(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128821
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】アクティブノイズコントロールシステム及びアクティブノイズコントロール方法
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20240913BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20240913BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
G10K11/178 140
H04R17/00
G10K11/16 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038057
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100202201
【弁理士】
【氏名又は名称】兒島 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】大戸 康平
(72)【発明者】
【氏名】梶川 嘉延
(72)【発明者】
【氏名】辻 一晟
【テーマコード(参考)】
5D004
5D061
【Fターム(参考)】
5D004DD01
5D061CC20
5D061FF02
(57)【要約】
【課題】騒音源の左右方向の位置に対するロバスト性を有するANCを実現することに適した技術を提供する。
【解決手段】
左右方向D2に、第1の壁80A及び第2の壁80Bが対向している。第1の壁80A及び第2の壁80Bの間に、空間86が位置する。空間86から遠ざかる第1音波を、第1スピーカ10Aの第1放射面15Aが放射する。空間86から遠ざかる第2音波を、第2スピーカ10Bの第2放射面15Bが放射する。第1放射面15Aの少なくとも一部と、第2放射面15Bの少なくとも一部とは、左右方向D2に関して互いに異なる位置にある。第1放射面15Aにおける第1音波と第2放射面15Bにおける第2音波との差が、空間86の内部から空間86の外部に出ていく音に応じて変化する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の壁と、
前記第1の壁に左右方向に対向する第2の壁と、
前記第1の壁及び前記第2の壁の間に位置する空間と、
前記空間から遠ざかる第1音波を放射する第1放射面を有する第1スピーカと、
前記空間から遠ざかる第2音波を放射する第2放射面を有する第2スピーカと、
を備え、
前記第1放射面の少なくとも一部と、前記第2放射面の少なくとも一部とは、前記左右方向に関して互いに異なる位置にあり、
前記第1放射面における前記第1音波と前記第2放射面における前記第2音波との差が、前記空間の内部から前記空間の外部に出ていく音に応じて変化する、
アクティブノイズコントロールシステム。
【請求項2】
前記第1放射面における前記第1音波の位相を、第1位相と定義し、
前記第1放射面における前記第1音波の音圧を、第1音圧と定義し、
前記第2放射面における前記第2音波の位相を、第2位相と定義し、
前記第2放射面における前記第2音波の音圧を、第2音圧と定義したとき、
前記第1位相及び前記第2位相の差と、前記第1音圧及び前記第2音圧の差とが、前記空間の内部から前記空間の外部に出ていく音に応じて変化する、
請求項1に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項3】
前記第1スピーカを支持する第1支持体と、
前記第2スピーカを支持する第2支持体と、を備え、
前記左右方向に直交する方向であって、前記空間を通り且つ前記第1放射面及び前記第2放射面の間を通る基準軸が延びる方向を、前後方向と定義し、
前記左右方向及び前記前後方向に直交する方向を、上下方向と定義したとき、
上開口部及び下開口部からなる群より選択される少なくとも1つが設けられ、
前記上開口部は、前記第1支持体の上端部、前記第2支持体の上端部、前記第1の壁及び前記第2の壁により区画され、
前記下開口部は、前記第1支持体の下端部、前記第2支持体の下端部、前記第1の壁及び前記第2の壁により区画されている、
請求項1に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項4】
前記第1放射面及び前記第2放射面は、前記左右方向に関して前記第1の壁及び前記第2の壁の間に位置する、
請求項1に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項5】
第3の壁を備え、
前記左右方向に直交する方向であって、前記空間を通り且つ前記第1放射面及び前記第2放射面の間を通る基準軸が延びる方向を、前後方向と定義したとき、
前記前後方向に関し、前記空間は、前記第1スピーカ及び前記第2スピーカの組み合わせと、前記第3の壁と、の間に位置する、
請求項1に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項6】
前記左右方向に直交する方向であって、前記空間を通り且つ前記第1放射面及び前記第2放射面の間を通る基準軸が延びる方向を、前後方向と定義したとき、
前記アクティブノイズコントロールシステムは、角度つき状態を備え、
前記角度つき状態は、第1条件及び第2条件からなる群より選択される少なくとも1つが成立する状態であり、
前記第1条件は、前記第1放射面が、前記前後方向から前記基準軸側に逸れた方向に面するという条件であり、
前記第2条件は、前記第2放射面が、前記前後方向から前記基準軸側に逸れた方向に面するという条件である、
請求項1に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項7】
前記第1条件は、前記第1放射面が、前記前後方向から前記基準軸側に0°よりも大きく45°以下逸れた方向に面するという条件であり、
前記第2条件は、前記第2放射面が、前記前後方向から前記基準軸側に0°よりも大きく45°以下逸れた方向に面するという条件である、
請求項6に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項8】
前記空間の内部に位置する少なくとも1つの参照マイクロフォンと、
前記空間の外部に位置する少なくとも1つの誤差マイクロフォンと、
前記少なくとも1つの参照マイクロフォンと、前記少なくとも1つの誤差マイクロフォンと、を用いて前記第1音波及び前記第2音波を制御する制御装置と、を備える、
請求項1に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項9】
前記空間の外部に位置する第1誤差マイクロフォンと、
前記空間の外部に位置する第2誤差マイクロフォンと、
前記第1誤差マイクロフォンと、前記第2誤差マイクロフォンと、を用いて前記第1音波及び前記第2音波を制御する制御装置と、を備え、
前記第1誤差マイクロフォンの少なくとも一部と、前記第2誤差マイクロフォンの少なくとも一部とは、前記左右方向に関して互いに異なる位置にある、
請求項1に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項10】
前記第1放射面は、前記第2放射面に比べ、左側に位置し、
前記第1誤差マイクロフォンは、前記第2誤差マイクロフォンに比べ、左側に位置し、
前記制御装置は、
前記第1誤差マイクロフォンを用いて前記第1音波を制御し、
前記第2誤差マイクロフォンを用いて前記第2音波を制御する、
請求項9に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項11】
前記空間の外部に位置する第1誤差マイクロフォンと、
前記空間の外部に位置する第2誤差マイクロフォンと、
第1騒音制御フィルタ及び第2騒音制御フィルタを含む制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記第1誤差マイクロフォン及び前記第1騒音制御フィルタを用いて前記第1音波を制御し、
前記第2誤差マイクロフォン及び前記第2騒音制御フィルタを用いて前記第1音波を制御する、
請求項1に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項12】
前記第1スピーカ及び前記第2スピーカは、圧電スピーカである、
請求項1に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【請求項13】
左右方向に互いに対向する第1の壁及び第2の壁の間の空間から遠ざかる第1音波及び第2音波を形成することを含み、
前記形成は、第1領域における前記第1音波と第2領域における前記第2音波との差が、前記空間の内部から前記空間の外部に出ていく音に応じて変化するように行う、ここで、前記第1領域の少なくとも一部と、前記第2領域の少なくとも一部とは、前記左右方向に関して互いに異なる位置にある、
アクティブノイズコントロール方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクティブノイズコントロールシステム及びアクティブノイズコントロール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクティブノイズコントロール(ANC)が知られている。ANCでは、騒音が、逆位相の音で低減される。特許文献1及び特許文献2には、ANCの例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-190599号公報
【特許文献2】特開2022-047766号公報
【特許文献3】特開2016-122187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、左右方向に対向する壁の間の空間における騒音源からの音を空間の外部において低減するANCであって、騒音源の左右方向の位置に対するロバスト性を有するANCを実現することに適した技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
第1の壁と、
前記第1の壁に左右方向に対向する第2の壁と、
前記第1の壁及び前記第2の壁の間に位置する空間と、
前記空間から遠ざかる第1音波を放射する第1放射面を有する第1スピーカと、
前記空間から遠ざかる第2音波を放射する第2放射面を有する第2スピーカと、
を備え、
前記第1放射面の少なくとも一部と、前記第2放射面の少なくとも一部とは、前記左右方向に関して互いに異なる位置にあり、
前記第1放射面における前記第1音波と前記第2放射面における前記第2音波との差が、前記空間の内部から前記空間の外部に出ていく音に応じて変化する、
アクティブノイズコントロールシステムを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る技術は、騒音源の左右方向の位置に対するロバスト性を有するANCを実現することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】実施形態に係るANCシステムの斜視図である。
【
図1B】実施形態に係るANCシステムの上面図である。
【
図1C】実施形態に係るANCシステムの側面図である。
【
図2A】対称配置における騒音の伝搬の説明図である。
【
図2B】非対称配置における騒音の伝搬の説明図である。
【
図2C】上下方向に並ぶスピーカが発する音の説明図である。
【
図2D】左右方向に並ぶスピーカが発する音の説明図である。
【
図3A】第1支持体と第1スピーカの第1放射面との説明図である。
【
図3B】第2支持体と第2スピーカの第2放射面との説明図である。
【
図4A】第1支持体と第1スピーカの第1放射面との説明図である。
【
図4B】第2支持体と第2スピーカの第2放射面との説明図である。
【
図5A】圧電スピーカの厚さ方向に平行な断面における断面図である。
【
図5B】圧電スピーカを固定面とは反対側から観察したときの図である。
【
図6】別の構成例に係る圧電スピーカを示す図である。
【
図7B】非対称配置を説明するための上面図である。
【
図7C】対称配置及び非対称配置を説明するための側面図である。
【
図7D】実験例A~D、I、K及びLのスピーカの配置の説明図である。
【
図7E】実験例E、F及びJのスピーカの配置の説明図である。
【
図7F】実験例G及びHのスピーカの配置の説明図である。
【
図8A】フィルムスピーカ及び対称配置を採用した場合に第1誤差マイクロフォンで測定される音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図8B】フィルムスピーカ及び非対称配置を採用した場合に第1誤差マイクロフォンで測定される音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図8C】フィルムスピーカ及び対称配置を採用した場合に第2誤差マイクロフォンで測定される音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図8D】フィルムスピーカ及び非対称配置を採用した場合に第2誤差マイクロフォンで測定される音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図8E】フィルムスピーカを採用した場合に第1誤差マイクロフォンで測定される消音効果を示すグラフである。
【
図8F】フィルムスピーカを採用した場合に第2誤差マイクロフォンで測定される消音効果を示すグラフである。
【
図9A】ダイナミックスピーカ及び対称配置を採用した場合に第1誤差マイクロフォンで測定される音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図9B】ダイナミックスピーカ及び非対称配置を採用した場合に第1誤差マイクロフォンで測定される音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図9C】ダイナミックスピーカ及び対称配置を採用した場合に第2誤差マイクロフォンで測定される音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図9D】ダイナミックスピーカ及び非対称配置を採用した場合に第2誤差マイクロフォンで測定される音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図9E】ダイナミックスピーカを採用した場合に第1誤差マイクロフォンで測定される消音効果を示すグラフである。
【
図9F】ダイナミックスピーカを採用した場合に第2誤差マイクロフォンで測定される消音効果を示すグラフである。
【
図10A】実験例I及びJの測定領域を説明する上面図である。
【
図10B】実験例I及びJの測定領域を説明する側面図である。
【
図11A】第1誤差マイクロフォンで測定される消音効果の経時変化を示すグラフである。
【
図11B】第2誤差マイクロフォンで測定される消音効果の経時変化を示すグラフである。
【
図11C】第1誤差マイクロフォンで測定される音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図11D】第2誤差マイクロフォンで測定される音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図11E】スピーカの種類毎の消音効果を示すグラフである。
【
図12A】フィルムスピーカを採用した場合の測定領域における消音効果の分布を示すカラーマップである。
【
図12B】ダイナミックスピーカを採用した場合の測定領域における消音効果の分布を示すカラーマップである。
【
図13A】実験例K及びLの測定領域を説明する上面図である。
【
図13B】実験例K及びLの測定領域を説明する側面図である。
【
図14A】第1誤差マイクロフォンで測定される消音効果の経時変化を示すグラフである。
【
図14B】第2誤差マイクロフォンで測定される消音効果の経時変化を示すグラフである。
【
図14C】第1誤差マイクロフォンで測定される音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図14D】第2誤差マイクロフォンで測定される音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図14E】扉の角度毎の消音効果を示すグラフである。
【
図15A】角度なし状態における測定領域における消音効果の分布を示すカラーマップである。
【
図15B】角度つき状態における測定領域における消音効果の分布を示すカラーマップである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本発明者らの検討内容)
左右方向に対向する2つの壁の間に空間があり、空間の内部に位置する騒音源から空間の外部へと音が出ていく環境を考える。例えば、この環境は、個人ブース内に人間が存在する環境である。この例では、個人ブースが上記2つの壁を有し、個人ブース内の人間が騒音源に対応する。
【0009】
上記の環境において、アクティブノイズコントロール(ANC)により空間から遠ざかる消音用の音波を放射することによって、騒音源からの音を空間の外部において低減させることが可能である。ただし、騒音源の左右方向の位置に対するロバスト性を有するANCを実行することは、必ずしも容易ではない。騒音源からの音が空間の外部において実用的なレベルで低減されるのは、左右方向に関してある範囲(スイートスポット)内に騒音源が位置する場合に限られうる。ANCの構成によっては、スイートスポットが狭いという状況又はスイートスポットが実質的に存在しないという状況が生じうる。そこで、本発明者らは、広いスイートスポットを実現することに適したANCを検討した。
【0010】
以下、添付の図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明するが、以下は本発明の実施形態の例示に過ぎず、本発明を制限する趣旨ではない。以下では、「上」、「下」、「左」、「右」、「前」、「後」、「高さ」等の用語は、要素間の相互の配置を指定するために用いており、ANCの実行時におけるこれらの要素の姿勢を限定する意図ではない。また、以下では、同一又は類似する構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略することがある。
【0011】
[アクティブノイズコントロールシステム]
図1A~
図1Cに、アクティブノイズコントロール(ANC)システム500を示す。ANCシステム500は、ANCを実行する。ANCシステム500は、床85上に設けられている。ANCシステム500は、構造物80、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bを含む。構造物80は、その内部に空間86を区画している。ANCシステム500は、第1支持体90A及び第2支持体90Bを有していてもよい。
【0012】
