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特開2024-128804ハフ変換を用いたAUVの位置誤差検出システム、プログラム、及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128804
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】ハフ変換を用いたAUVの位置誤差検出システム、プログラム、及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/28 20060101AFI20240913BHJP
   B63C 11/00 20060101ALI20240913BHJP
   B63C 11/48 20060101ALI20240913BHJP
   G01S 5/30 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
G01S5/28
B63C11/00 B
B63C11/48 D
B63C11/00 C
G01S5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038024
(22)【出願日】2023-03-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人海洋研究開発機構 戦略的イノベーション創造プログラム 革新的深海資源調査技術「深海AUV複数運用技術に関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】岡本 章裕
(72)【発明者】
【氏名】篠野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】金 岡秀
(72)【発明者】
【氏名】藤原 敏文
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA05
5J083AB20
5J083AC40
5J083AD01
5J083AE07
5J083AF18
(57)【要約】
【課題】AUVの自己推定位置に含まれる誤差を、従来とは異なる方法で精度よく検出するAUVの位置誤差検出システム、プログラム、及び方法を提供する。
【解決手段】位置誤差検出システムは、支援船1等に設けられAUV2の音響測位を行う音響測位手段10,11と、AUV2を制御する制御手段30と、AUV2に設けられたINS20を備え、制御手段30は、AUV2に対して周回待機の指示と周回待機の実行中におけるINS20による位置推定の指示、及び音響測位手段10,11に対してAUV2の音響測位の指示を行う周回・計測指示部31と、INS20により取得されたAUV2の位置座標をハフ変換して求めた円軌道としてINS円軌道を導出し、音響測位手段10,11により取得されたAUV2の位置座標をハフ変換して求めた円軌道として音響円軌道を導出し、INS円軌道と音響円軌道との差に基づいてINS20が推定した位置の誤差を検出する位置誤差検出部32を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支援船、ASV(自律型洋上中継機)、又は監視拠点から投入したAUV(自律型無人潜水機)を航走させる際の位置誤差を検出する前記AUVの位置誤差検出システムであって、
前記支援船、前記ASV、前記監視拠点、又は前記AUVの周辺の水中に設けられ前記AUVの音響測位を行う音響測位手段と、
前記支援船、前記ASV、前記監視拠点、又は前記AUVに設けられ前記AUVを制御する制御手段と、
前記AUVに設けられたINS(慣性航法装置)を備え、
前記制御手段は、前記AUVに対して指定した周回軌道上で周回する周回待機の指示と前記周回待機の実行中における前記INSによる位置推定の指示、及び前記支援船、前記ASV、前記監視拠点、又は前記AUVの周辺の水中に設けられた前記音響測位手段に対して前記AUVの音響測位の指示を行う周回・計測指示部と、前記INSにより取得された前記AUVの位置座標をハフ変換して求めた円軌道としてINS円軌道を導出し、前記音響測位手段により取得された前記AUVの位置座標をハフ変換して求めた円軌道として音響円軌道を導出し、前記INS円軌道と前記音響円軌道との差に基づいて前記INSが推定した位置の誤差を検出する位置誤差検出部を有することを特徴とするAUVの位置誤差検出システム。
【請求項2】
前記位置誤差検出部は、前記INS円軌道と前記音響円軌道のそれぞれについて中心座標を求め、前記INS円軌道と前記音響円軌道との差として、それぞれの前記中心座標に基づいて前記INS円軌道の中心と前記音響円軌道の中心との距離を求め、前記距離が所定範囲内でない場合は前記INSによる位置推定の誤差が許容範囲外と判断し、前記INSによる位置推定についての補正すべき距離と方向を含む位置誤差補正値を求めることを特徴とする請求項1に記載のAUVの位置誤差検出システム。
【請求項3】
前記制御手段が前記支援船、前記ASV、又は前記監視拠点に設けられており、前記周回・計測指示部は、前記位置誤差検出部が求めた前記位置誤差補正値を前記支援船、前記ASV、又は前記監視拠点から前記AUVに音響通信手段により逐次送信し、前記AUVを指定した期間で前記周回待機させ、前記位置誤差補正値を反映した前記INSによる位置推定を指示することを特徴とする請求項2に記載のAUVの位置誤差検出システム。
【請求項4】
前記制御手段は、前記位置誤差検出部において前記INS円軌道の中心と前記音響円軌道の中心との前記距離があらかじめ設定した前記所定範囲に収まるまで、前記周回・計測指示部から前記AUVに対する前記位置誤差補正値の送信と、指定した前記期間での前記周回待機及び前記INSによる前記位置誤差補正値を反映した位置推定の指示を繰り返すことを特徴とする請求項3に記載のAUVの位置誤差検出制御システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記AUVの位置の推定に、前記INSに加え、前記AUVに搭載したAHRS(機首方位姿勢基準装置)、DVL(ドップラー速度ログ)、及びPDS(圧力深度計)からの出力情報を統合して求める位置推定法を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のAUVの位置誤差検出システム。
