(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128817
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】歯科用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/00 20200101AFI20240913BHJP
A61K 6/15 20200101ALI20240913BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20240913BHJP
【FI】
A61K6/00
A61K6/15
A61K6/887
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038051
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000227250
【氏名又は名称】日鉄鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】小柳 誉也
(72)【発明者】
【氏名】松浦 亮
(72)【発明者】
【氏名】新井 翔
(72)【発明者】
【氏名】樋口 萌々華
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA11
4C089BD06
4C089BD10
(57)【要約】
【課題】製造直後及び長期の保管後のいずれにおいても接着性及びその硬化物の機械的強度に優れる歯科用組成物を提供すること。
【解決手段】重合性単量体(A)、重合開始剤(B)、及びフィラー(C)を含み、
かつ前記重合性単量体(A)が、酸性基を有する重合性単量体(A-1)を含み、
さらに前記フィラー(C)が、X線不透過性元素(x)を含むコア成分と、SiО2の被覆層とを有する被覆フィラー(C-1)を含み、かつ
前記被覆フィラー(C-1)の耐酸性試験におけるX線不透過性元素(x)のイオンの溶出イオン量が500ppm未満である、歯科用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体(A)、重合開始剤(B)、及びフィラー(C)を含み、
前記重合性単量体(A)が、酸性基を有する重合性単量体(A-1)を含み、
前記フィラー(C)が、X線不透過性元素(x)を含むコア成分と、SiО2の被覆層とを有する被覆フィラー(C-1)を含み、かつ
前記被覆フィラー(C-1)の耐酸性試験におけるX線不透過性元素(x)のイオンの溶出イオン量が500ppm未満である、歯科用組成物。
【請求項2】
前記被覆フィラー(C-1)が、下記一般式
Y-SiRpX(3-p) (3)
(式中、Yは重合性基、又は重合性基を有する1価の有機基を表し、Rはアルキル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれる基を表し、Xは水酸基又は加水分解性基を表し、pは0、1又は2の整数を表す。ただし、複数存在するRは互いに同一であっても異なっていてもよく、複数存在するXは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される重合性基を有するシランカップリング剤(a)によって表面処理されてなるフィラーである、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
前記被覆フィラー(C-1)の平均粒子径が、0.01μm以上10μm未満である、請求項1又は2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
前記X線不透過性元素(x)が、アルミニウム、ケイ素、カルシウム、チタン、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、バリウム、ランタン、及びイッテルビウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
前記X線不透過性元素(x)が、アルミニウム、ストロンチウム、ジルコニウム、バリウム、ランタン、及びイッテルビウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
前記被覆フィラー(C-1)の含有量が、前記重合性単量体(A)100質量部に対して、60~900質量部である、請求項1~5のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
前記酸性基を有する重合性単量体(A-1)の含有量が、重合性単量体(A)100質量部中、1~40質量部である、請求項1~6のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
酸性基を有しない重合性単量体(A-2)をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の歯科用組成物からなる、自己接着性歯科用コンポジットレジン。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の歯科用組成物からなる、歯科用ボンディング材。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の歯科用組成物からなる、歯科用セメント。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか1項に記載の歯科用組成物からなる、歯科用支台築造材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科用組成物に関する。より詳細には、製造直後及び長期の保管後のいずれにおいてもその硬化物の機械的強度及び接着性の低下が小さい歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯の齲蝕及びそれに伴う欠損の治療に際して、従来から歯科用ボンディング材と歯科用コンポジットレジンによる修復治療が一般的に行われている。この修復治療の際は、以下の手順で作業が行われる。
まず、齲蝕部分等を削って窩洞を形成した後、この窩洞に歯科用ボンディング材を塗布し、必要に応じてエアブロー等により溶媒を除去した後、歯科用ボンディング材を塗布した部位に可視光を照射して歯科用ボンディング材を硬化させる。
次に、硬化した歯科用ボンディング材層の上に歯科用コンポジットレジンを充填し、最後に充填した歯科用コンポジットレジンに可視光を照射して硬化させる。
【0003】
上述した修復治療においては、歯科用ボンディング材と歯科用コンポジットレジンの2つの材料を使用する。
これに対して、最近、歯科用コンポジットレジンに接着性を持たせた自己接着性歯科用コンポジットレジンが開発され、歯科用ボンディング材の使用を省略して修復治療の操作ステップを減少させた材料として実用化され始めている。
【0004】
自己接着性歯科用コンポジットレジンは、多官能重合性単量体、フィラー、及び重合開始剤等の従来の歯科用コンポジットレジンにも含有される成分に加え、歯質等に対する自己接着性の付与及び向上を目的として、歯科用ボンディング材等に用いられているリン酸基又はカルボキシ基等の酸性基を有する重合性単量体が含有されている(例えば、特許文献1等を参照)。
【0005】
一方で、歯科用コンポジットレジンのフィラーとして一般的に使用されるバリウム、ストロンチウムといったアルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩、又は水酸化物、あるいは酸反応性フルオロアルミノシリケートガラス等を、特許文献1のような自己接着性歯科用コンポジットレジンに配合した場合、当該フィラーと酸性基を有する重合性単量体との酸塩基反応、中和、塩形成、あるいはキレート反応が誘起される。
その結果、酸性基を有する重合性単量体が消費されるため、自己接着性自体が損なわれるという、前記した特定のフィラーと、酸性基を有する重合性単量体との間における課題があることが知られている。
【0006】
さらに、この課題は、前記した特定のフィラーと、酸性基を有する重合性単量体とが含まれる歯科用硬化性組成物において、全般的に生じる。そのため、この課題に対し、種々の歯科用硬化性組成物が提案されている(例えば、特許文献2、3等を参照)。
例えば、特許文献2では、酸性成分との反応性が低いフィラー、例えば、シランカップリング剤で処理されたシリカフィラー等を含有する一成分自己接着性歯科用組成物が開示されている。
特許文献3では多価金属を含有する無機粒子を酸処理した後に、シランカップリング剤で処理して得られる無機粒子を含有する歯科用組成物が開示されている。
【0007】
さらに、前記した特定のフィラーと、酸性基を有する重合性単量体とが含まれる歯科用硬化性組成物を自己接着性歯科用コンポジットレジンに適用した場合において、両者による酸塩基反応、中和、塩形成、あるいはキレート反応が抑制できた場合においても、自己接着性歯科用コンポジットレジンを保管している間にペーストの透明性及び性状の大きな変化や、固化が発生する場合があった。
そのような課題に対して、例えば、特許文献4の自己接着性歯科用コンポジットレジンが提案されている。
【0008】
また、歯科用組成物は治療した箇所をX線により確認できるように、X線不透過性を有するフィラーを含有することが求められている(例えば、特許文献5等を参照)。
特許文献5では、イッテルビウムハロゲン化物のような耐酸性が低く、X線不透過性が高いフィラーを、耐酸性が高い金属酸化物で被膜することにより酸性基を有する重合性単量体と共存させた歯科用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008-260752号公報
【特許文献2】特表2015-507610号公報
【特許文献3】特開2011-178778号公報
【特許文献4】国際公開第2018/074594号
【特許文献5】特開2013-35804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らが検討したところ、特許文献5で開示されている金属酸化物で被膜する方法では、イッテルビウムハロゲン化物のような耐酸性が比較的高いフィラーを被膜した場合には優れた保存安定性が得られるものの、バリウムガラス等のより耐酸性の低いフィラーを被覆した場合に、より過酷な条件で保存した場合には保存安定性にさらなる改善の余地があることが明らかとなった。
【0011】
そこで本発明は、製造直後及び長期の保管後のいずれにおいても接着性及びその硬化物の機械的強度に優れる歯科用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下を包含する。
[1]重合性単量体(A)、重合開始剤(B)、及びフィラー(C)を含み、
前記重合性単量体(A)が、酸性基を有する重合性単量体(A-1)を含み、
前記フィラー(C)が、X線不透過性元素(x)を含むコア成分と、SiО2の被覆層とを有する被覆フィラー(C-1)を含み、かつ
前記被覆フィラー(C-1)の耐酸性試験におけるX線不透過性元素(x)のイオンの溶出イオン量が500ppm未満である、歯科用組成物。
[2]前記被覆フィラー(C-1)が、下記一般式
Y-SiRpX(3-p) (3)
(式中、Yは重合性基、又は重合性基を有する1価の有機基を表し、Rはアルキル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれる基を表し、Xは水酸基又は加水分解性基を表し、pは0、1又は2の整数を表す。ただし、複数存在するRは互いに同一であっても異なっていてもよく、複数存在するXは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される重合性基を有するシランカップリング剤(a)によって表面処理されてなるフィラーである、[1]に記載の歯科用組成物。
[3]前記被覆フィラー(C-1)の平均粒子径が、0.01μm以上10μm未満である、[1]又は[2]に記載の歯科用組成物。
[4]前記X線不透過性元素(x)が、アルミニウム、ケイ素、カルシウム、チタン、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、バリウム、ランタン、及びイッテルビウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載の歯科用組成物。
[5]前記X線不透過性元素(x)が、アルミニウム、ストロンチウム、ジルコニウム、バリウム、ランタン、及びイッテルビウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載の歯科用組成物。
[6]前記被覆フィラー(C-1)の含有量が、前記重合性単量体(A)100質量部に対して、60~900質量部である、[1]~[5]のいずれかに記載の歯科用組成物。
[7]前記酸性基を有する重合性単量体(A-1)の含有量が、重合性単量体(A)100質量部中、1~40質量部である、[1]~[6]のいずれかに記載の歯科用組成物。
[8]酸性基を有しない重合性単量体(A-2)をさらに含む、[1]~[7]のいずれかに記載の歯科用組成物。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の歯科用組成物からなる、自己接着性歯科用コンポジットレジン。
[10][1]~[8]のいずれかに記載の歯科用組成物からなる、歯科用ボンディング材。
[11][1]~[8]のいずれかに記載の歯科用組成物からなる、歯科用セメント。
[12][1]~[8]のいずれかに記載の歯科用組成物からなる、歯科用支台築造材料。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製造直後及び長期の保管後のいずれにおいても接着性及びその硬化物の機械的強度に優れる歯科用組成物を提供できる。
また、本発明の歯科用組成物は、このような優れた特性を有することから、自己接着性歯科用コンポジットレジン、歯科用ボンディング材、歯科用セメント、歯科用支台築造材料などに好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の歯科用組成物は、重合性単量体(A)、重合開始剤(B)、及びフィラー(C)を含み、かつ前記重合性単量体(A)が、酸性基を有する重合性単量体(A-1)を含み、前記フィラー(C)が、X線不透過性元素(x)を含むコア成分と、SiО2の被覆層とを有する被覆フィラー(C-1)を含み、かつ前記被覆フィラー(C-1)の耐酸性試験におけるX線不透過性元素(x)のイオンの溶出イオン量の総和が500ppm未満である。
【0015】
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、メタクリルとアクリルの総称であり、これと類似の表現(「(メタ)アクリル酸」「(メタ)アクリロニトリル」等)についても同様である。
なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0016】
本発明の歯科用組成物が、長期の保管後においてもその硬化物の機械的強度及び接着性の低下が小さい理由は定かではないが、以下のように推定される。
酸性条件下では、フィラーに含まれるバリウム等の金属含有化合物から金属イオンが流出してしまい、当該金属イオンの流出に起因して歯科用組成物の硬化物の間に微細な隙間ができることで機械的強度及び接着性が低下する。
さらに、酸性基を有する重合性単量体の本来歯質と結合すべき酸性基が金属イオンと結合することにより、接着性がさらに低下する。
しかしながら、その金属含有化合物の表面をSiО2で覆うことにより流出するイオン量が低減され、長期保管後においてもその硬化物の機械的強度及び接着性が安定するものと考えられる。
【0017】
以下、本発明の歯科用組成物に用いられる各成分について、説明する。
【0018】
<重合性単量体(A)>
本発明の歯科用組成物に用いられる重合性単量体(A)には、ラジカル重合性単量体が好適に用いられる。重合性単量体(A)におけるラジカル重合性単量体の具体例としては、(メタ)アクリレート系重合性単量体、(メタ)アクリルアミド系重合性単量体、α-シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α-ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のエステル類、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ-N-ビニル誘導体、スチレン誘導体等が挙げられる。これらの中でも、硬化性の観点から(メタ)アクリレート系重合性単量体、(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が好ましい。さらに、歯質に対する接着性、及び弾性率の観点から、本発明の歯科用組成物において、重合性単量体(A)は、酸性基を有する重合性単量体(A-1)、及び酸性基を有しない重合性単量体(A-2)を含有することが好ましい。