構造物80は、第1の壁80A、第2の壁80B及び第3の壁80Cを含む。第1の壁80A及び第2の壁80Bは、第3の壁80Cを介して接続されている。第1支持体90Aは、第1の壁80Aに取り付けられている。第2支持体90Bは、第2の壁80Bに取り付けられている。第1支持体90A及び第2支持体90Bの間には、隙間93が存在する。第1支持体90Aは、第1スピーカ10Aを支持している。第2支持体90Bは、第2スピーカ10Bを支持している。第1支持体90A及び第2支持体90Bは、板状体である。板状体は、平板であってもよく、湾曲板であってもよい。隙間93は、あってもなくてもよい。
【0013】
第1スピーカ10Aは、第1支持体90Aの両主面のうち、空間86の外部側の主面に取り付けられている。第2スピーカ10Bは、第2支持体90Bの両主面のうち、空間86の外部側の主面に取り付けられている。第1スピーカ10Aは、第1放射面15Aを有する。第2スピーカ10Bは、第2放射面15Bを有する。第1放射面15A及び第2放射面15Bは、空間86から遠ざかる方向に面している。ここで、放射面が面する方向とは、放射面の面積が最も大きく見える方向を指す。
【0014】
図1A~
図1Cにおいて、上下方向D1、左右方向D2及び前後方向D3が示されている。上下方向D1、左右方向D2及び前後方向D3は、互いに直交している。前後方向D3は、基準軸Oが延びる方向である。基準軸Oは、空間86を通り、且つ、第1放射面15A及び第2放射面15Bの間を通っている。基準軸Oは、仮想の軸である。具体的に、基準軸Oは、第1放射面15Aとも第2放射面15Bとも交差しない。
【0015】
左右方向D2に関し、第1の壁80A及び第2の壁80Bは、互いに対向している。左右方向D2に関し、空間86は、第1の壁80A及び第2の壁80Bの間に位置する。左右方向D2に関し、第1放射面15A及び第2放射面15Bは、第1の壁80A及び第2の壁80Bの間に配置されている。
【0016】
前後方向D3に関し、空間86は、第1支持体90A及び第2支持体90Bの組み合わせと、第3の壁80Cと、の間に位置する。前後方向D3に関し、空間86は、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bの組み合わせと、第3の壁80Cと、の間に位置する。
【0017】
第1スピーカ10Aの種類は、特に限定されない。第1スピーカ10Aは、圧電スピーカであってもよく、ダイナミックスピーカであってもよい。圧電スピーカは、フィルム状のフィルムスピーカであってもよい。これらの点は、第2スピーカ10Bについても同様である。
図1A~
図1C及び
図3A~
図4Bでは、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bが圧電スピーカとして描かれている。
【0018】
図1Bに示すように、空間86の内部に、騒音源200が位置しうる。騒音源200からの騒音は、空間86の外部へ出ていく。
図1Bにおいて、騒音源200が左右方向D2に移動する様子が、ブロック矢印により示されている。
【0019】
一具体例では、構造物80、第1支持体90A及び第2支持体90Bを含むブースが構成されている。第1支持体90A及び第2支持体90Bは、扉である。ブース内の人間が、騒音源200である。ブースは、個人ブースでありうる。第1の壁80A、第2の壁80B及び第3の壁80Cがパーティション等の部品であり、それらの部品が組み立てられることにより、構造物80としてのブースが構成されていてもよい。
【0020】
ANCシステム500は、騒音源200からの騒音を、空間86の外部において低減可能である。具体的に、第1放射面15Aは、空間86から遠ざかる消音用の第1音波を放射する。第2放射面15Bは、空間86からから遠ざかる消音用の第2音波を放射する。
【0021】
第1音波及び第2音波は、騒音源200の位置が左右方向D2に関して広い範囲内で変化しても、騒音源200からの騒音を空間86の外部において低減しうる。以下、この点について、
図2Aから
図2Dを参照しながら説明する。なお、
図2A及び
図2Bでは、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bの図示が省略されている。
図2C及び
図2Dでは、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bがダイナミックスピーカとして描かれている。
【0022】
図2Aの例では、空間86における左右方向D2の中央に、騒音源200が配置されている。以下、この騒音源200の配置を、対称配置と称する。これに対し、
図2Bの例では、空間86における左右方向D2の中央からずれた位置に、騒音源200が配置されている。以下、この騒音源200の配置を、非対称配置と称する。
図2Bの例では、具体的には、空間86における左右方向D2の中央から左側にずれた位置に、騒音源200が配置されている。
【0023】
図2A及び
図2Bにおいて、符号200w0は、騒音源200が騒音源200近傍に形成する波面を示す。符号200w1は、騒音源200が第1支持体90A近傍に形成する波面を示す。符号200w2は、騒音源200が第2支持体90B近傍に形成する波面を示す。
【0024】
図2Aの例では、騒音源200からの波面が、左右方向D2に均等に、前後方向D3の前方へと伝搬していく。波面200w1と波面200w2とでは、位相及び振幅がほぼ同じである。これに対し、
図2Bの例では、波面200w1と波面200w2とでは、位相も振幅も異なる。
【0025】
騒音源200が左右方向D2に移動可能である場合、騒音源200は、対称配置及び非対称配置の両方を採りうる。騒音源200が対称配置を採る場合も非対称配置を採る場合も騒音源200が空間86の外部に形成する音を低減するには、対称配置の場合と非対称配置の場合とで、ANCシステム500が発する消音用の音波を変化させることが考えられる。具体的には、ANCシステム500によるANCにより、
・対称配置の場合には、第1支持体90A近傍において
図2Aの波面200w1とは逆位相且つ同等振幅の波面を形成し、
・対称配置の場合には、第2支持体90B近傍において
図2Aの波面200w2とは逆位相且つ同等振幅の波面を形成し、
・非対称配置の場合には、第1支持体90A近傍において
図2Bの波面200w1とは逆位相且つ同等振幅の波面を形成し、
・非対称配置の場合には、第2支持体90B近傍において
図2Bの波面200w2とは逆位相且つ同等振幅の波面を形成する
ことが考えられる。このようにすれば、対称配置の場合も非対称配置の場合も、空間86の外部において、騒音源200由来の音がANC由来の音によって打ち消され、静かになるためである。
【0026】
別の言い方をすると、騒音源200が左右方向D2に移動すると、騒音源200が第1支持体90A近傍に形成する音波と、騒音源200が第2支持体90B近傍に形成する音波との差が変化する。この変化が生じても上記のような打ち消し状態を維持して空間86の外部を静かに維持するためには、この変化に応じて、ANCが第1支持体90A近傍に形成する音波と、ANCが第2支持体90B近傍に形成する音波との差を変化させることが有効である。
【0027】
仮に、
図2Cに示すように、第1放射面15A及び第2放射面15Bが左右方向D2に関する第1の壁80A及び第2の壁80Bの中央において上下方向D1に並ぶように、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bが配置されているとする。このスピーカ配置では、ANCが上記のような打ち消し状態を維持することは難しい。なぜなら、ANCが第1支持体90A近傍に形成する音波と、ANCが第2支持体90B近傍に形成する音波との差を変化させることが難しいためである。
【0028】
これに対し、本実施形態では、
図1A~
図1C及び
図2Dに示すように、第1放射面15Aの少なくとも一部と、第2放射面15Bの少なくとも一部とは、左右方向D2に関して互いに異なる位置にある。空間86の内部からの音が空間86の外部において低減されるように、第1放射面15Aにおける第1音波と第2放射面15Bにおける第2音波との差が、空間86の内部から空間86の外部に出ていく音に応じて変化する。この構成は、騒音源200の左右方向D2の位置に対するロバスト性を有するANCを実現することに適している。具体的には、広いスイートスポットを実現することに適している。
【0029】
具体的には、本実施形態では、第1放射面15A及び第2放射面15Bの位置が左右方向D2に少なくとも部分的にずらされた状態で、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bを個別に制御する。このため、第1放射面15Aにおける第1音波及び第2放射面15Bにおける第2音波の差を調節できる。この調節を通じ、ANCにより形成される第1支持体90A近傍の音波と第2支持体90B近傍の音波との差を変化させることができる。これにより、上記のような打ち消し状態を維持できる。
【0030】
図示の例では、第1スピーカ10Aの少なくとも一部と、第2スピーカ10Bの少なくとも一部とは、左右方向D2に関して互いに異なる位置にある。具体的に第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bは、左右方向D2に並んでいる。また、第1放射面15A及び第2放射面15Bは、左右方向D2に並んでいる。
【0031】
ここで、第1放射面15Aにおける第1音波の位相を、第1位相と定義する。第1放射面15Aにおける第1音波の音圧を、第1音圧と定義する。第2放射面15Bにおける第2音波の位相を、第2位相と定義する。第2放射面15Bにおける第2音波の音圧を、第2音圧と定義する。本実施形態では、具体的には、空間86の内部からの音が空間86の外部において低減されるように、第1位相及び第2位相の差と、第1音圧及び第2音圧の差とが、空間86の内部から空間86の外部に出ていく音に応じて変化する。
【0032】
本実施形態では、アクティブノイズコントロール(ANC)方法が実現されるとも言える。このANC方法では、左右方向D2に互いに対向する第1の壁80A及び第2の壁80Bの間の空間86から遠ざかる第1音波及び第2音波を形成する。この形成は、第1領域における第1音波と第2領域における第2音波との差が、空間86の内部から空間86の外部に出ていく音に応じて変化し、該変化により空間86の内部からの音が空間86の外部において低減されるように、行われる。具体的には、上記形成は、第1位相及び第2位相の差と、第1音圧及び第2音圧の差とが、空間86の内部から空間86の外部に出ていく音に応じて変化し、これらの変化により空間86の内部からの音が空間86の外部において低減されるように、行われる。ここで、第1領域の少なくとも一部と、第2領域の少なくとも一部とは、左右方向D2に関して互いに異なる位置にある。第1領域は、第1放射面15Aに対応しうる。第2領域は、第2放射面15Bに対応しうる。
【0033】
図1A~
図1Cに示すように、ANCシステム500では、上開口部87及び下開口部88が設けられている。上開口部87は、第1支持体90Aの上端部90lA、第2支持体90Bの上端部90lB、第1の壁80A及び第2の壁80Bにより区画されている。下開口部88は、第1支持体90Aの下端部90mA、第2支持体90Bの下端部90mB、第1の壁80A及び第2の壁80Bにより区画されている。図示の例では、上開口部87は、第3の壁80Cによっても区画されている。下開口部88は、床85によっても区画されている。
【0034】
上記の構成では、上開口部87及び下開口部88からの回折音を低減するANCを、第1の壁80A及び第2の壁80Bによって左右方向D2からの音漏れを阻止しつつ(つまり、回折経路の数が少ない状態で)実行できる。このことは、ANCの精度を確保する観点から有利である。
【0035】
回折音を低減するANCは、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bが圧電スピーカである場合に効果的に行われうる。この点は、特許文献1及び特許文献2に記載されている通りである。
【0036】
一具体例では、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bは、圧電スピーカである。第1放射面15Aは、長手方向DlA(後述する
図3A等参照)に関する中央領域とその両側の領域(すなわち上側領域及び下側領域)を有する。第2放射面15Bは、長手方向DlB(後述する
図3B等参照)に関する中央領域とその両側の領域(すなわち上側領域及び下側領域)を有する。ANCシステム500は、
(1)第1放射面15Aの上側領域から、前後方向D3の前方且つ上下方向D1の下方に進行する音波を放射させ、
(2)第1放射面15Aの下側領域から、前後方向D3の前方且つ上下方向D1の上方に進行する音波を放射させ、
(3)第2放射面15Bの上側領域から、前後方向D3の前方且つ上下方向D1の下方に進行する音波を放射させ、
(4)第2放射面15Bの下側領域から、前後方向D3の前方且つ上下方向D1の上方に進行する音波を放射させることができる。
(1)、(2)、(3)及び(4)の音波の伝搬方向は、それぞれ、騒音源200由来の上端部90lA、下端部90mA、上端部90lB及び下端部90mBからの回折波の伝搬方向に近い。このことは、騒音源200由来のこれらの回折波を打ち消し、騒音源200由来の回折音を低減する観点から有利である。
【0037】
図示の例では、上開口部87は、前方開口部及び天井開口部を含む。前方開口部は、第1支持体90Aの上端部90lA、第2支持体90Bの上端部90lB、第1の壁80Aの前端部80fA及び第2の壁80Bの前端部80fBにより区画されている。前方開口部は、前後方向D3の前方に向かって開口する。構造物80が天板を含む変形例において、前方開口部は天板によっても区画されうる。天井開口部は、第1の壁80Aの上端部80lA及び第2の壁80Bの上端部80lBにより区画されている。具体的に、天井開口部は、第3の壁80Cの上端部80lCによっても区画されている。天井開口部は、上下方向D1の上方に向かって開口する。図示の例では、天井開口部の区画に、第1支持体90Aの上端部90lA及び第2支持体90Bの上端部90lBは寄与していない。ただし、天井開口部が、上端部90lA及び上端部90lBによっても区画されていることもありうる。
【0038】
図示の例では、下開口部88は、前方開口部を含む。前方開口部は、第1支持体90Aの下端部90mA、第2支持体90Bの下端部90mB、第1の壁80Aの前端部80fA及び第2の壁80Bの前端部80fBにより区画されている。具体的に、前方開口部は、床85によっても区画されている。前方開口部は、前後方向D3の前方に向かって開口する。下開口部88は、底開口部を含んでいてもよい。底開口部は、第1の壁80Aの下端部80mA及び第2の壁80Bの下端部80mBにより区画されうる。具体的に、底開口部は、第3の壁80Cの下端部80mCによっても区画されうる。底開口部は、上下方向D1の下方に向かって開口する。前方開口部の区画に、床85が寄与していなくてもよい。底開口部の区画に、第1支持体90Aの下端部90mA及び第2支持体90Bの下端部90mBが寄与していなくてもよく、底開口部が、下端部90mA及び下端部90mBによっても区画されていてもよい。
【0039】
上開口部87は、前方開口部及び天井開口部の両方を含んでいてもよく、一方のみを含んでいてもよい。下開口部88は、前方開口部及び底開口部の両方を含んでいてもよく、一方のみを含んでいてもよい。
【0040】
ANCシステム500において、上開口部87の前方開口部の面積は、下開口部88の前方開口部の面積よりも大きくてもよく、下開口部88の前方開口部の面積よりも小さくてもよく、下開口部88の前方開口部の面積と同じであってもよい。上開口部87及び下開口部88の一方のみが設けられていてもよい。
【0041】
図1Bに示すように、ANCシステム500は、角度つき状態を備えていてもよい。角度つき状態は、第1条件及び第2条件からなる群より選択される少なくとも1つが成立する状態である。第1条件は、第1放射面15Aが、前後方向D3から基準軸O側に逸れた方向に面するという条件である。第2条件は、第2放射面15Bが、前後方向D3から基準軸O側に逸れた方向に面するという条件である。
図1Bにおいて、第1角度θ1は、第1放射面15Aが面する方向の、前後方向D3から基準軸O側への逸れ角である。第2角度θ2は、第2放射面15Bが面する方向の、前後方向D3から基準軸O側への逸れ角である。角度つき状態において、第1角度θ1及び/又は第2角度θ2は、正の値をとる。第1角度θ1及び第2角度θ2は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0042】
上記の構成は、良好な消音特性を発揮する観点から有利である。具体的には、空間86内における騒音源200が発した音のうち周波数が高い成分は、第1の壁80A及び/又は第2の壁80Bで反射してから空間86外に出ていく傾向にある。このように出ていく反射波の伝搬方向は、前後方向D3から基準軸O側に逸れた方向でありうる。この点、上記の構成では、第1放射面15A及び/又は第2放射面15Bは、前後方向D3から基準軸O側に逸れた方向に面している。このため、該逸れた方向に第1音波及び/又は第2音波を伝搬させ易い。このため、空間86外に出ていく反射波の伝搬方向と、第1音波及び/又は第2音波の伝搬方向を揃え易い。よって、良好な消音特性が発揮されうる。
【0043】
上記の「ANCシステム500は、角度つき状態を備える」という表現について説明する。この表現は、ANCシステム500の状態が、常時角度つき状態であることを必須であることを意図したものではない。この表現は、第1角度θ1及び第2角度θ2が可変であり、ゼロという値も正の値もとりうるようにANCシステム500が構成されている場合を包含する。例えば、第1支持体90Aが扉であり、その扉の開き具合に応じて第1角度θ1が変化する。また例えば、第2支持体90Bが扉であり、その扉の開き具合に応じて第2角度θ2が変化する。
【0044】
具体的には、第1条件は、第1放射面15Aが、前後方向D3から基準軸O側に0°よりも大きく45°以下逸れた方向に面するという条件である。第2条件は、第2放射面15Bが、前後方向D3から基準軸O側に0°よりも大きく45°以下逸れた方向に面するという条件である。
【0045】
より具体的には、第1条件は、第1放射面15Aが、前後方向D3から基準軸O側に10°以上45°以下逸れた方向に面するという条件である。第2条件は、第2放射面15Bが、前後方向D3から基準軸O側に10°以上45°以下逸れた方向に面するという条件である。
【0046】
角度つき状態において、第1条件及び第2条件のうちの一方のみが成立していてもよいし、両方が成立していてもよい。また、ANCシステム500は、角度つき状態を備えていなくてもよい。
【0047】
ANCシステム500は、角度なし状態を備えていてもよい。角度なし状態は、第1条件及び第2条件のいずれも成立していない状態である。つまり、角度なし状態は、第1角度θ1及び第2角度θ2が0°である状態である。ANCシステム500は、角度つき状態及び角度なし状態の両方を備えていてもよい。
【0048】
