IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 平岡織染株式会社の特許一覧

特開2024-12886産業資材用合成帆布、及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012886
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】産業資材用合成帆布、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/10 20060101AFI20240124BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20240124BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
B32B25/10
B32B5/02 C
B32B27/30 101
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114668
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000239862
【氏名又は名称】平岡織染株式会社
(72)【発明者】
【氏名】狩野 俊也
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA20B
4F100AA20H
4F100AK15B
4F100AK29B
4F100AK41A
4F100AN00B
4F100AN02B
4F100BA02
4F100CA04B
4F100CA13B
4F100DE01B
4F100DE01E
4F100DG03A
4F100DG12A
4F100DG13A
4F100EH462
4F100EH46B
4F100EJ052
4F100EJ393
4F100EJ403
4F100EJ822
4F100EJ83
4F100JB06A
(57)【要約】
【課題】軽量かつ屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(耐はためき性)、及び炎天下での耐熱性に優れた産業資材用合成帆布を提供。
【解決手段】少なくとも短繊維紡績糸条を織編要素に含む布帛を基布として、この布帛の全面に軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を設けてなる合成帆布において、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の全域に三次元架橋ゴム(ブタジエン系、イソプレン系、及びファルネセン系、から選ばれた1種以上のゴム構造を含む)を形成させる。必要に応じて三次元架橋ゴムの一部としてシリカ粒子を介在させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも短繊維紡績糸条を織編要素に含む布帛を基布として、この布帛の全面に軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を設けてなる合成帆布であって、前記軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の全域に三次元架橋ゴムが共存することを特徴とする産業資材用合成帆布。
【請求項2】
前記三次元架橋ゴムが、ブタジエン系、イソプレン系、及びファルネセン系、から選ばれた1種以上の合成ゴム構造を含む請求項1に記載の産業資材用合成帆布。
【請求項3】
前記三次元架橋ゴムが、シリカ粒子を含み、三次元架橋の一部として介在する有機無機ハイブリッドゴムである請求項1または2に記載の産業資材用合成帆布。
【請求項4】
前記シリカ粒子が、シランカップリング剤で処理された表面改質粒子である請求項3に記載の産業資材用合成帆布。
【請求項5】
前記布帛が、タスラン嵩高糸条、ウーリー嵩高糸条、コアスパン芯鞘糸条から選ばれた1種以上をさらに含む請求項1に記載の産業資材用合成帆布。
【請求項6】
布帛の全面に軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を形成してなる合成帆布において、1)塩化ビニル樹脂、可塑剤、液状合成ゴム(ブタジエン系、イソプレン系、及びファルネセン系、から選ばれた1種以上)、の3種を少なくとも含む軟質塩化ビニル樹脂組成物を調製する工程、2)前記布帛に前記軟質塩化ビニル樹脂組成物を塗工し、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を形成する工程、3)前記液状合成ゴムを架橋ゴムに転化して、前記軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の全域に三次元架橋ゴムを形成する工程、を含むことを特徴とする産業資材用合成帆布の製造方法。
【請求項7】
前記三次元架橋ゴムの形成において、前記軟質塩化ビニル樹脂組成物にシリカ粒子を含み、三次元架橋の一部として介在する有機無機ハイブリッドゴムである請求項6に記載の産業資材用合成帆布の製造方法。
【請求項8】
前記合成帆布に、表面加飾エンボスを施す工程をさらに含む請求項6、または7に記載の産業資材用合成帆布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テント倉庫(簡易ハウス)、屋形テント(運動会、屋外イベント、運営本部、集会、受付などに用いられる天幕装着式の組立テント)、トラック幌、トラック荷台カバー、野積シートなどの本体素材に用いる合成帆布で、軽量かつ屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(耐はためき性)、及び炎天下での耐熱性に優れた産業資材用合成帆布に関する。
【背景技術】
【0002】
テント倉庫、屋形テント、トラック幌、トラック荷台カバー、野積シートなど用途物件の本体素材には、4~6号のスパン布帛に軟質ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を含浸被覆した4~6号の合成帆布が使用されている。これらは、厚さ0.38~0.55mm、質量420~560g/mの規格が主流で、6号、5号、4号と数字が小さい程、重厚かつ堅牢な合成帆布となる。上記用途において、用途規模(サイズ)が大きいほど強靭性、耐久性を重視して6号より5号、5号より4号の帆布と、1ランクアップした使用をすることがあり、時には3号帆布(600~640g/m)を使用することもある。このことは大型用途での質量増を意味し、特に屋形テント、トラック荷台カバー、野積シートなど、保管時は折り畳んで収納される用途では、人手によるシートの運搬や展張装着、及びその撤収には多大な作業負担となっている。従ってこれらの用途では、より軽量で耐久性のある合成帆布、例えば6号の質量で5号レベルの強靭性、耐久性を具備する合成帆布、同様に5号の質量で4号レベルの強靭性、耐久性を具備する合成帆布が切望されている。
【0003】
この古くからのニーズに対して本出願人は、軟質塩化ビニル樹脂加工による引裂強度に優れた帆布として、2本の短繊維紡績糸条からなる並列糸条を織組織に含み、並列糸条を経糸及び緯糸に含み、少なくとも経糸と緯糸との交絡点が4本の短繊維紡績糸条で構成された部分を含む平織布帛を基布に用いる発明(特許文献1)を提案した。この発明において、同じ号数(質量)の布帛を用いた帆布同士での対比(実施例1/比較例1、実施例2/比較例2)だと、より引裂強度に優れた帆布が得られ、従来よりも軽量の布帛を用いながら従来品と同等の引裂強度を発現可能な帆布が得られることを発明の効果として述べた。同様に、強度、耐水性、柔軟性および耐久性に優れるとともに、軟質塩化ビニル樹脂加工による軽量性が改善された可撓性積層体として、繊維布帛を構成する経糸および緯糸に、紡績糸およびマルチフィラメント糸から選ばれる1つ以上を含み、繊維布帛の質量に対する、紡績糸、及びマルチフィラメント糸の含有範囲を個々特定し、可撓性積層体の目付を300g/m以上450g/m未満とする発明(特許文献2)が開示されている。この発明において、実施例の可撓性積層体は目付が450g/m未満で、比較例の従来の可撓性積層体と比較して10%~25%軽量化され、しかも、引張強さ、引裂強さ、および伸び率はいずれも従来の可撓性積層体と同等であることが記載されている。