【0019】
・酸性基を有する重合性単量体(A-1)
歯質に対する接着性を付与するために、酸性基を有する重合性単量体(A-1)を含む。
本発明に用いられる酸性基を有する重合性単量体(A-1)としては、例えば、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸性基を少なくとも1個有する重合性単量体が挙げられる。
酸性基を有する重合性単量体(A-1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
酸性基を有する重合性単量体(A-1)の具体例を下記する。
【0020】
リン酸基を有する重合性単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-(2-ブロモエチル)ハイドロジェンホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2-メタクリロイルオキシプロピル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート並びにこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩及びアミン塩が挙げられる。
【0021】
ピロリン酸基を有する重合性単量体としては、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕並びにこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩及びアミン塩が挙げられる。
【0022】
チオリン酸基を有する重合性単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンチオホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0023】
ホスホン酸基を有する重合性単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノアセテート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0024】
カルボン酸基を有する重合性単量体としては、分子内に1個のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する(メタ)アクリル酸エステル、分子内に複数のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0025】
分子内に1個のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する重合性単量体の例としては、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、N-(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート、O-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-o-アミノ安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、N-(メタ)アクリロイル-4-アミノサリチル酸等及びこれらの化合物のカルボキシル基を酸無水物基化した化合物が挙げられる。
【0026】
分子内に複数のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する重合性単量体の例としては、例えば、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキサン-1,1-ジカルボン酸、9-(メタ)アクリロイルオキシノナン-1,1-ジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシデカン-1,1-ジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、12-(メタ)アクリロイルオキシドデカン-1,1-ジカルボン酸、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデカン-1,1-ジカルボン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-3’-(メタ)アクリロイルオキシ-2’-(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸無水物、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-2,3,6-トリカルボン酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル-1,8-ナフタル酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,8-トリカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0027】
スルホン酸基を有する重合性単量体としては、2-スルホエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
上述の酸性基を有する重合性単量体(A-1)の中でも、歯科用組成物として用いた場合に接着強さが良好である観点から、リン酸基を有する重合性単量体又はカルボン酸基を有する重合性単量体を含むことが好ましく、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、及び、2-メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物がより好ましく、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェートがさらに好ましく、硬化性とのバランスの観点から、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートが最も好ましい。
【0029】
本発明の歯科用組成物における酸性基を有する重合性単量体(A-1)の含有量は、歯質に対する接着性の観点から、重合性単量体(A)100質量部中、1~40質量部であることが好ましく、2.5~35質量部であることがより好ましく、5~30質量部であることがさらに好ましい。
一方、酸性基を有する重合性単量体(A-1)の含有量は、本発明の効果が得られる限り、用途(自己接着性歯科用コンポジットレジン、歯科用セメント、歯科用ボンディング材、歯科用支台築造材料等)に応じて変更できる。
例えば、歯科用セメントに用いる場合、酸性基を有する重合性単量体(A-1)の含有量は、重合性単量体(A)100質量部中、0.1~50質量部、0.5~40質量部、1~30質量部等としてもよい。
自己接着性歯科用コンポジットレジン又は歯科用支台築造材料に用いる場合、酸性基を有する重合性単量体(A-1)の含有量は、重合性単量体(A)100質量部中、1~50質量部、1~40質量部、1~30質量部等としてもよい。
歯科用ボンディング材に用いる場合、酸性基を有する重合性単量体(A-1)の含有量は、重合性単量体(A)100質量部中、1~90質量部、1~40質量部、5~30質量部等としてもよい。
【0030】
・酸性基を有しない重合性単量体(A-2)
本発明の歯科用組成物は、酸性基を有しない重合性単量体(A-2)をさらに含むことが好ましい。
本発明における酸性基を有しない重合性単量体(A-2)としては、25℃の水に対する溶解度が10質量%未満である酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a);25℃の水に対する溶解度が10質量%以上である酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)が挙げられる。
酸性基を有しない重合性単量体(A-2)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
・酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)
酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)(以下、単に「疎水性重合性単量体(A-2a)」と称することがある)は、歯科用組成物のハンドリング性、硬化物の機械的強度などを向上させる。
【0032】
疎水性重合性単量体(A-2a)とは、酸性基を有さず、かつ25℃の水に対する溶解度が10質量%未満の重合性単量体を意味する。
【0033】
疎水性重合性単量体(A-2a)としては、酸性基を有さず重合性基を有するラジカル重合性単量体が好ましく、ラジカル重合が容易である観点から、重合性基は(メタ)アクリロイルオキシ基及び/又は(メタ)アクリルアミド基が好ましい。
疎水性重合性単量体(A-2a)としては、例えば、単官能性重合性単量体、芳香族化合物系の二官能性重合性単量体、脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体、三官能性以上の重合性単量体、重合性基を有するウレタンオリゴマーなどの架橋性重合性単量体が例示される。
【0034】
単官能性重合性単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、p-クミル-フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートならびにこれらの混合物などが挙げられる。
これらの中でも、フェノキシベンジルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、p-クミル-フェノキシエチレングリコールクリレート(CMP-1E)、及びこれらの混合物が好ましい。フェノキシベンジルメタクリレートとしては、3-フェノキシベンジルメタクリレートが好ましい。
【0035】
芳香族化合物系の二官能性重合性単量体としては、例えば、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。
これらの中でも、2,2-ビス〔4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数:2.6、通称「D-2.6E」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0036】
脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体としては、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジ(メタ)アクリレート、N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド、N-メタクリロイルオキシプロピルアミドなどが挙げられる。
【0037】
重合性基を有するウレタンオリゴマーとしては、例えば、重量平均分子量が1,000~80,000であるウレタンアクリレートなどが挙げられる。重量平均分子量(Mw)とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で求めたポリスチレン換算の重量平均分子量を意味し、公知の方法にて測定することができる。
重合性基を有するウレタンオリゴマーとしては、ウレタン結合に加えて、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群から選ばれる構造(ポリマー骨格)を有する(メタ)アクリレートであることが好ましく、分子内に、分岐構造を有する炭素数4~18の脂肪族ジオール単位に由来する構造を有するポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種のポリオール部分、並びにウレタン結合を有する(メタ)アクリレートであることがより好ましい。
前記重合性基を有するウレタンオリゴマーとしては、市販品を使用してもよい。具体的には根上工業株式会社製の「アートレジン」シリーズ(UN7600、UN7700)等の末端に重合性基を有するウレタンポリマー、株式会社クラレ製のポリイソプレン骨格、もしくはポリブタジエン骨格である「クラプレン」シリーズ(LIR-30、LIR-50、LIR-390、LIR-403、LIR-410、UC-102M、UC-203M、LIR-700、LBR-302、LBR-307、LBR-305、LBR-352、LBR-361、L-SBR-820、L-SBR-841)、株式会社クラレ製のポリオール(P-6010、P-5010、P-4010、P-3010、P-2010、P-1010、F-3010、F2010、F-1010、P-2011、P-1020、P-2020、P-530、P-2030、P-2050、C-2090)、日本曹達株式会社製の液状ポリブタジエン「NISSO-PB」(B-1000、B-2000、B-3000、BI-2000、BI-3000、G-1000、G-2000、G-3000、GI-1000、GI-2000、GI-3000、TEAI-1000、TE-2000、TE-4000、JP-100、JP-200)等が挙げられる。
【0038】
これらの中でも、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(通称「3G」)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(通称「DD」)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート、N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド(通称「MAEA」)、UN7600が好ましい。
【0039】
三官能性以上の重合性単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタンなどが挙げられる。これらの中でも、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレートが好ましい。
【0040】
上記の疎水性重合性単量体(A-2a)の中でも、機械的強度及びハンドリング性の観点で、芳香族化合物系の二官能性重合性単量体、及び脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体が好ましく用いられる。
芳香族化合物系の二官能性重合性単量体としては、Bis-GMA、D-2.6Eが好ましい。
脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体としては、グリセロールジ(メタ)アクリレート、3G、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、DD、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、UDMA、MAEAが好ましい。
【0041】
上記の疎水性重合性単量体(A-2a)の中でも、歯科用組成物として用いた場合の歯質に対する接着性が良好である観点から、Bis-GMA、D-2.6E、3G、UDMA、DD、MAEAがより好ましく、Bis-GMA、D-2.6E、3G、MAEAがさらに好ましい。
【0042】
疎水性重合性単量体(A-2a)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の歯科用組成物における疎水性重合性単量体(A-2a)の含有量は、重合性単量体(A)100質量部中、20~99質量部であることが好ましく、40~95質量部であることがより好ましく、60~95質量部であることがさらに好ましい。
疎水性重合性単量体(A-2a)の含有量が前記範囲内である場合は、歯科用組成物の歯質への濡れ性に優れ、所望の接着性が得られ、硬化物が所望の機械的強度を有する。
【0043】
・酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)
