(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128845
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】ペプチドグリカン吸着材
(51)【国際特許分類】
B01J 20/22 20060101AFI20240913BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240913BHJP
B01D 15/36 20060101ALI20240913BHJP
C07K 1/18 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B01J20/22 C
B01J20/30
B01D15/36
C07K1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038099
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118382
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 央子
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】植林 佑太郎
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
4H045
【Fターム(参考)】
4D017AA09
4D017AA11
4D017BA07
4D017CA14
4D017CB03
4D017DA07
4G066AB13B
4G066AC02C
4G066BA16
4G066BA36
4G066CA54
4G066DA07
4G066DA11
4G066FA03
4G066FA21
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045EA60
4H045FA82
(57)【要約】
【課題】ペプチドグリカンを効率よく吸着することができるペプチドグリカン吸着材を提供する。
【解決手段】窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーを備える、ペプチドグリカン吸着材。窒素原子を含むカチオン性基は、脂肪族1級又は3級アミンに由来する官能基とすることができる。また、窒素原子を含むカチオン性基は、脂肪族1価アミンに由来する官能基とすることができる。また、窒素原子を含むカチオン性基が、1級脂肪族アミンである場合は炭化水素鎖の炭素数を4以上とし、2級又は3級脂肪族アミンである場合は最も長い炭化水素鎖の炭素数を4以上とすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーを備える、ペプチドグリカン吸着材。
【請求項2】
窒素原子を含むカチオン性基が、脂肪族1級又は3級アミンに由来する官能基である、請求項1に記載のペプチドグリカン吸着材。
【請求項3】
窒素原子を含むカチオン性基が、脂肪族1価アミンに由来する官能基である、請求項1又は2に記載のペプチドグリカン吸着材。
【請求項4】
窒素原子を含むカチオン性基が、脂肪族アミンに由来する官能基であり、この脂肪族アミンが1級アミンである場合は炭化水素鎖の炭素数が4以上であり、この脂肪族アミンが2級又は3級アミンである場合は最も長い炭化水素鎖の炭素数が4以上である、請求項1又は2に記載のペプチドグリカン吸着材。
【請求項5】
窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーの陰イオン交換容量が0.01~5meq/dry-gとなるように、セルロースナノファイバーが窒素原子を含むカチオン性基を有する、請求項1又は2に記載のペプチドグリカン吸着材。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のペプチドグリカン吸着材が充填されたペプチドグリカン吸着用カラム。
【請求項7】
セルロースナノファイバーに窒素原子を含むカチオン性基を導入する工程を含む、請求項1又は2に記載のペプチドグリカン吸着材の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のペプチドグリカン吸着材とペプチドグリカンを含有する液体とを接触させる工程を含む、ペプチドグリカンが除去された液体の製造方法。
【請求項9】
ペプチドグリカンを含有する液体が、医薬品、食品、化粧品、体液、細胞若しくは微生物生産物、又は水である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のペプチドグリカン吸着材と、目的物質及びペプチドグリカンを含有する液体とを接触させる工程を含む、ペプチドグリカンが除去された目的物質を含有する液体の製造方法。
【請求項11】
目的物質及びペプチドグリカンを含有する液体が、医薬品、食品、化粧品、体液、細胞若しくは微生物生産物、又は水である、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドグリカン吸着材、及びこの吸着材を用いて液体中のペプチドグリカンを除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドグリカンは、N-アセチルグルコサミンとN-アセチルムラミン酸が交互に連なった繰り返し構造を持つ糖鎖と、ムラミン酸のカルボキシル基に結合した数個のアミノ酸を有するペプチドサブユニットからなる糖ペプチドポリマーである。ペプチドグリカンは、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌の細胞壁に多く含まれる。
ペプチドグリカンは種々の生物活性を有している。例えば、体液性免疫の増強または抑制、細胞性免疫の増強、一過性の白血球減少とその後の白血球増加、インターフェロン誘導因子の増強、自然抵抗力の強化といった有益な活性を有する反面、実験自己免疫疾患の誘導発熱作用、エンドトキシン毒性に対する感受性の増加(エンドトキシン活性を高めて、相乗的な毒性を発現する)、類上皮肉芽腫形成、遅延型過敏発症部位への出血壊死性炎の惹起、また急性及び慢性の毒性といった有害な活性も有する(非特許文献1)。また、ペプチドグリカン汚染による無菌性腹膜炎の事例が報告されている(非特許文献2)。
【0003】
医薬品、化粧品などには天然物が含まれる場合が多く、また、加工食品の成分は通常天然物であるところ、天然物には細菌が付着又は混入している可能性がある。また、医薬品の成分には細菌により製造されたものもある。さらに、医薬品、化粧品、食品の製造工程で細菌が混入する可能性もある。
ペプチドグリカンは耐熱性を有して安定であるため、加熱滅菌で完全に除去できない場合があり、また、人工透析の対象となる血液のように、加熱滅菌できないものもある。このため、ペプチドグリカンを効果的に吸着除去できる吸着材が求められている。
【0004】
ここで、特許文献1は、アミノ基を有する水不溶性多孔質材料であって、水不溶性多孔質材料の排除限界分子量が5万以上であるものが液体中のペプチドグリカンを効率よく吸着することを教えている。具体的には、排除限界分子量が5000万以上である多孔質セルロースをエピクロルヒドリンで活性化し、n-ブチルアミン又はn-ヘキサデシルアミンを固定化した材料がペプチドグリカンを効率よく吸着したことを開示している。
しかし、特許文献1の吸着剤は、ペプチドグリカンの吸着効率が実用上十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】小谷尚三, 高田春比古 (1983) 細菌細胞壁ならびに関連する合成標品(ムラミルペプチド)の免疫薬理作用, 薬学雑誌, 103, 1-27.
