(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128836
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】時刻配信装置、同期システム、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04L 7/00 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
H04L7/00 990
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038086
(22)【出願日】2023-03-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】313006647
【氏名又は名称】セイコーソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 幸治
【テーマコード(参考)】
5K047
【Fターム(参考)】
5K047AA18
5K047BB15
(57)【要約】
【課題】時刻配信装置を複数台備える冗長構成において、装置間での時刻差が生じないように装置時計を調整する。
【解決手段】時刻配信装置は、他の時刻配信装置から有線通信を介して入力される位相信号に、他の時刻配信装置の時計の所定の周期で含まれる同期タイミングで、周波数信号発生器が発生する特定の周波数の信号に基づく自装置の時計から、時刻を取得し、取得した時刻が、同期タイミングについて予め定められた時刻となるように、自装置の時計を補正する第1時計補正部と、第1時計補正部により補正した自装置の時計と、有線通信とは異なる通信を介して得られる他の時刻配信装置の時計との時刻差を測定する時差測定部と、測定された時刻差と、所定の周期に基づいて、所定の周期を単位としたずれに対応する時刻差だけ、自装置の時計を補正する第2時計補正部と、自装置の時計で得られる時刻を、外部に配信する時刻配信部と、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の時刻配信装置から有線通信を介して入力される位相信号に所定の周期で含まれる同期タイミングで、自装置の時計から時刻を取得し、
前記取得した時刻が、前記同期タイミングについて予め定められた時刻となるように、自装置の時計を補正する第1時計補正部と、
前記第1時計補正部により補正した自装置の時計と、前記有線通信とは異なる通信を介して得られる前記他の時刻配信装置の時計との時刻差を測定する時差測定部と、
前記測定された時刻差と、前記所定の周期とに基づいて、前記所定の周期を単位としたずれに対応する時刻差だけ、自装置の時計を補正する第2時計補正部と、
自装置の時計で得られる時刻を、外部に配信する時刻配信部と、
を含む時刻配信装置。
【請求項2】
周波数信号発生器が発生する特定の周波数の信号に基づき、自装置の時計を進める請求項1記載の時刻配信装置。
【請求項3】
前記第1時計補正部は、予め求められた、有線通信に由来した遅延時間に基づいて、所定の周期で含まれる同期タイミングを検出した時刻が、前記同期タイミングについて予め定められた時刻となるように、自装置の時計を補正する請求項1記載の時刻配信装置。
【請求項4】
少なくとも1つがマスタ時刻配信装置として機能し、残りがスレーブ時刻配信装置として機能する複数の時刻配信装置を含む同期システムであって、
前記マスタ時刻配信装置は、
前記スレーブ時刻配信装置に対して、第1の時刻に、有線通信を介して第1の位相信号を出力し、
前記スレーブ時刻配信装置は、
前記マスタ時刻配信装置から有線通信を介して入力される前記第1の位相信号に所定の周期で含まれる同期タイミングで、自装置の時計から時刻を取得し、
前記第1の位相信号の入力時刻に遅延時間がないと仮定して、前記取得した時刻が、前記同期タイミングについて予め定められた時刻となるように、自装置の時計を補正し、
前記補正された自装置の時計に基づき、前記所定の周期で同期タイミングを含む第2の位相信号を、前記有線通信を介して前記マスタ時刻配信装置へ出力し、
前記マスタ時刻配信装置は、前記スレーブ時刻配信装置から有線通信を介して入力される前記第2の位相信号に前記所定の周期で含まれる同期タイミングで、自装置の時計から第2の時刻を取得し、
前記第1の時刻と前記第2の時刻との時刻差を所定の周期で割った余りの時間に基づいて、前記有線通信に由来した遅延時間を推定し、前記スレーブ時刻配信装置に前記推定した遅延時間を送信する、
同期システム。
【請求項5】
少なくとも1つがマスタ時刻配信装置として機能し、残りがスレーブ時刻配信装置として機能する複数の時刻配信装置を含む同期システムであって、