【請求項6】
支援船、ASV(自律型洋上中継機)、又は監視拠点から投入したINS(慣性航法装置)を搭載するAUV(自律型無人潜水機)を航走させる際の位置誤差を検出する前記AUVの位置誤差検出プログラムであって、
コンピュータに、
前記AUVに対して指定した周回軌道上で周回する周回待機を指示する周回待機ステップと、
前記周回待機を実行中の前記AUVに対して前記INSによる位置推定を指示するINSステップと、
前記支援船、前記ASV、前記監視拠点、又は前記AUVの周辺の水中に設けられた音響測位手段に対して前記AUVの音響測位を指示する音響測位ステップと、
前記INSにより取得された前記AUVの位置座標をハフ変換して求めた円軌道としてINS円軌道を導出し、前記音響測位手段により取得された前記AUVの位置座標をハフ変換して求めた円軌道として音響円軌道を導出する変換ステップと、
前記INS円軌道と前記音響円軌道との差に基づいて前記INSによる位置推定の誤差を検出する位置誤差検出ステップを実行させることを特徴とするAUVの位置誤差検出プログラム。
【請求項7】
支援船、ASV(自律型洋上中継機)、又は監視拠点から投入したINS(慣性航法装置)を搭載するAUV(自律型無人潜水機)を航走させる際の位置誤差を検出する前記AUVの位置誤差検出方法であって、
前記AUVを指定した周回軌道上で周回しながら待機させる周回待機ステップと、
周回待機中の前記AUVにおいてINSによる位置推定を行うINSステップと、
前記支援船、前記ASV、前記監視拠点、又は前記AUVの周辺の水中に設けられた音響測位手段から前記AUVの音響測位を行う音響測位ステップと、
前記INSにより取得された前記AUVの位置座標をハフ変換して求めた円軌道としてINS円軌道を導出し、前記音響測位手段により取得された前記AUVの位置座標をハフ変換して求めた円軌道として音響円軌道を導出する変換ステップと、
前記INS円軌道と前記音響円軌道との差に基づいて前記INSによる位置推定の誤差を検出する位置誤差検出ステップを有することを特徴とするAUVの位置誤差検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支援船又はASV(Autonomous surface vehicle:自律型洋上中継機)等から投入したAUV(Autonomous underwater vehicle:自律型無人潜水機)を航走させる際の位置誤差を検出するAUVの位置誤差検出システム、プログラム、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AUVは、海底を詳細かつ効率的に探査するためのプラットフォームとして広く利用されている。ROV(Remotely operated vehicle:無人潜水機)と比較して、AUVは支援船からのテザーケーブルによって拘束されることなく航行することができ、深海底の詳細な探査に特に有用である。
ここで、特許文献1には、洋上中継器は定期的に各種データを取得し、重複状態判断部は得られた各種データに基づいて洋上中継器自らが放射する音波ビームと他の1つの航走体グループに含まれる母船及び/または他の洋上中継器が放射する音波ビーム同士の音波競合の範囲を演算し音波ビームの重複状態を判断し、回避行動判断部は、重複状態に基づいて音波競合を排除するための回避行動の必要性を判断し、回避行動が必要と判断すると回避行動実行部が回避行動を実行する水中観測システムの音波競合排除方法が開示されており、段落0032には、洋上中継器と自律型無人潜水機が終了地点で旋回待機を行うことが記載されている。
また、特許文献2には、目標物を検知する検知手段と自己位置推定手段を搭載した水中航走体に目標物の位置を設定して航走させて目標物に接近させ、検知手段で目標物を検知した検知データを取得し、検知データを監視手段に無線通信を利用して伝送し、監視手段において検知データに基づいて目標物と水中航走体との間の位置的誤差を監視し、位置的誤差がある場合に操作手段により自己位置推定手段における自己位置の推定の誤差に起因する位置的誤差を解消する処理を行う水中航走体の自己位置推定誤差補正方法が開示されている。
また、特許文献3には、中継機推進手段と中継機位置計測手段を有した水上中継機と、航走体位置推定手段を有した水中航走体と、水中航走体で得られた画像情報を含む取得情報の伝送を行う情報伝送線と、水上中継機と水中航走体に目標緯度及び目標経度を設定する位置設定手段と、水上中継機と水中航走体を制御する制御手段とを備え、設定された目標緯度及び目標経度と中継機位置計測手段で計測された水上位置に基づいて中継機推進手段を駆動し水上中継機の位置を制御手段で制御するとともに、設定された目標緯度及び目標経度と航走体位置推定手段で推定された水中位置に基づいて水中航走体の位置を制御手段で制御することで、水中航走体と水上中継機が目標緯度及び目標経度まで水面と水中における鉛直位置関係を保持しながら並走するように構成した水上中継機と水中航走体との連結システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-041281号公報
【特許文献2】特開2021-116019号公報
【特許文献3】特開2022-145659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電波は水中での減衰が大きいことにより、GNSS(Global navigation satellite system:全地球航法衛星システム)に依存してAUVの位置を決定することはできない。そのため、AHRS(Attitude heading reference system:機首方位姿勢基準装置)、DVL(Doppler velocity log:ドップラー速度ログ)、及びPDS(Pressure depth sensor:圧力深度計)などのセンサーからの情報を統合して位置を推定するINS(Inertial navigation system:慣性航法装置)が推測航法に使用されている。