【非特許文献2】Martis L., et al. (2005) Aseptic peritonitis due to peptidoglycan contamination of pharmacopoeia standard dialysis solution. The Lancet, 365(9459) : 588-594.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ペプチドグリカンを効率よく吸着することができるペプチドグリカン吸着材、及び液体中のペプチドグリカンを効率よく吸着して除去することができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者は研究を重ね、窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーは、ペプチドグリカンを強く吸着することを見出した。
【0009】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の〔1〕~〔11〕を提供する。
〔1〕 窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーを備える、ペプチドグリカン吸着材。
〔2〕 窒素原子を含むカチオン性基が、脂肪族1級又は3級アミンに由来する官能基である、〔1〕に記載のペプチドグリカン吸着材。
〔3〕 窒素原子を含むカチオン性基が、脂肪族1価アミンに由来する官能基である、〔1〕又は〔2〕に記載のペプチドグリカン吸着材。
〔4〕 窒素原子を含むカチオン性基が、脂肪族アミンに由来する官能基であり、この脂肪族アミンが1級アミンである場合は炭化水素鎖の炭素数が4以上であり、この脂肪族アミンが2級又は3級アミンである場合は最も長い炭化水素鎖の炭素数が4以上である、〔1〕~〔3〕の何れに記載のペプチドグリカン吸着材。
〔5〕 窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーの陰イオン交換容量が0.01~5meq/dry-gとなるように、セルロースナノファイバーが窒素原子を含むカチオン性基を有する、〔1〕~〔4〕の何れに記載のペプチドグリカン吸着材。
〔6〕 〔1〕~〔5〕の何れかに記載のペプチドグリカン吸着材が充填されたペプチドグリカン吸着用カラム。
〔7〕 セルロースナノファイバーに窒素原子を含むカチオン性基を導入する工程を含む、〔1〕~〔5〕の何れかに記載のペプチドグリカン吸着材の製造方法。
〔8〕 〔1〕~〔5〕の何れかに記載のペプチドグリカン吸着材とペプチドグリカンを含有する液体とを接触させる工程を含む、ペプチドグリカンが除去された液体の製造方法。
〔9〕 ペプチドグリカンを含有する液体が、医薬品、食品、化粧品、体液、細胞若しくは微生物生産物、又は水である、〔8〕に記載の方法。
〔10〕 〔1〕~〔5〕の何れかに記載のペプチドグリカン吸着材と、目的物質及びペプチドグリカンを含有する液体とを接触させる工程を含む、ペプチドグリカンが除去された目的物質を含有する液体の製造方法。
〔11〕 目的物質及びペプチドグリカンを含有する液体が、医薬品、食品、化粧品、体液、細胞若しくは微生物生産物、又は水である、〔10〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のペプチドグリカン吸着材は、ペプチドグリカンを強く吸着する。窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーを備える本発明のペプチドグリカン吸着材は、同様の官能基を有するセルロース粒子に比べて、ペプチドグリカン吸着効率が高い。
【0011】
また、本発明のペプチドグリカン吸着材は、処理対象液についてpHやイオン強度などを特に変えなくても、同一条件で、ペプチドグリカンと共にエンドトキシンも効率よく吸着する。従って、細菌汚染の可能性のある試料からのこれら有害物質の同時除去にも好適に使用できる。同様の官能基を有するセルロース粒子では、ペプチドグリカンを比較的良く吸着する条件ではエンドトキシンをほとんど吸着しないため、本発明のペプチドグリカン吸着材は、この点でも優れている。
【0012】
また、ペプチドグリカンは負電荷を有する。一般に、カチオン性基を有する吸着材を、カチオン性基を有する物質を含む材料からのペプチドグリカンの除去に使用すると、吸着材のカチオン性基とこの物質のカチオン性基との間でペプチドグリカン吸着の競合が起きて、ペプチドグリカンを十分に除去することができない。この点、本発明のペプチドグリカン吸着材は、カチオン性基を有しているにも拘わらず、カチオン性基を有する物質を含む材料から十分にペプチドグリカンを除去することができる。
【0013】
また、セルロースは医薬品や食品の賦形剤などとして汎用されており、また、セルロースナノファイバーは化粧品成分として用いられていることから分かるように、セルロースナノファイバーは安全性が確立されている。従って、本発明のペプチドグリカン吸着材は、安全性が高く、医薬品、食品、化粧品の生産工程で好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)ペプチドグリカン吸着材
本発明のペプチドグリカン吸着材は、窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーを備える吸着材である。
【0015】
セルロースナノファイバー
「セルロースナノファイバー」とは、ナノメートルオーダーの平均繊維径を有する繊維状のセルロースをいう。
平均繊維径は、1nm~1000nm程度であればよい。また、3nm以上、5nm以上、10nm以上、20nm以上、又は30nm以上で、1000nm以下、500nm以下、300nm以下、200nm以下、150nm以下、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下、60nm以下、又は50nm以下とすることができ、また、これらの組み合わせとすることができる。例えば、3nm~500nm、5nm~300nm、又は10nm~200nmの範囲が挙げられる。
また、セルロースナノファイバーは、繊維径について高い均一性を有することが好ましい。セルロースナノファイバーの繊維径分布の標準偏差は、100nm以下、70nm以下、50nm以下、40nm以下、30nm以下、又は20nm以下が好ましい。