本発明の歯科用組成物としては、重合性単量体(A)が酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)(以下、単に「親水性重合性単量体(A-2b)」と称することがある)を含むことが好ましい。親水性重合性単量体(A-2b)は、歯科用組成物の歯質への濡れ性を向上させる。
【0044】
親水性重合性単量体(A-2b)とは、酸性基を有さずかつ25℃の水に対する溶解度が10質量%以上のものを意味し、該溶解度が30質量%以上のものが好ましく、25℃において任意の割合で水に溶解可能なものがより好ましい。
【0045】
親水性重合性単量体(A-2b)としては、酸性基を有さず重合性基を有するラジカル重合性単量体が好ましく、ラジカル重合が容易である観点から、重合性基は(メタ)アクリロイルオキシ基及び/又は(メタ)アクリルアミド基が好ましい。
親水性重合性単量体としては、水酸基、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、アミド基などの親水性基を有するものが好ましい。
【0046】
親水性重合性単量体(A-2b)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9以上のもの)などの親水性の単官能性(メタ)アクリレート系重合性単量体;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、4-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-トリヒドロキシメチル-N-メチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド及びN,N-ジエチルアクリルアミドなどの親水性の単官能性(メタ)アクリルアミド系重合性単量体などが挙げられる。
【0047】
これらの親水性重合性単量体(A-2b)の中でも、歯質に対する接着性の観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、親水性の単官能性(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド及びN,N-ジエチルアクリルアミドがより好ましい。親水性重合性単量体(A-2b)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本発明の歯科用組成物における親水性重合性単量体(A-2b)の含有量は、重合性単量体(A)100質量部中、0~50質量部であることが好ましく、0~40質量部であることがより好ましく、0~30質量部であることがさらに好ましい。親水性重合性単量体(A-2b)の含有量は重合性単量体(A)100質量部中、0質量部であってもよい。
親水性重合性単量体(A-2b)の含有量が前記範囲内である場合には接着性の向上効果が得られ、硬化物が所望の機械的強度を有する。
【0049】
酸性基を有しない重合性単量体(A-2)の含有量は、重合性単量体(A)100質量部中、50~99質量部であることが好ましく、60~97質量部であることがより好ましく、70~95質量部であることがさらに好ましい。
【0050】
<重合開始剤(B)>
重合開始剤(B)は水溶性光重合開始剤(B-1)、非水溶性光重合開始剤(B-2)、及び化学重合開始剤(B-3)に分類される。
重合開始剤(B)としては、水溶性光重合開始剤(B-1)のみを用いてもよく、非水溶性光重合開始剤(B-2)のみを用いてもよく、化学重合開始剤(B-3)のみを用いてもよく、水溶性光重合開始剤(B-1)と非水溶性光重合開始剤(B-2)と化学重合開始剤(B-3)とを併用してもよい。
【0051】
・水溶性光重合開始剤(B-1)
水溶性光重合開始剤(B-1)は、親水的な歯面界面での重合硬化性が向上し、高い接着強さを実現できる。
水溶性光重合開始剤(B-1)は、25℃の水に対する溶解度が10g/L以上であり、15g/L以上であることが好ましく、20g/L以上であることがより好ましく、25g/L以上であることがさらに好ましい。
同溶解度が10g/L以上であることで、接着界面部において水溶性光重合開始剤(B-1)が歯質中の水に十分に溶解し、重合促進効果が発現しやすくなる。
【0052】
水溶性光重合開始剤(B-1)としては、例えば、水溶性アシルホスフィンオキシド類;水溶性チオキサントン類;1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンの水酸基へ(ポリ)エチレングリコール鎖を導入したもの、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの水酸基及び/又はフェニル基へ(ポリ)エチレングリコール鎖を導入したもの、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンのフェニル基へ-OCH2COO-Na+を導入したもの、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンの水酸基及び/又はフェニル基へ(ポリ)エチレングリコール鎖を導入したもの、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンのフェニル基へ-OCH2COO-Na+を導入したものなどのα-ヒドロキシアルキルアセトフェノン類;2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-[(4-モルホリノ)フェニル]-1-ブタノンなどのα-アミノアルキルフェノン類のアミノ基を四級アンモニウム塩化したものなどが挙げられる。
【0053】
前記水溶性チオキサントン類としては、例えば、2-ヒドロキシ-3-(9-オキソ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(1-メチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(1,3,4-トリメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライドなどが使用できる。
【0054】
前記水溶性アシルホスフィンオキシド類としては、下記一般式(1)又は(2)で表されるアシルホスフィンオキシド類が挙げられる。
【0055】
【0056】
【0057】
式中、A1、A2、A3、A4、A5、及びA6は互いに独立して、C1~C4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又はハロゲン原子であり、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、マグネシウムイオン、ピリジニウムイオン(ピリジン環が置換基を有していてもよい)、又はHN+A8A9A10(式中、A8、A9、及びA10は互いに独立して、有機基又は水素原子)で示されるアンモニウムイオンであり、nは1又は2であり、ZはC1~C4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基であり、A7は-CH(CH3)COO(C2H4O)pCH3で表され、pは1~1000の整数を表す。
【0058】
A1、A2、A3、A4、A5、及びA6のアルキル基としては、C1~C4の直鎖状又は分岐鎖状のものが挙げられる。アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、2-メチルプロピル基、tert-ブチル基などが挙げられる。
A1、A2、A3、A4、A5、及びA6のアルキル基としては、C1~C3の直鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
Zのアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基などが挙げられる。
Zのアルキレン基としては、C1~C3の直鎖状のアルキレン基が好ましく、メチレン基又はエチレン基がより好ましく、メチレン基がさらに好ましい。
【0059】
Mがピリジニウムイオンである場合のピリジン環の置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、カルボキシル基、C2~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基などが挙げられる。
Mとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、マグネシウムイオン、ピリジニウムイオン(ピリジン環が置換基を有していてもよい)、又はHN+A8A9A10(式中、記号は上記と同一意味を有する)で示されるアンモニウムイオンが好ましい。
アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンが挙げられる。
アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、ラジウムイオンが挙げられる。
A8、A9、及びA10の有機基としては、前記ピリジン環の置換基と同様のもの(ハロゲン原子を除く)が挙げられる。
【0060】
これらの中でも、A1、A2、A3、A4、A5、及びA6がすべてメチル基である化合物が組成物中での保存安定性や色調安定性の点から特に好ましい。
一方、Mn+の例としては、Li+、Na+、K+、Ca2+、Mg2+、各種のアミンから誘導されるアンモニウムイオンが挙げられる。前記アミンの例としては、アンモニア、トリメチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルアニリン、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルアミノメタクリレート、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸及びそのアルキルエステル、4-(N,N-ジエチルアミノ)安息香酸及びそのアルキルエステル、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジンなどが挙げられる。
A7としては、接着性の観点から、pは1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上がさらに好ましく、4以上が特に好ましく、1000以下が好ましく、100以下がより好ましく、75以下がさらに好ましく、50以下が特に好ましい。
【0061】
これらの水溶性アシルホスフィンオキシド類の中でも、一般式(1)で表され、Mn+がLi+である化合物、及び、一般式(2)で表され、A7で表される基に相当する部分が分子量950であるポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレートから合成された化合物が特に好ましい。
【0062】
このような構造を有する水溶性アシルホスフィンオキシド類は、公知方法に準じて合成することができ、一部は市販品としても入手可能である。例えば、特開昭57-197289号公報や国際公開第2014/095724号などに開示された方法により合成することができる。
水溶性光重合開始剤(B-1)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
水溶性光重合開始剤(B-1)は、歯科用組成物に溶解されていても組成物中に粉末で分散されていてもよい。
【0064】
水溶性光重合開始剤(B-1)を粉末で分散させる場合、その平均粒子径が過大であると沈降しやすくなるため、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。一方、平均粒子径が過小であると粉末の比表面積が過大になって組成物への分散可能な量が減少するため、0.01μm以上が好ましい。すなわち、水溶性光重合開始剤(B-1)の平均粒子径は0.01~500μmの範囲が好ましく、0.01~100μmの範囲がより好ましく、0.01~50μmの範囲がさらに好ましい。
【0065】
各々の水溶性光重合開始剤(B-1)の粉末の平均粒子径は、粒子200個以上の電子顕微鏡写真をもとに画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View;マウンテック社製)を用いて画像解析を行った後に体積平均粒子径として算出することができる。
【0066】
水溶性光重合開始剤(B-1)を粉末で分散する場合の開始剤の形状については、球状、針状、板状、破砕状など、種々の形状が挙げられるが、特に制限されない。水溶性光重合開始剤(B-1)は、粉砕法、凍結乾燥法、再沈殿法などの従来公知の方法で作製することができ、得られる粉末の平均粒子径の観点で、凍結乾燥法及び再沈殿法が好ましく、凍結乾燥法がより好ましい。
【0067】
水溶性光重合開始剤(B-1)の含有量は、得られる歯科用組成物の硬化性などの観点からは、本発明の歯科用組成物における重合性単量体(A)100質量部に対して、0.01~20質量部であることが好ましく、歯質への接着性の点から、0.05~10質量部であることがより好ましく、0.1~5質量部であることがさらに好ましい。
水溶性光重合開始剤(B-1)の含有量が0.01質量部以上である場合、接着界面での重合が十分に進行し、所望の接着性が得られる。一方、水溶性光重合開始剤(B-1)の含有量が20質量部以下である場合、十分な接着性が得られる。
【0068】
・非水溶性光重合開始剤(B-2)
本発明の歯科用組成物は、硬化性の観点から、水溶性光重合開始剤(B-1)以外に25℃の水への溶解度が10g/L未満である非水溶性光重合開始剤(B-2)(以下、非水溶性光重合開始剤(B-2)と称することがある。)を含むことが好ましい。
本発明に用いられる非水溶性光重合開始剤(B-2)は、公知の光重合開始剤を使用することができる。
非水溶性光重合開始剤(B-2)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0069】
非水溶性光重合開始剤(B-2)としては、水溶性光重合開始剤(B-1)以外の(ビス)アシルホスフィンオキシド類、チオキサントン類、ケタール類、α-ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物、α-アミノケトン系化合物などが挙げられる。
【0070】
前記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。
ビスアシルホスフィンオキシド類としては、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0071】
前記チオキサントン類としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサンテン-9-オンなどが挙げられる。
【0072】
前記ケタール類としては、例えば、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどが挙げられる。
【0073】
前記α-ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ベンジル、dl-カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナントレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノンなどが挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、dl-カンファーキノンが特に好ましい。
【0074】
