離細胞ソーティング
TILを解凍し、FITC-抗ヒトCD3 mAb、PE-Cy7抗ヒトCD8 mAb、PE-抗ヒトCD137(4-1BB) mAbおよびAPC抗ヒトPD-1 mAbで染色した。死細胞は、eFluor780-Fixable Viability Dyeによる染色で除外した。染色後、FACSAria(Beckton Dickinson社製)を使用して細胞を分析した。CD8+PD-1+CD137+、CD8+ PD-1+CD137-およびCD8+PD-1-CD137-T細胞は、それぞれ96ウェルPCRプレートに単離した。マウスの場合、脾細胞はPerCP-Cy5.5結合抗マウスCD3 mAb、APC-Cy7結合抗マウスCD8 mAb、FITC結合抗マウスCD9 mAb、PE結合抗マウスCD81 mAbで染色した。死細胞は、eFluor780-FixableViabilityDyeによる染色から除外した。
【0025】
21.単離T細胞からのTCR cDNAの増幅
T細胞受容体(TCR)のクローニングは、WO2014-017533A1(特許文献1)に記載の方法に従った。簡単に説明すると次の通りである。単離された各T細胞から抽出されたRNAをcDNAに変換し、VαおよびVβ領域を多段階ネステッドPCRによって増幅した。その後、PCR産物のDNA配列をダイレクト・シークエンスにより決定した。TCRレパトアは、IMGT/V-Questツール(http://www.imgt.org/)を使用して分析した。ヒトPBMCまたはマウス脾細胞への形質導入のために、TCRαおよびTCRβ鎖はP2A配列によって連結し、pMX-IRES-EGFPベクターにクローン化した。
22.レトロウイルスの生産
TCR遺伝子をヒトPBMCまたはマウス脾細胞に形質導入するためのレトロウイルスを作製するために、Plat-AまたはPlat-E細胞(Cell Biolabs社製)を使用した。
23.ヒトPBMCへのレトロウイルス形質導入
健康なボランティアから得られたPBMCは、600 IU/mLの組換えIL-2の存在下で、抗CD3抗体をコートしたプレートとRetroNectin(タカラバイオ株式会社製)を使用して刺激した。増殖中のリンパ球に、候補TCRα/β遺伝子をコードするレトロウイルスを形質導入し、さらにin vitroで増殖させた。形質導入の10日後、細胞を回収して実験に使用した。
【0026】
24.マウス脾細胞へのレトロウイルス形質導入
BALB/cマウスから得た全脾細胞(1.5×107個/5mL)を6ウェルプレートの1つのウェル中で固定化抗CD3(1μg/mL; 145-2C11)および可溶性抗CD28(1μg/mL; 37.51)で刺激した。刺激から1日後(day 1)に5×105個の細胞について、24ウェルプレートの各ウェルにRetroNectin(タカラバイオ社製)をコートし、1mL培地を添加した後、RetroNectin結合ウイルス感染法を使用し、候補TCR発現ウイルスベクターを形質導入した。day 3に、10mLの培地を含む50mLフラスコに細胞を移し、増殖・培養した。day 5に細胞を回収し、実験に使用した。培養中には60 IU/mLの組換えヒトIL-2(Novartis社製)を添加した。いくつかの実験では、マウスCD9を形質導入したT細胞は、DUC18マウスから得た脾臓T細胞を使用して調製した。
25.TILを用いたsingle-cell RNAシークエンス解析及びTCRシークエンス解析
液体窒素で凍結保存していたTILを10%FBS RPMI1640培養液を用いて解凍し、2%FBS 1×PBSを用いて数回洗浄した。次に、human CD8 magnet beads (Miltenyi Biotec社製)を用いてTIL中のCD8+T細胞を分離し、single-cell RNA-seq及びTCR-seqを行った。
26.統計解析
統計解析は対応のないスチューデントのt検定により行い、5%未満(p<0.05)を統計的に有意とした。
【0027】
<試験結果>
表1には、患者情報とCTOSの樹立の有無、及びCTOSを認識するTCR遺伝子の取得の有無をまとめた。
【0028】