前記複数の時刻配信装置の各々は、
自装置の時計で得られる時刻を外部に配信する時刻配信部と、
自装置がスレーブ時刻配信装置として機能する場合、マスタ時刻配信装置から有線通信を介して入力される位相信号に、マスタ時刻配信装置の時計の所定の周期で含まれる同期タイミングで、自装置の時計から、時刻を取得し、
前記取得した時刻が、前記同期タイミングについて予め定められた時刻となるように、自装置の時計を補正する第1時計補正部と、
自装置がスレーブ時刻配信装置として機能する場合、前記第1時計補正部により補正した自装置の時計と、前記有線通信とは異なる通信を介して得られるマスタ時刻配信装置の時計との時刻差を測定する時差測定部と、
自装置がスレーブ時刻配信装置として機能する場合、前記測定された時刻差と、前記所定の周期とに基づいて、前記所定の周期を単位としたずれに対応する時刻差だけ、自装置の時計を補正する第2時計補正部と、
を備えており、
前記時刻配信部は、自装置がマスタ時刻配信装置として機能する場合、自装置の時計で得られる時刻を外部に配信し、
自装置がスレーブ時刻配信装置として機能する場合、前記第2時計補正部で補正した自装置の時計で得られる時刻を外部に配信する
同期システム。
【請求項6】
前記第1時計補正部は、予め求められた、有線通信に由来した遅延時間に基づいて、所定の周期で含まれる同期タイミングを検出した時刻が、前記同期タイミングについて予め定められた時刻となるように、自装置の時計を補正する請求項5記載の同期システム。
【請求項7】
前記複数の時刻配信装置の各々は、周波数信号発生器が発生する特定の周波数の信号に基づき、自装置の時計を進める請求項5又は6記載の同期システム。
【請求項8】
コンピュータを、請求項1~請求項3の何れか1項記載の時刻配信装置の各部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時刻配信装置、同期システム、及びプログラムに係り、特に、時刻を配信する時刻配信装置、同期システム、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
PTP(Precision Time Protocol) GrandMaster(GM)のような時刻を配信する機器は、冗長化のためにシステム内に複数設置するのが通常であり、一般的には各GMでGNSS(Global Navigation Satellite System)に同期する(GNSSから時刻、位相、周波数を得る)ことで、GM間の時刻差はGNSS同期精度以内に抑え、装置間における高精度な時刻同期を実現している。
【0003】
また、特許文献1では、複数のマスタノードと、ローカルマスタクロックと時刻同期することによって、ローカルスレーブクロックに対する補正を実行するように構成されたスレーブノードとを備え、第1のマスタノードは、所定の周期で、ソースクロックノードからのタイミング同期信号と同期することによって、第1のローカルマスタクロックに対する補正を実行し、ソースクロックを基準に、第2のローカルマスタクロックが、第1のローカルマスタクロックよりも誤差が大きい場合、第2のマスタノードは、第1のローカルマスタクロックと時刻同期することによって第1の補正を実行し、第1のローカルマスタクロックを基準に、第2のローカルマスタクロックの誤差が所定の範囲内にあることを条件に、ソースクロックノードからのタイミング同期信号と同期することによって第2の補正を実行する時刻同期システムが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
時刻同期には、時刻、位相、周波数の3つの同期要素を装置間で合わせる必要があるが、GNSSが使用できず共通の同期要素が周波数のみの環境下においては、NTP(Network Time Protocol)などの時刻同期プロトコルを使用しても、ナノ秒単位の高精度な時刻同期は不可能である。
【0006】
高精度な時刻同期が出来てないと、GMが切り替わったときに配信する時刻差が生じて、GMから時刻を受信している装置の制御に大きな影響を与えてしまう。また、GMから受信した時刻を基に位相信号を出力している場合などは、位相が急にシフトする事象が発生してしまう。