【0004】
特許文献1の帆布、及び特許文献2の可撓性積層体は、布帛の織組織の改良、糸の種類変更などによって、引裂強度などの物性値向上と、軽量化の両立を可能とし得るものである。しかし、さらなる軽量化に対しては、比重の高い軟質塩化ビニル樹脂による樹脂被覆層の厚さを減じることが最も効果的であるが、樹脂被覆層を薄くした分、耐屈曲性、耐摩耗性に直截的に悪影響して脆弱化し、発生した亀裂や摩耗傷から漏水(雨漏り)するなどの品質低下に直結するリスクが高いものとなる。このリスクは樹脂被覆層を薄くしても、樹脂被覆層の耐屈曲性、耐摩耗性が向上することにより回避可能となる。すなわち軟質塩化ビニル樹脂被覆層の強靭化によって軽量化が達成される。この軟質塩化ビニル樹脂被覆層の強靭化について本出願人は以前、軟質塩化ビニル樹脂層にポリオール化合物を含み、トリイソシアネート化合物がポリオール化合物と付加反応して、軟質塩化ビニル樹脂層内に架橋ウレタン成分を生成することで、軟質塩化ビニル樹脂層の耐摩耗性、耐熱性、耐衝撃性などが向上することを特許文献3に開示した。この架橋ウレタン成分の生成は軟質塩化ビニル樹脂層の強靭性が向上する反面、トリイソシアネート化合物(三官能モノマー)による三次元網目状の架橋ウレタン量を増すほど寒冷下での風合いが硬くなり、特に氷点下での屈曲、折り畳みの繰り返し、はためきなどの動的ストレスで軟質塩化ビニル樹脂層に亀裂を生じ易い脆弱性があった。これは軟質塩化ビニル樹脂と架橋ウレタンとのガラス転移温度差、さらに相溶性が氷点下で際立って悪化するためと考察される。従って、軟質塩化ビニル樹脂層の強靭性を向上し、しかも氷点下で動的ストレスを受けても亀裂を生じ難いものに改良する課題が生じていた。そしてこの氷点下での亀裂問題が解決出来れば、より屈曲耐久性(耐はためき性)、及び折り畳み収納に優れた合成帆布が得られるので、テント倉庫、屋形テント、トラック幌、トラック荷台カバー、野積シートなどの耐用年数向上が期待できる。また軟質塩化ビニル樹脂層の強靭性がさらに向上することで、仮に軟質塩化ビニル樹脂層の含浸被覆量を10%減じても、従来品レベルの耐用年数が確保できるのであれば、特許文献2のように繊維布帛の構成に依存しない軽量化が可能となるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-017668号公報
【特許文献2】特開2022-057803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、テント倉庫(簡易ハウス)、屋形テント(運動会、屋外イベント、運営本部、集会、受付などに用いられる天幕装着式の組立テント)、トラック幌、トラック荷台カバー、野積シートなどの本体素材に用いる合成帆布として、軽量かつ屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(耐はためき性)、及び炎天下での耐熱性に優れた産業資材用合成帆布を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる点を考慮し鋭意検討した結果、布帛の全面に軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を設けてなる合成帆布において、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の全域に三次元架橋ゴムを共存することによって、屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(耐はためき性)、及び炎天下での耐熱性に優れた産業資材用合成帆布が得られることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の産業資材用合成帆布は、少なくとも短繊維紡績糸条を織編要素に含む布帛を基布として、この布帛の全面に軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を設けてなる合成帆布であって、前記軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の全域に三次元架橋ゴムが共存することが好ましい。この軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内には、三次元架橋ゴムのネットワークが塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合った複合態が形成され、相溶状態となることで、屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(耐はためき性)、及び炎天下での耐熱性に優れた産業資材用合成帆布を得ることができる。
【0009】
本発明の産業資材用合成帆布は、前記三次元架橋ゴムが、ブタジエン系、イソプレン系、及びファルネセン系、から選ばれた1種以上の合成ゴム構造を含むことが好ましい。三次元架橋ゴムによって、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内には、三次元架橋ゴムのネットワークが塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合った複合態が形成され、相溶状態となることで、屈曲耐久性(耐はためき性)を向上させ、特に氷点下での屈曲耐久性(耐はためき性)、及び耐折り曲げ性を向上させる。
【0010】
本発明の産業資材用合成帆布は、前記三次元架橋ゴムがシリカ粒子を含み、三次元架橋の一部として介在する有機無機ハイブリッドゴムが好ましい。シリカ粒子表面のシラノール基(Si-OH基)が反応してゴム成分の一部となることによって、三次元架橋ゴムが強靭化して、屈曲耐久性(耐はためき性)、耐摩耗性を向上させ、また軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の耐寒性及び耐熱性(軟化温度)を向上させる。この耐熱性向上は、産業資材用合成帆布同士を熱融着ラップ接合した接合部の剥離強度の向上に加え、炎天下による表面温度40~60℃での耐剥離性として発現される。
【0011】
本発明の産業資材用合成帆布は、前記シリカ粒子が、シランカップリング剤で処理された表面改質粒子であることが好ましい。この表面改質はシランカップリング剤の加水分解物がシリカ粒子表面に結合したものである。またシリカ粒子が官能基を有することで液状合成ゴムの末端官能基と反応して、三次元架橋の一部として介在することができる。これによって三次元架橋ゴムが強靭化して、屈曲耐久性(耐はためき性)、耐摩耗性を向上させ、また軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の耐寒性及び耐熱性(軟化温度)を向上させる。この耐熱性向上は、産業資材用合成帆布同士を熱融着ラップ接合した接合部の剥離強度の向上に加え、炎天下による表面温度40~60℃での耐剥離性として発現される。
【0012】
本発明の産業資材用合成帆布は、前記布帛が、タスラン嵩高糸条、ウーリー嵩高糸条、コアスパン芯鞘糸条から選ばれた1種以上をさらに含むことが好ましい。タスラン嵩高マルチフィラメント糸条、ウーリー嵩高マルチフィラメント糸条、コアスパン芯鞘(芯が長繊維)糸条などの、嵩高長繊維糸条を用いることで、強度に乏しい短繊維紡績糸条の欠点を補完し、かつ嵩高部分が軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層のアンカー(投錨)となり軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層との接着性を向上させる。
【0013】