しかし、AUVを深い水域で使用する場合、AUVが海底に接近するまでINSはDVLから対地速度を得ることができないため、純慣性航法だけとなり、位置誤差の大きな蓄積をもたらす。この問題を解決するために、音響通信を介してコマンドを送信する支援船やASVなどの洋上局から、USBL(Ultra-short baseline:超短基線方式)などの音響水中測位システムを用いてAUVの位置を計測し、AUVの位置誤差を低減するための補正指令を送信することが行われているが、音響測位には外れ値が多く、ノイズにより位置データが得られないこともある。したがって、水中を航行するAUVの位置を正確に把握することは困難である。
外れ値の位置データは、予測フィルタに悪影響を及ぼす。これらの外れ値を除去するための研究がいくつか行われているが、多くの外れ値と測定値の欠落により、AUVのオペレータがAUVの将来の位置を予測して誤差補正を行うことが困難となっている。
また、水中環境における音響通信及び音響測位は、支援船、AUV自体、多重反射などからによるノイズの影響を受ける。そのような不安定さにより発生する測位誤差や外れ値、欠測などの悪影響を軽減するためには、AUVの軌跡の形状パターンに基づく誤差推定が有効である。例えば、直線や円軌道上を移動するAUVの位置データから最小二乗法を用いて誤差を求める方法が考えられる。しかし、最小二乗法を使用すると、各位置データの変動の影響を最小限に抑えることができるが、原則としてすべての値が計算で考慮されるため、外れ値が結果に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
特許文献1は、AUVによる自己位置推定の誤差を検出するものではない。また、特許文献2及び特許文献3には、AUVの自己位置推定の誤差を修正する方法が開示されているが、誤差の修正には水中の目標物等を利用するものである。
そこで本発明は、AUVの自己推定位置に含まれる誤差を、従来とは異なる方法で精度よく検出するAUVの位置誤差検出システム、プログラム、及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載に対応したAUVの位置誤差検出システムにおいては、支援船、ASV(自律型洋上中継機)、又は監視拠点から投入したAUV(自律型無人潜水機)を航走させる際の位置誤差を検出するAUVの位置誤差検出システムであって、支援船、ASV、監視拠点、又はAUVの周辺の水中に設けられAUVの音響測位を行う音響測位手段と、支援船、ASV、監視拠点、又はAUVに設けられAUVを制御する制御手段と、AUVに設けられたINS(慣性航法装置)を備え、制御手段は、AUVに対して指定した周回軌道上で周回する周回待機の指示と周回待機の実行中におけるINSによる位置推定の指示、及び支援船、ASV、監視拠点、又はAUVの周辺の水中に設けられた音響測位手段に対してAUVの音響測位の指示を行う周回・計測指示部と、INSにより取得されたAUVの位置座標をハフ変換して求めた円軌道としてINS円軌道を導出し、音響測位手段により取得されたAUVの位置座標をハフ変換して求めた円軌道として音響円軌道を導出し、INS円軌道と音響円軌道との差に基づいてINSが推定した位置の誤差を検出する位置誤差検出部を有することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、AUVが備えるINSが推定した位置に含まれる誤差をハフ変換を用いて精度よく検出することができる。
【0007】
請求項2記載の本発明は、位置誤差検出部は、INS円軌道と音響円軌道のそれぞれについて中心座標を求め、INS円軌道と音響円軌道との差として、それぞれの中心座標に基づいてINS円軌道の中心と音響円軌道の中心との距離を求め、距離が所定範囲内でない場合はINSによる位置推定の誤差が許容範囲外と判断し、INSによる位置推定についての補正すべき距離と方向を含む位置誤差補正値を求めることを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、位置誤差補正値を精度よく導出し、INSが推定した位置を位置誤差補正値で補正することができる。
【0008】
請求項3記載の本発明は、制御手段が支援船、ASV、又は監視拠点に設けられており、周回・計測指示部は、位置誤差検出部が求めた位置誤差補正値を支援船、ASV、又は監視拠点からAUVに音響通信手段により逐次送信し、AUVを指定した期間で周回待機させ、位置誤差補正値を反映したINSによる位置推定を指示することを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、AUVは受信した位置誤差補正値に基づく位置の補正を繰り返しながら周回軌道上での周回(周回待機)を続けるため、INSが推定した位置をより精度よく補正することができる。
【0009】
請求項4記載の本発明は、制御手段は、位置誤差検出部においてINS円軌道の中心と音響円軌道の中心との距離があらかじめ設定した所定範囲に収まるまで、周回・計測指示部からAUVに対する位置誤差補正値の送信と、指定した期間での周回待機及びINSによる位置誤差補正値を反映した位置推定の指示を繰り返すことを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、INSが推定した位置に含まれる誤差を所定値内に収めることができる。
【0010】
請求項5記載の本発明は、制御手段は、AUVの位置の推定に、INSに加え、AUVに搭載したAHRS(機首方位姿勢基準装置)、DVL(ドップラー速度ログ)及びPDS(圧力深度計)からの出力情報を統合して求める位置推定法を用いることを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、海底に接近した後はDVLから対地速度を得て位置情報を精度よく求めることができる。
【0011】