前記クマリン類としては、例えば、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-チエノイルクマリン、3-ベンゾイル-5,7-ジメトキシクマリン、3-ベンゾイル-7-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-6-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-8-メトキシクマリン、3-ベンゾイルクマリン、7-メトキシ-3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3,5-カルボニルビス(7-メトキシクマリン)、3-ベンゾイル-6-ブロモクマリン、3,3’-カルボニルビスクマリン、3-ベンゾイル-7-ジメチルアミノクマリン、3-ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3-カルボキシクマリン、3-カルボキシ-7-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-6-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-8-メトキシクマリン、3-アセチルベンゾ[f]クマリン、3-ベンゾイル-6-ニトロクマリン、3-ベンゾイル-7-ジエチルアミノクマリン、7-ジメチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-ジエチルアミノ)クマリン、7-メトキシ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-(4-ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3-(4-エトキシシンナモイル)-7-メトキシクマリン、3-(4-ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3-(4-ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3-[(3-ジメチルベンゾチアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3-[(1-メチルナフト[1,2-d]チアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3,3’-カルボニルビス(6-メトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-アセトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジメチルアミノクマリン)、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジブチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾイミダゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジオクチルアミノ)クマリン、3-アセチル-7-(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニル-7-ジエチルアミノクマリン-7’-ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10-[3-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1-オキソ-2-プロペニル]-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オン、10-(2-ベンゾチアゾリル)-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オンなどの特開平9-3109号公報、特開平10-245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
【0075】
上述のクマリン類の中でも、特に、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)及び3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)が好適である。
【0076】
前記アントラキノン類としては、例えば、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。
【0077】
前記ベンゾインアルキルエーテル化合物としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。
【0078】
前記α-アミノケトン系化合物としては、例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オンなどが挙げられる。
【0079】
これらの非水溶性光重合開始剤(B-2)の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-ジケトン類、及びクマリン類からなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す歯科用組成物が得られる。
【0080】
非水溶性光重合開始剤(B-2)の含有量は、得られる歯科用組成物の硬化性などの観点から、本発明の歯科用組成物における重合性単量体(A)100質量部に対して、0.01~10質量部であることが好ましく、0.05~7質量部であることがより好ましく、0.1~5質量部であることがさらに好ましい。
なお、非水溶性光重合開始剤(B-2)の含有量が10質量部以下である場合、十分な接着性が得られる。
【0081】
水溶性光重合開始剤(B-1)と非水溶性光重合開始剤(B-2)を併用する場合、本発明における水溶性光重合開始剤(B-1)と非水溶性光重合開始剤(B-2)の質量比〔(B-1):(B-2)〕は、好ましくは10:1~1:10であり、より好ましくは7:1~1:7であり、さらに好ましくは5:1~1:5であり、最も好ましくは3:1~1:3である。
水溶性光重合開始剤(B-1)が質量比10:1より多く含有されると、歯科用組成物自体の硬化性が低下し、高い接着強さを発現させることが困難になる場合がある。一方、非水溶性光重合開始剤(B-2)が質量比1:10より多く含有されると、歯科用組成物自体の硬化性は高められるものの接着界面部の重合促進が不十分になり、高い接着強さを発現させることが困難になる場合がある。
【0082】
・化学重合開始剤(B-3)
本発明の歯科用組成物は、化学重合開始剤(B-3)を含有することができ、有機過酸化物が好ましく用いられる。
上記の化学重合開始剤に使用される有機過酸化物は、公知のものを使用できる。
代表的な有機過酸化物としては、例えば、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、ペルオキシジカーボネートなどが挙げられる。これら有機過酸化物の具体例としては、国際公開第2008/087977号に記載のものが挙げられる。
化学重合開始剤(B-3)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0083】
<フィラー(C)>
本発明の歯科用組成物は、ハンドリング性を調整するために、また硬化物の機械的強度を高めるために、フィラー(C)を含む。
フィラー(C)としては、後述の被覆フィラー(C-1);無機フィラー、有機フィラー、及び有機-無機複合フィラー等の被覆フィラー(C-1)以外のフィラー(C-2)(以下、単に「フィラー(C-2)」とも称する。)が挙げられる。
フィラー(C)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。例えば、被覆フィラー(C-1)と、フィラー(C-2)とを併用してもよい。
【0084】
ある実施形態としては、重合性単量体(A)、重合開始剤(B)、及びフィラー(C)を含み、
前記フィラー(C)が、X線不透過性元素(x)を含むコア成分と、SiО2の被覆層とを有する被覆フィラー(C-1)及び被覆フィラー(C-1)以外のフィラー(C-2)を含み、かつ前記被覆フィラー(C-1)の耐酸性試験におけるX線不透過性元素(x)のイオンの溶出イオン量の総和が500ppm未満である、歯科用組成物が挙げられる。
【0085】
・X線不透過性元素(x)を含むコア成分とSiО2の被覆層とを有する被覆フィラー(C-1)
本発明の歯科用組成物に用いるフィラー(C)は、X線不透過性元素(x)を含むコア成分と、SiО2の被覆層とを有する被覆フィラー(C-1)(以下、単に「被覆フィラー(C-1)」と称することがある)を含む。
被覆フィラー(C-1)における被覆の状態は、本発明の効果が得られるものであればよく、例えば、部分的に被覆されたものであってもよい。
【0086】
歯科用組成物が被覆フィラー(C-1)を含有することにより、過酷な条件(例えば、60℃4週間等)においても保存安定性に優れ、かつその硬化物が十分な機械的強度を有する歯科用組成物を得ることができる。
なお、本明細書において、「X線不透過性」とは、従来の方法で標準的な歯科用X線装置を使用して、天然歯質と歯科用組成物の硬化物とを区別するための能力として、X線が透過できない物質の性質を表す。
X線写真においてX線不透過な領域は白く見える。
歯科用組成物中にX線不透過性フィラーが含まれる場合、歯科用組成物はX線不透過性を示すことから、X線を使用して歯の状態を診断する場合において有用である。
被覆フィラー(C-1)の耐酸性試験におけるX線不透過性元素(x)のイオンの溶出イオン量の総和は500ppm未満である。
前記イオンの溶出量は、475ppm以下が好ましく、400ppm以下がより好ましく、200ppm以下がさらに好ましく、150ppm以下が特に好ましい。
耐酸性試験における前記イオンの溶出量の測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。
【0087】
本発明の歯科用組成物が含有する被覆フィラー(C-1)は、組成物にX線不透過性を付与するために、X線不透過性元素(x)をコア成分として含む。
本発明の被覆フィラー(C-1)の成分として含まれるX線不透過性元素(x)としては、元素自体のX線不透過性の観点からより重い元素が好ましく、周期表第3周期以降の原子番号11番ナトリウムよりも原子番号が大きい元素がより好ましく、周期表第4周期以降の原子番号19番カリウムよりも原子番号が大きい元素がさらに好ましい。
【0088】
具体的には、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、塩素、アルゴン、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、臭素、クリプトン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、錫、アンチモン、テルル、ヨウ素、キセノン、セシウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、タリウム、鉛、ビスマスなどが挙げられ、X線不透過性元素の密度の観点から、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、錫、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、タリウム、鉛、ビスマスが好ましく、歯科材料に用いる観点から、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、鉄、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、銀、インジウム、錫、セシウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、白金、金、鉛、ビスマスがより好ましく、アルミニウム、ケイ素、カルシウム、チタン、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、バリウム、ランタン、イッテルビウムがさらに好ましく、アルミニウム、ストロンチウム、ジルコニウム、バリウム、ランタン、及びイッテルビウムが特に好ましい。
X線不透過性元素(x)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0089】
また、被覆前のフィラーの成分に含まれるX線不透過性元素(x)を含むコア成分を構成する化合物としては、本発明の効果である耐酸性の向上の観点から金属含有化合物が好ましい。
さらに、前記金属含有化合物としては、溶解性の観点から、金属塩を含む化合物であることが好ましく、耐酸性の観点から、金属酸化物を含む化合物がより好ましく、塩基性金属酸化物を含む化合物がさらに好ましい。
【0090】
被覆フィラー(C-1)の形状としては、不定形フィラー及び球状フィラーが挙げられる。歯科用組成物の硬化物の機械的強度を向上させる観点からは、不定形フィラーを用いることが好ましい。
ここで球状フィラーとは、電子顕微鏡でフィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子が丸みをおびており、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で割った平均均斉度が0.6以上であるフィラーである。
【0091】
被覆フィラー(C-1)の平均粒子径は、0.001μm以上20μm以下であることが好ましく、歯科用組成物中のフィラーの充填率を高めやすい点、フィラーの表面積が大きくなり、より高い機械的強度を有する硬化物が得られやすい点から、0.01μm以上10μm未満であることがより好ましく、0.05μm以上5μm未満がさらに好ましく、0.08μm以上1μm未満が特に好ましい。
ある好適な実施形態としては、重合性単量体(A)、重合開始剤(B)、及びフィラー(C)を含み、
前記フィラー(C)が、X線不透過性元素(x)を含むコア成分と、SiО2の被覆層とを有する被覆フィラー(C-1)と、被覆フィラー(C-1)以外のフィラー(C-2)とを含み、
前記被覆フィラー(C-1)の耐酸性試験におけるX線不透過性元素(x)のイオンの溶出イオン量が500ppm未満であり、
被覆フィラー(C-1)の平均粒子径が、0.01μm以上10μm未満である、
歯科用組成物が挙げられる。
前記実施形態において、フィラー(C-2)の平均粒子径は、0.001μm以上10μm未満であってもよく、0.001μm以上1μm未満であってもよい。
また、前記実施形態において、1μm以上20μm以下であってもよい。
【0092】
なお、本明細書において、フィラーの平均粒子径は、レーザー回折散乱法、粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、0.1μm以上の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が、0.1μm未満の超微粒子の粒子径測定には電子顕微鏡観察が簡便である。0.1μmはレーザー回折散乱法により測定した値である。
【0093】
レーザー回折散乱法は、具体的に例えば、レーザー回折式粒子径分布測定装置(SALD-2300:株式会社島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて体積基準で測定することができる。
【0094】
電子顕微鏡観察は、具体的に例えば、粒子の電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、S-4000型)写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View(株式会社マウンテック製))を用いて測定することにより求めることができる。このとき、粒子径は、粒子の最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均一次粒子径が算出される。
【0095】
被覆フィラー(C-1)の屈折率は、1.45~1.60であることが好ましい。また、歯科用組成物の硬化物の透明性を高め、審美性を向上させる点から、1.48~1.56であることがより好ましく、1.51~1.54であることがさらに好ましい。
なお、屈折率は、被覆フィラー(C-1)に含まれる金属含有化合物の種類の選択と成分比率の調整によって調節することができる。
【0096】
被覆フィラー(C-1)は、1種単独で、あるいは金属含有化合物の種類が異なるもの2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0097】
被覆フィラー(C-1)は、X線不透過性元素(x)を含むコア成分を、SiО2によって被覆することで得られる。
被覆されるコア成分のフィラーとしては、無機フィラーが好ましい。
被覆フィラー(C-1)を得るための被覆方法としては、SiО2で被覆できる方法であればよく、SiО2で部分的に被覆する方法であってもよいが、イオンの溶出量を抑えるためにはコア成分が隙間なく被覆できる方法が好ましい。
【0098】
コア成分を隙間なく被覆する方法としては、弱アルカリ性水溶液中で反応を行う方法が挙げられる。例えば、緩衝液中にコア成分を懸濁させた溶液に、水酸化ナトリウム等を加えてpH9~10程度になるように調節して反応させる方法がある。