【0016】
セルロースナノファイバーの平均繊維長は、例えば、5μm以上、10μm以上、50μm以上、100μm以上、200μm以上、300μm以上、500μm以上、又は1000μm以上とすることができ、100000μm以下、10000μm以下、3000μm以下、2500μm以下、2000μm以下、1500μm以下、又は1200μm以下とすることができ、また、これらの組み合わせとすることができる。例えば、10μm~3000μm、100μm~2500μm、200μm~2000μm、300μm~1500μm、又は500μm~1200μmが挙げられる。
【0017】
セルロースナノファイバーの平均アスペクト比は、例えば、100以上、500以上、1000以上、2000以上、3000以上、5000以上、10000以上、又は20000以上で、100000以下、80000以下、50000以下、40000以下、又は35000以下とすることができ、また、それらの組み合わせとすることができる。例えば、2000~100000、3000~80000、5000~50000、10000~40000、又は20000~35000が挙げられる。
「平均アスペクト比」とは、平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)をいう。
【0018】
平均繊維径、繊維径分布の標準偏差、平均繊維長、及び平均アスペクト比は、電子顕微鏡を用いて少なくとも20本のランダムに選択されたセルロースナノファイバーの寸法を測定した結果から算出した値である。
【0019】
平均繊維径、繊維径分布の標準偏差、平均繊維長、及び平均アスペクト比は、セルロースナノファイバーに窒素原子を含むカチオン性基を導入する前のセルロースナノファイバーの平均繊維径、繊維径分布の標準偏差、平均繊維長、及び平均アスペクト比を意味する。窒素原子を含むカチオン性基を導入した後のセルロースナノファイバーの平均繊維径、繊維径分布の標準偏差、平均繊維長、及び平均アスペクト比は、窒素原子を含むカチオン性基導入前のセルロースナノファイバーと同程度であるが、セルロースナノファイバーに窒素原子を含むカチオン性基を導入することにより、セルロースナノファイバーが膨潤し得るため、例えば、窒素原子を含むカチオン性基導入後のセルロースナノファイバーの平均繊維径は、セルロースナノファイバーの平均繊維径よりも大きくなり得る。
【0020】
セルロースナノファイバーを製造するための原料繊維の由来は特に制限されない。原料繊維としては、高等植物由来のセルロース繊維、動物由来のセルロース繊維、藻類由来のセルロース繊維、細菌由来のセルロース繊維、化学的に合成されたセルロース繊維、及びそれらの誘導体などが挙げられる。高等植物由来のセルロース繊維としては、針葉樹や広葉樹由来の木材パルプ等の木材繊維;コットンリンター、ボンバックス綿、カポック等の種子毛繊維;麻、コウゾ、ミツマタ等の靭皮繊維;マニラ麻、サイザル麻、ニュージーランド麻等の葉脈繊維;竹繊維;サトウキビ繊維などが挙げられる。動物由来のセルロース繊維としては、ホヤセルロースなどが挙げられる。藻類由来のセルロース繊維としては、バロニアセルロースなどが挙げられる。細菌由来のセルロース繊維としては、酢酸菌により製造されるセルロースなどが挙げられる。化学的に合成されたセルロース繊維としては、メチルセルロースやエチルセルロースのようなアルキルセルロースなどが挙げられる。
誘導体としては、官能基が導入されたセルロース繊維が挙げられる。官能基としては、炭素数1~10、1~6、又は1~4の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~10、1~6、又は1~4の直鎖又は分岐鎖状のアルコキシ基、エポキシ基、カルボキシ基、水酸基、リン酸基、硫酸基、ホルミル基、アセチル基、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)などが挙げられる。
即ち、本発明において、セルロースは、官能基が導入されたものであってもよく、官能基を導入されていないもの(代表的には、天然由来のセルロース)であってもよい。
【0021】
原料繊維からセルロースナノファイバーを製造する方法としては、原料繊維をリファイナー、ホモジナイザー、媒体撹拌ミル、石臼、グラインダー等の破砕装置を用いてミクロフィブリル化することによりセルロースナノファイバーを製造する方法(特開2011-026760)、原料繊維と機能性粒子とを混合し、加圧条件化で混練することによりセルロースナノファイバーを製造する方法(特開2007-262594)、原料繊維を湿式で離解した後、予備的に解繊し、蒸煮処理し、破砕装置を用いてミクロフィブリル化することによりセルロースナノファイバーを製造する方法であって、酵素を併用する方法(特開2008-075214)、原料繊維を湿式で離解した後、予備的に解繊し、超音波処理によりミクロフィブリル化することによりセルロースナノファイバーを製造する方法であって、酵素を併用する方法(特開2008-169497)が挙げられる。
また、セルロースナノファイバーは、例えば、セルロースのイオン液体溶液やセルロースの有機溶媒溶液から紡糸することによっても製造できる(特開2015-004151)。
【0022】
セルロースナノファイバーの市販品としては、ダイセルファインケム株式会社製のセリッシュ(登録商標)やKelco社製のCellulon(登録商標)が挙げられる。セリッシュとしては、ろか名人、PC110T、PC110A、PC110B、PC110S、KY100S、KY100Gが挙げられる。
【0023】
窒素原子を含むカチオン性基
窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーは、本来的に窒素原子を含むカチオン性基を有するものであってもよく、窒素原子を含むカチオン性基をセルロースナノファイバーに導入したものであっても良い。
【0024】
窒素原子を含むカチオン性基としては、例えば、アミノ基(1級アミノ基(-NH2)、2級アミノ基((-NHR))、3級アミノ基(-NRR´))、4級アンモニウム基(-N+RR´R´´)、イミノ基、アミジン基、グアニジノ基、イミダゾール基、4級イミダゾリウム基、ピリジル基、4級ピリジニウム基などが挙げられる。