一具体例では、第1支持体90Aは、図示しないアタッチメントを介して、上下方向D1を回転軸方向として回転自在に、第1の壁80Aに連結されている。第2支持体90Bは、図示しないアタッチメントを介して、上下方向D1を回転軸方向として回転自在に、第2の壁80Bに連結されている。この具体例によれば、角度つき状態及び角度なし状態の両方を備えたANCシステム500を実現できる。
【0049】
ANCシステム500は、第1角度θ1及び第2角度θ2を固定するロック機構を有していてもよい。ANCシステム500は、第1角度θ1及び第2角度2が適切な範囲から逸脱しないように第1角度θ1及び第2角度θ2の範囲を制限するストッパを有していてもよい。
【0050】
第1角度θ1及び/又は第2角度θ2が自動的に変更されてもよい。例えば、騒音源200の位置を撮像装置等のセンサにより取得し、取得した位置に基づいて第1角度θ1及び/又は第2角度θ2を自動的に変更する構成を採用可能である。
【0051】
図1Bに示すように、ANCシステム500は、少なくとも1つの参照マイクロフォンと、少なくとも1つの誤差マイクロフォンと、第1アンプリファイア111Aと、第2アンプリファイア111Bと、制御装置110と、を含んでいてもよい。少なくとも1つの参照マイクロフォンは、空間86の内部に位置する。少なくとも1つの誤差マイクロフォンは、空間86の外部に位置する。図示の例では、少なくとも1つの参照マイクロフォンは、複数の参照マイクロフォンであり、第1参照マイクロフォン130A及び第2参照マイクロフォン130Bを含む。少なくとも1つの誤差マイクロフォンは、複数の誤差マイクロフォンであり、第1誤差マイクロフォン140A及び第2誤差マイクロフォン140Bを含む。制御装置110は、第1騒音制御フィルタ121A及び第2騒音制御フィルタ121Bを含む。制御装置110により、ANCシステム500のANCが実現される。なお、
図1A及び
図1Cでは、第1アンプリファイア111A、第2アンプリファイア111B及び制御装置110の図示を省略している。
図1Aでは、第1参照マイクロフォン130A、第2参照マイクロフォン130B、第1誤差マイクロフォン140A及び第2誤差マイクロフォン140Bの図示を省略している。
【0052】
制御装置110は、少なくとも1つの参照マイクロフォンと、少なくとも1つの誤差マイクロフォンと、を用いて、第1音波及び第2音波を制御する。このような制御系は、空間86の内部からの音が空間86の外部において低減されるように、第1放射面15Aにおける第1音波と第2放射面15Bにおける第2音波との差が、空間86の内部から空間86の外部に出ていく音に応じて変化するという構成を実現することに適している。
【0053】
制御装置110は、第1誤差マイクロフォン140Aと、第2誤差マイクロフォン140Bと、を用いて第1音波及び第2音波を制御する。第1誤差マイクロフォン140Aの少なくとも一部と、第2誤差マイクロフォン140Bの少なくとも一部とは、左右方向D2に関して互いに異なる位置にある。この構成は、以下の理由で、騒音源200の左右方向D2の位置に対するロバスト性を有するANCを実現し、広いスイートスポットを実現することに適している。
【0054】
すなわち、空間86内における騒音源200の位置が左右方向D2に変化すると、空間86外における音圧分布が左右方向D2について変化する。一方、上記の構成では、第1誤差マイクロフォン140A及び第2誤差マイクロフォン140Bの位置が左右方向D2について少なくとも部分的にずれているため、空間86外における左右方向D2についての音圧分布の変化が、第1誤差マイクロフォン140Aの検出信号及び第2誤差マイクロフォン140Bの検出信号の差として反映される。このことは、騒音源200の左右方向D2の位置に対するロバスト性を有するANCを実現し、広いスイートスポットを実現する観点から有利である。
【0055】
左右方向D2に関し、第1放射面15Aは相対的に左側に位置し、第2放射面15Bは相対的に右側に位置する。左右方向D2に関し、第1誤差マイクロフォン140Aは相対的に左側に位置し、第2誤差マイクロフォン140Bは相対的に右側に位置する。制御装置110は、第1誤差マイクロフォン140Aを用いて第1音波を制御する。制御装置110は、第2誤差マイクロフォン140Bを用いて第2音波を制御する。この構成によれば、相対的に左側の領域において、第1誤差マイクロフォン140Aの検出結果を、第1放射面15Aからの第1音波に良好に反映させることができる。相対的に右側の領域において、第2誤差マイクロフォン140Bの検出結果を、第2放射面15Bからの第2音波に良好に反映させることができる。このため、第1誤差マイクロフォン140Aの検出結果が第2音波に強く反映されたり第2誤差マイクロフォン140Bの検出結果が第1音波に強く反映されたりするクロストークが生じ難い。このことは、ANCの精度を確保する観点から有利である。
【0056】
制御装置110は、第1誤差マイクロフォン140A及び第1騒音制御フィルタ121Aを用いて第1音波を制御する。制御装置110は、第2誤差マイクロフォン140B及び第2騒音制御フィルタ121Bを用いて第1音波を制御する。このような制御系によれば、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bを個別に制御し易い。このことは、空間86の内部からの音が空間86の外部において低減されるように、第1放射面15Aにおける第1音波と第2放射面15Bにおける第2音波との差が、空間86の内部から空間86の外部に出ていく音に応じて変化するという構成を実現することに貢献する。
【0057】
制御装置110は、第1アンプリファイア111Aを用いて、第1音波を制御する。具体的には、制御装置110からの第1制御信号が、第1アンプリファイア111Aで増幅される。増幅された第1制御信号が第1スピーカ10Aに供給される。これにより、制御された第1音波が形成される。また、制御装置110は、第2アンプリファイア111Bを用いて、第2音波を制御する。具体的には、制御装置110からの第2制御信号が、第2アンプリファイア111Bで増幅される。増幅された第2制御信号が第2スピーカ10Bに供給される。これにより、制御された第2音波が形成される。
【0058】
以下、本実施形態に係るANCシステム500について、さらに説明する。
【0059】
空間86の上下方向D1の寸法は、例えば40cm以上300cm以下であり、50cm以上250cm以下であってもよい。空間86の左右方向D2の寸法は、例えば20cm以上500cm以下であり、30cm以上400cm以下であってもよい。空間86の前後方向D3の寸法は、例えば30cm以上500cm以下であり、40cm以上400cm以下であってもよい。
【0060】
上記の空間86の寸法について説明する。空間86を包囲する最小の直方体であって、上下方向D1に延びる第1辺と、左右方向D2に延びる第2辺と、前後方向D3に延びる第3辺と、を有する直方体を考える。空間86の上下方向D1の寸法は、第1辺の長さである。空間86の左右方向D2の寸法は、第2辺の長さである。空間86の前後方向D3の寸法は、第3辺の長さである。
【0061】
図3Aに示すように、第1支持体90Aは、第1縦方向DvA、第1横方向DhA及び第1厚さ方向DtAを有する。第1縦方向DvA、第1横方向DhA及び第1厚さ方向DtAは、互いに直交している。第1支持体90Aは、第1縦方向DvAの一方側及び他方側に、それぞれ、上端部90lA及び下端部90mAを有する。第1支持体90Aは、第1横方向DhAの一方側及び他方側に、それぞれ、左端部90jA及び右端部90kAを有する。第1厚さ方向DtAは、第1支持体90Aの厚さ方向である。典型例では、第1縦方向DvAは、上下方向D1と同じである。
【0062】
第1支持体90Aの第1縦方向DvAの寸法は、例えば25cm以上200cm以下であり、50cm以上120cm以下であってもよい。第1支持体90Aの第1横方向DhAの寸法は、例えば20cm以上400cm以下であり、20cm以上200cm以下であってもよい。第1支持体90Aの第1厚さ方向DtAの寸法(すなわち、第1支持体90Aの厚さ)は、例えば0.1cm以上15cm以下である。第1支持体90Aの第1縦方向DvAの寸法と第1支持体90Aの第1横方向DhAの寸法とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。図示の例では、第1支持体90Aの第1縦方向DvAの寸法は、第1支持体90Aの第1横方向DhAの寸法よりも大きい。
【0063】
図3Bに示すように、第2支持体90Bは、第2縦方向DvB、第2横方向DhB及び第2厚さ方向DtBを有する。第2縦方向DvB、第2横方向DhB及び第2厚さ方向DtBは、互いに直交している。第2支持体90Bは、第2縦方向DvBの一方側及び他方側に、それぞれ、上端部90lB及び下端部90mBを有する。第2支持体90Bは、第2横方向DhBの一方側及び他方側に、それぞれ、左端部90jB及び右端部90kBを有する。第2厚さ方向DtBは、第2支持体90Bの厚さ方向である。典型例では、第2縦方向DvBは、上下方向D1と同じである。
【0064】
第2支持体90Bの第2縦方向DvBの寸法は、例えば25cm以上200cm以下であり、50cm以上120cm以下であってもよい。第2支持体90Bの第2横方向DhBの寸法は、例えば20cm以上400cm以下であり、20cm以上200cm以下であってもよい。第2支持体90Bの第2厚さ方向DtBの寸法(すなわち、第2支持体90Bの厚さ)は、例えば0.1cm以上15cm以下である。第2支持体90Bの第2縦方向DvBの寸法と第2支持体90Bの第2横方向DhBの寸法とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。図示の例では、第2支持体90Bの第2縦方向DvBの寸法は、第2支持体90Bの第2横方向DhBの寸法よりも大きい。
【0065】
空間86の左右方向D2の寸法に対する、第1支持体90Aの第1横方向DhAの寸法及び第2支持体90Bの第2横方向DhBの寸法の合計の比率は、例えば、0.6以上1.0以下である。この比率は、0.8以上0.95以下であってもよい。空間86の左右方向D2の寸法から、第1支持体90Aの第1横方向DhAの寸法及び第2支持体90Bの第2横方向DhBの寸法の合計を差し引いた差分は、例えば、0cm以上40cm以下である。この差分は、5cm以上20cm以下であってもよい。
【0066】
図3Aに示すように、第1放射面15Aは、長手方向DlA及び短手方向DsAを有する。第1放射面15Aは、その長手方向DlAの一方側及び他方側に、それぞれ、上端部15lA及び下端部15mAを有する。第1放射面15Aは、その短手方向DsAの一方側及び他方側に、それぞれ、左端部15jA及び右端部15kAを有する。本実施形態では、長手方向DlAは、第1縦方向DvAと同じである。短手方向DsAは、第1横方向DhAと同じである。第1放射面15Aの形状は、長方形である。
【0067】
ただし、
図4Aに示すように、第1放射面15Aの長手方向DlAは、第1縦方向DvAから逸れた方向であってもよい。第1放射面15Aの短手方向DsAは、第1横方向DhAから逸れた方向であってもよい。長手方向DlAの第1縦方向DvAからのずれ角θp1は、例えば0°以上15°以下であり、0°以上5°以下であってもよい。同様に、短手方向DsAの第1横方向DhAからのずれ角θq1は、例えば0°以上15°以下であり、0°以上5°以下であってもよい。第1放射面15Aの形状は、長方形でなくてもよい。第1放射面15Aの他の例は、角丸長方形である。
【0068】
第1放射面15Aの長手方向DlAの寸法LxAは、例えば25cm以上200cm以下であり、50cm以上120cm以下であってもよい。第1放射面15Aの短手方向DsAの寸法LyAは、例えば20cm以上400cm以下であり、20cm以上200cm以下であってもよい。
【0069】
寸法LyAに対する寸法LxAの比率すなわちアスペクト比LxA/LyAは、例えば、1.2以上である。アスペクト比LxA/LyAは、1.2以上6以下であってもよく、1.5以上4以下であってもよい。
【0070】
図3Bに示すように、第2放射面15Bは、長手方向DlB及び短手方向DsBを有する。第2放射面15Bは、その長手方向DlBの一方側及び他方側に、それぞれ、上端部15lB及び下端部15mBを有する。第2放射面15Bは、その短手方向DsBの一方側及び他方側に、それぞれ、左端部15jB及び右端部15kBを有する。本実施形態では、長手方向DlBは、第2縦方向DvBと同じである。短手方向DsBは、第2横方向DhBと同じである。第2放射面15Bの形状は、長方形である。
【0071】
ただし、
図4Bに示すように、第2放射面15Bの長手方向DlBは、第2縦方向DvBから逸れた方向であってもよい。第2放射面15Bの短手方向DsBは、第2横方向DhBから逸れた方向であってもよい。長手方向DlBの第2縦方向DvBからのずれ角θp2は、例えば0°以上15°以下であり、0°以上5°以下であってもよい。同様に、短手方向DsBの第2横方向DhBからのずれ角θq2は、例えば0°以上15°以下であり、0°以上5°以下であってもよい。第2放射面15Bの形状は、長方形でなくてもよい。第2放射面15Bの他の例は、角丸長方形である。
【0072】
第2放射面15Bの長手方向DlBの寸法LxBは、例えば25cm以上200cm以下であり、50cm以上120cm以下であってもよい。第2放射面15Bの短手方向DsBの寸法LyBは、例えば20cm以上400cm以下であり、20cm以上200cm以下であってもよい。
【0073】
寸法LyBに対する寸法LxBの比率すなわちアスペクト比LxB/LyBは、例えば、1.2以上である。アスペクト比LxB/LyBは、1.2以上6以下であってもよく、1.5以上4以下であってもよい。
【0074】
第1スピーカ10Aが圧電スピーカである例において、第1スピーカ10Aは、圧電フィルムを有する。第1放射面15Aの長手方向DlAは、圧電フィルムの圧電伸縮方向でありうる。
【0075】
第2スピーカ10Bが圧電スピーカである例において、第2スピーカ10Bは、圧電フィルムを有する。第2放射面15Bの長手方向DlBは、圧電フィルムの圧電伸縮方向でありうる。
【0076】
本実施形態では、制御装置110は、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから第1周波数範囲FR1の音を出力させることができるように構成されている。第1周波数範囲FR1は、例えば、100Hzから700Hzまでの帯域を含む範囲である。第1周波数範囲FR1は、50Hz以上3000Hz以下であってもよく、100Hz以上2000Hz以下であってもよい。
【0077】
一具体例において、制御装置110では、第2周波数範囲FR2が設定されうる。制御装置110は、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから出力される音の周波数を、第2周波数範囲FR2内の値に制御する。第2周波数範囲FR2は、第1周波数範囲FR1よりも狭い。現実には、ANCシステム500の規模、計算負荷等を考慮して、ANCシステム500の能力を最大限に発揮させるのではなく能力の一部のみを発揮させることが望まれる場合がある。この具体例は、そのような場合に採用可能である。具体的には、この具体例によれば、第2周波数範囲FR2として所望の帯域を選択することができる。
【0078】
図3Aに示すように、本実施形態では、第1支持体90Aは、対向する上端部90lA及び下端部90mAを有する。第1放射面15Aは、対向する上端部15lA及び下端部15mAを有する。上端部90lA及び上端部15lAの間の第1上マージンM1は、ゼロ以上基準波長の1/10以下である。下端部90mA及び下端部15mAの間の第1下マージンM2は、ゼロ以上基準波長の1/10以下である。ここで、基準波長は、第1周波数範囲FR1又は第2周波数範囲FR2の上限の音の波長である。このようにすることは、騒音源200由来の騒音が上端部90lA及び下端部90mAで回折して生じる回折音を低減することに適している。マージンの適宜の設定が回折音の低減に貢献することは、特許文献1及び特許文献2に記載の通りである。
【0079】
なお、現実には、製品化の都合で、第1上マージンM1及び第1下マージンM2をある程度大きくするべき場合もある。これを考慮し、第1上マージンM1及び第1下マージンM2の上限を、基準波長の1/10よりも大きくしてもよい。回折音を低減する効果を得つつ無理のない製品化を行う観点から、例えば、第1上マージンM1及び第1下マージンM2を、ゼロ以上基準波長の1/3以下にすることができる。第1上マージンM1及び第1下マージンM2は、例えば0cm以上50cm以上であり、0cm以上10cm以下であってもよい。
【0080】
図3Aに示すように、本実施形態では、第1支持体90Aは、対向する左端部90jA及び右端部90kAを有する。第1放射面15Aは、対向する左端部15jA及び右端部15kAを有する。左端部90jA及び左端部15jAの間の第1左マージンM3は、ゼロ以上基準波長の1/10以下である。右端部90kA及び右端部15kAの間の第1右マージンM4は、ゼロ以上基準波長の1/10以下である。第1左マージンM3及び第1右マージンM4は、ゼロ以上基準波長の1/3以下であってもよい。第1左マージンM3及び第1右マージンM4は、例えば0cm以上50cm以上であり、0cm以上10cm以下であってもよい。
【0081】
なお、
図4Aに示すように、第1放射面15Aの長手方向DlAが第1縦方向DvAからずれており、第1放射面15Aの短手方向DsAが第1横方向DhAからずれている場合がある。このような場合、第1上マージンM1として、上端部90lAと上端部15lAの間の距離の幾何平均値を採用する。第1下マージンM2として、下端部90mAと下端部15mAの間の距離の幾何平均値を採用する。第1左マージンM3として、左端部90jAと左端部15jAの間の距離の幾何平均値を採用する。第1右マージンM4として、右端部90kAと右端部15kAの間の距離の幾何平均値を採用する。
【0082】
図3Bに示すように、本実施形態では、第2支持体90Bは、対向する上端部90lB及び下端部90mBを有する。第2放射面15Bは、対向する上端部15lB及び下端部15mBを有する。上端部90lB及び上端部15lBの間の第2上マージンM5は、ゼロ以上基準波長の1/10以下である。下端部90mB及び下端部15mBの間の第2下マージンM6は、ゼロ以上基準波長の1/10以下である。ここで、基準波長は、第1周波数範囲FR1又は第2周波数範囲FR2の上限の音の波長である。このようにすることは、騒音源200由来の騒音が上端部90lB及び下端部90mBで回折して生じる回折音を低減することに適している。
【0083】
第2上マージンM5及び第2下マージンM6の上限を、基準波長の1/10よりも大きくしてもよい。回折音を低減する効果を得つつ無理のない製品化を行う観点から、例えば、第2上マージンM5及び第2下マージンM6を、ゼロ以上基準波長の1/3以下にすることができる。第2上マージンM5及び第2下マージンM6は、例えば0cm以上50cm以上であり、0cm以上10cm以下であってもよい。
【0084】