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するために成されたものであり、時刻配信装置を複数台備える冗長構成において、装置間で時刻差が生じないように装置時計を調整することができ、複数の装置間で同じ時刻を配信することができる時刻配信装置、同期システム、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る時刻配信装置は、他の時刻配信装置から有線通信を介して入力される位相信号に所定の周期で含まれる同期タイミングで、自装置の時計から時刻を取得し、前記取得した時刻が、前記同期タイミングについて予め定められた時刻となるように、自装置の時計を補正する第1時計補正部と、前記第1時計補正部により補正した自装置の時計と、前記有線通信とは異なる通信を介して得られる前記他の時刻配信装置の時計との時刻差を測定する時差測定部と、前記測定された時刻差と、前記所定の周期とに基づいて、前記所定の周期を単位としたずれに対応する時刻差だけ、自装置の時計を補正する第2時計補正部と、自装置の時計で得られる時刻を、外部に配信する時刻配信部と、を含んで構成されている。
【0009】
ここで、位相信号に含まれる同期タイミングは、所定の周期であり、その時刻が予め定められている。
【0010】
この発明によれば、複数の時刻配信装置のそれぞれで、有線通信を介して入力される位相信号に含まれる同期タイミングを用いて自装置の時計を補正した場合に、複数の時刻配信装置間のずれが、同期タイミングの周期を単位としたずれに対応することを利用して、所定の周期を単位としたずれに対応する時刻差だけ、自装置の時計を補正する。これにより、時刻配信装置を複数台備える冗長構成において、装置間で時刻差が生じないように装置時計を調整することができ、複数の装置間で同じ時刻を配信することができる。
【0011】
また、時刻配信装置において、周波数信号発生器が発生する特定の周波数の信号に基づき、自装置の時計を進めることができる。
【0012】
また、時刻配信装置において、前記第1時計補正部は、予め求められた、有線通信に由来した遅延時間に基づいて、所定の周期で含まれる同期タイミングを検出した時刻が、前記同期タイミングについて予め定められた時刻となるように、自装置の時計を補正することができる。
【0013】
また、本発明の同期システムは、少なくとも1つがマスタ時刻配信装置として機能し、残りがスレーブ時刻配信装置として機能する複数の時刻配信装置を含む同期システムであって、前記マスタ時刻配信装置は、前記スレーブ時刻配信装置に対して、第1の時刻に、有線通信を介して第1の位相信号を出力し、前記スレーブ時刻配信装置は、前記マスタ時刻配信装置から有線通信を介して入力される前記第1の位相信号に所定の周期で含まれる同期タイミングで、自装置の時計から時刻を取得し、前記第1の位相信号の入力時刻に遅延時間がないと仮定して、前記取得した時刻が、前記同期タイミングについて予め定められた時刻となるように、自装置の時計を補正し、前記補正された自装置の時計に基づき、前記所定の周期で同期タイミングを含む第2の位相信号を、前記有線通信を介して前記マスタ時刻配信装置へ出力し、前記マスタ時刻配信装置は、前記スレーブ時刻配信装置から有線通信を介して入力される前記第2の位相信号に前記所定の周期で含まれる同期タイミングで、自装置の時計から第2の時刻を取得し、前記第1の時刻と前記第2の時刻との時刻差を所定の周期で割った余りの時間に基づいて、前記有線通信に由来した遅延時間を推定し、前記スレーブ時刻配信装置に前記推定した遅延時間を送信する。
【0014】
また、本発明の同期システムは、少なくとも1つがマスタ時刻配信装置として機能し、残りがスレーブ時刻配信装置として機能する複数の時刻配信装置を含む同期システムであって、前記複数の時刻配信装置の各々は、自装置の時計で得られる時刻を外部に配信する時刻配信部と、自装置がスレーブ時刻配信装置として機能する場合、マスタ時刻配信装置から有線通信を介して入力される位相信号に、マスタ時刻配信装置の時計の所定の周期で含まれる同期タイミングで、自装置の時計から、時刻を取得し、前記取得した時刻が、前記同期タイミングについて予め定められた時刻となるように、自装置の時計を補正する第1時計補正部と、自装置がスレーブ時刻配信装置として機能する場合、前記第1時計補正部により補正した自装置の時計と、前記有線通信とは異なる通信を介して得られるマスタ時刻配信装置の時計との時刻差を測定する時差測定部と、自装置がスレーブ時刻配信装置として機能する場合、前記測定された時刻差と、前記所定の周期とに基づいて、前記所定の周期を単位としたずれに対応する時刻差だけ、自装置の時計を補正する第2時計補正部と、を備えており、前記時刻配信部は、自装置がマスタ時刻配信装置として機能する場合、自装置の時計で得られる時刻を外部に配信し、自装置がスレーブ時刻配信装置として機能する場合、前記第2時計補正部で補正した自装置の時計で得られる時刻を外部に配信する。
【0015】