窒素原子を含むカチオン性基は、非環状であってもよく、環状であってもよい。
【0025】
窒素原子を含むカチオン性基は、例えば、セルロースの水酸基に導入することができる。窒素原子を含むカチオン性基を導入する方法としては、セルロースの水酸基を活性化剤で活性化し、次いで、窒素原子を含むカチオン性化合物と反応させる方法が挙げられる。窒素原子を含むカチオン性基がそれ自体反応性基を有する場合は、活性化剤での前処理は必ずしも要さない。
【0026】
活性化剤としては、例えば、クロロメチルオキシラン(エピクロロヒドリン)、メタクリル酸グリジシル、アクリル酸グリシジル、ジグリシジルエーテル、エピブロモヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテルのようなエポキシ基供与体、p-トルエンスルホン酸クロリド、2-フルオロ-1-メチルピリジニウム、クロロアセチルクロリド、ヘキサメチレンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、トルエン-2,4-ジイソシアネートなどが挙げられる。
活性化剤としては、エポキシ基供与体が好ましく、クロロメチルオキシラン(エピクロロヒドリン)がより好ましい。
活性化剤は、1種又は2種以上を使用できる。
【0027】
窒素原子を含むカチオン性基の供与体である、窒素原子を含むカチオン性化合物としては、アンモニア、アミン(1級アミン、2級アミン、3級アミン)、アミジン、4級アンモニウム塩、4級イミダゾリウム塩、4級ピリジニウム塩などが挙げられる。
窒素原子を含むカチオン性基の供与体は、窒素原子を含むカチオン性基を一つ含むものであってもよく、2又はそれ以上含むものであってもよい。例えば、窒素原子を含むカチオン性化合物がアミンである場合は、1価アミン、2価又はそれ以上の多価アミンの何れであってもよい。中でも、窒素原子を含むカチオン性基の供与体は、窒素原子を含むカチオン性基を一つ含むものが好ましく、アミンであれば、1価アミンが好ましい。
窒素原子を含むカチオン性化合物は、ポリマー、非ポリマーの何れであってもよい。
【0028】
1価アミンとしては、脂肪族アミン、特にアルキルアミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンのような1級アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミンのような2級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、ジメチルブチルアミン、ジメチルペンチルアミン、ジメチルヘキシルアミン、ジメチルヘプチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルノニルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルオレイルアミンのような3級アミン);芳香族アミン(アニリン、トルイジンのような1級アミンなど);複素環式アミン(ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、イミダゾールのような2級アミン;ピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン(コリジン)、2,6-ルチジン、キノリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリンのような3級アミンなど);アルカノールアミン又はアミノアルコール(モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)メタンのような1級アミン;ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミンのような2級アミン;トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N-ジメチルアミノエタノール、N-ジエチルアミノエタノールのような3級アミン)などが挙げられる。
【0029】
多価アミンとしては、エチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン;4,4′-ジアミノ-3,3′ジメチルジシクロヘキシルメタン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン、ジアミンシクロヘキサン、イソホロンジアミンのような脂環族ジアミン;フェニレンジアミン、ジアミノナフタレン、キシリレンジアミンのような芳香族ジアミン;ピペラジンのような複素環式ジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンペンタミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、トリス(3-アミノプロピル)アミン、グアニジンのような3価以上の脂肪族アミン;メラミンのような3価以上の芳香族アミンなどが挙げられる。
また、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、アミノ酸(中でも、リジン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチン、トリプトファンのような塩基性アミノ酸)、アミノ酸の重合体(中でも、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリオルニチン、ポリトリプトファンのような塩基性アミノ酸の重合体)、ポリクレアチニンなどのアミノ基を有するポリマーも挙げられる。
【0030】
第4級アンモニウム塩としては、グリシジルトリメチルアンモニウム塩(塩酸塩、臭化水素酸塩など)などが挙げられる。また、例えば、上記例示した第3級アミンのアルキル化により第4級化した四級アミンも使用できる。
第4級イミダゾリウム塩としては、1-デシル-3-メチルイミダゾリウム塩、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウム塩、1-メチル-ベンゾイミダゾリウム塩(塩酸塩、臭化水素酸塩など)などが挙げられる。