図3Bに示すように、本実施形態では、第2支持体90Bは、対向する左端部90jB及び右端部90kBを有する。第2放射面15Bは、対向する左端部15jB及び右端部15kBを有する。左端部90jB及び左端部15jBの間の第2左マージンM7は、ゼロ以上基準波長の1/10以下である。右端部90kB及び右端部15kBの間の第2右マージンM8は、ゼロ以上基準波長の1/10以下である。第2左マージンM7及び第2右マージンM8は、ゼロ以上基準波長の1/3以下であってもよい。第2左マージンM7及び第2右マージンM8は、例えば0cm以上50cm以上であり、0cm以上10cm以下であってもよい。
【0085】
なお、
図4Bに示すように、第2放射面15Bの長手方向DlBが第2縦方向DvBからずれており、第2放射面15Bの短手方向DsBが第2横方向DhBからずれている場合がある。このような場合、第2上マージンM5として、上端部90lBと上端部15lBの間の距離の幾何平均値を採用する。第2下マージンM6として、下端部90mBと下端部15mBの間の距離の幾何平均値を採用する。第2左マージンM7として、左端部90jBと左端部15jBの間の距離の幾何平均値を採用する。第2右マージンM8として、右端部90kBと右端部15kBの間の距離の幾何平均値を採用する。
【0086】
本実施形態の非限定的な例では、第1スピーカ10Aは、圧電スピーカである。第1放射面15Aは、その長手方向DlAの一方側及び他方側に、それぞれ、上端部15lA及び下端部15mAを有する。この場合、特許文献1及び特許文献2から理解されるように、制御装置110は、長手方向DlAに関する第1放射面15Aの中央領域とその両側の領域(すなわち上側領域及び下側領域)とで、位相の正負を逆にする制御を行うことができる。
【0087】
上記非限定的な例において、第1上マージンM1及び第1右マージンM4の差の絶対値を小さくし、第1下マージンM2及び第1右マージンM4の差の絶対値を小さくすることで、ANCシステム500によるANCの精度を向上させることが可能である。具体的には、第1放射面15Aの上記の中央領域で発せられた音波、上側領域で発せられた音波及び下側領域で発せられた音波は、それぞれ、第1支持体90Aの右端部90kA、上端部90lA及び下端部90mAを介して、空間86内の第1支持体90A近傍に回り込む。上記2つの絶対値が両方とも小さい場合、この回り込みにおいて、中央領域で発せられた音波、上側領域で発せられた音波及び下側領域で発せられた音波の間の位相差が概ね維持され、これらの音波の位相の正負の一致・不一致の関係が維持される。回り込んだこれらの音波は、空間86の奥へと第1支持体90Aから遠ざかるように伝搬する。この伝搬中に、これらの音波が互いに打ち消し合う。この打ち消しは、第1スピーカ10Aから第1参照マイクロフォン130A及び第2参照マイクロフォン130Bへの音の回り込みを低減する。これにより、ANCにおいて第1スピーカ10Aが発した音がノイズと作用し難くなる。
【0088】
本実施形態の非限定的な例では、第2スピーカ10Bは、圧電スピーカである。第2放射面15Bは、その長手方向DlBの一方側及び他方側に、それぞれ、上端部15lB及び下端部15mBを有する。この場合、制御装置110は、長手方向DlBに関する第2放射面15Bの中央領域とその両側の領域(すなわち上側領域及び下側領域)とで、位相の正負を逆にする制御を行うことができる。
【0089】
上記非限定的な例において、第2上マージンM5及び第2左マージンM7の差の絶対値を小さくし、第2下マージンM6及び第2左マージンM7の差の絶対値を小さくすることで、ANCシステム500によるANCの精度を向上させることが可能である。具体的には、第2放射面15Bの上記の中央領域で発せられた音波、上側領域で発せられた音波及び下側領域で発せられた音波は、それぞれ、第2支持体90Bの左端部90jB、上端部90lB及び下端部90mBを介して、空間86内の第2支持体90B近傍に回り込む。上記2つの絶対値が両方とも小さい場合、この回り込みにおいて、中央領域で発せられた音波、上側領域で発せられた音波及び下側領域で発せられた音波の間の位相差が概ね維持され、これらの音波の位相の正負の一致・不一致の関係が維持される。回り込んだこれらの音波は、空間86の奥へと第2支持体90Bから遠ざかるように伝搬する。この伝搬中に、これらの音波が互いに打ち消し合う。この打ち消しは、第2スピーカ10Bから第1参照マイクロフォン130A及び第2参照マイクロフォン130Bへの音の回り込みを低減する。これにより、ANCにおいて第2スピーカ10Bが発した音がノイズと作用し難くなる。
【0090】
第1上マージンM1及び第1右マージンM4の差の絶対値は、例えば基準波長の1/8以下であり、基準波長の1/16以下であってもよい。第1下マージンM2及び第1右マージンM4の差の絶対値は、例えば基準波長の1/8以下であり、基準波長の1/16以下であってもよい。第2上マージンM5及び第2左マージンM7の差の絶対値は、例えば基準波長の1/8以下であり、基準波長の1/16以下であってもよい。第2下マージンM6及び第2左マージンM7の差の絶対値は、例えば基準波長の1/8以下であり、基準波長の1/16以下であってもよい。
【0091】
第1上マージンM1及び第1右マージンM4の差の絶対値は、例えば1cm以上86cm以下であり、1cm以上43cm以下であってもよい。第1下マージンM2及び第1右マージンM4の差の絶対値は、例えば1cm以上86cm以下であり、1cm以上43cm以下であってもよい。第2上マージンM5及び第2左マージンM7の差の絶対値は、例えば1cm以上86cm以下であり、1cm以上43cm以下であってもよい。第2下マージンM6及び第2左マージンM7の差の絶対値は、例えば1cm以上86cm以下であり、1cm以上43cm以下であってもよい。
【0092】
また、第1スピーカ10Aが圧電スピーカである場合、第1スピーカ10Aが音を発するときの第1スピーカ10Aの振動が、第1支持体90Aを振動させ難い。そのため、第1支持体90Aの振動により第1支持体90Aから第1参照マイクロフォン130A及び第2参照マイクロフォン130Bへと不要な音が入力される事態が生じ難い。同様に、第2スピーカ10Bが圧電スピーカである場合、第2スピーカ10Bが音を発するときの第2スピーカ10Bの振動が、第2支持体90Bを振動させ難い。そのため、第2支持体90Bの振動により第2支持体90Bから第1参照マイクロフォン130A及び第2参照マイクロフォン130Bへと不要な音が入力される事態が生じ難い。これらもまた、ANCにおいて第1スピーカ10A及び/又は第2スピーカ10B由来のノイズを生じさせ難くする。
【0093】
以下、圧電スピーカである第1スピーカ10Aの構成例及び圧電スピーカである第2スピーカ10Bの構成例を説明する。以下の説明における「圧電スピーカ10」の構成は、第1スピーカ10Aの構成としても、第2スピーカ10Bの構成としても採用可能である。以下の説明における「圧電スピーカ10」が良好な特性を有することは、特許文献1及び特許文献2で説明されている通りである。この良好な特性は、圧電スピーカ10がANCシステム500に組み込まれた状態においても有用でありうる。これらの点は、以下の説明における「圧電スピーカ310」についても同様である。
【0094】
[圧電スピーカ10の第1構成例]
図5A及び
図5Bを用いて、第1構成例に係る圧電スピーカ10を説明する。
【0095】
圧電スピーカ10は、圧電フィルム35と、第1接合層51と、介在層40と、第2接合層52と、を備えている。第1接合層51と、介在層40と、第2接合層52と、圧電フィルム35とは、この順に積層されている。
【0096】
圧電フィルム35は、圧電体30と、第1電極61と、第2電極62と、を含んでいる。
【0097】
圧電体30は、フィルム形状を有している。圧電体30は、電圧が印加されることによって振動する。圧電体30として、セラミックフィルム、樹脂フィルム等を用いることができる。セラミックフィルムである圧電体30の材料としては、ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛、チタン酸バリウム、Bi層状化合物、タングステンブロンズ構造化合物、チタン酸バリウムとビスマスフェライトとの固溶体等が挙げられる。樹脂フィルムである圧電体30の材料としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸等が挙げられる。樹脂フィルムである圧電体30の材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンであってもよい。また、圧電体30は、無孔体であってもよく、多孔体であってもよい。
【0098】
圧電体30の厚さは、例えば10μm以上300μm以下であり、30μm以上110μm以下であってもよい。
【0099】
第1電極61及び第2電極62は、圧電体30を挟むように圧電体30に接している。第1電極61及び第2電極62は、フィルム形状を有している。第1電極61及び第2電極62は、それぞれ、図示しないリード線に接続されている。第1電極61及び第2電極62は、蒸着、めっき、スパッタリング等により圧電体30上に形成されうる。第1電極61及び第2電極62として、金属箔を用いることもできる。金属箔は、両面テープ、粘着剤、接着剤等によって圧電体30に貼り付け可能である。第1電極61及び第2電極62の材料としては、金属が挙げられ、具体的には、金、白金、銀、銅、パラジウム、クロム、モリブデン、鉄、錫、アルミニウム、ニッケル等が挙げられる。第1電極61及び第2電極62の材料として、炭素、導電性高分子等も挙げられる。第1電極61及び第2電極62の材料として、これらの合金も挙げられる。第1電極61及び第2電極62は、ガラス成分等を含んでいてもよい。
【0100】
第1電極61及び第2電極62の厚さは、それぞれ、例えば10nm以上150μm以下であり、20nm以上100μm以下であってもよい。
【0101】
図5A及び
図5Bの例では、第1電極61は、圧電体30の一方の主面全体を覆っている。ただし、第1電極61は、圧電体30の該一方の主面の一部のみを覆っていてもよい。第2電極62は、圧電体30の他方の主面全体を覆っている。ただし、第2電極62は、圧電体30の該他方の主面の一部のみを覆っていてもよい。
【0102】
第1構成例では、介在層40は、圧電フィルム35と第1接合層51との間に配置されている。介在層40は、接着層及び粘着層以外の層であってもよく、接着層又は粘着層であってもよい。第1構成例では、介在層40は、多孔体層及び/又は樹脂層である。ここで、樹脂層はゴム層及びエラストマ層を含む概念であり、従って樹脂層である介在層40はゴム層又はエラストマ層であってもよい。樹脂層である介在層40としては、エチレンプロピレンゴム層、ブチルゴム層、ニトリルゴム層、天然ゴム層、スチレンブタジエンゴム層、シリコーン層、ウレタン層、アクリル樹脂層等が挙げられる。多孔体層である介在層40としては、発泡体層等が挙げられる。具体的には、多孔体層及び樹脂層である介在層40としては、エチレンプロピレンゴム発泡体層、ブチルゴム発泡体層、ニトリルゴム発泡体層、天然ゴム発泡体層、スチレンブタジエンゴム発泡体層、シリコーン発泡体層、ウレタン発泡体層等が挙げられる。多孔体層ではないが樹脂層である介在層40としては、アクリル樹脂層等が挙げられる。樹脂層ではないが多孔体層である介在層40としては、金属の多孔体層等が挙げられる。ここで、樹脂層は、樹脂を含む層を指し、樹脂を30%以上含んでいてもよく、樹脂を45%以上含んでいてもよく、樹脂を60%以上含んでいてもよく、樹脂を80%以上含んでいてもよい層を指す。ゴム層、エラストマ層、エチレンプロピレンゴム層、ブチルゴム層、ニトリルゴム層、天然ゴム層、スチレンブタジエンゴム層、シリコーン層、ウレタン層、アクリル樹脂層、金属層等についても同様である。また、圧電体30として採用されうる樹脂フィルム、セラミックフィルム等についても同様である。介在層40は、2種類以上の材料のブレンド層であってもよい。
【0103】
介在層40の弾性率は、例えば10000N/m2以上20000000N/m2以下であり、20000N/m2以上100000N/m2以下であってもよい。
【0104】
一例では、多孔体層である介在層40の孔径は、0.1mm以上7.0mm以下であり、0.3mm以上5.0mm以下であってもよい。別の例では、多孔体層である介在層40の孔径は、例えば0.1mm以上2.5mm以下であり、0.2mm以上1.5mm以下であってもよく、0.3mm以上0.7mm以下であってもよい。多孔体層である介在層40の空孔率は、例えば70%以上99%以下であり、80%以上99%以下であってもよく、90%以上95%以下であってもよい。
【0105】
発泡体層である介在層40として、公知の発泡体を利用できる(例えば、特許文献3の発泡体を利用できる)。発泡体層である介在層40は、連続気泡構造を有していてもよく、独立気泡構造を有していてもよく、半独立半連続気泡構造を有していてもよい。連続気泡構造は、連続気泡率が100%である構造を指す。独立気泡構造は、連続気泡率が0%である構造を指す。半独立半連続気泡構造は、連続気泡率が0%よりも大きく100%よりも小さい構造を指す。ここで、連続気泡率は、例えば、発泡体層を水中に沈める試験を行い、式:連続気泡率(%)={(吸水した水の体積)/(気泡部分体積)}×100を用いて計算することができる。一具体例では、「吸水した水の体積」は、発泡体層を水中に沈めて-750mmHgの減圧下で3分間放置した後に、発泡体層の気泡中の空気と置換された水の質量を測り、水の密度を1.0g/cm3として体積に換算することで得られるものである。「気泡部分体積」は、式:気泡部分体積(cm3)={(発泡体層の質量)/(発泡体層の見かけ密度)}-{(発泡体層の質量)/(材料密度)}を用いて計算される値である。「材料密度」は、発泡体層を形成する母材(中実体)の密度である。
【0106】
発泡体層である介在層40の発泡倍率(発泡前後の密度比)は、例えば5倍以上40倍以下であり、10倍以上40倍以下であってもよい。
【0107】
非圧縮状態における介在層40の厚さは、例えば0.1mm以上30mm以下であり、1mm以上30mm以下であってもよく、1.5mm以上30mm以下であってもよく、2mm以上25mm以下であってもよい。典型的には、非圧縮状態において、介在層40は、圧電フィルム35よりも厚い。非圧縮状態において、圧電フィルム35の厚さに対する介在層40の厚さの比率は、例えば3倍以上であり、10倍以上であってもよく、30倍以上であってもよい。また、典型的には、非圧縮状態において、介在層40は、第1接合層51よりも厚い。
【0108】
第1接合層51は、その表面により固定面17を形成している。第1接合層51は、第1支持体90A及び/又は第2支持体90Bに接合される層である。
図5Aの例では、第1接合層51は、介在層40に接合している。
【0109】
第1構成例では、第1接合層51は、粘着性又は接着性の層である。別の言い方をすると、第1接合層51は、接着層又は粘着層である。固定面17は、接着面又は粘着面である。第1接合層51は、第1支持体90A及び/又は第2支持体90Bに貼り付けられうる。
図5Aの例では、第1接合層51は、介在層40に接している。
【0110】
第1接合層51としては、基材と、基材の両面に塗布された粘着剤とを有する両面テープが挙げられる。第1接合層51として用いられる両面テープの基材としては、不織布等が挙げられる。第1接合層51として用いられる両面テープの粘着剤としては、アクリル樹脂を含む粘着剤等が挙げられる。ただし、第1接合層51は、基材を有さない粘着剤の層であってもよい。
【0111】
第1接合層51の厚さは、例えば0.01mm以上1.0mm以下であり、0.05mm以上0.5mm以下であってもよい。
【0112】
第2接合層52は、介在層40と圧電フィルム35との間に配置されている。第1構成例では、第2接合層52は、粘着性又は接着性の層である。別の言い方をすると、第2接合層52は、接着層又は粘着層である。具体的には、第2接合層52は、介在層40と圧電フィルム35とに接合している。
【0113】
第2接合層52としては、基材と、基材の両面に塗布された粘着剤とを有する両面テープが挙げられる。第2接合層52として用いられる両面テープの基材としては、不織布等が挙げられる。第2接合層52として用いられる両面テープの粘着剤としては、アクリル樹脂を含む粘着剤等が挙げられる。ただし、第2接合層52は、基材を有さない粘着剤の層であってもよい。
【0114】
第2接合層52の厚さは、例えば0.01mm以上1.0mm以下であり、0.05mm以上0.5mm以下であってもよい。
【0115】
第1構成例では、圧電フィルム35に接着面又は粘着面が接触することによって、圧電フィルム35が固定面17側の層と一体化されている。具体的には、第1構成例では、当該接着面又は粘着面は、第2接合層52の表面により形成された面である。
【0116】
第1構成例に係る圧電スピーカ10を第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bとして用いて、ANCシステム500を構成可能である。圧電スピーカ10は、ダイナミックスピーカに比べ、自身に電気信号が届いてから音が出るまでにかかる時間(以下、遅延時間と称することがある)が短い。このため、圧電スピーカ10は、自身のサイズが小さい点のみならず、第1参照マイクロフォン130A及び第2参照マイクロフォン130Bと圧電スピーカ10との距離を短くできる点でも、小型のANCシステムの構成に適している。
【0117】
圧電スピーカ10が第1支持体90A及び/又は第2支持体90Bに固定された状態で、電圧が、リード線を介して、圧電フィルム35に印加される。これにより、圧電フィルム35が振動し、圧電フィルム35から音波が放射される。
【0118】
圧電スピーカ10及び圧電スピーカ10が適用されたANCシステム500について、さらに説明する。
【0119】
圧電スピーカ10は、固定面17によって、第1支持体90A及び/又は第2支持体90Bに固定されうる。そのようにして、圧電スピーカ10を用いたANCシステム500を構成できる。ANCシステム500では、介在層40は、圧電フィルム35と第1支持体90A及び/又は第2支持体90Bとの間に配置される。
【0120】
作用の詳細については今後の検討を待つ必要があるが、圧電フィルム35の片方の主面を介在層40によって適度に拘束することにより、圧電フィルム35から可聴音域における低周波側の音が発生し易くなっている可能性がある。これを考慮すると、圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の25%以上の領域において介在層40が配置されるようにすることができる。圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の50%以上の領域において介在層40が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の面積の75%以上の領域において介在層40が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の全領域において介在層40が配置されるようにしてもよい。また、圧電スピーカ10における固定面17とは反対側の主面38の50%以上を圧電フィルム35よって構成することができる。主面38の75%以上を圧電フィルム35によって構成してもよく、主面38全体を圧電フィルム35によって構成してもよい。