また、本発明のプログラムは、コンピュータを、本発明の時刻配信装置の各部として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、時刻配信装置を複数台備える冗長構成において、装置間で時刻差が生じないように装置時計を調整することができ、複数の装置間で同じ時刻を配信することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係る同期システムの一例を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る時刻配信装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】同期タイミングを用いた時刻補正を説明するための図である。
【
図4】装置間で時刻差を測定するための処理の流れを示すシーケンス図である。
【
図5】マスタ時刻配信装置とスレーブ時刻配信装置との間で時刻同期を行う例を示す図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係る時刻配信装置の時刻補正処理のフローチャートを示す図である。
【
図7】マスタ時刻配信装置が故障した場合の装置間のやりとりを説明するための図である。
【
図8】有線通信の遅延時間を推定する方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
まず、本発明の実施の形態の概要を説明する。
【0020】
本発明の実施の形態では、共通の周波数信号(10MHz)のみの入力で時刻配信装置間の時刻同期を実現する。
【0021】
具体的には、時刻配信装置を複数台備える冗長構成とし、時刻配信装置間で代表装置(マスタ時刻配信装置)と従属装置(スレーブ時刻配信装置)に分ける。共通の同期要素が周波数のみの環境下においても、時刻配信装置間で時刻同期させ時刻配信装置間の時刻差を解消することで、時刻配信する時刻配信装置が切り替わった場合も、同期システム全体への影響を抑える。
【0022】
<本発明の実施の形態のシステム構成>
本発明の実施の形態に係る同期システムの構成について説明する。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る同期システム100は、周波数信号発生器10と、時刻配信装置20、22と、スイッチ装置24、26と、時刻終端装置28、29とを備えている。周波数信号発生器10と時刻配信装置20の間、周波数信号発生器10と時刻配信装置22の間、及び時刻配信装置20と時刻配信装置22の間は、それぞれ有線で接続されている。また、時刻配信装置20、時刻配信装置22、スイッチ装置24、26、及び時刻終端装置28、29は、イーサネット(登録商標)などのLAN(Local Area Network)を介して接続されている。
【0023】
周波数信号発生器10は、電気信号である特定の周波数(例えば、10MHz)の信号を、有線通信で時刻配信装置20及び時刻配信装置22に出力する。
【0024】
時刻配信装置20、22は、設定により、一方が、マスタ時刻配信装置として機能し、他方が、スレーブ時刻配信装置として機能する。本実施の形態では、時刻配信装置20がマスタ時刻配信装置として機能するように設定され、時刻配信装置22がスレーブ時刻配信装置として機能するように設定されている場合を例に説明する。
【0025】
すなわち、マスタ時刻配信装置としての時刻配信装置20は、自装置の時刻を、スイッチ装置24を介して、PTPで配信し、時刻情報を時刻終端装置28、29に配信する。スレーブ時刻配信装置としての時刻配信装置22は、時刻配信装置20が故障等により時刻情報を配信できない場合に、時刻配信装置20に代わって、スイッチ装置26を介して、PTPで時刻情報を時刻終端装置28、29に配信する。
【0026】
スイッチ装置24、26は、PTPに対応したスイッチ装置である。
【0027】
時刻終端装置28、29が出力する位相信号は、同期している必要がある。
【0028】
本実施の形態における時刻配信装置20、22は、CPUと、RAMと、後述する各種処理ルーチンを実行するためのプログラムや各種データを記憶したROMと、を含むコンピュータで構成することが出来る。この時刻配信装置20、22は、機能的には
図2に示すように、入力部30と、通信部32と、装置時計34と、タイミング信号検出部36と、時計補正部38と、時刻補正計算部40と、ケーブル遅延情報設定部42と、時差測定部44と、周期差計算部46と、周期情報設定部48とを備えている。通信部32が、時刻配信部の一例であり、時計補正部38と、時刻補正計算部40とが、第1時計補正部の一例であり、時計補正部38と、周期差計算部46とが、第2時計補正部の一例である。なお、以下では、スレーブ時刻配信装置である時刻配信装置22の各構成について説明する。
【0029】