本発明の産業資材用合成帆布の製造方法は、布帛の全面に軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を形成してなる合成帆布において、1)塩化ビニル樹脂、可塑剤、液状合成ゴム(ブタジエン系、イソプレン系、及びファルネセン系、から選ばれた1種以上)、の3種を少なくとも含む軟質塩化ビニル樹脂組成物を調製する工程、2)前記布帛に前記軟質塩化ビニル樹脂組成物を塗工し、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を形成する工程、3)前記液状合成ゴムを架橋ゴムに転化して、前記軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の全域に三次元架橋ゴムを形成する工程、を含むことが好ましい。塗工後の軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内には液状合成ゴム分子が塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合った状態で存在し、この液状合成ゴムを架橋させることで軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内の全域に、三次元架橋ネットワークが塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合った複合態を形成させることで、屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(耐はためき性)、及び炎天下での耐熱性に優れた産業資材用合成帆布を得ることができる。
【0014】
本発明の産業資材用合成帆布の製造方法は、前記三次元架橋ゴムの形成において、前記軟質塩化ビニル樹脂組成物にシリカ粒子を含み、三次元架橋の一部として介在する有機無機ハイブリッドゴムであることが好ましい。これによって三次元架橋ゴムが強靭化して、屈曲耐久性(耐はためき性)、耐摩耗性を向上させ、また軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の耐熱性(軟化温度)を向上させる。この耐熱性向上は、産業資材用合成帆布同士を熱融着ラップ接合した接合部の剥離強度の向上に加え、炎天下による表面温度40~60℃での耐剥離性、すなわち接合部の熱堅牢性として発現される。この接合部の熱堅牢性が不十分だとテント倉庫、トラック幌などの熱融着縫製品に外力を受けた際に、接合部の剥離破壊を起こすことがある。
【0015】
本発明の産業資材用合成帆布の製造方法は、前記合成帆布に表面加飾エンボスを施す工程をさらに含むことが好ましい。この表面加飾エンボスは、鏡面エンボス(艶)、梨地エンボス(艶消)、柄エンボス(意匠)、文字刻印(メーカー名、商品名などの凹刻印)などで、特にメーカー名、商品名などの文字刻印により、他社類似品との識別効果を発揮する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、軽量かつ屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(耐はためき性)、及び炎天下での耐熱性に優れた産業資材用合成帆布が得られるので、テント倉庫(簡易ハウス)、屋形テント(運動会、屋外イベント、運営本部、集会、受付などに用いられる天幕装着式の組立テント)、トラック幌、トラック荷台カバー、野積シートなどの本体素材として広い活用を可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の産業資材用合成帆布は、少なくとも短繊維紡績糸条を織編要素に含む布帛を基布として、この布帛の全面に軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を設けてなる合成帆布であって、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の全域に三次元架橋ゴムが共存する態様である。短繊維紡績糸条を織編要素に含む布帛としては、A)短繊維紡績糸条のみで製織されたスパン布帛、B)短繊維紡績糸条と、短繊維紡績糸条以外の糸条の併用で製織された部分スパン布帛で、短繊維紡績糸条以外の糸条としては、タスラン嵩高糸条、ウーリー嵩高糸条、コアスパン芯鞘糸条から選ばれた1種以上が例示できる。タスラン嵩高糸条は、圧縮空気をマルチフィラメント糸に吹き当てフィラメント同士をループ状に絡ませた嵩高長繊維糸条、ウーリー嵩高糸条は、マルチフィラメント糸に撚りをかけて熱固定した後に撚りを戻した嵩高長繊維糸条、コアスパン芯鞘糸条は、マルチフィラメント長繊維糸条を芯として、その全周に短繊維ステープルを交絡させた質量比10:1~2:1の芯鞘構造の疑似短繊維紡績糸条で、この3種類の糸条は何れもマルチフィラメント長繊維糸条の強度を有しながら、短繊維紡績糸条の毛羽に相当する引っ掛かり部(毛羽、またはルーズな嵩高)を有することで軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層へのアンカー(投錨接着)効果を発現する利点を有している。短繊維紡績糸条以外の糸条の配置量は布帛質量に対して25~75質量%、特に25~50質量%が好ましい。
【0018】
経糸条群、及び緯糸条群からなる布帛において、短繊維紡績糸条と、短繊維紡績糸条以外の糸条の併用は、1)経糸条群、及び緯糸条群の一方、または両方に対する併用(規則的またはランダム)、または2)経糸条群、及び緯糸条群の何れかを短繊維紡績糸条のみとし、もう一方を短繊維紡績糸条以外の糸条のみとする併用が挙げられる。また経糸条群、及びバイアス糸条群からなる三軸織の布帛、また経糸条群、緯糸条群、及びバイアス糸条群からなる四軸織の布帛においても、上記と同パターンの併用を行うことができる。布帛は、平織、綾織、繻子織、摸紗織、バスケット織など、空隙率0~10%のものが挙げられ、特に空隙率0~10%の平織布帛が得られる産業資材用合成帆布の経・緯の物性バランスの観点で好ましい。これらの織物において、全部、または一部に、a)短繊維紡績糸条2本の引き揃え、b)短繊維紡績糸条以外の糸条2本の引き揃え、c)短繊維紡績糸条1本と、短繊維紡績糸条以外の糸条1本の引き揃え、を有することにより布帛の引裂強度が向上し、得られる産業資材用合成帆布の引裂強度も向上する。
【0019】
短繊維紡績糸条、及び短繊維紡績糸条以外の糸条(コアスパン糸条、マルチフィラメント糸条)の繊維種は、合成繊維(各種高分子)、天然繊維(綿、ケナフ)、半合成繊維(レーヨン)、無機繊維(ガラス繊維、炭素繊維など)の種別が挙げられ、特に汎用性と物性のバランスから、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維などの合成繊維が好ましく、特にポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維が好ましい。特に布帛の耐引裂強度を飛躍的に向上させるために、全芳香族ポリエステル繊維(ポリアレレート)、全芳香族ポリアミド繊維(アラミド)、芳香族複素環高分子繊維(ポリベンズオキサゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズチアゾールなど)のマルチフィラメント糸条を、メインとなる糸条と併用し、特定間隔でリップストップ配置することが効果的である。コアスパン糸条においては、鞘に用いる短繊維ステープルの繊維種は芯と同一種が好ましいが、例えば、芯部に全芳香族ポリアミド繊維(アラミド)のマルチフィラメント糸条、鞘部をポリエステル短繊維とする異種の組み合わせであってもよい。
【0020】
短繊維紡績糸条の番手は、10番手単糸(590dtex)、14番手単糸(422dtex)、14番手双糸(844dtex)、15番手単糸(394dtex)、15番手双糸(788dtex)、20番手単糸(295dtex)、20番手双糸(590dtex)、30番手単糸(197dtex)、30番手双糸(394dtex)などの撚糸が挙げられる。撚糸は単糸または2本の単糸をS(右)撚り、もしくはZ(左)撚りした単糸、単糸または2本の単糸を下撚りした加撚糸を2本、上撚りした双糸が挙げられる。これらの撚糸の撚り回数は200~2000回/mで、撚係数は3.0~4.5が好ましい。経糸は並列糸条の単位で1インチ間40~80本の糸密度、緯糸は1インチ間30~70本の糸密度で打込んで得られる平織スパン布帛が好ましい。特に好ましくは、経糸が20番手双糸、かつ緯糸が10番手単糸で、1インチ間経糸52~60本、緯糸44~52本の織密度で糸を打込んで得られるスパン平織布帛である。この平織スパン布帛に、タスラン嵩高糸条、ウーリー嵩高糸条、コアスパン芯鞘糸条から選ばれた1種以上の糸条(繊度278dtex~1666dtex、フィラメント数50~500本)を、経糸及び/または緯糸の一部と置換し、布帛質量に対して25~75質量%、特に25~50質量%の置換率とした部分スパン布帛であってもよい。上記の平織スパン布帛、部分スパン布帛の空隙率は0~10%が適している。空隙率が10%を越えると得られる合成帆布の寸法安定性に劣り、合成帆布の引裂強度と突起物に対する耐貫通性が低下することがある。