【0121】
第1構成例では、第2接合層52によって、圧電フィルム35と介在層40との分離が防止されている。上記の「適度な拘束」の観点からは、圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の25%以上の領域において第2接合層52及び介在層40が配置されるようにすることができる。圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の50%以上の領域において第2接合層52及び介在層40が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の面積の75%以上の領域において第2接合層52及び介在層40が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の全領域において第2接合層52及び介在層40が配置されるようにしてもよい。
【0122】
ここで、介在層40が多孔体である場合、介在層40が配置される領域の比率は、その多孔質構造に由来する細孔を考慮した微視的な観点ではなく、より巨視的な観点から規定されるものである。例えば、圧電フィルム35、多孔体である介在層40及び第2接合層52が平面視で共通の輪郭を有する板状体である場合、圧電フィルム35の面積の100%の領域において第2接合層52及び介在層40が配置されていると表現される。
【0123】
第1構成例では、介在層40の拘束度は、5×109N/m3以下である。介在層40の拘束度は、例えば、1×104N/m3以上である。介在層40の拘束度は、好ましくは5×108N/m3以下であり、より好ましくは2×108N/m3以下であり、さらに好ましくは1×105以上5×107N/m3以下である。ここで、介在層40の拘束度(N/m3)は、以下の式のように、介在層40の弾性率(N/m2)と介在層40の表面充填率との積を介在層40の厚さ(m)で割ることによって得られる値である。介在層40の表面充填率は、介在層40における圧電フィルム35側の主面の充填率(1から空孔率を引いた値)である。介在層40の孔が均等に分布している場合、表面充填率は、介在層40の3次元的な充填率に等しいとみなすことができる。
拘束度(N/m3)=弾性率(N/m2)×表面充填率÷厚さ(m)
【0124】
拘束度は、介在層40による圧電フィルム35の拘束の程度を表すパラメータと考えることができる。介在層40の弾性率が大きいほど拘束の程度が大きくなることが、上記の式で表されている。介在層40の表面充填率が大きいほど拘束の程度が大きくなることが、上記の式で表されている。介在層40の厚さが小さいほど拘束の程度が大きくなることが、上記の式で表されている。介在層40の拘束度と圧電フィルム35から発生する音との関係については今後の検討を待つ必要があるが、拘束度が過度に大きい場合には、低周波側の音を出すのに必要な圧電フィルム35の変形が妨げられている可能性がある。逆に、拘束度が過度に小さい場合には、圧電フィルム35がその厚さ方向に十分に変形せず、その面内方向(厚さ方向に垂直な方向)のみに伸縮し、低周波側の音の発生が妨げられている可能性がある。介在層40の拘束度を適度な範囲に設定することによって、圧電フィルム35の面内方向の伸縮が厚さ方向の変形に適度に変換され、圧電フィルム35が全体として適切に屈曲し、低周波側の音が発生し易くなっていると考えることができる。
【0125】
上述の説明から理解されるように、圧電フィルム35と固定面17との間に、介在層40とは異なる層があってもよい。当該異なる層は、例えば、第2接合層52である。
【0126】
図示の例では、圧電フィルム35は、介在層40によって完全に包囲されているわけではない。図示の例では、介在層40及び圧電フィルム35をこの順に通りその後介在層40を経由せずに圧電スピーカ10の外部に至る仮想直線が存在する。ここで、「仮想直線が存在する」とは、そのような直線を引くことができるという意味である。図示の例では、介在層40は、圧電フィルム35から見て固定面17側のみに拡がっている。
【0127】
図示の例では、圧電フィルム35における固定面17とは反対側の主面38が、放射面15を構成している。つまり、圧電フィルム35における介在層40とは反対側の主面38が、放射面15を構成している。この構成において圧電フィルム35における介在層40側の主面が介在層40により拘束されることにより、圧電フィルム35の面内方向の伸縮が厚さ方向の変形に適度に変換されうる。ただし、他の形態も採用されうる。
【0128】
具体的には、圧電フィルム35における介在層40とは反対側に、第1の層が設けられていてもよい。例えば、第1の層は、圧電フィルム35の保護に用いられる。この場合、第1の層の主面が、放射面15を構成しうる。あるいは、第1の層とは別の第2の層が、放射面15を構成しうる。
【0129】
第1の層の厚さは、例えば、0.05mm以上5mm以下である。第1の層の材料は、例えば、ポリエステル系の材料である。ここで、ポリエステル系の材料は、ポリエステルを含む材料を指し、ポリエステルを30%以上含んでいてもよく、ポリエステルを45%以上含んでいてもよく、ポリエステルを60%以上含んでいてもよく、ポリエステルを80%以上含んでいてもよい材料を指す。一例では、介在層40の材料と第1の層の材料とは異なる。介在層40の材料と第1の層の材料とが異なる場合、圧電フィルム35における介在層40側の主面が拘束される程度と、圧電フィルム35における第1の層側の主面が拘束される程度と、に差をつけることができる。このことは、圧電フィルム35の面内方向の伸縮を厚さ方向の変形に適度に変換することを可能にしうる。介在層40の拘束度と第1の層の拘束度とは異なっていてもよい。ここで、第1の層の拘束度(N/m3)は、第1の層の弾性率(N/m2)と第1の層の表面充填率との積を第1の層の厚さ(m)で割ることによって得られる値である。第1の層の表面充填率は、第1の層における圧電フィルム35側の主面の充填率(1から空孔率を引いた値)である。介在層40の拘束度と第1の層の拘束度とが異なることは、圧電フィルム35の面内方向の伸縮を厚さ方向の変形に適度に変換することを可能にしうる。一具体例では、介在層40の拘束度は、第1の層の拘束度よりも大きい。第1の層は、フィルム形状を有していてもよい。第1の層は、不織布であってもよい。
【0130】
第1構成例では、圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の少なくとも一部が固定面17と重複する(
図5Aの例では第1接合層51と重複する)ように、固定面17が配置されている。圧電スピーカ10を第1支持体90A及び/又は第2支持体90Bに安定して固定する観点からは、圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の50%以上の領域において固定面17が配置されるようにすることができる。圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の75%以上の領域において固定面17が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の全領域において固定面17が配置されるようにしてもよい。
【0131】
第1構成例では、圧電フィルム35及び介在層40は、それぞれ、厚さが実質的に一定である。このことは、圧電スピーカ10の保管、使い勝手、圧電フィルム35から出る音の制御等の種々の観点から有利である場合が多い。なお、「厚さが実質的に一定」は、例えば、厚さの最小値が最大値の70%以上100%以下であることを指す。圧電フィルム35及び介在層40は、それぞれ、厚さの最小値が最大値の85%以上100%以下であってもよい。
【0132】
ところで、樹脂は、セラミック等に比べ、クラックが発生し難い材料である。一具体例では、圧電フィルム35の圧電体30は樹脂フィルムであり、介在層40は圧電フィルムとしては機能しない樹脂層である。このようにすることは、圧電体30又は介在層40でクラックを生じさせることなく圧電スピーカ10をハサミ、人の手等で切断する観点から有利である(圧電スピーカ10がハサミ、人の手等で切断可能であることは、ANCシステム500の構築を容易にする)。また、このようにすれば、圧電スピーカ10を曲げても圧電体30又は介在層40でクラックが生じ難くなる。また、圧電体30が樹脂フィルムであり介在層40が樹脂層であることは、圧電体30又は介在層40でクラックを生じさせることなく湾曲面上に圧電スピーカ10を固定する観点から有利である。
【0133】
図5Aの例では、圧電フィルム35、介在層40、第1接合層51及び第2接合層52は、平面視で輪郭が一致している。ただし、これらの輪郭がずれていても構わない。
【0134】
図5Aの例では、圧電フィルム35、介在層40、第1接合層51及び第2接合層52は、平面視で短手方向及び長手方向を有する長方形である。ただし、これらは、正方形、円形、楕円形等であってもよい。
【0135】
また、圧電スピーカ10は、
図5Aに示す層以外の層を含んでいてもよい。
図5Aに示す層以外の層は、例えば、上述の第1の層及び第2の層である。
【0136】
[圧電スピーカ10の第2構成例]
以下、
図6を用いて第2構成例に係る圧電スピーカ310を説明する。以下では、第1構成例と同様の部分については、説明を省略することがある。
【0137】
圧電スピーカ310は、圧電フィルム35と、固定面117と、介在層140と、を備えている。固定面117は、圧電フィルム35を第1支持体90A及び/又は第2支持体90Bに固定することに利用可能である。
【0138】
介在層140は、圧電フィルム35と固定面117との間(ここで、「間」は固定面117を含む。第1構成例についても同様である)に配置されている。固定面117は、介在層140の表面(主面)により形成されている。
【0139】
介在層140は、多孔体層及び/又は樹脂層である。介在層140は、粘着層又は接着層である。介在層140として、アクリル樹脂を含む粘着剤を用いることができる。介在層140として、他の粘着剤、例えば、ゴム、シリコーン又はウレタンを含む粘着剤を用いてもよい。介在層140は、2種類以上の材料のブレンド層であってもよい。
【0140】
介在層140の弾性率は、例えば10000N/m2以上20000000N/m2以下であり、20000N/m2以上100000N/m2以下であってもよい。
【0141】
非圧縮状態における介在層140の厚さは、例えば0.1mm以上30mm以下であり、1mm以上30mm以下であってもよく、1.5mm以上30mm以下であってもよく、2mm以上25mm以下であってもよい。典型的には、非圧縮状態において、介在層140は、圧電フィルム35よりも厚い。非圧縮状態において、圧電フィルム35の厚さに対する介在層140の厚さの比率は、例えば3倍以上であり、10倍以上であってもよく、30倍以上であってもよい。
【0142】
第2構成例では、介在層140の拘束度は、5×109N/m3以下である。介在層140の拘束度は、例えば、1×104N/m3以上である。介在層140の拘束度は、好ましくは5×108N/m3以下であり、より好ましくは2×108N/m3以下であり、さらに好ましくは1×105以上5×107N/m3以下である。拘束度の定義は、先に説明した通りである。
【0143】
第2構成例では、圧電フィルム35に接着面又は粘着面が接触することによって、圧電フィルム35が固定面117側の層と一体化されている。具体的には、第2構成例では、当該接着面又は粘着面は、介在層140により形成された面である。
【0144】
圧電スピーカ310も、固定面117によって、第1支持体90A及び/又は第2支持体90Bに固定されうる。そのようにして、第2構成例に係る圧電スピーカ310を第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bとして用いたANCシステム500を構成できる。
【0145】
第1構成例に係る圧電スピーカ10を第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bの一方として用い、第2構成例に係る圧電スピーカ310を第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bの他方として用いることによって、ANCシステム500を構成してもよい。
【0146】
第1構成例及び第2構成例から理解されるように、圧電スピーカ10及び圧電スピーカ310は、フィルム状でありうる。以下では、フィルム状の圧電スピーカ10を、フィルムスピーカ10と称することができる。フィルム状の圧電スピーカ310を、フィルムスピーカ310と称することができる。
【0147】
[実験例]
実験例により、本発明を詳細に説明する。ただし、以下の実験例は、本発明の一例を示すものであり、本発明は以下の実験例に限定されない。なお、以下の説明において、「高さ」は、上下方向D1の上向きに関する床85からの距離である。
【0148】
図7Aに示す対称配置600と、
図7Bに示す非対称配置700と、を構築した。
図7Cは、対称配置600及び非対称配置700に共通する側面図である。
【0149】
[1-1.対称配置600]
対称配置600では、床85上に構造物80が配置されている。構造物80は、その内部に空間86を区画している。構造物80は、第1の壁80A、第2の壁80B及び第3の壁80Cを含む。第1支持体90Aは、板状の扉であり、図示しないアタッチメントを介して上下方向D1を回転軸方向として回転自在に第1の壁80Aに取り付けられている。第2支持体90Bは、板状の扉であり、図示しないアタッチメントを介して上下方向D1を回転軸方向として回転自在に第2の壁80Bに取り付けられている。第1支持体90A及び第2支持体90Bの間には、隙間93が存在する。第1の壁80A及び第2の壁80Bは、左右方向D2に関して互いに対向しており、第3の壁80Cを介して接続されている。左右方向D2に関し、空間86は、第1の壁80A及び第2の壁80Bの間に位置する。前後方向D3に関し、空間86は、第1支持体90A及び第2支持体90Bの組み合わせと、第3の壁80Cと、の間に位置する。また、空間86の内部に、デスク95と、参照マイクロフォン130Aと、騒音源200と、が配置されている。空間86の外部に、第1誤差マイクロフォン140Aと、第2誤差マイクロフォン140Bと、が配置されている。さらに、対称配置600は、
図7Aにおいて図示を省略する制御装置110、第1アンプリファイア111A及び第2アンプリファイア111Bを含む。
図7Aにおいて、デスク95の脚等、一部の要素の図示が省略されている。
【0150】
第1の壁80A及び第2の壁80Bの各々は、上下方向D1及び前後方向D3に延びる壁であって、上下方向D1の寸法が190cmであり前後方向D3の寸法が135cmである壁である。第3の壁80Cは、上下方向D1及び左右方向D2に延びる壁であって、上下方向D1の寸法が190cmであり左右方向D2の寸法が90cmである壁である。
【0151】
第1縦方向DvAは、上下方向D1と同じである。第1横方向DhAは、左右方向D2と同じである。第1厚さ方向DtAは、前後方向D3と同じである。第2縦方向DvBは、上下方向D1と同じである。第2横方向DhBは、左右方向D2と同じである。第2厚さ方向DtBは、前後方向D3と同じである。具体的に、第1支持体90A及び第2支持体90Bの各々は、各々の中心の高さが135cmとなるように、上下方向D1及び左右方向D2に延びる姿勢で固定されている。この姿勢において、第1支持体90A及び第2支持体90Bの各々は、上下方向D1の寸法が60cmであり左右方向D2の寸法が44cmである。左右方向D2に関し、第1支持体90A及び第2支持体90Bの間には2cmの隙間93が形成されている。上下方向D1に関し、第1支持体90A及び第2支持体90Bよりも上方には上開口部87が形成され、下方には下開口部88が形成されている。上開口部87は、前方開口部及び天井開口部を含む。
【0152】
空間86の内部において、デスク95の天板95tが、高さ70cmの位置において、第1の壁80A、第2の壁80B及び第3の壁80Cに接するように、左右方向D2及び前後方向D3に延びている。天板95tは、左右方向D2の寸法が90cmであり前後方向D3の寸法が45cmである。参照マイクロフォン130Aが、高さ120cm、左右方向D2に関して第1の壁80Aから12cm離れ、且つ、前後方向D3に関して第1支持体90Aから80cm離れた位置に配置されている。騒音源200が、高さ120cm、左右方向D2に関して第1の壁80A及び第2の壁80Bから45cm離れ(つまり、第1の壁80A及び第2の壁80Bの中央)、且つ、前後方向D3に関して第1支持体90Aから80cm離れた位置に配置されている。騒音源200は、前後方向D3の前から後ろに向かって音を出す向きに配置されている。
【0153】
空間86の外部において、第1誤差マイクロフォン140A及び第2誤差マイクロフォン140Bが、高さ135cm且つ前後方向D3に関して第1支持体90A及び第2支持体90Bから40cm離れた位置で、左右方向D2に関して互いに46cm離れるように配置されている。左右方向D2に関し、第1支持体90Aの中心位置と、第1誤差マイクロフォン140Aの位置とが一致し、第2支持体90Bの中心位置と、第2誤差マイクロフォン140Bの位置とが一致している。
【0154】
参照マイクロフォン130Aは、オリンパス株式会社製のME52Wである。第1誤差マイクロフォン140A及び第2誤差マイクロフォン140Bは、それぞれ、Roland株式会社製のCS―10EMのLch及びRchである。騒音源200は、株式会社ディーアンドエムホールディングス製のSC-A17である。
【0155】
[1-2.非対称配置700]
非対称配置700と対称配置600の相違は、騒音源200の位置及び向きである。具体的には、非対称配置700では、空間86の内部において、騒音源200が、高さ120cm、左右方向D2に関して第1の壁80Aから10cm離れ第2の壁80Bから80cm離れ(つまり、第1の壁80A及び第2の壁80Bの中央ではない位置に)、且つ、前後方向D3に関して第1支持体90Aから75cm離れた位置に配置されている。騒音源200は、前後方向D3の前から後ろに向かう方向から左側に45°逸れた方向に向かって音を出す向きに配置されている。
【0156】
フィルムスピーカ10と、ダイナミックスピーカ610と、を準備した。
【0157】
[2-1.フィルムスピーカ10]
図5A及び
図5Bに示す第1構成例の構成を有するフィルムスピーカ10を作製した。具体的に、第1接合層51として、不織布の両面にアクリル系粘着剤を含侵させた、厚み0.16mmの粘着シート(両面テープ)を用いた。介在層40として、エチレンプロピレンゴムとブチルゴムとを含む混和物を約10倍の発泡倍率で発泡させた、厚さ3mmで独立気泡型の発泡体を用いた。第2接合層52として、基材が不織布でありその基材の両面に無溶剤型のアクリル樹脂を含む粘着剤が塗布された、厚さ0.15mmの粘着シート(両面テープ)を用いた。圧電フィルム35として、両面に銅電極(ニッケルを含む)が蒸着されたポリフッ化ビニリデンフィルム(総厚み33μm)を用いた。サンプルE1の第1接合層51、介在層40、第2接合層52及び圧電フィルム35は、平面視で縦50cm×横35cmの寸法を有しており、平面視で輪郭が重複した非分割かつ非枠状の板状形状を有する。このようにして、フィルムスピーカ10を作製した。