【0029】
表に示すように、16名の大腸がん患者(CCP1~CCP16)症例中、10症例でCTOSの樹立が可能であった(CTOS欄の「○」または「△」印)。また、これら10症例のうち、6症例では、TIL由来TCRを取得できた(TCR CTOS-Reactivity欄の「+」印)。
図4には、上記6症例(CCP1, 3, 5, 7, 9, 15)のうちのCCP1について、腫瘍反応性TCRを解析した結果を示した。
CCP1症例ではPD-1、4-1BBの発現の有無によって、CD8
+TILを3種類の細胞集団に分け(
図4(A)においては、左下(PD-1
-,4-1BB
-: 60個)、右下(PD-1
+,4-1BB
-: 72個)、右上(PD-1
+、4-1BB
+: 72個)を意味する。なお、左上に該当するPD-1
-,4-1BB
+については検出されず。)、それぞれの細胞集団から個々のTCR遺伝子を取得し、レパトア解析を実施した。
図4(A)に示すパイチャートは、それぞれの細胞集団でのTCRレパトア解析の結果であり、該当する2種類のTCRがPD-1
+4-1BB
+分画(DP)で最も頻度高く濃縮されていることを示している。
また、それらTCRのCTOSに対する反応性を検討した。その結果、
図4(B)に示すように、腫瘍反応性を示す2種類のTCR(DP5-6及びDP53-1。DPはDouble Positiveを意味する。)を取得した。CTOSへの反応性はCTOSとTCR導入T細胞との共培養によるIFN-γの産生で判定した。
この2種類のTCRの変異抗原に対する反応性について、TMGを4種類作成し(TM1~TM4)、それぞれのTMGから作製したmRNAをCCP1患者由来LCLに発現導入した後、ELISPOT法で解析したところ、
図4(C)に示すように、両TCRともにTMG1に反応性を示した。さらに解析を進めたところ、両TCR共にTMG1中の変異型CREBBPを特異的に認識していることが明らかとなった。図中のアミノ酸配列は、変異型CRBBPが「NGTASQSTSPSQPCKKIFKPEELRQAL」(配列番号5)、野生型CRBBPが「NGTASQSTSPSQPRKKIFKPEELRQAL」(配列番号6)であった。
【0030】
図5には、CCP3について、腫瘍反応性TCRを解析した結果を示した。
CCP3症例では、
図4と同様に、PD-1及び4-1BBの発現によって、CD8
+TILを3種類の細胞集団に分け(
図5(A))、それぞれの細胞集団から個々のTCR遺伝子を取得し、レパトア解析を実施した。また、それらTCRのCTOSに対する反応性を検討した結果、腫瘍反応性を示すTCR(DP72-6)を取得した(
図5(B))。
図5(A)に示すパイチャートは、それぞれの細胞集団でのTCRレパトア解析の結果である。該当するTCRを発現するT細胞がPD-1
+4-1BB
+のDP分画では2細胞で認められ、PD-1
+4-1BB
-分画では1細胞(single)でのみ認められたことを示している。
このTCRの変異抗原に対する反応性について、TMGを4種類作成し(TM1~TM4)、それぞれのTMGから作製したmRNAをCCP3患者由来LCLに発現導入した後、ELISPOT法で解析したところ、TMG1に反応性を示した(
図5(C))。さらに解析を進めたところ、TMG1中の変異型DDX60を特異的に認識していることが明らかになった。図中のアミノ酸配列は、変異型DDX60が「PRVMDMLKLYFLFYLQFLVKEGYLDQE」(配列番号7)、野生型DDX60Pが「PRVMDMLKLYFLFSLQFLVKEGYLDQE」(配列番号8)であった。
【0031】
図6には、CCP5について、腫瘍反応性TCRを解析した結果を示した。
CCP5症例では、PD-1の発現によって、CD8
+TILを2種類の細胞集団に分け(
図6(A))、それぞれの細胞集団から個々のTCR遺伝子を取得し、レパトア解析を実施した。また、それらTCRのCTOSに対する反応性を検討した結果、腫瘍反応性を示すTCR(SP27-2)を取得した。
図6(A)に示すパイチャートは、それぞれの細胞集団でのTCRレパトア解析の結果であり、該当するTCRを発現するT細胞がPD-1