入力部30には、周波数信号発生器10から出力された電気信号である特定の周波数(例えば、10MHz)の信号が、有線通信を介して入力される。
【0030】
また、入力部30には、マスタ時刻配信装置である他の時刻配信装置20から出力された位相信号(1PPS(Pulse Per Second)信号)が、有線通信を介して入力される。なお、本実施形態では、1秒周期で正秒のタイミングで出力される1PPS信号を使用するが、周期性を持ち且つPPS信号が出力されるタイミングが時刻配信装置間で取り決められていれば、1PPS信号に限らない。
【0031】
位相信号生成部49は、装置時計34の正秒のタイミングで位相信号(1PPS信号)を生成する。
出力部50は、位相信号生成部49により生成された位相信号(1PPS信号)を、有線通信を介して時刻配信装置20へ出力する。
【0032】
通信部32は、装置間の時刻差を測定するために、時刻配信装置20との間で通信を行うと共に、装置時計34で得られる時刻を時刻終端装置28、29へ配信するためにスイッチ装置26との間で通信を行う。
【0033】
装置時計34は、自装置の時刻源である。装置時計34は、周波数信号発生器10から出力された特定の周波数の信号を用いて、時計を進める。
【0034】
タイミング信号検出部36は、入力された位相信号に所定の周期(例えば、1秒ごと)で含まれる同期タイミングを検出し、検出したタイミングを装置時計34に通知する。装置時計34は、当該タイミングが通知されると、時刻をラッチして、時刻補正計算部40へ出力する。ここで、「時刻をラッチする」とは、その時点の時刻を取得することを意味する。
【0035】
例えば、
図3に示すように、1PPS信号の同期タイミング(1PPS信号のパルスタイミング)の各々を検出したタイミングで、装置時計34で得られる時刻をラッチする。
【0036】
時計補正部38は、時刻補正計算部40及び周期差計算部46の各々から得られる補正量の指示に基づいて、装置時計34の時刻を補正する。
【0037】
ケーブル遅延情報設定部42には、マスタ時刻配信装置である時刻配信装置20との有線通信に起因した遅延時間が予め設定されている。
【0038】
時刻補正計算部40は、タイミング信号検出部36で検出された同期タイミングに応じて装置時計34でラッチされた時刻と、ケーブル遅延情報設定部42に設定された遅延時間とに基づいて、装置時計34でラッチした同期タイミングの時刻が、同期タイミングについて予め定められた時刻となるように、装置時計34の時刻の補正量を計算する。
【0039】
例えば、
図3に示すように、1PPS信号の同期タイミング(パルスタイミング)に応じて装置時計34でラッチされた時刻T
S0(199.9)と、時刻T
S0に最も近い予め定められた時刻T
S1(200.0)との差分t
d1を算出し、さらに、差分t
d1に有線通信の遅延時間t
d0を加えた時差t
d2を算出し、時刻T
S1に時差t
d2を加えた時刻T
S2(200.0+t
d0)が、入力された1PPS信号の同期タイミングに一致するように、装置時計34の時刻の補正量を計算する(
図3のStep1参照)。ここで、信号が1PPS信号である場合、「同期タイミングについて予め定められた時刻」とは、装置時計34の時刻で、199.0秒や200.0秒といった秒未満が0となる正秒の時刻とのことであり、単位は秒である。
【0040】
この補正量に従って時計補正部38が補正することにより、マスタ時刻配信装置である時刻配信装置20の1PPS信号の同期タイミングの時刻TM0(100.0)と、装置時計34でラッチされる、1PPS信号の同期タイミングの時刻TS2(200.0+td0)の位相(同期タイミング)とは一致する。
【0041】
時差測定部44は、通信部32による時刻配信装置20との通信を用いて、時刻配信装置20の時計との時刻差を測定する(
図3のStep2参照)。
【0042】
具体的には、
図4に示すように、まず、時刻配信装置22から、パケット送信時の装置時計34の時刻を表すタイムスタンプT1を含む時刻取得要求を、時刻配信装置20へ送信する。次に、時刻配信装置20は、タイムスタンプT1を含む時刻取得要求を受信した時刻を、タイムスタンプT2として時刻配信装置20の装置時計34で取得し、記録する。そして、時刻配信装置20は、タイムスタンプT2と、パケット送信時の時刻配信装置20の装置時計34の時刻を表すタイムスタンプT3とを含む時刻応答を、時刻配信装置22へ送信する。次に、時刻配信装置22は、タイムスタンプT2、T3を含む時刻応答を受信した時刻を、タイムスタンプT4として装置時計34で取得し、記録する。
【0043】
そして、時差測定部44は、以下の式に従って、時刻配信装置22を基準とした時刻差Td3を計算する。
【0044】