第4級ピリジニウム塩としては、ブチルピリジニウム塩、ドデシルピリジニウム塩(塩酸塩、臭化水素酸塩など)などが挙げられる。
【0031】
窒素原子を含むカチオン性化合物としては、アミンが好ましい。アミンの中では、1級アミン、3級アミンが好ましい。また、脂肪族アミンが好ましい。
脂肪族アミンの窒素原子に結合している炭化水素鎖の炭素数は、4以上が好ましい。この炭素鎖の炭素数の上限は特に限定されないが、30、20、18、又は16とすることができる。ここでいう炭素数は、脂肪族2級又は3級アミンの場合は、最も長い炭化水素鎖の炭素数である。この範囲であれば、十分に高いペプチドグリカン吸着率を有する吸着材となる。
【0032】
窒素原子を含むカチオン性化合物は、1種又は2種以上を使用できる。
2種以上のカチオン性化合物を使用する場合、各カチオン性化合物を導入したセルロースナノファイバーを混合して使用してもよく、或いは、2種以上のカチオン性化合物を導入したセルロースナノファイバーを使用してもよい。
【0033】
また、セルロースナノファイバーを窒素原子を含むカチオン性化合物と反応させた後に、さらに修飾を施すことによってカチオン性を高めることができる。
例えば、導入されたカチオン性基を第4級化させた後、さらに、窒素原子を含むカチオン性化合物と反応させることにより、カチオン性を向上させることができる。カチオン性基を第4級化させる化合物としては、例えば、クロロメチルオキシラン(エピクロロヒドリン)、メタクリル酸グリジシル、アクリル酸グリシジル、ジグリシジルエーテル、エピブロモヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテルのようなエポキシ基供与体、p-トルエンスルホン酸クロリド、2-フルオロ-1-メチルピリジニウム、クロロアセチルクロリド、ヘキサメチレンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、トルエン-2,4-ジイソシアネート、ヨードメタン、ヨードエタンなどが挙げられる。さらに導入する窒素原子を含むカチオン性化合物は、既に導入した窒素原子を含むカチオン性化合物と同じものであってもよく、又はこれとは異なるものであってもよい。
カチオン性を高めるために反応させる化合物は、1種又は2種以上を使用できる。
【0034】
セルロースナノファイバー又は活性化セルロースナノファイバーと窒素原子を含むカチオン性化合物との反応は、例えば、約10~100℃で、約0.1~24時間行えばよい。
溶媒としては、通常、水を用いればよいが、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル(2-メトキシエタノール)のようなアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒も用いることができる。溶媒は、1又は2種以上を使用できる。
【0035】
上記のようにして得られる、窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーは、窒素原子を含むカチオン性化合物がセルロースナノファイバーに直接結合したもの、又は窒素原子を含むカチオン性化合物が活性化剤(橋架け剤)を介してセルロースナノファイバーに結合したものであってよい。
【0036】
窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーの特性
窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーにおける、窒素原子を含むカチオン性基の含有量の指標としての、窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーの陰イオン交換容量(Anion Exchange Capacity;AEC)は、0.01meq/dry・g以上、0.05meq/dry・g以上、0.1meq/dry・g以上、又は0.15meq/dry・g以上とすることができる。この範囲であれば、ペプチドグリカンを十分に吸着することができる。
また、窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーの陰イオン交換容量(AEC)は、5meq/dry・g以下、3meq/dry・g以下、1 meq/dry・g以下、又は0.5meq/dry・g以下とすることができる。この範囲であれば、処理対象液中に酸性物質(例えば、酸性タンパク質)などの負電荷を有する物質が存在する場合にその負電荷を有する物質の非特異的吸着を抑えつつ、ペプチドグリカンを効率よく吸着することができる。
【0037】
窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーは、本発明の効果を妨げない範囲で、窒素原子を含むカチオン性基以外のカチオン性基を有することができる。窒素原子を含むカチオン性基以外のカチオン性基の含有量は、陰イオン交換容量(AEC)として、5meq/dry・g以下とすればよい。窒素原子を含むカチオン性基以外の陰イオン交換基は含まないことができる。この範囲であれば、処理対象液中に酸性物質(例えば、酸性タンパク質)などの負電荷を有する物質が存在する場合にその負電荷を有する物質の非特異的吸着を抑えつつ、ペプチドグリカンを効率よく吸着することができる。
【0038】
また、窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーは、前述した通り、本発明の効果を妨げない範囲で、カチオン性基以外の官能基を有することができる。カチオン性基以外の官能基としては、アルキル基、アルコキシ基、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、リン酸基、硫酸基、ホルミル基、アセチル基、水素、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0039】
本発明において、イオン交換容量は、pH滴定法で測定した値であり、具体的には、実施例に記載の方法で測定した値である。
【0040】
ペプチドグリカン吸着材
窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーは、単独で、或いは他の構成要素と組み合わせて、ペプチドグリカン吸着材として利用できる。他の構成要素は、所望のペプチドグリカン吸着能が得られる限り、特に制限されない。