【0021】
本発明の産業資材用合成帆布には、170g/m~410g/mの布帛が好ましく、号数では、2号(約410g/m)、3号(約340g/m)、4号(約280g/m)、5号(約250g/m)、6号(約200g/m)、7号(約170g/m)の範囲である。特に合成帆布の軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に、傷、摩耗、亀裂などのダメージを受けると、ダメージ部分から雨水が浸み、漏水トラブルとなることがある。このような漏水を抑止するために、布帛全体にパーフルオロアルキル基含有共重合体樹脂を含浸付着させることが好ましい。パーフルオロアルキル基含有共重合体樹脂の付着固形分量は、上記布帛1m単位当たり0.1~10g/m、特に0.3~3g/mである。パーフルオロアルキル基含有共重合体樹脂としては、炭素数8以下、好ましくは炭素数6以下のパーフルオロアルキル基、または炭素数8以下、好ましくは炭素数6以下のパーフルオロアルケニル基を有するエチレン性不飽和モノマーを用いてなる撥水性共重合体である。これらは具体的に、パーフルオロアルキル基を有するアクリレート及び/ またはメタクリレートとこれらと共重合可能な他のモノマー、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)クリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸またはフタル酸アルキルエステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、スチレンなど)と重合して得られる撥水性共重合体のエマルジョンが挙げられる。これら撥水性共重合体は、120~180℃の熱キュアーでパーフルオロアルキル基が配向整列することで表面エネルギーを低下させ、より撥水性を発現する。その他の撥水剤として、メチルクロロシラン、メチルポリシロキサン樹脂、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジエンポリシロキサンなどのシリコーン系撥水剤、炭素数20~48で、融点が50~70℃のn-パラフィンワックスなどのパラフィン系撥水剤を使用することもできる。
【0022】
布帛の全面に設けられる軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層は、軟質塩化ビニル樹脂系組成物のコーティング~熱処理ゲル化、またはディッピング~熱処理ゲル化によって形成される。軟質塩化ビニル樹脂系組成物は、塩化ビニル樹脂、可塑剤、液状合成ゴム、の3種を少なくとも含むペーストゾルの液状体である。軟質塩化ビニル樹脂系組成物は具体的に、数平均分子量1000~2000のペースト塩化ビニル樹脂(乳化重合タイプ)と、可塑剤(アジピン酸エステル化合物、フタル酸エステル系化合物、シクロヘキサンジカルボン酸エステル系化合物、シクロヘキセンジカルボン酸エステル系化合物、リン酸エステル系化合物、塩素化パラフィン系化合物、ポリエステル系化合物など)を、ペースト塩化ビニル樹脂100質量部に対して40~100質量部含有し、液状合成ゴム(ブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴムなどで、後から架橋ゴムに転化させる)を、ペースト塩化ビニル樹脂100質量部に対して5~30質量部含有するものを主体とする。その他の配合剤として、安定剤(バリウム-亜鉛複合系、カルシウム-亜鉛複合系、エポキシ化大豆油など)、難燃剤(三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛など)、充填剤(炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、タルクなど)、耐光安定剤(ベンゾフェノン系互変異性体、ベンゾトリアゾール系互変異性体、トリアジン系互変異性体、ヒンダードアミン系化合物など)、接着剤(多官能イソシアネート化合物、シランカップリング剤など)、防黴剤(イミダゾール系化合物、チアゾール系化合物、イソチアゾリン系化合物、ピリジン系化合物、N-ハロアルキルチオ系化合物、フェノキシアルシン化合物など)、顔料(酸化チタン、カーボンブラック、無機化合物、アゾ系化合物、フタロシアニン系化合物、アントラキノン系化合物、キナクリドン系化合物など)、などを任意かつ任意量で含む配合組成物が好ましく、これらには必要に応じて蛍光増白剤、帯電防止剤、界面活性剤、滑剤、酸化防止剤、化学発泡剤、防虫剤、消臭剤、遮熱剤など公知の添加剤を追加することができる。
【0023】
液状合成ゴムは、ブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、及びファルネセン系ゴムから選ばれた1種以上が挙げられる。液状合成ゴムが軟質塩化ビニル樹脂組成物に含む可塑剤と相溶し、可塑剤と共に塩化ビニル樹脂微粒子内に浸透して塩化ビニル樹脂の軟化剤となる。この状態で軟質塩化ビニル樹脂組成物を加熱ゲル化させることで軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層が形成される。塗工後の軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内には液状合成ゴム分子が塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合った状態となる。次いで液状合成ゴムを架橋させることで軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内の全域に、三次元架橋ゴムのネットワークが塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合った複合態形成で共存する。特にブタジエン液状ゴムは、分子末端に-COOH基,-OH基、の何れかを有することで三次元架橋を可能とする。分子量Mnは1000~5000もの、特に1300~3500の分子量,粘度50~1000ポイズ(25℃)、特に200~500ポイズ(25℃)の範囲のものが好ましい。ブタジエン系液状ゴムは、ブロック共重合成分としてスチレン、及び/またはアクリロニトリルを5~25質量%含むもの、及び共重合成分としてイソプレン、または水素添加イソプレンを10~50質量%含むものである。ブタジエン液状ゴムは、1,4-シス構造、または1,4-トランス構造を75~80%程度、1,2-ビニル構造を20~25%程度とするものだと粘度が低く、ゴム化した時のゴム弾性に優れる。この生成比率はラジカル重合方法により可能とされる。イソプレン系液状ゴムは、分子(両)末端に-COOH基,-OH基、の何れかを有する、分子量Mn3000~25000の範囲のものが好ましい。イソプレン系液状ゴムは、ブロック共重合成分としてスチレン、及び/またはアクリロニトリルを5~25質量%含むもの、及び共重合成分としてブタジエン、または水素添加イソプレンを10~50質量%含むものである。ファルネセン系ゴムは、α-ファルネセン((3E,7E)-3,7,11-トリメチル-1,3,6,10-ドデカテトラエン)、β-ファルネセン(7,11-ジメチル-3-メチレン-1,6,10-ドデカトリエン)などをモノマーとするゴム、さらにファネルセンとスチレンとの共重合ゴム、ファネルセンとブタジエンとの共重合ゴムが例示できる。ファネルセン系液状ゴムは、分子(両)末端に-COOH基,-OH基、の何れかを有する、分子量Mn3000~50000の範囲のものが好ましい。これらの液状合成ゴムの三次元架橋は、分子(両)末端の-COOH基,-OH基、の脱水縮合によって形成されるが、ジアミン、ポリアミン、ジイソシアネート、ポリイソシアネート、エポキシ-アミン、アジリジン、オキサゾリンなどの架橋剤との付加反応、あるいはジオール、ポリオール、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、などの化合物との縮合反応により形成することができる。さらに三次元架橋の一部として、シリカを含む有機無機ハイブリッド三次元架橋とすることができる。