+分画では3細胞で認められ、PD-1
-分画では認められなかったことを示している。
TCRの変異抗原に対する反応性について、TMGを2種類作成し(TM1、TM2)、それぞれのTMGから作製したmRNAをCCP5患者由来LCLに発現導入した後、ELISPOT法で解析したところ、TM1に反応性を示した(
図6(B))。さらに解析を進めたところ、TM1中の変異型FAM129Bを特異的に認識していることが明らかとなった(
図6(C)。TM1中の4が「FAM129B」である。)。図中のアミノ酸配列は、変異型FAM129Bが「RAQIHMREQMDNAMYTFETLLHQELGK」(配列番号9)、野生型FAM129Bが「RAQIHMREQMDNAVYTFETLLHQELGK」(配列番号10)であった。
【0032】
図7には、CCP15について、腫瘍反応性TCRを解析した結果を示した。
CCP15症例では、PD-1及び4-1BBの発現によって、CD8
+TILを3種類の細胞集団に分け(
図7(A))、それぞれの細胞集団から個々のTCR遺伝子を取得し、レパトア解析を実施した。
図7(A)に示すパイチャートは、それぞれの細胞集団でのTCRレパトア解析の結果であり、該当するTCRを発現するT細胞がPD-1
+4-1BB
+分画では3細胞で認められ、PD-1
+4-1BB
-分画では1細胞(single)でのみ認められたことを示している。
TCRの変異抗原に対する反応性について、TMGを4種類作成し(TM1~TM4)、それぞれのTMGから作製したmRNAをCCP15患者由来LCLに発現導入した後、ELISPOT法で解析したところ、DP28-5 TCRを導入したT細胞がTMG1に反応性を示すことを確認した(
図7(B))。さらに解析を進めたところ、TMG1中の変異型ABCF1を特異的に認識していることが明らかとなった(
図7(C)。TM1中の6が「ABCF1」である。)。図中のアミノ酸配列は、変異型ABCF1が「TKQAEKQTKEALTQKQQKCRRKNQDEE」(配列番号11)、野生型ABCF1が「TKQAEKQTKEALTRKQQKCRRKNQDEE」(配列番号12)であった。
【0033】
図8には、4症例(CCP1,3,5,15)由来の全ての腫瘍反応性TCRの特徴をまとめたものを示した。
全ての腫瘍反応性TCRは、PD-1
+4-1BB
+のDP集団で最も頻度高く同定された。且つ、CCP5でのTCRを含み、変異抗原特異的TCR は全て、TIL中のPD-1
+4-1BB
+集団の頻度が高い症例で同定された。
図8(B)には、CCP1での解析結果を示した。CCP3,15を含め、PD-1
+4-1BB
+分画にはPD-1
+4-1BB
-分画と比較して、より腫瘍反応性T細胞が頻度高く濃縮されていると考えられた。また、認識変異抗原を同定可能であった全てのTCRはPD-1
-分画には認められなかった。
図9には、解析した大腸がん16症例の予後について、
図8(A)に示した「CD8
+TIL中のPD-1
+4-1BB
+細胞集団頻度3%以上」を基準にログランク検定を実施した結果を示した。有意差は認められなかったものの、該当者4症例(CCP1,3,5,15:図中のグラフ「A」に該当。)では、2000日後まで死亡者が認められなかった一方、残りの12症例(図中のグラフ「B」に該当。)では2000日後には7症例の生存者となった。このように、「CD8
+TIL中のPD-1
+4-1BB
+細胞集団頻度3%以上」の症例では、予後が良好な傾向があると判断できた。
図10には、CCP1症例TILを用いて、sc(single cell)RNA-seq解析及びTCR-seq解析を行った結果を示した。その結果、2種類のTCRを発現するCD8
+T細胞が近似したRNA発現パターンを示すことが示された(
図10(B))。次に、これら2種類の腫瘍反応性TCRを発現するCD8
+T細胞と他のCD8
+T細胞との間のRNA発現比較を実施したところ、CD9 RNAの発現がこれら2種類の腫瘍反応性TCRを発現するT細胞において有意に高いことが示された(
図10(C))。