Td3=(T3-T4)+((T4-T1)-(T3-T2))/2
【0045】
ここで、上記で計算されるTd3は、必ず測定誤差を含むため、時刻配信装置22の装置時計34を、Td3で補正しても、時刻配信装置20の装置時計34とは一致しない。
【0046】
周期差計算部46は、時差測定部44により測定された時刻差と、周期情報設定部48で設定されたPPS周期(所定の周期、例えば、1秒)の長さとに基づいて、当該時刻差について、PPS周期単位でのずれでカウントした場合、何PPS周期分のずれに対応するかを計算し、計算されたPPS周期の数の分だけ補正するための装置時計34の時刻の補正量を、時計補正部38へ出力する。すなわち、PPS周期を単位としたずれに対応する時刻差だけ、自装置の時計を補正する(
図3のStep3参照)。
【0047】
そこで、周期差計算部46は、時差測定部44で測定した時刻差Td3と、周期情報設定部48で予め設定されているPPS周期を用いて、PPS周期×N(N=0,1,…)が、Td3に最も近くなるときのNを算出する。ここで、PPS周期×N(N=0,1,…)が、Td3に最も近くなるときのNを算出するため、PPS周期の半分(すなわち、500ms)まで、時刻配信装置20、22の間での時刻差の誤差が許容される。
【0048】
そして、Nの値からPPS周期ズレに対応する時刻差を算出し、時刻配信装置22の装置時計34の時刻の補正量とする。この補正量に従って、時計補正部38が、装置時計34の時刻を補正すると、装置時計34の時刻が、N個のPPS周期分ずらされ、時刻配信装置20、22の間でのPPS周期ズレが解消する。例えば、
図3に示すように、時刻配信装置22の装置時計34の時刻が、100のPPS周期分ずらされ、時刻配信装置20、22の間でのPPS周期ズレが解消する。
【0049】
周期情報設定部48には、PPS周期の長さが予め設定されている。
【0050】
上記では、スレーブ時刻配信装置の構成について説明したが、時刻配信装置20、22が、マスタ時刻配信装置である場合には、入力部30と、通信部32と、装置時計34と、出力部50とを備え、タイミング信号検出部36と、時計補正部38と、時刻補正計算部40と、ケーブル遅延情報設定部42と、時差測定部44と、周期差計算部46と、周期情報設定部48とが省略される。
【0051】
<本発明の実施の形態の作用>
次に、本発明の実施の形態の時刻配信装置20、22による処理について
図5、
図6を参照して説明する。
【0052】
まず、
図5に示すように、周波数信号発生器10から出力された電気信号である特定の周波数の信号が、時刻配信装置20、22に入力されているものとする。また、時刻配信装置20、22間では、相互に1PPS信号が入出力されるよう接続されているものとする。ここで、時刻配信装置20、22の各々が起動されると、冗長プロトコルにより、時刻配信装置20、22について、マスタ時刻配信装置とするか、スレーブ時刻配信装置とするかを決定する(Step0)。この決定は特定のアルゴリズムにより決定してもいいし、設定により固定的に決定しても良い。特定のアルゴリズムとしては、先に時刻同期した装置を優先して、マスタ時刻配信装置として決定してもよいし、装置起動後の経過時間に応じて、マスタ時刻配信装置を決定してもよい。
【0053】
そして、時刻配信装置20、22の各々は、
図6に示す時刻補正処理ルーチンを実行する。
【0054】
まず、ステップS100において、自装置が、マスタ時刻配信装置として設定されているか、スレーブ時刻配信装置として設定されているかを判定する。スレーブ時刻配信装置として設定されている場合には、ステップS102へ移行し、初期時刻設定を行う。一方、マスタ時刻配信装置として設定されている場合には、マスタ時刻配信装置としての動作を開始する。
【0055】
そして、ステップS104において、入力されている1PPS信号及び特定の周波数の信号との同期がとれているか否かを判定する。1PPS信号及び特定の周波数の信号との同期がとれていない場合には、1PPS信号及び特定の周波数の信号との同期がとれるまで待機し、1PPS信号及び特定の周波数の信号との同期がとれると、ステップS106へ進む。ここで、「同期が取れている」とは、信号を正常に受信出来ていることをいう。
【0056】
このとき、1PPS信号との同期がとれると、タイミング信号検出部36は、入力された1PPS信号に所定の周期で含まれる同期タイミングを検出し、検出したタイミングを装置時計34に通知する。装置時計34は、当該タイミングが通知されると、時刻をラッチして、時刻補正計算部40へ出力する。
【0057】