窒素原子を含むカチオン性基を有するセルロースナノファイバーは、未加工の状態では、通常、繊維状であるが、膜状、柱状、球状などの任意の形態に加工して用いることができる。成形は、例えば、製紙プロセスによって行うことができる。なお、ここでいう球状は、セルロースナノファイバーを球状に成型したものであって、球状物に含まれるセルロースはセルロースナノファイバーである。
【0041】
本発明のペプチドグリカン吸着材は、ペプチドグリカンを吸着して除去する際はペプチドグリカン除去材として用いることができ、ペプチドグリカンを吸着して精製する際はペプチドグリカン精製材として用いることもできる。
また、本発明のペプチドグリカン吸着材は、カラムに充填して用いることができる。本発明のペプチドグリカン吸着材が充填されたカラムは、ペプチドグリカン吸着用、ペプチドグリカン除去用、又はペプチドグリカン精製用のカラムとして用いることができる。
【0042】
本発明のペプチドグリカン吸着材のペプチドグリカン吸着率は、例えば、約190ng/mL(特に191ng/mL)のペプチドグリカンと0.5w/w%のアルギン酸ナトリウムを含む水溶液をペプチドグリカン除去対象液とし、バッチ法で測定した場合、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、又は97%以上であり得る。ペプチドグリカン吸着率の上限は100%であり得る。
【0043】
本発明のペプチドグリカン吸着材は、エンドトキシンも効率よく吸着する。本発明のペプチドグリカン吸着材のエンドトキシン吸着率は、例えば、15400EU/gのエンドトキシンと0.5w/w%のアルギン酸ナトリウムを含む水溶液をエンドトキシン除去対象液とし、バッチ法で測定した場合、10%以上、30%以上、50%以上、90%以上、95%以上、又は99%以上であり得る。エンドトキシン吸着率の上限は100%であり得る。エンドトキシン吸着率は、上記のペプチドグリカン吸着率と同じ条件(特に、同じpH及びイオン強度)で測定した値である。
【0044】
(2)ペプチドグリカン吸着方法
本発明のペプチドグリカン吸着材と、ペプチドグリカン吸着対象液とを接触させることにより、ペプチドグリカン吸着対象液中のペプチドグリカンがペプチドグリカン吸着材に吸着する。
【0045】
ペプチドグリカン吸着対象液は、流動性を有する材料であればよく、粘性を有していてもよい。また、加熱又は加温により流動状とした材料であってもよい。ペプチドグリカン吸着対象液は、ペプチドグリカンだけを含むものであってよく、ペプチドグリカン以外に1種以上の成分を含むものであってもよい。また、ペプチドグリカンやその他の成分が水やその他の溶媒に溶解又は懸濁したものであればよい。
【0046】
ペプチドグリカン吸着対象液としては、例えば、医薬品、食品、化粧品、体液(血液など)、細胞又は微生物の生産物(細胞又は微生物の培養上清など)、水などが挙げられる。血液を対象とする場合、本発明のペプチドグリカン吸着材は人工透析用の吸着材とすることができる。
【0047】
本発明のペプチドグリカン吸着材と接触させる際のペプチドグリカン吸着対象液のpHは、窒素原子を含むカチオン性基の種類や、ペプチドグリカン吸着対象液のpH安定性などにより異なるが、例えば、2~10、特に、3以上、4以上、5以上、又は6以上とすることができ、また、9以下、8以下、又は7以下とすることができる。
【0048】
また、本発明のペプチドグリカン吸着材と接触させる際のペプチドグリカン吸着対象液のイオン強度は、窒素原子を含むカチオン性基の種類や、ペプチドグリカン吸着対象液のイオン強度安定性などにより異なるが、0.05以上、又は0.1以上とすることができる。イオン強度が低すぎると、ペプチドグリカン選択性が低下し、例えば、タンパク質も吸着し易くなるが、この範囲であれば良好なペプチドグリカン選択性が得られる。また、ペプチドグリカン吸着対象液のイオン強度は、1以下、又は0.4以下とすることができる。イオン強度が高すぎると、アミノ基と反応するイオンの濃度も高くなり、ペプチドグリカン吸着能が低下する場合があるが、この範囲であれば高いペプチドグリカン吸着能が得られる。
【0049】
本発明のペプチドグリカン吸着材とペプチドグリカン吸着対象液との接触は、例えば、バッチ法により行うことができる。「バッチ法」は、適当な容器内で本発明のペプチドグリカン吸着材とペプチドグリカン吸着対象液とを混合することにより、本発明のペプチドグリカン吸着材とペプチドグリカン吸着対象液とを接触させる手法である。バッチ法は、静置して実施してもよく、撹拌や振盪して実施してもよい。接触時間は、ペプチドグリカン吸着対象液の種類などにより異なるが、例えば、約5分間~120時間、約30分間~24時間、約1~12時間、又は約2~4時間とすることができる。また、接触時の温度は、ペプチドグリカン吸着対象液の種類などにより異なるが、例えば、約5~80℃、約15~65℃、又は約25~50℃とすることができる。
【0050】
また、本発明のペプチドグリカン吸着材とペプチドグリカン吸着去対象液との接触は、例えば、流動的分離法により行うことができる。「流動的分離法」とは、本発明のペプチドグリカン吸着材にペプチドグリカン吸着対象液を通液することにより、本発明のペプチドグリカン吸着材とペプチドグリカン吸着対象液とを接触させる手法である。具体的には、例えば、本発明のペプチドグリカン吸着材をカラムに充填し、このカラムにペプチドグリカン含有液を通液することにより、本発明のペプチドグリカン吸着材とペプチドグリカン吸着対象液とを接触させることができる。また、例えば、本発明のペプチドグリカン吸着材がフィルター状に成形されている場合は、このフィルターにペプチドグリカン吸着対象液を通液することにより、本発明のペプチドグリカン吸着材とペプチドグリカン吸着対象液とを接触させることができる。膜としては、メンブランフィルター、中空糸膜、チューブラー膜などの形態が挙げられる。また、本発明のペプチドグリカン吸着材が柱状などに成形されている場合は、この柱状物などにペプチドグリカン吸着対象液を通液することにより、本発明のペプチドグリカン吸着材とペプチドグリカン吸着対象液とを接触させることができる。柱状物は、例えば、微小な孔を有する連続した多孔体としてモノリスクロマトグラフィーに供することができる。また、ろ紙上に本発明のペプチドグリカン吸着材を載せ、そこにペプチドグリカン吸着対象液を通液することにより、本発明のペプチドグリカン吸着材とペプチドグリカン吸着対象液とを接触させることができる。