【0099】
また、被覆フィラー(C-1)はX線不透過性元素(x)のイオンの溶出量の観点から、SiO2の被覆層が緻密である方が好ましい。
SiO2の被覆層をより緻密にさせる方法としては、具体的には、被覆工程の前に圧縮処理を行う方法;同じ被覆工程を2回繰り返す方法;被覆工程後に焼成工程を加える方法;被覆溶液を超音波分散した状態で被覆工程を行う方法などが好ましく、被覆工程を2回繰り返す方法、及び被覆工程後に焼成工程を加える方法がより好ましい。
被覆工程としては、前記被覆方法を行った後に、必要に応じて、乾燥熱処理を行ってもよい。乾燥熱処理は、乾燥できる限り特に限定されず、例えば、350℃未満、300℃未満であってもよい。乾燥熱処理の時間も、乾燥できる限り特に限定されず、例えば、10分~2時間程度であってもよい。
【0100】
被覆工程の前に圧縮処理を行う方法としては、例えば、公知の粉砕機(例えば、振動ボールミル等)等を用いて、密度を高める方法が挙げられる。
【0101】
被覆工程に用いるSiO2の原料としては、特に限定されないが、得られた歯科用組成物の長期保管後の硬化物の機械的強度により優れる等の点から、ケイ酸ナトリウムが好ましい。以下、被覆工程において、特に限定されないが、ケイ酸ナトリウム水溶液を用いた場合を好適な例として説明する。
同じ被覆工程を2回繰り返す方法としては、例えば、所定の濃度のケイ酸ナトリウム水溶液を用いた被覆工程を2回繰り返す方法が挙げられる。
前記ケイ酸ナトリウム水溶液の濃度は、1回目と2回目で必要に応じて変更されていてもよい。
【0102】
被覆工程後の後処理として焼成工程における焼成温度は、X線不透過性元素(x)のイオンの溶出量をより抑制できる観点から、350~850℃であることが好ましく、400~800℃であることがより好ましく、450~750℃であることがさらに好ましい。
被覆工程後の後処理として焼成工程における焼成時間は、X線不透過性元素(x)のイオンの溶出量をより抑制できる観点から、0.5~7時間であることが好ましく、1~6時間であることがより好ましく、1.5~5時間であることがさらに好ましい。
焼成時間が7時間を超えると、X線不透過性元素(x)のイオンの溶出量が増加し、十分な保存安定性が得られないため、好ましくない。
【0103】
被覆フィラー(C-1)における被覆層の平均膜厚は、本発明の効果が得られる範囲であればよく、例えば、0.1nm以上100nm未満であってもよく、1nm以上95nm以下であってもよく、2nm以上90nm以下であってもよい。
【0104】
被覆溶液を超音波分散した状態で被覆工程を行う方法としては、所定の超音波分散を用いて、被覆工程を行う方法が挙げられる。
超音波分散は、市販の装置を使用でき、目的の被覆層が得られる限り、振動数等は限定されず、必要に応じて変更できる。
【0105】
ある実施形態では、被覆工程の前に酸処理工程を行って被覆フィラー(C-1)を製造してもよい。酸処理は、圧縮処理の前に行ってもよく、圧縮処理の後に行ってもよい。
前記酸としては、有機酸、無機酸が挙げられる。
無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、ホスホン酸、リン酸などが挙げられる。
有機酸としては、ギ酸、酢酸、シュウ酸などのカルボン酸、有機ホスホン酸、有機スルホン酸、炭酸、フェノールなどが挙げられる。
酸処理に用いる酸は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0106】
被覆フィラー(C-1)に用いられる被覆前の原料フィラーとしては、X線不透過性元素(x)を含むコア成分を構成する化合物であれば、特に限定されず、使用できる。
X線不透過性元素(x)は、上記したとおりである。
ある実施形態においては、被覆前の原料フィラーとしては、X線不透過性、接着性に優れることから、バリウム酸化物、ストロンチウム酸化物及びこれらを含むガラス、イッテルビウム化合物が好ましく、バリウム酸化物を含むガラス、イッテルビウム化合物(例えば、イッテルビウムのハロゲン化物)がより好ましい。
バリウム酸化物を含むバリウムガラス(例えば、バリウムシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス等)も好適に使用できる。
原料フィラーとしては、具体的には、例えば、バリウムガラス(GM27884、8235、以上SCHOTT社製;E-2000、E-3000、以上ESSTECH社製)、ストロンチウム・ボロシリケートガラス(E-4000、ESSTECH社製)、シリカ-ジルコニア等の複合酸化物、二酸化ジルコニウム、フッ化イッテルビウム(SG-YBF100WSCMP10、Sukgyung AT社製)等が挙げられる。
機械的強度等の観点から、バリウムガラス、ストロンチウム・ボロシリケートガラス、シリカ-ジルコニア等の複合酸化物が好ましく、バリウムガラス、ストロンチウム・ボロシリケートガラスがより好ましい。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0107】
被覆フィラー(C-1)は、フィラーの表面に、シランカップリング剤(a)に由来する構造を有するものが、歯科用組成物の硬化物の機械的強度及び接着性の観点から、好ましい。
さらに、歯科用組成物中で遊離して当該組成物の性状又は物性に影響を与えるおそれが低い点から、重合性基を有するシランカップリング剤(a)に由来する構造がフィラーの表面と化学的に結合しているものが好ましい。
【0108】
・重合性基を有するシランカップリング剤(a)
被覆フィラー(C-1)は、重合性基を有するシランカップリング剤(a)(以下、単に「シランカップリング剤(a)」と称することがある)で表面処理されていることが好ましい。
シランカップリング剤(a)としては、特に制限はなく公知のシランカップリング剤を用いることができるが、一般式(3)で示されるシランカップリング剤が好ましい。
Y-SiRpX(3-p) (3)
(式中、Yは重合性基、又は重合性基を有する1価の有機基を表し、Rはアルキル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれる基を表し、Xは水酸基又は加水分解性基を表し、pは0、1又は2の整数を表す。ただし、複数存在するRは互いに同一であっても異なっていてもよく、複数存在するXは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0109】
Yが有する上記重合性基の種類に特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、メルカプト基、(メタ)アリル基、エポキシ基などが挙げられる。これらの中でも、機械的強度等の観点から、(メタ)アクリロイル基が好ましく、メタクリロイル基がより好ましい。上記重合性基は1価の有機基と直接結合していてもよいし、酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子を含む2価の基を介して結合していてもよい。
上記(メタ)アクリロイル基は、(メタ)アクリロイルオキシ基を形成していてもよいし、(メタ)アクリルアミド基を形成していてもよい。
【0110】
Yが有する上記重合性基の数に特に制限はないが、1~4が好ましく、1又は2がより好ましく、1がさらに好ましい。Yが複数の重合性基を有する場合、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0111】
Yは上記重合性基のみから形成されていてもよいし、上記官能基と有機基とが直接又は酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子を含む2価の基を介するなどして間接的に結合したものであってもよい。当該有機基に特に制限はなく、例えば、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~18のアリール基、炭素数7~26のアラルキル基などが挙げられる。これらの中でも歯科用修復材料と歯質との両方に対する接着性がより向上することなどから、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~12のアルキル基がより好ましく、炭素数3~11のアルキル基がさらに好ましい。炭素数3~11のアルキル基としては、例えば、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-オクチル基、n-ウンデシル基などが挙げられ、n-プロピル基、n-ペンチル基、n-オクチル基、n-ウンデシル基が好ましく、n-プロピル基、n-オクチル基、n-ウンデシル基がより好ましい。
【0112】
Yの具体例としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシメチル基、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、3-(メタ)アクリルアミドプロピル基、ビニル基、(メタ)アリル基、3-グリシドキシプロピル基などが挙げられ、(メタ)アクリロイルオキシメチル基、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、3-(メタ)アクリロイルオキシオクチル基、3-(メタ)アクリロイルオキシウンデシル基が好ましく、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル基、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシル基がより好ましい。
【0113】
Rによって示されるアルキル基の種類に特に制限はなく、例えば、炭素数1~5のアルキル基などが挙げられ、より具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基などが挙げられる。
【0114】
Rによって示されるアリール基の種類に特に制限はなく、例えば、炭素数6~10のアリール基などが挙げられ、より具体的には、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0115】
Rによって示されるアラルキル基の種類に特に制限はなく、例えば、炭素数7~12のアラルキル基などが挙げられ、より具体的には、例えば、ベンジル基などが挙げられる。
【0116】
これらの中でも機械的強度等の観点から、Rはアルキル基であることが好ましく、炭素数1~5のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。
【0117】
Xによって示される加水分解性基は、加水分解によってそれが結合しているケイ素原子とともにシラノール基を形成することのできる基とすることができ、例えば、アルコキシ基、アシロキシ基、シロキシ基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0118】
上記アルコキシ基の種類に特に制限はなく、例えば、炭素数1~5のアルコキシ基などが挙げられ、より具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチロキシ基などが挙げられる。
【0119】
上記アシロキシ基の種類に特に制限はなく、例えば、炭素数1~5のアシロキシ基などが挙げられ、より具体的には、例えば、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、n-プロピオニロキシ基、イソプロピオニロキシ基、n-ブタノイロキシ基、n-ペンタノイロキシ基などが挙げられる。
【0120】
上記シロキシ基の種類に特に制限はなく、例えば、トリメチルシロキシ基などが挙げられる。
【0121】
上記ハロゲン原子の種類に特に制限はなく、例えば、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。
【0122】
これらの中でも、Xはアルコキシ基であることが好ましく、炭素数1~5のアルコキシ基であることがより好ましく、メトキシ基、エトキシ基であることがさらに好ましい。
【0123】
pは0、1又は2の整数を表し、歯科用組成物の硬化物の機械的強度の観点などから、pは0又は1であることが好ましい。なお、pが0又は1である場合において、複数存在するXは互いに同一であっても異なっていてもよく、pが2である場合において、複数存在するRは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0124】
シランカップリング剤(a)の具体例としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメトキシシラン、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルトリメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメトキシシラン、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルトリメトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルトリメトキシシラン、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジクロロメチルシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリクロロシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジメトキシメチルシラン、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルトリメトキシシラン、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデシルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジイソプロポキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメチルシロキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジヘキシロキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ-2-(2-ビニロキシエトキシ)エチルメチルジメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルメチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ-p-フェニルエチルメチルジメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルメチルジエトキシシラン、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルメチルジメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルメチルジメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルメチルジエトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルメチルジヘキシロキシシラン、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジクロロシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルメチルジクロロシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルエチルジクロロシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルモノメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルモノエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルモノイソプロポキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルモノトリメチルシロキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルモノヘキシロキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ-2-(2-ビニロキシエトキシ)エチルジメチルモノメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジメチルモノメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ-p-フェニルエチルジメチルモノメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジメチルモノエトキシシラン、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジメチルモノメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジメチルモノメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジメチルモノエトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジメチルモノヘキシロキシシラン、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジメチルモノメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジフェニルモノメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルモノクロロシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジメチルモノクロロシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジエチルモノクロロシランなどの(メタ)アクリロイルオキシ基含有シランカップリング剤;
ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルメチルジ(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルジメチルモノメトキシシラン、ビニルジメチルモノエトキシシラン、ビニルジメチルモノクロロシラン、ビニルジメチルモノアセトキシシラン、ビニルジメチルモノ(2-メトキシエトキシ)シランなどのビニル基含有シランカップリング剤;
3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメチルモノメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメチルモノエトキシシランなどのエポキシ基含有シランカップリング剤;
アリルメチルジエトキシシラン、アリルジメチルモノエトキシシランなどのアリル基含有シランカップリング剤などが挙げられる。
また、シランカップリング剤(a)はこれらが加水分解及び/又は縮合したものであってもよい。シランカップリング剤(a)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的強度等の観点から、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン及び、これらの加水分解物が好ましい。
【0125】
被覆フィラー(C-1)は、重合性基を有するシランカップリング剤(a)が被覆フィラー(C-1)表面の水酸基と反応(脱水縮合)することが好ましく、当該反応を行うことを「表面処理する」と表現する。また、表面処理を行う工程を、「表面処理工程」と表現する。これにより、表面処理されてなる被覆フィラー(C-1)が得られる。
【0126】
表面処理の方法としては、シランカップリング剤(a)を脱水重縮合反応によって被覆フィラー(C-1)の表面に結合させる方法であれば特に限定されない。
シランカップリング剤(a)による反応として、例えば、被覆フィラー(C-1)を混合槽で撹拌しつつ、シランカップリング剤(a)を含む表面処理剤(好適には、シランカップリング剤(a)のみ)を溶媒にて希釈した溶液を噴霧し、撹拌を続けながら槽内で一定時間加熱して乾燥する方法;被覆フィラー(C-1)及びシランカップリング剤(a)を含む表面処理剤(好適には、シランカップリング剤(a)のみ)を溶媒中で撹拌混合させた後、加熱して乾燥する方法等が挙げられる。
【0127】
前記溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;水;又はこれらの混合溶媒が挙げられる。
また、シランカップリング剤(a)による表面処理においては、酸性環境下での反応(加水分解反応と脱水縮合反応)が早く進む点から、前記溶媒としては、酸(例えば、酢酸等)を加えたもの(例えば、酢酸水溶液)を用いることが好ましい。
乾燥熱処理の温度は、例えば、30℃以上150℃未満であってもよく、必要に応じて、30℃以上90℃未満であってもよい。
【0128】
被覆フィラー(C-1)の表面処理後には、被覆フィラー(C-1)の表面に化学的に結合せず、物理吸着したシランカップリング剤(a)が存在する。
保存安定性等の観点から、物理吸着した成分を洗浄する工程を含む方が好ましい。
物理吸着したシランカップリング剤(a)を洗浄する方法としては、溶媒で物理吸着物を溶解させた後、中空糸膜、もしくはろ紙などを用いて溶媒を除去する方法が挙げられる。洗浄溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル;水;又はこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0129】
表面処理工程における被覆フィラー(C-1)に対するシランカップリング剤(a)による処理量は、表面処理前の被覆フィラー(C-1)100質量部に対して、0.5~40質量部が好ましく、1~20質量部がより好ましく、2~10質量部がさらに好ましい。0.5質量部より少ない場合は、被覆フィラー(C-1)の表面上に十分な重合性基を付与することができず、機械的強度が低下するおそれがあり、40質量部よりも多い場合は余剰のシランカップリング剤(a)により、硬化物の機械的強度が低下するおそれがある。
【0130】
なお、前記表面処理において、シランカップリング剤(a)の重合を抑制するため、重合禁止剤を加えてもよい。
重合禁止剤としては、3,5-ジブチル-4-ヒドロキシトルエン(BHT)、p-メトキシフェノール(メトキノン)等の公知のものを用いることができる。
【0131】
表面処理工程における表面処理に用いられる表面処理剤は、シランカップリング剤(a)のみを含むものが好ましい。
ある実施形態では、酸の不存在下において、シランカップリング剤(a)のみを含む表面処理剤による表面処理によって得られた被覆フィラー(C-1)が好ましい。
前記酸としては、酸処理工程として説明したものが挙げられる。
【0132】
本発明の効果を阻害しない範囲で、シランカップリング剤(a)以外の他の表面処理剤を併用してもよい。
前記他の表面処理剤としては、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン等のオルガノシラザン、環状シロキサン等が挙げられる。
【0133】
本発明の他のある実施形態としては、前記被覆フィラー(C-1)が重合性基を有するシランカップリング剤(a)、及びシランカップリング剤(a)以外の表面処理剤によって表面処理されてなる、被覆フィラー(C-1)が挙げられる。
【0134】
被覆フィラー(C-1)を得るための乾燥は、常法により行うことができる。例えば、加熱、減圧(真空)下に放置する等である。加熱装置、減圧装置は、公知のものを使用できる。
【0135】
本発明の歯科用組成物は、フィラー(C)として、被覆フィラー(C-1)のみを含むものであってもよい。
また、本発明の歯科用組成物は、2種以上の被覆フィラー(C-1)を含むものであってもよい。
【0136】
本発明の歯科用組成物において、被覆フィラー(C-1)の含有量は重合性単量体(A)100質量部に対して、50~2000質量部であることが好ましく、60~900質量部であることがより好ましく、70~750質量部であることがさらに好ましく、75~500質量部であることが特に好ましい。
また、被覆フィラー(C-1)の含有量は、本発明の歯科用組成物全体において、5~80質量%であることが好ましく、10~75質量%であることがより好ましく、15~70質量%であることがさらに好ましく、20~65質量%であることが特に好ましい。
【0137】
他の好適な実施形態としては、フィラー(C)が、被覆フィラー(C-1)と、被覆フィラー(C-1)以外のフィラー(C-2)を含むものであってもよい。
前記実施形態においては、被覆フィラー(C-1)とフィラー(C-2)の質量比は、100:1~0.01:1が好ましく、80:1~0.0125:1がより好ましく、50:1~0.02:1がさらに好ましい。
フィラー(C)の含有量は特に限定されず、後述の通り歯科用組成物の用途によって好ましい含有量は異なる。例えば、被覆フィラー(C-1)の含有量は、用途応じて、重合性単量体(A)100質量部に対して、1~100質量部程度としてもよい。
【0138】
本発明の歯科用組成物の製造方法は、重合性単量体(A)、重合開始剤(B)、及びフィラー(C)を含み、かつフィラー(C)が、X線不透過性元素(x)含むコア成分と、SiО2の被覆層とを有する被覆フィラー(C-1)を含む、歯科用組成物の製造方法であれば特に限定はなく、当業者に公知の方法(混合、混練等)により、容易に製造することができる。
本発明の歯科用組成物の製造方法としては、例えば、前記被覆フィラー(C-1)を得る工程を備え、前記工程が被覆前の原料フィラーをSiО2で被覆する工程、前記SiО2を用いた被覆工程後のフィラーを、重合性基を有するシランカップリング剤(a)によって表面処理する工程を含む、製造方法が挙げられる。
【0139】
被覆フィラー(C-1)以外のフィラー(C-2)について、説明する。
【0140】
被覆フィラー(C-1)以外のフィラー(C-2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
フィラー(C-2)としては、無機フィラー、有機フィラー、及び有機-無機複合フィラーを使用できる。
【0141】
有機フィラーの素材としては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体などが挙げられる。
有機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。
得られる歯科用組成物のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記有機フィラーの平均粒子径は、0.001~50μmであることが好ましく、0.001~10μmであることがより好ましい。
【0142】
無機フィラーの素材としては、各種ガラス類〔シリカを主成分とし、必要に応じ、重金属、ホウ素、アルミニウム等の酸化物を含有する。例えば、溶融シリカ、石英、ソーダライムシリカガラス、Eガラス、Cガラス、ボロシリケートガラス(パイレックス(登録商標)ガラス)等の一般的な組成のガラス粉末;バリウムガラス(GM27884、8235、SCHOTT社製、E-2000、E-3000、ESSTECH社製)、ストロンチウム・ボロシリケートガラス(E-4000、ESSTECH社製)、ランタンガラスセラミックス(GM31684、SCHOTT社製)、フルオロアルミノシリケートガラス(GM35429、G018-091、G018-117、SCHOTT社製)等の歯科用ガラス粉末〕、各種セラミック類、シリカ-チタニア、シリカ-ジルコニア等の複合酸化物、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウムが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明において、フィラー(C)に表面処理をする場合は、フィラーの平均粒子径は、表面処理前の平均粒子径を意味する。
【0143】
無機フィラーの形状としては、不定形フィラー及び球状フィラーが挙げられる。歯科用組成物の硬化物の機械的強度を向上させる観点からは、前記無機フィラーとして球状フィラーを用いることが好ましい。球状フィラーとは、被覆フィラー(C-1)で述べたとおりである。
無機フィラーの平均粒子径は0.05~50μmが好ましく、0.1~30μmがより好ましく、0.5μm~30μmがさらに好ましい。
平均粒子径が0.05μm未満の場合、歯科用組成物中のフィラーの充填率が低下し、機械的強度が低くなるおそれがある。一方、平均粒子径が50μmを超える場合、前記フィラーの表面積が低下し、高い機械的強度を有する硬化物が得られないおそれがある。
【0144】
本発明で用いてもよい有機-無機複合フィラーとは、上述の無機フィラーに重合性単量体を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。前記有機-無機複合フィラーとしては、例えば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などを用いることができる。
前記有機-無機複合フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。
得られる組成物のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記有機-無機複合フィラーの平均粒子径は、0.001~50μmであることが好ましく、0.001~10μmであることがより好ましい。
【0145】
本発明の歯科用組成物は、異なった材質、粒度分布、形態を持つ2種以上のフィラーを、混合又は組み合わせて用いることが好ましい。
2種以上のフィラーを組み合わせることにより、フィラーが密に充填されるとともに、フィラーと重合性単量体、もしくはフィラー同士の相互作用点が増える。また、フィラーの種類により、剪断力の有無によるペーストの流動性をコントロール可能となる。各粒子径のフィラーに異なる種類のフィラーが含まれていてもよい。
また、本発明の効果を損なわない範囲内で、意図せずに、フィラー以外の粒子が不純物として含まれていてもよい。
【0146】
前記フィラーは、歯科用組成物の流動性を調整するため、必要に応じて、シランカップリング剤などの公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。
かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、8-メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのシランカップリング剤が挙げられる。
【0147】
<重合促進剤(D)>
本発明の歯科用組成物は、重合開始剤(B)とともに重合促進剤(D)を用いることができる。本発明に用いられる重合促進剤(D)としては、例えば、アミン類、スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ尿素化合物などが挙げられる。
【0148】
重合促進剤(D)として用いられるアミン類は、脂肪族アミン及び芳香族アミンに分けられる。脂肪族アミンとしては、例えば、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミンなどの第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N-メチルエタノールアミンなどの第2級脂肪族アミン;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの第3級脂肪族アミンなどが挙げられる。これらの中でも、歯科用組成物の硬化性及び保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、その中でもN-メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンがより好ましく用いられる。
【0149】
また、芳香族アミンとしては、例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジイソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸メチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸プロピル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸ブチルなどが挙げられる。これらの中でも、歯科用組成物に優れた硬化性を付与できる観点から、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル及び4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0150】
スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、及びチオ尿素化合物の具体例としては、国際公開第2008/087977号に記載のものが挙げられる。
【0151】
上記の重合促進剤(D)は、1種単独を含有してもよく、2種以上を組み合わせて含有してもよい。
本発明に用いられる重合促進剤(D)の含有量は、得られる歯科用組成物の硬化性などの観点からは、歯科用組成物における重合性単量体(A)100質量部に対して、0.001~30質量部が好ましく、0.01~20質量部がより好ましく、0.1~5質量部がさらに好ましい。
重合促進剤(D)の含有量が0.001質量部以上である場合、重合が十分に進行し、所望の接着性が得られる。一方、重合促進剤(D)の含有量が30質量部以下である場合、十分な接着性が得られる。
【0152】
<フッ素イオン放出性物質>
本発明の歯科用組成物は、さらにフッ素イオン放出性物質を含有してもよい。フッ素イオン放出性物質を含有することによって、歯質に耐酸性を付与することができる歯科用組成物が得られる。
フッ素イオン放出性物質としては、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウムなどの金属フッ化物類などが挙げられる。
フッ素イオン放出性物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0153】
また、本発明の歯科用組成物には、性能を低下させない範囲内で、公知の添加剤を含有することができる。
添加剤としては、重合禁止剤、酸化防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、有機溶媒、増粘剤等が挙げられる。
添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0154】
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノンモノメチルエーテル、t-ブチルカテコール、2-t-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン等が挙げられる。
重合禁止剤の含有量は、歯科用組成物の重合性単量体(A)100質量部に対して0.001~1.0質量部が好ましい。
【0155】
<溶媒>
ある実施形態において、本発明の歯科用組成物は、溶媒を含んでもよい。溶媒としては、水、有機溶媒等が挙げられる。溶媒は水と有機溶媒との混合溶媒の形態で用いられることが好ましい。また、実施形態によっては水及び/又は前記有機溶媒の含有を必要としない場合もある。
【0156】
本発明の歯科用組成物が水を含有することで、歯質に対する酸性基を有する重合性単量体(A-1)の脱灰作用が促進される。水は、接着性に悪影響を及ぼす不純物を実質的に含有しないものを使用する必要があり、蒸留水又はイオン交換水が好ましい。水の含有量が過少な場合、脱灰作用促進効果が十分に得られないおそれがあり、過多な場合は接着性が低下することがある。溶媒のうち、水の含有量は、歯科用組成物の重合性単量体(A)100質量部に対して、1~500質量部が好ましく、5~300質量部がより好ましく、10~200質量部がさらに好ましい。
【0157】
本発明の歯科用組成物が有機溶媒を含有する場合、接着性、塗布性、歯質への浸透性をより向上させることができ、組成物の各成分の分離をより防止することができる。有機溶媒としては、通常、常圧下における沸点が150℃以下であり、かつ25℃における水に対する溶解度が5質量%以上であり、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは任意の割合で水に溶解可能な有機溶媒が使用される。
【0158】
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ヘキサン、トルエン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。これらの中でも、生体に対する安全性と、揮発性に基づく除去の容易さの双方を勘案した場合、有機溶媒が水溶性有機溶媒であることが好ましい。
有機溶媒としては、具体的には、エタノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、アセトン、及びテトラヒドロフランが好ましく、エタノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール及びテトラヒドロフランがより好ましい。
【0159】
ある実施形態における溶媒の合計含有量は、歯科用組成物の重合性単量体(A)100質量部に対して、1~2000質量部が好ましく、2~1000質量部がより好ましく、3~500質量部がさらに好ましい。
【0160】
本発明の歯科用組成物は、ある実施形態において、液(組成物)のpHが1.5~4.0の範囲になるように各成分を含有することが好ましく、pHが1.8~3.5の範囲になることがより好ましく、pHが2.0~3.0の範囲になることがさらに好ましい。組成物のpHが1.5未満の場合は、リン酸エッチング処理後に歯面に適用する、いわゆるトータルエッチング時には過脱灰が起こってしまい、接着が低下するおそれがある。一方、組成物のpHが4.0を越えた場合は、脱灰作用の低下によりセルフエッチング時の接着が低下するおそれがある。
【0161】
本発明の歯科用組成物は、例えば、自己接着性歯科用コンポジットレジン、歯科用セメント、歯科用ボンディング材、小窩裂溝填塞材、動揺歯固定材、歯科用支台築造材料、矯正用ボンディング材などの歯科治療に用いることができ、中でも、自己接着性歯科用コンポジットレジン、歯科用セメント、歯科用支台築造材料又は歯科用ボンディング材として好適に用いられる。
これらの用途においても、被覆フィラー(C-1)を含むことで、耐酸性に優れ、重合性単量体(特に酸性基を有する重合性単量体)と反応することを抑制することができ、配合される他の成分が前記被覆フィラー(C-1)を含むことによる効果を妨げる事情も存在しないため、長期の保管後おいても、保存安定性に優れる。
また、被覆フィラー(C-1)を含むことで、シランカップリング剤(a)に由来して機械的強度の確保に十分な重合性基を表面に有するため、前記した用途において、硬化物が十分な機械的強度を有する。これらの用途において、本発明の歯科用組成物の成分を1つまとめた1ボトル型又は1ペースト型でもよく、2つに分けた2ボトル型又は2ペースト型として用いてもよい。
以下、歯科用組成物を適用する場合の具体的な実施形態を示す。
【0162】
<自己接着性歯科用コンポジットレジン>
本発明の歯科用組成物の好適な実施形態の一つとして、自己接着性歯科用コンポジットレジンが挙げられる。
本発明の歯科用組成物を自己接着性歯科用コンポジットレジンとして用いる場合、重合性単量体(A)、重合開始剤(B)、被覆フィラー(C-1)、及び重合促進剤(D)を含み、重合性単量体(A)が酸性基を有する重合性単量体(A-1)、酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)、及び酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)を含むことが好ましい。
また、重合開始剤(B)は光重合開始剤を含むことが好ましく、重合開始剤(B)が水溶性光重合開始剤(B-1)と非水溶性光重合開始剤(B-2)を含むことがより好ましい。本発明の歯科用組成物を自己接着性歯科用コンポジットレジンとして用いる場合、前処理材を使用してもよいが、自己接着性を有するため前処理材は必須ではなく、前処理材を使用しなくてもよい。前処理材を含まず、本発明の歯科用組成物のみからなる自己接着性歯科用コンポジットレジンとすることができる。
【0163】
自己接着性歯科用コンポジットレジンにおける各成分の含有量は、歯科用組成物における重合性単量体(A)100質量部中、酸性基を有する重合性単量体(A-1)1~50質量部、酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)20~99質量部、酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)0~50質量部を含むことが好ましく、酸性基を有する重合性単量体(A-1)1~40質量部、酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)40~99質量部、酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)0~40質量部を含むことがより好ましく、酸性基を有する重合性単量体(A-1)1~30質量部、酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)60~99質量部、酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)0~30質量部を含むことがさらに好ましい。
また、重合性単量体(A)100質量部に対して、重合開始剤(B)0.001~30質量部、被覆フィラー(C-1)50~2000質量部及び重合促進剤(D)0.001~20質量部を含むことが好ましく、重合開始剤(B)0.05~10質量部、被覆フィラー(C-1)100~1000質量部、及び重合促進剤(D)0.05~10質量部を含むことがより好ましい。自己接着性歯科用コンポジットレジンとして用いる歯科用組成物は親水性重合性単量体(A-2b)を含まなくてもよい。
【0164】
<歯科用セメント>
本発明の歯科用組成物の他の好適な実施形態の一つとして、歯科用セメントが挙げられる。歯科用セメントとしては、レジンセメント、グラスアイオノマーセメント、レジン強化型グラスアイオノマーセメントなどが好適なものとして例示される。
なお、歯科用セメントを使用する際は、セルフエッチングプライマーなどを前処理材として先に使用してもよい。セルフエッチングプライマーなどの前処理材は、公知のものを使用できる。
本発明の歯科用組成物を歯科用セメントとして用いる場合、重合性単量体(A)、重合開始剤(B)、被覆フィラー(C-1)及び重合促進剤(D)を含み、重合性単量体(A)が酸性基を有する重合性単量体(A-1)、酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)、酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)を含むことが好ましい。
また、重合開始剤(B)は化学重合開始剤を含むことが好ましく、化学重合開始剤と光重合開始剤とを併用することがより好ましい。
光重合開始剤は水溶性光重合開始剤(B-1)と非水溶性光重合開始剤(B-2)を併用することが好ましい。
【0165】
歯科用セメントにおける各成分の含有量は、歯科用組成物における重合性単量体(A)100質量部中、酸性基を有する重合性単量体(A-1)0.1~50質量部、酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)50~99質量部、酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)0~50質量部を含むことが好ましく、酸性基を有する重合性単量体(A-1)0.5~40質量部、酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)60~99質量部、酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)0~40質量部を含むことがより好ましく、酸性基を有する重合性単量体(A-1)1~30質量部、酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)70~99質量部、酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)0~30質量部を含むことがさらに好ましい。
また、重合性単量体(A)100質量部に対して、重合開始剤(B)0.001~30質量部、被覆フィラー(C-1)50~2000質量部、及び重合促進剤(D)0.001~20質量部を含むことが好ましく、重合開始剤(B)0.05~10質量部、被覆フィラー(C-1)100~1500質量部、及び重合促進剤(D)0.05~10質量部を含むことがより好ましい。親水性重合性単量体(A-2b)は含まなくてもよく、前処理材を用いるタイプの場合、酸性基を有する重合性単量体(A-1)は含まなくてもよい。
【0166】
<歯科用ボンディング材>
本発明の歯科用組成物の好適な実施形態の一つとして、歯科用ボンディング材が挙げられる。該歯科用ボンディング材は、脱灰工程、浸透工程、及び硬化工程を併せて一段階で行うことが可能なものである。
歯科用ボンディング材としては、A液及びB液に分けられた2液を使用直前に混和して用いる2ボトル型、1液をそのまま使用することのできる1ボトル型が挙げられる。中でも、1ボトル型の方がより工程が簡素化されるため、使用上のメリットは大きい。
歯科用ボンディング材は、セルフエッチングプライマーなどを前処理材として用いてもよい。セルフエッチングプライマーなどの前処理材は、公知のものを使用できる。
本歯科用ボンディング材に用いる歯科用組成物としては、重合性単量体(A)、重合開始剤(B)、被覆フィラー(C-1)及び重合促進剤(D)を含み、重合性単量体(A)が酸性基を有する重合性単量体(A-1)、酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)、酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)、及び溶媒を含むことが好ましい。また、重合開始剤(B)は光重合開始剤を含むことが好ましく、重合開始剤(B)が水溶性光重合開始剤(B-1)と非水溶性光重合開始剤(B-2)を含むことがより好ましい。
【0167】
歯科用ボンディング材における各成分の含有量は、歯科用組成物における重合性単量体(A)100質量部中、酸性基を有する重合性単量体(A-1)1~90質量部、酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)40~96質量部、酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)3~50質量部を含むことが好ましく、酸性基を有する重合性単量体(A-1)1~40質量部、酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)50~90質量部、酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)10~40質量部を含むことがより好ましく、酸性基を有する重合性単量体(A-1)5~30質量部、酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)60~80質量部、酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)15~35質量部を含むことがさらに好ましい。
また、重合性単量体(A)100質量部に対して、水溶性光重合開始剤(B-1)0.001~30質量部、非水溶性光重合開始剤(B-2)0.001~30質量部、重合促進剤(D)0.001~20質量部、被覆フィラー(C-1)1~100質量部、及び溶媒1~2000質量部を含むことが好ましく、水溶性光重合開始剤(B-1)0.05~10質量部、非水溶性光重合開始剤(B-2)0.05~10質量部、重合促進剤(D)0.05~10質量部、被覆フィラー(C-1)3~75質量部、及び溶媒2~1000質量部を含むことがより好ましい。
【0168】
<歯科用支台築造材料>
本発明の歯科用組成物の他の好適な実施形態の一つとして、歯科用支台築造材料が挙げられる。歯科用支台築造材料としては、レジンセメントが好適なものとして例示される。歯科用支台築造材料は、セルフエッチングプライマーなどを前処理材として用いてもよい。セルフエッチングプライマーなどの前処理材は、公知のものを使用できる。