請求項6記載に対応したAUVの位置誤差検出プログラムにおいては、支援船、ASV(自律型洋上中継機)、又は監視拠点から投入したINS(慣性航法装置)を搭載するAUV(自律型無人潜水機)を航走させる際の位置誤差を検出するAUVの位置誤差検出プログラムであって、コンピュータに、AUVに対して指定した周回軌道上で周回する周回待機を指示する周回待機ステップと、周回待機を実行中のAUVに対してINSによる位置推定を指示するINSステップと、支援船、ASV、監視拠点、又はAUVの周辺の水中に設けられた音響測位手段に対してAUVの音響測位を指示する音響測位ステップと、INSにより取得されたAUVの位置座標をハフ変換して求めた円軌道としてINS円軌道を導出し、音響測位手段により取得されたAUVの位置座標をハフ変換して求めた円軌道として音響円軌道を導出する変換ステップと、INS円軌道と音響円軌道との差に基づいてINSによる位置推定の誤差を検出する位置誤差検出ステップを実行させることを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、コンピュータにより、AUVが備えるINSが推定した位置に含まれる誤差をハフ変換を用いて精度よく検出することができる。
【0012】
請求項7記載に対応したAUVの位置誤差検出方法においては、支援船、ASV(自律型洋上中継機)、又は監視拠点から投入したINS(慣性航法装置)を搭載するAUV(自律型無人潜水機)を航走させる際の位置誤差を検出するAUVの位置誤差検出方法であって、AUVを指定した周回軌道上で周回しながら待機させる周回待機ステップと、周回待機中のAUVにおいてINSによる位置推定を行うINSステップと、支援船、ASV、監視拠点、又はAUVの周辺の水中に設けられた音響測位手段からAUVの音響測位を行う音響測位ステップと、INSにより取得されたAUVの位置座標をハフ変換して求めた円軌道としてINS円軌道を導出し、音響測位手段により取得されたAUVの位置座標をハフ変換して求めた円軌道として音響円軌道を導出する変換ステップと、INS円軌道と音響円軌道との差に基づいてINSによる位置推定の誤差を検出する位置誤差検出ステップを有することを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、AUVが備えるINSが推定した位置に含まれる誤差をハフ変換を用いて精度よく検出することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のAUVの位置誤差検出システムによれば、AUVが備えるINSが推定した位置に含まれる誤差をハフ変換を用いて精度よく検出することができる。
【0014】
また、位置誤差検出部は、INS円軌道と音響円軌道のそれぞれについて中心座標を求め、INS円軌道と音響円軌道との差として、それぞれの中心座標に基づいてINS円軌道の中心と音響円軌道の中心との距離を求め、距離が所定範囲内でない場合はINSによる位置推定の誤差が許容範囲外と判断し、INSによる位置推定についての補正すべき距離と方向を含む位置誤差補正値を求める場合には、位置誤差補正値を精度よく導出し、INSが推定した位置を位置誤差補正値で補正することができる。
【0015】
また、制御手段が支援船、ASV、又は監視拠点に設けられており、周回・計測指示部は、位置誤差検出部が求めた位置誤差補正値を支援船、ASV、又は監視拠点からAUVに音響通信手段により逐次送信し、AUVを指定した期間で周回待機させ、位置誤差補正値を反映したINSによる位置推定を指示する場合には、AUVは受信した位置誤差補正値に基づく位置の補正を繰り返しながら周回軌道上での周回(周回待機)を続けるため、INSが推定した位置をより精度よく補正することができる。
【0016】
また、制御手段は、位置誤差検出部においてINS円軌道の中心と音響円軌道の中心との距離があらかじめ設定した所定範囲に収まるまで、周回・計測指示部からAUVに対する位置誤差補正値の送信と、指定した期間での周回待機及びINSによる位置誤差補正値を反映した位置推定の指示を繰り返す場合には、INSが推定した位置に含まれる誤差を所定値内に収めることができる。
【0017】
また、制御手段は、AUVの位置の推定に、INSに加え、AUVに搭載したAHRS(機首方位姿勢基準装置)、DVL(ドップラー速度ログ)及びPDS(圧力深度計)からの出力情報を統合して求める位置推定法を用いる場合には、海底に接近した後はDVLから対地速度を得て位置情報を精度よく求めることができる。
【0018】
また、本発明のAUVの位置誤差検出プログラムによれば、コンピュータにより、AUVが備えるINSが推定した位置に含まれる誤差をハフ変換を用いて精度よく検出することができる。
【0019】
また、本発明のAUVの位置誤差検出方法によれば、AUVが備えるINSが推定した位置に含まれる誤差をハフ変換を用いて精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態によるAUVの位置誤差検出システムの機能ブロック図
図2】同AUVが旋回待機している状態を示す概念図
図3】同位置誤差補正のフローチャート
図4】同ハフ変換による円検出処理のフローチャート
図5】同観測位置をハフパラメータ空間に変換した例を示す図
図6】本発明の他の実施形態によるAUVの位置誤差検出においてAUVが旋回待機している状態を示す概念図
図7】本発明の更に他の実施形態によるAUVの位置誤差検出においてAUVが旋回待機している状態を示す概念図
図8】同海上試験における潜航中のAUV位置の軌跡を示す図
図9】同海上試験における円軌道の検出結果を示す図
図10】同海上試験における検出された円の半径の時系列変動を示す図
図11】同海上試験におけるAUVに記録されたINS-LOGの位置データと支援船からのUSBLの位置データとのタイムスタンプによる距離差を示した図
図12】同海上試験に関連したシミュレーションによる検出結果を示す図
図13】同海上試験に関連したシミュレーションにおいて元のUSBLデータと誤差が追加されたデータのハフパラメータ空間を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態によるAUVの位置誤差検出システム、AUVの位置誤差検出プログラム、及びAUVの位置誤差検出方法について説明する。