【0034】
図11には、CCP9症例を用いて、PD-1/4-1BBにCD9を指標として加え、TILを絞り込んで解析した結果を示した。CCP9症例では、PD-1
+TIL細胞分画に属する個々のCD8
+T細胞からTCRを取得し、その中の2種類のTCRがCCP9症例由来CTOSに反応性を示すことを確認した(
図11(A))。次に、CCP9症例の凍結保存TILを用いて、PD-1
+4-1BB
+CD9
+であるCD8
+TIL細胞分画から個々のTCR遺伝子を取得しレパトア解析を行った。その結果、2種類の腫瘍反応性TCRがPD-1
+4-1BB
+CD9
+分画では、より頻度高く同定されることが明らかとなった(
図11(B))。得られた結果からは、CD9分子は腫瘍反応性T細胞の絞り込みに有用であり、PD-1/4-1BBにCD9を指標として加えることにより、腫瘍反応性T細胞をさらに絞り込むことが可能になると考えられた。
【0035】
CD9分子は、「テトラスパニン(Tetraspanin)」として知られる分子の一種である。テトラスパニンは、細胞膜を4回貫通する構造を持つ膜貫通タンパク質ファミリーであり、Transmembrane 4 superfamily(TS4SF)とも言われる。テトラスパニンとしては、CD9の他にTSPAN2、CD151, CD53, CD37, CD82, CD81, CD63などが知られている。
テトラスパニンに属する分子が腫瘍反応性T細胞の選択での指標となるとの報告はこれまでに認められない。そこで、マウスモデルを用いて、CD9分子の発現が腫瘍反応性の指標となり得るか否かを検討した。マウスモデルとして、本発明者らが発表した変異型Snd1(staphylococcal nuclease domain-containing protein 1)に特異的なCD8+T細胞が誘導される担癌マウス治療モデルを利用した(非特許文献4)。このモデルではマウス線維芽細胞肉腫由来細胞株CMS7を担癌し、抗チェックポイント抗体(抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体及び抗GITR抗体)を用いて治療することにより、担癌21日後の脾臓細胞中に、CMS7腫瘍ゲノムがコードする変異型Snd1に特異的なCD8+T細胞が確認できる。
【0036】
試験方法を
図12(A)に示した。マウスに対し、day0にCMS7を皮下投与し、day7, 9, 11に抗チェックポイント抗体を静脈内投与した。day21に脾臓を採取し、1×10
6個の脾臓細胞に変異型Snd1由来ペプチド(SYAPCRGEF(配列番号13))または野生型Snd1由来ペプチド(SYAPRRGEF(配列番号14))を添加し、IFN-γICS法(Intracellular Staining法)を用いることで、ペプチドに反応しIFN-γを細胞内に産生するCD8
+T細胞を測定できる。この反応は変異型Snd1由来ペプチドに特異的であり、野生型Snd1由来ペプチド及び溶媒コントロールであるDMSOの添加では観察されない。さらに、抗チェックポイント抗体を用いない担癌無治療マウスでは、変異型Snd1由来ペプチドに対する反応が極めて低かった(
図12(B))。抗体治療群における変異型Snd1(mSnd1)のIFN-γ産生を示す割合が1.6%であったことは、極めて大きな数値であった。
図12(C)には、変異型Snd1ペプチド(31-mer)とアジュバント(polyIC:LC)を用いることで、CMS7担癌マウスに対する治療有効性があったことを示している。
【0037】
図13には、TILがCD9分子を発現しているか否かを調べた結果を示した。
まず、CMS7担癌抗チェックポイント抗体(ICI; Immune checkpoint Inhibitor)治療マウスモデルにおいて観察される、変異型Snd1特異的CD8
+T細胞がCD9分子を発現しているか検討した。day0にCMS7腫瘍株(1×10
6細胞)をBALB/cマウス背部に皮下接種により担癌し、day 7, 9, 11にICIによる治療を行った。ICIによる治療を行わない群をコントロールとした。day 21にマウスから脾臓を取り出した(