【0024】
三次元架橋ゴムには、三次元架橋の一部としてシリカ粒子が介在する有機無機ハイブリッドゴムが好ましい。シリカは、液状合成ゴムに対し1~25重量%の量で併用し、シリカ表面の官能基と、液状合成ゴムの分子(両)末端に-COOH基,-OH基との間での化学結合を生成させることで三次元架橋の一部とする。この反応は、液状合成ゴムの分子(両)末端の-COOH基,-OH基、とシリカ表面のシラノール基との脱水縮合によって形成されるが、液状合成ゴムの官能基とシリカ粒子のシラノール基を、ジアミン、ポリアミン、ジイソシアネート、ポリイソシアネート、エポキシ-アミン、アジリジン、オキサゾリンなどの架橋剤との付加反応、あるいはジオール、ポリオール、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、などの化合物との縮合反応により結合することが好ましい。この三次元架橋ゴムの生成は、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を形成する軟質塩化ビニル樹脂ペーストのゲル化熱処理と同時に行い、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層全体に均質な三次元架橋ゴムを形成する。軟質塩化ビニル樹脂ペースト組成物には、シランカップリング剤を含み、液状合成ゴムとシリカとの化学結合を補助することが好ましい。
【0025】
シリカは、BET比表面積100~300m2/g、または二次粒子径1~40μmの合成非晶質シリカが好ましい。合成非晶質シリカは、湿式法シリカ(沈降法またはゲル法)、乾式法シリカ(ヒュームドシリカ)の何れであってもよい。シリカの表面はシラノール(Si-OH基)を有し、シラノール基が液状合成ゴムの分子(両)末端の-COOH基,-OH基など反応して、シリカ粒子がゴム成分の一部となることによって、三次元架橋ゴムが強靭化して、屈曲耐久性(耐はためき性)、耐摩耗性を向上させ、また軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の耐寒性及び耐熱性(軟化温度)を向上させる。この耐熱性向上は、産業資材用合成帆布同士を熱融着ラップ接合した接合部の剥離強度の向上に加え、炎天下による表面温度40~60℃での耐剥離性としても発現される。シリカ表面には、アミノ基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基、クロル基、メルカプト基、イソシアヌレート基、イソシアネート基などの官能基が導入されていてもよい。シリカ粒子は、シランカップリング剤で処理された表面改質粒子であることが好ましい。シランカップリング剤は一般式:XR-Si(Y)で表される分子中に2個以上の異なった反応基を有するアルコキシシラン化合物で、例えば、X=アミノ基(アミノシラン)、ビニル基(ビニルシラン)、エポキシ基(エポキシシラン)、メタクリル基(メタクリルシラン)、アクリル基(アクリルシラン)、クロル基(クロルシラン)、メルカプト基(メルカプトシラン)、イソシアヌレート基(イソシアヌレートシラン)、イソシアネート基(イソシアネートシラン)、など(R=アルキル鎖)、Y=メトキシ基、エトキシ基などである。シリカの表面改質は、シリカのシラノール基の、-Si-R-Si(Y)修飾であるが、シリカのシロキサン結合部分の、(-O)Si-RX修飾であってもよい。
【0026】
本発明の産業資材用合成帆布の製造方法は、1)塩化ビニル樹脂、可塑剤、液状合成ゴム、の3種を少なくとも含む軟質塩化ビニル樹脂組成物を調製する工程、2)布帛に軟質塩化ビニル樹脂組成物を塗工し、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を形成する工程、3)液状合成ゴムを架橋ゴムに転化して、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の全域に三次元架橋ゴムを形成する工程、を含み、必要に応じて表面加飾エンボスを施す工程を含む。布帛への軟質塩化ビニル樹脂組成物(ペーストゾル)の塗工、及び軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の形成は、ディッピング(浸漬~含浸~ロール圧搾~ペーストゾルの熱処理ゲル化)、または、グラビアコート法、コンマコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、バーコート法、ドクターナイフコート法などのコーティング(含浸被覆~ペーストゾルの熱処理ゲル化)により実施できる。液状合成ゴムを架橋ゴムに転化するには、ジアミン、トリアミン、テトラミン、ポリアミン、ジイソシアネート(例えばヘキサメチレンジイソシアネート:HMDI)、トリイソシアネート(例えばHMDI3量体によるイソシヌレート)、ポリイソシアネート、エポキシ-アミン、アジリジン、オキサゾリンなどによる架橋剤、特に官能基数が3または4の架橋剤によって緻密、かつ複雑な三次元架橋ゴムとすることができる。液状合成ゴムの架橋ゴムへの転化は、軟質塩化ビニル樹脂組成物のゲル化と同時に行うことで、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層全体に均質な三次元架橋ゴムが形成される。液状合成ゴムと架橋剤との反応は、等モル比反応が好ましいが、余剰の液状合成ゴムが軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内に残存してもよい。残存する液状合成ゴムは可塑剤と相溶し、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層のガラス転移温度を下げる効果、すなわち耐寒性付与剤として作用する。残存する液状合成ゴムは、塩化ビニル樹脂100質量部に対して1~10質量部が好ましい。
【0027】
軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層は、200~400g/mの目付量が好ましく、目付量が少ないほど軽量化が促進され、目付量が多いほど強靭化して耐久性を増す。従来の産業資材用合成帆布は、2号(約410g/m)、3号(約340g/m)、4号(約280g/m)、5号(約250g/m)、6号(約200g/m)及び7号(約170g/m)の布帛を基布として軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を設け、2号帆布(約750g/m)、3号帆布(約640g/m)、4号帆布(約560g/m)、5号帆布(約530g/m)、6号帆布(約470g/m)、7号帆布(約430g/m)などの号数帆布としているが、本発明の産業資材用合成帆布では、従来品よりも目付量が少なくとも十分な軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を得ることができ、例えば、約530g/mの4号帆布、約470g/mの5号帆布、約430g/mの6号帆布、約390g/mの7号帆布のような1ランクの軽量化を可能とする。
【0028】
また本発明の産業資材用合成帆布には防汚層を設けてもよく、例えば、アクリル系樹脂、フッ素系共重合樹脂、アクリル-シリコーン共重合樹脂、アクリルーフッ素共重合樹脂、アクリル-ウレタン共重合樹脂、アクリル系樹脂とフッ素系共重合樹脂とのブレンド、及びこれらの樹脂にシリカ微粒子、コロイダルシリカ、オルガノシリケート、シランカップリング剤、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系互変異性体、ベンゾトリアゾール系互変異性体、トリアジン系互変異性体など)などを含む透明層である。これらの防汚層の形成は、これらの塗料のグラビアコートで塗布・乾燥する方法、あるいはフッ素含有樹脂フィルム、またはフッ素含有樹脂/アクリル系樹脂層などの複層フィルムを接着剤もしくは熱溶融により積層する方法である。また、これらの防汚層上には更に、光触媒性無機材料(例えば光触媒性酸化チタン・光触媒性酸化タングステンなど)を含む光触媒層を設けることもできる。