ステップS106では、時刻補正計算部40は、タイミング信号検出部36で検出された同期タイミングに応じて装置時計34でラッチされた時刻と、ケーブル遅延情報設定部42に設定された遅延時間と、同期タイミングについて予め定められた時刻とに基づいて、装置時計34でラッチした同期タイミングの時刻が、同期タイミングについて予め定められた時刻となるように、装置時計34の時刻の補正量を計算する。
【0058】
そして、時計補正部38は、時刻補正計算部40から得られる補正量の指示に基づいて、装置時計34の時刻を補正する(
図5のStep1参照)。
【0059】
ステップS108では、時差測定部44は、通信部32による時刻配信装置20との通信を用いて、時刻配信装置20の時計との時刻差を測定する。具体的には、
図5のStep2に示すように、マスタ時刻配信装置に対して、時刻取得要求を送信し、時刻応答を受信して、時刻配信装置20の時計との時刻差を測定する。
【0060】
ステップS110では、周期差計算部46は、時差測定部44により測定された時刻差と、周期情報設定部48で設定されたPPS周期の長さとに基づいて、当該時刻差について、PPS周期単位でのずれでカウントする。このずれをPPS周期差とする。
【0061】
ステップS112では、周期差計算部46は、何PPS周期分のずれに対応するかのカウント値に基づいて、PPS周期差のずれがあるか否かを判定する。PPS周期差のずれがない場合には、自装置の時計の補正が必要ないと判断し、冗長同期が完了したとして、スレーブ時刻配信装置としての動作を開始する。
【0062】
一方、PPS周期差のずれがある場合には、ステップS114において、周期差計算部46は、何PPS周期分のずれに対応するかのカウント値に基づいて、計算されたPPS周期の数の分だけ補正するための装置時計34の時刻の補正量を、時計補正部38へ出力する。
【0063】
そして、ステップS116において、時計補正部38は、PPS周期を単位としたずれに対応する時刻差だけ、自装置の時計を補正し(
図5のStep3参照)、冗長同期が完了したとして、スレーブ時刻配信装置としての動作を開始する。
【0064】
また、
図7に示すように、マスタ時刻配信装置である時刻配信装置20が故障した場合には、スレーブ時刻配信装置である時刻配信装置22が、時刻配信装置20に対して、時刻取得要求を送信したときの応答待ちのタイムアウトにより、時刻配信装置20が故障していると判断する(Step10)。そして、時刻配信装置22がマスタ時刻配信装置に切り替わる(Step11)。このとき、時刻配信装置20と時刻配信装置22とは、前述したように同期済で冗長同期状態であるため、配信する時刻について位相差は無い。よって、時刻配信装置20に時刻同期していた端末(時刻終端装置28、29)が、時刻配信装置22の時刻同期に遷移しても時刻飛びなどの影響を排除できる。
【0065】
そして、時刻配信装置20が故障から復旧すると、時刻配信装置20、22について、マスタ時刻配信装置とするか、スレーブ時刻配信装置とするかを決定する際に、決定アルゴリズムによりマスタ時刻配信装置が決定される。このとき、マスタ時刻配信装置に時刻同期している端末への影響を考慮すると、「先に時刻同期した装置優先」として後から起動(故障復旧)した装置は、スレーブ時刻配信装置に遷移するのが一般的である。
【0066】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る同期システムによれば、共通の周波数信号に基づく装置時計を有する複数の時刻配信装置のそれぞれで、有線通信を介して入力される1PPS信号のパルスタイミングを用いて自装置の時計を補正した場合に、複数の時刻配信装置間のずれが、PPS周期を単位としたずれに対応することを利用して、PPS周期を単位としたずれに対応する時刻差だけ、自装置の時計を補正する。これにより、時刻配信装置を複数台備える冗長構成において、共通の周波数信号に基づく装置時計を有する装置間で時刻差が生じないように装置時計を調整することができ、複数の装置間で同じ時刻を配信することができる。
【0067】
また、共通の同期要素が周波数のみの環境下においても、時刻配信装置で時刻同期させ時刻配信装置間の時刻差を解消することで、時刻配信する時刻配信装置が切り替わった場合も、同期システム全体への影響を抑えることができる。
【0068】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0069】