図13(A))。1×10
6個の脾臓細胞に変異型Snd1由来ペプチドあるいはコントロールペプチドを添加し、IFN-γICS法(Intracellular Staining法)を用いて変異型Snd1特異的CD8
+T細胞を測定した。その結果、
図13(B)に示すように、ICI治療群では変異型Snd1由来ペプチド特異的なIFN-γの産生がCD8
+T細胞に認められ、その大多数はCD9分子を発現する細胞集団に属していた(上段の右側2つのデータ)。一方、コントロールペプチド添加群ではIFN-γ産生CD8
+T細胞は認められず(中段の右側2つのデータ)、ICI無治療群においては変異型Snd1由来ペプチド特異的なCD8
+T細胞の頻度は極めて低かった(下段の右側2つのデータ)。
【0038】
次に、変異型Snd1由来ペプチドによるCD9分子の発現上昇の可能性を検討するため、ICI治療群マウス3匹から脾臓細胞を準備し、マウスCD8 isolation kit (Miltenyi Biotec社製)を用いてCD8
-脾臓細胞、及びCD8
+T細胞を取得した。取得したCD8細胞の一部をPE-conjugated mouse CD9抗体を用いて染色し、次に抗PE beads (Miltenyi Biotec社製)を用いてCD8
+CD9
+T細胞集団、及びCD8
+CD9
-T細胞集団を取得した。これら3種類の1×10
5個CD8細胞集団(whole CD8, CD8
+CD9
-, CD8
+CD9
+)を変異型Snd1ペプチドを添加した1×10
6個のCD8
-脾臓細胞と共培養し、変異型Snd1ペプチド特異的CD8
+細胞の頻度をELISPOT法を用いて解析した。その結果、変異型Snd1特異的CD8
+T細胞はペプチド刺激によりCD9分子の発現が上昇するのではなく、担癌マウス脾臓中の変異型Snd1特異的CD8
+T細胞の大多数がCD9
+であることが明らかになった(
図13(C))。
【0039】
CD9はテトラスパニンに属する分子の1種であり、他に多くの分子がテトラスパニンに属している。その中で、CD9あるいはCD81がノックアウトされている雌マウスでは受精の際の細胞融合に問題があり不妊となることが知られており、テトラスパニン分子間の機能類似性が報告されている。そこで、CD81分子について、変異抗原Snd1特異的CD8
+T細胞におけるCD81分子の発現を解析した。
結果を
図14に示した。変異抗原Snd1特異的CD8
+T細胞の大多数は、CD9と同様に、CD81分子を発現していることが明らかとなった(
図14(C))。このように、担癌マウス脾臓細胞中のCD8
+CD9
+CD81
+T細胞集団に腫瘍反応性CD8
+T細胞が存在していると考えられた。この考えを検証するため、変異型Snd1特異的CD8
+T細胞の頻度が極めて低い、CMS7担癌後ICI無治療マウス脾臓中のCD8
+CD9
+CD81
+T細胞(CD8
+T細胞中1.9%)のTCRレパトア解析を実施した。結果を
図14(B)右側に示した。解析した36細胞のTCR中で同一TCR遺伝子配列が認められたTCRは2種類であり、それぞれ3細胞、2細胞であった。
【0040】
CMS7担癌後ICI無治療マウス脾臓中のCD8
+CD9
+CD81
+T細胞集団のTCRレパトア解析の結果から、TCR発現が複数で認められた2種類のTCR、及び単一(single)TCRとして取得した2種類のTCRをレトロウイルスベクターを用いてBALB/cマウスT細胞に発現導入した。これらそれぞれのTCRを導入したマウスT細胞(1×10
5細胞)とCMS7腫瘍細胞(5×10
4細胞)とを24時間共培養し、上清中のマウスIFN-γ及びTNFαを測定した。実験に際し、CMS7に特異的に反応する変異型Snd1特異的TCR (mSnd1 22-1 TCR)を陽性コントロールとして使用した。
その結果、
図15に示すように、3細胞で同一のTCRが認められた11-3 TCRがCMS7を特異的に認識し、これらサイトカインを放出していることが明らかとなった。この反応はCMS7特異的であり、CMS7と同様にマウス線維芽細胞肉腫由来細胞株であるCMS5にはサイトカイン放出が認められなかった。