図1はAUVの位置誤差検出システムの機能ブロック図、図2はAUVが旋回待機している状態を示す概念図である。
図2に示すように、AUV(自律型無人潜水機)2は、水上に位置する支援船1の管制下において海底資源の探査などを行う。なお、支援船1と共に、又は支援船1に代えてASV(自律型洋上中継機)を用いてもよい。
図1に示すように、位置誤差検出システムは、水中のAUV2を音響測位する音響測位手段10と、AUV2の自己位置推定に用いるINS(慣性航法装置)20と、AUV2の制御に用いる制御手段30を備える。
音響測位手段10及び制御手段30は、水中のAUV2の管制等を行う支援船1に搭載され、INS20は水中で探査等を行うAUV2に搭載されている。音響測位手段10は、USBL(超短基線方式)による音響測位を行うものであり、以下の説明においては「USBL測位手段」と表記することがある。制御手段30は、周回・計測指示部31と、位置誤差検出部32を有する。なお、制御手段30は、AUV2の内部に設けることも可能である。
支援船1は、USBL測位手段10及び制御手段30の他に、位置座標を取得するGNSS(全地球航法衛星システム)40と、AUV2との音響通信に用いる音響通信手段50(第一音響通信手段50A)を備える。
AUV2は、INS20の他に、支援船1との音響通信に用いる音響通信手段50(第二音響通信手段50B)と、機首方位及び姿勢を取得するAHRS(機首方位姿勢基準装置)60と、対地速度及び高度を取得するDVL(ドップラー速度ログ)70と、圧力及び深度を取得するPDS(圧力深度計)80を備える。航行中のAUV2は、海底に接近する際にROVのようにケーブルに拘束されることなく、水中を自由に移動し、正確な軌道を描くことができる。そのため、巡航中のAUV2は、海底に接近する際の制御を維持するために、調査航行開始前の定常旋回として円軌道を維持しながら待機する。
【0022】
図3は位置誤差補正のフローチャートである。
支援船1でAUV2を監視するオペレータ、又は制御手段30の周回・計測指示部31は、AUV2に対し、指定した周回(旋回)軌道上で周回する周回待機を行わせる。支援船1から探査水域に投入されたAUV2は海底に向けて降下し、指定された軌道(半径)と期間(時間、指定時刻)で調査航行開始前の周回待機(定常旋回)を行う(S1:周回待機ステップ)。
また、オペレータ又は周回・計測指示部31は、AUV2に対し、位置座標をAUV2単独のINS20による位置推定で求めるように指示する。当該指示を受信したAUV2は、取得した自己の位置座標を地球座標でオペレータ又は周回・計測指示部31へ第二音響通信手段50Bから逐次報告する(S2:INSステップ)。制御手段30は、AUV2の位置推定に、INS20に加え、AUV2に搭載したAHRS60、DVL70、及びPDS80のセンサーからの出力情報を統合して求める位置推定法を用いることが好ましい。これにより、海底に接近した後はDVL70から対地速度を得て位置情報を精度よく求めることができる。
オペレータ又は周回・計測指示部31は、AUV2が潜航を開始した時点でINS20とUSBL測位手段10からの位置データ(位置座標)の受信を開始する。地球座標(すなわち緯度と経度)におけるAUV2の位置は、GNSS40及びUSBL測位手段10を使用して支援船1から計測することができる。オペレータ又は周回・計測指示部31は、USBL測位手段10に対し、周回待機中のAUV2を音響測位して位置座標を求めるように指示する。当該指示を受信したUSBL測位手段10は、AUV2を音響測位して得られた位置座標をオペレータ又は周回・計測指示部31へ逐次送信する(S3:音響測位ステップ)。
【0023】
次に、周回待機するAUV2の周回軌道(円軌道)を求めるためにハフ変換(Hough transform)を行う(S4:変換ステップ)。ハフ変換は、直線や円などのパラメータを用いて表現可能な図形パターンを抽出する手法である。最も妥当なパラメータが投票及び多数決規則によって決定されるため、図形要素に属さないノイズ成分及びオクルージョン(遮蔽、手前に物体があって隠れる)などの図形要素の欠損に対してロバストである。
ここで、図4はハフ変換による円検出処理のフローチャートである。
ハフ変換による円検出は、3次元離散空間であるハフパラメータ空間における候補座標に投票することにより決定される。
オペレータ又は位置誤差検出部32は、ハフ変換による周回軌道の検出を開始すると、まずUSBL測位手段10により取得された位置データのおおまかな分布を把握し、手動又は自動でハフパラメータ空間の原点である基準座標を設定する。これは、INS20で発生する誤差を予測することは困難なためである。原点の決定と他のパラメータの初期化は、ハフパラメータ空間の初期化プロセスである。
次に、オペレータ又は位置誤差検出部32は、INS20及びUSBL測位手段10から受信した各位置データ(位置座標)に対してハフ変換の計算プロセスを適用する。両円の半径が所定の値に収束するまで各円を検出し、中心間の距離を求める。
【0024】
図5は観測位置をハフパラメータ空間に変換した例を示す図である。
図5の例では、予め以下のパラメータを設定した。
- 基準位置座標は、ハフパラメータ空間の原点を定義して、観測位置を絶対地理座標系から相対座標系に変換する。なお、図5ではハフパラメータ空間を「HPS」と表記している。
- 探索範囲は、ハフパラメータ空間の各軸の基準位置座標からの範囲を指定する。探索領域は、北-南方向のNレンジと東-西方向のEレンジで構成される。Rレンジは、検出する半径の探索範囲である。
- Nレンジ、Eレンジ、及びRレンジは、それぞれ分解能ΔN、ΔE、ΔRで離散化した。
最初に、新しく観測された位置(点α)が、世界座標(緯度と経度)から変換される。世界測地系(WGS84)を2次元デカルト座標系に変換する。基準位置からの北方向と東方向は、カーニー法(Karney method)による下式(1)で計算された間隔と方位θによる。離散化されたハフパラメータ空間では、観測位置の座標は(n,e)、円の中心は(n,e)、半径はrと仮定される。
【数1】
【0025】
観測された位置(n,e)は、円の成分を得るための候補である。各rについて、(n,e)を中心とした円の端を含む(n,e)の組み合わせの中心候補座標の票を集める。