【0029】
本発明の産業資材用合成帆布の製造には、表面加飾エンボスを施す工程を追加してもよい。表面加飾エンボスは、鏡面ロールによる光沢付与、梨地ロールによる艶消付与、柄ロールによる意匠付与、など、公知のエンボスが付与できる。特に産業資材用合成帆布の端部、または特定部分に特定間隔(例えば100cmごと)で、メーカー名(例えば「HIRAOKA」)またはロゴマーク、または商品名(例えば「ULTRA MAX」)の識別刻印を施すことが好ましい。このような識別刻印は、合成帆布全体が梨地エンボスで、識別刻印部のみ鏡面エンボスとするデザイン、あるいは合成帆布全体が鏡面エンボスで、識別刻印部のみ梨地エンボスとするデザイン、あるいは識別刻印部分を凹部とするエンボスが挙げられ、これらの刻印によって他社類似品との判別が容易となる。エンボスは100~180℃に設定のエンボスロールと対のゴムロールによる圧着で行い、エンボス後の冷却(空冷と水冷ロール)によりエンボスが固定される。
【0030】
次に実施例、比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。
本発明の実施例及び比較例に用いた試験方法は下記の通りである。
(1)スコット形屈曲往復摩耗試験(JIS L1096 8.19.2 B法準拠)
合成帆布から25mm幅×120mm長さの試験片を採取し、マイナス10℃環境に24時間静置した後、スコット形試験機に装着し、1kgf荷重の負荷で500回及び1000回の往復屈曲を「-10℃」の恒温室内で行い、試験後の表面状態を観察し、動的耐寒性を下記のように判定した。
1:異常を認めない
2:軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に軽微な亀裂を認める
3:軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の部分剥離または脱落、または亀裂を認める
(2)デマッチャ繰返し屈曲疲労耐久試験(JIS K6301準拠)
合成帆布から50mm幅×150mm長さの試料を採取し、マイナス0℃環境に24時間静置した後、幅の中心25mmから上下2つ折りに重ね合わせた25mm幅×150mm長の折り畳み状試験片とし、YSSデマッチャ・フレキシング・テスター(株式会社安田精機製作所製)に装着し、試験片の折畳みと開帳の繰り返しの疑似試験を「-10℃」の恒温室で、500回、及び1000回行い、試験片の表面状態を観察し下記のように動的耐寒性を判定した。
1:異常を認めない
2:軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に軽微な亀裂を認める
3:軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の部分剥離または脱落、または亀裂を認める
(3)接合体の耐熱クリープ試験(耐熱試験)
2枚の合成帆布の緯糸方向の端部同士を8cm幅で直線状に平行に重ね合わせ、4cm幅×30cm長のウエルドバー(平刃)を装着した高周波ウエルダー融着機(山本ビニター株式会社製YTO-8A型:高周波出力8KW)を用い、陽極電流1.0A条件の発振で軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を溶融させて合成帆布接合体を得た。この接合体より融着接合部を重ね合わせ幅8cmを経糸方向に含む、3cm幅×30cm長(経糸方向)の試験片を採取し、耐クリープ試験片とし、クリープ試験機(東洋精機製作所株式会社製:100LDR型)を使用して25℃×24時間の条件下、50kgf、60kgf、70kgfの荷重条件で経糸方向の耐熱クリープ性を評価、同様に緯糸方向の試験片を作製して緯糸方向の耐熱クリープ性を評価した。
評価の基準
1:24時間経過後、接合部に異常がない(優)
2:12時間~24時間未満で接合部が破壊し、試験片が分断した(良)
3:1時間~12時間未満で接合部が破壊し、試験片が分断した(劣)
4:1時間経たずに接合部が破壊し、試験片が分断した(不良)
【0031】
〔実施例1〕
〈布帛(1)〉
20番手双糸のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り300T/m)を経糸条、10番手単糸のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り400T/m)を緯糸条として、経糸条の打込密度54本/インチ、及び緯糸条の打込密度46本/インチで平織製織した空隙率が毛羽で外観上0、質量240g/mの5号の布帛を用いた。
布帛に炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有するアクリレート/塩化ビニル樹脂共重合体エマルジョン(固形分5質量%)による撥水処理(浸漬、熱処理)を行い、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に異常を生じた場合の雨水の浸透防止(吸水防止)とした。これを布帛(1)とした。
〈軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層〉
下記〈配合1〉の軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層形成用の塩化ビニル樹脂組成物ペースト(塩化ビニル樹脂、可塑剤、液状合成ゴム、の3種を少なくとも含む)を主体とする加工液を調製した。次に、この加工液が充填された液浴中に布帛(1)をディッピング(浸漬)し、布帛(1)に〈配合1〉の加工液を常圧で含浸させた後、布帛(1)を液浴から引き上げると同時に、ゴム製マングルロールで圧搾し、余分な加工液を除去して、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層を形成した。次に、180℃の熱風炉で3分間ゲル化熱処理を行うことで軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層290g/mを布帛(1)の全面に形成し、質量530g/mの5号帆布(1)を得た。このゲル化熱処理は、塩化ビニル樹脂組成物ペーストを軟質塩化ビニル樹脂に転化すると同時に、液状合成ゴムを架橋して架橋ゴムに転化させることで、得られる軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内の全域に、三次元架橋ネットワークが塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合ったハイブリッドを形成させる工程である。
〈配合1〉軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層形成用の加工液
ペースト塩化ビニル樹脂(重合度1700) 100質量部
ジイソノニルフタレート(DINP可塑剤) 60質量部
ブタジエン系液状ゴム※ 10質量部
イソシアヌレート(HMDI※の3量体:NCO架橋剤) 2質量部
塩素化パラフィン(防炎剤兼可塑剤) 5質量部
エポキシ化大豆油(安定剤兼可塑剤) 4質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 20質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
紫外線吸収剤(トリアジン系互変異性体) 0.5質量部
酸化チタン(白顔料) 1質量部
フタロシアニングリーン(緑顔料) 3質量部
カーボンブラック(黒顔料) 0.5質量部
トリクロロエチレン(希釈溶剤) 20質量部
※ブタジエン系液状ゴム:ブロック共重合成分としてスチレンを15質量%含み、
分子両末端に-COOH基を有する平均分子量3000の性状
※HMDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
HMDIの3量体(イソシアヌレート)は3個のイソシアネート基を有する
【0032】