【0158】
[2-2.ダイナミックスピーカ610]
ダイナミックスピーカ610として、フォスター電機株式会社製のFostex P800Kを準備した。
【0159】
(実験例A:対称配置600、フィルムスピーカ2ch)
実験例Aでは、対称配置600を採用した。2つのフィルムスピーカ10を用いた。
図7Dに示すように、第1支持体90Aの両主面のうちの空間86の外部側の主面に、第1スピーカ10Aとして、一方のフィルムスピーカ10を取り付けた。第2支持体90Bの両主面のうちの空間86の外部側の主面に、第2スピーカ10Bとして、他方のフィルムスピーカ10を取り付けた。
【0160】
長手方向DlAは、第1縦方向DvAと同じであり、すなわち上下方向D1と同じである。短手方向DsAは、第1横方向DhAと同じであり、すなわち左右方向D2と同じである。長手方向DlBは、第2縦方向DvBと同じであり、すなわち上下方向D1と同じである。短手方向DsBは、第2横方向DhBと同じであり、すなわち左右方向D2と同じである。
【0161】
第1放射面15Aの長手方向DlAの寸法LxAは、50cmである。第1放射面15Aの短手方向DsAの寸法LyAは、35cmである。第2放射面15Bの長手方向DlBの寸法LxBは、50cmである。第2放射面15Bの短手方向DsBの寸法LyBは、35cmである。
【0162】
第1上マージンM1は、5cmである。第1下マージンM2は、5cmである。第1左マージンM3は、2.5cmである。第1右マージンM4は、2.5cmである。第2上マージンM5は、5cmである。第2下マージンM6は、5cmである。第2左マージンM7は、2.5cmである。第2右マージンM8は、2.5cmである。
【0163】
騒音源200から騒音を発生させた。この騒音は、100Hz以上700Hz以下の各周波数成分を実質的に均等に含む。制御装置110に、第1アンプリファイア111A、第2アンプリファイア111B、参照マイクロフォン130A、第1誤差マイクロフォン140A及び第2誤差マイクロフォン140Bと協働して、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bを制御させた。実験例Aでは、制御装置110が第1スピーカ10Aに供給する制御信号と、制御装置110が第2スピーカ10Bに供給する制御信号とは、互いに独立したものである。そのため、制御装置110により、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bが個別に制御されうる。そのため、第1放射面15Aにおける第1音波の位相と、第2放射面15Bにおける第2音波の位相との間の位相差が調節されうる。また、第1放射面15Aにおける第1音波の振幅と、第2放射面15Bにおける第2音波の振幅との間の振幅差が調節されうる。
【0164】
実験例に係る説明では、2つのフィルムスピーカに互いに独立した制御信号を供給してそれらのフィルムスピーカを制御する態様を、「フィルムスピーカ2ch」と表記することがある。「フィルムスピーカ2ch」では、ステレオスピーカが構成される。実験例A及び実験例Bは、「フィルムスピーカ2ch」である。
【0165】
(実験例B:非対称配置700、フィルムスピーカ2ch)
実験例Bでは、対称配置600ではなく非対称配置700を採用した。この点を除き、実験例Bは、実験例Aと同じである。
【0166】
(実験例C:対称配置600、フィルムスピーカ1ch)
実験例Cでは、制御装置110が第1スピーカ10Aに供給する制御信号と、制御装置110が第2スピーカ10Bに供給する制御信号とは、同一である。そのため、第1放射面15Aにおける第1音波の位相と、第2放射面15Bにおける第2音波の位相とは、同一となる。また、第1放射面15Aにおける第1音波の振幅と、第2放射面15Bにおける第2音波の振幅とは、同一となる。実験例Cでは、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bが1つのスピーカを構成しているとみなすことができる。この点を除き、実験例Cは、実験例Aと同じである。
【0167】
実験例に係る説明では、2つのフィルムスピーカに同一の制御信号を供給してそれらのフィルムスピーカを制御する態様を、「フィルムスピーカ1ch」と表記することがある。「フィルムスピーカ1ch」では、モノラルスピーカが構成される。実験例C及び実験例Dは、「フィルムスピーカ1ch」である。
【0168】
(実験例D:非対称配置700、フィルムスピーカ1ch)
実験例Dでは、対称配置600ではなく非対称配置700を採用した。この点を除き、実験例Dは、実験例Cと同じである。
【0169】
(実験例E:対称配置600、ダイナミックスピーカ左右並び)
実験例Eでは、2つのダイナミックスピーカ610を用いた。
図7Eに示すように、第1支持体90Aの両主面のうちの空間86の外部側の主面の中心に、第1スピーカ10Aとして、一方のダイナミックスピーカ610を取り付けた。第2支持体90Bの両主面のうちの空間86の外部側の主面の中心に、第2スピーカ10Bとして、他方のダイナミックスピーカ610を取り付けた。これらの点を除き、実験例Eは、実験例Aと同じである。
【0170】
実験例に係る説明では、2つのダイナミックスピーカを左右方向D2に並べる態様を、「ダイナミックスピーカ左右並び」と表記することがある。実験例E及び実験例Fは、「ダイナミックスピーカ左右並び」である。
【0171】
(実験例F:非対称配置700、ダイナミックスピーカ左右並び)
実験例Fでは、対称配置600ではなく非対称配置700を採用した。この点を除き、実験例Fは、実験例Eと同じである。
【0172】
(実験例G:対称配置600、ダイナミックスピーカ上下並び)
図7Fに示すように、左右方向D2に関して第1スピーカ10Aの中心及び第2スピーカ10Bの中心が隙間93の中心と一致するように、上下方向D1に第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bを並べた。具体的に、上下方向D1に関し、上端部90lA及び上端部90lBよりも下方に15cmの位置に、第1スピーカ10Aを配置した。上下方向D1に関し、下端部90mA及び下端部90mBよりも上方に15cmの位置に、第2スピーカ10Bを配置した。これらの点を除き、実験例Gは、実験例Eと同じである。
【0173】
実験例に係る説明では、2つのダイナミックスピーカを上下方向D1に並べる態様を、「ダイナミックスピーカ上下並び」と表記することがある。実験例G及び実験例Hは、「ダイナミックスピーカ上下並び」である。
【0174】
(実験例H:非対称配置700、ダイナミックスピーカ上下並び)
実験例Hでは、対称配置600ではなく非対称配置700を採用した。この点を除き、実験例Hは、実験例Gと同じである。
【0175】
[3-1.フィルムスピーカを用いた場合のロバスト性の評価]
実験例A及び実験例Cにおいて、第1誤差マイクロフォン140Aにより、第1誤差マイクロフォン140Aの位置における収束時の音圧レベルの周波数特性を測定した。測定結果を、
図8Aに示す。ここで、「音圧レベル」は、
図8A~
図8D、
図9A~
図9D、
図11C~
図11D及び
図14C~
図14Dの「Relative Level」に対応する。
【0176】
なお、
図8Aにおいて、括弧書きの(A)という記載は、実験例Aのデータであることを意味する。括弧書きの(C)という記載は、実験例Cのデータであることを意味する。
図8B~
図8D、
図9A~
図9D、
図11A~
図11D及び
図14A~
図14Dの(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)、(H)、(I)、(J)、(K)及び(L)についても同様である。
【0177】
実験例B及び実験例Dにおいて、第1誤差マイクロフォン140Aにより、第1誤差マイクロフォン140Aの位置における収束時の音圧レベルの周波数特性を測定した。測定結果を、
図8Bに示す。
【0178】
実験例A及び実験例Cにおいて、第2誤差マイクロフォン140Bにより、第2誤差マイクロフォン140Bの位置における収束時の音圧レベルの周波数特性を測定した。測定結果を、
図8Cに示す。
【0179】
実験例B及び実験例Dにおいて、第2誤差マイクロフォン140Bにより、第2誤差マイクロフォン140Bの位置における収束時の音圧レベルの周波数特性を測定した。測定結果を、
図8Dに示す。
【0180】
図8A及び
図8Bの「フィルムスピーカ2ch」は、それぞれ、実験例A及び実験例Bにおいて第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図8A及び
図8Bの「フィルムスピーカ1ch」は、それぞれ、実験例C及び実験例Dにおいて第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図8C及び
図8Dの「フィルムスピーカ2ch」は、それぞれ、実験例A及び実験例Bにおいて第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
図8C及び
図8Dの「フィルムスピーカ1ch」は、それぞれ、実験例C及び実験例Dにおいて第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
【0181】
図8A~
図8Dでは、「騒音信号」も示されている。
図8Aの「騒音信号」は、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Aを改変した場合に、第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図8Bの「騒音信号」は、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Bを改変した場合に、第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図8Cの「騒音信号」は、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Aを改変した場合に、第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
図8Dの「騒音信号」は、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Bを改変した場合に、第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
【0182】
図8A~
図8Dには、「システムノイズ」も示されている。
図8Aの「システムノイズ」は、騒音源200から騒音を発生させず第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Aを改変した場合に、第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図8Bの「システムノイズ」は、騒音源200から騒音を発生させず第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Bを改変した場合に、第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図8Cの「システムノイズ」は、騒音源200から騒音を発生させず第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Aを改変した場合に、第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
図8Dの「システムノイズ」は、騒音源200から騒音を発生させず第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Bを改変した場合に、第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
【0183】
図8A~
図8Dから、対称配置600の場合は、「フィルムスピーカ2ch」でも「フィルムスピーカ1ch」でもほぼ同等の消音効果が発揮されていることが理解される。一方、非対称配置700の場合は、「フィルムスピーカ2ch」に比べ「フィルムスピーカ1ch」では300Hz以上の周波数領域で消音効果が低いことが理解される。
【0184】
さらに、実験例A~実験例Dの消音効果を、以下のように評価した。
【0185】
10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、
図8Aの「騒音信号」の音圧レベルから
図8Aの「フィルムスピーカ2ch」の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、第1誤差マイクロフォン140Aにより把握される実験例Aの消音効果と評価した。具体的には、10Hzから1000Hzまでの周波数帯域におけるN個の離散周波数について、
図8Aの「騒音信号」の音圧レベルから
図8Aの「フィルムスピーカ2ch」の音圧レベルを差し引いた。N個の離散周波数のうち、n番目の離散周波数における音圧レベルの差分をLnとしたとき、以下の数式1によって得られる差分レベルの総和Lをとった。
(数式1)L = 10×Log
10(Σ10
(Ln/10))(1≦n≦N)
この総和Lが、オーバオールレベルである。この総和Lを、第1誤差マイクロフォン140Aにより把握される実験例Aの消音効果と評価した。評価結果を
図8Eに示す。ここで、「消音効果」は、
図8E~
図8F、
図9E~
図9F、
図11A~
図11B、
図11E、
図12A~
図12B、
図14A~
図14B、
図14E及び
図15A~
図15Bの「Reduction Effect」に対応する。後述の説明のオーバオールレベルも、同様に、数式1に基づいて得たものである。
【0186】
なお、
図8Eにおいて、棒グラフ中の「A」という記載は、実験例Aのデータであることを意味する。棒グラフ中の「B」という記載は、実験例Bのデータであることを意味する。棒グラフ中の「C」という記載は、実験例Cのデータであることを意味する。棒グラフ中の「D」という記載は、実験例Dのデータであることを意味する。
図8F、
図9E、
図9F、
図11E及び
図14Eの「A」、「B」、「C」、「D」、「E」、「F」、「G」、「H」、「I」、「J」、「K」及び「L」についても同様である。
【0187】
10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、
図8Cの「騒音信号」の音圧レベルから
図8Cの「フィルムスピーカ2ch」の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、第2誤差マイクロフォン140Bにより把握される実験例Aの消音効果と評価した。評価結果を
図8Fに示す。
【0188】
10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、
図8Bの「騒音信号」の音圧レベルから
図8Bの「フィルムスピーカ2ch」の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、第1誤差マイクロフォン140Aにより把握される実験例Bの消音効果と評価した。評価結果を
図8Eに示す。
【0189】
10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、
図8Dの「騒音信号」の音圧レベルから
図8Dの「フィルムスピーカ2ch」の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、第2誤差マイクロフォン140Bにより把握される実験例Bの消音効果と評価した。評価結果を
図8Fに示す。
【0190】
10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、
図8Aの「騒音信号」の音圧レベルから
図8Aの「フィルムスピーカ1ch」の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、第1誤差マイクロフォン140Aにより把握される実験例Cの消音効果と評価した。評価結果を
図8Eに示す。
【0191】
10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、
図8Cの「騒音信号」の音圧レベルから
図8Cの「フィルムスピーカ1ch」の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、第2誤差マイクロフォン140Bにより把握される実験例Cの消音効果と評価した。評価結果を
図8Fに示す。
【0192】
10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、
図8Bの「騒音信号」の音圧レベルから
図8Bの「フィルムスピーカ1ch」の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、第1誤差マイクロフォン140Aにより把握される実験例Dの消音効果と評価した。評価結果を
図8Eに示す。
【0193】
10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、
図8Dの「騒音信号」の音圧レベルから
図8Dの「フィルムスピーカ1ch」の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、第2誤差マイクロフォン140Bにより把握される実験例Dの消音効果と評価した。評価結果を
図8Fに示す。
【0194】
図8E及び
図8Fから、「フィルムスピーカ2ch」の場合は、対称配置600でも非対称配置700でも、良好な消音効果が得られていることが理解される。一方、「フィルムスピーカ1ch」の場合は、対称配置600では良好な消音効果が得られているが、非対称配置700では対称配置600に比べ消音効果が低いことが理解される。
【0195】
なお、
図8Fでは、「フィルムスピーカ2ch」の場合、対称配置600に比べ非対称配置700では消音効果が大きいことが示されている。これは、対称配置600に比べ、非対称配置700では、空間86の内部から外部へと漏れ出る騒音が大きく、ANCによる騒音の減衰幅も大きいためであると考えられる。
【0196】
[3-2.ダイナミックスピーカを用いた場合のロバスト性の評価]
実験例E及び実験例Gにおいて、第1誤差マイクロフォン140Aにより、第1誤差マイクロフォン140Aの位置における収束時の音圧レベルの周波数特性を測定した。測定結果を、
図9Aに示す。
【0197】
実験例F及び実験例Hにおいて、第1誤差マイクロフォン140Aにより、第1誤差マイクロフォン140Aの位置における収束時の音圧レベルの周波数特性を測定した。測定結果を、
図9Bに示す。
【0198】