推定中心位置と半径(n^,e^,r^)は、観測位置データを3つ以上ハフパラメータ空間に変換して投票した場合、下式(2)の最大値探索により求めることができる。
【数2】
r^の値は、観測された各位置データ点に誤差が含まれているため、投票数が少ない場合には不安定で変動する。r^の値が一定値に収束するまで、位置座標の受信と、ハフパラメータ空間への投票と、最大投票値の探索と、円の中心・半径の計算を繰り返し、収束後、推定値を最確の中心位置座標及び半径値としてハフ変換による円検出処理を終了する。
【0026】
図3に示すように、オペレータ又は位置誤差検出部32は、INS20から受信した位置データとUSBL測位手段10から受信した位置データのどちらか一方についてのハフ変換による円検出処理が終了した場合は、他方についてもハフ変換による円検出が終了したか否かを判断する。そして、他方についての円検出が終了していない(NO)と判断した場合は、他方についての円検出を継続する。
一方、他方についての円検出も終了している、すなわち両方の円検出が終了している(YES)と判断した場合は、両者の検出円の中心間距離を算出する(S5:位置誤差検出ステップ)。この円中心間距離は両円を検出したときに補正する必要がある誤差距離(INS誤差)を意味する。オペレータ又は位置誤差検出部32は、この誤差距離が許容範囲(所定範囲)内であるか否かを判断し、許容範囲外(NO)と判断した場合には、位置誤差補正値としての補正する距離と方向を含む位置補正コマンド(誤差情報)を音響通信によりAUV2に送信する。位置補正コマンドを受信したAUV2はそのコマンドに基づいて自身の位置情報を補正して更新し、引き続きINS20で取得した位置情報の送信を継続する。オペレータ又は位置誤差検出部32は、AUV2から受信した位置情報とUSBL測位手段10から受信した位置情報に基づいて引き続きハフ変換による円検出処理を行い、誤差距離が許容範囲内(YES)と判断するまでこの手順を繰り返す。
【0027】
このように、本実施形態の位置誤差検出システム又は方法を用いることで、AUV2が備えるINS20が求めた位置座標に含まれる誤差をハフ変換を用いて精度よく検出することができる。
また、位置誤差補正値を精度よく導出し、INS20が推定した位置を位置誤差補正値で補正することができる。
また、AUV2は受信した位置誤差補正値に基づく位置座標の補正を繰り返しながら周回軌道上での周回(周回待機)を続けるため、INS20が推定した位置をより精度よく補正することができる。
また、位置誤差検出部32の誤差補正は、INS周回軌道とUSBL周回軌道の中心座標間の距離があらかじめ設定した所定範囲に収まるまで位置誤差補正を繰り返すことで、INS20が推定した位置に含まれる誤差を所定値内に収めることができる
【0028】
なお、本実施形態では、支援船1(又はASV)に制御手段30を設け、INS20が推定した位置の誤差検出を支援船1で行うと共に、支援船1からAUV2へ位置補正コマンドを送信することにより、AUV2において自己の位置情報の補正が行われるようにしているが、上記のように制御手段30はAUV2に設けることもできる。
制御手段30をAUV2に設けた場合は、AUV2がINS20による自己位置推定を行うことは同じであるが、支援船1(又はASV)からUSBL測位手段10によりAUV2を音響測位して得られた位置座標がAUV2へ音響通信手段50を介して送信される点、そして、AUV2の制御部30において、変換ステップS4及び位置誤差検出ステップS5が行われる点が異なる。すなわちこの場合は、AUV2内において、INS20が推定した位置の誤差検出と、位置誤差補正値の導出が行われ、それにより自己の位置情報が補正される。
【0029】
また、AUV2の位置誤差検出は、プログラムを用いて実行可能である。AUV2の位置誤差検出プログラムは、コンピュータに、AUV2に対して指定した周回軌道上で周回する周回待機を指示する周回待機ステップ(上記の周回待機ステップS1に相当)と、周回待機を実行中のAUV2に対してINS20による位置推定を指示するINSステップ(上記のINSステップS2に相当)と、支援船1に設けられた音響測位手段(USBL測位手段)10に対してAUV2の音響測位を指示する音響測位ステップ(上記の音響測位ステップS3に相当)と、INS20により取得されたAUV2の位置座標をハフ変換して求めた円軌道としてINS円軌道を導出し、音響測位手段(USBL測位手段)10により取得されたAUVの位置座標をハフ変換して求めた円軌道として音響円軌道を導出する変換ステップ(上記の変換ステップS4に相当)と、INS円軌道と音響円軌道との差に基づいてINS20による位置推定の誤差を検出する位置誤差検出ステップ(上記の位置誤差検出ステップS5に相当)を実行させる。これにより、コンピュータにより、AUV2が備えるINS20が推定した位置に含まれる誤差をハフ変換を用いて精度よく検出することができる。
位置誤差検出プログラムを実行するコンピュータは、上記した制御手段30が兼ねてもよく、制御手段30とは別に設けて制御手段30と連係させてもよい。
【0030】
次に、本発明の他の実施形態によるAUVの位置誤差検出システム、AUVの位置誤差検出プログラム、及びAUVの位置誤差検出方法について説明する。なお、上記した実施形態と同様の機器等には同一符号を付して説明を省略する。
図6はAUVが旋回待機している状態を示す概念図である。
本実施形態は、監視拠点3に音響測位手段(USBL測位手段)10と制御手段30を設けている点において上記した実施形態と異なり、その余の点については上記した実施形態と基本的に同様である。
監視拠点3は、支援船1(又はASV)とAUV2による海底探査を監視する拠点であり、洋上に設けられた第一監視拠点(洋上プラットフォーム)3Aと、岸壁に設けられた第二監視拠点3Bがある。AUV2は、支援船1から水中へ投入することができる他、第一監視拠点3A又は第二監視拠点3Bから投入することもできる。