【0041】
次に、CT26担癌マウス脾臓中のCD8
+CD9
+CD81
+T細胞集団のTCRレパトア解析を行った。CMS7以外のマウス腫瘍細胞株でCMS7と同様の結果が得られるかを検討するため、マウス大腸がん由来腫瘍細胞株であるCT26細胞株を用いて検討した。
図16(A)に示すように、day 0に1×10
6細胞のCT26をBALB/cマウス背部に皮下接種により担癌し、day 21に脾臓細胞中のCD8
+CD9
+CD81
+T細胞集団のTCRレパトア解析を実施した。
図16(B)に示すように、取得した27細胞由来TCRの解析の結果、1種類のTCRが2細胞で発現しており、他はすべて単一(single)で存在していた。
【0042】
次に、同一TCRが2細胞で認められた1種類のTCR、及び単一(single)として存在していた2種類のTCRを選択し、CT26腫瘍細胞への反応性を検証した。
まず、それぞれのTCRをレトロウイルスベクターを用いてBALB/cマウスT細胞に発現導入した。これらTCRを導入したマウスT細胞(1×10
5細胞)とCT26腫瘍細胞(5×10
4細胞)とを24時間共培養し、上清中のマウスIFN-γを測定した結果、単一で存在していた1種類のTCR(23-1 TCR)がCT26を特異的に認識していることが明らかとなった(
図17(B))。CT26担癌マウスではマウス内在性白血病ウイルスエンベロープgp70由来AH-1ペプチドに対するCD8陽性T細胞免疫応答が惹起されることが報告されており、今回同定したCT26腫瘍反応性TCRの認識抗原がAH-1ペプチドである可能性を検証した。マウスMHC(主要組織適合性抗原)が同一のH-2dであるP1.HTR細胞を用い、TCR導入マウスT細胞(1×10
5細胞)とAH-1ペプチド添加、変異型Snd1ペプチド添加、関連のない変異型ERK2由来ペプチド添加、あるいは無添加のP1.HTR細胞(5×10
4細胞)とを24時間共培養し、その上清中のマウスIFN-γを測定した(
図17(C))。
その結果、同定したTCRの認識抗原ペプチドが実際にAH-1であることが明らかとなった。CT26担癌マウス脾臓のCD8陽性T細胞中のAH-1特異的CD8
+T細胞の頻度は1%以下と想定され、これらの結果はテトラスパニン分子であるCD9及びCD81分子の腫瘍反応性CD8陽性T細胞の絞り込みに極めて有用であることを示すと考えられた。
【0043】
CD9分子を含むテトラスパニンの機能については、まだ十分に明らかになっていない。少なくともT細胞と腫瘍細胞間の相互作用に重要な働きを示すことが本研究によって明らかにされており、CD9分子の発現が抗原特異的なTCR/CARを遺伝子導入したT細胞を輸注する免疫細胞療法における有効性を高め得る可能性が考えられた。そこで、抗原特異的T細胞輸注療法において、CD9の発現が抗腫瘍効果を高めることを検証するために、次のデータを得た。
マウス線維芽肉腫由来細胞株CMS5がコードする変異抗原ERK2由来ペプチド(mERK2-9m)とH-2Kdとの複合体を特異的に認識するTCRのトランスジェニックマウス(DUC18。非特許文献5)を使用した。
図18(A)に示すように、day 0においてCMS5 (1×10
6個)を皮下接種によりBALB/cマウス背部に担癌し、day3に細胞輸注(ACT)を実施した。治療グループとして、以下の3群(n=4/群)を設定した。
(1)無治療(control)、(2)DUC18マウス脾臓細胞に抗CD3抗体及び抗CD28抗体を使用し、5日間刺激増殖させたT細胞(2×10
6個)の輸注、(3)DUC18マウス脾臓細胞に抗CD3抗体及び抗CD28抗体を使用し、翌日にマウスCD9遺伝子をレトロウイルスを用いて遺伝子導入し、引き続き4日間刺激増殖させたT細胞(2×10
6個)の輸注とした。
その結果、
図18(B)に示すように、CD9分子を強発現させたT細胞の輸注によって治療効果が高まることが示された。
このように本実施形態によれば、がん患者の腫瘍治療用T細胞を提供できた。このT細胞は、当該がん患者の治療に有効に使用できる。
【配列表】