例えば、上述した実施の形態では、ケーブル遅延情報設定部42には、マスタ時刻配信装置との有線通信での予め求められた遅延時間が設定されている場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。マスタ時刻配信装置との有線通信での遅延時間を推定するようにしてもよい。この場合には、時刻配信装置は、更に遅延時間推定部を含む。遅延時間推定部は、マスタ時刻配信装置の装置時計から、所定の周期で第1時刻を取得し、マスタ時刻配信装置から有線通信を介して入力される位相信号(1PPS信号)に所定の周期で含まれる同期タイミングで、自装置の時計から、時刻を取得し、遅延時間がないと仮定して、取得した時刻が、同期タイミングについて予め定められた時刻となるように、自装置の時計を補正する。そして、スレーブ時刻配信装置は、補正された自装置の時計の所定の周期で同期タイミングを含む位相信号(1PPS信号)を、有線通信を介してマスタ時刻配信装置へ出力し、マスタ時刻配信装置において入力される位相信号(1PPS信号)に所定の周期で含まれる同期タイミングで、マスタ時刻配信装置の装置時計から、第2時刻を取得し、第1時刻と第2時刻との時刻差を所定の周期で割った余りの時間に基づいて、遅延時間を推定する。そして、時刻補正計算部40は、遅延時間推定部により推定された遅延時間を用いて、装置時計の時刻の補正量を計算する。
【0070】
ここで、第1時刻はマスタ時刻配信装置が1PPS信号を発した時刻であり、第2時刻はスレーブ時刻配信装置が発した1PPS信号をマスタ時刻配信装置が受信した時刻であるが、例えばスレーブ時刻配信装置内での種々の処理に時間がかかった場合には、スレーブ時刻配信装置は、位相信号をマスタ時刻配信装置に対して、即、返すことができないこともある。つまり、第2時刻と第1時刻の時刻差が、ケーブル遅延の2倍になるとは限らない(スレーブ時刻配信装置内部の処理遅延が含まれることもある)。ただし、その場合でも、スレーブ時刻配信装置から1PPS信号が送信されるタイミングは所定の周期(1秒)であるため、第1時刻と第2時刻との時刻差のうち、秒単位の時間は、スレーブ時刻配信装置の処理遅延に由来するものであり、秒未満の時間(位相信号のずれの時間(位相差))がケーブルに由来する遅延である。そこで、本実施形態では、時刻差を所定の周期で割った余りの時間を用いて遅延時間を推定する。本実施形態では、所定の周期は1PPS(1秒)であり、且つ、正秒のタイミングであるため、時刻差を所定の周期で割った余りの時間とは、秒未満の時間となる。よって、第1時刻と第2時刻との時刻差を所定の周期で割った余りの時間に基づいて、遅延時間を推定できる。なお、「時刻差を所定の周期で割った余りの時間」とは、時刻差から、所定の周期単位の時間を減算したときの残りの時間である。
【0071】
例えば、
図8に示すように、マスタ時刻配信装置は、予め決められたタイミングで1PPS信号を出力する。スレーブ時刻配信装置は有線通信の遅延値T
d0だけ遅れて1PPS信号を受信するが、ここでは、その遅延値が0であるものとして、同期動作を開始する。そして、スレーブ時刻配信装置は、有線通信の遅延時間が0であるとして、マスタ時刻配信装置との間の時刻同期動作を開始し、1PPS信号のパルスタイミングに応じて装置時計34でラッチされた時刻T
S0(199.9)と、パルスタイミングについて予め定められた時刻T
S1(200.0)との差分t
d1を算出し、さらに、差分t
d1だけ、装置時計34の時刻を補正する(
図8のStep1参照)
【0072】
そして、マスタ時刻配信装置は、スレーブ時刻配信装置から出力される1PPS信号の位相と自装置の装置時計との位相差から、有線通信の遅延値td0’を算出する。有線通信の遅延値td0、td0’の和を、双方向の有線通信の遅延時間の合計値TRTDとし、双方向の有線通信の遅延時間の合計値TRTDの1/2を片方向の有線通信の遅延時間として推定する。ここで、双方向の有線通信のケーブル長は同じであることが前提である。なお、双方向の有線通信のケーブル長が異なる場合には、双方向の有線通信のケーブル長の比を用いて、双方向の有線通信の遅延時間の合計値TRTDから片方向の有線通信の遅延時間を推定すればよい。
【0073】
上記のように、時刻配信装置間で時刻同期動作の前に、有線通信の遅延時間の推定を実施することで、スレーブ時刻配信装置に対する、有線通信の遅延時間の設定を省くことができる。
【0074】
また、2台の時刻配信装置を備えた冗長構成とした場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、3台以上の時刻配信装置を備えた冗長構成としてもよい。この場合、1台をマスタ時刻配信装置とし、それ以外をスレーブ時刻配信装置とすればよい。
【符号の説明】
【0075】
10 周波数信号発生器
20、22 時刻配信装置
28、29 時刻終端装置
30 入力部
32 通信部
34 装置時計
36 タイミング信号検出部
38 時計補正部
40 時刻補正計算部
42 ケーブル遅延情報設定部
44 時差測定部
46 周期差計算部
48 周期情報設定部
50 出力部
100 同期システム