支援船1は第一監視拠点3A及び第二監視拠点3Bと無線通信可能であり、支援船1及び第二監視拠点3Bは測位衛星4と無線通信可能である。また、第一監視拠点3Aと第二監視拠点3Bには、それぞれUSBL測位手段10と制御手段30が設けられている。なお、第二監視拠点3BのUSBL測位手段10は、第二監視拠点3Bが位置する岸壁に設けてもよい。
【0031】
本実施形態では、INSステップS2において、AUV2は取得した自己の位置座標を第一監視拠点3A又は第二監視拠点3Bのオペレータ又は制御手段30へ第二音響通信手段50Bから逐次送信する。また、音響測位ステップS3において、支援船1はUSBL測位手段10によりAUV2を音響測位して得られた位置座標を第一監視拠点3A又は第二監視拠点3Bのオペレータ又は制御手段30へ逐次送信する。
支援船1及びAUV2から位置座標を受信した第一監視拠点3A又は第二監視拠点3Bのオペレータ又は制御手段30は、INS20が推定した位置の誤差検出を行い、AUV2へ位置補正コマンドを送信する。これにより、AUV2において自己の位置情報の補正が行われる。
【0032】
また、第一監視拠点3Aと第二監視拠点3Bには、それぞれUSBL測位手段10が設けられているため、支援船1からAUV2の音響測位情報が得られない場合等は、第一監視拠点3A又は第二監視拠点3Bに設けられているUSBL測位手段10によりAUV2を音響測位して位置座標を取得し、INS20が推定した位置の誤差検出を行うこともできる。
【0033】
次に、本発明の更に他の実施形態によるAUVの位置誤差検出システム、AUVの位置誤差検出プログラム、及びAUVの位置誤差検出方法について説明する。なお、最初の実施形態と同様の機器等には同一符号を付して説明を省略する。
図7はAUVが旋回待機している状態を示す概念図である。
本実施形態は、音響測位手段を、AUV2の周辺の水中(AUV2の探査領域の海底)に複数設置した海中機器(トランスポンダ)11としている点において最初の実施形態と異なり、その余の点については最初の実施形態と基本的に同様である。
AUV2にはトランスポンダ11との音響通信を行う送受波器90が設けられている。
【0034】
本実施形態では、INSステップS2において、AUV2は取得した自己の位置座標を支援船1のオペレータ又は制御手段30へ第二音響通信手段50Bから逐次送信する。また、音響測位ステップS3において、トランスポンダ11を利用したLBL(Long Base line:ロングベースライン)方式による音響測位を行い、得られたAUV2の位置座標を、支援船1のオペレータ又は制御手段30へAUV2の第二音響通信手段50Bから逐次送信する。
AUV2からINS20の自己位置推定による位置座標とトランスポンダ11の音響測位による位置座標を受信した支援船1の制御手段30は、INS20が推定した位置の誤差検出を行い、AUV2へ位置補正コマンドを送信する。これにより、AUV2において自己の位置情報の補正が行われる。
本実施形態のようにLBL方式の音響測位を行う場合は、支援船1から音響測位を行う必要がなく、また支援船1から音響測位を行うよりもAUV2を正確に(精度よく)音響測位することが可能となる。
【0035】
次に、最初の実施形態に関して実施した海上試験について説明する。
海上試験は、静岡県駿河湾の水深約100mで実施した。試験期間中に計12回の潜航を実施したが、ここでは10回目の潜航(Dive#10)、11回目の潜航(Dive#11)、及び12回目の潜航(Dive#12)の3回の潜航の結果を説明する。
試験では、国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所の海上技術安全研究所(NMRI)が開発したAUVのうちの2台使用した。使用した2台の仕様を下表1に示す。AUV#2は12回目の潜航で使用し、AUV#4は10回目と11回目の潜航で使用した。2台のAUVは同じソフトウェアを使用して制御され、周回待機円の半径は事前定義されたシナリオファイルで指定できる。航走では、AHRS、DVL、及びPDSから構成されるINSを用いて推定位置を計算した。
【表1】
【0036】
AUV側には、ATM(Acoustic telemetry modem:音響テレメトリモデム)と、グローバル音響測位システムのトランスポンダを搭載した。
AUVにはGNSS受信機が搭載されていないため、INS位置の初期化については、無線LAN及びATMを介した補正コマンドによる上書きが前提条件である。INSデータの緯度、経度、深さ、姿勢などの値は、ATMを介してアップリンクデータとして取得することができ、位置補正コマンドは、支援船からの旋回待機中にダウンリンクデータとしてAUVに送信することができる。記録されたINSデータ(INS-LOG)はAUVに保存され、支援船に送信されるINSデータ(INS-TX)は、AUVが航行中のINS-LOGのうち最新のデータである。支援船側では、AUV制御用に開発されたソフトウェアを拡張し、ロボットオペレーティングシステムとPythonプログラミング言語を用いて実装したものである。
【0037】
下表2は、周回軌道(円軌道)検出アルゴリズムで使用される条件とパラメータを示している。海底での円運動の継続時間と半径は事前に指定する必要があるため、10回目と11回目の潜航の継続時間は180秒、12回目の潜航の継続時間は600秒とし、各半径は50mとした。
ハフパラメータ空間の大きさは、計算量を減らすためにNレンジ、Eレンジ、及びRレンジの範囲を狭めて決定した。探索範囲は、基準座標から東西・南北方向に100m(すなわち鉛直・水平方向ともに200m)離れた半径50mの円をカバーするように設定し、Rレンジは、基準座標から50m離れた位置から±10mの範囲とした(40-60m)。基準座標は、AUVが潜航及び周回待機(定常旋回)を開始したことを確認した後、INSデータ及びUSBLデータに基づく軌道が探索範囲内に含まれるように手動で選択した。また、分解能ΔN、ΔE、ΔRの値は、計算のリアルタイム性を損なわない範囲である1mに設定した。
データ取得間隔は、ATMを介したINS-TX位置報告が16秒、USBL測位手段によるUSBL測位が4秒であった。
【表2】
【0038】