【0051】
本発明のペプチドグリカン吸着材にペプチドグリカンを吸着させた後に混合物から本発明のペプチドグリカン吸着材を、ろ過又は遠心分離などにより分離することができる。
【0052】
本発明のペプチドグリカン吸着材と、ペプチドグリカン吸着対象液とを接触させることにより、ペプチドグリカン吸着対象液中のペプチドグリカンがペプチドグリカン吸着材に吸着し、ペプチドグリカンが除去された液が得られる。このように、本発明のペプチドグリカン吸着材とペプチドグリカン吸着対象液とを接触させる工程を含むペプチドグリカン吸着方法は、ペプチドグリカン除去方法とすることができる。ペプチドグリカン除去方法は、さらに、ペプチドグリカンが除去された液とペプチドグリカンを吸着したペプチドグリカン吸着材を分離する工程、例えば、本発明のペプチドグリカン吸着材とペプチドグリカン吸着対象液との混合物から、ペプチドグリカンが除去された液を回収する工程を含むことができる。ペプチドグリカン除去方法は、換言すれば、ペプチドグリカンが除去された液の製造方法である。
【0053】
また、本発明は、本発明のペプチドグリカン吸着材と、目的物質及びペプチドグリカンを含むペプチドグリカン吸着対象液とを接触させる工程を含む方法を包含し、この方法により、目的物質を含みペプチドグリカンが除去された液体を製造することができる。目的物質は、ペプチドグリカン吸着対象液中のペプチドグリカン以外の成分である。
【0054】
これらのペプチドグリカン除去方法により、処理後のペプチドグリカン除去対象液中のペプチドグリカン濃度又は含有量を、処理前と比較して、例えば、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、4%以下、又は3%以下に低下させることができる。
【0055】
ペプチドグリカンが除去されたこと及びその程度(濃度)は、処理後のペプチドグリカン対象液中のペプチドグリカンを、例えば、SLP法(富士フィルム和光純薬社)で測定又は確認できる。
【実施例0056】
以下、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)ペプチドグリカン吸着材の製造
実施例1(ブチルアミン固定化セルロースナノファイバー)
500mLセパラブルフラスコに、20wet-gの湿潤状態のセルロースナノファイバー(セリッシュろか名人;ダイセルファインケム株式会社製)と、5%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液(5gの水酸化ナトリウム(特級;ナカライテスク製)を95mL水に溶解したもの)を入れ、30℃水浴中で1時間撹拌した。次いで、セパラブルフラスコに160mLのクロロメチルオキシラン(特級;和光純薬工業株式会社製)を加え、さらに30℃水浴中で2時間撹拌した。撹拌速度は一定とした。反応物を濾布(東レシルク、メッシュサイズ20μm, 東レ株式会社製)上で吸引ろ過し、固形分(ろ過残渣)としてエポキシ活性化セルロースナノファイバーを得た。得られたエポキシ活性化セルロースナノファイバーと、30w/w%ブチルアミン(富士フィルム和光純薬株式会社)水溶液100mLをセパラブルフラスコに入れ、45℃の水浴中で4時間攪拌した。反応物を東レシルク上で超純水を用いて洗浄液のpHが中性付近になるまで十分に洗浄し、固形分(ろ過残渣)としてブチルアミン固定化セルロースナノファイバーを得た。
アミノ基供与体であるブチルアミンは、1価アミンであって、炭化水素鎖の炭素数4の1級アミンである。
【0057】
実施例2(ジメチルブチルアミン固定化セルロースナノファイバー)
30w/w%ブチルアミン水溶液に代えて30w/w%ジメチルブチルアミン(東京化成工業株式会社)水溶液を100mL添加した他は、ブチルアミン固定化セルロースナノファイバーの製造と同様にしてジメチルブチルアミン固定化セルロースナノファイバーを製造した。
アミノ基供与体であるジメチルブチルアミンは、1価アミンであって、最長炭化水素鎖の炭素数が4である3級アミンである。
【0058】
実施例3(ジメチルオクチルアミン固定化セルロースナノファイバー)
30w/w%ブチルアミン水溶液に代えて30w/w%ジメチルオクチルアミン(東京化成工業株式会社)水溶液を100mL添加した他は、ブチルアミン固定化セルロースナノファイバーの製造と同様にしてジメチルオクチルアミン固定化セルロースナノファイバーを製造した。
アミノ基供与体であるジメチルオクチルアミンは、1価アミンであって、最長炭化水素鎖の炭素数が8である3級アミンである。
【0059】
実施例4(ジメチルドデシルアミン固定化セルロースナノファイバー)
30w/w%ブチルアミン水溶液に代えて30w/w%ジメチルドデシルアミン(東京化成工業株式会社)水溶液を100mL添加した他は、ブチルアミン固定化セルロースナノファイバーの製造と同様にしてジメチルドデシルアミン固定化セルロースナノファイバーを製造した。
アミノ基供与体であるジメチルドデシルアミンは、1価アミンであって、最長炭化水素鎖の炭素数が12である3級アミンである。
【0060】
比較例1(ブチルアミン固定化球状セルロース)
500mLセパラブルフラスコに、100mlのセルロース粒子(CellufineGH-25;JNC株式会社製)と、5w/w%水酸化ナトリウム水溶液(5gの水酸化ナトリウム(特級;ナカライテスク製)を95mL水に溶解したもの)を入れ、30℃水浴中で1時間撹拌した。次いで、セパラブルフラスコに160mLのクロロメチルオキシラン(特級;和光純薬工業株式会社製)を加え、さらに30℃水浴中で2時間撹拌した。撹拌速度は一定とした。反応物を濾布(東レシルク、メッシュサイズ20μm, 東レ株式会社製)上で吸引ろ過し、固形分(ろ過残渣)としてエポキシ活性化セルロース粒子を得た。得られたエポキシ活性化セルロース粒子と、30w/w%のブチルアミン(富士フィルム和光純薬株式会社)水溶液100mLをセパラブルフラスコに入れ、45℃の水浴中で4時間攪拌した。反応物を東レシルク上で超純水を用いて洗浄液のpHが中性付近になるまで十分に洗浄し、固形分(ろ過残渣)としてブチルアミン固定化セルロース粒子を得た。