実験例E及び実験例Gにおいて、第2誤差マイクロフォン140Bにより、第2誤差マイクロフォン140Bの位置における収束時の音圧レベルの周波数特性を測定した。測定結果を、
図9Cに示す。
【0199】
実験例F及び実験例Hにおいて、第2誤差マイクロフォン140Bにより、第2誤差マイクロフォン140Bの位置における収束時の音圧レベルの周波数特性を測定した。測定結果を、
図9Dに示す。
【0200】
図9A及び
図9Bの「ダイナミックスピーカ左右並び」は、それぞれ、実験例E及び実験例Fにおいて第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図9A及び
図9Bの「ダイナミックスピーカ上下並び」は、それぞれ、実験例G及び実験例Hにおいて第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図9C及び
図9Dの「ダイナミックスピーカ左右並び」は、それぞれ、実験例E及び実験例Fにおいて第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
図9C及び
図9Dの「ダイナミックスピーカ上下並び」は、それぞれ、実験例G及び実験例Hにおいて第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
【0201】
図9A~
図9Dでは、「騒音信号」も示されている。
図9Aの「騒音信号」は、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Eを改変した場合に、第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図9Bの「騒音信号」は、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Fを改変した場合に、第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図9Cの「騒音信号」は、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Eを改変した場合に、第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
図9Dの「騒音信号」は、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Fを改変した場合に、第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
【0202】
図9A~
図9Dには、「システムノイズ」も示されている。
図9Aの「システムノイズ」は、騒音源200から騒音を発生させず第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Eを改変した場合に、第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図9Bの「システムノイズ」は、騒音源200から騒音を発生させず第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Fを改変した場合に、第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図9Cの「システムノイズ」は、騒音源200から騒音を発生させず第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Eを改変した場合に、第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
図9Dの「システムノイズ」は、騒音源200から騒音を発生させず第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Fを改変した場合に、第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
【0203】
図9A及び
図9Bから、非対称配置700の場合は、「ダイナミックスピーカ上下並び」に比べ「ダイナミックスピーカ左右並び」では幅広い周波数帯域にわたり消音効果が若干高いことが理解される。一方、対称配置600の場合は、「ダイナミックスピーカ上下並び」に比べ「ダイナミックスピーカ左右並び」では400Hz以上の周波数領域で消音効果が高いことが理解される。
【0204】
図9C及び
図9Dから、非対称配置700の場合は、「ダイナミックスピーカ上下並び」でも「ダイナミックスピーカ左右並び」でもほぼ同等の消音効果が発揮されていることが理解される。一方、対称配置600の場合は、「ダイナミックスピーカ上下並び」に比べ「ダイナミックスピーカ左右並び」では300Hz以上の周波数領域で消音効果が高いことが理解される。
【0205】
さらに、実験例E~実験例Hの消音効果を、以下のように評価した。
【0206】
10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、
図9Aの「騒音信号」の音圧レベルから
図9Aの「ダイナミックスピーカ左右並び」の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、第1誤差マイクロフォン140Aにより把握される実験例Eの消音効果と評価した。評価結果を
図9Eに示す。
【0207】
10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、
図9Cの「騒音信号」の音圧レベルから
図9Cの「ダイナミックスピーカ左右並び」の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、第2誤差マイクロフォン140Bにより把握される実験例Eの消音効果と評価した。評価結果を
図9Fに示す。
【0208】
10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、
図9Bの「騒音信号」の音圧レベルから
図9Bの「ダイナミックスピーカ左右並び」の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、第1誤差マイクロフォン140Aにより把握される実験例Fの消音効果と評価した。評価結果を
図9Eに示す。
【0209】
10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、
図9Dの「騒音信号」の音圧レベルから
図9Dの「ダイナミックスピーカ左右並び」の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、第2誤差マイクロフォン140Bにより把握される実験例Fの消音効果と評価した。評価結果を
図9Fに示す。
【0210】
10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、
図9Aの「騒音信号」の音圧レベルから
図9Aの「ダイナミックスピーカ上下並び」の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、第1誤差マイクロフォン140Aにより把握される実験例Gの消音効果と評価した。評価結果を
図9Eに示す。
【0211】
10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、
図9Cの「騒音信号」の音圧レベルから
図9Cの「ダイナミックスピーカ上下並び」の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、第2誤差マイクロフォン140Bにより把握される実験例Gの消音効果と評価した。評価結果を
図9Fに示す。
【0212】
10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、
図9Bの「騒音信号」の音圧レベルから
図9Bの「ダイナミックスピーカ上下並び」の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、第1誤差マイクロフォン140Aにより把握される実験例Hの消音効果と評価した。評価結果を
図9Eに示す。
【0213】
10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、
図9Dの「騒音信号」の音圧レベルから
図9Dの「ダイナミックスピーカ上下並び」の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、第2誤差マイクロフォン140Bにより把握される実験例Hの消音効果と評価した。評価結果を
図9Fに示す。
【0214】
図9E及び
図9Fから、「ダイナミックスピーカ左右並び」の場合は、対称配置600でも非対称配置700でも、良好な消音効果が得られていることが理解される。一方、「ダイナミックスピーカ上下並び」の場合は、「ダイナミックスピーカ左右並び」の場合に比べ、対称配置600でも非対称配置700でも消音効果が低いことが理解される。
【0215】
なお、
図9Fでは、「ダイナミックスピーカ左右並び」の場合も「ダイナミックスピーカ上下並び」の場合も、対称配置600に比べ非対称配置700では消音効果が大きいことが示されている。これは、対称配置600に比べ、非対称配置700では、空間86の内部から外部へと漏れ出る騒音が大きく、ANCによる騒音の減衰幅も大きいためであると考えられる。
【0216】
[3-3.ロバスト性の総合評価]
図8E、
図8F、
図9E及び
図9Fから、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bを左右方向D2に並べ且つ第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bを個別に制御することが、騒音源200の左右方向D2の位置に対するロバスト性を有するANCを実現し、広いスイートスポットを実現する観点から有利であることが理解されよう。
【0217】
[4.フィルムスピーカ vs. ダイナミックスピーカ]
フィルムスピーカ10採用時に消音効果が現れる領域の大きさと、ダイナミックスピーカ610採用時に消音効果が現れる領域の大きさとを、以下の実験例I及び実験例Jを通じて評価した。
【0218】
(実験例I)
実験例Aの実験系において、
図10A及び
図10Bに示す測定領域630を設定した。測定領域630の上下方向D1、左右方向D2及び前後方向D3の寸法は、それぞれ、60cm、80cm及び80cmである。上下方向D1に関する測定領域630の存在範囲は、第1支持体90A及び第2支持体90Bと同じである。左右方向D2に関する測定領域630の存在範囲は、隙間93を中心とする左右方向D2に80cmの範囲である。前後方向D3に関する測定領域630の存在範囲は、第1放射面15A及び第2放射面15Bの位置と、第1放射面15A及び第2放射面15Bから前方に80cm離れた位置と、の間の範囲である。なお、
図7A~
図7Cと同様、
図10A及び
図10Bでは、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bの図示は省略されている。
【0219】
測定領域630では、567個の測定点が設けられている。567個の測定点は、上下方向D1、左右方向D及び前後方向D3の各々について10cm間隔で設けられている。測定領域630は、上下方向D1に均等に7分割され、左右方向D2に均等に9分割され、前後方向D3に9分割されている。567個という測定点の数は、上下方向D1の分割数7と、左右方向D2の分割数9と、前後方向D3の分割数9との積である。
【0220】
実験例Iでは、測定用マイクロフォン640を、567個の測定点に順次移動させた。こうして、567個の測定点における消音効果を測定した。消音効果は、以下のようにして得たものである。すなわち、実験例Iにおいて、測定用マイクロフォン640により、測定用マイクロフォン640の位置における音圧レベル(以下、ANC時の音圧レベル)を測定した。また、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Iを改変し、測定用マイクロフォン640により、測定用マイクロフォン640の位置における音圧レベル(以下、騒音信号の音圧レベル)を測定した。10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、騒音信号の音圧レベルからANC時の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、消音効果とした。
【0221】
(実験例J)
第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bとして、実験例Eに倣ってダイナミックスピーカ610を用いた。この点を除き、実験例Jは、実験例Iと同じである。
【0222】
[4-1.ANCが正常に機能していることの事前確認]
実験例I及び実験例Jにおいて、第1誤差マイクロフォン140Aにより、第1誤差マイクロフォン140Aの位置における消音効果の、ANC開始時からの経時変化を測定した。測定結果を、
図11Aに示す。
図11Aの「フィルムスピーカ」は、実験例Iにおいて第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図11Aの「ダイナミックスピーカ」は、実験例Jにおいて第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
【0223】
図11Aの「フィルムスピーカ」の消音効果は、以下のようにして得たものである。すなわち、実験例Iにおいて、第1誤差マイクロフォン140Aにより、第1誤差マイクロフォン140Aの位置における音圧レベル(以下、ANC時の音圧レベル)を測定した。また、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Iを改変し、第1誤差マイクロフォン140Aにより、第1誤差マイクロフォン140Aの位置における音圧レベル(以下、騒音信号の音圧レベル)を測定した。10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、騒音信号の音圧レベルからANC時の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、「フィルムスピーカ」の消音効果とした。
【0224】
図11Aの「ダイナミックスピーカ」の消音効果は、以下のようにして得たものである。すなわち、実験例Jにおいて、第1誤差マイクロフォン140Aにより、第1誤差マイクロフォン140Aの位置における音圧レベル(以下、ANC時の音圧レベル)を測定した。また、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Jを改変し、第1誤差マイクロフォン140Aにより、第1誤差マイクロフォン140Aの位置における音圧レベル(以下、騒音信号の音圧レベル)を測定した。10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、騒音信号の音圧レベルからANC時の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、「ダイナミックスピーカ」の消音効果とした。
【0225】
実験例I及び実験例Jにおいて、第2誤差マイクロフォン140Bにより、第2誤差マイクロフォン140Bの位置における消音効果の、ANC開始時からの経時変化を測定した。測定結果を、
図11Bに示す。
図11Bの説明は、
図11Aの説明において「第1誤差マイクロフォン140A」を「第2誤差マイクロフォン140B」に読み替えたものである。
【0226】
実験例I及び実験例Jにおいて、第1誤差マイクロフォン140Aにより、第1誤差マイクロフォン140Aの位置における収束時の音圧レベルの周波数特性を測定した。測定結果を、
図11Cに示す。
【0227】
実験例I及び実験例Jにおいて、第2誤差マイクロフォン140Bにより、第2誤差マイクロフォン140Bの位置における収束時の音圧レベルの周波数特性を測定した。測定結果を、
図11Dに示す。
【0228】
図11Cの「フィルムスピーカ」は、実験例Iにおいて第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図11Cの「ダイナミックスピーカ」は、実験例Jにおいて第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図11Dの「フィルムスピーカ」は、実験例Iにおいて第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
図11Dの「ダイナミックスピーカ」は、実験例Jにおいて第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
【0229】
図11C及び
図11Dでは、「騒音信号」も示されている。
図11Cの「騒音信号」は、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Iを改変した場合に、第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図11Dの「騒音信号」は、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Iを改変した場合に、第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
【0230】
図11C及び
図11Dには、「システムノイズ」も示されている。
図11Cの「システムノイズ」は、騒音源200から騒音を発生させず第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Iを改変した場合に、第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図11Dの「システムノイズ」は、騒音源200から騒音を発生させず第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Iを改変した場合に、第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
【0231】
図11A及び
図11Bから、フィルムスピーカ10を用いた実験例Iでも、ダイナミックスピーカ610を用いた実験例Jでも、消音効果が良好に収束していることが理解される。
図11C及び
図11Dから、フィルムスピーカ10を用いた実験例Iでも、ダイナミックスピーカ610を用いた実験例Jでも、騒音の周波数帯域である100Hzから700Hzまでの帯域で消音効果が発揮されていることが理解される。
図11A~
図11Dから、収束時において、実験例Iと実験例Jとで消音効果の差が2dB程度にとどまっていることが分かる。消音効果が最適化される第1誤差マイクロフォン140Aの位置及び第2誤差マイクロフォン140Bの位置では、実験例Iと実験例Jとで消音効果がほぼ同等である。このことから、実験例I及び実験例Jの両方で、ANCが正常に機能していることが分かる。