図8は円軌道の検出中にオペレータによって手動で配置されたINS-LOG、INS-TX、USBLデータ、及び探索領域からのデータを使用して描かれた、潜航中のAUV位置の軌跡を示す図であり、図8(a)は10回目の潜航時、図8(b)は11回目の潜航時、図8(c)は12回目の潜航時である。
図9は円軌道の検出結果を示す図であり、図9(a)は10回目の潜航時、図9(b)は11回目の潜航時、図9(c)は12回目の潜航時である。
図9の各グラフ中の点線の円は、検出した円の半径が所定値50mに収束した段階でのINS-TXデータとUSBLデータによる円検出の結果であり、円の中心間の距離は位置誤差距離を表し、位置補正コマンドを用いて補正する必要がある。下表3に位置誤差検出と補正の結果を示す。
【表3】
【0039】
図10は検出された円の半径の時系列変動を示す図であり、図10(a)は10回目の潜航時、図10(b)は11回目の潜航時、図10(c)は12回目の潜航時である。時系列の原点(0 s)は、ハフパラメータ空間への投票の開始を示す。支援船がINS-TXとUSBLの位置データを受信するたびに、推定半径値が逐次計算される。各データ点上の数字(例えば、図10(a)における0、1、41、48)は、図9における各データ点上の数字に対応する時系列の読みである。
図11はAUVに記録されたINS-LOGの位置データと支援船からのUSBLの位置データとのタイムスタンプによる距離差を示した図であり、図11(a)は10回目の潜航時、図11(b)は11回目の潜航時、図11(c)は12回目の潜航時である。時系列の起点は各潜航の開始であることから、「Start」、「Updated」及び「End」の瞬間は図8の各プロットに示す位置に対応し、「Updated」はAUVが支援船からの修正指示(位置補正コマンド)を受けた瞬間である。
【0040】
図9(a)、(b)及び図10(a)、(b)に示すように、INS-TXデータによる円の検出は、10回目及び11回目の潜航において4回のデータ受信後に所定の半径(50m)に達した。図11(a)、(b)に示すように、AUVが位置補正コマンドを受信した直後のINS-LOGとUSBLのデータによる位置間の誤差距離はそれぞれ1.6m及び1.3mであり、これらの位置誤差が使用したAUV#4の長さ(3.9m)よりも小さく補正されていることを考慮すると、本実施形態による位置誤差検出の精度は十分実用的といえる。この結果は、少量のデータであっても円軌道を検出できることを示唆している。よって、本実施形態の位置誤差検出は、多数の位置を平均化する方法よりも誤差を迅速に推定できるため、航行型AUVだけでなく、その場待機が可能なホバリング型AUVであっても円軌道上で待機する動作が可能であれば有効な可能性がある。
なお、12回目の潜航は、10回目及び11回目の潜航よりも誤差距離の検出に時間がかかり、また、INS-TXとUSBLの計測のいずれも所定の半径(50m)に到達するまでに218秒を要したが、これはINS-TXのデータが長期間得られなかった42秒から202秒の区間があったためである。
【0041】
海上試験で得られたUSBL測位データは満足できるものであり、外れ値をあまり含んでいなかった。そこで、11回目の潜航時のUSBLデータを用いてシミュレーションを行い、外れ値を含む場合における性能を検証した。この仮定は過剰ではあるが、100m標準偏差の誤差で各データ点に対して新しいデータを作成した。
図12は当該シミュレーションによる検出結果を示す図である。外れ値が含まれていても、所望の円のパラメータは多数決で決定されるため、円を構成しない位置は影響していない(図9(b)参照)。
図13は当該シミュレーションにおいて、元のUSBLデータと誤差が追加されたデータのハフパラメータ空間を示す図であり、図13(a)は外れ値を追加していない元データのもの(図9(b)参照)、図13(b)は外れ値を追加したデータのもの(図12参照)である。これらのハフパラメータ空間では、求める半径の値は50mであった(すなわちハフパラメータ空間(n,e,50))。外れ値によって投票された円のエッジは、この時点で交差しないため、最大投票値に影響しない。したがって、選択されたパラメータの組み合わせ(nc^,ec^,50)は、どちらの場合も7としてカウントされ、外れ値ではない成分が位置データの全体に対して支配的である限り、外れ値に対して不変であり、本実施形態による位置誤差検出が外れ値に対してロバストであることが示されている。
なお、発明を実施するための形態においては、水面に平行な周回軌道(円軌道)を例に挙げたが、水面に垂直な周回軌道や水面に斜めの周回軌道であってもよい。
これらは、INS(慣性航法装置)の水平方向のみならず垂直方向や斜め方向など3次元的な誤差を推定する上で適宜、選択し得る。
また、周回軌道は、必ずしも円軌道である必要はなく、楕円軌道やラウンドスクエア軌道等適宜選択し得る。その場合の中心座標は、楕円軌道の焦点やラウンドスクエア軌道の幾何学的な中心座標を用いることが可能である。また、周回軌道でなく双曲線軌道や直線軌道等、INS軌道と音響軌道の差が求まるものであれば、いずれでもよい。請求の範囲における周回軌道(円軌道)は、これらを含めて解釈できるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、調査航行開始前におけるAUVの位置補正に利用できる他、必要に応じてミッションの途中にAUVに対して円軌道パターンを挿入して補正操作を繰り返すこともできる。
また、位置誤差検出に用いる機器又は機能は、一般的なAUV運用システムに備わっていることが期待でき、また、位置誤差検出を支援船やASV、監視拠点側で行う場合には、AUV本体に大きな変更を加えることなく実装可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 支援船
2 AUV
3 監視拠点
10 音響測位手段(USBL測位手段)
11 音響測位手段(トランスポンダ)
20 INS
30 制御手段
31 周回・計測指示部
32 位置誤差検出部
60 AHRS
70 DVL
80 PDS
S1 周回待機ステップ
S2 INSステップ
S3 音響測位ステップ
S4 変換ステップ
S5 位置誤差検出ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13