〔実施例2〕
実施例1の〈配合1〉の加工液を、〈配合2〉の加工液に変更した以外は実施例1と同様として、質量530g/mの5号帆布(2)を得た。
〈配合2〉の加工液は、〈配合1〉のブタジエン系液状ゴム10質量部を、イソプレン系液状ゴム10質量部に置換したもので、イソプレン系液状ゴムは、ブロック共重合成分としてアクリロニトリルを10質量%含み、分子両末端に-COOH基を有する平均分子量2500の性状である。
【0033】
〔実施例3〕
実施例1の〈配合1〉の加工液を、〈配合3〉の加工液に変更した以外は実施例1と同様として、質量530g/mの5号帆布(3)を得た。
〈配合3〉の加工液は、〈配合1〉のブタジエン系液状ゴム10質量部を、β-ファネルセン系液状ゴム10質量部に置換したもので、β-ファネルセン系液状ゴムは、ブロック共重合成分としてブタジエンを10質量%含み、分子両末端に-COOH基を有する平均分子量5000の性状である。
【0034】
〔実施例4〕
実施例1の〈配合1〉の加工液を、〈配合4〉の加工液に変更した以外は実施例1と同様として、質量530g/mの5号帆布(4)を得た。
〈配合4〉の加工液は〈配合1〉の加工液に、表面改質シリカ粒子を2質量部追加したものである。
表面改質シリカ粒子は、乾式シリカ(ゲル法:平均粒子径2μm、BET比表面積300m2/g)を、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)の5質量%水溶液中で24℃×3時間攪拌したものを分離、乾燥したもので、シリカのシラノール基に結合する-Si-R-Si(OCH修飾と、シロキサン部分に結合する(-O)Si-R-NH修飾が混在する。
【0035】
〔実施例5〕
実施例2の〈配合2〉の加工液を、〈配合4〉の加工液に変更した以外は実施例2と同様として、質量530g/mの5号帆布(5)を得た。
【0036】
〔実施例6〕
実施例3の〈配合3〉の加工液を、〈配合4〉の加工液に変更した以外は実施例3と同様として、質量530g/mの5号帆布(6)を得た。
【0037】
〔実施例7〕
実施例4の〈配合4〉の加工液を、〈配合5〉の加工液に変更した以外は実施例4と同様として、質量530g/mの5号帆布(7)を得た。
〈配合5〉の加工液は〈配合4〉の加工液に、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)2質量部を追加したものである。
【0038】
〔実施例8〕
実施例の5の〈配合4〉の加工液を、〈配合5〉の加工液に変更した以外は実施例5と同様として、質量530g/mの5号帆布(8)を得た。
【0039】
〔実施例9〕
実施例の6の〈配合4〉の加工液を、〈配合5〉の加工液に変更した以外は実施例6と同様として、質量530g/mの5号帆布(9)を得た。
【0040】
〔実施例10〕
実施例1で設けた軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の目付290g/mを、230g/mに減じた以外は実施例1と同様として、質量470g/mの帆布(10)を得た。
【0041】
〔実施例11〕
実施例1で用いた布帛(1)を、布帛(2)に変更した以外は実施例1と同様として、質量500g/mの帆布(11)を得た。
〈布帛(2)〉
20番手双糸のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り300T/m)、及びポリエステル繊維(フィラメント数192本)からなり、フィラメント同士がルーズに嵩高交絡した状態でS撚10T/mを施した1000デニール(1111dtex)のタスラン嵩高長繊維糸条を1本交互に配置して経糸条とし、一方10番手単糸のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り400T/m)、及びポリエステル繊維(フィラメント数192本)からなり、フィラメント同士がルーズに嵩高交絡した状態でS撚10T/mを施した1000デニール(1111dtex)のタスラン嵩高長繊維糸条を1本交互に配置して緯糸条として、経糸条の打込密度40本/インチ、及び緯糸条の打込密度34本/インチで平織製織した空隙率が毛羽で外観上0、質量215g/mの布帛を用いた。布帛に炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有するアクリレート/塩化ビニル樹脂共重合体エマルジョン(固形分5質量%)による撥水処理(浸漬、熱処理)を行い、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に異常を生じた場合の雨水の浸透防止(吸水防止)とした。これを布帛(2)とした。
【0042】
〔実施例12〕
実施例1で用いた布帛(1)を、布帛(3)に変更した以外は実施例1と同様として、質量515g/mの帆布(12)を得た。
〈布帛(3)〉
20番手双糸のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り300T/m)、及びポリエステルマルチフィラメント長繊維糸条500デニール(555dtex)を芯として、その全周を1.4デニール(1.56dtex)の短繊維長さ100mmのポリエステルステープルで、重量比65/35の芯/鞘になるように被覆したコアスパン芯鞘糸条を1本交互に配置して経糸条とし、一方10番手単糸のポリエステル短繊維紡績糸条(S撚り400T/m)、及びポリエステルマルチフィラメント長繊維糸条500デニール(555dtex)を芯として、その全周を1.4デニール(1.56dtex)の短繊維長さ100mmのポリエステルステープルで、重量比65/35の芯/鞘になるように被覆したコアスパン芯鞘糸条を1本交互に配置して緯糸条として、経糸条の打込密度46本/インチ、及び緯糸条の打込密度38本/インチで平織製織した空隙率が毛羽で外観上0、質量225g/mの布帛を用いた。布帛に炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有するアクリレート/塩化ビニル樹脂共重合体エマルジョン(固形分5質量%)による撥水処理(浸漬、熱処理)を行い、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に異常を生じた場合の雨水の浸透防止(吸水防止)とした。これを布帛(3)とした。
【0043】
[実施例13]
樹脂例1の合成帆布(1)の表面に、下記〈配合6〉のフッ素系樹脂塗料を100メッシユのグラビアロールにより塗工し、120℃の熱風炉で2分間加熱乾燥し、〈配合6〉のフッ素系樹脂塗料を硬化させて防汚塗膜層(4g/m)を形成し、質量534g/mの5号帆布(13)を得た。
〈配合6〉フッ素系樹脂塗料(防汚層形成用)
水酸基含有フルオロオレフィンビニルエーテル共重合体(フッ素系樹脂)
100質量部
ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート3量体(イソシアネート)
10質量部
コロイダルシリカ(帯電防止) 8質量部
トリアジン互変異性体(紫外線吸収剤) 5質量部
硬化触媒:ジブチル錫ジラウレート(フッ素系樹脂に対し約10ppm)
トルエン/酢酸ブチル(質量比1:1の希釈剤) 400質量部
【0044】
[実施例14]
実施例13の合成帆布(13)の表面に、「HIRAOKA」の識別刻印を180℃のエンボスロールを用いて施した。エンボスロール側の刻印(凸)は、ゴシック書体、文字サイズ15mm×15mm、文字幅3.5mm、凸部高さ0.2mm、刻印部以外は鏡面である。合成帆布(13)の表面の「HIRAOKA」の識別刻印は、ゴシック書体、文字サイズ15mm×15mm、文字幅3.5mm、凹部深さ0.12mm、刻印部以外は鏡面であった。
【0045】
[実施例15]
実施例1の合成帆布(1)の表面に、「HIRAOKA」の識別刻印を180℃のエンボスロールを用いて施した。エンボスロール側の刻印は、ゴシック書体(梨地)、文字サイズ15mm×15mm、文字幅3.5mm、刻印部以外は鏡面である。合成帆布(1)の表面の「HIRAOKA」の識別刻印は、ゴシック書体、文字サイズ15mm×15mm、文字幅3.5mmの梨地刻印で、刻印部以外は鏡面であった。
【0046】
[実施例16]