【0232】
図11Eに、実験例I及び実験例Jの第1誤差マイクロフォン140Aの位置及び第2誤差マイクロフォン140Bの位置の収束時の消音効果を示す。
図11Eに示す消音効果は、
図11A及び
図11Bと同様、10Hzから1000Hzまでの周波数帯域におけるオーバオールレベルである。
【0233】
[4-2.消音効果が現れる領域の大きさの比較]
フィルムスピーカ10を用いた実験例Iでは、測定領域630において、
図12Aに示すような消音効果が得られていた。ダイナミックスピーカ610を用いた実験例Jでは、
図12Bに示すような消音効果が得られていた。
【0234】
実験例Iに関する
図12Aのカラーバーの右側の数値は、増幅率を指し、その単位はdBである。増幅率がXであることは、実験例Iに関する騒音信号の音圧レベルを基準として、実験例IのANC時の音圧レベルがXdB増幅されたことを表している。増幅率が負であることは、消音効果が現れていることを示す。増幅率が正であることは、反対に、騒音が増幅されていることを示す。リダクションエリア(R.A)は、測定領域630において増幅率が-6dB以下である領域が占める割合を示す。リダクションエリア(R.A)は、消音効果が良好に現れている領域と言える。実験例Iにおいて、リダクションエリアは約43.7%であった。
【0235】
実験例Jに関する
図12Bのカラーバーの右側の増幅率がXであることは、実験例Jに関する騒音信号の音圧レベルを基準として、実験例JのANC時の音圧レベルがXdB増幅されたことを表している。実験例Jにおいて、リダクションエリアは約29.6%であった。
【0236】
図12A及び
図12Bから、フィルムスピーカ10を用いた実験例Iでは、ダイナミックスピーカ610を用いた実験例Jに比べ、広い領域で消音効果が現れていることが理解されよう。
【0237】
[5.角度なし状態 vs. 角度つき状態]
角度なし状態において消音効果が現れる領域の大きさと、角度つき状態において消音効果が現れる領域の大きさとを、以下の実験例K及び実験例Lを通じて評価した。
【0238】
(実験例K)
実験例Iの実験系を、第1支持体90A及び第2支持体90Bの各々の中心の高さと、第1誤差マイクロフォン140A及び第2誤差マイクロフォン140Bの高さとが155cmとなり、上端部90lA及び上端部90lBの高さが185cmとなるように、改変した。これにより、
図13A及び
図13Bに示す、角度なし状態の実験系を構築した。実験例Kでは、測定用マイクロフォン640を、
図13A及び
図13Bに示す実験系の測定領域630の567個の測定点に順次移動させた。こうして、567個の測定点における消音効果を測定した。なお、
図7A~
図7Cと同様、
図13A及び
図13Bでは、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bの図示は省略されている。
【0239】
(実験例L)
実験例Kの実験系を、第1角度θ1及び第2角度θ2が30°である、角度あり状態の実験系に改変した。実験例Lでは、測定用マイクロフォン640を、このように改変した実験系の測定領域630の567個の測定点に順次移動させた。こうして、567個の測定点における消音効果を測定した。
【0240】
なお、
図7A~
図7Cと同様、
図13A及び
図13Bでは、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bの図示は省略されている。
図13A及び
図13Bでは、実線により示されている第1支持体90A及び第2支持体90Bが、実験例Kの第1支持体90A及び第2支持体90Bである。点線により示されている第1支持体90A及び第2支持体90Bが、実験例Lの第1支持体90A及び第2支持体90Bである。
【0241】
[5-1.ANCが正常に機能していることの事前確認]
実験例K及び実験例Lにおいて、第1誤差マイクロフォン140Aにより、第1誤差マイクロフォン140Aの位置における消音効果の、ANC開始時からの経時変化を測定した。測定結果を、
図14Aに示す。
図14Aの「扉0°」は、実験例Kにおいて第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図14Aの「扉30°」は、実験例Lにおいて第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
【0242】
図14Aの「扉0°」の消音効果は、以下のようにして得たものである。すなわち、実験例Kにおいて、第1誤差マイクロフォン140Aにより、第1誤差マイクロフォン140Aの位置における音圧レベル(以下、ANC時の音圧レベル)を測定した。また、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Kを改変し、第1誤差マイクロフォン140Aにより、第1誤差マイクロフォン140Aの位置における音圧レベル(以下、騒音信号の音圧レベル)を測定した。10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、騒音信号の音圧レベルからANC時の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、「扉0°」の消音効果とした。
【0243】
図14Aの「扉30°」の消音効果は、以下のようにして得たものである。すなわち、実験例Lにおいて、第1誤差マイクロフォン140Aにより、第1誤差マイクロフォン140Aの位置における音圧レベル(以下、ANC時の音圧レベル)を測定した。また、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Lを改変し、第1誤差マイクロフォン140Aにより、第1誤差マイクロフォン140Aの位置における音圧レベル(以下、騒音信号の音圧レベル)を測定した。10Hzから1000Hzまでの周波数帯域における、騒音信号の音圧レベルからANC時の音圧レベルを差し引いた差分のオーバオールレベルを、「扉30°」の消音効果とした。
【0244】
実験例K及び実験例Lにおいて、第2誤差マイクロフォン140Bにより、第2誤差マイクロフォン140Bの位置における消音効果の、ANC開始時からの経時変化を測定した。測定結果を、
図14Bに示す。
図14Bの説明は、
図14Aの説明において「第1誤差マイクロフォン140A」を「第2誤差マイクロフォン140B」に読み替えたものである。
【0245】
実験例K及び実験例Lにおいて、第1誤差マイクロフォン140Aにより、第1誤差マイクロフォン140Aの位置における収束時の音圧レベルの周波数特性を測定した。測定結果を、
図14Cに示す。
【0246】
実験例K及び実験例Lにおいて、第2誤差マイクロフォン140Bにより、第2誤差マイクロフォン140Bの位置における収束時の音圧レベルの周波数特性を測定した。測定結果を、
図14Dに示す。
【0247】
図14Cの「扉0°」は、実験例Kにおいて第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図14Cの「扉30°」は、実験例Lにおいて第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図14Dの「扉0°」は、実験例Kにおいて第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
図14Dの「扉30°」は、実験例Lにおいて第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
【0248】
図14C及び
図14Dでは、「騒音信号」も示されている。
図14Cの「騒音信号」は、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Kを改変した場合に、第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図14Dの「騒音信号」は、第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Kを改変した場合に、第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
【0249】
図14C及び
図14Dには、「システムノイズ」も示されている。
図14Cの「システムノイズ」は、騒音源200から騒音を発生させず第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Kを改変した場合に、第1誤差マイクロフォン140Aで測定された音圧レベルを示す。
図14Dの「システムノイズ」は、騒音源200から騒音を発生させず第1スピーカ10A及び第2スピーカ10Bから音を出さないように実験例Kを改変した場合に、第2誤差マイクロフォン140Bで測定された音圧レベルを示す。
【0250】
図14A及び
図14Bから、角度なし状態の実験例Kでも、角度つき状態の実験例Lでも、消音効果が良好に収束していることが理解される。
図14C及び
図14Dから、角度なし状態の実験例Kでも、角度つき状態の実験例Lでも、騒音の周波数帯域である100Hzから700Hzまでの帯域で消音効果が発揮されていることが理解される。
図14A~
図14Dから、収束時において、実験例Kと実験例Lとで消音効果の差が2dB程度にとどまっていることが分かる。消音効果が最適化される第1誤差マイクロフォン140Aの位置及び第2誤差マイクロフォン140Bの位置では、実験例Kと実験例Lとで消音効果がほぼ同等である。このことから、実験例K及び実験例Lの両方で、ANCが正常に機能していることが分かる。
【0251】
図14Eに、実験例K及び実験例Lの第1誤差マイクロフォン140Aの位置及び第2誤差マイクロフォン140Bの位置の収束時の消音効果を示す。
図14Eに示す消音効果は、
図14A及び
図14Bと同様、10Hzから1000Hzまでの周波数帯域におけるオーバオールレベルである。
【0252】
[5-2.消音効果が現れる領域の大きさの比較]
角度なし状態の実験例Kでは、測定領域630において、
図15Aに示すような消音効果が得られていた。角度つき状態の実験例Lでは、
図15Bに示すような消音効果が得られていた。
【0253】
実験例Kに関する
図15Aのカラーバーの右側の増幅率がXであることは、実験例Kに関する騒音信号の音圧レベルを基準として、実験例KのANC時の音圧レベルがXdB増幅されたことを表している。実験例Kにおいて、リダクションエリアは約9.5%であった。
【0254】
実験例Lに関する
図15Bのカラーバーの右側の増幅率がXであることは、実験例Lに関する騒音信号の音圧レベルを基準として、実験例LのANC時の音圧レベルがXdB増幅されたことを表している。実験例Lにおいて、リダクションエリアは約14.1%であった。
【0255】
図15A及び
図15Bから、角度つき状態の実験例Lでは、角度なし状態の実験例Kに比べ、広い領域で消音効果が現れていることが理解されよう。
【0256】
(付記)
本開示により、下記の技術が開示される。
【0257】
(技術1)
第1の壁と、
前記第1の壁に左右方向に対向する第2の壁と、
前記第1の壁及び前記第2の壁の間に位置する空間と、
前記空間から遠ざかる第1音波を放射する第1放射面を有する第1スピーカと、
前記空間から遠ざかる第2音波を放射する第2放射面を有する第2スピーカと、
を備え、
前記第1放射面の少なくとも一部と、前記第2放射面の少なくとも一部とは、前記左右方向に関して互いに異なる位置にあり、
前記第1放射面における前記第1音波と前記第2放射面における前記第2音波との差が、前記空間の内部から前記空間の外部に出ていく音に応じて変化する、
アクティブノイズコントロールシステム。
【0258】
(技術2)
前記第1放射面における前記第1音波の位相を、第1位相と定義し、
前記第1放射面における前記第1音波の音圧を、第1音圧と定義し、
前記第2放射面における前記第2音波の位相を、第2位相と定義し、
前記第2放射面における前記第2音波の音圧を、第2音圧と定義したとき、
前記第1位相及び前記第2位相の差と、前記第1音圧及び前記第2音圧の差とが、前記空間の内部から前記空間の外部に出ていく音に応じて変化する、
技術1に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【0259】
(技術3)
前記第1スピーカを支持する第1支持体と、
前記第2スピーカを支持する第2支持体と、を備え、
前記左右方向に直交する方向であって、前記空間を通り且つ前記第1放射面及び前記第2放射面の間を通る基準軸が延びる方向を、前後方向と定義し、
前記左右方向及び前記前後方向に直交する方向を、上下方向と定義したとき、
上開口部及び下開口部からなる群より選択される少なくとも1つが設けられ、
前記上開口部は、前記第1支持体の上端部、前記第2支持体の上端部、前記第1の壁及び前記第2の壁により区画され、
前記下開口部は、前記第1支持体の下端部、前記第2支持体の下端部、前記第1の壁及び前記第2の壁により区画されている、
技術1又は2に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【0260】
(技術4)
前記第1放射面及び前記第2放射面は、前記左右方向に関して前記第1の壁及び前記第2の壁の間に位置する、
技術1から3のいずれか一項に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【0261】
(技術5)
第3の壁を備え、
前記左右方向に直交する方向であって、前記空間を通り且つ前記第1放射面及び前記第2放射面の間を通る基準軸が延びる方向を、前後方向と定義したとき、
前記前後方向に関し、前記空間は、前記第1スピーカ及び前記第2スピーカの組み合わせと、前記第3の壁と、の間に位置する、
技術1から4のいずれか一項に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【0262】
(技術6)
前記左右方向に直交する方向であって、前記空間を通り且つ前記第1放射面及び前記第2放射面の間を通る基準軸が延びる方向を、前後方向と定義したとき、
前記アクティブノイズコントロールシステムは、角度つき状態を備え、
前記角度つき状態は、第1条件及び第2条件からなる群より選択される少なくとも1つが成立する状態であり、
前記第1条件は、前記第1放射面が、前記前後方向から前記基準軸側に逸れた方向に面するという条件であり、
前記第2条件は、前記第2放射面が、前記前後方向から前記基準軸側に逸れた方向に面するという条件である、
技術1から5のいずれか一項に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【0263】
(技術7)
前記第1条件は、前記第1放射面が、前記前後方向から前記基準軸側に0°よりも大きく45°以下逸れた方向に面するという条件であり、
前記第2条件は、前記第2放射面が、前記前後方向から前記基準軸側に0°よりも大きく45°以下逸れた方向に面するという条件である、
技術6に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【0264】
(技術8)
前記空間の内部に位置する少なくとも1つの参照マイクロフォンと、
前記空間の外部に位置する少なくとも1つの誤差マイクロフォンと、
前記少なくとも1つの参照マイクロフォンと、前記少なくとも1つの誤差マイクロフォンと、を用いて前記第1音波及び前記第2音波を制御する制御装置と、を備える、
技術1から7のいずれか一項に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【0265】
(技術9)
前記空間の外部に位置する第1誤差マイクロフォンと、
前記空間の外部に位置する第2誤差マイクロフォンと、
前記第1誤差マイクロフォンと、前記第2誤差マイクロフォンと、を用いて前記第1音波及び前記第2音波を制御する制御装置と、を備え、
前記第1誤差マイクロフォンの少なくとも一部と、前記第2誤差マイクロフォンの少なくとも一部とは、前記左右方向に関して互いに異なる位置にある、
技術1から8のいずれか一項に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【0266】
(技術10)
前記第1放射面は、前記第2放射面に比べ、左側に位置し、
前記第1誤差マイクロフォンは、前記第2誤差マイクロフォンに比べ、左側に位置し、
前記制御装置は、
前記第1誤差マイクロフォンを用いて前記第1音波を制御し、
前記第2誤差マイクロフォンを用いて前記第2音波を制御する、
技術9に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【0267】
(技術11)
前記空間の外部に位置する第1誤差マイクロフォンと、
前記空間の外部に位置する第2誤差マイクロフォンと、
第1騒音制御フィルタ及び第2騒音制御フィルタを含む制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記第1誤差マイクロフォン及び前記第1騒音制御フィルタを用いて前記第1音波を制御し、
前記第2誤差マイクロフォン及び前記第2騒音制御フィルタを用いて前記第1音波を制御する、
技術1から10のいずれか一項に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【0268】
(技術12)
前記第1スピーカ及び前記第2スピーカは、圧電スピーカである、
技術1から11のいずれか一項に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【0269】
(技術13)
左右方向に互いに対向する第1の壁及び第2の壁の間の空間から遠ざかる第1音波及び第2音波を形成することを含み、
前記形成は、第1領域における前記第1音波と第2領域における前記第2音波との差が、前記空間の内部から前記空間の外部に出ていく音に応じて変化するように行う、ここで、前記第1領域の少なくとも一部と、前記第2領域の少なくとも一部とは、前記左右方向に関して互いに異なる位置にある、
アクティブノイズコントロール方法。
【符号の説明】
【0270】
10,10A,10B,310,610 スピーカ
15,15A,15B 放射面
15jA,15kA,15lA,15mA,15jB,15kB,15lB,15mB,80fA,80lA,80mA,80fB,80lB,80mB,80lC,80mC,90jA,90kA,90lA,90mA,90jB,90kB,90lB,90mB 端部
17,117 固定面
30 圧電体
35 圧電フィルム
38 主面
40,140 介在層
51,52 接合層
61,62 電極
80 構造物
80A,80B,80C 壁
85 床
86 空間
87,88 開口部
95 デスク
95t 天板
110 制御装置
111A,111B アンプリファイア121A,121B 騒音制御フィルタ
130A,130B,140A,140B マイクロフォン
200 騒音源
200w0,200w1,200w2 波面
500 ANCシステム
630 測定領域
D1,D2,D3,DvA,DhB,DvA,DhB,DtA,DtB,DlA,DlB,DsA,DsB 方向
O 基準軸