【0061】
(2)吸着材のペプチドグリカン吸着率の評価
ペプチドグリカンを191.18ng/mLの濃度で含む0.50w/w%のアルギン酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社)水溶液を対象として、実施例1~4のアミン固定化セルロースナノファイバー、比較例1のアミン固定化セルロース粒子のペプチドグリカン吸着能を下記手順に従い測定した。
ペプチドグリカン吸着能の評価はバッチ法により行った。
乾熱滅菌可能な使用器具(コニカルビーカー、ホールピペット、ピペット、ガラスフィルター、薬さじ、リムルス用チューブ、チューブ用キャップ)はよく洗浄した後に250℃で4時間滅菌した。また、シリンジ、メンブランフィルター、チップはあらかじめγ線照射滅菌してあるものを用いた。
各吸着材を、ガラスフィルター上で0.2M NaOH/95% EtOH 25mlで5回洗浄した。次いで、滅菌済みの純水でろ液が中性になるまで洗浄を繰り返した。50mlコニカルビーカーに洗浄済みの吸着材を0.16g秤量し、それに対し、アルギン酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社)を注射用水(大塚蒸留水;株式会社大塚製薬工場)に溶解して得た0.50w/w%のアルギン酸ナトリウム水溶液を10ml加え、バイオシェイカー内で20℃、200rpmで3時間振とうした。次いで、吸着材を含む水溶液をシリンジで吸い取り、0.8μmメンブランフィルターでろ過した。ろ液を注射用水(大塚蒸留水)で10~1000倍希釈した。希釈液をSLP試薬であるSLP-HSシングル試薬セットII(富士フィルム和光純薬株式会社)の入った試験管に0.1mlずつ加え、ボルテックスミキサーでよく混合した。試験管をトキシノメーターET-7000(富士フィルム和光純薬株式会社)に設置し、比色時間法によりペプチドグリカン残存濃度を決定した(Pe)。
【0062】
また、吸着材と接触させる前のアルギン酸ナトリウム水溶液に含まれるペプチドグリカン濃度(Ps)は、上記と同様にして、アルギン酸ナトリウム水溶液を0.8μmメンブランフィルターでろ過し、注射用水(大塚蒸留水)で10~1000倍希釈し、上記SLP試薬を用いて、比色時間法により決定した。ペプチドグリカン濃度(Ps)は191.18ng/mLであった。
ペプチドグリカン吸着率を下記式に従い算出した。
ペプチドグリカン吸着率(%)=〔(Ps-Pe)/Ps〕×100
【0063】
(3)吸着材のエンドトキシン吸着率の評価
実施例1~4のアミン固定化セルロースナノファイバー、比較例1のアミン固定化セルロース粒子のエンドトキシン(ET)吸着能を下記手順に従い測定した。
ET吸着能の評価はバッチ法により行った。
乾熱滅菌可能な使用器具(コニカルビーカー、ホールピペット、ピペット、ガラスフィルター、薬さじ、リムルス用チューブ、チューブ用キャップ)はよく洗浄した後に250℃で4時間滅菌した。また、シリンジ、メンブランフィルター、チップはあらかじめγ線照射滅菌してあるものを用いた。
各吸着材を、ガラスフィルター上で0.2M NaOH/95% EtOH 25mlで5回洗浄した。次いで、滅菌済みの純水でろ液が中性になるまで洗浄を繰り返した。
50mlコニカルビーカーに洗浄済みの吸着材を0.16g秤量し、それに対し、アルギン酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社)を注射用水(大塚蒸留水;株式会社大塚製薬工場)に溶解して得た0.50w/w%のアルギン酸ナトリウム水溶液を10ml加え、バイオシェイカー内で20℃、200rpmで3時間振とうした。次いで、吸着材を含む水溶液をシリンジで吸い取り、0.8μmメンブランフィルターでろ過した。ろ液を注射用水(大塚蒸留水)で10~1000倍希釈した。希釈液をリムルス試薬であるエンドスペシーES-24M(生化学工業株式会社)の入った試験管に0.2mlずつ加え、ボルテックスミキサーでよく混合した。試験管をEGリーダー(SV-12;生化学工業株式会社)に設置し、比色時間法によりET残存濃度を決定した(Ee)。
【0064】
また、吸着材と接触させる前のアルギン酸ナトリウム水溶液に含まれるET濃度(Es)は、上記と同様にして、アルギン酸ナトリウム水溶液を0.8μmメンブランフィルターでろ過し、注射用水(大塚蒸留水)で10~1000倍希釈し、上記リムルス試薬を用いて、比色時間法により決定した。ET濃度(Es)は15400EU/gであった。
ET吸着率を下記式に従い算出した。
ET吸着率(%)=〔(Es-Ee)/Es〕×100
【0065】
(4)陰イオン交換容量の測定方法
陰イオン交換容量(Anion Exchange Capacity;AEC)は、塩酸を用いた逆滴定法により測定した。手順を以下に示す。
アミノ化セルロースナノファイバー、及びアミノ化セルロース粒子を、それぞれ24時間以上室温で減圧乾燥し、約0.5gをスクリュー管に精密秤量した。ファクター既知の0.1mol/l塩酸20mlを加え、ローラー上で2時間撹拌した。ろ紙を用いて濾過し、ろ液を10ml別のスクリュー管に取った。ファクター既知の0.05mol/l水酸化ナトリウム水溶液でフェノールフタレインを指示薬として滴定を行った。
以下の式によりAECを算出した。
AEC(meq/dry・g)
=(0.1×fHCl×20-0.05×fNaOH×V×20/10)÷W
fHCl : 使用した塩酸のファクター
fNaOH : 使用した水酸化ナトリウムのファクター
V : 滴定量(ml)
W : 吸着材の乾燥重量(dry・g)
【0066】
各吸着材の評価結果を表1に示す。
【表1】
基材がセルロースナノファイバーである吸着材は、基材が球状セルロースである吸着材に比べて、ペプチドグリカン吸着率が高かった(実施例1と比較例1の対比)。また、基材がセルロースナノファイバーである吸着材は、基材が球状セルロースである吸着材とは異なり、同一対象液から、ペプチドグリカンと共にエンドトキシンを高効率で吸着した。また、カチオン性基供与体が脂肪族1級アミンである吸着材と脂肪族3級アミンである吸着材を比べると、ペプチドグリカン吸着率は同程度に高かったが、カチオン性基供与体が脂肪族3級アミンである場合、脂肪族1級アミンである場合より、同一対象液からのエンドトキシン吸着率が高かった。