実施例1の合成帆布(1)の表面に、「HIRAOKA」の識別刻印を180℃のエンボスロールを用いて施した。エンボスロール側の刻印は、ゴシック書体(鏡面)、文字サイズ15mm×15mm、文字幅3.5mm、刻印部以外は梨地である。合成帆布(1)の表面の「HIRAOKA」の識別刻印は、ゴシック書体、文字サイズ15mm×15mm、文字幅3.5mmの鏡面刻印で、刻印部以外は梨地であった。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
実施例1~12の合成帆布(1)~(12)は、何れも軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層に合成ゴムの三次元架橋が形成されていて、その形成は、液状合成ゴムを含む軟質塩化ビニル樹脂組成物を布帛に塗工した後、液状合成ゴムを架橋ゴムに転化して、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の全域に三次元架橋ゴムを形成するものである。この塗工された軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内には液状合成ゴム分子が塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合った状態で存在し、この液状合成ゴムを架橋させることで軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内の全域に、三次元架橋ネットワークが塩化ビニル樹脂主鎖に絡み合った状態のハイブリッドが形成できるので、屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(スコット屈曲摩耗試験・デマッチャ屈曲疲労試験)、及び炎天下での耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)に優れた産業資材用合成帆布を得ることができる。特に実施例4~9の合成帆布(4)~(9)は、液状合成ゴムがシリカ粒子表面のシラノール基(Si-OH基)と結合(架橋剤介在)して、三次元架橋構造中にシリカ(シランカップリング剤処理)を中継点に含むことで、三次元架橋ゴムが強靭化して、屈曲耐久性(デマッチャ屈曲疲労試験)、耐摩耗性(スコット屈曲摩耗試験)がさらに向上し、また軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の耐寒性及び耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)をさらに向上させる。また特に液状合成ゴムがシリカ粒子表面のシラノール基と結合して三次元架橋構造中にシリカを中継点として介在させるためには、シランカップリング剤が関与(実施例7~9)することで三次元架橋ゴムの形成を補助する効果がある。また実施例10は、実施例1の軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層の目付量を減じたことで、屈曲耐久性(デマッチャ屈曲疲労試験)、耐摩耗性(スコット屈曲摩耗試験)、耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)などにやや劣るものとなったが、5号帆布のスペックを満たしながら6号帆布並みの軽量化(470g/m)を可能とした。従来の5号帆布である比較例1の合成帆布(質量530g/m)よりも、屈曲耐久性(デマッチャ屈曲疲労試験)、耐摩耗性(スコット屈曲摩耗試験)、耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)などに優れ、約60g/m軽量であることは業界所望のものである。また実施例10の布帛(1)は5号帆布用のもので、布帛を構成する糸条の全てが短繊維紡績糸であるため、合成帆布の引裂強度(JIS L1096 トラペゾイド法)に劣る欠点を有しているが、実施例11の布帛(2)のように短繊維紡績糸とタスラン嵩高糸条(長繊維)の併用、及び実施例12の布帛(3)のように短繊維紡績糸とコアスパン芯鞘糸条(芯が長繊維)の併用は、何れも長繊維を含むことで経方向、経緯ともに引裂強度が改善され、向上するものとし、しかも氷点下での屈曲耐久性(スコット屈曲摩耗試験・デマッチャ屈曲疲労試験)、及び炎天下での耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)に優れた産業資材用合成帆布を得ることができる。従って実施例10の布帛(1)を布帛(2)、または(3)と置き換えることで、上記屈曲耐久性、及び耐熱性の性能に加え、軽量でありながら引裂強度にも優れた産業資材用合成帆布を得ることができるので、「軽量かつ高性能」という積年の課題に応えるものとなる。
【0050】
[比較例1]
実施例1の〈配合1〉の加工液を、〈配合6〉の加工液に変更した以外は実施例1と同様として、質量530g/mの5号帆布(従来品:13)を得た。
〈配合6〉の加工液は、〈配合1〉のブタジエン系液状ゴム(分子両末端に-COOH基を有する平均分子量3000の性状)10質量部を省略した従来配合である。
比較例の従来品は、氷点下での屈曲耐久性(スコット屈曲摩耗試験・デマッチャ屈曲疲労試験)、及び炎天下での耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)に劣り、この解決が望まれていたのである。(最近までの技術水準)
【0051】
[比較例2]
実施例1の〈配合1〉の加工液を、〈配合7〉の加工液に変更した以外は実施例1と同様として、質量530g/mの5号帆布(14)を得た。
〈配合7〉の加工液は、〈配合1〉のブタジエン系液状ゴム(分子両末端に-COOH基を有する平均分子量3000の性状)10質量部を、分子両末端に官能基を有さない平均分子量3000のブタジエン系液状ゴム10質量部に置換したものである。
官能基を有さないブタジエン系液状ゴムは、液状のまま軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内に滞留し、塩化ビニル樹脂のガラス転移温度を下げる効果を発現することで、比較例1の合成帆布(従来品)よりも氷点下での屈曲耐久性(スコット屈曲摩耗試験・デマッチャ屈曲疲労試験)に優れていた(実施例1の合成帆布(1)同等)が、逆にブタジエン系液状ゴムの存在が耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)に悪影響を及ぼし、比較例1の合成帆布(従来品)よりも劣っていた。
【0052】
[比較例3]
実施例1の〈配合1〉の加工液を、〈配合8〉の加工液に変更した以外は実施例1と同様として、質量530g/mの5号帆布(15)を得た。
〈配合8〉の加工液は、〈配合1〉のブタジエン系液状ゴム(分子両末端に-COOH基を有する平均分子量3000の性状)10質量部をブタジエンゴム粉末(登録商標「カネエース」M-711:株式会社カネカ)10質量部に置換したものである。
ブタジエンゴム粉末(非架橋)は、軟質塩化ビニル樹脂含浸被覆層内に非相溶分散し、ブタジエンゴム自体の耐寒性により、比較例1の合成帆布(従来品)よりも氷点下での屈曲耐久性(スコット屈曲摩耗試験・デマッチャ屈曲疲労試験)にやや優れていた(実施例1の合成帆布(1)には及ばない)が、非相溶分散の影響により無数の亀裂を生じていた。また耐熱性(接合部耐熱クリープ試験)に関しては、比較例1の合成帆布(従来品)と比較して特段の改善効果は認められなかった。
【0053】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上の実施例、及び比較例から明らかな様に、本発明によれば、軽量かつ屈曲耐久性(耐はためき性)に優れ、特に氷点下での屈曲耐久性(耐はためき性)、及び炎天下での耐熱性に優れた産業資材用合成帆布が得られるので、テント倉庫(簡易ハウス)、屋形テント(運動会、屋外イベント、運営本部、集会、受付などに用いられる天幕装着式の組立テント)、トラック幌、トラック荷台カバー、野積シートなどの本体素材として広い活用を可能とし、特に表面加飾エンボスで、産業資材用合成帆布の端部、または特定部分に、メーカー名、ロゴマーク、商品名などの識別刻印を施すことで、他社類似品との判別を容易とする。