本発明の歯科用組成物を歯科用支台築造材料として用いる場合、重合性単量体(A)、重合開始剤(B)、被覆フィラー(C-1)及び重合促進剤(D)を含み、重合性単量体(A)が酸性基を有する重合性単量体(A-1)、酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)、酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)を含むことが好ましい。
また、重合開始剤(B)は化学重合開始剤を含むことが好ましく、化学重合開始剤と光重合開始剤とを併用することがより好ましい。光重合開始剤は水溶性光重合開始剤(B-1)と非水溶性光重合開始剤(B-2)を併用することが好ましい。
【0169】
歯科用支台築造材料における各成分の含有量は、歯科用組成物における重合性単量体(A)100質量部中、酸性基を有する重合性単量体(A-1)1~50質量部、酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)50~99質量部、酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)0~50質量部を含むことが好ましく、酸性基を有する重合性単量体(A-1)1~40質量部、酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)60~99質量部、酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)0~40質量部を含むことがより好ましく、酸性基を有する重合性単量体(A-1)1~30質量部、酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)70~99質量部、酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)0~30質量部を含むことがさらに好ましい。
また、重合性単量体(A)100質量部に対して、重合開始剤(B)0.001~30質量部、被覆フィラー(C-1)50~2000質量部、及び重合促進剤(D)0.001~20質量部を含むことが好ましく、重合開始剤(B)0.05~10質量部、被覆フィラー(C-1)100~1500質量部、及び重合促進剤(D)0.05~10質量部、を含むことがより好ましい。親水性重合性単量体(A-2b)は含まなくてもよい。
【0170】
上記した自己接着性歯科用コンポジットレジン、歯科用セメント、歯科用支台築造材料、及び歯科用ボンディング材のいずれの好適な実施形態においても、上述の明細書中の説明に基づいて、各成分の含有量を適宜変更でき、任意の成分について、追加、削除等の変更をすることができる。
【0171】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた実施形態を含む。
【実施例0172】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。なお、例中の部は、特記しない限り質量部である。
【0173】
次に、実施例及び比較例の歯科用組成物の成分を略号とともに以下に記す。
【0174】
[重合性単量体(A)]
[酸性基を有する重合性単量体(A-1)]
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
【0175】
[酸性基を有しない重合性単量体(A-2)]
Bis-GMA:2,2-ビス〔4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル〕プロパン
MAEA:N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド
POB-MA:3-フェノキシベンジルメタクリレート
THF-MA:テトラヒドロフルフリルメタクリレート
UN7600:ウレタンアクリレート(根上工業株式会社製、重量平均分子量(Mw):11,500)
【0176】
[重合開始剤(B)]
CQ:dl-カンファーキノン
【0177】
[被覆フィラー(C-1)]
〔製造例C-1a:フィラーC-1-1の製造〕
・被覆工程
ケイ酸ナトリウム水溶液(Na2О/SiО2≒0.3~0.4)をフィラー懸濁液(8235 UF0.7(SCHOTT社製、BaO:SiO2:B2O3:Al2O3=30:50:10:10、平均粒子径:700nm)、KCl/H3BO3/NaOH水溶液、室温、pH9-10)に添加した。その後、固液分離、乾燥熱処理を行った。
・シランカップリング剤(a)による表面処理工程
前記被覆処理を行ったフィラー100g、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン10g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行い、フィラーC-1-1を得た。
【0178】
〔製造例C-1b:フィラーC-1-2の製造〕
・圧縮処理工程
無機フィラー(GM27884、SCHOTT社製、BaO:SiO2:B2O3:Al2O3=30:50:10:10、平均粒子径:180nm)を振動ボールミルにて24時間処理し、圧縮処理されたフィラーを作製した。
・被覆工程
前記工程で得られたフィラーとケイ酸ナトリウム水溶液(Na2О/SiО2≒2)とを用いて、被覆工程を製造例C-1aと同様に行った。
・焼成工程
前記被覆処理を行ったフィラーを電気炉にて750℃で3時間焼成した。
・シランカップリング剤(a)による表面処理工程
製造例C-1aと同様に行った。
【0179】
フィラーC-1-3:表面処理シリカコート-フッ化イッテルビウム
表面処理シリカコート-フッ化イッテルビウム(SG-YBF100WSCMP10、1次粒子の平均粒子径:110nm、2次粒子の平均粒子径:1.2μm、SiО2の被覆層あり、シランカップリング剤による表面処理あり、Sukgyung AT社製)
【0180】
[被覆フィラー(C-1)以外のフィラー(C-2)]
〔製造例C-2a:フィラーC-2-1の製造〕
AEROSIL(登録商標)130(エボニック ジャパン株式会社製、SiO2、平均粒子径:16nm)100g、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン10g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行った。
【0181】
〔製造例C-2b:フィラーC-2-2の製造〕
・被覆工程
エタノール1255mL、イオン交換水6.8mL、28%アンモニア水9.6mLからなる溶液中へ、バリウムガラス(GM27884NF180、SCHOTT社製、平均粒子径0.18μm)20gを分散させた。
この溶液を撹拌しながら、オルトケイ酸テトラエチル6.3gをエタノール628mLに溶解させた溶液をさらに添加し、8時間撹拌し続けた後、約2,280×gで10分間遠心分離を行い、上清を除去した後にメタノール150mLを添加し、3分間超音波処理を行い、手でよく振とうし、同様に遠心分離を行った。この操作を2回行った。
メタノールを除去して水でよく洗浄した。その後、質量変化がなくなるまで真空ポンプを用いて減圧乾燥した。
・焼成工程
300℃の乾燥機で8時間焼成した。
・シランカップリング剤(a)による表面処理工程
焼成フィラーをエタノールに分散し、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと水を加えて、室温で2時間撹拌した後、溶媒を減圧留去し、さらに90℃で3時間乾燥することによって表面処理して、フィラーC-2-2を得た。
【0182】
フィラーC-2-3
バリウムガラス(「8235 UF0.7」、SCHOTT社製、BaO:SiO2:B2O3:Al2O3=30:50:10:10、平均粒子径:700nm)
フィラーC-2-4
フッ化イッテルビウム(富士フィルム和光純薬株式会社製、平均粒子径:2μm)
【0183】
〔製造例C-2c:フィラーC-2-5の製造〕
・酸処理工程
5%塩酸水溶液にバリウムガラス(「8235 UF0.7」、SCHOTT社製、BaO:SiO2:B2O3:Al2O3=30:50:10:10、平均粒子径:700nm)を加え、室温下で30分撹拌した。次いで、減圧濾過を行い、得られたフィラーを水に加えて30分間撹拌した。前記動作を水溶液のpHが5.5以上になるまで繰り返した。その後、真空乾燥によってフィラーを乾燥させた。
・シランカップリング剤(a)による表面処理工程
製造例C-1aと同様に行った。
【0184】
[重合促進剤(D)]
DABE:4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル
【0185】
[重合禁止剤]
BHT:3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン
【0186】
実施例1~3及び比較例1~4(歯科用組成物の調製)
表1~3に示す原料を常温(23℃)暗所で混合、及び混練してペースト状の歯科用組成物(歯科用コンポジットレジン)を調製し、以下の試験例1、2の方法に従って特性を調べた。結果を表3に示す。
表3において、同一の組成を有する、製造直後の歯科用組成物と、製造直後から60℃1ヶ月保管後の歯科用組成物について、製造直後の歯科用組成物を用いて得られた結果を「初期」と表し、製造直後から60℃1ヶ月保管後の歯科用組成物を用いて得られた結果を「60℃1ヶ月後」と表す。
また、表1に記載のフィラーに関し、試験例3の方法に従って特性を調べた。
【0187】
試験例1 曲げ強さ
ISO 4049:2019に準拠して曲げ試験により曲げ強さを評価した。
具体的には以下のとおりである。
同一の組成を有する製造直後の歯科用組成物と、製造直後から60℃1ヶ月保管後の歯科用組成物について、作製したペースト(歯科用組成物)をSUS製の金型(縦2mm×横25mm×厚さ2mm)に充填し、ペーストの上下(2mm×25mmの面)をスライドガラスで圧接した。
次いで、歯科用可視光照射器「ペンキュアー2000」(株式会社モリタ製)で、スライドガラス越しに10秒間ずつ片面5箇所でペーストの裏表に光照射してペーストを硬化させた。
得られた硬化物について、万能試験機(オートグラフAG-I 100kN、株式会社島津製作所製)を用いて、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minで曲げ試験を実施し、3点曲げ強さを測定し(n=5)、平均値を算出した。
【0188】
試験例2 牛歯質に対する引張り接着強さ
牛下顎前歯の唇面を流水下にて#80のシリコンカーバイド紙(日本研紙株式会社製)で研磨して、象牙質の平坦面を露出させた被接着サンプルを得た。得られた被接着サンプルを流水下にて#1000のシリコンカーバイド紙(日本研紙株式会社製)でさらに研磨した。研磨終了後、表面の水をエアブローすることで乾燥した。乾燥後の平滑面に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着し、接着面積を規定した。
前記丸穴内に、調製した実施例及び比較例の歯科用組成物のペーストを充填し、離型フィルム(ポリエステル)で被覆した。次いで、その離型フィルムの上にスライドガラスを載置して押しつけることで、前記歯科用組成物の塗布面を平滑にした。
続いて、前記離型フィルムを介して、前記歯科用組成物に対して歯科重合用可視光線照射器(商品名:ペンキュアー2000、モリタ社製)を用いて10秒間光照射を行い、前記歯科用組成物を硬化させて硬化物を得た。
得られた歯科用コンポジットレジンの硬化物の表面に対して、市販の歯科用レジンセメント(商品名:パナビア(登録商標)21、クラレノリタケデンタル株式会社製)を用いてステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)を接着し、接着試験供試サンプルとした。接着後、当該サンプルを30分間室温で静置した。接着試験供試サンプルは計5個作製し、蒸留水に浸漬した状態で37℃に保持した恒温器内に24時間静置した。
前記接着試験供試サンプルの引張り接着強さを、万能試験機(株式会社島津製作所製)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定し、平均値を引張り接着強さとした。
【0189】
試験例3 耐酸性試験
表1に記載の試料の各フィラーについて、フィラー0.5gを4%酢酸水溶液10gに添加し、5分間超音波分散(ブランソン卓上超音波洗浄器 Bransonic(登録商標)M2800-J、110W、ヤマト科学株式会社製)を行い、6時間室温で静置した。
次いで、フィラーを除去するために、遠心分離機(20,000rpm、30分、himac CR21GII、エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ株式会社製)にてフィラーを沈降させ、時間をあけず速やかに上澄み液を回収した。
不純物を除去するために上澄み液をメンブレンフィルター(孔径:0.45μm)にかけた後、ICP発光分光分析装置(RFパワー:1150W、補助ガス流量:0.5L/min、ネブライザーガス流量:0.7L/min、分析ポンプ流量:50rpm、プラズマビュー:アキシャル、低波長範囲:15sec、高波長範囲:10sec、サーモフィッシャーサイエンティフィック iCAP6500Duo、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)にて元素分析を実施し(n=3)、各X線不透過性元素の溶出量を合計することで溶出イオン量を算出し、その3回分の平均値を算出した(単位:質量ppm)。結果を表1に示す。
本耐酸性試験において検出されるX線不透過性元素イオンの溶出イオン量が少ないほど、酸性成分とフィラーとの相互作用が阻害されていると考えられることから、フィラーの表面がSiO2でより緻密に覆われていることが示唆される。
【0190】
【0191】
【0192】
【0193】
表3の結果より、実施例1~3の歯科用組成物は、その硬化物の曲げ強さが初期、及び60℃1ヶ月保管後ともに85MPa以上であり、機械的強度に優れていた。
さらに、実施例1~3の歯科用組成物は、初期、及び60℃1ヶ月保管後ともに、牛歯象牙質に対するせん断接着強さが3.8MPa以上と保存安定性にも優れていることが分かる。
【0194】
一方、比較例1、2においては、初期の曲げ強さが低いことから保管後の性能に関わらず歯科材料としては不適である。
歯科材料製品としては、製造直後から使用されるまでの期間が短いことも多く考えられるため、「初期」の曲げ強さも重要である。
60℃1ヶ月保管後の曲げ強さに関して、比較例1においては初期よりも高いことから、SiО2の被覆層を有していないフィラーが酸性基を有する重合性単量体により表面処理されていることが示唆される。
これに併せて、比較例2において60℃1ヶ月保管後に歯科用組成物が固化していたことから、SiО2の被覆層を有していないフィラーにおいては酸性基を有する重合性単量体と組成物中で反応してその硬化物の物性が不安定になることが示唆される。
【0195】
また、比較例3、4においては曲げ強度においては60℃1ヶ月保管後も良好な物性を示したが、牛歯象牙質に対するせん断接着強さにおいては極端に物性が低下することが明らかとなった。
さらに耐酸性試験において、実施例1~3で使用したフィラーは耐酸性が400ppm未満と優れているのに対し、比較例1、3で使用したフィラーは800ppm以上とX線不透過性元素(x)のイオン溶出量が多く確認された。
特に比較例3で使用したフィラーは、SiО2の被覆層を有していたが、イオンの溶出量を抑えることができておらず、SiО2による被覆が十分にできていなかったものと考えられる。
比較例2で使用したフィラーは被覆していない状態で高い耐酸性を示すが、前記の結果の通り、歯科用組成物の保存安定性は低下した。
比較例4で使用したフィラーは耐酸性が200ppm未満と優れていたが、長期保管後の牛歯象牙質に対するせん断接着強さにおいては極端に物性が低下していた。フィラーの表面を酸で洗浄することにより、イオンの溶出量を抑えることはできたものの、表面に存在するX線不透過性元素(x)を含むコア成分の被覆ができていなかったものと考えられる。
本発明の被覆フィラー(C-1)は、表面がSiO2でより緻密に覆われていると考えられる。そのため、酸性基を有する重合性単量体とフィラーとの相互作用が阻害されていることで、保存安定性に優れる歯科用組成物が得られたものと考えられる。
本発明に係る歯科用組成物は、歯科治療の分野において、自己接着性歯科用コンポジットレジン、歯科用セメント、歯科用ボンディング材、歯科用支台築造材料等として好適に用いられる。